(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】腫瘍細胞マーカー、および腫瘍細胞を検出または回収する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20241126BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241126BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20241126BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241126BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20241126BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241126BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 M
G01N33/53 D
G01N33/574 A
C12Q1/68 ZNA
C12N15/115 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020040654
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304024865
【氏名又は名称】学校法人杏林学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桶川 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】熊木 勇一
(72)【発明者】
【氏名】大槻 誠
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0322356(US,A1)
【文献】特表2008-533487(JP,A)
【文献】特開2017-129584(JP,A)
【文献】特表2014-533828(JP,A)
【文献】特表2016-512197(JP,A)
【文献】特表2018-517888(JP,A)
【文献】特表2019-514028(JP,A)
【文献】特表2018-504115(JP,A)
【文献】特表2013-508736(JP,A)
【文献】特表2017-501137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0234869(US,A1)
【文献】LIDDO, R. et al.,Adrenomedullin in the growth modulation and differentiation of acute myeloid leukemia cells,INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY,2016年,Vol.48,p.1659-1669,DOI: 10.3892/ijo.2016.3370
【文献】CHEN, Q. et al.,Epithelial membrane protein 2: a novel biomarker for circulating tumor cell recovery in breast cancer,CLINICAL AND TRANSLATIONAL ONCOLOGY,2018年09月14日,Vol.21,p.433-442,https://doi.org/10.1007/s12094-018-1941-1
【文献】KRAWCZYK, N. et al.,Expression of Stem Cell and Epithelial-Mesenchymal Transition Markers in Circulating Tumor Cells of Breast Cancer Patients,BIOMED RESEARCH INTERNATIONAL,2014年05月08日,Vol.2014/No.415721,p.1-11,https://doi.org/10.1155/2014/415721
【文献】YIN, J. et al.,AR-Regulated TWEAK-FN14 Pathway Promotes Prostate Cancer Bone Metastasis,CANCER RESEARCH,2014年08月15日,Vol.74/No.16,p.4306-4317,https://doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-13-3233
【文献】ALLIOLI, N. et al.,TM4SF1, A Novel Primary Androgen Receptor Target Gene Over-Expressed in Human Prostate Cancer and Involved in Cell Migration,PROSTATE,2011年01月12日,Vol.71/No.11,p.1239-1250,https://doi.org/10.1002/pros.21340
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/68
C12N 15/115
C12N 15/12
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的細胞を検出する方法であって、
前記試料中の腫瘍マーカーを検出する工程を含み、
前記腫瘍マーカーの検出シグナルが陰性対照細胞におけるマーカーの検出シグナルの10.00倍以上高く、
前記標的細胞が、少なくとも1つの上皮系マーカーが陰性の腫瘍細胞であり、
前記腫瘍マーカーが、以下の(1)から(3)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、方法:
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1から17個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列全体に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
前記腫瘍マーカーが、該腫瘍マーカーを特異的に認識する抗体またはアプタマーを用いて検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍マーカーが、該腫瘍マーカーをコードする遺伝子の転写産物を検出することにより検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、夾雑細胞を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記夾雑細胞が、白血球である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が、被験体から得られた試料である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体が、癌被験体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記被験体が、ヒトである、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が、血液由来試料である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記上皮系マーカーが、サイトケラチンおよび/またはEpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が、被験体から得られた試料であり、
