IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許7593857難燃性ポリオレフィン樹脂組成物及びこれを用いた配線材
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】難燃性ポリオレフィン樹脂組成物及びこれを用いた配線材
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/06 20060101AFI20241126BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20241126BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20241126BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20241126BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241126BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20241126BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20241126BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241126BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20241126BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20241126BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
C08L23/06
C08K3/016
C08K5/00
C08L23/08
C08L23/10
C08L23/16
C08L25/08
C08L101/00
H01B3/44 F
H01B7/02 Z
H01B7/295
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021055919
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152951
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】山崎 崇範
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】桜井 貴裕
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/190832(WO,A1)
【文献】特開平08-311259(JP,A)
【文献】特開2020-015812(JP,A)
【文献】特開2010-265350(JP,A)
【文献】特開2017-025203(JP,A)
【文献】特開平06-215644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/06
C08K 3/016
C08K 5/00
C08L 23/08
C08L 23/10
C08L 23/16
C08L 25/08
C08L 101/00
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 7/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、ハロゲン系難燃剤と、該ハロゲン系難燃剤の難燃助剤とを含有する難燃性ポリオレフィン樹脂組成物であって
前記ハロゲン系難燃剤及び前記難燃助剤を、前記樹脂100質量部に対して合計で15~60質量部の割合で含有し、
前記樹脂が下記組成[A]及び[B]を満たす、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。

[A]高密度ポリエチレンとポリプロピレンとの両者を含有し、該両者の前記樹脂中合計含有量が50~80質量%であり、かつ、前記高密度ポリエチレンの前記樹脂中の含有量が10~70質量%であり、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの前記樹脂中の合計含有量が0~30質量%である
[B]エチレン酢酸ビニル共重合体、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体、これらの酸変性共重合体、エチレンゴム、及び、スチレン系エラストマーの前記樹脂中の合計含有量が0~10質量%であり、かつ密度が0.90g/cm未満の重合体を必須としない
【請求項2】
前記樹脂100質量部に対して、融点が200℃を超える成分を合計で120質量部以下の割合で含有する、請求項1に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項3】
前記組成[A]において、前記高密度ポリエチレンと、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンとの、前記樹脂中の合計含有量が30質量%以上である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項4】
前記組成[B]の合計含有量が5質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項5】
架橋物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項6】
導体の外周面上に被覆層を有する配線材であって、
前記被覆層が請求項1~5いずれか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で形成されている、配線材。
【請求項7】
車載用絶縁電線である、請求項6に記載の配線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物及びこれを用いた配線材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器や車両等には、通常、電力を輸送し、若しくは情報を伝達する配線材(絶縁電線若しくはケーブル、(電気)コード、光ファイバ心線、光ファイバコード、光ケーブル等)が配設されている。このような配線材は、用途に応じて、十分な難燃性、低温でも柔軟で絶縁破壊を起こしにくい優れた低温柔軟性等の要求特性を満たしながらも、他の部材若しくは他の配線材との接触や摩擦を繰り返しても被覆層の損傷(亀裂、破れ等)による導体の露出を防止する耐摩耗性が求められる。
配線材の耐摩耗性は、配線材に保護部材を設ける(装着する)ことにより改善できる。しかし、この場合、保護部材を設けるスペースが必要となって配設スペースが徐々に狭小化している近年の電気・電子機器等には必ずしも適用できない。そのため、上記要求特性を満たしながらも、配線材の被覆層自体(被覆層を形成する材料)に十分な耐摩耗性を発現させることが望まれている。例えば、耐摩耗性を示す被覆層を備えた配線材として、特許文献1には、「高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン系共重合体、及び不飽和カルボン酸無水物にて変性されているエチレン共重合体からなる樹脂と、臭素系難燃剤と、水酸化マグネシウムとを含み、かつ前記樹脂100質量部に対し臭素系難燃剤及び水酸化マグネシウムの配合合計量が30~55質量部である樹脂組成物により導体の周囲を被覆する被覆層を形成し、該被覆層を架橋してなる耐熱架橋電線」であって、樹脂組成物の硬度及び比重が特定の範囲にある耐熱架橋電線が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-132530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電気・電子機器や車両等の複雑高度化が進むにつれて、配設される配線材の本数が多くなっているうえ、配設スペースの狭小化も進行している。しかも、配線材自体の更なる細径化(軽量化)も求められている。そのため、配設された配線材は、他の部材等との接触や摩擦が頻繁に起こるうえ、特に細径化された配線材は被覆層の薄肉化に伴って耐摩耗性が低下することから、薄肉化しても十分な耐摩耗性を発現させる(材料自体が高い耐摩耗性を示す)被覆層を形成する材料の開発が求められている。しかし、特許文献1では、このような従来の耐摩耗性を超える高い耐摩耗性の実現についても、更に上記要求特性(難燃性及び低温柔軟性)との両立についても、検討されていない。
【0005】
ところで、耐摩耗性を向上させるために高密度ポリエチレン等の樹脂を被覆層に用いると、被覆層を形成した後に収縮して導体が露出する等の問題が生じる。そのため、このような被覆層を備えた電線は、寸法安定性に劣り、配設後に導体が露出しやすくなって、電線及び配設状態の信頼性を損なう。この点は、一旦切り出した(切断した)電線を配設前に再度所定長さに切断することで解消できなくもない。しかし、配設作業性の悪化、更には製造コストの上昇を招く。
【0006】
本発明は、過度な収縮を抑えながらも、優れた難燃性及び低温柔軟性を維持しつつ高い耐摩耗性を発現する成形体(被覆層)を形成可能とする難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、難燃性、低温柔軟性及び寸法安定性に優れながらも高い耐摩耗性を示す配線材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、配線材の被覆層を形成する材料について鋭意検討したところ、材料のベースとなる樹脂を、共重合体等の種類及び含有量を規定する特定の組成[A]及び[B]を満たす樹脂で構成したうえで、この樹脂に対してハロゲン系難燃剤とその難燃助剤とを特定の割合で併用することにより、過度な収縮を抑えながらも、優れた難燃性及び低温柔軟性を維持しつつ高い耐摩耗性を発現する成形体(被覆層)を形成できることを見出した。そして、上記樹脂とハロゲン系難燃剤及びその難燃助剤とを含有する組成物が、難燃性、低温柔軟性及び寸法安定性に優れながらも高い耐摩耗性を示す成形体(被覆層)を形成でき、配線材の被覆層(成形体)を形成する材料として好適であることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>樹脂と、ハロゲン系難燃剤と、該ハロゲン系難燃剤の難燃助剤とを含有する難燃性ポリオレフィン樹脂組成物であって
前記ハロゲン系難燃剤及び前記難燃助剤を、前記樹脂100質量部に対して合計で15~60質量部の割合で含有し、
前記樹脂が下記組成[A]及び[B]を満たす、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。

