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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】シンチレータ構造体
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01T1/20 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021063292
(22)【出願日】2021-04-02
(65)【公開番号】P2022158411
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中橋 正信
(72)【発明者】
【氏名】谷口 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】千代 光
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮大
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-266936(JP,A)
【文献】特開2011-022068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G21K 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルと、
前記複数のセルを覆う反射層と、
を備える、シンチレータ構造体であって、
前記複数のセルのそれぞれは、樹脂と蛍光体とを含み、
前記樹脂は、
ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む主剤と、
硬化剤と、
を含む、シンチレータ構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ構造体において、
前記反射層も前記樹脂を含む、シンチレータ構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシンチレータ構造体において、
前記硬化剤は、酸無水物系硬化剤である、シンチレータ構造体。
【請求項4】
請求項3に記載のシンチレータ構造体において、
前記酸無水物系硬化剤は、無水フタル酸系硬化剤である、シンチレータ構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のシンチレータ構造体において、
前記樹脂は、さらに、硬化触媒を含み、
前記硬化触媒は、有機リン系化合物である、シンチレータ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ構造体に関し、例えば、それぞれ樹脂と蛍光体とを含む複数のセルを有するシンチレータ構造体に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭63-100391号公報(特許文献1)には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む蛍光体成型体に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-100391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シンチレータは、X線やガンマ線に代表される放射線が当たると、放射線のエネルギーを吸収して可視光を発生させる物質である。このシンチレータは、シンチレータと反射層とを含むシンチレータ構造体として製品化され、シンチレータ構造体とフォトダイオードなどの光電変換素子とを組み合わせたX線検出器が、例えば、X線CTなどの医療機器、分析機器、放射線を用いた非破壊検査装置、放射線漏洩検査装置などに用いられている。
【0005】
例えば、シンチレータには、ガドリニウム酸硫化物(GdS)からなるセラミックスが使用されている。ここで、本明細書では、ガドリニウム酸硫化物を「GOS」と呼ぶことにする。なお、厳密には、ガドリニウム酸硫化物自体はほとんど発光せず、ガドリニウム酸硫化物にプラセオジウムやテルビウムなどを含有させることによって発光する。このことから、本明細書で「GOS」という文言は、ガドリニウム酸硫化物自体にプラセオジウムやテルビウムなどが含有されて発光する物質(蛍光体)を暗に意図して使用することにする。ただし、ガドリニウム酸硫化物自体にプラセオジウムやテルビウムなどが含有されていることを明示的に示す必要がある場合、プラセオジウムを含有する「GOS」やテルビウムを含有する「GOS」と表現することがある。
【0006】
また、シンチレータを「GOS」単体から構成する場合、「GOS」はセラミックから構成される。一方、後述するように、シンチレータを「GOS」と樹脂の混合物から構成することも検討されており、この場合の「GOS」は粉体から構成される。したがって、本明細書では、特にセラミックと粉体とを明示する必要がないときには、単に「GOS」と表現する。これに対し、セラミックを明示する必要があるときは「GOS」セラミックと呼ぶ。一方、粉体を明示する必要があるときは「GOS」粉体と呼ぶことにする。
