(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】染色装置、染色ユニット、染色・刺繍システム、及び染色装置における調整方法
(51)【国際特許分類】
D05B 67/00 20060101AFI20241126BHJP
D05B 19/14 20060101ALI20241126BHJP
D05C 11/24 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
D05B67/00
D05B19/14
D05C11/24
(21)【出願番号】P 2021132074
(22)【出願日】2021-08-13
【審査請求日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2020166557
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】砂押 雅之
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520836(JP,A)
【文献】特開平6-304359(JP,A)
【文献】特開昭60-40093(JP,A)
【文献】特開2008-289521(JP,A)
【文献】特表2018-525548(JP,A)
【文献】特開2009-273675(JP,A)
【文献】特開昭52-21488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 67/00
D05B 19/14
D05C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍装置に接続される染色装置であって、
糸を染色する染色部と、
前記刺繍装置の動作に応じて、前記染色部から前記刺繍装置までの糸の経路長を変更する搬送経路と、
前記経路長の変化に応じて、前記搬送経路における前記糸の搬送速度を調整する搬送制御部と、を備え、
前記染色部は、調整された前記搬送速度に合わせた染色速度で前記糸を染色する
染色装置。
【請求項2】
前記搬送経路は、
前記染色部よりも糸の搬送方向の上流に設けられ、前記搬送経路の上流端となる入口側ニップローラと、
前記刺繍装置の近傍に設けられ、前記搬送経路の下流端となる出口側ニップローラと、
前記出口側ニップローラの上流側の近傍に設けられ、上下に昇降可能なダンサーローラと、を有し、
前記入口側ニップローラは、前記搬送制御部によって制御された前記搬送速度で糸を搬送し、
前記出口側ニップローラは、前記刺繍装置において消費した分だけ糸が引っ張られるように糸を搬出し、
前記刺繍装置の前記糸の消費長さの累計と、前記入口側ニップローラによって搬送した糸の搬送長さの累計の差分に応じて、前記ダンサーローラが昇降することで、前記経路長が変化する
請求項1に記載の染色装置。
【請求項3】
前記ダンサーローラの上下方向の位置を検知する位置検出手段を備える
請求項2に記載の染色装置。
【請求項4】
前記入口側ニップローラによる糸の搬送量が所定長さに到達する毎に、検出タイミングとして、前記位置検出手段が検知した前記ダンサーローラの上下位置から、前記経路長を算出する経路長算出部と、
今回の検出タイミングで算出された経路長の、前回の検出タイミングで算出された経路長からの経路長の変化量を算出する経路長変化量算出部と、
前記今回の検出タイミングで算出された経路長の、刺繍開始時に算出された経路長初期値からのズレ量を算出する経路長ズレ量算出部と、
検出タイミング間における前記刺繍装置で使用される想定糸消費量を算出し、呼び出す糸消費量算出部と、を備え、
前記搬送制御部は、前記経路長の変化量と、前記経路長の経路長初期値からのズレ量と、前回と今回の検出タイミング間で使用される想定糸消費量に応じて、次回の前記入口側ニップローラにおける搬送速度を調整する
請求項3に記載の染色装置。
【請求項5】
前記染色部は、染色データに基づいて糸を染色し、
前記糸消費量算出部は、次回のために調整された搬送速度で、前記所定長さ、該搬送速度に対応した時間、前記糸を搬送する今回と次回の検出タイミング間における、前記刺繍装置で使用される想定糸消費量を算出し、
当該染色装置は、
前回と今回の検出タイミング間における、前記刺繍装置での刺繍データ消費量の想定からのズレ量である刺繍データ長ズレ量を算出する刺繍データ長ズレ量算出部と、
前記刺繍データ長ズレ量と、今回と次回の検出タイミング間で使用される想定糸消費量に応じて、今回と次回の検出タイミング間で使用される染色データのデータ長を調整する、染色データ調整部と、をさらに備える
請求項4に記載の染色装置。
【請求項6】
前記染色部は、染色データに基づいて糸を染色し、
前記糸消費量算出部は、次回のために調整された搬送速度で、前記所定長さ、該搬送速度に対応した時間、前記糸を搬送する今回と次回の検出タイミング間における前記刺繍装置で使用される想定糸消費量を、今回までの累積糸消費量に追加した、次回の検出タイミングまでの想定累積糸消費量を算出し、
当該染色装置は、
前回と今回の検出タイミング間における、前記刺繍装置での刺繍データ消費量の想定からのズレ量である刺繍データ長ズレ量を算出する刺繍データ長ズレ量算出部と、
前記刺繍データ長ズレ量と、次回の検出タイミングまでの想定累積糸消費量に応じて、今回と次回の検出タイミング間で使用される染色データのデータ長を調整する、染色データ調整部と、をさらに備える
請求項4に記載の染色装置。
【請求項7】
所定時間到達毎に、検出タイミングとして、前記位置検出手段が検知した前記ダンサーローラの上下位置から、前記経路長を算出する経路長算出部と、
今回の検出タイミングで算出された経路長の、前回の検出タイミングで算出された経路長からの経路長の変化量を算出する経路長変化量算出部と、
前記今回の検出タイミングで算出された経路長の、刺繍開始時に算出された経路長初期値からのズレ量を算出する経路長ズレ量算出部と、
検出タイミング間における前記刺繍装置で使用される想定糸消費量を算出し、呼び出す糸消費量算出部と、を備え、
前記搬送制御部は、前記経路長の変化量と、前記経路長の経路長初期値からのズレ量と、前回と今回の検出タイミング間で使用される想定糸消費量に応じて、次回の前記入口側ニップローラにおける搬送速度を調整する
請求項3に記載の染色装置。
【請求項8】
前記染色部は、染色データに基づいて糸を染色し、
前記糸消費量算出部は、次回のために調整された搬送速度で、前記所定時間、該搬送速度に対応した長さの糸を搬送する今回と次回の検出タイミング間における、前記刺繍装置で使用される想定糸消費量を算出し、
当該染色装置は、
前回と今回の検出タイミング間における、前記刺繍装置での刺繍データ消費量の想定からのズレ量である刺繍データ長ズレ量を算出する刺繍データ長ズレ量算出部と、
前記刺繍データ長ズレ量と、今回と次回の検出タイミング間で使用される想定糸消費量に応じて、今回と次回の検出タイミング間で使用される染色データのデータ長を調整する、染色データ調整部と、をさらに備える
請求項7に記載の染色装置。
【請求項9】
前記染色データ調整部は、
前記染色データのデータ長を増加させる場合に、次回の前記染色データの最初のデータを削除し、
前記染色データのデータ長を減少させる場合に、次回の前記染色データの直前にダミーのデータを追加する
請求項5、6又は8に記載の染色装置。
【請求項10】
刺繍ユニットに接続される染色ユニットであって、
糸を染色する染色部と、
前記刺繍ユニットの動作に応じて、前記染色部から前記刺繍ユニットまでの糸の経路長を変更する搬送経路と、
前記経路長の変化に応じて、前記搬送経路における前記糸の搬送速度を調整する搬送制御部と、を備え、
前記染色部は、調整された前記搬送速度に合わせた染色速度で前記糸を染色する
染色ユニット。
【請求項11】
糸を染色する染色装置と、
前記染色装置から送られる前記糸を用いて、布に刺繍を行う刺繍装置と、を備える、染色・刺繍システムであって、
前記染色装置は、
糸を染色する染色部と、
前記刺繍装置の動作に応じて、前記染色部から前記刺繍装置までの糸の経路長を変更する搬送経路と、を備え、
前記経路長の変化に応じて、前記搬送経路における前記糸の搬送速度を調整する搬送制御部が、前記染色装置、前記刺繍装置、又は当該染色・刺繍システムと接続可能な上位制御装置に搭載されており、
前記染色部は、調整された前記搬送速度に合わせた染色速度で前記糸を染色する
染色・刺繍システム。
【請求項12】
刺繍装置に接続される染色装置における調整方法であって、
前記染色装置は、糸を染色する染色部と、前記刺繍装置の動作に応じて、前記染色部から前記刺繍装置までの糸の経路長を変更する搬送経路と、を備え、
糸を所定長さ搬送する毎又は所定時間毎に、前記経路長を検出するステップと、
前記経路長の変化に応じて、前記搬送経路における前記糸の搬送速度を調整する搬送調整ステップと、
調整された前記搬送速度に合わせた染色速度で、前記染色部で前記糸を染色する染色ステップと、を有する
調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色装置、染色ユニット、染色・刺繍システム、及び染色装置における調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
業務用の自動刺繍装置はすでに製品化され普及しているが、従来の自動刺繍装置では、複数色の刺繍を行う場合に、色ごとに刺繍パターン情報を作成して、上糸を指定色に応じて取り替える必要があるため、複数の色の上糸を保持する、大型の刺繍装置が必要であった。このような装置で、連続的な色調変化(グラデーション)を用いた刺繍を行おうとすると、微妙に異なる色調の数に合わせて、上糸を準備して上糸を順次交換しながら刺繍しなければならないため、上糸の色の制限があり、刺繍の表現力が制約されていた。
【0003】
そこで、近年、インクジェット技術を用いて、搬送方向で変化する色を付与するように上糸を染色し、染色した上糸を刺繍機またはミシンで使用して刺繍するシステムが、知られている。
【0004】
