(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】温度推定システムおよび温度推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20241126BHJP
G01K 13/20 20210101ALI20241126BHJP
【FI】
A61B5/01 100
G01K13/20 361
(21)【出願番号】P 2023528810
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2021022707
(87)【国際公開番号】W WO2022264271
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 大地
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207124(JP,A)
【文献】特開2020-3291(JP,A)
【文献】特開2018-183564(JP,A)
【文献】特開2021-10721(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0323895(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0092545(US,A1)
【文献】松永 大地 Daichi Matsunaga,電子情報通信学会2019年通信ソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 2019 IEICE COMMUNICATIONS SOCIETY CONFERENCE,2019年09月12日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
G01K 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材と、
被検体と向かい合う前記断熱材の面に設けられ、前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第1の温度センサと、
前記第1の温度センサの直上の前記断熱材の内部の温度を計測するように構成された第2の温度センサと、
前記第1の温度センサから離れた位置の前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第3の温度センサと、
前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の熱抵抗に関連する比例係数を推定するように構成された学習器と、
前記第1、第2の温度センサの計測結果と前記比例係数とに基づいて前記被検体の内部温度を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とする温度推定システム。
【請求項2】
請求項1記載の温度推定システムにおいて、
前記被検体の心拍数を計測するように構成された心拍測定部をさらに備え、
前記学習器は、前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果と前記心拍測定部の計測結果とに基づいて前記比例係数を推定することを特徴とする温度推定システム。
【請求項3】
断熱材と、
被検体と向かい合う前記断熱材の面に設けられ、前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第1の温度センサと、
前記第1の温度センサの直上の前記断熱材の内部の温度を計測するように構成された第2の温度センサと、
前記第1の温度センサから離れた位置の前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第3の温度センサと、
前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の内部温度を推定するように構成された学習器とを備えることを特徴とする温度推定システム。
【請求項4】
請求項3記載の温度推定システムにおいて、
前記被検体の心拍数を計測するように構成された心拍測定部をさらに備え、
前記学習器は、前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果と前記心拍測定部の計測結果とに基づいて前記被検体の内部温度を推定することを特徴とする温度推定システム。
【請求項5】
請求項1または3記載の温度推定システムにおいて、
前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応するために予め用意された前記学習器を複数備え、
前記第1の温度センサの計測結果と前記第2の温度センサの計測結果の少なくとも一方に基づいて、前記複数の学習器の中から、前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応した学習器を前記推定のために選択するように構成された選択部をさらに備えることを特徴とする温度推定システム。
【請求項6】
請求項2または4記載の温度推定システムにおいて、
前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応するために予め用意された前記学習器を複数備え、
前記第1の温度センサの計測結果と前記第2の温度センサの計測結果と前記心拍測定部の計測結果のうち少なくとも1つに基づいて、前記複数の学習器の中から、前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応した学習器を前記推定のために選択するように構成された選択部をさらに備えることを特徴とする温度推定システム。
【請求項7】
被検体と向かい合う断熱材の面に設けられた第1の温度センサによって前記被検体の表面の温度を計測する第1のステップと、
前記第1の温度センサの直上の前記断熱材の内部の温度を第2の温度センサによって計測する第2のステップと、
前記第1の温度センサから離れた位置の前記被検体の表面の温度を第3の温度センサによって計測する第3のステップと、
前記第1、第2、第3のステップの計測結果に基づいて前記被検体の熱抵抗に関連する比例係数を学習済みの学習器によって推定する第4のステップと、
