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特許7593310絶縁膜形成装置用トレー、絶縁膜形成装置および絶縁膜形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】絶縁膜形成装置用トレー、絶縁膜形成装置および絶縁膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20241126BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20241126BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20241126BHJP
   H01L 21/673 20060101ALI20241126BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01L21/31 B
H01L21/316 X
H01L21/318 B
H01L21/68 U
C23C16/458
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021212944
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096901
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 悠平
(72)【発明者】
【氏名】行本 靖史
(72)【発明者】
【氏名】品川 正行
(72)【発明者】
【氏名】草場 辰己
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-115840(JP,A)
【文献】特表2007-518249(JP,A)
【文献】特開平01-246822(JP,A)
【文献】特開2012-033574(JP,A)
【文献】国際公開第2011/070741(WO,A1)
【文献】特開2008-171996(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/318
H01L 21/673
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの裏面に絶縁膜を形成する絶縁膜形成装置において前記半導体ウェーハを載置するトレーであって、
半導体ウェーハを載置するトレー本体を備え、
前記トレー本体は、
前記トレー本体の上面に設けられた、前記半導体ウェーハを収容する円柱状の凹部と、
前記凹部に設けられた、内径が前記半導体ウェーハの直径より小さく、かつ外径が前記半導体ウェーハの直径よりも大きい環状溝と、
を有することを特徴とする絶縁膜形成装置用トレー。
【請求項2】
前記トレー本体は、前記環状溝内に、前記トレー本体を構成する材料よりも低い熱伝導率を有する材料で構成された低熱伝導部材が配置されている、請求項1に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【請求項3】
前記低熱伝導部材は、環状部材または複数のブロック状部材からなる、請求項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【請求項4】
前記環状部材の幅は前記環状溝の幅よりも小さく、前記環状部材の幅と前記環状溝の幅との差は1mm以上2mm以下である、請求項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【請求項5】
前記トレー本体は炭化シリコンで構成されており、前記低熱伝導部材は石英で構成されている、請求項~4のいずれか一項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【請求項6】
前記環状溝の内径と前記半導体ウェーハの直径との差は10mm以上20mm以下であり、かつ前記環状溝の外径と前記半導体ウェーハの直径との差は1mm以上16mm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【請求項7】
半導体ウェーハの裏面に絶縁膜を形成する装置であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載のトレーと、
前記トレーの上方に配置され、前記絶縁膜の原料ガスを前記トレー上に載置された前記半導体ウェーハの裏面に向かって供給する原料ガス供給部と、
前記トレーの下方に配置され、前記半導体ウェーハを加熱するヒーターと、
を備えることを特徴とする絶縁膜形成装置。
【請求項8】
前記トレーを複数備え、前記トレー本体の下部に搬送コロが設けられており、
