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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】透過型光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/50 20060101AFI20241126BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B29C43/50
B29C43/34
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021530631
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2020025726
(87)【国際公開番号】W WO2021006126
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019128669
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】荒井 邦仁
(72)【発明者】
【氏名】澤口 太一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敬志
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-105407(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00
B29C 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムを用いて透過型光学素子を製造する製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも一対の平板金型により挟んだ状態で加熱する金型加熱工程と、
前記金型加熱工程の後に、前記熱可塑性樹脂フィルムを、前記少なくとも一対の平板金型により熱プレスして熱プレスフィルムを得る熱プレス工程と、
前記一対の平板金型を前記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却して、前記熱プレスフィルムを冷却する金型冷却工程と、
前記金型冷却工程の後に、前記熱プレスフィルムを前記一対の平板金型から離型するにあたり、前記一対の平板金型を開き始める時点において前記熱プレスフィルムに対して張力をかけながら離型して、複数の透過型光学素子を含む成形フィルムを得る離型工程と、
を含み、
前記金型加熱工程におけるプレス圧は、前記熱プレス工程におけるプレス圧よりも低く、
前記金型加熱工程において、前記少なくとも一対の平板金型への熱入力を開始して、前記熱プレス工程における前記少なくとも一対の平板金型の温度まで昇温させる、
透過型光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記熱プレス工程に先立って、前記熱可塑性樹脂フィルムを、所定の搬送方向に沿って搬送する搬送工程を更に含み、
前記離型工程にて前記搬送方向に沿って張力をかけながら離型し、且つ、前記張力の大きさが、前記搬送方向に対して直交する方向の前記熱可塑性樹脂フィルムの幅1mあたり、1N以上2000N以下である、請求項1に記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記一対の平板金型のうちの少なくとも一方は、直径が1mm以上15mm以下である複数の光学面形成領域と、当該複数の光学面形成領域の各外周に隣接する領域である外周部形成領域とを含んでおり、且つ
前記一対の平板金型の前記光学面形成領域及び前記外周部形成領域における最浅部の深さの合計が、500μm以下である、請求項1又は2に記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記一対の平板金型のうちの少なくとも一方が、該平板金型の平面方向にて離散配置された複数の光学面形成領域を含み、
該複数の光学面形成領域間の最小間隔が1.0mm以上である、
請求項1~3の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が100℃以上200℃以下である、請求項1~4の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記熱プレス工程における前記一対の平板金型の温度が(Tg+30)℃以上(Tg+70)℃以下である、請求項1~5の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記金型冷却工程において、前記一対の平板金型を(Tg-15)℃以下の温度まで冷却する、請求項1~6の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂フィルムが脂環構造含有樹脂を含む、請求項1~7の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記一対の平板金型のうちの少なくとも一方が、0.16個/cm以上の個数密度で光学面形成領域を有する、請求項1~8の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記一対の平板金型の両方が、複数の光学面形成領域を有する、請求項1~9の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記離型工程を経て得られた前記成形フィルムから、前記複数の透過型光学素子を分離する透過型光学素子分離工程を含む、請求項1~10の何れかに記載の透過型光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型光学素子の製造方法に関する。より具体的には、樹脂フィルムを用いた透過型光学素子の製造方法に関する。
【0002】
近年、電子電気機器の軽量化、小型化、及び薄型化が進み、これらの電子電気機器に搭載されるカメラユニット等においても、薄型化及び小径化へのニーズが高まっている。また、このようなカメラユニット等においては、一層の高画質化のニーズがあり、これらの光学機器に備えられるレンズ及びプリズム等の透過型光学素子についても高性能であることが求められている。
【0003】
従来、カメラユニット等に採用されるレンズ等の透過型光学素子は、一般的に、射出成形法により製造されてきた。しかしながら、射出成形法によりレンズを形成した場合、得られたレンズ内にウェルドラインが形成されることを完全に抑制することは困難であった。また、射出成形法に従って得られたレンズでは、複屈折が生じ易かった。このため、得られたレンズ中において、十分に高い光学的性能を発揮することが可能な領域の占める比率を十分に高めることが難しく、直径が1cmに満たないような小径のレンズを射出成形法に従って形成しても、レンズとして十分に機能させることが難しかった。
【0004】
そこで、近年、射出成形法以外の方法により、小径のレンズ等の透過型光学素子を製造する方法が検討されてきた。例えば、特許文献1には、樹脂シートを金型内で真空圧縮成形する光学レンズの製造方法が開示されている。特許文献1では、樹脂シートの厚み、金型の最深部の深さ、樹脂シートのガラス転移温度、及び成形時の金型の表面温度が特定の関係を満たすような条件下で成形することで、低複屈折性であるとともに、形状精度が高い光学レンズを効率的に製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/126599号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、電子電気機器に備えられるカメラユニット等には、一層の高画質化が求められている。また、電子電気機器の製造に際しては、当然、高い製造効率で製造することが求められている。しかしながら、特許文献1に記載の光学レンズの製造方法では、形状精度の高い光学レンズを、効率的に製造するという点で改善の余地があった。また、上述のように、従来から行われてきた射出成形法には、得られる光学レンズにおける複屈折の発生を抑制するという点で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することが可能な、透過型光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、金型を用いたプレス成形により樹脂フィルムを成形するにあたり、金型として平板金型を用い、且つ、製造工程における特定のタイミングで樹脂フィルムに対して張力をかけることで、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することが可能となることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の透過型光学素子の製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを用いて透過型光学素子を製造する製造方法であって、前記熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも一対の平板金型により熱プレスして熱プレスフィルムを得る熱プレス工程と、前記一対の平板金型を前記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却して、前記熱プレスフィルムを冷却する金型冷却工程と、前記金型冷却工程の後に、前記熱プレスフィルムを前記一対の平板金型から離型するにあたり、前記熱プレスフィルムに対して張力をかけながら離型して、複数の透過型光学素子を含む成形フィルムを得る離型工程と、を含むことを特徴とする。一対の平板金型を用いて熱プレスした熱可塑性樹脂フィルムを冷却した後に離型する際に、張力をかけながら離型することで、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することが可能となる。
