IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許7593244フロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法
<>
  • 特許-フロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法 図1
  • 特許-フロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】フロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 18/02 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
C03B18/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021102233
(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公開番号】P2023001476
(43)【公開日】2023-01-06
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和明
(72)【発明者】
【氏名】川崎 直哉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 丈宜
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/221084(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/077286(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/051767(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 18/02
C03B 25/08
C03B 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の上でガラスリボンを成形するフロートバスと、前記ガラスリボンを引き上げる複数のリフトアウトロールを有するドロスボックスと、前記ガラスリボンを搬送する複数のレヤーロールを有する徐冷炉と、を備える、フロートガラス製造装置であって、
前記徐冷炉は、前記ガラスリボンの搬送経路を挟んで設けられる一対の側壁部と、前記搬送経路の上方を塞ぐ天井部と、前記搬送経路の下方から前記搬送経路に向けて酸化硫黄ガスを吐出するガス吐出ノズルと、前記側壁部から内側に差し込まれ、前記搬送経路の上方にて、下方のガスを上方に吸引するか、側方のガスを側方に吸引するガス吸引ノズルと、を有し、
前記ガス吸引ノズルは、前記ガラスリボンの搬送方向に、前記ガス吐出ノズルと同じ位置に配置されるか、又は前記ガス吐出ノズルよりも上流側に配置される、フロートガラス製造装置。
【請求項2】
前記ガス吸引ノズルは、前記ガラスリボンの温度が歪点以上である領域の真上に配置される、請求項1に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項3】
前記徐冷炉は、前記ガス吸引ノズルの吸引量を調節するエジェクタを有する、請求項1又は2に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項4】
前記徐冷炉は、一対の前記側壁部の外側において前記ガス吸引ノズルの一端から上方に延びる鉛直管を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項5】
前記徐冷炉は、一対の前記側壁部の外側において前記ガス吸引ノズルの一端から上方に延びる鉛直管と、前記ガス吸引ノズルの吸引量を調節するエジェクタと、を有し、
前記エジェクタは、前記鉛直管の下端に設けられ、上方にガスを吐出するエジェクタノズルを含む、請求項1又は2に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項6】
前記ガス吐出ノズルは、前記搬送方向の上流側から下流側に向けて1番目と2番目の前記レヤーロールの間に配置される、請求項1~5のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項7】
