(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20241126BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20241126BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20241126BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
F28D15/04 B
F28D15/02 L
F28D15/02 101H
F28D15/02 106Z
H01L23/46 B
H05K7/20 R
(21)【出願番号】P 2020195644
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢吾
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-212028(JP,A)
【文献】特開2019-158323(JP,A)
【文献】特開平04-080594(JP,A)
【文献】特公昭55-044876(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2008/0216994(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属シートと第2金属シートを接合して形成される、密閉された内部空間に作動流体を有するベーパーチャンバであって、
前記第1金属シートおよび前記第2金属シートが互いに向かい合っている対向面のうち、少なくとも一方の金属シートの対向面に、
一方向に向かって連続または断続的に延在する主溝が所定の間隔で並列に形成され、さらに、前記一方向とは異なる方向に向かって、不規則な配設ピッチおよび不規則な溝幅で、隣り合う主溝を連通する連通溝が形成されて
おり、
前記配設ピッチは、前記連通溝が形成されている面のうち、縦10mmおよび横10mmの領域内にある全ての連通溝について、隣り合う連通溝との間の配設ピッチを両端の平均で求めたときの、配設ピッチの標準偏差が、配設ピッチの平均値に対して10%以上である、
前記連通溝の毛細管力は、前記主溝の毛細管力よりも弱い、ベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記ベーパーチャンバは、前記作動流体を蒸発させる蒸発部と、前記蒸発部から離隔した位置に配設され、前記作動流体を凝縮させる凝縮部とを備え、
前記主溝は、少なくとも一部が、前記凝縮部から前記蒸発部へ向かう液相の作動流体が還流する流路を構成し、
前記内部空間が、前記蒸発部から前記凝縮部へ向かう気相の作動流体の流路を構成する、請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記第1金属シートの対向面は、前記内部空間を区画形成する凹部を有し、
前記第2金属シートは、少なくとも蒸発部において平板形状であり、
前記主溝は、少なくとも前記第2金属シートの対向面に並列配置される、請求項1または2に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
前記主溝は、溝深さ寸法が溝幅寸法より大きい、請求項1から3のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記主溝の内面、ならびに、前記主溝および前記連通溝で区画される、前記少なくとも一方の金属シートの対向面の部分に、前記主溝の溝深さ寸法よりも小さい寸法の凹凸をもつ微小凹凸面がさらに形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
前記主溝は、配設ピッチが100μm以上250μm以下の範囲である、請求項1から5のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項7】
前記主溝の溝幅は、10μm以上100μm以下の範囲であり、かつ
前記主溝の溝深さは、10μm以上1000μm以下の範囲である、請求項1から6のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項8】
前記連通溝の溝幅は、5μm以上100μm以下の範囲であり、かつ
前記連通溝の溝深さは、10μm以上1000μm以下の範囲である、請求項1から7のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項9】
前記内部空間は、前記第1金属シートおよび前記第2金属シートのそれぞれの前記対向面に設けられた当接部同士の接触によって複数の蒸気流路に分割され、
前記主溝および前記連通溝は、前記少なくとも一方の金属シートの対向面の、前記当接部を少なくとも含む領域に配置される、請求項1から8のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のベーパーチャンバの製造方法であって、
前記少なくとも一方の金属シートの対向面に対し、一方向に線を描くようにレーザー光を照射することで、前記主溝および連通溝を形成する工程を含む、ベーパーチャンバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーパーチャンバおよびベーパーチャンバの製造方法に関する。
【0002】
ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電気・電子機器に搭載されている半導体素子などの電子部品は、高性能化に伴う高密度搭載などによって、発熱量が増大する傾向にある。電気・電子機器を長時間にわたって正常に動作させるためには、電子部品を効率よく冷却する必要がある。そのため、電子機器内部には、通常、電子部品などの発熱体を冷却するための冷却デバイスが搭載されている。このような冷却デバイスとしては、例えば、作動流体を液相から気相に相変化させることによる潜熱(気化熱)を利用したベーパーチャンバが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第1金属シートと第2金属シートとを有し、第1金属シートと第2金属シートとの間に設けられる密封空間に液流路部を備えるベーパーチャンバが記載されている。特許文献1のベーパーチャンバは、第1主流溝と第2主流溝とを連通するように第1連絡溝を有し、かつ第2主流溝と第3主流溝とを連通するように第2連絡溝を有している。ここで、第1連絡溝の幅は、第1主流溝の幅および第2主流溝の幅よりも大きく、第2連絡溝の幅は、第2主流溝の幅および第3主流溝の幅よりも大きく構成されている。また、第1連絡溝の深さは、第1主流溝の深さおよび第2主流溝の深さよりも深く、第2連絡溝の深さは、第2主流溝の深さおよび第3主流溝の深さよりも深く構成されている。
【0004】
また、特許文献1のベーパーチャンバでは、主流溝に沿った方向の毛細管作用が失われることを防ぐため、第1連絡溝と第2連絡溝とは、一直線上に配置されておらず、互いに対して半ピッチずつずらした規則的な配設ピッチで配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のベーパーチャンバは、幅が大きく、かつ深さが深い連絡溝を形成することで、主流溝における作動液の流れを妨げずに、連絡溝に作動液を貯留させるとともに、作動液が主流溝を流れなくなってドライアウトが発生する際に、連絡溝に貯留させていた作動液を連絡溝から主流溝へ移動させるものであった。
【0007】
これに関し、ベーパーチャンバにおいては、冷却性能をさらに向上させることが望まれており、そのためには、主流溝の延在方向と異なる方向に沿った広い範囲でも、短時間により多くの作動液を輸送できるようにすることが望まれていた。
【0008】
本発明の目的は、作動液の輸送効率を向上させて熱伝達率を高めることを可能にしたベーパーチャンバと、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)第1金属シートと第2金属シートを接合して形成される、密閉された内部空間に作動流体を有するベーパーチャンバであって、前記第1金属シートおよび前記第2金属シートが互いに向かい合っている対向面のうち、少なくとも一方の金属シートの対向面に、一方向に向かって連続または断続的に延在する主溝が所定の間隔で並列に形成され、さらに、前記一方向とは異なる方向に向かって、不規則な配設ピッチおよび不規則な溝幅で、隣り合う主溝を連通する連通溝が形成されている、ベーパーチャンバ。
(2)前記ベーパーチャンバは、前記作動流体を蒸発させる蒸発部と、前記蒸発部から離隔した位置に配設され、前記作動流体を凝縮させる凝縮部とを備え、前記主溝は、少なくとも一部が、前記凝縮部から前記蒸発部へ向かう液相の作動流体が還流する流路を構成し、前記内部空間が、前記蒸発部から前記凝縮部へ向かう気相の作動流体の流路を構成する、上記(1)に記載のベーパーチャンバ。
(3)前記第1金属シートの対向面は、前記内部空間を区画形成する凹部を有し、前記第2金属シートは、少なくとも蒸発部において平板形状であり、前記主溝は、少なくとも前記第2金属シートの対向面に並列配置される、上記(1)または(2)に記載のベーパーチャンバ。
(4)前記主溝は、溝深さ寸法が溝幅寸法より大きい、上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
(5)前記主溝の内面、ならびに、前記主溝および前記連通溝で区画される、前記少なくとも一方の金属シートの対向面の部分に、前記主溝の溝深さ寸法よりも小さい寸法の凹凸をもつ微小凹凸面がさらに形成されている、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
(6)前記主溝は、配設ピッチが100μm以上250μm以下の範囲である、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
(7)前記主溝の溝幅は、10μm以上100μm以下の範囲であり、かつ前記主溝の溝深さは、10μm以上1000μm以下の範囲である、上記(1)から(6)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
(8)前記連通溝の溝幅は、5μm以上100μm以下の範囲であり、かつ前記連通溝の溝深さは、10μm以上1000μm以下の範囲である、上記(1)から(7)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
(9)前記内部空間は、前記第1金属シートおよび前記第2金属シートのそれぞれの前記対向面に設けられた当接部同士の接触によって複数の蒸気流路に分割され、前記主溝および前記連通溝は、前記少なくとも一方の金属シートの対向面の、前記当接部を少なくとも含む領域に配置される、上記(1)から(8)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバ。
(10)上記(1)から(9)のいずれか1項に記載のベーパーチャンバの製造方法であって、前記少なくとも一方の金属シートの対向面に対し、一方向に線を描くようにレーザー光を照射することで、前記主溝および連通溝を形成する工程を含む、ベーパーチャンバの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作動液の輸送効率を向上させて熱伝達率を高めることを可能にしたベーパーチャンバと、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ベーパーチャンバの構造を示した図であって、
図1(a)がベーパーチャンバの斜視図、
図1(b)が主溝および連通溝が形成されている第2金属シートの斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1(b)に示す第2金属シートの対向面に形成した主溝および連通溝を流れる作動流体の流れを説明するための要部を示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図1(b)に示す第2金属シートの対向面に形成した主溝の溝深さ寸法、溝幅寸法および配設ピッチを説明するための要部を示す図であって、主溝の溝幅方向に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、