前記被験体が、癌被験体であり、
前記検出により、前記試料中の前記標的細胞の個数が測定される、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
試料中の標的細胞を回収する方法であって、
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により前記試料中の前記標的細胞を検出する工程、および
検出した前記標的細胞を回収する工程
を含む、方法。
【請求項13】
被験体の予後を予測するためのデータ取得方法であって、
請求項11に記載の方法により前記試料中の前記標的細胞の個数を測定する工程、および
前記個数と前記被験体の予後とを関連付けるためのデータを取得する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞マーカー、および試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を検出または回収する方法に関する。本発明は、特に、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を、同試料中に含まれる夾雑細胞と区別して検出または回収する方法に関するものであってよい。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞は、原発巣から離脱すると、血管内またはリンパ管内へと浸透し、血液中またはリンパ液中を循環した後、最終的に他臓器や組織に侵入することで、転移巣を形成する。ここで、血液中を循環する腫瘍細胞は循環腫瘍細胞(Circulating Tumor cell;CTC)とも呼ばれ、多くの臨床試験や研究がなされている。例えば、癌患者から採取した血液中に含まれるCTCの数を測定すること(特許文献1)、または前記CTCにおけるタンパク質の発現または遺伝子の突然変異もしくは転座を調べることにより、前記患者の予後予測や癌再発予測に関する情報を提供できる。
【0003】
CTCの検出には、一般的には、サイトケラチンやEpCAM(Epithelial
cell adhesion molecule)などの上皮系マーカーが用いられている。すなわち、CTCは、上皮系マーカー陽性の細胞として検出されている。
【0004】
一方、非特許文献1において、上皮系細胞が多くを占める腫瘍組織の中に、上皮間葉転換(Epithelial to mesenchymal transition;EMT)を起こした、上皮系マーカーの発現が低い間葉系細胞が存在し、当該間葉系細胞が癌の転移に関わっていることが報告されている。つまり、上皮間葉転移を起こした、上皮系マーカー陰性のCTCの方が、上皮系マーカー陽性のCTCよりも、悪性度が高く重要だと考えることができる。一例として、特許文献2において、上皮系マーカー陰性のCTCが、癌患者の予後予測に有用であることが報告されている。
【0005】
ここで、上皮系マーカーのみを指標として上皮系マーカー陰性のCTCを特異的かつ網羅的に検出するのは難しい場合がある。上皮系マーカー陰性のCTCを検出する方法としては、例えば、ビメンチン(Vimentin)や神経カドヘリン(N-Cadherin)等の間葉系マーカー(特許文献3および4)や、TROP2(特許文献5)を用いた方法が報告されている。しかしながら、ビメンチンは血液中の白血球でも高発現しているため、上皮系マーカー陰性のCTCの特異的検出には向かない。また、神経カドヘリンおよびTROP2は上皮間葉転移を起こしたCTCの一部のみでしか発現していないため、上皮系マーカー陰性のCTCの網羅的検出には不十分である。そのため、上皮系マーカー陰性CTCを特異的かつ網羅的に検出するのにより有用なマーカーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-533487号公報
【文献】特開2017-129584号公報
【文献】特表2014-533828号公報
【文献】特表2016-512197号公報
【文献】特表2018-517888号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Simon,A.Joosse.et al.,CANCER RESEARCH,73,8-11(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を検出または回収する方法を提供することである。本発明の課題は、一態様において、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を、当該試料中に含まれる夾雑細胞と区別して検出または回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を、当該試料中に含まれる夾雑細胞と区別して検出または回収するために利用可能なマーカーを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は以下の通り例示できる。
[1]
試料中の標的細胞を検出する方法であって、
前記試料中の腫瘍マーカーを検出する工程を含み、
前記標的細胞が、少なくとも1つの上皮系マーカーが陰性の腫瘍細胞であり、
前記腫瘍マーカーが、以下の(1)から(4)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、方法:
(1)配列番号1から92のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号1から92のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(3)配列番号1から92のいずれかに記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(4)前記(1)から(3)のポリペプチドのスプライシングバリアントであるポリペプチド。
[2]
前記腫瘍マーカーが、該腫瘍マーカーを特異的に認識する抗体またはアプタマーを用いて検出される、前記方法。
[3]
前記腫瘍マーカーが、該腫瘍マーカーをコードする遺伝子の転写産物を検出することにより検出される、前記方法。
[4]
前記試料が、夾雑細胞を含む、前記方法。
[5]
前記夾雑細胞が、白血球である、前記方法。
[6]
前記試料が、被験体から得られた試料である、前記方法。
[7]
前記被験体が、癌被験体である、前記方法。
[8]
前記被験体が、ヒトである、前記方法。
[9]
前記試料が、血液由来試料である、前記方法。
[10]
前記上皮系マーカーが、サイトケラチンおよび/またはEpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)である、前記方法。
[11]
前記腫瘍マーカーが、以下の(5)から(8)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、前記方法:
(5)配列番号1から23のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(6)配列番号1から23のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(7)配列番号1から23のいずれかに記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(8)前記(5)から(7)のいずれかのポリペプチドのスプライシングバリアントであるポリペプチド。
