(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】腐食推定装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2023522152
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019333
(87)【国際公開番号】W WO2022244225
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】峯田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】大木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】水沼 守
(72)【発明者】
【氏名】岡 宗一
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203768(JP,A)
【文献】特開2017-129436(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1382245(KR,B1)
【文献】HIRATA Ryo et al.,Influence of Soil Particle Size, Covering Thickness, and pH on Soil Corrosion of Carbon Steel,ISIJ International,日本,2020年07月02日,Vol.60, No.11,pp.2533-2540
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる土地の土壌の粒子径に基づいて前記土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係を推定する第1ステップと、
前記土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量と、前記第1ステップで推定した関係とに基づいて、酸素濃度と前記腐食速度または前記腐食量との関係から、前記土地における地中深さと前記腐食速度または前記腐食量との関係を推定する第2ステップと
を備える腐食推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の腐食推定方法において、
前記第2ステップで推定した関係から、前記土地における目的の地中に埋設されている前記金属から構成された構造体の腐食状態を推定する第3ステップをさらに備えることを特徴とする腐食推定方法。
【請求項3】
対象となる土地の土壌の粒子径に基づいて前記土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係を推定する第1推定機能部と、
前記土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量と、前記第1推定機能部が推定した関係とに基づいて、酸素濃度と前記腐食速度または前記腐食量との関係から、前記土地における地中深さと前記腐食速度または前記腐食量との関係を推定する第2推定機能部と
を備える腐食推定装置。
【請求項4】
請求項3記載の腐食推定装置において、
前記第2推定機能部が推定した関係から、前記土地における目的の地中に埋設されている前記金属から構成された構造体の腐食状態を推定する第3推定機能部をさらに備えることを特徴とする腐食推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土中に埋設されている構造体の腐食を推定する腐食推定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活を支えるインフラ設備は種類も多く、数も膨大である。また、インフラ設備は、市街地だけでなく、山岳地や海岸付近、温泉地や寒冷地、さらに海中や地中に至るまで多様な環境に晒されており、劣化の形態や進行速度も様々である。こうした特徴を持つインフラ設備の保全には、目視等の点検による劣化の現状把握が必要である。
【0003】
インフラ設備として、例えば、鋼管柱、支持アンカ、鋼配管などに代表される金属製の地中設備は、土壌に接するために腐食し、外部環境に応じて異なる速さで劣化が進行する(非特許文献1,非特許文献2,非特許文献3) 。しかしながら、地際付近の劣化状態であれば、目視や直接計測する点検が可能であるが、土壌に隠れた部分の劣化状態は目視点検で確認することができない。このため地中設備は、劣化状態に応じた効率的なメンテナンスを行うことが困難となっている。
【0004】
地中設備の劣化状態を把握する方法として次のことが考えられる。例えば、対象設備を敷設する前にセンサなどを取り付けることで劣化状態をモニタリングする方法が考えられる。また、対象とする深さまでセンサや金属などを埋設し、劣化状態に関わる情報を取得する方法などが考えられる。
【0005】
しかしながら、前者の方法は、対象設備の数が多い場合に特にコスト高を招く要因になるうえ、埋設後のセンサの故障や更新作業が困難である。また後者の方法は、対象の埋設位置が深いときには、掘削等で地中深くに埋設する必要があるため、コストや技術面で困難を伴う場合が多い。このように、従来方法では地中設備の劣化状態を簡便かつ安価に把握実施することが難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】門井 守夫 他、「金属材料の土壌腐食についての研究(第1報)-土壌に関する基礎的実験-」、防蝕技術、第16巻、第6号、238-246頁、1967年。
【文献】宮田 義一、朝倉 祝治、「電気化学的手法を中心とした土壌腐食計測(その2)-複数の情報の組み合わせによる腐食速度の推定と今後の計測に対する提案-」、材料と環境、第46巻、第10号、610-619頁、1997年。