前記複数のトレーを前記原料ガス供給部と前記ヒーターとの間に搬送して、前記絶縁膜の形成を複数枚の半導体ウェーハに対して連続的に行うことができるように構成されている、請求項7に記載の絶縁膜形成装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の絶縁膜形成装置の前記トレー上に半導体ウェーハの裏面側を上に向けて載置し、次いで前記半導体ウェーハを前記原料ガス供給部と前記ヒーターとの間に配置した後、前記ヒーターにより前記半導体ウェーハを所定の温度に加熱した状態で、前記原料ガス供給部から前記絶縁膜の原料ガスを供給して、前記半導体ウェーハの裏面上に絶縁膜を形成することを特徴とする絶縁膜形成方法。
【請求項10】
前記半導体ウェーハはシリコンウェーハである、請求項9に記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項11】
前記絶縁膜は酸化膜である、請求項9または10に記載の絶縁膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜形成装置用トレー、絶縁膜形成装置および絶縁膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、パワートランジスタおよび裏面照射型固体撮像素子等の種々の半導体デバイスにおいて、シリコンウェーハなどの半導体ウェーハ上にシリコンなどのエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルウェーハを基板として用いるのが一般的である。
【0003】
例えば、エピタキシャルシリコンウェーハは、枚葉式のエピタキシャル成長炉内にシリコンウェーハを配置し、ジクロロシランガスやトリクロロシランガス等の原料ガスを、水素ガス等のキャリアガスとともにエピタキシャル成長炉内に供給し、シリコンウェーハ上にシリコンエピタキシャル層を成長させることにより得ることができる。
【0004】
ところで、低抵抗率の半導体ウェーハ上に高抵抗率のエピタキシャル層を形成する場合などにおいて、半導体ウェーハの裏面などから半導体ウェーハ内のドーパントが気相中に飛び出し、エピタキシャル層に取り込まれる、いわゆるオートドープが発生しやすい。そのため、エピタキシャル層の成長に先立って、半導体ウェーハの裏面上に、オートドープを抑制する保護膜として、酸化膜などの絶縁膜を形成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記絶縁膜の形成は、例えば化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、CVD)法により形成させることができる。例えば、常圧にてCVDを行う常圧CVD法においては、絶縁膜を形成する面(すなわち、裏面)側を上に向けて半導体ウェーハをトレーに載置した後、半導体ウェーハを加熱した状態で、絶縁膜の原料ガスを半導体ウェーハ上に供給することにより、絶縁膜を半導体ウェーハの裏面上に形成する。
【0006】
上記従来法では、絶縁膜の原料ガスがウェーハのおもて面の外縁まで回り込むため、絶縁膜は、半導体ウェーハの裏面からウェーハ端面、そして半導体ウェーハのおもて面の外縁にわたって形成される。一方、裏面の外縁からウェーハ端面、そしておもて面の外縁にわたるウェーハ外周部に絶縁膜が形成された半導体ウェーハ上にエピタキシャル層を形成すると、ウェーハ外周部にクラックが発生し、エピタキシャル層が異常成長、いわゆるノジュールが発生する場合がある。そのため、従来法によりウェーハ裏面上に絶縁膜を形成した場合には、その後ウェーハ外周部に形成された絶縁膜を除去している。上記ウェーハ外周部の絶縁膜は、拭き取り法により、フッ酸(HF)液等の除去液を染み込ませたノズルを用いて、拭き取って除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/070741号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記拭き取り法によるウェーハ外周部の絶縁膜の除去おいては、除去液がウェーハ外周部の絶縁膜のみならず、ウェーハ裏面の絶縁膜の一部にも染みこむ、いわゆる「にじみ」が発生する場合がある。こうしたにじみが発生すると、半導体ウェーハは不良品となり、エピタキシャルウェーハの基板として使用することはできない。そのため、形成した絶縁膜を一旦除去した後、再度絶縁膜を形成する必要があり、生産性が低下する問題がある。
【0009】
上述のようなにじみの発生を抑制するためには、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制することが好ましい。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、半導体ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制しつつ、半導体ウェーハ裏面上に絶縁膜を形成することができる、絶縁膜形成装置用トレーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]半導体ウェーハの裏面に絶縁膜を形成する絶縁膜形成装置において前記半導体ウェーハを載置するトレーであって、
半導体ウェーハを載置するトレー本体を備え、
前記トレー本体は、
前記トレー本体の上面に設けられた、前記半導体ウェーハを収容する円柱状の凹部と、
