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特許7593582弾性体、バウンドストッパ、電磁誘導装置、発電システム、検出装置及び弾性体の製造方法
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  • 特許-弾性体、バウンドストッパ、電磁誘導装置、発電システム、検出装置及び弾性体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】弾性体、バウンドストッパ、電磁誘導装置、発電システム、検出装置及び弾性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 35/02 20060101AFI20241126BHJP
   F16F 1/36 20060101ALI20241126BHJP
   F16F 9/58 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H02K35/02
F16F1/36 B
F16F1/36 C
F16F9/58 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019196810
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072677
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】牧原 伸征
(72)【発明者】
【氏名】井門 康司
(72)【発明者】
【氏名】岩本 悠宏
【合議体】
【審判長】小宮 慎司
【審判官】大橋 達也
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-22435号公報
【文献】特開2015-119574号公報
【文献】特開2015-119574号公報
【文献】特開平10-229652号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 35/02
F16F 1/36
F16F 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁された磁性粉体が弾性部材内に分散配置されてなり、弾性変形によって磁束密度が変化して回路に誘導電流を発生させる弾性体であって、
前記弾性部材は、発泡エラストマーであり、
前記弾性体が圧縮されたときに、変形していない自然長状態よりも前記磁性粉体の磁気モーメントの向きが前記圧縮の方向にそろう弾性体。
【請求項2】
前記発泡エラストマーは、ポリウレタンエラストマーであり、
前記磁性粉体の粒子径は、3~200μmである、請求項1に記載の弾性体。
【請求項3】
前記発泡エラストマーは、発泡倍率が1.4~6倍でありかつ少なくとも連続気泡構造の部分を有する、請求項1又は2に記載の弾性体。
【請求項4】
前記弾性体の外面のうち互いに逆側を向くように配置されて磁束が貫通する1対の磁束貫通部を有し、
前記1対の磁束貫通部が並ぶ主軸方向に圧縮されると磁束密度が大きくなる、請求項1から3の何れか1の請求項に記載の弾性体。
【請求項5】
前記主軸方向において前記自然長状態から10%圧縮したときに、磁束密度が前記自然長状態よりも5%以上大きくなる、請求項4に記載の弾性体。
【請求項6】
前記磁性粉体は、硬質の強磁性材料からなり、
前記発泡エラストマーに対する前記磁性粉体の質量濃度は、40~80%であり、
前記発泡エラストマーに対する前記磁性粉体の体積濃度は、1.0~3.5%である、請求項1から5の何れか1の請求項に記載の弾性体。
【請求項7】
JIS K 6262:2013 A法に準拠した圧縮永久ひずみが、30%以下である、請求項1から6の何れか1の請求項に記載の弾性体。
【請求項8】
1Hzで10万回50%圧縮を繰返した場合の繰返し圧縮ひずみが、20%以下である、請求項1から7の何れか1の請求項に記載の弾性体。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1の請求項に記載の弾性体で形成されて、周囲を電磁誘導用コイルで包囲されるバウンドストッパ。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1の請求項に係る弾性体と、
前記弾性体の弾性変形に伴う磁束密度の変化によって誘導電流が流れる電磁誘導回路と、を備える電磁誘導装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電磁誘導装置と、
前記弾性体を繰返し伸縮させるための伸縮機構と、を有する発電システム。
【請求項12】
前記弾性体は、環状又は筒状をなして車両のショックアブソーバのピストンロッドに嵌合され、
前記伸縮機構には、前記ショックアブソーバの前記ピストンロッドとシリンダに設けられるか、又は、それらの一方と前記ショックアブソーバを支持する支持部とに設けられて、前記弾性体を圧縮する1対の対向部材が備えられている請求項11に記載の発電システム。
【請求項13】
請求項10に記載の電磁誘導装置と、
前記弾性体を圧縮もしくは伸長するか又はねじる可動部材における移動を伴う物理的変化を、前記電磁誘導装置の誘導起電力に基づいて検出する検出回路と、を有する検出装置。
【請求項14】
請求項1から8の何れか1の請求項に記載の弾性体を製造する製造方法であって、
前記磁性粉体を前記弾性部材内に分散させ、前記弾性部材を圧縮した状態で、その圧縮方向に前記磁性粉体を着磁する、弾性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性体とその製造方法、バウンドストッパ、並びに、回路に誘導電流を発生させる電磁誘導装置、発電システム及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フェライト磁石を振動させて、回路に誘導電流を発生させる電磁誘導装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】登実第3051758号(段落[0020]~[0022]、[0026]、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フェライト磁石では、脆くて割れ易いため、破損し易いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、着磁された磁性粉体が弾性部材内に分散配置されてなり、弾性変形によって磁束密度が変化して回路に誘導電流を発生させる弾性体であって、前記弾性部材は、発泡エラストマーである弾性体である。