そして、特許文献1では、染色部と刺繍部を有する装置において、刺繍部の上流側に設けられた染色部の搬送速度が、刺繍部での変動する刺繍速度に対して遅くなる場合があることへの対策として、十分な長さの染色後の糸を糸溜まりに貯留して、染色後の糸を刺繍部の前で待機させておく技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、染色後の上糸を刺繍部の前で糸溜まりに貯留して経路長を長くすることで上糸と下糸の速度差は解消できるが、刺繍部における上糸の色の位置がずれてしまうため、刺繍部の直前で色検知部によって染色された上糸の色を検知し、所望する上糸が刺繍柄の適正な位置にくるように、不要となる上糸を巻取装置に巻き取らせていた。そのため、特許文献1では、上糸の位置合わせのために、糸溜まりと巻取装置が必要であり、装置が複雑化、大型化してしまった。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、接続される刺繍装置で色が変化する連続した上糸を用いた場合に、装置を大型化せずに、刺繍装置における上糸と下糸の速度差を解消しつつ、上糸の色の位置ずれを抑制できる染色装置、を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様では
刺繍装置に接続される染色装置であって、
染色データに基づいて、糸を染色する染色部と、
前記刺繍装置の動作に応じて、前記染色部から前記刺繍装置までの糸の経路長を変更する搬送経路と、
前記経路長の変化に応じて、前記搬送経路における前記糸の搬送速度を調整する搬送制御部と、を備え、
前記染色部は、調整された前記搬送速度に合わせた染色速度で前記糸を染色する、
染色装置、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、染色装置において、接続される刺繍装置で色が変化する連続した糸を用いた場合に、装置を大型化せずに、刺繍装置における上糸と下糸の速度差を解消しつつ、上糸の色の位置ずれを最小限にできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る染色装置と、刺繍装置とを含む、染色・刺繍システムの一例の側面概略説明図。
【
図2】本発明の一実施形態の染色装置における染色部の側面概略図。
【
図4】本発明の一実施形態の染色装置における、経路長可変搬送部の概略説明図。
【
図5】第1実施形態の染色・刺繍システムの概略ブロック図。
【
図6】第1実施形態の第1制御例の染色・刺繍システムの制御に係る部分の機能ブロック図。
【
図7】本発明の第1制御例における、染色、搬送の全体フローチャート。
【
図8】本発明の第1制御例における、染色動作中の制御に係る詳細フローチャート。
【
図9】
図8のフローに沿った制御の具体例を示す表。
【
図11】本発明の第2制御例における、染色動作中の制御に係る詳細フローチャート。
【
図12】第1実施形態の第3制御例の染色・刺繍システムの制御に係る部分の機能ブロック図。
【
図13】本発明の第3制御例における、染色動作中の制御に係る詳細フローチャート。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る、インライン型の染色・刺繍装置の側面概略図。
【
図16】本発明の第3実施形態に係る、染色装置と、刺繍装置と、上位制御装置を含む染色・刺繍システムの側面概略図。
【
図17】第3実施形態の染色・刺繍システムにおける、染色・搬送の制御に係る部分の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
<全体構成>
まず、
図1~
図3を用いて、本発明の第1実施形態の染色装置を含む染色・刺繍装置について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る染色装置と、刺繍装置とを含む、染色・刺繍システムの一例の側面概略説明図である。
図2は、本発明の一実施形態の染色装置における染色部の側面概略図である。
図3は、本発明の一実施形態の染色部の下面概略図である。
【0012】
図1を参照して、本実施形態に係る染色・刺繍システム3は、染色装置1と刺繍装置2とを備えている。本システムにおいて、染色装置1は、有線又は無線通信により、刺繍装置2と情報をやり取り可能に電気的に接続されている。
【0013】
染色装置1は、上糸Nが巻回された上糸糸巻101と、染色部103と、定着部104と、後処理部105とを備えている。本実施形態における染色装置1は、液体吐出式で糸を染色する糸着色装置である。
【0014】
染色装置1において、上糸糸巻101から引き出された糸Nは、ローラ102と、ニップローラ61,63,66を含む経路長可変搬送部106で案内され、刺繍装置2の刺繍ヘッド20まで連続して這い回されている。
【0015】
染色装置1における糸Nの搬送の経路長(糸搬送経路長)を調整可能な、経路長可変搬送部106は、刺繍装置2の直前に設けられた上下に昇降するダンサーローラ65を含む可変搬送経路PL(
図4参照)と、可変搬送経路PLのニップローラ61,63を駆動する駆動部と、位置検出手段60とを含む。経路長可変搬送部106の詳細は、
図4とともに後述する。
【0016】
染色部103は、上糸糸巻101から引き出されて搬送される糸Nに所要の色の液体を吐出して付与する複数の吐出ヘッド30(30K~30Y)と、各吐出ヘッド30K~30Yのメンテナンスを行う複数の個別の維持ユニット36(36K~36Y)で構成されるメンテナンスユニット35を備えている。
【0017】
以降において、染色部103を通る際の上糸の搬送方向をX、染色・刺繍システム3の奥行き方向(上糸の幅方向)をY、高さ方向(上下方向)をZと呼ぶ。
【0018】
図2を参照して、複数の吐出ヘッド30K~30Yは、それぞれ液体付与手段であって、互いに異なる色を吐出する吐出ヘッドである。例えば、30Kはブラック(K)の液滴(インク)を吐出するヘッド、30Cはシアン(C)の液滴を吐出するヘッド、30Mはマゼンタ(M)の液滴を吐出するヘッド、30Yはイエロー(Y)の液滴を吐出するヘッドである。
図2に示す色の順番は一例であり、この説明とは異なる順番に配置されてもよい。なお、図示はしていないが、染色部103は、染色後の上糸をコーティングするための無色の液滴を吐出する吐出ヘッドを、最下流に含んでいてもよい。
【0019】
また、維持ユニット36K~36Yは、各色の吐出ヘッド30K~30Yの下側に設けられており、維持回復動作として、不使用時のヘッドをキャッピングしたり、吐出ヘッド30からの液滴の空吐出受けとなったり、空吐出受けをヘッドに近づけた状態でノズルの吸引循環動作を行ったり、ノズルのワイピング動作を行ったりする。
【0020】
ここで、
図3に示すように、各吐出ヘッド30K~30Yは、液滴を吐出する複数のノズル31を配列したノズル列32が形成されたノズル面33を有する。各吐出ヘッド30は、ノズル31の配列であるノズル列32の方向が糸Nの搬送方向になるように配置される。なお、
図3ではノズル面33にノズル列32が1つだけ記載されているが、ノズル面33にノズル列32が複数配置されていてもよい。
【0021】
図1に戻って、定着部104は、染色部103から吐出された液体の、付与された糸Nに対する定着処理(乾燥処理)を行う。定着部104は、例えば赤外線照射手段、温風吹き付け手段などの加熱手段を備え、糸Nを加熱して乾燥する。
【0022】
後処理部105は、例えば、糸Nを清掃する清掃手段、糸Nの表面に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段などを含む。
【0023】
なお、本発明の染色装置1では、少なくとも、糸Nに色付きの液体を付与する染色部103が設けられていればよく、定着部104、後処理部105は、設けられていなくてもよい。
【0024】
なお、
図1~
図3に示す染色装置1における染色部103は、吐出ヘッド30Y~30Kからインクを吐出することで上糸Nを染色する液体吐出方式の構成例を示しているが、染色部103は、ローラ等で上糸Nを挟み込むことでインクを付与する塗布方式の染色部であってもよい。
【0025】
図1に示す刺繍装置2は、針21と、下糸回転体22と、ステージ23と、刺繍ヘッド20を有している。針21は、針先先端の針穴に上糸Nが通されており、布Cに対して上下方向に移動駆動可能である。
【0026】
下糸回転体22は、下糸Bが巻回された下糸ボビン221と、フック222を有しており、下糸ボビン221およびフック222は、針21の移動に連動して回転する。図示はしていないが、下糸回転体22には、下糸ボビン221を収容する円筒状の中釜や、有底円筒上の外釜、フック222と一体化した円筒体のケースなども設けられている。なお、
図1では、下糸ボビン221は、回転方向が縦方向の垂直回転方式(垂直全回転釜方式、垂直半回転釜方式)の例を示しているが、下糸ボビン221は、回転方向が横方向の水平回転方式(水平釜方式)であってもよい。
【0027】
ステージ23は、布Cを保持する台であり、針が通る穴(不図示)が形成されている。ステージ23は、布送りのためにX方向、Y方向に移動可能である。
【0028】
刺繍ヘッド20は、演算機構25(
図5参照)が設けられており、演算機構25が、上糸Nが通る針11の動き(運針)、及びステージ23の移動を制御することで、刺繍装置2において上糸Nと、上糸Nの送りに応じて送られる下糸Bを用いて、布Cに刺繍を行うことで布C上に刺繍パターン(刺繍模様)を形成する。
【0029】
また、「糸」とは、ガラス繊維糸、ウール糸、綿糸、合成糸、金属糸、ウール、綿、ポリマー、または金属の混合糸、ヤーン、フィラメント、あるいは液体を付与可能な線状部材(連続基材)であり、組紐、平紐なども含む。
【0030】
(搬送経路)
図4は、本発明の一実施形態の染色装置における、経路長可変搬送部106の概略説明図である。
図4は、染色装置1を、刺繍装置2の上側に設ける場合であって、
図1とは異なるの経路を有する、経路長可変搬送部106を概略的に示した図である。
【0031】
経路長可変搬送部106における可変搬送経路PLは、入口側ニップローラ61、搬送ローラ62、中央ニップローラ63、搬送ローラ64、ダンサーローラ65、及び出口側ニップローラ66を有している。