前記第1、第2のステップの計測結果と前記比例係数とに基づいて前記被検体の内部温度を算出する第5のステップとを含むことを特徴とする温度推定方法。
【請求項8】
請求項7記載の温度推定方法において、
前記被検体の心拍数を計測する第6のステップをさらに含み、
前記第4のステップは、前記第1、第2、第3のステップの計測結果と前記第6のステップの計測結果とに基づいて前記比例係数を推定するステップを含むことを特徴とする温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体等の被検体の内部温度を非侵襲に精度良く推定する温度推定システムおよび温度推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の持つ概日リズム、いわゆる体内時計は、睡眠、運動、仕事の質だけでなく、投薬の効果や疾患の発症など我々の体に関する様々なものと密接に関連していることが近年の時間生物学の研究からわかってきた。概日リズムは、ほぼ一定に刻まれているが、生活の中で暴露される光、運動、食生活、また、年齢や性別によっても大きく変化することが知られている。
【0003】
概日リズムを測るための指標としては深部体温が知られている。しかし、一般に深部体温を測る方法は、直腸に温度計を挿入するか、あるいは耳を密閉した状態で鼓膜の温度を測るなどの方法であり、日々の活動中や睡眠中に深部体温を測る方法としては非常にストレスがかかる方法であった。
【0004】
一方、生体の深部体温を非侵襲に測定する技術としては、疑似的に熱の流れを一次元等価回路モデルに置き換えて、生体の深部体温を推定する技術がある(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1、非特許文献1に開示された方法は、
図26に示すように生体100とセンサ101の熱等価回路モデルを用いて、生体100の深部体温T
cbtを推定するものである。生体100の深部体温T
cbtは、生体100の表面に、熱抵抗R
sensorを有するセンサ101を置いたとき、生体100と接するセンサ101の表面側の温度T
skinと、生体100と接する面と反対側のセンサ101の上面の温度T
topとから、式(1)を用いて推定できる。
T
cbt=T
skin+α×H
skin ・・・(1)
【0006】
ここで、Hskinは生体100の皮膚表面の熱流束であり、式(2)で表される。
Hskin=(Tskin-Ttop)/Rskin ・・・(2)
また、αは生体100の熱抵抗Rbodyに関連する比例係数、Rskinはセンサ101の熱抵抗である。
【0007】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1に開示された従来の方法では、生体100からセンサ101を通って外気へ輸送される熱の流れを定常と仮定するため、生体100に風が当たったり、生体100が走ったり、生体100が温かい場所から急に冷たい場所に移動したりした場合には、深部体温Tcbtの推定に過渡的な誤差が生じるという課題があった。
【0008】
また、従来の方法では、生体100の熱抵抗Rbodyを時間に関係なく一定とし、比例係数αも一定と仮定していた。しかし、生体100の皮膚近傍の血流状態は、生体100の姿勢や運動などでも変化する。このため、熱抵抗Rbodyは一定ではなく時々刻々と変化する。
【0009】
人が日常生活の中で室内外を行き来したり、姿勢を横にしたりしたときに、従来の方法で推定した深部体温T
cbtと鼓膜温度計によって計測した真の深部体温(鼓膜温)T
refとを
図27に示す。
【0010】
真の深部体温Trefと、推定した深部体温Tcbtとの差は、人に風が当たったときに、センサ101の上面の温度Ttopと人の皮膚表面の温度Tskinとがそれぞれ定常状態に落ち着く迄の時間に差があることと、人の姿勢によって血流が変化することなどに起因している。また、風が絶えず変化しているような状態では、人が安静にしていて血流変化がないような状態でも、温度が定常状態に落ち着くことが期待できない。
また、従来の方法は、熱の流れが定常と仮定できる状態においても、測定の度に鼓膜温度計などの別のセンサを用いて比例係数αを逐一校正する必要がある。
【0011】
物体内の温度分布は一般に下式の熱伝導方程式で記述することができる。
【0012】
【0013】
式(3)において、Tは温度、kは熱伝導率、cは熱容量、ρは密度、Qは内部での発熱である。Qは運動時等に発生する項である。Δは空間に関する二回微分の演算子で、3次元の直交座標系においては∂2/∂x2+∂2/∂y2+∂2/∂z2である。熱特性に関する値k,ρ,cは、人の肌の水分量、人の活動による毛細血管の拡張収縮、発汗、人の姿勢などで変化する血圧による血管の拡張収縮など、様々な要因で時々刻々と変化する。式(1)におけるαは、k/(ρc)に相当する比例係数であるため、比例係数αも時々刻々と変化することになる。
【0014】
特許文献1、非特許文献1に開示された従来の方法では、1次元熱等価回路モデルを用いているが、先に述べているように熱容量cや密度ρといったパラメータが変化すると、1次元熱等価回路モデルは成り立たなくなる。言い換えれば、熱の流れが十分に安定している対象であれば内部温度を推定できるが、生体のような非定常な動的な対象では内部温度を推定することはできない。そのため、何らかの方法で式(3)を考慮に入れて内部温度(深部体温Tcbt)あるいは比例係数αを求める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【非特許文献】
【0016】
