(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】情報処理システム、レイトレース方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/18 20090101AFI20241126BHJP
H04W 24/06 20090101ALI20241126BHJP
【FI】
H04W16/18 110
H04W24/06
(21)【出願番号】P 2023512525
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014536
(87)【国際公開番号】W WO2022215135
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】猪又 稔
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】久野 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 元晴
【審査官】伊東 和重
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-270875(JP,A)
【文献】特開2010-074729(JP,A)
【文献】山脇 敦 他2名,電子情報通信学会2003年総合大会講演論文集,日本,社団法人電子情報通信学会,2003年03月22日,通信1,p.30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース部と、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース部と、
前記第2のレイトレース部が求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出部と、
を有
し、
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める、情報処理システム。
【請求項2】
前記第1のレイトレース部は、建物内にある構造物、及び前記建物の内側を表す環境データを用いて、前記建物内で電波を送信する前記送信点から前記建物内で前記電波を受信する前記受信点までの2次元のレイトレースを求め、
前記第2のレイトレース部は、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報と、前記環境データとを用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める、
請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記第1のレイトレース部は、所定の透過回数、反射回数、及び回折回数の範囲内で、前記2次元のレイトレースを求める、請求項1又は2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記第1のレイトレース部は、構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路を、前記送信点又は前記受信点から見通しがある構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路に限定して、前記2次元のレイトレースを求める、請求項1又は2に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、反射又は回折レイを求めるときに、レイローンチングの出射角を制約して、前記反射又は回折レイを求める、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記第2のレイトレース部は、前記送信点と前記受信点との間に複数の構造物がある場合、Bullington モデルを用いて、前記回折レイを求める、請求項
1に記載の情報処理システム。
【請求項7】
前記第2のレイトレース部は、
前記送信点から前記受信点までの水平面における2次元のレイトレースにおいて、前記送信点から前記受信点への見通しがない場合、前記送信点から前記受信点までの垂直面における2次元のレイトレースを求め、
前記垂直面における2次元のレイトレースにおいて、前記送信点から前記受信点への見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがないと判定する、
請求項
1又は
6に記載の情報処理システム。
【請求項8】
情報処理システムが、
電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行
し、
前記第2のレイトレース処理は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める、レイトレース方法。
【請求項9】
情報処理システムに、
電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行させ
、
前記第2のレイトレース処理は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、レイトレース方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムのエリア評価等に用いられる電波伝搬シミュレーションを行う方法として、レイトレース(又はレイトレーシング)がある。レイトレースでは、送信点から送信した電波(レイ)が、途中にある構造物で反射、又は回折して受信点に到達する様子を各レイの軌跡として追跡(トレース)し、受信点に到達した全てのレイの電力を加算することにより、受信点における電波の強度を推定する。