前記凹部に設けられた、内径が前記半導体ウェーハの直径より小さく、かつ外径が前記半導体ウェーハの直径よりも大きい環状溝と、
を有することを特徴とする絶縁膜形成装置用トレー。
【0012】
[2]前記トレー本体は、前記環状溝内に、前記トレー本体を構成する材料よりも低い熱伝導率を有する材料で構成された低熱伝導部材が配置されている、前記[1]に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【0013】
[3]前記低熱伝導部材は、環状部材または複数のブロック状部材からなる、前記[1]または[2]に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【0014】
[4]前記トレー本体は炭化シリコンで構成されており、前記低熱伝導部材は石英で構成されている、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【0015】
[5]前記環状溝の内径と前記半導体ウェーハの直径との差は10mm以上20mm以下であり、かつ前記環状溝の外径と前記半導体ウェーハの直径との差は1mm以上16mm以下である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【0016】
[6]前記環状部材の幅は前記環状溝の幅よりも小さく、前記環状部材の幅と前記環状溝の幅との差は1mm以上2mm以下である、前記[3]~[5]のいずれか一項に記載の絶縁膜形成装置用トレー。
【0017】
[7]半導体ウェーハの裏面に絶縁膜を形成する装置であって、
前記[1]~[6]のいずれか一項に記載のトレーと、
前記トレーの上方に配置され、前記絶縁膜の原料ガスを前記トレー上に載置された前記半導体ウェーハの裏面に向かって供給する原料ガス供給部と、
前記トレーの下方に配置され、前記半導体ウェーハを加熱するヒーターと、
を備えることを特徴とする絶縁膜形成装置。
【0018】
[8]前記トレーを複数備え、前記トレー本体の下部に搬送コロが設けられており、
前記複数のトレーを前記原料ガス供給部と前記ヒーターとの間に搬送して、前記絶縁膜の形成を複数枚の半導体ウェーハに対して連続的に行うことができるように構成されている、前記[7]に記載の絶縁膜形成装置。
【0019】
[9]前記[7]または[8]に記載の絶縁膜形成装置の前記トレー上に半導体ウェーハの裏面側を上に向けて載置し、次いで前記半導体ウェーハを前記原料ガス供給部と前記ヒーターとの間に配置した後、前記ヒーターにより前記半導体ウェーハを所定の温度に加熱した状態で、前記原料ガス供給部から前記絶縁膜の原料ガスを供給して、前記半導体ウェーハの裏面上に絶縁膜を形成することを特徴とする絶縁膜形成方法。
【0020】
[10]前記半導体ウェーハはシリコンウェーハである、前記[9]に記載の絶縁膜の形成方法。
【0021】
[11]前記絶縁膜は酸化膜である、前記[9]または[10]に記載の絶縁膜形成方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、半導体ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制しつつ、半導体ウェーハ裏面上に絶縁膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による絶縁膜形成装置用トレーの好適な一例を示す図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(b)において一点鎖線で囲まれた領域Cの拡大図である。
図2】本発明による絶縁膜形成装置の一例を示す図である。
図3】発明例に用いたトレーの詳細を示す図である。
図4】実施例における環状溝の内径とウェーハ外周部との位置関係を説明する図であり、(a)は比較例、(b)は発明例2、(c)は発明例4に関するものである。
図5】環状溝の内径と、測定ポイントでの酸化膜の厚みとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(絶縁膜形成装置用トレー)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。半導体ウェーハは、デバイスが形成される平坦面であるおもて面と、おもて面とは反対側の平坦面である裏面と、おもて面および裏面のウェーハ径方向外側に位置しておもて面の外縁と裏面の外縁とを接続するウェーハ端面とを有する。本発明による絶縁膜形成装置用トレーは、半導体ウェーハの裏面に絶縁膜を形成する絶縁膜形成装置において半導体ウェーハを載置するトレーであり、半導体ウェーハを載置するトレー本体を備える。ここで、トレー本体は、トレー本体の上面に設けられた、半導体ウェーハを収容する円筒形の凹部と、上記凹部に設けられた、内径が半導体ウェーハの直径より小さく、かつ外径が半導体ウェーハの直径よりも大きい環状溝とを有することを特徴とする。
【0025】
