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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】送信装置、及び無線空間多重伝送方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 99/00 20090101AFI20241126BHJP
【FI】
H04J99/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024502758
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008348
(87)【国際公開番号】W WO2023162241
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】李 斗煥
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健
(72)【発明者】
【氏名】増野 淳
(72)【発明者】
【氏名】笹木 裕文
(72)【発明者】
【氏名】八木 康徳
(72)【発明者】
【氏名】景山 知哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 穂乃花
(72)【発明者】
【氏名】芝 宏礼
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0287262(US,A1)
【文献】LI, Zhi et al.,Multiplexed Nondiffracting Nonlinear Metasurfaces,Advanced Functional Materials,2020年06月04日,Volume 30, Issue 23,Article number 1910,インターネット:<https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adfm.201910744>
【文献】KADLIMATTI, Ravi et al.,Millimeter-Wave Nondiffracting Circular Airy OAM Beams,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,2018年10月18日,Volume:67, Issue:1,pp.260-269
【文献】YANG, Zhao et al.,Microwave Airy Beam Generation With Microstrip Patch Antenna Array,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,2020年09月30日,Volume: 69, Issue: 4,pp.2290-2301
【文献】MIAO, Zhuo-Wei et al.,Low-Profile 2-D THz Airy Beam Generator Using the Phase-Only Reflective Metasurface,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,2019年07月02日,Volume:68, Issue 3,pp.1503-1513
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 99/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有し、
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナにおけるサブ送信アンテナから送信される電波により干渉が生じないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う
送信装置。
【請求項2】
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナに対応する複数のサブ受信アンテナが備えられており、
前記複数のサブ送信アンテナにおける各サブ送信アンテナは、送信するエアリービームのサイドローブが、対応するサブ受信アンテナ以外のサブ受信アンテナに届かないように、エアリービームを送信する
請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記送信アンテナは、4つ以上のサブ送信アンテナを備え、前記送信装置は、4以上の空間多重数による空間多重を行う
請求項1又は2に記載の送信装置。
【請求項4】
それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有する送信装置が実行する無線空間多重伝送方法であって、
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナにおけるサブ送信アンテナから送信される電波により干渉が生じないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う
無線空間多重伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアリービームを用いた無線通信技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、電磁波は進行方向に直線的に広がり伝搬する性質を持っている。一方で、アンテナに特殊な初期位相分布を与えることによりその軌跡が一方向に曲がっていく性質を持つエアリー(Airy)ビームが存在する(例えば非特許文献1)。
【0003】
また、近年では、OAM(Orbital Angular Momentum)を用いた無線信号の空間多重伝送技術の検討が進められており、送信アンテナと受信アンテナを正面で対向する位置に設置した通信における伝送容量向上が期待される。
【0004】