【文献】K.Kitamura et al.,“Development of a new method for the noninvasive measurement of deep body temperature without a heater”,Medical Engineering & Physics,vol.32,No.1,pp.1-6,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、測定の度に比例係数を校正することなく、生体等の被検体の内部温度の推定誤差を低減することができる温度推定システムおよび温度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の温度推定システムは、断熱材と、被検体と向かい合う前記断熱材の面に設けられ、前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第1の温度センサと、前記第1の温度センサの直上の前記断熱材の内部の温度を計測するように構成された第2の温度センサと、前記第1の温度センサから離れた位置の前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第3の温度センサと、前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の熱抵抗に関連する比例係数を推定するように構成された学習器と、前記第1、第2の温度センサの計測結果と前記比例係数とに基づいて前記被検体の内部温度を算出するように構成された温度算出部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の温度推定システムの1構成例は、前記被検体の心拍数を計測するように構成された心拍測定部をさらに備え、前記学習器は、前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果と前記心拍測定部の計測結果とに基づいて前記比例係数を推定することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の温度推定システムは、断熱材と、被検体と向かい合う前記断熱材の面に設けられ、前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第1の温度センサと、前記第1の温度センサの直上の前記断熱材の内部の温度を計測するように構成された第2の温度センサと、前記第1の温度センサから離れた位置の前記被検体の表面の温度を計測するように構成された第3の温度センサと、前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の内部温度を推定するように構成された学習器とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の温度推定システムの1構成例は、前記被検体の心拍数を計測するように構成された心拍測定部をさらに備え、前記学習器は、前記第1、第2、第3の温度センサの計測結果と前記心拍測定部の計測結果とに基づいて前記被検体の内部温度を推定することを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の温度推定システムの1構成例は、前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応するために予め用意された前記学習器を複数備え、前記第1の温度センサの計測結果と前記第2の温度センサの計測結果の少なくとも一方に基づいて、前記複数の学習器の中から、前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応した学習器を前記推定のために選択するように構成された選択部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の温度推定システムの1構成例は、前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応するために予め用意された前記学習器を複数備え、前記第1の温度センサの計測結果と前記第2の温度センサの計測結果と前記心拍測定部の計測結果のうち少なくとも1つに基づいて、前記複数の学習器の中から、前記被検体の状態または前記被検体の周囲の環境に対応した学習器を前記推定のために選択するように構成された選択部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の温度推定方法は、被検体と向かい合う断熱材の面に設けられた第1の温度センサによって前記被検体の表面の温度を計測する第1のステップと、前記第1の温度センサの直上の前記断熱材の内部の温度を第2の温度センサによって計測する第2のステップと、前記第1の温度センサから離れた位置の前記被検体の表面の温度を第3の温度センサによって計測する第3のステップと、前記第1、第2、第3のステップの計測結果に基づいて前記被検体の熱抵抗に関連する比例係数を学習済みの学習器によって推定する第4のステップと、前記第1、第2のステップの計測結果と前記比例係数とに基づいて前記被検体の内部温度を算出する第5のステップとを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の温度推定方法の1構成例は、前記被検体の心拍数を計測する第6のステップをさらに含み、前記第4のステップは、前記第1、第2、第3のステップの計測結果と前記第6のステップの計測結果とに基づいて前記比例係数を推定するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1、第2、第3の温度センサの計測結果に基づいて、または第1、第2、第3の温度センサの計測結果と心拍測定部の計測結果とに基づいて比例係数を推定し、被検体の内部温度を算出することにより、測定の度に比例係数を校正することなく、被検体の内部温度を高精度に推定することができる。
【0023】
また、本発明では、第1、第2、第3の温度センサの計測結果に基づいて、または第1、第2、第3の温度センサの計測結果と心拍測定部の計測結果とに基づいて被検体の内部温度を推定することにより、測定の度に比例係数を校正することなく、被検体の内部温度を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、生体の表面にセンサを配置した模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例に係る温度推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2の温度測定部の筐体の表面を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、
