(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-25
(45)【発行日】2024-12-03
(54)【発明の名称】癌治療のための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20241126BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241126BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20241126BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20241126BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/407
A61K31/4745
A61K31/7048
A61K31/198
A61K31/706
(21)【出願番号】P 2022530007
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020028773
(87)【国際公開番号】W WO2021015294
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-14
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】大橋 紹宏
(72)【発明者】
【氏名】岩井 謙一
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠洋
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ジェ
(72)【発明者】
【氏名】エング、カート
(72)【発明者】
【氏名】クランダ、マイケル ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】西村 和帆
(72)【発明者】
【氏名】リー、コン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/102399(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物1
【化1】
および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物;並びにマイトマイシンC、テニポシド、トポテカン塩酸塩、カルボプラチン、デシタビン、およびメルファランから選ばれる一つまたはそれ以上のDNA損傷剤
を含む、癌治療用組成物であって、
癌が、相同組換え欠損(HRD)ではない、
組成物。
【請求項2】
癌が、白金化合物に耐性がある請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
癌が、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、または卵巣癌である請求項1に記載の
組成物。
【請求項4】
治療対象の患者が、突然変異したおよび/または欠失した遺伝子を有し、および突然変異および/または欠失遺伝子が、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1およびZNF638から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
突然変異および/または欠失遺伝子が、RNASEH2A、RNASEH2BおよびRNASEH2Cから選ばれる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
DNA損傷剤が、マイトマイシンCである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
DNA損傷剤が、テニポシドである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
DNA損傷剤が、トポテカン塩酸塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
DNA損傷剤が、カルボプラチンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
DNA損傷剤が、デシタビンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
DNA損傷剤が、メルファランである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
癌が、肺癌である、請求項3に記載の組成物。
【請求項13】
癌が、結腸直腸癌である、請求項3に記載の組成物。
【請求項14】
癌が、膵臓癌である、請求項3に記載の組成物。
【請求項15】
癌が、卵巣癌である、請求項3に記載の組成物。
【請求項16】
癌の治療のための一つまたはそれ以上のDNA損傷剤と併用するための医薬品を製造するための、化合物1
【化2】
および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用であって、
DNA損傷剤が、マイトマイシンC、テニポシド、トポテカン塩酸塩、カルボプラチン、デシタビンまたはメルファランを含
み、および
癌が、相同組換え欠損(HRD)ではない、
使用。
【請求項17】
治療対象の患者が、突然変異したおよび/または欠失した遺伝子を有し、および突然変異および/または欠失遺伝子が、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1およびZNF638から選ばれる、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
突然変異および/または欠失遺伝子が、RNASEH2A、RNASEH2BおよびRNASEH2Cから選ばれる、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
DNA損傷剤が、マイトマイシンCである、請求項16に記載の使用。
【請求項20】
DNA損傷剤が、テニポシドである、請求項16に記載の使用。
【請求項21】
DNA損傷剤が、トポテカン塩酸塩である、請求項16に記載の使用。
【請求項22】
DNA損傷剤が、カルボプラチンである、請求項16に記載の使用。
【請求項23】
DNA損傷剤が、デシタビンである、請求項16に記載の使用。
【請求項24】
DNA損傷剤が、メルファランである、請求項16に記載の使用。
【請求項25】
癌が、肺癌である、請求項16に記載の使用。
【請求項26】
癌が、結腸直腸癌である、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、(i)化合物1
【0002】
【0003】
および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)一つまたはそれ以上の第2の治療剤および/または第2の治療法を含む併用療法を使用する癌の治療に関する。