【0003】
また、レイトレースを用いて、無線基地局と端末局との間の電波伝搬特性のシミュレーションを行い、シミュレーション結果に基づいて、電磁干渉を低減する屋内無線通信システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、例えば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う場合、レイが受信点に到達するまでに数多くの構造物で反射、又は回折を繰り返すため、計算量が増大するという問題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う際の計算量の増大を抑制する情報処理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の実施形態に係る情報処理システムは、電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース部と、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース部と、前記第2のレイトレース部が求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出部と、を有し、前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う際の計算量の増大を抑制する情報処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る情報処理システムの構成例を示す図である。
【
図2】実施例1に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。
【
図3】実施例1に係る3次元のレイトレースについて説明するための図である。
【
図4】実施例2に係る回折レイの算出処理の例を示すフローチャートである。
【
図5A】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(1)である。
【
図5B】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(2)である。
【
図5C】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(3)である。
【
図5D】実施例2に係る見通し判定の例について説明するための図(4)である。
【
図6A】実施例2に係る見通しがない場合の処理について説明するための図(1)である。
【
図6B】実施例2に係る見通しがない場合の処理について説明するための図(2)である。
【
図7】実施例2に係る複数の構造物がある場合の処理について説明するための図である。
【
図8】実施例3に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。
【
図9】コンピュータのハードウェア構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施形態)を説明する。以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施形態は、以下の実施形態に限られるわけではない。
【0011】
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る情報処理システムの構成例を示す図である。情報処理システム1は、例えば、情報処理システム1が備えるコンピュータが所定のプログラムを実行することにより、レイトレース部10、記憶部20、及びインタフェース部30等を実現している。なお、上記の各機能構成は、物理マシン(コンピュータ)に限られず、例えば、クラウド上の仮想マシンが実行するプログラムにより実現されるものであっても良い。また、上記の各機能構成は、別々の物理マシン、又は仮想マシンに分散して配置されていても良い。
【0012】
記憶部20は、レイトレース部10が実行するレイトレースに必要な環境データ21を予め記憶している。環境データ21は、例えば、建物内にある構造物(机、ロッカー、電子機器等)を表す構造物データ22、及び当該建物の内側(例えば、壁、床、天井等)を表す建物データ23等を含む。構造物データ22には、例えば、構造物の各面の幅、高さ、形状、及び位置等を示すデータ、及び各面の反射率、透過率等の情報等が含まれる。また、建物データ23には、例えば、建物の壁、床、天井等の各面の幅、高さ、形状、及び位置等を示すデータ、及び各面の反射率、透過率等の情報等が含まれる。なお、構造物データ22と建物データ23は、例えば、1つの環境データ21に統合されていても良い。
【0013】
環境データ21は、例えば、オペレータ等が、3次元CAD(Computer Aided Design)等にデータを入力したものであっても良いし、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術で作成した3次元の環境地図データ等を、CADデータに変換したもの等であっても良い。また、記憶部20は、情報処理システム1の外部のストレージサーバ、又はクラウドサービス等によって実現されるものであっても良い。
【0014】
