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  • 特許-超電導電磁石構造 図1
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  • 特許-超電導電磁石構造 図3
  • 特許-超電導電磁石構造 図4
  • 特許-超電導電磁石構造 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】超電導電磁石構造
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20241126BHJP
   H01F 6/04 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021092147
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184355
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋之
(72)【発明者】
【氏名】和久田 毅
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-027268(JP,A)
【文献】特開2006-095259(JP,A)
【文献】特開2015-012199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0180897(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00- 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング形状の超電導コイルと前記超電導コイルを囲む側板とを含む超電導電磁石を前記超電導電磁石の軸方向に複数積層してなる超電導電磁石構造であって、
積層方向において、第1超電導電磁石と、前記第1超電導電磁石に隣接し、前記第1超電導電磁石と同芯でない2つの第2超電導電磁石と、2つの前記第2超電導電磁石に隣接し、前記第1超電導電磁石とほぼ同芯である第3超電導電磁石とを含み、
前記第1超電導電磁石の前記第2超電導電磁石側の前記側板は、前記第2超電導電磁石の前記第1超電導電磁石側の前記側板として共用される共用側板であり、
前記第3超電導電磁石の前記第2超電導電磁石側の前記側板は、前記第2超電導電磁石の前記第3超電導電磁石側の前記側板として共用される共用側板である、
ことを特徴とする超電導電磁石構造。
【請求項2】
前記第1超電導電磁石及び前記第3超電導電磁石の前記超電導コイルと前記共用側板との間に、当該超電導コイルを冷却するための冷却板が挟み込まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導電磁石構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導電磁石構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導体を用いた電磁石である超電導電磁石が種々の目的で用いられている。例えば、特許文献1には、超電導コイルを備える超電導電磁石装置であって、超電導コイルが常伝導状態に転移したとき(クエンチ化したとき)に、超電導コイルの劣化を防ぐための保護抵抗が設けられた超電導電磁石装置が開示されている。また、特許文献2には、粒子線治療システムに組み込まれ、患者に照射される荷電粒子を加速させるために用いられる超電導コイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-178485号公報
【文献】特開2019-106389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、種々の超電導電磁石装置において、リング形状の超電導電磁石が用いられる場合がある。ここでは、リング形状の超電導電磁石は、超電導体から構成されるリング形状の超電導コイルと、当該超電導コイルを囲む側板とを含んで構成されるものであるとする。詳しくは、複数のリング形状の超電導電磁石が軸方向に積層された超電導電磁石構造が用いられる場合がある。特に、超電導電磁石装置の構造上の理由(例えば当該超電導電磁石構造が荷電粒子を加速させる場合における荷電粒子の通過経路との関係など)、あるいは、複数のリング形状の超電導電磁石の役割の違いなどに起因して、複数のリング形状の超電導電磁石が、非同芯に軸方向に積層された超電導電磁石構造が用いられる場合がある。
【0005】
