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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20241126BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20241126BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
B81B1/00
B81C3/00
G01N37/00 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022526539
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019664
(87)【国際公開番号】W WO2021241516
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020094889
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】西岡 寛哉
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180508(WO,A1)
【文献】特開2012-66518(JP,A)
【文献】特開2019-129748(JP,A)
【文献】特開2018-161687(JP,A)
【文献】特開2017-154349(JP,A)
【文献】特開2013-217918(JP,A)
【文献】特開2015-199340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
B81C 3/00
G01N 37/00
G01N 35/10
C12M 1/00
C12M 3/00
B32B 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面に微細な流路を形成した流路基板と、蓋基板と、それらを接合する接合層とを含む、マイクロ流路チップであって、
流路基板と、蓋基板と、接合層は、環状オレフィン重合体からなり、
流路基板を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs1、蓋基板を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs2、接合層を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tg2の関係は、
Tgs1>Tg2、かつ
Tgs2>Tg2であり、
接合層の厚さが、50μm未満である、
マイクロ流路チップ。
【請求項2】
Tgs1及びTgs2は、125℃以上であり、且つ、
Tgs1≧Tg2+10℃、
Tgs2≧Tg2+10℃
である、請求項1記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
流路基板と蓋基板を接合層を介して熱融着によって接合することを含む、
請求項1又は2記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項4】
流路形成用基板及び蓋基板の少なくとも一方上に接合層を形成する工程、
接合層が形成された流路形成用基板又は接合層が形成されていない流路形成用基板に流路を形成して、接合層が形成された流路基板又は接合層が形成されていない流路基板を形成する工程、
接合層が形成された流路基板と接合層が形成されていない蓋基板との組合せ、接合層が形成されていない流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せ、及び接合層が形成された流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せの少なくとも一つの組合せを、接合層を介して熱融着によって接合する工程
を含む、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
少なくとも一方の面に流路が形成された流路基板を形成する工程、
流路基板及び蓋基板の少なくとも一方の、少なくとも一方の面における流路に相当する部分以外の部分上に接合層を形成する工程、
接合層が形成された流路基板と接合層が形成されていない蓋基板との組合せ、接合層が形成されていない流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せ、及び接合層が形成された流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せの少なくとも一つの組合せを、接合層を介して熱融着によって接合する工程
を含む、請求項3記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術を利用してマイクロメートルオーダーの微小流路や反応容器を形成したチップ(マイクロ流路チップ)が、DNA、RNA、タンパク質等の生体物質の分析・検査、創薬・製薬開発、有機合成、水質分析などの様々な分野で利用されている。
【0003】
また、マイクロ流路チップとしては、低コストで製造可能な樹脂製のマイクロ流路チップが注目されている。
【0004】
そして、樹脂製のマイクロ流路チップは、少なくとも一方の表面に微細な流路を形成した樹脂製の基板と、蓋材としての樹脂製の蓋基板との間に接合層を介在させて加熱により接合させることにより製造されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5948248号
【文献】特開2008-304352号公報
【文献】特許第5948248号
