(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】フルオレン誘導体及びその利用
(51)【国際特許分類】
C07C 233/80 20060101AFI20241126BHJP
C07C 231/02 20060101ALI20241126BHJP
C07D 209/86 20060101ALI20241126BHJP
C07D 333/38 20060101ALI20241126BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241126BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20241126BHJP
C07D 333/70 20060101ALI20241126BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20241126BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241126BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C07C233/80 CSP
C07C231/02
C07D209/86
C07D333/38
H05B33/14 A
H05B33/22 D
C07D333/70
C09K11/06 690
C09D7/63
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2021511886
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013505
(87)【国際公開番号】W WO2020203594
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019066821
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 博史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 歳幸
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122649(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
H10K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオレン誘導体。
【化1】
[式中、Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、下記式(2)~(7)のいずれかで表される基であり;
【化2】
(式中、破線は、結合手である。R
A及びR
Bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基である。)
Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、
フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、又は下記式(T1-1)~(T11-4)で表される基であり;
【化3】
【化4】
Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立に、下記式(8)~(11)のいずれかで表される基である。
【化5】
(式中、破線は、結合手であり、
R
1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、若しくはシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、若しくは炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のヘテロアリール基、又は下記式(12)~(14)のいずれかで表される基であり、
R
2~R
52は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。
【化6】
(式中、破線は、結合手であり、
D
Aは、各々のアリール基がそれぞれ独立に炭素数6~20のアリール基であるジアリールアミノ基であり、
R
53~R
76は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。))]
【請求項2】
Ar
1及びAr
2が、同一の基である請求項
1記載のフルオレン誘導体。
【請求項3】
Z
1及びZ
2が、式(2)で表される基である請求項1
又は2記載のフルオレン誘導体。
【請求項4】
R
1が、フェニル基である請求項1~
3のいずれか1項記載のフルオレン誘導体。
【請求項5】
R
2~R
76が、水素原子である請求項1~
4のいずれか1項記載のフルオレン誘導体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項記載のフルオレン誘導体からなる電荷輸送性物質。
【請求項7】
請求項
6記載の電荷輸送性物質及び有機溶媒を含む電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
更に、ドーパントを含む請求項
7記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項9】
請求項
7又は
8記載の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
【請求項10】
請求項
9記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層又は正孔輸送層である請求項10記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
式(15)で表される化合物と式(16-1)で表される化合物及び式(16-2)で表される化合物とを反応させて式(17)で表される中間体を得る工程、
式(17)で表される中間体を還元して式(18)で表される中間体を得る工程、及び
式(18)で表される中間体と式(19-1)で表されるハロゲン化物及び式(19-2)で表されるハロゲン化物とを反応させる工程
を含む下記式(1)で表されるフルオレン誘導体の製造方法。
【化7】
[式中、Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、下記式(2)~(7)のいずれかで表される基であり;
【化8】
(式中、破線は、結合手である。R
A及びR
Bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基である。)
Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、
フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、又は下記式(T1-1)~(T11-4)で表される基であり;
【化9】
【化10】
Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立に、下記式(8)~(11)のいずれかで表される基であり;
【化11】
(式中、破線は、結合手であり、
R
1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、若しくはシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、若しくは炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のヘテロアリール基、又は下記式(12)~(14)のいずれかで表される基であり、
R
2~R
52は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。
【化12】
(式中、破線は、結合手であり、
D
Aは、各々のアリール基がそれぞれ独立に炭素数6~20のアリール基であるジアリールアミノ基であり、
R
53~R
76は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。))
Xは、ハロゲン原子又は擬ハロゲン基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン誘導体及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子には、発光層や電荷注入層として、有機化合物からなる電荷輸送性薄膜が用いられる。特に、正孔注入層は、陽極と、正孔輸送層あるいは発光層との電荷の授受を担い、有機EL素子の低電圧駆動及び高輝度を達成するために重要な機能を果たす。
【0003】
これまで、有機EL素子を高性能化するために様々な取り込みがなされてきているが、光取出し効率を向上させる等の目的で、用いる機能膜の屈折率を調整する取り組みがなされている。具体的には、素子の全体構成や隣接する他の部材の屈折率を考慮して、相対的に高い又は低い屈折率の正孔注入層や正孔輸送層を用いることで、素子の高効率化を図る試みがなされている(特許文献1、2)。このように、屈折率は有機EL素子の設計上重要な要素であり、有機EL素子用材料では、屈折率も考慮すべき重要な物性値と考えられている。
【0004】
また、有機EL素子に用いられる電荷輸送性薄膜の着色は、有機EL素子の色純度及び色再現性を低下させる等の事情から、近年、有機EL素子用の電荷輸送性薄膜は、可視領域での透過率が高く、高透明性を有することが望まれている(特許文献3参照)。
【0005】
正孔注入層の形成方法は、蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスとに大別される。これら各プロセスを比べると、ウェットプロセスの方が大面積に平坦性の高い薄膜を効率的に製造できる。それゆえ、有機ELディスプレイの大面積化が進められている現在、ウェットプロセスで形成可能であり、屈折率や透明性にも優れた電荷輸送性薄膜を与えるウェットプロセス用材料が常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2007-536718号公報
【文献】特表2017-501585号公報
【文献】国際公開第2013/042623号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みなされたものであり、低温焼成にて、電荷輸送性が良好で、高屈折率で高透明性の薄膜を与え、この薄膜を正孔注入層等に適用した場合に優れた特性を有する有機EL素子を実現できる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のフルオレン誘導体を用いて得られる薄膜が、高い電荷輸送性を示し、かつ高透明性及び高屈折率の薄膜であり、この薄膜を正孔注入層等に適用した場合に優れた特性を有する有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記フルオレン誘導体及びその利用を提供する。
1.下記式(1)で表されるフルオレン誘導体。
【化1】
[式中、Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、下記式(2)~(7)のいずれかで表される基であり;
【化2】
(式中、破線は、結合手である。R
A及びR
Bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基である。)
Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基であり、シアノ基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のビシクロアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基又は炭素数1~20のアルコキシ基で置換されていてもよく;
Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立に、下記式(8)~(11)のいずれかで表される基である。
【化3】
(式中、破線は、結合手であり、
R
1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、若しくはシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、若しくは炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のヘテロアリール基、又は下記式(12)~(14)のいずれかで表される基であり、
R
2~R
52は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。
【化4】
(式中、破線は、結合手であり、
D
Aは、各々のアリール基がそれぞれ独立に炭素数6~20のアリール基であるジアリールアミノ基であり、
R
53~R
76は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。))]
2.Ar
1及びAr
2が、それぞれ独立に、フェニル基、1-ナフチル基若しくは2-ナフチル基、又は下記式(T1-1)~(T11-4)、式(F1-1)~(F4-4)、式(N1-1)~(N10-7)若しくは式(M1-1)~(M4-3)で表される基である1のフルオレン誘導体。
【化5】
(式中、破線は、結合手である。)
【化6】