なお、「熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃」は、JIS K7121に基づき測定することができる。
【0010】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法が、前記熱プレス工程に先立って、前記熱可塑性樹脂フィルムを、所定の搬送方向に沿って搬送する搬送工程を更に含み、前記離型工程にて前記搬送方向に沿って張力をかけながら離型し、且つ、前記張力の大きさが、前記搬送方向に対して直交する方向の前記熱可塑性樹脂フィルムの幅1mあたり、1N以上2000N以下であることが好ましい。張力の大きさを上記範囲内とすることで、一層効率的に、形状精度のばらつきの少ない複数の透過型光学素子を製造することができる。
なお、「張力の大きさ」は、実施例に記載の方法により制御することができる。
【0011】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記一対の平板金型のうちの少なくとも一方は、直径が1mm以上15mm以下である複数の光学面形成領域と、当該複数の光学面形成領域の各外周に隣接する領域である外周部形成領域とを含んでおり、且つ前記一対の平板金型の前記光学面形成領域及び前記外周部形成領域における最浅部の深さの合計が、500μm以下であることが好ましい。上記条件を満たす平板金型を用いることで、強度に優れる透過型光学素子を効率的に製造することができる。
【0012】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記一対の平板金型のうちの少なくとも一方が、該平板金型の平面方向にて離散配置された複数の光学面形成領域を含み、該複数の光学面形成領域間の最小間隔が1.0mm以上であることが好ましい。上記条件を満たす平板金型を用いることで、透過型光学素子の製造効率を一層高めることができる。なお、「光学面形成領域の間の最小間隔」は、近接する光学面形成領域の輪郭間の、平板金型の平面方向における最短距離を意味する。なお、「平板金型の平面方向」とは、平板金型に設けられた凹部である光学面形成領域の開口部を含む平面に沿う方向を意味する。
【0013】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が100℃以上200℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる透過型光学素子の耐熱性及び形状精度を高めることができる。
【0014】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記熱プレス工程における前記一対の平板金型の温度が(Tg+30)℃以上(Tg+70)℃以下であることが好ましい。熱プレス工程における一対の平板金型の温度を上記範囲内とすることで、低複屈折性の透過型光学素子を一層効率的に製造することができる。
【0015】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法では、前記金型冷却工程において、前記一対の平板金型を(Tg-15)℃以下の温度まで冷却することが好ましい。金型冷却工程における一対の平板金型の温度を上記上限値以下とすることで、一層効率的に、形状精度のばらつきの少ない複数の透過型光学素子を製造することができる。
【0016】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記熱可塑性樹脂フィルムが脂環構造含有樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムが脂環構造含有樹脂を含んでいれば、透明性に優れる透過型光学素子を製造することができる。
【0017】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記一対の平板金型のうちの少なくとも一方が、0.16個/cm以上の個数密度で光学面形成領域を有することが好ましい。100個以上の光学面形成領域を有する平板金型を用いることで、一層効率的に透過型光学素子を製造することができる。
【0018】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法において、前記一対の平板金型の両方が、複数の光学面形成領域を有することが好ましい。光学面形成領域をそれぞれ有する一対の平板金型を用いて成形することで、両面が賦形された透過型光学素子を効率的に製造することができる。
【0019】
また、本発明の透過型光学素子の製造方法が、前記離型工程を経て得られた前記成形フィルムから、前記複数の透過型光学素子を分離する透過型光学素子分離工程を含むことが好ましい。成形フィルムから複数の透過型光学素子を分離する透過型光学素子分離工程を実施することで、一層効率的に透過型光学素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一例に係る透過型光学素子の製造方法を実施するために用いることができる透過型光学素子製造装置の概略構造を示す図である。
図2】本発明の一例に係る透過型光学素子である光学レンズの製造例の一つを説明するための概略図である。
図3図2に示した形状とは異なる形状を有する光学レンズを製造する場合を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、光学レンズ及びプリズムといった透過型光学素子を好適に製造することができる。ここで、「光学レンズ」とは、光の屈折作用を示す透明体を意味する。また、「プリズム」とは、光の分散作用、屈折作用、全反射作用、及び/又は、複屈折作用を示す透明多面体を意味する。本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、形状精度が高く、且つ低複屈折性の透過型光学素子を効率的に製造することができる。より具体的には、本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、平凸レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、及び凹メニスカスレンズ、片面及び/又は両面が変曲点のある非球面レンズ等の種々の形状のレンズを好適に製造することができる。さらに、本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、比較的小径の各種透過型光学素子を高い形状精度で製造することができるため、例えば、小型電子電気機器のカメラユニットのレンズとして好適に用いることができる光学レンズを効率的に製造することができる。
【0023】
(透過型光学素子の製造方法)
本発明の透過型光学素子の製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを用いて透過型光学素子を製造する製造方法である。そして、本発明の透過型光学素子の製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも一対の平板金型により熱プレスして熱プレスフィルムを得る「熱プレス工程」と、一対の平板金型を前記熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却して、熱プレスフィルムを冷却する「金型冷却工程」と、金型冷却工程の後に、熱プレスフィルムを一対の平板金型から離型するにあたり、熱プレスフィルムに対して張力をかけながら離型して、複数の透過型光学素子を含む成形フィルムを得る「離型工程」とを含むことを特徴とする。平板金型を用いて熱プレスした熱可塑性樹脂フィルムを冷却した後に離型する際に、張力をかけながら離型することで、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することが可能となる。更に、本発明の透過型光学素子の製造方法は、熱プレス工程に先立って、熱可塑性樹脂フィルムを、所定の搬送方向に沿って搬送する搬送工程を含んでも良い。更にまた、本発明の透過型光学素子の製造方法は、離型工程の後段に、成形フィルムから複数の透過型光学素子を分離する透過型光学素子分離工程を含んでも良い。
