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  • 特許-嫌気性処理装置の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】嫌気性処理装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20230101AFI20241126BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20241126BHJP
【FI】
C02F3/28 Z
C02F1/44 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023505786
(86)(22)【出願日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2023002244
(87)【国際公開番号】W WO2023176161
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022039397
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤島 繁樹
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-208556(JP,A)
【文献】特開2005-211727(JP,A)
【文献】特開2020-157221(JP,A)
【文献】特開2004-209479(JP,A)
【文献】特開2006-068632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28 - 3/34
C02F 3/12
C02F 3/00
C02F 11/00 - 11/20
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃液よりなる原廃液を担体及びグラニュールを存在させていない嫌気処理槽に導入し、有機物処理及びメタン発酵処理する嫌気性処理装置の運転方法において、
前記嫌気処理槽のSRTが15~90日であり、
該原廃液中の懸濁固形物濃度(mg/L)とCODcr濃度(mg/L)との比SS/CODcrが0.25以下の場合、好気性生物処理工程からの汚泥(以下、好気汚泥という。)を該原廃液又は該嫌気処理槽に添加する方法であって、
好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加する場合、該添加量u 、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcrが0.05~0.25となる添加量とされ
好気汚泥を原廃液にT 時間に1回の頻度にて間欠的に添加する場合、1回の好気汚泥添加時の添加量は、該時間T 、単位時間当りの添加量u との積T ・u で表わされる添加量とされ、該単位時間当りの添加量u は、好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加することにより、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcrが0.05~0.25となる添加量であり、
好気汚泥が嫌気処理槽に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加される場合、該添加量u は、好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加することにより、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcrが0.05~0.25となる添加量であり、
好気汚泥が嫌気処理槽にT 時間に1回の頻度にて間欠的に添加される場合、1回の好気汚泥添加時の添加量は、前記時間T と、単位時間当りの添加量u との積T ・u で表わされる添加量であり、該単位時間当りの添加量u は、好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加することにより、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcrが0.05~0.25となる添加量であることを特徴とする嫌気性処理装置の運転方法。
【請求項2】
有機性廃液よりなる原廃液を担体及びグラニュールを存在させていない嫌気処理槽に導入し、有機物処理及びメタン発酵処理する嫌気性処理装置の運転方法において、
前記嫌気処理槽のSRTが15~90日であり、
該原廃液中の懸濁固形物濃度(mg/L)とTOC濃度(mg/L)との比SS/TOCが0.75以下の場合に、好気性生物処理工程からの汚泥(以下、好気汚泥という。)を該原廃液又は該嫌気処理槽に添加する方法であって、