インタフェース部30は、他のシステムから、情報処理システム1が提供するレイトレースの機能を利用するためのAPI(Application Programming Interface)、又はユーザが、当該レイトレースの機能を利用するためのUI(User Interface)等を提供する。例えば、ユーザ(又は他のシステム)は、インタフェース部30を利用して、レイトレース部10によるレイトレースに必要なパラメータ(例えば、送信点の位置、受信点の位置、周波数、送信出力等)を、情報処理システム1に設定することができる。また、ユーザ(又は他のシステム)は、インタフェース部30を利用して、レイトレース部10によるレイトレース処理の結果等を取得することができる。
【0015】
(レイトレース部)
レイトレース部10は、記憶部20等に予め記憶した環境データ21を用いて、レイトレースを実行する。レイトレースでは、送信点から送信した電波(レイ)が、途中にある構造物で反射、回折、又は透過して受信点に到達する様子を各レイの軌跡として追跡(トレース)し、受信点に到達した全てのレイの電力を加算して、受信点における電波の強度を推定する。
【0016】
ただし、従来の技術では、例えば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う場合、レイが受信点に到達するまでに数多くの構造物で反射、回折、又は透過を繰り返すため、計算量が増大し、処理速度が遅くなってしまうという問題がある。
【0017】
そこで、本実施形態に係るレイトレース部10は、上記の問題点を解決するために、例えば、環境データ取得部11、単位ベクトル算出部12、第1のレイトレース部13、第2のレイトレース部14、及び電波強度算出部15等を有している。
【0018】
環境データ取得部11は、例えば、記憶部20等から、レイトレースを行う対象エリアの構造物データ22、及び建物データ23等の環境データ21を取得する。
【0019】
単位ベクトル算出部12は、環境データ取得部11が取得した環境データ21から、天井面を除く各平面の単位ベクトル、及びエッジの単位ベクトルを算出する。なお、単位ベクトル算出部12の機能は、例えば、第1のレイトレース部13等に含まれていても良い。
【0020】
第1のレイトレース部13は、建物内にある構造物、及び当該建物の内側を表す環境データ21に基づいて、当該建物内で電波を送信する送信点から電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める。例えば、第1のレイトレース部13は、送信点から水平方向に2次元レイを出射して、受信点までの2次元レイをトレースする。
【0021】
第2のレイトレース部14は、送信点、及び受信点の高さ情報と、環境データ21(例えば、構造物の高さ情報等)とに基づいて、第1のレイトレース部13が求めた2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める。例えば、第2のレイトレース部14は、送信点、及び受信点の高さ情報(アンテナ高)と、構造物の高さ情報とを用いて、第1のレイトレース部13が求めた2次元のレイトレースを、3次元のレイトレースに変換する。
【0022】
好ましくは、第2のレイトレース部14は、3次元のレイトレースを求めるときに、例えば、フェルマーの定理に基づいて、レイローンチングの出射角を制約して、反射レイ、又は回折レイを求める。
【0023】
また、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間に見通しがない場合、送信点と受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて、当該金属平板をスクリーン回折する回折レイを求める。
【0024】
好ましくは、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間に複数の構造物がある場合、例えば、ITU―R勧告(ITU-R Recommendation P.526 "Propagation by diffraction")で勧告されているBullington modelを適用して、複数の構造物を回折する回折レイを求める。
【0025】
電波強度算出部15は、第2のレイトレース部14が求めた1つ以上の3次元のレイトレースを用いて、受信点における電波の強度を算出する。例えば、電波強度算出部15は、第2のレイトレース部14が求めた1つ以上の3次元のレイトレースの反射係数、回折係数、及び透過係数を計算し、各レイの電界強度を加算して、総電界強度を算出する。
【0026】
上記の構成により、本実施形態に係る情報処理システム1は、第1のレイトレース部13が、送信点から受信点までの2次元のレイトレースを求め、第2のレイトレース部14が、2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める。一般的に、受信点における電波の強度をレイトレースで推定する場合、電波の強度に寄与するレイは僅かであり、従来の技術では、大部分のレイが棄却されていた。一方、本実施形態に係る情報処理システム1は、主要なレイを探索することで、精度を劣化させずにレイトレースを高速化することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る情報処理システム1は、2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める際に、レイローンチングの出射角を制約して、反射レイ、又は回折レイを求める。これにより、情報処理システム1は、探索するレイの数を削減し、レイトレースをさらに高速化することができる。
【0028】