以下、各工程について詳述する。なお、各工程を実施する環境の気圧は特に限定されることなく、JISZ 8703に規定された標準状態の範囲内であり得る。なお、以下の各工程は、特に限定されることなくあらゆる手段により実施可能であるが、所謂、ロール・ツー・ロール方式の製造手段を用いて実施されることが好ましい。ロール・ツー・ロール方式の製造手段を用いて以下に説明する各工程を実施することで、透過型光学素子の製造効率を高めることができるからである。
【0024】
<搬送工程>
搬送工程では、熱プレス工程に先立って、熱可塑性樹脂フィルムを、所定の搬送方向に沿って熱プレスを実施する位置まで搬送する。搬送方向は、熱可塑性フィルムの幅方向に対して直交する長手方向に沿う方向であることが好ましい。
【0025】
<熱プレス工程>
熱プレス工程では、熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも一対の平板金型により熱プレスして熱プレスフィルムを得る。なお、熱プレス工程では、少なくとも一対の平板金型を用いる限りにおいて特に限定されることなく、一対の平板金型を用いて熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスしてもよいし、複数対の平板金型により1枚の熱可塑性樹脂フィルムの異なる部分を同時又は時間差で熱プレスしても良い。本発明の透過型光学素子の製造方法において、射出成形法によらず、熱可塑性樹脂フィルムを平板金型を用いた熱プレスに供することで、得られる透過型光学素子における複屈折の発生を抑制することができる。
【0026】
<<熱可塑性樹脂フィルム>>
熱可塑性樹脂フィルムとしては、熱可塑性である限りにおいて特に限定されることなく、既知のあらゆる熱可塑性樹脂を用いて形成されたフィルムを用いることができる。ここで、「フィルム」とは、表面及び裏面(即ち、主面)が、厚み分の距離を隔てて対向してなる形状を有する物体を意味する。熱可塑性樹脂フィルムを構成し得る熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、脂環構造含有樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、及びチオウレタン樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを指す。そして、上述した熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、透明性に優れる透過型光学素子が得られることから、熱可塑性樹脂フィルムが脂環構造含有樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
脂環構造含有樹脂とは、主鎖及び/又は側鎖に飽和環状炭化水素構造及び不飽和環状炭化水素構造等の脂環式構造を有する重合体である。なかでも、機械強度及び耐熱性に優れる透過型光学素子が得られ易いことから、シクロアルカン構造を主鎖に有するものが好ましい。脂環式構造含有樹脂を構成する重合体(以下、「脂環式構造含有重合体」とも称する)中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は特に限定されないが、重合体に含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が50質量%以上の脂環式構造含有重合体を用いることで、透明性及び耐熱性に優れる透過型光学素子が得られ易くなる。
【0028】
脂環式構造含有重合体の具体例としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体などが挙げられる。これらの中でも、得られる透過型光学素子の透明性、耐熱性、及び機械的強度を高める観点から、ノルボルネン系重合体が好ましい。なお、本明細書において、これらの重合体は、重合反応生成物だけでなく、その水素化物も意味するものである。
【0029】
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン系モノマーの重合体又はその水素化物である。ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環重合体、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加重合体、及びこれらの重合体の水素化物などが挙げられる。なかでも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物(即ち、ノルボルネン系開環重合体水素化物)が好ましい。ノルボルネン系開環重合体水素化物を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを用いることで、得られる透過型光学素子の透明性、耐熱性、及び機械的強度等を一層高めることができると共に、透過型光学素子を製造する際の離型性及び転写性を高めることができる。
【0030】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。誘導体に含まれうる置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが挙げられる。例えば、ノルボルネン系モノマーとしての誘導体としては、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンなどが挙げられる。これらのノルボルネン系モノマーは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、及びシクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なその他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、及び1-ヘキセンなどの炭素数2~20のα-オレフィン並びにこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、及び3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンなどのシクロオレフィン並びにこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、及び1,7-オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
【0032】
上述のようなノルボルネン系モノマーを含む開環重合体及び付加重合体は、公知の触媒の存在下で重合させることにより合成することができる。また、これらの水素化物は、公知の水素化触媒を用いた水素化反応により、得ることができる。
【0033】
なお、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及びビニル脂環式炭化水素系重合体としては、例えば、国際公開第2017/126599号に記載されたものが挙げられる。
【0034】
また、脂環式構造含有重合体として、市販品を使用することもできる。市販品としては、日本ゼオン社製、ZEONEX(登録商標)、三井化学社製、APEL(登録商標)、JSR社製、ARTON(登録商標)、ポリプラスチックス社製、TOPAS(登録商標)などが挙げられる。
【0035】
熱可塑性樹脂フィルムは、上述したような樹脂成分以外の成分を含有するものであってもよい。樹脂成分以外の成分としては、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、炭素材料(カーボン等)、顔料、及び、染料等の添加剤が挙げられる。これらの成分の配合量は、特に限定されず適宜決定することができる。例えば、これらの添加剤の合計量は、樹脂成分を100質量%として、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下でありうる。
【0036】
なお、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されることなく、従来公知の適宜な方法を採用することができる。例えば、所定の成分を混合して熱可塑性樹脂フィルム製造用の成形材料を得、これを用いて、溶融押出成形法、溶融流延成形法、射出成形法等により、熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0037】
[熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度]
熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が上記下限値以上であれば、得られる透過型光学素子の形状精度を一層高めることができる。また、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が上記上限値以下であれば、透過型光学素子の生産効率を高めると共に、形状精度を一層高めることができる。
【0038】
[熱可塑性樹脂フィルムの厚み]
ここで、熱可塑性樹脂フィルムは、一枚のフィルム内でも、厚みにばらつきがある場合がある。得られる透過型光学素子の形状精度のばらつきを効果的に抑制する観点から、熱可塑性樹脂フィルムは、厚みばらつきが10μm以内であることが好ましく、5μm以内であることがより好ましい。当然、完全に厚みが均一なフィルムでは、厚みばらつきは0μmであるが、一般的には、厚みばらつきは、0.5μm以上であり得る。なお、熱可塑性樹脂フィルムの厚みばらつきは、熱可塑性樹脂フィルムの最大厚みと最小厚みとの差分であり、実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0039】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、製造する透過型光学素子の直径に応じて、適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、通常50μm以上であり、好ましくは70μm以上であり、通常500μm以下であり、好ましくは400μm以下である。なお、熱可塑性樹脂フィルムに厚みばらつきがある場合には、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、実施例に記載したように、ランダムに選定した複数の測定点における厚みの単純算術平均の値に相当する。
【0040】
<<平板金型>>
[形状]
本発明の透過型光学素子の製造方法で用いる一対の平板金型は、少なくとも一方が光学面形成領域である凹部を複数個有している限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる形状であり得る。複数の光学面形成領域は、平板金型の平面方向にて離散配置されてなる。複数の光学面形成領域は、平板金型の平面方向にて、等間隔で離隔して配置されていることが好ましい。
【0041】
ここで、本発明の透過型光学素子の製造方法に従って形成される透過型光学素子は、凹面、凸面、又は、変曲点のある非球面等の少なくとも一つの光学面と、かかる光学面に隣接する領域であって、透過型光学素子を保持するための保持部材に対する取付領域等として機能し得る領域である外周部(フランジ部)とを有し得る。外周部は、透過型光学素子の光軸に対して垂直または略垂直であり得る。なお、「透過型光学素子の光軸」は、透過型光学素子の中心を通り、且つ光学面に対して垂直な軸線に相当する。例えば、透過型光学素子の形状について一つの回転対称軸を定義し得る場合には、かかる回転対称軸が光軸に一致する。そして、光学面及び外周部を有する形状の透過型光学素子を形成するための平板金型は、複数の光学面形成領域と、当該複数の光学面形成領域の各外周に隣接する領域である外周部形成領域とを含んでなる。外周部形成領域の少なくとも一部は、平板金型の平面方向に対して平行な水平領域であり得る。さらに、平板金型は、任意で、外周部に隣接する領域であって、後述する透過型光学素子分離工程で分離されて得られた透過型光学素子には含まれない領域を形成するための周縁部(マージン部)を有していても良い。
【0042】
一対の平板金型は、両方が、それぞれ複数の光学面形成領域を有していてもよい。光学面形成領域をそれぞれ有する一対の平板金型を用いて成形することで、両面が賦形された透過型光学素子を効率的に製造することができるからである。なお、一対の平板金型の各形状は、当然、製造する透過型光学素子の形状に応じて、同一であっても、相異なっていても良い。
【0043】
そして、透過型光学素子の製造効率を向上する観点から、一対の平板金型のうちの少なくとも一方における光学面形成領域の個数密度が、0.16個/cm以上であることが好ましく、0.32個/cm以上であることがより好ましい。なお、個数密度が0.16個/cmである場合には、210mm×297mm(A4サイズ)の領域につき約100個の光学面形成領域が存在し、個数密度が0.32個/cmである場合には、A4サイズの領域につき約200個の光学面形成領域が存在することとなる。よって、例えば、光学面形成領域の個数密度が上記下限値以上であるA4サイズ程度の平板金型を用いて透過型光学素子を製造した場合には、1度の熱プレス工程を含む1サイクルの処理を行うことで、100個以上の透過型光学素子を得ることができるため、透過型光学素子の製造効率を一層高めることができる。なお、一対の平板金型のうちの少なくとも一方における光学面形成領域の個数密度の上限値は、特に限定されない。例えば、1サイクル当たりに製造されうる透過型光学素子の個数が、2000個以下となるような個数密度であり得る。
【0044】
[光学面形成領域の直径]
一対の平板金型の少なくとも一方に設けられた複数の光学面形成領域の直径は、直径が1mm以上15mm以下であることが好ましい。直径が1mm以上であれば、得られる透過型光学素子により十分な光量の光線を透過させることができる。よって、例えば透過型光学素子として光学レンズを製造した場合には、得られた光学レンズのレンズ径が充分に大きく、当該光学レンズが含まれる光学系の後段側に備えられたセンサー等の受光素子まで充分な光量の光線を到達させることができる。また、直径が15mm以下である透過型光学素子は、大きすぎず、カメラユニット等に取り付けるために適度なサイズである。なお、光学面形成領域の直径は、平板金型に設けられた凹部である光学面形成領域の開口部の直径である。即ち、光学面形成領域の直径は、凹部を深さ方向に見た場合に、最も大きい直径に相当する。
なお、本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、高い形状精度で透過型光学素子を成形することができるため、平板金型の光学面形成領域の直径は、実質的に、得られる透過型光学素子の光学面の直径に相当し得る。
【0045】
[光学面形成領域の間の最小間隔]
さらに、一対の平板金型の少なくとも一方に設けられた複数の光学面形成領域の間の最小間隔は、1.0mm以上が好ましく、3.0mm以上がより好ましく、50mm以下が好ましい。複数の光学面形成領域の間の最小間隔が上記下限値以上であれば、後述する透過型光学素子分離工程にて、成形フィルムから各透過型光学素子を分離する際に効率的に分離することができ、透過型光学素子の製造効率を高めることができる。また、複数の光学面形成領域の間の最小間隔が上記上限値以下であれば、一度の熱プレス工程を経て得られる成形フィルム中における透過型光学素子の個数密度を十分に高めることができ、透過型光学素子の製造効率を一層高めることができる。
なお、上述したように、複数の光学面形成領域は、平板金型の平面方向にて、等間隔で離隔して配置されていることが好ましい。
【0046】
[金型の深さ]
さらに、一対の平板金型の光学面形成領域及び外周部形成領域における最浅部の深さの合計は、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、50μm以上が好ましい。ここで、一対の平板金型の光学面形成領域及び外周部形成領域における最浅部の深さの合計(後述する図2図3におけるDmin)は、得られる透過型光学素子における最薄部の厚みに相当する。なお、図2及び図3では、Dminが、それぞれ、一対の平板金型の外周部形成領域内に位置するものとして図示している。しかし、例えば、目的とする透過型光学素子が両凹レンズである場合であって、外周部形成領域の厚みよりも、光学面形成領域の最薄部の厚みの方が薄いような形状を有するものである場合には、Dminは、一対の平板金型の光学面形成領域内に位置することとなる。そして、光学面形成領域及び外周部形成領域における最浅部の深さの合計が上記上限値以下であれば、得られる透過型光学素子をコンパクト化することができる。例えば、透過型光学素子として光学レンズを製造した場合には、かかる光学レンズを含むレンズユニットの厚さを薄くすることができる。また、光学面形成領域及び外周部形成領域における最浅部の深さの合計が上記下限値以上であれば、得られる透過型光学素子に外的に力が加えられた場合に局所的に応力が集中することを抑制することで、透過型光学素子の機械強度を高めることができる。さらにまた、外周部形成領域における最浅部の深さの合計が上記下限値以上であれば、成形フィルムの強度を確保して、搬送途中等の想定外のタイミングで成形フィルムに亀裂等が生じることを抑制して、透過型光学素子の製造効率を高めることができる。
