(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】熱輸送デバイス
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20241126BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 102H
(21)【出願番号】P 2020112760
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】上久保 将大
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106066130(CN,A)
【文献】特開平09-184696(JP,A)
【文献】特開2003-148887(JP,A)
【文献】特開2006-170602(JP,A)
【文献】特開平09-273880(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101738114(CN,A)
【文献】国際公開第2018/003957(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00-15/06
H01L 23/34-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入された内部空間を有する容器に、
前記作動流体を蒸発させる蒸発部と、
前記蒸発部から離隔した位置に配設され、前記作動流体を凝縮させる凝縮部と、
前記蒸発部と前記凝縮部との間に配設される中間部と
を備える熱輸送デバイスにおいて、
前記容器に、前記凝縮部から前記中間部を経て前記蒸発部まで連続して延在する少なくとも1本の主溝が形成され、
前記少なくとも1本の主溝のうちの一部または全部の主溝が、主溝の延在方向に沿った断面で見て、前記凝縮部に位置する溝部分の溝底位置から、前記蒸発部に位置する溝部分の溝底位置に向かって、前記熱輸送デバイスの底面に近づくように傾斜している傾斜溝底を有する傾斜溝であり、
前記傾斜溝底は、少なくとも前記凝縮部および前記中間部に
、前記傾斜溝の全長にわたって形成される、熱輸送デバイス。
【請求項2】
前記傾斜溝は、前記傾斜溝底の直下に位置する前記容器の板厚が、前記凝縮部に位置する溝部分から、前記蒸発部に位置する溝部分に向かって薄くなるように形成されている、請求項1に記載の熱輸送デバイス。
【請求項3】
前記傾斜溝の延在方向に沿った断面で見て、前記凝縮部の中心位置と、前記蒸発部の中心位置とを結ぶ線分は、前記容器の入熱面に対する平均傾斜角度が、1°以上30°以下の範囲である、請求項1
または2に記載の熱輸送デバイス。
【請求項4】
前記傾斜溝の開口溝幅は、1μm以上1000μm以下の範囲である、請求項1から
3までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【請求項5】
前記容器に形成した前記少なくとも1本の主溝が、2本以上の前記傾斜溝であり、
前記傾斜溝が、互いに間隔をおいて平行に並列配置され、
前記内部空間が、前記傾斜溝で区画された溝内空間部と、前記傾斜溝の開口端の上方に形成される溝外空間部とで形成されている、請求項1から
4までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【請求項6】
前記容器は、前記蒸発部において、前記主溝を横断する方向に延在する1本または2本以上の補助溝をさらに備える、請求項
5に記載の熱輸送デバイス。
【請求項7】
前記容器は、前記蒸発部の、前記内部空間に面する内面部分に、多孔質材料をさらに有し、
前記多孔質材料は、粉末状、繊維状、フレーク状、多孔質状、または小片状の金属または合金を含んで焼結された焼結体で構成される、請求項1から
6までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【請求項8】
前記容器は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄合金、チタンまたはチタン合金からなる、請求項1から
7までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【請求項9】
前記容器が複数枚の金属シートによって形成され、ベーパーチャンバとして用いられる、請求項1から
8までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【請求項10】
前記容器は、横断面形状が矩形である管状容器によって形成されるヒートパイプとして用いられる、請求項1から
8までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送デバイスに関し、より具体的には、凝縮によって液相の作動流体に相変化した作動流体を、気相の作動流体への相変化が行われる蒸発部に確実に運搬し、蒸発部での液相の作動流体の蒸発を促進する熱輸送デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高機能化に伴い、電子機器内部には、電気・電子部品等の発熱体(以下、単に「発熱体」という場合がある。)が高密度に搭載され、また、発熱体の発熱量が増大化する傾向がある。発熱体の温度が、所定の許容温度を超えて上昇すると、発熱体が誤作動等を起こす原因となることから、発熱体の温度は、常に許容温度以下に維持し続けることが必要である。そのため、電子機器内部には、通常、発熱体が有する熱を外部に輸送するための熱輸送デバイスが搭載されている。このような熱輸送デバイスとしては、例えば、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを備え、作動流体を相変化させることによって潜熱(気化熱)を外部に輸送する、ベーパーチャンバやヒートパイプが知られている。
【0003】
電子機器を構成する電気・電子部品等の発熱体では、上述したように発熱量が増大化する傾向があることから、熱輸送デバイスの熱輸送性能をさらに向上させることが要求されている。熱輸送デバイスの熱輸送性能をさらに向上させるには、熱輸送デバイスの内部における作動流体の循環を円滑化することが有用である。
