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特許7593740睡眠の質改善用組成物、全体的健康感改善用組成物および活力向上用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】睡眠の質改善用組成物、全体的健康感改善用組成物および活力向上用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20241126BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20241126BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20241126BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241126BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20241126BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P25/20
A61K31/715
A23L33/135
A23L33/125
A23C9/123
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020034639
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021138616
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年2月5日に、公益社団法人日本農芸化学会2020年度(令和2年度)[福岡]大会ウェブサイトにて掲載 令和2年2月25日に、公益社団法人日本農芸化学会2020年度(令和2年度)[福岡]大会プログラム集 第63頁にて掲載
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10741
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
(72)【発明者】
【氏名】狩野 宏
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-017282(JP,A)
【文献】特表2003-517828(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183595(WO,A1)
【文献】特開2019-062782(JP,A)
【文献】国際公開第2019/123329(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/031749(WO,A1)
【文献】アサヒ飲料、機能性表示食品「『届く強さの乳酸菌』W(ダブル)」などを発売,プレスリリース,[retrieved on 2024.01.19],日本経済新聞,2019年01月28日,retrieved from the internet:,<URL: https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP501124_Y9A120C1000000/>
【文献】Nutrients,2018年,Vol.10, Article No.798,pp.1-10
【文献】乳酸菌飲料の継続的な飲用による 高齢者の“QOL”改善の可能性を確認,ニュースリリース,[retrieved on 2024.01.19],カルピス株式会社,2013年10月29日,retrieved from the internet:,<URL: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000008407.html>
【文献】乳酸菌飲料<希釈タイプ>の継続的な飲用による 高齢者の“QOL”向上を確認,ニュースリリース,[retrieved on 2024.01.19],カルピス株式会社,2014年11月13日,retrieved from the internet:,<URL: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000008407.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 31/33-33/44
A23L 33/00-33/29
A23C 9/00- 9/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)乳酸菌を含有する睡眠の質改善用組成物。
【請求項2】
前記睡眠の質改善は、ピッツバーグ睡眠質問票の総得点を低下させることである
請求項1に記載の睡眠の質改善用組成物。
【請求項3】
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)乳酸菌の代謝物をさらに含有する
請求項1に記載の睡眠の質改善用組成物。
【請求項4】
前記代謝物は、前記乳酸菌の菌体外多糖である
請求項3に記載の睡眠の質改善用組成物。
【請求項5】
前記組成物は、発酵乳である
請求項1から4のいずれか1項に記載の睡眠の質改善用組成物。
【請求項6】
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)乳酸菌を含有する、睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、眠剤の使用および日中覚醒困難からなる群から選択される少なくとも一つ以上を改善する組成物。
【請求項7】
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)乳酸菌の代謝物をさらに含有する
請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記代謝物は、前記乳酸菌の菌体外多糖である
請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、発酵乳である