【文献】国際公開第2014/178439号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロ流路チップに、例えば蒸気滅菌処理のような高温高圧滅菌処理を施した場合、接合層が厚いと滅菌処理時に流路が変形する問題が生じる。また、基板の材料として、透明かつ低自家蛍光性である環状オレフィン重合体を用いて作製されたマイクロ流路チップでは、従来、基板同士の接合性を強力にするために環状オレフィン重合体以外の接着性材料が用いられており、このようなマイクロ流路チップでは、接着性材料による自家蛍光による光シグナル検出の際のノイズの問題が生じる。全ての部材が環状オレフィン重合体から構成され、自家蛍光性材料のような接着性材料を用いずに基板同士の強力な接合性が維持されたマイクロ流路チップは、これまで知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、高温高圧滅菌処理を行っても流路は変形せず、マイクロ流路チップ全体の材料として環状オレフィン重合体を用いても基板同士の強力な接合性が維持された、マイクロ流路チップ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、接合層を薄膜とすることにより、高温高圧滅菌処理による流路変形を抑制することができ、基板及び接合層の材料として、所定のガラス転移温度の関係にある環状オレフィン重合体をそれぞれ用いることにより、基板同士の強力な接合性を維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、下記に示すマイクロ流路チップ及びその製造方法が提供される。
【0009】
〔1〕少なくとも一方の表面に微細な流路を形成した流路基板と、蓋基板と、それらを接合する接合層とを含む、マイクロ流路チップであって、
流路基板と、蓋基板と、接合層は、環状オレフィン重合体からなり、
流路基板を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs1、蓋基板を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs2、接合層を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tg2の関係は、
Tgs1>Tg2、かつ
Tgs2>Tg2であり、
接合層の厚さが、50μm未満である、
マイクロ流路チップ。
〔2〕Tgs1及びTgs2は、125℃以上であり、且つ、
Tgs1≧Tg2+10℃、
Tgs2≧Tg2+10℃
である、前記〔1〕記載のマイクロ流路チップ。
〔3〕流路基板と蓋基板を接合層を介して熱融着によって接合することを含む、
前記〔1〕又は〔2〕記載のマイクロ流路チップの製造方法。
〔4〕流路形成用基板及び蓋基板の少なくとも一方上に接合層を形成する工程、
接合層が形成された流路形成用基板又は接合層が形成されていない流路形成用基板に流路を形成して、接合層が形成された流路基板又は接合層が形成されていない流路基板を形成する工程、
接合層が形成された流路基板と接合層が形成されていない蓋基板との組合せ、接合層が形成されていない流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せ、及び接合層が形成された流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せの少なくとも一つの組合せを、接合層を介して熱融着によって接合する工程
を含む、前記〔3〕記載の製造方法。
〔5〕少なくとも一方の面に流路が形成された流路基板を形成する工程、
流路基板及び蓋基板の少なくとも一方の、少なくとも一方の面における流路に相当する部分以外の部分上に接合層を形成する工程、
接合層が形成された流路基板と接合層が形成されていない蓋基板との組合せ、接合層が形成されていない流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せ、及び接合層が形成された流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せの少なくとも一つの組合せを、接合層を介して熱融着によって接合する工程
を含む、前記〔3〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温高圧滅菌処理を行っても流路は変形せず、基板同士の強力な接合性が維持された、マイクロ流路チップ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、接合層形成後に流路を形成する、本発明のマイクロ流路チップの製造方法の概念図である。
図2図2は、流路が形成された流路基板の形成後に接合層を形成する、本発明のマイクロ流路チップの製造方法の概念図である。
図3図3(a)は、マイクロ流路チップの流路基板の一例を示す平面図であり、図3(b)は、マイクロ流路チップの蓋基板の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(マイクロ流路チップ)
本発明のマイクロ流路チップは、少なくとも一方の表面に微細な流路を形成した流路基板s1と、蓋基板s2と、それらを接合する接合層とを含む。また、本発明のマイクロ流路チップにおいて、
流路基板s1と、蓋基板s2と、接合層は、環状オレフィン重合体からなり、
流路基板を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs1、蓋基板を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs2、接合層を構成する環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tg2の関係は、
Tgs1>Tg2、かつ
Tgs2>Tg2であり、
接合層の厚さが、50μ未満である。
【0014】
<流路基板>
流路基板としては、少なくとも一方の表面に微細な流路を形成した環状オレフィン重合体製の基板を用いることができる。そして、流路基板は、微細な流路が形成されている面を接合面として、蓋基板と接合される。
【0015】
ここで、微細な流路の幅、深さおよび形状は、マイクロ流路チップの用途に応じて適宜に変更することができるが、通常、ミリメートルオーダー以下であり、ナノメートルオーダーであってもよいが、マイクロメートルオーダーであることが好ましい。具体的には、微細な流路の幅は、特に限定されることなく、例えば10μm以上800μm以下とすることができる。
【0016】