[12]
前記試料が、被験体から得られた試料であり、
前記被験体が、癌被験体であり、
前記検出により、前記試料中の前記標的細胞の個数が測定される、
前記方法。
[13]
試料中の標的細胞を回収する方法であって、
前記方法により前記試料中の前記標的細胞を検出する工程、および
検出した前記標的細胞を回収する工程
を含む、方法。
[14]
被験体の予後を予測する方法であって、
前記方法により前記試料中の前記標的細胞の個数を測定する工程、および
前記個数と前記被験体の予後とを関連付ける工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を回収または検出することができる。本発明によれば、一態様において、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞を、当該試料中に含まれる夾雑細胞と区別して回収または検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】白血球および上皮系マーカー陰性のCTCのRAMP2遺伝子発現解析結果を示す図である。図中、WBC1からWBC4は白血球の発現解析結果、CTC1からCTC10は上皮系マーカー陰性のCTCの発現解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
<1>検出方法
本発明の検出方法は、試料中の標的細胞を検出する方法である。本発明の検出方法は、具体的には、試料中の標的細胞を、当該試料中の夾雑細胞と区別して検出する方法であってよい。
【0015】
標的細胞は、特定のポリペプチドを腫瘍マーカーとして用いることにより検出することができる。以下、特定のポリペプチドを、「腫瘍マーカー」ともいう。すなわち、本発明の検出方法は、試料中の腫瘍マーカーの発現を検出する工程を含んでいてよい。同工程を、「検出工程」ともいう。検出工程は、具体的には、試料中の腫瘍マーカーの発現を検出
することにより、標的細胞を検出する工程であってよい。標的細胞は、腫瘍マーカー陽性の細胞として検出することができる。すなわち、検出工程は、より具体的には、試料中の腫瘍マーカーの発現を検出することにより、腫瘍マーカー陽性の細胞を標的細胞として検出する工程であってよい。
【0016】
試料は、標的細胞を含有し得るものであれば、特に制限されない。試料は、例えば、被験体より得られた試料であってよい。試料としては、血液(全血)、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液等の血液試料;尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水等の血液成分を含有し得る試料;肝臓、肺、脾臓、腎臓、皮膚、腫瘍、リンパ節等の組織の断片の懸濁液(組織懸濁液);それらの分画物が挙げられる。組織懸濁液は、例えば、組織の断片を液体媒体で懸濁することにより取得できる。液体媒体としては、水や水性緩衝液が挙げられる。分画物としては、上記のような試料に由来する、細胞を含有する画分が挙げられる。分画物として、具体的には、上記のような試料を密度勾配遠心等の遠心分離に供することで得られる、細胞を含有する画分が挙げられる。試料としては、特に、血液試料、血液成分を含有し得る試料、およびそれらの分画物(以下、総称して「血液由来試料」ともいう)が挙げられる。血液由来試料は、被験体からの採取が比較的容易であり得る。試料は、例えば、そのまま、あるいは適宜、希釈または濃縮等の操作に供してから、検出工程に用いてよい。試料は、例えば、懸濁液の形態で検出工程に用いてよい。
【0017】
試料には、例えば、添加剤が添加されていてよい。添加剤は、特に、血液由来試料に添加されてよい。添加剤としては、抗凝固剤、抗血小板剤、ホルムアルデヒドドナー化合物(加水分解を受けることでホルムアルデヒドを放出可能な化合物)、ポリエチレングリコールが挙げられる。抗凝固剤としては、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤が挙げられる。これらの添加剤は、例えば、標的細胞の安定化に寄与し得る。添加剤としては、1種の添加剤を用いてもよく、2種またはそれ以上の添加剤を組み合わせて用いてもよい。添加剤は、例えば、被験体からの試料の採取時に添加されてもよく、被験体からの試料の採取後に添加されてもよい。2種またはそれ以上の添加剤を用いる場合、それらの添加剤は、同時に試料に添加してもよく、そうでなくてもよい。例えば、2種またはそれ以上の添加剤を含有する溶液を試料に添加してもよく、それらの添加剤のそれぞれを含有する溶液を個別に試料に添加してもよい。ホルムアルデヒドドナー化合物、抗血小板剤、および抗凝固剤を添加した血液由来試料(保存処理した血液由来試料)は、試料が凍らない低温から室温(例えば0℃から30℃)で少なくとも7日間は安定に保存可能であり得る。
【0018】
試料は、例えば、細胞の固定処理や膜透過処理等の処理に供してから検出工程に用いてもよい。固定処理剤としては、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドドナー化合物、グルタルアルデヒド等のアルデヒド類、メタノール、エタノール等のアルコール類、重金属を含有する溶液が挙げられる。膜透過処理剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール類や、サポニン等の界面活性剤が挙げられる。
【0019】
被験体は、特に制限されない。被験体は、例えば、癌被験体であってよい。「癌被験体」とは、癌に罹患していたか、癌に罹患している被験体を意味する。被験体は、癌の治療前の被験体であってもよく、癌の治療中の被験体であってもよく、癌の治療後の被験体であってもよい。被験体は、特に、癌の治療後の被験体であってよい。被験体は、ヒトであってもよく、ヒト以外の動物であってもよい。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、チンパンジー、鳥が挙げられる。被験体は、特に、ヒトであってよい。
【0020】
癌の種類は、特に制限されない。癌は、原発癌でもよく、転移癌であってもよい。癌としては、造血細胞悪性腫瘍、頭頚部癌、脳腫瘍、乳癌、子宮体癌、子宮頚癌、卵巣癌、食
道癌、胃癌、虫垂癌、大腸癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、腎癌、副腎癌、消化管間質腫瘍、中皮腫、甲状腺癌、肺癌、骨肉腫、骨癌、前立腺癌、精巣腫瘍、膀胱癌、皮膚癌、肛門癌が挙げられる。造血細胞悪性腫瘍としては、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫が挙げられる。リンパ腫としては、ホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫が挙げられる。頭頚部癌としては、口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌、唾液腺癌、副鼻腔癌が挙げられる。癌としては、特に、前立腺癌が挙げられる。
【0021】
試料は、夾雑細胞を含んでいてよい。「夾雑細胞」とは、標的細胞以外の細胞を意味する。夾雑細胞としては、赤血球、白血球、血小板が挙げられる。夾雑細胞としては、特に、白血球が挙げられる。赤血球、白血球、血小板等の夾雑細胞は、例えば、血液由来試料に含まれていてよい。本発明の検出方法は、特に、血液試料等の血液由来試料中の標的細胞と白血球の識別に有効であり得る。