好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加する場合、該単位時間当りの添加量u 、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のTOC濃度との比SS/TOCが0.15~0.75となる添加量とされ
好気汚泥を原廃液にT 時間に1回の頻度にて間欠的に添加する場合、1回の好気汚泥添加時の添加量は、該時間T 、単位時間当りの添加量u との積T ・u で表わされる添加量とされ、該単位時間当りの添加量u は、好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加することにより、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のTOC濃度との比SS/TOCが0.15~0.75となる添加量であり、
好気汚泥が嫌気処理槽に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加される場合、該添加量u は、好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加することにより、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のTOC濃度との比SS/TOCが0.15~0.75となる添加量であり、
好気汚泥が嫌気処理槽にT 時間に1回の頻度にて間欠的に添加される場合、1回の好気汚泥添加時の添加量は、前記時間T と、単位時間当りの添加量u との積T ・u で表わされる添加量であり、該単位時間当りの添加量u は、好気汚泥を原廃液に単位時間当りの添加量u にて連続的に添加することにより、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のTOC濃度との比SS/TOCが0.15~0.75となる添加量であることを特徴とする嫌気性処理装置の運転方法。
【請求項3】
前記嫌気処理槽内の液を槽外の膜分離手段で透過水と濃縮水とに分離し、該濃縮水を該嫌気処理槽に返送する請求項1又は2の嫌気性処理装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活排水、下水、食品工場排水、パルプ工場排水などの有機性廃液を処理する嫌気性処理装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気性処理(嫌気性生物処理)は、好気性処理(好気性生物処理)に比べ、汚泥発生量の削減、曝気動力の削減、メタンとしてのエネルギー回収が可能といった利点がある。嫌気性処理は、複数の細菌群が関与する処理であるため、中間物質生産細菌群と、生産された中間物質の消費細菌群が集積していることが望ましい。
【0003】
嫌気性処理において、複数の細菌群同士が接する場がないと、接した状態を作るために、細菌群は高分子有機物を生成し、フロックやグラニュールと呼ばれる細菌塊になり処理を安定化させる。これを活用したのがUASB(特開平5-253594)である。
【0004】
UASBは、数千mg-CODcr/L(数百から数千mg-TOC/L)の排水処理に対応した方法である。UASBは、数万mg-CODcr/L(数千から数万mg-TOC/L)オーダーの有機廃液の嫌気性処理(嫌気消化)では、グラニュール化の条件を満たせず、汚泥は分散化し、固液分離が困難になる。
【0005】
高濃度の有機性廃液を嫌気性処理する方法として、一過式で処理し処理汚泥(消化汚泥)を脱水するか、膜分離する方法がある(特開昭58-45796)。しかし、この方法では、分散状態の細菌群から溶出する多量の高分子有機物のために、汚泥の脱水が困難であり、凝集剤が多量に必要になったり、膜が閉塞しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-253594号公報
【文献】特開昭58-45796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高濃度の有機性廃水であっても、安定して処理することができる嫌気性処理装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の嫌気性処理装置の運転方法の要旨は、次の通りである。以下の説明において、SSは懸濁固形物を表わす。
【0009】
[1] 有機性廃液よりなる原廃液を担体及びグラニュールを存在させていない嫌気処理槽に導入し、有機物処理及びメタン発酵処理する嫌気性処理装置の運転方法において、
該原廃液中の懸濁固形物濃度(mg/L)とCODcr濃度(mg/L)との比SS/CODcrが0.4以下の場合、好気性生物処理工程からの汚泥(以下、好気汚泥という。)を該原廃液又は該嫌気処理槽に連続的に又は間欠的に添加する方法であって、
好気汚泥を原廃液に連続的に添加する場合(以下、ケース1ということがある。)、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcrが0.05以上となる添加量にて好気汚泥が原廃液に添加され、