そして、環状オレフィン重合体製の基板への微細な流路の形成は、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、切削、射出成形などを用いて行うことができる。また、流路の形成は、接合層が形成されていない流路形成用基板に対して行ってもよく、接合層が形成された後の流路形成用基板に対して行ってもよい。接合層が形成されていない流路形成用基板に対する流路の形成は、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、切削、射出成形などを用いて行うことができる。接合層が形成された後の流路形成用基板に対する流路の形成は、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、切削などを、流路形成用基板の接合層が形成された面に対して適用することにより、行うことができる。
【0017】
<蓋基板>
蓋基板としては、流路基板に形成された微細な流路に蓋をし得る任意の環状オレフィン重合体製の基板を用いることができる。具体的には、蓋基板としては、流路基板に蓋をし得る平滑面を有し、任意に、流路基板と共にマイクロ流路チップを形成した際に流路基板の微細な流路内へのサンプル等の注入口となる貫通孔を有する基板を用いることができる。そして、蓋基板は、平滑面側を接合面として、流路基板と接合される。なお、蓋基板としては、流路基板に接合される平滑面側とは反対側の面に微細な流路が形成された基板を用いてもよい。
【0018】
なお、環状オレフィン重合体製の基板への貫通孔の形成は、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、切削、射出成形などを用いて行うことができる。また、貫通孔の形成は、接合層が形成されていない流路形成用基板に対して行ってもよく、接合層が形成された後の流路形成用基板に対して行ってもよい。接合層が形成されていない流路形成用基板に対する貫通孔の形成は、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、切削、射出成形などを用いて行うことができる。接合層が形成された後の流路形成用基板に対する貫通孔の形成は、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、切削などを、流路形成用基板の接合層が形成された面に対して適用することにより、行うことができる。
【0019】
<接合層>
接合層は、流路基板上又は蓋基板上に形成され、流路基板と蓋基板を接合するための部材である。
接合層の厚さは、50μm未満であり、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。接合層の厚さが薄いほど、接合層が薄膜となるため、マイクロ流路チップの蒸気滅菌処理を行った際の流路変形が抑制される。また、接合層の厚さは、流路基板と蓋基板との接着性を確保可能な最低限の厚さであればよく、例えば0.1μm以上、好ましくは0.12μm以上、より好ましくは0.15μmm以上、更に好ましくは0.2μm以上であってもよい。
接合層の厚さの流路の深さに対する比は、例えば0.1/100以上、好ましくは0.12/100以上、より好ましくは0.15/100以上、更に好ましくは0.2/100以上であってもよい。また、接合層の厚さの流路の深さに対する比は、例えば50/100以下、好ましくは30/100以下、より好ましくは20/100以下、更に好ましくは10/100以下であってもよい。
【0020】
<流路基板、蓋基板、接合層の材料>
流路基板、蓋基板、接合層の材料としては、環状オレフィン重合体が用いられる。環状オレフィン重合体は、吸湿による接合強度の経時的な低下および光学的安定性の低下が少ないため、耐久性に優れるマイクロ流路チップに適している。また、環状オレフィン重合体は、透明かつ低自家蛍光性の材料であるため、マイクロ流路チップの微細な流路からの光シグナル検出に適している。マイクロ流路チップの全ての材料を環状オレフィン重合体とし、自家蛍光性材料のような接着性材料を用いないことにより、接着性材料による自家蛍光による光シグナル検出の際のノイズを抑制することができる。流路基板、蓋基板、接合層の材料として用いられる環状オレフィン重合体は、後述するガラス転移温度の関係を満たす。このようなガラス転移温度の関係を満たすことにより、マイクロ流路チップの全ての材料を環状オレフィン重合体としても、基板同士の強力な接合性を維持することができる。流路基板、蓋基板、接合層の材料として用いられる環状オレフィン重合体の種類は、例えば、後述する具体例の中から、当該ガラス転移温度の関係を満たすものを適宜選択してもよい。流路基板、蓋基板、接合層の材料として用いられる環状オレフィン重合体は、吸水率が0.01質量%以下の環状オレフィン重合体が好ましい。流路基板、蓋基板の材料として用いられる環状オレフィン重合体の種類は、同じであっても異なっていてもよい。
【0021】
<<環状オレフィン重合体のガラス転移温度>>
流路基板s1の材料である環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs1、蓋基板s2の材料である環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tgs2、接合層の材料である環状オレフィン重合体のガラス転移温度Tg2の関係は、以下を満たす。
Tgs1>Tg2、かつ
Tgs2>Tg2である。
上記の関係を満たすことにより、マイクロ流路チップの製造において、流路基板と蓋基板との接合を、Tg2より高く、かつTgs1及びTgs2より低い温度で行えば、流路基板と蓋基板を軟化、変形、変質させずに接合層のみを軟化させることができ、熱融着による接合が可能となる。
【0022】