図4の温度測定部の筐体の表面を示す平面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8の温度測定部の筐体の表面を示す平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、本発明の第1の実施例に係る温度センサの別の配置例を示す平面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第1の実施例に係る温度センサの別の配置例を示す平面図である。
【
図15】
図15は、本発明の第1の実施例に係る温度測定部の別の例を示すブロック図である。
【
図16】
図16は、本発明の第1の実施例に係る温度推定システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図17】
図17は、本発明の第1の実施例におけるテンソルの生成方法を説明する図である。
【
図18】
図18は、本発明の第1の実施例に係る温度推定システムの別の動作を説明するフローチャートである。
【
図19A】
図19Aは、本発明の第1の実施例の方法で推定した深部体温の例を示す図である。
【
図19B】
図19Bは、鼓膜温度計によって計測した真の深部体温の例を示す図である。
【
図20】
図20は、本発明の第2の実施例に係る温度推定システムのサーバ装置の構成を示すブロック図である。
【
図21】
図21は、本発明の第2の実施例に係る温度推定システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図22】
図22は、本発明の第1の実施例に係る温度推定システムの別の動作を説明するフローチャートである。
【
図23】
図23は、本発明の第1の実施例に係る温度推定システムの別の動作を説明するフローチャートである。
【
図24】
図24は、本発明の第2の実施例に係る温度推定システムの別の動作を説明するフローチャートである。
【
図25】
図25は、本発明の第1、第2の実施例に係る温度推定システムを実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図26】
図26は、生体とセンサの熱等価回路モデルを示す図である。
【
図27】
図27は、従来の方法で推定した深部体温と鼓膜温度計によって計測した真の深部体温の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[発明の原理]
式(3)における∂T/∂t,ΔT,Qに相当する値を測定することができれば、式(3)のk/(cρ)を推定することができる。生体100の表面にセンサ101aを配置した模式図を
図1に示す。センサ101aの近傍の生体100においても、式(3)に示す熱伝導方程式は成り立っている。
【0026】
熱特性に関する値k,ρ,cは時々刻々と変化するパラメータであるが、k,ρ,cの空間的な特性の変化は比較的小さいという特徴がある。すなわち、k,ρ,cの値は時々刻々と変化するものの、空間的にはほぼ一様という仮定が成り立つ。センサ101aの近傍での式(3)の熱伝導方程式は、深部温度Tcbtとも関連していると言える。また、生体100の熱抵抗に関連する比例係数αは、k/(cρ)に対応するため、センサ101aの近傍での式(3)の熱伝導方程式と関連している。
【0027】
したがって、センサ101aの近傍での式(3)の関係を基に深部体温Tcbtを推定することが可能である。また、式(3)を基に推定される比例係数αを用いて、式(1)から深部体温Tcbtを推定することができる。
【0028】
ここで、センサ101aの近傍で式(3)の関係を考えると、∂T/∂t,ΔTを推定するには、温度の時系列データと生体100の表面の温度分布と生体100の表面からセンサ101aに流れ込む熱とを測る必要がある。例えば
図1のように従来の温度T
skin,T
topに加えて、T
skinから離れた位置の皮膚表面の温度T
sideを測定すれば、T
skinとT
sideとの差、およびT
skinとT
topとの差からΔTに対応する値を求めることができる。一方、Qは、生体100の運動の強度と密接に関係しているため、生体100の心拍数Nや活動量Aから類推することができる。
【0029】
つまり、温度Tskin,Ttop,Tsideおよび心拍数Nと、深部体温Tcbtとの関係を示す関数fにより、深部体温Tcbtを推定することができる。
Tcbt=f(Tskin,Ttop,Tside,N) ・・・(4)
【0030】
また、温度Tskin,Ttop,Tsideおよび心拍数Nと、比例係数αとの関係を示す関数gにより、比例係数αを推定することができる。
α=g(Tskin,Ttop,Tside,N) ・・・(5)
【0031】
一般に、式(3)とTskin,Ttop,Tside,Nとを初等関数で対応付けることは困難であるが、無次元数あるいは畳み込みニューラルネットワークを用いて対応付けることが可能である。
【0032】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図2は本発明の第1の実施例に係る温度推定システムの構成を示すブロック図である。温度推定システムは、温度測定部1(温度測定装置)と、心拍測定部2(心拍測定装置)と、PC(Personal Computer)やスマートフォン等からなる端末3と、サーバ装置4とから構成される。
【0033】
温度測定部1は、生体100(人体などの被検体)の皮膚表面の温度Tskinを計測する温度センサ10と、温度センサ10の直上の断熱材12の内部の温度Ttopを計測する温度センサ11と、温度センサ10と温度センサ11とを保持する断熱材12と、温度センサ10から離れた位置の生体100の皮膚表面の温度Tsideを計測する温度センサ13と、データの記憶のための記憶部14と、温度Tskin,Ttop,Tsideのデータを端末3に送信する通信部15と、記憶部14へのデータの読み書きや通信を制御する制御部16とを備えている。
【0034】
温度測定部1は、例えば樹脂製の筐体17の表面とこの表面に露出する断熱材12とが生体100の皮膚と接触するように配置される。温度センサ10は、断熱材12の生体側の面に設けられる。温度センサ11は、温度センサ10の直上の断熱材12の内部に設けられる。断熱材12は、温度センサ10と温度センサ11とを保持し、且つ温度センサ11に流入する熱に対する抵抗体となる。断熱材12の材料としては、例えばPET樹脂がある。また、温度センサ13は、温度センサ10から離れた位置に、生体100の皮膚と接触するように配置される。