[A]高密度ポリエチレンとポリプロピレンとを前記樹脂中に合計で50~80質量%の割合で含有し、かつ、前記高密度ポリエチレンの前記樹脂中の含有量が10~70質量%であり、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの樹脂中の合計含有量が30質量%以下である
[B]エチレン酢酸ビニル共重合体、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体、これらの酸変性共重合体、エチレンゴム、及び、スチレン系エラストマーの前記樹脂中の合計含有量が10質量%以下であり、かつ密度が0.90g/cm未満の重合体を必須としない
【0009】
<2>前記樹脂100質量部に対して、融点が200℃を超える成分を合計で120質量部以下の割合で含有する、<1>に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
<3>前記組成[A]において、前記高密度ポリエチレンと、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンとの、樹脂中の合計含有量が30質量%以上である、<1>又は<2>に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
<4>前記組成[B]の合計含有量が5質量%以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
<5>架橋物である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物。
<6>導体の外周面上に被覆層を有する配線材であって、
前記被覆層が上記<1>~<5>のいずれか1項に記載の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で形成されている、配線材。
<7>車載用絶縁電線である、<6>に記載の配線材。
【0010】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、過度な収縮を抑えながらも、優れた難燃性及び低温柔軟性を維持しつつ高い耐摩耗性を発現する成形体(被覆層)を形成できる。また、本発明の配線材は、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として備え、難燃性、低温柔軟性及び寸法安定性に優れながらも高い耐摩耗性を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[難燃性ポリオレフィン樹脂組成物]
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、樹脂と、ハロゲン系難燃剤と、このハロゲン系難燃剤の難燃助剤とを含有している。そのうえで、ハロゲン系難燃剤及び難燃助剤を樹脂100質量部に対して合計で15~60質量部の割合で含有し、かつ、樹脂が下記組成[A]及び[B]を満たしている。このような特定の組成[A]及び[B]を満たす樹脂と、特定割合のハロゲン系難燃剤及び難燃助剤とを組み合わせることにより、過度な収縮を抑えながらも、優れた難燃性及び低温柔軟性を維持しつつ、従来の成形体よりも高い耐摩耗性を発現する成形体、特に好ましくは配線材の被覆層を形成できる。そのため、例えば、被覆層を形成する材料として本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を用いることにより、難燃性、低温柔軟性及び寸法安定性に優れながらも高い耐摩耗性を示す配線材を実現(製造)できる。

組成[A]:高密度ポリエチレンとポリプロピレンとを樹脂中に合計で50~80質量%
の割合で含有し、かつ高密度ポリエチレンの樹脂中の含有量が10~70質
量%であり、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの樹脂中の合
計含有量が30質量%以下
組成[B]:エチレン酢酸ビニル共重合体、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体
、これらの酸変性共重合体、エチレンゴム、及び、スチレン系エラストマー
の樹脂中の合計含有量が10質量%以下であり、かつ密度が0.90g/c
未満の共重合体を必須としない

このように、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、配線材の被覆層を形成する材料として好適であり、例えば自動車用絶縁電線、特に薄肉電線の薄肉化被覆層の形成材料として好適である。
【0013】
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、非架橋の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物(難燃性非架橋ポリオレフィン樹脂組成物ともいう。)であっても、架橋された難燃性ポリオレフィン樹脂組成物(難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物ともいう。)であってもよく、架橋の要否は、用途、要求特性に応じて適宜に選択される。配線材の被覆層を形成する材料として用いる場合、難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物であることが好ましい。
なお、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物のうち架橋を予定している組成物を、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物といい、架橋を予定されていない上記難燃性非架橋ポリオレフィン樹脂組成物と区別する。
本発明において、用語「難燃性ポリオレフィン樹脂組成物」は、特に断らない限り、難燃性非架橋ポリオレフィン樹脂組成物、難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物及び架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を含む総称として用いる。
【0014】
本発明の難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物(架橋物)は、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を架橋反応処理して調製される。難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、少なくとも樹脂(を構成する(共)重合体等)が直接又は架橋剤等を介して架橋した架橋構造を有しており、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性を高い水準でバランスよく発揮する。架橋構造は、架橋反応(架橋法)の種類によって異なり、明確かつ一概に規定できるものではない。
架橋反応(架橋法)は、特に制限されず、公知の樹脂架橋法、例えばポリオレフィン等の架橋反応を適用できる。例えば、電子線架橋法、有機過酸化物架橋法、シラン架橋法が挙げられ、特殊な設備を要せずに高い生産性で架橋反応処理可能となる点で、シラン架橋法が好ましい。
本発明において、有機過酸化物架橋法とは、化学架橋法の1つであり、架橋触媒として有機過酸化物を含有する架橋性の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して有機過酸化物から生じるラジカルによって樹脂同士を直接架橋反応させる方法をいう。また、有機過酸化物架橋法とは別の化学架橋法であるシラン架橋法とは、架橋剤としてのシランカップリング剤がグラフト化反応したシラングラフト樹脂、好ましくはシラノール縮合触媒とを含有する架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、水分と接触させることにより、シランカップリング剤をシラノール縮合反応させてシランカップリング剤を介して樹脂を架橋させる方法をいう。
【0015】
以下に、本発明に用いる各成分及び含有量について説明する。
<樹脂>
樹脂は、上記組成[A]及び[B]に規定する各重合体(樹脂、エラストマー及びゴムを含む。)、更にはそれ以外の重合体を含む。
本発明において、重合体の密度は、日本産業規格(JIS) K 7112(1999)に規定の「A法(水中置換法)」に準拠して測定された値とする。
本発明において、重合体は、単独重合体及び共重合体を包含し、通常、その樹脂を意味するが、そのエラストマー及びゴムをも包含する。
【0016】
(高密度ポリエチレン:HDPE)
高密度ポリエチレンは、密度が0.940g/cm以上のポリエチレンであり、結晶性の硬質ポリエチレンともいう。このHDPEは、エチレンの単独重合体(ホモポリエチレン)、エチレンとエチレン以外のα-オレフィン等との共重合体を包含する。α-オレフィンとしては、特に限定されないが、炭素数3~12のα-オレフィンが挙げられる。高密度ポリエチレンの密度及び分子量は、特に制限されず、適宜に設定される。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有する高密度ポリエチレンは1種でも2種以上でもよい。
【0017】
(ポリプロピレン:PP)
ポリプロピレンは、主成分としてプロピレン構成成分を含む重合体(組成物)を含むものであればよく、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン:h-PP)、ランダムプロピレン(エチレン-プロピレンランダム共重合体ともいう。r-PP)、ブロックプロピレン(エチレン-プロピレンブロック共重合体ともいう。b-PP)等を包含する。エチレン-プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が1~10質量%程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。ここで、エチレン成分含有量はASTM D3900に記載の方法に準拠して測定される値である。また、エチレン-プロピレンブロック共重合体は、エチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)成分の含有量が5~20質量%程度のものをいい、プロピレン成分の中にエチレンやEPR成分が独立して存在する海島構造であるものをいう。本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物がポリプロピレンを含有する場合、耐摩耗性の点で、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンであることが好ましい。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有するポリプロピレンは1種でも2種以上でもよい。
【0018】
(エチレン酢酸ビニル共重合体:EVA)