前記ガス吸引ノズルは、前記搬送方向の上流側から下流側に向けて1番目の前記レヤーロールよりも上流側に配置される、請求項1~6のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項8】
前記ガス吸引ノズルは、ガスを吸引する吸引口を含み、
上方から見たときに、前記ガス吸引ノズルの前記吸引口は、前記ガラスリボンの幅方向一端に重なり、前記ガラスリボンの前記幅方向一端から幅方向外側に延びている、請求項1~7のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のフロートガラス製造装置を用いて、フロートガラスを製造する、フロートガラス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロートガラス製造装置は、溶融金属の上でガラスリボンを成形するフロートバスと、ガラスリボンを引き上げる複数のリフトアウトロールを有するドロスボックスと、ガラスリボンを搬送する複数のレヤーロールを有する徐冷炉と、を備える。徐冷炉で徐冷したガラスリボンを所望の寸法及び形状に切断することで、フロートガラスが得られる。
【0003】
フロートバスの内部は、溶融金属の酸化を抑制すべく、還元性ガスで満たされる。還元性ガスはフロートバスの内部からドロスボックスの内部に流入し、ドロスボックスの内部も還元性ガスで満たされる。一方、徐冷炉の内部は、大気で満たされる。
【0004】
ドロスボックスは、リフトアウトロールに当接されるカーボン部材を含む。カーボン部材は、リフトアウトロールに付着したドロスを除去する。ドロスは、ガラスリボンと共にドロスボックスの内部に持ち込まれた溶融金属が酸化した酸化物である。
【0005】
徐冷炉の内部からドロスボックスの内部に大気が流入すると、大気中の酸素ガスによってカーボン部材が酸化消耗してしまうため、ドロスの除去が困難になる。その結果、ガラスリボンの下面に傷が発生してしまう。
【0006】
特許文献1には、雰囲気仕切装置によって、徐冷炉の内部からドロスボックスの内部に大気が流入するのを抑制する技術が開示されている。雰囲気仕切装置は、ドロスボックス内のガラスリボンが搬送される搬送経路よりも下側の空間と、徐冷炉内の搬送経路よりも下側の空間とを仕切る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-050160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
徐冷炉は、ガラスリボンの搬送経路の下方から搬送経路に向けて酸化硫黄ガスを吐出するガス吐出ノズルを有する。酸化硫黄ガスは、ガラスリボンの下面と反応し、ガラスリボンの下面に緩衝膜を形成する。緩衝膜は、ガラスリボンとレヤーロールとの衝突を緩和する。緩衝膜は、硫酸塩の結晶などを含む。硫酸塩の結晶は、酸化性雰囲気下で生成する。
【0009】
ドロスボックスの内部においてガラスリボンの上面とドレープとの隙間が狭いと、ドロスボックスの内部から徐冷炉の内部に還元性ガスが勢いよく流入することがある。流入した還元性ガスは、ガラスリボンの上方から下方に回り込む。その結果、酸化硫黄ガスの流れが乱れる、あるいは、ガス吐出ノズル周辺の酸素濃度が低下するなどの問題があった。それゆえ、緩衝膜の形成が妨げられ、ガラスリボンの下面に傷が発生しやすかった。
【0010】
本開示の一態様は、ドロスボックスの内部から徐冷炉の内部に流入する還元性ガスによって緩衝膜の形成が阻害されるのを抑制し、ガラスリボンの品質を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係るフロートガラス製造装置は、溶融金属の上でガラスリボンを成形するフロートバスと、前記ガラスリボンを引き上げる複数のリフトアウトロールを有するドロスボックスと、前記ガラスリボンを搬送する複数のレヤーロールを有する徐冷炉と、を備える。前記徐冷炉は、前記ガラスリボンの搬送経路を挟んで設けられる一対の側壁部と、前記搬送経路の上方を塞ぐ天井部と、前記搬送経路の下方から前記搬送経路に向けて酸化硫黄ガスを吐出するガス吐出ノズルと、前記側壁部から内側に差し込まれ、前記搬送経路の上方にて、下方のガスを上方に吸引するか、側方のガスを側方に吸引するガス吸引ノズルと、を有する。