【0006】
発明の第2態様は、前記弾性変形に伴い、前記弾性体における前記磁性粉体の分布密度が変わることで磁束密度が変化する、第1態様に記載の弾性体である。
【0007】
発明の第3態様は、前記発泡エラストマーは、ポリウレタンエラストマーであり、前記磁性粉体の粒子径は、3~200μmである、第1態様又は第2態様に記載の弾性体である。
【0008】
発明の第4態様は、前記発泡エラストマーは、発泡倍率が1.4~6倍でありかつ少なくとも連続気泡構造の部分を有する、第1態様から第3態様の何れか1の態様に記載の弾性体である。
【0009】
発明の第5態様は、前記弾性体の外面のうち互いに逆側を向くように配置されて磁束が貫通する1対の磁束貫通部を有し、前記1対の磁束貫通部が並ぶ主軸方向に圧縮されると磁束密度が大きくなる、第1態様から第4態様の何れか1の態様に記載の弾性体である。
【0010】
発明の第6態様は、前記主軸方向に圧縮されたときに、変形していない自然長状態よりも前記磁性粉体の磁気モーメントの向きが該主軸方向にそろう、第5態様に記載の弾性体である。
【0011】
発明の第7態様は、前記主軸方向において前記自然長状態から10%圧縮したときに、磁束密度が前記自然長状態よりも5%以上大きくなる、第5態様又は第6態様に記載の弾性体である。
【0012】
発明の第8態様は、前記磁性粉体は、硬質の強磁性材料からなり、前記発泡エラストマーに対する前記磁性粉体の質量濃度は、40~80%であり、前記発泡エラストマーに対する前記磁性粉体の体積濃度は、1.0~3.5%である、第1態様から第7態様の何れか1の態様に記載の弾性体である。
【0013】
発明の第9態様は、JIS K 6262:2013 A法に準拠した圧縮永久ひずみが、30%以下である、第1態様から第8態様の何れか1の態様に記載の弾性体である。
【0014】
発明の第10態様は、1Hzで10万回50%圧縮を繰返した場合の繰返し圧縮ひずみが、20%以下である、第1態様から第9態様の何れか1の態様に記載の弾性体である。
【0015】
発明の第11態様は、第1態様から第10態様の何れか1の態様に記載の弾性体で形成されて、周囲を電磁誘導用コイルで包囲されるバウンドストッパである。
【0016】
発明の第12態様は、第1態様から第11態様の何れか1の態様に係る弾性体と、前記弾性体の弾性変形に伴う磁束密度の変化によって誘導電流が流れる電磁誘導回路と、を備える電磁誘導装置である。
【0017】
発明の第13態様は、第12態様に記載の電磁誘導装置と、前記弾性体を繰り返して伸縮させるための伸縮機構と、を有する発電システムである。
【0018】
発明の第14態様は、前記弾性体は、環状又は筒状をなして車両のショックアブソーバのピストンロッドに嵌合され、前記伸縮機構には、前記ショックアブソーバの前記ピストンロッドとシリンダに設けられるか、又は、それらの一方と前記ショックアブソーバを支持する支持部とに設けられて、前記弾性体を圧縮する1対の対向部材が備えられている第13態様に記載の発電システムである。
【0019】
発明の第15態様は、第12態様に記載の電磁誘導装置と、前記弾性体を圧縮もしくは伸長するか又はねじる可動部材における移動を伴う物理的変化を、前記電磁誘導装置の誘導起電力に基づいて検出する検出回路と、を有する検出装置である。
【0020】
発明の第16態様は、第1態様から第10態様の何れか1の態様に記載の弾性体を製造する製造方法であって、前記磁性粉体を前記弾性部材内に分散させ、前記弾性部材を圧縮した状態で、その圧縮方向に前記磁性粉体を着磁する、弾性体の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
発明の第1態様、第2態様、第12態様では、弾性体は、着磁された磁性粉体が発泡エラストマー内に分散配置されてなり、弾性変形によって磁束密度が変化して回路に誘導電流を発生させることができる。このように、本態様では、回路に誘導電流を発生させるための着磁体が、弾性を有するので、従来のフェライト磁石に比べて破損し難くなる。また、発明の第12態様では、電磁誘導装置を、例えば弾性体が圧縮されることで誘導電流が発生する構成とすれば、剛体からなる磁石が移動することで誘導電流を発生する構成に比べて、電磁誘導装置をコンパクトにすることが可能となる。しかも、弾性体が発泡体で構成されることで、弾性体が圧縮されたときに圧縮方向に対する直交方向で膨らみ難くなり、電磁誘導装置をよりコンパクトにすることが可能となる。
【0022】
発明の第3態様の弾性体では、磁性粉体を分散させる弾性部材が、ポリウレタンエラストマーであるので、弾性部材の原料の硬化を速くすることができる。例えば、弾性部材が非発泡のシリコンゴムである場合、弾性部材の硬化に時間がかかるため、弾性部材の硬化中に磁性粉体が沈降し、弾性部材内での磁性粉体の分散が不均一となり易い。これに対し、本態様では、磁性粉体が沈降する前に弾性部材の原料を硬化することができ、磁性粉体を弾性部材内に均一に分散させることができる。これにより、100μm以上の粒子径の磁性粉体であっても容易に分散させることが可能となり、弾性体の磁束密度を大きくすることが可能となる。また、弾性体の成形性や変形の容易性等の観点から、磁性粉体の粒子径は、200μm以下であることが好ましい。
【0023】
発明の第4態様では、発泡エラストマーが、1.4~6倍の発泡倍率となっていて、少なくとも連続気泡構造を有するので、弾性体を成形し易く、かつ弾性変形させ易くすることができ、弾性体の磁束密度を変化させ易くすることができる。その結果、回路に誘導電流を発生させ易くすることが可能となる。また、発泡エラストマーが少なくとも連続気泡構造となる部分を有するため、成形後に発泡エラストマーが縮む(いわゆる、シュリンクする)ことを、抑制可能となる。なお、上記発泡倍率は、弾性体の発泡倍率ではなく、発泡エラストマー単体の発泡倍率を示している。