【0032】
可変搬送経路PLの、入口と出口はニップローラ61,66で圧をかけながら挟まれており、閉じた搬送経路の系となっている。なお、搬送ローラ67は、可変搬送経路PLの外側のローラである。
【0033】
可変搬送経路PLにおいて、出口側ニップローラ66の上流側の近傍に設けられる、ダンサーローラ65は上下に昇降可能である。ダンサーローラ65が上下に昇降することで、可変搬送経路PLの経路長の全長が変化する。
【0034】
また、経路長可変搬送部106において、ダンサーローラ65の近傍には、例えばリニアエンコーダで構成される位置検出センサ60が設けられている。位置検出センサ60は、位置検出手段の一例であて、ダンサーローラ65の位置を検出することで、ダンサーローラ65による経路バッファ量がわかり、経路長を算出することができる。
【0035】
入口側ニップローラ61は、染色部103よりも搬送方向の上流に設けられ、可変搬送経路PLの上流端となる。入口側ニップローラ61は、駆動ローラ611とニップローラ612で糸Nを挟んで構成されている。駆動ローラ611には、染色装置1における上糸の搬送長さを検出するロータリーエンコーダ613が設けられている。また、駆動ローラ611には、駆動モータである入口側モータ68が接続されている。入口側モータ68は、演算機構108(
図5参照)から指示された搬送速度で、駆動ローラ611を回転させるように駆動する。
【0036】
中央ニップローラ63は、中央駆動ローラ631とニップローラ632で糸Nを挟んで構成されており、中央駆動ローラ631には、駆動モータである中央モータ69が接続されている。中央モータ69は、演算機構108(
図5参照)から指示された搬送速度で駆動ローラ631を回転させるように駆動する。入口側モータ68および中央モータ69は、上糸を搬送するための、経路長可変搬送部106の駆動部となる。
【0037】
中央モータ69によって駆動される中央駆動ローラ631は、入口側より少しだけ早い速度で回転しており、入口側ニップローラ61と中央ニップローラ63との間でたるみ無く搬送可能となっている。
【0038】
出口側ニップローラ66は、刺繍装置2の近傍に設けられ、可変搬送経路PLの下流端となる。出口側ニップローラ66は、糸Nを挟み込む対となる2つのローラ661,662で構成されており、駆動力は付与されていない。そのため、出口側ニップローラ66は、刺繍装置2が消費した分だけ、刺繍装置2によって引っ張られる形で糸Nを搬出する。
【0039】
このような構成の可変搬送経路PLでは、ダンサーローラ65は、刺繍装置2からの引っ張り力に応じて昇降するため、刺繍装置2の糸消費量の累計と、入口側ニップローラ61が搬送した糸Nの累計の差が、経路長の変化となる。これにより、染色部103から刺繍装置2への搬送において、刺繍装置2直前での上糸のたるみや引きつり等の上糸の張力変化が累積しない。
【0040】
本発明では、このように刺繍装置2の動作に応じて可変搬送経路PLにおいて経路長が変化することを前提として、可変搬送経路PLにおける糸の搬送速度を調整するとともに、さらに染色装置1における次回の染色データのデータ長を補正する。そのため、搬送経路長変化および搬送速度調整により、刺繍装置2側へ供給される上糸の張力を一定にしつつ、染色データ長調整により上糸における色の境界の位置を調整して、刺繍装置2における刺繍位置と染色位置のズレを抑制することができる。
【0041】
(概略ブロック)
図5は、第1実施形態の染色・刺繍システムの概略ブロック図である。
【0042】
図5に示すように、染色装置1は、
図1に係る構成に加えて、染色データ処理部107と、演算機構108と、ヘッドドライバ39を有している。
【0043】
染色データ処理部107は、染色データを作成、編集する制御部であって、例えば、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の情報処理装置(コンピュータ)で構成される。
【0044】
演算機構108は、染色装置1の主制御部であって、例えば、CPU等の情報処理装置(コンピュータ)で構成される。なお、染色データ処理部107の機能と、演算機構108の一部の機能は、染色装置内に設けられていなくてもよく、その場合の制御は、第3実施形態として
図16、
図17とともに後述する。
【0045】
ヘッドドライバ39は、演算機構108から出力された染色データを基に、設定された染色長さで糸を染色するように、吐出ヘッド30Y~30Kを駆動して、ノズルからインク滴を吐出させる。
【0046】
また、刺繍装置2は、駆動制御に係る部分として、刺繍イメージ取得部24と、演算機構25と、駆動ドライバ26と、駆動モータ27と、針上下駆動部281と、下糸回転駆動部282と、X軸駆動部283と、Y軸駆動部284と、ステッチカウンタ29とを有している。
【0047】
刺繍イメージ取得部24は、例えば外部機器との通信部であって、刺繍データの元となる刺繍イメージ(刺繍ファイル)を取得して、演算機構25に出力する。あるいは、刺繍イメージ取得部24は、操作パネル等であってもよく、操作パネルの場合は、操作者の操作によって、直接刺繍イメージが入力される。
【0048】
演算機構25は、刺繍イメージを基に刺繍データを作成し、刺繍データを駆動ドライバ26に出力する。さらに、演算機構25は、刺繍データと、ステッチカウンタ29で検出した何針進んだかの進行状況(ステッチデータ)を基にして、糸消費量を算出して、染色装置1の演算機構108に出力する。
【0049】
ここで、刺繍イメージとは、布上の刺繍模様の原稿となる画像データ(画像情報、刺繍デザインデータ)である。本実施形態における、演算機構25は、刺繍イメージを色ごと(RGB値)に分解し、刺繍模様の布上の大きさに基づいて、スムーズな順番で縫えるように、使用する糸の色と、糸上の各色の継続長さを決定し、決定された色の糸を用いて布上に縫目を形成させるように刺繍データを作成する。
【0050】
ここで、刺繍データとは、「針を移動する座標のデータと、その座標で実施する事項を組み合わせたデータ」である。その座標で実施する事項は、具体的には、
(1)針を布に刺して下糸とからめ、再び布の表に針を戻して、その後次に針を刺すべき位置に移動すること、
(2)刺繍を終了、中断する(他の針に切り替えること・刺繍が連続しない離れた場所へ移動するために糸を切断することを含む)こと、
(3)イニシャライズ位置(位置合わせ位置)に移動すること、
等が含まれる。また、刺繍データのファイルとしては「.dst」、「.pes」等の形式が一般に知られている。
【0051】
駆動ドライバ26は、刺繍データに基づいて駆動モータ27を駆動制御する。
【0052】
針上下駆動部281は、所謂天秤と呼ばれ、駆動モータ27に連結する上軸の回転運動を上下運動に変換することで、上糸Nが通された針21の上下の移動を駆動する。
【0053】
下糸回転駆動部282は、上記上軸と、ベルト・カム・クランクを介して連結した下軸の回転運動によって、針21の上下運動と連動して、下糸回転体22を回転させる。
【0054】
X軸駆動部283と、Y軸駆動部284は、ステージ移動駆動部(布送り部)であって、下軸の回転運動によって、針21の上下運動及び下糸回転体12の回転と連動して、布Cが載置されたステージ23のX方向、Y方向の移動を駆動する。この際、布Cを送る方法として、ステージ23の全体を移動させてもよいし、あるいは、ステージ23に形成された穴に設けられた送り歯を移動させてもよい。
【0055】
針上下駆動部281と、下糸回転駆動部282と、X軸駆動部283と、Y軸駆動部284は、1つの駆動モータ27によって連動して駆動される駆動機構28となる。そのため、駆動モータ27の回転により、針21の上下運動、下糸回転体22の回転運動、ステージ23上の布CのXY移動が発生する。例えば、針21の1回の上下運動は、下糸回転体22の、1又は整数回の回転運動と連動している。
【0056】
ステッチカウンタ29は、針21の上下運動を検知するセンサであって、例えば針21を保持する針棒に設けられ、針21が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知する。
【0057】
(染色・搬送の制御ブロック)
ここで、
図5における染色、搬送の制御の詳細について、
図6を用いて説明する。
図6は、第1実施形態の染色・刺繍システム3の第1制御例における、染色・搬送の制御に係る部分の機能ブロック図である。
【0058】
染色装置1の染色データ処理部107は、刺繍イメージ取得部701、染色データ作成部702、及び染色データ調整部703を実行可能に有している。
【0059】
また、第1制御例の演算機構108は、所定長さ設定部801、搬送所定長さカウント部802、経路長算出部803、初期経路長記憶部804、経路長ズレ量算出部805、前回経路長記憶部806、経路長変化量算出部807、搬送速度補正値算出部808、搬送制御部809、所定長さ搬送時間算出部810、所定長さ毎想定糸消費量算出部811、搬送所定長さ毎刺繍データ長算出部812、刺繍データ長ズレ量算出部813、染色データ長補正値設定部814、染色制御部815、及び吐出ヘッド制御部816を実行可能に有している。
【0060】
染色データ処理部107の染色データ調整部703と、演算機構108の、所定長さ設定部801、搬送所定長さカウント部802、経路長算出部803、前回経路長記憶部806、初期経路長記憶部804、経路長変化量算出部807、経路長ズレ量算出部805、及び搬送速度補正値算出部808、搬送制御部809、所定長さ搬送時間算出部810、所定長さ毎想定糸消費量算出部811、搬送所定長さ毎刺繍データ長算出部812、刺繍データ長ズレ量算出部813、染色データ長補正値設定部814は染色・搬送調整部αとして機能する。
【0061】
一方、刺繍装置2の演算機構25は、刺繍データ作成部501、ステッチ位置算出部502、現在刺繍位置把握部503、及び想定糸消費量算出部504を、実行可能に有している。
【0062】