エアリービームを用いることにより、送信アンテナと受信アンテナとが正面で対向していない場合でも大容量通信を行うことが期待されるが、従来技術においては、エアリービームを用いた無線通信の具体的な技術の検討は十分になされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】R. Kadlimatti and P. V. Parimi, "Millimeter-Wave Nondiffracting Circular Airy OAM Beams," in IEEE Transactions on Antennas and Propagation, vol. 67, no. 1, pp. 260-269, Jan. 2019, doi: 10.1109/TAP.2018.2876713.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ミリ波帯、sub-THz帯、あるいはTHz帯を用いる無線通信技術は、広帯域を使うことで伝送容量の向上ができるメリットがある。一方、MIMO技術などの空間多重技術を実施する場合は、広帯域化された分の信号処理の負担が大きくなる。無線通信装置の信号処理の能力には現実的な限界があり、広帯域幅を用いた空間多重技術には、信号処理負荷の観点で制約があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、低負荷の信号処理により、空間多重伝送を行うことを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術によれば、それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有し、受信側において、前記複数のサブ送信アンテナにおけるサブ送信アンテナから送信される電波により干渉が生じないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う送信装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、低負荷の信号処理により、空間多重伝送を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態におけるシステム構成図である。
図2】エアリービームに関する電波の強度分布を示す図である。
図3】エアリービームの断面のイメージを示す図である。
図4】送信アンテナ110の構成例を示す図である。
図5】送信アンテナ110の構成例を示す図である。
図6】干渉を低減するための技術を説明するための図である。
図7】干渉を低減するための技術を説明するための図である。
図8】例1-1を説明するための図である。
図9】例1-2を説明するための図である。
図10】例1-2を説明するための図である。
図11】例1-3を説明するための図である。
図12】例1-3を説明するための図である。
図13】例1-4を説明するための図である。
図14】例1-4を説明するための図である。
図15】例2-1を説明するための図である。
図16】例2-2を説明するための図である。
図17】例2-2を説明するための図である。
図18】例3-1を説明するための図である。
図19】例3-1を説明するための図である。
図20】例3-1を説明するための図である。
図21】例3-2を説明するための図である。
図22】例3-2を説明するための図である。
図23】θの計算例を説明するための図である。
図24】θの計算例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0012】
(システム構成、エアリービームの概要)
図1に、第1実施形態~第3実施形態に共通の無線通信システムの構成例を示す。図1に示すように、本実施の形態における無線通信システムは、送信装置100と受信装置200を有する。送信装置100は、送信アンテナ110、送信部120、信号処理部130、制御部140、距離取得部150を備える。受信装置200は、受信アンテナ210、受信部220、信号処理部230、制御部240を備える。なお、図示の便宜上、送信装置100と受信装置200が近くに配置されているが、実際にはもっと離れている。
【0013】
図1の例では、送信装置100と受信装置200を別々に示しているが、1つの装置(装置A)に、送信装置100と受信装置200が備えられてもよい。この場合、装置Aと、他の装置との間の通信がなされる。また、距離取得部150を備えない場合があってもよい。
【0014】
本実施の形態における送信アンテナ110は、特殊な初期位相分布を与えることによりその軌跡が一方向に曲がっていく性質を持つエアリービームを生成することができる。具体的には、エアリービームは、アンテナを2次元平面と見た場合に、その2次元平面に対して例えば3次の位相変化を与えることで生成することができる。なお、受信アンテナ210については、送信アンテナ110と同じ構成であってもよいし、エアリービーム用の特別な構成を備えない一般的なアンテナであってもよい。
【0015】
送信装置100の信号処理部130は、入力されたデータから、搬送波に乗せて送信するデジタル信号を生成する。送信部120は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、アナログ信号の周波数を搬送波の周波数帯に変換して、当該アナログ信号を送信アンテナ110に出力する。
【0016】
距離取得部140は、送信アンテナ110と受信アンテナ210との間の距離を取得する。距離の取得方法はどのような方法であってもよい。例えば、外部サーバから取得してもよいし、GPS機能を用いて送信アンテナ110と受信アンテナ210のそれぞれの位置を取得し、位置から距離を求めても良いし、信号の遅延時間を用いて距離を算出してもよい。
【0017】
制御部140は、例えば、送信アンテナ110と受信アンテナ210との間の距離に基づき、送信アンテナ110の角度を決定し、送信アンテナ110に角度を通知する。送信アンテナ110は、角度調整機構(角度調整部)を含み、当該角度調整機構を用いて角度を調整する。
【0018】
また、制御部140は、例えば、送信アンテナ110と受信アンテナ210との間の距離に基づき、送信アンテナ110の各アンテナ素子の初期位相を決定し、決定した初期位相を送信部120あるいは送信アンテナ110に通知し、当該初期位相を用いてエアリービームを生成させることができる。
【0019】
送信部120、信号処理部130、制御部140、距離取得部150はそれぞれ、送信回路、信号処理回路、制御回路、距離取得回路と呼んでもよい。また、「信号処理部130、制御部140、距離取得部150」をまとめてプロセッサ(あるいはCPU)と呼んでもよい。
【0020】
