IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特許7593264刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム
<>
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図1
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図2
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図3
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図4
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図5
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図6
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図7
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図8
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図9
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図10
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図11
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図12
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図13
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図14
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図15
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図16
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図17
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図18
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図19
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図20
  • 特許-刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システム
(51)【国際特許分類】
   D05B 19/12 20060101AFI20241126BHJP
   D05B 47/04 20060101ALI20241126BHJP
   D05B 67/00 20060101ALI20241126BHJP
   D05C 5/02 20060101ALI20241126BHJP
   D05C 11/12 20060101ALI20241126BHJP
   D05C 11/24 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
D05B19/12
D05B47/04 B
D05B67/00
D05C5/02
D05C11/12
D05C11/24
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021131098
(22)【出願日】2021-08-11
(65)【公開番号】P2022058181
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2020166547
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 健人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 康信
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-304359(JP,A)
【文献】特開2009-273675(JP,A)
【文献】特表2018-525548(JP,A)
【文献】特開2008-289521(JP,A)
【文献】特表2018-520836(JP,A)
【文献】特開昭52-21488(JP,A)
【文献】特開昭60-40093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 19/12
D05B 47/04
D05B 67/00
D05C 5/02
D05C 11/12
D05C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針へ送られる糸を加圧しながら搬送する搬送ローラと、
刺繍中の糸の色を検知する、前記針の近傍に設けられる検知手段と、
布に対して前記針が何回縫ったかのステッチ数と前記検知手段が検知した糸の色に基づいて、前記搬送ローラの圧力又は搬送速度を調整する、ローラ制御部と、を備える
刺繍装置。
【請求項2】
前記検知手段は、カラーレーザーセンサであり、
前記布に対して針が刺さる針落ちタイミングで、前記ステッチ数と、前記針の針穴の位置にある前記糸の色を同時に検知する
請求項1に記載の刺繍装置。
【請求項3】
前記検知手段は、色を検知する光学式センサと、前記ステッチ数を検知するステッチセンサとを備え、
前記ステッチセンサが検知した前記布に対して針が刺さる針落ちタイミングで、前記光学式センサが糸の色を検知することで、前記ステッチ数と、前記針の針穴の位置にある前記糸の色を同時に検知する
請求項1に記載の刺繍装置。
【請求項4】
前記搬送ローラは、糸を挟み込んで搬送するニップローラである
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の刺繍装置。
【請求項5】
前記ローラ制御部は、
予め入力された刺繍イメージを基にした刺繍データと、前記ステッチ数から得られる、刺繍動作における、糸の想定消費量を予測する糸消費量予測部と、
検知した前記ステッチ数と、前記糸の色の検知タイミングから得られる、刺繍動作における糸の実際の消費量を算出する糸消費量算出部と、
予測した前記糸の想定消費量と検知・算出した実際の糸の消費量との差と、糸の張力の補正量との相関を予め記憶しておく相関記憶部と、
前記糸の想定消費量と前記実際の糸の消費量との差に基づいて、前記ニップローラの圧力を調整して、前記ニップローラに挟まれる糸の張力を調整する張力調整部と、を有する
請求項4に記載の刺繍装置。
【請求項6】
前記張力調整部は、
色変化までの前記実際の糸の消費量が、色変化までの前記糸の想定消費量よりも多い場合は、前記ニップローラに挟まれる糸の張力を弱め、
色変化までの前記実際の糸の消費量が、色変化までの前記糸の想定消費量よりも少ない場合は、前記ニップローラに挟まれる糸の張力を強める
請求項5に記載の刺繍装置。
【請求項7】
前記ローラ制御部は、
予め入力された刺繍イメージを基にした刺繍データと、前記ステッチ数から得られる、刺繍動作における、糸の想定消費量を予測する糸消費量予測部と、
検知した前記ステッチ数と、前記糸の色の検知タイミングから得られる、刺繍動作における糸の実際の消費量を算出する糸消費量算出部と、
予測した前記糸の想定消費量と検知・算出した実際の糸の消費量との差と、糸の搬送速度の補正量との相関を予め記憶しておく相関記憶部と、
前記糸の想定消費量と前記実際の糸の消費量との差に基づいて、前記搬送ローラでの搬送速度を調整する速度調整部と、を有する
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の刺繍装置。
【請求項8】
前記速度調整部は、
色変化までの前記実際の糸の消費量が、色変化までの前記糸の想定消費量よりも多い場合は、前記搬送ローラの搬送速度を速くし、
色変化までの前記実際の糸の消費量が、色変化までの前記糸の想定消費量よりも少ない場合は、前記搬送ローラの搬送速度を遅くする
請求項7に記載の刺繍装置。
【請求項9】
前記相関記憶部では、複数の糸種それぞれの糸種毎に、補正量との相関を予め記憶しておく
請求項5乃至8のいずれか一項に記載の刺繍装置。
【請求項10】
色が変化する連続した糸を用いて布上にテストパターンを作成し、
前記検知手段が、前記テストパターンの、前記ステッチ数と、糸の色の位置を検知することで、前記糸の消費速度と、前記糸の張力の補正量との相関テーブル又は相関算出式を設定して、前記相関記憶部に記憶しておく