エチレン酢酸ビニル共重合体は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であればよく、エチレン成分及び酢酸ビニル成分が交互に重合してなる交互共重合体であってもよく、また、エチレン成分の重合ブロック及び酢酸ビニル成分の重合ブロックが結合してなるブロック共重合体でもよく、更にエチレン成分及び酢酸ビニル成分がランダムに重合しているランダム共重合体であってもよい。本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物がエチレン酢酸ビニル共重合体を含有すると、組成物等の難燃性、更には低温柔軟性が向上する。エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量(VA量ともいう。)は、特に制限されず、難燃性等を考慮して適宜に決定される。また、エチレン酢酸ビニル共重合体の密度及び分子量も、特に制限されず、適宜に設定される。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有するエチレン酢酸ビニル共重合体は1種でも2種以上でもよい。
【0019】
(酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体)
酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体を構成する酸共重合成分としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は炭素数1~12のものが好ましい。酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体としては、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。より具体的には特許文献1の段落[0017]に記載の各共重合体が挙げられる。酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体については、特許文献1に記載された内容を適宜参照することができ、その内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。なお、本発明においては、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体は上記エチレン-酢酸ビニル共重合体を包含しない。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有する、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体は、1種でも2種以上でもよい。
【0020】
(酸変性共重合体)
酸変性共重合体は、上記エチレン酢酸ビニル共重合体の酸変性共重合体、及び上記酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体の酸変性共重合体を包含する。具体的には、上記エチレン酢酸ビニル共重合体又は上記酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体を、不飽和カルボン酸化合物(単に不飽和カルボン酸ともいう。)又はその無水物により変性した重合体が挙げられる。このような酸変性共重合体は、上記共重合体に対して不飽和カルボン酸の不飽和基が反応して、不飽和カルボン酸由来の基を、通常は側鎖(ペンダント鎖、グラフト鎖等)として有している。酸変性ポリオレフィン重合体における不飽和カルボン酸による変性量は、特に限定されないが、(変性前の)共重合体に対して、0.1~2.0質量%が好ましく、0.2~1.0質量%がより好ましい。酸変性共重合体は、適宜に合成してもよく、市販品を用いてもよい。酸変性共重合体を合成する場合、通常、上記共重合体と上記不飽和カルボン酸を有機過酸化物の存在下で、有機過酸化物の分解温度以上の温度で加熱混合することにより、共重合体を変性(不飽和カルボン酸と反応)させて、得ることができる。
上記不飽和カルボン酸(無水物を含む。)としては、特に制限されず、上記共重合体と反応(例えばラジカル付加反応)しうる不飽和結合を有するカルボン酸が好適に挙げられる。この不飽和カルボン酸は、カルボキシ基を1つ有するものでも2つ以上有するものでもよい。好ましい不飽和カルボン酸としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びフマル酸、及びこれらの金属塩若しくは有機塩、更には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等の不飽和カルボン酸無水物等が挙げられる。上記共重合体を変性する不飽和カルボン酸は1種でも2種以上でもよい。不飽和カルボン酸としては無水マレイン酸若しくはアクリル酸が好ましい。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有する酸変性共重合体は1種でも2種以上でもよい。
【0021】
(エチレンゴム)
エチレンゴムは、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体ゴム等が挙げられる。三元共重合体を構成するジエン化合物は、共役ジエン化合物であっても非共役ジエン化合物であってもよいが、非共役ジエン化合物が好ましい。
α-オレフィンとしては、炭素数3~12の各α-オレフィンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の各化合物が挙げられ、ブタジエン化合物等が好ましい。非共役ジエン化合物の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の各化合物が挙げられる。
二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有するエチレンゴムは1種でも2種以上でもよい。
【0022】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を有する重合体からなるものをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有するスチレン系エラストマーは1種でも2種以上でもよい。
【0023】
(密度が0.90g/cm未満の重合体)
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、樹脂として、密度が0.90g/cm未満の重合体を必須としない。本発明において、重合体を必須としないとは、重合体を含有しない態様と、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば重合体を含有していてもよい態様とを包含する。本発明の作用効果を損なわない範囲は、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の組成等によって一義的ではないが、例えば、樹脂100質量%中、1質量%以下である。
密度が0.90g/cm未満の重合体は、特に制限されないが、例えば、超低密度ポリエチレン(VLDPE、ULDPE)のうち上記密度を満たすもの、ポリオレフィンエラストマーのうち上記密度を満たすもの(例えばCASNo.で25087-34-7)等が挙げられる。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が密度0.90g/cm未満の重合体を含有する場合、この重合体は1種でも2種以上でもよい。
【0024】
(その他の重合体)
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、上記各重合体以外の重合体を含有していてもよい。このような重合体として、例えば、高密度ポリエチレン以外で、かつ密度が0.90g/cm以上のポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE))、ハロゲン樹脂、又はこれらの酸変性重合体等が挙げられる。
その他の重合体としては、トレードオフの関係にある、収縮性及び低温柔軟性と耐摩耗性とを高い水準で両立できる点で、低密度ポリエチレン又は直鎖型低密度ポリエチレンが好ましく、直鎖型低密度ポリエチレンがより好ましい。
その他の重合体として、密度が0.90g/cm以上の超低密度ポリエチレンを含有することもできるが、含有しない(必須としない)ことが、耐摩耗性の点で、好ましい。
【0025】
(有機鉱物油)
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、低温柔軟性を維持しながらも高い耐摩耗性を発現させる点で、有機鉱物油を必須としない(含有していない)ことが好ましい。必須としないとは上述の通りである。有機鉱物油としては、樹脂組成物に通常用いられるものが挙げられ、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル等が挙げられる。なお、有機鉱物油は密度が0.90g/cm未満のもの(重合体)も含みうるが、本発明では、密度が0.90g/cm以上のものを含めて有機鉱物油に分類する。
【0026】
(樹脂の組成)
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有する樹脂は、合計で100質量%となる割合に設定され、下記組成[A]及び[B]を満たしている。樹脂が組成[A]及び[B]をともに満たしていることにより、過度な収縮を抑えながらも、優れた難燃性及び低温柔軟性を維持しつつ高い耐摩耗性を発現する成形体を形成できる。そのため、配線材の被覆層を形成する材料として用いることにより、被覆層を薄肉化することができ、また配線材を配設した後に保護部材の装着を必須としない。

組成[A]:高密度ポリエチレンとポリプロピレンとを樹脂中に合計で50~80質量%
の割合で含有し、かつ高密度ポリエチレンの樹脂中の含有量が10~70質
量%であり、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの樹脂中の合
計含有量が30質量%以下
組成[B]:エチレン酢酸ビニル共重合体、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体
、これらの酸変性共重合体、エチレンゴム、及び、スチレン系エラストマー
の樹脂中の合計含有量が10質量%以下であり、かつ密度が0.90g/c
未満の共重合体を必須としない
【0027】
(組成[A])
樹脂は、高密度ポリエチレンとポリプロピレンとを樹脂100質量%中に合計で50~80質量%の割合で含有する。これにより、組成[B]の作用効果と相まって、過度な収縮を抑えながらも優れた難燃性を維持しつつ、トレードオフの関係にある低温柔軟性と耐摩耗性とを高い水準で両立できる。高密度ポリエチレンとポリプロピレンとの合計含有量は、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性をバランスよく高い水準で実現できる点で、55~80質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましい。ここで、ポリプロピレンの含有量はホモポリプロピレンの含有量、ランダムプロピレンの含有量及びブロックプロピレンの含有量の総量(合計量)とする。