受信装置200の受信部220は、受信アンテナ210で受信したアナログ信号をデジタル信号に変換して信号処理部230に送信する。信号処理部230は、デジタル信号からデータを生成する。また、信号処理部230は、MIMO等化処理やSIC等の干渉除去処理を行うこともできる。制御部240は、送信アンテナ110の送信方法に応じて(例:第1実施形態か第2実施形態かに応じて)、信号処理部230に対して、干渉除去処理を行うか否かを指示することができる。
【0021】
受信部220、信号処理部230、制御部240はそれぞれ、受信回路、信号処理回路、制御回路と呼んでもよい。また、「信号処理部230、制御部240」をまとめてプロセッサ(あるいはCPU)と呼んでもよい。
【0022】
図2は、エアリービームを生成する送信アンテナ110に対向するある面における電波の強度分布の例を示す図である。図2において、濃い部分ほど電力が強いことを示す。図2に示すように、エアリービームは、強い電力を持つメインローブの周囲において、x軸およびy軸方向に対して90度の広がり(サイドローブ)をもっている。そのため、この広がりを持っている場所では他の電波との干渉が生じる。
【0023】
図3は、送信アンテナ110をx-y平面に置いたとした場合における、x-z平面のエアリービームの断面のイメージを示す図である。図3に示す例では、ビームが右方向に曲がることが示されている。また、図3の例では、メインローブの左側にサイドローブを有している。
【0024】
図4は、エアリービームを生成する送信アンテナ110の構成例を示す。図4は、平面状の送信アンテナ110を正面から見た図である。図4に示すように、平面の基板上に、複数のアンテナ素子(パッチアンテナと呼んでもよい)を備えた構成を有する。例えば、各アンテナ素子は、可変位相器を備えており、アンテナ素子毎に電磁波(電波)に所定の初期位相を与えることが可能である。各アンテナ素子に与える初期位相に応じて、エアリービームの曲がり度合いを変えることができる。
【0025】
図5は、エアリービームを生成する送信アンテナ110の他の構成例を示す図である。この構成例では、送信アンテナ110を正面から見た形状は例えば円形である。図5は、送信アンテナ110の電波送信方向の軸を含む平面で送信アンテナ110を切った断面のイメージを示す。図5に示すように、この例における送信アンテナ110は、電波を出力するアンテナ111、平面波生成レンズ112、位相変調レンズ113、及びフーリエ変換レンズ114を有する。送信アンテナ110の正面から見た平面をx-y平面とすると、位相変調レンズによりx-y平面上の各点(x-y座標)の初期位相を与えることができる。所望の初期位相を実現する位相変調レンズを使用することで、所望のエアリービームを生成することができる。
【0026】
また、図5の構成において、アンテナ111から送信される電波が平面波、または、平面波に近い場合は、平面波生成レンズ112を省略してもよい。例えば、アンテナ111から位相変調レンズ113までの距離が波長の50倍以上離れている場合、アンテナ111から送信される電波は平面波に近くなるので、平面波生成レンズ112を省略してもよい。そのような場合でなくても、曲がる電波の特性をある程度犠牲にすることで、平面波生成レンズ112を省略してもよい。後者の場合は、所望の曲がる電波からサイドローブなどが少し乱れることとなるが、平面波生成レンズ112をなくすことでアンテナ全体がコンパクト化される長所がある。あるいは、アンテナ111として平面波が送信されるものを使用することで、性能を犠牲にすることなく平面波生成レンズ112を省略することができる。
【0027】
以下、本発明の実施形態として、第1実施形態~第3実施形態を説明する。第1実施形態~第3実施形態はいずれも、図4の構成と図5の構成のうちのいずれの構成を用いてもよいが、例として、主に図4の構成を使用することを想定している。
【0028】
(第1実施形態)
ミリ波帯、sub-THz帯、あるいはTHz帯を用いる無線通信技術は、広帯域を使うことで伝送容量の向上ができるメリットがある。一方、MIMO技術などの空間多重技術を実施する場合は、広帯域化された分の信号処理の負担が大きくなる。無線通信装置の信号処理の能力には現実的な限界があり、広帯域幅を用いた空間多重技術には、信号処理負荷の観点で制約があった。
【0029】
つまり、信号処理能力の制限により、空間多重数が制限されるか、使える帯域幅が制限される問題があった。また、低負荷信号処理による信号間干渉を除去することが課題となる。
【0030】
第1実施形態では、エアリービームの特徴を用いて、上記の課題を解決する。すなわち、前述したように、エアリービームにおいては、サイドローブが受信側の片側のみに現れる特徴がある。従来技術においては、この特徴は、無線通信ではほとんど使われてない特徴であるが、第1実施形態では、この特徴を活用することで、上記の課題を解決する。
【0031】
<概要、及び例1-1>
第1実施形態の概要を図6~8を用いて説明する。図8が第1実施形態の例1-1に係る構成図であり、図6及び図7は、図8との比較のための従来技術を使用する説明図である。
【0032】
図6図8のいずれの場合も、送信アンテナ110はサブ送信アンテナ#1とサブ送信アンテナ#2を有し、受信アンテナ210はサブ受信アンテナ#1とサブ受信アンテナ#2を有し、空間多重数=2の空間多重通信を行う。
【0033】
複数のアンテナを用いて無線の空間多重を行う場合には、アンテナ間の干渉除去が必要になる。図6は、アンテナ間の干渉を信号処理により除去する場合の例を示す。図6の例では、信号処理量が増大するという課題がある。
【0034】
図7は、送信アンテナ110と受信アンテナ210との間に物理的な遮蔽物を置いて干渉除去を行う場合の例を示す。図7の例では、遮蔽物を設けなければならないという負担が生じる。
【0035】
図8は、第1実施形態の例1-1を示す。例1-1では、図8に示すように、送信アンテナ110の2つのサブ送信アンテナのそれぞれから同時にエアリービームが送信されるとともに、それぞれのエアリービームのサイドローブが、アンテナの外側に現れるように送信側でビームの生成を行う。これにより、2個の異なるデータをそれぞれのビームに乗せて空間多重を行うことができる。
【0036】
図8において、サブ送信アンテナ#1からサブ受信アンテナ#1へのストリームの通信路を無線通信路1と呼び、サブ送信アンテナ#2からサブ受信アンテナ#2へのストリームの通信路を無線通信路2と呼ぶ。
【0037】
このとき、サブ送信アンテナ#1から送信されるエアリービームのサイドローブは、無線通信路1に対する無線通信路2の側とは逆の側に現れる。また、サブ送信アンテナ#2から送信されるエアリービームのサイドローブは、無線通信路2に対する無線通信路1の側とは逆の側に現れる。