【0022】
標的細胞は、上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞である。標的細胞は、腫瘍マーカー陽性の細胞として検出することができる。すなわち、腫瘍マーカー陽性の細胞は、上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞とみなしてよい。また、標的細胞は、言い換えると、腫瘍マーカー陽性で、且つ上皮系マーカー陰性の腫瘍細胞でもある。標的細胞が上皮系マーカー陰性であることは、例えば、標的細胞における上皮系マーカーの発現を測定することにより、確認することができる。腫瘍細胞としては、循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell;CTC)が挙げられる。CTCは、特に、血液由来試料に含有され得る。血液由来試料中の腫瘍細胞は、典型的には、CTCとみなしてよい。標的細胞は、上皮系マーカー陰性であることから、悪性度が高い腫瘍細胞であることが示唆される。悪性度が高い腫瘍細胞としては、上皮間葉転換を起こした腫瘍細胞や骨転移に関係する腫瘍細胞が挙げられる。上皮間葉転換を起こした腫瘍細胞としては、ビメンチン(Vimentin)や神経カドヘリン(N-Cadherin)等の間葉系マーカー陽性の腫瘍細胞が挙げられる。標的細胞は、例えば、単一細胞として存在していてもよく、細胞クラスタ(細胞集塊)を形成していてもよい。細胞クラスタは、標的細胞を1個またはそれ以上含んでいてよい。細胞クラスタは、標的細胞に加えて、標的細胞以外の細胞を含んでいてもよく、いなくてもよい。
【0023】
上皮系マーカーとしては、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)やサイトケラチン(CK)が挙げられる。CKとしては、CK1からCK20(すなわち、CK1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20)が挙げられる。CKとしては、特に、サイトケラチン8(CK8;KRT8ともいう)が挙げられる。上皮系マーカーとしては、1つの上皮系マーカーを用いてもよく、2つまたはそれ以上の上皮系マーカーの組み合わせを用いてもよい。「上皮系マーカー陰性」とは、少なくとも1つの上皮系マーカーが陰性であることを意味してよい。2つまたはそれ以上の上皮系マーカーの組み合わせを用いる場合、標的細胞においては、少なくとも1つの上皮系マーカーが陰性であればよい。2つまたはそれ以上の上皮系マーカーの組み合わせを用いる場合、標的細胞においては、2つまたはそれ以上の上皮系マーカーが陰性であってもよい。
【0024】
標的細胞の検出は、例えば、定性的な検出(例えば、試料中の標的細胞の有無の検出)であってもよく、定量的な検出(例えば、試料中の標的細胞の存在量の検出)であってもよい。標的細胞の存在量としては、標的細胞の個数が挙げられる。すなわち、検出工程においては、例えば、標的細胞の個数が測定されてよい。すなわち、検出工程は、例えば、試料中の腫瘍マーカーの発現を検出し、標的細胞の個数を測定する工程であってもよい。試料中の標的細胞の個数は、試料中の標的細胞を検出してその個数をカウントすることにより、測定できる。標的細胞の個数は、例えば、単位量(例えば、単位重量または単位体積)の試料当たりの標的細胞の個数として算出されてよい。
【0025】
腫瘍マーカーや上皮系マーカー等のマーカーの発現を検出する方法は、特に制限されない。「検出」と「測定」は代替可能に用いられてよい。「マーカーの発現」と「マーカーをコードする遺伝子の発現」は代替可能に用いられてよい。マーカーをコードする遺伝子を、「マーカー遺伝子」ともいう。検出マーカーの発現の検出は、例えば、定性的な検出(例えば、マーカーの発現の有無の検出)であってもよく、定量的な検出(例えば、マーカーの発現の程度の検出)であってもよい。マーカーの発現の検出は、例えば、マーカー遺伝子の発現産物を検出することにより、実施できる。マーカー遺伝子の発現産物としては、マーカー遺伝子の転写産物(すなわち、マーカーをコードするmRNA)やマーカー遺伝子の翻訳産物(すなわち、マーカー)が挙げられる。マーカー遺伝子の発現産物としては、特に、マーカーが挙げられる。マーカー遺伝子の発現産物の検出は、例えば、定性的な検出(例えば、発現産物の有無の検出)であってもよく、定量的な検出(例えば、発現産物の存在量の検出)であってもよい。
【0026】
マーカーの発現は、通常、細胞が保持するマーカー遺伝子の発現産物を測定することにより、直接的に検出されてよい。また、マーカー遺伝子の発現産物の分泌等により細胞外にマーカー遺伝子の発現産物が存在する場合、マーカーの発現は、細胞外に存在するマーカー遺伝子の発現産物を測定することにより、間接的に検出されてもよい。すなわち、標的細胞は、通常、標的細胞が保持する腫瘍マーカー遺伝子の発現産物を測定することにより、直接的に検出されてよい。また、腫瘍マーカー遺伝子の発現産物の分泌等により標的細胞外に腫瘍マーカー遺伝子の発現産物が存在する場合、標的細胞は、標的細胞外に存在する腫瘍マーカー遺伝子の発現産物を測定することにより、間接的に検出されてもよい。
【0027】
マーカー遺伝子の発現産物を測定する方法は、特に制限されない。マーカー遺伝子の発現産物は、発現産物の種類に応じた適切な手法により測定することができる。マーカー遺伝子の発現産物は、例えば、mRNAまたはタンパク質を定量する公知の手法により測定することができる。
【0028】
マーカーは、例えば、マーカーに対する抗体、マーカーに対するアプタマー、またはマーカーに特異的に染色可能な色素(例えば化学発光色素や蛍光色素)を利用して検出することができる。マーカーは、特に、マーカーに対する抗体またはアプタマーを利用して検出してよい。マーカーは、さらに特には、マーカーに対する抗体を利用して検出してよい。マーカーに対する抗体を利用することにより、例えば、マーカーを簡便、高感度、かつ特異的に検出でき得る。抗体やアプタマーは、いずれも、適宜、標識物質で修飾されていてよい。標識物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、Alexa Fluor(商品名)等の蛍光物質や、アルカリホスファターゼやホースラディッシュペルオキシダーゼ等の酵素、放射性物質が挙げられる。抗体またはアプタマーと標識物質との結合態様は、特に制限されない。抗体またはアプタマーは標識物質と直接結合していてもよく、そうでなくてもよい。例えば、抗体は、標識物質と化学結合等により直接結合していてもよく、標識物質と結合した二次抗体(標識二次抗体)と結合することによって間接的に標識物質と結合していてもよい。マーカーは、具体的には、例えば、マーカーに対する抗体を利用した、EIA(Enzyme Immunoassay)法またはウェスタンブロット法により、検出することができる。EIA法としては、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay)法、FEIA(Fluorescence Enzyme
Immunoassay)法が挙げられる。マーカーは、手動で検出してもよく、測定装置を用いて自動的に検出してもよい。測定装置としては、AIA-900(東ソー)などのエンザイムイムノアッセイ装置やAIA-CL2400(東ソー)などの化学発光酵素免疫測定装置が挙げられる。
【0029】