前記ガス吸引ノズルは、前記搬送方向に、前記ガス吐出ノズルと同じ位置に配置されるか、又は前記ガス吐出ノズルよりも上流側に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、ガス吸引ノズルによって、ドロスボックスの内部から徐冷炉の内部に流入した還元性ガスがガス吐出ノズルの周辺まで到達するのを制限でき、緩衝膜の形成が阻害されるのを抑制でき、ガラスリボンの品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係るフロートガラス製造装置を示す側面断面図である。
図2図2は、徐冷炉の一例を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。各図面において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに垂直な方向であって、X軸方向及びY軸方向は水平方向、Z軸方向は鉛直方向である。X軸方向がガラスリボンGの搬送方向であり、Y軸方向がガラスリボンGの幅方向である。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0015】
図1を参照して、一実施形態に係るフロートガラス製造装置1について説明する。フロートガラス製造装置1は、ガラスリボンGの搬送方向上流側から下流側に向けて、フロートバス2と、ドロスボックス3と、徐冷炉5と、を備える。フロートガラス製造装置1は、フロートバス2に貯留した溶融金属Mの上でガラスリボンGを成形し、成形したガラスリボンGをドロスボックス3の内部に設けた複数のリフトアウトロール31によってフロートバス2から引き出し、徐冷炉5に送る。また、フロートガラス製造装置1は、ガラスリボンGを、徐冷炉5の内部で徐冷した後、所望の寸法及び形状に切断する。ガラスリボンGを切断することで、フロートガラスが得られる。
【0016】
フロートガラスは、例えば無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス又はソーダライムガラスなどである。無アルカリガラスとは、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスを意味する。ここで、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、アルカリ金属酸化物の含有量の合量が0.1質量%以下を意味する。
【0017】
フロートガラスの用途は、特に限定されないが、例えばディスプレイ(例えば液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等)のカバーガラスである。フロートガラスの用途がカバーガラスである場合、フロートガラスは化学強化用ガラスである。化学強化用ガラスは、無アルカリガラスとは異なり、アルカリ金属酸化物を含有する。
【0018】
化学強化用ガラスは、例えば酸化物基準のモル%表示で、SiO:62%~68%、Al:6%~12%、MgO:7%~13%、NaO:9%~17%、KO:0%~7%を含有し、NaO及びKOの含有量の合計からAl含有量を減じた差が10%未満であり、ZrOを含有する場合、その含有量が0.8%以下である。
【0019】
別の化学強化用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、SiO:65%~85%、Al:3%~15%、NaO:5%~15%、KO:0%~2%未満、MgO:0%~15%、ZrO:0%~1%を含有し、SiO及びAlの含有量の合計SiO+Alが88%以下である。
【0020】
別の化学強化用ガラスは、酸化物基準のモル%表示で、SiOを50%~75%、Alを9%~20%、NaOを10%~20%、KOを0%~6%、MgOを0%~15%、CaO、SrO及びBaOを合量(CaO+SrO+BaO)で0%~10%、ZrO及びTiOを合量(ZrO+TiO)で0%~5%、Bを0%~10%、LiOを0%~20%含有する。
【0021】