請求項6から8のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質を改善するための組成物に関する。また、本発明は、全体的健康感を改善するための組成物や、活力を向上するための組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「ラクトバチルス カゼイの菌体及び/又はその処理物を有効成分とする睡眠の質改善剤(例えば、国際公開第2015/146844号等参照)」や「ラクトバチルス ヘルベティカス LBH MIKI-020株を含む乳酸菌、その乳酸菌による発酵物およびその乳酸菌の菌体破砕物を含む、睡眠改善剤(例えば、特開2016-104802号公報等参照)」等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/146844号
【文献】特開2016-104802号公報
【文献】特表2003-517828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような睡眠の質改善剤につき消費者の選択肢が十分に多い状況とは言い難い。本発明の課題は、睡眠の質を改善する物質を新たに創出し、そのような物質について消費者の選択肢を増やすことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、ラクトバチルス デルブルエッキー、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス、ラクトバチルス ガセリ、ラクトバチルス パラガセリ、ラクトバチルス ラムノーザスおよびラクトバチルス アシドフィルスより成る群(以下「特定ラクトバチルス属乳酸菌群」と称する場合がある。)から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方を含有する組成物を対象に摂取させた際にその対象の睡眠の質が有意に改善されることを見出して本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方を含有する睡眠の質改善用組成物。なお、ここで、「代謝物」とは乳が乳酸菌によって発酵された結果生成する物質等を意味する。また、ここにいう「組成物」には、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれる。また、ここにいう「飲食品」には発酵乳が含まれる。また、ここにいう「睡眠の質改善」とは、ピッツバーグ睡眠質問票における総得点が低下することを意味する。ピッツバーグ睡眠質問票における総得点が高いほど睡眠障害が生じていると判定される。すなわち、「睡眠の質改善用組成物」は、「ピッツバーグ睡眠質問票の総得点低下用組成物」・「睡眠障害を予防するための組成物」・「睡眠障害を解消するための組成物」と言い換えることもできる。さらに、本願発明者の検討の結果から、この睡眠の質改善用組成物は、特に健康な人すなわち睡眠障害を患っていない人の睡眠の質をさらに改善すること、或いは健康な人すなわち睡眠障害を患っていない人の睡眠の質の悪化を抑制することがわかっている。
【0007】
(2)前記代謝物は、前記乳酸菌の菌体外多糖である、(1)に記載の睡眠の質改善用組成物。
【0008】
(3)前記ラクトバチルス属の乳酸菌は、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(1)または(2)に記載の睡眠の質改善用組成物。
【0009】
また、上述の発明は、以下のようにも表現され得る。
(4)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物を含有する組成物を対象に摂取させる、睡眠の質改善方法。
【0010】
(5)睡眠の質改善用組成物の製造における、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌の使用。
【0011】
(6)睡眠の質改善用組成物の製造に使用するための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌。
【0012】
(7)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物の少なくとも一方を有効成分とする、睡眠の質改善用組成物。
【0013】
(8)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物の少なくとも一方を睡眠の質改善剤として使用する方法。
【0014】
(9)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物の少なくとも一方を対象に投与することにより対象の睡眠の質を改善する方法。
【0015】
(10)睡眠の質改善剤としての使用のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌。
【0016】
(11)睡眠の質改善剤としての使用のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌による代謝物。
【0017】
(12)睡眠の質改善用組成物の製造のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌の使用。
【0018】
(13)睡眠の質改善用組成物の製造のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌による代謝物の使用。
【0019】
(14)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌に乳原料を供給して睡眠の質改善用組成物を製造する方法。
【0020】
また、本発明者らは、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方を含有する組成物を対象に摂取させた際に(i)その対象の全体的健康感が改善されること、(ii)その対象の活力が向上されることを見出して別の発明を完成させた。
【0021】
すなわち、上記別の発明は、次の通りとなる。