【背景技術】
【0004】
CDC7は、セリン/スレオニンキナーゼであり、これは、MCM2をリン酸化することによりDNA複製の開始に寄与する。CDC7のキナーゼ活性は、細胞周期に依存して、その結合タンパク質Dbf4によって制御される。近年の研究は、CDC7がDNA損傷応答(DDR)およびDNA複製にも関与していることを明らかにし、CDC7がS期の細胞増殖およびDDRのゲノム安定性の両方で重要な役割を果たしていることを示唆している。さらに、高められたCDC7発現は、様々な癌で報告されており、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、口腔扁平上皮癌、乳癌、結腸腫瘍、卵巣腫瘍および肺腫瘍などの予後不良と関連がある。
【0005】
CDC7がDNA複製およびDDRの二つの重要な機能に関与していることを考慮すると、CDC7は癌細胞の増殖および生存に重要な遺伝子であるように思われ、CDC7の阻害は、特定の臓器の種類の癌に限定されない、広範囲の癌で抗増殖およびアポトーシスを誘導すると予想される。CDC7阻害剤を含む併用療法などの新たな癌療法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、治療有効量の(i)化合物1
【0007】
【0008】
および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)一つまたはそれ以上の第2の治療剤および/または第2治療法を投与することを含む、それを必要とする患者の癌を治療する方法を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、DNA損傷剤、チューブリン結合剤、細胞シグナル伝達モジュレーター、HSP90阻害剤、HDAC阻害剤、チェックポイント阻害剤、代謝拮抗剤、エトポシド、エンチノスタット、オバトクラックス、およびツニカマイシンから選ばれる。
いくつかの実施形態では、第2の治療法は、一つまたはそれ以上の照射治療である。
【0010】
いくつかの実施形態では、本開示は、治療有効量の(i)化合物1、一つまたはそれ以上の第2の治療剤および第2の治療法(即ち、照射治療)を投与することを含む、それを必要とする患者の癌を治療する方法を提供する。
【0011】
本開示はまた、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに第2の治療剤を含む医薬組成物、並びに癌を治療するためのその使用を提供する。
【0012】
本開示の別の態様は、癌患者を化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物で、治療するかどうかを決定する方法を提供し、該方法は、
(i)患者からの一つまたはそれ以上のサンプルから、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1およびZNF638からなる群から選ばれる一つまたはそれ以上の遺伝子の、突然変異および/または欠失状態を決定すること;並びに
(ii)一つまたはそれ以上のサンプルが遺伝子の変異および/または欠失を有する場合、治療有効量の化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物で患者を治療することを決定すること
を含む。
【0013】
本開示の別の態様は、
(i)患者からの一つまたはそれ以上のサンプルから、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1およびZNF638からなる群から選ばれる一つまたはそれ以上の遺伝子の突然変異および/または欠失状態を決定すること;並びに
(ii)一つまたはそれ以上のサンプル(i)が突然変異および/または欠失を有する場合、治療有効量の化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物を患者に投与すること
を含む、癌の治療法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、相同組換え(HR)変換修復を示す。
図1Bおよび1Cは、化合物1がHR修復活性を抑制することを示す。
【
図2】
図2Aは、53BP1フォーカスアッセイを示す。
図2Bは、化合物1が照射誘発二本鎖切断(DSB)の修復を遅らせることを示す。
【
図3】
図3は、照射と組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、COLO205ヒト結腸直腸腺癌異種移植腫瘍に対して強い抗腫瘍活性を見せることを示す。
【
図4A】
図4Aは、カルボプラチンと組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、PHTXS-13Oヒト原発性卵巣癌異種移植片に対して強い抗腫瘍活性を見せることを示す。
【
図4B】
図4Bは、ドセタキセルと組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、PHTXM-35Esヒト原発性食道癌異種移植片に対して強い抗腫瘍活性を見せることを示す。
【
図5A】
図5Aは、ドセタキセルと組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、PHTXM-79Esヒト原発性食道癌異種移植片に対して強い抗腫瘍活性を見せることを示す。
【
図5B】
図5Bは、5-FUまたはCPT-11と組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、PHTXM-79Esヒト原発性食道癌異種移植片に対して強い抗腫瘍活性を見せたことを示す。
【
図6A】
図6Aは、ゲムシタビンと組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、PHTX-249Paヒト原発性膵臓異種移植片に対して強い抗腫瘍活性を見せたことを示す。
【
図6B】
図6Bは、パルボシクリブと組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、PHTXS-13Oヒト原発性卵巣癌異種移植片に対して強い抗腫瘍活性を見せたことを示す。
【
図7】
図7は、J558マウス形質細胞腫瘍を有する雌のBALB/cマウスにおける、単剤としての、または組み合わせた、化合物1、抗mPD-1抗体、抗mPD-L1、および抗mCTLA-4のインビボ抗腫瘍活性を示す。
【
図8】
図8は、CT26マウス同系結腸腫瘍モデルを有する雌のBALB/cマウスにおける、単剤としての、または組み合わせた、化合物1、抗mPD-1抗体、およびNKTR-214のインビボ抗腫瘍活性を示す。
【
図9】
図9は、RNASEH2A KO TK-6細胞およびそのカウンターパートナーである親TK-6細胞における化合物1の増殖阻害曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、この開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。従って、以下の用語は、以下の意味を有することを意図する。