マーカーをコードするmRNAは、例えば、同mRNAに特異的にハイブリダイズするプローブを利用したハイブリダイゼーション法により検出することができる。また、マーカーをコードするmRNAは、同mRNAを特異的に増幅できるプライマーセットを利用した、PCR法、RT-PCR法、TRC(Transcription Reverse transcription Concerted)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、またはTMA(Transcription-Mediated Amplification)法等により増幅して検出することもできる。マーカーをコードするmRNAは、試料を直接塩基配列解析に供して検出することもできる。
【0030】
標識した標的細胞の検出および計数は、具体的には、例えば、顕微鏡、光学検出器、またはフローサイトメーターを用いて実施してよい。顕微鏡としては、蛍光顕微鏡が挙げられる。
【0031】
標識した標的細胞は、例えば、染色像(例えば蛍光像)に基づいて検出および計数してよい。染色像(例えば蛍光像)に基づく標的細胞の検出および計数は、例えば、手動で実施してもよく、標的細胞を自動で読み取るソフトウェアを用いて自動で実施してもよい。なお、標識した標的細胞の検出および計数の際には、例えば、染色像(例えば蛍光像)に加えて、明視野像による観察結果を参考にしてもよい。
【0032】
複数のマーカーの発現を検出する場合、それらのマーカーの発現は、例えば、それぞれ別個に検出してもよく、まとめて同時に検出してもよい。
【0033】
マーカーの発現の検出は、例えば、複数個の細胞を含有する試料に対して実施してもよいし、試料から分離した単一細胞に対して実施してもよい。マーカーの発現の検出は、特に、複数個の細胞を含有する試料に対して実施してよい。
【0034】
マーカーの陰性/陽性の判断基準は、所望の程度に標的細胞を検出できる限り、特に制限されない。陰性/陽性の判断基準は、例えば、標的細胞の検出の目的等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0035】
例えば、マーカーの発現が全く認められない場合(例えば、マーカーの検出シグナルが全く認められない場合)に当該マーカーが陰性であると判断してよい。また、例えば、マーカーの発現レベルが所定の閾値未満である場合(例えば、マーカーの検出シグナルの強度が所定の閾値未満の場合)に当該マーカーが陰性であると判断してもよい。また、例えば、マーカーの発現レベルが陰性対照細胞におけるマーカーの発現レベルと同等以下である場合(例えば、マーカーの検出シグナルの強度が陰性対照細胞におけるマーカーの検出シグナルと同等以下である場合)に当該マーカーが陰性であると判断してもよい。また、例えば、マーカーの発現レベルが陽性対照細胞におけるマーカーの発現レベルの半分未満、1/3未満、1/5未満、または1/10未満である場合(例えば、マーカーの検出シグナルの強度が陽性対照細胞におけるマーカーの検出シグナルの半分未満、1/3未満、1/5未満、または1/10未満である場合)に当該マーカーが陰性であると判断してもよい。
【0036】
例えば、マーカーの発現が少しでも認められる場合(例えば、マーカーの検出シグナルが少しでも認められる場合)に当該マーカーが陽性である判断してよい。また、例えば、マーカーの発現レベルが所定の閾値以上である場合(例えば、マーカーの検出シグナルの強度が所定の閾値以上の場合)に当該マーカーが陽性であると判断してもよい。また、例えば、マーカーの発現レベルが陽性対照細胞におけるマーカーの発現レベルと同等以上である場合(例えば、マーカーの検出シグナルの強度が陽性対照細胞におけるマーカーの検
出シグナルと同等以上である場合)に当該マーカーが陽性であると判断してもよい。また、例えば、マーカーの発現レベルが陰性対照細胞におけるマーカーの発現レベルよりも有意に高い場合(例えば、マーカーの検出シグナルの強度が陰性対照細胞におけるマーカーの検出シグナルよりも一定の値以上高い、またはマーカーの検出シグナルの強度が陰性対照細胞におけるマーカーの検出シグナルの平均値+2SD以上、平均値+3SD以上、または平均値+4SD以上である場合)に当該マーカーが陽性であると判断してもよい。
【0037】
「陰性対照細胞」とは、マーカーが陰性である細胞を意味する。「陽性対照細胞」とは、マーカーが陽性である細胞を意味する。腫瘍マーカーについての陰性対照細胞としては、赤血球や白血球等の夾雑細胞が挙げられる。上皮系マーカーについての陰性対照細胞としては、血管内皮細胞や間葉系幹細胞が挙げられる。上皮系マーカーについての陽性対照細胞としては、上皮細胞が挙げられる。
【0038】
本発明の検出方法によれば、標的細胞を特異的に検出することができる。すなわち、本発明の検出方法によれば、試料が夾雑細胞を含む場合であっても、標的細胞を夾雑細胞と区別して検出することができる。本発明の検出方法によれば、特に、夾雑細胞を含む試料中にわずかしか存在しない標的細胞が検出されてよい。「試料中の標的細胞を夾雑細胞と区別して検出する」とは、例えば、夾雑細胞を含む試料中の標的細胞の有無または存在量を同定することを意味してよく、特に、試料中の各細胞が標的細胞であるか夾雑細胞であるかを同定することを意味してもよい。例えば、少なくとも、標的細胞を夾雑細胞と区別して検出し回収する場合には、回収される各細胞が標的細胞であるかが同定されてよい。具体的には、各細胞における腫瘍マーカーの発現を検出することにより、各細胞が標的細胞であるか夾雑細胞であるかを同定できる。すなわち、腫瘍マーカーを発現する細胞は、夾雑細胞ではなく標的細胞であるとみなすことができ、すなわち、夾雑細胞と区別して検出することができる。各細胞における腫瘍マーカーの発現は、例えば、各細胞に保持される腫瘍マーカー遺伝子の発現産物を検出することにより検出できる。
【0039】
特定のポリペプチドとしては、配列番号1から92に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドやそれらのバリアントが挙げられる。特定のポリペプチドとしては、特に、配列番号1から23に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドやそれらのバリアントが挙げられる。配列番号1から92に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドのバリアントは、いずれも、それぞれ、例えば、配列番号1から92に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一の機能を有していてよい。特定のポリペプチドとしては、1種のポリペプチドを用いてもよく、2種またはそれ以上のポリペプチドを組み合わせて用いてもよい。
【0040】
特定のポリペプチド(すなわち腫瘍マーカー)としては、以下の(1)から(4)のポリペプチドが挙げられる:
(1)配列番号1から92のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号1から92のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(3)配列番号1から92のいずれかに記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(4)前記(1)から(3)のいずれかのポリペプチドのスプライシングバリアントであるポリペプチド。
【0041】
特定のポリペプチド(すなわち腫瘍マーカー)としては、特に、以下の(5)から(8)のポリペプチドが挙げられる:
(5)配列番号1から23のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(6)配列番号1から23のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミ
ノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(7)配列番号1から23のいずれかに記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(8)前記(5)から(7)のいずれかのポリペプチドのスプライシングバリアントであるポリペプチド。
【0042】
(1)から(8)のポリペプチドは、いずれも、標的細胞が発現するポリペプチドであってよい。また、(5)から(8)のポリペプチドは、(1)から(4)のポリペプチドのうち、膜貫通型のポリペプチドであってよい。(5)から(8)のポリペプチドは、特に、標的細胞を回収する場合の腫瘍マーカーとして用いてもよい。
【0043】
特定のポリペプチドは、例えば、配列番号1から92(例えば、配列番号1から23)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。
【0044】
また、特定のポリペプチドは、例えば、配列番号1から92(例えば、配列番号1から23)のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドであってよい。「数個」とは、例えば、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2個を意味してよい。「1から数個」とは、例えば、好ましくはアミノ酸残基が1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、更に好ましくは1個以上3個以下、特に好ましくは2個以下を意味してよい。
【0045】
また、特定のポリペプチドは、例えば、配列番号1から92(例えば、配列番号1から23)のいずれかに記載のアミノ酸配列全体に対して高い相同性を有するポリペプチドであってよい。「高い相同性」とは、例えば、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の相同性を意味してよい。「相同性」とは、同一性(identity)または類似性(similarity)を意味してよい。アミノ酸配列間の「同一性(identity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性(similarity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、例えば、BLASTやFASTA等のアラインメントプログラムを利用して決定することができる。
【0046】
また、真核細胞では、遺伝子からタンパク質を発現する際、mRNA前駆体中のイントロンを除去して前後のエキソンを再結合する反応(スプライシング)が起こり得る。スプライシング後に残るエキソンの組み合わせには多様性があり、さまざまな成熟mRNAが生産され得るため、アミノ酸配列の異なるタンパク質(スプライシングバリアント)が発現し得る。よって、特定のポリペプチドは、例えば、上記例示したポリペプチドのスプライシングバリアントであってもよい。なお、「スプライシングバリアント」とは、文脈に応じて、スプライシングバリアントとして発現するポリペプチドを意味してもよく、そのアミノ酸配列を意味してもよい。
【0047】
上記例示したポリペプチドのスプライシングバリアントとしては、以下のものが挙げられる:
配列番号1から92(例えば、配列番号1から23)のいずれかに記載のアミノ酸配列のスプライシングバリアントを含むポリペプチド;
配列番号1から92(例えば、配列番号1から23)のいずれかに記載のアミノ酸配列
のスプライシングバリアントにおいて、1から数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むポリペプチド;
配列番号1から92(例えば、配列番号1から23)のいずれかに記載のアミノ酸配列のスプライシングバリアント全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【0048】
特定のポリペプチドをコードする遺伝子(腫瘍マーカー遺伝子)は、上記例示したような特定のポリペプチドをコドンに従って変換して得られる塩基配列を含むポリヌクレオチドであれば、特に制限されない。特定のポリペプチドをコードする遺伝子は、特に、上記例示したような特定のポリペプチドをヒト型コドンに従って変換して得られる塩基配列を含むポリヌクレオチドであってよい。特定のポリペプチドをコードする遺伝子として、具体的には、配列番号93~184に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0049】
特定のポリペプチドおよびそれをコードする遺伝子の一例を、表1から4に示す。また、表1から4に記載の各タンパク質の正式名(フルネーム)および別名を表5から13に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
<2>回収方法
本発明の回収方法は、試料中の標的細胞を回収する方法である。本発明の回収方法は、具体的には、試料中の標的細胞を、当該試料中の夾雑細胞と区別して回収する方法であってよい。
【0064】
標的細胞は、本発明の検出方法により検出され、次いで回収されてよい。すなわち、本発明の回収方法は、本発明の検出方法により試料中の標的細胞を検出する工程、および検出した標的細胞を回収する工程を含んでいてよい。後者の工程を、「回収工程」ともいう。標的細胞の検出および回収には、(1)から(4)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドを腫瘍マーカーとして用いてよく、特に、(5)から(8)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドを腫瘍マーカーとして用いてもよい。
【0065】
本発明の回収方法によれば、標的細胞を特異的に回収することができる。すなわち、本発明の回収方法によれば、試料が夾雑細胞を含む場合であっても、標的細胞を夾雑細胞と区別して回収することができる。すなわち、夾雑細胞と区別して検出された標的細胞を回収することにより、標的細胞を夾雑細胞と区別して回収することができる。本発明の回収方法によれば、特に、夾雑細胞を含む試料中にわずかしか存在しない標的細胞が回収されてよい。
【0066】
試料中の標的細胞を回収する方法は、特に制限されない。試料中の標的細胞は、例えば、回収装置を用いて回収することができる。回収装置としては、標的細胞を保持可能な保持部を設けた基板とノズルによる吸引吐出により標的細胞を回収する回収部とを備える装置が挙げられる。そのような装置として、具体的には、特開2016-142616号に記載の回収装置が挙げられる。
【0067】
<3>予測方法
試料が被験体より得られた試料であり、且つ、該被験体が癌被験体である場合、検出工程の結果に基づいて被験体の予後を予測することができる。すなわち、本発明の予測方法は、被験体の予後を予測する方法である。
【0068】
