IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】レジスト組成物、及びパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20241126BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20241126BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20241126BHJP
   C07C 25/18 20060101ALI20241126BHJP
   C07C 59/115 20060101ALI20241126BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20241126BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20241126BHJP
   C07D 207/27 20060101ALI20241126BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20241126BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
G03F7/004 503A
G03F7/004 501
G03F7/039 601
G03F7/038 601
C07C25/18
C07C59/115
C07C43/225 C
C09K3/00 K
C07D207/27 Z
C08F20/10
G03F7/20 521
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023082693
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2022069184の分割
【原出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2023116474
(43)【公開日】2023-08-22
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敬之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正樹
(72)【発明者】
【氏名】片山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 健司
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145809(JP,A)
【文献】特開2015-214634(JP,A)
【文献】特開2018-005224(JP,A)
【文献】特開2018-060069(JP,A)
【文献】特開2013-076990(JP,A)
【文献】特開2018-025789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004-7/18
C07C 25/18
C07C 59/115
C07C 43/225
C09K 3/00
C07D 207/27
C08F 20/10
G03F 7/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるヨードニウム塩からなるクエンチャー、
下記式(a)で表される繰り返し単位ヒドロキシスチレンに由来する繰り返し単位と、下記式(c1)~(c4)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリマーを含むベース樹脂(ただし、オキシラン環を有する繰り返し単位を含まない)、及び
有機溶剤
を含み、前記ベース樹脂は、光酸発生剤でもあり、その他の光酸発生剤を含まないレジスト組成物。
【化1】
(式中、Rf1及びRf2は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状の1価炭化水素基であるが、少なくとも一方は、フッ素原子、又はフッ素原子を含む炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状の1価炭化水素基である。
Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数6~40のアリール基である。また、Ar1及びAr2が、互いに結合してこれらが結合しているヨウ素原子と共に環を形成してもよい。)
【化2】
(式中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
Aは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基又は(主鎖)-C(=O)-O-Z'-であり、Z'は、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合若しくはラクトン環を含んでいてもよい炭素数1~10のアルカンジイル基、又はフェニレン基若しくはナフチレン基である。XAは、酸不安定基である
【化3】
(式中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
1は、単結合、フェニレン基、-O-L11-、-C(=O)-O-L11-又は-C(=O)-NH-L11-を表し、L11は、ヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~20のアルカンジイル基、炭素数2~20のアルケンジイル基、又はフェニレン基である。
2及びL3は、それぞれ独立に、単結合、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価炭化水素基である。
4は、単結合、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、フッ素化されたフェニレン基、-O-L41-、-C(=O)-O-L41又は-C(=O)-NH-L41-である。L41は、置換されていてもよいフェニレン基である。
11~R21は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基である。また、L1、R11及びR12のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよく、R13、R14及びR15のうちのいずれか2つ、R16、R17及びR18のうちのいずれか2つ、又はR19、R20及びR21のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。
Xc-は非求核性対向イオンを表す。
1は、水素原子又はトリフルオロメチル基である。
1は、0又は1であるが、L2が単結合のときは0である。n2は、0又は1であるが、L3が単結合のときは0である。)
【請求項2】
前記ポリマーが、下記式A-1~A-3から選ばれる少なくとも1種の繰り返し単位と、ヒドロキシスチレンに由来する繰り返し単位と、下記式C-1~C-3から選ばれる少なくとも1種の繰り返し単位とを含むものである請求項1記載のレジスト組成物。
【化4】
【請求項3】
更に、アミン化合物を含む請求項1又は2記載のレジスト組成物。
【請求項4】
更に、水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤、及び/又は水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤を含む請求項1~3のいずれか1項記載のレジスト組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項記載のレジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜をKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線又は極端紫外線で露光する工程と、前記露光したレジスト膜を、現像液を用いて現像する工程とを含むパターン形成方法。
【請求項6】
現像液としてアルカリ水溶液を用いて、露光部を溶解させ、未露光部が溶解しないポジ型パターンを得る請求項記載のパターン形成方法。
【請求項7】
現像液として有機溶剤を用いて、未露光部を溶解させ、露光部が溶解しないネガ型パターンを得る請求項記載のパターン形成方法。
【請求項8】
前記有機溶剤が、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ブテニル、酢酸イソペンチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸イソペンチル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチル、乳酸イソペンチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、2-ヒドロキシイソ酪酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、ギ酸ベンジル、ギ酸フェニルエチル、3-フェニルプロピオン酸メチル、プロピオン酸ベンジル、フェニル酢酸エチル及び酢酸2-フェニルエチルから選ばれる少なくとも1種である請求項記載のパターン形成方法。
【請求項9】
前記露光が、屈折率1.0以上の液体をレジスト膜と投影レンズとの間に介在させて行う液浸露光である請求項のいずれか1項記載のパターン形成方法。
【請求項10】
前記レジスト膜の上に更に保護膜を塗布し、該保護膜と投影レンズとの間に前記液体を介在させて液浸露光を行う請求項記載のパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト組成物、及び該レジスト組成物を用いるパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化と高速度化に伴い、パターンルールの微細化が求められている中、次世代の微細加工技術として遠紫外線リソグラフィー及び極端紫外線(EUV)リソグラフィーが有望視されている。中でもArFエキシマレーザーを光源としたフォトリソグラフィーは0.13μm以下の超微細加工に不可欠な技術である。
【0003】
微細化要求を達成するためには、レジスト組成物のベース樹脂の最適化は勿論、光酸発生剤等の添加剤の性能改善も重要であり、特に化学増幅レジスト組成物において露光により発生する強酸の酸拡散制御は重要な課題である。
【0004】
光酸発生剤としては、レジスト組成物中での安定性に優れるトリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート等のスルホニウム塩が一般的に使われてきた。しかし、これをレジスト組成物に用いると、発生する酸の拡散が大きく、高解像度を達成するのが難しい。この問題に対して、部分フッ素置換アルカンスルホン酸及びその塩が種々開発されており、バルキーな置換基や極性基を導入することで酸拡散抑制効果を持たせた光酸発生剤が検討されている。例えば、トリフェニルスルホニウム2-(1-アダマンタンカルボニルオキシ)-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン-1-スルホネートはバルキーな置換基を有することで酸拡散抑制効果を有する光酸発生剤である。しかし、これを用いたレジスト組成物においても、未だ酸拡散の高度な制御には不十分であり、パターン荒れの指標となるラインウィズスラフネス(LWR)や解像性等を総合的に見て、リソグラフィー性能は満足のいくものではなかった
【0005】
また、光酸発生剤の構造改変のほかに、クエンチャー(酸拡散制御剤)も種々の検討がなされてきた。クエンチャーとしてはアミン類や弱酸オニウム塩が一般的に用いられている。特許文献1には、トリフェニルスルホニウムアセテートの添加によりT-トップの形成、孤立パターンと密集パターンの線幅の差、スタンディングウエーブのない良好なレジストパターンを形成することができると記載されている。特許文献2には、スルホン酸アンモニウム塩又はカルボン酸アンモニウム塩の添加により感度、解像性、露光マージンが改善したことが述べられている。また、特許文献3には、フッ素含有カルボン酸を発生する光酸発生剤を含むKrF又は電子線(EB)用レジスト組成物が、解像力に優れ、露光マージン、焦点深度等のプロセス許容性が改善されたと述べられている。更に、特許文献4にも、フッ素含有カルボン酸を発生する光酸発生剤を含むF2レーザー光用レジスト組成物が、ラインエッジラフネスに優れ、裾引の問題が改善されたと述べられている。これらはKrF、EB、F2リソグラフィーに用いられているものであるが、特許文献5には、カルボン酸オニウム塩を含むArFエキシマレーザー露光用ポジ型感光性組成物が記載されている。これらは、露光によって他の光酸発生剤から生じた強酸(スルホン酸)が弱酸オニウム塩とイオン交換を起こし、弱酸と強酸オニウム塩とを形成することで酸性度の高い強酸(スルホン酸)から弱酸(カルボン酸)に置き換わることによって酸不安定基の酸分解反応を抑制し、酸拡散距離を小さくする(制御する)ものである。
【0006】
しかしながら、これらの弱酸オニウム塩を用いた場合でも、パターン倒れを引き起こし、結果として解像性が向上しないことや、アルカリ現像液への溶解性が低く、現像後の欠陥の原因となる場合があり、またLWR等の種々のリソグラフィー性能が満足し得ない場合がある。これらの問題点を解決する手段として、特許文献6には含フッ素カルボン酸のスルホニウム塩を含むレジスト組成物が記載されているが、依然としてパターン形状やリソグラフィー性能に関して満足する結果は得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-295887号公報
【文献】特開平11-327143号公報
【文献】特許第4231622号公報
【文献】特許第4116340号公報
【文献】特許第4226803号公報
【文献】特許第5556765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、KrF又はArFエキシマレーザー光、EB、EUV等の高エネルギー線を光源としたフォトリソグラフィーにおいて、クエンチャーとして用いられ、矩形性に優れ、マスクエラーファクター(MEF)、LWR、寸法均一性(CDU)に優れるレジスト組成物を与えるカルボン酸ヨードニウム塩、該ヨードニウム塩を含むレジスト組成物、及び該レジスト組成物を用いるパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するヨードニウム塩を含むレジスト組成物が、矩形性に優れ、MEF、CDU、LWR等のリソグラフィー性能に優れ、レジスト組成物として精密な微細加工に極めて有効であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記レジスト組成物、及びパターン形成方法を提供する。
1.下記式(1)で表されるヨードニウム塩からなるクエンチャー、
下記式(a)で表される繰り返し単位、下記式(b)で表される繰り返し単位及び下記式(c1)~(c4)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1種を含むポリマーを含むベース樹脂(ただし、オキシラン環を有する繰り返し単位を含まない)、及び
有機溶剤