上述のように、従来の絶縁膜形成装置においては、絶縁膜を形成する面、すなわち裏面側を上に向けてトレーに載置し、半導体ウェーハの上方から原料ガスを供給して半導体ウェーハ裏面上に絶縁膜を形成する。その際、半導体ウェーハ裏面のみならず、ウェーハ端面からおもて面にわたって絶縁膜が形成される。そして、裏面の外縁からウェーハ端面、そしておもて面の外縁にわたるウェーハ外周部に形成された絶縁膜はノジュールの原因となるため、除去する必要が生じる。
【0026】
本発明者らは、上述のような、半導体ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制する方途について鋭意検討した。その過程で、半導体ウェーハを載置するトレーに着目し、トレーの母体であるトレー本体の上面に、半導体ウェーハを収容する円筒形の凹部を設け、この凹部に、内径が半導体ウェーハの直径より小さく、かつ外径が半導体ウェーハの直径よりも大きい環状溝を設けることに想到した。そして、このように構成したトレーに半導体ウェーハを絶縁膜を形成する裏面側を上に向けて載置し、半導体ウェーハの上方から原料ガスを供給して絶縁膜を形成することにより、半導体ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制することができることを見出し、本発明を完成させたのである。以下、本発明による絶縁膜形成装置用トレーについて詳しく説明する。
【0027】
図1は、本発明による絶縁膜形成装置用トレーの好適な一例を示しており、(a)は上面図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(b)において一点鎖線で囲まれた領域Cの拡大図である。図1に示した絶縁膜形成装置用トレー1は、トレー1の母体を構成するトレー本体11を備える。トレー本体11の上面11aおよび下面11bは、ともに平坦である。また、トレー本体11は、トレー本体11の上面11aに設けられた、半導体ウェーハを収容する円筒形の凹部11cと、凹部11cに設けられた、内径が半導体ウェーハの直径より小さく、かつ外径が半導体ウェーハの直径よりも大きい環状溝11dとを有する。
【0028】
トレー本体11は、絶縁膜を形成する際の温度に対する耐熱性および耐変形性を有し、半導体ウェーハを汚染させない材料で構成することが好ましい。例えば、トレー本体11は、炭化シリコンを焼結したもの、焼結炭化シリコンの表面を炭化シリコン膜で被覆したもので構成することができる。
【0029】
トレー本体11のサイズは、載置する半導体ウェーハの直径、枚数、トレー本体11を構成する材料などに応じて、適切に設定することができる。
【0030】
凹部11cの直径は、環状溝11dの外径以上であり、環状溝11dの外径と同じにすることができる。また、凹部11cの深さは、半導体ウェーハの厚み以上とすることが好ましい。これにより、トレー1(トレー本体11)が半導体ウェーハを良好に保持することができる。
【0031】
環状溝11dは、上記凹部11cに設けられ、内径が半導体ウェーハの直径より小さく、かつ外径が半導体ウェーハの直径よりも大きく構成されている。環状溝11dの内径を半導体ウェーハの直径よりも小さくすることにより、半導体ウェーハと凹部11cの底面との接触面積が減少し、トレー本体11から半導体ウェーハ外周部に伝わる熱が低減されてウェーハ外周部の温度上昇が抑制され、半導体ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制することができる。また、環状溝11dの外径を半導体ウェーハの直径よりも大きくすることにより、ウェーハ外周部の下方に空間が形成され、トレー本体11からウェーハ外周部への輻射熱が抑制されてウェーハ外周部の温度上昇が抑制され、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制することができる。
【0032】
具体的には、環状溝11dの内径と半導体ウェーハの直径との差は、10mm以上20mm以下とすることが好ましい。環状溝11dの内径と半導体ウェーハの直径との差を10mm以上とすることにより、ウェーハ外周部に伝わる熱を減少させて、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制する効果を向上させることができる。また、環状溝11dの内径と半導体ウェーハの直径との差を20mm以下とすることにより、絶縁膜の形成が抑制される半導体ウェーハ外周部の領域の幅を所望の値とすることができる。
【0033】
また、環状溝11dの外径と半導体ウェーハの直径との差は、1mm以上16mm以下とすることが好ましい。環状溝11dの外径と半導体ウェーハの直径との差を1mm以上とすることにより、トレー本体11からウェーハ外周部への輻射熱が抑制されてウェーハ外周部の温度上昇が抑制され、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制する効果を向上させることができる。環状溝11dの外径と半導体ウェーハの直径との差が大きいほど、トレー本体11からウェーハ外周部への輻射熱を抑制する効果が大きい。そのため、上記輻射熱を抑制する効果の点では環状溝11dの外径と半導体ウェーハの直径との差の上限はないが、トレー本体11のサイズによる制約などから、16mm以下とすることが好ましい。