被験体の予後は、例えば、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数に基づいて予測できる。被験体の予後は、具体的には、例えば、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数と被験体の予後とを関連付けることにより、予測できる。すなわち、本発明の予測方法は、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数を測定する工程、および前記個数と被験体の予後とを関連付ける工程を含んでいてよい。前者の工程を「測定工程」、後者の工程を「関連付け工程」ともいう。測定工程は、検出工程の一例である。すなわち、測定工程は、本発明の検出方法の実施により、具体的には、検出工程の実施により、実施できる。関連付け工程は、具体的には、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数と被験体の予後とを関連付けることにより被験体の予後を予測する工程であってよい。
【0069】
関連付けは、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数と被験体の予後との相関を示すデータ(以下、「相関データ」ともいう)に基づいて実施することができる。相関データは、例えば、癌個体群より得られた試料中の標的細胞の個数を測定し、それら癌個体群の予後を追跡調査し、標的細胞の個数と予後との相関を解析することで作成できる。相関データを作成するための個体については、被験体についての記載を準用できる。例えば、「癌個体」とは、癌に罹患していたか、癌に罹患している個体を意味する。相関データを作成するための個体数は、特に制限されないが、例えば、2個体以上、5個体以上、10個体以上、20個体以上、50個体以上、または100個体以上であってよい。相関データは、例えば、識別表やグラフ等の、扱いやすい形態で関連付けに使用されてよい。
【0070】
例えば、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数が少ないほど、予後が良いと予測してよい。また、例えば、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数が所定の閾値と比較して少ない場合に、予後が良いと予測してよい。また、例えば、被験体において試料中
の標的細胞の個数の減少が認められた場合に、予後が良いと予測してよい。また、例えば、被験体において、試料中の標的細胞の個数の減少の程度が大きい程、または試料中の標的細胞の個数の増加の程度が小さい程、予後が良いと予測してよい。
【0071】
また、例えば、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数が多いほど、予後が悪いと予測してよい。また、例えば、被験体より得られた試料中の標的細胞の個数が所定の閾値と比較して多い場合に、予後が悪いと予測してよい。また、例えば、被験体において試料中の標的細胞の個数の増加が認められた場合に、予後が悪いと予測してよい。また、例えば、被験体において、試料中の標的細胞の個数の減少の程度が小さい程、または試料中の標的細胞の個数の増加の程度が大きい程、予後が悪いと予測してよい。
【0072】
予後の予測は、例えば、定性的な予測(例えば、予後が良または不良となるかどうかの予測)であってもよく、定量的な予測(例えば、予後が良または不良となる可能性の程度の予測や、予後が良または不良となる場合の良または不良の程度の予測)であってもよい。例えば、予後が良いと予測することとしては、予後が良となると予測すること、予後が良となる可能性が高いと予測すること、予後が良となる場合の良の程度が大きいと予測することが挙げられる。また、例えば、予後が悪いと予測することとしては、予後が不良となると予測すること、予後が不良となる可能性が高いと予測すること、予後が不良となる場合の不良の程度大きいと予測することが挙げられる。
【0073】
予後は、癌に関連するものであれば、特に制限されない。予後としては、生存期間、生存率、癌の悪化の有無や可能性、癌の改善の有無や可能性、癌の再発の有無や可能性、癌の転移の有無や可能性が挙げられる。予後の予測の際には、標的細胞の個数に加えて、他のパラメータを考慮してもよい。他のパラメータとしては、根治群/再発群/要治療群等の治療状態、ステージI/II/III/IV等の進行度、1年/3年/5年/10年生存率等の生存率、グリーソンスコア(Gleason score)等の悪性度が挙げられる。すなわち、予後として、具体的には、根治群/再発群/要治療群等の治療状態に基づく予後、ステージI/II/III/IV等の進行度に基づく予後、1年/3年/5年/10年生存率等の生存率に基づく予後、グリーソンスコア(Gleason score)等の悪性度に基づく予後も挙げられる。グリーソンスコアは、例えば、前立腺癌の悪性度の判定に用いられる。治療状態、進行度、生存率、悪性度等のパラメータと標的細胞の個数を組み合わせて評価することにより、正確に予後を予測することができると期待される。予後は、特に、治療予後であってよい。すなわち、例えば、癌の治療後の被験体に対して本発明の予測方法を実施することにより、治療予後を予測することができる。
【0074】
関連付け工程は、例えば、医師が実施してもよく、医師以外の者が実施してもよい。関連付け工程は、例えば、医療補助者等の、医師以外の医療関係者が実施してもよい。また、関連付け工程は、コンピュータ(具体的には、例えば、測定装置やプログラム)により自動で実施してもよい。本発明の予測方法による予測結果は、例えば、医師等の医療関係者が被験体の予後を診断するために利用することができる。したがって、本発明の予測方法は、被験体の予後を診断するための予備的方法とみなしてもよい。
【0075】
本発明の予測方法によれば、治療方針の決定や治療効果のモニタリングにおいて精度よい情報を提供できる。本発明の予測方法によれば、被験体が抱える病状における危険性や生存の確率に関する情報を医師に与えることで、最適な治療方法を選択できるため、不必要な治療を被験体に行なうリスクの低減に繋がる。そのため、本発明の予測方法によれば、不必要な治療に対する費用の節約だけでなく、最適な治療選択による被験体の予後改善に寄与できる。例えば、本発明の予測方法によって要治療群または低い生存率と予測された被験体には、さらに、抗癌剤投与、放射線療法、外科手術等の適切な医療行為を実施してよい。また、本発明の予測方法は、被験体の予後診断だけでなく、例えば、被験体にお
ける腫瘍の早期発見や転移診断にも展開可能であり、また、健常者に対する癌診断のスクリーニングにも展開できる。
【0076】
<4>本発明のプログラム
本発明は、本発明の方法に含まれる工程をコンピュータに実行させるプログラムを提供する。同プログラムを、「本発明のプログラム」ともいう。「本発明の方法」とは、本発明の検出方法、本発明の回収方法、および本発明の予測方法を総称してよい。
【0077】
すなわち、本発明においては、本発明の方法に含まれる工程をコンピュータが実行してもよい。コンピュータは、本発明の方法に含まれる工程の一部または全部を実行してよい。コンピュータは、例えば、検出工程および/または予測工程を実行してよい。
【0078】
具体的には、例えば、医療関係者は、被験体から血液由来試料等の試料を取得し、必要により前処理を行い、測定装置にセットすることができる。コンピュータは、測定装置に試料中の腫瘍マーカー等のマーカーの発現を測定させ、標的細胞を検出することができる。コンピュータは、さらに、標的細胞の検出結果に基づいて被験体の予後を予測することができる。コンピュータは、さらに、そのようにして得られた予測結果を出力することができ、以て医療関係者は予測結果を取得して被験体の予後の診断に利用することができる。
【0079】