さらに、本実施形態に係る情報処理システム1は、送信点と受信点との間に見通しがなく、送信点と受信点との間に複数の構造物がある場合、Bullington modelを適用して複数の構造物を回折する回折レイを求める。Bullington modelは、他の方法より単純で計算速度が速いため、情報処理システム1は、レイトレースをさらに高速化することができる。
【0029】
<処理の流れ>
続いて、本実施形態に係るレイトレース方法の処理の流れについて説明する。
【0030】
[実施例1]
図2は、実施例1に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。なお、ここでは、屋内環境でレイトレースを行う場合の処理の例について説明する。また、レイトレースのアルゴリズムとして、一般的にイメージング法(Imaging method)と、レイローンチ法(Ray-launching method)が知られているが、ここではレイローンチ法による処理の例について説明する。レイローンチ法では、送信点から一定の角度ごとにレイを出射して、それぞれの出射レイに対して、壁面、又は壁面のエッジとの交差判定を行いながら幾何学的に軌跡を追跡することにより、受信点に到達するレイを求める。
【0031】
ステップS201において、環境データ取得部11は、記憶部20等から、レイトレースを行う対象エリアの構造物データ22、及び建物データ23等を含む環境データ21を取得する。
【0032】
ステップS202において、単位ベクトル算出部12は、環境データ取得部11が取得した環境データ21から、レイトレースを行う対象エリアにおける、天井面を除く各平面の単位ベクトル、及びエッジの単位ベクトルを算出する。なお、環境データ21は、建物内にある構造物、及び建物の内側の壁、床等を、複数の平面で表すように、予め作成されているものとする。
【0033】
ステップS203において、第1のレイトレース部13は、建物内にある構造物、及び当該建物の内側を表す環境データ21に基づいて、当該建物内で電波を送信する送信点から電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める。例えば、第1のレイトレース部13は、送信点から水平面に2次元レイを出射して、最大透過回数NT、最大反射回数NR、及び最大回折回数NDの範囲内で、受信点まで到達する2次元レイをトレースする。これにより、例えば、天井、及び床面の反射を考慮しない2次元のレイトレースが得られる。
【0034】
なお、最大透過回数NT、最大反射回数NR、及び最大回折回数NDは、例えば、インタフェース部30等を利用して、レイトレースを開始する前に設定可能であっても良い。また、第1のレイトレース部13は、最大反射回数NR、及び最大回折回数NDの設定値が設定されていない場合、デフォルト値(例えば、NT=1、NR=1、ND=1等)を用いて、2次元のレイトレースを求めても良い。
【0035】
ステップS204において、第2のレイトレース部14は、ステップS203で、第1のレイトレース部13が求めた2次元のレイトレースを、3次元のレイトレースに変換する。
【0036】
図3は、実施例1に係る3次元のレイトレースについて説明するための図である。
図3において、破線の矢印は、第1のレイトレース部13が求めた2次元のレイトレース311の一例を示している。2次元のレイトレース311は、送信点から出射した2次元のレイが、構造物303bのエッジで回折した後に、構造物302aの平面で反射して、受信点に到達する2次元のレイトレースである。
【0037】
第1のレイトレース部13が求める2次元のレイトレースには、これ以外にも、送信点から受信点に直接到達する2次元のレイトレース、及び他の構造物や建物の壁等で反射、回折、又は透過して、受信点に到達する2次元のレイトレース等も含まれる。ここでは、説明用の一例として、反射回数1回、回折回数1回の2次元のレイトレース311を示している。
【0038】
第2のレイトレース部14は、例えば、
図3に示した2次元のレイトレース311に、送信点301の高さh1、受信点302の高さh2、及び構造物303a、303bの高さ等を加えて、2次元のレイトレース311に対応する3次元のレイトレース312を求める。
【0039】
例えば、第2のレイトレース部14は、構造物303a等の平面と交差した3次元のレイを反射方向に再出射させる。このとき、第2のレイトレース部14は、フェルマーの定理に基づいて、次の式(1)を満たす単位方向ベクトルrR^の反射レイを残し、例えば、他の反射レイを除外する。
【0040】
【数1】
なお、単位方向ベクトルr
R^の記号は、
図3に示すように、文字列「r
R」のうえにハット記号(又はサーカムフレックス)を付加したものであるが、明細書の本文では、文字列にハット記号を付加できないため、「r
R^」と表記する。他の「r
in^」、「n^」、及び式(2)の「l^」、「r
D^」等についても同様である。
【0041】
式(1)において、rin^は、レイの入射方向を示す単位方向ベクトルであり、n^は、レイが交差した平面の単位ベクトル(法線ベクトル)を示す。このように、反射レイを出射する方向に制約を設けることにより、情報処理システム1は、3次元レイの計算量を削減することができる。
【0042】
また、第2のレイトレース部14は、構造物303aのエッジと交差した3次元のレイを、回折方向に再出射させる。このとき、第2のレイトレース部14は、フェルマーの定理に基づいて、次の式(2)を満たす単位方向ベクトルrD^の回折レイを残し、例えば、他の回折レイを除外する。
【0043】
【数2】