【0034】
環状溝11dの深さは、トレー本体11の厚みよりも浅くし、4mm以下とすることが好ましい。これにより、トレー本体11の強度を保つことができる。また、環状溝11dの深さは、2mm以上とすることが好ましい。これにより、トレー本体11からウェーハ外周部への輻射熱が抑制されてウェーハ外周部の温度上昇が抑制され、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制する効果を向上させることができる。
【0035】
このような構成を有するトレー1の上に、半導体ウェーハを、絶縁膜を形成する裏面側を上に向け、凹部11cに収容して載置し、ヒーターによりトレー1および半導体ウェーハを所定の温度に加熱した状態で、原料ガスを半導体ウェーハの上方から供給する。すると、凹部11cに設けられた環状溝11dの内径は半導体ウェーハの直径よりも小さいため、半導体ウェーハとトレー本体11との接触面積が低減されてトレー本体11からウェーハ外周部に伝わる熱が低減される。また、環状溝11dの空間により、ウェーハ外周部にトレー本体11から直接熱が伝わらないため、ウェーハ外周部の温度上昇が抑制される。こうして、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制することができる。
【0036】
上記本発明において、図1に示すように、環状溝11d内に、トレー本体11を構成する材料よりも低い熱伝導率を有する材料で構成された低熱伝導部材12が配置されていることが好ましい。これにより、環状溝11d底部のトレー本体11からの輻射熱が低減され、ウェーハ外周部に伝わる熱がより低減されて、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制する効果を向上させることができる。
【0037】
低熱伝導部材12は、図1に示したように、環状溝11dに嵌合する大きさおよび形状を有する環状部材で構成することができるし、環状溝11dに収容可能な複数のブロック状部材で構成することもできる。ブロック状部材は、球や直方体など任意の形状を有する。環状部材は、1つの環状部材を環状溝11d内に配置してもよいし、複数の環状部材を積層して環状溝11d内に配置することもできる。また、ブロック状部材は、環状溝11d内に敷き詰めて配置することができる。中でも、ウェーハ外周部への輻射熱の抑制効果をウェーハ周方向に均一に得られることから、低熱伝導部材12は、環状部材で構成することがより好ましい。
【0038】
低熱伝導部材12を構成する材料は、トレー本体11を構成する材料よりも低い熱伝導率を有するものであれば特に限定されない。例えば、トレー本体11が炭化シリコンで構成されている場合には、低熱伝導部材12は、石英やアルミナ、イットリアなどで構成することができる。中でも、半導体ウェーハを汚染させない材料であることから、低熱伝導部材12は石英で構成することが好ましい。
【0039】
低熱伝導部材12を環状部材で構成する場合、その幅(すなわち、低熱伝導部材12の外径と内径との差の1/2)は、環状溝11dの幅(すなわち、環状溝11dの外径と内径との差の1/2)よりも小さく、それらの差が1mm以上2mm以下であることが好ましい。低熱伝導部材12の幅と環状溝11dの幅との差を1mm以上とすることにより、低熱伝導部材12と環状溝11dとの間に十分な隙間が形成され、低熱伝導部材12を環状溝11dに容易に載置することができる。また、低熱伝導部材12の幅と環状溝11dの幅との差を2mm以下とすることにより、トレー本体11から半導体ウェーハに伝わる輻射熱を抑制する効果を向上させることができる。
【0040】
また、低熱伝導部材12の厚みは、1mm以上、環状溝11dの深さ以下であることが好ましい。低熱伝導部材12の厚みを1mm以上とすることにより、トレー本体11から半導体ウェーハ外周部に伝わる輻射熱を抑制することができる。また、低熱伝導部材12の厚みを環状溝11dの深さ以下とすることにより、低熱伝導部材12が半導体ウェーハに接触しないため、半導体ウェーハ外周部の温度上昇を抑制する効果を向上させることができる。なお、低熱伝導部材12を複数の環状部材を積層して構成する場合には、上記厚みは複数の環状部材の合計の厚みを意味する。
【0041】
(絶縁膜形成装置)
本発明による絶縁膜形成装置は、半導体ウェーハの裏面に絶縁膜を形成する装置であって、上述した本発明による絶縁膜形成装置用トレーと、トレーの上方に配置され、絶縁膜の原料ガスをトレー上に載置された半導体ウェーハの裏面に向かって供給する原料ガス供給部と、トレーの下方に配置され、半導体ウェーハを加熱するヒーターとを備えることを特徴とする。
【0042】
図2は、本発明による絶縁膜形成装置の一例を示している。図2に示した絶縁膜形成装置100は、トレー1と、原料ガス供給部2と、ヒーター3と、石英板4とを備える。
【0043】
トレー1は、図1に示した本発明によるトレー1であり、その詳細については既に説明しているため、省略する。トレー1の下部には、トレー1を搬送できるように搬送コロ1aが設けられている。