高密度ポリエチレンの樹脂100質量%中の含有量は、上記合計含有量を考慮して、10~70質量%に設定される。これにより、ポリプロピレンと併用される効果が相補的に発現され、優れた耐摩耗性及び難燃性を維持しながらも、過度な収縮抑制と低温柔軟性とを両立できる。高密度ポリエチレンの含有量は、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性をバランスよく高い水準で実現できる点で、30~70質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましい。
ポリプロピレンの中でも、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの樹脂100質量%中の合計含有量は30質量%以下に設定される。これにより、高密度ポリエチレンと併用される効果が相補的に発現され、優れた耐摩耗性及び難燃性を維持しながらも、過度な収縮抑制と低温柔軟性とを両立できる。上記合計含有量は、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性をバランスよく高い水準で実現できる点で、0~25質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。
【0028】
組成[A]は上述の組成を満たしていればよいが、下記組成を満たすことも好ましい。
ポリプロピレンの樹脂100質量%中の総含有量は、特に制限されず、高密度ポリエチレンとポリプロピレンとの合計含有量を考慮して適宜に決定される。例えば、低温柔軟性及び過度な収縮抑制等の点で、60質量%以下であることが好ましく、0~50質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることが更に好ましい。なお、ポリプロピレンの総含有量は、ホモポリプロピレンの含有量、ランダムプロピレンの含有量及びブロックプロピレンの含有量の総量(合計量)である。高密度ポリエチレンの含有量とポリプロピレンの含有量(総量)との質量比[高密度ポリエチレンの含有量/ポリプロピレンの含有量(総量)]は、特に制限されない。
また、高密度ポリエチレンと、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンとの樹脂100質量%中の合計含有量は、特に制限されず、高密度ポリエチレンの含有量と、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンとの合計含有量を考慮して適宜に決定される。例えば、耐摩耗性を更に向上できる点で、30質量%以上であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、40~70質量%であることが更に好ましい。高密度ポリエチレンの含有量と、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの合計含有量との質量比[高密度ポリエチレンの含有量/ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの合計含有量]は、特に制限されない。
更に、ポリプロピレンの総含有量と、ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの合計含有量との質量比[ポリプロピレンの総含有量/ホモポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの合計含有量]は、特に制限されない。
【0029】
(組成[B])
樹脂は、エチレン酢酸ビニル共重合体、酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体、これらの酸変性共重合体、エチレンゴム、及び、スチレン系エラストマーの樹脂100質量%中の合計含有量が10質量%以下の割合で含有する。これにより、組成[A]の作用効果と相まって、過度な収縮を抑えながらも優れた難燃性を維持しつつ、トレードオフの関係にある低温柔軟性と耐摩耗性とを高い水準で両立できる。上記合計含有量は、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性をバランスよく高い水準で実現できる点で、0~5質量%であることが好ましい。
樹脂は、密度が0.90g/cm未満の重合体を必須としない。これにより、耐摩耗性の向上効果に優れる。
【0030】
組成[B]は上述の組成を満たしていればよいが、下記組成を満たすことも好ましい。
エチレン酢酸ビニル共重合体の樹脂100質量%中の含有量は、上記組成[B]を考慮して適宜に決定される。例えば、難燃性、耐摩耗性等の点で、10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体の樹脂100質量%中の含有量は、上記組成[B]を考慮して適宜に決定される。例えば、耐摩耗性等の点で、10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
酸変性共重合体の樹脂100質量%中の含有量は、上記組成[B]を考慮して適宜に決定される。例えば、耐摩耗性、更に難燃性の点で、10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
エチレンゴムの樹脂100質量%中の含有量は、上記組成[B]を考慮して適宜に決定される。例えば、耐摩耗性等の点で、10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
スチレン系エラストマーの樹脂100質量%中の含有量は、上記組成[B]を考慮して適宜に決定される。例えば、耐摩耗性等の点で、10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
【0031】
(その他の重合体の組成)
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に含有される樹脂は、上記組成[A]及び[B]を満たしていればよいが、樹脂が上述のその他の重合体を含む場合、その他の重合体の、樹脂100質量%中の含有量は、上記組成[A]及び[B]を考慮して、適宜に決定される。
その他の重合体の含有量は、例えば、50質量%以下であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。その他の重合体がポリエチレン(特にLLDPE)である場合、その含有量は、上記範囲内に設定することもできるし、上記範囲に関わらず適宜の含有量に設定することもできる。
【0032】
<ハロゲン系難燃剤>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、後述する難燃助剤の共存下にハロゲン系難燃剤を含有している。これにより、難燃助剤との併用による高い難燃作用を効果的に発現させることができ、その含有量を低減できる。そのため、ハロゲン系難燃剤の含有による耐摩耗性の低下を効果的に抑えることができる。ハロゲン系難燃剤としては、ハロゲン原子を有する難燃剤であれば特に限定されないが、塩素原子を含有する塩素系難燃剤、臭素原子を含有する臭素系難燃剤等が好ましく挙げられ、後述する難燃助剤による難燃性増強効果が高い臭素系難燃剤が好ましい。
臭素系難燃剤としては、特に制限されず、難燃性組成物に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができる。臭素化エチレンビスフタルイミド化合物、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド化合物、臭素化ビスフェノール(例えばテトラブロモビスフェノールA)化合物、1,2-ビス(ブロモフェニル)エタン化合物、ポリブロモジフェニルエーテル(例えばデカブロモジフェニルエーテル)化合物、ポリブロモビフェニル(例えばトリブロモフェニル)化合物、ヘキサブロモシクロドデカン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモベンゼン等が挙げられる。これ以外にも、例えば、特許文献1の段落[0020]に記載されたものが挙げられる。臭素系難燃剤については、特許文献1に記載された内容を適宜参照することができ、その内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
塩素系難燃剤としては、特に制限されず、難燃性組成物に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができる。例えば、デカクロロドデカヒドロジメタノシクロオクテン化合物、1,6,7,8,9,14,15,16,17,17,18,18-ドデカクロロペンタシクロ[12.2.1.16,9.02,13.05,10]オクタデカ-7,15-ジエン(デクロランプラス)等が挙げられる。
【0033】
<難燃助剤>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤の難燃助剤を含有する。この難燃助剤としては、ハロゲン系難燃剤と併用することによる相乗効果によって、ハロゲン系難燃剤が単独で示す難燃作用を超える高い難燃作用を発揮させるものを用いる。このような難燃助剤は、難燃性組成物に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができ、ハロゲン系難燃剤に応じて適宜に選択される。例えば、三酸化アンチモン等の酸化アンチモンが好適に挙げられる。三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤と段階的に反応して高い難燃作用を発現させることができる。
【0034】
<難燃剤等の組成>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤及び難燃助剤を樹脂100質量部に対して合計で15~60質量部の割合で含有している。これにより、組成物等に、高い難燃性を発現させるとともに、上記樹脂の組成と相まって顕著な耐摩耗性を発現させることができる。
ハロゲン系難燃剤及び難燃助剤の合計含有量は、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性をバランスよく高い水準で実現できる点で、30~60質量部であることが好ましく、30~50質量部であることがより好ましい。
【0035】
ハロゲン系難燃剤及び難燃助剤は、上記合計含有量を満たしていれば、それぞれの含有量等は適宜に決定される。