【0004】
熱輸送デバイスの内部における作動流体の循環を円滑化するための手段として、例えば、特許文献1には、第1金属シートおよび第2金属シートによって密封空間が形成されるベーパーチャンバにおいて、密封空間の少なくとも一部に、液状の作動液および作動液の蒸気が通る流路凹部と、この流路凹部の底面に設けられた底面溝を有する熱輸送デバイス(ベーパーチャンバ)が記載されている。この熱輸送デバイスでは、流路凹部の底面に底面溝を設けることで、液状の作動液の蒸発部への輸送を促進させることができるとともに、作動液の蒸気と金属シートとの熱交換面積を増大させ、それにより作動液の蒸気の凝縮を促進させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の熱輸送デバイスは、ウエットエッチングによって、実質的に均等な深さで全長にわたって形成される底面溝を用いて、作動液の蒸気を凝縮させるとともに、凝縮によって得られる液状の作動液を、蒸発部に輸送するものであった。
【0007】
これに関し、熱輸送デバイスは、熱輸送性能を向上させるには、作動流体の液相から気相への相変化を円滑にし、発熱体から発生する熱を蒸発部で液相の作動流体に蒸発潜熱として吸収させて蒸気になった気相の作動流体が、蒸発部から凝縮部に向かって効率的に輸送されるとともに、気相の作動流体の熱を凝縮部で凝縮潜熱として放出して凝縮させた液相の作動流体が、凝縮部から蒸発部に向かって効率的に輸送されることによって、容器の内部空間に、作動流体の円滑な循環流路が形成されるように構成されていることが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、作動流体を液相から気相に相変化させる際の潜熱の受け渡し効率を向上させて熱輸送性能を高めることを可能にした、熱輸送デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)作動流体が封入された内部空間を有する容器に、前記作動流体を蒸発させる蒸発部と、前記蒸発部から離隔した位置に配設され、前記作動流体を凝縮させる凝縮部と、前記蒸発部と前記凝縮部との間に配設される中間部とを備える熱輸送デバイスにおいて、前記容器に、前記凝縮部から前記中間部を経て前記蒸発部まで連続して延在する少なくとも1本の主溝が形成され、前記少なくとも1本の主溝のうちの一部または全部の主溝が、主溝の延在方向に沿った断面で見て、前記凝縮部に位置する溝部分の溝底位置から、前記蒸発部に位置する溝部分の溝底位置に向かって、前記熱輸送デバイスの底面に近づくように傾斜している傾斜溝底を有する傾斜溝である、熱輸送デバイス。
(2)前記傾斜溝は、前記傾斜溝底の直下に位置する前記容器の板厚が、前記凝縮部に位置する溝部分から、前記蒸発部に位置する溝部分に向かって薄くなるように形成されている、上記(1)に記載の熱輸送デバイス。
(3)前記傾斜溝底は、少なくとも前記凝縮部から前記中間部まで延在する前記傾斜溝の溝部分に形成される、上記(1)または(2)に記載の熱輸送デバイス。
(4)前記傾斜溝底は、前記傾斜溝の全長にわたって形成される、上記(1)から(3)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(5)前記傾斜溝の延在方向に沿った断面で見て、前記凝縮部の中心位置と、前記蒸発部の中心位置とを結ぶ線分は、前記容器の入熱面に対する平均傾斜角度が、1°以上30°以下の範囲である、上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(6)前記傾斜溝の開口溝幅は、1μm以上1000μm以下の範囲である、上記(1)から(5)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(7)前記容器に形成した前記少なくとも1本の主溝が、2本以上の前記傾斜溝であり、前記傾斜溝が、互いに間隔をおいて平行に並列配置され、前記内部空間が、前記傾斜溝で区画された溝内空間部と、前記傾斜溝の開口端の上方に形成される溝外空間部とで形成されている、上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(8)前記容器は、前記蒸発部において、前記主溝を横断する方向に延在する1本または2本以上の補助溝をさらに備える、上記(7)に記載の熱輸送デバイス。
(9)前記容器は、前記蒸発部の、前記内部空間に面する内面部分に、多孔質材料をさらに有し、前記多孔質材料は、粉末状、繊維状、フレーク状、多孔質状、または小片状の金属または合金を含んで焼結された焼結体で構成される、上記(1)から(8)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(10)前記容器は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄合金、チタンまたはチタン合金からなる、上記(1)から(9)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(11)前記容器が複数枚の金属シートによって形成され、ベーパーチャンバとして用いられる、上記(1)から(10)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
(12)前記容器は、横断面形状が矩形である管状容器によって形成されるヒートパイプとして用いられる、上記(1)から(10)までのいずれか1項に記載の熱輸送デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱輸送性能が高められた熱輸送デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図1(a)が平面透視図、
図1(b)が
図1(a)のI
A-I
A線上で切断したときの断面図、
図1(c)が
図1(a)のI
B-I
B線上で切断したときの断面図、
図1(d)が
図1(a)のI
C-I
C線上で切断したときの断面図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図2(a)が平面透視図、