図1(b)に示す第2金属シートの対向面に形成した連通溝の溝深さ寸法、溝幅寸法および配設ピッチを説明するための要部を示す図であって、連通溝の溝幅方向に沿った断面図である。
【
図5】
図5は、ベーパーチャンバの全体における作動流体の流路を示した図であって、
図5(a)が斜視図、
図5(b)が
図5(a)に示す内部空間の延在方向を含む仮想平面C
1における断面図である。
【
図6】
図6は、ベーパーチャンバを構成する第1および第2金属シートのそれぞれの対向面に形成した当接部ならびに主溝および連通溝との位置関係がわかるように示した図であって、
図6(a)が斜視図、
図6(b)が
図6(a)に示す内部空間の幅方向を含む仮想平面C
2における断面図である。
【
図7】
図7は、ベーパーチャンバの製造方法のフロー図である。
【
図8】
図8は、ベーパーチャンバの製造方法を説明するための図であって、金属シート材の表面に、レーザー光を照射して主溝および連通溝を形成したときの工程の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明のいくつかの実施形態のベーパーチャンバについて、以下で説明する。
【0013】
図1は、ベーパーチャンバの構造を示した図であって、
図1(a)がベーパーチャンバの斜視図、
図1(b)が主溝および連通溝が形成されている第2金属シートの斜視図である。
図2は、
図1(b)に示す第2金属シートの対向面に形成した主溝および連通溝を流れる作動流体の流れを説明するための要部を示す平面図である。
図1では、便宜上、ベーパーチャンバ1の内部構造がわかるように部分的に透過した状態を示している。また、
図2では、液相の作動流体F(L)の流れる方向を黒塗り矢印で示し、気相の作動流体F(g)の流れる方向を白抜き矢印で示している。
【0014】
<ベーパーチャンバ>
ベーパーチャンバ1は、
図1に記載されるように、第1金属シート11と第2金属シート12を接合して形成される、密閉された内部空間Sに作動流体を有するベーパーチャンバ1であって、第1金属シート11および第2金属シート12が互いに向かい合っている対向面11a、12aのうち、少なくとも一方の金属シートの対向面(
図1では少なくとも対向面12a)に、一方向に向かって連続または断続的に延在する主溝21が所定の間隔で並列に形成され、さらに、主溝21のうち、上述の一方向とは異なる方向に向かって、不規則な配設ピッチおよび不規則な溝幅で、隣り合う主溝21a、21bを連通する連通溝22が形成されている。ここで、溝の「配設ピッチ」は、詳細は後述するが、少なくとも溝の幅方向について隣り合った複数の溝の、溝幅を含んだ間隔である。また、主溝21および連通溝22は、それぞれ、不規則な深さで形成されている。
【0015】
これにより、
図2に記載されるように、液相の作動流体F(L)が主溝21(例えば主溝21a)に沿って速やかに流れるとともに、主溝21(例えば主溝21a)に沿って流れる液相の作動流体F(L)の一部が連通溝22に分岐することで、並列に隣り合う主溝21(例えば主溝21b、21c)に向かって流れ、液相の作動流体F(L)が主溝21の延在方向Xとは異なる方向に沿っても流動するようになる。特に、ベーパーチャンバ1では、連通溝22が不規則な配設ピッチと不規則な溝幅で形成されることで、液相の作動流体F(L)が連通溝22にも入り込むことで、主溝21に沿った液相の作動流体F(L)の速やかな流れを確保しつつ、ドライアウト時以外であっても、連通溝22に沿って液相の作動流体F(L)を流通させることができる。また、連通溝22が不規則な配設ピッチと不規則な溝幅で形成されることで、連通溝22によって液相の作動流体F(L)が流通している部分の面積が増加するため、作動流体Fの蒸発面積を増加させることができる。その結果、主溝21および連通溝22が設けられている対向面のより広い範囲で、液相の作動流体F(L)を効率的に流通させることができるため、ベーパーチャンバ1を介した潜熱の受け渡し効率を向上させることができる。したがって、作動液の輸送効率を向上させて熱伝達率を高めることを可能にしたベーパーチャンバと、その製造方法を提供することができる。
【0016】
本実施形態のベーパーチャンバ1は、
図1(a)に記載されるように、第1金属シート11と第2金属シート12を接合して形成される、密閉された内部空間Sに作動流体を有する。ここで、第1金属シート11と第2金属シート12は、互いに向かい合っている対向面11a、12aをそれぞれ有し、第1金属シート11の対向面11aおよび第2金属シート12の対向面12aが対向するように接合され、第1金属シート11および第2金属シート12によって密閉された内部空間Sが形成される。ベーパーチャンバ1の内部に設けられる内部空間Sには、作動流体が封入されている。
【0017】
内部空間Sに封入されている作動流体は、ベーパーチャンバ1の冷却性能の観点から、純水、エタノール、メタノール、アセトンなどが挙げられる。
【0018】
さらに、ベーパーチャンバ1を構成する第1金属シート11および第2金属シート12は、
図1(b)に示すように、互いに向かい合っている対向面11a、12aのうち、少なくとも一方の金属シートの対向面(
図1(b)では対向面12a)に、主溝21と連通溝22とが形成されている。
【0019】
[主溝の構成について]
主溝21は、第1金属シート11と第2金属シート12の対向面11a、12aのうち、少なくとも一方の金属シートの対向面(
図1(b)では対向面12a)に、一方向に向かって連続または断続的に延在し、かつ所定の間隔で並列に形成される。ここで、主溝21は、
図1に示すように、延在方向Xに沿って直線状に配置されてもよいが、少なくとも部分的に屈曲した状態で配置されてもよい。そのため、「一方向に向かって」は、主溝21の全体が、一方向に向かう液相の作動流体F(L)の流路を構成している状態を指す。また、並列配置される複数の主溝21は、後述する連通溝22の形成を容易にする観点では、平行に配置されていることが好ましいが、部分的に離隔して配置されていてもよい。