【0024】
発明の第5態様の弾性体では、弾性体の外面のうち互いに逆側を向いた1対の磁束貫通部が設けられ、それら磁束貫通部が並ぶ主軸方向に弾性体が圧縮されると、磁性粉体の分布密度が増加することで磁束密度が大きくなる。従って、弾性体の主軸方向が、回路を貫く方向となるように、回路に対して弾性体を配置することで、回路に誘導電流を発生させ易くすることが可能となる。また、弾性体は、主軸方向に圧縮されたときに、変形していない自然長状態よりも磁性粉体の磁気モーメントの向きが主軸方向にそろうように構成されていてもよい(発明の第6態様)。この構成によれば、弾性体を圧縮させたときに、磁束密度をより高めることが可能となる。弾性体は、主軸方向に10%圧縮されたときに、磁束密度が自然長状態よりも5%以上大きくなるものであることが好ましい(発明の第7態様)。このような弾性体は、例えば、磁性粉体を分散させた弾性部材を圧縮した状態(例えば50%圧縮した状態)で、その圧縮方向に磁性粉体を着磁することで製造することができる(発明の第16態様)。
【0025】
発明の第8態様では、弾性体を弾性変形させ易くしつつ、弾性体の磁束密度の変化を大きくすることが可能となる。
【0026】
発明の第9態様、第10態様によれば、発泡エラストマーを弾性変形させた後の復元が良好である。これにより、弾性体が繰返し圧縮されて使用される用途に用いられる場合であっても、発泡エラストマーのヘタリが低減され、弾性体が繰返しの使用に一層好適となる。
【0027】
発明の第11態様のように、弾性体でバウンドストッパを構成してもよい。本態様によれば、バウンドストッパを有する車両の振動等で、弾性体を弾性変形させることで、電磁誘導用コイルを含む回路に誘導電流を発生させることが可能となる。
【0028】
本発明の弾性体は、誘導電流を利用した発電システムに備えられていてもよい。このような発電システムとしては、弾性体を繰り返して伸縮させるための伸縮機構を有するものが挙げられる(発明の第13態様)。
【0029】
上記発電システムのより具体的な例としては、車両のショックアブソーバに弾性体を取り付けたものが挙げられる。この発電システムでは、ショックアブソーバのピストンロッドに環状又は筒状の弾性体を嵌合すると共に、伸縮機構に備えられた1対の対向部材で弾性体を圧縮する(発明の第14態様)。この構成によれば、車両の振動を電気エネルギーに変換し、有効利用することが可能となる。
【0030】
また、本発明の弾性体は、誘導電流を利用した検出装置に備えられていてもよい。このような検出装置として、弾性体を圧縮もしくは伸長するか又はねじることが可能な可動部材における移動を伴う物理的変化を、電磁誘導装置の誘導起電力に基づいて検出するものが挙げられる(発明の第15態様)。この検出装置によれば、例えば、可動部材の振動等の異常の検出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本開示の一実施形態に係る電磁誘導装置の斜視図
図2】(A)磁性弾性体における分散された磁性粉体を示す概念図、(B)圧縮された磁性弾性体における磁性粉体を示す概念図
図3】磁性弾性体の製造方法を示すフローチャート
図4】(A)圧縮変形前の磁性弾性体の磁化を示す概念図、(B)圧縮変形されているときの磁性弾性体の磁化と誘導電流を示す概念図
図5】(A)圧縮変形前の磁性弾性体による磁場と磁性弾性体の磁化を示す概念図、(B)磁性弾性体が圧縮されたときにコイル及び回路内に生じる誘導磁場と誘導電流を示す概念図
図6】(A)圧縮変形前の磁性弾性体による磁場と磁性弾性体の磁化を示す概念図、(B)磁性弾性体が圧縮されたときに2つのコイル及び回路内に生じる誘導磁場と誘導電流を示す概念図
図7】(A)試験装置の概念図
図8】各実験例の磁性弾性体の詳細及び特性を示すテーブル
図9】(A)発電システムのブロック図、(B)車両のサスペンションの一部破断側面図
図10】(A)床構造と電磁誘導装置の側断面図、(B)検出装置のブロック図
図11】他の実施形態に係る検出装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1には、本実施形態の電磁誘導装置10が示されている。電磁誘導装置10は、例えばコイル11等の巻回部を有する回路12と、該巻回部の内側に配置される磁性弾性体20と、を有する。本実施形態では、磁性弾性体20は、円柱状をなし、巻回部としてのコイル11と同軸に配置される。また、磁性弾性体20は、磁性弾性体20の軸方向、即ち、コイル11の軸方向に磁化されている(磁性弾性体20の軸方向の一端部がN極、他端部がS極となっている)。磁性弾性体20の軸長は、コイル11の軸長よりも長くてもよいし、短くてもよい。なお、本実施形態では、磁性弾性体20が特許請求の範囲に記載の「弾性体」に相当する。また、磁性弾性体20における軸方向の一端面と他端面とが、特許請求の範囲に記載の「磁束貫通部」に相当し、磁性弾性体20の軸方向が、特許請求の範囲に記載の「主軸方向」に相当する。
【0033】
図2(A)に示されるように、磁性弾性体20は、発泡エラストマー21に着磁された磁性粉体22が分散してなる。磁性弾性体20では、磁性粉体22の粒子23の磁気モーメント(詳細には、粒子23内の合成磁気モーメント)が、磁性弾性体20の軸方向に沿っている。なお、実際には、磁性粉体22の粒子23の中には、磁気モーメントの方向が磁性弾性体20の軸方向と交差するものが含まれ得るが、本実施形態では、磁性粉体22の粒子23の磁気モーメントを合成した合成磁気モーメントの方向が、磁性弾性体20の軸方向となっている。図2(A)と後述する図2(B)では、磁性粉体22の粒子23の磁化方向が、矢印で模式的に示されている。
【0034】
発泡エラストマー21としては、ポリウレタンエラストマーの発泡体や、ゴムの発泡体や、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂の発泡体等が挙げられる。発泡エラストマー21は、連続気泡構造や半連続気泡構造であることが、成形性や弾性変形容易性の観点から好ましい。発泡エラストマー21は、少なくとも連続気泡構造となる部分を有することが好ましく、これにより、成形後に発泡エラストマー21が縮む(いわゆる、シュリンクする)ことを、抑制可能となる。また、発泡エラストマー21の発泡倍率は、1.4~6倍であることが好ましく、1.7~5倍であることがより好ましく、2~4倍であることが更に好ましい。ここで、発泡エラストマー21の発泡倍率が1.4以上であることで、クッション性が特に良好となり、発泡倍率が6倍以下であることで、成形性と耐久性が特に良好となる。なお、上記発泡倍率は、磁性弾性体20の発泡倍率ではなく、発泡エラストマー21単体の発泡倍率を示している。