【0016】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別であることを示さない限り、複数形の言及を含む。
【0017】
本明細書で使用されるとき、開示化合物の「投与」は、例えば本明細書に記載されるようなあらゆる適切な製剤または投与経路を使用する、本明細書に記載するような化合物またはそのプロドラッグ若しくは他の薬学的に許容される誘導体の、対象への送達を包含する。本明細書で使用されるとき、照射治療の「投与」は、換言すれば放射線腫瘍学の分野で一般に理解されているように、対象への放射の送達を包含する。
【0018】
本明細書で使用されるとき、「有効量」または「治療有効量」は、以下に示すように、疾患治療を含むが、これに限定されない意図された用途を達成するための、本明細書に記載の化合物または医薬組成物の充分な量を指す。いくつかの実施形態では、その量は、癌細胞の増殖または拡散;腫瘍のサイズまたは数;または癌のレベル、ステージ、進行若しくは重症度の他の尺度の、検出可能な殺傷または阻害に有効な量である。治療有効量は、意図される用途(インビトロまたはインビボ)、または治療される対象および病状、例えば対象の体重および年齢、病状の重症度、投与のやり方等に依存して異なり、これは、当業者によって容易に決定することができる。該用語は、標的細胞に特定の応答を誘発する用量、例えば、細胞遊走の減少にも適用される。特定の用量は、例えば、選択された特定の化合物、対象の種およびそれらの年齢/既存の健康状態または健康状態のリスク、従うべき投与計画、疾患の重症度、それが他の薬剤と組み合わせて投与されるかどうか、投与のタイミング、それが投与される組織、およびそれが運ばれる物理的送達システムに応じて変化する
【0019】
本明細書で使用されるとき、「治療(treatment)」および「治療すること(treating)」は、本明細書で交換可能に使用され、治療効果を含むが、これに限定されない、有益または望ましい結果を得るためのアプローチを指す。治療効果とは、治療されている基礎的な障害の根絶または改善を意味する。また、治療効果は、患者が未だ基礎的な障害に苦しんでいる可能性があるにもかかわらず、患者に改善が観察されるように、基礎的な障害に関連する一つまたはそれ以上の生理学的症状の根絶または改善によって達成される。
【0020】
本明細書で使用されるとき、投与が企図される「対象」または「患者」は、ヒト(即ち、あらゆる年齢層の男性または女性)または他の霊長類を含むが、これらに限定されない。
【0021】
用語「含む(comprises)または含むこと(comprising)」は、「含むが、これに限定されない(includes、but is not limited to)」ことを指す。
【0022】
本開示は、治療を必要とする患者の癌を治療する方法を提供する。該方法は、治療有効量の(i)化合物1
【0023】
【0024】
および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)一つまたはそれ以上の第2の治療剤および/または第2の治療法を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0025】
本開示は、さらに、治療有効量の化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに一つまたはそれ以上の第2の治療剤を含む治療組合せを提供する。
【0026】
本開示は、さらに、治療有効量の化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物を含む医薬組成物、並びに第2の治療法を提供する。
【0027】
本開示は、さらに、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物を含む組成物、並びに第2の治療剤を含む組成物、並びに一つまたはそれ以上の照射治療を含む薬学的組合せを提供する。
【0028】
本開示は、さらに、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに第2の治療剤を含む組合せを含有し、それぞれが癌を治療するための使用説明書と別々に包装される、販売品を含むキットを提供する。
【0029】
本開示の併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物を含む。化合物1は、以下の構造を有する:
【0030】
【0031】
化合物1の化学名は、2-[(2S)-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-2-イル]-6-(3-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-4(3H)-オンである。化合物1はCDC7キナーゼ阻害剤である。
【0032】
化合物1以外のCDC7阻害剤も、本明細書に記載の併用療法において良好な抗腫瘍効力を示すことが期待される。従って代替の実施形態では本開示は、さらに、化合物1以外のCDC7キナーゼ阻害剤を含む併用療法を提供する。いくつかの実施形態では、CDC7キナーゼ阻害剤は、LLY3143921、KC-459、MSK-777またはRXDX-103から選ばれ得る。従って本開示は、本明細書に記載されるように、治療有効量のCDC7キナーゼ阻害剤および一つまたはそれ以上の第2の治療剤および/または第2の治療法を患者に投与することを含む、それを必要とする患者の癌を治療する方法も提供する。
【0033】
化合物1の互変異性体または化合物1の薬学的に許容される塩若しくは水和物も、本開示に包含される。化合物1が互変異性体を有する場合、各異性体も本開示中に包含される。
【0034】
本明細書で使用されるとき、「化合物1および/またはその互変異性体」という句などは、全て、化合物1およびその全ての互変異性体を意味すると理解される。非限定例として、互変異性化は、化合物1のピラゾールおよびピリミジン基で起こり得る。化合物1で起こり得る互変異性化の具体例は:
【0035】
【0036】
を含む。
化合物1および/またはその互変異性体は、薬学的に許容される塩の形態で使用し得る。薬学的に許容される塩の例は、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、および塩基性または酸性アミノ酸との塩を含む。
【0037】
化合物1および/またはその互変異性体は、水和物(例えば、半水和物)、無水和物、溶媒和物または無溶媒和物であり得、これらは全て、本開示に包含される。いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体は、半水和物である。
【0038】
化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物またはその結晶形は、参照によりその全体および全ての目的のために本明細書に組み込まれる、PCT公開第WO2011/102399号、米国特許第8,722,660号、米国特許第8,921,354号、米国特許第8,933,069号、および米国特許出願公開第2015/158882号に記載の製造方法、またはそれらに類似する方法によって得ることができる。