(式中、破線は、結合手である。)
【化7】
(式中、破線は、結合手である。)
【化8】
(式中、破線は、結合手である。)
【化9】
(式中、破線は、結合手である。)
【化10】
(式中、破線は、結合手である。)
3.Ar
1及びAr
2が、同一の基である1又は2のフルオレン誘導体。
4.Z
1及びZ
2が、式(2)で表される基である1~3のいずれかのフルオレン誘導体。
5.R
1が、フェニル基である1~4のいずれかのフルオレン誘導体。
6.R
2~R
76が、水素原子である1~5のいずれかのフルオレン誘導体。
7.1~6のいずれかのフルオレン誘導体からなる電荷輸送性物質。
8.7の電荷輸送性物質及び有機溶媒を含む電荷輸送性ワニス。
9.更に、ドーパントを含む8の電荷輸送性ワニス。
10.8又は9の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜。
11.10の電荷輸送性薄膜を備える有機EL素子。
12.式(15)で表される化合物と式(16-1)で表される化合物及び式(16-2)で表される化合物とを反応させて式(17)で表される中間体を得る工程、
式(17)で表される中間体を還元して式(18)で表される中間体を得る工程、及び
式(18)で表される中間体と式(19-1)で表されるハロゲン化物及び式(19-2)で表されるハロゲン化物とを反応させる工程
を含む下記式(1)で表されるフルオレン誘導体の製造方法。
【化11】
(式中、Z
1、Z
2、Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4は、前記と同じであり;Xは、ハロゲン原子又は擬ハロゲン基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のフルオレン誘導体を含む電荷輸送性ワニスを用いることで、高透明性及び高屈折率の薄膜を作製することができ、また、200℃以下という低温で焼成した場合でも電荷輸送性に優れる薄膜を作製することができる。本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜は、有機EL素子をはじめとする電子素子用薄膜として好適に用いることができ、有機EL素子の正孔注入層や正孔輸送層、特に正孔注入層として用いることで、特性に優れた有機EL素子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フルオレン誘導体]
本発明のフルオレン誘導体は、下記式(1)で表されるものである。
【化12】
【0012】
式(1)で表される化合物としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化13】
【0013】
式(1)中、Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、下記式(2)~(7)のいずれかで表される基である。なお、Z
1及びZ
2が式(4)又は(5)で表される基の場合、この基に含まれる炭素原子が、式(1)中の窒素原子と結合する。
【化14】
【0014】
式(2)~(7)中、破線は、結合手である。式(6)中、RA及びRBは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基であるが、水素原子が好ましい。
【0015】
RA及びRBで表される炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3~20の環状アルキル基が挙げられる。
【0016】
Z1及びZ2としては、式(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表される基が好ましく、式(2)、(4)又は(6)で表される基がより好ましく、式(2)で表される基がより一層好ましい。
【0017】
式(1)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基である。
【0018】
Ar1及びAr2で表される炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等が挙げられる。
【0019】
Ar
1及びAr
2で表される炭素数2~20のヘテロアリール基としては、下記式(T1-1)~(T11-4)、式(F1-1)~(F4-4)、式(N1-1)~(N10-7)、式(M1-1)~(M4-3)で表される基等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、より高い屈折率を実現する観点から、前記ヘテロアリール基としては、含硫黄ヘテロアリール基、含窒素ヘテロアリール基が好ましく、含硫黄ヘテロアリール基がより好ましい。
【化15】
(式中、破線は、結合手である。)
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
Ar1及びAr2で表される炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基は、シアノ基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基又は炭素数1~20のアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0026】
前記炭素数1~20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、式(6)のRA及びRBの説明において述べたものと同様のものが挙げられる。
【0027】
前記炭素数2~20のアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エテニル基、n-1-プロペニル基、n-2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、n-1-ブテニル基、n-2-ブテニル基、n-3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、n-1-ペンテニル基、n-1-デセニル基、n-1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0028】
前記炭素数2~20のアルキニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチニル基、n-1-プロピニル基、n-2-プロピニル基、n-1-ブチニル基、n-2-ブチニル基、n-3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、n-1-ペンチニル基、n-2-ペンチニル基、n-3-ペンチニル基、n-4-ペンチニル基、1-メチル-n-ブチニル基、2-メチル-n-ブチニル基、3-メチル-n-ブチニル基、1,1-ジメチル-n-プロピニル基、n-1-ヘキシニル基、n-1-デシニル基、n-1-ペンタデシニル基、n-1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0029】
前記炭素数1~20のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルコキシ基;シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、シクロノニルオキシ基、シクロデシルオキシ基、ビシクロブチルオキシ基、ビシクロペンチルオキシ基、ビシクロヘキシルオキシ基、ビシクロヘプチルオキシ基、ビシクロオクチルオキシ基、ビシクロノニルオキシ基、ビシクロデシルオキシ基等の炭素数3~20の環状アルコキシ基が挙げられる。
【0030】
これらのうち、Ar1及びAr2としては、フェニル基;ニトロフェニル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジプロピルフェニル基、トリメチルフェニル基、トリエチルフェニル基、トリプロピルフェニル基、これらの構造異性体等のアルキルフェニル基;ビニルフェニル基、1-プロペニルフェニル基、2-プロペニルフェニル基等のアルケニルフェニル基;エチニルフェニル基、1-プロピニルフェニル基、2-プロピニルフェニル基等のアルキニルフェニル基;1-ナフチル基;ニトロ-1-ナフチル基;メチル-1-ナフチル基、エチル-1-ナフチル基、プロピル-1-ナフチル基、ジメチル-1-ナフチル基、ジエチル-1-ナフチル基、ジプロピル-1-ナフチル基、トリメチル-1-ナフチル基、トリエチル-1-ナフチル基、トリプロピル-1-ナフチル基、これらの構造異性体等のアルキル-1-ナフチル基;ビニル-1-ナフチル基、1-プロペニル-1-ナフチル基、2-プロペニル-1-ナフチル基等のアルケニル-1-ナフチル基;エチニル-1-ナフチル基、1-プロピニル-1-ナフチル基、2-プロピニル-1-ナフチル基等のアルキニル-1-ナフチル基;2-ナフチル基;ニトロ-2-ナフチル基;メチル-2-ナフチル基、エチル-2-ナフチル基、プロピル-2-ナフチル基、ジメチル-2-ナフチル基、ジエチル-2-ナフチル基、ジプロピル-2-ナフチル基、トリメチル-2-ナフチル基、トリエチル-2-ナフチル基、トリプロピル-2-ナフチル基、これらの構造異性体等のアルキル-2-ナフチル基;ビニル-2-ナフチル基、1-プロペニル-2-ナフチル基、2-プロペニル-2-ナフチル基等のアルケニル-2-ナフチル基;エチニル-2-ナフチル基、1-プロピニル-2-ナフチル基、2-プロピニル-2-ナフチル基等のアルキニル-2-ナフチル基;9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、9-フェナントリル基;式(T1-1)~(T11-4)で表される基等が好ましい。また、Ar1及びAr2は、前記フルオレン誘導体の合成容易性の観点から、同一の基であることが好ましい。
【0031】
式(1)中、Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立に、下記式(8)~(11)のいずれかで表される基である。
【化21】
【0032】
式(8)~(11)中、破線は、結合手である。式(8)中、R
1は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、若しくはシアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基、若しくは炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数1~20のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のヘテロアリール基、又は下記式(12)~(14)のいずれかで表される基である。
【化22】
【0033】
式(12)~(14)中、破線は、結合手である。DAは、各々のアリール基がそれぞれ独立に炭素数6~20のアリール基であるジアリールアミノ基である。
【0034】
R1で表される炭素数1~20のアルキル基及び前記置換基である炭素数1~20のアルキル基としては、式(6)のRA及びRBの説明において述べたものと同様のものが挙げられる。R1で表される炭素数6~20のアリール基としては、式(1)のAr1及びAr2の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。R1で表される炭素数2~20のヘテロアリール基としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基等が挙げられる。
【0035】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。前記炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、前記炭素数1~20のアルキル基の水素原子の一部又は全部が前記ハロゲン原子で置換されたものが挙げられ、具体的には、式(B)の説明において後述するものと同様のものが挙げられる。前記ジアリールアミノ基としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ジアントリルアミノ基、N-フェニル-N-ナフチルアミノ基、N-フェニル-N-アントリルアミノ基、N-ナフチル-N-アントリルアミノ基等が挙げられる。
【0036】
式(12)~(14)で表される基としては、下記式(12-1)~(14-1)等で表されるものが好ましい。
【化23】
【0037】
これらのうち、R1としては、水素原子、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、式(12-1)で表される基、式(13-1)で表される基等が好ましく、式(12-1)で表される基、式(13-1)で表される基、フェニル基がより好ましく、フェニル基がより一層好ましい。
【0038】
式(8)~(14)中、R2~R76は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のハロゲン化アルキル基である。R2~R76で表される炭素数1~20のアルキル基としては、式(6)のRA及びRBの説明において述べたものと同様のものが挙げられる。これらのうち、R2~R76としては、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のハロゲン化アルキル基が好ましく、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基がより好ましく、全て水素原子であることがより一層好ましい。
【0039】