【0007】
この「GOS」は、タングステン酸カドミウム(CdWO)よりも可視光の発光出力が大きいという利点を有する一方、製造コストが高い。
【0008】
このことから、シンチレータ構造体の製造コストを低減するため、シンチレータとして「GOS」粉体と樹脂の混合物を使用することが検討されている。
【0009】
この点に関し、シンチレータ構造体に要求される優先度の高い項目として、信頼性を向上することがある。なぜなら、シンチレータ構造体の信頼性を向上することができれば、放射線検出器の寿命を長くすることができるからである。したがって、シンチレータには、信頼性を向上するために放射線耐性が高いことが要求される。特に、上述したように、シンチレータを「GOS」粉体と樹脂の混合物から構成する場合は、樹脂に対して、放射線を照射した際に変質劣化しにくいことが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、シンチレータ構造体の信頼性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施の形態におけるシンチレータ構造体は、複数のセルと、複数のセルを覆う反射層とを備える。ここで、複数のセルのそれぞれは、樹脂と蛍光体とを含み、樹脂は、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む主剤と、硬化剤とを含む。
【発明の効果】
【0012】
一実施の形態によれば、シンチレータ構造体の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】X線検出器を模式的に示す図である。
図2】シンチレータ構造体の製造工程の流れを説明するフローチャートである。
図3】ダイシング工程から反射材塗布工程までの工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0015】
<X線検出器の概要>
図1は、X線検出器を模式的に示す図である。
【0016】
図1において、X線検出器100は、シンチレータ構造体10と受光素子20とを有している。シンチレータ構造体10は、X線検出器100に入射されるX線から可視光を発生する複数のシンチレータ11と、これらの複数のシンチレータ11のそれぞれを覆う反射層12から構成されている。一方、受光素子20は、シンチレータ11で発生した可視光から電流を生成する機能を有し、例えば、フォトダイオードに代表される光電変換素子から構成されている。この受光素子20は、例えば、支持体30に設けられており、複数のシンチレータ11のそれぞれに対応して設けられている。
【0017】
シンチレータ11は、X線を吸収して可視光を発生させる機能を有し、蛍光体11aと樹脂11bから構成されている。ここで、本明細書では、蛍光体11aを構成する「GOS」粉体と樹脂11bとを混合した材料を「樹脂GOS」と呼ぶこともある。つまり、本実施の形態におけるシンチレータ11は、「樹脂GOS」から構成されている。蛍光体11aは、プラセオジウムやテルビウムなどを含有するガドリニウム酸硫化物であり、樹脂11bは、例えば、エポキシ樹脂である。また、反射層12は、酸化チタンからなる反射粒子12aを含有する樹脂12bから構成されている。
【0018】
近年では、図1に示すように、シンチレータ構造体10において、シンチレータ11は、複数のセル(CL)に分割されている。すなわち、X線画像の解像度を向上する観点から、複数の受光素子20のそれぞれに合わせてシンチレータ11を複数のセルCLに分割することが行われている(シンチレータ11のアレイ化)。このように、シンチレータ構造体10は、複数のセルCLと、複数のセルCLを覆う反射層12とを備えている。具体的に、セルCLの上面と4つの側面は、反射層12で覆われる。一方、セルCLの下面は、受光素子20と接触させる必要があるため、反射層12で覆われてはいない。
【0019】
このように構成されているX線検出器は、以下に示すように動作する。
【0020】
すなわち、X線がシンチレータ構造体10のシンチレータ11に入射すると、シンチレータ11を構成する蛍光体11a内の電子は、X線のエネルギーを受け取って基底状態から励起状態に遷移する。その後、励起状態の電子は、基底状態に遷移する。この際、励起状態と基底状態との間のエネルギー差に相当する可視光が放出される。このようなメカニズムによって、シンチレータ11は、X線を吸収して可視光を発生させる。
【0021】