【0039】
化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、結晶の形態(例えば、結晶形A、結晶形Iなど)であり得、結晶の結晶形は、単一または複数であり得、それらの両方とも化合物1に包含される。結晶は、ある形態でもよく、参照により全ての目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる、2017年10月5日に公開されたPCT公開第WO2017/172565号に記載の方法によって製造することができる。いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、WO2017/172565に記載されるような結晶形Iの形態であり得る。いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、化合物1の半水和物(即ち、2-[(2S)-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-2-イル]-6-(3-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)チエノ[3,2-d]ピリミジン-4(3H)-オンの半水和物)の結晶形である。例えば、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、化合物1の半水和物の結晶形Iであり得る。
【0040】
本開示の併用療法は、第2の治療剤および/または第2の治療法の投与を含む。いくつかの実施形態では、第2の治療法は照射治療である。いくつかの実施形態では、第2の治療薬は、DNA損傷剤、チューブリン結合剤、細胞シグナル伝達モジュレーター、HSP90阻害剤、HDAC阻害剤、チェックポイント阻害剤、代謝拮抗剤、エトポシド、エンチノスタット、オバトクラクスおよびツニカマイシンから選ばれる。
【0041】
いくつかの実施形態では、併用療法は、第3の薬剤を含む。いくつかの実施形態では、第3の薬剤は、本明細書に記載の第2の治療剤の中から選ばれる治療剤である。
【0042】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物との併用療法で使用されるときに相乗効果を有する薬剤である。例えば、いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物との併用療法で使用されるときに相乗効果を生じると本明細書で報告される化合物または化合物クラスである。
【0043】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、DNA損傷剤である。いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、マイトマイシンC、テニポシド、トポテカン塩酸塩、カルボプラチン、デシタビン、メルファラン、ミトキサントロン塩酸塩、イリノテカン、シスプラチン、オキサリプラチン、ブレオマイシン、ブスルファン、シタラビン、ダウノルビシン、チオテパ、ドキソルビシン塩酸塩、ゲムシタビン、8-メトキシソラレン、アフィジコリングリシナート、ブレフェルジンA、カルムスチン、クロラムブシル、ダカルバジン、ダクチノマイシン、メルカプトプリン、O6-ベンジルグアニン、SN-38、テモゾロミドおよび5-FU(フルオロウラシル)からなる群から選ばれる。
【0044】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、マイトマイシンC(myitomycin C)、テニポシド、トポテカン、カルボプラチン、デシタビン、メルファラン、ミトキサントロHCl、イリノテカン、シスプラチン、オキサリトプラチン(oxalitplatin)、およびブレオマイシンからなる群から選ばれる。
【0045】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、マイトマイシンC(myitomycin C)、テニポシド、トポテカン、カルボプラチン、デシタビン、およびメルファランからなる群から選ばれる。
【0046】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、トポテカン、イリノテカン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、およびゲムシタビンからなる群から選ばれる。
【0047】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、カルボプラチン、5-FU、イリノテカンおよびゲムシタビンからなる群から選ばれる。
【0048】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、5-FU、イリノテカンおよびゲムシタビンからなる群から選ばれる。
【0049】
いくつかの実施形態では、DNA損傷剤は、トポイソメラーゼ阻害剤または白金化合物である。
【0050】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はチューブリン結合剤である。いくつかの実施形態では、チューブリン結合剤は、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン硫酸塩およびコルセミド(colsemid)から選ばれる。いくつかの実施形態では、チューブリン結合剤はドセタキセルである。
【0051】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は細胞シグナル伝達モジュレーターである。いくつかの実施形態では、細胞シグナル伝達モジュレーターは、アルボシジブ、BEZ-235、BKM-120、フラボピリドール、GDC-0941、PKC412、PLX4032、アファチニブ、オシメルチニブ、ポジオチニブ、ラパチニブ、トラメチニブ、コビネチニブ(cobinetinib)、ビニムルチニブ(binimrtinib)、コビネチニブ(cobinetinib)、ビニムルチニブ(binimrtinib)、セルメチニブ、パルボシクリブ、リボシクリブ、ロスコビチン、ミルシクリブ、ダイナシクリブ、フラボピリドール、PHA-793887、AZD5438、BS-181、PF-06873600、KU-55933、KU-60019、VE-821、VE-822、AZD6738、ワートマニン、AZD1390、LY2090314、CHI-99021、ピクチリシブ(pictilicib)、イデラリシブ、ブパリシブ、PI-103、KU-57788、アルペリシブ、ボクスタリシブ、オミパリシブ、PF-04691502、AZD6482、GSK1059615、デュベリシブ、ゲダトリシブ、コパンリシブ、タセリシブ、AMG319、セレタリシブ、ピララリシブ、ボクスタリシブ、セラベリシブおよびネミラリシブから選ばれる。
【0052】
