(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】圧延材
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20241126BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20241126BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 630C
C22F1/00 630G
C22F1/00 602
C22F1/00 682
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 694A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
(21)【出願番号】P 2024515960
(86)(22)【出願日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2023015144
(87)【国際公開番号】W WO2023214503
(87)【国際公開日】2023-11-09
【審査請求日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2022075897
(32)【優先日】2022-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】堀部 孝広
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公康
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-055749(JP,A)
【文献】特開2010-111928(JP,A)
【文献】特開2007-314834(JP,A)
【文献】特開2009-228053(JP,A)
【文献】特開2000-239800(JP,A)
【文献】E-Metals,β153(15V-3Cr-3Al-3Sn)板-チタン合金板,β153(15V-3Cr-3Al-3Sn)板-チタン合金板,日本,E-Metals,2021年,https://www.e-metals.net/product/200821/
【文献】チタンクリエーター福井,ベータチタン(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al)の平線(テープ加工),ベータチタン(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al)の平線(テープ加工),日本,チタンクリエーター福井,2023年06月08日,https://tic-fukui.jp/1664
【文献】チタンクリエーター福井,β-Ti15-3-3-3(ベータチタン(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al),β-Ti15-3-3-3(ベータチタン(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al),日本,チタンクリエーター福井,2023年06月08日,https://tic-fukui.jp/1156
【文献】MM-Lab.,チタンの合金について,チタン素材について,日本,MM-Lab.,2021年,https://www.atuen.com/mml/entry510.html
【文献】新家光雄、小林俊郎、本田弘之、大薮行俊,Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al合金の強度・靱性と加工熱処理,鉄と鋼,78年/12号,日本,一般社団法人日本鉄鋼協会,1992年,1862-1869,https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane1955/78/12/78_12_1862/_pdf
【文献】一般社団法人日本チタン協会,物理的性質,日本,一般社団法人日本チタン協会,2017年,http://www.titan-japan.com/technology/physical_properties.html
【文献】NGKファインモールド,ベリリウム銅の形状、用途、関連規格、各種ベリリウム銅合金の化学成分、特性,製品紹介 素材(ベリリウム銅),日本,NGKファインモールド,2023年06月08日,https://www.ngk-fine-molds.co.jp/seihin/sozai/techdata/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C22C 14/00
C22C 9/00-9/10
C22F 1/18
C22F 1/00
B21B 3/00
G09F 9/00-9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲または湾曲が可能な部材に用いられる圧延材であって、
合金または純金属により構成され、
以下の式(1)で求められる値を繰り返しの曲げに対する耐久性の指標値とするとき、前記指標値が0.014HV/GPa以上であり、
厚さが0.03mm以下であるとともに、屈曲または湾曲可能な曲げ半径の実測値の最大値が、2.1mm以下である、圧延材。
【数1】
【請求項2】
前記指標値が、0.019HV/GPa以上である、請求項1に記載の圧延材。
【請求項3】
前記純金属は、純チタンである、請求項1に記載の圧延材。
【請求項4】
前記合金は、ベータ型チタン合金、オーステナイト系ステンレス、または、ベリリウム銅である、請求項1に記載の圧延材。
【請求項5】
前記合金が前記ベータ型チタン合金であって、
前記ベータ型チタン合金は、14.0質量%以上16.0質量%以下のVと、2.5質量%以上3.5質量%以下のCrと、2.5質量%以上3.5質量%以下のSnと、2.5質量%以上3.5質量%以下のAlとから構成される、請求項4に記載の圧延材。
【請求項6】
以下の式(2)で求められる値を圧延材が屈曲可能または湾曲可能な最小曲げ半径の予測値とするとき、圧延材の厚さが0.03mmの場合に前記最小曲げ半径の予測値が2.14mm以下である、請求項1に記載の圧延材。
【数2】
【請求項7】
表示装置の表示部を支持する屈曲または湾曲が可能な支持部材に用いられる、請求項1に記載の圧延材。
【請求項8】
前記指標値が、0.014HV/GPa以上0.029HV/GPa以下である、請求項1に記載の圧延材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延材に関し、特に、屈曲または湾曲が可能な部材に用いられる圧延材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屈曲または湾曲が可能な部材が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
たとえば、特開2016-59030号公報には、フレキシブルディスプレイと、フレキシブルディスプレイを支持する支持部材とを備える、フレキシブルディスプレイ装置が記載されている。特開2016-59030号公報では、支持部材は、金属板状の本体を含み、フレキシブルディスプレイとともに弾性変形して屈曲または湾曲が可能に構成されている。この金属板状の本体を含む支持部材は、フレキシブルディスプレイとともに繰り返し曲げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特開2016-59030号公報には開示されていないが、デザイン性と省スペース化との観点から、たとえば、支持部材の本体の金属板のような、フレキシブルディスプレイとともに弾性変形して屈曲または湾曲が可能に構成される部材には、その部材を曲げる曲げ半径を、より小さくすることが望まれている。しかしながら、曲げ半径を小さくすることに伴い、その部材(金属板)にかかる曲げ応力が大きくなる。そのため、繰り返しの曲げによって、その部材(金属板)にかかる曲げ応力に対する耐久性に優れる部材が求められている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、弾性変形による繰り返しの曲げによって金属板(圧延材)にかかる曲げ応力に対する耐久性に優れる圧延材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、弾性変形による繰り返しの曲げに対する耐久性を向上させるためには、繰り返しの曲げによる応力が多くの回数かかったとしても破断に至らない疲労限度を大きくするとともに、応力による歪の大きさを表す弾性係数を小さくすることが効果的であることを見出した。そして、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、この発明の一の局面による圧延材は、屈曲または湾曲が可能な部材に用いられる圧延材であって、合金または純金属により構成され、以下の式(1)で求められる値を繰り返しの曲げに対する耐久性の指標値とするとき、指標値が0.014HV/GPa以上であ