なお、「平板金型の外周部形成領域における最浅部の深さの合計」は、成形時に一対の平板金型を対向させて相互に配置又は接触させた場合の、外周部形成領域における金型間の最短距離に相当する。
【0047】
また、一対の平板金型の光学面形成領域における最深部の深さの合計(Dmax)は、得られる透過型光学素子における最厚部の厚みに相当する。なお、「平板金型の光学面形成領域における最深部の深さの合計」は、一対の平板金型を成型のために対向させて相互に配置又は接触させた場合の、光学面形成領域における金型間の最大距離に相当する。一対の平板金型の光学面形成領域における最深部の深さの合計は、最浅部の深さの合計よりも値が大きく、例えば、50μm超1000μm以下であり得る。
【0048】
[熱可塑性樹脂フィルムの厚みと平板金型の形状との関係]
本発明の透過型光学素子の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムの厚み(ランダムに選定した100以上の測定点における厚みの単純算術平均の値)Tが、一対の平板金型の外周部形成領域における最浅部の深さの合計(Dmin)以上、光学面形成領域における最深部の深さの合計(Dmax)以下であることが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂フィルムの厚みTが、(Dmin×1.1)≦T≦(Dmax×0.9)を満たすことが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの厚みTが上記上限値以下であれば、透過型光学素子の最薄部の厚みを、所望の厚みまで効率的に薄肉化することができる。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚みTが上記下限値以上であれば、特に、一対の平板金型内の光学面形成領域にて良好に熱可塑性樹脂を充填することができるため、得られる透過型光学素子の形状精度を一層高めることができる。
【0049】
[金型温度]
熱プレス工程における一対の平板金型の温度は、(Tg+30)℃以上が好ましく、(Tg+40)℃以上がより好ましく、(Tg+70)℃以下が好ましく、(Tg+60)℃以下がより好ましい。熱プレス工程における一対の平板金型の温度が上記下限値以上であれば、得られる透過型光学素子における複屈折の発生を一層良好に抑制することができる。熱プレス工程における一対の平板金型の温度が上記上限値以下であれば、一層効率的に透過型光学素子を製造することができる。
なお、熱プレス工程は、即ち、熱可塑性樹脂フィルムを一対の平板金型で加熱しながらプレスするための動作過程において、所定のプレス圧を平板金型に対して印加して熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスする期間を指す。ここで、かかる熱プレス工程と、上述した搬送工程との間に、熱可塑性樹脂フィルムを平板金型により挟んだ状態で加熱することを含む金型加熱工程を更に含むことが好ましい。金型加熱工程におけるプレス圧は、熱プレス工程におけるプレス圧よりも低いことが好ましい。より具体的には、例えば、熱プレス工程におけるプレス圧を1MPa以上10MPa以下とした場合には、金型加熱工程におけるプレス圧は1MPa未満でありうる。そして、金型加熱工程は、熱可塑性樹脂フィルムと一対の平板金型の何れか一方とが接触する時点を始点として、プレス圧を熱プレス工程におけるプレス圧に切り替える時点を終点とする。金型加熱工程における所望のタイミングで平板金型への熱入力を開始して、上述した「熱プレス工程における一対の平板金型の温度」まで徐々に昇温させる。なお、金型加熱工程の終点より前のタイミング(例えば、金型加熱工程の終了時点の50秒前の時点)で、昇温が完了していても良い。
また、金型温度は、特に限定されることなく、既知の一般的な方法(例えば、既知のヒーター及びクーラー等を用いた温度制御方法)に従って、適宜調節することができる。
【0050】
[金型材質]
金型に用いる材質としては、公知の材質が使用できる。例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、これらをベースにした合金類が挙げられ、なかでも加工性と硬度の観点から、STAVAX(登録商標)材(ウッデホルム社製)等のステンレス鋼が好ましい。また、離型性の観点から、クロム、チタン、及びニッケル等の金属によるめっきが金型表面に施されてなる、金型を用いることが好ましく、なかでも、無電解ニッケル―リンめっきが金型表面に施されてなる金型を用いることが、より好ましい。
【0051】
<<その他の熱プレス条件>>
なお、熱プレス工程におけるプレス圧力及びプレス時間は特に限定されることなく、用いる熱可塑性樹脂フィルムの種類及びサイズ、目的とする透過型光学素子の形状及び大きさ等に応じて、適宜決定することができる。例えば、プレス圧力は、1MPa以上10MPa以下、プレス時間は10秒以上100秒以下とすることができる。なお、金型加熱工程におけるプレス圧は、例えば、1MPa未満であり得る。金型加熱工程の始点から終点までの所要時間は、10秒以上100秒以下とすることができる。
【0052】
<金型冷却工程>
金型冷却工程では、一対の平板金型を熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却して、熱プレスフィルムを冷却する。かかる工程を実施することで、得られる透過型光学素子の形状精度を高めることができる。なお、金型冷却工程の始点は、例えば、熱プレス工程の開始時点から所定時間経過後に、平板金型について平板金型を冷却するための温度制御を開始する時点、或いは、熱プレス工程の開始時点から所定時間経過後に、平板金型に対する熱入力を停止した時点であり得る。金型冷却工程の終点は、後述する金型冷却温度まで金型温度が下がった時点、或いは、かかる時点から所定時間(例えば、50秒)経過した時点であり得る。
【0053】
<<金型冷却温度>>
金型冷却温度は、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下である必要があり、(Tg-15)℃以下が好ましく、(Tg-30)℃以下がより好ましく、(Tg-40)℃以下が更に好ましい。また、金型冷却温度は、(Tg-80)℃以上であることが好ましく、(Tg-75)℃以上であることがより好ましい。金型冷却温度が上記上限値以下であれば、後述する離型工程にて、離型し易く、得られる透過型光学素子の形状精度を効果的に高めることができる。また、金型冷却温度が上記下限値以上であれば、透過型光学素子の製造効率を一層高めることができる。
【0054】
<<その他の金型冷却条件>>
金型冷却時間及び金型冷却速度等は、特に限定されることなく、熱可塑性樹脂フィルムの種類及びサイズ、目的とする透過型光学素子の形状及び大きさ等に応じて、適宜決定することができる。例えば、金型冷却時間は、10秒以上100秒以下とすることができ、金型冷却速度は、50℃/分以上300℃/分以下とすることができる。
【0055】
<離型工程>
離型工程では、金型冷却工程の後に、熱プレスフィルムを一対の平板金型から離型するにあたり、熱プレスフィルムに対して張力をかけながら離型して、複数の透過型光学素子を含む成形フィルムを得る。「一対の平板金型から離型するにあたり」とは、金型冷却工程を完了させ、一対の平板金型を開き始める時点を意味する。かかる時点において、熱プレスフィルムに対して張力がかかった状態とすることによって、離型時に透過型光学素子の歪みが生じることを抑制して、得られる透過型光学素子の形状精度を高めることができる。ここで、張力は、搬送方向に沿う方向の力として作用させることが好ましい。また、離型工程における張力の制御方法は特に限定されず、公知の方法により制御することができる。例えば、熱プレスフィルムの巻き出しロール、熱プレスフィルムを巻き取るための巻取りロール、もしくは張力制御用に別途設けられたニップロール等により制御することができる。なお、巻き出しロール、巻取りロールを備えるロール・ツー・ロールの製造装置の例示的な構成については、図1を参照して後述する。
さらに、離型工程のみならず、上述した熱プレス工程における、熱可塑性樹脂フィルムと一対の平板金型の何れか一方とが接触する金型加熱工程以降、離型工程を開始する時点までの各段階において、熱可塑性樹脂フィルムに対して継続的又は断続的に張力がかけられていることが好ましい。得られる透過型光学素子の形状精度を一層高めることができるからである。勿論、上記期間以外に行う他の工程においても、熱可塑性樹脂フィルムに対して張力がかけられていても良い。即ち、搬送工程から、離型工程以降に行い得る工程までの全ての工程を通じて、熱可塑性樹脂フィルムに対して張力がかけられていても良い。