好気汚泥を原廃液に間欠的に添加する場合(以下、ケース2ということがある。)、1回の好気汚泥添加時の添加量は、次回の好気汚泥添加までの時間Tと、前記ケース1における単位時間当りの添加量uとの積T・uで表わされる添加量にて好気汚泥が原廃液に添加され、
好気汚泥が嫌気処理槽に連続的に添加される場合(以下、ケース3ということがある。)、ケース1における好気汚泥の単位時間当りの添加量uと同添加量にて好気汚泥が嫌気処理槽に添加され、
好気汚泥が嫌気処理槽に間欠的に添加される場合(以下、ケース4ということがある。)、ケース2における1回当りの添加量と同添加量にて好気汚泥が嫌気処理槽に添加される
ことを特徴とする嫌気性処理装置の運転方法。
【0010】
[2] 有機性廃液よりなる原廃液を担体及びグラニュールを存在させていない嫌気処理槽に導入し、有機物処理及びメタン発酵処理する嫌気性処理装置の運転方法において、
該原廃液中の懸濁固形物濃度(mg/L)とTOC濃度(mg/L)との比SS/TOCが1.2以下の場合に、好気性生物処理工程からの汚泥(以下、好気汚泥という。)を該原廃液又は該嫌気処理槽に連続的に又は間欠的に添加する方法であって、
好気汚泥を原廃液に連続的に添加する場合(以下、ケース5ということがある。)、好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液中の該好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のTOC濃度との比SS/TOCが0.15以上となる添加量にて好気汚泥が原廃液に添加され、
好気汚泥を原廃液に間欠的に添加する場合(以下、ケース6ということがある。)、1回の好気汚泥添加時の添加量は、次回の好気汚泥添加までの時間Tと、前記ケース1における単位時間当りの添加量uとの積T・uで表わされる添加量にて好気汚泥が原廃液に添加され、
好気汚泥が嫌気処理槽に連続的に添加される場合(以下、ケース7ということがある。)、ケース5における好気汚泥の単位時間当りの添加量uと同添加量にて好気汚泥が嫌気処理槽に添加され、
好気汚泥が嫌気処理槽に間欠的に添加される場合(以下、ケース8ということがある。)、ケース6における1回当りの添加量と同添加量にて好気汚泥が嫌気処理槽に添加される
ことを特徴とする嫌気性処理装置の運転方法。
【0011】
[3] 前記嫌気処理槽内の有機酸及びアルコール以外の溶解性CODcr濃度(mg/L)が該嫌気処理槽内の懸濁固形物濃度(mg/L)の50%以下であるか、または、有機酸及びアルコール以外の溶解性TOC濃度(mg/L)が該嫌気処理槽内の懸濁固形物濃度(mg/L)の17%以下であることを特徴とする[1]又は[2]の嫌気性処理装置の運転方法。
【0012】
[4] 前記汚泥添加後に該嫌気処理槽に流入する有機性廃液中の有機物濃度を10000~10000mg-CODcr/L(3300~33000mg-TOC/L)とし、容積負荷を3~10kg-CODcr/m/d(1~3.3kg-TOC/m/d)とする[1]又は[2]の嫌気性処理装置の運転方法。
【0013】
[5] 前記嫌気処理槽に導入される有機性廃液のCODcr成分またはTOC成分の50%以上がメタン生成細菌により直接利用できない溶解性有機物である[1]又は[2]のいずれかの嫌気性処理装置の運転方法。
【0014】
[6] 前記嫌気処理槽内の液を槽外の膜分離手段で透過水と濃縮水とに分離し、該濃縮水を該嫌気処理槽に返送する[1]又は[2]の嫌気性処理装置の運転方法。
【0015】
[7] 前記嫌気処理槽のSRTが15~150日である[1]又は[2]の嫌気性処理装置の運転方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、嫌気性細菌群の足場として、好気性生物処理汚泥(有機性排水を好気性生物処理することにより生成した余剰汚泥)を嫌気処理槽に添加する。これにより、高分子有機物を生成する嫌気性細菌群が好気性生物処理汚泥に付着し、自らが凝集する必要がなくなり、高分子有機物を溶出しなくなる。
【0017】
この結果、消化汚泥の固液分離性が向上し、高濃度有機性廃液であっても、安定して処理することが可能となる。
【0018】
従来法では、固液分離の観点から、高濃度有機性廃液を嫌気性消化するときの容積負荷は3kg-CODcr/m/d(1kg-TOC/m/d)よりも低かったが、本発明によれば、3kg-CODcr/m/d(1kg-TOC/m/d)以上の処理が可能となる。また、生成した高分子有機物による発泡や、配管やポンプの閉塞等の運転障害も解消される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態に係る嫌気性処理装置の運転方法が適用される嫌気処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明方法が適用される嫌気処理装置を示している。有機性廃液よりなる原廃液が、担体及びグラニュールが充填されていない嫌気処理槽1内に、配管10により供給される。嫌気処理槽1には撹拌羽根2が設けられており、槽内が撹拌される。槽内液の一部は、配管3及びポンプ4によって槽外の膜分離器5の原液室5aに送液される。