り、厚さが0.03mm以下であるとともに、屈曲または湾曲可能な曲げ半径の実測値の最大値が、2.1mm以下である。
【数1】
【0009】
この発明の一の局面による圧延材は、指標値=(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)÷弾性係数を繰り返しの曲げに対する耐久性の指標値とするとき、この指標値が0.014HV/GPa以上である。ここで、0.0048×ビッカース硬さ+0.21は、疲労限度の値とみなすことができることを本願発明者は見出している。そのため、この指標値が0.014HV/GPa以上である場合は、疲労限度が十分に大きくなり、繰り返しの曲げに対する耐久性を高くすることができる。また、弾性係数は、曲げ応力による歪の大きさを表すため、弾性係数を小さくすることにより歪が小さくなり繰り返しの曲げに起因する破断が生じることを抑制することができる。この結果、繰り返しの曲げによって圧延材にかかる曲げ応力に対する耐久性に優れる圧延材を得ることができる。また、厚さが0.03mm以下であるとともに、屈曲または湾曲可能な曲げ半径の実測値の最大値が、2.1mm以下である。これにより、圧延材の厚さが十分小さいとともに、曲げ半径を十分に小さくすることができるため、屈曲式または湾曲式の携帯用機器に圧延材を用いることができる。
【0010】
上記一の局面による圧延材において、好ましくは、指標値が、0.019HV/GPa以上である。このように構成すれば、繰り返しの曲げに対する耐久性が十分に大きいため、曲げ半径をさらに小さくすることができることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0011】
上記一の局面による圧延材において、好ましくは、純金属は、純チタンである。このように構成すれば、純チタンを用いることにより、指標値を0.014HV/GPa以上にすることが可能であることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0012】
上記一の局面による圧延材において、好ましくは、合金は、ベータ型チタン合金、オーステナイト系ステンレス、または、ベリリウム銅である。このように構成すれば、ベータ型チタン合金、オーステナイト系ステンレス、または、ベリリウム銅を用いることにより、指標値を0.014HV/GPa以上にすることが可能であることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0013】
この場合、好ましくは、合金がベータ型チタン合金であって、ベータ型チタン合金は、14.0質量%以上16.0質量%以下のVと、2.5質量%以上3.5質量%以下のCrと、2.5質量%以上3.5質量%以下のSnと、2.5質量%以上3.5質量%以下のAlとから構成される。このように構成すれば、圧延材の指標値を0.014HV/GPa以上にすることが可能であるとともに、たとえば、厚さが0.03mmの圧延材の曲げ半径を3mm以下にすることが可能であることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0014】
上記一の局面による圧延材において、好ましくは、以下の式(2)で求められる値を圧延材が屈曲可能または湾曲可能な最小曲げ半径の予測値とするとき、圧延材の厚さが0.03mmの場合に最小曲げ半径の予測値が2.14mm以下である。
最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)・・・(2)
【0015】
このように構成すれば、最小曲げ半径の予測値が2.14mm以下になるように弾性係数またはビッカース硬さを調整することにより、曲げ半径を小さくすることが可能である。また、最小曲げ半径を予測することにより、実験を行わなくとも圧延材を折り曲げまたは屈曲が可能と考えられる最小曲げ半径の値を得ることができるため、容易に所望の圧延材を設計することができる。
【0016】
上記一の局面による圧延材において、好ましくは、圧延材は、表示装置の表示部を支持する屈曲または湾曲が可能な支持部材に用いられる。このように構成すれば、表示部の繰り返しの曲げ変形に伴って屈曲または湾曲を繰り返す支持部材の繰り返しの曲げに対する耐久性を向上させることができる。
【0018】
上記一の局面による圧延材において、好ましくは、指標値が、0.014HV/GPa以上0.029HV/GPa以下である。指標値をこの範囲にすれば、曲げ半径を十分に小さくできることを本願発明者は後述する実験で知得している。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弾性変形による繰り返しの曲げによって圧延材(金属板)にかかる曲げ応力に対する耐久性に優れる圧延材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態による圧延材を示す図である。
【
図2】屈曲が可能な表示装置の一例を示す図である。
【
図3】湾曲が可能な表示装置の一例を示す図である。
【
図4】ビッカース硬さと疲労限度との関係を示すグラフである。
【
図5】圧延材の製造方法を説明するための図である。
【
図6】ロール方向および幅方向を説明するための図である。
【
図7】指標値と、曲げ半径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
(圧延材の構成)
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態による圧延材100について説明する。
【0023】
図1に示すように、圧延材100は、合金または純金属により構成されている。合金としては、チタン合金、ステンレス、または銅合金である。純金属は、TR270Cなどの純チタンである。
【0024】
チタン合金は、立体構造として体心立方晶を有するベータ型チタン合金である。ベータ型チタン合金は、チタン(Ti)に加えて、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)のうち少なくとも1つを含む。ベータ型チタン合金は、たとえば、14.0質量%以上16.0質量%以下のVと、2.5質量%以上3.5質量%以下のCrと、2.5質量%以上3.5質量%以下のSnと、2.5質量%以上3.5質量%以下のAlとから構成され、質量%で、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alなどが挙げられる。
【0025】
その他のベータ型チタン合金としては、たとえば、質量%で、Ti-15Mo-5Zr、Ti-15Mo-5Zr-3Al、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn、Ti-4Mo-8V-6Cr-3Al-4Zr、Ti-13V-11Cr-3Al、Ti-29Nb-13Ta-4.6Zr、Ti-36Nb-2Ta-3Zr-0.3O、Ti-5Fe-3Nb-3Zrなどが挙げられる。
【0026】
ステンレスとしては、オーステナイト系ステンレスを含む。オーステナイト系ステンレスとしては、SUS301と、SUS316Lと、質量%でFe-19Cr-11Mn-6Ni-0.35N-0.09C(YUS130S)を含む。銅合金は、ベリリウム銅合金を含む。
【0027】
圧延材100は、弾性変形による屈曲または湾曲が可能な部材に用いられる。圧延材100の厚さは、好ましくは、0.03mm以下であり、さらに好ましくは、0.02mm以下である。
【0028】
本実施形態による圧延材100は、弾性変形による繰り返しの曲げによって内部に応力が生じるが、その応力によって破壊(疲労破壊)に到るまでの繰り返し数(曲げ回数)が大きくなるように、疲労限度が大きいほうが好ましい。
【0029】
本実施形態では、以下の式(1)で求められる値を繰り返しの曲げに対する耐久性の指標値とする。指標値は、0.014HV/GPa以上である。指標値は、好ましくは、0.019HV/GPa以上である。また、指標値は、0.014HV/GPa以上0.029HV/GPa以下の範囲に設定されてもよい。
指標値=(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)÷弾性係数・・・(1)
【0030】