図2(b)が
図2(a)のII
A-II
A線上で切断したときの断面図である。
【
図3】
図3は、第3実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図3(a)が平面透視図、
図3(b)が
図3(a)のIII
A-III
A線上で切断したときの断面図である。
【
図4】
図4は、第4実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図4(a)が平面透視図、
図4(b)が
図4(a)のIV
A-IV
A線上で切断したときの断面図である。
【
図5】
図5は、第5実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図5(a)が平面透視図、
図5(b)が
図5(a)のV
A-V
A線上で切断したときの断面図、
図5(c)が
図5(a)のV
B-V
B線上で切断したときの断面図である。
【
図6】
図6は、第6実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図6(a)が平面透視図、
図6(b)が
図6(a)のVI
A-VI
A線上で切断したときの断面図である。
【
図7】
図7は、第7実施形態の熱輸送デバイスであるヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図7(a)が縦断面図、
図7(b)が
図7(a)のVII
A-VII
A線上で切断したときの断面図、
図7(c)が
図7(a)のVII
B-VII
B線上で切断したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明のいくつかの実施形態の熱輸送デバイスについて、以下で説明する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図1(a)が平面透視図、
図1(b)が
図1(a)のI
A-I
A線上で切断したときの断面図、
図1(c)が
図1(a)のI
B-I
B線上で切断したときの断面図、
図1(d)が
図1(a)のI
C-I
C線上で切断したときの断面図である。
【0014】
本発明の熱輸送デバイス1は、
図1に示すように、作動流体Fが封入された内部空間Sを有する容器2に、作動流体Fを蒸発させる蒸発部4と、蒸発部4から離隔した位置に配設され、作動流体Fを凝縮させる凝縮部5と、蒸発部4と凝縮部5との間に配設される中間部6とを備える。ここで、容器2には、凝縮部5から中間部6を経て蒸発部4まで連続して延在する少なくとも1本の主溝3が形成され、少なくとも1本の主溝3のうちの一部または全部の主溝が、主溝3の延在方向Xに沿った断面で見て、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33から、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34に向かって、熱輸送デバイス1の底面11に近づくように傾斜している傾斜溝底32を有する傾斜溝30である。なお、
図1に示す実施形態では、全部の主溝3が傾斜溝30である場合を示している。
【0015】
これにより、
図1に示すように、傾斜溝30の深さは、凝縮部5に位置する溝部分で浅くなり、かつ中間部6から蒸発部4に位置する溝部分で深くなる。特に、傾斜溝30のうち、蒸発部4における溝深さが深くなることで、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34直下の容器本体21の板厚が薄くなって、この溝底位置34と発熱体7の取付面と距離が近い位置になる。そのため、作動流体Fが溝底位置34において発熱体7からの熱を受け取り易くすることで、作動流体Fの液相から気相への相変化を円滑にして、より多くの熱を凝縮部5に輸送することができる。その結果、熱輸送デバイス1における熱輸送性能を高めることができる。
【0016】
加えて、本発明の熱輸送デバイス1は、傾斜溝30における溝底31が、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33から、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34に向かって、熱輸送デバイス1の底面11に近づくように傾斜している傾斜溝底32を有することで、凝縮部5で凝縮した液相の作動流体F(L)が蒸発部4に向けて流れ易くなる。その結果、凝縮部5や中間部6における液の滞留を起こり難くすることができるため、熱輸送デバイス1の熱抵抗も小さくすることができる。
【0017】
なお、作動流体Fは、熱輸送デバイス1においては、液相状態と気相状態に相変化して存在する。そのため、以下では、説明の便宜上、液相の作動流体をF(L)、気相の作動流体をF(g)と区別した符号を付す場合がある。
【0018】
(熱輸送デバイス)
熱輸送デバイス1は、容器2の内部空間Sに封入された作動流体Fを通じて、熱を輸送することができる構成を有し、例えばベーパーチャンバやヒートパイプのような種々の伝熱装置に用いることができる。特に、本実施形態に係る熱輸送デバイス1は、
図1に示すように、ベーパーチャンバとして用いられる。
【0019】
(容器)
熱輸送デバイス1に用いられる容器2は、作動流体Fが封入される内部空間Sを有している。特に、本実施形態では、容器2は、複数枚の金属シートによって形成されるベーパーチャンバとして用いられる。その一例として、
図1(a)~(d)では、端部Tで密封されている2枚の金属シートによって、内部空間Sを有する容器2が形成される。
【0020】
ここで、2枚の金属シートは、一方が容器本体21を、他方が蓋体22をそれぞれ構成し、容器本体21の上面と蓋体22の下面とが、容器2の端部Tで密封されるように構成される。容器本体21と蓋体22は、同じ構造を有していてもよい。これらが同じ構造を有する場合、容器本体21と蓋体22のうち、下側にあるものが容器本体21となり、上側にあるものが蓋体22となる。
【0021】