式(2)において、l^は、レイが交差したエッジの単位ベクトルであり、r
in^は、レイの入射方向を示す単位方向ベクトルを示す。このように、回折レイを出射する方向に制約を設けることにより、情報処理システム1は、3次元レイの計算量を削減することができる。
【0044】
なお、第2のレイトレース部14は、
図4に示した2次元のレイトレース311に、送信点301の高さh1、及び受信点302の高さh2を加えたことに伴い、例えば、床面による反射レイ、回折レイ等も求める。
【0045】
ステップS205において、第2のレイトレース部14は、ステップS203で求めた3次元のレイトレースに、天井面からの反射レイ、回折レイを追加する。例えば、第2のレイトレース部14は、建物データ23等を参照して、建物の天井を表す平面を特定し、送信点301から、天井面で反射、又は回折して受信点302に届くレイを求める。
【0046】
ステップS206において、電波強度算出部15は、第2のレイトレース部14が求めた全ての3次元のレイトレースを用いて、受信点における電波の強度(例えば、電界強度)を算出する。例えば、電波強度算出部15は、環境データ21から、構造物、及び建物内部の各面における電波の反射率、透過率等の情報を取得し、探索された全てのレイの反射係数、回折係数、及び透過係数を計算し、全てのレイの電界強度を加算して、総電界強度を算出する。なお、ステップS211の処理は、従来のレイトレースの手法を適用することができる。
【0047】
以上、実施例1によれば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う際の計算量の増大を抑制する情報処理システムを提供することができる。
【0048】
[実施例2]
実施例2では、
図2のステップS204において、2次元のレイトレースを3次元のレイトレースに変換するときに、第2のレイトレース部14が実行する回折レイの算出処理の例について説明する。
【0049】
図4は、実施例2に係る回折レイの算出処理の例を示すフローチャートである。
【0050】
ステップS401において、第2のレイトレース部14は、対象となるレイが回折レイであるか否かを判断し、回折レイである場合、ステップS402以降の処理を実行する。
【0051】
ステップS402において、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間に見通しがあるか否かを判定する。例えば、第2のレイトレース部14は、送信点から出射した電波(レイ)が、受信点に直接届く場合、送信点と受信点との間に見通しがあると判定する。
【0052】
図5A~5Dは、実施例1に係る見通し判定の例について説明するための図である。第2のレイトレース部14は、
図2のステップS203で求めた水平面における2次元のレイトレースにおいて、例えば、
図5Aに示すように、送信点301と受信点302との間の経路501上に、構造物502があるか否かを判断する。ここで、送信点301と受信点302との間の経路501上に、構造物502がない場合、第2のレイトレース部14は、送信点301と受信点302との間に見通しがあると判定する。
【0053】
一方、送信点301と受信点302との間の経路501上に、構造物502がある場合、第2のレイトレース部14は、例えば、
図5B、
図5Cに示すように、送信点301と受信点302とを通る垂直面で、見通し判定を行う。例えば、
図5Bに示すように、送信点301と受信点302との間の経路501上に構造物502がある場合、第2のレイトレース部14は、送信点301と受信点302との間に見通しがないと判定する。一方、
図5Cに示すように、送信点301と受信点302との間の経路501上に構造物502がない場合、第2のレイトレース部14は、送信点301と受信点302との間に見通しがあると判定する。なお、この場合、第2のレイトレース部14は、3次元のレイトレースを求めるときに、床面による反射レイに代えて
図5Dに示すように、構造物502の上面による反射レイ503を求める。
【0054】
なお、上記の説明では、第2のレイトレース部14が上記の見通し判定を行なうものとして説明したが、これに限られず、例えば、レイトレース部10は、上記の見通し判定を行う見通し判定部を、さらに有していても良い。
【0055】
ここで、
図4に戻り、フローチャートの説明を続ける。ステップS402において、送信点301と受信点302との間に見通しがある場合、第2のレイトレース部14は、処理をステップS403に移行させる。一方、送信点301と受信点302との間に見通しがない場合、第2のレイトレース部14は、処理をステップS404に移行させる。
【0056】
ステップS403に移行すると、第2のレイトレース部14は、例えば、
図3で説明したように、構造物等のエッジを回折する回折レイを算出する。
【0057】
一方、ステップS404に移行すると、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間にある構造物を金属平板に置き換える。
【0058】
ステップS405において、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間に複数の構造物があるか否かを判断し、複数の構造物がない場合、処理をステップS406に移行させる。一方、送信点と受信点との間に複数の構造物がある場合、第2のレイトレース部14は、処理をステップS407に移行させる。
【0059】
ステップS406に移行すると、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間にある構造物と置き換えた金属平板をスクリーン回折する回折レイを算出する。