そして、シンチレータ11から発生した可視光のうちの一部の可視光は、直接的に受光素子20に入射するとともに、シンチレータ11から発生した可視光のうちの他の一部の可視光は、シンチレータ11を覆う反射層12での反射を繰り返しながら受光素子20に集光される。続いて、例えば、フォトダイオードから構成される受光素子20に可視光が入射すると、この可視光のエネルギーによって、フォトダイオードを構成する半導体材料の電子が価電子帯から伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に励起した電子に起因する電流がフォトダイオードに流れる。そして、フォトダイオードから出力された電流に基づいて、X線画像が取得される。このようにして、X線検出器100によれば、X線画像を取得することができる。
【0022】
例えば、図1に示すように、シンチレータ構造体10は、直方体形状をしたシンチレータ11とシンチレータ11を覆う反射層12から構成されている。ここで、直方体形状をしたシンチレータ11は、ダイシング工程や研削工程などの加工工程を経て形成されることから、直方体形状の表面には、加工面が形成される。すなわち、「加工面」とは、機械的な加工が施された面をいう。具体的に、「加工面」には、ワーク厚み出しを実施するにあたり、研削砥石にて研削した面、もしくは、ダイシング処理を実施するためにスライシングブレードにてワークを切断した表面が含まれる。
【0023】
例えば、「樹脂GOS」を使用したシンチレータ11において、「加工面」とは、樹脂が露出する面と「GOS」粉体が破断した面とが混在する面として定義される。例えば、図1では、「樹脂GOS」を使用したシンチレータ11において、シンチレータ11と反射層12との界面が「加工面」である場合を模式的に表している。この場合、「加工面」においては、樹脂11bを切断する領域と蛍光体11a(「GOS」粉体)が破断する領域が混在することがわかる。このようにして、X線検出器100が構成されている。
【0024】
<「樹脂GOS」の採用理由>
上述したように、本実施の形態では、シンチレータ11として「樹脂GOS」が採用されている。以下では、この理由について説明する。
【0025】
例えば、シンチレータ構造体10を構成するシンチレータ11として、タングステン酸カドミウム(以下、「CWO」と呼ぶ)が使用されているが、この「CWO」には、RoHS指令/REACH規則対象物質であるカドミウムが含まれている。このことから、シンチレータ11として、カドミウムを含有する「CWO」に替えて「GOS」セラミックが使用されてきている。この「GOS」セラミックは、「CWO」に比べて、可視光の発光出力が高いというメリットを有している一方、製造コストが高くなるデメリットがある。
【0026】
そこで、製造コストを削減する観点から、シンチレータ11として、「GOS」セラミックに替えて、エポキシ樹脂などからなる樹脂と「GOS」粉体とを混合した「樹脂GOS」を採用することが検討されている。すなわち、「GOS」セラミックによる製造コストの上昇を抑制するために、「GOS」セラミックよりも価格の安い「樹脂GOS」をシンチレータ11に使用する動きがある。
【0027】
ここで、「樹脂GOS」には、プラセオジウム(Pr)とセリウム(Ce)をガドリニウム酸硫化物に添加した「GOS」粉体とエポキシ樹脂とを混合した「第1樹脂GOS」と、テルビウム(Tb)とセリウム(Ce)をガドリウム酸硫化物に添加した「GOS」粉体とエポキシ樹脂とを混合した「第2樹脂GOS」とがある。
【0028】
そして、「第1樹脂GOS」と「第2樹脂GOS」は、ともに、「CWO」に比べて、発光出力が高いという利点を有している。さらには、「第1樹脂GOS」の残光特性は、「CWO」と同等であるという利点もある。すなわち、シンチレータ構造体10の性能としては、発光出力が大きいだけでなく、残光特性が良好であることも要求される。
【0029】
そこで、残光特性について説明する。シンチレータ構造体10を構成するシンチレータ11は、X線を当てると可視光を発生させる物質である。シンチレータ11において、X線を当てると可視光を発生させるメカニズムは、以下のようなものである。
【0030】
すなわち、シンチレータ11にX線を照射すると、シンチレータ11内の電子がX線からエネルギーを受け取って、エネルギーの低い基底状態からエネルギーの高い励起状態に遷移する。そして、励起状態にある電子は、エネルギーの低い基底状態に遷移する。このとき、励起された電子の大部分は、直ちに基底状態に遷移する。一方、励起された電子のうちの一部の電子は、ある程度の時間が経過した後に基底状態に遷移する。
【0031】
このある程度の時間が経過した後に生じる電子の励起状態から基底状態への遷移によって発生する可視光が残光になる。つまり、残光とは、励起状態から基底状態に遷移するタイミングがX線を照射した時刻からある程度時間が経過後に生じることによって発生する可視光である。そして、この残光が大きいということは、X線を照射してからもある程度の時間経過後まで発生する可視光の強度が大きいことを意味する。この場合、次のX線を照射するときまで前のX線照射で発生した残光が残存することになり、残存した残光はノイズとなる。このことから、残光は小さいことが望ましい。つまり、残光特性が良好であるとは、残光が小さいことを意味する。この点に関し、「第1樹脂GOS」の残光特性は、「CWO」の残光特性と同等である。