【0035】
磁性粉体22としては、ネオジム系磁性粉体、サマリウム系磁性粉体、アルニコ系磁性粉体、フェライト系磁性粉体等、公知の硬質磁性材料が挙げられ、強磁性材料が好ましい。磁性粉体22は、特に、永久磁石化した際に強い磁力を有するネオジム系磁性粉体からなることが好ましい。磁性粉体22の粒子23の形状としては、例えば、鱗片状、球状、針状等が挙げられる。磁性粉体22の粒子径は、3~200μmが好ましく、5~100μmがさらに好ましい。磁性粉体22の粒子径を大きくすることで、磁性弾性体20の表面磁束密度を高くすることが可能となる。磁性粉体22が、磁石粒子に表面処理がされてなる場合には、磁性粉体22の粒子径を大きくすることで、磁性粉体22における磁性成分の割合を大きくすることができ、磁性弾性体20の表面磁束密度をより高めることが可能となる。また、磁性粉体22の粒子径は、200μm以下であることが、磁性弾性体20の成形性や変形容易性の観点から好ましい。なお、粒子径は、JIS Z 8815:1994に準拠したふるい分け試験により測定した。ここで、磁性粉体22の粒子径が3μm以上であることで作業性が特に良好となる。また、磁性粉体22の粒子径が200μm以下であることで成形性が特に良好となると共に、磁性粉体22が発泡エラストマー21から脱落することを一層防止可能となる。
【0036】
また、磁性弾性体20は、磁性粉体22が硬質の強磁性材料からなり、発泡エラストマー21に対する磁性粉体22の質量濃度(質量比率)が40~80%であり、発泡エラストマー21に対する磁性粉体22の体積濃度(体積比率)が1.0~3.5%であることが好ましい。これにより、磁性弾性体20を弾性変形させ易くしつつ、磁性弾性体20の磁束密度の変化を大きくすることが可能となる。磁性弾性体20は、JIS K 6262:2013 A法に準拠した圧縮永久ひずみが、30%以下であることが好ましい。また、磁性弾性体20は、1Hzで10万回50%圧縮を繰返した場合の繰返し圧縮ひずみが、20%以下であることが好ましい。これらの構成によれば、発泡エラストマー21を弾性変形させた後の復元が良好である。これにより、磁性弾性体20が繰返し圧縮されて使用される用途に用いられる場合であっても、発泡エラストマー21のヘタリが低減され、磁性弾性体20が繰返しの使用に一層好適となる。
【0037】
次に、磁性弾性体20の製造方法について、図3を参照しつつ説明する。磁性弾性体20を製造するには、まず、ポリオールとイソシアネートを混合してプレポリマー化した第1液を用意する。ここで、第1液は、イソシアネート基(NCO)を末端に有するプレポリマーである。その後、第1液に磁性粉体22を混合し、均一に分散させる(S11)。また、触媒、発泡剤等を含む第2液を用意する(S11)。その後、第1液と第2液とを混合し、その混合液を得る(S12)。ここで、イソシアネート基を末端に有するプレポリマーのNCO%は、3~7%とすることが好ましく、本実施形態では、6%とした。これにより、成形性や耐久性に優れた磁性弾性体20を得ることが可能となる。
【0038】
次に、上記混合液を、あらかじめ温調された成形型に注入して発泡硬化させ、例えば円柱状をなした発泡成形体を形成する(S13)。この発泡成形体では、磁性粉体22が、発泡エラストマー21内に分散している。また、上記発泡成形体では、磁性粉体22の各粒子23の磁気モーメントがランダムな方向を向いている。なお、上記混合液の成形型での発泡硬化工程では、閉型状態で所定時間キュア(一次キュア)を行った後、得られた発泡成形体を成形型から取り出す。一次キュアは、例えば60~120℃で10~120分間、行われる。一次キュアを行って成形型から取り出された発泡成形体については、さらに二次キュアを行うことが好ましく、二次キュアは、例えば90~180℃で8~24時間、行われる。本実施形態では、磁性粉体22が内部に分散配置される弾性部材が、ポリウレタンエラストマーであるので、原料の硬化するまでの時間が短く、磁性粉体22が原料内で沈降する前に原料を硬化させることが可能となる。これにより、磁性粉体22を均一に分散配置することが容易となる。従って、100μm以上の粒子径の磁性粉体22であっても磁性弾性体20内に容易に分散させることが可能となり、磁性弾性体20の磁束密度を高くすることが可能となる。なお、本実施形態では、磁性粉体22を第1液に混合した後に第2液に混合するので、磁性粉体22を第2液に混合した後に第1液に混合する場合に比べて、磁性粉体22を発泡エラストマー21内に均一に分散することができる。
【0039】
次に、上記発泡成形体を着磁する(S14)。この工程では、発泡成形体内の磁性粉体22の粒子23の磁気モーメントを、外部磁場を印加することにより揃える。本実施形態では、外部磁場を、円柱状の発泡エラストマー21の軸方向に印加する。ここで、着磁は、発泡成形体が変形していない自然長状態で行ってもよいし、自然長状態に対して軸方向に圧縮した状態(例えば50%圧縮した50%圧縮状態)で行ってもよい。以上により、発泡成形体から磁性弾性体20が得られる。なお、磁性弾性体20は、主軸方向に10%圧縮されたときに、磁束密度(表面磁束密度)が自然長状態よりも5%以上大きくなるものであることが特に好ましい。このような磁性弾性体20は、例えば、磁性粉体22を分散させた発泡エラストマー21を圧縮した状態(例えば50%圧縮した状態)で、その圧縮方向に磁性粉体22を着磁することで製造することができる。
【0040】
本実施形態の磁性弾性体20は、変形(弾性変形)することによって磁束密度を変化させることができる。そして、本実施形態の電磁誘導装置10では、磁性弾性体20を変形させることにより、コイル11内を軸方向に貫く磁束を変化させて、誘導電流Iを発生させることができる。これは主に、以下で説明するように磁性弾性体20の磁化の変化に起因すると考えられる。
【0041】