【0056】
<<張力>>
熱プレスフィルムに対して、搬送方向で作用させる張力の大きさは、熱可塑性樹脂フィルムの幅1mあたり、1N以上であることが好ましく、10N以上であることがより好ましく、2000N以下であることが好ましく、1000N以下であることがより好ましい。なお、「熱可塑性樹脂フィルムの幅」とは、搬送方向に対して直交する方向である。張力の大きさが上記下限値以上であれば、得られる透過型光学素子の形状精度を一層高めることができる。また、張力の大きさが上記上限値以下であれば、熱プレスフィルムが破断することを抑制して、透過型光学素子の製造効率を一層高めることができる。
【0057】
<透過型光学素子分離工程>
透過型光学素子分離工程では、離型工程を経て得られた成形フィルムから、複数の透過型光学素子を分離する。成形フィルムから、複数の透過型光学素子を分離する透過型光学素子分離工程を実施することで、一層効率的に透過型光学素子を製造することができる。分離方法としては特に限定されることなく、抜き型による打ち抜き等の既知のあらゆる方法で、成形フィルムから、一つ一つの透過型光学素子を分離することができる。なお、透過型光学素子分離工程は、前段までの工程と同じ製造ライン上で、即ち、インラインで実施しても良い。或いは、透過型光学素子分離工程は、前段までの工程とは別の製造ライン上で、即ち、オフラインで実施しても良い。
【0058】
(透過型光学素子製造装置)
図1は、本発明の一例に係る透過型光学素子の製造方法を実施するために用いることができる透過型光学素子製造装置の概略構造を示す図である。透過型光学素子製造装置100は、一対の平板金型を構成する上部金型1A及び下部金型1B、上部金型1Aを支持するとともにこれを加熱及び冷却する上部温度調節装置2A、上部温度調節装置2Aを支持するとともにz軸方向に移動可能に構成されたz軸方向移動テーブル3、下部金型1Bを支持するとともにこれを加熱及び冷却する下部温度調節装置2B、及び下部温度調節装置2Bを支持する下部テーブル4を備える。さらに、透過型光学素子製造装置100は熱可塑性樹脂フィルム7を送出するための構成部である巻き出しロール5A及び成形フィルムを巻き取るための構成部である巻取りロール5Bを備え得る。さらにまた、透過型光学素子製造装置100は、熱可塑性樹脂フィルム7の送出態様を制御するための構成部として、送りロール6を備えていても良い。なお、これらの各種構成部は、図示の態様に限定されるものではなく、上記したような各機能を発揮し得る限りにおいて、既存のあらゆる具体的手段により代替することが可能である。なお、図1において、透過型光学素子製造装置100の鉛直方向をz軸、透過型光学素子製造装置100のプレス面をxy平面とする。また、図1に示す透過型光学素子製造装置100は、所謂、「ロール・ツー・ロール」方式で樹脂フィルムから透過型光学素子を成形するための装置である。
【0059】
以下、上述した本発明の透過型光学素子の製造方法に含まれうる各工程のうち、搬送工程(S01)、金型加熱工程、熱プレス工程(S02)、金型冷却工程(S03)、離型工程(S04)を、図1に示した透過型光学素子製造装置100を用いて実施するものとして説明する。
なお、上述した<透過型光学素子分離工程>は、図示しない打ち抜きユニット等を透過型光学素子製造装置100に設けることにより、実施することができる。
【0060】
まず、本発明の透過型光学素子の製造方法を実施するための準備として、透過型光学素子製造装置100の巻き出しロール5A、巻取りロール5B、及び送りロール6に熱可塑性樹脂フィルム7をセットする。そして、搬送工程(S01)において、金型加熱工程及び熱プレス工程(S02)に先立って、熱可塑性樹脂フィルム7を、所定の搬送方向に沿って搬送する。なお、図1において、搬送方向は矢印10で示す方向である。
【0061】
金型加熱工程及び熱プレス工程(S02)を行う際には、上部金型1A及び下部金型1Bにより、熱可塑性樹脂フィルム7を熱プレスする。なお、熱プレス工程等に際して、熱可塑性樹脂フィルム7のz軸方向における位置も、適宜調節することが可能である。なお、搬送工程(S01)と熱プレス工程(S02)との間のタイミングにて実施されうる金型加熱工程では、金型加熱工程の開始時点、即ち、上部金型1A及び下部金型1Bの少なくとも一方と熱可塑性樹脂フィルム7とが接触する時点の後、熱プレス工程(S02)の開始時点(所定のプレス圧の印加を開始する時点)までに、上部金型1A及び下部金型1Bの温度を、上部温度調節装置2A及び下部温度調節装置2Bにより、上述した所定の温度範囲とする。
【0062】
金型冷却工程(S03)にあたり、上部温度調節装置2A及び下部温度調節装置2Bにより、上部金型1A及び下部金型1Bの温度を、熱可塑性樹脂フィルム7のガラス転移温度(Tg)℃以下の温度とすることが好ましい。
【0063】
そして、離型工程(S04)にあたり、熱プレスフィルムとしての熱可塑性樹脂フィルム7に対して張力をかけつつ、熱可塑性樹脂フィルム7を平板金型から離型する。このとき、張力は、例えば、巻き出しロール5A、巻取りロール5B、及び送りロール6を用いて負荷及び調節することができる。
【0064】
(透過型光学素子の製造例の概略)
図2及び図3を参照して、本発明の透過型光学素子の製造方法により透過型光学素子としての光学レンズを製造する場合について、説明する。図1と同じ参照符号を付した構成については、図1に関連して説明した通りである。図2及び図3では、それぞれ、異なる形状の光学レンズを製造しているため、平板金型の形状は異なる。このため、図2では、上部金型1A’及び下部金型1B’と示し、図3では上部金型1A”及び下部金型1B”として示す。また、得られる光学レンズの形状も異なるため、図2では得られる光学レンズを光学レンズ8’と示し、図3では得られる光学レンズを光学レンズ8”として示す。
なお、図2及び図3は、搬送方向から見た断面図であり、熱可塑性樹脂フィルム7、上部金型1A’及び下部金型1B’、上部金型1A”及び下部金型1B”、並びに、光学レンズ8’及び8”は、それぞれ一部のみを示す。
【0065】
図2に示すように、図示しない搬送工程(S01)を経て搬送された熱可塑性樹脂フィルム7を、熱プレス工程(S02)にて、一対の平板金型としての上部金型1A’及び下部金型1B’により熱プレスして、熱可塑性樹脂フィルム7を熱により溶融又は変形させて平板金型内に熱可塑性樹脂を充填する。上部金型1A’及び下部金型1B’は、金型加熱工程及び熱プレス工程(S02)では図示しない部分において相互に接触している。熱プレス工程(S02)にて、熱可塑性樹脂フィルム7の最薄部の厚みがDminとなる。そして、金型冷却工程(S03)にて上部金型1A’及び下部金型1B’を冷却する。さらに、離型工程(S04)にて上部金型1A’及び下部金型1B’より成形フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルム7を離型する。そして、透過型光学素子分離工程(S05)にて破線で示す切断線に沿って成形フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルム7を切断して、複数の光学レンズ8’を得る。
【0066】
図3については、上部金型1A”及び下部金型1B”の形状を異なるものとし、図2を参照して説明した一例とは異なる形状の複数の光学レンズ8”を得た以外は、図2と同様である。
【0067】
(透過型光学素子)
本発明の透過型光学素子の製造方法により得られる透過型光学素子としての光学レンズは、低複屈折性であるとともに、且つ、形状精度が高いものである。例えば、本発明の透過型光学素子の製造方法により得られる透過型光学素子としての光学レンズは、光学有効径内の位相差が、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。光学有効系内の位相差が100nmである光学レンズは、十分に低複屈折性である光学レンズである。なお、本発明において、位相差の値は、実施例に記載の方法に従って求めることができる。
本発明の透過型光学素子の製造方法により得られる透過型光学素子は、設計上の光学面の形状を基準とした場合の、製造した透過型光学素子の光学面形状の最大誤差、即ち、PV(Peak to Valley)値が、1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。PV値の値が1.0μm以下である透過型光学素子は、形状精度が充分に高い透過型光学素子である。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。実施例及び比較例において、熱可塑性樹脂フィルムの厚み、厚みばらつき及びガラス転移温度は以下のようにして測定した。また、実施例及び比較例において、形状精度平均値、形状精度ばらつき、位相差、形状良品率を考慮した製造効率、並びに、形状及び低複屈折性を考慮した製造効率は、以下のようにして算出及び評価した。