本実施形態では、以下の式(2)で求められる値を圧延材100が弾性変形による屈曲可能または湾曲可能な最小曲げ半径の予測値とする。本願発明では、圧延材100の厚さが0.03mmの場合に最小曲げ半径の予測値が2.14mm以下となるように、弾性係数とビッカース硬さとが調整される。
最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)・・・(2)
【0031】
本実施形態では、好ましくは、圧延材100の最小曲げ半径が2.1mm以下、より好ましくは、1.5mm以下である。曲げる方向は、ロール方向でもよく、幅方向でもよい。なお、
図6に示すように、ローラ11によって圧延材100が圧延される方向をロール方向(RD)とし、ロール方向と直交する方向を幅方向(TD)とする。
【0032】
本実施形態では、圧延材100の厚さが、0.03mm以下であるとともに、弾性変形による屈曲または湾曲可能な曲げ半径の実測値の最大値が、2.1mm以下であるのが好ましい。
【0033】
図2および
図3に示すように、圧延材100は、通信機器、テレビ、または、コンピュータを含む表示装置200に用いられる。表示装置200は、表示部1と、表示部1を支持する支持部材2とを備える。表示部1は、有機EL(Electro-Luminescence)を利用して画像を表示する。支持部材2は、圧延材100により構成される。表示装置200は、弾性変形による屈曲または湾曲が可能である。
【0034】
図2に示すように、弾性変形による屈曲が可能な表示装置200は、表示部1および支持部材21が屈曲するため、折り畳むことが可能である。
図2の場合、圧延材100を表示部1の周囲を囲むような枠状に形成することにより、支持部材21が製造される。
【0035】
図3に示すように、弾性変形による湾曲が可能な表示装置200は、表示部1および支持部材22が湾曲するため、軸部3を中心に巻き取ることが可能である。
図3の場合、圧延材100をシート状に形成することにより、支持部材22が製造される。
【0036】
図4に基づいて、上記式(1)および(2)について説明する。本願発明者は、厚さ0.03mm(30μm)のチタン合金(圧延材)を用意し、曲げ半径1.2mmで曲げた際のチタン合金(圧延材)の表面応力の値が900MPaになる場合の疲労限度を破壊が生じない疲れ強さとして設定して、疲労限度(GPa)とビッカース硬さ(HV)との関係をプロットした。その結果、疲労限度とビッカース硬さとの間に比例関係が成り立ち、疲労限度σ´=(0.0024×ビッカース硬さ+0.1028)・・・式(3)という関係式が成り立つことを見出した。なお、この式(3)の実測値の誤差を示す決定計数R
2は、0.9818となり、1に近い値のため誤差が少なく、妥当な式であるといえる。
【0037】
ここで、最大曲げ応力σは、σ=t×E/2ρ・・・式(4)で表される。式中、tは、圧延材100の厚さであり、Eは、圧延材100の弾性係数であり、ρは曲げ半径である。本願発明者は、最大曲げ応力σと疲労限度σ´とが等しい時の曲げ半径ρが20万回繰り返しに耐久する最小の曲げ半径ρであると設定した。そして、式(3)と式(4)とからt×E/2ρ=(0.0024×ビッカース硬さ+0.1028)という式(5)を導き、式(5)を変形して、ρ=t×E/(0.0048×ビッカース硬さ+0.2056)という式を導き出した。そして、0.2056の小数第3位を四捨五入し0.21として、最小曲げ半径の予測式である式(2)を導き出した。また、(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)が大きいほど弾性変形による繰り返しの曲げに対する耐久性が高くなり、弾性係数が小さいほうが変形しやすく繰り返し曲げることが容易となるため、(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)÷弾性係数を指標値として設定した。
【0038】
(圧延材の製造方法)
図5に示すように、圧延材100は、合金または純金属に対して、ローラ11により第1圧延をした後、調質処理を行うことにより、指標が0.014HV以上になるように調整される。調質処理は、圧延と、焼鈍や時効処理などの熱処理とを含み、いずれかの工程を単独で行ってもよく、組み合わせて行ってもよい。たとえば、圧延のみを圧延率90%以上になるように行う。また、750℃以上850℃以下の温度で1分間焼鈍を行ってもよい。また、圧延率60%以上になるように圧延した後に450℃で1分以上4時間以下の範囲で熱処理を行ってもよい。
【0039】
<本実施形態の効果>
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0040】
本実施形態では、圧延材100は、合金または純金属により構成され、屈曲または湾曲が可能な部材に用いられる圧延材100であって、合金または純金属により構成され、以下の式(1)で求められる値を繰り返しの曲げに対する耐久性の指標値とするとき、前記指標値が0.014HV/GPa以上である。
指標値=(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)÷弾性係数・・・(1)
【0041】
ここで、0.0048×ビッカース硬さ+0.21は、疲労限度の値とみなすことができることを本願発明者は見出している。そのため、この指標値が0.014HV/GPa以上である場合は、疲労限度が十分に大きくなり、弾性変形による繰り返しの曲げに対する耐久性を高くすることができる。また、弾性係数は、曲げ応力による歪の大きさを表すため、弾性係数を小さくすることにより歪が小さくなり弾性変形による繰り返しの曲げに起因する破断が生じることを抑制することができる。この結果、弾性変形による繰り返しの曲げによって圧延材100にかかる曲げ応力に対する耐久性に優れる圧延材100を得ることができる。
【0042】
本実施形態では、指標値が、0.019HV/GPa以上である。これにより、弾性変形による繰り返しの曲げに対する耐久性が十分に大きいため、曲げ半径をさらに小さくすることができることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0043】
本実施形態では、純金属は、純チタンである。これにより、純チタンを用いることにより、指標値を0.014HV/GPa以上にすることが可能であることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0044】
本実施形態では、合金は、ベータ型チタン合金、オーステナイト系ステンレス、または、ベリリウム銅である。これにより、ベータ型チタン合金、オーステナイト系ステンレス、または、ベリリウム銅を用いることにより、指標値を0.014HV/GPa以上にすることが可能であるとともに、曲げ半径を3mm以下にすることが可能であることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0045】
本実施形態では、ベータ型チタン合金は、14.0質量%以上16.0質量%以下のVと、2.5質量%以上3.5質量%以下のCrと、2.5質量%以上3.5質量%以下のSnと、2.5質量%以上3.5質量%以下のAlとから構成される。これにより、圧延材の指標値を0.014HV/GPa以上にすることが可能であるとともに、たとえば、厚さが0.03mmの圧延材の曲げ半径を3mm以下にすることが可能であることを本願発明者は後述する実験により見出している。
【0046】
本実施形態では、以下の式(2)で求められる値を圧延材が屈曲可能または湾曲可能な最小曲げ半径の予測値とするとき、圧延材の厚さが0.03mmの場合に最小曲げ半径の予測値が2.14mm以下である。
最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)・・・(2)
【0047】
これにより、最小曲げ半径の予測値が2.14mm以下になるように弾性係数またはビッカース硬さを調整することにより、曲げ半径を小さくすることが可能である。また、最小曲げ半径を予測することにより、実験を行わなくとも圧延材100を弾性変形による折り曲げまたは屈曲が可能と考えられる最小曲げ半径の値を得ることができるため、容易に所望の圧延材100を設計することができる。
【0048】
本実施形態では、圧延材100は、表示装置200の表示部1を支持する屈曲または湾曲が可能な支持部材2に用いられる。これにより、表示部1の弾性変形による繰り返しの曲げ変形に伴って弾性変形による屈曲または湾曲を繰り返す支持部材2の繰り返しの曲げに対する耐久性を向上させることができる。
【0049】
本実施形態では、厚さが0.03mm以下であるとともに、屈曲または湾曲可能な曲げ半径の実測値の最大値が、2.1mm以下である。これにより、圧延材100の厚さが十分小さいとともに、曲げ半径を十分に小さくすることができるため、屈曲式または湾曲式の携帯用機器に圧延材100を用いることができる。