【0038】
そのため、サブ送信アンテナ#1から送信されるエアリービームのメインローブとサイドローブは、サブ送信アンテナ#2から送信されるエアリービームのサイドローブと干渉しない。また、サブ送信アンテナ#2から送信されるエアリービームのメインローブとサイドローブは、サブ送信アンテナ#1から送信されるエアリービームのサイドローブと干渉しない。これにより、信号処理、遮蔽物のいずれも必要無く、干渉無しの信号伝送を行うことができる。
【0039】
送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数は、例1-1のように2個に限られない。3個以上の任意の数であってもよい。以下、送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数が4である場合を例1-2として説明し、送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数が8である場合を例1-3として説明する。
【0040】
<例1-2>
例1-2は、送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数が4である場合の例を示す。
【0041】
図9は、送信アンテナ110を正面から見た場合の構成を示す。受信アンテナ210も同様の構成を備える。図9に示すように、送信アンテナ110は、サブ送信アンテナ#1~#4を備え、それぞれのサブ送信アンテナが、図示のような複数アンテナ素子を有し、エアリービームを生成することが可能である。
【0042】
受信アンテナ210は、図9に示すものと同様のサブ受信アンテナ#1~#4を備える。サブ受信アンテナ#1~#4については、エアリービームの生成機能を有しなくてもよい。サブ送信アンテナ#1、#3は、サブ受信アンテナ#3、#1と対向し、サブ送信アンテナ#2、#4は、サブ受信アンテナ#4、#2と対向する。
【0043】
図10は、送信アンテナ110から送信されるエアリービームの強度分布(送信アンテナ110の対向面における強度分布)を示す図である。図10に示すように、各サブ送信アンテナのサイドローブが、他のサブ送信アンテナが存在する側とは反対の側に生じる。これにより、サブ送信アンテナ間での干渉が生じることなく、空間多重数=4の空間多重伝送を行うことができる。
【0044】
<例1-3>
例1-3は、送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数が8である場合の例を示す。
【0045】
図11は、送信アンテナ110を正面から見た場合の構成を示す。受信アンテナ210も同様の構成を備える。図11に示すように、送信アンテナ110は、サブ送信アンテナ#1~#8を備え、それぞれのサブ送信アンテナが、図示のような複数アンテナ素子を有し、エアリービームを生成することが可能である。
【0046】
受信アンテナ210は、図11に示すものと同様のサブ受信アンテナ#1~#8を備える。サブ受信アンテナ#1~#8については、エアリービームの生成機能を有しなくてもよい。サブ送信アンテナ#1、#8、#7は、サブ受信アンテナ#7、#8、#1と対向し、サブ送信アンテナ#2、#6は、サブ受信アンテナ#6、#2と対向し、サブ送信アンテナ#3、#4、#5は、サブ受信アンテナ#5、#4、#3と対向する。
【0047】
図12は、送信アンテナ110から送信されるエアリービームの強度分布(送信アンテナ110の対向面における強度分布)を示す図である。図12に示すように、各サブアンテナのサイドローブが、8つのサブ送信アンテナの中心の側に対して外側に現れる。
【0048】
この場合、例えば、サブ送信アンテナ#1のサイドローブと、サブ送信アンテナ#3~#7のサイドローブとの間では干渉が生じないが、サブ送信アンテナ#1のサイドローブと、サブ送信アンテナ#2、#8のサイドローブとの間で干渉が生じ得る。
【0049】
このように、例1-3は、一部の干渉を許容する例である。つまり、例1-3では、部分的なサイドローブの重なりを認めるように電波を送信する。サイドローブが重なる部分については、受信装置200において、SIC(successive interference cancellation)等の手法により干渉除去を実施する。これにより、full MIMOの等化処理よりは低演算量を維持しつつ空間多重数を増加させることができる。
【0050】
<例1-4>
例1-4は、例1-1~1-3のいずれにも適用可能である。また、例1-4は、第2実施形態、第3実施形態にも適用可能である。例1-4では、送信アンテナ110を構成するサブ送信アンテナにおける複数アンテナ素子から構成されるアンテナのサイズを適応的に調整することで、エアリービームの曲がる度合いを調整する。これにより、エアリービームの届く距離あるいは位置を調整することができる。このようなサイズの調整は例えば制御部140により行うことができる。
【0051】
図13図14を参照して例を説明する。図13に示すように、1つのサブ送信アンテナにおいて、Aで示す領域と、Bで示す領域が示されている。Aで示す領域のサイズのほうがBで示す領域のサイズよりも大きい。言い換えると、Aで示す領域に含まれるアンテナ素子数のほうが、Bで示す領域に含まれるアンテナ素子数よりも多い。
【0052】
図14は、図13に示す送信アンテナ110を斜めから見た様子を示している。図14に示すように、Aの領域の複数アンテナ素子を選択した場合のほうが、Bの領域の複数アンテナ素子を選択した場合よりもエアリービームの曲がる度合いが大きくなる。Bの領域の複数アンテナ素子を選択した場合のほうが、より遠い位置にある受信アンテナにメインローブを届けることができる。
【0053】
つまり、送信アンテナ110において、エアリービームを生成させるための複数アンテナ素子の領域を調整することで、所望の受信アンテナ110の位置に電波が届くように、エアリービームの届く距離を調整することができる。