染色装置1の染色データ処理部107において、刺繍イメージ取得部701は、刺繍装置2と通信して刺繍イメージおよび刺繍データを取得する。
【0063】
染色データ作成部702は、刺繍イメージおよび刺繍データを基にして、染色データ(初期染色データ)を作成する。詳しくは、染色データ作成部702は、刺繍データに含まれる、糸の色を実現するために染色に使用するKCMY各色の配合量と、KCMYの吐出ヘッドにおける各色の染色継続長さの情報を含む染色データを作成する。
【0064】
染色データ調整部703は、染色データ作成部702で作成された染色データ(初期染色データ)におけるデータ長に、演算機構108の染色データ長補正値設定部814で設定した、検出タイミング毎の補正値で増減をして、次回のデータ長を補正した染色データを作成する。そして作成した染色データを演算機構108の染色制御部815に出力する。
【0065】
また、刺繍装置2の演算機構25の刺繍データ作成部501は、取得した画像データである刺繍イメージを基に、刺繍データを作成する。刺繍データとは、上述のように針を移動する座標のデータとその位置で何をするかがペアになったデータである。
【0066】
ステッチ位置算出部502は、ステッチカウンタ29から出力される何針分すすんだか、即ち、現在どのステッチ(縫い目)を縫っているのかのデータであるステッチデータ(ステッチ数)をリアルタイムに取得して、そのステッチ速度を算出する。
【0067】
現在刺繍位置把握部503は、ステッチ位置算出部であって、刺繍データと、ステッチデータから、刺繍データのうちどこまで刺繍をすすめたかという、現在の刺繍位置(ステッチ位置)を算出する。
【0068】
想定糸消費量算出部504は、刺繍開始時に、刺繍データを基に、刺繍装置2における糸の消費速度(想定糸消費量)を予測する。
【0069】
ここで、本発明の第1制御例の染色装置1では、位置検出センサ60による位置検出及びその検出に基づいた、次回の染色データのデータ長の調整は、糸の所定の搬送長さ毎に実行される。経路長検出の実行の基準となる糸の所定の搬送長さ(所定長さ)は、染色データ作成部702で作成された染色データ(初期染色データ)のデータ全長に応じた数で分割して、分割したデータ長(基準染色データ長)を適宜調整できるように、演算機構108の所定長さ設定部801で設定される。あるいは、基準となる所定長さは、予め装置で規定されている長さに設定されていてもよい。
【0070】
搬送量所定長さカウント部802は、設定された搬送速度で上糸を搬送する際の、入口側ニップローラ61に設けられたロータリーエンコーダ613によって、上糸が搬送される搬送量をカウントする。搬送量所定長さカウント部802は、カウントした上糸の搬送量が所定長さ設定部801で設定された所定長さになる、入口側ニップローラ61による糸の搬送量が所定長さに到達する毎に、検出タイミングとして、位置検出センサ60に通知する。
【0071】
位置検出センサ60は、搬送量所定長さカウント部802で通知された糸の所定の搬送長さ毎に、ダンサーローラ65の上下位置を検出する。
【0072】
演算機構108の経路長算出部803は、位置検出センサ60が検出したダンサーローラ65の上下位置と、可変搬送経路PLのその他の部分の経路長を足し合わせて、可変搬送経路PLの経路長の全長を算出する。
【0073】
初期経路長記憶部804は、染色開始直前の可変搬送経路PLの経路長を、初期経路長として記憶する。経路長ズレ量算出部805は、今回の糸の所定の長さ搬送タイミングで、検出した可変搬送経路PLの経路長の、初期経路長からのズレ量を算出する。
【0074】
前回経路長記憶部806は、今回の糸の所定の長さ搬送タイミング(検出タイミング)で、検出した可変搬送経路PLの経路長を記憶しておき、次回の検出タイミングでその経路長が前回の経路長として参照される。
【0075】
経路長変化量算出部807は、今回の検出タイミングで検出した可変搬送経路PLの経路長の、前回の検出タイミングで検出した可変搬送経路PLの経路長から変化した長さ分を、前回からの経路長変化量として算出する。
【0076】
所定長さ搬送時間算出部810は、糸を所定長さ搬送する搬送時間を算出する。初回検出タイミングでは、搬送速度は初期値なので、所定長さ搬送時間は規定値になる。2回目以降は、前回(n-1回)の検出タイミングにおいて、搬送制御部809で調整する次回(n回)の搬送速度を基に、今回と前回の検出タイミング間に相当する、補正された搬送速度で上糸を規定長さ送るのに要する時間(以後、調整搬送時間とする)、を算出しておく。
【0077】
所定長さ毎想定糸消費量算出部811は、検出タイミング間における刺繍装置で使用される想定糸消費量を算出し、呼び出す糸消費量算出部である。詳しくは、所定長さ毎想定糸消費量算出部811は、刺繍装置2の想定糸消費量算出部504で算出された想定糸消費量のうち、今回の検出タイミングにおいて、所定長さ搬送時間算出部810で算出された次回の搬送期間が要する搬送時間(調整搬送時間)で、想定される上糸消費量(所定長さ送る間の刺繍装置2側での想定糸消費量)を算出する。また、前回の検出タイミングで算出された、今回の搬送期間(調整搬送時間)で想定される上糸消費量を、今回の検出タイミングで呼び出して、搬送速度補正値算出部808に出力する。
【0078】
搬送速度補正値算出部808は、初期経路長からのズレ量と、前回経路長からの変化量と、所定長さ毎想定糸消費量算出部811で算出された今回の調整搬送時間で想定される上糸消費量(前回と今回の検出タイミング間の想定糸消費量)を基に、今後の上糸の搬送速度の補正値を算出する。このように上糸の搬送速度を補正して、上糸の所定長さを送る搬送時間(調整搬送時間)を調整する。
【0079】
搬送制御部809は、染色中、1回目の検出タイミング以降は、搬送速度補正値算出部808で設定された補正値を反映するように上糸の搬送速度を設定する。また、搬送制御部809は、染色開始時、刺繍装置2において、刺繍データから予測される想定消費量を呼び出して、その想定消費量に応じた搬送量になるように搬送速度(初期値)を設定する。そして、搬送制御部809は、設定した搬送速度(初期値又は補正された搬送速度)で、入口側モータ68、中央モータ69を駆動制御する。なお、搬送速度補正値算出部808および搬送制御部809が搬送速度制御部として機能する。
【0080】
さらに、搬送制御部809による搬送速度の情報は、ロータリーエンコーダ613の信号情報とともに染色制御部815にも通知される。染色制御部815が、搬送速度に応じて、吐出ヘッド30Y~30Kに染色のための液体を吐出させるように、即ち、染色部103に、調整された搬送速度に合わせた染色速度で上糸を染色させるように、吐出ヘッド制御部816及びヘッドドライバ39を制御する。
【0081】
搬送所定長さ毎刺繍データ長算出部812は、今回の検出タイミングにおいて、刺繍装置2の現在刺繍位置把握部503のステッチ位置を呼び出して、今回の搬送期間(前回と今回の検出タイミング間)において刺繍装置2で使用された刺繍データ長を算出する。使用された刺繍データ長は、刺繍データ消費量ともいい、刺繍データの進行度を示す。
【0082】
刺繍データ長ズレ量算出部813は、搬送所定長さ毎刺繍データ長算出部812で算出された、今回の搬送期間における使用された刺繍データ長と、刺繍装置2の想定糸消費量算出部504で今回の搬送期間で想定される刺繍データ長とを比較して、刺繍データ長のズレ量を算出する。
【0083】
染色データ長補正値設定部814は、所定長さ毎想定糸消費量算出部811で算出され、呼び出した今回の調整搬送時間の間で想定される上糸消費量(今回と次回の検出タイミング間で使用される想定糸消費量)と、刺繍データ長ズレ量算出部813で算出された刺繍データ長のズレ量を基に、次回の染色データ長補正値を設定する。さらに、染色データ長補正値設定部814では、次回の検出タイミングまでの搬送期間で使用される染色データのデータ長の調整として、次回の糸の所定長さに対応する染色データ長の最初の部分を、増減補正するように設定する。染色データのデータ長の補正方法については、
図10とともに詳述する。
【0084】
染色データ調整部703は、所定長さに対応する染色データ長を、染色データ長補正値設定部814で設定した補正値で増減をして、データ長を補正した染色データを作成し、染色制御部815に出力する。
【0085】
染色制御部815は、染色データ調整部703から補正された染色データを受け取り、この染色データを基に吐出ヘッド30Y~30Kに対応するそれぞれの色毎の吐出データを生成するとともに、搬送速度に応じた吐出タイミングを調整する。
【0086】
ヘッド制御部816は、染色制御部815で生成した色毎の吐出データを、調整された吐出タイミングで出力してヘッドドライバ39を駆動制御する。
【0087】
ヘッドドライバ39は、吐出ヘッド30K~30Yの各ノズル31から搬送中の糸Nに対して、搬送速度に応じたタイミングでインクを吐出させるように、吐出ヘッド30K~30Yを駆動する。
【0088】
(フローチャート)
まず、
図7を用いて、本発明の染色装置1における染色時の全体の流れを説明する。
図7は、本発明における、染色の全体フローチャートである。
【0089】
ステップS11で、染色装置1は、刺繍装置2から刺繍イメージおよび刺繍データを取得する。
【0090】
ステップS12で、染色データ処理部107は、刺繍イメージおよび刺繍データを基に、染色データ(初期染色データ)を作成する。
【0091】
ステップS13で、第1制御例では、演算機構108は、調整のために染色データを分割する所定長さ(規定長さ)を設定する。この所定長さは第1制御例において、位置検出及びデータ調整のタイミングを規定するために使用される。
【0092】
ステップS14で、染色装置1は、刺繍装置2から想定糸消費量を取得する。
【0093】
S15で、演算機構108は、想定糸消費量を基に、搬送速度の初期値を設定する。
【0094】
また、ステップS16で、位置検出センサ60がダンサーローラ65の位置を検出して、演算機構108が、その位置を基に可変搬送経路PLの経路長を算出してその値を経路長の初期値として記憶する。
【0095】
なお、