【0060】
一方、ステップS407に移行すると、第2のレイトレース部14は、Bullington modelを用いて、送信点と受信点との間にある複数の構造物を解析する回折レイを算出する。
【0061】
図6A、
図6Bは、実施例2に係る見通しがない場合の処理について説明するための図である。
図6Aに示すように、送信点301と受信点302との間に1つの構造物601がある場合、第2のレイトレース部14は、構造物601を
図6Bに示すように金属平板602に置き換える。また、第2のレイトレース部14は、金属平板602の上、及び左右のスクリーン回折波を計算して、回折レイを求める。
【0062】
図7は、実施例2に係る複数の構造物がある場合の処理について説明するための図である。送信点301と受信点302との間に複数の構造物がある場合、第2のレイトレース部14は、
図7に示すように、複数の構造物を、複数の金属平板602a、602b、602cに置き換える。また、第2のレイトレース部14は、Bullington modelを適用して、複数の金属平板602a、602b、602cを回折する回折レイを求める。
【0063】
例えば、第2のレイトレース部14は、送信点301と金属平板602cの上端とを通る送信側見通し限界線701と、受信点302と金属平板602aの上端とを通る受信側見通し限界線702との交点である仮想遮断点703を求める。また、第2のレイトレース部14は、仮想遮断点703における仮想ナイフエッジ(バリントンエッジ)を回折する回折波を計算して、回折レイを求める。この方法により、第2のレイトレース部14は、より少ない計算量で、複数の構造物を回折する回折レイを求めることができる。
【0064】
上記の処理により、第2のレイトレース部14は、送信点と受信点との間に見通しがない場合における回折レイの算出を高速化することができる。
【0065】
[実施例3]
図8は、実施例3に係るレイトレース処理の例を示すフローチャートである。なお、
図8に示す処理のうち、ステップS801以外の処理は、
図2で説明した実施例1に係るレイトレース処理と同様なので、ここでは、実施例1に係るレイトレース処理との相違点を中心に説明する。
【0066】
図2のステップS203では、第1のレイトレース部13は、最大透過回数N
T、最大反射回数N
R、及び最大回折回数N
Dの範囲内で、送信点から受信点まで到達する2次元のレイトレースを求めていた。
【0067】
一方、
図8のステップS801において、第1のレイトレース部13は、建物内にある構造物を介して送信点から受信点に至る経路を、送信点又は受信点から見通しがある構造物を介して送信点から受信点に至る経路に限定して、2次元のレイトレースを求める。
【0068】
例えば、第1のレイトレース部13は、建物内にある構造物のうち、送信点から見通しがある構造物(以下、Tx見通し構造物と呼ぶ)と、受信点から見通しがある構造物(以下、Rx見通し構造物と呼ぶ)を特定する。具体的な一例として、第1のレイトレース部13は、環境データ21に、建物内のLIDARデータ等が含まれる場合、LIDARデータに基づいて、Tx見通し構造物、及びRx見通し構造物を特定しても良い。また、別の一例として、第1のレイトレース部13は、構造物データ22が、3次元CADデータである場合、3次元CADデータを解析して、Tx見通し構造物、及びRx見通し構造物を特定しても良い。
【0069】
また、第1のレイトレース部13は、建物内にある構造物を介して送信点から受信点に至る経路を、例えば、次の3つの経路に限定して、2次元のレイトレースを求める。
1) 送信点からTx見通し構造物を介して受信点に至る経路。
2) 送信点からTx見通し構造物とRx見通し構造物を介して受信点に至る経路。
3) 送信点からRx見通し構造物を介して受信点に至る経路。
【0070】
これにより、第1のレイトレース部13は、受信点における電波の強度の推定に寄与する主要なレイを、より少ない計算量で、より高速に求めることができる。
【0071】
なお、上記の3つの経路は一例であり、様々な変形、又は応用が可能である。例えば、Tx見通し構造物、及びRx見通し構造物には、建物データ23に含まれる建物の壁、又は柱等が含まれていても良い。
【0072】
以上、実施例3によれば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う際の計算量の増大を、さらに抑制する情報処理システムを提供することができる。
【0073】
なお、上記の各実施例では、屋内でレイトレースを行う場合の例について説明したが、本実施形態に係るレイトレース方法は、例えば、床を大地に置き換えて、構造物が多く存在する屋外でレイトレースを行う際にも適用することができる。
【0074】
<ハードウェア構成例>
本実施形態に係る情報処理システム1は、例えば、コンピュータに、本実施形態で説明する処理内容を記述したプログラムを実行させることにより実現することができる。
【0075】
上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(可搬メモリ等)に記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メール等、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0076】