【0054】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態に係る技術により、ミリ波帯、sub-THz帯、あるいはTHz帯を用い、かつ、広帯域を用いる無線通信において、信号処理の負担を増やさずに、同時に送受信できるデータの数を増やすことができる。つまり、広帯域を用いる空間多重伝送が低負荷の信号処理で達成できるようになる。これにより、伝送容量の増大ができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を説明する。ミリ波帯、sub-THz帯、あるいはTHz帯を用いる無線通信技術は、ビーム幅を狭くし、パーソナルセルとなるような閉空間、つまり、他の領域への電波が漏れない環境を作ることで、電波の空間利用効率を高くすることが望ましい。しかし、従来技術では、電波のサイドローブが存在し、電波の漏れを軽減することが困難であった。
【0056】
第2実施形態では、エアリービームの特徴を用いて、上記の課題を解決する。すなわち、前述したように、エアリービームにおいては、サイドローブが受信側の片側のみに現れる特徴がある。従来技術においては、この特徴は、無線通信ではほとんど使われてない特徴であるが、第2実施形態では、この特徴を活用することで、上記の課題を解決する。
【0057】
<例2-1>
図15を参照して、第2実施形態の例2-1を説明する。図15に示すように、送信アンテナ110はサブ送信アンテナ#1とサブ送信アンテナ#2を有し、受信アンテナ210はサブ受信アンテナ#1とサブ受信アンテナ#2を有し、空間多重数=2の空間多重通信を行う。
【0058】
例2-1では、図15に示すように、送信アンテナ110の2つのサブ送信アンテナのそれぞれから同時にエアリービームが送信されるとともに、それぞれのエアリービームのサイドローブが、アンテナの内側に現れるように送信側でビームの生成を行う。これにより、2個の異なるデータをそれぞれのビームに乗せて空間多重を行うことができるとともに、データが外側に漏れないようにして閉空間を作成することができる。受信装置200においては、MIMO等化処理等の干渉除去処理を行うことにより、それぞれのデータを抽出する。
【0059】
図15において、サブ送信アンテナ#1からサブ受信アンテナ#1へのストリームの通信路を無線通信路1と呼び、サブ送信アンテナ#2からサブ受信アンテナ#2へのストリームの通信路を無線通信路2と呼ぶ。
【0060】
このとき、サブ送信アンテナ#1から送信されるエアリービームのサイドローブは、無線通信路1に対する無線通信路2の側に現れる。また、サブ送信アンテナ#2から送信されるエアリービームのサイドローブは、無線通信路2に対する無線通信路1の側に現れる。逆に、サブ送信アンテナ#1から送信されるエアリービームのサイドローブのない領域は、無線通信路1に対する無線通信路2の側の反対側に現れる。また、サブ送信アンテナ#2から送信されるエアリービームのサイドローブのない領域は、無線通信路2に対する無線通信路1の側の反対側に現れる。
【0061】
そのため、サブ送信アンテナ#1から送信されるエアリービームのメインローブとサイドローブ、及び、サブ送信アンテナ#2から送信されるエアリービームのメインローブとサイドローブは、無線通信路1と無線通信路2に挟まれる内部の閉空間に現れ、電波の外部への漏れを抑制できる。
【0062】
つまり、サブ送信アンテナ#1からサブ受信アンテナ#1へのエアリービームのメインローブと、サブ送信アンテナ#2からサブ受信アンテナ#2へのエアリービームのメインローブとの間の無線通信路の外側へ、サブ送信アンテナ#1とサブ送信アンテナ#2のいずれの電波も漏らさないようにすることができる。
【0063】
送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数は、例2-1のように2個に限られない。3個以上の任意の数であってもよい。
【0064】
<例2-2>
例2-2では、送信アンテナ110及び受信アンテナ210それぞれのサブアンテナ数が4である場合の例を説明する。
【0065】
図16は、送信アンテナ110を正面から見た場合の構成を示す。受信アンテナ210も同様の構成を備える。図16に示すように、送信アンテナ110は、サブ送信アンテナ#1~#4を備え、それぞれのサブ送信アンテナが、図示のような複数アンテナ素子を有し、エアリービームを生成することが可能である。
【0066】
受信アンテナ210は、図16に示すものと同様のサブ受信アンテナ#1~#4を備える。サブ受信アンテナ#1~#4については、エアリービームの生成機能を有しなくてもよい。サブ送信アンテナ#1、#3は、サブ受信アンテナ#3、#1と対向し、サブ送信アンテナ#2、#4は、サブ受信アンテナ#4、#2と対向する。
【0067】
図17は、送信アンテナ110から送信されるエアリービームの強度分布(送信アンテナ110の対向面における強度分布)を示す図である。図17に示すように、各サブ送信アンテナのサイドローブが、他のサブアンテナが存在する側に生じる。つまり、各サブアンテナのサイドローブが4つのサブ送信アンテナの中心側に生じる。これにより、サブ送信アンテナの外側への干渉を抑制しつつ、空間多重数=4の空間多重伝送を行うことができる。
【0068】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態に係る技術により、ミリ波帯、sub-THz帯、あるいはTHz帯を用い、かつ、広帯域を用いる無線通信において、所望の領域以外には電波が漏れない環境の作成ができ、空間利用効率を向上することができる。つまり、一定の面積において通信できるユーザが増え、一定の面積(空間)にて行われる送受信の合計容量を向上することができる。また、電波が漏れない空間の生成ができる。
【0069】
<第1実施形態と第2実施形態の組み合わせについて>
エアリービーム間での干渉が生じないようにする第1実施形態の方式と、エアリービーム間の干渉を許容して複数エアリービームの間の無線通信路の外側への干渉が生じないようにする第2実施形態の方式を切り替えて実施してもよい。
【0070】
例えば、エアリービームの外側への干渉を許容できる環境においては、送信装置100は、第1実施形態の方式を用いることを決定し、第1実施形態のアンテナ制御を行う。また、エアリービームの外側への干渉を許容できない環境においては、送信装置100は、第2実施形態の方式を用いることを決定し、第2実施形態のアンテナ制御を行う。
【0071】
送信装置100は、方式を決定した際に、決定した方式を受信装置200へ通知する。受信装置200は、通知された方式に応じた受信処理を行う。例えば、受信装置200が、第2実施形態の方式を行うとの通知を受けた場合、送信アンテナ110からの信号受信において、干渉除去処理を実行する。