【0032】
したがって、「樹脂GOS」は、「CWO」に比べて、以下に示す利点を有していることから、性能と製造コストを両立可能なシンチレータ11として優れている。
(1)「樹脂GOS」は、「CWO」に比べて発光出力が高い。
(2)「第1樹脂GOS」の残光特性は、「CWO」の残光特性と同等である。
(3)「樹脂GOS」では、カドミウムを使用しない。
(4)「樹脂GOS」は、「CWO」に比べて製造コストが低い。
【0033】
また、シンチレータ11としてヨウ化セシウム(CsI)が使用されるが、「樹脂GOS」は、「CsI」に比べても、以下に示す利点を有している。
(1)「第2樹脂GOS」は、「CsI」に比べてX線のストッピング特性がよい。
(2)「第2樹脂GOS」の残光特性は、「CsI」の約1/70である。
(3)「樹脂GOS」は、潮解性のない安定した物質である。
【0034】
さらに、「樹脂GOS」は、「GOS」セラミックに比べて、以下に示す利点も有している。すなわち、「樹脂GOS」や「GOS」セラミックには、「Gd」、「Ga」または「Bi」などの重金属が含まれている。これらの重金属は、比較的高価であるとともに、流出による生体や環境への悪影響が懸念される。したがって、シンチレータ11に含まれる重金属は、できるだけ少ないことが望ましい。この点に関し、「GOS」粉体と樹脂の混合物から構成される「樹脂GOS」は、バルクである「GOS」セラミックよりも「GOS」の使用量が少ない。このことは、「樹脂GOS」によれば、「GOS」セラミックよりも、重金属の含有量が少ないシンチレータ11を構成できることを意味する。このことから、重金属の含有量の少ないシンチレータ11を提供できる点で、「樹脂GOS」は、「GOS」セラミックよりも優れているということができる。
【0035】
以上のことから、「樹脂GOS」は、性能と製造コストを両立可能なシンチレータ11として有望視されていることになる。
【0036】
<具体的な材料>
続いて、シンチレータ構造体10を構成する構成要素の具体的な材料について説明する。
【0037】
<<蛍光体11a>>
本実施の形態で使用される蛍光体11aは、例えば、ガドリニウム酸硫化物、または、ガドリニウム-アルミニウム-ガリウムガーネット(GGAG)から構成される。ここで、ガドリウム酸硫化物は、例えば、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)あるいはテルビウム(Tb)から選ばれた少なくとも1種類で賦活した「GdS」の組成を有する。一方、「GGAG」は、例えば、セリウム(Ce)やプラセオジウム(Pr)などから選ばれた少なくとも1種類で賦活した(Gd1-xLu3+a(GaAl1-u5-a12(x=0~0.5、u=0.2~0.6、a=-0.05~0.15)の主組成を有する。ただし、蛍光体11aは、特定の組成物に限定されるものではない。
【0038】
<<樹脂11bおよび樹脂12b>>
樹脂11bおよび樹脂12bは、放射線を照射した際に変質劣化しにくい材料から構成される。これらの樹脂11bおよび樹脂12bの材料は、本実施の形態における特徴点であり、この特徴点については後述する。
【0039】
<<反射粒子12a>>
反射粒子12aの構成材料としては、例えば、「TiO」(酸化チタン)、「Al」(酸化アルミニウム)、「ZrO」(酸化ジルコニウム)などの白色粒子を挙げることができる。ここで、反射粒子12aは、例えば、バルクまたは粉体と樹脂の混合物を使用することができる。特に、「ルチル型TiO」からなる反射粒子12aは、光反射効率に優れており望ましい粒子である。反射粒子12aの光反射率は、受光素子20での受光効率を向上させる観点から、80%以上であることが望ましく、さらに、反射粒子12aの光反射率は、90%以上であることが望ましい。
【0040】
<<その他の添加剤>>
シンチレータ11および反射層12を構成する反射材には、上述した成分以外に、その他の添加剤が配合されていてもよい。例えば、樹脂の硬化時間を短縮させるために、硬化触媒を配合することが望ましい。
【0041】
<改善の検討>
例えば、「樹脂GOS」に含まれる樹脂には、エポキシ樹脂が使用される。このエポキシ樹脂は、少なくとも主剤と硬化剤とを構成材料として含んでおり、例えば、主剤としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が使用されるとともに、硬化剤としては、アミン系硬化剤が使用されることが多い。ところが、「樹脂GOS」を構成する樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤とし、かつ、アミン系硬化剤を硬化剤として使用する一般的なエポキシ樹脂を使用する場合、放射線(X線)の照射が長期間にわたって繰り返されると、劣化して変色することを本発明者は新規に見出した。
【0042】