【0050】
本実施形態では、指標値が、0.014HV/GPa以上0.029HV/GPa以下である。指標値をこの範囲にすれば、弾性変形による曲げ半径を十分に小さくできることを本願発明者は後述する実験で知得している。
【0051】
[実施例]
以下に、上記実施形態に基づく比較実験(実施例および比較例)について説明する。
【0052】
表1に示すように、実施例1~27および比較例1~4について、ビッカース硬さと弾性係数とにより、弾性変形による繰り返しの曲げに対する耐久性の指標値を算出している。
【0053】
【0054】
表1には、実施例1~10を示す。実施例1~10では、圧延材100はベータ型チタン合金から構成される。
【0055】
具体的には、表1に示すように、実施例1~8は、質量%で、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる圧延材である。実施例9は、質量%で、Ti-15Mo-5Zrからなる圧延材である。実施例10は、質量%で、Ti-15Mo-5Zr-3Alからなる圧延材である。
【0056】
また、実施例1~10では、最終的な仕上げ(調質処理)が冷間圧延(第2圧延工程)である場合を、仕上記号として、Hで表す。最終的な仕上げ(調質処理)が焼鈍である場合を、仕上記号として、Oで表す。最終的な仕上げ(調質処理)において、圧延後に熱処理(たとえば保持時間が1時間を超える時効処理)が行われている場合を、仕上記号として、HTで表す。
【0057】
実施例1は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる調質処理(圧延率95%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例1では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が72GPaとなった。また、実施例1では、ビッカース硬さが316HVとなった。よって、実施例1の指標値は、0.0240HV/GPaとなる。
【0058】
実施例2は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる調質処理(圧延率95%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例2では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が90GPaとなった。また、実施例2では、ビッカース硬さが316HVとなった。よって、実施例2の指標値は、0.0192HV/GPaとなる。
【0059】
実施例3は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる調質処理(圧延率97%で圧延)後の圧延材(厚さ0.02mm、仕上記号:H)である。実施例3では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が69GPaとなった。また、実施例3では、ビッカース硬さが326HVとなった。よって、実施例3の指標値は、0.0257HV/GPaとなる。
【0060】
実施例4は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる調質処理(圧延率97%で圧延)後の圧延材(厚さ0.02mm、仕上記号:H)である。実施例4では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が84GPaとなった。また、実施例4では、ビッカース硬さが326HVとなった。よって、実施例4の指標値は、0.0211HV/GPaとなる。
【0061】
実施例5は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる調質処理後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:HT)である。実施例5では、調質処理として、圧延率95%で圧延した後に450℃で4時間保持する時効処理を行った。実施例5では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が109GPaとなった。また、実施例5では、ビッカース硬さが480HVとなった。よって、実施例5の指標値は、0.0231HV/GPaとなる。
【0062】
実施例6は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる調質処理後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:HT)である。実施例6では、調質処理として、圧延率95%で圧延した後に450℃で4時間保持する時効処理を行った。実施例6では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が121GPaとなった。また、実施例6では、ビッカース硬さが480HVとなった。よって、実施例6の指標値は、0.0208HV/GPaとなる。
【0063】
実施例7は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる焼鈍(800℃で1分間保持)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:O)である。実施例7では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が80GPaとなった。また、実施例7では、ビッカース硬さが262HVとなった。よって、実施例7の指標値は、0.0183HV/GPaとなる。
【0064】
実施例8は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alからなる焼鈍(800℃で1分間保持)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:O)である。実施例8では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が94GPaとなった。また、実施例8では、ビッカース硬さが262HVとなった。よって、実施例8の指標値は、0.0156HV/GPaとなる。
【0065】
実施例9は、Ti-15Mo-5Zrからなる焼鈍(850℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例9の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が78GPaであり、ビッカース硬さが280HVである。よって、実施例9の指標値は、0.0199HV/GPaとなる。
【0066】
実施例10は、Ti-15Mo-5Zr-3Alからなる焼鈍(850℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例10の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が100GPaであり、ビッカース硬さが275HVである。よって、実施例10の指標値は、0.0153HV/GPaとなる。
【0067】
【0068】
表2には、実施例11~20を示す。実施例11~17において、圧延材100はベータ型チタン合金から構成される。また、実施例18~20において、圧延材100は、純Tiから構成される。
【0069】
具体的には、表2に示すように、実施例11は、質量%で、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Snからなる圧延材である。実施例12は、質量%で、Ti-4Mo-8V-6Cr-3Al-4Zrからなる圧延材である。実施例13は、質量%で、Ti-13V-11Cr-3Alからなる圧延材である。実施例14は、質量%で、Ti-29Nb-13Ta-4.6Zrからなる圧延材である。実施例15および実施例16は、質量%で、Ti-36Nb-2Ta-3Zr-0.3Oからなる圧延材である。実施例17は、質量%で、Ti-5Fe-3Nb-3Zrからなる圧延材である。実施例18および実施例19は、TR270C(JIS H4600:2012)からなる圧延材である。実施例20は、TR550C(JIS H4600:2012)からなる圧延材である。
【0070】
また、実施例11~20では、最終的な仕上げ(調質処理)が冷間圧延(第2圧延工程)である場合を、仕上記号として、Hで表す。最終的な仕上げ(調質処理)が焼鈍である場合を、仕上記号として、Oで表す。