【0072】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を説明する。第3実施形態は、エアリービームを送信する送信アンテナ110を備えるシステム構成であればどのような構成にも適用可能である。第3実施形態を、第1実施形態、あるいは、第2実施形態に適用してもよい。
【0073】
送信装置100と受信装置200により通信を行う実環境において、送受信間距離が変化する場合には、その送受信間距離の変化に対応できることが必要である。従来の曲がらない電波を使用する場合、距離と関係なく送信アンテナ110と受信アンテナ120とを対面させることで、送受信を行うことができた。
【0074】
一方、エアリービームのように曲がる電波を用いる場合には、電波の軌跡が曲がるため、送信アンテナ110から送信されるエアリービームのメインローブが受信アンテナ120の位置に届くようにする必要がある。
【0075】
<概要>
上記の課題を解決するために、第3実施形態では、送信装置100において機械的な距離調整機構を備える例を例3-1として説明し、送信アンテナ110におけるエアリービーム生成のための初期位相を調整することで、エアリービームが届く位置を調整する例3-2について説明する。
【0076】
例3-1と例3-2は組み合わせて実施することを想定しているが、例3-1と例3-2はそれぞれ単独で実施してもよい。
【0077】
具体的には、例3-1において、機械的な距離調整機構により、受信アンテナ210がエアリービームのメインローブを受信できるように、曲がる電波を斜めに送信する度合いを調整する。また、例3-2において、エアリービーム生成の初期位相の調整により、受信アンテナ210がエアリービームのメインローブを受信できるように、エアリービームの曲がる度合いを調整する。
【0078】
例3-1、例3-2のいずれの場合でも、距離取得部150により、送信アンテナ110と受信アンテナ210との間の距離を取得することにより、その距離に基づいて、制御部140は、送信アンテナ110の角度、あるいは、送信アンテナ110の初期位相を決定することができる。また、その距離に基づいて、制御部140は、送信アンテナ110の角度と送信アンテナ110の初期位相の両方を決定してもよい。以下、各例について説明する。
【0079】
<例3-1>
例3-1では、前述した距離調整機構として、送信装置100は、送信アンテナ110の物理的な角度(向き)を調整する角度調整機構(角度調整部)を備える。角度調整により、受信側へ適切にエアリービームを送信するイメージを図18に示す。図18は、一方の側に送信装置と受信装置があり、他方の側にも送信装置と受信装置があり、それぞれ、送信アンテナの角度を調整することで、エアリービームのメインローブが受信アンテナに届くようにしている。
【0080】
図19に角度調整機構による角度調整の例を示す。ここでは、送信アンテナ110と送信装置100の本体との接続部分に角度調整機構があることを想定している。
【0081】
一例として、送信装置100及び受信装置200がそれぞれ地面からある高さに備えられているとし、角度調整機構による角度調整前においては、送信アンテナ110は、水平方向を向いているとする。つまり、送信アンテナ110を平面として見た場合のその平面の垂線が地表面と平行である
図19(a)は、角度調整機構により、送信アンテナ110をθ1度だけ上向きに傾けた状態を示す。図19(b)は、角度調整機構により、送信アンテナ110をθ2度だけ上向きに傾けた状態を示す。図19(c)は、角度調整機構により、送信アンテナ110をθ3度だけ上向きへ傾けた状態を示す。θ1<θ2<θ3である。
【0082】
例えば、図19(a)~(c)におけるエアリービームはいずれも、地面側へ曲がっているとして、曲がり度合いの大きさの順序が図19の(a)<(b)<(c)であるとする。この場合、(a)の送信アンテナ110が最も遠い位置にある受信アンテナ210へ電波を送信でき、(c)の送信アンテナ110が最も近い位置にある受信アンテナ210へ電波を送信できる。(b)の送信アンテナ110はこれらの中間にある受信アンテナ210へ電波を送信できる。図20は、θ1=5度、θ2=10度、θ3=15度である場合のエアリービームのメインローブの受信側への到達イメージを示している。
【0083】
例えば、図20の例において、距離取得部150が、送信アンテナ110と受信アンテナ210との距離として、(a)に示す距離Aを取得した場合、制御部140は、送信アンテナ110の初期位相を図20(a)に示すようなエアリービームの曲がり度合いになるように制御するとともに、送信アンテナ110の角度を図20(a)に示す角度とする。
【0084】
また、例えば、送信アンテナ110の初期位相が図20(a)に示すようなエアリービームの曲がり度合いになることが決まっている場合において、距離取得部150が、送信アンテナ110と受信アンテナ210との距離として、(a)に示す距離Aを取得した場合、制御部140は、送信アンテナ110の角度を図20(a)に示す角度とする。
【0085】
また、例えば、送信アンテナ110の初期位相が図20(a)に示すようなエアリービームの曲がり度合いになることが決まっている場合において、距離取得部150が、送信アンテナ110と受信アンテナ210との距離として、(a)に示す距離Aよりも短い距離を取得した場合、制御部140は、送信アンテナ110の角度を図20(a)に示す角度よりも小さな角度とする。
【0086】
<例3-2>
図4に示したような複数のアンテナ素子からなる送信アンテナ110の構成を用いる場合、各アンテナ素子は、可変位相器を備える。各アンテナ素子における初期位相(送信される電磁波(電波)の初期位相)の設定により、エアリービームの曲がり度合いを設定できる。また、図5に示すような位相変調レンズ(位相変調板と呼んでもよい)を使用する送信アンテナ110の構成を用いる場合において、送信アンテナ110をx-y平面と見た場合に、位相変調レンズにおける各x-y座標位置に与える初期位相の設定により、エアリービームの曲がり度合いを設定できる。なお、位相変調レンズを用いる場合は、それぞれ異なる初期位相分布を持つ複数の位相変調レンズを用意しておき、所望の曲がり度合いの位相変調レンズを選択して使用する。
【0087】
以下、送信アンテナ110から送信される電波に与える初期位相の設定方法について説明する。
【0088】
i(∂φ/∂ξ)+(1/2)(∂φ/∂s)=0
上記のシュレディンガー方程式の1つの解として、エアリービームの挙動を規定する下記のAiry accelerating solution(以降、Airy式と呼ぶ)が得られる。
【0089】