式(8)~(11)で表される基としては以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化24】
(式中、R
1~R
52は、前記と同じ。破線は、結合手である。)
【0040】
式(8)~(11)で表される基としては、特に、以下に示すものが好ましい。
【化25】
(式中、破線は、結合手である。)
【0041】
[フルオレン誘導体の合成方法]
本発明のフルオレン誘導体は、下記スキームAに示される方法によって合成することができる。
【化26】
(式中、Z
1、Z
2、Ar
1、Ar
2、Ar
3及びAr
4は、前記と同じ。Xは、ハロゲン原子又は擬ハロゲン基である。)
【0042】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。また、前記擬ハロゲン基としては、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基等のフルオロアルキルスルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等の芳香族スルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0043】
式(15)で表される化合物は、従来公知の方法で合成することができ、例えば、J. Mater. Chem. C, 2014, pp. 1068-1075に記載の方法に従って合成することができる。
【0044】
スキームA中、第1工程は、カップリング反応によって、式(15)で表される化合物と式(16-1)で表される化合物及び式(16-2)で表される化合物とから、式(17)で表される中間体を得る工程である。なお、スキームAでは例として鈴木・宮浦カップリング反応を利用した合成方法を示しているが、他のカップリング反応を利用して合成することも可能である。
【0045】
鈴木・宮浦カップリング反応において用いる触媒としては、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド(PdCl2(dppf))、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム(Pd(PPh3)2Cl2)、ビス(ベンジリデンアセトン)パラジウム(Pd(dba)2)、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)、ビス(トリtert-ブチルホスフィン)パラジウム(Pd(P-t-Bu3)2)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)等のパラジウム触媒等が挙げられる。これらのうち、目的物を効率よく得る観点から、好ましい触媒は、PdCl2(dppf)、Pd(PPh3)4、Pd(PPh3)2Cl2、Pd(P-t-Bu3)2であり、より好ましくはPd(PPh3)4、Pd(P-t-Bu3)2である。前記触媒の使用量は、式(15)で表される化合物に対し、通常0.1~50mol%程度であり、好ましくは0.1~30mol%、より好ましくは1~10mol%である。
【0046】
また、鈴木・宮浦カップリング反応においては塩基も使用されるが、前記塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等の水酸化物類、tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウム等のアルコキシド類;フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等のフッ化物塩類;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩類;リン酸カリウム等のリン酸塩類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、n-ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のアミン類が挙げられる。これらのうち、目的物を効率よく得る観点から、好ましい塩基は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩類、リン酸カリウム等のリン酸塩類であり、より好ましくは炭酸カリウム、炭酸セシウムである。前記塩基の使用量は、式(15)で表される化合物に対し、通常2~20当量程度であり、好ましくは1~20当量、より好ましくは2~8当量である。
【0047】
第1工程において用いる溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、その具体例としては、脂肪族炭化水素(ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、デカリン等)、ハロゲン化脂肪族炭化水素(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)、アミド(N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ラクタム及びラクトン(N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン等)、尿素誘導体(N,N-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア等)、スルホキシド(ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等)等が挙げられる。これらのうち、目的物を効率よく得る観点から、好ましい溶媒は、脂肪族炭化水素(ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、デカリン等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、THF、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)であり、より好ましくは芳香族炭化水素(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、THF、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)である。
【0048】
式(15)で表される化合物と式(16-1)で表される化合物及び式(16-2)で表される化合物との仕込み比は、式(15)で表される化合物に対し、式(16-1)で表される化合物及び式(16-2)で表される化合物の合計が、2~6当量が好ましく、2~3当量がより好ましい。式(16-1)で表される化合物及び式(16-2)で表される化合物は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
第1工程において、反応温度は、用いる原料化合物や触媒の種類や量を考慮しつつ、溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定されるが、通常0~200℃程度であり、好ましくは0~50℃である。また、反応時間は、用いる原料化合物や反応温度等に応じて異なるため一概に規定できないが、通常1~24時間程度である。
【0050】
スキームA中、第2工程は、式(17)で表される中間体を還元して式(18)で表される中間体を得る工程である。還元方法としては、接触水素化、金属と酸による化学的還元等の公知の方法が挙げられる。
【0051】
接触水素化によって還元を行う場合は、パラジウム炭素、ラネーニッケル触媒、酸化白金、ルテニウム炭素、ロジウム炭素、白金炭素等の公知の触媒を用いて行えばよい。また、接触水素化の条件としては、例えば水素圧力1~10気圧、反応温度20~100℃、反応時間1~48時間が挙げられる。
【0052】
スキームA中、第3工程は、式(18)で表される中間体と式(19-1)で表される化合物及び式(19-2)で表される化合物とを反応させて、式(1)で表されるフルオレン誘導体を合成する工程である。
【0053】
第3工程において、塩基を用いてもよい。前記塩基としては、第1工程において使用可能なものと同様のものが挙げられる。これらのうち、特に取り扱いが容易であることから、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミン等が好適である。
【0054】
反応溶媒は、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。反応後の反応溶媒の除去容易性の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、メシチレン等が好適である。
【0055】
式(18)で表される中間体と式(19-1)で表される化合物及び式(19-2)で表される化合物との仕込み比は、式(18)で表される中間体に対し、式(19-1)で表される化合物及び式(19-2)で表される化合物の合計が、2~6当量が好ましく、2~3当量がより好ましい。式(19-1)で表される化合物及び式(19-2)で表される化合物は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0056】
第3工程において、反応温度は、用いる原料化合物や触媒の種類や量を考慮しつつ、溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定されるが、通常0~200℃程度であり、好ましくは0~50℃である。また、反応時間は、用いる原料化合物や反応温度等に応じて異なるため一概に規定できないが、通常1~24時間程度である。
【0057】
反応終了後は、常法に従って後処理をし、目的とするフルオレン誘導体を得ることができる。
【0058】
なお、式(19-1)で表される化合物及び式(19-2)で表される化合物は、公知の方法又は市販品の入手によって得ることができる。
【0059】
[電荷輸送性物質]
本発明のフルオレン誘導体は、電荷輸送性物質として、特に正孔輸送性物質として好適に使用できる。本発明において、電荷輸送性とは、導電性と同義である。電荷輸送性物質とは、それ自体に電荷輸送性があるものである。また、電荷輸送性ワニスとは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、それにより得られる固形膜が電荷輸送性を有するものでもよい。
【0060】
[電荷輸送性ワニス]
本発明の電荷輸送性ワニスは、前記フルオレン誘導体からなる電荷輸送性物質及び有機溶媒を含むものである。前記電荷輸送性物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
[有機溶媒]
前記有機溶媒としては、前記フルオレン誘導体を良好に溶解し得る高極性溶媒を用いることができる。本発明のフルオレン誘導体は、溶媒の極性を問わず、溶媒中に溶解することが可能である。また、必要に応じて、高極性溶媒よりもプロセス適合性に優れている点で低極性溶媒を用いてもよい。本発明において、低極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7未満のものと定義し、高極性溶媒とは周波数100kHzでの比誘電率が7以上のものと定義する。
【0062】
前記低極性溶媒としては、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素系溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、デシルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール等の脂肪族アルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、4-メトキシトルエン、3-フェノキシトルエン、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、マレイン酸ジブチル、シュウ酸ジブチル、酢酸ヘキシル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0063】
前記高極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒;エチルメチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のシアノ系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール等の多価アルコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、2-フェノキシエタノール、2-ベンジルオキシエタノール、3-フェノキシベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等の脂肪族アルコール以外の1価アルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒等が挙げられる。
【0064】
前記溶媒の使用量は、電荷輸送性物質の析出を抑制しつつ十分な膜厚を確保する観点から、本発明のワニス中の固形分濃度が、通常0.1~20質量%程度、好ましくは0.5~10質量%となる量である。なお、ここでいう固形分とは、ワニスに含まれる成分のうち溶媒以外の成分を意味する。前記溶媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
[ドーパント(電荷受容性ドーパント)]