【0035】
図3は生体100と接する温度測定部1の筐体17の表面を示す平面図である。
図3に示すように、温度センサ13は、温度センサ10の周囲の一箇所に配置される。後述のように、温度センサ13を、温度センサ10の周囲に複数個配置してもよい。
【0036】
心拍測定部2は、例えば光電脈波法により生体100の心拍数Nを測定する。心拍測定部2の例としては、例えば腕時計型の心拍測定装置がある。
【0037】
サーバ装置4は、端末3とのデータの送受信のための通信部40と、データの記憶のための記憶部41と、温度Tskin,Tside,Ttopと心拍数Nとをテンソルに変換するテンソル生成部42と、温度Tskin,Tside,Ttopに対する比例係数α、または温度Tskin,Tside,Ttopと心拍数Nとに対する比例係数αを推定するための学習済みの学習器43と、学習器43の機械学習を行う機械学習部44と、生体100の深部体温Tcbt(内部温度)を算出する温度算出部45とを備えている。
【0038】
図4は温度測定部の別の例を示す図である。
図4の温度測定部1aは、温度センサ13を複数備えるものである。
図5は生体100と接する温度測定部1aの筐体17の表面を示す平面図である。
図5に示すように、温度測定部1aの筐体17の表面には温度センサ10の周囲に複数の温度センサ13が配置されている。
【0039】
図6は温度測定部の別の例を示す図である。
図6の温度測定部1bは、温度センサ10,13と断熱材12とを収容する筐体17と、記憶部14と通信部15と制御部16とを収容する筐体18とを別にしたものである。温度センサ10,13と筐体18側のデバイスとの間は配線19によって接続されている。生体100側から見た温度センサ10,13の配置は
図5と同様である。
【0040】
図7は温度測定部の別の例を示す図である。
図7の温度測定部1cは、
図6の温度測定部1bにおいて、断熱材12の周囲に複数の断熱材20を配置したものである。温度センサ10は、断熱材12の生体側の面に設けられる。温度センサ13は、断熱材20の生体側の面に設けられる。温度センサ11は、温度センサ10,13の直上の断熱材12,20の内部に設けられる。生体100側から見た温度センサ10,13の配置は
図5と同様である。
【0041】
図8は温度測定部の別の例を示す図である。
図8の温度測定部1dは、
図6の温度測定部1bにおいて、温度センサ13を温度センサ10の周囲に2重に配置したものである。
図9は生体100と接する温度測定部1dの筐体17の表面を示す平面図である。
【0042】
図10は温度測定部の別の例を示す図である。
図10の温度測定部1eは、
図4の温度測定部1aにおいて、筐体17内に外気や風の影響を抑制する内部構造体21を設けたものである。温度センサ10,11,13は、内部構造体21によって外気から遮断される。内部構造体21は、例えばアルミのような熱伝導率が良い材料からなる。内部構造体21は、例えば円錐台状やドーム状の形状で、温度センサ10,11,13と断熱材12とを覆うようになっている。生体100側から見た温度センサ10,13の配置は
図5と同様である。
【0043】
図11は温度測定部の別の例を示す図である。
図11の温度測定部1fは、
図10の温度測定部1eと同様の構成を有する。ただし、温度センサ13を内部構造体21の内側ではなく、外側に配置している。
図12は生体100と接する温度測定部1fの筐体17の表面を示す平面図である。
【0044】
また、温度測定部1a,1b,1c,1e,1fにおいて、温度センサ13を
図13のように配置してもよい。また、温度測定部1a,1b,1c,1e,1fにおいて、温度センサ13を
図14のように配置してもよい。
【0045】
図15は温度測定部の別の例を示す図である。
図15の温度測定部1gは、心拍測定部2を内部に組み込んだものである。生体100側から見た温度センサ10,13の配置は
図5と同様である。
【0046】
図16は本実施例の温度推定システムの動作を説明するフローチャートである。なお、
図16では、心拍測定部2を使用しない例について説明する。
【0047】
温度測定部1,1a~1gの温度センサ10は、生体100の皮膚表面の温度T
skinを計測する。温度センサ13は、温度センサ10から離れた位置の生体100の皮膚表面の温度T
sideを計測する。温度センサ11は、生体100から遠ざかる位置の断熱材12の内部の温度T
topを計測する(
図16ステップS100)。温度センサ10,13,11の計測データは記憶部14にいったん格納される。温度センサ10,13,11は、それぞれ温度T
skin,T
side,T
topを一定間隔、例えば1秒おきに計測する。
【0048】
温度測定部1,1a~1gの通信部15は、温度T
skin,T
side,T
topのデータをPCやスマートフォン等からなる端末3に送信する(
図16ステップS101)。
端末3は、受信した温度T
skin,T
side,T
topのデータをサーバ装置4に送信する(
図16ステップS102)。サーバ装置4の通信部40は、受信した温度T
skin,T
side,T
topのデータを記憶部41に格納する。
【0049】
次に、サーバ装置4のテンソル生成部42は、深層学習に利用するデータセットに必要な時系列データの取得に必要な時間τ(例えば1024秒)の経過後に(
図16ステップS103においてYES)、時間τ分の温度T
skin,T
side,T
topの各時系列データをテンソルに変換する(
図16ステップS104)。
【0050】
例えば
図17に示すような1秒おきに計測された温度T
skin,T
side,T
topの時系列データがあったとする。テンソル生成部42は、温度T
skin,T
side,T
topの1024秒分の各時系列データをテンソルに変換する場合、温度T
skin,T
side,T
topからそれぞれ32℃を減算し、さらに減算後のデータを4℃で除算することにより、温度T
skin,T
side,T
topをそれぞれ正規化する。そして、
図17のテンソルTeの例で示すように、正規化した温度T
skin,T
side,T
topのそれぞれの時間のデータをテンソル(画像)のピクセルとして並べていけばよい。
【0051】