図7では、S16の経路長の初期値の検出、算出はS12~S15の後に実施されている例を示しているが、S16の経路長の初期値の検出、算出は、S12~S15と並行して実施されてもよいし、あるいは、S12~S15の前に実施されてもよい。
【0096】
ステップS17で、S15で設定された搬送速度の初期値で糸の搬送を開始するとともに、染色データに基づいた染色動作、および刺繍データに基づいた刺繍動作を開始する。
【0097】
ステップS18で、染色動作中の制御を行う。染色動作中の制御については、
図8、
図11、
図13を用いて詳述する。
【0098】
ステップS19で、全染色データが終了するとともに、染色装置1における染色及び搬送動作と、刺繍動作を終了する。
【0099】
ここで、
図8、
図9、
図10を用いて、第1制御例における染色動作中の制御の詳細について説明する。
図8は、本発明の第1制御例における、染色動作中の制御に係る詳細フローチャートである。このフローチャートは、
図7のステップS18の詳細フローチャートである。
図9は、
図8のフローに沿った制御の具体例を示す表である。なお、
図8のフロー内の括弧内の数値は、
図9の行に対応している。
図10は、染色データの調整例を示す図である。
【0100】
図8のステップS701で、S17の染色開始による搬送開始の時点から、上糸を所定長さ(規定長さ)搬送したら、今回の検出タイミングに到達したとして、S702へ移行する。
【0101】
ステップS702で、今回の検出タイミングにおける搬送経路長を算出する。詳しくは、位置検出センサ60がダンサーローラ65の位置を検出することで、今回の検出タイミングでの可変搬送経路PLの経路長を算出する。
【0102】
ステップS703で、S702で算出した搬送経路長が、
図7のS16で設定した初期値と同じかどうか判断する。同じの場合(S703でYES)は、今回の搬送経路長が、初期値からのズレ量がないとしてS707へ進む。
【0103】
今回の搬送経路長が初期値と異なる場合は(S703でNO)は、ステップS704で今回の搬送経路長は初期値からのズレがあるとして、今回の搬送経路長の初期値からのズレ量を算出した後、S707へ進む。
【0104】
なお、
図9の6行目に示す経路長のズレ量の数値において、負の値は、位置検出センサ60が検出したダンサーローラ65の位置が初期値から上へ移動したことを意味し、正の値は、位置検出センサ60が検出したダンサーローラ65の位置が初期値から下へ移動したことを意味している。
【0105】
ステップS705で、S702で算出した搬送経路長が前回の検出タイミングで算出した搬送経路長と同じかどうか判断する。なお、1回目の検出タイミングでは、比較対象となる、前回の検出タイミングで算出した経路長は搬送経路長の初期値となり、2回目以降の検出タイミングでは、比較対象が1つ前の検出タイミングで算出した経路長となる。今回の経路長が前回と同じ場合(S705でYES)は、今回の搬送経路長が、前回から変化がないとしてS707へ進む。
【0106】
今回の搬送経路長が前回の搬送経路長と異なる場合は(S705でNO)は、ステップS706で今回の搬送経路長が前回から変化があるとして、今回の搬送経路長の前回の搬送経路長からの変化量を算出した後、S707へ進む。
【0107】
なお、
図9の7行目に示す経路長の変化量の数値において、負の値は、位置検出センサ60が検出したダンサーローラ65の位置が前回から上へ移動したことを意味し、正の値は、位置検出センサ60が検出したダンサーローラ65の位置が前回から下へ移動したことを意味している。
【0108】
ステップS707で、搬送経路長のズレ量および変化量の受け取りをトリガーとして、1回目の検出タイミングでは、初期値の搬送速度で搬送された今回の搬送期間における刺繍装置2で消費される上糸長さ(上糸消費量)を算出する。なお、2回目以降の検出タイミングでは、前回の検出タイミングの演算時に算出された、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量、を呼び出す(ステップS709参照)。そして、算出された、又は呼び出された今回搬送期間における刺繍装置で消費される上糸長さを、搬送速度補正値算出部808へ送る。
【0109】
なお、
図9では、S707の今回の搬送期間における上糸消費量の算出又は呼び出しが、S702~S706の後に実施されている例を示しているが、S707の上糸消費量の算出又は呼び出しは、S701での上糸の所定長さ搬送をトリガーとして、S702~S706と並行して実施されてもよいし、あるいは、S702~S706の前に実施されてもよい。
【0110】
ステップS708で、搬送速度補正値算出部808は、S704で算出した今回の搬送経路長の初期値からのズレ量、S706で算出した今回の搬送経路長の前回からの変化量、S707で算出した今回搬送期間の刺繍装置2での消費上糸長さ、に応じて、次回の検出タイミングまでの規定長さにおける糸の搬送速度を補正することで、上糸を規定長さ送るのに要する時間を調整する。
【0111】
ここで、
図9の表を例として、S708での糸の搬送速度の補正値の算出について説明する。本制御例では、糸を所定長さ搬送する毎に補正のための演算を行うため、次回検出までの糸搬送長さは常に一定である。
図9では、その所定の糸搬送長さを基準値「10」として1行目に示しており、その基準値10を例として下記説明する。
【0112】
上記、S708で算出する糸搬送速度補正値は、
図9の表の5行目の数値に示しており、下記の式で表せる。
糸搬送速度時間補正値=[A]+[B]
[A]=所定長さ送るのに要する時間(設定値)÷(刺繍機の上糸消費量(補正後予測値)+前回からの経路長の変化量)×前回からの経路長の変化量
[B]=所定長さ送るのに要する時間(設定値)÷(刺繍機の上糸消費量(補正後予測値)+前回からの経路長の変化量)×経路長の初期値からのズレ量
【0113】
また、糸搬送速度補正値の算出に使用する、S704で算出した今回の搬送経路長の初期値からのズレ量は、
図9の表の6行目の数値に対応し、S706で今回の搬送経路長の前回からの変化量は、
図9の表の7行目の数値に対応し、S707で算出した今回搬送期間の刺繍装置での消費上糸長さは、
図9の表の10行目の数値に対応している。
【0114】
そのため、
図9の5行目に示される、各回の検出タイミング後に設定される搬送速度補正値(上糸搬送時間補正値)は、
[(2行目の次回数値)/{(10行目の今回数値)+(6行目の今回数値)}×(6行目の今回数値)]+
[(2行目の次回数値)/{(10行目の今回数値)+(6行目の今回数値)}×(7行目の今回数値)]で算出される。
【0115】
図9の糸搬送速度補正値の数値について、上記計算式に当てはめて検討すると、
1回目の検出後に設定される搬送速度補正値は、[12/{10+(-0.2)}×(-0.2)]+[12/{10+(-0.2)}×(-0.2)]=-0.489796となる。
2回目の検出後に設定される搬送速度補正値は、[8/{9+0.1}×0.1]+[8/{9+0.1}×(-0.1)]=0となる。
3回目の検出後に設定される搬送速度補正値は、[10/{10+0.2}×(0.2)]+[10/{10+0.2}×0.1]=0.2941176となる。
4回目の検出後に設定される搬送速度補正値は、[8/{10.5+(-0.1)}×(-0.1)]+[8/{10.5+(-0.1)}×0]=-0.076923となる。
5回目の検出後に設定される搬送速度補正値は、[12/{9.7+0.1}×(0.1)]+[12/{9.7+0.1}×0.1]=0.244898となる。
【0116】
図8に戻り、ステップS709で、所定長さ毎想定糸消費量算出部811は、補正された搬送速度で上糸を規定長さ送るのに要する時間における次回搬送期間における刺繍装置2で想定される上糸消費量を算出する。即ち、所定長さ毎想定糸消費量算出部811は、次回のために調整された搬送速度で、所定長さ、該搬送速度に対応した時間、糸を搬送する今回と次回の検出タイミング間における、刺繍装置2で使用される想定糸消費量を算出する。
【0117】
ステップS710で、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量は、上糸の所定長さ、即ち所定の染色データ長と同じかどうか、判断する。同じの場合(S710でYES)は、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量は、上糸の規定長さと同じであるとして、S715へ進む。
【0118】
調整後上糸搬送量が上糸の規定長さと異なる場合(S710でNO)は、ステップS711へ進み、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量と上糸の規定長さとの差を算出し、S715へ進む。
【0119】
また、ステップS712で、S708~S711と並行して、今回と前回の検出タイミング間の今回搬送期間(補正された搬送速度に対応した搬送時間が経過した期間)における刺繍装置2での刺繍データ消費量を算出する。詳しくは、搬送所定長さ毎刺繍データ長算出部812は、その検出タイミングにおいて、刺繍装置2の現在刺繍位置把握部503のステッチ位置を呼び出して、刺繍データの進行度を示す使用された刺繍データ長(刺繍データ消費量)を算出する。
【0120】
ステップS713で、S712で算出した今回搬送期間で消費された刺繍データ長は想定された刺繍データ長と同じかどうか、即ち、刺繍位置は想定通りかを判断する。想定通りの場合は、今回搬送期間において刺繍装置で消費された刺繍データ長が想定通りとして、S715へ進む。
【0121】
ステップS714で、刺繍データ長ズレ量算出部813は、前回と今回の検出タイミング間である今回搬送期間において消費された刺繍データ長の、刺繍装置2で想定された糸消費量(刺繍データ長)からのズレ量を算出する。S714で算出する、使用された刺繍データ長のズレ量は、
図9の11行目で示しており、初回タイミングにおけるズレ量は、「-0.1」である。
【0122】