【0020】
図3は、
図1(b)に示す第2金属シートの対向面に形成した主溝の溝深さ寸法、溝幅寸法および配設ピッチを説明するための要部を示す図であって、主溝の溝幅方向に沿った断面図である。ここで、主溝21の溝幅方向Yは、主溝21を横断する方向のうち、特に主溝21の延在する方向に対して直角に交わる方向を指す。特に、
図1に示すように、主溝21が延在方向Xに沿って直線状に配置される場合、主溝21の溝幅方向Yは、延在方向Xに対して直角に交わる方向を指す。
【0021】
図3に示すように、主溝21の溝深さ寸法d
1は、主溝21の溝幅寸法w
1よりも大きくなるように構成されることが好ましい。これにより、液相の作動流体F(L)が主溝21に接触する際に作用する毛細管力が強くなることで、液相の作動流体F(L)が主溝21を速やかに流通しやすくなる。そのため、主溝21の同じ位置の両側に連通溝22が配置される場合であっても、液相の作動流体F(L)を、主溝21に沿って効率よく流通させ、かつその一部を連通溝22に分岐させることができる。その結果、主溝21および連通溝22が設けられている対向面のより広い範囲で、液相の作動流体F(L)を効率的に流通させることができる。
【0022】
主溝21の溝深さ寸法d1は、好ましくは10μm以上1000μm以下の範囲であり、より好ましくは50μm以上1000μm以下の範囲であり、さらに好ましくは100μm以上1000μm以下の範囲である。また、主溝21の溝幅寸法w1は、好ましくは10μm以上100μm以下の範囲であり、より好ましくは10μm以上50μm以下の範囲であり、さらに好ましくは10μm以上30μm以下の範囲である。また、主溝21の溝幅寸法w1に対する溝深さ寸法d1の比(d1/w1)は、好ましくは1.0を超えかつ5.0以下の範囲であり、より好ましくは2.0以上3.0以下の範囲である。このような、溝深さ寸法d1が大きく、かつ溝幅寸法w1が小さい形状を有する主溝21によることで、主溝21の毛細管現象が液相の作動流体F(L)に作用しやすくなるため、液相の作動流体F(L)の主溝21への流通を促進することができる。また、主溝21について、小さい溝幅寸法w1と大きい溝深さ寸法d1とを両立させることで、主溝21における毛細管力が大きくなり、それにより主溝21を流通する液相の作動流体F(L)の流量も大きくなる。その結果、ベーパーチャンバ1や、ベーパーチャンバ1を備える電子機器の姿勢にかかわらず、より遠くまで液相の作動流体F(L)を輸送することができるため、ベーパーチャンバ1の熱輸送性能をより安定して高めることができる。
【0023】
ここで、主溝21の溝深さ寸法d
1は、主溝21に隣接する対向面(
図3の対向面12a)のうち最も高い部分から、主溝21の溝底21eのうち最も低い部分までの距離である。また、主溝21の溝幅寸法w
1は、主溝21の対向する内壁面である、内壁面21fと内壁面21f’との間における最短距離である。主溝21の溝深さ寸法d
1と溝幅寸法w
1は、主溝21の溝幅方向Yに沿ってベーパーチャンバ1を切断したときの、切断面の光学顕微鏡像を用いて求めることができる。
【0024】
このような、溝深さ寸法d1が溝幅寸法w1よりも大きくなるような主溝21を形成する手段としては、レーザーを用いた加工が好ましく、その中でもファイバレーザーを用いた加工がより好ましい。レーザーによる加工では、溝深さ寸法d1が溝幅寸法w1よりも大きくなるような主溝21を、短時間で形成することができる。他方で、従来のベーパーチャンバで採用されているエッチング液を用いたエッチング加工では、溝深さ寸法d1が溝幅寸法w1よりも小さくなっていた。
【0025】
主溝21は、隣り合う複数の主溝21の配設ピッチp1が、好ましくは100μm以上250μm以下の範囲であり、より好ましくは150μm以上250μm以下の範囲であり、さらに好ましくは150μm以上200μm以下の範囲である。ここで、主溝21の配設ピッチp1は、隣り合う主溝21の溝幅の中心線間の距離である。主溝21の配設ピッチp1を100μm以上250μm以下の範囲にすることで、主溝21の壁面に所望の機械的強度が得られるとともに、主溝21を形成する際のレーザー加工によって、凹凸のある加工領域が互いに隣接して形成されるため、隣接した部分で連通した加工領域の凹部を形成し、それにより連通溝22を容易に形成することができる。また、単位面積あたりの液相の作動流体F(L)の量が多くなることで、主溝21が形成されている対向面において作動流体が消失するドライアウトが発生しにくくなるため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性を向上させることができる。
【0026】
[連通溝の構成について]
連通溝22は、
図1(b)に示すように、対向面11a、12aのうち、主溝21が形成される対向面(
図1(b)では対向面12a)に形成される。ここで、連通溝22は、主溝の延在方向Xとは異なる方向(上述の一方向とは異なる方向)に向かって、不規則な配設ピッチおよび不規則な溝幅で、隣り合う2本以上の主溝21a、21bを連通するように形成される。液相の作動流体F(L)が流動する経路となる溝は、溝幅を小さくし、かつ溝深さを大きくしたときに、毛細管力が強くなることで、液相の作動流体F(L)の流動量が増加するため、効率的に液相の作動流体F(L)を流通することができる。他方で、溝幅を小さくした場合、溝の開口面積が減少するため、作動流体Fの蒸発面積が減少しやすい。これに関し、ベーパーチャンバ1では、連通溝22が、不規則な配設ピッチと不規則な溝幅で形成されていることで、主溝21の相互間が連通溝22によって連通するため、連通溝22の毛細管力によって、液相の作動流体F(L)の流動量も増加させることができる。それとともに、液相の作動流体F(L)が連通溝22にも入り込むことで、作動流体Fの蒸発面積を増加するため、ベーパーチャンバ1の熱輸送性能を高めることができる。したがって、ベーパーチャンバ1では、このような連通溝22によることで、液相の作動流体F(L)を、主溝21に沿って流通させ、かつその一部を連通溝22に分岐させることができるとともに、作動流体Fの蒸発面積を増加させることができるため、主溝21および連通溝22が設けられている対向面のより広い範囲で、液相の作動流体F(L)を効率的に流通させることができる。さらに、連通溝22が後述する蒸発部3に設けられると、蒸発部3における作動流体の蒸発面積が増えて、作動流体の蒸発量が増加する。その結果、ベーパーチャンバ1のドライアウトを起こり難くして熱輸送特性を向上することができる。