熱輸送デバイス1が設けられている容器2の内部空間Sは、外部環境に対して密閉された空間であり、脱気処理により減圧されている。これにより、容器2からの液相の作動流体F(L)や気相の作動流体F(g)の漏洩を防ぐとともに、内部空間Sの圧力を調整して、所望の動作温度で動作するように構成されている。
【0022】
容器2の平面形状は、特に限定する必要はなく、
図1に示すような矩形状の他、円形、三角形、多角形などの種々の形状が挙げられ、特にベーパーチャンバが取り付けられる部分の形状に対応させた形状にすることが好ましい。容器2の厚さは、特に限定されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下の範囲であることが好ましい。
【0023】
容器2を構成する材料としては、特に限定されず、例えば熱伝導性材料を挙げることができる。特に、高い熱伝導性を得る観点では、容器2は、金属または合金によって構成されることが好ましく、その一例として、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄合金(例えばステンレス鋼)、チタン、チタン合金などを挙げることができる。その中でも、特に高い熱伝導性を得られる観点では、容器2は、銅または銅合金によって構成されることが好ましい。
【0024】
容器2に封入される作動流体Fとしては、特に限定されず、広汎な材料が使用でき、例えば、電気絶縁性の冷媒を挙げることができる。具体例としては、例えば、水、フルオロカーボン類、シクロペンタン、エチレングリコール、およびこれらの混合物などを挙げることができる。これらの作動流体Fのうち、電気絶縁性の点から、フルオロカーボン類、シクロペンタン、エチレングリコールが好ましく、フルオロカーボン類が特に好ましい。
【0025】
容器2には、作動流体Fを蒸発させる蒸発部4と、蒸発部4から離隔した位置に配設され、作動流体Fを凝縮させる凝縮部5と、蒸発部4と凝縮部5との間に配設される中間部6とを設ける。より具体的には、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させる蒸発部4と、蒸発部4から離隔した位置に配設され、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させる凝縮部5と、蒸発部4と凝縮部5との間に配設され、気相の作動流体F(g)および液相の作動流体F(L)によって、互いに逆方向の流体流れが形成される中間部6とを設ける。
【0026】
このうち、蒸発部4は、容器2のうち、発熱体7の取付位置に対応する位置に形成され、例えば
図1の熱輸送デバイス1では、容器2の一端側部分に形成されている。蒸発部4は、熱的に接続された発熱体7から受熱(吸熱)する機能を有している。具体的には、
図1(b)に記載されるように、発熱体7からの熱を、容器2の内部空間Sに封入された液相の作動流体F(L)に伝えることで液相の作動流体F(L)を加熱および蒸発させて、気相の作動流体F(g)に相変化させることで、蒸発潜熱として発熱体7から受けた熱を吸収する。
【0027】
また、凝縮部5は、蒸発部4から離隔した位置に配設されており、例えば
図1の熱輸送デバイス1では、容器2の他端側部分に配設される。この凝縮部5は、蒸発部4で相変化して輸送されてきた気相の作動流体F(g)を放熱する機能を有している。具体的には、凝縮部5は、
図1(b)に記載されるように、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させ、それにより凝縮潜熱として輸送された作動流体F(g)の熱を容器2の外部に放出する。他方で、凝縮部5において生じる液相の作動流体F(L)は、後述する傾斜溝30に沿って流れ、中間部6を経て蒸発部4に戻る。蒸発部4に戻った液相の作動流体F(L)は、発熱体7から熱を吸収するのに再度用いられる。
【0028】
また、中間部6は、蒸発部4と凝縮部5との間に配設されており、蒸発部4から凝縮部5に向かう気相の作動流体F(g)と、凝縮部5から蒸発部4に向かう液相の作動流体F(L)とが、互いに逆方向の流体流れを形成するように構成される。中間部6では、液相の作動流体F(L)が傾斜溝30に沿って蒸発部4に供給されるとともに、気相の作動流体F(g)が主溝3やその上にある空隙を通って凝縮部5に供給される。
【0029】
(主溝)
本発明の熱輸送デバイス1は、容器2の内周面2aに、凝縮部5から中間部6を経て蒸発部4まで連続して延在する、少なくとも1本の主溝3を備える。ここで、主溝3は、上述の2枚の金属シートのうち、少なくとも容器本体21に設けられる。
【0030】
主溝3のうち、一部または全部の主溝は、
図1(b)に記載されるような、主溝3の延在方向Xと深さ方向Zに沿った断面で見て、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33から、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34に向かって、熱輸送デバイス1の底面11に近づくように傾斜している傾斜溝底32を有する傾斜溝30である。これにより、溝底31のうち蒸発部4に位置する溝部分が深くなる(溝底位置33が、主溝3の深さ方向Zについて低い位置になる)ことで、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34が、蒸発部4の下側にある発熱体7に近い位置になるため、溝底位置34における作動流体Fの液相から気相への相変化を円滑にして、より多くの熱を発熱体7から受け取ることができる。その結果、熱輸送デバイス1の熱輸送性能が高めることができる。加えて、凝縮部5で凝縮した液相の作動流体F(L)が蒸発部4に向けて流れ易くなることで、凝縮部5や中間部6における液の滞留を起こり難くなるため、熱輸送デバイス1の熱抵抗も小さくすることができる。
【0031】
主溝3のうち傾斜溝30は、
図1(b)に示すように、傾斜溝底32の直下に位置する容器2の板厚が、凝縮部5に位置する溝部分から、蒸発部4に位置する溝部分に向かって薄くなるように形成されていることが好ましい。より具体的には、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33の直下に位置する容器2の板厚の最小値t
