(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20241126BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20241126BHJP
C23C 18/34 20060101ALI20241126BHJP
C23C 18/16 20060101ALI20241126BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20241126BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C23C18/52 B
C23C18/34
C23C18/16 Z
B32B15/01 E
H01L21/302 101G
(21)【出願番号】P 2021550540
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034516
(87)【国際公開番号】W WO2021070561
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2019186772
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 章
(72)【発明者】
【氏名】小島 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広志
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-056978(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150971(WO,A1)
【文献】特開平06-132582(JP,A)
【文献】特開平11-165375(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C23C 8/00 - 12/02
C23C 18/00 - 20/08
C23C 24/00 - 30/00
H01L 21/302
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、前記金属基材上に形成されたニッケル含有めっき被膜層と、前記ニッケル含有めっき被膜層上に形成された金めっき被膜層とを有し、かつ
、
厚さ8nm以上のフッ化不働態被膜
が前記ニッケル含有めっき被膜層露出面にのみ形成されている積層体。
【請求項2】
前記金属基材が、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記金属基材と前記ニッケル含有めっき被膜層の間に、ニッケルストライク層を有する、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ニッケル含有めっき被膜層が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層(1)と、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層(2)とを、前記金属基材側からこの順で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記金めっき被膜層が、置換型金めっき被膜層および還元型金めっき被膜層を、前記ニッケル含有めっき被膜層側からこの順で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体からなる、半導体製造装置の構成部材。
【請求項7】
金属基材上にニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(A)、
前記ニッケル含有めっき被膜層上に金めっき被膜層を形成する工程(B)、およ
び
厚さ8nm以上のフッ化不働態被膜を
前記ニッケル含有めっき被膜層露出面にのみ形成する封孔処理工程(C)を含む、積層体の製造方法。
【請求項8】
前記封孔処理工程(C)が、フッ化ガス濃度8体積%以上および温度100~150℃の雰囲気下で行われる、請求項7に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記金属基材が、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む、請求項7または8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)の前に、金属基材に対し電流密度5~20A/dm
2の条件でニッケルストライク処理を施す工程を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(A)が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層(1)を形成させる工程(a1)と、該工程(a1)の後に、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層(2)を形成させる工程(a2)とを含む、請求項7~10のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記工程(B)が、置換型金めっき被膜層を形成させる工程(b1)と、該工程(b1)の後に、還元型金めっき被膜層を形成させる工程(b2)とを含む、請求項7~11のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびその製造方法に関する。より具体的には、半導体製造装置等の構成部材として好適な積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造プロセスでは、ドライエッチング工程および製造装置のクリーニング等において、フッ素、塩化水素、三塩化ホウ素、三フッ化窒素、三フッ化塩素、臭化水素等のハロゲン系の反応性および腐食性の強い特殊ガス(以下「腐食性ガス」ともいう。)が使用されている。