例えば、ハロゲン系難燃剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、難燃性及び耐摩耗性をバランスよく両立できる点で、10~55質量部以下であることが好ましく、15~50質量部であることがより好ましく、15~40質量部であることが更に好ましい。
難燃助剤の含有量は、ハロゲン系難燃剤の難燃作用を増強して、難燃性及び耐摩耗性をバランスよく両立できる点で、樹脂100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることが更に好ましい。
ハロゲン系難燃剤の含有量と難燃助剤の含有量(総量)との質量比[ハロゲン系難燃剤の含有量/難燃助剤の含有量(総量)]は、通常、ハロゲン系難燃剤及び難燃助剤の難燃性増強作用(例えば上記反応)を考慮して、適宜に決定される。質量比[ハロゲン系難燃剤の含有量/難燃助剤の含有量(総量)]は、例えば、1~3であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。
【0036】
<その他の成分>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、上記樹脂、ハロゲン系難燃剤及び難燃助剤に加えて、本発明の目的を損なわない範囲において、樹脂組成物に一般的に使用される添加剤等の各種成分(その他の成分という。)等を含有することができる。その他の成分としては、例えば、無機フィラー(難燃剤を含む。)、老化防止剤(酸化防止剤)、滑剤、架橋剤、架橋助剤等を挙げることができる。
また、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物については、適用する架橋反応の種類等により、更に、架橋剤、架橋助剤、架橋触媒、架橋促進剤等を適宜含有することが好ましい。
難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有してもよいその他の成分はそれぞれ1種でも2種以上でもよい。
【0037】
(無機フィラー)
無機フィラーとしては、樹脂組成物にフィラーとして通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基若しくは結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー(焼成クレー)、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等も挙げられる。なお、上記した化合物の中には充填作用に加えて難燃作用を示すものも含まれるが、本発明においては無機フィラーに分類する。
無機フィラーは、上記した中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が好ましく、燃焼時に殻を形成する能力が高く、高度な難燃性を発揮する点で水酸化マグネシウムが好ましい。
【0038】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理したものを用いることができる。例えば、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学工業社製等)が挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば3質量%以下であることが好ましい。
無機フィラーは、通常、粉体若しくは粒子として含有される。このときの平均粒径は、特に制限されないが、0.2~10μmが好ましい。平均粒径が上記範囲内にあると、2次凝集を抑制できる。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0039】
無機フィラーの、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、特に制限されず、適宜に決定されるが、後述する融点が200℃を超える成分の含有量(総量)を考慮して決定されることが好ましい。無機フィラーの含有量は、例えば、100質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることが更に好ましい。
【0040】
(老化防止剤)
老化防止剤(酸化防止剤)としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤、硫黄酸化防止剤等が挙げられ、フェノール酸化防止剤が好ましい。
老化防止剤の、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、樹脂100質量部に対して0.5~15質量部とすることができる。
【0041】
(滑剤)
滑剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン化合物、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミドが挙げられ、シリコーン化合物が好ましい。
滑剤の、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、樹脂100質量部に対して0~5質量部とすることができる。
【0042】
(融点が200℃を超える成分)
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、上記その他の成分のうち融点が200℃を超える成分を合計で120質量部以下の割合で含有することができる。融点が200℃を超える成分としては、上記樹脂以外の成分で200℃を超える融点を有する成分(化合物)が挙げられ、具体的には、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の調製する際の溶融混合において(成分自体が変化しないこと、具体的には、溶融、分解(熱分解)、変質(水和水等の除去等)等せずに)固体状態(粒子、粉体)として存在しうる成分をいう。融点は、200℃を超えていればよいが、後述する溶融混合温度以上であることが好ましく、例えば250℃以上又は270℃以上とすることができる。
このような成分としては、特に制限されないが、例えば無機化合物が挙げられ、より具体的には、上記無機フィラーが挙げられ、更にハロゲン系難燃剤、難燃助剤等も挙げられる。
融点が200℃を超える成分の総含有量が、樹脂100質量部に対して、120質量部以下であると、過度な収縮抑制、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性を損なうことなく、各成分を含有させることの効果が得られる。上記成分の総含有量は、例えば、樹脂100質量部に対して、120質量部以下であることが好ましく、30~100質量部であることがより好ましく、45~100質量部であることが更に好ましい。
本発明において、融点は、常圧(1atm)環境において、JIS K 0064に規定の方法に準拠して、測定した値とする。
【0043】
(シランカップリング剤)
本発明において、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋法又はシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は架橋剤としてシランカップリング剤を1種又は2種以上含有する。シランカップリング剤は、電子線の照射若しくは有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で樹脂にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)を有している。シラン架橋法に用いるシランカップリング剤は、更に、シラノール縮合可能な加水分解性基を有しており、この加水分解性基は上記無機フィラーの化学結合しうる部位と反応しうることが好ましい。シランカップリング剤のグラフト化反応部位としてはエチレン性不飽和基等が好ましく挙げられ、加水分解性基としては例えばアルコキシシリル基が好ましく挙げられる。
【0044】
上述の部位を有するシランカップリング剤としては、特に制限されず、従来、電子線架橋法又はシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等が挙げられる。
シランカップリング剤の、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、樹脂100質量部に対して、2~15質量部が好ましく、2.5~12質量部がより好ましく、3~10質量部が更に好ましい。
【0045】
(有機過酸化物)
架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を有機過酸化物架橋法又はシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は有機過酸化物を1種又は2種以上含有することが好ましい。有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、樹脂同士の架橋反応、又はシランカップリング剤の樹脂へのラジカル反応によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、特に制限はなく、ラジカル重合反応又は従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。このような有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
有機過酸化物の、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、特に制限されず、架橋法に応じて適宜に決定することができる。例えば、樹脂100質量部に対して、0.003~0.5質量部が好ましく、0.005~0.5質量部がより好ましく、0.005~0.2質量部が更に好ましい。
【0046】
(シラノール縮合触媒)
架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物はシラノール縮合触媒を1種又は2種以上含有することが好ましい。シラノール縮合触媒は、樹脂にグラフトしたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応を促進させる働きがある。この縮合反応により、シランカップリング剤、適宜に無機フィラーを介して樹脂が架橋される。
シラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物が好ましく、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテートが挙げられる。
シラノール縮合触媒の、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、0.0001~0.5質量部が好ましく、0.001~0.2質量部がより好ましい。
【0047】
(架橋助剤)