【0027】
連通溝22は、不規則な配設ピッチと不規則な溝幅w
2で形成される。このとき、連通溝22は、
図1(b)に示すように、主溝21が延在する方向(主溝21の延在方向X)に対する角度θが異なっていてもよい。また、連通溝22は、配設ピッチと溝幅寸法w
2のほかに、溝深さ寸法d
2についても、不規則に形成されていてもよい。なお、連通溝22が配設ピッチについて「不規則に形成されている」とは、連通溝22が形成されている面のうち、縦10mm×横10mmの領域内にある全ての連通溝22について、隣り合う連通溝22との間の配設ピッチを両端の平均で求めたときの、配設ピッチの標準偏差が、配設ピッチの平均値に対して10%以上であることをいう。また、連通溝22が溝幅寸法w
2または溝深さ寸法d
2について「不規則に形成されている」とは、連通溝22が形成されている面のうち、縦10mm×横10mmの領域内にある全ての連通溝22について溝幅寸法w
2または溝深さ寸法d
2を求めたときに、求めた寸法の標準偏差が、求めた寸法の平均値に対して10%以上であることをいう。
【0028】
図4は、
図1(b)に示す第2金属シートの対向面に形成した連通溝の溝深さ寸法、溝幅寸法および配設ピッチを説明するための要部を示す図であって、連通溝の溝幅方向に沿った断面図である。なお、
図4の断面図は、主溝の延在方向にも沿った断面を記載しているが、連通溝の溝幅方向と主溝の延在方向は、異なる方向であってもよい。
【0029】
図4に示されるように、連通溝22の溝深さ寸法d
2は、主溝21に沿った液相の作動流体F(L)の流動を促進する観点では、主溝21の溝深さ寸法d
2と同じであるか、主溝21の溝深さ寸法d
2より小さいことが好ましい。ここで、連通溝22の溝深さ寸法d
2は、好ましくは10μm以上1000μm以下の範囲であり、より好ましくは50μm以上500μm以下の範囲である。
【0030】
また、連通溝22の溝幅寸法w2は、好ましくは5μm以上100μm以下の範囲であり、より好ましくは10μm以上50μm以下の範囲である。特に、連通溝22が液相の作動流体F(L)に作用する毛細管力を、主溝21が液相の作動流体F(L)に作用する毛細管力よりも弱くして、主溝21に沿った液相の作動流体F(L)の流動を促進させる観点では、連通溝22の溝幅寸法w2は、主溝21の溝幅寸法w1と同じであるか、主溝21の溝幅寸法w1より大きいことが好ましい。
【0031】
ベーパーチャンバ1に形成される連通溝22のうち、溝幅寸法w2の大きい溝(または溝部分)は、蒸発面積の増加による熱輸送性能の向上に寄与することができる。また、ベーパーチャンバ1に形成される連通溝22のうち、溝幅寸法w2の小さい溝(または溝部分)は、毛細管力によって、液相の作動流体F(L)の流動量の増加に寄与することができる。
【0032】
ここで、連通溝22の溝深さ寸法d
2は、連通溝22に隣接する対向面(
図4の対向面12a)のうち最も高い部分から、連通溝22の溝底22cのうち最も低い部分までの距離である。また、連通溝22の溝幅寸法w
2は、連通溝22の対向する内壁面である、内壁面22dと内壁面22d’との間における最短距離である。連通溝22の溝深さ寸法d
2と溝幅寸法w
2は、連通溝22を横断する方向に沿ってベーパーチャンバ1を切断したときの切断面をカメラなどで撮像し、撮像により得られた画像を解析して測定する。
【0033】
このような連通溝22を形成する手段としては、レーザーを用いた加工が好ましく、その中でもファイバレーザーを用いた加工がより好ましい。レーザーによる加工では、隣り合う主溝21を形成する際に、レーザー加工によって形成される凹凸のある加工領域を隣接させることで、主溝21と連通溝22を同時に形成することができる。
【0034】
[微小凹凸面の構成について]
本実施形態のベーパーチャンバ1では、
図3に示すように、主溝21の内面の部分に、主溝21の溝深さ寸法d
1よりも小さい寸法の凹凸をもつ微小凹凸面14a、14b、14b’が形成されていることが好ましい。より具体的に、ベーパーチャンバ1は、主溝21の溝底21e、内壁面21fおよび内壁面21f’の部分のうち少なくともいずれかに、主溝21の溝深さ寸法d
1よりも小さい高さ寸法h
1、h
2、h
2’の凹凸をもつ微小凹凸面14a、14b、14b’が形成されていることが好ましい。これにより、主溝21および連通溝22の毛細管現象に加えて、主溝21の内面にある微小凹凸面14a、14b、14b’と、液相の作動流体F(L)との接触によっても毛細管現象が起こり、主溝21の内面のより広い範囲に液相の作動流体F(L)が広がることで、より多くの液相の作動流体F(L)を還流することができる。また、主溝21の内面に液相の作動流体F(L)が保持され易くなることで、主溝21の内面への液相の作動流体F(L)の流通を促進することができる。したがって、微小凹凸面14a、14b、14b’が形成されることで、ベーパーチャンバ1のドライアウトをより起こり難くすることができるとともに、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性をさらに向上することができる。
【0035】
また、本実施形態のベーパーチャンバ1では、
図3および
図4に示すように、主溝21および連通溝22で区画される、少なくとも一方の金属シートの対向面(
図3および
図4の対向面12a)の部分に、主溝21の溝深さ寸法d
1よりも小さい高さ寸法h
3の凹凸をもつ微小凹凸面14cが形成されていることが好ましい。これにより、対向面にある微小凹凸面14cと、液相の作動流体F(L)との接触によって毛細管力が作用し、液相の作動流体F(L)が主溝21や連通溝22に誘導されることで、より多くの液相の作動流体F(L)を還流することができるため、ベーパーチャンバ1のドライアウトをより起こり難くすることができる。