そして、透光性を有する樹脂が変色するということは、光の吸収が大きくなることを意味することから、結果的に、光の透過率が低下することを意味する。このことから、「樹脂GOS」からなるシンチレータから発生した光は、受光素子(フォトダイオード)に届きにくくなるため、X線検出器の検出性能が低下することになる。
【0043】
つまり、本発明者の検討によると、「樹脂GOS」を構成する樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤とし、かつ、アミン系硬化剤を硬化剤として使用する一般的なエポキシ樹脂を使用すると、X線検出器において、長期間にわたって安定した検出性能を発揮させることが困難であることを見出した。言い換えれば、上述した一般的なエポキシ樹脂を「樹脂GOS」を構成する樹脂として使用すると、X線検出器の信頼性を長期間にわたって確保することが困難となることを本発明者は新規な知見として獲得している。
【0044】
したがって、上述した新規な知見に基づくと、X線検出器の信頼性を長期間にわたって確保するためには、上述した一般的なエポキシ樹脂に替えて、長期間にわたるX線が照射されても変色しにくい樹脂を「樹脂GOS」を構成する樹脂として採用することが望ましいことがわかる。そこで、本発明者は、長期間にわたるX線が照射されても変色しにくい放射線耐性に優れた樹脂を見出したので、以下に、この点について説明する。
【0045】
<実施の形態における特徴>
本実施の形態における特徴点は、少なくとも主剤と硬化剤とを含むエポキシ樹脂として、以下に示すエポキシ樹脂を「樹脂GOS」に含有される樹脂および反射材に含有される樹脂に使用する点である。これにより、本実施の形態におけるシンチレータ構造体を構成要素とするX線検出器の信頼性を長期間にわたって確保することができる。
【0046】
<<主剤>>
主剤は、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む。特に、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンは、炭素二重結合を有さない材料であることから、X線照射によって炭素二重結合が切断されることによる変色が生じにくい。つまり、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンは、放射線耐性に優れた材料である。
【0047】
<<硬化剤>>
硬化剤は、X線照射による変色を抑制するため、炭素二重結合を有さない材料を使用することが望ましい。なぜなら、炭素二重結合は、炭素一重結合よりも結合強度が弱く、X線照射によって炭素二重結合が容易に切断される結果、材料の変色が生じやすくなるからである。例えば、硬化剤としては、無水フタル酸系硬化剤に代表される酸無水物系硬化剤を使用することができる。特に、X線照射による変色を効果的に抑制する観点から、非芳香族かつ炭素二重結合を化学的に有さない多塩基酸カルボン酸無水物のうちの1種類を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
具体的に、硬化剤としては、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物などを挙げることができる。特に、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を使用することが望ましい。
【0049】
酸無水物化合物の具体例としては、「リカシッドTH」、「TH-1A」、「HH」、「MH」、「MH-700」、「MH-700G」(いずれも新日本理化社製)などが挙げられる。
【0050】
<<硬化触媒>>
硬化触媒は、必須構成材料ではないが、主剤の硬化反応を促進する観点からは添加することが望ましい。硬化触媒としては、X線を照射しても変色しにくい有機リン系化合物を使用することが望ましい。具体的に、硬化触媒としては、テトラブチルホスホニウム 0,0-ジエチルホスホロジチオエート(ヒシコ-リンPX-4ET 日本化学工業社製)、メチルトリブチルホスホニウム ジメチルホスフェート(ヒシコ-リンPX-4MP 日本化学工業社製)などを挙げることができる。
【0051】
<効果の検証>
上述したビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む「樹脂GOS」によれば、X線照射後においても、「全光線透過率」の低下を抑制することができる検証結果について説明する。
【0052】
本明細書でいう「全光線透過率」とは、シンチレータの内部で散乱することにより透過方向が入射方向からずれて透過した光も透過光に含む意図で使用している。すなわち、「全光線透過率」には、入射方向から直進して透過する透過光だけでなく、シンチレータの内部で散乱されて透過方向が直進方向からずれた透過光も含む場合の透過率を表している。この「全光線透過率」を使用する意図は、シンチレータ構造体においては、シンチレータからなるセルは反射層で覆われる結果、セルの内部で散乱された光も反射を繰り返して最終的にセルの底面に配置された受光素子に入射されるため、セルの内部で散乱された光も受光素子での放射線の検出に寄与することになるからである。つまり、放射線の検出に寄与する透過光をすべて加味して評価するために、「全光線透過率」を使用している。