なお、複数の温度センサ11によって温度Ttopを計測する場合についても、それぞれの温度Ttopを正規化し、正規化した温度Ttopのそれぞれの時間のデータをテンソルのピクセルとして並べていけばよい。同様に、複数の温度センサ13によって温度Tsideを計測する場合についても、それぞれの温度度Tsideを正規化し、正規化した温度度Tsideのそれぞれの時間のデータをテンソルのピクセルとして並べていけばよい。
【0052】
次に、サーバ装置4の学習器43は、温度T
skin,T
side,T
topと比例係数αとの関係、または温度T
skin,T
side,T
topと心拍数Nと比例係数αとの関係をモデル化した、ソフトウェア的に構築されたモデルである。学習器43は、テンソル生成部42からテンソルが入力されたときの比例係数αの推定結果を出力する(
図16ステップS105)。学習器43の例としては、例えばCNN(Convolutional Neural Network)学習器がある。
【0053】
学習器43は、事前に学習させておくことが必要である。具体的には、事前の試験時に、生体100の温度Tskin,Tside,Ttopの各時系列データを取得すると同時に、例えば鼓膜温度計によって真の深部体温Trefの時系列データを取得する。同時刻の温度Tskin,Ttop,Trefのデータを用いて、式(6)により比例係数αを算出することを時刻毎に行うことにより、比例係数αの時系列データを得る。
α=(Tref-Tskin)/(Tskin-Ttop) ・・・(6)
【0054】
そして、温度Tskin,Tside,Ttopと比例係数αの各時系列データをテンソル生成部42によってテンソルに変換する。サーバ装置4の機械学習部44は、テンソルを用いて学習器43の機械学習を行う。具体的には、機械学習部44は、温度Tskin,Tside,Ttopの各時系列データを学習器43の入力変数とし、比例係数αを学習器43の出力変数として、目的とする出力変数が得られるように学習器43の機械学習を行う。こうして、ステップS105の比例係数αの推定の前に、学習器43を学習させておくことができる。
【0055】
次に、サーバ装置4の温度算出部45は、温度T
skin,T
topに基づいて生体100の皮膚表面の熱流束H
skinを式(2)により算出し、温度T
skinと熱流束H
skinと学習器43が推定した比例係数αとに基づいて生体100の深部体温T
cbtを式(1)により算出する(
図16ステップS106)。断熱材12の熱抵抗R
skinは、記憶部41に予め記憶されている。なお、温度算出部45は、熱流束H
skinを用いずに、式(7)により深部体温T
cbtを算出してもよい。
T
cbt=T
skin+α×(T
skin-T
top) ・・・(7)
【0056】
深部体温Tcbtの算出に使用する温度Tskin,Ttopについては、時間τ分の温度Tskin,Ttopの時系列データのうち、それぞれ最新の値を用いて深部体温Tcbtを算出してもよいし、時間τ分の温度Tskin,Ttopのそれぞれの代表値(例えば平均値)を用いてもよい。また、複数の温度センサ11によって温度Ttopを計測する場合には、所定の一箇所の温度センサ11によって計測された温度Ttopを用いて深部体温Tcbtを算出してもよいし、複数の温度センサ11によって計測された温度Ttopの代表値(例えば平均値)を用いてもよい。
【0057】
本実施例では、温度精度±0.1℃に対して30℃から42.0℃程度の範囲で小数点第1位程度まで深部体温Tcbtが分かれば充分である。そのため、例えばCNN学習器を用いる場合、学習器43の出力層を120個用意しておけばよい。
【0058】
なお、学習器43の学習が十分でなかったり過学習なデータが含まれたりする場合は、深部体温Tcbtの推定値が極端に大きかったり小さかったりすることがある。このような深部体温Tcbtの異常値が生じる確率は小さい。このため、パーティクルフィルタ等の統計的な信号処理と古典制御で用いられる1次遅れ系のフィルタとによって、深部体温Tcbtの異常値を十分に取り除くことができる。
【0059】
サーバ装置4の通信部40は、温度算出部45によって算出された深部体温T
cbtのデータを端末3に送信する(
図16ステップS107)。
端末3は、サーバ装置4から受信した深部体温T
cbtの値を表示する(
図16ステップS108)。
【0060】
以上のようにして、時間τ毎に深部体温Tcbtが算出される。本実施例では、深部体温Tcbtの推定誤差を低減することができる。
【0061】
なお、生体100の運動強度が大きいときは、生体100の心拍数Nも取得した方がよい。この場合の温度推定システムの動作を
図18を用いて説明する。ステップS100,S101の処理は上記で説明したとおりである。
【0062】
心拍測定部2は、一定間隔、例えば1秒おきに生体100の心拍数N(瞬時心拍数)を計測する(
図18ステップS109)。心拍測定部2は、心拍数Nのデータを端末3に送信する(
図18ステップS110)。なお、
図15に示したように、温度測定部1gの内部に心拍測定部2が設けられている場合には、通信部15から端末3に心拍数Nのデータを送信する。
【0063】
端末3は、受信した温度T
skin,T
side,T
topのデータと心拍数Nのデータをサーバ装置4に送信する(
図18ステップS102a)。サーバ装置4の通信部40は、受信した温度T
skin,T
side,T
topのデータと心拍数Nのデータを記憶部41に格納する。
【0064】
サーバ装置4のテンソル生成部42は、時間τの経過後に(
図18ステップS103においてYES)、時間τ分の温度T
skin,T
side,T
topと時間τ分の心拍数Nの各時系列データをテンソルに変換する(
図18ステップS104a)。ここでは、温度T
skin,T
side,T
topと同様に、心拍数Nのデータをテンソルのピクセルとして並べていけばよい。
【0065】
サーバ装置4の学習器43は、テンソル生成部42からテンソルが入力されたときの比例係数αの推定結果を出力する(
図18ステップS105a)。心拍数Nのデータを用いる場合、事前の試験時に、生体100の温度T
skin,T
side,T
topと心拍数Nの各時系列データを取得すると同時に、鼓膜温度計によって真の深部体温T
refの時系列データを取得する。同時刻の温度T
skin,T
top,T
refのデータを用いて、式(6)により比例係数αを算出することを時刻毎に行うことにより、比例係数αの時系列データを得る。
【0066】