【0071】
実施例11は、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Snからなる焼鈍(850℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例11の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が79GPaであり、ビッカース硬さが240HVである。よって、実施例11の指標値は、0.0172HV/GPaとなる。
【0072】
実施例12は、Ti-4Mo-8V-6Cr-3Al-4Zrからなる焼鈍(750℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例12の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が104GPaであり、ビッカース硬さが367HVである。よって、実施例12の指標値は、0.0190HV/GPaとなる。
【0073】
実施例13は、Ti-13V-11Cr-3Alからなる焼鈍(800℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例13の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が101GPaであり、ビッカース硬さが300HVである。よって、実施例13の指標値は、0.0163HV/GPaとなる。
【0074】
実施例14は、Ti-29Nb-13Ta-4.6Zrからなる焼鈍(800℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例14の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が60GPaであり、ビッカース硬さが280HVである。よって、実施例14の指標値は、0.0259HV/GPaとなる。
【0075】
実施例15は、Ti-36Nb-2Ta-3Zr-0.3Oからなる調質処理(圧延率95%で圧延)後の圧延材(厚さ0.10mm、仕上記号:H)である。実施例15では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が75GPaとなった。また、実施例15では、ビッカース硬さが313HVとなった。よって、実施例15の指標値は、0.0228HV/GPaとなる。
【0076】
実施例16は、Ti-36Nb-2Ta-3Zr-0.3Oからなる焼鈍(850℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例16の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が50GPaであり、ビッカース硬さが250HVである。よって、実施例16の指標値は、0.0282HV/GPaとなる。
【0077】
実施例17は、Ti-5Fe-3Nb-3Zrからなる焼鈍(900℃で1分間保持)後の圧延材(仕上記号:O)である。実施例17の圧延材は、たとえば、ロール方向(圧延方向)の弾性係数が82GPaであり、ビッカース硬さが375HVである。よって、実施例17の指標値は、0.0245HV/GPaとなる。
【0078】
実施例18は、TR270C(JIS H4600:2012)からなる調質処理(圧延率94%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例18では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が93GPaとなった。また、実施例18では、ビッカース硬さが251HVとなった。よって、実施例18の指標値は、0.0152HV/GPaとなる。
【0079】
実施例19は、TR270C(JIS H4600:2012)からなる調質処理(圧延率94%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例19では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が95GPaとなった。また、実施例19では、ビッカース硬さが251HVとなった。よって、実施例19の指標値は、0.0149HV/GPaとなる。
【0080】
実施例20は、TR550C(JIS H4600:2012)からなる調質処理(圧延率65%で圧延)後の圧延材(厚さ0.10mm、仕上記号:H)である。実施例20では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が105GPaとなった。また、実施例20では、ビッカース硬さが300HVとなった。よって、実施例20の指標値は、0.0157HV/GPaとなる。
【0081】
【0082】
表3には、実施例21~27と、比較例1~4とを示す。実施例21~26において、圧延材100はステンレス鋼から構成される。また、実施例27において、圧延材100は、ベリリウム銅合金から構成される。また、比較例1において、圧延材は、純チタンから構成される。また、比較例2および3において、圧延材は、ステンレス鋼から構成される。また、比較例4において、圧延材は、アルミニウム合金から構成される。
【0083】
具体的には、表3に示すように、実施例21~23は、SUS301(JIS G4313:2011)からなる圧延材である。実施例24は、SUS316L(JIS G4305:2011)からなる圧延材である。実施例25および26は、YUS130S(質量%で、Fe-19Cr-11Mn-6Ni-0.35N-0.09C)からなる圧延材である。実施例27は、C1720(JIS H3130:2018)からなる圧延材である。比較例1は、TR550C(JIS H46400:2012)からなる圧延材である。比較例2は、SUS301(JIS G4313:2011)からなる圧延材である。比較例3は、SUS316L(JIS G4305:2011)からなる圧延材である。比較例4は、A5052(JIS H4000:2014)からなる圧延材である。
【0084】
また、実施例21~26および比較例1~4では、最終的な仕上げ(調質処理)が冷間圧延(第2圧延工程)である場合を、仕上記号として、Hで表す。最終的な仕上げ(調質処理)が焼鈍である場合を、仕上記号として、Oで表す。最終的な仕上げ(調質処理)において、圧延後に熱処理(たとえば保持時間が1時間以下の時効処理)が行われている場合を、仕上記号として、EH-TAで表す。また、実施例27では、最終的な仕上げ(調質処理)において、低温でベリリウムを析出させて硬化させる処理が行われるため、仕上記号として、XHMSで表す。
【0085】
実施例21は、SUS301(JIS G4313:2011)からなる調質処理後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:EH-TA)である。実施例21では、調質処理として、圧延率69%で圧延した後に450℃で1分間保持する時効処理を行った。実施例21では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が183GPaとなった。また、実施例21では、ビッカース硬さが600HVとなった。よって、実施例21の指標値は、0.0169HV/GPaとなる。
【0086】
実施例22は、SUS301(JIS G4313:2011)からなる調質処理後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:EH-TA)である。実施例22では、調質処理として、圧延率69%で圧延した後に450℃で1分間保持する時効処理を行った。実施例22では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が211GPaとなった。また、実施例22では、ビッカース硬さが600HVとなった。よって、実施例22の指標値は、0.0146HV/GPaとなる。
【0087】
実施例23は、SUS301(JIS G4313:2011)からなる調質処理後の圧延材(厚さ0.02mm、仕上記号:EH-TA)である。実施例23では、調質処理として、圧延率62%で圧延した後に450℃で1分間保持する時効処理を行った。実施例23では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が182GPaとなった。また、実施例23では、ビッカース硬さが557HVとなった。よって、実施例23の指標値は、0.0158HV/GPaとなる。
【0088】