1よりも、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34の直下に位置する容器2の板厚の最大値t
2が小さくなるような深さで、傾斜溝30が形成されていることが好ましい。これにより、蒸発部4に位置する溝底位置34における容器2の板厚の最大値t
2が小さくなることで、蒸発部4にある液相の作動流体F(L)が発熱体7によって加熱され易くなり、かつ、容器2の中間部6や凝縮部5が相対的に厚くなることで、発熱体7の熱が直接伝わり難くなるため、溝底位置34における作動流体Fの液相から気相への相変化を、より円滑にすることができる。
【0032】
傾斜溝底32は、発熱体7が熱的に接続される容器2の入熱面2bに対して傾斜していることが好ましい。ここで、傾斜溝底32における傾斜の大きさは、特に限定されないが、液相の作動流体F(L)を蒸発部4に向けて流れ易くする観点では、容器2の入熱面2bに対する溝底31の平均傾斜角度θが、1°以上30°以下の範囲であることが好ましく、5°以上30°以下の範囲であることがより好ましい。
【0033】
特に、本実施形態では、傾斜溝30の傾斜溝底32は、
図1(b)に示すように、傾斜溝30の全長にわたって形成される。これにより、凝縮部5で凝縮した液相の作動流体F(L)が、蒸発部4に向けてより一層流れ易くなるため、熱輸送デバイス1の熱抵抗をより小さくすることができる。
【0034】
傾斜溝30における開口溝幅wの大きさは、1μm以上1000μm以下の範囲にすることが好ましく、50μm以上500μm以下の範囲にすることがより好ましい。これにより、傾斜溝30の内部で、凝縮部5から中間部6を経て蒸発部4に至る、液体の作動流体F(L)の流れが形成されるため、凝縮部5で凝縮した液体の作動流体F(L)を、スムーズに蒸発部4に供給することができる。ここで、傾斜溝30の開口溝幅wは、傾斜溝30の開口端30a、30bで測定したときの開口溝幅とすることができる。
【0035】
特に、毛細管力によって、凝縮部5から蒸発部4に至る液体の作動流体F(L)の流れを形成する観点では、傾斜溝30における開口溝幅wの大きさは、1μm以上300μm以下の範囲にすることが好ましく、50μm以上200μm以下の範囲にすることがより好ましい。
【0036】
また、作動流体Fの液滴に作用する重力によって、凝縮部5から蒸発部4に至る液体の作動流体F(L)の流れを形成する観点では、傾斜溝30における開口溝幅wの大きさは、200μm以上1000μm以下の範囲にすることが好ましく、400μm以上1000μm以下の範囲にすることがより好ましい。このとき、重力による凝縮部5から蒸発部4に至る液体の作動流体F(L)の流れを形成しやすくするため、凝縮部5から蒸発部4に向かって、傾斜溝30の開口溝幅wが広くなるように構成することが好ましい。
【0037】
傾斜溝30の溝幅は、蒸発部4における液相の作動流体F(L)の蒸発や、凝縮部5における液相の作動流体F(L)の傾斜溝30への回収を容易にするため、主溝3の深さ方向Zの全体において、開口溝幅wと等しいことが好ましい。
【0038】
傾斜溝30の深さは、容器2の内周面2aのうち主溝3が形成されていない部分から、傾斜溝30の底部までの距離をいう。ここで、傾斜溝30を介して作動流体Fを流通し易くできる観点では、傾斜溝30の深さの下限は、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。他方で、傾斜溝30の深さの上限は、熱輸送デバイス1のスペースを必要以上に大きくしない観点から、
2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。特に、本実施形態のように、熱輸送デバイス1がベーパーチャンバのような薄型のデバイスであるときは、傾斜溝30の深さの上限は、400μm以下であってもよい。
【0039】
容器2に形成した少なくとも1本の主溝3は、より多くの熱を発熱体7から受け取って凝縮部5から放熱させるため、2本以上の主溝であることが好ましい。このとき、主溝3として、傾斜溝30を複数備えることが好ましい。本実施形態では、
図1(a)に示すように、主溝3である2本以上の傾斜溝30が、容器2の内周面2aに、互いに間隔をおいて平行に並列配置される。これにより、液体の作動流体F(L)が、平行に並列配置された主溝3の各々を流れることで、熱輸送デバイス1の幅方向(主溝3の幅方向Y)に沿ったより広い範囲で液体の作動流体F(L)を流通することができるため、蒸発部4における液体の作動流体F(L)の偏在を軽減してドライアウトを起こり難くすることができる。
【0040】
ここで、主溝3として傾斜溝30を複数備えるとき、容器2の内部空間Sは、2本以上の傾斜溝30で区画された溝内空間部S1と、2本以上の傾斜溝30の開口端30a、30bの上方に形成される溝外空間部S2とで形成されていることが好ましい。これにより、傾斜溝30で区画された溝内空間部S1の上方に、2本以上の傾斜溝30に跨がるように溝外空間部S2が形成される。このとき、蒸発部4で熱を吸収して生じた気相の作動流体F(g)が、溝外空間部S2を通って蒸発部4から凝縮部5へ流れるため、より多くの熱を、蒸発部4から凝縮部5に輸送することができる。
【0041】
なお、主溝3は、傾斜溝30に該当しない1本以上の主溝を有していてもよい(図示せず)。例えば、主溝3の延在方向Xと深さ方向Zに沿った断面で見て、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33から、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34に向かって上り傾斜となる傾斜溝底32を有する主溝3を有していてもよい。これにより、蒸発部4と凝縮部5の位置関係を入れ替えても、熱輸送デバイス1として熱輸送性能を発揮させることができる。
【0042】
主溝3を備えた熱輸送デバイス1を製造する方法としては、特に限定されず、例えば容器2のうち少なくとも容器本体21の内周面2aとなる部分に対して、レーザ加工、切削加工、押出成形加工などを用いることができる。その中でも、レーザの出力の変化によって傾斜溝底32を容易に形成できる観点では、容器2の内周面2aとなる部分にレーザ加工を施して主溝3を形成する工程を有することが好ましい。