架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋法により架橋させる場合、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は架橋助剤を1種又は2種以上含有していてもよい。架橋助剤としては、電子線架橋法に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。通常、多官能性化合物が挙げられ、例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の(メタ)アタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物が挙げられる。
架橋助剤の、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、適宜に設定され、例えば、1~8質量%に設定することができる。
【0048】
(難燃性非架橋ポリオレフィン樹脂組成物及び架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の調製)
上記両組成物は、上記成分を溶融混合して調製することができる。
混練方法としては、ゴム若しくは樹脂組成物の調製に通常採用される方法であれば、特に限定されない。例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、各種のニーダー等の各種混合装置を用いて混合することができる。混練温度や混練時間などの混練条件は、特に限定されず、樹脂の溶融温度以上の温度範囲内で適宜に設定できる。混練温度は、例えば、後述する工程(1)の溶融混合条件とすることが好ましい。各成分の混合順は、特に制限されず、上記各成分を一度に(溶融)混合することもできるし、適宜の順で各成分を順次混合することもできる。こうして、各成分が分散(混合)された、非架橋又は架橋性(未架橋)の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を得ることができる。
シラン架橋法に適用する架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、上記調製方法に関わらず、後述する工程(1)により調製することが好ましい。
【0049】
上記両組成物は、適宜の形状に成形することもできる。架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の調製に際しては、架橋処理前(調製中又は調製後)に成形することが好ましい。成形方法及び成形条件は、成形後の形状や形態に応じて、適宜の方法及び条件が選択される。例えば、成形方法としては、押出成形機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、配線材の被覆層を形成する場合に、生産性、更には導体と共押出できる点等で、好ましい。
【0050】
(難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の調製)
本発明の難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物(架橋物)は、上述の架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を上述した架橋反応処理して調製することができる。難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、未成形の状態で架橋処理されてもよいが、例えば上述の成形法により成形した後に架橋処理された架橋成形体とすることが好ましい。
【0051】
架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋法で架橋反応処理する場合、上記のようにして調製した架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、好ましくは適宜の形状に成形した後に、電子線を照射する。電子線の照射条件は、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物(樹脂)を架橋反応させることができる限り特に制限されない。例えば、電子線の照射量は1~30Mradとすることでき、照射時の加速電圧は500~750keVとすることができる。
【0052】
架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を有機過酸化物架橋法で架橋反応処理する場合、上記のようにして調製した架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、好ましくは適宜の形状に成形した後に、有機過酸化物の分解温度以上に加熱する。加熱条件は、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が含有する有機過酸化物の分解温度以上であればよく、加熱時間も特に限定されない。
【0053】
架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋法で架橋反応処理する場合、シランカップリング剤がグラフト化反応した樹脂を含有する架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を、好ましくは適宜の形状に成形した後に、水分と接触させる方法が好ましい。
シラン架橋法による架橋成形体の製造方法としては、下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する製造方法が好ましい。
【0054】
工程(1):樹脂と、ハロゲン系難燃剤と、難燃助剤と、シランカップリング剤と、有機過酸化物と、シラノール縮合触媒と、好ましくは無機フィラーとを溶融混合して、溶融混合物(架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物)を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた溶融混合物を成形して成形体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の成形体を得る工程
【0055】
上記工程(1)を行うに際して、下記工程(a)で樹脂の全部を溶融混合する場合には工程(a)及び工程(c)を有し、下記工程(a)で樹脂の一部を溶融混合する場合には工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a):樹脂の全部又は一部と、ハロゲン系難燃剤と、難燃助剤と、シランカップリング剤と、有機過酸化物と、好ましくは無機フィラーと、有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、シランマスターバッチ(シランMB)を調製する工程
工程(b):樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MB)を調製する工程
工程(c):シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は上記触媒マスターバッチとを溶融混合する工程
工程(b)で樹脂の残部をキャリア樹脂として溶融混合する場合、樹脂は、工程(a)において、好ましくは80~99質量部、より好ましくは94~98質量部を溶融混合し、工程(b)において、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~6質量部を溶融混合する。
【0056】
工程(1)において溶融混合する各成分の含有量は、上述の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物における含有量と同じである。
【0057】
工程(1)及び工程(a)における溶融混合は、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法を適宜に選択して行うことができ、例えば、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の各種混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。溶融混合する温度は、有機過酸化物の分解温度以上であり、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(1~80)℃の温度である。溶融混合の温度は、一義的に定めることは難しいが、一例を挙げると、80~250℃が好ましく、100~240℃がより好ましい。その他の条件は適宜設定することができる。なお、工程(a)においては、上述の各成分をシラノール縮合触媒の非存在下(例えば樹脂100質量部に対して0.01質量部以下の割合)で溶融混合して、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることが好ましい。
工程(1)及び工程(a)において、溶融混合する際の各成分の混合順は、特に限定されず、上記各成分を一度に溶融混合することができるが、無機フィラーを用いる場合、シランカップリング剤は樹脂と溶融混合される前に無機フィラー、更に適宜に有機過酸化物と混合されることが好ましい。この前混合(予備混合)は、例えば20~35℃で、好ましくはドライブレンドにより行うことができる。前混合により、無機フィラーと強く結合するシランカップリング剤と、無機フィラーと弱く結合するシランカップリング剤とをバランスよく形成できる。前混合する混合方法においては、次いで、得られた混合物と樹脂の全部又は一部と残余の成分とを例えば上記溶融混合条件で溶融混練する。
【0058】
工程(b)及び工程(c)における溶融混合は、それぞれ、上記行程(a)の溶融混合と同様に行うことができる。ただし、工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。なお、工程(c)においては、溶融混合に先立って、樹脂の非溶融下、例えば上記前混合の条件で、混合(例えばドライブレンド)することができる。
【0059】
工程(1)において、工程(a)~(c)は同時に又は連続して行うことができる。
工程(1)により、溶融混合物として架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が調製される。
【0060】
次いで、得られた溶融混合物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。工程(2)の成形は、溶融混合物を成形できればよく、成形体の形態に応じて、適宜の成形方法及び成形条件が選択される。成形方法については上述の通りである。この工程(2)は、例えば押出成形機を用いて、上記工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。