Tgs1は、125℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。Tgs1がこのような範囲にあることにより、マイクロ流路チップの製造及び滅菌時の加熱(例、オートクレーブ)による流路基板の軟化、変形、変質を抑制することができる。また、Tgs1は、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。更に、この場合において、Tgs1とTg2の差は、10℃以上(即ち、Tgs1≧Tg2+10℃)が好ましく、15℃以上(即ち、Tgs1≧Tg2+15℃)がより好ましく、20℃以上(即ち、Tgs1≧Tg2+20℃)が更に好ましい。Tgs1とTg2の差が大きくなるほど、マイクロ流路チップの製造において、流路基板を軟化、変形、変質させずに接合層のみを軟化させるための加熱温度設定が容易となる。また、Tgs1とTg2の差は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。Tgs1とTg2の差が小さくなるほど、接合層の温度安定性が良好となる。
【0023】
Tgs2は、125℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。Tgs2がこのような範囲にあることにより、マイクロ流路チップの製造及び滅菌時の加熱(例、オートクレーブ)による蓋基板の軟化、変形、変質を抑制することができる。また、Tgs2は、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。更に、この場合において、Tgs2とTg2の差は、10℃以上(即ち、Tgs2≧Tg2+10℃)が好ましく、15℃以上(即ち、Tgs2≧Tg2+15℃)がより好ましく、20℃以上(即ち、Tgs2≧Tg2+20℃)が更に好ましい。Tgs2とTg2の差が大きくなるほど、マイクロ流路チップの製造において、蓋基板を軟化、変形、変質させずに接合層のみを軟化させるための加熱温度設定が容易となる。また、Tgs2とTg2の差は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。Tgs2とTg2の差が小さくなるほど、接合層の温度安定性が良好となる。
【0024】
Tg2は、50℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましい。Tg2がこのような範囲にあることにより、接合層の温度安定性が良好となる。また、Tg2は、130℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。Tg2がこのような範囲にあることにより、マイクロ流路チップの製造において、接合層のみを軟化させるための加熱温度設定が容易となる。
【0025】
本発明においてガラス転移温度は、JIS-K7121に基づいて示差走査熱量分析法(DSC)で測定することができる。
【0026】
<<環状オレフィン重合体の種類>>
環状オレフィン重合体は、例えば、後述するような単量体を重合して得られる重合体又は共重合体(以下、まとめて「重合体」と呼ぶこともある。)、あるいはそれらの水素化物である。環状オレフィン重合体は、結晶性でも非晶性でも良いが、非晶性であることが好ましい。環状オレフィン重合体の単量体としては、好ましくはノルボルネン系単量体が挙げられる。ノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を含む単量体である。ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:エチリデンノルボルネン)、および、それらの誘導体(環に置換基を有するもの)等の2環式単量体;トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、および、その誘導体等の3環式単量体;テトラシクロ[7.4.0.02,7.110,13]テトラデカ-2,4,6,11-テトラエン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、および、それらの誘導体等の4環式単量体;等が挙げられる。これらの単量体は、任意の位置に置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが例示でき、上記ノルボルネン系単量体は、これらを2種以上有していてもよい。誘導体としては、具体的には、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンなどが挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、環状オレフィン重合体は、付加重合体であってもよいし、開環重合体であってもよいし、それらの水素化物であってもよいが、開環重合体または開環重合体水素化物であることが好ましい。基板(流路基板、蓋基板)の材料として用いられる環状オレフィン重合体は、単量体の合計100重量部に対してメタノテトラヒドロフルオレン(MTF)の含有量が25重量部以上の単量体を重合して得られる重合体が好ましい。接合層の材料として用いられる環状オレフィン重合体は、単量体の合計100重量部に対してジシクロペンタジエン(DCPD)の含有量が30重量部以上の単量体を重合して得られる重合体が好ましい。
【0027】
上述した開環重合体は、開環重合触媒を用いる方法により製造することができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、又は、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。開環重合体は、例えば、国際公開第2010/110323号に記載のルテニウムカルベン錯体触媒などのメタセシス反応触媒(開環重合触媒)を用いる方法、および、特開2015-54885号公報に記載のタングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・テトラヒドロフラン錯体、六塩化タングステン等の開環重合触媒を用いる方法、などにより製造することができる。
上述した付加重合体は、単量体を、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて重合させて得ることができる。付加重合体は、例えば、国際公開第2017/199980号に記載のメタロセン触媒の存在下に、環状オレフィン重合体の単量体及び必要に応じて、付加共重合可能な単量体(他の単量体)を付加共重合することにより製造することができる。
【0028】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