いくつかの実施形態では、細胞シグナル伝達モジュレーターは、GDC-0941、BKM-120、アルボシジブ、BEZ-235、フラボピリドール、PKC412、PLX4032およびパルボシクリブから選ばれる。
いくつかの実施形態では、細胞シグナル伝達モジュレーターはGDC-0941である。
【0053】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はHSP90阻害剤である。いくつかの実施形態では、HSP90阻害剤は、17-AAG、17-DMAGおよびAUY-922から選ばれる。
【0054】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はHDAC阻害剤である。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤は、エンチノスタットおよびパノビノスタットから選ばれる。いくつかの実施形態では、HDAC阻害剤はエンチノスタットである。
【0055】
いくつかの実施形態では、第2の治療薬はチェックポイント阻害剤である。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体、NKTR-214、抗CTLA-4抗体、および抗PD-L1抗体から選ばれる。いくつかの実施形態では、NKTR-214および抗PD-1抗体は、第2の治療剤および第3の治療剤として使用される。
【0056】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブおよびスパルタリズマブから選ばれる。
いくつかの実施形態では、抗CTLA-4抗体は、イピリムマブおよびトレメリズマブから選ばれる。
いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、デュルバルマブおよびアベルマブから選ばれる。
【0057】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はエトポシドである。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はエンチノスタットである。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はオバトクラックスである。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はツニカマイシンである。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はAT101である。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はアザシチジンである。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はバフィロマイシンAである。
いくつかの実施形態では、第2の治療剤はタプシガルギンである。
【0058】
いくつかの実施形態では、第2または第3の治療剤は、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1またはZNF638の遺伝子機能を阻害する一つまたはそれ以上の物質である。
【0059】
いくつかの実施形態では、遺伝子機能を阻害する物質は、(i)遺伝子発現の阻害剤(例えば、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA)および(ii)遺伝子から翻訳されたタンパク質の阻害剤(例えば、低分子化合物、抗体)を含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物の投与を含む、患者が癌治療に治療的に応答する可能性を予測する方法を提供し、該方法は、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1およびZNF638からなる群から選ばれる一つまたはそれ以上の遺伝子の患者からのサンプルの突然変異および/または欠失状態を決定することを含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、遺伝子は、RNASEH2A、RNASEH2BおよびRNASEH2Cからなる群から選ばれる。いくつかの実施形態では、遺伝子はRNASEH2Bである。
【0062】
一つの実施形態では、本開示の方法は、(1)突然変異および/または欠失状態を決定すること、並びに(2)ステップ(1)の状態に基づいて患者が癌治療に治療的に応答する可能性が向上すると予測すること、具体的には、サンプルテストで一つまたはそれ以上の遺伝子が突然変異および/または欠失していることが明らかになった場合に、患者が癌治療に治療的に応答する可能性が向上すると予測することを含む。
【0063】
一つの実施形態では、本開示は、(1)(a)患者から生物学的サンプルを取得するか、または取得したこと(obtaining or having obtained);(b)患者が一つまたはそれ以上の突然変異および/または欠失した遺伝子を有するかどうかを明らかにするために生物学的サンプルに対してアッセイを実施するか、または実施したこと(performing or having performed)によって、患者が突然変異および/または欠失状態を有するかどうかを決定し;(2)患者が突然変異および/または欠失状態を有する場合、治療有効量の化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物を患者に投与することを含む、患者を治療する方法であって、突然変異および/または欠失遺伝子が、ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1およびZNF638から選ばれる方法を提供する。いくつかの実施形態では、該方法は、第2の治療剤、例えばDNA損傷剤をさらに含む。
【0064】
突然変異および/または欠失状態を決定する方法、アッセイまたは試験は、該分野で周知である。そのような方法の例は、RFLP(制限断片長多型)法、PCR-SSCP(一本鎖DNAコンフォメーション多型)法、ASO(対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法、シーケンシング法、ARMS(増幅屈折変異システム(Amplification Refracting Mutation System))法、変性勾配ゲル電気泳動法、RNAse A開裂法、DOL(色素標識オリゴヌクレオチドライゲーション(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation))法、TaqMan PCR法、プライマー伸長法、インベーダー法、スコーピオン-ARMS法、F-PHFA法、パイロシーケンス法、BEAMing法、RT-PCR、FISH、IHC、免疫検出法、ウエスタンブロット、ELISA、放射性免疫アッセイ、免疫沈降、FACS、HPLC、表面プラズモン共鳴、光学分光法、および質量分析を含むが、これらに限定されない。特に、次世代シーケンシング法、例えば、全エクソームシーケンシング(WES)およびRNAシーケンシング(RNASeq)を使用することができる。