本発明の電荷輸送性ワニスは、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の電荷輸送性を向上させる等の目的で、ドーパントを含んでもよい。ドーパントとしては、組成物に使用する少なくとも1種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、無機系のドーパント、有機系のドーパントのいずれも使用できる。更にドーパントは、組成物から固体膜である電荷輸送性薄膜を得る過程で、例えば、焼成時の加熱といった外部からの刺激によって、分子内の一部が外れることによってドーパントとしての機能が初めて発現又は向上するようになる物質、例えば、スルホン酸基が脱離しやすい基で保護されたアリールスルホン酸エステル化合物であってもよい。
【0066】
前記無機系ドーパントとしては、ヘテロポリ酸が好ましく、その具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、ケイタングステン酸等が挙げられる。
【0067】
ヘテロポリ酸とは、代表的に下記式(HPA1)で表されるKeggin型又は下記式(HPA2)で表されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の酸素酸であるイソポリ酸と、異種元素の酸素酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素の酸素酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)の酸素酸が挙げられる。
【化27】
【0068】
前記ヘテロポリ酸としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンタングストモリブデン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明で用いるヘテロポリ酸は、市販品として入手可能であり、また、公知の方法により合成することもできる。特に、1種類のヘテロポリ酸を用いる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸又はリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。また、2種類以上のヘテロポリ酸を用いる場合、その2種類以上のヘテロポリ酸の1つは、リンタングステン酸又はリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましい。
【0069】
なお、ヘテロポリ酸は、元素分析等の定量分析において、一般式で表される構造から元素の数が多いもの又は少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは、公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。
【0070】
すなわち、例えば、一般的にリンタングステン酸は化学式H3(PW12O40)・nH2Oで、リンモリブデン酸は化学式H3(PMo12O40)・nH2Oでそれぞれ表されるが、定量分析において、この式中のP(リン)、O(酸素)又はW(タングステン)若しくはMo(モリブデン)の数が多いもの又は少ないものであっても、それが市販品として入手したもの、あるいは公知の合成方法にしたがって適切に合成したものである限り、本発明において用いることができる。この場合、本発明に規定されるヘテロポリ酸の質量とは、合成物や市販品中における純粋なリンタングステン酸の質量(リンタングステン酸含量)ではなく、市販品として入手可能な形態及び公知の合成法にて単離可能な形態において、水和水やその他の不純物等を含んだ状態での全質量を意味する。
【0071】
前記有機系ドーパントとしては、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸エステル、所定のアニオンとその対カチオンとからなるイオン化合物、テトラシアノキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体等が挙げられる。
【0072】
前記アリールスルホン酸化合物としては、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の透明性の点から、下記式(A)又は(B)で表されるものが好ましい。
【化28】
【0073】
式(A)中、A1は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。A2は、ナフタレン又はアントラセンから誘導される(p2+1)価の基(すなわち、ナフタレン又はアントラセンからからp2+1個の水素原子を取り除いて得られる基)であるが、ナフタレンから誘導される基が好ましい。A3は、2~4価のパーフルオロビフェニル基である。p1は、A1とA3との結合数であり、2≦p1≦4を満たす整数であるが、A3が2価のパーフルオロビフェニル基であり、かつ、p1が2であることが好ましい。p2は、A2に結合するスルホン酸基数であり、1≦p2≦4を満たす整数であるが、2が好適である。
【0074】
式(B)中、A4~A8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のハロゲン化アルキル基又は炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基であるが、A4~A8のうち少なくとも3つはハロゲン原子である。qは、ナフタレン環に結合するスルホン酸基数であり、1≦q≦4を満たす整数であるが、2~4が好ましく、2がより好ましい。
【0075】
前記炭素数1~20のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、パーフルオロブチル基等が挙げられる。前記炭素数2~20のハロゲン化アルケニル基としては、パーフルオロエテニル基、1-パーフルオロプロペニル基、パーフルオロアリル基、パーフルオロブテニル基等が挙げられる。
【0076】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、フッ素原子が好ましい。前記炭素数1~20のアルキル基としては、式(6)のRA及びRBの説明において述べたものと同様のものが挙げられる。
【0077】
これらの中でも、A4~A8としては、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基であり、かつA4~A8のうち少なくとも3つはフッ素原子であることが好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のフッ化アルキル基又は炭素数2~5のフッ化アルケニル基であり、かつA4~A8のうち少なくとも3つはフッ素原子であることがより好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基又は炭素数1~5のパーフルオロアルケニル基であり、かつA4、A5及びA8がフッ素原子であることがより一層好ましい。なお、パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基であり、パーフルオロアルケニル基とは、アルケニル基の水素原子全てがフッ素原子に置換された基である。
【0078】
好適なアリールスルホン酸の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化29】
【0079】
前記アリールスルホン酸エステル化合物としては、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の透明性の点から、国際公開第2017/217455号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、国際公開第2017/217457号に開示されたアリールスルホン酸エステル化合物、特願2017-243631に記載のアリールスルホン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0080】
具体的には、低極性溶媒への溶解性の観点から、アリールスルホン酸エステル化合物としては、下記式(C)~(E)のいずれかで表されるものが好ましい。
【化30】
【0081】
式(C)~(E)中、mは、1≦m≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。nは、1≦n≦4を満たす整数であるが、2が好ましい。
【0082】
式(C)中、A11は、パーフルオロビフェニルから誘導されるm価の基(すなわち、パーフルオロビフェニルからm個のフッ素原子を取り除いて得られる基)である。A12は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。A13は、ナフタレン又はアントラセンから誘導される(n+1)価の基(すなわち、ナフタレン又はアントラセンからからn+1個の水素原子を取り除いて得られる基)であるが、ナフタレンから誘導される基が好ましい。Rs1~Rs4は、それぞれ独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~6のアルキル基であり、Rs5は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0083】
Rs1~Rs4で表される直鎖状又は分岐状の炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0084】
Rs5で表される炭素数2~20の1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;フェニル、ナフチル、フェナントリル基等のアリール基等が挙げられる。
【0085】
特に、Rs1~Rs4のうち、Rs1又はRs3が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、残りが水素原子であるか、Rs1が炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、Rs2~Rs4が水素原子であることが好ましい。この場合、炭素数1~3の直鎖アルキル基としては、メチル基が好ましい。また、Rs5としては、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0086】
式(D)中、A14は、置換されていてもよい、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20のm価の炭化水素基であり、この炭化水素基は、1つ以上の芳香環を含む炭素数6~20の炭化水素化合物からm個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。
【0087】
なお、A14で表される炭化水素基は、その水素原子の一部又は全部が、更に置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシ基、スルホン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、1価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、スルホ基等が挙げられる。これらの中でも、A14としては、ベンゼン、ビフェニル等から誘導される基が好ましい。
【0088】
式(D)中、A15は、-O-又は-S-であるが、-O-が好ましい。
【0089】
式(D)中、A16は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基であり、この芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族炭化化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。中でも、A16としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0090】
式(D)中、Rs6及びRs7は、それぞれ独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の1価脂肪族炭化水素基であり、Rs8は、直鎖状又は分岐状の1価脂肪族炭化水素基である。ただし、Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計は6以上である。Rs6、Rs7及びRs8の炭素数の合計の上限は、特に限定されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0091】
Rs6、Rs7及びRs8で表される直鎖状又は分岐状の1価脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。これらの中でも、Rs6は水素原子が好ましく、Rs7及びRs8は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0092】
式(E)中、Rs9~Rs13は、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基である。
【0093】
Rs9~Rs13で表される炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0094】