フロートガラスの用途は、ディスプレイの薄膜トランジスタ又はカラーフィルター等を形成するガラス基板であってもよい。フロートガラスの用途がガラス基板である場合、フロートガラスは無アルカリガラスである。無アルカリガラスは、化学強化用ガラスとは異なり、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない。
【0022】
無アルカリガラスは、例えば、酸化物基準の質量%表示で、SiO:50%~73%、Al:10.5%~24%、B:0%~12%、MgO:0%~10%、CaO:0%~14.5%、SrO:0%~24%、BaO:0%~13.5%、MgO+CaO+SrO+BaO:8%~29.5%、ZrO:0%~5%を含有する。
【0023】
無アルカリガラスは、高い歪点と高い溶解性とを両立する場合、好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、SiO:58%~66%、Al:15%~22%、B:5%~12%、MgO:0%~8%、CaO:0%~9%、SrO:3%~12.5%、BaO:0%~2%、MgO+CaO+SrO+BaO:9%~18%を含有する。
【0024】
無アルカリガラスは、特に高い歪点を得たい場合、好ましくは、酸化物基準の質量%表示で、SiO:54%~73%、Al:10.5%~22.5%、B:0%~5.5%、MgO:0%~10%、CaO:0%~9%、SrO:0%~16%、BaO:0%~2.5%、MgO+CaO+SrO+BaO:8%~26%を含有する。
【0025】
フロートガラスの厚みは、フロートガラスの用途に応じて選択される。フロートガラスの用途がディスプレイのカバーガラスである場合、フロートガラスの厚みは例えば0.1mm~2.0mmである。一方、フロートガラスの用途がディスプレイのガラス基板である場合、フロートガラスの厚みは例えば0.1mm~0.7mmである。
【0026】
次に、図1を再度参照して、一実施形態に係るフロートバス2などについて説明する。フロートバス2は、浴槽21を備える。浴槽21は、溶融金属Mを収容する。溶融金属Mとしては、例えば溶融スズが用いられる。溶融スズの他に、溶融スズ合金なども使用可能であり、溶融金属Mは溶融ガラスよりも高い密度を有するものであればよい。溶融ガラスは、溶融金属Mの上に連続的に供給され、溶融金属Mの平滑な液面を利用して、帯板状のガラスリボンGに成形される。
【0027】
フロートバス2は、浴槽21の上に空間を形成する天井22を備える。フロートバス2の内部は、溶融金属Mの酸化を防止するため、還元性ガスで満たされ、大気圧よりも高い気圧に維持される。還元性ガスは、例えば窒素ガスと水素ガスとの混合ガスであり、窒素ガスを85体積%~98.5体積%、水素ガスを1.5体積%~15体積%含んでいる。還元性ガスは、天井22のレンガ同士の目地及び天井22の孔から供給される。
【0028】
フロートバス2は、ガラスリボンGを加熱するヒータ23を備える。ヒータ23は、例えば天井22から吊り下げられ、下方を通過するガラスリボンGを加熱する。ヒータ23は、例えば電気ヒータであって、通電加熱される。ヒータ23は、ガラスリボンGの搬送方向と幅方向に行列状に複数配列される。複数のヒータ23の出力を制御することにより、ガラスリボンGの温度分布を制御でき、ガラスリボンGの板厚分布を制御できる。
【0029】
ドロスボックス3は、ガラスリボンGを引き上げるリフトアウトロール31を備える。リフトアウトロール31は、モータ等の駆動装置(不図示)によって回転駆動され、その駆動力によってガラスリボンGを斜め上方に向けて搬送する。駆動装置は、ドロスボックス3の外部に設けられる。従って、ドロスボックス3の外壁には、リフトアウトロール31を挿通させる穴が形成される。
【0030】
リフトアウトロール31は、ドロスボックス3の内部に、ガラスリボンGの搬送方向(X軸方向)に間隔をおいて複数配置される。リフトアウトロール31の個数は、図1では3つであるが、複数であればよく、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。リフトアウトロール31の軸方向は、ガラスリボンGの幅方向(Y軸方向)と同一方向である。
【0031】
ドロスボックス3は、リフトアウトロール31に当接されるカーボン部材32を備える。カーボン部材32は、ドロスボックス3の下部空間に配置される。ドロスボックス3の下部空間は、ガラスリボンGよりも下側の空間である。カーボン部材32は、リフトアウトロール31の外周面に当接し、リフトアウトロール31の外周面に付着した異物を除去する。異物は、例えばガラスリボンGと共にドロスボックス3の内部に持ち込まれた溶融金属Mが酸化した酸化物、いわゆるドロスを含む。