を含み、前記ベース樹脂は、光酸発生剤でもあり、その他の光酸発生剤を含まないレジスト組成物。
【化1】
(式中、Rf1及びRf2は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状の1価炭化水素基であるが、少なくとも一方は、フッ素原子、又はフッ素原子を含む炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状の1価炭化水素基である。
Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数6~40のアリール基である。また、Ar1及びAr2が、互いに結合してこれらが結合しているヨウ素原子と共に環を形成してもよい。)
【化2】
(式中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
Aは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基又は(主鎖)-C(=O)-O-Z'-であり、Z'は、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合若しくはラクトン環を含んでいてもよい炭素数1~10のアルカンジイル基、又はフェニレン基若しくはナフチレン基である。XAは、酸不安定基である。YAは、水素原子、又はヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環及びカルボン酸無水物から選ばれる少なくとも1つ以上の構造を含む極性基である。)
【化3】
(式中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。
1は、単結合、フェニレン基、-O-L11-、-C(=O)-O-L11-又は-C(=O)-NH-L11-を表し、L11は、ヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~20のアルカンジイル基、炭素数2~20のアルケンジイル基、又はフェニレン基である。
2及びL3は、それぞれ独立に、単結合、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価炭化水素基である。
4は、単結合、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、フッ素化されたフェニレン基、-O-L41-、-C(=O)-O-L41又は-C(=O)-NH-L41-である。L41は、置換されていてもよいフェニレン基である。
11~R21は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基である。また、L1、R11及びR12のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよく、R13、R14及びR15のうちのいずれか2つ、R16、R17及びR18のうちのいずれか2つ、又はR19、R20及びR21のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。
Xc-は非求核性対向イオンを表す。
1は、水素原子又はトリフルオロメチル基である。
1は、0又は1であるが、L2が単結合のときは0である。n2は、0又は1であるが、L3が単結合のときは0である。)
2.更に、アミン化合物を含む1のレジスト組成物。
3.更に、水不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤、及び/又は水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤を含む1又は2のレジスト組成物。
4.1~3のいずれかのレジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜をKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線又は極端紫外線で露光する工程と、前記露光したレジスト膜を、現像液を用いて現像する工程とを含むパターン形成方法。
5.現像液としてアルカリ水溶液を用いて、露光部を溶解させ、未露光部が溶解しないポジ型パターンを得る4のパターン形成方法。
6.現像液として有機溶剤を用いて、未露光部を溶解させ、露光部が溶解しないネガ型パターンを得る4のパターン形成方法。
7.前記有機溶剤が、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ブテニル、酢酸イソペンチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸イソペンチル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチル、乳酸イソペンチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、2-ヒドロキシイソ酪酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、ギ酸ベンジル、ギ酸フェニルエチル、3-フェニルプロピオン酸メチル、プロピオン酸ベンジル、フェニル酢酸エチル及び酢酸2-フェニルエチルから選ばれる少なくとも1種である6のパターン形成方法。
8.前記露光が、屈折率1.0以上の液体をレジスト膜と投影レンズとの間に介在させて行う液浸露光である4~7のいずれかのパターン形成方法。
9.前記レジスト膜の上に更に保護膜を塗布し、該保護膜と投影レンズとの間に前記液体を介在させて液浸露光を行う8のパターン形成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヨードニウム塩をクエンチャーとして含むレジスト組成物を用いて、KrF又はArFエキシマレーザー光、EB、EUV等の高エネルギー線、特にArFエキシマレーザー光、EUVを露光光として用いるフォトリソグラフィーによってパターン形成を行った場合、高度に酸拡散が抑制され、矩形性に優れ、MEF、LWR、CDU等が改善されたパターンを形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明中、化学式で表される構造によっては不斉炭素が存在し、エナンチオマーやジアステレオマーが存在し得るものがあるが、その場合は1つの式でそれらの異性体を代表して表す。これらの異性体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
[ヨードニウム塩]
本発明のヨードニウム塩は、下記式(1)で表される。
【化4】
【0014】
式(1)中、Rf1及びRf2は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状の1価炭化水素基である。ただし、Rf1及びRf2の少なくとも一方は、フッ素原子、又はフッ素原子を含んでいてもよい炭素数1~4の直鎖状若しくは分岐状の1価炭化水素基である。
【0015】
前記1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル基等が挙げられる。Rf1及びRf2として好ましくは、水素原子、メチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基であり、特に好ましくは、トリフルオロメチル基である。Rf1及びRf2がともにトリフルオロメチル基の場合、カルボキシレートアニオンの共役酸の酸性度が適度に高くなり、かつ求核性部位の周りが立体構造的に嵩高くなることで求核性が適度に抑えられ、レジスト組成物の安定性の改善が期待できる。またフルオロアルコール単位を有することで相溶性が向上し、レジスト膜中で均一に分散することでLWR、CDU等のリソグラフィー性能の改善が期待できる。
【0016】
式(1)中、Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数6~40のアリール基である。また、Ar1及びAr2が、互いに結合してこれらが結合しているヨウ素原子と共に環を形成してもよい。
【0017】
前記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、置換基の置換位置は任意であるが、トリル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、1-アダマンチルフェニル基、トリイソプロピルフェニル基、トリシクロヘキシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリメトキシフェニル基、メチルチオフェニル基、ビフェニル基、フルオロフェニル基、ジフルオロフェニル基、ブロモフェニル基、ヨードフェニル基、N,N-ジフェニルアミノフェニル基、アセトキシフェニル基、アセチルアミノフェニル基、2,2,2-トリフルオロエトキシフェニル基、(2-メトキシエトキシ)フェニル基、ヒドロキシナフチル基、ジヒドロキシナフチル基、2,2,2-トリフルオロエトキシナフチル基、(2-メトキシエトキシ)ナフチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
前記アリール基としては、更に、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の重合可能な置換基を有するアリール基が挙げられ、具体的には4-アクリロイルオキシフェニル基、4-メタクリロイルオキシフェニル基、4-アクリロイルオキシ-3,5-ジメチルフェニル基、4-メタクリロイルオキシ-3,5-ジメチルフェニル基、4-ビニルオキシフェニル基、4-ビニルフェニル基、4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル基、4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル基等が挙げられる。
【0019】
Ar1及びAr2としては、非置換のフェニル基、又はヨウ素原子のパラ位に、ハロゲン原子、アルキル基及びアルコキシ基から選ばれる置換基を有するフェニル基が好ましい。特に、フェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、4-フルオロフェニル基等が好ましい。
【0020】
また、Ar1及びAr2が互いに結合して、これらが結合するヨウ素原子と共に環を形成する場合、Ar1及びAr2が直接結合してもよく、又は酸素原子、メチレン基、スルホン基、カルボニル基等を介して結合してもよい。このとき形成される環構造としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式において、芳香環上の任意の位置に置換基を有していてもよい。
【化5】
【0021】
式(1)で表されるヨードニウム塩のアニオンとしては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化6】
【0022】
式(1)で表されるヨードニウム塩化合物のカチオンとしては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、tBuはtert-ブチル基であり、Phはフェニル基である。
【化7】
【0023】
【化8】
【0024】
本発明のヨードニウム塩の具体的な構造としては、前述したカチオンの具体例とアニオンの具体例との任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。また、特に好ましい構造として、以下の示すものが挙げられる。なお、下記式中、tBuはtert-ブチル基である。
【化9】
【0025】
本発明のヨードニウム塩をクエンチャーとして含むレジスト組成物は、矩形性に優れ、MEF、LWR、CDU等のリソグラフィー性能に優れる。このような効果を与える明確な理由は不明ではあるが、以下のように考察できる。
【0026】
本発明のヨードニウム塩は、アニオン骨格にフルオロアルコール単位を有しているため、相溶性が高く、レジスト膜内に均一に分散することでLWR、CDU等のリソグラフィー性能が改善すると考えられる。また、ヨードニウムカチオンは、スルホニウムカチオンと比較して溶解阻止能が高いので、例えばアルカリ現像型のレジスト組成物においてパターン上部の現像液による溶解が抑えられることで矩形性が改善すると考えられる。
【0027】
また、本発明のヨードニウム塩と、同じアニオンを有するトリアリールスルホニウム塩を比較した際、本発明のヨードニウム塩は熱安定性に優れる。この結果を与える明確な理由は不明ではあるが、以下のように考察できる。本発明のアニオンはメチレンを介してヒドロキシ基とカルボキシ基を有する構造をしており、この二つの官能基上の酸素原子とカチオン部(M+)で下記式(1')のような環構造を形成し安定化していると考えられる。この環構造を形成する際、前記ヨードニウムカチオンは、中心原子であるヨウ素原子の原子半径が大きく、また結合するアリール基の数が2つであるため立体障害が小さく環構造を形成しやすいが、トリアリールスルホニウムカチオンは中心の硫黄原子が3つのアリール基と結合し、かつ硫黄原子の原子半径が小さいことから立体障害が大きくなり、結果として安定な構造が取り難く熱安定性が低下すると考えられる。
【化10】
(式中、Rf1及びRf2は、前記と同じ。Mは、ヨウ素原子又は硫黄原子である。)
【0028】
また、本発明のヨードニウム塩が前述した安定構造を取りやすいことは、アルカリ現像液に対する溶解阻止能が高まり、矩形性を改善する一助となっていると考えられる。
【0029】
本発明のヨードニウム塩は、例えば下記スキームに従って合成することができるが、これに限定されない。
【化11】
(式中、Rf1、Rf2、Ar1及びAr2は、前記と同じ。Rは、水素原子又はアルキル基である。Bは、塩基である。X-は、アニオンである。)
【0030】
原料化合物は、種々の方法で合成可能であり、例えば、対応するカルボニル化合物のシアン化水素付加とその加水分解により合成できる。しかしながら、シアン化水素は猛毒であり、カルボニル化合物に関しても、例えばヘキサフルオロアセトンのような猛毒の化合物もあるので、その取り扱いには注意が必要である。3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)プロピオン酸誘導体、特にそのメチルエステルは、例えばヘキサフルオロプロペン等を合成した際に副生するオクタフルオロイソブチレンを原料として得られるが、供給源が工業製品の副生物であることから、大量に比較的安価に入手可能なフッ素化合物である。
【0031】
一工程目の加水分解反応に関して具体的に述べる。原料のα-ヒドロキシカルボン酸又はそのエステルは、市販品を使用してもよく、例えば前述の方法で合成したものを使用することもできる。使用する塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、アンモニウムヒドロキシ度等が挙げられ、特に好ましくは水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドである。
【0032】