本実施形態では、磁性弾性体20が圧縮されると、発泡エラストマー21の気泡が潰れる。従って、磁性弾性体20は、コイル11の軸方向に圧縮されてもコイル11の径方向に膨らみ難くなる(図2(A)から図2(B)への変化を参照)。これにより、磁性粉体22の粒子23の磁気モーメントの向きが、磁性弾性体20のコイル11の径方向への変形に起因して変化することが抑制される。即ち、磁性弾性体20がコイル11の軸方向に変形しても、磁性粉体22の粒子23の磁化方向をコイル11の軸方向に保持しやすくなる。
【0042】
ここで、コイル11の軸方向において、磁性弾性体20中の磁束密度をBz、外部磁場をHz、磁性弾性体20の磁化をMz、真空の透磁率をμ0とすると、
Bz=μ0・Hz+Mz ・・・(A)
の関係があることが知られている。また、磁化Mzについては、コイル11の軸方向での磁性粉体22の粒子23の磁気モーメントの平均値をmz、磁性弾性体20の単位体積当たりの磁性粉体22の粒子23の数をnとすると、
Mz=n・mz ・・・(B)
の関係が成り立つことが知られている。
【0043】
磁性弾性体20がコイル11の軸方向で圧縮されると(図2(B))、磁性弾性体20における磁性粉体22の粒子23の分布密度が上がり(即ち、関係式(B)のnが大きくなり)、磁化Mzが大きくなると考えられる。特に、磁性弾性体20(磁性粉体22)を例えば軸方向での圧縮状態(自然長状態に対して縮んだ状態)で着磁した場合、磁性弾性体20がコイル11の軸方向で圧縮されると、自然長状態に比べて磁性粉体22の粒子23の磁気モーメントの向きがコイル11の軸方向に揃うこととなるので、磁気モーメントの平均値mzが大きくなると考えられる。このように、上述の磁性粉体22の分布密度上昇による効果に加えて、磁気モーメントの平均値mzが大きくなることで、磁化Mzが更に大きくなると考えられる。詳細には、磁性弾性体20が圧縮されると、着磁されたときの圧縮量(即ち、磁性粉体22の磁気モーメントmzの向きが主軸方向に最も揃う状態となる圧縮量)の付近に達したときに磁化Mzが特に大きくなると考えられる。磁化Mzが大きくなると、上記関係式(A)から、磁性弾性体20中の磁束密度Bzが大きくなるので、コイル11内を貫く磁束が大きくなる。その結果、この磁束の変化を打ち消す向き(図4では下向き)に磁場H'を発生させるように、コイル11に誘導電流Iが流れると考えられる。なお、図4及び図5では、誘導電流Iと、誘導電流Iにより発生する磁場H'は、灰色矢印で示されている。
【0044】
本実施形態では、磁性弾性体20が発泡体で構成される。従って、磁性弾性体20が圧縮されたときに、磁性弾性体20における磁性粉体22の粒子23の分布密度を上げやすくなり、磁性弾性体20中の磁束密度の変化を大きくすることが容易となる。これにより、誘導電流Iを容易に発生させることが可能となる。
【0045】
なお、以上の説明では、磁性弾性体20が圧縮される場合の例を説明したが、磁性弾性体20がコイルの軸方向に伸長する場合には、磁性弾性体20の磁化Mzが小さくなり、圧縮の場合と反対向きに誘導電流Iが流れると考えられる。
【0046】
図5(A)及び図5(B)には、磁性弾性体20の変形により、磁性弾性体20のうちコイル11内に配置される部分の大きさが変化する場合の例が示されている。この場合には、以下で説明するように、磁性弾性体20の磁化の変化とは別の要因によっても、コイル11内を貫く磁束が変化すると考えられる。
【0047】
図5(A)及び図5(B)の例では、磁性弾性体20が、コイル11の軸方向に圧縮される。この場合、コイル11内の領域には、磁性弾性体20の変形前(図5(A))には磁性弾性体20が存在する一方で、変形後(図5(B))には磁性弾性体20が存在しなくなる領域Rが設けられることとなる。この領域Rでは、磁性弾性体20の変形前後で、磁束が変化することになるため、領域Rには、この磁束の変化を打ち消すように磁場H"が発生すると考えられる。この磁場H"は、上述の磁性弾性体20における磁性粉体22の粒子23の分布密度変化による磁場H'と反対向きになり得るが、これらの磁場は、磁性弾性体20を変形させる過程で常に同じ大きさとなるわけではないため、コイル11内を貫く磁束の変化が起きてコイル11に誘導電流Iを発生させることができると考えられる。なお、このように、互いに反対向きになる磁場H'、 磁場H"が発生する場合には、図6に示されるように、領域Rを囲むコイルとして、回路12とは別の回路12Vに設けられるコイル11Vを配置してもよい。このように、磁場H'により発生する誘導電流と、磁場H"により発生する誘導電流とを、別の回路に発生させることで、それら誘導電流が相殺されることを防ぐことが可能となる。なお、磁性弾性体20が伸長する場合も、磁性弾性体20が圧縮される場合と同様である。
【0048】
本実施形態の電磁誘導装置10では、コイル11の内側に配置される磁性弾性体20が、発泡エラストマー21に磁性粉体22が分散してなる。そして、磁性弾性体20が、コイル11の軸方向に弾性変形することで、コイル11(回路12)に誘導電流Iを発生させる。このように、本実施形態では、回路12に誘導電流を発生させるための着磁体(磁性弾性体20)が、弾性を有するので、振動等により磁性弾性体20に力がかかった場合に、磁性弾性体20が破損し難くなる。また、弾性により、誘導電流Iを発生させる際に磁性弾性体20を振動変形させることが容易となる。しかも、磁性弾性体20を圧縮してコイル11に誘導電流Iを発生させることができるので、磁性弾性体20の代わりに剛体が用いられる場合よりも、電磁誘導装置10をコイル11の軸方向にコンパクトにすることができる。さらに、本実施形態では、磁性弾性体20が発泡体で構成されるので、磁性弾性体20がコイル11の軸方向に圧縮されたときにコイル11の径方向に膨らみ難くなり、電磁誘導装置10をコイル11の径方向にもコンパクトにすることが可能となる。
【0049】
[確認実験]
電磁誘導装置10について、コイル11の内側に配置した磁性弾性体20の弾性変形によってコイル11に誘導電流Iが発生することを確認した。具体的には、誘導電流Iの代用値としてコイル11に発生する誘導起電力を確認した。
【0050】
[電磁誘導装置の構成]