【0053】
また、本明細書における「全光線透過率」は、厚さ1.5mmのサンプルに対して542nmの波長を有する光を使用して測定された全光線透過率を意味している。なお、「全光線透過率」の測定にあたっては、縦×横×厚さが15mm×15mm×1.5mmのサンプルを作製した後、サンプルの表面を鏡面加工しているものを使用して、サンプルごとの「全光線透過率」を測定している。
【0054】
なお、「全光線透過率」は、日本分光製の紫外可視近赤外分光光度計V-570で542nmの波長を有する光に対して測定した。
【0055】
ここでは、積分球装置と反射板を使用し、拡散透過光と直進透過光を検出器に集めて全光線透過率を測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1は、サンプルAとサンプルBについての検証結果を示す表である。
【0058】
表1において、サンプルAは、本実施の形態における「樹脂GOS」を示しており、主剤としてビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む樹脂を使用し、かつ、硬化剤として「Me-HHPA」(材料名:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸 製品名:新日本理化社製「リカシッドMH-T」)を使用した「樹脂GOS」である。一方、サンプルBは、関連技術における「樹脂GOS」を示しており、主剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用し、かつ、硬化剤としてアミン系化合物を使用した「樹脂GOS」である。
【0059】
表1に示すように、サンプルAでは、X線を照射する前の初期の「全光線透過率(0kGy)」が「92.489」である一方、線量が100kGyであるX線照射後の「全光線透過率(100kGy)」が「86.087」であり、「全光線透過率差」は、「6.402」である。
【0060】
これに対し、サンプルBでは、X線を照射する前の初期の「全光線透過率(0kGy)」が「90.902」である一方、線量が100kGyであるX線照射後の「全光線透過率(100kGy)」が「78.361」であり、「全光線透過率差」は、「12.541」である。
【0061】
この結果、サンプルAの「全光線透過率減少率」は、「7.4%」であるのに対し、サンプルBの「全光線透過率減少率」は、「16%」である。したがって、表1の結果から、本実施の形態における「樹脂GOS」によれば、X線照射後においても、「全光線透過率」の低下を抑制できることが裏付けられていることがわかる。
【0062】
特に、表1の結果から、本実施の形態における「樹脂GOS」によれば、X線を照射する前において、542nmの波長を有する光に対する初期の全光線透過率を90%以上に確保しながら、線量が100kGyのX線を照射した後において、542nmの波長を有する光に対する全光線透過率の低下率が8%未満であるという優れた性能を実現できる。このことから、本実施の形態における「樹脂GOS」を使用することによって、発光出力が高く、放射線耐性に優れたシンチレータ構造体を提供することができる。この結果、本実施の形態におけるシンチレータ構造体を使用することによって、長期間にわたって安定した検出性能を維持できる信頼性に優れたX線検出器を提供することができる。
【0063】
特に、本実施の形態における検証結果は、100kGyという高い線量のX線を照射した後においても、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む「樹脂GOS」の全光線透過率の低下の抑制が裏付けられている点に大きな技術的意義がある。
【0064】
例えば、材料に対して、たとえ放射線耐性を有することが知られていたとしても、どのぐらいの線量のX線照射に対して耐性を有しているについて分からなければ、実際にX線検出器の信頼性を長期間にわたって確保することができるか否かについて言及することができない。すなわち、単に定性的に放射線耐性を有している材料だからからといって、必ずしも、高い線量のX線が使用されるX線検出器の信頼性を長期間にわたって保証することはできない。この点に関し、本実施の形態では、線量が100kGyという高線量のX線を照射した後における検証結果を示しており、この検証結果に基づいて、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む「樹脂GOS」の放射線耐性が優れていることが裏付けられている。つまり、本実施の形態は、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む「樹脂GOS」によれば、100kGyのX線照射後においても、「全光線透過率」の低下を抑制できることを検証している点に大きな技術的意義がある。なぜなら、この検証結果は、高い線量である100kGyを前提としたデータであることから、高い線量のX線が使用されるX線検出器の信頼性を長期間にわたって保証する根拠として信頼性の高いデータを提供することになるからである。