請求項5乃至9のいずれか一項に記載の刺繍装置。
【請求項11】
変化する色で糸を染色する染色装置と、
前記染色装置の後段に設けられる、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の刺繍装置と、を備える
染色・刺繍システム。
【請求項12】
変化する色で糸を染色する染色部を有する染色ユニットと、
前記染色部によって染色され、針へ送られる糸を加圧しながら搬送する搬送ローラと、
刺繍中の糸の色を検知する、前記針の近傍に設けられる検知手段を有し、前記搬送ローラから送られる前記糸を用いて、布に刺繍を行う刺繍ユニットと、
布に対して前記針が何回縫ったかのステッチ数と、前記検知手段が検知した糸の色に基づいて、前記搬送ローラの圧力又は搬送速度を調整するローラ制御部と、を備える
染色・刺繍装置。
【請求項13】
糸を染色する染色装置と、
前記染色装置によって染色された糸を用いて、布に刺繍を行う刺繍装置と、を備える、染色・刺繍システムであって、
前記染色装置は、
変化する色で糸を染色する染色部と、
前記染色部によって染色された糸を加圧しながら搬送する搬送ローラと、を備え、
前記刺繍装置は、布に対して針が何回縫ったかのステッチ数と、刺繍中の糸の色を検知する、前記針の近傍に設けられる検知手段を備え、
布に対して前記針が何回縫ったかのステッチ数と、前記検知手段が検知した糸の色に基づいて、前記搬送ローラの圧力又は搬送速度を調整するローラ制御部が、前記染色装置、前記刺繍装置、又は当該染色・刺繍システムに接続される上位制御装置に搭載されている
染色・刺繍システム。
【請求項14】
前記染色装置は、
前記染色部によって染色された糸に対する加熱乾燥処理を行う、定着部を有し、
前記搬送ローラは、前記定着部よりも糸搬送方向の下流側に位置している
請求項13に記載の染色・刺繍システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍装置、染色・刺繍装置、及び染色・刺繍システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インライン型の装置における刺繍機の前段において、糸に対して染色(着色)する技術が知られている。
【0003】
例えば、刺繍装置の制御技術として、特許文献1では、色が変化する連続した上糸を用いて、上糸の色の変わり目が刺繍表面に露出しないように刺繍するために、上糸の色が変化する色の変わり目を、上面側から見えないように刺繍する刺繍データが組まれている。この技術では、刺繍装置において針の位置を検出することで、刺繍の進行状況から上糸の実際の消費速度を算出し、刺繍装置で発生する上糸の消費の速度変動に応じて、刺繍を調整している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、染色データによる糸の色の変わり目の推定位置と、刺繍装置内における実際の糸における色の変わり目の位置とを合わせることは可能である。しかし、染色部から刺繍部に送られる間の、糸の染色中、その後の色定着中、又は染色後の搬送中に糸の伸びや縮みが発生した場合、あるいは刺繍した布の縫い目における上糸と下糸との引き合いのバランスが変化した場合に、染色データで設定された糸の色の変わり目の位置と、刺繍装置の針に到達した際の糸における色の変わり目の実際の位置とがずれてしまうことがある。
【0005】
そのため、特許文献1のように色の変わり目が見えないように刺繍データを設定しても、染色中又は染色後に上糸が伸縮したり、上糸と下糸の張力バランスが変動して上糸の送り量に誤差が生じたりすると、結果として針に到達する時点では上糸の色の変わり目の位置がずれてしまう。この状態で刺繍を続けると、布上の刺繍領域において上糸の色の変わり目が上面側に露出したり、さらには刺繍領域における色の境界位置が変わって刺繍模様の画が崩れてしまうことが考えられる。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、糸が針に到達するまでに発生する糸の伸縮や、縫い目における上糸と下糸との張力バランスに起因する、糸の色の位置ずれの発生を抑制する刺繍装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では、
針へ送られる糸を加圧しながら搬送する搬送ローラと、
刺繍中の糸の色を検知する、前記針の近傍に設けられる検知手段と、
布に対して前記針が何回縫ったかのステッチ数と前記検知手段が検知した糸の色に基づいて、前記搬送ローラの圧力又は搬送速度を調整する、ローラ制御部と、を備える、
刺繍装置、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、刺繍装置において、糸が針に到達するまでに発生する糸の伸縮や、縫い目における上糸と下糸との張力バランスに起因する、糸の色の位置ずれの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る刺繍装置の概略図。
図2図1の刺繍装置の概略ブロック図。
図3】布に対する上糸と下糸の上面側と下面側の縫い目の例を示す模式図。
図4】布に対する上糸と下糸による縫い目の複数の状態の断面模式図。
図5】本発明の検知手段の説明図。
図6】本発明のニップローラの調整の模式図。
図7】第1制御例に係る刺繍装置の制御部分の機能ブロック図。
図8】第1制御例のフローチャート。
図9】第1制御例で使用される糸の消費量と糸張力の補正用の相関テーブルの一例。
図10】第2制御例に係る刺繍装置の制御部分の機能ブロック図。
図11】第2制御例のフローチャート。
図12】第2制御例で使用される糸の消費量と、搬送速度の補正用の相関テーブルの一例。
図13】第3制御例に係る刺繍装置の制御部分の機能ブロック図。
図14】第3制御例のフローチャート。
図15】第3制御例で使用される補正用の糸の搬送速度と糸張力の相関テーブルの一例。
図16】相関テーブルを作成するために検知するテストパターンの例(その1)。
図17】相関テーブルを作成するために検知するテストパターンの例(その2)。
図18】本発明の第2実施形態に係る、染色・刺繍装置の概略図。
図19】本発明の第3実施形態に係る染色・刺繍システムの側面概略図。
図20】本発明の第4実施形態に係る染色・刺繍システムの側面概略図。
図21】第4実施形態の染色・刺繍システムの概略ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
<第1実施形態>
まず、図1図2を用いて刺繍装置1について説明する。図1は、本発明の第1実施形態における刺繍装置1の概略図である。図2は、本発明の第1実施形態における刺繍装置1の概略ブロック図である。
【0012】
図1に示す刺繍装置1は、針11と、下糸回転体12と、ステージ13と、上糸糸巻14と、検知手段17と、ニップローラ18と、刺繍ヘッド10を有している。
【0013】
針11は、針先先端の針穴に上糸Nが通されており、布Cに対して上下方向に移動駆動可能である。
【0014】
下糸回転体12は、下糸Bが巻回された下糸供給手段である下糸ボビン121と、フック122を有しており、下糸ボビン121およびフック122は、針11の移動に連動して回転する。図示はしていないが、下糸回転体12には、下糸ボビン121を収容する円筒状の中釜や、有底円筒上の外釜、フック122と一体化した円筒体のケースなども設けられている。なお、図1では、下糸ボビン121は、回転方向が縦方向の垂直回転方式(垂直全回転釜方式、垂直半回転釜方式)の例を示しているが、下糸ボビン121は、回転方向が横方向の水平回転方式(水平釜方式)であってもよい。
【0015】
ステージ13は、布Cを保持する台であり、針11が通る穴130が形成されている。ステージ13は、布送りのためにX方向、Y方向に移動可能である。
【0016】
以降において、刺繍装置1の幅方向をX、刺繍装置1の奥行き方向をY、高さ方向(上下方向)をZと呼ぶ。
【0017】
上糸糸巻14は、上糸Nが巻回されており、針11に上糸Nを供給する上糸供給手段である。本実施形態では、上糸糸巻14から供給される上糸Nには、搬送方向に変化する色が予め付与されている。
【0018】
検知手段17は、(1)針11の上下運動及び(2)糸の色を、同時に検知するセンサであって、針11の近傍である、例えば刺繍ヘッド10に設けられている。検知手段17は、針11が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知するとともに、針11の針穴の位置にある糸の色を同時に検知する。例えば、検知手段17は、布Cに対して針11が刺さる針落ちタイミングで、ステッチ数と、針11の針穴の位置にある糸Nの色を同時に検知する。
【0019】