【0003】
しかしながら、前記腐食性ガスが雰囲気下の水分と反応して加水分解すると、フッ化水素、シュウ酸、および塩化水素等の生成物が発生する。前記生成物は、前記腐食性ガスを使用する際のバルブ、継ぎ手、配管および反応チャンバー等の構成部材の金属表面を容易に腐食するため、問題となっている。
【0004】
一方、めっき表面のピンホールも腐食を進ませる原因となり得る。ピンホールの発生要因は、例えば、めっき反応により発生した水素ガスが、めっき被膜の形成時に泡となり成膜を阻害する、または、基材に残された不純物(酸化膜、汚れ、油分等)が前処理工程で除去されず成膜を阻害する等、複数の原因が考えられる。
【0005】
これまで、耐食性の向上を図るために、金属基材にニッケル-リン合金めっきを施し、ニッケルのフッ化不働態被膜を形成する方法が行われている(例えば、特許文献1~3を参照)が、これらの方法は十分ではない場合があった。
【0006】
また、金属基材にニッケル-タングステン合金めっきを施し、フッ素化反応により生成するWF6の標準生成エンタルピーを利用した、低温且つ厚膜なニッケルのフッ化不働態被膜を形成する方法もあるが、電解めっき法であるという点で適用できる部材が限られてしまう制約があった(特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第2954716号公報
【文献】特許第3094000号公報
【文献】特開2004-360066号公報
【文献】特開2008-056978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、半導体製造装置の構成部材に適用可能であり、さらに耐食性に優れた金属材料を提供すること、および前記金属材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば以下の[1]~[12]に関する。
[1]金属基材と、前記金属基材上に形成されたニッケル含有めっき被膜層と、前記ニッケル含有めっき被膜層上に形成された金めっき被膜層とを有し、かつ、前記金めっき被膜層のピンホールが厚さ8nm以上のフッ化不働態被膜によって封孔されている積層体。
【0010】
[2]前記金属基材が、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む、前記[1]に記載の積層体。
【0011】
[3]前記金属基材と前記ニッケル含有めっき被膜層の間に、ニッケルストライク層を有する、前記[1]または[2]に記載の積層体。
[4]前記ニッケル含有めっき被膜層が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層(1)と、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層(2)とを、前記金属基材側からこの順で含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
【0012】
[5]前記金めっき被膜層が、置換型金めっき被膜層および還元型金めっき被膜層を、前記ニッケル含有めっき被膜層側からこの順で含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
【0013】
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体からなる、半導体製造装置の構成部材。
[7]金属基材上にニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(A)、前記ニッケル含有めっき被膜層上に金めっき被膜層を形成する工程(B)、および前記金めっき被膜層のピンホールに、厚さ8nm以上のフッ化不働態被膜を形成する封孔処理工程(C)を含む、積層体の製造方法。
【0014】
[8]前記封孔処理工程(C)が、フッ化ガス濃度8体積%以上および温度100~150℃の雰囲気下で行われる、前記[7]に記載の積層体の製造方法。
[9]前記金属基材が、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む、前記[7]または[8]に記載の積層体の製造方法。
【0015】
[10]前記工程(A)の前に、金属基材に対し電流密度5~20A/dm2の条件でニッケルストライク処理を施す工程を含む、前記[7]~[9]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0016】
[11]前記工程(A)が、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層(1)を形成させる工程(a1)と、該工程(a1)の後に、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層(2)を形成させる工程(a2)とを含む、前記[7]~[10]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0017】