【0065】
方法、アッセイまたは試験で使用される生物学的サンプルの例は、血清、全新鮮血(whole fresh blood)、末梢血単核細胞、凍結全血、新鮮血漿、凍結血漿、尿、唾液、皮膚、毛包、骨髄、腫瘍組織、腫瘍生検、またはアーカイブされたパラフィン包埋腫瘍組織を含むが、これらに限定されない。該サンプルは、好ましくは癌細胞を含む腫瘍組織または腫瘍生検である。
【0066】
遺伝子の突然変異の状態は、例えば、遺伝子のゲノムDNA、タンパク質および/またはmRNA転写物のレベルであり得る。好ましくは、遺伝子における突然変異の有無は、ゲノムDNAまたはmRNA転写物のレベルで決定される。
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示の併用療法は、一つまたはそれ以上の照射治療を含み得る。例えば、本開示の併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに一つまたはそれ以上の照射治療の投与を含み得る。癌を治療するための照射治療は該分野で周知である。例えば、Principles and Practice of Radiation Therapy, Washington and Leaver, 第4版, 2015 参照。以下の実施例欄の実施例4は、X線照射装置を使用して毎日3Gyの線量で照射された結腸直腸異種移植腫瘍を有するマウスの治療を記載する。その結果は、化合物1の治療と組み合わせた照射治療の有効性を示す。
【0068】
いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに第2の治療剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第19版, Gennaro 編, Mack Publishing Co., イーストン, PA, 1995 に開示されているような従来の技術に従って、薬学的に許容される担体または希釈剤、並びにあらゆる他の公知の補助剤および賦形剤を含む医薬組成物として製剤化され得る。
【0069】
本開示の実施形態で使用される医薬組成物は、希釈剤、フィラー、塩、緩衝剤、洗剤(例えば、Tween-80などの非イオン性洗剤)、安定剤(例えば、糖またはタンパク質フリーのアミノ酸)、保存料、組織固定剤、可溶化剤、および/または医薬組成物に含めるのに適した他の材料も含み得る。
【0070】
本開示の実施形態で使用される化合物は、経口、経鼻、吸入可能、局所(頬、経皮および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経口経路などのあらゆる適切な経路を介して投与され得る。
【0071】
或る実施形態で、本開示で使用される、一つまたはそれ以上の化合物は、例えば、不活性希釈剤または吸収できる食用担体と共に、経口投与される。有効成分を、ハードまたはソフトシェルのゼラチンカプセルに封入するか、または錠剤に圧縮することができる。経口投与に適した医薬組成物は、該分野で適していると知られているような担体を含有する、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハーなどを含む。
【0072】
或る実施形態では、本開示で使用される一つまたはそれ以上の化合物は、非経口的に投与される。本明細書で使用される、「非経口投与(parenteral administration)」および「非経口投与される(administered parenterally)」という句は、経腸および局所投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、上皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外および胸骨内注射および注入を含む。
【0073】
この開示の方法は、癌患者に効果的な治療を提供する。いくつかの実施形態では、本開示の併用療法で治療される癌は、CDC7によって媒介される癌(例えば、結腸直腸癌(例えば、転移性結腸直腸癌)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(例えば、扁平上皮非小細胞肺癌(局所進行性扁平上皮非小細胞肺癌および転移性扁平上皮非小細胞肺癌を含む))、中皮腫、膵臓癌(例えば、転移性膵臓癌)、咽頭癌、喉頭癌、食道癌(例えば、扁平上食道癌)、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、乳癌、卵巣癌、精巣腫瘍、前立腺癌、肝臓癌、甲状腺癌、腎臓癌、子宮癌、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、皮膚癌、骨腫瘍、膀胱癌、血液癌(例えば、多発性骨髄腫、白血病、悪性リンパ腫、ホジキン病、慢性骨髄増殖性疾患)である。
【0074】
いくつかの実施形態において、この開示の併用療法で治療される癌は、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(例えば、局所進行性扁平上皮非小細胞肺癌および転移性扁平上皮非小細胞肺癌を含む扁平上皮非小細胞肺癌))、結腸直腸癌(例えば、転移性結腸直腸癌)、卵巣癌、膵臓癌(例えば、転移性膵臓癌)、食道癌、前立腺癌、乳癌、形質細胞腫、肝細胞腫、黒色腫、およびリンパ腫からなる群から選ばれる。いくつかの実施形態では、癌は、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(例えば、局所進行性扁平上皮非小細胞肺癌および転移性扁平上皮非小細胞肺癌を含む扁平上皮非小細胞肺癌))、結腸直腸癌(例えば、転移性結腸直腸癌)、卵巣癌、および膵臓癌(例えば、転移性膵臓癌)から選ばれる。
【0075】
いくつかの実施形態では、この開示の併用療法で治療される癌は、白金化合物に耐性がある癌である。
【0076】
いくつかの実施形態で、この開示の併用療法で治療される癌は、癌細胞における相同組換えを修復することができる種類の癌である。相同組換えを修復できる癌は、その癌がHRD(相同組換え欠損)ではないことを意味する。HRD癌の一例は、BRCA変異癌である。HRDについて癌を試験するための市販キットがある。一つの方法は、患者からの生物学的サンプルから、二本鎖DNA切断の修復に関与する一つまたはそれ以上のヒト遺伝子の発現レベルを測定することであり、ここで、生物学的サンプルは、患者からの腫瘍細胞または組織であり、および一つまたはそれ以上のヒト遺伝子は、RPA、ATRIP、ATR、Mre 11/Rad50/ΝΒS1、ATM、MDC1、BRCA1、53ΒΡ1、CtIP、Rifl、ku70、ku80、アルテミス、DNA-pk、XRCC4/リガーゼIV、Rad 51、Palb2、BRCA2、RAD52、XRCC3/RAD51C、XRCC2/RAD51B/RAD51D、RAD51AP1、BLM、PAR、RAD54L、RAD54B、Fbhl、WRN、MYC、およびSTAT3の群からなる群から選ばれる二つまたはそれ以上の遺伝子を含む。例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS2016/0369353A1参照。