コイル11としては、銅線からなり、コイルの巻き径(内径)が36mm(36Φ)、軸長が70mm、線径が0.5mm、巻き数が1395回、抵抗が13Ωであるものを用いた。また、磁性弾性体20としては、ポリウレタンの発泡エラストマー21にネオジム系磁性粉体を分散させたものを用いた。なお、ネオジム系磁性粉体は、粒子径の異なるもの(5μmと100μm)を用いた。磁性弾性体20は、円柱状であり、磁性弾性体20の直径は23mm、軸長は23mmである。磁性弾性体20の着磁条件は、8テスラで3秒間とした。なお、磁性弾性体20の着磁は、自然長状態と軸方向における50%圧縮状態とで行った。そして、本実験では、磁性弾性体20をコイル11と同軸に配置すると共に、磁性弾性体20を、自然長状態でコイル11と中心位置が一致するように配置した。磁性弾性体20は、コイル11内に全体が収まっており、軸方向が上下方向となるように配置され、軸方向の一端側から(下方から)圧縮することで磁性弾性体20を弾性変形させた。
【0051】
[各実験例の磁性弾性体の詳細]
磁性弾性体20の原料の詳細は、以下の通りである。
<第1液>
ポリオール;ポリエステルポリオール(分子量:2000、官能基数:2、水酸基価:56mgKOH/g、品名:「ポリライト OD-X-102」、DIC社製
イソシアネート;1,5-ナフタレンジイソシアネート(NCO%:40%、品名:「コスモネートND」、三井化学株式会社製)
ネオジム系磁性粉体;(1)MQFP(5μm)、マグネクエンチ社製、(2)MQFP(100μm)、マグネクエンチ社製
<第2液>
触媒;アミン触媒、品名:「Addocat PP」、ラインケミージャパン社製
発泡剤; ヒマシ油と水を含む混合液、品番:「アドベードSV」(ヒマシ油と水の重量比50:50)、ラインケミージャパン社製
【0052】
また、本実験では、発泡エラストマー21の発泡倍率、ネオジム系磁性粉体の配合比率や粒子径、着磁方法の異なる磁性弾性体20を用いた(実験例1~5)。各実験例の磁性弾性体20における着磁条件や各特性値等は、図8に示す通りである。
【0053】
図8には、実験例1~5の発泡エラストマーの詳細及び特性が示されている。実験例1は、発泡エラストマー21の発泡倍率を2倍とし、自然長状態で着磁したもので、ネオジム系磁性粉体の粒子径は5μm、質量比率は50質量%、体積比率は3.3体積%である。実験例2は、発泡エラストマー21の発泡倍率を4倍としており、ネオジム系磁性粉体の体積比率は1.6体積%となっていて、それ以外は実験例1と同様である。実験例3は、ネオジム系磁性粉体の質量比率を60質量%としており、体積比率は3.9体積%となっていて、それ以外は実験例1と同様である。実験例4は、軸方向における50%圧縮状態で着磁していて、それ以外は実験例3と同様である。実験例5は、ネオジム系磁性粉体の粒子径を100μmとしていて、それ以外は実験例3と同様である。
【0054】
[試験方法]
<発泡エラストマーの密度、発泡倍率>
発泡エラストマー21の発泡倍率は、ネオジム系磁性粉体を含まない第1液と第2液とから、直径23mm、軸長(厚さ)23mmの円柱状の磁性弾性体20の試験サンプルを作製し、JIS K6268:1998に基づき密度を測定し、この密度から発泡倍率を計算した。
【0055】
<ネオジム系磁性粉体の質量比率、体積比率>
ネオジム系磁性粉体の質量比率は、第1液の質量に対するネオジム系磁性粉体の質量を、秤を用いて測定することで求めた。ネオジム系磁性粉体の体積比率は、ネオジム系磁性粉体の質量比率、ネオジム系磁性粉体の密度、発泡エラストマー21の密度から、以下の式を用いて算出した。ここで、ネオジム系磁性粉体の密度は、7.6g/cmとした。
ネオジム系磁性粉体の体積比率(%)=(ネオジム系磁性粉体の質量比率×発泡エラストマーの密度)/(ネオジム系磁性粉体の密度)
【0056】
<圧縮永久ひずみ>
圧縮永久ひずみは、直径13mm、厚さ6.3mmの磁性弾性体20の試験サンプルを作製し、JIS K 6262:2013 A法(小形試験片 70℃×22時間、25%圧縮)に準拠して、測定を行った。
【0057】
<繰返し圧縮ひずみ>
繰返し圧縮ひずみは、直径23mm、軸長(厚さ)23mmの磁性弾性体20の試験サンプルについて、自然長状態(もとの厚さ)に対する軸方向における50%圧縮を1Hz(1回/秒)で10万回行い、この繰返し圧縮試験前後での厚さの変化量を測定して、以下の計算式から算出した。なお、この測定は、常温(23℃)で行った。
繰返し圧縮ひずみ(%)=(圧縮試験前の厚み-圧縮試験後の厚み)/(圧縮試験前の厚み)×100
【0058】
<表面磁束密度>
表面磁束密度は、直径23mm、軸長(厚さ)23mmの磁性弾性体20の試験サンプルを作製し、軸方向の両端面である上面及び下面の中心の磁束密度を各10回(合計20回)、ガウスメーター(「MG-601」、マグナ社製)を用いて測定し、その平均値を算出することで得た。また、表面磁束密度は、自然長状態と、軸方向において自然長状態から10%、25%、50%圧縮した圧縮状態との磁性弾性体20について測定し、自然長状態に対する各圧縮状態の表面磁束密度の変化率を算出した。
【0059】
<発電量>
発電量は、図7に示す試験装置40により、コイル11の軸方向で圧縮と復元を繰り返すように磁性弾性体20を振動変形させて、コイル11の両端間の電圧を測定して評価した。磁性弾性体20に対する振動変形の条件は、圧縮率(ストローク量)3水準、周波数3水準の組み合わせからなる9条件とし、上記電圧の測定を各条件について行った。具体的には、振幅の水準は、6mm、8mm、10mm(変位量)であり、周波数の水準は、1Hz、5Hz、10Hzである。
【0060】
試験装置40の詳細は、以下のようになっている。試験装置40は、コイル11の内側で、磁性弾性体20をコイル11の軸方向で挟むピストン41と固定部材42とを有する。ピストン41は、駆動源43からの動力を受けてコイル11の軸方向に振動し、磁性弾性体20を振動変形させる。固定部材42とピストン41の間隔は、ピストン41が振動のストロークにおいて最も固定部材42から遠ざかったときに、磁性弾性体20の自然長と同じになるように設定されている。即ち、本実験では、固定部材42とピストン41が、磁性弾性体20に常に接する。
【0061】