φ(ξ,s)=Ai(s-(ξ/2))exp(i(sξ/2)-i(ξ/12))
Airy式における記号の意味は下記のとおりである。
【0090】
Ai:Airy関数(Airy function)
φ:電界エンベロープ(electric field envelope)
s=x/x:無次元トラバース座標(dimensionless traverse coordinate)
:任意のトラバーススケール(arbitrary traverse scale)
ξ=z/kx :正規化伝搬距離(normalized propagation distance)
k=2πn/λ
ここでは、1次元のアンテナを想定しており、xは送信アンテナの方向(アンテナ素子が並ぶ方向)の軸の位置であり、zは、電波が伝搬する方向の位置(距離)である。
【0091】
Airy式は、電波(メインローブ)が放物線の軌道に沿って伝搬する場合の電波の強度と位相を表し、結果的に空間中において電波が曲がる軌道を表す式である。このようにAiry式に現れる電波等をエアリービームと称する。Airy式により、エアリービームの初期条件が分かれば、エアリービームがどのような放物線の軌道となるかを知ることができる。逆に、エアリービームがある放物線の軌道になるために、どのような初期条件が必要であるかを知ることができる。初期条件とはここでは初期位相である。
【0092】
例3-2では、後者の特徴を利用する。つまり、エアリービームの所望の軌跡(曲がる度合い)に対して、その初期条件となる各アンテナ素子(送信アンテナをx-y平面と見たときのx-y座標点)の初期位相がどうあるべきかを計算し、送信アンテナ110がその位相の電波を出力するように設定を行うことで、所望の軌跡を持つエアリービーム(曲がる電波)を生成する。エアリービームがある放物線の軌道になるために、どのような初期条件が必要であるかを知ること自体に関しては、Airy式を用いて計算すれば求めることができる。例3-2における具体的な方法を以下で説明する。
【0093】
例3-2では、一例として、前述したAiry式におけるscale factorであるxを用いることで所望の軌跡を計算する。図21図22を用いて説明する。
【0094】
ここでは、図21に示すエアリービームの軌跡(曲がる度合い)を基準として、図22に示すように、エアリービームの軌跡(曲がる度合い)を調整する。また、ここでは、図21において、x軸に送信アンテナがあり、点Aに受信アンテナがあり、図22において、x軸の送信アンテナがあり、点Bに受信アンテナがあることを想定し、送信アンテナから受信アンテナまでの距離について、図21の状態を基準として、図22における所望の距離を得るように初期位相を設定することを考える。
【0095】
図21のx軸(-20、0、20の上の横線)に、40cmのサイズ(1次元では40cmの長さ)を持つ送信アンテナがあるとし、便利上、その送信アンテナにおける位置(x座標)を-20から20として表す。図22も同様である。z軸がアンテナからの放射された電波の距離を表す。便宜上、図21におけるz軸方向については、0から1000までとし、図22におけるz軸方向については、0から2000までとする。
【0096】
図21に示す例では、z=0の場合、x=0で電波のメインローブ(強度が最大値となるところ)が存在し、電波の伝搬によって、z=1000の場合は、x=20に該当する場所がメインローブとなる。
【0097】
一方、図22の例では、z=0の場合、図21と同様にx=0で電波のメインローブがあるが、z=1000の場合は、x=5に該当する場所の付近がメインローブとなり、z=2000の場合は、x=20に該当する場所がメインローブとなる。よって、図21の場合と比較して、図22の場合、エアリービームの曲がる度合いが変わり、同一x座標位置(ここではx=20)に対する、エアリービーム(メインローブ)の到達距離が長くなったことがわかる。このような調整のために、送信アンテナの初期位相を設定する方法の例について、以下で説明する。
【0098】
ここでは、基準の曲がり方に対応する初期位相が既に計算されていることを前提とする。例えば、送信アンテナのアンテナサイズが40cm×40cmの場合において、送信アンテナから垂直方向に10mの距離で20cm曲がるAiry beamを生成するための送信アンテナにおける初期位相はすでに計算されているとする。この想定は、図21において、x軸からA点までの距離が10mであることに相当する。
【0099】
上記の予め求める初期位相の計算に関しては、制御部140が、上述したAiry式を2次元化した式から直接求めてもよいし、外部から送信装置100の制御部140に入力されることとしてもよい。基準に対する初期位相を計算する際には、上記のAiry式において、scale factorであるxを1とする。
【0100】
ここで、基準とした距離が得られるxの位置における所望の距離が、基準とした距離(上記の例では10m)のa倍(図21を基準とした図22の場合、a=2)であるとし、基準とした距離のa倍の距離を得ることができる初期位相の設定方法の例を説明する。
【0101】
上記のAiry式で、kは、波長の長さなどにより計算されるが、同じ送信アンテナ素子を用いて距離のみを変える場合は、kの値は同じであるため、以下の説明では簡単のためk=1とする。
【0102】
基準距離のa倍の距離を得るためには、scale factorであるxを√a(ルートa)と設定すればよい。x=√aとすると、s=x/√aとなる。つまり、初期位相を1/√aでスケーリングして設定することで基準距離のa倍の距離を得ることができる。具体的には、a=2の場合、基準(例:図21)における位置xでの初期位相を、所望状態(例:図22)における位置x/√2での初期位相として設定する。例えば、基準(例:図21)におけるx軸の位置10での初期位相が30°であるとすると、所望状態(例:図22)におけるx軸の位置10/√2での初期位相を30°として設定する。
【0103】
なお、基準状態を図21、所望状態を図22とする場合、図22におけるx=-20/√2未満の位置とx=20/√2を超える位置における位相の値は、図21には存在しない位置の位相の値に相当する。
【0104】
このような場合、図22において、x=-20/√2~20/√2の範囲のアンテナ素子のみを使用してもよい。また、基準のほうのアンテナサイズを(40×√2)×(40×√2)とし、このサイズの場合に、送信アンテナから垂直方向に10mの距離で、xの方向に20cm曲がるエアリービームを生成するための初期位相を、Airy式を用いて計算し(又は外部から入力し)、この初期位相を所望状態(例:図22)を得るために1/√aでスケーリングして設定することとしてもよい。