[12]前記工程(B)が、置換型金めっき被膜層を形成させる工程(b1)と、該工程(b1)の後に、還元型金めっき被膜層を形成させる工程(b2)とを含む、前記[7]~[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐食性、特に酸に対する耐食性に優れた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】封孔処理前後の積層体を示す概略図である((a):封孔処理前、(b):封孔処理後)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について具体的に説明する。
本発明の一実施形態の積層体は、金属基材と、前記金属基材上に形成されたニッケル含有めっき被膜層と、前記ニッケル含有めっき被膜層上に形成された金めっき被膜層とを有し、かつ、前記金めっき被膜層のピンホールが厚さ8nm以上のフッ化不働態被膜によって封孔されている。
【0021】
本発明の一実施形態の積層体の製造方法は、金属基材上にニッケル含有めっき被膜層を形成する工程(A)、前記ニッケル含有めっき被膜層上に金めっき被膜層を形成する工程(B)、および前記金めっき被膜層のピンホールに、厚さ8nm以上のフッ化不働態被膜を形成する封孔処理工程(C)を含む。
【0022】
[金属基材]
本発明の一実施形態に用いられる金属基材は、少なくとも表面が金属からなる基材である。前記金属基材としては、特に限定されず、半導体製造装置の構成部材に一般的に用いられる金属が挙げられ、好ましくはステンレス鋼、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅および銅合金である。
【0023】
前記金属基材は、ニッケル含有めっき被膜層との密着性を強固にするために、工程(A)の前処理として、脱脂、酸洗浄またはニッケルストライク処理等の基材に応じた処理を施してもよい。ニッケルストライク処理は、ニッケル含有めっき浴を使った予備的めっき処理でありニッケルストライク処理における電流密度は、好ましくは5~20A/dm2、より好ましくは5~10A/dm2である。また、ニッケルストライク処理の時間は、5秒以上5分以下が好ましい。
【0024】
[ニッケル含有めっき被膜層]
ニッケル含有めっき被膜層は、工程(A)により前記金属基材上に形成される。なお、前記金属基材にニッケルストライク処理を施した場合、金属基材とニッケルめっき被膜層の間にニッケルストライク層を有する。
【0025】
ニッケル含有めっき被膜層は、耐食性向上の観点から、リンを含有することが好ましく、リン濃度が8質量%以上10質量%未満のニッケル-リン合金めっき層(1)と、リン濃度が10質量%以上12質量%以下のニッケル-リン合金めっき層(2)とを、前記金属基材側からこの順で含むことが好ましい。
【0026】
ニッケル含有めっき被膜層中のニッケル含有量は、ニッケル含有めっき被膜層全体を100質量%とした場合、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85~95質量%、特に好ましくは88~92質量%である。ニッケル含有量が前記範囲であることにより、被膜層中のリンの比率が増え、優れた耐食性が発揮できる。また、リン濃度を変えた無電解ニッケル-リン合金めっき被膜を積層させると、ピンホール欠陥が異なる位置に形成されながら成膜するため、外乱が直接的に基材へと到着しにくくなり、耐食性向上が期待できる。
【0027】
<工程(A)>
ニッケル含有めっき被膜層は、ニッケル塩と、還元剤としてリン化合物とを含む無電解メッキ浴を用いて金属基材上に形成することができる。ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケルなどが挙げられる。リン化合物としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなどが挙げられる。
【0028】
前記工程(A)は、ニッケル-リン合金めっき層(1)を形成させる工程(a1)と、該工程(a1)の後に、ニッケル-リン合金めっき層(2)を形成させる工程(a2)とを、含むことが好ましい。
【0029】
前記ニッケル-リン合金めっき層(1)の成膜速度は、好ましくは20~30μm/h(時間)、より好ましくは22~25μm/h(時間)であり、前記ニッケル-リン合金めっき層(2)の成膜速度は、好ましくは10~15μm/h(時間)、より好ましくは11~13μm/h(時間)である。このようにしてニッケル-リン合金めっき層(1)および(2)を形成することにより、耐食性を向上させることができる。ニッケル-リン合金めっき被膜層(1)および(2)の膜厚は、それぞれ5μm以上が好ましく、7~25μmがより好ましく、ピンホールが発生しにくい被膜性能およびコストの観点から10~20μmがさらに好ましい。
【0030】
[金めっき被膜層]
金めっき被膜層は、工程(B)により前記ニッケル含有めっき被膜層上に形成される。
【0031】
金めっき被膜中の金含有量は、金めっき被膜全体層全体を100質量%とした場合、好ましくは90質量%以上、より好ましくは99質量%以上、特に好ましくは99.9質量%以上である。金含有量が前記範囲であることにより、本発明の一実施形態である積層体の耐食性が安定する。金含有量は、不純物定量法で求められる、すなわち、金めっきを王水で溶解し、原子吸光分析及び高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析で測定される。