【0044】
原料ガス供給部2は、トレー1の上方に配置され、絶縁膜の原料ガスをトレー1の凹部11cを介してトレー1上に載置された半導体ウェーハWの裏面に向かって供給する。図2に示した例においては、シリコン酸化膜を供給するための原料ガスであるシラン(SiH)および酸素ガス(O)を供給するように構成されているが、窒化膜など他の絶縁膜を形成するように、他の原料ガスを供給するように構成することもできる。
【0045】
また、図2に示すように、原料ガス供給部2は、原料ガスに不純物が混入するのを低減するために、原料ガスを取り囲むように、窒素や希ガスなどの不活性ガスを供給するように構成することが好ましい。
【0046】
ヒーター3は、トレー1の下方に配置され、半導体ウェーハWの裏面に供給される原料ガスが分解され、半導体ウェーハWの裏面上に絶縁膜が形成される温度に半導体ウェーハWを加熱する。
【0047】
石英板4は、トレー1を搬送する搬送コロ1aの動線確保のために設けられた部材である。例えば、トレー1の裏面の四隅に搬送コロ1aが設けられている場合、2本の細長い石英板4をトレー1の搬送方向に沿って平行に配置し、トレー1が搬送コロ1aを介して石英板4上を移動できるように構成することができる。
【0048】
ここで、絶縁膜形成装置100の動作について説明する。まず、トレー1の上に、半導体ウェーハWを、絶縁膜を形成する裏面側を上に向けて凹部11cに収容するように載置する。次いで、トレー1を原料ガス供給部2の下方かつヒーター3の上方に配置する。
【0049】
続いて、ヒーター3により、所定の温度まで半導体ウェーハWを加熱した後、原料ガス供給部2から絶縁膜の原料ガスを供給する。こうして、半導体ウェーハWの外周部への絶縁膜の形成を抑制して、半導体ウェーハWの裏面に絶縁膜を形成することができる。
【0050】
なお、上記絶縁膜形成装置100において、トレー1を複数備え、複数のトレー1を原料ガス供給部2とヒーター3との間に搬送するように構成することが好ましい。これにより、絶縁膜の形成を複数枚の半導体ウェーハWに対して連続的に行うことができる。
【0051】
(絶縁膜形成方法)
本発明による絶縁膜形成方法は、上述した本発明による絶縁膜形成装置のトレー上に半導体ウェーハの裏面側を上に向けて載置し、次いで半導体ウェーハを原料ガス供給部とヒーターとの間に配置した後、ヒーターにより半導体ウェーハを所定の温度に加熱した状態で、原料ガス供給部から絶縁膜の原料ガスを供給して、半導体ウェーハの裏面上に絶縁膜を形成することを特徴とする。
【0052】
以下、図2に示した本発明による絶縁膜形成装置100を用いた場合を例として、本発明による絶縁膜形成方法の例について説明する。まず、トレー1の上に、半導体ウェーハWを、絶縁膜を形成する裏面側を上に向けて凹部11cに収容するように載置する。
【0053】
半導体ウェーハWは、特に限定されず、シリコンウェーハ、ゲルマニウムウェーハ、炭化シリコンウェーハ、ヒ化ガリウムウェーハ等とすることができる。特に、半導体ウェーハとしては、シリコンウェーハを好適に用いることができる。
【0054】
半導体ウェーハWの直径は、半導体ウェーハWを構成する材料および設計に応じて設定することができ、特に限定されない。半導体ウェーハWがシリコンウェーハである場合、その直径は、150mm以上とすることができ、例えば150mm、200mm、300mm、450mmとすることができる。
【0055】
また、絶縁膜は、特に限定されないが、酸化膜や窒化膜等とすることができる。例えば、シリコンウェーハ上にシリコンエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハの場合には、酸化膜はシリコン酸化膜やシリコン窒化膜とすることができる。
【0056】
次いで、トレー1を原料ガス供給部2の下方かつヒーター3の上方に配置する。
【0057】
続いて、ヒーター3により、所定の温度まで半導体ウェーハWを加熱した後、原料ガス供給部2から絶縁膜の原料ガスを供給して、半導体ウェーハWの裏面上に絶縁膜を形成する。
【0058】
絶縁膜の形成の際の半導体ウェーハの温度は、形成する絶縁膜の種類に依存するが、例えばシリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成する場合には、380℃以上460℃以下とすることが好ましい。
【0059】
原料ガス供給部2から供給する原料ガスは、絶縁膜の原料に応じて、適切なガスを用いることができる。例えば、絶縁膜がシリコン酸化膜である場合には、原料ガスとしては、SiHガスおよびOガスとすることができる。また、絶縁膜がシリコン窒化膜である場合には、SiHガス、およびNガスまたはアンモニア(NH)ガスとすることができる。
【0060】
また、絶縁膜を形成させない領域は、環状溝11dの内径および深さによって、あるいは、低熱伝導部材12の厚みによって調整することができる。
【0061】
こうして、半導体ウェーハWの外周部への絶縁膜の形成を抑制して、半導体ウェーハWの裏面上に絶縁膜を形成することができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0063】