【0036】
ここで、微小凹凸面14a、14b、14b’、14cの高さ寸法h1、h2、h2’、h3は、それぞれ、好ましくは0.1μm以上10μm以下の範囲であり、より好ましくは1μm以上5μm以下の範囲である。
【0037】
このような微小凹凸面14a、14b、14b’、14cは、レーザーを用いた加工によって形成することができる。より具体的には、主溝21の内面にレーザー加工によって形成される凹凸のある加工領域を、そのまま主溝21の微小凹凸面14a、14b、14b’として用いることができる。また、主溝21の開口の近傍に形成される凹凸のある加工領域を、対向面の微小凹凸面14cの一部または全部として用いることができる。
【0038】
[蒸発部、凝縮部の構成について]
図5は、ベーパーチャンバの全体における作動流体の流路を示した図であって、
図5(a)が斜視図、
図5(b)が
図5(a)に示す内部空間の延在方向X’を含む仮想平面C
1における断面図である。
図5では、液相の作動流体F(L)の流れる方向を黒塗り矢印で示し、気相の作動流体F(g)の流れる方向を白抜き矢印で示している。
【0039】
本実施形態のベーパーチャンバ1は、
図5(a)に示すように、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から離隔した位置に配設され、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させる凝縮部4とを備える。
【0040】
このうち、蒸発部3は、
図5ではベーパーチャンバ1の一端側部分に配設される。この蒸発部3は、熱的に接続された発熱体5から受熱(吸熱)する機能を有する。具体的に、蒸発部3は、
図5(b)に記載されるように、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させることで、蒸発潜熱として発熱体5から受けた熱を吸収する。ここで、発熱体5は、例えば半導体素子など、動作中に熱を発生する電子部品のような部材である。
【0041】
また、凝縮部4は、蒸発部から離隔した位置に配設されており、
図5ではベーパーチャンバ1の他端側部分に配設される。この凝縮部4は、蒸発部3で相変化して輸送されてきた気相の作動流体F(g)を放熱する機能を有している。具体的には、凝縮部4は、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させ、それにより凝縮潜熱として輸送された作動流体F(g)の熱をベーパーチャンバ1の外部に放出する。
【0042】
本実施形態のベーパーチャンバ1では、凝縮部4から蒸発部3への液相の作動流体F(L)の輸送は、主溝21および連通溝22が設けられた対向面11a、12aの近傍で行われる。他方で、蒸発部3から凝縮部4への気相の作動流体F(g)の輸送は、内部空間Sのうち主溝21および連通溝22が設けられていない部分で主に行われる。
【0043】
このとき、主溝21は、少なくとも一部が、凝縮部4から蒸発部3へ向かう液相の作動流体F(L)が還流する流路を構成することが好ましい。ここで、主溝21は、少なくとも一部が、内部空間Sの下側に設けられることが好ましい。他方で、内部空間Sは、延在方向X’に沿って延在し、蒸発部3から凝縮部4へ向かう気相の作動流体F(g)の流路を構成することが好ましい。このようにベーパーチャンバ1を構成することで、液相の作動流体F(L)は、延在方向Xに向かって延在する主溝21と、主溝21の延在方向Xと異なる方向に向かって形成される連通溝22を介して、凝縮部4から蒸発部3に効率的に流通する。また、気相の作動流体F(g)は、液相の作動流体F(L)が流通する主溝21の上側にある内部空間Sを介して、蒸発部3から凝縮部4に流通する。その結果、ベーパーチャンバ1のドライアウトを起こり難くして、熱輸送特性を向上することができる。
【0044】
[第1金属シート、第2金属シートの構成について]
図6は、ベーパーチャンバにおける、第1金属シート11および第2金属シート12のそれぞれの対向面に形成した当接部ならびに主溝および連通溝との位置関係がわかるように示した図であって、
図6(a)が斜視図、
図6(b)が
図6(a)に示す内部空間の幅方向Y’を含む仮想平面C
2における断面図である。
【0045】
本実施形態のベーパーチャンバ1を構成する第1金属シート11および第2金属シート12は、互いに向かい合っている対向面11a、12aによって、密閉された内部空間Sを構成する。そのため、第1金属シート11および第2金属シート12のうち少なくとも一方の形状は、内部空間Sを区画形成する凹部を備えた形状である。
【0046】
ここで、第1金属シート11および第2金属シート12のうち一方の形状は、平板形状であってもよい。例えば、
図5(a)に示すように、第1金属シート11の対向面11aは、内部空間Sを区画形成する凹部11bを有するとともに、第2金属シート12の対向面12aは、少なくとも蒸発部3において平板形状を有することが好ましい。このとき、主溝21は、第2金属シート12の対向面12aに並列配置されることが好ましい。これにより、発熱体5から平板形状の蒸発部3に効率よく熱が伝達されるとともに、平板形状の第2金属シート12の上を、液相の作動流体F(L)が、連通溝22を介して主溝21の延在方向Xと異なる方向にも流れることで、蒸発部3のより広い範囲で、液相の作動流体F(L)が発熱体5からの熱を受け止めることができる。その結果、内部空間S内での熱輸送量が向上するため、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性を高めることができる。
【0047】
また、
図6(a)に示すように、第1金属シート11および第2金属シート12は、対向面11a、12aによって、複数の空間を内部空間Sとして構成してもよい。このとき、内部空間Sは、第1金属シート11および第2金属シート12のそれぞれの対向面11a、12aに設けられた当接部15同士の接触によって複数の蒸気流路R1~R3に分割され、主溝21および連通溝22は、
図6(b)に示すように、少なくとも一方の金属シートの対向面(