【0032】
カーボン部材32は、例えば直方体である。カーボン部材32は、X軸方向視で台形又は逆台形の四角柱であってもよい。カーボン部材32は、リフトアウトロール31の軸方向に複数設けられてもよい。各リフトアウトロール31に沿って配列されるカーボン部材32の個数は、ガラスリボンGの幅(Y軸方向寸法)又はリフトアウトロール31の軸方向長さ(Y軸方向寸法)に応じて決定される。
【0033】
カーボン部材32のY軸方向寸法は、例えば300mm~1000mmであり、好ましくは400mm~800mmである。カーボン部材32のZ軸方向寸法は、例えば50mm~200mmであり、好ましくは70mm~150mmである。カーボン部材32のX軸方向寸法は、例えば20mm~100mmであり、好ましくは30mm~80mmである。
【0034】
カーボン部材32は、グラファイト粉末を含んでもよい。グラファイト粉末の最大粒径は、例えば0.1mm~3mmであり、好ましくは0.5mm~2.5mmである。グラファイト粉末の最大粒径が0.1mm~3mmであると、グラファイト粉末の成形体であるカーボン部材32の強度を確保できる。
【0035】
カーボン部材32のショア硬度は、例えば20HS~90HSであり、好ましくは30HS~80HSである。カーボン部材32のショア硬度が20HS~90HSであると、リフトアウトロール31に対するカーボン部材32の耐摩耗性を確保できる。
【0036】
ドロスボックス3は、カーボン部材32をリフトアウトロール31に押し付ける付勢部材33を備えてもよい。付勢部材33は、例えば、金属製のばねを含む。ばねは、板ばねである。付勢部材33は、板ばねの代わりに、コイルばね、圧縮コイルばね、皿ばね、竹の子ばね、輪ばね等を含んでもよい。なお、付勢部材33は、空気圧シリンダなどの流体圧シリンダなどを含んでもよい。
【0037】
ドロスボックス3は、カーボン部材32を昇降自在に支持する支持部材34を備えてもよい。支持部材34は、ドロスボックス3の底壁35の上に配置される。支持部材34はY軸方向に垂直な断面形状がU字状であり、支持部材34の内部にカーボン部材32と付勢部材33が配置される。支持部材34は、カーボン部材32及び付勢部材33がX軸方向にずれるのを防止する。
【0038】
ドロスボックス3は、ガラスリボンGの温度を調整すべく、天井36にヒータ37を備えてもよい。ヒータ37は、ガラスリボンGの上方のみならず、下方にも設けられてもよい。ドロスボックス3において、ガラスリボンGの温度は、フロートガラスのガラス転移点Tgを基準として、(Tg-50℃)~(Tg+30℃)であることが好ましい。
【0039】
ドロスボックス3は、ガラスリボンGよりも上方に、フード38と、フード38の上に配置された断熱材39と、断熱材39の一部とフード38とを貫通してフード38の下面から吊り下げられたドレープ40と、を備える。ドレープ40は、鋼材あるいはガラス材などの耐火材からなる板状の部材である。
【0040】
ドレープ40は、ドロスボックス3の上部空間を、ガラスリボンGの搬送方向(X軸方向)に複数の空間に仕切る。ドロスボックス3の上部空間は、ガラスリボンGよりも上側の空間である。ドレープ40は、例えば、各リフトアウトロール31の回転中心線の真上に配置される。ドレープ40は、各リフトアウトロール31の軸方向(Y軸方向)に延びている。
【0041】
徐冷炉5は、ガラスリボンGをレヤーロール51によって搬送しながらガラスの歪点以下の温度に徐冷する。徐冷炉5は、ガラスリボンGの温度を調整するため、天井及び底壁にヒータ(不図示)を備える。レヤーロール51は、モータ等の駆動装置(不図示)によって回転駆動され、その駆動力によってガラスリボンGを水平方向に搬送する。徐冷炉5は、下流側の出口にて外部に開放されている。それゆえ、徐冷炉5の内部には、大気が流入する。
【0042】
次に、図1図2を参照して、徐冷炉5の一例について説明する。図1に示すように、徐冷炉5は、例えば、炉体52と、第1ガス吐出ノズル53と、第2ガス吐出ノズル54と、ガス濃度計55と、ガス吸引ノズル56と、を有する。また、図2に示すように、徐冷炉5は、エジェクタ57と、鉛直管58と、を有してもよい。