使用する塩基の当量数は、α-ヒドロキシカルボン酸又はそのエステルに対し、好ましくは0.8~3当量、より好ましくは0.9~1.2当量である。溶剤としては、水、水-メタノール、水-エタノール、水-テトラヒドロフラン等が挙げられるが、好ましくは水である。反応温度及び反応時間は任意であるが、原料の消失を速めるため、室温~40℃程度の温度が好ましい。このまま反応液をカルボン酸塩溶液として次工程のイオン交換反応に用いてもよいし、溶剤濃縮後に粗結晶(カルボン酸塩)として取り出してもよい。また、塩基性を中和するために塩酸等の酸を加えてもよい。また、反応液をヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等の疎水性かつカルボン酸塩が不溶な有機溶剤を使用して洗浄した後、使用することもできる。
【0033】
次に、二工程目のイオン交換反応に関して具体的に述べる。イオン交換反応は既知の方法により実施可能であり、ジクロロエタン、クロロホルム、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、1-ペンタノール等の有機溶剤又は有機溶剤及び水を併用することで行うことができる。なお、有機溶剤は2種以上を混合して使用することもできる。副生する塩成分を除去した後に、再結晶やクロマトグラフィー等の定法によって精製することができる。
【0034】
イオン交換反応に使用するヨードニウム塩のアニオンは、特に限定されないが、塩化物イオン、臭化物イオン、メタンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、メチル硫酸イオン、酢酸イオン等が挙げられる。これらのうち、好ましくは塩化物イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオンである。
【0035】
[レジスト組成物]
本発明のレジスト組成物は、(A)前記ヨードニウム塩からなるクエンチャーを必須成分として含み、その他の成分として必要により、
(B)ベース樹脂、及び
(C)有機溶剤
を含む。
【0036】
また、本発明のレジスト組成物は、必要に応じて、下記(D)~(G)成分から選ばれる1種以上を含んでもよい。
(D)光酸発生剤、
(E)界面活性剤、及び
(F)(A)成分以外のクエンチャー、及び
(G)その他の成分
【0037】
[(A)ヨードニウム塩]
本発明のレジスト組成物に使用される(A)成分のヨードニウム塩は、本発明のヨードニウム塩であり、光酸発生剤又はクエンチャーとして添加される。(A)成分のスルホニウム塩の配合量は、(B)成分のベース樹脂100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。配合量が下限以上であれば、クエンチャーとして十分に機能し、上限以下であれば、溶解性不足で異物が発生する等の性能劣化が起こるおそれがない。
【0038】
式(1)で表されるヨードニウム塩は、1種単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明のヨードニウム塩は、主に光分解性のクエンチャーとして作用するため、例えば、α位がフッ素化されたスルホン酸のような強酸を発生する光酸発生剤と併用して用いることが好ましく、その際前記の強酸を発生する光酸発生剤は、ベース樹脂に酸発生部位を有する繰り返し単位を導入したものでもよく、これとは別途にレジスト組成物に添加してもよい。
【0039】
このような本発明のヨードニウム塩は、クエンチャーとして使用することで、KrF又はArFエキシマレーザー光、EB、EUV等の高エネルギー線を光源としたフォトリソグラフィーにおいて、矩形性に優れ、LWR、CDU等のリソグラフィー性能に優れたレジスト組成物を与えることができる。
【0040】
[(B)ベース樹脂]
(B)成分のベース樹脂は、下記式(a)で表される繰り返し単位と下般式(b)で表される繰り返し単位とを含むポリマーであることが好ましい。
【化12】
【0041】
式(a)及び(b)中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。ZAは、単結合、フェニレン基、ナフチレン基又は(主鎖)-C(=O)-O-Z'-であり、Z'は、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合若しくはラクトン環を含んでいてもよい炭素数1~10のアルカンジイル基、又はフェニレン基若しくはナフチレン基である。XAは、酸不安定基である。YAは、水素原子、又はヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環及びカルボン酸無水物(-C(=O)-O-C(=O)-)から選ばれる少なくとも1つ以上の構造を含む極性基である。
【0042】
前記アルカンジイル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-2,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,4-ジイル基、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、シクロペンタン-1,2-ジイル基、シクロペンタン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,6-ジイル基等が挙げられる。
【0043】
式(a)中のZAを変えた構造としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RA及びXAは、前記と同じである。
る。
【化13】
(式中、RA及びXAは、前記と同じ。)
【0044】
Aで表される酸不安定基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数4~20の3級アルキル基、各アルキル基がそれぞれ炭素数1~6のアルキル基であるトリアルキルシリル基、炭素数4~20のオキソアルキル基等が挙げられる。これら酸不安定基の具体的構造に関する詳細な説明は、特開2014-225005号公報の段落[0016]~[0035]が詳しい。
【0045】
前記酸不安定基としては、特に、下記式(xa)、(xb)又は(xc)で表されるものが好ましい。
【化14】
(式中、Rxは、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~10の1価炭化水素基である。kは1又は2である。破線は結合手である。)
【0046】
式(xa)、(xb)又は(xc)で表される3級脂環式炭化水素基がエステル酸素に結合する場合、立体反発に起因して他の3級アルキル基、例えばtert-ブチル基やtert-ペンチル基と比較して酸分解能が高くなる。前記3級脂環式炭化水素基をレジスト組成物の極性変化単位に用いた場合、露光部と未露光部の溶解コントラストが増大するので、LWR、CDU等のリソグラフィー性能に優れ、矩形性に優れたパターンを与えると考えられる。
【0047】
式(a)で表される繰り返し単位としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RAは、前記と同じである。
【化15】
【0048】
【化16】
【0049】
【化17】
【0050】
なお、前記具体例はZAが単結合の場合であるが、ZAが単結合以外の場合においても同様の酸不安定基と組み合わせることができる。ZAが単結合以外のものである場合の具体例は、前述したとおりである。
【0051】
式(b)で表される繰り返し単位としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、RAは、前記と同じである。
【化18】
【0052】
【化19】
【0053】
【化20】
【0054】
前記ポリマーは、更に、下記式(c1)~(c4)で表される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【化21】
【0055】
式(c1)~(c4)中、RAは、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。L1は、単結合、フェニレン基、-O-L11-、-C(=O)-O-L11-又は-C(=O)-NH-L11-を表す。L11は、ヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数1~20のアルカンジイル基、炭素数2~20のアルケンジイル基、又はフェニレン基である。L2及びL3は、それぞれ独立に、単結合、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価炭化水素基である。L4は、単結合、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、フッ素化されたフェニレン基、-O-L41-、-C(=O)-O-L41又は-C(=O)-NH-L41-である。L41は、置換されていてもよいフェニレン基である。
【0056】
11で表されるアルカンジイル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-2,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,4-ジイル基、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、シクロペンタン-1,2-ジイル基、シクロペンタン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,6-ジイル基等が挙げられる。また、L11で表されるアルケンジイル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、エテン-1,2-ジイル基、1-プロペン-1,3-ジイル基、2-ブテン-1,4-ジイル基、1-メチル-1-ブテン-1,4-ジイル基、2-シクロヘキセン-1,4-ジイル基等が挙げられる。
【0057】
2及びL3で表される2価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前述したアルカンジイル基やアルケンジイル基が挙げられる。
【0058】
式(c1)~(c4)中、R11~R21は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基である。前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、4-メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の1価飽和環式脂肪族炭化水素基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;シクロヘキセニル基等の1価不飽和環式脂肪族炭化水素基、フェニル基、ナフチル基のアリール基、チエニル基等のヘテロアリール基、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられる。これらのうち、アリール基が好ましい。また、これらの基の水素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子含有基で置換されていてもよく、これらの基の炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子含有基で置換されていてもよく、その結果、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を含んでいてもよい。
【0059】
1、R11及びR12のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよく、R13、R14及びR15のうちのいずれか2つ、R16、R17及びR18のうちのいずれか2つ、又はR19、R20及びR21のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。
【0060】
式(c1)中、Xc-は、非求核性対向イオンである。前記非求核性対向イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン等のハライドイオン;トリフレート、1,1,1-トリフルオロエタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート等のフルオロアルキルスルホネート;トシレート、ベンゼンスルホネート、4-フルオロベンゼンスルホネート、1,2,3,4,5-ペンタフルオロベンゼンスルホネート等のアリールスルホネート;メシレート、ブタンスルホネート等のアルキルスルホネート;ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロブチルスルホニル)イミド等のイミド酸;トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、トリス(パーフルオロエチルスルホニル)メチド等のメチド酸等が挙げられる。
【0061】
更に、Xc-で表される非求核性対向イオンとして、下記式(c5)又は(c6)で表されるアニオンが挙げられる。
【化22】
(式中、R31及びR32は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。A2は、水素原子又はトリフルオロメチル基である。)
【0062】
式(c2)中、アニオン部位の具体的な構造としては、特開2014-177407号公報の段落[0021]~[0026]に記載のものが挙げられる。また、A1が水素原子の場合のアニオン部位の具体的な構造としては、特開2010-116550号公報の段落[0021]~[0028]に記載のもの、A1がトリフルオロメチル基の場合のアニオン部位の具体的な構造としては、特開2010-77404号公報の段落[0021]~[0027]に記載のものが挙げられる。
【0063】
式(c3)中のアニオン部位の具体的な構造としては、式(c2)の具体例において、-CH(A1)CF2SO3 -の部分を-C(CF3)2CH2SO3 -に置き換えた構造が挙げられる。
【0064】
式(c2)中のアニオン部位の好ましい例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、A1は、前記と同じである。
【化23】
【0065】
式(c3)中のアニオンの好ましい例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化24】
【0066】
式(c2)~(c4)中のスルホニウムカチオンとしては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、Meはメチル基であり、nBuはn-ブチル基であり、tBuはtert-ブチル基である。
【化25】
【0067】
前記ポリマーは、更に、酸不安定基によりヒドロキシ基が保護された構造を有する繰り返し単位を含んでもよい。酸不安定基によりヒドロキシ基が保護された構造を有する繰り返し単位としては、ヒドロキシ基が保護された構造を1つ以上有し、酸の作用により保護基が分解し、ヒドロキシ基が生成するものであれば特に限定されない。このような繰り返し単位として具体的には、特開2014-225005号公報の段落[0055]~[0065]に記載のものや、特開2015-214634号公報の段落[0110]~[0115]に記載のものが挙げられる。
【0068】
前記ポリマーは、更に、前述したもの以外の他の繰り返し単位を含んでもよい。他の繰り返し単位としては、例えば、オキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位が挙げられる。オキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位を含むことによって露光部が架橋するため、露光部分の残膜特性とエッチング耐性が向上する。