Rs9~Rs13で表される炭素数1~10のハロゲン化アルキル基は、炭素数1~10のアルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されない。その具体例としては、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル基、1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチル基等が挙げられる。
【0095】
Rs9~Rs13で表される炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であれば、特に限定されず、その具体例としては、パーフルオロビニル基、パーフルオロ-1-プロペニル基、パーフルオロ-2-プロペニル基、パーフルオロ-1-ブテニル基、パーフルオロ-2-ブテニル基、パーフルオロ-3-ブテニル基等が挙げられる。
【0096】
これらの中でも、Rs9としては、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、炭素数2~10のハロゲン化アルケニル基が好ましく、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数2~4のハロゲン化アルケニル基がより好ましく、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロペニル基がより一層好ましい。Rs10~Rs13としては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0097】
式(E)中、A17は、-O-、-S-又は-NH-であるが、-O-が好ましい。
【0098】
式(E)中、A18は、炭素数6~20の(n+1)価の芳香族炭化水素基であり、この芳香族炭化水素基は、炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物の芳香環上から(n+1)個の水素原子を取り除いて得られる基である。前記芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、ピレン等が挙げられる。これらの中でも、A18としては、ナフタレン又はアントラセンから誘導される基が好ましく、ナフタレンから誘導される基がより好ましい。
【0099】
式(E)中、Rs14~Rs17は、それぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基である。前記1価脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等の炭素数1~20のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0100】
式(E)中、Rs18は、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基、又は-ORs19である。Rs19は、置換されていてもよい炭素数2~20の1価炭化水素基である。
【0101】
Rs18で表される直鎖状又は分岐状の炭素数1~20の1価脂肪族炭化水素基としては、Rs14~Rs17の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。Rs18が1価脂肪族炭化水素基である場合、Rs18は、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより一層好ましい。
【0102】
Rs19で表される炭素数2~20の1価炭化水素基としては、前述した1価脂肪族炭化水素基のうちメチル基以外のもののほか、フェニル、ナフチル、フェナントリル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中でも、Rs19は、炭素数2~4の直鎖アルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0103】
なお、前記1価炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0104】
好適なアリールスルホン酸エステル化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
【0106】
前記所定のアニオンとその対カチオンとからなるイオン化合物としては、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜の透明性の点から、下記式(F)で表されるイオン化合物が好ましい。
【化32】
【0107】
式(F)中、Eは、長周期型周期表の第13族元素であり、Ar101~Ar104は、それぞれ独立に、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アセチル基等の炭素数2~12のアシル基、又はトリフルオロメチル基等の炭素数1~10のハロゲン化アルキル基で置換されていてもよい。
【0108】
Eで表される第13族元素としては、ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、ホウ素原子がより好ましい。Ar101~Ar104で表される炭素数6~20のアリール基としては、式(1)のAr1及びAr2の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。Ar101~Ar104で表される炭素数2~20のヘテロアリール基としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基等が挙げられる。
【0109】
式(F)中、M
+は、オニウムイオンである。前記オニウムイオンとしては、ヨードニウムイオン、スルホニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン等が挙げられるが、特に、下記式(G)で表されるヨードニウムイオンが好ましい。
【化33】
【0110】
式(G)中、R101及びR102は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基であり、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数2~12のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基で置換されていてもよい。
【0111】
前記テトラシアノキノジメタン誘導体としては、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、テトラクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-フルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2-クロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン、2,5-ジクロロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン等が挙げられる。
【0112】
前記ベンゾキノン誘導体としては、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)等が挙げられる。
【0113】
本発明の電荷輸送性ワニスがドーパントを含む場合、その含有量は、ドーパントの種類、所望の電荷輸送性等に応じて異なるため一概に規定できないが、電荷輸送性物質1に対し、質量比で、通常0.01~50程度であり、好ましくは0.1~10程度、より好ましくは1.0~5.0程度である。
【0114】
本発明の電荷輸送性ワニスは、得られる電荷輸送性薄膜の膜物性の調整等の目的で、更に有機シラン化合物を含んでもよい。前記有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物又はテトラアルコキシシラン化合物が挙げられる。とりわけ、有機シラン化合物としては、ジアルコキシシラン化合物又はトリアルコキシシラン化合物が好ましく、トリアルコキシシラン化合物がより好ましい。有機シラン化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
有機シラン化合物を含む場合、その含有量は、電荷輸送性物質及びドーパントの総質量に対し、通常0.1~50質量%程度であるが、得られる薄膜の電荷輸送性の低下を抑制し、かつ、本発明の電荷輸送性薄膜からなる正孔注入層に接するように陽極とは反対側に積層される層(例えば、正孔輸送層や発光層)への正孔注入能を高めることを考慮すると、好ましくは0.5~40質量%程度、より好ましくは0.8~30質量%程度、より一層好ましくは1~20質量%程度である。
【0116】
電荷輸送性ワニスの調製方法としては、特に限定されないが、例えば、前記フルオレン誘導体及び必要に応じてドーパント等を任意の順で又は同時に有機溶媒に加える方法が挙げられる。また、有機溶媒が複数ある場合は、まず前記フルオレン誘導体及び必要に応じてドーパント等を1種の溶媒に溶解させ、そこへ他の溶媒を加えてもよく、複数の有機溶媒の混合溶媒に、前記フルオレン誘導体及び必要に応じてドーパント等を順次又は同時に溶解させてもよい。
【0117】
本発明の電荷輸送性ワニスは、より平坦性の高い薄膜を再現性よく得る観点から、前記フルオレン誘導体及び必要に応じてドーパント等を有機溶媒に溶解させた後、サブマイクロメートルオーダーのフィルター等を用いてろ過することが望ましい。
【0118】
本発明の電荷輸送性ワニスの粘度は、通常、25℃で1~50mPa・sである。また、本発明の電荷輸送性ワニスの表面張力は、通常、25℃で20~50mN/mである。なお、粘度は、東機産業(株)製TVE-25形粘度計で測定した値である。表面張力は、協和界面科学(株)製、自動表面張力計CBVP-Z型で測定した値である。ワニスの粘度と表面張力は、所望の膜厚等の各種要素を考慮して、前述した溶媒の種類やそれらの比率、固形分濃度等を変更することで調整可能である。
【0119】
[電荷輸送性薄膜]
本発明の電荷輸送性薄膜は、本発明の電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、焼成することで形成することができる。
【0120】
ワニスの塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられるが、これらに限定されない。塗布方法に応じて、ワニスの粘度及び表面張力を調節することが好ましい。
【0121】
また、塗布後の電荷輸送性ワニスの焼成雰囲気も特に限定されず、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面及び高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。共に用いるドーパントの種類によっては、ワニスを大気雰囲気下で焼成することで、電荷輸送性を有する薄膜が再現性よく得られる場合がある。
【0122】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度、溶媒の種類や沸点等を勘案して、100~260℃程度の範囲内で適宜設定され、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140~250℃程度が好ましく、145~240℃程度がより好ましいが、本発明の電荷輸送性ワニスでは、200℃以下という低温焼成でも、良好な電荷輸送性を有する薄膜を得ることができる。なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよく、加熱は、例えば、ホットプレートやオーブン等、適当な機器を用いて行えばよい。
【0123】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層又は正孔注入輸送層として用いる場合、5~300nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の液量を変化させたりする等の方法がある。
【0124】
本発明の電荷輸送性薄膜は、400~800nmの波長領域の平均値で、1.6以上の屈折率と0.030以下の消衰係数を示すが、ある態様においては1.65以上の屈折率を、その他のある態様においては1.70以上の屈折率を示し、また、ある態様においては0.020以下の消衰係数を、その他のある態様においては0.005以下の消衰係数を示す。
【0125】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子は、一対の電極を有し、これら電極の間に、本発明の電荷輸送性薄膜からなる機能層を有するものである。
【0126】
有機EL素子の代表的な構成としては、以下の(a)~(f)が挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記構成において、必要に応じて、発光層と陽極の間に電子ブロック層等を、発光層と陰極の間にホール(正孔)ブロック層等を設けることもできる。また、正孔注入層、正孔輸送層あるいは正孔注入輸送層が電子ブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよく、電子注入層、電子輸送層又は電子注入輸送層がホールブロック層等としての機能を兼ね備えていてもよい。更に、必要に応じて各層の間に任意の機能層を設けることも可能である。
(a)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(b)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(c)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(f)陽極/正孔注入輸送層/発光層/陰極