【0043】
炉体52は、図2に示すように、例えばX軸方向視で矩形状を有する。炉体52は、一対の側壁部521、522と、天井部523と、底壁部524と、を含む。一対の側壁部521、522は、ガラスリボンGの搬送経路をY軸方向に挟んで設けられる。天井部523は、ガラスリボンGの搬送経路の上方を塞ぐ。底壁部524は、ガラスリボンGの搬送経路の下方を塞ぐ。一対の側壁部521、522はY軸方向に直交するように鉛直に設けられ、天井部523と底壁部524は水平に設けられる。
【0044】
図1に示すように、第1ガス吐出ノズル53は、ガラスリボンGの搬送経路の下方から搬送経路に向けて酸化硫黄ガスを吐出する。第1ガス吐出ノズル53は、例えば、Y軸方向に延びており、Y軸方向に間隔をおいて複数のガス吐出口を有する。各ガス吐出口は、上方に向けて酸化硫黄ガスを吐出する。
【0045】
酸化硫黄ガスは、ガラスリボンGの下面と反応し、ガラスリボンGの下面に緩衝膜を形成する。緩衝膜は、ガラスリボンGとレヤーロール51との衝突を緩和し、ガラスリボンGの下面に傷が発生するのを抑制する。緩衝膜は、硫酸塩の結晶などを含む。硫酸塩の結晶は、酸化性雰囲気下で生成する。
【0046】
第1ガス吐出ノズル53は、酸化硫黄ガスとして、例えばSOガスを吐出し、硫酸塩の結晶を生成させる。
【0047】
第1ガス吐出ノズル53は、例えば、ガラスリボンGの搬送方向の上流側から下流側に向けて1番目と2番目のレヤーロール51、51の間に配置される。ドロスボックス3の内部から徐冷炉5の内部に流れ込んだ還元性ガスが酸化硫黄ガスの吐出口に向かうのを、1番目(最上流)のレヤーロール51によって遮ることができる。よって、酸化硫黄ガスの流れが乱れるのを抑制できる。また、徐冷炉5の比較的上流側で緩衝膜を形成でき、ガラスリボンGの下面に傷が発生するのを抑制できる。
【0048】
なお、第1ガス吐出ノズル53は、図示しないが、1番目(最上流)のレヤーロール51によりも上流側に配置されてもよい。また、第1ガス吐出ノズル53は、図示しないが、2番目のレヤーロール51よりも搬送方向下流側に配置されてもよい。
【0049】
第2ガス吐出ノズル54は、ガラスリボンGの搬送経路の下方から搬送経路に向けて酸素含有ガスを吐出する。第2ガス吐出ノズル54は、例えば、Y軸方向に延びており、Y軸方向に間隔をおいて複数のガス吐出口を有する。各ガス吐出口は、上方に向けて酸素含有ガスを吐出する。
【0050】
酸素含有ガスは、酸素ガスを含むものであればよく、純粋な酸素ガスでもよいし、空気でもよい。第1ガス吐出ノズル53の周辺での酸素ガス濃度を高め、硫酸塩の生成を促進させることができる。
【0051】
第2ガス吐出ノズル54は、第1ガス吐出ノズル53の隣に配置されることが好ましく、例えばガラスリボンGの搬送方向の上流側から下流側に向けて1番目と2番目のレヤーロール51、51の間に配置されてもよい。第1ガス吐出ノズル53の周辺での酸素ガス濃度を効率よく高めることができる。
【0052】
なお、第2ガス吐出ノズル54は、第1ガス吐出ノズル53の隣に設けられればよく、第1ガス吐出ノズル53と同様に、1番目(最上流)のレヤーロール51よりも上流側に配置されてもよいし、2番目のレヤーロール51よりも搬送方向下流側に配置されてもよい。
【0053】
ガス濃度計55は、Oガス濃度、SOガス濃度、又はHOガス濃度などを測定する。ガス濃度計55は、第1ガス吐出ノズル53の隣に設けられ、例えば第1ガス吐出ノズル53の下方に設けられる。ガス濃度計55によって第1ガス吐出ノズル53の周辺で所望のガス濃度を検知でき、ガス濃度が許容範囲に収まるようにガス流量を調節できる。図示しないが、ガス濃度計55の隣には、圧力計が設けられてもよい。圧力計は、第1ガス吐出ノズル53の周辺の圧力を測定する。
【0054】
ところで、ドロスボックス3の内部においてガラスリボンGの上面とドレープ40との隙間が狭いと、ドロスボックス3の内部から徐冷炉4の内部に還元性ガスが勢いよく流入することがある。還元性ガスは、ガラスリボンGの上面に沿って流入する。
【0055】
従来、流入した還元性ガスが、ガラスリボンGの上方から下方に回り込み、第1ガス吐出ノズル53の周辺まで到達していた。その結果、酸化硫黄ガスの流れが乱れる、あるいはガス吐出ノズル周辺の酸素濃度が低下するなどの問題があった。それゆえ、緩衝膜の形成が妨げられ、ガラスリボンの下面に傷が発生しやすかった。