図9は、上記コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図9のコンピュータ900は、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、出力装置1008等を有する。
【0077】
コンピュータ900での処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしても良い。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0078】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、本実施形態で説明した各部に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。なお、情報処理システム1において、表示装置1006、入力装置1007のいずれか又は両方を備えないこととしても良い。
【0079】
<実施形態の効果>
本実施形態に係る技術によれば、屋内等の構造物が多く存在する環境でレイトレースを行う際の計算量の増大を抑制する情報処理システムを提供することができる。
【0080】
<実施形態のまとめ>
本明細書には、少なくとも下記各項の情報処理システム、レイトレース方法、及びプログラムが開示されている。
(第1項)
電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース部と、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース部と、
前記第2のレイトレース部が求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出部と、
を有する、情報処理システム。
(第2項)
前記第1のレイトレース部は、建物内にある構造物、及び前記建物の内側を表す環境データを用いて、前記建物内で電波を送信する前記送信点から前記建物内で前記電波を受信する前記受信点までの2次元のレイトレースを求め、
前記第2のレイトレース部は、前記送信点、及び前記受信点の高さ情報と、前記環境データとを用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める、
第1項に記載の情報処理システム。
(第3項)
前記第1のレイトレース部は、所定の透過回数、反射回数、及び回折回数の範囲内で、前記2次元のレイトレースを求める、第1項又は第2項に記載の情報処理システム。
(第4項)
前記第1のレイトレース部は、構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路を、前記送信点又は前記受信点から見通しがある構造物を介して前記送信点から前記受信点に至る経路に限定して、前記2次元のレイトレースを求める、第1項又は第2項に記載の情報処理システム。
(第5項)
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、反射又は回折レイを求めるときに、レイローンチングの出射角を制約して、前記反射又は回折レイを求める、第1項乃至第4項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第6項)
前記第2のレイトレース部は、前記3次元のレイトレースにおいて、回折レイを求めるときに、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間にある構造物を金属平板に置き換えて前記回折レイを求める、第1項乃至第5項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第7項)
前記第2のレイトレース部は、前記送信点と前記受信点との間に複数の構造物がある場合、Bullington モデルを用いて、前記回折レイを求める、第6項に記載の情報処理システム。
(第8項)
前記第2のレイトレース部は、
前記送信点から前記受信点までの水平面における2次元のレイトレースにおいて、前記送信点から前記受信点への見通しがない場合、前記送信点から前記受信点までの垂直面における2次元のレイトレースを求め、
前記垂直面における2次元のレイトレースにおいて、前記送信点から前記受信点への見通しがない場合、前記送信点と前記受信点との間の経路に見通しがないと判定する、
第1項乃至第7項のいずれか一項に記載の情報処理システム。
(第9項)
情報処理システムが、
電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行する、レイトレース方法。
(第10項)
情報処理システムに、
電波を送信する送信点から前記電波を受信する受信点までの2次元のレイトレースを求める第1のレイトレース処理と、
前記送信点、及び前記受信点の高さ情報を用いて、前記2次元のレイトレースに対応する3次元のレイトレースを求める第2のレイトレース処理と、
前記第2のレイトレース処理で求めた1つ以上の前記3次元のレイトレースを用いて、前記受信点における前記電波の強度を算出する電波強度算出処理と、
を実行させる、プログラム。
【0081】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 情報処理システム
13 第1のレイトレース部
14 第2のレイトレース部
15 電波強度算出部
21 環境データ
301 送信点
302 受信点
311 2次元のレイトレース
312 3次元のレイトレース
1000 ドライブ装置
1001 記録媒体
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
1008 出力装置