ニップローラ18は、上糸糸巻14から供給され、針11へ送られる上糸Nを、加圧しながら搬送する搬送ローラ(加圧搬送ローラ)である。なお、刺繍装置1において、上糸Nを搬送する手段としてニップローラ18の他にも、ローラ101等の他のローラが設けられていてもよい。
【0020】
刺繍ヘッド10は、針11を上下に駆動する針上下駆動部193と、演算機構16(図2参照)が設けられており、上糸Nが通る針11の動き(運針)、及びステージ13の移動を制御することで、上糸Nと、上糸Nの送りに応じて送られる下糸Bを用いて、布Cに刺繍を行う。
【0021】
また、本発明において、上糸及び下糸を含む「糸」とは、ガラス繊維糸、ウール糸、綿糸、合成糸、金属糸、ウール、綿、ポリマー、または金属の混合糸、ヤーン、フィラメント、あるいは液体を付与可能な線状部材(連続基材)であり、組紐、平紐なども含んでいる。
【0022】
また、図2を参照して、刺繍装置1は、駆動制御に係る部分として、刺繍データ作成部15と、演算機構16と、駆動ドライバ191と、駆動モータ192と、針上下駆動部193と、下糸回転駆動部194と、X軸駆動部195と、Y軸駆動部196と、を有している。このうち、少なくとも、検知手段17と、駆動ドライバ191と、駆動モータ192と、針上下駆動部193は、針11の上側の刺繍ヘッド10内に内蔵され又は刺繍ヘッド10に取り付けられている。また、点線で示すように刺繍データ作成部15と、演算機構16も刺繍ヘッド10内に内蔵されていてもよい。
【0023】
刺繍データ作成部15は、刺繍データの元となる刺繍イメージ(刺繍ファイル)を取得して、刺繍イメージを基に刺繍データを作成し、演算機構16と、駆動ドライバ191に出力する。
【0024】
ここで、刺繍イメージとは、布上の刺繍模様の原稿となる画像データ(画像情報、刺繍デザインデータ)である。本実施形態の刺繍データ作成部15は、刺繍イメージを色ごと(RGB値)に分解し、色が変化するように予め染色された糸の色位置を考慮して、布上に刺繍模様を実現させるように、縫い順を設定して、布上に縫目を形成させる刺繍データを作成する。
【0025】
また、刺繍データとは、「針を移動する座標のデータと、その座標で実施する事項(その位置で何をするか)を組み合わせたデータ(ペアになったデータ)」である。その座標で実施する事項は、具体的には、
(1)針を布に刺して下糸とからめ、再び布の表に針を戻して、その後次に針を刺すべき位置に移動すること、
(2)刺繍を終了、中断する(他の針に切り替えること・刺繍が連続しない離れた場所へ移動するために糸を切断することを含む)こと、
(3)イニシャライズ位置(位置合わせ位置)に移動すること、
等が含まれる。また、刺繍データのファイルとしては「.dst」、「.pes」等の形式が一般に知られている。
【0026】
演算機構16は、刺繍データを基に上糸の想定消費量を算出するとともに、検知手段17で検出した何針進んだかの進行状況と、色の検知タイミングを参照して、必要に応じてニップローラ18の加圧力又は搬送速度を調整するための制御信号を、ローラ加圧部183又は回転モータ187に出力する。
【0027】
そして、下記第1制御例、第3制御例を実行する場合は、ローラ加圧部183は、ニップローラ18の加圧力を調整することで、ニップに挟まれる糸の張力を調整する。あるいは、下記第2制御例、第3制御例を実行する場合は、回転モータ187の回転速度を調整することで、ニップローラ18による糸Nの搬送速度を調整する。
【0028】
駆動ドライバ191は、刺繍データに基づいて駆動モータ192を駆動制御する。
【0029】
針上下駆動部193は、所謂天秤と呼ばれ、駆動モータ192に連結する上軸の回転運動を上下運動に変換することで、上糸Nが通された針11の上下の移動を駆動する。
【0030】
下糸回転駆動部194は、上記上軸と、ベルト・カム・クランクを介して連結した下軸の回転運動によって、針11の上下運動と連動して、下糸回転体12を回転させる。
【0031】
X軸駆動部195と、Y軸駆動部196は、ステージ移動駆動部(布送り部)であって、下軸の回転運動によって、針11の上下運動及び下糸回転体12の回転と連動して、布Cが載置されたステージ13のX方向、Y方向の移動を駆動する。この際、布Cを送る方法として、ステージ13の全体を移動させてもよいし、あるいは、ステージ13に形成された穴13Oに設けられた送り歯を移動させてもよい。
【0032】
針上下駆動部193と、下糸回転駆動部194と、X軸駆動部195と、Y軸駆動部196は、1つの駆動モータ192によって連動して駆動される駆動機構となる。そのため、駆動モータ192の回転により、針11の上下運動、下糸回転体12の回転運動、ステージ13上の布CのXY移動が発生する。例えば、針11の1回の上下運動は、下糸回転体12の、1又は整数回の回転運動と連動している。
【0033】
(上糸と下糸の張力)
図3は、布に対する上糸と下糸の上面側と下面側の縫い目の例を示す模式図である。図3において(a)は上面図であり、(b)は下面図である。図4は、布上の縫い目における上糸と下糸のバランスを説明する図である。図4において(a)は上糸と下糸の張力バランスが適正の場合、(b)は上糸の張力が大きい場合、(c)は上糸の張力が小さい場合を示す。
【0034】
刺繍装置1において、針11が降下して針11が布Cを貫通するとき、上糸Nも針11と共に布Cの裏側に引き込まれる。その後、針11が上昇して布Cから抜かれて布Cの表側に戻るときには、布Cとの間の摩擦力により、上糸Nは布Cの裏側にループを作って残る。このとき、下糸回転体12の回転によってループ状の上糸Nに、フック122が引っかかり、上糸Nのループの中に下糸Bが通る。さらに、針11が布Cの上方に上昇する際に、上糸Nと下糸Bとが交わった位置を、布Cまで引き上げることで、布C上に縫い目が形成される。
【0035】
このように形成した縫い目の一例を、図3に示す。図3は、上から下へ面を埋めるように模様縫い(サテンステッチ)で刺繍した縫い目の拡大図である。なお、裏面の図3(b)では糸の関係をわかりやすく説明するため、点線で囲んだ上糸Nと下糸Bとの引っ掛かり部分を緩く示しているが、実際は、引っ掛かり部分は上糸Nと下糸Bは接触して互いに引き合っている。
【0036】
図4は、図3の一点鎖線で示す領域の断面図である。図3の縫い目の断面において、上糸と下糸の張力バランスが適正の場合は、図4(a)に示すような断面となる。
【0037】
このように形成した縫い目において、上糸Nの張力が大きい場合、図4(b)に示すように上糸Nが下糸Bを引くため、図4(a)の適正バランスの場合と比較して、上糸Nの布Cの裏側への回り込み量が少なくなる。即ち、裏面側における、下糸の長さBLが長く、上糸の長さNLが短くなる。そのため、上糸の張力が大きい状態が続くと、上糸の消費量(使用量)が予測よりも少なくなり、上糸Nの消費速度が遅くなる。
【0038】
一方、上糸の張力が小さい場合、図4(c)に示すように上糸Nが下糸Bに引かれるため、図4(a)の適正バランスの場合と比較して、上糸Nの布Cの裏側への回り込み量が多くなる。即ち、裏面側における、下糸の長さBLが短く、上糸の長さNLが長くなる。そのため、上糸の張力が小さい状態が続くと、上糸Nの消費量が予測よりも多くなり、上糸Nの消費速度が速くなる。
【0039】
このように、上糸Nの消費速度は布Cの裏への回り込み量に左右される。図4(b)や図4(c)のように回り込み量が予測から異なる状況で、刺繍を続けていくうちに上糸の消費の予測量と、累積で消費される糸量に大きく差が出てくる。上糸の色に合わせて糸の消費が設定されるため、又は上糸の染色は糸消費量の予測位置に対して行うため、色付きの糸が正しい位置に配置されないと、刺繍後の色の位置がずれ、上糸の色の変わり目が上面側に露出したり、布上の刺繍模様の画が崩れたりしてしまう。
【0040】
そこで本発明では、色変化位置までの上糸の消費量を検知し、予測されていた色変化位置までの消費量との差を小さくするように、上糸の張力又は上糸の搬送速度を調整することによって糸消費量の調整を行う。
【0041】
上糸Nの消費量の差の検知方法としては、実際に検知した検知情報を基にした実際の上糸消費量と、刺繍データから予測される糸想定消費量とを、刺繍がどこまで進んだのかという情報(検知手段17から算出される座標位置情報)を参照しながら、比較する。
【0042】
(検知手段)
図5は、本発明の検知手段の説明図である。なお、図5では、刺繍ヘッド10、下糸回転体12は、省略している。図5において、(a)は一体型の検知手段17の例を示し、(b)は別体型が検知手段17Aの例を示す。
【0043】
図5(a)に示す検知手段17は、例えば、カラーレーザーセンサである。カラーレーザーセンサは、光を投光部から発射し、検出物体によって反射する光を受光部で検出する光電センサの一種である。カラーレーザーセンサは、赤色、青色、緑色のそれぞれの受光量を検知することができるため、対象物の色(針と糸の色)を判別することが可能である。
【0044】