なお、実施例1~14、及び比較例2~3では、離型時の張力を所望の値に調節するにあたり、図1に示した概略構成に従う製造装置に備えられた巻き出しロール及び巻き取りロール等を張力コントローラーで制御した。表1に制御値を示す。なお、表1に示す張力の値は、熱可塑性樹脂フィルムの幅1mあたりの値である。また、張力の方向は、搬送方向に沿う方向とした。
また、実施例及び比較例では、透過型光学素子として光学レンズ(両凸レンズ又は凸メニスカスレンズ)を製造した。
【0069】
<熱可塑性樹脂フィルムの厚み>
熱可塑性樹脂フィルムの任意箇所で250mm長に3枚を切り出し、切り出した各サンプルの長手方向、幅方向それぞれの中央部で20mm間隔に11×11か所で厚さを測定し、熱可塑性樹脂フィルムの最大厚み及び最小厚みを得た。熱可塑性樹脂フィルムの厚みはこれらの平均値とした。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚みばらつきは、最大厚み及び最小厚みの差分とした。
【0070】
<熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度>
実施例、比較例で用いた熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(SIIナノテクノロジー社製、「DSC6220」)を用いて、JIS K7121に基づき昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0071】
<形状精度平均値及び形状精度ばらつき>
実施例及び比較例で得られた測定試料である光学レンズの形状精度を、形状測定器(三鷹光機社製、「NH-3SP」)を用いて、設計上の光学表面を基準表面とするPV値として測定した。測定したPV値の単純平均値を形状精度平均値とし、標準偏差を形状精度ばらつきとした。
実施例1~14、比較例1~2では、測定試料である光学レンズとして、同じ熱プレス工程で得られた396個の光学レンズのそれぞれについてPV値を測定した。また、比較例3では、エンボスロール一周分の成形物である414個の光学レンズのそれぞれについてPV値を測定した。さらにまた、比較例4では、16個取り金型を用いて10回の製造工程を行って得た160個の光学レンズのそれぞれについてPV値を測定した。
[形状精度平均値の評価基準]
得られた形状精度平均値の値は、以下の基準に従って評価した。
A:0.4μm以下
B:0.4μm超0.6μm以下
C:0.6μm超1.0μm以下
D:1.0μm超
[形状精度ばらつきの評価基準]
また、得られた形状精度ばらつきの値は、以下の基準に従って評価した。
A:0.1μm以内
B:0.1μm超0.2μm以内
C:0.2μm超0.3μm以内
D:0.3μm超
【0072】
<位相差>
測定試料である光学レンズの有効径内の位相差を、樹脂成形レンズ検査システム〔「WPA-100」、フォトニックスラティス社製〕を用いて測定した。位相差の値は、測定波長(543nm)で規格化した値として得られる。位相差の値は、複数の測定試料について測定して得た値の単純平均値とした。
各実施例、比較例における測定試料としては、<形状精度平均値及び形状精度ばらつき>の項目に記載したものと同じものを用いた。
得られた位相差の値を、以下の基準に従って評価した。位相差の値が小さいほど、複屈折が小さいことを意味する。
A:20nm以下
B:20nm超50nm以下
C:50nm超100nm以下
D:100nm超
【0073】
<形状及び低複屈折性を考慮した製造効率>
<形状精度平均値及び形状精度ばらつき>及び<位相差>の項目にて説明した方法と同様にして、各測定試料についてPV値及び位相差を測定し、PV値が1.0μm以下であり、且つ、位相差が100nm以下であり、外周部に亀裂が無い測定試料を「形状精度が高く且つ低複屈折性である光学レンズA」とした。かかる光学レンズAの個数を、各実施例、比較例で用いた全測定試料を製造するために要した時間(サイクルタイム;分)で除して、1分当たりの光学レンズAの個数を算出した。
また、全測定試料に占める上記光学レンズAの比率をそれぞれ算出した。
【0074】
(実施例1)
ノルボルネン系開環重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂(ZEONEX E48R(日本ゼオン社製)、ガラス転移温度:139℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、これを260℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、これを冷却して、最大厚みが202μm、最小厚みが198μm、厚みばらつきが4μmである、幅280mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
【0075】
上記に従って得られた熱可塑性樹脂フィルムを図1示した概略構成に従う製造装置にセットした。なお、一対の平板金型としては、金型一枚あたり、直径が3.2mmである光学面(即ち、レンズ面)形成領域を396個有するもの(個数密度:0.63個/cm)を用いた。平板金型に含まれる光学面形成部の直径は3.2mmであり、光学面形成領域間の最小間隔は10mmであり、最浅部の深さの合計(Dmin)は150μmであり、光学面形成領域における最深部の深さの合計(Dmax)は550μmであった。かかる一対の平板金型により得られる光学レンズは、両凸レンズである。本例では、搬送工程~離型工程までの全工程にて、熱プレスフィルムに対して搬送方向に張力をかけた。
【0076】
光学レンズの製造にあたり、搬送工程を実施して、熱可塑性樹脂フィルムを所定位置までフィルムの長手方向に沿う搬送方向に搬送した。そして、未加熱の状態(80℃以下)の上記一対の平板金型により熱可塑性樹脂フィルムを挟み込み(プレス圧:0.5MPa)、その状態を維持したまま、190℃(プレス温度、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度Tg+51℃)まで平板金型を加熱した(金型加熱工程)。そして、一対の平板金型を用いてプレス圧6MPaで熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスして、熱プレスフィルムを得た(熱プレス工程)。さらに、熱プレスフィルムをプレスしたままの状態で、一対の平板金型を80℃(熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度Tg-59℃)まで、40秒間かけて冷却して、金型間に挟まれた状態の熱プレスフィルムを冷却した(金型冷却工程)。その後、平板金型を開いて金型冷却工程を終了し、離型工程を開始した。そして、離型工程を経て得られた複数の光学レンズを含む成形フィルムについて、内径8mmの丸刃での打ち抜きによる分離工程を実施して、396枚の光学レンズを得た。離型工程にて熱プレスフィルムに対してかけられた張力の大きさは、熱可塑性樹脂フィルムの幅1mあたり100N(100N/m)であった。搬送工程を開始してから離型工程を完了するまでに要した時間(サイクルタイム)は、180秒であった。得られた光学レンズについて、上記に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
熱可塑性樹脂フィルムに対してかける張力を、表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3)
金型加熱工程、熱プレス工程、及び金型冷却工程で熱可塑性樹脂フィルムに対して張力がかからないようにした以外は、実施例2と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。なお、金型加熱工程、熱プレス工程、及び金型冷却工程以外の工程(即ち、搬送工程及び離型工程)では、実施例2と同様に、熱可塑性樹脂フィルムに対して張力がかかった状態となっていた。
【0079】
(実施例4~5)
離型工程にて熱プレスフィルムに対してかける張力の大きさ、熱可塑性樹脂フィルムの厚み、並びに、熱プレス工程で用いる平板金型の最浅部の深さの合計(Dmin)及び最深部の深さの合計(Dmax)を表1に示す通りに変更した。これらの点以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例4及び5では、離型工程以降の段階で、熱可塑性樹脂フィルムに若干の破断が生じ製造効率が低下した。
【0080】
(実施例6)
熱プレス工程における平板金型の温度(プレス温度)を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例7~8)