【0069】
前記ポリマーは、更に他の繰り返し単位として、メタクリル酸メチル、クロトン酸メチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル等の置換アクリル酸エステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、ノルボルネン、ノルボルネン誘導体、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデセン誘導体等の環状オレフィン類、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物、スチレン、ビニルナフタレン、ヒドロキシスチレン、ヒドロキシビニルナフタレン、4-tert-ブトキシスチレン等のビニル芳香族類、その他の単量体に由来する繰り返し単位を含んでいてもよい。前記他の繰り返し単位としては、具体的には、特開2015-214634号公報の段落[0120]~[0132]に記載のものが挙げられるが、これに限定されない。特にEUVリソグラフィーに本発明のレジスト組成物を使用する際は、ヒドロキシスチレン及びその誘導体、例えばo-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、及びそれらの3級エーテル化体に由来する繰り返し単位を含むことが好ましく、特にm-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレンに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0070】
前記ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1,000~500,000が好ましく、3,000~100,000がより好ましい。Mwが前記範囲内であれば、エッチング耐性が極端に低下したり、露光前後の溶解速度差が確保できなくなって解像性が低下したりするおそれがない。なお、本発明においてMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算測定値である。また、分散度(Mw/Mn)は、1.2~2.5、特に1.3~1.8であることが好ましい。
【0071】
前記ポリマーの合成方法としては、例えば、各種繰り返し単位を与えるモノマーのうち、所望のモノマー1種あるいは複数種を、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱して重合を行う方法が挙げられる。このような重合方法は、特開2015-214634号公報の段落[0134]~[0137]に詳しい。また、酸不安定基は、モノマーに導入されたものをそのまま用いてもよいし、重合後保護化あるいは部分保護化してもよい。
【0072】
前記ポリマーにおいて、各単量体から得られる各繰り返し単位の好ましい含有割合は、例えば以下に示す範囲(モル%)とすることができるが、これに限定されない。
(I)式(a)で表される構成単位の1種又は2種以上を1~80モル%、好ましくは5~70モル%、より好ましくは10~60モル%、
(II)式(b)で表される構成単位の1種又は2種以上を20~99モル%、好ましくは30~95モル%、より好ましくは40~90モル%、
(III)式(c1)~(c4)で表される構成単位から選ばれる1種又は2種以上を0~30モル%、好ましくは0~20モル%、より好ましくは0~15モル%、及び、
(IV)その他の単量体に由来する構成単位の1種又は2種以上を0~80モル%、好ましくは0~70モル%、より好ましくは0~60モル%。
【0073】
(B)成分のベース樹脂は、前記ポリマーに加えて、開環メタセシス重合体の水素添加物を含んでいてもよい。開環メタセシス重合体の水素添加物としては、特開2003-66612号公報に記載のものを用いることができる。
【0074】
[(C)有機溶剤]
(C)成分の有機溶剤としては、前述した各成分及び後述する各成分が溶解可能な有機溶剤であれば、特に限定されない。
このような有機溶剤としては、例えば、特開2008-111103号公報の段落[0144]~[0145]に記載の、シクロヘキサノン、メチル-2-n-ペンチルケトン等のケトン類、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、プロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルアセテート等のエステル類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類、及びこれらの混合溶剤が挙げられる。アセタール系の酸不安定基を用いる場合は、アセタールの脱保護反応を加速させるために高沸点のアルコール系溶剤、具体的にはジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等を加えることもできる。
【0075】
本発明においては、これらの有機溶剤の中でも、レジスト成分中の光酸発生剤の溶解性が特に優れている1-エトキシ-2-プロパノール、PGMEA、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、及びこれらの混合溶剤が好ましく使用される。
【0076】
(C)成分の有機溶剤の配合量は、(B)成分のベース樹脂100質量部に対し、100~8,000質量部が好ましく、400~5,000質量部がより好ましい。
【0077】
[(D)光酸発生剤]
本発明のレジスト組成物は、(D)成分として、強酸を発生する光酸発生剤を含んでいてもよい。本発明において強酸とは、式(1)で表されるヨードニウム塩が発生する酸よりも酸性度が大きいものをいう。なお、(B)成分のベース樹脂が、酸の作用により溶解性が変わり、式(c1)~(c4)のいずれかで表される繰り返し単位を含む場合は、(D)成分の光酸発生剤は含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0078】
前記光酸発生剤としては、高エネルギー線照射により酸を発生する化合物であれば特に限定されない。好適な光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N-スルホニルオキシジカルボキシイミド、O-アリ-ルスルホニルオキシム、O-アルキルスルホニルオキシム等が挙げられる。具体的には、例えば、特開2007-145797号公報の段落[0102]~[0113]に記載された化合物、特開2008-111103号公報の段落[0122]~[0142]に記載された化合物、特開2014-001259号公報の段落[0081]~[0092]に記載された化合物、特開2012-041320号公報に記載された化合物、特開2012-153644号公報に記載された化合物、特開2012-106986号公報に記載された化合物、特開2016-018007号公報に記載された化合物等が挙げられる。これらの公報に記載された部分フッ素化スルホン酸発生型の光酸発生剤は、特にEUVリソグラフィー、ArFリソグラフィーにおいて、発生酸の強度や拡散長が適度であり、好ましく使用され得る。また、ヨードニウム塩を組み合わせる場合、そのカチオンとしてはジフェニルヨードニウムカチオン、p-フルオロフェニルフェニルヨードニウムカチオン、tert-ブチルフェニルフェニルヨードニウムカチオン又はジ-tert-ブチルフェニルヨードニウムカチオンが好ましい。
【0079】
(D)成分の光酸発生剤の好ましい例として、下記式(2)で表されるスルホニウム塩が挙げられる。
【化26】
【0080】
式(2)中、R101、R102及びR103は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の1価炭化水素基である。また、R101、R102及びR103のうちのいずれか2つが互いに結合して、これらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。前記1価炭化水素基としては、R11~R21の説明において述べたものと同様のものが挙げられる。また、R101、R102及びR103のうち少なくとも1つはアリール基であることが好ましい。
【0081】
式(2)中のスルホニウムカチオンについては、特開2014-001259号公報の段落[0082]~[0085]に詳しい。また、具体的な例としては、特開2007-145797号公報の段落[0027]~[0033]に記載されたカチオン、特開2010-113209号公報の段落[0059]に記載されたカチオン、特開2012-041320号公報に記載されたカチオン、特開2012-153644号公報に記載されたカチオン、及び特開2012-106986号公報に記載されたカチオンが挙げられる。式(2)中のカチオンの特に好ましい例としては、式(c2)~(c4)中のスルホニウムカチオンとして例示したものと同様のものが挙げられる。
【0082】
式(2)中、X-は、下記式(2A)~(2D)から選ばれるアニオンである。
【化27】
【0083】
式(2A)中、Rfaは、フッ素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。式(2A)で表されるアニオンとしては、下記式(2A')で表されるものが特に好ましい。
【化28】
【0084】
式(2A')中、R111は、水素原子又はトリフルオロメチル基であり、好ましくはトリフルオロメチル基である。R112は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~35の1価炭化水素基である。前記ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等が好ましく、酸素原子がより好ましい。前記1価炭化水素基としては、微細パターン形成において高解像性を得る点から、特に炭素数6~30であるものが好ましい。前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、イコサニル基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基;シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、1-アダマンチルメチル基、ノルボルニル基、ノルボルニルメチル基、トリシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、テトラシクロドデカニルメチル基、ジシクロヘキシルメチル基等の1価飽和環状脂肪族炭化水素基;アリル基、3-シクロヘキセニル基等の1価不飽和脂肪族炭化水素基;ベンジル基、ジフェニルメチル基等のアラルキル基等が挙げられる。また、ヘテロ原子を含む1価炭化水素基として、テトラヒドロフリル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メチルチオメチル基、アセトアミドメチル基、トリフルオロエチル基、(2-メトキシエトキシ)メチル基、アセトキシメチル基、2-カルボキシ-1-シクロヘキシル基、2-オキソプロピル基、4-オキソ-1-アダマンチル基、3-オキソシクロヘキシル基等が挙げられる。また、これらの基の水素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子含有基で置換されていてもよく、又はこれらの基の炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子含有基で置換されていてもよく、その結果、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を含んでいてもよい。
【0085】
式(2A')で表されるアニオンについては、特開2007-145797号公報、特開2008-106045号公報、特開2009-007327号公報、特開2009-258695号公報、特開2012-181306号公報に詳しい。
【0086】
式(2B)中、Rfb1及びRfb2は、それぞれ独立に、フッ素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前記R112の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。Rfb1及びRfb2として好ましくは、フッ素原子又は炭素数1~4の直鎖状フッ素化アルキル基である。また、Rfb1とRfb2とは、互いに結合してこれらが結合する基(-CF2-SO2-N--SO2-CF2-)と共に環を形成してもよく、この場合、Rfb1とRfb2とが互いに結合して得られる基は、フッ素化エチレン基又はフッ素化プロピレン基であることが好ましい。
【0087】
式(2C)中、Rfc1、Rfc2及びRfc3は、それぞれ独立に、フッ素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前記R112の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。Rfc1、Rfc2及びRfc3として好ましくは、フッ素原子又は炭素数1~4の直鎖状フッ素化アルキル基である。また、Rfc1とRfc2とは、互いに結合してこれらが結合する基(-CF2-SO2-C--SO2-CF2-)と共に環を形成してもよく、この場合、Rfc1とRfc2とが互いに結合して得られる基は、フッ素化エチレン基又はフッ素化プロピレン基であることが好ましい。
【0088】
式(2D)中、Rfdは、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。前記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、前記R112の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。式(2D)で表されるアニオンについては、特開2010-215608号公報や、特開2014-133723号公報に詳しい。なお、式(2D)で表されるアニオンを有する光酸発生剤は、スルホ基のα位にフッ素は有していないが、β位に2つのトリフルオロメチル基を有していることに起因して、ベース樹脂中の酸不安定基を切断するには十分な酸性度を有している。そのため、光酸発生剤として使用することができる。
【0089】
-で表されるアニオンとしては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、Aは水素原子又はトリフルオロメチル基であり、Acはアセチル基である。
【化29】
【0090】
【化30】
【0091】
式(2)で表されるスルホニウム塩の具体的な構造としては、前述したアニオンの具体例とカチオンの具体例との任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
(D)成分の光酸発生剤の他の好ましい例として、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化31】
【0093】