図4は、従来における、複数のリング形状の超電導電磁石が、非同芯に軸方向に積層された超電導電磁石構造の一例を示す平面図であり、図5は、図4のZ-Z方向から見た断面図である。図4において紙面の垂直方向、図5においては紙面の上下方向に、複数のリング形状の超電導電磁石SEが非同芯に積層されている。図4及び図5の例では、超電導電磁石SEの積層方向は鉛直方向であるとする。具体的には、超電導電磁石SEaの下に、超電導電磁石SEaとは非同芯に、超電導電磁石SEb,SEcが水平方向に並べられて配置され、超電導電磁石SEb,SEcの下に、超電導電磁石SEaと同芯に(すなわち超電導電磁石SEb,SEcとは非同芯に)超電導電磁石SEdが配置されている。上述の通り、各超電導電磁石SEは、リング状の超電導コイルSCと、超電導コイルSCを囲む側板Cを含んで構成されている。
【0006】
図4及び図5に示された超電導電磁石構造は、積層方向の中程にあるターゲット位置Tに磁場を発生させるものである。ちなみに、超電導電磁石SEa及びSEdが、荷電粒子のターゲット位置Tに磁場を発生させるものであり、積層方向においてそれらの中間にある超電導電磁石SEb及びSEcは、ターゲット位置Tに磁場を発生させつつ磁場の漏れを抑制する機能を発揮するものである。なお、図5の超電導コイルSCの断面内に示された記号は、超電導コイルSCを流れる電流の向きを示している。
【0007】
図4及び図5に示すような超電導電磁石構造において、各超電導電磁石SEは側板Cを含んでいる。したがって、各超電導電磁石SEは、側板Cを含めて積層されることになる。そうすると、超電導電磁石構造の積層方向の中程にあるターゲット位置Tと、ターゲット位置Tに磁場を発生させるための超電導コイルSC(図5の例では、超電導コイルSCa及びSCd)との間の距離が長くなってしまう。
【0008】
図5の例では、例えば、ターゲット位置Tと、超電導コイルSCaとの間には、超電導電磁石SEaの側板Caの下側部分と超電導電磁石SEb及びSEcの側板Cb及びCcの上側部分が挟み込まれることになる。これらの側板Cが、ターゲット位置Tと超電導コイルSCaとの間の距離を大きくする要因となっている。同様に、ターゲット位置Tと、超電導コイルSCdとの間には、超電導電磁石SEdの側板Cdの上側部分と超電導電磁石SEb及びSEcの側板Cb及びCcの下側部分が挟み込まれることになる。これらの側板Cが、ターゲット位置Tと超電導コイルSCdとの間の距離を大きくする要因となっている。
【0009】
ターゲット位置Tと、ターゲット位置Tに磁場を発生させるための超電導コイルSCとの間の距離が大きくなると、ターゲット位置Tに所定の強さの磁場を発生させるために必要な起磁力が大きくなってしまうという問題が生じる。なお、起磁力とは、超電導コイルSCに流す電流値と超電導コイルSCの巻き数との積で表されるパラメータである。起磁力が大きくなれば、ターゲット位置に所定の強さの磁場を発生させるために、超電導コイルSCにより多くの電流を流さなければならない、あるいは、超電導コイルSCの巻き数を増やさなければならないという不都合が生じる。
【0010】
本発明の目的は、リング形状の複数の超電導電磁石が、非同芯に軸方向に積層された超電導電磁石構造において、積層方向の中程にあるターゲット位置に所定の強さの磁場を発生させるための起磁力を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、リング形状の超電導コイルと前記超電導コイルを囲む側板とを含む超電導電磁石を前記超電導電磁石の軸方向に複数積層してなる超電導電磁石構造であって、積層方向において隣接する互いに同芯でない第1超電導電磁石及び第2超電導電磁石を含み、前記第1超電導電磁石の前記第2超電導電磁石側の前記側板は、前記第2超電導電磁石の前記第1超電導電磁石側の前記側板として共用される共用側板である、ことを特徴とする超電導電磁石構造である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リング形状の複数の超電導電磁石が、非同芯に軸方向に積層された超電導電磁石構造において、積層方向の中程にあるターゲット位置に所定の強さの磁場を発生させるための起磁力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る超電導電磁石構造の平面図である。
図2図1のA-A方向から見た断面図である。
図3】冷却板を示す図である。
図4】従来の超電導電磁石構造を示す平面図である。