こうして得られた、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の成形体と水とを接触させる工程(3)を行い、シランカップリング剤をシラノール縮合反応(架橋反応)させる。この工程(3)は通常の方法によって行うことができ、上記架橋反応は常温で放置するだけでも進行するが、架橋反応を促進させるために成形体と水分とを積極的に接触させることもできる。
こうして、シランカップリング剤を介して架橋された樹脂を含有する難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物(の成形体)を調製できる。
【0061】
上記シラン架橋法については、用いる樹脂や難燃剤等の成分以外の成分(シランカップリング剤、有機過酸化物、シラノール縮合触媒等)、上記製造方法における各工程(1)~(3)、更にはシラン架橋法における反応及び得られる縮合硬化物の形態については、例えば、国際公開第2016/140253、又は特開2017-145370号公報の記載を適宜に適用でき、これらの公報に記載の内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
【0062】
<難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の用途>
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、上述の優れた特性を示すため、配線材、特に配線材の被覆層を形成する材料として、好適に用いることができる。また、一般的な成形品(シール材、パッキン等)にも適用することができる。特に、上述の優れた特性を活かして、極めて高い耐摩耗性が求められる用途に好適であり、例えば、配線材の中でも、自動車用絶縁電線、特に後述する(極)薄肉電線の被覆層を形成する材料として好適である。
【0063】
[配線材]
以下に、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で形成した管状成形体を被覆層として用いた配線材について説明する。
本発明の配線材は、導体の外周面上に、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で形成された被覆層(絶縁層、シース等を含む。)を有している。この配線材は、被覆層の過度な収縮が抑えられ、導体の露出を抑制でき、寸法精度に優れる。また、難燃性、低温柔軟性及び顕著な耐摩耗性を発現する。
本発明の配線材は、導体の外周面に本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物からなる被覆層を少なくとも1層有していればよく、それ以外の構成は配線材の通常の構成と同様とすることができる。例えば、導体の外周面に少なくとも1層の被覆層を有する絶縁電線、このような絶縁電線若しくはこれら絶縁電線を複数束ねた電線束の外周面に被覆層としてのシースを形成したケーブル等が挙げられる。また、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物からなる被覆層は、導体の外周面上に直接設けられても、接着層等の他の層を介して間接的に設けられてもよい。被覆層は単層でも複層でもよく、複層である場合少なくとも1層が本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で形成されていればよい。また、ケーブルのシースを本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で形成してもよい。
【0064】
配線材としては、例えば、絶縁電線若しくはケーブル、(電気)コード、光ファイバ心線、光ファイバコード、光ケーブル等が挙げられる。これらは、電気・電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される配線材、屋内に配設される配線材、屋外に配設される配線材を含む。本発明の配線材は、好ましくは、車両(自動車若しくは鉄道車両等の車載)用絶縁電線若しくはケーブル、通信用電線若しくはケーブル、通信用光ファイバ若しくは光ケーブル、又は、電力用電線若しくは電力ケーブルとして用いることができる。その中でも、車載用絶縁電線、特に(極)薄肉電線(例えばAESSXクラス)として好適である。
【0065】
導体としては、配線材に応じた適宜の導体を用いることができる。例えば、適宜に、単線の導体、撚線の導体(抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた撚線を含む。)を用いることができる。例えば、絶縁電線等に用いる導体としては、裸線でも錫メッキ若しくはエナメル被覆したものでもよい。導体を形成する金属材料としては軟銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。導体の外径等は用途等に応じて適宜に決定され、各用途に用いられる通常の配線材と同様に設定できる。例えば0.5~4.0mmとすることができる。一方、光ファイバ心線、光ファイバケーブルに用いる導体としては、石英ガラスや各種プラスチック等からなる導体が挙げられる。
被覆層の厚さ(肉厚)は、用途等に応じて適宜に決定されるが、各用途に用いられる通常の配線材と同様の厚さに設定でき、例えば、絶縁電線等では、通常、0.15~10mm程度(極薄肉電線では0.4mm以下)に設定され、光ファイバケーブル等では、通常、0.1~10mm程度に設定される。
【0066】
<配線材の製造方法>
本発明の配線材は、適宜の方法により製造することができるが、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を導体の外周面上に配置し、適宜に架橋反応処理して、製造することが好ましい。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を難燃性ポリオレフィン樹脂組成物導体の外周面上に配置する方法は、難燃性ポリオレフィン樹脂組成物で導体を被覆できる方法であればよく、適宜の成形方法、例えば上述の成形方法が挙げられる。本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を導体の外周面上に配置する方法(難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の配置)は、押出成形機を用いて、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の調製方法(押出成形機内での難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の調製)と連続して一連の工程として(一挙に)に行うこともできる。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物である場合、次いで、導体の外周面上に配置した架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を架橋反応処理する。この架橋反応処理は、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に適した各架橋法に通常適用される方法、条件を特に制限されることなく適用でき、具体的には上述の通りである。
本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋法で架橋させる場合、その製造方法は上述の製造方法において、工程(1)で得られた溶融混合物を、例えば押出成形機を用いて、導体の外周面上に成形すること以外は上述の製造方法と同じである。
【0067】
このようにして、本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物を用いて、寸法精度、難燃性、低温柔軟性及び耐摩耗性に優れた被覆層を備えた配線材を製造することができる。
【実施例
【0068】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
下記表1-1及び表1-2(併せて表1という。)において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量基準である。
【0069】
実施例及び比較例に用いた各化合物の詳細を以下に示す。
<樹脂>
HDPE:ハイゼックス5305E(商品名、高密度ポリエチレン、密度0.95g/cm、サンアロマー社製)
h-PP:サンアロマーPM600A(商品名、ホモポリプロピレン、サンアロマー社製)
r-PP:サンアロマーPB222A(商品名、ランダムポリプロピレン、サンアロマー社製)
EEA:NUC6510(商品名、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、NUC社製)
スチレン系エラストマー:クレイトンFG1901X(商品名、SEBS、クレイトン社製)
その他の重合体:エボリュー1540(商品名、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、密度0.91g/cm、プライムポリマー社製)
密度0.90g/cm未満の重合体:カーネルKS240T(商品名、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、密度0.88g/cm、日本ポリエチレン社製)
<ハロゲン系難燃剤>
臭素系難燃剤:サイテックス8010(商品名、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、融点200℃超、アルベマール社製)
塩素系難燃剤:デクロランプラス(商品名、1,6,7,8,9,14,15,16,17,17,18,18-ドデカクロロペンタシクロ[12.2.1.16,9.02,13.05,10]オクタデカ-7,15-ジエン、融点200℃超、ハイケム社製)
<難燃助剤>
塩素系難燃剤:三酸化アンチモン(融点200℃超、日本精鉱社製)
<その他の成分>
無機フィラー:マグシーズFK-621(商品名、水酸化マグネシウム、融点200℃超、神島化学工業社製)
シランカップリング剤:KBM-1003(商品名、トリメトキシビニルシラン、融点200℃以下、信越シリコーン社製)
有機過酸化物:パーヘキサ25B(商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ-tert-ブチルパーオキシ-ヘキサン、日油社製)
シラノール縮合触媒:アデカスタブOT-1(商品名、ジオクチルスズジラウレート、融点200℃以下、ADEKA社製)
架橋助剤:オグモントT200(商品名)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、新中村化学社製
老化防止剤:イルガノックス1010(商品名、Pentaerythritol tetrakis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate)、融点200℃以下、BASF社製)
滑剤:X-22-2125H(商品名、シリコーン混合物、融点200℃以下、信越シリコーン社製)