検知手段17は、図5(a)に示すように、布Cに対して針Nが刺さる針落ち位置を対象物の照射範囲としており、針11が布Cに刺さる瞬間に、その時間と色とを検出する。これにより、検知手段17は、針落ち回数をカウントすることでステッチ数を検知できるとともに、布に対して縫い目(ステッチ)の形成に使用されるタイミングでの、糸の色を同時に検知することができる。
【0045】
あるいは、1つのカラーレーザーセンサで構成される検知手段17を色の検知のみに使用し、刺繍データを基に駆動する駆動ドライバ191から、現在位置に対応するステッチ数を呼び出して、布Cに対して針11が刺さる針落ちタイミングで、カラーレーザーセンサ171が色を検知し、後段の演算機構16で、ステッチ数と糸の色とを対応づけてもよい。
【0046】
図5(b)に示す別体型の検知手段17Aは、ステッチ数を数える手段と、糸の色を検知する手段は別の検知手段によって、実現される。糸の色を検知する手段(第1の検知手段)は、上記検知手段17と同様に、カラーレーザーセンサ等の光学式センサ171であって、少なくとも糸の色が検知可能なセンサである。
【0047】
本構成では、ステッチ数を数える手段(第2の検知手段)として、ステッチセンサ172が設けられている。ステッチセンサ172は、針11の上下運動を検知するセンサであって、例えば針11を保持する針棒に設けられ、針11が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知する。
【0048】
検知手段17Aでは、ステッチセンサ172が検知した布Cに対して針11が刺さる針落ちタイミングで、カラーレーザーセンサ171が色を検知することで、ステッチ数と、針の針穴の位置にある糸の色を同時に検知することができる。
【0049】
これらにより、いずれの検知方法を用いても、刺繍動作中において、刺繍に使用される針11における糸の色、特に糸の色の変わり目を、時間的に誤差なくリアルタイムに把握することができる。
【0050】
(ニップローラ)
図6は、本発明のニップローラの調整の模式図である。図6において、(a)は第1制御例に使用されるニップローラ18の模式図であり、(b)は第2制御例、第3制御例に使用されるニップローラ18Aの模式図である。
【0051】
図6(a)に示す例では、ニップローラ18は、対向する加圧ローラ181と、ローラ182とで構成されている対向ローラである。加圧ローラ181は、ローラ加圧部183によって加圧されることで、ローラ182との間に糸Nを加圧しながら挟みこんで、挟み込み領域でニップを形成している。本構成のニップローラ18では、検知手段17によるステッチ数と糸の色の位置に基づいて、ローラ加圧部183による加圧ローラ181の加圧力Pを調整することで、ニップローラ18の圧力、即ちニップに挟まれる糸Nの張力を調整する。
【0052】
なお、図6(a)に示すローラ182は、回転駆動力が付与されない従動ローラである例を示しているが、ローラ182は、回転駆動力を付与される駆動ローラであってもよい。ただし、第1制御例の調整では、ローラ182が駆動ローラであっても、検知手段17の検知結果に応じた搬送速度の調整が行われない。
【0053】
このように張力を調整可能なニップローラ18と、ステッチ数と糸の色の位置を同時に検知する検知手段17とを組み合わせることによって、糸の消費量に合わせて、ニップローラ18から針11への送り量をリアルタイムに調整できるため、大きなずれが発生する前に、糸Nの色のずれの補正を制御できる。
【0054】
図6(b)に示す例では、ニップローラ18Aは、対向する加圧ローラ184と、駆動ローラ185とで構成されている対向ローラである。加圧ローラ184は、ローラ加圧部186によって加圧されることで、駆動ローラ185との間に糸Nを挟みこんで、挟み込み領域でニップを形成している。さらに、本構成例では、駆動ローラ185には、回転駆動力を伝達する回転モータ187が接続されている。
【0055】
本構成のニップローラ18Aでは、検知手段17によるステッチ数と糸の色の位置に基づいて、回転モータ187による駆動ローラ185の回転速度を調整することで、糸の搬送速度(供給速度、速度)を調整する。図6(b)に示すローラ加圧部186は、第2制御例での調整では、加圧力Pは、刺繍動作中は一定値で固定されており、検知手段17の検知結果に応じた調整は行われない。
【0056】
このように搬送速度を調整可能なニップローラ18Aと、ステッチ数と糸の色の位置を同時に検知する検知手段17とを組み合わせることによって、糸の消費量に合わせて、ニップローラ18から針11への送り量をリアルタイムに調整できるため、大きなずれが発生する前に、糸Nの色のずれの補正を制御できる。
【0057】
なお、第3制御例では、場合に応じて、ローラ加圧部183による加圧ローラ181の加圧力Pの調整と、回転モータ187による駆動ローラ185の回転速度の調整を組み合わせて制御する。
【0058】
本発明では、糸の色位置の調整のためのニップローラの調整として3種類の制御方法がある。下記では、それぞれの制御の機能構成について図7図14を用いて説明する。
【0059】
(第1制御例)
図7は、第1制御例に係る刺繍装置の制御部分の機能ブロック図である。刺繍データ作成部15及び演算機構16は、いずれも制御装置であって、例えばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の情報処理装置によって実現される。
【0060】
本制御例の演算機構16では、ステッチ毎糸色予測部601と、糸想定消費量算出部602と、刺繍進行状況把握部603と、糸実際消費量算出部604と、糸消費進行状況算出部605と、張力設定部606と、相関記憶部607とを実行可能に有している。
【0061】
ステッチ毎糸色予測部601は、刺繍データ作成部15から刺繍データを取得し、刺繍データに含まれる、針11が布Cに対して相対的に移動する際の座標のデータとその針のステッチ数(上下運動の回数)とから、座標データにおける移動距離を累積して、そのステッチの針落ちタイミングにおいて、針11の針先に位置する、刺繍に使用される糸の色を予測する。即ち、ステッチ毎の(針の上下回数毎の)、糸色を予測する。そして、刺繍進行状況把握部603からの呼び出しに応じて、ステッチ数に対応づけて予測した糸色を、出力する。
【0062】
糸想定消費量算出部(糸消費量予測部)602は、刺繍データに含まれる、針11のステッチあたりの座標のデータと、刺繍進行状況把握部603から取得したステッチデータ(何針分進んだかというデータ)を基に、現在のステッチデータ時点において、累積して想定される上糸の消費量(消費長さ)を予測する。即ち、ステッチデータに対応づけられた糸想定消費量を算出する。上糸Nの想定消費量は、例えば、縫い目間のステッチが長く、ステージ13上の布Cの移動距離が長い刺繍が続く場合に多くなり、ステッチが短く、ステージ13上の布Cの移動距離が短い刺繍が続く場合に少なくなる。
【0063】
刺繍進行状況把握部603は、検知手段17から出力される何針分進んだか、即ち、現在どのステッチを縫っているのかのデータであるステッチデータ(ステッチ数)をリアルタイムに取得する。さらに、刺繍進行状況把握部603は、検知手段17から出力される、そのステッチにおける針11の針先に位置する糸の色をリアルタイムに取得する。これにより、刺繍データのうちどこまで刺繍をすすめたかという、現在の刺繍位置データ(刺繍データ中の位置)を算出する。
【0064】
即ち、刺繍進行状況把握部603は、そのステッチにおける、刺繍データから算出される狙いの糸色と、検知手段17によって検知された実際の糸色とを比較することで、刺繍データにおける、現在の刺繍位置を算出する。
【0065】
また、糸実際消費量算出部(糸消費量算出部)604は、刺繍進行状況把握部603で算出された刺繍データにおける現在の刺繍位置と、その実際の糸色の検知タイミングを基に、上糸Nの実際の消費量を算出する。
【0066】
ここで検知手段17において、ステッチ毎に毎回色を検知していても、糸色の変化として実際に検知できるのは、糸の色の境界や、マーカーを設けた部分など糸の色の変わり目の位置(糸色変化の位置、色替え位置ともいう)となる。
【0067】
そのため、上糸糸巻14から針11への搬送時に上糸の伸縮が発生していない場合、刺繍開始時には、上糸と下糸が図4(a)のように張力バランスがとれるように設定されると考えると、実際の色の検知タイミングが想定された色の変わり目の検知タイミングと、同時になることで、「実際の色変化までの糸の消費長さ=想定される色変化までの糸の消費長さ」となる。
【0068】