また、コイル11の両端は、オシロスコープ44に接続され、オシロスコープ44には、コイル11に発生した誘導起電力が表示される。さらに、試験装置40には、ピストン41の振動を検出するためのレーザー変位計45が設けられている。レーザー変位計45からは、ピストン41の振幅や周波数等に関する信号がアンプユニット46を介してオシロスコープ44に出力され、オシロスコープ44でピストン41の振動の振幅や周波数を確認できるようになっている。
【0062】
[試験結果]
実験例1~5は、何れも発泡エラストマー21がポリウレタンエラストマーからなるため、圧縮永久ひずみが21~25%、繰返し圧縮ひずみが13~18%と、良好な結果となっている。
【0063】
実験例1~実験例3の自然長状態の表面磁束密度は、それぞれ9.2mT、4.6mT、10.3mTであり、ネオジム系磁性粉体の体積比率が大きい方が、表面磁束密度は大きくなっている。実験例3と実験例5の自然長状態の表面磁束密度は、10.3mTと14.6mTであり、ネオジム系磁性粉体の粒子径が大きい方が、表面磁束密度は大きくなることが分かる。実験例3と実験例4の自然長状態の表面磁束密度は、10.3mTと9.2mTであり、実験例3の方が大きいが、10%、25%、50%圧縮した状態の表面磁束密度は、それぞれ、10.5mTと9.9mT、10.7mTと10.6mT、10.9mTと12.6mTであり、その変化の割合は、それぞれ、1.9%と7.6%、3.9%と15.2%、5.8%と37.0であった。50%圧縮した状態では、実験例4の方が表面磁束密度は大きくなっている。これは、圧縮されると、ネオジム系磁性粉体の分布密度が増大することに加え、ネオジム系磁性粉体の磁気モーメントの向きが自然長状態に比べて揃うことで、上記関係式(B)の単位体積当たりのネオジム系磁性粉体の数nと磁気モーメントの平均値mzの両方が大きくなり、磁化Mzが大きくなり、自然長状態に比べ、変化の割合も大きくなったと考えられる。そして、磁化Mzが大きくなった結果、磁束密度Bzが大きくなったと考えられる(関係式(A)参照)。また、実験例3では、50%圧縮しても自然長状態に対する表面磁束密度の変化の割合が5.8%であるが、実験例4では、10%圧縮で自然長状態に対する変化の割合が7.6%となっており、弾性変形の程度が小さくても表面磁束密度(磁束密度)の変化を大きくすることが可能となる。
【0064】
実験例1と実験例3の発電量を比較すると、ネオジム系磁性粉体の質量比率(体積比率)が大きい方が、発電量が大きくなっていることが分かる。また、圧縮率(変位量)が大きく、周波数を大きくした方が、発電量がより大きくなっていることが分かる。
【0065】
[磁性弾性体と電磁誘導装置を有する装置の例]
図9(A)及び図9(B)には、電磁誘導装置10を有する発電システム50の例が示されている。発電システム50は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリ51を充電する。発電システム50では、電磁誘導装置10が車両60のサスペンション61に組み付けられる。
【0066】
図9(B)に示されるように、サスペンション61は、ショックアブソーバ62とサスペンションばね63を有している。ショックアブソーバ62は、ピストンロッド64をシリンダ65内で直動させて伸縮する構成となっている。例えば、ピストンロッド64は車体60B(図9(A)参照)に対して固定され、シリンダ65は車輪60Hの回転軸に対して固定される。サスペンションばね63は、ショックアブソーバ62を取り巻くように配置され、シリンダ65から外側に張り出した鍔状部65Tと車体60Bとの間に挟まれる。そして、サスペンションばね63の伸縮に応じてショックアブソーバ62が伸縮する。
【0067】
車両60には、筒状又は環状をなし、ピストンロッド64に嵌合されるバウンドストッパ66が設けられている。バウンドストッパ66は、ショックアブソーバ62が縮むと、シリンダ65に押圧されてシリンダ65と車体60Bとの間で圧縮される。本実施形態の例では、バウンドストッパ66は、円筒状をなし、外周面のうち軸方向の複数位置に環状の溝部を有している。なお、ピストンロッド64のうち車体60B側にフランジを設け、このフランジとシリンダ65によりバウンドストッパ66を圧縮してもよい。本例では、シリンダ65と、車体60B又は上記フランジとが、特許請求の範囲に記載の「1対の対向部材」に相当する。また、ショックアブソーバ62が特許請求の範囲に記載の「伸縮機構」に相当する。
【0068】
本例の発電システム50では、回路12に設けられた巻回部(本実施形態の例では、コイル11)が、サスペンションばね63の内側で、バウンドストッパ66を取り巻くようにバウンドストッパ66と同軸上に配置される。(図9(B)参照)。即ち、ショックアブソーバ62の伸縮方向は、コイル11の軸方向となる。また、コイル11はバッテリ51に接続されている(図9(A)参照)。そして、本例の発電システム50では、バウンドストッパ66が、磁性弾性体20で構成されている。具体的には、バウンドストッパ66は、軸方向に磁化されている。これにより、道路の凹凸等により車両60のシリンダ65や車体60Bが振動することで、バウンドストッパ66、即ち、磁性弾性体20をコイル11の軸方向で弾性変形させることができ、コイル11(回路12)に誘導電流Iを発生させることができる。本例の発電システム50によれば、車両60の振動によってコイル11に発生した誘導電流Iでバッテリ51を充電することができ、車両の振動エネルギーの有効利用が図られる。また、磁性弾性体20が弾性を有するので、車両50にもともと設けられているバウンドストッパを、発電に利用することができる。なお、回路12においてバウンドストッパ66を取り巻く巻回部は、コイル11のように複数回、巻回した構成であってもよいし、一巻きのみの構成であってもよい。
【0069】
図10(A)及び図10(B)には、電磁誘導装置10を有する検出装置70の例が示されている。図10(A)に示されるように、検出装置70は、例えば、建物や乗り物の床構造71に用いられる。具体的には、この床構造71は、土台72の上に床パネル73が敷かれた構造となっていて、土台72と床パネル73の間には、複数の緩衝材78が敷き詰められている。床パネル73に荷重がかかると、緩衝材78が弾性変形する。
【0070】