【0070】
[実施例1~21、参考例11及び比較例1~11]
下記製造方法により、表1に示す組成の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物をそれぞれ調製し、これらを導体の外周面上に押出成形(押出被覆)して形成した被覆層を有する絶縁電線(日本自動車技術会規格(JASO) D 625準拠、AESSX-0.3SQf)を製造した。
実施例、参考例及び比較例において、架橋法に応じて、無機フィラー以外に下記のその他の成分を用いた。
<シラン架橋法>
シランカップリング剤2.8質量部、有機過酸化物0.1質量部、シラノール縮合触媒0.1質量部、老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部
<電子線架橋法>
架橋助剤としてメタクリレート系多官能性化合物3質量部、老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部
<非架橋(実施例3)>
老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部
なお、表1において、無機フィラー以外のその他の成分、及びそれらの混合量の記載を省略し、これらをまとめて「その他の成分」欄に合計含有量を記載している。
【0071】
<実施例1、5、7~21、参考例11及び比較例1~9、11>
下記シラン架橋法により、絶縁電線を製造した。
実施例、参考例及び比較例において、樹脂の一部を工程(a)で用い、樹脂の残部(HDPE5質量部)を工程(b)で触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
【0072】
具体的には、樹脂100質量部に対して、表1に示す質量部の無機フィラーと、シランカップリング剤2.8質量部と、有機過酸化物0.1質量部とを、室温(25℃)下で、混合した。得られた混合物と、樹脂の一部と、ハロゲン系難燃剤と、難燃助剤と、老化防止剤1質量部と、滑剤1質量部とを、表1に示す含有量で、2Lバンバリーミキサー(日本ロール社製)を用いて、有機過酸化物の分解温度以上の温度(200℃)において5分間にわたり溶融混合した後、材料排出温度130℃で排出し、ペレット化してシランMBを得た(工程(a))。
また、樹脂の残部とシラノール縮合触媒0.1質量部とを150℃でバンバリーミキサー(日本ロール社製)にて溶融混合し、材料排出温度130℃で排出して、触媒MBを得た(工程(b))。
次いで、工程(a)で得たシランMBと工程(b)で得た触媒MBを押出成形機(スクリュー径:25mm、L/D(スクリュー有効長Lと径Dとの比):25)の直上で、25℃で約1分間にわたり、ドライブレンドして、ドライブレンド物を得た。得られたドライブレンド物を、上記押出成形機に投入して、下記押出温度条件により、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.40mm(厚さ0.30mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆して(工程(2))、電線前駆体を製造した。
このとき、押出成形機内で上記ドライブレンド物が押出成形前に溶融混合される(工程(c))ことにより、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が調製される。押出温度条件は、押出成形機のシリンダー部分における温度制御をフィーダー側からダイス側に向けて3ゾーンC1、C2、C3に分け、C1ゾーンを150℃、C2ゾーンを170℃、C3ゾーンを190℃に設定し、更にダイス温度(成形温度)を200℃に設定した。
このようにして得られた電線前駆体を25℃、50%RH環境に24時間放置することにより(工程(3))、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体と水とを接触させてシラノール縮合反応を行い、難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0073】
<実施例2、4、6及び比較例10>
下記電子線架橋法により、絶縁電線を製造した。
表1に示す配合量で表1に示す各成分と、架橋助剤3質量部と、老化防止剤1質量部と、滑剤1質量部とを、バンバリーミキサーに投入して120~200℃で10分溶融混合した後、材料排出温度200℃で排出し、フィーダールーダーを通して、架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて次のようにして絶縁被覆を形成して、電線前駆体を製造した。すなわち、得られたペレットを、直径が25mmのスクリューを備えた押出成形機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=25、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出成形機内にてペレットを溶融しつつ、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.40mm(厚さ0.30mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆して、電線前駆体を製造した。
次いで、導体の外周面に配置した架橋性難燃性ポリオレフィン樹脂組成物に、加速電圧500kVの電子線を照射量10Mradとなるように照射した。
こうして、難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0074】
<実施例3>
実施例2において、上記導体の外周面に配置した難燃性架橋ポリオレフィン樹脂組成物(ただし、架橋助剤3質量部は無含有)に電子線を照射しないこと以外は、実施例2と同様にして、難燃性非架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0075】
製造した各絶縁電線について、下記試験をして、その結果を表1に示すとともに、絶縁電線としての総合判定をした。
【0076】
<総合判定>
総合判定は、下記耐摩耗性試験、低温巻き付け試験、難燃性試験及び収縮性試験の結果のうち1つの試験でも不合格となった場合を「×」(不合格)、すべての試験で合格となった場合を「〇」(本発明の効果を実現した絶縁電線として合格)とした。
【0077】
<耐摩耗性試験>
日本自動車技術会規格(JASO) D 625に準拠して、直径0.45mmのステンレス鋼(SUS)線を絶縁電線の表面に7Nの荷重をかけて往復移動させるスクレープ摩耗試験を行った。試験は、絶縁電線の表面について中心角90°となる4点を試験対象として、被覆層が剥がれて導体と導通した時点での往復摩耗回数を記録し、4回のうち最小の往復摩耗回数を絶縁電線の摩耗回数とした。
摩耗回数が下記評価基準のいずれに含まれるかにより、絶縁電線の耐摩耗性を評価した。上記規格では、摩耗回数100回以上で合格となるが、本試験においては「△」以上を合格とする。
なお、比較例10で製造した絶縁電線の摩耗回数は約300回であった。

- 評価基準 -
◎:1000回以上、
〇: 700回以上、1000回未満
△: 500回以上、700回未満
×: 500回以下
【0078】
<低温柔軟性(低温巻き付け)試験>
JASO D 625に準拠して、絶縁電線の外径に対して5倍径の棒に絶縁電線を巻き付けて、温度-40℃で4時間の条件下で、低温巻き付け試験を行った。
4時間経過後の絶縁電線について、1kVで1分間耐電圧試験を行い、絶縁破壊が発生しなかった(耐電圧試験に合格した)場合を「〇」(低温巻き付け試験に合格)とし、絶縁破壊が発生した場合を「×」(低温巻き付け試験に不合格)とした。
【0079】
<難燃性試験>
難燃性試験は、JASO D 625に準拠して、下記45度傾斜燃焼試験及び下記水平燃焼試験を行った。その結果、45度傾斜燃焼試験及び水平燃焼試験のいずれにも合格したものを「〇」、水平燃焼試験のみ合格したものを「△」、水平燃焼試験にも合格しないものを「×」(本試験に不合格)とした。

(水平燃焼試験)
作製した絶縁電線を水平に固定して、外炎長を20mmに調整したバーナーの炎を5秒接炎した。こうして試験片を燃焼させて、接炎開始から消炎するまでの時間(消炎時間)を計測した。消炎時間が30秒以内であれば、水平燃焼試験に合格とした。
(45度傾斜燃焼試験)
作製した絶縁電線を垂直方向に対して45°傾斜した状態に固定して、外炎長を20mmに調整したバーナーの炎を15秒接炎した。こうして試験片を燃焼させて、接炎開始から消炎するまでの時間(消炎時間)を計測した。消炎時間が70秒以内であって、かつ燃焼部分が絶縁電線の上端から50mmより下までであれば、45度傾斜燃焼試験に合格とした。
【0080】
<収縮性試験>
3000mmに切り出した絶縁電線を、常温常湿(25℃、50RH%)の環境下で、水平状態に24時間放置した。絶縁電線の両端について、被覆層の端部から突出した導体の長さを測定し、両端それぞれの突き出し長さ、絶縁電線の収縮性を評価した。
それぞれの突き出し長さが0.5mm以下であった場合を「〇」(合格)とし、0.5mmを超えた場合を「×」(不合格)とした。
【0081】
【表1-1】
【0082】
【表1-2】
【0083】
表1において、「架橋法」欄の、「シラン」はシラン架橋法を、「電子線」は電子線架橋法を、「なし」は架橋していない(非架橋)あることを示す。
本発明において、無機フィラーはその他の成分に包含されるが、表1においては、その含有量を明確に示すため、無機フィラー以外の「その他の成分」と分けて記載する。表1中の「その他の成分」としては、架橋法に応じて選択され、具体的には上述の通りである。
表1の「組成[A]」欄における「HDPE+PP」は高密度ポリエチレンとポリプロピレンの合計含有量を示し、「HDPE+h-PP」は高密度ポリエチレンとホモポリプロピレンの合計含有量を示し、「HDPE」は高密度ポリエチレンの含有量を示し、「h-PP」はホモポリプロピレンの含有量を示す。
表1の「組成[B]」欄における「EEA+SEBS」は酸共重合成分を有するポリエチレン共重合体とスチレン系エラストマーとの合計含有量を示し、「密度0.90g/cm未満」は密度が0.90g/cm未満の重合体の含有量を示す。
【0084】
表1に示す結果から明らかなように、樹脂が組成[A]及び[B]を満たしていない比較例の組成物、難燃性及び難燃助剤の一方のみを含有する比較例の組成物、及び難燃助剤を含有していても難燃剤との合計含有量を満たさない比較例の組成物は、いずれも、難燃性、低温柔軟性、寸法安定性及び高い耐摩耗性を兼ね備えた被覆層(成形体)を形成できない。
これに対して、組成[A]及び[B]を満たす樹脂と、難燃剤及び難燃助剤を特定の合計含有量で満たす本発明の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物は、架橋、非架橋、更には架橋方法に関わらず、難燃性、低温柔軟性及び寸法安定性に優れ、極めて高い耐摩耗性を発現する被覆層を形成できる。