【0077】
いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物の用量強度(dose strength)は、5~200mgの範囲である。例えば、いくつかの実施形態において、医薬品は、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、または200mgの化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物の用量強度を含む。いくつかの実施形態では、成人(体重約60kg)に投与される化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物の1日量は、10~200mgの範囲である。他の実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物の成人への1日量は、約1~1000mg、約3~300mg、または約10~200mgであり、これは、単回投与または1日2または3回投与で与えることができる。いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、経口投与される。
【0078】
いくつかの実施形態では、併用療法はトポテカンを含み、ここでトポテカンは、約0.1~約10mg/m2(例えば、約0.5~約2mg/m2;または約1.5mg/m2または約0.75mg/m2)の用量で静脈内投与される。
【0079】
いくつかの実施形態では、併用療法はカルボプラチンを含み、ここでカルボプラチンは、約50mg/m2~約1000mg/m2(例えば、約100~約500mg/m2、または約300mg/m2)の用量で静脈内投与される。
【0080】
いくつかの実施形態では、併用療法はゲムシタビンを含み、ここでゲムシタビンは、約100~約5000mg/m2(例えば、約500~約2000mg/m2、または約1000mg/m2)の用量で静脈内投与される。
【0081】
いくつかの実施形態では、併用療法はイリノテカンを含み、ここでイリノテカンは、約10mg/m2~約500mg/m2(例えば、約50~約300mg/m2、または約125mg/m2または約180mg/m2)の用量で静脈内投与される。
【0082】
或る実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、毎日、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、1週間に1回、2週間に1回、または4週間に1回投与される。
【0083】
或る実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに第2の治療法は、あらゆる順序で同時にまたは順次に投与され得る。或る実施形態では、それらは、一つまたはそれ以上の医薬組成物で、別々にまたは一緒に投与され得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物は、癌患者への第2の治療剤の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間前)に、それと同時に、またはその後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間後)に投与することができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物が1~14日目に1日1回投与され、且つ照射治療が1、2、3、8、9および10日目に行われる14日サイクルを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物が1~28日目に1日1回投与され、トポテカンが1~5および15~19日目に投与される28日サイクルを含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物が1~28日目に1日1回投与され、カルボプラチンが1、5、9、13、17、21および25日目(即ち、4日ごと)に投与される28日サイクルを含む。
【0088】
いくつかの実施形態では、併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物が1~14日目に1日1回投与され、カルボプラチンが1、5、9および13日目(即ち、4日ごと)に投与される14日サイクルを含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物が1~21日目に1日1回投与され、ゲムシタビンが1、4、8、11、15および18日目(即ち、週に2回)に投与される21日サイクルを含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、併用療法は、化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物が1~21日目に1日1回投与され、イリノテカンが1、5、9、13、17および21日目(即ち、4日ごと)に投与される21日サイクルを含む。
【0091】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)一つまたはそれ以上の照射治療を投与することを含む、それを必要とする患者の結腸直腸癌を治療する方法である。
【0092】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)カルボプラチンを投与することを含む、それを必要とする患者の卵巣癌を治療する方法である。
【0093】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)ドセタキセルを投与することを含む、それを必要とする患者の食道癌を治療する方法である。
【0094】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)5-FUまたはCPT-11を投与することを含む、それを必要とする患者の食道癌を治療する方法である。
【0095】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)ゲムシタビンを投与することを含む、それを必要とする患者の膵臓癌を治療する方法である。
【0096】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)抗mPD-1抗体、抗mPD-L1抗体、または抗mCTLA-4抗体を投与することを含む、それを必要とする患者の形質細胞腫を治療する方法である。
【0097】
いくつかの実施形態で本明細書に開示されるのは、治療有効量の(i)化合物1および/またはその互変異性体またはその薬学的に許容される塩若しくは水和物、並びに(ii)抗mPD-1抗体および/またはNKTR-214を投与することを含む、それを必要とする患者の結腸癌を治療する方法である。
【実施例】
【0098】