【0056】
ガス吸引ノズル56は、側壁部521、522から内側に差し込まれ、ガラスリボンGの搬送経路の上方にてガスを吸引する。ガス吸引ノズル56は、本実施形態では下方のガスを上方に吸引するが、側方のガスを側方に吸引してもよい。なお、ガス吸引ノズル56は、一対の側壁部521、522のいずれか一方のみに設けられてもよい。
【0057】
ガス吸引ノズル56は、ガラスリボンGの搬送方向に、第1ガス吐出ノズル53よりも上流側に配置される。なお、ガス吸引ノズル56は、ガラスリボンGの搬送方向に、第1ガス吐出ノズル53と同じ位置に配置されてもよい。
【0058】
本実施形態によれば、ガス吸引ノズル56が、ガラスリボンGの搬送方向に、第1ガス吐出ノズル53よりも上流側に配置されるか、第1ガス吐出ノズル53と同じ位置に配置され、ガラスリボンGの上面に沿って流れる還元性ガスを上方に吸引する。それゆえ、還元性ガスが第1ガス吐出ノズル53の周辺まで到達するのを制限でき、緩衝膜の形成が阻害されるのを抑制でき、ガラスリボンの品質を向上できる。
【0059】
本開示の技術とは別の技術として、炉体52の天井部523に開口部を設け、その開口部から炉体52の外部に還元性ガスを排出することも考えられる。但し、天井部523に開口部を設けると、天井部523の断熱性が低下してしまう。その結果、ガラスリボンGが開口部の下で急激に冷却されてしまい、ガラスリボンGに大きな残留応力が生じてしまう。
【0060】
本実施形態によれば、天井部523に開口部を設けずに、側壁部521、522の小さな開口部にガス吸引ノズル56を差し通す。それゆえ、炉体52の断熱性の低下を抑制でき、ガラスリボンGの急激な温度低下を抑制でき、ガラスリボンGに生じる残留応力を小さくできる。
【0061】
ガス吸引ノズル56は、ガラスリボンGの温度が歪点以上である領域の真上に配置されてもよい。徐冷炉5の比較的上流側で、ドロスボックス3から流れ込んだ還元性ガスを、ガス吸引ノズル56によって吸引できる。よって、還元性ガスが拡散する前に、還元性ガスを炉体52の外部に排出できる。
【0062】
ガス吸引ノズル56は、例えば、ガラスリボンGの搬送方向の上流側から下流側に向けて1番目のレヤーロール51よりも上流側に配置される。徐冷炉5の最上流で、ドロスボックス3から流れ込んだ還元性ガスを、ガス吸引ノズル56によって吸引できる。よって、還元性ガスが拡散する前に、還元性ガスを炉体52の外部に排出できる。
【0063】
ガス吸引ノズル56は、一対の側壁部521、522の各々からガラスリボンGの搬送経路の上方までY軸方向に延びており、下方のガスを上方に吸引する。ガス吸引ノズル56は、下方のガスを、真上又は斜め上に吸引する。ガス吸引ノズル56は、ガスを吸引する吸引口56aを含む。
【0064】
例えば、上方から見たときに、一のガス吸引ノズル56の吸引口56aは、少なくともガラスリボンGの幅方向一端Gaに重なり、ガラスリボンGの幅方向一端Gaから幅方向外側に延びていてもよい。また、上方から見たときに、別のガス吸引ノズル56の吸引口56aは、少なくともガラスリボンGの幅方向他端Gbに重なり、ガラスリボンGの幅方向他端Gbから幅方向外側に延びていてもよい。
【0065】
ドロスボックス3の内部の還元性ガスは、リフトアウトロール31とドレープ40の隙間を通り、徐冷炉5の内部に流れ込む。このとき、ガラスリボンGの幅方向外側には、ガラスリボンGが存在しないので、隙間の大きさが大きく、還元性ガスの流れが形成されやすい。
【0066】
上方から見たときに、一のガス吸引ノズル56の吸引口56aがガラスリボンGの幅方向一端Gaから幅方向外側に延びていれば、ガラスリボンGの幅方向外側を流れる還元性ガスを効率的に吸い取ることができる。同様に、上方から見たときに、別のガス吸引ノズル56の吸引口56aがガラスリボンGの幅方向他端Gbから幅方向外側に延びていれば、ガラスリボンGの幅方向外側を流れる還元性ガスを効率的に吸い取ることができる。
【0067】
なお、上方から見たときに、一のガス吸引ノズル56の吸引口56aがガラスリボンGの幅方向一端から幅方向中心まで延びており、別のガス吸引ノズル56の吸引口56aがガラスリボンGの幅方向他端から幅方向中心まで延びていてもよい。ガラスリボンGの幅方向全体に亘って、還元性ガスを吸い取ることができる。