【0043】
容器2の少なくとも容器本体21に主溝3を形成した後、容器2の端部Tのうち封入口となる部分を残して、容器本体21の端部T1と蓋体22の端部T2とを接触させて封止し、封入口から作動流体Fを注入する。作動流体Fを注入した後、容器2の内部を、加熱脱気、真空脱気などの脱気処理をして減圧状態にする。その後、封入口を封止することで熱輸送デバイス1を製造する。
【0044】
封止の方法は、特に限定されず、例えば、TIG溶接、抵抗溶接、圧接、はんだ付けを挙げることができる。なお、最初に行う封止(封入口となる部分以外に対する封止)は、その後に行う脱気の際に内部の気体が抜ける部分以外を封止するために行う工程であり、また、2回目の封止(封入口の封止)は、脱気の際に内部の気体が抜ける部分を封止するために行う工程である。
【0045】
(ベーパーチャンバの動作原理)
熱輸送デバイス1であるベーパーチャンバは、動作前に液相の作動流体F(L)が内部空間Sに封入され、蒸発部4に供給される。
【0046】
発熱体7が発熱して蒸発部4の温度が上昇すると、発熱体7の熱が容器2に伝達され、容器2のうち発熱体7の近傍にある蒸発部4に熱が伝達される。蒸発部4では、液相の作動流体F(L)が加熱されて温度が上昇して沸騰温度に到達し、液相の作動流体F(L)から気相の作動流体F(g)に相変化することで、気相の作動流体F(g)が内部空間Sに放出される。また、液相の作動流体F(L)から気相の作動流体F(g)への相変化によって、発熱体からの熱が蒸発潜熱として気相の作動流体F(g)に吸収される。このとき、主溝3のうち傾斜溝30が、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33から、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34に向かって、熱輸送デバイス1の底面11に近づくように傾斜していることで、作動流体Fの液相から気相への相変化を促進して、より多くの熱を、蒸発潜熱として気相の作動流体F(g)に吸収させることができる。
【0047】
蒸発部4で熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、容器2の内部空間Sのうち上側、特に本実施態様では、
図1(a)に示すように、傾斜溝30の開口端30a、30bの上方に形成される溝外空間部S
2を通って凝縮部5へ流れることで、発熱体7から受けた熱が、蒸発部4から中間部6を経て凝縮部5へと輸送される。
【0048】
その後、凝縮部5へ輸送された気相の作動流体F(g)は、凝縮部5にて、熱交換手段(図示せず)によって、液相へ相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱としてベーパーチャンバの外部に放出される。他方で、凝縮部5で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体F(L)が、主溝3に沿って、凝縮部5から中間部6を経て蒸発部4に流れることで、蒸発部4と凝縮部5の間の作動流体Fの循環流れを形成し易くすることができる。
【0049】
<第2実施形態>
図2は、第2実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図2(a)が平面透視図、
図2(b)が
図2(a)のII
A-II
A線上で切断したときの断面図である。なお、以下の説明において、上記第1実施形態または第2実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0050】
上述の第1実施形態では、
図1(b)に示すように、傾斜溝30の傾斜溝底32は、傾斜溝30の溝底31の全長にわたって形成されている構成を示したが、これに限定されない。例えば、
図2(b)に示されるように、傾斜溝30Aの溝底31Aのうち、少なくとも凝縮部5から中間部6まで延在する傾斜溝30Aの溝部分に、傾斜溝底32Aが形成されていればよい。他方で、蒸発部4に位置する溝部分には、傾斜溝底32Aが形成されていなくてもよい。
【0051】
本発明の熱輸送デバイスでは、このように、少なくとも凝縮部5から中間部6まで、傾斜溝底32Aが延在するように傾斜溝底32Aを設けることで、液相の作動流体F(L)の凝縮部5から蒸発部4への供給が促進される。
【0052】
このとき、傾斜溝30Aの溝底31Aのうち、蒸発部4に位置する溝部分のうち少なくとも一部は、容器2Aの入熱面2bに対して平行な平行溝底35を備えることが好ましい。これにより、蒸発部4では入熱面2bから平行溝底35に伝わる熱の偏りが低減されるため、蒸発部4における作動流体Fの液相から気相への相変化を、より一層促進させることができる。
【0053】
<第3実施形態>
図3は、第3実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図3(a)が平面透視図、
図3(b)が
図3(a)のIII
A-III
A線上で切断したときの断面図である。なお、以下の説明において、上記第1実施形態から第2実施形態までと同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0054】
上述の第1実施形態では、
図1(b)に示すように、傾斜溝30の傾斜溝底32は、傾斜溝30の溝底31の全長にわたって連続して形成されている構成を示したが、これに限定されない。例えば、
図3(b)に示されるように、傾斜溝底32B、32B’が、傾斜溝30Bの溝底31Bに断続的に形成されていてもよい。このとき、傾斜溝30Bのうち傾斜溝底32B、32B’に挟まれた区間は、平行溝底35によって構成されることが好ましい。このように、傾斜溝底32B、32B’を溝底31Bに断続的に形成することで、傾斜溝30Bを備えた容器2Bの薄型化を図ることができる。
【0055】