【文献】角田 知巳、秋庭 徹郎、「土壌の腐食性を評価するための視点」、防蝕技術、第36巻、第3号、168-177頁、1987年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、従来、金属製の地中設備の劣化状態を簡便かつ安価に点検することが難しいという課題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、金属製の地中設備の劣化状態を簡便かつ安価に点検できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る腐食推定方法は、対象となる土地の土壌の粒子径に基づいて土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係を推定する第1ステップと、土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量と、第1ステップで推定した関係とに基づいて、酸素濃度と腐食速度または腐食量との関係から、土地における地中深さと腐食速度または腐食量との関係を推定する第2ステップとを備える。
【0010】
また、本発明に係る腐食推定装置は、対象となる土地の土壌の粒子径に基づいて土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係を推定する第1推定機能部と、土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量と、第1推定機能部が推定した関係とに基づいて、酸素濃度と腐食速度または腐食量との関係から、土地における地中深さと腐食速度または腐食量との関係を推定する第2推定機能部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したことにより、本発明によれば、土地における地中深さと腐食速度または腐食量との関係を推定するので、金属製の地中設備の劣化状態を簡便かつ安価に点検できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る腐食推定装置の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る腐食推定方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る腐食推定装置のハードウエア構成を示す構成図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る腐食推定装置100を用いた推定のイメージを示す説明図である。
【
図5】
図5は、土壌の粒子径の分布を示す分布図である。
【
図6】
図6は、地中深さと土中の酸素濃度との関係を示す特性図である。
【
図7】
図7は、酸素濃度と腐食速度もしくは腐食量の関係を示す特性図である。
【
図8】
図8は、地中深さと腐食速度もしくは腐食量の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る腐食推定装置について
図1を参照して説明する。この腐食推定装置は、第1推定機能部101、第2推定機能部102、記憶部104、表示部105を備える。
【0014】
第1推定機能部101は、対象となる土地の土壌の粒子径に基づいて土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係を推定する。第2推定機能部102は、土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量と、第1推定機能部101が推定した関係とに基づいて、酸素濃度と腐食速度または腐食量との関係から、土地における地中深さと腐食速度または腐食量との関係を推定する。
【0015】
例えば、対象となる土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量、および土地の土壌の粒子径は、予め取得して、記憶部104に記憶しておくことができる。また、酸素濃度と腐食速度または腐食量との関係も、記憶部104に記憶しておくことができる。
【0016】
また、実施の形態に係る腐食推定装置は、第2推定機能部102が推定した関係から、土地における目的の地中に埋設されている金属から構成された構造体の腐食状態を推定する第3推定機能部103を備える。推定した腐食状態は、例えば、表示部105に表示される。
【0017】
次に、本発明の実施の形態に係る腐食推定方法について、
図2を参照して説明する。
【0018】
まず、第1ステップS101で、第1推定機能部101が、対象となる土地の土壌の粒子径に基づいて土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係を推定する。
【0019】
次に、第2ステップS102で、第2推定機能部102が、土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量と、第1ステップS101で推定した関係とに基づいて、酸素濃度と腐食速度または腐食量との関係から、土地における地中深さと腐食速度または腐食量との関係を推定する。
【0020】
次に、第3ステップS103で、第2ステップS102で推定した関係から、土地における目的の地中に埋設されている金属から構成された構造体の腐食状態を推定する。
【0021】
なお、上述した実施の形態に係る腐食推定装置は、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)301と主記憶装置302と外部記憶装置303とネットワーク接続装置304となどを備えたコンピュータ機器とし、主記憶装置302に展開されたプログラムによりCPU301が動作する(プログラムを実行する)ことで、上述した各機能(腐食推定方法)が実現されるようにすることもできる。上記プログラムは、上述した実施の形態で示した腐食推定方法をコンピュータが実行するためのプログラムである。ネットワーク接続装置304は、ネットワーク305に接続する。また、各機能は、複数のコンピュータ機器に分散させることもできる。
【0022】
ここで、前述した腐食速度または腐食量は、