【0105】
上記の説明では、説明を分かり易くするために、x軸のみを持つ1次元アンテナを例として説明したが、x軸とy軸を持つ2次元アンテナについては、Airy式において、xをyに置換することでyに関する式を得ることができる。
【0106】
この場合、送信アンテナの(x,y)座標の点の位相は、xに関する式から得られた位相と、yに関する式から得られた位相を合成(掛け算)することにより得ることができる。
【0107】
ここで、図23に示すようにA×Aのサイズの送信アンテナ110について考える。このとき、図24に示すように、送信アンテナから距離dにあるC点に置かれた受信アンテナにエアリービームのメインローブを届けたいとする。
【0108】
この場合、図24に示す角度θは、cos=A/dとなるように設定する。つまり、θ=arccos(A/d)とする。これにより、送信アンテナ110の角度を決定できる。dとθが分かれば、図24に示すFの長さがわかるので、前述した方法で初期位相を計算できる。計算した初期位相を送信アンテナ110に設定する。
【0109】
<第3実施形態の効果>
第3実施形態に係る技術により、送信アンテナと受信アンテナとの間の距離が可変である場合にも、エアリービームを用いた無線通信を実現できる。
【0110】
(第1実施形態のまとめ)
第1実施形態に関して、本明細書には、少なくとも下記各項の送信装置、及び無線空間多重伝送方法が開示されている。
(第1項)
それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有し、
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナにおけるサブ送信アンテナから送信される電波により干渉が生じないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う
送信装置。
(第2項)
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナに対応する複数のサブ受信アンテナが備えられており、
前記複数のサブ送信アンテナにおける各サブ送信アンテナは、送信するエアリービームのサイドローブが、対応するサブ受信アンテナ以外のサブ受信アンテナに届かないように、エアリービームを送信する
第1項に記載の送信装置。
(第3項)
前記送信アンテナは、4つ以上のサブ送信アンテナを備え、前記送信装置は、4以上の空間多重数による空間多重を行う
第1項又は第2項に記載の送信装置。
(第4項)
それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有する送信装置が実行する無線空間多重伝送方法であって、
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナにおけるサブ送信アンテナから送信される電波により干渉が生じないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う
無線空間多重伝送方法。
【0111】
(第2実施形態のまとめ)
第2実施形態に関して、本明細書には、少なくとも下記各項の送信装置、及び無線空間多重伝送方法が開示されている。
(第1項)
それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有し、
前記複数のサブ送信アンテナから送信される電波が、前記複数のサブ送信アンテナと受信側との間の無線通信路の外側へ漏れないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う
送信装置。
(第2項)
受信側において、前記複数のサブ送信アンテナに対応する複数のサブ受信アンテナが備えられており、
前記複数のサブ送信アンテナにおける各サブ送信アンテナは、送信するエアリービームのサイドローブが、前記無線通信路の内側に生じるように、エアリービームを送信する
第1項に記載の送信装置。
(第3項)
前記送信アンテナは、4つ以上のサブ送信アンテナを備え、前記送信装置は、4以上の空間多重数による空間多重を行う
第1項又は第2項に記載の送信装置。
(第4項)
それぞれがエアリービームを送信する複数のサブ送信アンテナを備える送信アンテナを有する送信装置が実行する無線空間多重伝送方法であって、
前記複数のサブ送信アンテナから送信される電波が、前記複数のサブ送信アンテナと受信側との間の無線通信路の外側へ漏れないように、前記複数のサブ送信アンテナから送信される前記複数のエアリービームを用いた空間多重を行う
無線空間多重伝送方法。
【0112】
(第3実施形態のまとめ)
第3実施形態に関して、本明細書には、少なくとも下記各項の送信装置、及び送信方法が開示されている。
(第1項)
エアリービームを送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナと、前記エアリービームを受信する受信アンテナとの間の距離を取得する距離取得部と、
前記距離に応じて、前記送信アンテナの角度、又は、前記送信アンテナから送信される電波に与える初期位相を調整する制御部と、
を備える送信装置。
(第2項)
前記制御部は、前記距離と前記エアリービームの曲がり度合いに応じて、前記角度を調整する
第1項に記載の送信装置。
(第3項)
前記制御部は、基準となる初期位相と、前記距離に応じたスケールファクタを用いて、前記初期位相を決定する
第1項又は第2項に記載の送信装置。
(第4項)
エアリービームを送信する送信アンテナを備える送信装置が実行する送信方法であって、
前記送信アンテナと、前記エアリービームを受信する受信アンテナとの間の距離を取得する距離取得ステップと、
前記距離に応じて、前記送信アンテナの角度、又は、前記送信アンテナから送信される電波に与える初期位相を調整する制御ステップと、
を備える送信方法。
【0113】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0114】
100 送信装置
110 送信アンテナ
120 送信部
130 信号処理部
140 制御部
150 距離取得部
200 受信装置
210 受信アンテナ
220 受信部
230 信号処理部
240 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24