式(3)中、R201及びR202は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~30の1価炭化水素基である。R203は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~30の2価炭化水素基である。また、R201、R202及びR203のうちのいずれか2つが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子と共に環を形成してもよい。LAは、単結合、エーテル結合、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価炭化水素基である。X1、X2、X3及びX4はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表すが、X1、X2、X3及びX4のうち少なくとも1つはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0094】
式(3)で表される化合物としては、特に、下記式(3')で表されるものが好ましい。
【化32】
【0095】
式(3')中、LAは、前記と同じである。A2は、水素原子又はトリフルオロメチル基であるが、トリフルオロメチル基が好ましい。R211、R212及びR213は、それぞれ独立に、水素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1~20の1価炭化水素基である。p及びqは、それぞれ独立に、0~5の整数である。rは、0~4の整数である。
【0096】
式(3)及び(3')中、LAとしては、好ましくはエーテル結合、又はQX-O-LA'-O-QYである。QXはベンゼン環との結合を表し、QYは-CH(A2)-CF2-SO3 -との結合を表す。LA'は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~10の2価炭化水素基である。
【0097】
式(3)又は(3')で表される光酸発生剤については、特開2011-016746号公報に詳しい。また、具体例としては、前記公報に記載のスルホニウム化合物や、特開2015-214634号公報の段落[0149]~[0150]に記載のスルホニウム化合物が挙げられる。
【0098】
式(3)で表される光酸発生剤としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、A2は前記と同じであり、Meはメチル基であり、nBuはn-ブチル基であり、tBuはtert-ブチル基である。
【化33】
【0099】
前記光酸発生剤のうち、式(2A')又は(2D)で表されるアニオンを有するものは、酸拡散が小さく、かつ溶剤への溶解性にも優れており、特に好ましい。また、式(3')で表される構造を有するものは、酸拡散が極めて小さく、特に好ましい。
【0100】
(D)成分の光酸発生剤の添加量は、(B)成分のベース樹脂100質量部に対し、0~40質量部が好ましく、添加する場合は0.5~30質量部が好ましく、0.5~20質量部がより好ましい。前記範囲内であれば、解像性が劣化したり、レジスト現像後又は剥離時において異物の問題が生じたりするおそれがない。
【0101】
[(E)界面活性剤]
本発明のレジスト組成物は、更に、(E)成分として塗布性を向上させるために慣用されている界面活性剤を含んでもよい。なお、界面活性剤の含有量は、通常量とすることができる。具体的には、特開2010-215608号公報や特開2011-016746号公報に記載のものを参照することができる。
【0102】
(E)成分の界面活性剤は、好ましくは、水に不溶又は難溶でアルカリ現像液に可溶な界面活性剤、あるいは水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤(疎水性樹脂)である。
【0103】
水及びアルカリ現像液に不溶又は難溶な界面活性剤としては、前記公報に記載された界面活性剤の中でも、FC-4430(スリーエム社製)、サーフロン(登録商標)S-381、オルフィン(登録商標)E1004(日信化学工業(株)製)、KH-20、KH-30(AGCセイミケミカル(株)製)、及び下記式(surf-1)で表されるオキセタン開環重合物が好ましい。
【化34】
【0104】
ここで、R、Rf、A、B、C、m、nは、前述の記載にかかわらず、式(surf-1)のみに適用される。Rは、2~4価の炭素数2~5の脂肪族基である。前記脂肪族基としては、2価のものとしてはエチレン基、1,4-ブチレン基、1,2-プロピレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基、1,5-ペンチレン基等が挙げられ、3価又は4価のものとしては下記のものが挙げられる。
【化35】
(式中、破線は結合手であり、それぞれグリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから派生した部分構造である。)
【0105】
これらの中でも、1,4-ブチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が好ましい。
【0106】
Rfは、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基であり、好ましくはトリフルオロメチル基である。mは、0~3の整数であり、nは、1~4の整数であり、nとmの和はRの価数であり、2~4の整数である。Aは、1である。Bは、2~25の整数であり、好ましくは4~20の整数である。Cは、0~10の整数であり、好ましくは0又は1である。また、式(surf-1)中の各構成単位は、その並びを規定したものではなく、ブロック的でもランダム的に結合してもよい。部分フッ素化オキセタン開環重合物系の界面活性剤の製造に関しては、米国特許第5650483号明細書等に詳しい。
【0107】
水に不溶又は難溶でアルカリ現像液に可溶な界面活性剤は、ArF液浸露光においてレジスト保護膜を用いない場合、スピンコート後のレジスト表面に配向することによって水のしみ込みやリーチングを低減させる機能を有する。そのため、レジスト膜からの水溶性成分の溶出を抑えて露光装置へのダメージを下げるために有用であり、また、露光後、ポストエクスポージャーベーク(PEB)後のアルカリ現像時には可溶化し、欠陥の原因となる異物にもなり難いため有用である。このような界面活性剤は、水に不溶又は難溶でアルカリ現像液に可溶な性質であり、ポリマー型の界面活性剤であって、疎水性樹脂とも呼ばれ、特に撥水性が高く滑水性を向上させるものが好ましい。
【0108】
前記ポリマー型界面活性剤としては、下記式(4)~(6)で表される繰り返し単位を含むものが好ましい。
【化36】
【0109】
式(4)~(6)中、RBは、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1~4のアルキル基又はフッ素化アルキル基である。R301は、水素原子、-R301A-CO2H又は-R301A-OHであり、R301Aは、フッ素原子を含んでもよい2価の有機基である。R302は、炭素数2~20のフッ素化アルキル基である。R303は、水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基である。R304は、メチレン基又はエーテル結合である。R305は、炭素数2~20のフッ素化アルキル基である。
【0110】
Bで表される炭素数1~4のアルキル基又はフッ素化アルキル基は、直鎖状又は分岐状のものが好ましい。R301Aで表される2価の有機基としては、酸素原子を含んでもよい炭素数1~20のアルカンジイル基であることが好ましい。R302又はR305で表されるフッ素化アルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
【0111】
前記ポリマー型界面活性剤のMwは、1,000~500,000が好ましく、2,000~30,000がより好ましい。
【0112】
前記ポリマー型界面活性剤中、式(4)で表される繰り返し単位の含有割合をx(モル%)、式(5)で表される繰り返し単位の含有割合をy(モル%)、及び式(6)で表される繰り返し単位の含有割合をz(モル%)は、0≦x<1、0<y<1、0≦z<1、かつ0<x+y+z≦1を満たすことが好ましい。
【0113】
また、これらの水に不溶又は難溶でアルカリ現像液可溶な界面活性剤は、特開2007-297590号公報、特開2008-088343号公報、特開2008-122932号公報、特開2010-134012号公報、特開2010-107695号公報、特開2009-276363号公報、特開2009-192784号公報、特開2009-191151号公報、特開2009-098638号公報、特開2010-250105号公報、特開2011-042789号公報も参照できる。
【0114】
前記ポリマー型界面活性剤の含有量は、(B)成分のベース樹脂100質量部に対して0.001~20質量部が好ましく、0.01~10質量部がより好ましい。
【0115】
[(F)(A)成分以外のクエンチャー]
本発明のレジスト組成物には、必要に応じて、(F)成分として、(A)成分以外のクエンチャー(すなわち、式(1)で表されるヨードニウム塩以外のクエンチャー)を含んでもよい。なお、本発明においてクエンチャーとは、光酸発生剤より発生する酸がレジスト膜中に拡散する際の拡散速度を抑制することができる化合物を意味する。
【0116】
(F)成分のクエンチャーとしては、例えば、アミン化合物を挙げることができ、特開2008-111103号公報の段落[0146]~[0164]に記載された、1級、2級又は3級アミン化合物、特に、ヒドロキシ基、エーテル結合、エステル結合、ラクトン環、シアノ基、スルホン酸エステル結合等のいずれかを有するアミン化合物が好ましいクエンチャーとして挙げられる。また、特許第3790649号公報に記載の化合物のように、カーバメート基を有する1級又は2級アミン化合物も挙げることができる。このような保護されたアミン化合物は、レジスト組成物中塩基に対して不安定な成分があるときに有効である。
【0117】
また、(F)成分のクエンチャーとして、下記式(7)で表される化合物(α位がフッ素化されていないスルホン酸のオニウム塩)、又は下記式(8)で表される化合物(カルボン酸のオニウム塩)を使用することもできる。
【化37】
【0118】
式(7)中、R401は、水素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基であるが、スルホ基のα位の炭素原子に結合する水素原子が、フッ素原子又はフルオロアルキル基で置換されたものを除く。前記1価炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキソアルキル基等が挙げられる。具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルブチル基、ノルボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、チエニル基等、4-ヒドロキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、2-メトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、4-tert-ブトキシフェニル基、3-tert-ブトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-エチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル等のアルキルフェニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基等のアルキルナフチル基、メトキシナフチル基、エトキシナフチル基、n-プロポキシナフチル基、n-ブトキシナフチル基等のアルコキシナフチル基、ジメチルナフチル基、ジエチルナフチル基等のジアルキルナフチル基、ジメトキシナフチル基、ジエトキシナフチル基等のジアルコキシナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基等が挙げられる。アリールオキソアルキル基としては、2-フェニル-2-オキソエチル基、2-(1-ナフチル)-2-オキソエチル基、2-(2-ナフチル)-2-オキソエチル基等の2-アリール-2-オキソエチル基等が挙げられる。また、これらの基の水素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子含有基で置換されていてもよく、これらの基の炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子含有基で置換していてもよく、その結果、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物、ハロアルキル基等を含んでいてもよい。
【0119】
式(8)中、R402は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。R402で表される1価炭化水素基としては、R401で表される1価炭化水素基として例示したものと同様のものが挙げられる。また、その他の具体例として、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロ-1-メチル-1-ヒドロキシエチル基、2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)-1-ヒドロキシエチル基等の含フッ素アルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、4-tert-ブチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ペンタフルオロフェニル基や4-トリフルオロメチルフェニル基等の含フッ素アリール基等も挙げられる。
【0120】
式(7)で表されるスルホン酸オニウム塩及び式(8)でされるカルボン酸オニウム塩については、特開2008-158339号公報や特開2010-155824号公報に詳しい。
【0121】
式(7)中のアニオンの好ましい例として、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化38】
【0122】
更に、式(8)中のアニオンの好ましい例として、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化39】
【0123】
式(7)及び(8)中、Mq+は、オニウムカチオンである。前記オニウムカチオンとしては、下記式(9)~(11)のいずれかで表されるものが好ましい。
【化40】
【0124】
式(9)~(11)中、R411~R419は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~40の1価炭化水素基である。また、R411とR412と、又はR416とR417とが、互いに結合してこれらが結合する硫黄原子又は窒素原子と共に環を形成してもよい。
【0125】
式(9)で表されるスルホニウムカチオンの具体例としては、式(c2)~(c4)中のカチオンとして例示したものと同様のものが挙げられる。式(10)で表されるヨードニウムカチオンの具体例としては、式(1)で表されるヨードニウム塩のカチオンとして例示したもの同様のものが挙げられる。式(11)で表されるアンモニウムカチオンの具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化41】
【0126】