(発明例1)
図1に示したトレー1を備える図2に示した絶縁膜形成装置100を用いて、シリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。トレー1の寸法の詳細を図3(a)~(c)に示す。トレー本体11の上面11aに設けられた環状溝11dの内径は195mm、外径は216mm、幅は10.5mmである。また、低熱伝導部材12は、石英リング(幅:9.5mm、厚み:2mm)で構成した。
【0064】
具体的には、まず、直径200mmのシリコンウェーハを用意し、トレー1上に、絶縁膜を形成する裏面側を上に向けて凹部11cに収容するようにシリコンウェーハを載置した。
【0065】
次いで、トレー1を絶縁膜形成装置100の原料ガス供給部2の下方かつヒーター3の上方に配置した。
【0066】
続いて、ヒーター3により、450℃までシリコンウェーハを加熱して保持し、原料ガス供給部2からSiHガスおよびOガスを供給した。こうして、シリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。
【0067】
(発明例2)
発明例1と同様に、直径200mmのシリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。ただし、トレー1としては、トレー本体11の上面11aに設けられた環状溝11dの内径を190mmとし、石英リングの幅は12mmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0068】
(発明例3)
発明例1と同様に、直径200mmのシリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。ただし、トレー1としては、トレー本体11の上面11aに設けられた環状溝11dの内径を180mmとし、石英リングの幅は17mmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0069】
(発明例4)
発明例1と同様に、直径200mmのシリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。ただし、トレー1としては、トレー本体11の上面11aに設けられた環状溝11dの内径を185mmとし、石英リングの幅は14.5mmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0070】
(比較例)
発明例1と同様に、直径200mmのシリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。ただし、トレー1としては、トレー本体11の上面11aに設けられた環状溝11dの内径を200mmとし、石英リングの幅は7mmとした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0071】
(従来例)
発明例1と同様に、シリコンウェーハの裏面上にシリコン酸化膜を形成した。ただし、シリコン酸化膜の形成は、特許文献1に記載された装置を用いて行いた。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0072】
<酸化膜の厚みの評価>
発明例1~4、比較例および従来例のシリコンウェーハについて、形成した酸化膜の厚みを測定した。発明例1~4および比較例のシリコンウェーハの厚みについては、膜厚測定器(NANOMETRICS社製、Nanospec 8000XSE)を用いて、凹部の中心から99.5mmの位置にて測定した。図4は、環状溝の内径とウェーハ外周部との位置関係を説明する図であり、(a)は比較例、(b)は発明例2、(c)は発明例4に関するものである。一方、従来例のシリコンウェーハについては、90°毎に酸化膜の厚みを測定し、その平均値を得た。得られた測定結果を図5に示す。
【0073】
図5から明らかなように、従来例については、酸化膜の厚みの平均値は約3500Åであった。また、トレー本体上面に設けられた環状溝の内径がシリコンウェーハの直径に等しい比較例については、酸化膜の厚みは従来例と同程度であった。一方、発明例1~4については、従来例に比べて酸化膜の厚みは低減され、環状溝の内径が小さくなるほど酸化膜の厚みが減少した。特に、環状溝の内径が185mm以下の発明例3および4については、酸化膜の厚みは大きく低減され、発明例4については酸化膜の厚みはゼロとなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、ウェーハ外周部への絶縁膜の形成を抑制しつつ、ウェーハ裏面上に絶縁膜を形成することができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 トレー
1a 搬送コロ
2 原料ガス供給部
3 ヒーター
4 石英板
11 トレー本体
11a 上面
11b 下面
11c 凹部
11d 環状溝
12 環状部材
12a 開口部
100 絶縁膜形成装置
W 半導体ウェーハ
図1
図2
図3
図4
図5