ステップS715で、S711で算出された次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量と上糸の規定長さとの差と、S714で算出された刺繍データ長の想定からのズレ量に応じて、次回搬送期間における染色データ補正値を算出する。
【0123】
上記、S715で算出する、染色データ長の補正値は、
図9の表の8行目の数値に示しており、下記の式で表せる。
染色データ長補正値={(規定長さ)-(次回調整搬送時間で想定される糸消費量)}-(消費された刺繍データ長のズレ)
【0124】
また、S715の算出で使用する、S711で算出された次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量と上糸の規定長さとの差は
図9の表の{(1行目の次回数値)-(10行目の次回数値)}で示され、S714で算出された、消費された刺繍データ長の想定からのズレ量は、
図9の表の11行目の今回数値に対応している。
【0125】
そのため、
図9の8行目に示される、各回の検出タイミング後に設定される染色データ補正値は表の、{(1行目の次回数値)-(10行目の次回数値)}-(11行目の今回数値)で算出される。
【0126】
図9において、上記計算式に当てはめて染色データ補正値を算出すると、
1回目の検出後に設定される染色データ補正値は、(10-9)-(-0.1)=1.1となる。
2回目の検出後に設定される染色データ補正値は、(10-10)-0=0となる。
3回目の検出後に設定される染色データ補正値は、(10-10.5)-0=-0.5となる。
4回目の検出後に設定される染色データ補正値は、(10-9.7)-0.2=0.1となる。
5回目の検出後に設定される染色データ補正値は、(10-10.1)-0=-0.1となる。
【0127】
なお、
図9では、6回分の検出と補正を示しているが、以降の制御でも同様にそれぞれの検出タイミングにおける、経路長、今回調整搬送時間で想定される糸消費量を用いて適宜次回の搬送速度を補正する。そして、その搬送速度を用いた次回調整搬送時間で想定される糸消費量と、今回消費された刺繍データ長のズレ量に応じて、適宜、および染色データ長を補正する。
【0128】
図8に戻り、ステップS716で、染色データ補正値に応じて、次回の搬送期間における染色データの補正を反映する。詳しくは、染色データ補正値に応じて、次回の搬送期間における、染色データの最初のデータを削除する、又は染色データの直前にダミーデータを追加する。
【0129】
ここで、
図10を参照して、染色データ長の調整方法について説明する。
図10において、(a)は、次回の想定上糸消費量が、上糸搬送規定長さよりも長い場合を示し、(b)は、次回の想定上糸消費量が、上糸搬送規定長さよりも短い場合を示す。次回の想定上糸消費量は、次回、補正された搬送速度で上糸を規定長さ送るのに要する時間(調整搬送時間)において、刺繍装置2で消費される想定糸長さを意味する。また、
図10では、今回の検出タイミングにおいて、使用された刺繍データ長のズレがない場合を示している。
【0130】
ここで、染色部103は、搬送速度に合わせて染色を行うため、上糸の規定長さ=基準染色データ長となる。
【0131】
図10(a)に示すように、次回の想定上糸消費量が、上糸搬送規定長さよりも短くなっていた場合に、次回の搬送期間において、染色データを追加する。詳しくは、調整された搬送速度で上糸が規定長さ搬送される次回の搬送期間において、染色データの先頭にダミーデータを追加する。ダミーデータは、次回のデータの最初の色と同じ色のデータである。
【0132】
一方、
図10(b)に示すように、次回の想定上糸消費量が、上糸搬送規定長さよりも長くなっていた場合に、次回の搬送期間において、染色データ長を減少させる。詳しくは、調整された搬送速度で上糸が規定長さ搬送される次回の搬送期間において、染色データの最初のデータを削除する。
【0133】
なお、このような染色データ長の補正は、複数の色が高頻度に短い長さ毎で切り替わる染色よりも、同じ色が、ある長さ以上(例えば、上糸搬送規定長さ以上)続く場合に有効である。
【0134】
図8に戻って、ステップS717で、次回の搬送期間において、調整された搬送速度での搬送、補正された染色データに基づいて、調整された搬送速度に合わせた染色速度での染色、刺繍データに基づいた刺繍を実施する。この際、必要に応じて、制御の反映として、搬送中の入口側ニップローラ61に対して、搬送速度の増減調整を反映して搬送するとともに、染色部103において、データ長を調整した染色データに基づいて染色動作を行う。
【0135】
そして、ステップS718で、上糸が規定長さ搬送されたら、即ち入口側ニップローラ61による搬送量が次の所定長さに到達したら、次回の検出タイミングに到達したとして、S702の前に戻り、今回の搬送期間と同様に、S702~S717を実施して、搬送速度の調整、及び染色データの補正を行って、それを反映する。そして、ステップS719で染色データが終了するまで、染色データ又は調整された染色データに沿った染色動作、搬送動作、刺繍動作を実行する。
【0136】
ステップS719で、全染色データが終了すると、
図7のS19に戻り、染色装置1における染色・搬送動作、および刺繍装置2における刺繍動作を終了する。
【0137】
このように、本制御例における染色装置では、上糸の規定長さ搬送をトリガーとして、搬送速度を調整することで、刺繍装置における上糸と下糸の速度差を解消しつつ、上糸の色の位置ずれを抑制することができる。さらに、調整された搬送速度を考慮して、次回の想定上糸消費量と、刺繍データ長の想定からのズレ量に応じて、所定長さ搬送毎に染色データ長を調整することで、刺繍として目立たないうちに、染色データの足りない分を補充して補正し、余ったデータを切り捨てて補正する。これにより、刺繍装置側の糸消費量と糸染色長さとの間で累積誤差を生じさせずに、刺繍装置における糸の色のズレ量を最小限にすることができる。
【0138】
(第2制御例)
図11は、本発明の第2制御例における、染色動作中の制御に係る詳細フローチャートである。上記第1制御例では、次回の想定上糸消費量の上糸搬送規定長さからのズレ量と、刺繍データ長のズレを使用して、染色データ長を補正したが、本制御例では、染色データ長の補正値設定において、累積値を使用する。以下、
図8との相違点のみ説明する。
【0139】
本制御例では、ステップS809で、所定長さ毎想定糸消費量算出部811は、補正された搬送速度で上糸を規定長さ送るのに要する時間における次回搬送期間までに、刺繍装置で想定される累積上糸消費量を算出する。詳しくは、所定長さ毎想定糸消費量算出部811は、次回のために調整された搬送速度で、所定長さ、該搬送速度に対応した時間、上記糸を搬送する今回と次回の検出タイミング間における刺繍装置で使用される想定糸消費量を、今回までの累積糸消費量に追加した、次回の検出タイミングまでの想定累積糸消費量を算出する。
【0140】
ステップS810で、次回搬送期間までに刺繍装置で想定される累積上糸消費量は、累積された上糸の所定長さ、即ち累積された所定の染色データ長と同じかどうか、判断する。同じの場合(S810でYES)は、次回搬送期間までに刺繍装置2で想定される累積上糸消費量は、累積された上糸の規定長さと同じであるとして、S815へ進む。
【0141】
次回までの累積上糸搬送量が、次回までに累積される上糸の規定長さと異なる場合(S810でNO)は、ステップS811へ進み、次回搬送期間までの刺繍装置2で想定される累積の上糸消費量と、次回までの累積の上糸の規定長さとの差を算出し、S815へ進む。
【0142】
ステップS815で、S811で算出された次回搬送期間における刺繍装置2で想定される上糸消費量と上糸の規定長さとの差と、S814で算出された刺繍データ長の想定からのズレ量に応じて、次回搬送期間における染色データ補正値を算出する。以降のフローは第1制御例と同様である。
【0143】
このように、本制御例における染色装置では、上糸の規定長さ搬送をトリガーとして、搬送速度を調整することで、刺繍装置における上糸と下糸の速度差を解消しつつ、上糸の色の位置ずれを抑制することができる。さらに、調整された搬送速度を考慮して、次回までの累積想定上糸消費量と、刺繍データ長の想定からのズレ量に応じて、所定長さ搬送毎に染色データ長を調整することで、刺繍として目立たないうちに、染色データの足りない分を補充して補正し、余ったデータを切り捨てて補正する。これにより、刺繍装置側の糸消費量と糸染色長さとの間で累積誤差を生じさせずに、刺繍装置における糸の色のズレ量を最小限にすることができる。
【0144】
(第3制御例)
図12は、第1実施形態の第3制御例の染色・刺繍システムの制御に係る部分の機能ブロック図である。上記第1制御例、第2制御例では、上糸が規定長さ搬送されたことを検出タイミングとしていたが、第3制御例では、規定時間経過を検出タイミングとして以後の制御を実施する。下記、
図6との差異点のみ説明する。
【0145】
また、第2制御例の演算機構108βは、規定時間設定部817、規定時間カウント部818、経路長算出部803、初期経路長記憶部804、経路長ズレ量算出部805、前回経路長記憶部806、経路長変化量算出部807、搬送速度補正値算出部808β、搬送制御部809β、規定時間毎糸搬送量算出部819、規定時間毎想定糸消費量算出部820、規定時間毎刺繍データ長算出部821、刺繍データ長ズレ量算出部813β、染色データ長補正値設定部814β、染色制御部815、及び吐出ヘッド制御部816を実行可能に有している。
【0146】
染色データ処理部107の染色データ調整部703と、演算機構108βの、規定時間設定部817、規定時間カウント部818、経路長算出部803、初期経路長記憶部804、経路長ズレ量算出部805、前回経路長記憶部806、経路長変化量算出部807、搬送速度補正値算出部808β、搬送制御部809β、規定時間毎糸搬送量算出部819、規定時間毎想定糸消費量算出部820、規定時間毎刺繍データ長算出部821、刺繍データ長ズレ量算出部813β、染色データ長補正値設定部814βは染色・搬送調整部βとして機能する。
【0147】