式(7)又は(8)で表されるオニウム塩の具体例としては、前述したアニオンの具体例とカチオンの具体例との任意の組み合わせが挙げられる。なお、これらのオニウム塩は、既知の有機化学的手法を用いたイオン交換反応によって容易に調製することができる。イオン交換反応ついては、例えば特開2007-145797号公報を参考にすることができる。
【0127】
式(7)又は(8)中のアニオンは、弱酸の共役塩基である。ここでいう弱酸とは、ベース樹脂に使用する酸不安定基含有単位の酸不安定基を脱保護させることのできない酸性度のことをいう。式(7)又は(8)で表されるオニウム塩は、α位がフッ素化されているスルホン酸のような強酸の共役塩基をカウンターアニオンとして有するオニウム塩型光酸発生剤と併用させたときに、クエンチャーとして機能する。すなわち、α位がフッ素原子で置換されているスルホン酸のような強酸を発生するオニウム塩と、フッ素原子で置換されていないスルホン酸やカルボン酸のような弱酸を発生するオニウム塩とを混合して用いた場合、高エネルギー線照射により光酸発生剤から生じた強酸が未反応の弱酸アニオンを有するオニウム塩と衝突すると塩交換により弱酸を放出し強酸アニオンを有するオニウム塩を生じる。この過程で強酸がより触媒能の低い弱酸に交換されるため見かけ上、酸が失活して酸拡散の制御を行うことができる。
【0128】
特に、式(7)又は(8)で表されるオニウム塩化合物において、Mq+が式(9)で表されるスルホニウムカチオン又は式(10)で表されるヨードニウムカチオンであるものは、光分解性があるため、光強度が強い部分のクエンチ能が低下するとともに、光酸発生剤由来の強酸の濃度が増加する。これにより露光部分のコントラストが向上し、DOF(Depth of Focus)が更に改善された、寸法制御のよいパターンを形成することが可能となる。
【0129】
ここで、強酸を発生する光酸発生剤がオニウム塩である場合、前述のように高エネルギー線照射により生じた強酸を弱酸に交換することはできるが、高エネルギー線照射により生じた弱酸は、未反応の強酸を発生するオニウム塩と衝突して塩交換を行うことは難しいと考えられる。これは、オニウムカチオンがより強酸のアニオンとイオン対を形成しやすいという現象に起因する。
【0130】
本発明のヨードニウム塩も主にクエンチャーとして作用し、前述の効果により種々のリソグラフィー性能を改善することができる。
【0131】
酸不安定基が酸に対して特に敏感なアセタールである場合は、保護基を脱離させるための酸は必ずしもα位がフッ素化されたスルホン酸、イミド酸、メチド酸でなくてもよく、α位がフッ素化されていないスルホン酸でも脱保護反応が進行する場合がある。このときのクエンチャーとしては、式(8)で表されるようなカルボン酸のオニウム塩を用いることが好ましい。
【0132】
また、(F)成分のクエンチャーとして、前述したオニウム塩型クエンチャーのほかに、ベタイン型のクエンチャー、例えば、公知の化合物として知られるジフェニルヨードニウム-2-カルボキシレート等を使用することもできる。
【0133】
また、(F)成分のクエンチャーとして、含窒素置換基を有する光分解性オニウム塩を使用してもよい。このような化合物は、未露光部ではクエンチャーとして機能し、露光部は自身からの発生酸との中和によってクエンチャー能を失う、いわゆる光崩壊性塩基として機能する。光崩壊性塩基を用いることによって、露光部と未露光部のコントラストをより強めることができる。光崩壊性塩基としては、例えば特開2009-109595号公報、特開2012-46501号公報、特開2013-209360号公報等を参考にすることができる。
【0134】
(F)成分の含有量は、0~40質量部が好ましく、配合する場合は0.1~40質量部が好ましく、0.5~20質量部がより好ましい。40質量部以下であれば、解像性が劣化したり、レジスト現像後又は剥離時において異物の問題が生じたりするおそれがない。また、前記範囲でクエンチャーを配合することで、レジスト感度の調整が容易となることに加え、レジスト膜中での酸の拡散速度が抑制されて解像度が向上し、露光後の感度変化を抑制したり、基板や環境依存性を少なくし、露光余裕度やパターンプロファイル等を向上させたりすることができる。更に、クエンチャーを添加することで基板密着性を向上させることもできる。(F)成分のクエンチャーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0135】
[(G)その他の成分]
本発明のレジスト組成物は、更に、(G)その他成分として、酸により分解して酸を発生する化合物(酸増殖化合物)、有機酸誘導体、フッ素置換アルコール、架橋剤、酸の作用により現像液への溶解性が変化するMw3,000以下の化合物(溶解阻止剤)、アセチレンアルコール類等を含んでいてもよい。具体的には、酸増殖化合物に関しては、特開2009-269953号公報、特開2010-215608号公報に詳しく、配合量は(B)成分のベース樹脂100質量部に対して0~5質量部が好ましく、0~3質量部がより好ましい。3質量部以下であれば、酸拡散制御が容易であり、解像性の劣化やパターン形状の劣化を招くおそれがない。その他の添加剤に関しては、特開2008-122932号公報の段落[0155]~[0182]、特開2009-269953号公報、特開2010-215608号公報に詳しい。
【0136】
[パターン形成方法]
本発明では、更に、前述したレジスト組成物を用いるパターン形成方法を提供する。本発明のレジスト組成物を使用してパターンを形成するには、公知のリソグラフィー技術を採用して行うことができる。より具体的には、本発明のレジスト組成物を基板上に塗布してレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜をKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、EB又はEUVで露光する工程と、前記露光したレジスト膜を、現像液を用いて現像する工程とを含む。なお、必要に応じて更に幾つかの工程を追加してもよい。
【0137】
基板としては、例えば、集積回路製造用の基板(Si、SiO2、SiN、SiON、TiN、WSi、BPSG、SOG、有機反射防止膜等)、あるいはマスク回路製造用の基板(Cr、CrO、CrON、MoSi2、SiO2等)を用いることができる。
【0138】
レジスト膜は、例えば、スピンコーティング等の方法で膜厚が好ましくは10~2000nm、より好ましくは20~500nmとなるようにレジスト組成物を基板上に塗布し、これをホットプレート上で60~180℃、10~600秒間、好ましくは70~150℃、15~300秒間プリベークすることで形成することができる。
【0139】
レジスト膜の露光は、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、波長13.5nmのEUVを用いる場合は、目的のパターンを形成するためのマスクを用いて、露光量が好ましくは1~200mJ/cm2、より好ましくは10~100mJ/cm2となるように照射することで行うことができる。または、EBを用いる場合は、目的のパターンを形成するためのマスクを用いて又は直接、露光量が好ましくは1~300μC/cm2、より好ましくは10~200μC/cm2となるように照射する。
【0140】
なお、露光は通常の露光法の他、場合によってはマスクとレジスト膜の間を液浸するImmersion法(液浸露光)を用いることも可能である。その場合には水に不溶な保護膜を用いることも可能である。また、液浸露光を行う場合には、レジスト塗布膜と投影レンズとの間に屈折率1.0以上の液体を介在させて行うことが好ましい。この場合、前記液体としては、水が好ましい。水を用いる場合には、水に不溶な保護膜をレジスト膜の上に形成してもよい。
【0141】
水に不溶な保護膜は、レジスト膜からの溶出物を防ぎ、膜表面の滑水性を上げるために用いられ、大きく分けて2種類ある。1つはレジスト膜を溶解しない有機溶剤によってアルカリ現像前に剥離が必要な有機溶剤剥離型と、もう1つはアルカリ現像液に可溶でレジスト膜可溶部の除去とともに保護膜を除去するアルカリ可溶型である。後者は特に水に不溶でアルカリ現像液に溶解する1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール残基を有するポリマーをベースとし、炭素数4以上のアルコール系溶剤、炭素数8~12のエーテル系溶剤、及びこれらの混合溶剤に溶解させた材料が好ましい。前述した水に不溶でアルカリ現像液に可溶な界面活性剤を炭素数4以上のアルコール系溶剤、炭素数8~12のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤に溶解させた材料とすることもできる。
【0142】
露光後、PEBを行ってもよい。PEBは、例えば、ホットプレート上で、好ましくは60~150℃、1~5分間、より好ましくは80~140℃、1~3分間加熱することで行うことができる。
【0143】
現像は、例えば、0.1~5質量%、好ましくは2~3質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液の現像液、あるいは有機溶剤現像液を用い、0.1~3分間、好ましくは0.5~2分間、浸漬(dip)法、パドル(puddle)法、スプレー(spray)法等の常法により行うことができる。
【0144】
本発明のパターン形成方法の現像液に関して、アルカリ水溶液の現像液としては、例えば、前述したTMAHや、特開2015-180748号公報の段落[0148]~[0149]に記載のアルカリ水溶液が挙げられる。好ましくは2~3質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)である。
【0145】
有機溶剤現像の現像液として、例えば、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ブテニル、酢酸イソペンチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸イソペンチル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチル、乳酸イソペンチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、2-ヒドロキシイソ酪酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、ギ酸ベンジル、ギ酸フェニルエチル、3-フェニルプロピオン酸メチル、プロピオン酸ベンジル、フェニル酢酸エチル、酢酸2-フェニルエチル等を用いることができる。これらの有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0146】
パターン形成方法の手段として、レジスト膜形成後に、純水リンス(ポストソーク)を行うことによって膜表面からの酸発生剤等の抽出、あるいはパーティクルの洗い流しを行ってもよいし、露光後に膜上に残った水を取り除くためのリンス(ポストソーク)を行ってもよい。
【0147】
更に、ダブルパターニング法によってパターンを形成することもできる。ダブルパターニング法としては、1回目の露光とエッチングで1:3トレンチパターンの下地を加工し、位置をずらして2回目の露光によって1:3トレンチパターンを形成して1:1のパターンを形成するトレンチ法、1回目の露光とエッチングで1:3孤立残しパターンの第1の下地を加工し、位置をずらして2回目の露光によって1:3孤立残しパターンを第1の下地の下に形成された第2の下地を加工してピッチが半分の1:1のパターンを形成するライン法が挙げられる。
【0148】
現像液として有機溶剤を用いるネガティブトーン現像によってホールパターンを形成する場合、X軸及びY軸方向の2回のラインパターンのダイポール照明を用いて露光を行うことで、最もコントラストが高い光を用いることができる。また、X軸及びY軸方向の2回のラインパターンのダイポール照明にs偏光照明を加えると、更にコントラストを上げることができる。これらのパターン形成方法は、特開2011-221513号公報に詳しい。
【0149】
現像後のホールパターンやトレンチパターンを、サーマルフロー、RELACS(Resolution Enhancement Lithography Assisted by CHEMICAL Shrink)技術、DSA(Directed Self-Assembly)技術等でシュリンクすることもできる。ホールパターン上にシュリンク剤を塗布し、ベーク中のレジスト層からの酸触媒の拡散によってレジストの表面でシュリンク剤の架橋が起こり、シュリンク剤がホールパターンの側壁に付着する。ベーク温度は、好ましくは70~180℃、より好ましくは80~170℃であり、ベーク時間は好ましくは10~300秒間である。最後に、余分なシュリンク剤を除去し、ホールパターンを縮小させる。
【0150】
このような本発明のパターン形成方法であれば、本発明のヨードニウム塩を含むレジスト組成物を用いることで、矩形性に優れ、MEF、CDU、LWR等のリソグラフィー性能に優れた微細なパターンを容易に形成することができる。
【実施例
【0151】
以下、合成例、実施例、及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例等に制限されるものではない。なお、下記例において、Mwは、テトラヒドロフラン(THF)を溶剤として用いたGPCによるポリスチレン換算測定値である。
【0152】
[1]中間体の合成
[合成例1]アニオン中間体(C-1)の合成
【化42】
【0153】
フラスコに、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの25質量%水溶液260.8gを加えて攪拌しているところに、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)プロピオン酸メチル154.0gを室温にて滴下した。滴下後、40℃に加熱し、そのままの温度で一晩撹拌熟成した。19F-NMRで反応の進行を確認した後、トルエン80gを加えて撹拌し、水層を分取した。得られた水層をトルエン80gで洗浄し、目的のアニオン中間体(C-1)を水溶液として得た。(濃度1.48mmol/g)
【0154】
[2]ヨードニウム塩の合成
[実施例1-1]ヨードニウム塩(I-1)の合成
【化43】
【0155】
ジフェニルヨードニウムクロリド6.3g、アニオン中間体(C-1)の水溶液16.2g、塩化メチレン60g、メタノール8g、1-ペンタノール12g及び純水16gを混合し、1時間撹拌した後、有機層を分取した。得られた有機層にアニオン中間体(C-1)の水溶液1.4g及び純水20gを加えて撹拌した後、有機層を分取し、更に有機層を純水20gで1回、25質量%メタノール水溶液25gで3回、純水20gで1回洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮し塩化メチレンを除去した後、ジイソプロピルエーテル56gを加えて撹拌し、晶析を行った。得られた固体を濾別した後、ジイソプロピルエーテルでリンスし、40℃で加熱減圧乾燥することで、目的のヨードニウム塩(I-1)5.5gを得た(収率:56%)。
1H-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= 6.34(1H, s), 7.52(4H, m), 7.66(2H, m), 8.24(4H, m) ppm.