【0068】
ガス吸引ノズル56は、本実施形態では下方のガスを上方に吸引するが、側方のガスを側方に吸引してもよい。この場合、例えば、上方から見たときに、一のガス吸引ノズル56の吸引口56aがガラスリボンGの幅方向一端に向けて対向配置され、ガラスリボンGの幅方向外側を流れる還元性ガスを吸い取ってもよい。下方のガスを上方に吸引するガス吸引ノズル56と、側方のガスを側方に吸引するガス吸引ノズル56とが両方用いられてもよい。
【0069】
エジェクタ57は、ガス吸引ノズル56の吸引量を調節する。ガス吸引ノズル56の吸引量を調節することで、第1ガス吐出ノズル53の周辺で各種ガス濃度を許容範囲内に収めることができる。ガス吸引ノズル56の吸引量は、ガス濃度計55の測定結果に基づき制御されてもよい。
【0070】
鉛直管58は、一対の側壁部521、522の外側において、ガス吸引ノズル56の一端から上方に延びる。ガス吸引ノズル56によって吸引されたガスは、鉛直管58を上昇する過程で冷却される。鉛直管58の下側から上側に向かうほど、ガスの温度が低い。ガスの温度差によって鉛直管58の内部に上昇気流を形成でき、ガス吸引ノズル56にガスを効率的に引き込むことができる。また、鉛直管58がガス吸引ノズル56の一端からX軸方向に延びる場合に比べて、炉体52の横に作業員が作業するスペースを確保しやすい。
【0071】
エジェクタ57は、鉛直管58の下端に設けられ、上方に圧縮空気などのガスを吐出するエジェクタノズル57aを含む。エジェクタノズル57aから吐出されるガスによって鉛直管58の内部に形成される上昇気流の上昇速度を高めることができ、ガス吸引ノズル56にガスをより効率的に引き込むことができる。
【実施例
【0072】
以下、実験データについて説明する。下記の例1が比較例であり、例2~例4が実施例である。例1~例4では、図1及び図2に示すフロートガラス製造装置1を用いて、表1に示す条件でフロートガラスを製造した。例1~例4では、ガス吸引ノズル56によるガスの吸引量(単位:Nm/h)を除き、同じ条件でフロートガラスを製造した。例えば、第1ガス吐出ノズル53の吐出量(単位:NL/min)、及び第2ガス吐出ノズル54の吐出量(単位:NL/min)は、例1~例4で同一に設定した。
【0073】
【表1】
表1において、ガス吸引ノズル56の吸引量、Oガス濃度、SOガス濃度、HOガス濃度、及び圧力を、相対値で示す。なお、Oガス濃度(単位:体積%)、SOガス濃度(単位:体積ppm)、HOガス濃度(単位:g/cm)は、ガス濃度計55により測定した。また、圧力(単位:Pa)は、大気圧との差圧であって、ガス濃度計55の隣の圧力計により測定した。
【0074】
表1に示すように、例1ではガス吸引ノズル56によってガスを吸引しなかったのに対し、例2~例4ではガス吸引ノズル56によってガスを吸引した。その結果、例2~例4では、例1に比べて、第1ガス吐出ノズル53の周辺で、Oガス濃度、及びSOガス濃度が高く、HOガス濃度が低かった。
【0075】
ドロスボックス3の内部から徐冷炉5の内部に還元性ガスが流れ込み、還元性ガスに含まれるHガスが第1ガス吐出ノズル53の周辺まで到達すると、HガスとOガスが反応し、HOガスが生成される。その結果、第1ガス吐出ノズル53の周辺で、HOガス濃度が増加し、Oガス濃度が低下する。
【0076】
表1の結果から、ガス吸引ノズル56によってガスを吸引すれば、ドロスボックス3の内部から徐冷炉5の内部に流入した還元性ガスが第1ガス吐出ノズル53の周辺まで到達するのを制限できることが分かる。
【0077】
また、表1の結果から、ガス吸引ノズル56の吸引量を増やすほど、Oガス濃度、及びSOガス濃度を高くでき、HOガス濃度を低くできることが分かる。なお、例4において、圧力が低いのは、ガス吸引ノズル56による吸引量が大きかったためである。
【0078】
以上、本開示に係るフロートガラス製造装置、及びフロートガラス製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0079】
1 フロートガラス製造装置
2 フロートバス
3 ドロスボックス
5 徐冷炉
51 レヤーロール
521、522 側壁部
523 天井部
53 第1ガス吐出ノズル(ガス吐出ノズル)
56 ガス吸引ノズル
M 溶融金属
G ガラスリボン
図1
図2