本発明の第3制御例の染色装置1では、位置検出センサ60による位置検出及びその検出に基づいた、次回の染色データのデータ長の調整は、規定時間毎に実行される。経路長検出の実行の基準となる規定時間は、演算機構108βの規定時間設定部817で設定される。あるいは、基準となる規定時間は、予め装置で規定されている時間に設定されていてもよい。
【0148】
規定時間カウント部818は、搬送開始時点又は前回検出タイミング時からの時間をカウントする。規定時間カウント部818は、カウントした時間が規定時間(所定時間)に到達したら、規定時間が到達する毎に、検出タイミングとして、位置検出センサ60に通知する。
【0149】
位置検出センサ60は規定時間毎に、ダンサーローラ65の上下位置を検出する。その検出結果を用いて、経路長算出部803、初期経路長記憶部804、経路長ズレ量算出部805、前回経路長記憶部806は、経路長変化量算出部807は、規定時間毎の搬送経路長を算出し、そこから規定時間毎の搬送経路長の初期値からのズレ量、規定時間毎の搬送経路長の前回からの変化量を算出する。
【0150】
規定時間毎糸搬送量算出部819は、今回の搬送期間である規定時間における糸搬送量を算出する。初回検出タイミングでは、搬送速度は初期値なので、規定時間毎糸搬送量は規定値になる。2回目以降は、前回(n-1回)の検出タイミングにおいて、搬送制御部809βで調整する次回(n回)の搬送速度を基に、今回の搬送期間において、補正された搬送速度で上糸を規定時間搬送した際の搬送量(搬送長さ)を算出しておく。
【0151】
規定時間毎想定糸消費量算出部820は、刺繍装置2の想定糸消費量算出部504で算出された想定糸消費量のうち、今回の検出タイミングにおいて、規定時間毎糸搬送量算出部819で算出された搬送量に対応する、想定される上糸消費量(規定時間糸を送る間の刺繍装置2側での想定糸消費量)を算出する。また、前回の検出タイミングで算出された、今回の搬送期間(規定時間)で想定される上糸消費量を、今回の検出タイミングで呼び出して、搬送速度補正値算出部808βに出力する。
【0152】
搬送速度補正値算出部808βは、初期経路長からのズレ量と、前回経路長からの変化量と、規定時間毎想定糸消費量算出部820で算出された今回の規定時間で想定される上糸消費量を基に、今後の上糸の搬送速度の補正値を算出する。このように本制御例では、上糸の搬送速度を補正することで、規定時間で搬送される糸の搬送長さを調整する。
【0153】
搬送制御部809βは、染色中、1回目の検出タイミング以降は、搬送速度補正値算出部808βで設定された補正値を反映するように上糸の搬送速度を設定する。
【0154】
規定時間毎刺繍データ長算出部821は、今回の検出タイミングにおいて、刺繍装置2の現在刺繍位置把握部503のステッチ位置を呼び出して、今回の規定時間である搬送期間における使用された刺繍データ長を算出する。
【0155】
刺繍データ長ズレ量算出部813βは、規定時間毎刺繍データ長算出部821で算出された、今回の搬送期間における使用された刺繍データ長と、刺繍装置2の想定糸消費量算出部504で今回の搬送期間で想定される刺繍データ長(現在刺繍位置)とを比較して、刺繍データ長のズレ量を算出する。
【0156】
染色データ長補正値設定部814は、規定時間毎想定糸消費量算出部820で算出された次回のために調整された搬送速度で、規定時間、該搬送速度に対応した長さの糸を搬送する今回と次回の検出タイミング間における、刺繍装置2で使用される想定糸消費量と、刺繍データ長ズレ量算出部813βで算出された刺繍データのズレ量を基に、次回の染色データ長補正値を設定する。
【0157】
そして、染色データ調整部703は、規定時間に対応する染色データ長を、染色データ長補正値設定部814βで設定した補正値で増減をして、データ長を補正した染色データを作成し、染色制御部815に出力する。そして、ヘッド制御部816、ヘッドドライバ39は、補正された染色データを用いて、吐出ヘッド30K~30Yに、規定時間毎に調整された搬送速度に合わせた染色速度で糸を染色させる。
【0158】
ここで、
図13、
図14を用いて、第3制御例における染色動作中の制御の詳細について説明する。
図13は、本発明の第3制御例における、染色動作中の制御に係る詳細フローチャートである。このフローチャートは、
図7のステップS18の詳細フローチャートである。
図14は、
図13のフローに沿った制御の具体例を示す表である。なお、
図13のフローの各工程の括弧内の数値は、
図14の行に対応している。
【0159】
第3制御例では規定時間経過のタイミングで、ダンサーローラ65の位置を検出し、経路長を算出するため、経路長を用いた、搬送速度、染色データの算出方法が
図8のフローとは異なる。また、
図13の詳細フローが適用される全体フローでは、染色動作前の準備として、
図7のS13の所定長さ設定に代えて、S13では規定時間を設定する。
【0160】
図13のステップS901で、S17の染色開始による搬送開始の時点から、規定時間搬送したら、今回の検出タイミングに到達したとして、S902へ移行する。
【0161】
ステップS902~S906は、
図8と同様に、搬送経路長と、その搬送経路長の初期値からのズレ量と、その搬送経路長の前回からの変化量を算出する。
【0162】
ステップS907で、搬送経路長のズレ量および変化量の受け取りをトリガーとして、1回目の検出タイミングでは、初期値の搬送速度で搬送された今回の搬送期間における刺繍装置2で消費される上糸長さを算出する。なお、2回目以降の検出タイミングでは、前回の検出タイミングの演算時に算出された、次回の搬送期間に対応する搬送長さに対して、刺繍装置で想定される上糸消費量、を呼び出す(ステップS909参照)。そして、算出された、又は呼び出された今回搬送期間における刺繍装置で消費される上糸長さを、搬送速度補正値算出部808βへ送る。
【0163】
ステップS908で、搬送速度補正値算出部808βは、S904で算出した今回の搬送経路長の初期値からのズレ量と、S906で算出した今回の搬送経路長の前回からの変化量と、S907で算出した今回搬送期間の刺繍装置2での消費上糸長さに応じて、次回の規定時間における糸の搬送速度を補正することで、規定時間で搬送される上糸の搬送長)を調整する。
【0164】
ここで、本制御例における、規定時間で搬送する上糸の搬送長さの補正値は下記式で算出される。
(糸搬送長さ補正値)=(経路長の初期値からのズレ量)+(経路長の前回からの変化量)
【0165】
また、S908における算出に使用する、S904で算出した今回の搬送経路長の初期値からのズレ量は、
図14の表の6行目の数値に対応し、S906で今回の搬送経路長の前回からの変化量は、
図14の表の7行目の数値に対応している。
【0166】
そのため、
図14において5行目に示される各回の検出タイミング後に設定される糸搬送長さ補正値は、{(6行目の今回数値)+(7行目の今回数値)}で算出される。
【0167】
図14の表の5行目で示す糸搬送長さ補正値の数値について、上記計算式に当てはめて検討すると、
1回目の検出後に設定される糸搬送長さ補正値は、(-0.2)+(-0.2)=-0.4、
2回目の検出後に設定される糸搬送長さ補正値は、(-0.1)+0.1=0、
3回目の検出後に設定される糸搬送長さ補正値は、0.1+0.2=0.3、
4回目の検出後に設定される糸搬送長さ補正値は、0+(-0.1)=-0.1、
5回目の検出後に設定される糸搬送長さ補正値は、0.1+0.1=0.2、となる。
【0168】
図13に戻り、ステップS909で、規定時間毎想定糸消費量算出部820は、補正された搬送速度で、上糸を規定時間、補正された搬送長さ分送る、次回の搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量(調整後上糸搬送量)を算出する。
【0169】
ステップS910で、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量は、補正された糸搬送長さと同じかどうか、判断する。同じ場合(S910でYES)は、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量は、補正された上糸の搬送長さと同じであるとして、S915へ進む。
【0170】
調整後上糸搬送量が、補正された上糸の搬送長さと異なる場合(S910でNO)は、ステップS911へ進み、次回搬送期間における刺繍装置で想定される上糸消費量と、補正された上糸の搬送長さとの差を算出した後、S915へ進む。
【0171】
また、ステップS912で、S908~S911と並行して、今回と前回の検出タイミング間の規定時間における刺繍装置2での刺繍データ消費量を算出する。
【0172】
ステップS913で、S912で算出した今回の搬送期間で消費された刺繍データ長は想定された刺繍データ長(
図14の10行目)と同じかどうか、即ち、刺繍位置は想定通りかを判断する。想定通りの場合は、今回搬送期間において刺繍装置で消費された刺繍データ長が想定通りとして、S915へ進む。
【0173】
ステップS914で、刺繍データ長ズレ量算出部813βは、今回の搬送期間において消費された刺繍データ長の、刺繍装置2で想定された糸消費量(刺繍データ長)からのズレ量を算出する。S914で算出する、使用された刺繍データ長のズレ量は、
図14の11行目で示しており、初回タイミングにおけるズレ量は、「-0.1」である。
【0174】
ステップS915で、染色データ長補正値設定部814βは、S911で算出された次回搬送期間における刺繍装置2で想定される上糸消費量と、補正された上糸の搬送長さとの差と、S914で算出された刺繍データ長の想定からのズレ量に応じて、次回搬送期間における染色データ補正値を算出する。
【0175】
上記、S915で算出する、染色データ長の補正値は、
図14の表の8行目の数値に示しており、下記の式で表せる。
染色データ補正値=(補正後糸搬送長さ)-(補正後糸搬送長さを搬送する際に想定される上糸消費量(補正後予測値)-(刺繍機のデータ消費量の想定からのズレ)
【0176】
また、S915における算出に使用する、(補正後糸搬送長さ)は、