そして、温度Tskin,Tside,Ttopと心拍数Nと比例係数αの各時系列データをテンソル生成部42によってテンソルに変換する。サーバ装置4の機械学習部44は、温度Tskin,Tside,Ttopの各時系列データと心拍数Nの時系列データを学習器43の入力変数とし、比例係数αを学習器43の出力変数として、目的とする出力変数が得られるように学習器43の機械学習を行う。こうして、ステップS105aの比例係数αの推定の前に、学習器43を学習させておくことができる。
【0067】
ステップS106~S108の処理は上記で説明したとおりである。こうして、心拍数Nのデータを用いることにより、生体100の運動強度が大きいときにおいても、深部体温Tcbtの推定誤差を低減することができる。
【0068】
人が日常生活の中で室内外を行き来したり、姿勢を横にしたりしたときに、本実施例の方法で推定した深部体温T
cbtを
図19Aに示し、鼓膜温度計によって計測した真の深部体温(鼓膜温)T
refを
図19Bに示す。
図27に示した従来の方法で推定した深部体温T
cbtと比べて、本実施例によれば、ノイズが抑制されると共に誤差が補正され、鼓膜温に近い推定結果が得られていることが分かる。本実施例によれば、測定の度に比例係数αを校正する必要がなく、かつ生体の血流の影響や、外気温や風の影響を受けずに高精度に深部体温T
cbtを推定することができる。
【0069】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。
図20は本発明の第2の実施例に係る温度推定システムのサーバ装置の構成を示すブロック図である。本実施例のサーバ装置4aは、通信部40と、記憶部41と、テンソル生成部42と、生体100の状態または生体100の周囲の環境に対応するために予め用意された複数の学習器43-1~43-3と、機械学習部44と、温度算出部45と、温度T
skin,T
top、心拍数Nのうち少なくとも1つに基づいて、複数の学習器43-1~43-3の中から、生体100の状態または周囲の環境に対応した学習器を選択する選択部46とを備えている。
温度測定部1,1a~1gの構成は第1の実施例で説明したとおりである。
【0070】
必要となる温度精度に対して、比例係数αの精度を決めることができる。本実施例では、温度精度±0.1℃に対して、血流などの状態で変化する比例係数αは、およそ2.0から12.0程度で小数点第1位程度まで分かれば充分である。そのため、例えばCNN学習器を用いる場合、学習器の出力層を100個用意しておけば比例係数αの変化と精度に対応できる。αの範囲をある程度限定できる場合は深部体温をそのまま推定する場合よりも、出力層を小さくできるメリットがある。
【0071】
図21は本実施例の温度推定システムの動作を説明するフローチャートである。第1の実施例と同様に、温度測定部1,1a~1gの温度センサ10,13,11は、温度T
skin,T
side,T
topを例えば1秒おきに計測する(
図21ステップS200)。
温度測定部1,1a~1gの通信部15は、温度T
skin,T
side,T
topのデータを端末3に送信する(
図21ステップS201)。
【0072】
心拍測定部2は、例えば1秒おきに生体100の心拍数N(瞬時心拍数)を計測する(
図21ステップS202)。心拍測定部2は、心拍数Nのデータを端末3に送信する(
図21ステップS203)。
図15に示したように、温度測定部1gの内部に心拍測定部2が設けられている場合には、通信部15から端末3に心拍数Nのデータを送信する。
【0073】
端末3は、受信した温度T
skin,T
side,T
topのデータと心拍数Nのデータをサーバ装置4aに送信する(
図21ステップS204)。
サーバ装置4aのテンソル生成部42は、時間τの経過後に(
図21ステップS205においてYES)、時間τ分の温度T
skin,T
side,T
topと時間τ分の心拍数Nの各時系列データをテンソルに変換する(
図21ステップS206)。
【0074】
次に、サーバ装置4aの選択部46は、予め用意された学習器43-1~43-3の中から、比例係数αの推定に使用する学習器を選択する。学習器の出力層の範囲を環境や利用シーンによって切り替えることで、より精度の高い推定を行うことができる。例えば、一般に健常者の睡眠中は、健常者が室内に居て外気温も安定している。このため、比例係数αは2から6程度であり、学習器の出力層は40個程度あればよい。一方、人が屋外で運動する場合は、暑熱または寒冷の環境下で深部体温の変化も大きいため、用意しておく学習器の出力層の範囲を広げておくことが望ましい。
【0075】
そこで、深部体温の推定の高精度化のため、学習器を複数個用意しておき、場面ごとに切り替えることが望ましい。例えば運動状態または暑熱・寒冷の環境に対応する学習器43-1と、日常生活に対応する学習器43-2と、睡眠状態に対応する学習器43-3とを予め用意する。選択部46は、皮膚表面の温度Tskin、センサ上部の温度Ttop、または心拍数Nを指標として、使用する学習器を選択する。
【0076】
具体的には、選択部46は、温度T
topが閾値T
top_
th_
highより高い場合、温度T
topが閾値T
top_
th_
lowより低い場合、温度T
skinが閾値T
skin_
thより高い場合、心拍数Nが閾値N
thより高い場合のいずれかが成立するときに(
図21ステップS207においてYES)、学習器43-1を使用すると判定する(
図21ステップS208)。
【0077】
Ttop_th_highは、外気が高い暑熱環境下か否かを判定するための温度閾値である。Ttop_th_lowは、外気が低い寒冷環境下か否かを判定するための温度閾値である。Tskin_thは、生体100が風邪等による発熱状態か否か、または運動による発熱状態か否かを判定するための温度値である。Nthは、生体100が運動状態か否かを判定するための心拍数閾値である。
【0078】
一方、選択部46は、ステップS207の判定が成立せず、心拍数Nが閾値N
th_
lowより低いときには(
図21ステップS209においてYES)、学習器43-3を使用すると判定する(
図21ステップS210)。閾値N
th_
lowは、生体100が睡眠状態か否か、または安静な状態か否かを判定するための心拍数閾値である。
【0079】