本例の検出装置70では、複数の緩衝材78に、回路12のコイル11が巻回された緩衝材78が含まれている。そして、このコイル11が巻回された緩衝材78は、磁性弾性体20で構成されている。これにより、床パネル73に荷重がかかると、磁性弾性体20が変形し、コイル11(回路12)に誘導電流Iを発生させることができる。
【0071】
図10(B)に示されるように、本例の検出装置70には、電流計74と、警報装置75と、制御基板76が備えられている。電流計74は、コイルに発生する誘導電流Iを検出する。警報装置75は、音、表示、又は、振動等により警報を発するものであり、例えば、スピーカであってもよいし、表示装置であってもよい。制御基板76は、電流計74と警報装置75に電気的に接続され、電流計74の検出結果に基づいて警報装置75に制御信号を出力する。詳細には、制御基板76に設けられたCPU77が、例えば、コイル11に発生した誘導電流Iが予め設定された基準範囲内か否かを判定し、規準範囲外である場合、警報装置75に警報を鳴らす制御信号を出力する。上記基準範囲としては、例えば、誘導電流Iの大きさが所定値以下であることや、誘導電流Iが交流である場合にその誘導電流Iの振幅又は周波数が所定値以下であること、等が挙げられる。なお、電流計74の代わりにコイル11の両端の電圧を測定する(即ち、コイル11に発生する誘導起電力を検出する)電圧計が設けられていてもよく、この場合、検出した誘導起電力に基づいて基準範囲内か否かを判定してもよい。
【0072】
本例の検出装置70では、上述したように、床パネル73に荷重がかかり、磁性弾性体20が変形すると、コイル11に誘導電流Iが流れ、その誘導電流Iが所定の基準範囲内か否かが判定される。そして、誘導電流Iが基準範囲外である場合、警報装置75により警報が鳴らされる。これにより、床パネル73に、異常な荷重がかかった場合や異常振動が起きた場合に、その異常の検知が容易になる。また、磁性弾性体20が弾性を有するので、床構造71に設けられている緩衝材を、異常の検出に利用することができる。
【0073】
[他の実施形態]
(1)電磁誘導装置10は、図11に示す検出装置80に備えられてもよい。検出装置80では、図9(B)に示す例と同様に、電磁誘導装置10が車両60のサスペンション61に組み付けられる。また、検出装置80には、上記検出装置70の電流計74、警報装置75、制御基板76と同様に、電流計84、警報装置85、制御基板86が設けられる。警報装置85は、例えば、車両60のナビゲーション装置に備えられる。この検出装置80によれば、車両60に異常な荷重がかかった場合や、サスペンション61の故障などにより異常振動が発生した場合に、そのことをナビゲーション装置によって乗員に知らせることができる。なお、警報装置85は、車両60と離れた場所(例えば、監視センタ)に配置されてもよい。この場合、例えば、電磁誘導装置10と警報装置85との間の接続に適宜、無線接続を用いればよい。この構成によれば、車両60に生じた異常荷重や異常振動を、車両60から離れた位置でも把握することができる。
【0074】
(2)電磁誘導装置10において、磁性弾性体20は、コイル11の径方向でコイル11の内側に配置されていればよく、コイル11の軸方方向ではコイル11の外側に配置されていてもよい。この場合、例えば、磁性弾性体20を、自然長の状態ではコイル11内に一部が収まり、圧縮されたときにはコイル11の全体が外側にはみ出るように配置してもよい。
【0075】
(3)上記実施形態では、磁性弾性体20の磁化方向が、コイル11の軸方向と同じであったが、コイル11の軸方向に対して傾斜していてもよい。
【0076】
(4)上記実施形態では、磁性弾性体20が、円柱状であったが、これに限定されるものではなく、長方形状であっても、球状であってもよい。また、上述したバウンドストッパ66(図9(B)参照)等の製品形状であってもよい。
【0077】
(5)上記実施形態では、コイル11と磁性弾性体20が同軸に配置されていたが、コイル11と磁性弾性体20の中心軸が平行であってもよいし、互いに傾斜していてもよい。
【0078】
(6)上記実施形態では、誘導電流が発生する回路12にコイル11が設けられていたが、コイル11が設けられていなくてもよい。この場合、回路12を、磁性弾性体20の弾性変形により誘導電流が発生するように配置すればよい。
【0079】
(7)上記実施形態では、コイル11(回路12)に誘導電流を発生させる磁性弾性体20の弾性変形が、圧縮であったが、伸長であってもよいし、ねじりであってもよいし、曲げであってもよい。
【0080】
(8)磁性弾性体20は、磁性粉体が分散された発泡エラストマーで構成されるので、任意の形状に容易にカットすることができる。このカット体もN極とS極を有する磁石となるので、磁性弾性体20をおもちゃに用いてもよい。また、磁性弾性体20は、フェライト磁石等に比べて、軽量であるので、他の磁石等の磁力で浮かせる用途に用いることもできる。
【0081】
(9)上記実施形態では、磁性弾性体20の原料のイソシアネートとして1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)を用いたが、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を用いてもよい。
【0082】
(10)上記実施形態では、検出装置80が、コイル11(回路12)に生じた誘導起電力(誘導電流)に基づいて検出を行う構成であったが、磁気センサによって磁性弾性体20の磁束密度の変化を検出する構成であってもよい。磁気センサとしては、例えば、ホール素子、TMR素子(トンネル磁気抵抗効果素子)、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)、AMR素子(異方性磁気抵抗効果素子)等が挙げられる。
【符号の説明】
【0083】
10 電磁誘導装置
11 コイル
12 回路
20 磁性弾性体
21 発泡エラストマー
22 磁性粉体
50 発電システム
51 バッテリ
60 車両
61 サスペンション
62 ショックアブソーバ
63 サスペンションばね
64 ピストンロッド
65 シリンダ
66 バウンドストッパ
70 検出装置
73 床パネル
76 制御基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11