【0032】
金めっき被膜の厚みは、ピンホールが発生しにくい被膜性能およびコストの観点から、好ましくは0.1μm~1μmであり、より好ましくは0.2~0.9μmが好ましく、特に好ましくは0.3~0.8μmである。貴金属めっき被膜を厚くするとピンホールが減少していくことは、従来技術から公知であり、高い耐食性が期待されるが、価格が高額になるため適切な厚さとすることが好ましい。
【0033】
<工程(B)>
前記金めっき被膜層の形成方法としては、特に限定されないが、無電解金めっき法が好ましい。無電解金めっき法では、置換型金めっきを行った後、還元型金めっきを行うことが好ましい。すなわち、前記工程(B)は、置換型金めっき被膜層を形成させる工程(b1)と、該工程(b1)の後に、還元型金めっき被膜層を形成させる工程(b2)とを含むことが好ましい。
【0034】
置換型金めっきでは、ニッケル被膜からニッケルが溶解し、その際に放出される電子によって溶液中の金イオンが還元され金めっき被膜として析出する。還元型金めっきでは、溶液中の金イオンが還元剤の酸化反応で放出される電子によって還元され、金めっき被膜が析出する。
【0035】
無電解金めっき液としては、例えば、シアン化金カリウム、塩化金、亜硫酸金、チオ硫酸金などを含んだめっき浴などが挙げられ、還元剤としては例えば、水酸化ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヘキサメチレンテトラミン、炭素数3個以上のアルキル基と複数アミノ基を有する鎖状ポリアミンなどが挙げられる。
【0036】
置換型金めっきを、好ましくは50~90℃で3~7分、より好ましくは65~75℃で3~7分、還元型金めっきを、好ましくは55~65℃で7~15分、より好ましくは58~62℃で7~15分実施することで金めっき被膜層を形成することができる。
【0037】
[フッ化不働態被膜]
前記金めっき被膜層表面を工程(C)にてフッ化処理することにより、前記金めっき被膜層のピンホールがフッ化不働態被膜によって封孔される。
【0038】
フッ化不働態被膜は、
図1(b)において、ニッケル-リン合金めっき層(2b)露出面にのみ形成される。すなわち、フッ化不働態被膜5の上下方向にのみ成長しながら形成し、金めっき被膜層3のピンホール内部の側面や、金めっき被膜層3の最表面に形成することはなく、また、金めっき被膜層3の上端を超えることはない。
【0039】
フッ化不働態被膜の厚さは、通常8nm以上、好ましくは10~20nm、より好ましくは12~18nmである。フッ化不働態被膜の厚さが前記範囲であることにより、フッ化不働態被膜の耐久性等が実用上適したものとなる。なお、ここでのフッ化不働態被膜の厚さとは、得られる積層体の積層方向の長さであり、例えば、
図1(b)におけるフッ化不働態被膜5の上下方向の長さである。
【0040】
<工程(C)>
工程(C)では、前記工程(A)および(B)を経た金めっき被膜層のピンホールから露出するニッケル含有めっき被膜層表面を、フッ化ガスを使用して強制フッ化することでフッ化不働態被膜を形成させ、ピンホールを封孔処理する。
【0041】
工程(C)は、フッ化ガス濃度が、好ましくは8体積%以上、より好ましくは10~25体積%の雰囲気下で行われ、フッ化温度は、好ましくは100~150℃、より好ましくは105~145℃、より好ましくは110~140℃である。
【0042】
フッ化ガスとは、フッ化処理に使用するガスとして、フッ素(F2)、三フッ化塩素(ClF3)およびフッ化窒素(NF3)からなる群から選択される少なくとも1種のガス、あるいはこのガスを不活性ガスで希釈したガスの総称である。
【0043】
例えば、三フッ化塩素を使用する場合は、60~100℃で熱分解してフッ素ラジカルを発生させ、このラジカルをフッ化反応に利用することができる。また、三フッ化窒素を使用する場合はプラズマエネルギーによって分解してフッ素ラジカルを発生させ、このラジカルをフッ化反応に利用することができる。
【0044】
前記フッ化ガスに同伴される希釈ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
前記フッ化ガスを希釈して使用する場合、その濃度は反応条件によって適宜設定することができる。例えば、フッ素の場合には、コスト等を考慮して10%程度の濃度で使用することが好ましい。
【0045】
金属基材がステンレス鋼の場合、好ましくは150~190℃、より好ましくは155~175℃、アルミニウム合金の場合、好ましくは140~160℃、より好ましくは145~155℃でフッ化される。成膜温度が前記範囲であることにより、無電解ニッケル-合金めっきと金めっきの熱拡散のバランスが良い。
【0046】
フッ化処理時間は、形成したいフッ化不働態被膜の厚さによって異なるが、優れた耐食性を発揮するためには、好ましくは20~100時間、より好ましくは30~80時間である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0048】
[実施例1]
<工程(A)>