これらの、ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体とを開環共重合する場合は、開環重合体中のノルボルネン系単量体由来の構造単位と開環共重合可能なその他の単量体由来の構造単位との割合が、重量比で通常70:30~99:1、好ましくは80:20~99:1、より好ましくは90:10~99:1の範囲となるように適宜選択される。
【0029】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセンなどの炭素数2~20のα-オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α-オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
これらの、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体とを付加共重合する場合は、付加重合体中のノルボルネン系単量体由来の構造単位と付加共重合可能なその他の単量体由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70~99:1、好ましくは50:50~97:3、より好ましくは70:30~95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0030】
さらに、開環重合体を水素化して脂環式構造含有開環重合体水素化物を製造する方法としては、例えば、国際公開第2010/110323号に記載の水素化触媒を用いる方法などが挙げられる。また、例えば、開環重合触媒として上述したルテニウムカルベン錯体触媒を用いて、脂環式構造含有重合体を製造した後、当該ルテニウムカルベン触媒をそのまま水素化触媒としても使用し、脂環式構造含有開環重合体を水素化して脂環式構造含有開環重合体水素化物を製造することもできる。
【0031】
環状オレフィン重合体のガラス転移温度(Tg)は、重合に用いる単量体の種類及び配合率、重合体の平均分子量及び分子量分布等に応じて適宜調整することができる。
【0032】
本発明のマイクロ流路チップにおいて、流路基板、蓋基板、及び接合層の少なくとも1つは、Tgの異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0033】
(マイクロ流路チップの製造方法)
本発明のマイクロ流路チップは、例えば、下記に説明する製造方法(以下、「本発明の製造方法」と呼ぶ。)により製造することができる。
【0034】
本発明の製造方法は、流路基板と蓋基板を接合層を介して熱融着によって接合することを含む。
【0035】
一実施形態では、本発明の製造方法は、基板の全面に接合層を形成した後に、基板上に流路を形成する順序を経て行われてもよい。即ち、本発明の製造方法は、以下の工程を経て行われてもよい。
(1)流路形成用基板及び蓋基板の少なくとも一方上に接合層を形成する工程、
(2)接合層が形成された流路形成用基板又は接合層が形成されていない流路形成用基板に、例えば、切削、フォトリソグラフィ、又は熱インプリントにより流路を形成して、接合層が形成された流路基板又は接合層が形成されていない流路基板を形成する工程、
(3)接合層が形成された流路基板と接合層が形成されていない蓋基板との組合せ、接合層が形成されていない流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せ、及び接合層が形成された流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せの少なくとも一つの組合せを、接合層を介して熱融着によって接合する工程。
この実施形態による製造方法の概念図の例を図1に示す。
【0036】
この実施形態において、接合層の形成は、接合層の材料となる環状オレフィン重合体の溶液を基板の全面に薄膜塗布し、溶媒を蒸発させることによって行ってもよい。溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、デカリン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の有機溶媒が挙げられ、混合溶媒として用いても良い。溶媒の蒸発は、例えば、接合層の材料となる環状オレフィン重合体のガラス転移温度よりも低い温度での乾燥(例、加熱乾燥、室温乾燥)、加熱真空(減圧)乾燥、またはこれらの組合せにより行ってもよい。
【0037】
また、この実施形態では、接合層が形成された流路形成用基板に流路を形成する場合、流路形成用基板の接合層が形成された面に、例えば、切削、フォトリソグラフィ、又は熱インプリント等の加工を行って、流路形成用基板の流路形成部分を接合層ごと除去することによって行われる。
【0038】
別の実施形態では、本発明の製造方法は、流路が形成された基板(流路基板)を作成した後に、基板(流路基板、蓋基板)の面における流路に相当する部分以外の部分上に接合層を形成する順序を経て行われてもよい。即ち、本発明の製造方法は、以下の工程を経て行われてもよい。
(1)少なくとも一方の面に流路が形成された流路基板を形成する工程、
(2)流路基板及び蓋基板の少なくとも一方の、少なくとも一方の面における流路に相当する部分以外の部分上に接合層を形成する工程、
(3)接合層が形成された流路基板と接合層が形成されていない蓋基板との組合せ、接合層が形成されていない流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せ、及び接合層が形成された流路基板と接合層が形成された蓋基板との組合せの少なくとも一つの組合せを、接合層を介して熱融着によって接合する工程。
この実施形態による製造方法の概念図の例を図2に示す。
【0039】
この実施形態において、少なくとも一方の面に流路が形成された流路基板は、例えば、基板の材料となる環状オレフィン重合体の射出成形を行うことにより形成してもよく、流路形成用基板に、例えば、フォトリソグラフィ、熱インプリント等の微細加工技術、又は切削を行うことにより形成してもよい。
【0040】