(15)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方を含有する全体的健康感改善用組成物、活力向上用組成物。なお、ここで、「代謝物」とは乳が乳酸菌によって発酵された結果生成する物質等を意味する。また、ここにいう「組成物」には、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれる。また、ここにいう「飲食品」には発酵乳が含まれる。
【0022】
ところで、全体的健康感の改善および活力の向上は、被験者に対してMOS Short-Formed 8-item Health Survey (SF-8)を実施することによって評価することができる。MOS Short-Formed 8-item Health Survey (SF-8)ではSF-8質問紙が使用されるが、この質問紙の版権はiHOPE International社が保有している。このような事情から、この質問紙は、利用者がiHOPE International社に使用登録をすることにより入手することができる。
【0023】
(16)前記代謝物は、前記乳酸菌の菌体外多糖である、(1)に記載の全体的健康感改善用組成物、活力向上用組成物。
【0024】
(17)前記ラクトバチルス属の乳酸菌は、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(15)または(16)に記載の全体的健康感改善用組成物、活力向上用組成物。
【0025】
また、上述の発明は、以下のようにも表現され得る。
(18)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物を含有する組成物を対象に摂取させる、全体的健康感改善方法、または、活力向上方法。
【0026】
(19)全体的健康感改善用組成物または活力向上用組成物の製造における、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌の使用。
【0027】
(20)全体的健康感改善用組成物または活力向上用組成物の製造に使用するための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌。
【0028】
(21)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物の少なくとも一方を有効成分とする、全体的健康感改善用組成物または活力向上用組成物。
【0029】
(22)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物の少なくとも一方を全体的健康感改善剤として使用する方法、または、活力向上剤として使用する方法。
【0030】
(23)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物の少なくとも一方を対象に投与することにより対象の全体的健康感を改選する方法、または、対象の活力を向上させる方法。
【0031】
(24)全体的健康感改善剤または活力向上剤としての使用のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌。
【0032】
(25)全体的健康感改善剤または活力向上剤としての使用のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌による代謝物。
【0033】
(26)全体的健康感改善用組成物または活力向上用組成物の製造のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌の使用。
【0034】
(27)全体的健康感改善用組成物または活力向上用組成物の製造のための、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌による代謝物の使用。
【0035】
(28)特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌に乳原料を供給して全体的健康感改善用組成物を製造する方法、または、活力向上用組成物を製造する方法。
【0036】
なお、ここで、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方は、睡眠の質改善、全体的健康感改善、活力向上の全ての機能を一度に発現し得るものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌、および、その代謝物の少なくとも一方を含有する組成物を摂取することで、睡眠の質および全体的健康感を顕著に改善することができると共に、活力を向上させることができる。特に、組成物が発酵乳である場合、同組成物は身近で手軽に摂取することができるため、睡眠の質の改善、全体的健康感の改善および活力の向上に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明では、ラクトバチルス デルブルエッキー、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス、ラクトバチルス ガセリ、ラクトバチルス パラガセリ、ラクトバチルス ラムノーザスおよびラクトバチルス アシドフィラスより成る群(以下「特定ラクトバチルス属乳酸菌群」と称する場合がある。)から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌を用いて組成物を調製する。そして、本願発明者らの鋭意検討の結果、この組成物は、睡眠の質を改善したり、全体的健康感を改善したり、活力を向上させたりすることができることが明らかとなっている。また、ここにいう「組成物」は、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物であるが、同組成物は発酵乳であることが特に好ましい。発酵乳の調製方法としては、例えば、「原料乳を殺菌して冷却した後、その原料乳に、上述のラクトバチルス属の乳酸菌を含む乳酸菌スターターを添加して、その乳酸菌スターター入り原料乳を所定の乳酸酸度となるような発酵温度と発酵時間で発酵させる方法」が挙げられる。乳酸酸度としては、例えば0.6~1.2質量%が例示される。発酵温度としては、例えば40~45℃が例示される。発酵時間としては、例えば2~12時間が例示される。