縦15mm×横15mm×厚さ1mmの試験片サイズに加工したステンレス鋼(SUS316L)の表面に、前処理として、脱脂、酸洗浄およびニッケルストライク処理を施した。前記酸洗浄は、洗浄剤として塩酸を用い、室温で25秒間行った。該ニッケルストライク処理を施したステンレス鋼の表面に、無電解ニッケル-リンめっき薬剤「ニムデン(商標)NSX」(上村工業(株)製)を使用して、めっき温度90℃、pH4.5~4.8の条件下、成膜速度10μm/25分で、成膜時のリン含有量が8質量%以上10質量%未満の無電解ニッケル-リン合金めっき被膜層(1)を形成した。次いで、無電解ニッケル-リンめっき薬剤「ニムデン(商標)HDX」(上村工業(株)製)を使用して、成膜速度10μm/50分で、成膜時のリン含有量が10質量%以上12質量%以下の無電解ニッケル―リン合金めっき被膜層(2)を形成した。これにより、ニッケルストライク処理を施したステンレス鋼上に、合計20μm厚のニッケル含有めっき被膜層を形成させた。
【0049】
<工程(B)>
2種類の無電解金めっき液「フラッシュゴールドNC(置換型)」および「セルフゴールドOTK-IT(還元型)」(いずれも奥野製薬工業(株)製)をこの順で使用して、工程(A)で形成したニッケル含有めっき被膜層上に、それぞれ置換型めっき温度70℃で5分および還元型めっき温度60℃で10分の処理をこの順で行い、合計0.6μm厚の金めっき被膜層を形成させた。
【0050】
<工程(C)>
工程(A)および(B)で形成したニッケル含有めっき被膜層および金めっき被膜層を有するステンレス鋼を常圧気相流通式反応炉の内部に装着し、炉内温度を115℃まで昇温させた。その後、大気を窒素ガスで置換し、続いて窒素ガスで希釈された10体積%フッ素ガスを導入して反応炉内の窒素ガスを10体積%フッ素ガスに置換した。完全置換後、その状態を36時間保持し、金めっきを施工したときに発生したピンホールによる下地の無電解ニッケル-リン被膜の露出部分を強制フッ化して、フッ化不働態被膜を形成させた。得られたフッ化不働態被膜をW-SEM「JSM-IT200」(日本電子株(製))で分析したところ、フッ化不働態被膜の膜厚は10nmであることを確認した。なお、ここでのフッ化不働態被膜の膜厚とは、得られる積層体の積層方向の長さであり、例えば、
図1(b)におけるフッ化不働態被膜5の上下方向の長さである。
【0051】
[実施例2]
実施例1の工程(C)において窒素ガスで希釈された10体積%フッ素ガスを用いた強制フッ化時間を72時間に変更した以外は実施例1と同様の方法で、フッ化不働態被膜を形成させた。得られたフッ化不働態被膜を実施例1と同様にして膜厚を求めたところ、13nmであることを確認した。
【0052】
[実施例3]
実施例1においてステンレス鋼(SUS316L)の代わりにアルミニウム合金(A5052)を用いて、前処理として、脱脂、活性化処理、酸洗浄および亜鉛置換処理を施した後、実施例1と同様の方法で工程(A)および(B)を実施した。
【0053】
前記活性化処理は、処理剤として酸性フッ化アンモニウムと硝酸の混酸を用い、室温で30秒間行った。前記酸洗浄は、洗浄剤として硝酸を用い、室温で25秒間行った。前記亜鉛置換処理は、処理剤としてジンケート浴を用い、室温で25秒間行った。なお、前記酸洗浄および前記亜鉛置換処理は、上記条件でそれぞれ2回ずつ行った。
【0054】
工程(C)では強制フッ化温度を105℃としたこと以外は、実施例2と同様にして、金めっき被膜上にフッ化不働態被膜を形成させた。得られたフッ化不働態被膜を実施例1と同様にして膜厚を求めたところ、10nmであることを確認した。
【0055】
[比較例1]
実施例1の工程(A)のみを実施し、ステンレス鋼の表面にニッケル含有めっき被膜層合計20μmを形成させた。
【0056】
[比較例2]
実施例1の工程(A)および(B)を実施後、ニッケル含有めっき被膜層および金めっき被膜層を有するステンレス鋼を大気に露出させて自然酸化被膜を形成させた。得られた自然酸化被膜を実施例1と同様にして膜厚を求めたところ、7nmであることを確認した。
【0057】
[比較例3]
実施例1の工程(A)を実施した後に以下の処理を行った。ニッケル含有めっき被膜層を有するステンレス鋼を常圧気相流通式反応炉の内部に装着し、炉内温度を300℃まで昇温させた。その後、大気を窒素ガスで置換し、続いて100体積%酸素ガスを導入して窒素ガスを酸素ガスに置換した。完全置換後、その状態を12時間保持した。次いで、窒素ガスで希釈された10体積%フッ素ガスを導入し、その状態を12時間保持することにより、ニッケル含有めっき被膜層上にフッ化ニッケル(NiF2)膜を形成させた。その後、成膜安定化を図るため窒素ガスを12時間注入した。
【0058】
[評価]
上記実施例1~3および比較例1~3で得られた金属基材表面上の被膜について、下記の方法で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0059】
<塩酸耐食試験>
縦15mm×横15mm×厚さ1mmの試験片を35質量%塩酸溶液に25℃で5時間浸漬させた。浸漬前後の質量減少量[mg/dm2]に基づいて下記基準で塩酸耐食性を評価した。
(評価基準)
A:0.1mg/dm2未満
B:0.1mg/dm2以上3mg/dm2未満
C:3mg/dm2以上
【0060】
【0061】
表中、SUSはステンレス鋼(SUS316L)、Alはアルミニウム合金(A5052)を示す。
【符号の説明】
【0062】
1・・・金属基材
2・・・ニッケル含有めっき被膜層
2a・・・ニッケル-リン合金めっき層(1)
2b・・・ニッケル-リン合金めっき層(2)
3・・・金めっき被膜層
4・・・ピンホール
5・・・フッ化不働態被膜