また、この実施形態において、接合層の形成は、接合層の材料となる環状オレフィン重合体の溶液を、基板上の流路相当部分以外の部分にスクリーン印刷するか、又は基板上の流路相当部分をマスキングしてスプレー塗布することにより、パターン塗布し、溶媒を蒸発させることによって行ってもよい。
【0041】
製造容易性の観点から、本発明の製造方法は、基板の全面に接合層を形成することを経てた実施形態で行われることが好ましい。
【0042】
熱融着は、流路基板と蓋基板を接合層を介して重ね合わせて、仮止め接合体を形成し、仮止め接合体をTg2より高く、かつTgs1及びTgs2より低い温度で加熱することにより行われる。熱融着を行う手段としては、例えば、オートクレーブ、熱プレス、ロールプレス等が挙げられる。熱融着を行う温度は、Tg2+5℃以上が好ましく、Tg2+10℃以上がより好ましい。また、熱融着を行う温度は、Tg2+50℃以下が好ましく、Tg2+40℃以下がより好ましい。熱融着を行う前に、仮止め接合体から噛みこんだ空気を抜き、圧着を行うことが好ましいが、少量の気泡はオートクレーブ加工時に拡散する為、大きな空気が噛みこんでいなければ問題は無い。
【0043】
本発明の製造方法において、流路基板、蓋基板、及び接合層の少なくとも1つは、Tgの異なる2層以上から構成されていてもよい。
【実施例
【0044】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
<物性の測定および評価方法>
各種の物性の測定および評価は、下記の方法に従って行った。
【0046】
(重量平均分子量Mwの測定方法)
重量平均分子量Mwは、シクロヘキサンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリイソプレン換算値として求めた。標準ポリイソプレンとしては、東ソー株式会社製標準ポリイソプレンを用いた。サンプルがシクロヘキサンに溶解しない場合は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液としてGPCにより測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。標準ポリスチレンとしては、東ソー株式会社製標準ポリスチレンを用いた。
【0047】
(ガラス転移温度測定方法)
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、製品名:DSC6220SII)を用いて、JIS-K7121に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0048】
[1-1.環状オレフィン重合体(COP)の製造]
<COP-1の製造>
(1-1-1)開環重合体の製造:
内部を窒素置換したガラス製反応容器に、後述する単量体の合計100重量部に対して200重量部の脱水したシクロヘキサン、1-ヘキセン0.75mol%、ジイソプロピルエーテル0.15mol%、及びトリイソブチルアルミニウム0.44mol%を、室温で反応器に入れ、混合した。その後、45℃に保ちながら、反応器に、単量体としてのメタノテトラヒドロフルオレン(MTF)28重量部、テトラシクロドデセン(TCD)35重量部、及びジシクロペンタジエン(DCPD)37重量部と、六塩化タングステン(0.65重量%トルエン溶液)0.02mol%とを、並行して2時間かけて連続的に添加し、重合した。次いで、重合溶液に、イソプロピルアルコール0.2mol%を加えて重合触媒を不活性化し、重合反応を停止させた。前記の説明において、単位「mol%」で示される量は、いずれも、単量体の合計量を100mol%とした値である。得られたノルボルネン系開環重合体の重量平均分子量Mwは2.8×104、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。また、単量体の重合体への転化率は、100%であった。
【0049】
(1-1-2)水素化によるノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)の製造:
次いで、前記の工程(1-1-1)で得られた開環重合体を含む反応溶液300重量部を攪拌器付きオートクレーブに移し、ケイソウ土担持ニッケル触媒(日揮化学社製「T8400RL」、ニッケル担持率57%)3重量部を添加し、水素圧4.5MPa、160℃で4時間オートクレーブして、水素化反応を行なった。
【0050】
水素化反応の終了後、得られた溶液を、ラヂオライト#500を濾過床として、圧力0.25MPaで加圧濾過(石川島播磨重工社製「フンダバックフィルター」)して、水素化触媒を除去し、無色透明な溶液を得た。得られた溶液を、大量のイソプロパノール中に注ぎ、開環重合体の水素化物としてのノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)を沈殿させた。沈殿したノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)を濾取した後に、真空乾燥機(220℃、1Torr)で6時間乾燥させて、ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)を得た。ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)の重量平均分子量は3.5×104、分子量分布Mw/Mnは2.3であった。
【0051】
得られたノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)のガラス転移温度Tgは、134℃であった。
【0052】
(1-1-3)熱可塑性ノルボルネン系樹脂の製造:
前記の工程(1-1-2)で得られたノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)を二軸押出機に投入し、熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターを用いて細断して、ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-1)を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレットを得た。
【0053】
<COP-2の製造>