しかし、刺繍開始時には、上糸と下糸が図4(a)のように張力バランスがとれるように設定されても、上糸糸巻14から針11への搬送時に上糸に伸びが発生している場合は、予め付された上糸における色変化位置までの距離が長くなる。または、針を刺すべき位置への移動量が大きい又は中断を多く挟む等で刺繍動作において針に通された上糸を強く引っ張り、上糸と下糸との引き合いにおいて上糸の張力が大きい場合、図4(b)のように縫い目における上糸の回り込み量が減って上糸消費量が減るため、上糸における色変化位置までの距離が長くなる。そのため、このような場合は、実際の色変化までの検知タイミングが、想定された色変化までの検知タイミングよりも遅くなり、「実際の色変化までの糸の消費長さ>想定される色変化までの糸の消費長さ」となる。
【0069】
一方、上糸糸巻14から針11への搬送時に上糸に縮みが発生している場合は、予め付された上糸における色変化位置までの距離が短くなる。または、針を刺すべき位置への移動量が小さく刺繍動作において針に通された上糸の引っ張りが弱く、上糸と下糸との引き合いにおいて上糸の張力が小さい場合、図4(c)のように縫い目における上糸の回り込み量が増えて上糸消費量が増えるため、上糸における色変化位置までの距離が短くなる。そのため、このような場合は、実際の色変化までの検知タイミングが、想定された色変化までの検知タイミングよりも速くなり、「実際の色変化までの糸の消費長さ<想定される色変化までの糸の消費長さ」となる。
【0070】
糸消費進行状況算出部605は、実際の色変化までの糸の消費長さと、想定される色変化までの糸の消費長さとを、比較することで、現在の刺繍が狙いの糸消費に対して進んでいるか遅れているかを判断する。
【0071】
そして、張力設定部(張力調整部)606は、相関記憶部607に記憶された相関データを参照して、消費量の差(ズレ量)に応じて補正した加圧力を設定し、ローラ加圧部183へ制御信号を出力することで、ニップローラ18の圧力であって、ニップローラ18における糸Nへの張力付与量を調整する。
【0072】
例えば、「実際の色変化までの糸の消費長さ>想定される色変化までの糸の消費長さ」の場合、即ち実際の上糸が遅れている場合は、色変化までの糸の領域が伸びている、又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが強く上糸消費量が少ない、ことになる。そのため、ニップローラ18での加圧力を弱め、糸の張力を弱めることで、上糸の供給速度を上げ、縫い目における上糸の回り込み量(送り量)を増やし糸の消費を多くする。
【0073】
一方、「実際の色変化までの糸の消費長さ<想定される色変化までの糸の消費長さ」の場合、即ち上糸が進んでいる場合は、上糸が縮んでいる、又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが弱く上糸消費量が多いことになる。そのため、ニップローラ18での加圧力を強め、張力を強めることで、上糸の供給速度を下げ、縫い目における上糸の回り込み量(送り量)を減らし糸の消費を少なくする。
【0074】
このように、検知して張力を調整することで、検知後の調整までの時間的な遅れを極力発生させずに、色ずれの補正をリアルタイムに制御できる。ここで、本制御例における張力調整のトリガーは、色変化検知のため、例えば、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも長く、予測よりも遅れて色変化を検知したステッチの直後のタイミングで、張力の調整を実施する。
【0075】
一方、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも短く、予測よりも早く色変化を検知した場合は、予測した想定消費長さが色変化に到達するステッチの直後のタイミングで、張力の調整を実施する。
【0076】
なお、上糸糸巻14から針11への搬送時における上糸の伸縮の問題は、上糸糸巻14から針11までの距離が長いほど発生しやすいため、図1に示す第1実施形態の構成よりも、図18図21に示す染色部を含む装置の方が、上糸の伸縮に起因した位置ずれに対する、この制御による効果が出やすい。
【0077】
なお、図7に示す、演算機構16において、刺繍進行状況把握部603を除く部分は、ローラ制御部6となり、後述する第3実施形態において、上位制御装置側に設けることが可能な機能となる。
【0078】
ここで、図8図9を用いて、第1制御例における上糸の消費量と上糸の張力の制御について説明する。図8は、第1制御例のフローチャートである。図9は、第1制御例で使用される糸の消費量と糸張力の補正用の相関テーブルの一例を示す。
【0079】
図8のフローにおいて、まず、ステップS101で、初期値の張力をセットする。
【0080】
ステップS102で、刺繍装置1の演算機構16において刺繍データを読み込む。なお、後述する図18図21に示すように染色部を有する構成の場合は、このタイミングで、染色部は染色データを読み込む。
【0081】
ステップS103で、最初の色変化までの糸の予想消費量(想定消費量)を算出する。詳しくは刺繍装置1では、今回の刺繍位置の前回の刺繍位置からの移動する距離に応じて、1回のステッチあたりの糸の消費量が変化する。そのため、予想される累計糸消費量である予想糸消費量は、変化するステッチの積み重ねとなる。
【0082】
一例として、各ステッチにおける糸消費量が、ステッチ1:0mm、ステッチ2:3mm、ステッチ3:2mm、ステッチ4:1mm、ステッチ5:4mmとすると、予想される累計糸消費量は、ステッチ1まで:0mm、ステッチ2まで:3mm、ステッチ3まで:5mm、ステッチ4まで:6mm、ステッチ5まで:10mmとなる。
【0083】
そして、この例において、予定糸色値を、0~4mmを赤色、5~10mmを青色とすると、刺繍データにおける最初の色変化が5mmの位置にあるため、ステッチ3で最初の色変化があることが予測される。
【0084】
ステップS104で、刺繍動作を開始する。この際、ニップローラ18の1つが駆動ローラ182の場合、デフォルトの送り速度で、刺繍位置へ糸を送る。
【0085】
ステップS105で、検知手段17(17A)によって、刺繍位置の糸の色が変化したことを検出したら、ステップS106で、色変化までの糸の実際の消費量を算出する。
【0086】
そして、ステップS107で、S102で算出した糸の予想消費量(想定消費量)と、S105、S106で、検出、算出した糸の実際の消費量とが一致するかどうか、比較するとともに、差異量を検出する。
【0087】
例えば、上記例において、ステッチ3で赤色が検出され、ステッチ4以降で青色となる色変化が検出された場合は、実際の上糸の消費量が予想よりも遅れている。反対に、ステッチ2以前で青色となる色変化が検出された場合は、実際の上糸の消費量が予想よりも進んでいる。
【0088】
ステップS107で、糸の予想消費量と糸の実際の消費量とが一致しない場合(糸の予想消費量≠糸の実際の消費量)は、ステップS108で、糸の予想消費量と、糸の実際の消費量との差(ズレ量、差分量)に応じて、張力値であるニップ圧を調整し、上糸の張力を調整する。
【0089】
ここで、S108で、張力値を設定する際、図9に示す相関テーブルを参照する。図9に示すように、実際の色変化までの糸の消費長さが、予測よりも長い場合は、現在の刺繍が狙いの糸消費に対して遅れているため、糸の張力を現在値に対して弱めるような補正値に設定する。
【0090】
一方、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも短い場合は、現在の刺繍が狙いの糸消費(糸の想定消費量)に対して進んでいるため、糸の張力を現在値に対して強めるような補正値に設定する。
【0091】
この際、糸の種類に応じて、糸の張力の補正量をそれぞれ設定すると好適である。例えば、太い糸(糸種2)の場合は、張力の変化を大きくし、細い糸(糸種1)の場合は張力の変化を小さくする。
【0092】
なお、図9では、相関記憶部607で記憶させる相関関係の一例として、相関テーブルを示したが、相関方程式等の他の相関関係であってもよい。また、図9に示すような糸種に応じた相関テーブルを、さらに、温度や湿度に応じて異なるものを用意してもよい。
【0093】
このように、S108で糸の張力値を調整し、その調整された張力値で、ローラ加圧部183でニップローラ18のニップ圧を制御することで、上糸の張力を調整する。
【0094】
一方、S107で糸の予想消費量と糸の実際の消費量とが一致する場合、初期値の張力もまま、刺繍動作を続行し、ステップS109へ進む。
【0095】
ステップS109では、刺繍データにおいて、上糸に次の色変化の予定があるか確認する。S109でYESの場合は、ステップS110で次の色変化までの糸の予想消費量(想定消費量)を算出する。
【0096】
その後、刺繍動作を続け、ステップS105に戻って、再び検知手段17(17A)によって、刺繍位置の糸の色が変化したことを検出したら、次の色変化がなくなるまで、S105~S110の工程を繰り返す。
【0097】
ステップS109で、刺繍データにおいて、上糸に次の色変化の予定がなくなったら(NO)、そのまま刺繍データが終了するまで刺繍を続けて、刺繍データの終了に伴って刺繍を終了する。