選択部46は、ステップS207,S209の判定がいずれも成立しないときには(ステップS209においてNO)、学習器43-2を使用すると判定する(
図21ステップS211)。
【0080】
なお、時間τ分の温度Tskin,Ttopと時間τ分の心拍数Nの各時系列データのうち、それぞれ最新の値を用いてステップS207,S209の判定を行ってもよいし、時間τ分の温度Tskin,Ttop、心拍数Nのそれぞれの代表値(例えば平均値)を用いて判定を行ってもよい。また、複数の温度センサ11によって温度Ttopを計測する場合には、所定の一箇所の温度センサ11によって計測された温度Ttopを用いてステップS207の判定を行ってもよいし、複数の温度センサ11によって計測された温度Ttopの代表値(例えば平均値)を用いて判定を行ってもよい。
【0081】
サーバ装置4aの学習器43-1~43-3のうち、選択部46によって選択された学習器は、テンソル生成部42から入力されたテンソルに対する比例係数αの推定結果を出力する(
図21ステップS212)。
【0082】
学習器43-1~43-3は、それぞれ対応する環境や利用シーンに応じて事前に学習しておく必要がある。すなわち、学習器43-1については、運動状態または暑熱・寒冷の環境下での生体100の温度Tskin,Tside,Ttop,Trefと心拍数Nのデータを取得して学習を行う。学習器43-2については、日常の生活中の生体100の温度Tskin,Tside,Ttop,Trefと心拍数Nのデータを取得して学習を行う。学習器43-3については、睡眠状態の生体100の温度Tskin,Tside,Ttop,Trefと心拍数Nのデータを取得して学習を行う。
【0083】
図21のステップS213~S215の処理は、第1の実施例のステップS106~S108の処理と同じである。
以上のようにして、時間τ毎に深部体温T
cbtが算出される。学習器43-1~43-3をクラウドサーバ側に設ける場合、学習器43-1~43-3の学習を逐次進め、利用しながら更新と高精度化を進めていくことができる。
【0084】
なお、温度センサ10,13の保護のため、温度センサ10,13が生体100の皮膚と直に触れないようにしてもよい。例えばPET樹脂などの熱容量の小さい材料からなる薄いシート状の部材を生体側の筐体17の表面に設け、この部材を介して温度センサ10,13が生体100の皮膚表面の温度Tskin,Tsideを計測するようにしてもよい。
また、第1、第2の実施例では、学習器43,43-1~43-3によって比例係数αを推定した後に深部体温Tcbtを算出しているが、学習器43,43-1~43-3によって深部体温Tcbtを推定するようにしてもよい。
【0085】
学習器43,43-1~43-3によって深部体温Tcbtを推定する場合、サーバ装置4,4aの機械学習部44は、事前の試験時に取得した温度Tskin,Tside,Ttop,Trefの各時系列データから変換されたテンソルを用いて学習器43,43-1~43-3の機械学習を行う。具体的には、機械学習部44は、温度Tskin,Tside,Ttopの各時系列データを学習器43,43-1~43-3の入力変数とし、深部体温Trefを学習器43,43-1~43-3の出力変数として、目的とする出力変数が得られるように学習器43,43-1~43-3の機械学習を行う。
【0086】
心拍数Nのデータを用いる場合、機械学習部44は、事前の試験時に取得した温度Tskin,Tside,Ttop,Trefと心拍数Nの各時系列データから変換されたテンソルを用いて学習器43,43-1~43-3の機械学習を行う。具体的には、機械学習部44は、温度Tskin,Tside,Ttopの各時系列データと心拍数Nの時系列データを学習器43,43-1~43-3の入力変数とし、深部体温Trefを学習器43,43-1~43-3の出力変数として、目的とする出力変数が得られるように学習器43,43-1~43-3の機械学習を行う。
【0087】
学習器43,43-1~43-3によって深部体温T
cbtを推定する場合、温度算出部45が不要になることは言うまでもない。第1の実施例において深部体温T
cbtを推定する場合の動作を
図22、
図23に示し、第2の実施例において深部体温T
cbtを推定する場合の動作を
図24に示す。
図22は心拍測定部2を使用しない例を示し、
図23は心拍測定部2を使用する例を示している。
【0088】
図22、
図23の例では、学習器43は、テンソル生成部42から入力されたテンソルに対する深部体温T
cbtの推定結果を出力する(ステップS106a)。
図24の例では、学習器43-1~43-3のうち、選択部46によって選択された学習器は、テンソル生成部42から入力されたテンソルに対する深部体温T
cbtの推定結果を出力する(ステップS213a)。
【0089】
なお、比例係数αに対して深部体温Tcbtは変動が連続的かつ緩やかなので、通常は比例係数αを推定した方が精度がよい。
【0090】
第1、第2の実施例で説明した温度測定部1,1a~1gの記憶部14と通信部15と制御部16とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図25に示す。
【0091】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、温度センサ10,11,13、通信部15のハードウェア等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の温度推定方法を実現させるための温度推定プログラムは、記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
端末3とサーバ装置4,4aの各々についてもコンピュータによって実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、生体等の被検体の内部温度を推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1,1a~1g…温度測定部、2…心拍測定部、3…端末、4,4a…サーバ装置、10,11,13…温度センサ、12,20…断熱材、14,41…記憶部、15,40…通信部、16…制御部、17,18…筐体、19…配線、21…内部構造体、42…テンソル生成部、43,43-1~43-3…学習器、44…機械学習部、45…温度算出部、46…選択部。