【0021】
膜分離器5内には、分離膜5cによって原液室5aと透過水室5bとが形成されている。膜5cとしてはUF膜が好適に用いられる。膜5cを透過した透過水は、透過水室5bから処理水として配管7から取り出される。膜5cを透過しなかった濃縮水は、配管6を通って嫌気処理槽1に返送される。
【0022】
配管10には好気性生物処理汚泥(好気汚泥)が配管11から添加可能とされている。
【0023】
この実施の形態では、原廃液又は好気汚泥が添加された好気汚泥添加廃液が、担体及びグラニュール等が充填されていない嫌気処理槽1に導入され、有機物処理及びメタン発酵が行われる。
【0024】
本発明の第1態様(ケース1)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とCODcr濃度(mg/L)との比SS/CODcrが0.4以下、特に0.25以下の場合、原廃液に対し好気汚泥を連続的に添加する。この場合、好気汚泥を添加した好気汚泥添加廃液中の好気汚泥由来のSS濃度(すなわち、好気汚泥によって導入されたSSの濃度)と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcrが0.05以上、望ましくは0.1以上(好ましくは0.1以上0.25以下)となるように好気汚泥を連続的に原廃液に添加する。
【0025】
なお、第1態様における好気汚泥の単位時間当りの添加量を、以下、uと表わすことがある。
【0026】
本発明の第2態様(ケース2)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とCODcr濃度(mg/L)との比SS/CODcrが0.4以下、特に0.25以下の場合、原廃液に対し、好気汚泥を原廃液に間欠的に添加する。添加頻度は0.5~72時間、特に1~48時間に1回程度が好ましい。
【0027】
1回の好気汚泥添加時の好気汚泥の添加量は、次回の好気汚泥添加時までの時間Tと、第1態様(好気汚泥連続添加)における好気汚泥の単位時間当りの添加量uとの積T・uとされる。即ち、第1態様におけるT時間の好気汚泥の合計添加量と、第2態様における1回の好気汚泥添加量とは等しい。
【0028】
例えば、好気汚泥の添加頻度が24時間に1回の場合、第2態様の1回の添加時の添加量は、24・uとされ、48時間に1回の添加頻度の場合、1回の添加量は48・uとされる。
【0029】
本発明の第3態様(ケース3)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とCODcr濃度(mg/L)との比SS/CODcrが0.4以下、特に0.25以下の場合、嫌気処理槽に対し好気汚泥を連続的に添加する。この場合、ケース1における好気汚泥の単位時間当りの添加量uと同添加量にて好気汚泥を連続的に嫌気処理槽に添加する。
【0030】
本発明の第4態様(ケース4)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とCODcr濃度(mg/L)との比SS/CODcrが0.4以下、特に0.25以下の場合、好気汚泥を嫌気処理槽に間欠的に添加する。添加頻度は0.5~72時間、特に1~48時間に1回程度が好ましい。
【0031】
1回の好気汚泥添加時の好気汚泥の添加量は、次回の好気汚泥添加時までの時間Tと、第3態様(好気汚泥連続添加)における好気汚泥の単位時間当りの添加量uとの積T・uとされる。即ち、第3態様におけるT時間の好気汚泥の合計添加量と、第4態様における1回の好気汚泥添加量とは等しい。
【0032】
例えば、好気汚泥の添加頻度が24時間に1回の場合、第4態様の1回の添加時の添加量は、24・uとされ、48時間に1回の添加頻度の場合、1回の添加量は48・uとされる。
【0033】
本発明の第5態様(ケース5)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とTOC濃度(mg/L)との比SS/TOCが1.2以下の場合、特に0.75以下の場合に、好気汚泥を原廃液に、好気汚泥添加廃液中の好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のTOC濃度との比SS/TOCが0.15以上、望ましくは0.3以上(好ましくは0.3以上0.75以下)となるように連続的に添加する。
【0034】
本発明の第6態様(ケース6)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とTOC濃度(mg/L)との比SS/TOCが1.2以下の場合、特に0.75以下の場合に、嫌気処理槽に対し、好気汚泥を間欠的に添加する。添加頻度は0.5~72時間、特に1~48時間に1回程度が好ましい。