【0039】
本発明における「乳酸菌」とは、分類学的に乳酸菌と認定されたものの全ての総称であり、菌種や菌株などで限定されるものではない。なお、乳酸菌はその由来により、植物由来および動物由来のいずれかに分類することもあるが、本発明では植物由来の乳酸菌、動物由来の乳酸菌のいずれも使用することができる。本発明の乳酸菌の菌株としては、ラクトバチルス属の乳酸菌から選ばれる1種又は2種以上の菌株が、ヨーグルトなどの発酵乳により十分な食経験があるため好ましい。また、ラクトバチルス属の乳酸菌は、特定ラクトバチルス属乳酸菌群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)」であることがより好ましく、中でも「ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)」であることがさらに好ましい。
【0040】
また、かかる場合、乳酸菌スターターとして、サーモフィラス菌またはストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)をラクトバチルス属の乳酸菌と併用することが、生産効率および嗜好性の観点から好ましい。さらに、ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)である場合、サーモフィラス菌はStreptococcus thermophilus 1131や、Streptococcus thermophilus OLS3059(寄託番号:FERM BP-10740)であることがより好ましい。さらに、乳酸菌スターターとしてまたは機能性の付与などを目的として、ラクトバチルス属の乳酸菌およびサーモフィラス菌以外の乳酸菌や、ビフィズス菌、酵母などの発酵微生物を添加してもよい。
【0041】
ここで、「ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号 FERM BP-10741(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。また、「Streptococcus thermophilus OLS3059」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号 FERM BP-10740(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。また、この「ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1」は、株式会社明治製の明治プロビオヨーグルトR-1から入手することもできる。Streptococcus thermophilus 1131は、株式会社明治製の明治ブルガリアヨーグルトLB81から入手することができる。
【0042】
ところで、上述の「発酵乳」とは、乳を発酵させたものをいい、例えば、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」、「乳酸菌飲料」、「乳飲料」、「ナチユラルチーズ」等を包含するがこれらに限定されない。例えば、発酵乳は、乳等省令で定義される「発酵乳」、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これらを凍結したものをいうが、これに限定されない。本発明の発酵乳では、無脂乳固形分の濃度の範囲は、例えば4.0%~20.0%であることが好ましく、6.0%~15.0%であることがより好ましく、8.0%~11.0%であることがさらに好ましい。また、乳脂肪分の濃度は、例えば0.2%~4.0%であることが好ましく、0.3%~3.0%であることがより好ましく、0.4%~2.0%であることがさらに好ましい。
【0043】
発酵乳の典型例としては、ヨーグルトが挙げられる。国際連合食糧農業機関(FAO)/世界保健機構(WHO)で定義されている国際規格にも、「ヨーグルトと称される製品は、Streptococcus thermophilus、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusの両方の菌の乳酸発酵作用により、乳及び脱脂粉乳などの乳製品から作られるもので、最終製品中には前述の2つの菌が多量に生存しているもの」と規定されている。本発明において、「ヨーグルト」とは、前記のFAO/WHOの定義するヨーグルトを包含するものである。このヨーグルトには、例えばプレーンヨーグルト、ハードヨーグルト(セットタイプヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルトなどが含まれる。本発明では、飲みやすさの観点から、特にドリンクヨーグルトが好ましい。
【0044】
本発明に係る組成物を1回の摂取に適切な量で1個包装の形態とすることにより、本発明に係る組成物を適切かつ手軽に摂取することができることになり、使用性の面から好ましい。1回の摂取に適切な量は、改善すべき睡眠の質や、全体的健康感、活力の程度、食事の量や体質などによると共に個人差やばらつきがあるものの、例えば、無脂乳固形分が8.0%である発酵乳の場合には、1回あたりで50mL~200mLの範囲内であることが好ましく、80mL~150mLの範囲内であることがより好ましく、100mL~120mLの範囲内であることがさらに好ましい。あるいは、1回あたりで50g~200gの範囲内であることが好ましく、80g~150gの範囲内であることがより好ましく、100g~120gの範囲内であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明では、「1個包装の形態」はあらゆる形態、例えば、蓋付きの容器、キャップ付きのボトル、個袋、パウチ、チューブなどの一般的な包装形態を包含する。本発明では、各個包装、または複数の個包装を含む包装に、発明に係る組成物の用途、効能、摂取方法などの説明を記載すること、および/または、その説明を記載した物等を封入等すること、および/または、別途パンフレットなど、その説明を記載した物等を掲示することなどにより、その用途を明確にすることができる。