【0065】
<シンチレータ構造体の製造方法>
続いて、シンチレータ構造体の製造方法について説明する。
【0066】
図2は、シンチレータ構造体の製造工程の流れを説明するフローチャートである。
【0067】
図2において、まず、原料粉末とフラックス成分を所定量秤量して混合した後(S101)、この混合物を坩堝に充填し、1300℃~1400℃の大気炉中で7~9時間焼成することにより(S102)、「GOS」粉体を生成する。そして、「GOS」粉体中に含まれるフラックス成分や不純物を塩酸と温水を使用した洗浄により除去する(S103)。次に、「GOS」粉体にエポキシ樹脂を滴下することにより、「GOS」粉体にエポキシ樹脂を浸み込ませる(S104)。次に、エポキシ樹脂を硬化させた後(S105)、「GOS」粉体と混合していないエポキシ樹脂を除去する(S106)。これにより、「樹脂GOS」からなるシンチレータを形成できる。
【0068】
続いて、シンチレータが形成された基板をダイシングすることにより、基板を複数のセルに個片化する(S107)。個片化された複数のセルは、再配列された後(S108)、複数のセルを覆うように反射材が塗布される(S109)。そして、シンチレータ構造体10Aとしての不要部を切断した後(S110)、検査をパスしたシンチレータ構造体が出荷される(S111)。
【0069】
図3は、ダイシング工程から反射材塗布工程までの工程を模式的に示す図である。
【0070】
図3に示すように、「樹脂GOS」からなるシンチレータが形成された基板WFをダイシングすることにより、基板WFは複数のセルCLに個片化される。そして、個片化された複数のセルCLは、例えば、ライン状に再配列される。その後、ライン状に再配列された複数のセルCLを内包するように外枠FRが配置される。次に、外枠FR内に配置された複数のセルCLを覆うように、例えば、酸化チタンを含有するエポキシ樹脂からなる反射材を塗布する。その後、外枠FRを除去する。このようにして、シンチレータ構造体10Aが製造される。
【0071】
なお、図3では、1×n個のセルを使用したライン状のシンチレータ構造体10Aを例に挙げて説明しているが、本実施の形態における技術的思想は、これに限らず、例えば、n×n個のセルを使用したアレイ状(行列状)のシンチレータ構造体にも適用可能である。
【0072】
<製法上の利点>
本実施の形態では、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む「樹脂GOS」を使用する点に特徴点があるが、このビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンは、粘度が低いという性質がある。この結果、本実施の形態によれば、以下に示す利点を得ることができるので、この点について説明する。
【0073】
ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンの粘度は、0.064(Pa・s)であり、非常に小さい。ここで、上述したシンチレータ構造体の製造方法で説明したように、個片化された複数のセルCLは、再配列された後、反射材で覆われる。したがって、例えば、反射材を構成する樹脂としても、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む樹脂を使用すると、再配列された複数のセルCLを覆う反射材を塗布する工程を容易に実施することができる。すなわち、本実施の形態によれば、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンの粘度が非常に小さいことから、反射材を構成する樹脂として、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを含む樹脂を使用すると、反射材の塗布工程の作業性を向上できる利点が得られる。そして、本実施の形態によれば、作業性が向上する結果、製造歩留まりの向上を通じて、シンチレータ構造体の製造コストを削減できるという顕著な効果を得ることができる。このように本実施の形態によれば、「樹脂GOS」だけでなく、反射層12としても、ビ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンを使用することにより、長期間にわたるX線検出器の信頼性を確保することができるだけでなく、シンチレータ構造体の製造コストも削減できる点で、非常に優れた技術的思想であるということができる。
【0074】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0075】
10 シンチレータ構造体
11 シンチレータ
11a 蛍光体
11b 樹脂
12 反射層
12a 反射粒子
12b 樹脂
20 受光素子
30 支持体
100 X線検出器
CL セル
図1
図2
図3