実施例24は、SUS316L(JIS G4305:2021)からなる調質処理(圧延率67%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例24では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が155GPaとなった。また、実施例24では、ビッカース硬さが438HVとなった。よって、実施例24の指標値は、0.0149HV/GPaとなる。
【0089】
実施例25は、YUS130S(Fe-19Cr-11Mn-6Ni-0.35N-0.09C)からなる調質処理(圧延率67%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例25では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が174GPaとなった。また、実施例25では、ビッカース硬さが520HVとなった。よって、実施例25の指標値は、0.0156HV/GPaとなる。
【0090】
実施例26は、YUS130S(Fe-19Cr-11Mn-6Ni-0.35N-0.09C)からなる調質処理(圧延率67%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。実施例26では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が193GPaとなった。また、実施例26では、ビッカース硬さが520HVとなった。よって、実施例26の指標値は、0.0140HV/GPaとなる。
【0091】
実施例27は、C1720(JIS H3130:2018)からなる調質処理後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:XHMS)である。実施例27では、調質処理として、圧延率88%で圧延した後に450℃で2分間保持する焼鈍を行った。実施例27では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が127GPaとなった。また、実施例27では、ビッカース硬さが380HVとなった。よって、実施例27の指標値は、0.0160HV/GPaとなる。
【0092】
比較例1は、TR550C(JIS H4600:2012)からなる焼鈍(800℃で1分間保持)後の圧延材(厚さ0.10mm、仕上記号:O)である。比較例1では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が105GPaとなった。また、比較例1では、ビッカース硬さが230HVとなった。よって、比較例1の指標値は、0.0125HV/GPaとなる。
【0093】
比較例2は、SUS301(JIS H4313:2011)からなる調質処理後の圧延材(厚さ0.02mm、仕上記号:EH-TA)である。比較例2では、調質処理として、圧延率62%で圧延した後に450℃で1分間保持する時効処理を行った。比較例2では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が211GPaとなった。また、比較例2では、ビッカース硬さが557HVとなった。比較例2の指標値は、0.0137HV/GPaとなる。
【0094】
比較例3は、SUS316L(JIS H4305:2021)からなる調質処理(圧延率67%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。比較例3では、幅方向(圧延方向と直交する方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が185GPaとなった。また、比較例3では、ビッカース硬さが438HVとなった。よって、比較例3の指標値は、0.0125HV/GPaとなる。
【0095】
比較例4は、A5052(JIS H4000:2014)からなる調質処理(圧延率90%で圧延)後の圧延材(厚さ0.03mm、仕上記号:H)である。比較例4では、ロール方向(圧延方向)の弾性係数を測定したところ、弾性係数が68GPaとなった。また、比較例4では、ビッカース硬さが120HVとなった。よって、比較例4の指標値は、0.0116HV/GPaとなる。
【0096】
以上の結果から、化学成分が同じ材料によって構成されている圧延材であったとしても、最終的な仕上げ(調質処理の条件など)または弾性係数の測定方向が異なると、指標値が異なる場合があるとともに、目標値を満たさない場合があることが分かった。
【0097】
表4に、実施例1~8と、実施例18と、実施例19と、実施例21との圧延材100の20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値と、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の実測値とを示す。なお、20万回繰り返し曲げは、弾性変形による繰り返し曲げである。また、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値は、最小曲げ半径(R)=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)で求めた。また、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の実測値は、実際に圧延材100を曲げ半径3.0mmから0.1mm刻みで小さくしていき、20万回繰り返し曲げに耐えられなかった曲げ半径の大きさよりも0.1mm大きい半径を20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の実測値とした。
【0098】
【0099】
実施例1では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.25mmとなった。これに対して、実測値は1.20mmとなった。
【0100】
実施例2では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.56mmとなった。これに対して、実測値は1.60mmとなった。
【0101】
実施例3では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、0.78mmとなった。これに対して、実測値は0.80mmとなった。
【0102】
実施例4では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、0.95mmとなった。これに対して、実測値は1.00mmとなった。
【0103】
実施例5では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.30mmとなった。これに対して、実測値は1.30mmとなった。
【0104】
実施例6では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.44mmとなった。これに対して、実測値は1.50mmとなった。
【0105】
実施例7では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.64mmとなった。これに対して、実測値は1.70mmとなった。
【0106】
実施例8では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.92mmとなった。これに対して、実測値は2.00mmとなった。
【0107】
実施例18では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.97mmとなった。これに対して、実測値は2.00mmとなった。
【0108】
実施例19では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、2.01mmとなった。これに対して、実測値は2.00mmとなった。
【0109】
実施例21では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.78mmとなった。これに対して、実測値は1.80mmとなった。
【0110】