【0098】
(第2制御例)
図10は、第2制御例に係る刺繍装置の制御部分の機能ブロック図である。
【0099】
本制御例の演算機構16Aでは、ステッチ毎糸色予測部601と、糸想定消費量算出部602と、刺繍進行状況把握部603と、糸実際消費量算出部604と、糸消費進行状況算出部605と、回転速度設定部608と、相関記憶部609とを実行可能に有している。下記では、第1制御例との相違点のみ説明する。
【0100】
本制御例では、ニップローラ18Aの調整として、駆動ローラ185の回転速度の調整を行う。そのため、回転速度設定部(速度調整部)608は、相関記憶部609に記憶された相関データを参照して、糸消費量の予測からの差(ズレ量)に応じて回転速度を補正するように設定する。そして、設定した回転速度で駆動ローラ185を回転駆動するために、回転モータ187に制御信号を出力することで、糸Nの搬送速度を調整する。
【0101】
図11図12を用いて、第2制御例における上糸の消費量と上糸の供給速度の制御について説明する。図11は、第2制御例のフローチャートである。図12は、第3制御例で使用される糸の消費量と搬送速度の補正用の相関テーブルの一例である。
【0102】
図11のフローについて、図8との相違点のみ説明する。本制御例では、ステップS207で、糸の予想消費量と、糸の実際の消費量とが一致しない場合、ステップS208で糸の予想消費量(想定消費量)と、糸の実際の消費量との差(ズレ量)に応じて、回転モータ187により駆動ローラ185の回転速度を制御し、ニップローラ18Aによる糸の搬送速度を調整する。
【0103】
ここで、S208で、糸の搬送速度を調整する際、図12に示す相関テーブルを参照する。図12に示すように、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも長い場合は、現在の刺繍が狙いの糸消費に対して遅れているため、糸の速度の補正として、現在速度に対して早くするような補正値を設定する。実際の色変化までの糸の消費長さが長い場合は糸の色領域が伸びている、又は図4(b)のように刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが強く回り込み量が少ないため、搬送速度を速くすることで、結果として糸の張力を弱め、図4(c)のように上糸の回り込み量(送り量)を増やし糸の消費を多くする。
【0104】
一方、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも短い場合は、現在の刺繍が狙いの糸消費に対して進んでいるため、糸の搬送速度の補正として、現在速度に対して遅くするような補正値を設定する。実際の色変化までの糸の消費長さが短い場合は糸の色領域が縮んでいる、又は図4(c)のように刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが弱く回り込み量が多いため、搬送速度を遅くすることで、結果として糸の張力を強め、図4(b)のように上糸の回り込み量(送り量)を減らし糸の消費を少なくする。
【0105】
なお、図12では、相関記憶部607で記憶させる相関関係の一例として、相関テーブルを示したが、相関方程式等の他の相関関係であってもよい。また、このような糸種に応じた相関テーブルについて、さらに、温度や湿度に応じて異なるものを用意してもよい。
【0106】
(第3制御例)
図13は、第3制御例に係る刺繍装置の制御部分の機能ブロック図である。第1制御例ではニップローラ18での加圧力(ニップ圧)を制御する例、第2制御例では、ニップローラ18Aの回転速度による糸の搬送速度を制御する例を説明したが、第3制御例では、両方の制御を組み合わせてもよい。
【0107】
本制御例の演算機構16Bでは、ステッチ毎糸色予測部601と、糸想定消費量算出部602と、刺繍進行状況把握部603と、糸実際消費量算出部604と、糸消費進行状況算出部605と、回転速度設定部608と、相関記憶部610と、張力設定部606Bとを実行可能に有している。
【0108】
本実施形態における、相関記憶部610では、上述の図9又は図12のような相関テーブルに加えて、補正に使用する搬送速度と糸の張力の相関テーブルを有している。
【0109】
ここで、図14図15を用いて、第3制御例における上糸の消費量と上糸の張力及び供給速度の制御について説明する。図14は、第2制御例のフローチャートである。図15は、第3制御例で使用される補正用の糸の搬送速度と糸の張力の相関テーブルの一例である。
【0110】
図14のフローについて、図8図11との相違点のみ説明する。本制御例では、ステップS307で、糸の予想消費量と、糸の実際の消費量とが一致しない場合、ステップS308へ進み、糸の予想消費量と、実際の糸の消費量との差(ズレ量)は、閾値以上かどうか判定する。
【0111】
ステップS308でズレ量が閾値以上の場合は、ステップS309へ進み、S309で糸の張力値を調整し、その調整された張力値で、ローラ加圧部183でニップローラ18のニップ圧を制御することで、上糸の張力を調整する。
【0112】
ステップS308でズレ量が閾値未満の場合は、ステップS309へ進み、S310で糸の予想消費量(想定消費量)と、糸の実際の消費量との差(ズレ量)に応じて、回転モータ187により駆動ローラ185の回転速度を制御し、ニップローラ18Aによる糸の搬送速度を調整する。
【0113】
ここで、張力を大きく変化させるために、駆動ローラ185の回転速度を大きく変化させると、メカ的、エレキ的に張力の変化の追従が遅れることがあるため、糸消費量のズレ量が大きい場合は、張力を直接調整した方が好適である。一方、駆動ローラ185の回転速度を小さく変化させると、張力を直接調整する場合よりも、上糸の張力に対して細かい調整が効きやすいため、糸消費量のズレ量が小さい場合は、回転速度を調整し、上糸の搬送速度を微調整する方が好適である。
【0114】
図15に示すように、補正のために、糸搬送速度を速くしたい場合は、加圧力(ニップローラ18の圧力)を小さくし、糸の張力を弱く設定することで代替できる。即ち、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも長く、糸が伸びている場合又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが強く回り込み量が少ない場合は、補正として糸の搬送速度を速くする又は張力を弱くする。
【0115】
一方、補正のために、糸搬送速度を遅くしたい場合は、加圧力を大きくし、糸の張力を強く設定することで代替できる。例えば、実際の色変化までの糸の消費長さが予測よりも短く、糸が縮んでいる場合又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが弱く回り込み量が多い場合、補正として糸の搬送速度を遅くする又は張力を強くする。
【0116】
相関記憶部610では、図9の相関テーブルと図15の相関テーブル、あるいは図12の相関テーブルと図15の相関テーブル等、少なくとも図15のような糸の搬送速度と糸の張力の相関テーブルを含む2種類の相関テーブルが記憶されている。
【0117】
そのため、糸の搬送速度の調整と、糸の張力の調整とを適宜切り替えて調整することができる。例えば、図14のフローのように、糸消費量のズレ量が小さい場合は糸の搬送速度を調整し、ズレ量が大きい場合は糸の張力を調整する等、選択的に制御することができる。
【0118】
なお、図15では、相関記憶部610で記憶させる相関関係の一例として、相関テーブルを示したが、相関方程式等の他の相関関係であってもよい。また、このような糸種に応じた相関テーブルについて、さらに、温度や湿度に応じて異なるものを用意してもよい。
【0119】
(テストパターン)
図9図12図15の相関テーブルや相関式を設定するためには、予め相関関係を把握しておく必要がある。そのため、テストパターンを使用して相関関係を事前に検知しておくと好適である。図16図17は、相関テーブルを作成するために検知するテストパターンの例を示す図である。
【0120】
図16は、面を埋めるサテン縫いで作成したテストパターンの例を示す図である。図16に示すテストパターンは、左上から右下の対角線を刺繍進行方向とし、縫い目方向を矢印に示す右下がりの方向に指定して、隣接する辺の間、及び対角頂点間に糸を渡すことで、四角形状を埋めながらサテン縫いすることで形成される。図16(a)は、色の変わり目が予測通りの布上のテストパターンを示し、図16(b)は色の変わり目が遅い場合の布上のテストパターンの例を示し、図16(c)は色の変わり目が速い場合の布上のテストパターンの例を示す。
【0121】