本発明のプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、提供されてよい。「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、データやプログラム等の情報が電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用等により蓄積され、さらに蓄積された情報をコンピュータから読み取ることのできる記録媒体をいう。そのような記録媒体としては、フロッピー(登録商標)ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD-ROM、DVD-R/W、DVD-RAM、DAT、8mmテープ、メモリカード、ハードディスク、ROM(リードオンリーメモリ)、SSDが挙げられる。また、本発明のプログラムは、コンピュータにより実行される各ステップが別個のプログラムとして記録されていてもよい。
【実施例】
【0080】
以下、試料が血液試料であり、標的細胞が上皮系マーカー陰性のCTC(血中循環腫瘍細胞)である場合の実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1 上皮系マーカー陰性のCTCの遺伝子発現解析
以下の方法により、前立腺がん患者由来血液試料中に含まれる上皮系マーカー陰性のCTCおよび白血球の遺伝子発現解析をした。
【0082】
(1)前立腺がん患者より血液試料(全血)を採取し、当該採取量に対し10倍量の1×BD Pharm Lyse(Becton Dickinson)を加え、室温で10分間インキュベート後、0.5%(w/v)BSA(Bovine serum albumin)と2mM EDTAとを含むD-PBS(-)(Dulbecco’s Phosphate-Buffered Saline、Mg2+およびCa2+不含)(以下、単に「バッファ」と表記)で前記血液試料中に含まれる細胞を洗浄し、バッファに懸濁させた。
【0083】
(2)(1)の細胞懸濁液50μLにFcR Blocking Reagent50μL(Miltenyi Biotec)を加え混和した。その後、PE(フィコエリスリン)標識抗TM4SF1(Transmembrane 4 L6 family member 1)抗体溶液50μL(PE-anti-human TM4SF1 An
tibody、R&D systems)、PE標識抗TNFRSF12A(Tumor
necrosis factor receptor superfamily member 12A)抗体溶液2.5μL(PE-anti-human TNFRSF12A Antibody、Biolegend)、PE標識抗EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)抗体溶液10μL(PE-anti-human EpCAM Antibody、Miltenyi Biotec)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)標識抗CD45抗体溶液10μL(CD45-BB515、BD)、および1mg/mL Hoechst 33342 solution 1.1μL(同仁化学研究所)を加え混和した。冷蔵で10分間インキュベート後、バッファで細胞を洗浄し、バッファに懸濁させた。
【0084】
(3)(2)の細胞懸濁液80μLに、Anti-PE Microbeads UltraPure(Miltenyi Biotec)20μLを加え、冷蔵で15分間インキュベート後、バッファで細胞を洗浄し、バッファに懸濁させた。
【0085】
(4)MSカラム(Miltenyi Biotec)を、MACS Separator(Miltenyi Biotec)に設置し、バッファで洗浄後、(3)の細胞懸濁液500μLを添加し、バッファ500μLで3回洗浄した。
【0086】
(5)洗浄後のカラムをMACS Separatorから外し、バッファ1mLをカラムに添加後、当該カラムにプランジャーを押し入れることで細胞を回収した。
【0087】
(6)回収した細胞をスライドガラス上に播種し、蛍光顕微鏡下でHoechst 33342陽性の細胞のうち、FITC陽性(CD45抗体陽性)かつPE陽性(ガンマーカー抗体のTM4SF1、TNFRSF12A、EpCAMのいずれか1つ以上陽性)の細胞をCTCと判断し検出した。検出したCTCはマイクロピックシステム(ネッパジーン)を用いて回収した。
【0088】
(7)回収したCTC(計31サンプル)および健常者血液から得た白血球(計4サンプル)について、SMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA
Kit for Sequencing(Clontech)によりcDNA合成・増幅を行なった。
【0089】
(8)(7)で得られたcDNA 1ng分を使用して、Nextera XT DNA Library Preparation Kit(Illumina)およびNextera XT v2 Index Kit Set A(Illumina)によるライブラリー調製を行ない、Next-seq500(illumina)を用いてリード長150bp、paired end readの条件でシーケンス解析を行なうことで、一試料あたり1000万リード以上の配列を解読した。
【0090】
(9)(8)で解読したヌクレオチド配列(シーケンスデータ)をTopHat2(JOHNS HOPKINS大学)およびBowtie2(JOHNS HOPKINS大学)を用いて、ヒトゲノム配列にマップした。なおヒトゲノム配列およびヒト遺伝子情報はNCBI(National Center for Biological Information)より公開されているBUILD GRCh38を使用した。マップしたヌクレオチド配列は、Cufflinks(Washington大学)により、解読した各遺伝子のリード数から、FPKM(Fragments Per Kilobase of exon per Million reads mapped)を単位とする遺伝子ごとの発現値を求めた。
【0091】
(10)CTC31サンプルの内、上皮系マーカーであるEpCAM遺伝子の発現が確認されなかった10サンプルについて、上皮系マーカー陰性のCTCとして、白血球と発現比較した。
【0092】
上皮系マーカー陰性のCTC(10サンプル)における発現値(FPKM値)の平均が、白血球(4サンプル)における発現値(FPKM値)の平均の10.00倍以上であり、かつ膜貫通型タンパク質をコードする遺伝子を表1に示す。また前記遺伝子のうち、RAMP2(配列番号1)をコードする遺伝子について、サンプル毎の解析結果を
図1に示す。なお
図1中、WBC1からWBC4は白血球の発現解析結果、CTC1からCTC10は上皮系マーカー陰性のCTCの発現解析結果である。
【0093】
RAMP2遺伝子(配列番号93)は、上皮系マーカー陰性のCTC(10サンプル)における発現値(FPKM値)の平均が、白血球(4サンプル)のFPKM値の平均の500倍以上であり、RAMP2遺伝子が上皮系マーカー陰性CTC特異的かつ高発現していることがわかる(表1)。また、RAMP2タンパク質(配列番号1)は膜貫通型タンパク質であることから、試料中に含まれる上皮系マーカー陰性のCTCを回収できることが示唆される。
【0094】
上皮系マーカー陰性CTC(10サンプル)における発現値(FPKM値)の平均が、白血球(2サンプル)における発現値(FPKM値)の平均の10.00倍以上であり、かつ膜貫通型タンパク質以外のタンパク質をコードする遺伝子を表2から表4に示す。
【配列表】