図6(b)の対向面12a)の、当接部15を少なくとも含む領域に配置されることが好ましい。特に、主溝21および連通溝22は、少なくとも一方の金属シートの対向面(
図6(b)の対向面12a)のうち、当接部15と複数の蒸気流路R1~R3に面する部分の両方を含む領域に配置されることがより好ましい。主溝21および連通溝22を、当接部15を少なくとも含む領域に配置することで、複数の蒸気流路R1~R3によって気相の作動流体F(g)の流通が確保されるとともに、当接部15の存在によって液相の作動流体F(L)と気相の作動流体F(g)との接触面積が低減される。その結果、凝縮部4以外の部分における、液相の作動流体F(L)との接触による気相の作動流体F(g)の凝縮や、蒸発部3以外の部分における、気相の作動流体F(g)との接触による液相の作動流体F(L)の蒸発を起こり難くすることができる。
【0048】
第1金属シート11および第2金属シート12を構成する材料は、高い熱伝導率やレーザーによる加工容易性などの観点から、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼が好ましい。その中でも、軽量化を図る目的のためには、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましく、機械的強度を高める目的のためには、ステンレス鋼がより好ましい。また、使用環境に応じて、第1金属シート11および第2金属シート12には、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などを使用してもよい。
【0049】
[ベーパーチャンバの動作原理について]
次に、
図5(b)を用いて、ベーパーチャンバ1の動作原理について説明する。ここで、ベーパーチャンバ1は、動作前に液相の作動流体F(L)が内部空間Sに封入され、蒸発部3に供給された状態になっている。
【0050】
発熱体5が発熱して蒸発部3の温度が上昇すると、発熱体5の熱が第1金属シート11および第2金属シート12に伝達され、ベーパーチャンバ1の発熱体5の近傍にある蒸発部3に熱が伝達される。蒸発部3では、液相の作動流体F(L)が加熱されて温度が上昇して沸騰し、内部空間Sに封入され、
図5(b)において黒塗り矢印で示している液相の作動流体F(L)から、白抜き矢印で示している気相の作動流体F(g)に相変化する。それとともに、液相の作動流体F(L)から気相の作動流体F(g)への相変化によって、発熱体5からの熱が蒸発潜熱として気相の作動流体F(g)に吸収される。
【0051】
蒸発部3で熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、容器2の内部空間S内の上側空間を通って凝縮部4へ流れることで、発熱体5から受けた熱が、蒸発部3から凝縮部4へと輸送される。
【0052】
その後、凝縮部4へ輸送された気相の作動流体F(g)は、凝縮部4にて、熱交換手段(図示せず)によって、液相へ相変化させられる。すなわち、
図5(b)において白抜き矢印で示している気相の作動流体F(g)から、黒塗り矢印で示している液相の作動流体F(L)に相変化する。このとき、輸送されてきた発熱体5の熱は、凝縮潜熱としてベーパーチャンバ1の外部に放出される。
【0053】
凝縮部4で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体F(L)は、凝縮部4から主溝21や連通溝22を経て蒸発部3に流れることで、蒸発部3と凝縮部4の間の作動流体Fの循環流れを形成し易くすることができる。
【0054】
特に、ベーパーチャンバ1では、液相の作動流体F(L)に作用する毛細管力によって、液相の作動流体F(L)が主溝21および連通溝22を流動するため、例えば
図1に示すベーパーチャンバ1が紙面上で90度傾く状態や上下反対になる状態など、ベーパーチャンバ1がどのような姿勢であっても、凝縮部4で気相から液相になった作動流体を、蒸発部3に容易に戻すことができる。したがって、ベーパーチャンバ1の配置状態に依存せずに、液相の作動流体F(L)および気相の作動流体F(g)の循環流れを良好に得ることができる。
【0055】
<ベーパーチャンバの製造方法>
次に、上記のベーパーチャンバ1の製造方法について説明する。
図7は、ベーパーチャンバの製造方法のフロー図である。この製造方法は、少なくとも一方の金属シートの対向面、すなわち、第1金属シート11の対向面11aおよび第2金属シート12の対向面12aのうち少なくとも一方に対し、一方向に線を描くようにレーザー光Lを照射することで、主溝21および連通溝22を形成する工程を含む。より具体的に、この製造方法は、第1金属シート11および第2金属シート12のうち少なくとも一方をプレス成形するプレス加工工程ST1と、第1金属シート11の対向面11aおよび第2金属シート12の対向面12aのうち少なくとも一方に、一方向に線を描くようにレーザー光Lを照射することで、主溝21および連通溝22を同時に形成するレーザー加工工程ST2と、第1金属シート11および第2金属シート12を接合して内部空間Sを形成する接合工程ST3と、形成された内部空間Sに液相の作動流体F(L)を供給する流体供給工程ST4と、作動流体Fを加熱して液相から気相に相変化させる加熱工程ST5と、加熱された状態で内部空間Sを密閉する密閉工程ST6と、を備えることができる。
【0056】
まず、第1金属シート11および第2金属シート12となる金属シート材10を準備する。ここで、第1金属シート11および第2金属シート12を接合させたときに内部空間Sが形成されるようにするため、第1金属シート11および第2金属シート12の少なくとも一方をプレス成形するプレス加工工程ST1を行ってもよい。例えば、第1金属シート11に対してプレス加工工程ST1を行うことで、
図5に記載されるような凹部11bを形成することができる。
【0057】
図8は、ベーパーチャンバの製造方法を説明するための図であって、金属シート材の表面に、レーザー光を照射して主溝および連通溝を形成したときの工程の一例を示す。次いで、