図16(b)のように色の変わり目が遅く表れる場合は、糸の変わり目までの糸消費長さが予測よりも長いため、上糸が針Nに到達するまでに伸びている、又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが強く回り込み量が少ない、と考えられる。そのため、テストパターンが図16(b)のように現れた場合、現在の状態から糸の張力を弱くなるように徐々に変更して再度刺繍したテストパターンを作成して、図16(a)のような適正な位置に色の変わり目がくるのに必要な、張力の補正値(変化量)を検出して記憶する。
【0122】
図16(c)のように色の変わり目が速く表れる場合は、色の変わり目までの糸消費長さが予測より短いため、糸が針Nに到達するまでに縮んでいる、又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが弱く回り込み量が多い、と考えられる。そのため、テストパターンが、図16(c)のように現れた場合、現在の状態から糸の張力を強くなるよう徐々に変更して再度刺繍したテストパターンを複数作成して、図16(a)のような適正な位置に色の変わり目がくるのに必要な、張力の補正値を検出して記憶する。
【0123】
図17は、矩形波を直線縫いで作成したテストパターンの例を示す図である。図17に示すテストパターンとして、左から右に刺繍が進む場合で下記説明する。例えば、直線縫いは、下縫い等で使用され、消費量及び消費速度は、サテン縫いよりも少なく且つ遅い。このテストパターンでは、糸にマーカーを設けている。
【0124】
図17(a)は、マーカーの位置が予測通りの布上のテストパターンを示し、図17(b)はマーカーの位置が遅い場合の布上のテストパターンの例を示し、図17(c)はマーカーの位置が速い場合の布上のテストパターンの例を示す。
【0125】
図17(b)のようにマーカーが遅く表れる場合は、上糸が伸びている、又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが強く回り込み量が少ない、と考えられる。テストパターンが図17(b)のように現れた場合、現在の状態から糸の張力を徐々に弱く調整して再度テストパターンを複数作成して、図17(a)のような適正な位置にマーカーがくるのに必要な、張力の補正値を検出して記憶する。
【0126】
図17(c)のようにマーカーが速く表れる場合は、上糸が縮んでいる、又は刺繍動作に起因して縫い目における上糸の引っ張りが弱く回り込み量が多い、と考えられる。テストパターンが図17(c)のように現れた場合、現在の状態から糸の張力を徐々に強く調整して再度テストパターンを複数作成して、図17(a)のような適正な位置にマーカーがくるのに必要な、張力の補正値を検出して記憶する。
【0127】
なお、上記テストパターンの説明では、張力の補正について説明したが、搬送速度による補正の相関を調べる場合も同様に、搬送速度を変更して複数のテストパターンを作成して、搬送速度の補正値を事前に検出し、記憶しておくと好適である。
【0128】
なお、図9図12図15では、補正値は直線的に変化するように相関する例を示したが、一針当たりの消費量は、刺繍の縫い方に応じて変化する。そのため、糸消費量の差に対する張力調整の相関データ、及び糸消費量の差に対する搬送速度調整との相関データを、縫い方ごとにそれぞれ設定してもよい。
【0129】
例えば、実際の布上の刺繍領域を、図16のテストパターンのように領域を塗りつぶすために前後の縫い目で隣接して重なるように縫うサテン縫いやたたみ縫いで、模様を形成する場合では、同じ領域を同じ色で刺繍中は多少ずれても目視では確認できない可能性がある。そのため、例えば、ニップローラに対する、張力や搬送速度の調整は、ずれが発見された前のステッチに対して、補正後の次以降のステッチが徐々に適切な位置に戻るように、補正量を緩やかな変化になるように設定する。
【0130】
一方、実際の布上の刺繍領域を、図17のテストパターンのような縫い目が重ならずにすべて露出する直線縫いで、模様を形成する場合は、位置ずれが目立つために早急に位置を適正にする必要がある。そのため、ニップローラに対する張力や搬送速度の調整は、ずれが発見された前のステッチに対して、補正後の次以降のステッチで速やかに適切な位置に戻るように、補正量を急激な変化になるよう設定する。
【0131】
<第2実施形態>
図18は、本発明の第2実施形態に係る、染色・刺繍装置の概略模式図である。本染色・刺繍装置2では、刺繍機能を有する刺繍ユニット21の前段に、上糸糸巻から巻きだされた上糸に搬送方向において変化する色を付与する染色ユニット22が、設けられている。
【0132】
本実施形態に係る染色・刺繍装置2は、刺繍ユニット21と、染色ユニット22と、制御部23とを有しており、インライン一体型の装置である。
【0133】
刺繍ユニット21は、針211を用いて、布Cに刺繍を行う。図18に示すように、針211と、刺繍送り部であるステージ213と、検知手段217とを有しており、針211と検知手段217は、刺繍ヘッド201に搭載されている。なお、図18は模式的に示しているが、本実施形態の刺繍ユニット21は、第1実施形態の刺繍装置1と、刺繍データ作成部15と演算機構16を除いて、同様の構成及び機能を有している。
【0134】
本実施形態では、上糸糸巻221は、刺繍ユニット21ではなく、搬送方向上流側の染色ユニット22内に設けられている。
【0135】
染色ユニット22は、上糸糸巻221と、染色部222と、ニップローラ228と、を有している。上糸糸巻221は、上糸Nが巻回されており、染色部222、ニップローラ228を介して、針211に上糸Nを供給する上糸供給手段である。本実施形態では、上糸糸巻221から巻き出される糸Nは、白糸又は単色である。
【0136】
染色部222は、上糸糸巻221から巻き出された糸Nに対して、搬送方向に変化する色で、液体吐出方式で染色する。染色部222では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクを用いて、糸を染色可能な構成である。なお、本発明では、連続する上糸に対して搬送方向で変化する複数の色で染色すればよいため、少なくとも2色以上の複数の色に対応していれば、染色部222で染色可能な色の数はいくつであってもよい。
【0137】
ニップローラ228は、染色部222によって染色された糸Nを、加圧しながら搬送して、刺繍ユニット210の針211へ送る搬送ローラである。ニップローラ228は、上述の図6に示したニップローラ18(18A)と同様の構成及び機能を有している。ニップローラ228は、第1制御例、第3制御例を実施する場合は、加圧力を調整可能であって、第2制御例、第3制御例を実施する場合は、搬送速度を調整可能である。
【0138】
刺繍ユニット21における、検知手段217は、針211の近傍に設けられ、布に対して針Nが何回縫ったかのステッチ数(編成動作情報)と、刺繍中の糸Nの色を検知する。
【0139】
制御部230は、刺繍ユニット21の検知手段217が検知した、ステッチ数と、糸の色の検知タイミングに応じて、ニップローラ228のニップ圧又は速度の調整を指示する制御信号をニップローラ228に送る。
【0140】
本実施形態の構成では、糸は上糸糸巻221を出た後、染色部222で染色されてから刺繍ユニット21に送られる。そのため、第1実施形態よりも、上糸糸巻221から針211までの糸の搬送距離が長いため、染色部222から刺繍ヘッド201に送られる間の、糸Nの染色中や、染色後の搬送中に糸の伸びや縮みが発生しやすい。
【0141】
そこで、上記のように検知結果に応じてリアルタイムのニップローラ228の調整を行うことで、糸Nが針211に到達するまでに発生する糸の伸縮に起因する、刺繍ユニット210における糸の色の位置ずれの発生を抑制することができる。
【0142】
なお、図18には示していないが、本実施形態の一体型の染色・刺繍装置においても、図19に示す定着部33と後処理部34が、染色部222よりも糸搬送方向下流であって、ニップローラ228よりも上流側に設けられていてもよい。
【0143】
<第3実施形態>
図19は、本発明の第3実施形態に係る染色・刺繍システム100の側面概略図である。本システムでは、上糸糸巻から巻きだされた上糸に搬送方向において変化する色を付与する染色装置3が、刺繍装置1Cの前段に設けられており、図18と異なり、染色装置と、刺繍装置とは一体化していない。
【0144】
ここで、染色装置3は、上糸Nが巻回された上糸糸巻31と、染色部32と、定着部33と、後処理部34とを主に備えている。
【0145】
染色装置3において、上糸糸巻31から引き出された上糸Nは、ローラ351,352で案内され、染色部32とニップローラ18を通って、刺繍ヘッド10の針11まで連続して這い回されている。
【0146】
染色部32は、上糸糸巻31から引き出されて搬送される上糸Nに所要の色の液体を吐出して付与する複数のヘッド321(321K~321Y)と、各ヘッド321のメンテナンスを行う複数の個別の維持ユニット322(322K~322Y)とを備えている。
【0147】