ここで、主溝3の延在方向Xと深さ方向Zに沿った断面で見たときに、溝底31Bの入熱面2bに対する平均傾斜θ、より具体的には、凝縮部5の中心位置C1と、蒸発部4の中心位置C2とを結ぶ線分の傾斜である平均傾斜θは、容器2Bの入熱面2bに対して1°以上30°以下の範囲の角度であることが好ましい。これにより、液相の作動流体F(L)が、凝縮部5から蒸発部4に向けて流れ易くなるため、熱輸送デバイス1の熱抵抗をより小さくすることができる。
【0056】
<第4実施形態>
図4は、第4実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図4(a)が平面透視図、
図4(b)が
図4(a)のIV
A-IV
A線上で切断したときの断面図である。
図4(a)では、説明の都合により、容器2Cの蓋体22の一部省略して記載している。なお、以下の説明において、上記第1実施形態から第3実施形態までと同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0057】
上述の第1実施形態では、
図1(a)、(b)に示すように、容器2に、凝縮部5から中間部6を経て蒸発部4まで連続して延在する、少なくとも1本の主溝3が形成されている構成を示したが、これに限定されない。例えば、
図4(a)、(b)に示される熱輸送デバイス1Cのように、容器2Cが、蒸発部4において、主溝3を横断する方向に延在する、1本または2本以上の補助溝8を備えることも好ましい。これにより、傾斜溝30などを介して凝縮部5から蒸発部4に供給された液相の作動流体F(L)が、主溝3の延在方向Xに沿って広がるとともに、補助溝8を介して主溝3の幅方向Yに沿っても広がることで、蒸発部4において作動流体Fが蒸発する部分の面積が増加するため、蒸発部4における作動流体Fの液相から気相への相変化を行い易くすることができる。また、蒸発部4に供給される液相の作動流体F(L)の量が、主溝3ごとに大きく異なる場合であっても、補助溝8を介して液相の作動流体F(L)がやりとりされるため、熱輸送デバイス1のドライアウトを起こり難くすることができる。
【0058】
補助溝8における開口溝幅w’の大きさは、傾斜溝30における開口溝幅wの大きさと同様に、1μm以上1000μm以下の範囲にすることが好ましく、50μm以上
500μm以下の範囲にすることがより好ましい。ここで、補助溝8の開口溝幅w’は、補助溝8の開口端8a、8bで測定したときの開口溝幅とすることができる。
【0059】
また、容器2Cには、蒸発部4において、主溝3および補助溝8に含まれない、1本または2本以上の溝をさらに備えていてもよい(図示せず)。このとき、蒸発部4に形成される溝によって、蒸発部4における容器2の内周面2aのうち少なくとも一部が失われていることが好ましい。これにより、作動流体Fが蒸発する部分の面積を、さらに増加させることができる。
【0060】
<第5実施形態>
図5は、第5実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図5(a)が平面透視図、
図5(b)が
図5(a)のV
A-V
A線上で切断したときの断面図、
図5(c)が
図5(a)のV
B-V
B線上で切断したときの断面図である。
図5(a)では、説明の都合により、容器2Dの蓋体22を一部省略して記載している。なお、以下の説明において、上記第1実施形態から第4実施形態までと同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0061】
上述の第1実施形態では、
図1(b)に示すように、傾斜溝30を含む主溝3に対して表面加工を行わない構成を示したが、これに限定されない。例えば、
図5(a)、(b)に示される熱輸送デバイス1Dのように、容器2が、蒸発部4のうち内部空間Sに面する内面部分に、多孔質材料9を有していてもよい。蒸発部4の内面部分を多孔質材料9によって構成することで、多孔質材料9と液相の作動流体F(L)とが接する部分の面積が増加するため、蒸発部4における作動流体Fの液相から気相への相変化を行い易くすることができる。
【0062】
ここで、多孔質材料9は、蒸発部4の内部空間Sに面する内面部分に形成されていることが好ましく、より具体的には、蒸発部4のうち、少なくとも主溝3の溝底31に形成されていることが好ましい。また、蒸発部4のうち、主溝3の溝底31と、溝壁面36a、36bの両方に形成されていることがより好ましい。蒸発部4のうち主溝3の内面部分である溝底31や溝壁面36a、36bに、多孔質材料9が形成されていることで、主溝3の内面部分と液相の作動流体F(L)とが接する部分の面積が増加するため、蒸発部4における作動流体Fの液相から気相への相変化を行い易くすることができる。
【0063】
多孔質材料9としては、特に限定されず、例えば熱伝導性材料の粉末の焼結体を挙げることができる。特に、高い熱伝導性を得る観点では、多孔質材料9は、金属または合金によって構成されることが好ましく、その一例として、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、鉄および鉄合金(例えばステンレス鋼)などを挙げることができる。
【0064】
また、多孔質材料9としては、粉末状、繊維状、フレーク状、多孔質状、または小片状の金属または合金を含んで焼結された焼結体で構成されることが好ましい。これにより、主溝3の内面部分と液相の作動流体F(L)とが接する部分の面積が増加しやすくなる。
【0065】
このような多孔質材料9を形成する方法としては、特に限定されず、例えば主溝3が形成されている容器2のうち、少なくとも主溝3の溝底31に、粉末状、繊維状、フレーク状、多孔質状、または小片状の金属または合金を供給して材料の層を形成し、レーザ加工によって材料の層を局所的に加熱して、焼結体を形成させてもよい。また、レーザ加工によって主溝3を形成する際に、少なくとも蒸発部4に位置する溝部分の内面を、レーザ加工によって、微粉を溝内部に生成するとともに局所的に加熱することで、蒸発部4のうち主溝3の内面部分である溝底31や溝壁面36a、36bに、多孔質材料9を形成することも可能である。
【0066】
<第6実施形態>
図6は、第6実施形態の熱輸送デバイスであるベーパーチャンバの内部構造を示した図であって、
図6(a)が平面透視図、
図6(b)が
図6(a)のVI