【0035】
1回の好気汚泥添加時の好気汚泥の添加量は、次回の好気汚泥添加時までの時間Tと、第5態様(好気汚泥連続添加)における好気汚泥の単位時間当りの添加量uとの積T・uとされる。即ち、第5態様におけるT時間の好気汚泥の合計添加量と、第6態様における1回の好気汚泥添加量とは等しい。
【0036】
本発明の第7態様(ケース7)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とTOC濃度(mg/L)との比SS/TOCが1.2以下の場合、特に0.75以下の場合に、好気汚泥を嫌気処理槽に連続的に添加する。この場合、ケース5における好気汚泥の単位時間当りの添加量uと同添加量にて好気汚泥を連続的に嫌気処理槽に添加する。
【0037】
本発明の第8態様(ケース8)では、原廃液中の懸濁固形物(SS)濃度(mg/L)とTOC濃度(mg/L)との比SS/TOCが1.2以下の場合、特に0.75以下の場合に、嫌気処理槽に対し、好気汚泥を間欠的に添加する。添加頻度は0.5~72時間、特に1~48時間に1回程度が好ましい。
【0038】
1回の好気汚泥添加時の好気汚泥の添加量は、次回の好気汚泥添加時までの時間Tと、第7態様(好気汚泥連続添加)における好気汚泥の単位時間当りの添加量uとの積T・uとされる。即ち、第7態様におけるT時間の好気汚泥の合計添加量と、第8態様における1回の好気汚泥添加量とは等しい。
【0039】
上記第1、第2及び第5、第6態様では、好気汚泥を配管10で原廃液に添加しているが、好気汚泥は配管10よりも上流側の槽などで原廃液に添加されてもよい。
【0040】
第1~第8態様のいずれにおいても、好気汚泥の添加により、嫌気処理槽1内に嫌気性細菌群が集積する場が提供され、過剰な高分子有機物の生成が防止される。
【0041】
好気汚泥(好気性生物処理汚泥)としては、汚泥が生息しやすい有機汚泥が好ましく、特に糸状性細菌が優占した好気性生物処理汚泥が望ましい。好気汚泥は、生物分解しにくく、メタン発酵処理の負荷にならない点でも好適である。
【0042】
好気汚泥としては、他工場、他工程の好気性生物処理汚泥を用いても良いし、嫌気消化後の処理水(膜分離液や脱水ろ液)を処理する好気性生物処理汚泥を用いても良い。好気汚泥としては例えば活性汚泥処理の沈降汚泥やMBR処理の濃縮汚泥や、流動床式好気処理の凝集汚泥が例示される。
【0043】
添加する好気汚泥の状態は、液状でも脱水汚泥でも良い。脱水汚泥の場合は添加前に何らかの液体(工業用水、処理対象とする原廃液等)と破砕混合するのが好ましい。
【0044】
添加する好気汚泥はSRT10日以上の汚泥で、初沈汚泥等の分解性の高い汚泥を含まないものが好ましい。また、嫌気処理槽1内での無機物の蓄積回避のため、添加する好気性生物処理汚泥としては、VSS/SS比が70%以上、望ましくは70~95%の余剰汚泥が望ましい。
【0045】
好気汚泥が添加された嫌気処理槽流入液中の有機物濃度は、10000~100000mg-CODcr/L(3300~33000mg-TOC/L)、望ましくは15000~75000mg/L(5000~25000mg-TOC/L)、さらに望ましくは15000~50000mg/L(5000~16500mg-TOC/L)である。嫌気処理槽1の容積負荷は、一過式では3~6kg-CODcr/m/d(1~2kg-TOC/m/d)、MBR方式では5~10kg-CODcr/m/d(1.7~3.4kg-TOC/m/d)である場合、効果が大きい。
【0046】
また、処理対象とする有機性廃液中のCODcr成分(CODcrとして測定される有機物)やTOC成分(TOCとして測定される有機物)の50%以上がメタン生成細菌により直接利用できない溶解性有機物(溶解性炭水化物、溶解性タンパク質、脂質等)である場合、有機物と、酸生成細菌及びメタン生成細菌とが共生関係を維持する場所が必要となる。そのため、この場合も、本発明を適用した場合の効果が大きい。なお、本発明では、溶解性CODcrとは、孔径0.45μmのフィルターを通過する成分である。
【0047】
嫌気処理槽内の液を、固液分離手段によって固液分離することにより、処理水が取り出される。固液分離手段に膜分離器(特にUF膜分離器)を使う場合は、嫌気処理槽内に、膜を透過しない溶解性有機物が堆積し、膜が閉塞し易くなる。そのため、嫌気処理槽のSRTが15~150日、望ましくは15~90日さらに望ましくは15~70日となるように汚泥を引き抜くことが好ましい。
【0048】
上記の運転により、嫌気処理槽内の有機酸及びアルコール以外の溶解性CODcr濃度が嫌気処理槽内のSS濃度の50%以下、望ましくは35%以下、さらに望ましくは17%以下を維持することにより(溶解性TOC濃度の場合、槽内SS濃度の17%以下、望ましくは12%以下、さらに望ましくは6%以下を維持することにより)、良好な固液分離性が維持された嫌気性処理を達成することができる。
【0049】