図4に示すように、推定の対象となる金属から構成された構造体である設備401もしくはこの設備近くの地表402付近に設置する、センサや金属などから構成した測定部403により得ることができる。例えば、測定部403を用いて、設備401の地際部分の腐食量を実測することで取得することができる。また、腐食速度は、実測した地際の腐食量を設備の経過年数で除して求めることで取得することができる。対象設備近くの地際付近に設置するセンサや金属から腐食速度を取得することもできる。
【0023】
測定部403は、設備401もしくは設備401近くの地表402付近に設置するセンサや金属から構成することができる。例えば、設備401そのものの地際(地表402)付近の腐食量を計測する場合はこれが測定部403となる。また、設備401の地際付近に、測定部403としてセンサや金属等を設置することができる。また、対象地の地表402の付近に設備401から離して測定部403を設置することもできる。ただしこの場合は、設備401の設置環境になるべく近い環境に、測定部403を設置することが好ましく、設備401になるべく近くに測定部403を設置するほうが精度は高まる。
【0024】
測定部403は、腐食速度もしくは腐食量に関係する情報を取得できるものであり、一般的には設備を構成する推定対象の金属と同種の材料で構成されるものを用いることが好ましい。簡単には、同種の金属を地表付近に埋設し、一定期間経過後を重量変化もしくは減肉量を計測することでの腐食量を測定することができる。また、例えば同種の金属を備える交流インピーダンス用の電極をセンサとした測定部403を用いることができる。
【0025】
簡単には、設備401の構成金属と同じ金属を地表付近に埋設し、一定期間経過後に、埋設した金属の腐食量を測定部403で測定することで、腐食量や腐食速度を取得することができる。また、例えば電気化学測定用の電極をセンサとして地表に埋めることで、腐食量や腐食速度を取得することができる。電気化学測定としては、交流インピーダンス法が好ましい。設備の構成金属と同じ金属を電極に使用し、交流に対する応答を測定することで、腐食速度に関する情報を得ることができる。また、腐食による減肉量をノギスなどの計測器で測ることで、腐食速度や腐食量を取得することができる。
【0026】
また、腐食推定装置100は、前述したようにコンピュータ機器とすることができ、例えば、一般的なパーソナルコンピュータやタブレット等の電子デバイスで実現することができる。例えば、測定部403に、測定した情報を送信する送信機能404をもたせ、通信ネットワーク405を介して、腐食推定装置100と通信可能とする構成とすることができる。また、複数の測定部403に対して、一つの腐食推定装置100で対応させることも可能である。表示部105は、パーソナルコンピュータのモニタや無線デバイス等で実現できる。
【0027】
土壌の粒子径は、対象となる土地で採取した土壌について、公知の粒子径測定装置を用いて測定することで取得できる。土壌の粒子径は、
図5のような分布として取得することができる。また、土壌の粒子径は、簡単には平均粒子径を用いることもできる。
【0028】
地中深さと土中の酸素濃度との関係の一例について、
図6に示す。地表付近の大気から土中へ酸素拡散するという考えのもと、土中の酸素濃度が地中深さに対してどのように変化するのかを推定することで上述した関係が得られる。例えば、地表の酸素濃度を大気中の酸素濃度と同じ値とし、また十分に深い位置の酸素濃度がゼロであるとして、深さに対して濃度が直線的に変化するモデルで推定することで、上述した関係を得ることができる。直線の傾きは、土壌粒子径と関係する。例えば、予め土壌粒子径と深さに対する濃度変化の傾きの関係を実験等で求めておくことができる。
【0029】
また、次のような考え方により、地中深さと土中の酸素濃度との関係を定める(取得する)ことができる。土中における酸素は、土中の空隙を拡散する。従って、拡散のし易さは、土中のある平面内における空隙の割合および空隙を通ることによる拡散距離の疑似的な延伸度合いに関係すると考えられる。このことにより、例えば、土壌粒子径から、粒子が最密充填で配置していると仮定して、土中の平面内における空隙の割合や拡散距離の延伸度合いを算出する。算出した度合いから、大気中の拡散を基準にして、地中深さに対する酸素濃度の傾きの関係を算出することができる。このようにして、土壌粒子径と地中深さに対する酸素濃度との関係を予めモデル化しておけば、得られている粒子径から、対象地の地中深さに対する酸素濃度の状態を算出(取得)することができる。
【0030】
次に、酸素濃度と腐食速度もしくは腐食量の関係について、
図7を参照して説明する。
図7は、酸素濃度と腐食速度もしくは腐食量の関係の一例を示している。この関係は、予め実験などにより求めておくことができる。黒土や赤土のような一般的な土壌であれば、土中酸素濃度に対して、10~18%程度に極大をもつ曲線関係にあることが分かっている。土壌の種類や温度などの影響も考慮して、前述の関係を求めておくとより推定精度が高くなる。
【0031】
次に、地中深さと腐食速度もしくは腐食量の関係について、
図8を参照して説明する。
図8は、地中深さと腐食速度もしくは腐食量の関係の一例を示している。
図8の中に示す「d」は、土地の地表付近における対象となる金属(構造体)の腐食速度または腐食量である。このdの値と、地中深さと土中酸素濃度との関係、および酸素濃度と腐食速度もしくは腐食量との関係から、地中深さと腐食速度もしくは腐食量との関係を求めることができる。従って、地表付近の腐食速度もしくは腐食量を取得するだけで、地中深さに対する腐食速度もしくは腐食量が分かるため、地表面から深い部分の腐食状態を推定することが可能となる。
【0032】
以上に説明したように、本発明によれば、土地の地中深さと土中の酸素濃度との関係と、土地の地表付近における対象となる金属の腐食速度または腐食量とに基づいて、酸素濃度と腐食速度または腐食量との関係から、土地における地中深さと腐食速度または腐食量との関係を推定するので、金属製の地中設備の劣化状態を簡便かつ安価に点検できるようになる。
【0033】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0034】
101…第1推定機能部、102…第2推定機能部、103…第3推定機能部、104…記憶部、105…表示部。