19F-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= -74.6(6F, s) ppm.
飛行時間型質量分析(TOFMS; MALDI)
POSITIVE M+281(C12H10I+相当)
NEGATIVE M-211(C4HF6O3 -相当)
【0156】
[実施例1-2]ヨードニウム塩(I-2)の合成
【化44】
【0157】
既知化合物である(4-フルオロフェニル)フェニルヨードニウムp-トルエンスルホナート8.3g、アニオン中間体(C-1)の水溶液16.8g、1-ペンタノール63g、メタノール20g及び純水20gを混合し、4時間撹拌した後、有機層を分取した。有機層にアニオン中間体(C-1)の水溶液1.8g及び純水10gを加えて撹拌した後、有機層を分取する操作を5回行い、更に有機層を純水10gで5回洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮して溶剤を除去した後、ジイソプロピルエーテル68gを加え、晶析を行った。固体を濾別し、ジイソプロピルエーテルでリンスした後、40℃で加熱減圧乾燥することで、目的のヨードニウム塩(I-2)5.7gを得た(収率:61%)。
1H-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= 6.36(1H, s), 7.40(2H, m), 7.52(2H, m), 7.65(1H, m), 8.24(2H, m), 8.31(2H, m) ppm.
19F-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= -108.3(1F, m), -74.6(6F, s) ppm.
飛行時間型質量分析(TOFMS; MALDI)
POSITIVE M+299(C12H9FI+相当)
NEGATIVE M-211(C4HF6O3 -相当)
【0158】
[実施例1-3]ヨードニウム塩(I-3)の合成
【化45】
ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムクロリド4.3g、アニオン中間体(C-1)の水溶液8.1g、塩化メチレン50g及び純水20gを混合し、1時間撹拌した後、有機層を分取した。有機層にアニオン中間体(C-1)の水溶液0.67g及び純水10gを加えて撹拌した後、有機層を分取する操作を3回行い、更に有機層を純水10gで5回洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮して溶剤を除去した後、ジイソプロピルエーテル60gを加え、晶析を行った。固体を濾別し、ジイソプロピルエーテルでリンスした後、45℃で加熱減圧乾燥することで、目的のヨードニウム塩(I-3)5.9gを得た(収率:97%)。
1H-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= 1.25(18H, s), 6.34(1H, s), 7.53(4H, m), 8.14(4H, m) ppm.
19F-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= -74.6(6F, s) ppm.
飛行時間型質量分析(TOFMS; MALDI)
POSITIVE M+393(C20H26I+相当)
NEGATIVE M-211(C4HF6O3 -相当)
【0159】
[実施例1-4]ヨードニウム塩(I-4)の合成
【化46】
【0160】
既知化合物であるフェニル[2,4,6-トリス(1-メチルエチル)フェニル]ヨードニウムp-トルエンスルホナート8.7g、アニオン中間体(C-1)の水溶液11.1g、塩化メチレン40g及び純水10gを混合し、1時間撹拌した後、有機層を分取した。有機層にアニオン中間体(C-1)の水溶液1.0g及び純水20gを加えて撹拌した後、有機層を分取する操作を7回行い、更に有機層を純水20gで5回洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮して溶剤を除去した後、tert-ブチルメチルエーテル60gを加え、晶析を行った。固体を濾別し、tert-ブチルメチルエーテルでリンスした後、50℃で加熱減圧乾燥することで、目的のヨードニウム塩(I-4)4.9gを得た(収率:52%)。
1H-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= 1.20(6H, d), 1.21(12H, d), 2.96(1H, m), 3.37(2H, m), 6.38(1H, s), 7.30(2H, s), 7.52(2H, m), 7.62(1H, m), 7.91(2H, m) ppm.
19F-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= -74.6(6F, s) ppm.
飛行時間型質量分析(TOFMS; MALDI)
POSITIVE M+407(C21H28I+相当)
NEGATIVE M-211(C4HF6O3 -相当)
【0161】
[実施例1-5]ヨードニウム塩(I-5)の合成
【化47】
【0162】
フラスコに、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸7.9g及び純水34.1gを加えて撹拌しているところに、25質量%水酸化ナトリウム水溶液8.0gを氷冷下滴下した。滴下後、室温にて20分撹拌し、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸ナトリウム水溶液(濃度1mmol/g、以下、水溶液Aという。)を得た。ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム=クロリド4.3g、塩化メチレン40g及び水溶液A30gを混合し、30分撹拌した後、有機層を分取した。得られた有機層に水溶液A10gを加え、撹拌した後、有機層を分取する操作を2回行った。更に、有機層を純水15gで4回洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮し、塩化メチレンを除去することで固体を析出させた。析出した固体をジイソプロピルエーテル30gに分散させ、1時間撹拌した後、濾別し、ジイソプロピルエーテルでリンスした。得られた固体を50℃で加熱減圧乾燥することで、目的のヨードニウム塩(I-5)4.9gを得た(収率:88%)。
1H-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= 1.19(3H ,s), 1.24(18H, s), 5.59(1H, s), 7.51(4H, m), 8.13(4H, m) ppm.
19F-NMR (500MHz, DMSO-d6): δ= -78.5(3F, s) ppm.