原水及び嫌気処理槽内のSS、CODcr、溶解性CODcr、TOC測定は、週1回以上の頻度で手分析にて行うようにし、分析方法自体は公定法で行うのが好ましい。
【0050】
嫌気処理槽内のSS濃度の測定を行うには、2~5倍に希釈した汚泥(希釈倍率は、汚泥の分離性に応じて決定する。)を、12000rpm、10分間遠心分離し、上澄みを除去、純水を補充する層さを2回繰り返す。そして、三回目の上澄み除去後に残留した固形物を105℃で乾燥して残留物(SS)を測定してSSを求める。また、105℃に乾燥させたものを、600℃で加熱した後の強熱減量を求めてVSSを求める。ただし、近赤外パレス透過光式のMLSS計を用いた自動分析としてもよい。この場合は定期的に手分析との相関を取る。嫌気処理槽内の無機物の蓄積を防ぐため、MLVSS/MLSS比は75%以上、望ましくは80%以上、更に望ましくは90%以上となるように前述のSRTの範囲で汚泥を引き抜く。
【0051】
溶解性CODcrについては孔径0.45μmのフィルターで濾過した液中のCODcrを測定する。溶解性TOCも同様にして測定する。
【0052】
好気汚泥(好気性生物処理汚泥)の添加を停止して通常運転に戻すには、週1回以上の頻度の分析で溶解性CODcr/槽内SSや溶解性TOC/槽内SSの経過を見て、投入を続けるか、投入停止して通常運転に戻すか判断するのが好ましい。
【0053】
本発明の方法は、嫌気MBRや湿式メタン発酵のような酸生成-メタン発酵一体型の処理の場合に高い効果を得ることができる。
【実施例
【0054】
以下の実験条件で実施例及び比較例を行った。
【0055】
<実験条件>
・フロー:図1(嫌気処理槽容積800m。膜分離器の膜はUF膜)
・原廃液:食品製造廃液(CODcr=30000mg/L、TOC=10000mg/L、SS=2000mg/L)
・原廃液のSS/CODcr=2000/30000=0.067
・原廃液供給量:160m/d
・嫌気処理槽1のCODcr容積負荷:6kg/m/d(2kg-TOC/m/d)
・嫌気処理槽1内のSS濃度:25000mg-SS/L
・嫌気処理槽1のSRT=80d
【0056】
≪嫌気処理槽1に添加する好気汚泥≫
別系統の活性汚泥工程から採取した好気汚泥。
SS濃度10000mg/L
【0057】
[比較例1]
運転開始10か月後、嫌気処理槽1内の溶解性CODcr濃度が10000mg/Lを超え、発泡が酷くなり、膜分離器に所定の透過流束で通水できなくなったため、CODcr容積負荷を40%以上減少させることが必要な状況となった。
【0058】
[実施例1]
比較例1の状況となった後、好気汚泥を原廃液に対し2m/hrの添加量にて連続的に添加した。これにより、嫌気処理槽1に供給される好気汚泥添加廃液中の好気汚泥由来のSS濃度を3000mg/Lとし、好気汚泥由来のSS濃度と原廃液のCODcr濃度との比SS/CODcr=3000/30000=0.1とした。この状態で3カ月間運転した。
【0059】
この結果、嫌気処理槽1内の溶解性CODcr濃度が7000mg/Lまで減少し、発泡、膜閉塞も解消した。これにより、CODcr容積負荷を6kg/m/d以上に増大させて、安定した処理が可能になった。
【0060】
[実施例2]
実施例1において、好気汚泥添加量を1m/hrとし、好気汚泥添加廃液中の好気汚泥由来SSと原廃液CODcrとの比SS/CODcrを0.05とした。これ以外は実施例1と同一条件として、3カ月間運転した。
【0061】
この結果、嫌気処理槽1内の溶解性CODcr濃度が6900mg/Lまで減少し、発泡、膜閉塞も解消した。これにより、CODcr容積負荷を6kg/m/d以上に増大させて、安定した処理が可能になった。
【0062】
[実施例3]
実施例1において、好気汚泥添加量を4m/hrとし、SRT=70d、好気汚泥添加廃液中の好気汚泥由来SSと原廃液CODcrとの比SS/CODcrを0.2とした。これ以外は実施例1と同一条件として、3カ月間運転した。
【0063】
この結果、嫌気処理槽1内の溶解性CODcr濃度が6300mg/Lまで減少し、発泡、膜閉塞も解消した。これにより、CODcr容積負荷を6kg/m/d以上に増大させて、安定した処理が可能になった。
【0064】
[実施例4]
実施例1において、好気汚泥を48時間に1回(5時間かけて)の間欠添加にて添加した。1回の添加量は96mであり、これは実施例1における48時間の好気汚泥添加量と同量である。
【0065】
この状態で、2カ月間運転したところ、槽内の溶解性CODcr濃度が8000mg/L以下まで減少し、発泡、膜閉塞も解消した。CODcr容積負荷も6kg/m/d以上で運転することとなり、安定した処理が可能になった。
【0066】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2022年3月14日付で出願された日本特許出願2022-039397に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0067】
1 嫌気処理槽
2 撹拌羽根
5 膜分離器
5c 分離膜

図1