図14の3行目の数値に対応し、(補正後糸搬送長さを搬送する際に想定される上糸消費量(補正後予測値)は、10行目の数値に対応し、(刺繍機のデータ消費量の想定からのズレ)は11行目の数値に対応する。
【0177】
そのため、
図14において、5行目に示される各回の検出タイミング後の上糸搬送長さ補正後、に設定される染色データ補正値は、(3行目の次回数値)-(10行目の次回数値)-(11行目の今回数値)}で算出される。
【0178】
図14の表の染色データ補正値の数値について、上記計算式に当てはめて検討すると、
1回目の検出後に設定される染色データ補正値は、9.4-9-(-0.1)=0.5、
2回目の検出後に設定される染色データ補正値は、9-9-0=0、
3回目の検出後に設定される染色データ補正値は、10.7-11-0=-0.3、
4回目の検出後に設定される染色データ補正値は、11.1-11-(0.2)=-0.5、
5回目の検出後に設定される染色データ補正値は、10.2-10-0=0.2、となる。
【0179】
なお、
図14では、6回分の検出と補正を示しているが、以降の制御でも同様にそれぞれの規定時間毎の検出タイミングにおける、経路長、今回規定時間で想定される糸消費量を用いて適宜次回の糸搬送長さを補正する。そして、その糸搬送長さを用いた次回の搬送期間で想定される糸消費量と、刺繍データ消費量のズレに応じて、適宜、染色データ長を補正する。
【0180】
図8に戻り、ステップS916で、染色データ補正値に応じて、次回の搬送期間における染色データの補正を反映する。詳しくは、染色データ補正値に応じて、次回の搬送期間における、染色データの最初のデータを削除する、又は染色データの直前にダミーデータを追加する。
【0181】
ここで、染色データ長=糸搬送長さであるため、本制御例では、糸搬送長さと同じ長さの染色データに対して、染色データ補正値に応じて、次回の染色データを増減する。
図14では、3行目に示す次回の補正後の糸搬送長さに対して、8行目の染色データ補正値を加えた値が、4行目に示す次回の補正後染色データ長となる。
【0182】
ステップS917で、次回の搬送期間において、調整された搬送速度での搬送、補正された染色データに基づいて、調整された搬送速度に合わせた染色速度での染色、刺繍データに基づいた刺繍を実施する。
【0183】
そして、ステップS918で、S902から規定時間が経過したら、次回の検出タイミングに到達したとして、S902の前に戻り、今回の搬送期間と同様に、S902~S917を実施して、搬送速度の調整、及び染色データの補正を行って、それを反映する。そして、ステップS919で染色データが終了するまで、染色データ又は調整された染色データに沿った染色動作、搬送動作、刺繍動作を実行する。
【0184】
ステップS919で、全染色データが終了すると、
図7のS19に戻り、染色装置1における染色・搬送動作、および刺繍装置2における刺繍動作を終了する。
【0185】
このように、本制御例における染色装置では、規定時間をトリガーとして、経路長を算出して、規定時間における糸搬送長を調整することで、刺繍装置における上糸と下糸の速度差を解消しつつ、上糸の色の位置ずれを抑制することができる。さらに、調整された搬送速度を考慮して、次回の想定上糸消費量と、刺繍データ長の想定からのズレ量に応じて、規定時間毎に染色データ長を調整することで、刺繍として目立たないうちに、染色データの足りない分を補充して補正し、余ったデータを切り捨てて補正する。これにより、刺繍装置側の糸消費量と糸染色長さとの間で累積誤差を生じさせずに、刺繍装置における糸の色のズレ量を最小限にすることができる。
【0186】
<第2実施形態>
図15は、本発明の第2実施形態に係る、インライン型の染色・刺繍装置の側面概略図である。
【0187】
図15を参照して、本実施形態に係る染色・刺繍装置1000は、インライン型の染色・刺繍装置であり、染色ユニット100と、刺繍ユニット110と、を備えている。
【0188】
本実施形態では、同一の装置内において、染色ユニット100と、刺繍ユニット110が設けられているため、
図6、
図7に示した演算機構108,25の機能を、1つの演算装置にまとめることができる。
【0189】
<第3実施形態>
図16は、本発明の第3実施形態に係る、染色装置と、刺繍装置と、上位制御装置を含む染色・刺繍システム3Aの側面概略図である。本実施形態では、
図1に示す染色・刺繍システム3の構成に加えて、上位制御装置4を有している。
【0190】
図17は、第3実施形態の染色・刺繍システム3Aにおける、染色・搬送の制御に係る機能ブロック図である。
図17の制御構成では、
図6に示す機能ブロックと比較して、上位制御装置4において、染色装置1Aの染色データ処理部107の機能と、演算機構108の一部の機能、及び刺繍装置2Aの演算機構25の一部の機能を実施させている。なお、
図6と名称が同じ部材は機能が同じのため、説明は適宜割愛する。
【0191】
上位制御装置4は、刺繍イメージ取得部41と、染色データ編集部42と、刺繍データ作成部43と、演算部44と、を有している。
【0192】
刺繍イメージ取得部41は、例えば外部機器との通信部又は操作パネルであって、刺繍データの元となる刺繍イメージ(刺繍ファイル)を取得して、染色データ編集部42及び刺繍データ作成部43に出力する。
【0193】
染色データ編集部42は、染色データ作成部201、及び染色データ調整部202を有しており、染色装置1の染色データ処理部107と同様の機能を有している。染色データ編集部42は、刺繍イメージ・刺繍データを基に染色データ(初期刺繍データ)を作成し、場合に応じて経路長を考慮して所定搬送長さ毎に、データ長を調整するように編集した染色データを、染色制御部815に出力する。
【0194】
刺繍データ作成部43は、刺繍イメージに基づいて、刺繍データを作成する。
【0195】
演算部44は、所定長さ設定部401、初期経路長記憶部404、経路長ズレ量算出部405、前回経路長記憶部406、経路長変化量算出部407、搬送速度補正値算出部408、搬送制御部409、所定長さ搬送時間算出部410、所定長さ毎想定糸消費量算出部411、搬送所定長さ毎刺繍データ長取得部412、刺繍データ長ズレ量算出部413、及び染色データ長補正値設定部414を有している。
【0196】
上位制御装置4の染色データ編集部42の染色データ調整部202と、演算部44の所定長さ設定部401、初期経路長記憶部404、経路長ズレ量算出部405、前回経路長記憶部406、経路長変化量算出部407、搬送速度補正値算出部408、搬送制御部409、所定長さ搬送時間算出部410、所定長さ毎想定糸消費量算出部411、搬送所定長さ毎刺繍データ長取得部412、刺繍データ長ズレ量算出部413、及び染色データ長補正値設定部414、および染色装置1Aの搬送所定長さカウント部803、経路長算出部803は、染色・搬送調整部γとして機能する。
【0197】
本実施形態では、染色装置1Aの演算機構108Aは、搬送所定長さカウント部802と、経路長算出部803と、染色制御部815と、ヘッド制御部816を有している。また、本実施形態の刺繍装置2Aの演算機構25Aは、ステッチ速度算出部と、現在刺繍位置把握部とを有している。なお、
図22では、第1制御例と同様の制御をする場合の機能ブロック図を示しているが、第3制御例と同様の制御をする場合は、上位制御装置4に規定時間設定部、規定時間カウント部、規定時間毎糸搬送量算出部、規定時間毎糸消費量算出部、規定時間毎刺繍データ長算出部が設けられる。
【0198】
このような構成の染色・刺繍システムでは、上位制御装置4は刺繍データを作成し、刺繍データを刺繍装置2Aに送る。そして、刺繍装置2Aはステッチ速度の設定値と刺繍時の刺繍位置の情報を上位制御装置4に送る。また、染色装置1Aは上位制御装置4から染色データと糸搬送速度の情報を受け取り、染色した長さと補正するための経路長の情報を上位制御装置4に送る。
【0199】
本システムにおいても、刺繍装置2Aの動作に応じて可変搬送経路PLにおいて経路長が変化することを前提として、所定長さ搬送又は規定時間をトリガーとして経路長を算出し、可変搬送経路PLにおける糸の搬送速度を調整するとともに、さらに染色装置1における次回の染色データのデータ長を補正する。よって、刺繍装置側の糸消費量と糸染色長さの間に累積誤差を生じさせずに、目立たないうちに補正することで、刺繍装置における糸の色のズレ量を最小限にすることができる。これにより、糸の経路長を調整可能な染色・刺繍装置において、色が変化する連続した糸を用いた場合でも、糸の経路長の調整量に起因する布上の刺繍の色の位置ずれを抑制できる。
【0200】
以上により、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されるものではない。また、本発明は、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更することが可能である。
【符号の説明】
【0201】
1,1A 染色装置
2,2A 刺繍装置
3,3A 染色・刺繍システム
4 上位制御装置
21 針
22 下糸回転体
29 ステッチカウンタ
60 位置検出センサ(位置検出手段)
61 入口側ニップローラ
65 ダンサーローラ
66 出口側ニップローラ
100 染色ユニット
101 上糸糸巻(糸供給部材)
103 染色部(染色部、液体吐出式の染色部)
106 経路長可変搬送部
108,108β 演算機構
703 染色データ調整部
803 経路長算出部
805 経路長ズレ量算出部
807 経路長変化量算出部
805 経路長ズレ量算出部
809,809β 搬送制御部
811 所定長さ毎想定糸消費量算出部(糸消費量算出部)
813,813β 刺繍データ長ズレ量算出部
820 規定時間毎想定糸消費量算出部(糸消費量算出部)
202 染色データ調整部
405 経路長ズレ量算出部
407 経路長変化量算出部
409 搬送制御部
411 所定長さ毎想定糸消費量算出部(糸消費量算出部)
413 刺繍データ長ズレ量算出部
1000 染色・刺繍装置
B 下糸
C 布
N 上糸
PL 可変搬送経路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0202】