【0046】
本発明の組成物は、睡眠の質や全体的健康感の改善効果、活力向上効果を高める観点から、2週間以上継続して摂取することが好ましく、4週間以上継続して摂取することがより好ましく、6週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、8週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、10週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、12週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、16週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、24週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、36週間以上継続して摂取することが特に好ましい。なお、本発明に係る組成物が発酵乳である場合、その組成物は十分な食経験があり安全に摂取することができるため、摂取期間の上限は特に制限されず、永久的に継続することが可能であるが、強いて上限を設けるならば、例えば60週間以下である。なお、この上限は、改善すべき睡眠の質や、全体的健康感、活力の程度や、食事の量や体質など、個人差により、例えば、120週間以下としてもよいし、100週間以下としてもよいし、80週間以下としてもよい。
【0047】
本発明に係る組成物は、摂取されることで睡眠の質や全体的健康感を改善することができると共に、活力を向上させることができる。なお、ここで、組成物中の乳酸菌が生菌であっても死菌であっても、その組成物は同改善効果を発揮することができる。
【0048】
ところで、本発明に組成物に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、使用方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」には、需要者に対して上記効果の説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0049】
本発明に係る組成物を睡眠の質改善用組成物として製品とする場合、その睡眠の質改善用組成物を包装してなる製品には例えば「睡眠の質改善」等との表示が付されることが好ましい。また、本発明に係る組成物を全体的健康感改善用組成物として製品とする場合、その全体的健康感改善用組成物を包装してなる製品には例えば「全体的健康感改善」等との表示が付されることが好ましい。また、本発明に係る組成物を活力向上用組成物として製品とする場合、その活力向上用組成物を包装してなる製品には例えば「活力向上」等との表示が付されることが好ましい。
【0050】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、上述の例に限定されず、そのような意味と同義である文言であってもかまわない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、「睡眠の質を改善する」、「睡眠の質を向上する」、「睡眠の質の低下を予防する」、「ピッツバーグ睡眠質問票における総得点が低下する」、「ピッツバーグ睡眠質問票における総得点が、睡眠の質を改善する方向に変化する」、「睡眠を促進する」、「睡眠障害の予防に役立つ」、「睡眠障害の解消に役立つ」、「寝つきをよくする」、「眠りを深くする」、「全体的健康感を改善する」、「全体的健康感を維持する」、「全体的健康感の低下を軽減・予防する」、「活力を向上させる」、「活力の低下を軽減・予防する」、「活力の維持・改善に役立つ」、「活力を向上させるのに役立つ」等の種々の文言が許容され得る。
【0051】
なお、上述の発酵乳は、特別用途食品、総合栄養食品、栄養補助食品、特定保健用食品、機能性表示食品、加工食品等の形態にすることもできる。また、同発酵乳は、ドリンクヨーグルト以外の飲料や流動食等の組成物に配合することもできる。
【0052】
本発明は、後述する実施例により、特定のラクトバチルス属の乳酸菌を含む飲料を摂取する被験者と、同飲料を摂取しない被験者とを比較することにより、特定のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物を含有した組成物に、睡眠の質および全体的健康感の改善効果や活力向上効果があることを見出したものである。したがって、本発明は、これらの効果を有するラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物をも提供する。このとき、これらの効果を得ることを目的とした場合の、1日あたりのラクトバチルス属の乳酸菌の摂取量は、年齢や性別等によって異なるが、当業者によれば適宜定めることができる。これら1日あたりの摂取量は、ラクトバチルス属の乳酸菌として、10cfu以上であることが好ましく、10cfu以上であることがより好ましく、10cfu以上であることがさらに好ましい。この摂取量の上限は、特に限定されないが、例えば1012cfuである。
【0053】
本発明に係る組成物には、菌体そのものはもちろん、菌体破砕物等の菌体に由来するものが含まれる。また、本発明に係る乳酸菌の代謝物には、乳酸菌の培養や発酵による代謝物などが含まれる。例えば、ラクトバチルス属の乳酸菌であるラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)は、その培養中に菌体外多糖(EPS)を産生することが知られているが、この菌体外多糖を使用することも、本発明に含まれる。本発明において、これら菌体外多糖の1日あたりの摂取量の下限は、100μgであり、好ましくは500μgであり、より好ましくは1.0mgであり、さらに好ましくは2.0mgである。上限は、特に限定されないが、例えば、200mgであり、好ましくは100mgであり、より好ましくは70mgであり、さらに好ましくは30mgであり、さらにより好ましくは8.0mgである。
【実施例
【0054】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【0055】