A-VI
A線上で切断したときの断面図である。なお、以下の説明において、上記第1実施形態から第5実施形態までと同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0067】
上述の第1実施形態では、
図1(a)、(b)に示すように、蒸発部4と凝縮部5を1ヶ所ずつ設ける構成を示したが、これに限定されない。例えば、
図6(a)、(b)に示される熱輸送デバイス1Eのように、容器2Eに、1ヶ所の蒸発部4と、蒸発部4から離隔した位置に配設される複数の凝縮部5、5’と、蒸発部4とこれらの凝縮部5、5’との間にそれぞれ配設される中間部6、6’とを設けてもよい。これにより、蒸発部4で相変化により生成した気相の作動流体F(g)を、複数の凝縮部5、5’に分散して流すことができるため、熱輸送デバイス1における熱輸送性能をより一層高めることができる。
【0068】
<第7実施形態>
図7は、第7実施形態の熱輸送デバイスであるヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図7(a)が縦断面図、
図7(b)が
図7(a)のVII
A-VII
A線上で切断したときの断面図、
図7(c)が
図7(a)のVII
B-VII
B線上で切断したときの断面図である。なお、以下の説明において、上記第1実施形態から第6実施形態までと同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略または簡略にし、主に相違点について説明する。
【0069】
(容器)
本実施形態の熱輸送デバイス1Fは、横断面形状が矩形である管状容器によって形成され、ヒートパイプとして用いられる。ここで、熱輸送デバイス1Fが設けられている容器2Fは、端部T3、T4で密封されている。また、容器2Fの内部空間Sは、外部環境に対して密閉された空間であり、脱気処理により減圧されている。本実施形態の熱輸送デバイス1Fであるヒートパイプは、ベーパーチャンバと同様の動作原理によって動作するものであるが、容器2Fが管状容器であり、それにより相対的に広い内部空間Sを有する点で、ベーパーチャンバの容器と異なる。
【0070】
容器2Fの長手方向(
図7(a)における主溝3の延在方向X)についての延在形状は、
図7(a)に示す直線状の他、曲部を有する形状などが挙げられ、特に限定されない。容器2Fの長手方向に対して直交方向(
図7(a)における主溝3の幅方向Y)に沿って切断したときの横断面形状は、
図7(c)に示す矩形の他、扁平形状や多角形状のように、底辺が直線となる形状が挙げられる。容器2Fの外寸は、特に限定されないが、例えば、容器2Fの横断面形状が矩形である場合には、5mm以上20mm以下の範囲であることが好ましい。
【0071】
(ヒートパイプの動作原理)
次に、熱輸送デバイス1であるヒートパイプの熱輸送のメカニズムを、
図7に示すヒートパイプを用いて以下で説明する。
【0072】
まず、液相の作動流体F(L)が、容器2の内周面2aに長手方向に向かって延在する主溝3に沿って、蒸発部4に供給される。
【0073】
発熱体7が発熱して蒸発部4の温度が上昇すると、発熱体7の熱が容器2Fに伝達され、容器2Fのうち発熱体7の近傍にある蒸発部4に熱が伝達される。蒸発部4では、液相の作動流体F(L)が加熱されて温度が上昇して沸騰し、液相の作動流体F(L)から気相の作動流体F(g)に相変化することで、気相の作動流体F(g)が内部空間Sに放出される。また、液相の作動流体F(L)から気相の作動流体F(g)への相変化によって、発熱体からの熱が蒸発潜熱として気相の作動流体F(g)に吸収される。このとき、主溝3のうち傾斜溝30が、凝縮部5に位置する溝部分の溝底位置33から、蒸発部4に位置する溝部分の溝底位置34に向かって、熱輸送デバイス1の底面11に近づくように傾斜していることで、作動流体Fの液相から気相への相変化を促進して、より多くの熱を、蒸発潜熱として気相の作動流体F(g)に吸収させることができる。
【0074】
蒸発部4で熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、容器2Fの内部空間Sのうち上側を通って凝縮部5へ流れることで、発熱体7から受けた熱が、蒸発部4から中間部6を経て凝縮部5へと輸送される。
【0075】
その後、凝縮部5へ輸送された気相の作動流体F(g)は、凝縮部5で液相へ相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱としてヒートパイプの外部に放出される。他方で、凝縮部5で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体F(L)は、主溝3に沿って、凝縮部5から中間部6を経て蒸発部4に流れることで、蒸発部4と凝縮部5の間の作動流体Fの循環流れを形成することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0077】
1、1A~1F 熱輸送デバイス
11 熱輸送デバイスの底面
2、2A~2F 容器
2a 容器の内周面
2b 容器の入熱面
21、21A~21E 容器本体
22、22E 蓋体
3、3A、3B 主溝
30、30A、30B 傾斜溝
30a、30b 傾斜溝の開口端
31、31A、31B 溝底
32、32A、32B、32B’ 傾斜溝底
33 凝縮部に位置する溝部分の溝底位置
34 蒸発部に位置する溝部分の溝底位置
35 平行溝底
36a、36b 溝壁面
4 蒸発部
5 凝縮部
6 中間部
7 発熱体
8 補助溝
8a、8b 補助溝の開口端
9 多孔質材料
C1 凝縮部の中心位置
C2 蒸発部の中心位置
F 作動流体
F(L) 液相の作動流体
F(g) 気相の作動流体
S 内部空間
S1 溝内空間部
S2 溝外空間部
X 主溝の延在方向
Y 主溝の幅方向
Z 主溝の深さ方向
T 容器の端部
T1 容器本体の端部
T2 蓋体の端部
T3、T4 管状容器の端部
t1 凝縮部の溝底位置の直下に位置する容器の板厚の最小値
t2 蒸発部の溝底位置の直下に位置する容器の板厚の最大値
w 傾斜溝の開口溝幅
w’ 補助溝の開口溝幅
θ 容器の入熱面に対する溝底の平均傾斜角度