単量体として、テトラシクロドデセン(TCD)33重量部、ジシクロペンタジエン(DCPD)33重量部、及びノルボルネン(NB)34重量部を用いた以外はCOP-1の製造と同様にして、ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-2)及びCOP-2を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレットを得た。COP-2のガラス転移温度Tgは、70℃であった。
【0054】
<COP-3の製造>
単量体として、テトラシクロドデセン(TCD)22重量部、ジシクロペンタジエン(DCPD)73重量部、及びノルボルネン(NB)5重量部を用いた以外はCOP-1の製造と同様にして、ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-3)及びCOP-3を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレットを得た。COP-3のガラス転移温度Tgは、104℃であった。
【0055】
<COP-4の製造>
単量体として、メタノテトラヒドロフルオレン(MTF)8重量部、テトラシクロドデセン(TCD)36重量部、及びジシクロペンタジエン(DCPD)56重量部を用いた以外はCOP-1の製造と同様にして、ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-4)及びCOP-4を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレットを得た。COP-4のガラス転移温度Tgは、124℃であった。
【0056】
<COP-5の製造>
単量体として、メタノテトラヒドロフルオレン(MTF)40重量部、テトラシクロドデセン(TCD)56重量部、及びジシクロペンタジエン(DCPD)4重量部を用いた以外はCOP-1の製造と同様にして、ノルボルネン系環状オレフィン重合体(COP-5)及びCOP-5を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレットを得た。COP-5のガラス転移温度Tgは、156℃であった。
【0057】
[1-2.環状オレフィン共重合体(COC)の製造]
シクロヘキサン258リットルを装入した反応容器に、常温、窒素気流下でビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(以下、「NB」という)(120kg)を加え、5分間撹拌を行った。さらにトリイソブチルアルミニウムを系内の濃度が1.0mL/リットルとなるように添加した。続いて、撹拌しながら常圧でエチレンを流通させ系内をエチレン雰囲気とした。オートクレーブの内温を70℃に保ち、エチレンにて内圧がゲージ圧で6kg/cm2となるように加圧した。10分間撹拌した後、予め用意したイソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリド及びメチルアルモキサンを含むトルエン溶液0.4リットルを系内に添加することによって、エチレン、NBの共重合反応を開始させた。このときの触媒濃度は、全系に対してイソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(インデニル)ジルコニウムジクロリドが0.018mmol/リットルであり、メチルアルモキサンが8.0mmol/リットルであった。
【0058】
重合中、系内にエチレンを連続的に供給することにより、温度を70℃、内圧をゲージ圧で6kg/cm2に保持した。60分後、イソプロピルアルコールを添加することにより、重合反応を停止した。脱圧後、ポリマー溶液を取り出し、その後、水1m3に対し濃塩酸5リットルを添加した水溶液と1:1の割合で強撹拌下に接触させ、触媒残渣を水相へ移行させた。この接触混合液を静置したのち、水相を分離除去し、さらに水洗を2回行い、重合液相を精製分離した。
【0059】
次いで、精製分離された重合液を3倍量のアセトンと強撹拌下で接触させ、共重合体を析出させた後、固体部(共重合体)を濾過により採取し、アセトンで十分洗浄した。さらに、ポリマー中に存在する未反応のモノマーを抽出するため、この固体部を40kg/m3となるようにアセトン中に投入した後、60℃で2時間の条件で抽出操作を行った。抽出処理後、固体部を濾過により採取し、窒素流通下、130℃、350mmHgで12時間乾燥し、エチレン・NB共重合体(環状オレフィン共重合体:COC)を得た。得られたエチレン・NB共重合体(COC)100重量部、酸化防止剤(イルガノックス(登録商標)1010)0.1重量部を2軸混練機で混練して、エチレン・NB共重合体(COC)を含む熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレットを得た。
【0060】
以上のようにして、得られたエチレン・NB共重合体(COC)のTgは137℃であり、NB単位含量は51モル%であった。
【0061】
[2.基板の製造]
実施例1~10、比較例1、2において、表1に示す基板用環状オレフィン重合体または環状オレフィン共重合体(熱可塑性ノルボルネン系樹脂のペレット:COP-1、COP-5、またはCOC)をTg-20℃で5時間乾燥した。その後、常法によって該ペレットを射出成形機(FANUC ROBOSHOT(登録商標)α100B、ファナック社製)を用いて樹脂温度Tg+150℃、型温Tg-10℃、保圧80MPaで射出成形し、平板100mm×100mm×2mmの成形品として基板(流路形成用基板及び蓋基板)を得た。
【0062】
[3.基板上での接合層の形成]
(3-1.実施例1~8、比較例1、2での接合層の形成)
表1に示す接合層用熱可塑性ノルボルネン系樹脂(COP-2、COP-3、COP-4、またはCOP-1)のペレット20重量部に対して、シクロヘキサン(特級:和光純薬製)を80重量部をそれぞれガラス製密閉容器(パイレックス(登録商標)メディウム瓶:コーニング製)に密閉し、室温で振とう溶解させて、固形分濃度が20重量%のシクロヘキサン溶液(接合層用溶液)を作成した。