株式会社明治製の明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ(ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)で乳を発酵して得られたドリングヨーグルトを用いて以下の試験を実施した。なお、本ヨーグルトは2009年の発売開始以降十分な販売実績を有しており、過去において本製品が原因と考えられる重篤な副作用が報告されたことはない。
【0056】
-試験-
上記ドリングヨーグルト摂取群と非摂取群による並行群間比較試験を実施した。以下、この試験条件について詳述する。
(1)被験者
以下の条件を満たす者を、本試験の被験者とした。
A)愛媛県内の医療機関に勤務する医療・福祉関連の資格を有する20歳以上の女性(医師、歯科医師を除く)
B)本試験の目的・内容について十分に理解した上で、自主的に試験参加に同意することができる者
なお、上記a)およびb)の条件を満たす者のうち、以下のいずれかの条件に該当する者を被験者から除外した。
a)妊娠中の者、試験予定期間中に妊娠の予定がある者
b)牛乳アレルギーの者
c)乳糖不耐症の者
d)医師からカロリー制限の指導を受けている者
e)過去3か月以内に他の臨床試験に参加した者
f)その他、試験責任医師が不適格と判断した者
本試験は、愛媛大学医学部附属病院臨床研究倫理審査委員会(承認番号:愛大医病倫167015)および株式会社明治臨床試験審査委員会(審査番号:89)の承認を得て実施され、被験者の募集は愛媛県内の医療機関23施設にて行われた。その結果、936名(20~71歳)が被験者として選ばれた。そして、その被験者らをヨーグルト摂取群473名(39.3±11.44歳)と、非摂取群463名(39.4±11.4歳)とに無作為に振り分けた。なお、この振分に際し、各施設内での両群の人数および平均年齢が等しくなるよう調整した。
【0057】
(2)事前準備
被験者は試験参加に同意して以降、無作為振分の結果が出るまでヨーグルトや乳酸菌飲料、乳酸菌を含むサプリメント等を一切摂取しないよう指導された。両群への無作為振分後、ヨーグルト摂取群には、上記ドリングヨーグルトを1日1本16週間摂取し、その他のヨーグルトや乳酸菌飲料等の摂取を控えるように指導した。一方、非摂取群には、16週間、すべてのヨーグルトや乳酸菌飲料等の摂取を控えるように指導した。
【0058】
(3)試験詳細および結果
(3-1)ピッツバーグ睡眠質問票
試験開始前と試験終了後(試験開始日から16週間経過後)に被験者らにピッツバーグ睡眠質問票(自記式質問紙)を配布し、回答してもらった。なお、このピッツバーグ睡眠質問票では、「睡眠の質」・「入眠時間」・「睡眠時間」・「睡眠効率」・「睡眠困難」・「眠剤の使用」・「日中覚醒困難」の7つの項目につき被験者らの主観的尺度が問われた。そして、上述の7つの尺度がそれぞれ点数化され、各被験者の総得点が算出された。総得点が高いほど睡眠障害が生じていると判定される。なお、このピッツバーグ睡眠質問票は、1)Tyler RS, Baker LJ. Difficulties experienced by tinnitus sufferers. J Speech Hear Disor1983; 48: 150-154、2)Buysse DJ, Reynold CF 3rd, et al. The Pittsburgh Sleep Quality Index: anew instrument for psychiatric practice and research. Psychiatry Res.1989 ;28 :193-213、3)土井由利子 ピッツバーグ睡眠質問票日本語版の作成 精神科治療学 1998: 3: 755-763、4)ZungW.W.K.,福田一彦 他 SDS使用手引き 1983 京都:三京房、5)Spielberger C.D.,水口公信他.STAI使用手引き1991 京都:三京房等に詳しい。
【0059】
ピッツバーグ睡眠質問票に対する被験者らの回答を統計解析した結果、ヨーグルト摂取群には、有意に睡眠の質の改善が認められた(P=0.007、ヨーグルト摂取群の平均値の変化:5.50→5.03、非摂取群の平均値の変化:5.33→5.22)。
【0060】
(3-2)MOS Short-Formed 8-item Health Survey (SF-8)
試験開始前と試験終了後に(試験開始日から16週間経過後)に被験者らにSF-8質問紙(全8問から構成される自記式質問紙)を配布し、回答してもらった。なお、SF-8質問紙では、身体面および精神面に関する主観的健康感の尺度が問われた。SF-8の尺度および評価内容は、以下のとおりである。いずれの尺度においても50点が国民標準点とされ、点数が高いほどQOLが良好であることを示している。そして、上記質問の結果を統計解析したところ、ヨーグルト摂取群には、非摂取群に比べ有意に全体的健康感の改善(P=0.02)および活力の向上(P=0.01)が認められた。
【0061】
a)身体機能:どの程度の身体活動・運動ができるか。
b)日常役割機能(身体):日常生活における身体上の問題はないか。
c)体の痛み:体が痛くて仕事ができなかったなどの問題はないか。
d)全体的健康感:自分の健康状態全体を、主観的にどう感じているか。
e)活力:どのくらい元気か、または疲労しているか。
f)社会生活機能:身体・心理的理由による周囲とのコミュニケーションの問題はないか。
g)日常役割機能(精神):日常生活における心理的な問題はないか。
h)心の健康:心の浮き沈みがどのくらいあるか。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る組成物により、睡眠の質を改善したり、全体的健康感を改善したり、活力を向上させたりすることできる。特に本組成物が発酵乳である場合、その組成物は食経験が豊富な食品であり、身近で手軽に摂取することができるため、睡眠の質を改善したり、全体的健康感を改善したり、活力を維持させたりための効果的な対応策となり、睡眠の質や、全体的健康感の改善、活力の向上に大きく寄与することができ、非常に有用である。
【受託番号】
【0063】
FERM BP-10741
FERM BP-10740