図5図4のZ-Z方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態に係る超電導電磁石構造10の平面図であり、図2は、図1のA-A方向から見た断面図である。図1及び2(並びに後述する図3)においては、互いに直交する水平方向の2方向をX軸及びY軸とし、鉛直方向をZ軸としている。図1に示すように、超電導電磁石構造10は、リング形状の複数の超電導電磁石12を含んで構成されている。各超電導電磁石12は、超伝導体で形成されているリング形状の超電導コイル14、及び、超電導コイル14を囲む側板16を含んで構成されている。超電導コイル14は、例えばニオブチタンで形成される。また、側板16は、例えばステンレスやアルミニウムで形成される。側板16は、超電導コイル14の電磁力を保持する機能などを発揮するものである。
【0015】
具体的には、側板16は、超電導コイル14の軸方向(本実施形態ではZ軸方向)の両側面において、軸方向に垂直に設けられる。また、側板16は、超電導コイル14の径方向(本実施形態では水平方向)の両側面において、径方向に垂直に設けられる。
【0016】
図2に示すように、超電導電磁石構造10は、複数の超電導電磁石12が、その軸方向に複数積層されて構成されている。本実施形態では、複数の超電導電磁石12は、軸方向がZ軸(すなわち鉛直方向)となるように配置されるので、超電導電磁石構造10は、Z軸(すなわち鉛直方向)に複数の超電導電磁石12が積層された構造となっている。なお、複数の超電導電磁石12の積層方向は鉛直方向に限るものではない。
【0017】
特に、超電導電磁石構造10は、互いに非同芯に積層された複数の超電導電磁石12を含んで構成されている。例えば、図1及び図2の例では、超電導電磁石12Aの下に、超電導電磁石12Aとは非同芯に、超電導電磁石12B,12Cが水平方向に並べられて配置され、超電導電磁石12B,12Cの下に、超電導電磁石12Aとほぼ同芯に(すなわち超電導電磁石12B,12Cとは非同芯に)超電導電磁石12Dが配置されている。
【0018】
超電導電磁石構造10は、積層方向の中程にあるターゲット位置に磁場を発生させるものである。これに限られるものではないが、本実施形態に係る超電導電磁石構造10は、患者に荷電粒子を照射してがん治療などを行う粒子線治療装置に組み込まれるものである。詳しくは、超電導電磁石構造10は、患者の周囲において回転運動を行うガントリ内に組み込まれ、荷電粒子の進行方向を変えるために荷電粒子に対して磁場を加える偏向磁石として用いられる。
【0019】
図2には、荷電粒子の通過領域Pが示されており、荷電粒子は通過領域PをY軸方向に進む。したがって、超電導電磁石構造10は、通過領域Pをターゲット位置として、通過領域Pに磁場を発生させるものである。ちなみに、超電導電磁石12A及び12Dが、荷電粒子の通過領域Pに磁場を発生させるものであり、それらの中間にある超電導電磁石12B及び12Cは、通過領域Pに磁場を発生させつつ磁場の漏れを抑制する機能を発揮するものである。なお、図2の超電導コイル14の断面内に示された記号は、超電導コイル14を流れる電流の向きを示している。なお、超電導電磁石構造10は、Y軸方向に複数並べられて設けられ、通過する荷電粒子に対して連続的に磁場を加えるようにしてもよい。
【0020】
上述のように、各超電導電磁石12は、超電導コイル14と側板16とを含んで構成されているが、超電導電磁石構造10においては、積層方向に隣接する、互いに同芯でない2つの超電導電磁石12間において、側板16が共用されている。
【0021】
例えば、第1超電導電磁石としての超電導電磁石12Aと、第2超電導電磁石としての超電導電磁石12Bとの間において、超電導電磁石12Aの下側(つまり超電導電磁石12B側)の下側側板16Aaは、超電導電磁石12Bの上側(つまり超電導電磁石12A側)の上側側板16Baとして共用される共用側板となっている。なお、上側側板及び下側側板における「上」あるいは「下」とは、超電導電磁石12の積層方向(又は超電導電磁石12の軸方向)における上下を意味する。
【0022】
また、例えば、第1超電導電磁石としての超電導電磁石12Aと、第2超電導電磁石としての超電導電磁石12Cとの間において、超電導電磁石12Aの下側(つまり超電導電磁石12C側)の下側側板16Aaは、超電導電磁石12Cの上側(つまり超電導電磁石12A側)の上側側板16Caとして共用される共用側板となっている。
【0023】
また、例えば、第1超電導電磁石としての超電導電磁石12Dと、第2超電導電磁石としての超電導電磁石12Bとの間において、超電導電磁石12Dの上側(つまり超電導電磁石12B側)の上側側板16Daは、超電導電磁石12Bの下側(つまり超電導電磁石12D側)の下側側板16Bbとして共用される共用側板となっている。
【0024】
また、例えば、第1超電導電磁石としての超電導電磁石12Dと、第2超電導電磁石としての超電導電磁石12Cとの間において、超電導電磁石12Dの上側(つまり超電導電磁石12C側)の上側側板16Daは、超電導電磁石12Cの下側(つまり超電導電磁石12D側)の下側側板16Cbとして共用される共用側板となっている。