図8に示されるように、金属シート材10のうち、第1金属シート11の対向面11aおよび第2金属シート12の対向面12aのうち、少なくとも一方の金属シートの対向面となる面に対し、レーザー光源6から、一方向に線を描くようにレーザー光Lを照射することで、主溝21および連通溝22を同時に形成するレーザー加工工程ST2を行う。このレーザー加工工程ST2では、加工制御性および短時間での加工性がさらに優れている観点から、ファイバレーザーを用いて、主溝21および連通溝22を形成することが好ましい。
【0058】
レーザー加工工程ST2で、一方向に線を描くように主溝21を形成する際、形成される主溝21の近傍には、凹凸のある加工領域が形成される。そこで、隣り合う主溝21を形成する際に、凹凸のある加工領域が互いに隣接するようにレーザー加工を行うことで、加工領域の凹部が連通することで、連通溝22を主溝21と同時に形成することができる。その結果、主溝21の延在方向Xと異なる方向に延在する連通溝22、より具体的には、隣り合う2本以上の主溝21を横断する方向に延在する連通溝22を、短時間で形成することができる。
【0059】
レーザー加工工程ST2を行った後、第1金属シート11の対向面11aおよび第2金属シート12の対向面12aを互いに向かい合うように配置して、第1金属シート11および第2金属シート12を、液相の作動流体F(L)の注入口となる部分を除いて全周にわたって接合し、接合により形成された接合部13で囲まれた内部空間Sを形成する接合工程ST3を行う。
【0060】
接合工程ST3では、第1金属シート11および第2金属シート12をレーザーで溶接することが好ましい。第1金属シート11および第2金属シート12をレーザーで溶接することによって、主溝21および連通溝22を形成するレーザー加工工程に引き続いて第1金属シート11および第2金属シート12を局所的に速やかに加熱して溶接することができる。それにより、従来の拡散結合と比べて、加熱、熱保持および冷却などに掛かる時間が短時間になるため、主溝21および連通溝22を有するベーパーチャンバ1を、より効率的に製造することができる。また、従来用いられていた拡散接合とは異なり、レーザーが照射された部分の近傍だけが加熱されるため、短時間に主溝21および連通溝22を形成できることに加えて、ベーパーチャンバ1の意図しない焼鈍による機械的強度の低下を抑えることができる。
【0061】
次いで、流体供給工程ST4では、液相の作動流体F(L)の注入口から、内部空間Sに液相の作動流体F(L)を供給する。ここで、液相の作動流体F(L)を内部空間Sに供給する手段は、スポイトや注射針など、狭い空隙の中に液体を通すことが可能な公知の手段を用いることができる。
【0062】
流体供給工程ST4で、容器2の内部空間Sに液相の作動流体F(L)を供給した後、液相の作動流体F(L)を加熱し、液相の作動流体F(L)から気相の作動流体F(g)に相変化させる加熱工程ST5を行う。このとき、相変化によって発生する気相の作動流体F(g)によって、内部空間Sに含まれていた空気などの気体が押し出されて脱気される。この状態で、第1金属シート11および第2金属シート12のうち、液相の作動流体F(L)の注入口となっていた部分を接合して内部空間Sを密閉する密閉工程ST6を行うことで、ベーパーチャンバ1を得ることができる。
【0063】
上記のベーパーチャンバ1は、様々な姿勢であっても良好な熱輸送特性を求められている、携帯電話などの電子機器に好適に用いられる。ベーパーチャンバ1を備える電子機器は、様々な使用状態であっても、ベーパーチャンバ1の高い熱輸送特性を有する。
【0064】
以上説明した実施形態によれば、凝縮部4で液相になった作動流体F(L)は、主溝21および連通溝22が設けられている対向面11a,12aを効率的に流通させることができるため、ベーパーチャンバ1を介した潜熱の受け渡し効率を向上させることができる。そのため、ベーパーチャンバ1は、作動液の輸送効率を向上させ、優れた熱輸送特性をもたらすことができる。
【0065】
なお、上記では、第2金属シート12に発熱体5を装着する例について示したが、発熱体5は第1金属シート11に装着してもよい。
【0066】
また、上記では、第2金属シート12の対向面12aに主溝21および連通溝22を設ける例について示したが、第2金属シート12の対向面12aに加えて、第1金属シート11の対向面11aにも、主溝21および連通溝22を設けてもよい。特に、第1金属シート11および第2金属シート12の両方に主溝21および連通溝22を設けることで、ベーパーチャンバ1の熱輸送特性をさらに向上させることができる。
【0067】
また、上記では、第2金属シート12が平面形状であり、かつ、第1金属シート11が内部空間Sを区画形成する凹部11bを設ける例について示したが、第1金属シート11および第2金属シート12の両方に、内部空間Sを区画形成する凹部を設けてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ベーパーチャンバ
10 金属シート材
11 第1金属シート
12 第2金属シート
11a 第1金属シートの、第2金属シートに向かい合う面(対向面)
12a 第2金属シートの、第1金属シートに向かい合う面(対向面)
13 接合部
14、14a、14b、14b’、14c 微小凹凸面
15 当接部
21、21a~21d 主溝
21e 主溝の溝底
21f、21f’ 主溝の内壁面
22、22a、22b 連通溝
22c 連通溝の溝底
22d、22d’ 連通溝の内壁面
3 蒸発部
4 凝縮部
5 発熱体
6 レーザー光源
F(L) 液相の作動流体
F(g) 気相の作動流体
R1、R2、R3 蒸気流路
S 内部空間
h1 微小凹凸面14aの凹凸の高さ寸法
h2 微小凹凸面14bの凹凸の高さ寸法
h2’ 微小凹凸面14b’の凹凸の高さ寸法
h3 微小凹凸面14cの凹凸の高さ寸法
d1 主溝の溝深さ寸法
d2 連通溝の溝深さ寸法
w1 主溝の溝幅寸法
w2 連通溝の溝幅寸法
p1 主溝の配設ピッチ
p2 連通溝の配設ピッチ
X 主溝の延在方向
Y 主溝の溝幅方向
Y’ 内部空間の幅方向
θ 主溝の延在方向に対する角度
L レーザー光
ST1 プレス加工工程
ST2 レーザー加工工程
ST3 接合工程
ST4 流体供給工程
ST5 加熱工程
ST6 密閉工程