【0127】
「正孔注入層」、「正孔輸送層」及び「正孔注入輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であって、正孔を陽極から発光層へ輸送する機能を有するものである。発光層と陽極の間に正孔輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「正孔注入輸送層」であり、発光層と陽極の間に正孔輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陽極に近い層が「正孔注入層」であり、それ以外の層が「正孔輸送層」である。特に、正孔注入(輸送)層は、陽極からの正孔受容性だけでなく、正孔輸送(発光)層への正孔注入性にも優れる薄膜が用いられる。
【0128】
「電子注入層」、「電子輸送層」及び「電子注入輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であって、電子を陰極から発光層へ輸送する機能を有するものである。発光層と陰極の間に電子輸送性材料の層が1層のみ設けられる場合、それが「電子注入輸送層」であり、発光層と陰極の間に電子輸送性材料の層が2層以上設けられる場合、陰極に近い層が「電子注入層」であり、それ以外の層が「電子輸送層」である。
【0129】
「発光層」とは、発光機能を有する有機層であって、ドーピングシステムを採用する場合、ホスト材料とドーパント材料とを含んでいる。このとき、ホスト材料は、主に電子と正孔の再結合を促し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有し、ドーパント材料は、再結合で得られた励起子を効率的に発光させる機能を有する。燐光素子の場合、ホスト材料は主にドーパントで生成された励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する。
【0130】
本発明の電荷輸送性薄膜は、有機EL素子において、陽極と発光層との間に設けられる機能層として好適に用いることができ、正孔注入層、正孔輸送層、正孔注入輸送層としてより好適に用いることができ、正孔注入層としてより一層好適に用いることができる。
【0131】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いて有機EL素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜からなる正孔注入層を有する有機EL素子の作製方法の一例は、以下のとおりである。なお、電極は、電極に悪影響を与えない範囲で、アルコール、純水等による洗浄や、UVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等による表面処理を予め行うことが好ましい。
【0133】
陽極基板上に、前記方法により、本発明の電荷輸送性ワニスを用いて正孔注入層を形成する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層/ホールブロック層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着する。あるいは、当該方法において蒸着で正孔輸送層と発光層を形成するかわりに、正孔輸送性高分子を含む正孔輸送層形成用組成物と発光性高分子を含む発光層形成用組成物とを用いてウェットプロセスによってこれらの層を形成する。なお、必要に応じて、発光層と正孔輸送層との間に電子ブロック層を設けてよい。
【0134】
前記陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極や、アルミニウムに代表される金属、又はこれらの合金等から構成される金属陽極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。なお、金属陽極を構成するその他の金属としては、金、銀、銅、インジウムやこれらの合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
前記正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー、N,N'-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン(α-NPD)、4,4',4''-トリス[3-メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4',4''-トリス[1-ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1-TNATA)等のトリアリールアミン類、5,5''-ビス-{4-[ビス(4-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-2,2':5',2''-ターチオフェン(BMA-3T)等のオリゴチオフェン類等が挙げられる。
【0136】
前記発光層を形成する材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、ビススチリルベンゼン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体、シロール誘導体等の低分子発光材料;ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の高分子化合物に発光材料と電子移動材料を混合した系等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
また、蒸着で発光層を形成する場合、発光性ドーパントと共蒸着してもよく、前記発光性ドーパントとしては、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)等の金属錯体や、ルブレン等のナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の縮合多環芳香族環等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
前記電子輸送層/ホールブロック層を形成する材料としては、オキシジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリミジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0139】
前記電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)の金属フッ化物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
前記陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
前記電子ブロック層を形成する材料としては、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム等が挙げられるが、これに限定されない。
【0142】
前記正孔輸送性高分子としては、ポリ[(9,9-ジヘキシルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,1'-ビフェニレン-4,4-ジアミン)]、ポリ[(9,9-ビス{1'-ペンテン-5'-イル}フルオレニル-2,7-ジイル)-co-(N,N'-ビス{p-ブチルフェニル}-1,4-ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N'-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N'-ビス(フェニル)-ベンジジン]-エンドキャップド ウィズ ポリシルセスキオキサン、ポリ[(9,9-ジジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4'-(N-(p-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0143】
前記発光性高分子としては、ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2-メトキシ-5-(2'-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0144】
陽極、陰極及びこれらの間に形成される層を構成する材料は、ボトムエミッション構造、トップエミッション構造のいずれを備える素子を製造するかで異なるため、その点を考慮して、適宜材料を選択する。
【0145】
通常、ボトムエミッション構造の素子では、基板側に透明陽極が用いられ、基板側から光が取り出されるのに対し、トップエミッション構造の素子では、金属からなる反射陽極が用いられ、基板と反対方向にある透明電極(陰極)側から光が取り出される。そのため、例えば陽極材料について言えば、ボトムエミッション構造の素子を製造する際はITO等の透明陽極を、トップエミッション構造の素子を製造する際はAl/Nd等の反射陽極を、それぞれ用いる。
【0146】
本発明の有機EL素子は、特性悪化を防ぐため、定法に従い、必要に応じて捕水剤等と共に封止してもよい。
【0147】
本発明の電荷輸送性ワニスは、前述したとおり、有機EL素子の機能層の形成に好適に用いられるが、その他にも有機光電変換素子、有機薄膜太陽電池、有機ペロブスカイト光電変換素子、有機集積回路、有機電界効果トランジスタ、有機薄膜トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機光学検査器、有機光受容器、有機電場消光素子、発光電子化学電池、量子ドット発光ダイオード、量子レーザー、有機レーザーダイオード及び有機プラスモン発光素子等の電子素子における機能層の形成にも利用することができる。
【実施例】
【0148】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)1H-NMR:ブルカー・バイオスピン(株)製、核磁気共鳴分光計AVANCE III HD 500MHz
(2)基板洗浄:長州産業(株)製、基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(3)ワニスの塗布:ミカサ(株)製、スピンコーターMS-A100
(4)膜厚測定:(株)小坂研究所製、微細形状測定機サーフコーダET-4000
(5)EL素子の作製:長州産業(株)製、多機能蒸着装置システムC-E2L1G1-N
(6)EL素子の輝度等の測定:(株)イーエッチシー製、多チャンネルIVL測定装置
(7)EL素子の寿命測定(輝度半減期測定):(株)イーエッチシー製、有機EL輝度寿命評価システムPEL-105S
(8)屈折率及び消衰係数の測定:ジェー・エー・ウーラムジャパン製、多入社角分光エリプソメーターVASE
【0149】
[1]化合物の合成
[合成例1]中間体Aの合成
【化34】
【0150】
J. Mater. Chem. C, 2014, pp. 1068-1075の記載の方法に従って合成を実施し、中間体A(2,7-ジブロモ-9,9-ビス(4-ニトロフェニル)-9H-フルオレン)を得た。
【0151】
[実施例1-1]フルオレン誘導体Aの合成
[実施例1-1-1]中間体Bの合成
【化35】
【0152】
国際公開第2017/122649号記載の方法に従って合成を実施し、中間体B(4,4'-(9,9-ビス(4-ニトロフェニル)-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(N,N-ジフェニルアニリン))を得た。
【0153】
【0154】
国際公開第2017/122649号記載の方法に従って合成を実施し、中間体C(4,4'-(9,9-ビス(4-アミノフェニル)-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(N,N-ジフェニルアミン))を得た。
【0155】
[実施例1-1-3]フルオレン誘導体Aの合成
【化37】
【0156】
反応容器に、中間体C(1g、1.2mmol)、THF(2mL)及びトリメチルアミン(368μL、2.64mmol)を入れ窒素置換を行った後、氷浴で冷却しながら、1-ナフトイルクロリド(396μL、2.6mmol)を滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌した。反応混合物にイオン交換水(25mL)を加え、酢酸エチル(25mL)で抽出した。抽出操作は、3回行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。濃縮液を2-プロパノール(20mL)に滴下し、懸濁液を室温で攪拌した。ろ過を行い、ろ物を乾燥し、目的とするフルオレン誘導体A(N,N'-(2,7-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(1-ナフトアミド))を1.16g得た(収率:85%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ[ppm]: 7.05-7.07(m, 16H), 7.26-7.33(m, 12H), 7.56-7.60(m, 10H), 7.62-7.74(m, 10H), 7.99-8.06(m, 6H), 8.13-8.15(m, 2H), 10.58(brs, 2H).