複数のヘッド321K~321Yは、互いに異なる色を吐出する吐出ヘッドである。例えば、321Kはブラック(K)の液滴(インク)を吐出するヘッド、321Cはシアン(C)の液滴を吐出するヘッド、321Mはマゼンタ(M)の液滴を吐出するヘッド、321Yはイエロー(Y)の液滴を吐出するヘッドである。なお、色の順番は一例であり、この説明とは異なる順番に配置されてもよい。また、本例では4色のヘッド321K~321Yが設けられる例を示しているが、本発明では、連続する上糸に対して搬送方向で変化する複数の色で染色すればよいため、少なくとも2色以上の複数の色に対応したヘッドを設ければ、ヘッドの個数はいくつであってもよい。
【0148】
また、維持ユニット322K~322Yは、各色のヘッド321K~321Yの下側に設けられており、維持回復動作として、不使用時のヘッドをキャッピングしたり、ヘッド321からの液滴の空吐出受けとなったり、空吐出受けをヘッドに近づけた状態でノズルの吸引循環動作を行ったり、ノズルのワイピング動作を行ったりする。
【0149】
なお、図19に示す染色装置3における染色部32や図18に示す染色部222は、ヘッド321からインクを吐出することで上糸Nを染色する液体吐出方式の構成例を示しているが、染色部32(222)は、ローラ等で上糸Nを挟み込むことでインクを付与する塗布方式の染色部であってもよい。
【0150】
定着部33は、染色部32から吐出されたインクの、上糸Nに対する定着処理(乾燥処理)を行う。定着部33は、例えば赤外線照射手段、温風吹き付け手段などの加熱手段を備え、上糸Nを加熱して乾燥する。
【0151】
後処理部34は、例えば、上糸Nを清掃する清掃手段、上糸Nの表面に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段などを含む。
【0152】
なお、本発明の染色装置3では、少なくとも、上糸Nに色付きの液体を付与する染色部32が設けられていればよく、定着部33、後処理部34は、設けられていなくてもよい。
【0153】
本実施形態に係るニップローラ18Cは、染色装置3によって染色された糸Nを、加圧しながら搬送して、刺繍ヘッド10の針11へ送る搬送ローラ(加圧搬送ローラ)である。ニップローラ18Cは、上述の図6に示したニップローラ18(18A)と同様の構成及び機能を有している。ニップローラ18Cは、第1制御例、第3制御例を実施する場合は、加圧力を調整可能であって、ニップローラ18Cは、第2制御例、第3制御例を実施する場合は、搬送速度を調整可能である。
【0154】
刺繍装置1Cにおける、検知手段17は、針11の近傍に設けられ、布に対して針Nが何回縫ったかのステッチ数(編成動作情報)と、刺繍中の糸Nの色を検知する。
【0155】
刺繍ヘッド10内に搭載される演算機構16は、検知手段17が検知した、ステッチ数と、糸の色の検知タイミングに応じて、ニップローラ18C(搬送ローラ)でのニップ圧又は速度を調整する。
【0156】
本実施形態の構成では、糸は上糸糸巻31を出た後、染色部32で染色され、さらに定着、後処理工程が付されてから刺繍ユニットに送られる。そのため、第1実施形態、第2実施形態よりも、上糸糸巻31から針11までの糸の搬送距離が長いため、染色部32から刺繍ヘッド10に送られる間の、糸Nの染色中や、染色後の搬送中に糸の伸びや縮みが発生しやすい。
【0157】
そこで、上記のように検知結果に応じてリアルタイムのニップローラ18Cの圧力又は搬送速度の調整を行うことで、糸Nが針11に到達するまでに発生する糸の伸縮に起因する、刺繍装置1Dにおける糸の色の位置ずれの発生を抑制することができる。
【0158】
<第4実施形態>
図20は、本発明の第4実施形態に係る染色・刺繍システムの側面概略図である。本実施形態では、染色・刺繍システム100Dに対して上位装置である上位制御装置4が接続されている。上位制御装置4は、コンピュータ等の情報処理装置である。上位制御装置4は、有線又は無線通信により、刺繍装置1D及び染色装置3Dと情報をやり取り可能に電気的に接続されている。
【0159】
本実施形態に係るシステムでは、ニップローラ38は、刺繍装置1Dではなく、染色装置3D側に設けられている。本発明における、ニップローラ18C,38は、図19図20に示すように、染色装置又は刺繍装置のいずれかに搭載されていればよい。
【0160】
図21は、本発明の第4実施形態に係る染色・刺繍システムの概略ブロック図である。上位制御装置4は、刺繍データ・染色データ作成部41と、演算部42と、を実行可能に有している。
【0161】
上位制御装置4は、刺繍データ・染色データ作成部41と、演算部42と、を備えている。刺繍データ・染色データ作成部41は、刺繍データの元となる刺繍イメージを取得して、刺繍イメージを基に刺繍データと、刺繍イメージ及び刺繍データに応じた染色データを作成し、演算部42に出力する。
【0162】
詳しくは、本実施形態における、刺繍データ・染色データ作成部41は、刺繍イメージを色ごと(RGB値)に分解し、刺繍模様の布上の大きさに基づいて、スムーズな順番で縫えるように、使用する糸の色と、糸上の各色の継続長さを決定し、決定された色の糸を用いて布上に縫目を形成させるように刺繍データを作成する。さらに、刺繍データ・染色データ作成部41は、刺繍データに含まれる、糸の色を実現するために使用するKCMY各色の配合量と、KCMYの吐出ヘッドにおける各色の継続長さの情報を含む染色データを作成する。
【0163】
上位制御装置4の演算部42は、染色装置3Dの演算機構36とやりとり可能であり、染色データを演算機構36へ出力し、演算機構36は染色データに基づいて、染色部32、定着部33、後処理部34を制御する。
【0164】
また、演算部42は、刺繍装置1Dの演算機構16Dとやりとり可能であり、刺繍データを、演算機構16Dへ出力し、演算機構16Dは、刺繍データに基づいて、駆動ドライバ191を駆動制御する。
【0165】
さらに、演算部42は、上述の図7図10図13に示す、演算機構16における、刺繍進行状況把握部603を除いた、ローラ制御部6(6A,6B)の機能も有している。
【0166】
そのため、演算部42は、検知手段17による検知情報により、刺繍装置1D側の演算機構によって把握した、現在の刺繍を位置の情報を基に、糸の消費量(又は糸の消費速度)の差(ズレ量)を算出し、その差を基に、ニップローラ38への圧力(ニップローラ38の圧力)又は搬送速度を設定する。
【0167】
そして、演算部42は、設定した加圧力又は回転速度を指示する制御信号を、染色装置3Dの演算機構36に出力し、演算機構36は設定された、加圧力又は回転速度で、ローラ加圧部383又は回転モータ387に指示する。これにより、ニップローラの加圧力による糸の張力、又は回転速度による糸の搬送速度の調整がリアルタイムに可能になる。
【0168】
このような制御により、糸Nが針11に到達するまでに、染色装置3D側で発生する糸の伸縮に起因する、刺繍装置1Dにおける糸の色の位置ずれの発生を抑制することができる。
【0169】
以上により、本発明の好ましい実施形態及び制御構成について説明したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されるものではない。また、本発明は、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更することが可能である。
【符号の説明】
【0170】
1,1C,1D 刺繍装置
2 染色・刺繍装置
3,3D 染色装置
4 上位制御装置
6,6A,6B ローラ制御部
100,100D 染色・刺繍システム
10 刺繍ヘッド
11 針
12 下糸回転体
121 下糸ボビン
122 フック
13 ステージ
14 上糸糸巻
15 刺繍データ作成部
16,16A,16B,16D 演算機構
17 検知手段(カラーレーザーセンサ)
17A 検知手段
171 カラーレーザーセンサ
172 ステッチセンサ
18,18A,18C ニップローラ(搬送ローラ)
181 加圧ローラ
182 ローラ
183 ローラ加圧部
184 加圧ローラ
185 駆動ローラ
186 ローラ加圧部
187 回転モータ
210 刺繍ユニット
220 染色ユニット
221 上糸糸巻
222 染色部
228 ニップローラ(搬送ローラ)
31 上糸糸巻
32 染色部
33 定着部
38 ニップローラ(搬送ローラ)
602 糸想定消費量算出部(糸消費量予測部)
604 糸実際消費量算出部(糸消量量算出部)
606,606B 張力設定部(張力調整部)
608 回転速度設定部(速度調整部)
609,610 相関記憶部
B 下糸
C 布
N 上糸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0171】
【文献】特開2008-289522号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21