【0025】
なお、上記のような共用側板を有する超電導電磁石構造10の製造方法は以下の通りである。まず、取り外し可能な側板16付きの各超電導電磁石12を製造する。その上で、各超電導電磁石12を積層させる際に、共用側板を用いる部分の側板16(例えば超電導電磁石12Bの上側側板)を取り外して積層させる。これにより、図2に示すような共用側板を有する超電導電磁石構造10が形成される。
【0026】
上述のように共用側板を用いることで、超電導電磁石構造10の厚さ(積層方向の長さ)を低減することができる。これにより、通過領域Pに磁場を発生させる超電導コイル14Aと、通過領域Pとの間の距離を低減することができる。具体的には、図5に示した従来の構造(側板16を共用しない構造)に比して、側板16(1枚分)の厚さだけ超電導コイル14Aと通過領域Pとの間の距離(より詳しくは積層方向の距離)を低減することができる。同様に、共用側板を用いることで、通過領域Pに磁場を発生させる超電導コイル14Dと、通過領域Pとの間の距離を低減することができる。具体的には、図5に示した従来の構造(側板16を共用しない構造)に比して、側板16(1枚分)の厚さだけ超電導コイル14Dと通過領域Pとの間の距離を低減することができる。
【0027】
超電導コイル14A又は14Dと、通過領域Pとの間の距離を低減することで、通過領域Pに所定の強さの磁場を発生させるための起磁力を低減することができる。例えば、通過領域Pに所定の強さの磁場を発生させるために、超電導コイル14A又は14Dに流す電流を少なくすることができ、あるいは、超電導コイル14A又は14Dの巻き数を低減することができる。超電導コイル14A又は14Dの巻き数を低減することで、超電導電磁石構造10のコンパクト化が実現される。
【0028】
図3は、冷却板20を示す図である。冷却板20は、不図示の冷凍機に接続され、伝導冷却方式により超電導コイル14を冷却するためのものである。冷却板20は板状であり(図4にはその断面のみが示されている)、超電導コイル14を囲むように、超電導コイル14と側板16との間に設けられる。
【0029】
共用側板としての下側側板16Aa(又は上側側板16Ca)を共用する超電導電磁石12A及び12Cに着目する。超電導電磁石12Aが有する超電導コイル14Aの下側(すなわち超電導電磁石12C側)には、下側冷却板20Aaが配置される。すなわち、下側冷却板20Aaは、超電導コイル14Aと共用側板である下側側板16Aaとの間に挟み込まれる。共用側板のさらに下側には、超電導電磁石12Cの超電導コイル14Cが配置される。すなわち、下側冷却板20Aaは、共用側板と共に超電導コイル14Aと14Cとの間に挟み込まれることになる。
【0030】
超電導コイル14A及び14Cに電流を流すと、超電導コイル14A及び14Cに電磁力が作用し、お互いに引き寄せられる方向に力が加わる。ここで、超電導コイル14Aと14Cとの間において共用側板が用いられているから、超電導コイル14Aと14Cとの間の距離が低減されている。具体的には、図5に示した従来の構造(側板16を共用しない構造)に比して、側板16(1枚分)の厚さだけ超電導コイル14Aと16Cとの間の距離が低減されている。これにより、超電導コイル14A及び14Cに作用する電磁力は、側板16を共用しない場合に比して、より強い力となっている。したがって、側板16を共用しない場合に比して、超電導コイル14Aと下側冷却板20Aaは、超電導コイル14Aに作用する電磁力により、超電導コイル14Aに強く密着することになる。これにより、従来よりも超電導コイル14Aを効率的に冷却することが可能となっている。
【0031】
超電導電磁石12Cの超電導コイル14Cと、共用側板である上側側板16Caとの間に挟み込まれた上側冷却板20Caについても同様である。すなわち、側板16を共用しない場合に比して、超電導コイル14Cと上側冷却板20Caは、超電導コイル14Cに作用する電磁力により、超電導コイル14Cに強く密着し、従来よりも超電導コイル14Cを効率的に冷却することが可能となっている。
【0032】
また、下側側板16Aa(又は上側側板16Ca)以外の、その他の共用側板と超電導コイル14との間に挟み込まれた各冷却板20についても同様に、対応する超電導コイル14と強く密着することができ、それにより冷却効率が向上している。
【0033】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 超電導電磁石構造、12 超電導電磁石、14 超電導コイル、16 側板、20 冷却板。
図1
図2
図3
図4
図5