【0157】
[実施例1-2]フルオレン誘導体Bの合成
1-ナフトイルクロリドのかわりにベンゾイルクロリド(304μL、2.64mmol)を用いた以外は、実施例1-1-3と同様の方法で目的とするフルオレン誘導体B(N,N'-(2,7-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビスベンズアミド)を1.07g得た(収率:85%)。
1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ[ppm]: 7.03-7.07(m, 16H), 7.24(d, J=8.5Hz, 4H), 7.29-7.33(m, 8H), 7.49-7.52(m, 4H), 7.55-7.61(m, 6H), 7.69-7.73(m, 8H), 7.90(dd, J=1.5Hz, 8.5Hz, 4H), 8.20(d, J=7.5Hz, 2H), 10.24(brs, 2H).
【化38】
【0158】
[実施例1-3]フルオレン誘導体Cの合成
[実施例1-3-1]中間体Dの合成
【化39】
【0159】
国際公開第2017/122649号記載の方法に従って合成を実施し、中間体D(3,3'-(9,9-ビス(4-ニトロフェニル)-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール))を得た。
【0160】
【0161】
国際公開第2017/122649号記載の方法に従って合成を実施し、中間体E(4,4'-(2,7-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ジアニリン)を得た。
【0162】
[実施例1-3-3]フルオレン誘導体Cの合成
【化41】
【0163】
中間体Cのかわりに中間体E(1.13g、1.36mmol)を用いた以外は、実施例1-1-3と同様の方法で目的とするフルオレン誘導体C(N,N'-((2,7-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(1-ナフトアミド))を1.46g得た(収率:94%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ[ppm]: 7.32(t, J=7.0Hz, 2H), 7.39-7.41(m, 6H), 7.46(t, J=7.5Hz, 4H), 7.54-7.58(m, 8H), 7.65-7.72(m, 10H), 7.78-7.80(m, 6H), 7.91-7.99(m, 6H), 8.04 (d, J=8.5Hz, 2H), 8.12-8.15(m, 4H), 8.41 (d, J=8.0Hz, 2H), 8.65(s, 2H), 10.59(brs, 2H).
【0164】
[実施例1-4]フルオレン誘導体Dの合成
[実施例1-4-1]中間体Fの合成
【化42】
【0165】
反応容器に、中間体A(0.57g、1mmol)、9-フェニルカルバゾール-2-ボロン酸(0.63g、2.2mmol)、炭酸カリウム(0.55g、4mmol)、1,4-ジオキサン(11mL)、イオン交換水(2.8mL)及びPd(PPh3)4(57.8mg、0.05mmol)を入れ、窒素置換を行った後、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、反応混合物にイオン交換水(8.4mL)を加え、ろ過を行い、ろ物をイオン交換水(11mL)で洗浄した。洗浄は、2回行った。ろ物に1,4-ジオキサン(5.6g)を加え、90℃で1時間攪拌した。室温まで冷却した後、ろ過を行い、ろ物を1,4-ジオキサン(5.6g)で洗浄し、目的とする中間体F(2,2'-(9,9-ビス(4-ニトロフェニル)-9H-フルオレン-2,7-ジイル)ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール))を0.68g得た(収率:76%)。
【0166】
【0167】
反応容器に、中間体F(3g、3.3mmol)、DMF(60mL)及び5%Pd/C(0.3g)を入れ、水素置換を行った後、室温で48時間攪拌した。窒素置換した後に、セライトろ過し、DMF(30mL)で洗浄した。ろ液を減圧留去し、濃縮液を酢酸エチル(20mL)に滴下し、懸濁液を室温で攪拌した。ろ過を行い、ろ物を乾燥し、目的とする中間体G(4,4'-(2,7-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ジアニリン)を2.10g得た(収率:77%)。
【0168】
[実施例1-4-3]フルオレン誘導体Dの合成
【化44】
【0169】
中間体Aのかわりに中間体G(0.9g、1.08mmol)を用い、1-ナフトイルクロリドのかわりにベンゾイルクロリド(274μL、2.38mmol)を用いた以外は、実施例1-1-3と同様の方法で目的とするフルオレン誘導体D(N,N'-((2,7-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル)-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビスベンズアミド)を0.86g得た(収率:69%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ[ppm]: 7.26-7.32(m, 6H), 7.40-7.42(m, 4H), 7.43-7.59(m, 12H), 7.68-7.77(m, 16H), 7.93-7.94(m, 4H), 8.04 (d, J=7.5Hz, 2H), 8.27 (d, J=7.5Hz, 2H), 8.32(d, J=8.0Hz, 2H), 10.26(brs, 2H).
【0170】
[実施例1-5]フルオレン誘導体Eの合成
【化45】
【0171】
1-ナフトイルクロリドのかわりに2-テノイルクロリド(280μL、2.64mmol)を用いた以外は、実施例1-1-3と同様の方法で目的とするフルオレン誘導体E(N,N'-(2,7-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(チオフェン-2-カルボキサミド))を1.02g得た(収率:80%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ[ppm]: 7.02-7.07(m, 16H), 7.20(dd, J=4Hz, 4.5Hz, 2H), 7.23(d, J=9.0Hz, 4H), 7.30-7.33(m, 8H), 7.60(d, J=8.5Hz, 4H), 7.64(d, J=8.5Hz, 4H), 7.69(s, 2H), 7.72(d, J=8.0Hz, 2H), 7.83(d, J=5.0Hz, 2H), 7.97(d, J=3.5Hz, 2H), 8.01(d, J=8.5Hz, 2H), 10.21(brs, 2H).
【0172】
[実施例1-6]フルオレン誘導体Fの合成
【化46】
【0173】
1-ナフトイルクロリドのかわりにベンゾ[b]チオフェン-2-カルボニルクロリド(517mg、2.64mmol)を用いた以外は、実施例1-1-3と同様の方法で目的とするフルオレン誘導体F(N,N'-(2,7-ビス(4-(ジフェニルアミノ)フェニル-9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(ベンゾ[b]チオフェン-2-カルボキサミド))を1.14g得た(収率:83%)。1H-NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz, DMSO-d6) δ[ppm]: 7.03-7.07(m, 16H), 7.26-7.33(m, 12H), 7.44-7.50(m, 4H), 7.61(d, J=8.5Hz, 4H), 7.69-7.74(m, 8H), 7.99(d, J=7.5Hz, 2H), 8.03(dd, J=6.5Hz, 8.0Hz, 4H), 8.32(s, 2H), 10.51(brs, 2H).