熱プレス工程における平板金型の温度(プレス温度)及び金型冷却工程における平板金型の冷却温度を表1に示す通りにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例9)
以下のようにして調製した熱可塑性樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<熱可塑性樹脂フィルムの調製>
ノルボルネンとエチレンとをモノマーとして用いたランダム付加重合により得られたノルボルネン-エチレンランダム共重合体を含む熱可塑性樹脂(TOPAS6013(Polyplastics社製)、ガラス転移温度:138℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、260℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、冷却して、最大厚みが202μm、最小厚みが198μm、厚みばらつきが4μmである、幅280mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
【0083】
(実施例10)
以下のようにして調製した熱可塑性樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<熱可塑性樹脂フィルムの調製>
ポリカーボネート樹脂(ワンダーライトPC-115(旭化成社製)、ガラス転移温度:145℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、275℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、冷却して、最大厚みが202μm、最小厚みが198μm、厚みばらつきが4μmである、幅280mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
【0084】
(実施例11)
以下のようにして調製した熱可塑性樹脂フィルムを用いたことと、熱プレス工程における平板金型の温度(プレス温度)及び金型冷却工程における平板金型の冷却温度を表1に示す通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<熱可塑性樹脂フィルムの調製>
ポリメチルメタクリレート樹脂(デルペット80NH(旭化成ケミカルズ社製)、ガラス転移温度:100℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、250℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、冷却して、最大厚みが202μm、最小厚みが198μm、厚みばらつきが4μmである、幅280mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
【0085】
(実施例12)
以下のようにして調製した熱可塑性樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<熱可塑性樹脂フィルムの調製>
ポリエステル樹脂(OKP-1(大阪ガスケミカル社製)、ガラス転移温度:132℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、260℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、冷却して、最大厚みが202μm、最小厚みが198μm、厚みばらつきが4μmである、幅280mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
【0086】
(実施例13)
以下のようにして調製した熱可塑性樹脂フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<熱可塑性樹脂フィルムの調製>
ノルボルネン系開環重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂(ZEONEXE48R(日本ゼオン社製)、ガラス転移温度:139℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、これを260℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、これを冷却して、最大厚みが352μm、最小厚みが348μm、厚みばらつきが4μmである、幅280mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
【0087】
(実施例14)
平板金型を変更し、得られる光学レンズを凸メニスカスレンズとし、平板金型の最浅部の深さの合計(Dmin)を150μm、光学面形成領域における最深部の深さの合計(Dmax)を300μmとした以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例1)
金型加熱工程、熱プレス工程、金型冷却工程、及び離型工程において熱可塑性樹脂フィルムに対して張力をかけなかった以外は、実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0089】
(比較例2)
金型冷却工程にて平板金型を熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却しなかった以外は、実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0090】
(比較例3)
実施例で用いたような、図1に従う概略構成を有する装置ではなく、図1に従う概略構成における上部金型1A及び下部金型1Bに代えてエンボスロールを備える概略構成を有する装置を用いた。エンボスロールのエンボス形状は、実施例1と同様の形状の光学レンズを製造可能な形状であった。また、冷却工程は実施しなかった。これらの点以外は実施例1と同様にして、光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
(比較例4)
表2に示す各条件に従って射出成形法を実施して、光学レンズを製造した。射出成形材料としては、実施例1と同じノルボルネン系開環重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂を用いた。射出成形装置としてはファナック社製の「ROBOSHOT S2000i100A」を用いた。射出成形金型としては、実施例1と同様の形状の光学レンズを製造可能な、16個取り金型を用いた。これらを用いて、射出速度30mm/秒、保圧80MPaとして、10回の製造工程を行って160個の光学レンズを製造した。そして、実施例1と同様の各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
なお、表1及び表2において、「NB-RO」は、ノルボルネン系開環重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂を、「NB/ET」は、ノルボルネン-エチレンランダム共重合体を、「PC」はポリカーボネート樹脂を、「ACR」はポリメチルメタクリレート樹脂を、「PEs」はポリエステル樹脂を、それぞれ示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1より、熱可塑性樹脂フィルムを、一対の平板金型により熱プレスして熱プレスフィルムを得る熱プレス工程と、平板金型をガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却する金型冷却工程と、熱プレスフィルムに対して張力をかけながら離型する離型工程と、を含む本発明の製造方法を実施した実施例1~14では、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子(光学レンズ)を効率的に製造することができたことが分かる。一方、表2より、離型工程において熱プレスフィルムに対して張力をかけなかった比較例1、金型冷却工程にて平板金型をガラス転移温度(Tg)℃以下の温度まで冷却しなかった比較例2、平板金型を使用しなかった比較例3及び4では、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の透過型光学素子の製造方法によれば、低複屈折性であるとともに形状精度の高い透過型光学素子を効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0097】
1A、1A’、1A” 上部金型
1B、1B’、1B” 下部金型
2A 上部温度調節装置
2B 下部温度調節装置
3 z軸方向移動テーブル
4 下部テーブル
5A 巻き出しロール
5B 巻取りロール
6 送りロール
7 熱可塑性樹脂フィルム
8’、8” 光学レンズ
100 透過型光学素子製造装置
図1
図2
図3