得られた接合層用溶液を、上で得られた平板100mm×100mm×2mm成形品(流路形成用基板:COP-1またはCOC)上にキャストし、小型自動フィルムアプリケーター(オールグッド社製)を用いてウェットコーティングを行った。コーティングされた平板成形品を室温にて10分ほど乾燥させ、次に80℃オーブンにて1時間加熱乾燥を行い、接合層をコーティングした成形品(接合層が形成された流路形成用基板)を得た。
【0063】
(3-2.実施例9での接合層の形成)
表1に示す接合層用熱可塑性ノルボルネン系樹脂(COP-2)のペレット20重量部に対して、キシレン(特級:和光純薬製)を80重量部をそれぞれガラス製密閉容器(パイレックス(登録商標)メディウム瓶:コーニング製)に密閉し、室温で振とう溶解させて、固形分濃度が20重量%のキシレン溶液(接合層用溶液)を作成した。
得られた接合層用溶液を、上で得られた平板100mm×100mm×2mm成形品(流路形成用基板:COP-1)上にキャストし、小型自動フィルムアプリケーター(オールグッド社製)を用いてウェットコーティングを行った。コーティングされた平板成形品を室温にて10分ほど乾燥させ、次に120℃オーブンにて5分加熱乾燥を行い、接合層をコーティングした成形品(接合層が形成された流路形成用基板)を得た。
【0064】
(3-3.実施例10での接合層の形成)
表1に示す接合層用熱可塑性ノルボルネン系樹脂(COP-3)のペレット20重量部に対して、シクロヘキサン(特級:和光純薬製)を80重量部をそれぞれガラス製密閉容器(パイレックス(登録商標)メディウム瓶:コーニング製)に密閉し、室温で振とう溶解させて、固形分濃度が20重量%のシクロヘキサン溶液(接合層用溶液)を作成した。
得られた接合層用溶液を、上で得られた平板100mm×100mm×2mm成形品(流路形成用基板:COP-5)上にキャストし、小型自動フィルムアプリケーター(オールグッド社製)を用いてウェットコーティングを行った。コーティングされた平板成形品を室温にて10分ほど乾燥させ、次に80℃オーブンにて5分加熱乾燥を行い、接合層をコーティングした成形品(接合層が形成された流路形成用基板)を得た。
【0065】
[4.基板の流路切削]
接合層がコーティングされた成形品(接合層が形成された流路形成用基板)を超高精度高速微細加工機AndroidII(碌々産業社製)で流路切削と外形加工を行い、片面に図3(a)に示すようなパターンの4本の流路11(幅:100μm、深さ100μm)を有する、接合層が形成された流路基板10(厚さ:2.0mm、外形:76.0mm×26.0mm)を得た。
また、上記[2.基板の製造]で得られた蓋基板に対し、図3(b)に示すように直径2.0mmの貫通孔21(注入口)を8個形成し、外形加工を行い、蓋基板20(厚さ:2.0mm、外形:76.0mm×26.0mm)とした。なお、貫通孔21の位置は、流路基板10の流路11の端部12に対応する位置とした。
【0066】
[5.基板同士の貼り合わせ]
接合層が形成された流路基板と蓋基板を重ね合わせた後、ゴムロールで数回押し当てて、噛みこんだ空気を抜き、圧着を行い、仮止め接合体Aを作成した。なお、少量の気泡はオートクレーブ加工時に拡散する為、大きな空気が噛みこんでいなければ問題は無い。仮止め接合体Aをレトルトパウチ用袋(メイワパックス製)に挿入し、真空包装機(TECHNOVAC T1000;日本包装機械製)にて脱気包装した。この脱気包装体をオートクレーブ容器(タンデライオンDL-2010;羽生田鐵工所製)に入れ、表1に示す温度で、0.8MPa、加熱加圧時間90分でオートクレーブすることにより接合と消泡処理を行い、マイクロ流路チップを接合体として得た。
【0067】
[6.評価]
<接着強度>
接着強度は、JIS K 6854-2(180°剥離)に準拠して測定した。接合体を図3のようにシート(蓋基板)側に幅10mmの切り込みをシートと粘着層を貫通して入れた。端部から切り込みを入れた10mm幅部分をチャック固定できるように剥き出し、オーブン付き万能試験機(オートグラフAGS-X10kN;島津製作所製)の下部チャックに成形板(流路基板)側を、上部チャックにシート側を固定し、室温で5分保持した。保持後に、剥離幅10mm、剥離速度100mm/minにて180°剥離を行い、剥離強度を求め、これを接着強度とした。
【0068】
<送液試験>
5個のサンプルについて、作製したマイクロ流路チップの各流路に、圧力制御型無脈流ポンプP-Pump(高砂電気工業社製)を用いて、インク水溶液を注入口より注入した。出口側は、シリコンゴムで封止して、送液の圧力を650kPaまで上げ3分間保持した。そして、流路から接合部へのインク水溶液のにじみの有無を目視により確認した。
【0069】
<接合断面の観察、接合層の厚み測定>
得られた接合体(マイクロ流路チップ)をイオンミリング装置IM4000PLUS(日立ハイテク社製)を用いてクライオミリングモードで断面出しを行った。その断面を電界放出形走査電子顕微鏡FE-SEM8220(日立ハイテク社製)で観察し、接合層の厚みを測定した。
【0070】
<蒸気滅菌前後の流路断面評価>
(蒸気滅菌)
得られた接合体(マイクロ流路チップ)を小型高圧蒸気滅菌器を用いて、121℃、0.12MPa、30minの条件下で蒸気滅菌を行った。
【0071】
(流路断面評価)
蒸気滅菌前の断面積S1、蒸気滅菌後の面積S2を電界放出形走査電子顕微鏡FE-SEM8220(日立ハイテク社製)で測定した。
流路形状保持率をS2/S1×100(%)とした。
【0072】
[7.結果]
基板(流路基板及び蓋基板)及び接合層に用いた環状オレフィン重合体の種類、ガラス転移温度Tg、接合層の厚さ、各評価結果を表1に示す。評価の符号は、以下の意味を表す。
<送液試験>
〇:液漏れなし
×:液漏れあり
<蒸気滅菌後の流路断面評価>
流路形状保持率
◎:95%以上
〇:90%以上95%未満
△:80%以上90%未満
×:80%未満
【0073】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、高温高圧滅菌処理を行っても流路は変形せず、基板同士の強力な接合性が維持された、マイクロ流路チップ及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 流路基板
11 流路
12 両端部
20 蓋基板
21 貫通孔
図1
図2
図3