表5に、実施例22~26と、比較例2と、比較例3との圧延材100の20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値と、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の実測値とを示す。なお、20万回繰り返し曲げは、弾性変形による繰り返し曲げである。また、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値は、最小曲げ半径(R)=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)で求めた。また、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の実測値は、実際に圧延材100を曲げ半径3.0mmから0.1mm刻みで小さくしていき、20万回繰り返し曲げに耐えられなかった曲げ半径の大きさよりも0.1mm大きい半径を20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の実測値とした。
【0111】
【0112】
実施例22では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、2.05mmとなり、実測値は2.00mmとなった。
【0113】
実施例23では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.26mmとなった。これに対して、実測値は1.30mmとなった。
【0114】
実施例24では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、2.01mmとなった。これに対して、実測値は2.10mmとなった。
【0115】
実施例25では、ロール方向(圧延方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.93mmとなった。これに対して、実測値は2.00mmとなった。
【0116】
実施例26では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、2.14mmとなった。これに対して、実測値は2.10mmとなった。
【0117】
比較例2では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、1.46mmとなった。これに対して、実測値は1.60mmとなった。
【0118】
比較例3では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に繰り返し曲げる場合において、20万回繰り返し曲げに耐久する最小曲げ半径の予測値が、2.40mmとなった。これに対して、実測値は2.30mmとなった。
【0119】
以上の結果から、最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21)で求められる予測値と、実測値との差は、最大で0.14mm(比較例2)となった。しかしながら、0.14mm程度は誤差の範囲と考えてよく、最小曲げ半径の予測式は、実際の最小曲げ半径を設計する際に有効な式といえる。
【0120】
表6に、実施例1~8と、実施例18と、実施例19との圧延材100の疲労限度を(0.0021×ビッカース硬さ+0.103)で求めた予測値と、実測値と、予測値と実測値との差(実測値-予測値)とを示す。
【0121】
【0122】
実施例1では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が0.861GPaとなり、実測値が0.900GPaとなり、その差は+0.039であった。
【0123】
実施例2では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が0.861GPaとなり、実測値が0.844GPaとなり、その差は-0.017であった。
【0124】
実施例3では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が0.885GPaとなり、実測値が0.863GPaとなり、その差は-0.022であった。
【0125】
実施例4では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が0.885GPaとなり、実測値が0.840GPaとなり、その差は-0.045であった。
【0126】
実施例5では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が1.255GPaとなり、実測値が1.258GPaとなり、その差は+0.003であった。
【0127】
実施例6では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が1.255GPaとなり、実測値が1.210GPaとなり、その差は-0.045であった。
【0128】
実施例7では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が0.732GPaとなり、実測値が0.706GPaとなり、その差は-0.026であった。
【0129】
実施例8では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が0.732GPaとなり、実測値が0.705GPaとなり、その差は-0.027であった。
【0130】
実施例18では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が0.705GPaとなり、実測値が0.698GPaとなり、その差は-0.007であった。
【0131】
実施例19では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が0.705GPaとなり、実測値が0.713GPaとなり、その差は+0.008であった。
【0132】
表7に、実施例21~26と、比較例2と、比較例3との圧延材100の疲労限度を(0.0024×ビッカース硬さ+0.103)で求めた予測値と、実測値と、予測値と実測値との差(実測値-予測値)とを示す。
【0133】
【0134】
実施例21では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が1.543GPaとなり、実測値が1.525GPaとなり、その差は-0.018であった。
【0135】
実施例22では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が1.543GPaとなり、実測値が1.583GPaとなり、その差は+0.040であった。
【0136】
実施例23では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が1.440GPaとなり、実測値が1.400GPaとなり、その差は-0.040であった。
【0137】
実施例24では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が1.154GPaとなり、実測値が1.107GPaとなり、その差は-0.047であった。
【0138】
実施例25では、ロール方向(圧延方向)に曲げる場合の予測値が1.351GPaとなり、実測値が1.305GPaとなり、その差は-0.046であった。
【0139】
実施例26では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が1.351GPaとなり、実測値が1.379GPaとなり、その差は+0.028であった。
【0140】
比較例2では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が1.440GPaとなり、実測値が1.319GPaとなり、その差は-0.121であった。
【0141】
比較例3では、幅方向(圧延方向と直交する方向)に曲げる場合の予測値が1.154GPaとなり、実測値が1.207GPaとなり、その差は+0.053であった。
【0142】
表6および表7の結果から、予測値と実測値との差(実測値-予測値)の平均σは、0.041であり、ばらつき3σは、±0.124となった。そこで、最小曲げ半径を設定するときに、最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21-0.124×2)から最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ+0.21-0.25)つまり、最小曲げ半径=(厚さ×弾性係数)÷(0.0048×ビッカース硬さ-0.04)に設定することがより好ましいことを見出した。
【0143】
表8に、実施例1と、実施例15と、実施例18と、実施例21と、実施例24と、実施例25と、実施例27と、比較例2~4との圧延材100の繰り返し曲げの耐久性の指標値と、密度と、比透磁率と、疲労限度と、曲げ半径とを測定した結果を示す。また、表8には、それぞれの値のレベルと、評価とを記載している。レベルと、評価との算出方法は、表9に示すとおりである。