飛行時間型質量分析(TOFMS; MALDI)
POSITIVE M+393(C20H26I+相当)
NEGATIVE M-157(C4H4F3O3 -相当)
【0163】
[実施例1-6~1-12]ヨードニウム塩(I-6)~(I-12)の合成
原料エステル(3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)プロピオン酸メチル)又は原料カルボン酸(3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸)のかわりに対応する原料エステル又は原料カルボン酸を使用し、対応するヨードニウムカチオンを用いて前述した実施例と同様の方法で、下記ヨードニウム塩(I-6)~(I-12)を得た。なお、アニオン原料及びカチオン原料は市販品を使用でき、また公知の方法で合成して使用することもできる。
【化48】
【0164】
[3]ベース樹脂の合成
[合成例2-1]ポリマーP-1の合成
窒素雰囲気下、メタクリル酸1-tert-ブチルシクロペンチル22g、メタクリル酸2-オキソテトラヒドロフラン-3-イル17g、V-601(和光純薬工業(株)製)0.48g、2-メルカプトエタノール0.41g及びメチルエチルケトン50gをフラスコにとり、単量体-重合開始剤溶液を調製した。窒素雰囲気とした別のフラスコにメチルエチルケトン23gをとり、撹拌しながら80℃まで加熱した後、前記単量体-重合開始剤溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、重合液の温度を80℃に保ったまま2時間撹拌を続け、次いで室温まで冷却した。得られた重合液を、激しく撹拌したメタノール640g中に滴下し、析出したポリマーを濾別した。ポリマーをメタノール240gで2回洗浄した後、50℃で20時間真空乾燥して、36gの白色粉末状のポリマーP-1を得た(収率90%)。GPCにて分析したところ、Mwは8,200、Mw/Mwは1.63であった。
【化49】
【0165】
[合成例2-2~2-10]ポリマーP-2~P-10の合成
各単量体の種類及び配合比を変えた以外は合成例2-1と同様の方法で、下記ポリマーP-2~P-10を製造した。
【0166】
製造したポリマーP-1~P-10の組成を下記表1に示す。なお、表1において、導入比はモル比を示す。また表1中の各単位の構造を、下記表2、表3及び表4に示す。
【0167】
【表1】
【0168】
【表2】
【0169】
【表3】
【0170】
【表4】
【0171】
[4]レジスト組成物の調製
[実施例2-1~2-24、比較例1-1~1-12]
ヨードニウム塩I-1~I-12、ポリマーP-1~P-10、光酸発生剤PAG-A~PAG-C、クエンチャーQ-1~Q-8及びアルカリ可溶型界面活性剤SF-1を、界面活性剤A(オムノバ社製)0.01質量%を含む溶剤中に溶解させ、得られた溶液を0.2μmのテフロン(登録商標)製フィルターで濾過することにより、レジスト組成物を調製した。調製した各レジスト組成物の組成を、下記表5及び表6に示す。
【0172】
なお、表5及び表6において、クエンチャーQ-1~Q-8、溶剤、光酸発生剤PAG-A~PAG-C、及びアルカリ可溶型界面活性剤SF-1は、以下のとおりである。
【0173】
・クエンチャー
Q-1:1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ヒドロキシピペリジン
【化50】
【0174】
Q-2:2,6-ジイソプロピルアニリン
【化51】
【0175】
Q-3:トリフェニルスルホニウム2-[(アダマンタン-1-カルボニル)オキシ]-エチルスルホネート
【化52】
【0176】
Q-4:ジフェニルヨードニウム-2-カルボキシレート
【化53】
【0177】
Q-5:トリフェニルスルホニウム3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロピオレ-ト
【化54】
【0178】
Q-6:ビス(4-tert-ブチルフェニル)フェニルスルホニウム3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルプロピオレート
【化55】
【0179】
Q-7:トリフェニルスルホニウムアダマンタンカルボキシレート
【化56】
【0180】
Q-8:トリフェニルスルホニウムサリチレート
【化57】
【0181】
・溶剤
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
GBL:γ-ブチロラクトン
【0182】
・光酸発生剤
PAG-A:トリフェニルスルホニウム2-[(アダマンタン-1-カルボニル)オキシ]-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン-1-スルホネート
【化58】
【0183】
PAG-B:トリフェニルスルホニウム2-[(アダマンタン-1-カルボニル)オキシ]-2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロパン-1-スルホネート
【化59】
【0184】
PAG-C:4-[(2-メトキシエトキシ)ナフタレン]-1-テトラヒドロチオフェニウム2-[(アダマンタン-1-カルボニル)オキシ]-1,1-ジフルオロエタンスルホネート
【化60】
【0185】
アルカリ可溶型界面活性剤SF-1:ポリ(メタクリル酸2,2,3,3,4,4,4-へプタフルオロ-1-イソブチル-1-ブチル・メタクリル酸9-(2,2,2-トリフルオロ-1-トリフルオロエチルオキシカルボニル)-4-オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン-5-オン-2-イル)
Mw=7,700
Mw/Mn=1.82
【化61】
【0186】
界面活性剤A:3-メチル-3-(2,2,2-トリフルオロエトキシメチル)オキセタン・テトラヒドロフラン・2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール共重合物(オムノバ社製)(下記式)
【化62】
a:(b+b'):(c+c')=1:4~7:0.01~1(モル比)
Mw=1,500
【0187】
【表5】
【0188】
【表6】
【0189】
[5]ArF露光パターニング評価(1)-ホールパターン評価
[実施例3-1~3-18、比較例2-1~2-7]
本発明のレジスト組成物(R-1~R-7、R-11~R-21)及び比較例用のレジスト組成物(R-25~R-31)を、信越化学工業(株)製スピンオンカーボン膜ODL-101を200nm及びその上にケイ素含有スピンオンハードマスクSHB-A940(ケイ素の含有量が43質量%)を35nmの膜厚で成膜したトライレイヤープロセス用の基板上へスピンコーティングし、ホットプレートを用いて100℃で60秒間ベークし、膜厚100nmのレジスト膜を形成した。
これに対し、ArF液浸エキシマレーザーステッパー((株)ニコン製、NSR-610C、NA1.30、σ0.98/0.78、ダイポール開口20°、Azimuthally偏光照明、6%ハーフトーン位相シフトマスク、ダイポール照明)を用いて、ウエハー上寸法がピッチ80nm、ライン幅40nmのX方向のラインが配列されたマスクを用いて1回目の露光を行い、続いて、ウエハー上寸法がピッチ80nm、ライン幅40nmのY方向のラインが配列されたマスクを用いて2回目の露光を行い、露光後60秒間PEBを施した後、現像ノズルから酢酸ブチルを3秒間30rpmで回転させながら吐出させ、その後静止パドル現像を27秒間行った。なお、液浸液としては、水を用いた。
【0190】
[感度評価]
作製したレジストパターンを(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(CG-5000)で観察し、ピッチ80nmにおいてホール径40nmとなる露光量を最適露光量Eop(mJ/cm2)とした。
【0191】
[マスクエラーファクター(MEF)評価]
マスクのピッチは固定したまま、マスクのライン幅を変えて、前記感度評価における最適露光量(Eop)で照射してパターン形成した。マスクのライン幅及びパターンのスペース幅の変化から、次式によりMEFの値を求めた。この値が1に近いほど性能が良好である。
MEF=(パターンのスペース幅/マスクのライン幅)-b
(b:定数)
【0192】
[寸法均一性(CDU)評価]
得られたホールパターンを(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(CG-5000)で観察し、ホール直径について、125箇所を測定した。その結果から算出した標準偏差(σ)の3倍値(3σ)を求め、CDUとした。CDUは、その値が小さいほど、寸法均一性が優れることを意味する。
【0193】
各評価結果を表7に示す。
【0194】
【表7】
【0195】
表7に示した結果より、本発明のレジスト組成物を用いて有機溶剤現像によってホールパターンを形成した場合、MEF、CDUに優れていることがわかった。以上のことから、本発明のレジスト組成物は、有機溶剤現像プロセスに有用であることが明らかになった。
【0196】
[6]ArF露光パターニング評価(2)-ラインアンドスペース評価
[実施例4-1~4-24、比較例3-1~3-12]
本発明のレジスト組成物(R-1~R-24)及び比較例用のレジスト組成物(R-25~R-36)を、信越化学工業(株)製スピンオンカーボン膜ODL-101を200nm及びその上にケイ素含有スピンオンハードマスクSHB-A940(ケイ素の含有量が43質量%)を35nmの膜厚で成膜したトライレイヤープロセス用の基板上へスピンコーティングし、ホットプレートを用いて100℃で60秒間ベークし、膜厚100nmのレジスト膜を形成した。
これをArF液浸エキシマレーザースキャナー((株)ニコン製、NSR-610C、NA1.30、σ0.98/0.78、4/5輪帯照明)を用いて、ウエハー上寸法がピッチ100nm、スペース幅50nmの6%ハーフトーン位相シフトマスクを用いてパターン露光を行い、露光後60秒間PEBを施した後、現像ノズルから2.38質量%TMAH水溶液を3秒間30rpmで回転させながら吐出させ、その後静止パドル現像を27秒間行った。その結果、露光部分が現像液に溶解し、スペース幅50nm、ピッチ100nmのラインアンドスペースパターン(以下、LSパターン)が得られた。なお、液浸液としては、水を用いた。
【0197】
[感度評価]
得られたLSパターンを(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(CG-5000)で観察し、スペース幅50nm、ピッチ100nmのLSパターンが得られる露光量を最適露光量Eop(mJ/cm2)とした。
【0198】
[MEF評価]
マスクのピッチは固定したまま、マスクのライン幅を変えて、前記感度評価における最適露光量(Eop)で照射してパターン形成した。マスクのライン幅及びパターンのスペース幅の変化から、次式によりMEFの値を求めた。この値が1に近いほど性能が良好である。
MEF=(パターンのスペース幅/マスクのライン幅)-b
(b:定数)
【0199】
[LWR評価]
最適露光量Eopで照射して得られたLSパターンを、(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(CG-5000)でスペース幅の長手方向に10箇所の寸法を測定し、その結果から標準偏差(σ)の3倍値(3σ)をLWRとして求めた。この値が小さいほど、ラフネスが小さく均一なスペース幅のパターンが得られることを意味する。
【0200】
[形状評価]
最適露光量Eopで照射して得られたLSパターン形状を、(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(CG-5000)で観察し、以下の基準により良否を判別した。
良好:パターン形状が矩形であり側壁の垂直性が高い。
不良:パターン側壁の傾斜が大きいテーパー形状、又はトップロスによるトップラウンディング形状。
【0201】
各評価結果を表8に示す。
【0202】
【表8】
【0203】
表8に示した結果より、本発明のレジスト組成物は、アルカリ水溶液現像によるポジティブパターン形成において形状(矩形性)に優れ、MEF、LWRにも優れることがわかった。以上のことから、本発明のレジスト組成物は、アルカリ水溶液現像プロセスに有用であることが示唆された。
【0204】
[7]EB露光パターニング評価-ラインアンドスペース評価
[実施例5-1~5-7、比較例4-1~4-5]
本発明のレジスト組成物(R-7~R-10、R-22~R-24)及び比較例用のレジスト組成物(R-32~R-36)を、日産化学工業(株)製の反射防止膜DUV-42を60nm膜厚で形成したSi基板上にスピンコートし、ホットプレートを用いて105℃で60秒間プリベークして、膜厚50nmのレジスト膜を作製した。これに、エリオニクス社製EB描画装置(ELS-F125、加速電圧125kV)を用いて露光し、ホットプレート上で表9記載の温度で60秒間PEBを行い、2.38質量%TMAH水溶液で30秒間現像を行って、ポジ型レジストパターンを形成した。その結果、露光部分が現像液に溶解しスペース幅45nm、ピッチ90nmのLSパターンが得られた。
【0205】
[感度評価]
得られたLSパターンを(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(S-9380)で観察し、スペース幅45nm、ピッチ90nmのLSパターンが得られる露光量を最適露光量Eop(μC/cm2)とした。
【0206】
[LWR評価]
最適露光量Eopで照射して得られたLSパターンを、(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(S-9380)でスペース幅の長手方向に10箇所の寸法を測定し、その結果から標準偏差(σ)の3倍値(3σ)をLWRとして求めた。この値が小さいほど、ラフネスが小さく均一なスペース幅のパターンが得られることを意味する。
【0207】
[形状評価]
最適露光量Eopで照射して得られたLSパターン形状を、(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(S-9380)で観察し、以下の基準により良否を判別した。
良好:パターン形状が矩形であり側壁の垂直性が高い。
不良:パターン側壁の傾斜が大きいテーパー形状、又はトップロスによるトップラウ
ンディング形状。
【0208】
各評価結果を表9に示す。
【0209】
【表9】
【0210】
表9に示した結果より、本発明のレジスト組成物は、EBリソグラフィーによるアルカリ水溶液現像によるポジティブパターン形成において、感度、形状(矩形性)、LWRに優れることがわかった。実施例5-1~5-7においては、レジスト膜の露光にEBを使用しているが、EUV等の短波長放射線を使用した場合でも、基本的なレジスト特性は類似しており、EB露光評価とEUV露光評価で相関性があることも知られている。したがって、本発明のレジスト組成物は、EUV露光の場合においても感度、形状、LWRに優れていると推察できる。