【0174】
[2]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例2-1]電荷輸送性ワニスA1の調製
フルオレン誘導体A(174mg)と国際公開第2017/217455号に記載された方法に従って合成した下記式で表されるアリールスルホン酸エステルA(0.189g)とを、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスA1を得た。
【化47】
【0175】
[実施例2-2]電荷輸送性ワニスB1の調製
フルオレン誘導体B(165mg)とアリールスルホン酸エステルA(0.198g)とを、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスB1を得た。
【0176】
[実施例2-3]電荷輸送性ワニスC1の調製
フルオレン誘導体C(173mg)とアリールスルホン酸エステルA(0.190g)とを、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスC1を得た。
【0177】
[実施例2-4]電荷輸送性ワニスD1の調製
フルオレン誘導体D(165mg)とアリールスルホン酸エステルA(0.198g)とを、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスD1を得た。
【0178】
[実施例2-5]電荷輸送性ワニスE1の調製
フルオレン誘導体E(166mg)とアリールスルホン酸エステルA(0.197g)とを、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスE1を得た。
【0179】
[実施例2-6]電荷輸送性ワニスF1の調製
フルオレン誘導体F(175mg)とアリールスルホン酸エステルA(0.188g)とを、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスF1を得た。
【0180】
[実施例2-7]電荷輸送性ワニスA2の調製
フルオレン誘導体A(363mg)をトリエチレングリコールブチルメチルエーテル(2g)、安息香酸ブチル(4g)及びフタル酸ジメチル(4g)の混合溶媒に室温で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いてろ過し、電荷輸送性ワニスA2を得た。
【0181】
[実施例2-8~2-12]電荷輸送性ワニスB2、C2、E2及びF2の調製
フルオレン誘導体Aを、それぞれフルオレン誘導体B、C、E及びFに変更した以外は、実施例2-7と同様の方法で電荷輸送性ワニスB2、C2、E2及びF2を得た。
【0182】
[3]屈折率(n)及び消衰係数(k)の評価
[実施例3-1~3-5]
電荷輸送性ワニスA1、B1、C1、E1及びF1を、それぞれスピンコーターを用いて石英基板に塗布した後、大気雰囲気下、120℃で1分間仮焼成し、次いで大気雰囲気下、200℃で15分間本焼成し、石英基板上に50nmの均一な薄膜を形成した。
得られた膜付き石英基板を用いて、波長400~800nmにおける可視域平均屈折率n及び可視域平均消衰係数kの測定を行った。結果を表1に示す。
【0183】
【0184】
表1に示したように、本発明の電荷輸送性薄膜は、屈折率が1.65以上と高い値であり、消衰係数が0.03以下と低い値であった。
【0185】
[4]ホールオンリー素子(HOD)の作製及び特性評価-1
以下の実施例において、ITO基板としては、ITOが表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板であって、使用前にO2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除去したものを使用した。
【0186】
[正孔注入層溶液の調製]
国際公開第2013/084664号記載の方法に従って合成した下記式(S1)で表されるアニリン誘導体0.137gと、国際公開第2006/025342号記載の方法に従って合成した式(S2)で表されるアリールスルホン酸0.271gとを、窒素雰囲気下で1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン6.7gに溶解させた。得られた溶液に、シクロヘキサノール10g及びプロピレングリコール3.3gを順次加えて攪拌し、正孔注入層溶液を調製した。
【化48】
【0187】
[実施例4-1]
前記正孔注入層溶液を、スピンコーターを用いてITO基板上に塗布した後、大気雰囲気下、ホットプレート上で80℃で1分間仮焼成をし、次いで230℃で15分間本焼成をし、正孔注入層(膜厚30nm)を形成した。次に、電荷輸送性ワニスA2を、スピンコーターを用いて正孔注入層上に塗布した後、常温の真空乾燥により溶媒を除去し、大気雰囲気下、130℃で10分間焼成し、膜厚40nmの正孔輸送層を形成した。この上に、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて0.2nm/秒にて80nmのアルミニウム薄膜を形成し、ホールオンリー素子(HOD)を作製した。
【0188】
[実施例4-2~4-5]
電荷輸送性ワニスA2のかわりに電荷輸送性ワニスB2、C2、E2又はF2に変更した以外は、実施例4-1と同様の方法でHODを作製した。
【0189】
実施例4-1~4-5で作製した各HODについて、駆動電圧4Vにおける電流密度を測定した。結果を表2に示す。
【0190】
【0191】
表2に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示した。
【0192】
[5]単層素子(SLD)の作製
[実施例5-1]
電荷輸送性ワニスA1を、スピンコーターを用いてITO基板上に塗布した後、大気雰囲気下、120℃で1分間仮焼成をし、次いで200℃で15分間本焼成をし、正孔注入層(膜厚50nm)を形成した。この上に、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いて0.2nm/秒にて膜厚80nmのアルミニウム薄膜を形成し、単層素子(SLD)を作製した。
【0193】
[実施例5-2~5-6]
電荷輸送性ワニスA1のかわりに電荷輸送性ワニスB1、C1、D1、E1又はF1を用いた以外は、実施例5-1と同様の方法でSLDを作製した。
【0194】
実施例5-1~5-6で作製した各SLDについて、駆動電圧4Vでの電流密度を測定した。結果を表3に示す。
【0195】
【0196】
表3に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示した。
【0197】
[6]HODの作製及びその評価-2
[実施例6-1]
電荷輸送性ワニスA1を、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気雰囲気下、120℃で1分間仮焼成をし、次いで200℃で15分間本焼成をし、ITO基板上に50nmの薄膜を形成した。その上に、蒸着装置(真空度2.0×10-5Pa)を用いてα-NPD及びアルミニウムの薄膜を順次積層し、HODを作製した。蒸着は、蒸着レート0.2nm/秒の条件で行った。α-NPD及びアルミニウムの薄膜の膜厚は、それぞれ30nm及び80nmとした。
【0198】
[実施例6-2~6-5]
電荷輸送性ワニスA1のかわりに電荷輸送性ワニスB1、C1、E1又はF1を用いた以外は、実施例6-1と同様の方法でHODを作製した。
【0199】
実施例6-1~6-5で作製したHODについて、駆動電圧4Vでの電流密度を測定した。結果を表4に示す。
【0200】
【0201】
表4に示したように、本発明の電荷輸送性ワニスから作製した薄膜は、良好な電荷輸送性を示した。
【0202】
[7]有機EL素子の作製及び特性評価
[実施例7-1]
電荷輸送性ワニスA1を、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、大気雰囲気下、120℃で1分間仮焼成をし、次いで200℃で15分間本焼成をし、ITO基板上に50nmの薄膜を形成した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10-5Pa)を用いてα-NPDを0.2nm/秒にて30nm成膜した。次に、関東化学(株)製の電子ブロック材料HTEB-01を10nm成膜した。次いで、新日鉄住金化学(株)製の発光層ホスト材料NS60及び発光層ドーパント材料Ir(ppy)3を共蒸着した。共蒸着は、Ir(ppy)3の濃度が6%になるように蒸着レートをコントロールし、40nm積層させた。次いで、Alq3、フッ化リチウム及びアルミニウムの薄膜を順次積層して有機EL素子を作製した。この際、蒸着レートは、Alq3及びアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ20nm、0.5nm及び80nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は、以下の手順で行った。酸素濃度2ppm以下、露点-76℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着剤((株)MORESCO製、モレスコモイスチャーカットWB90US(P))により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製HD-071010W-40)を有機EL素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着剤を硬化させた。
【0203】
[実施例7-2~7-5]
電荷輸送性ワニスA1のかわりに電荷輸送性ワニスB1、C1、E1又はF1を用いた以外は、実施例7-1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0204】
得られた有機EL素子について、5,000cd/m2で発光させた場合における駆動電圧、電流密度、電流効率、発光効率、外部発光量子収率(EQE)、及びLT90(初期輝度5,000cd/m2の10%減少に要する時間)を測定した。結果を表5に示す。
【0205】
【0206】
表5に示したように、本発明の有機EL素子はいずれも高い電流効率と高いEQEを示し、かつ良好な寿命特性を示した。