【0144】
【0145】
【0146】
評価は、レベル90以上100以下を評価1とし、レベル70以上90未満を評価2とし、レベル30以上70未満を評価3とし、レベル10以上30未満を評価4とし、レベル0以上レベル10未満を評価5とする。評価1は、high(平均より高い)を意味し、評価2は、slight above(平均をわずかに上回っている)、評価3は、average(平均)、評価4は、slight below(平均をわずかに下回っている)、評価5は、low(平均よりも低い)を意味する。
【0147】
表9に示すように、指標値のレベルは、大きいほど繰り返し曲げに対する耐久性が高いため、レベルが大きいほうが好ましい。そこで、指標値のレベルを算出する値(当該値)から最小値を引いた値(当該値―最小値)÷最大値から最小値を引いた値(最大値―最小値)×100で求められる。表8の場合、たとえば、実施例1の指標値のレベルは、当該値が0.240、指標値の最大値は、実施例1の0.240、指標値の最小値は、比較例4の0.0116であることから、(0.240-0.116)÷(0.240-0.116)×100=100である。
【0148】
また、比透磁率は、値が小さいほど、非磁性が大きくなり高評価となる。さらに、密度は、値が小さい程、軽量化できるため高評価となる。そのため、レベルが低いほど高評価となるように、比透磁率のレベルと、密度のレベルとは、100-{(当該値―最小値)÷最大値から最小値を引いた値(最大値―最小値)×100}で求める。
【0149】
実施例1では、指標値が、0.0240HV/GPaであり、指標値のレベルは100、評価は評価1となった。また、実施例1では、密度が、4.76g/cm3であり、指標値のレベルは63、評価は3となった。実施例1では、比透磁率は、1.00050であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。実施例1では、疲労限度は、0.90GPaであり、曲げ半径は、1.20mmであった。
【0150】
実施例15では、指標値が、0.0228HV/GPaであり、指標値のレベルは90、評価は1となった。また、実施例15では、密度が、5.60g/cm3であり、指標値のレベルは48、評価は3となった。実施例15では、比透磁率は、1.00030であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。
【0151】
実施例18では、指標値が、0.0152HV/GPaであり、指標値のレベルは29、評価は4となった。また、実施例18では、密度が、4.51g/cm3であり、指標値のレベルは67、評価は3となった。実施例18では、比透磁率は、1.00030であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。実施例18では、疲労限度は、0.698GPaであり、曲げ半径は、2.00mmであった。
【0152】
実施例21では、指標値が、0.0169HV/GPaであり、指標値のレベルは43、評価は3となった。また、実施例21では、密度が、7.93g/cm3であり、指標値のレベルは6、評価は5となった。実施例21では、比透磁率は、1.60000であり、指標値のレベルは0、評価は5となった。実施例21では、疲労限度は、1.525GPaであり、曲げ半径は、1.80mmであった。
【0153】
実施例24では、指標値が、0.0149HV/GPaであり、指標値のレベルは27、評価は4となった。また、実施例24では、密度が、7.98g/cm3であり、指標値のレベルは5、評価は5となった。実施例24では、比透磁率は、1.02100であり、指標値のレベルは97、評価は1となった。実施例24では、疲労限度は、1.107GPaであり、曲げ半径は、2.10mmであった。
【0154】
実施例25では、指標値が、0.0156HV/GPaであり、指標値のレベルは32、評価は3となった。また、実施例25では、密度が、7.80g/cm3であり、指標値のレベルは8、評価は5となった。実施例25では、比透磁率は、1.00190であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。実施例25では、疲労限度は、1.305GPaであり、曲げ半径は、2.00mmであった。
【0155】
実施例27では、指標値が、0.0160HV/GPaであり、指標値のレベルは35、評価は3となった。また、実施例27では、密度が、8.26g/cm3であり、指標値のレベルは0、評価は5となった。実施例27では、比透磁率は、1.00004であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。
【0156】
比較例2では、指標値が、0.0137HV/GPaであり、指標値のレベルは17、評価は4となった。また、比較例2では、密度が、7.93g/cm3であり、指標値のレベルは6、評価は5となった。比較例2では、比透磁率は、1.60000であり、指標値のレベルは0、評価は5となった。比較例2では、疲労限度は、1.319GPaであり、曲げ半径は、1.60mmであった。
【0157】
比較例3では、指標値が、0.0125HV/GPaであり、指標値のレベルは7、評価は5となった。また、比較例3では、密度が、7.98g/cm3であり、指標値のレベルは5、評価は5となった。比較例3では、比透磁率は、1.02100であり、指標値のレベルは97、評価は1となった。比較例3では、疲労限度は、1.207GPaであり、曲げ半径は、2.30mmであった。
【0158】
比較例4では、指標値が、0.0116HV/GPaであり、指標値のレベルは0、評価は5となった。また、比較例4では、密度が、2.68g/cm3であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。比較例4では、比透磁率は、1.00020であり、指標値のレベルは100、評価は1となった。
【0159】
表10は、表8の結果に基づいて、材質毎に繰り返しの曲げの耐久性の指標値の評価と、密度の評価と、比透磁率の評価とをまとめたものである。
【表10】
【0160】
実施例1および実施例15のチタン合金の場合、耐久性の指標値の評価は、1であった。また、密度の評価は、3であった。さらに、比透磁率の評価は、1であった。
【0161】
実施例21、実施例24および実施例25のステンレス(SUS)の場合、耐久性の指標値の評価は、3または4であった。また、密度の評価は、5であった。さらに、比透磁率の評価は、1または5であった。
【0162】
実施例27の銅合金の場合、耐久性の指標値の評価は、2であった。また、密度の評価は、評価5であった。さらに、比透磁率の評価は、1であった。
【0163】
比較例2および比較例3のステンレス(SUS)の場合、耐久性の指標値の評価は、4または5であった。また、密度の評価は、5であった。さらに、比透磁率の評価は、1または5であった。
【0164】
比較例4のアルミニウム合金の場合、耐久性の指標値の評価は、5であった。また、密度の評価は、評価1であった。さらに、比透磁率の評価は、1であった。
【0165】
表10に示すように、チタン合金の指標値の評価は、ステンレスの指標値の評価よりもかなり高かった。そのため、繰り返し曲げの耐久性の観点では、チタン合金は、ステンレスよりも明らかに優れている。
【0166】
また、チタン合金の密度の評価は、ステンレスの密度の評価よりもかなり高かった。そのため、軽量性の観点では、チタン合金は、ステンレスよりも優れている。
【0167】
また、チタン合金の比透磁率の評価は、ステンレスの比透磁率の評価よりも高くなった。そのため、非磁性の観点では、チタン合金は、ステンレスよりも優れている。
【0168】
以上の結果から、ステンレスよりもチタン合金を用いることがより好ましいことを本願発明者は知得した。
【0169】
図7は、縦軸に曲げ半径をプロットし、横軸に指標値をプロットしたグラフである。また、
図7のグラフは、表8に記載した曲げ半径と、指標値とに基づいている。
図7のグラフは、y=-79.576x+3.1394で表される。
図7の結果から、指標値が大きいほど曲げ半径を小さくなることが分かった。
【0170】
[変形例]
今回開示されている実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0171】
たとえば、本実施形態では、圧延材を表示装置に用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、スイッチの接点などのばね部材に用いてもよい。
【0172】
また、本実施形態では、チタン合金は、ベータ型チタン合金である例を示したが、本発明はこれに限られない。