実施例1:インビトロ研究
化合物1の抗増殖活性を増強する薬剤を特定するために、COLO205、A549、SW620、SW48、H460、およびHCT116癌細胞で、アッセイ実行およびデータ分析のための完全自動システムを使用して、様々な薬剤と化合物1とのインビトロ併用試験を実施した。細胞生存率の尺度としてアデノシン5’-三リン酸(ATP)を使用し、化合物1との組合せは、それらの抗増殖効果に基づいて、相乗的(synergistic)、加法的(additive)、劣加法的(sub-additive)、または拮抗的(antagonistic)と分類した。組合せの成績は、試験した六つの細胞株で最も頻繁に発生する相乗効果に基づいてランク付けした。
【0099】
化合物1の原液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)で調製した。連続的に希釈した原液(0.003~200μM)は、約4℃で保存した。
【0100】
実施例1で使用した細胞株を表1に列挙する。
【0101】
【0102】
各組合せのペアは、単剤として両方の化合物の可変用量を含有する個々の384ウェルプレート、および二つの試験化合物の混合物を含有する二つの10×10マトリックス(重複)で評価した。手短に言えば、化合物を、細胞平板培養の16時間後に細胞試験プレートに添加し、次いで72時間後に生存率を評価した。腫瘍細胞の連続培養は、標準的な細胞培養条件下(即ち、37℃に設定された、5%二酸化炭素雰囲気を含む加湿チャンバー内)で維持した。細胞カウント後、細胞を25μLの細胞培養培地のアッセイプレートに平板培養した。化合物添加の72時間後、細胞生存率を評価するためにATPレベルを測定した。平板培養密度は、72時間にわたって最適な線形増殖を確保するように選択した。
【0103】
化合物の希釈およびアッセイプレートへの化合物の送達は、EchoTM Liquid Handler(Labcyte、サニーベール、CA、USA)を備えた HighRes Robotic System(HighRes Biosolutions、ウォバーン、MA、USA)で行った。まず、DMSO(付属B)および10mMの化合物の原液を含有する384ウェル低デッドボリューム(low dead volume)(LDV)プレートを使用して、必要な中間化合物の希釈プレートを作製した。次に、これらを細胞アッセイプレートへの化合物の移動のために使用した。全てのウェルを埋め戻し、一定の割合のDMSOを与えた。
【0104】
最終的なDMSO濃度は、プレート全体の全てのウェルで一定に保ち、0.5%未満に維持した。予備研究は、0.5%のDMSOでは、DMSO無しで増殖した細胞と比べて、増殖速度に識別可能な違いが無いことを示す。各標的薬剤の用量濃度は、不活性から(最大増殖阻害を引き起こすと定義される)最大効果までの範囲であった。これらの細胞生存率データセットを使用して、50%効果(EC50)値を生ずる単剤濃度を計算し、阻害剤の組合せ応答を分類した。二列のビヒクル(DMSO)で処理した細胞、または一つのプレート行/列の単一化合物の段階希釈は、それぞれ未処理のコントロールと単一化合物のコントロールとして機能した。
【0105】
Cell Titer-Glo(登録商標)細胞増殖アッセイ
A549、COLO205、H460、HCT116、SW48、SW620癌細胞株における化合物活性は、Cell Titer-Glo(登録商標)(Promega [マディソン、WI、USA])を使用して評価した。72時間のインキュベーション後、Promega Luminescence ATP 検出システムの添付文書プロトコルに従ってプレートを処理した。手短に言えば、25μLの細胞溶解/基質溶液(キット形態で提供)を各ウェルに添加し、プレートを室温で10分間インキュベートした。発光は、PHERAstar マルチラベルカウンター(BMG Labtech[オルテンベルク、ドイツ])または LEADseeker(GE Healthcare Life Sciences[ピスカタウェイ、NJ、USA])を使用して測定した。
【0106】
データ分析 ATPliteTM 細胞増殖アッセイ
発光数値を分析して、EC50曲線を生成し、相乗効果を評価した。データリーダーファイルは、プレートおよびウェル内容物を定める自動ワークファイルと共にアップロードされた。活性%は、プレートコントロールに対して各ウェルについて計算した。
【0107】
統計
単剤組合せに対応する各プレートを別々に分析した。まず、生存率の測定値は、ネガティブコントロールの中央値が0、ポジティブコントロールの中央値が100であるようにデータをスケーリングすることによって正規化した。プレート上のいくつかのウェルは一つの薬剤のみを含有し、このデータを使用して、このデータをヒルの式に当てはめることによって、単剤のEC50を計算した。
【0108】
組合せ分析では、応答曲面モデルを使用して、正規化された生存率および薬物濃度の関係を記載した。残差平方和を最小化することによって、データをモデルに適合させた。適合させた応答曲面に基づいて、アイソボログラムと呼ばれる一定の生存率のプロットを作成した。
【0109】
組合せインデックス(Combination Index)および非線形混合(Nonlinear Blending)を、薬物の相乗効果の尺度として使用した。組合せインデックスを計算するために、50%アイソボログラム(50%生存率を有する用量輪郭(dose contour))を使用した。Cramer-Rao 下限を使用して、これらの測定値の両方のために標準誤差を使用した。各組合せの生存率効果(相乗(synergy)、加法性(additivity)、劣加法性(subadditivity)または拮抗(antagonism))を特性評価するために、呼び出し(call)を生成するための標準的な手順を作成した。組合せインデックスが存在する場合、これらの測定値を使用して呼び出しを作成した。一方または両方または化合物が、生存率の50%低下を達成しなかったために組合せインデックスが存在しなかった場合は、非線形混合に基づく同様の手順を使用して、呼び出しを作成した。表2および3は、これらの呼び出しがどのように作成されたかを示す。
【0110】
【0111】
【0112】
表4は、試験した化合物1およびDNA損傷剤の組合せの抗増殖活性の結果を示す。これらの研究は、化合物1と組み合わせて、トポイソメラーゼ阻害剤および白金化合物などのDNA損傷剤が、相乗的な抗増殖効果の発生が最も高いことを明らかにした。
【0113】
【0114】
表4:組合せは、複数の細胞株での相乗効果の発生に基づいて並べられている。確定不可または不確定とラベル付けされた全ての実験は、少なくとも2回繰り返した。確定不可とは、使用した特定の細胞株または化合物におそらく固有である、低いデータ品質を指す。不確定とは、統計的基準に基づいて呼び出しを作成することができないことを指す。「---」の組合せ結果は、この研究では実行しなかった。
【0115】
表5は、試験した化合物1と、チューブリン結合剤等との組合せの抗増殖活性の結果を示す。これらの研究は、化合物1と組み合わせて、これらの薬剤が或る条件で相乗的または加法的な抗増殖効果等を示すことを明らかにした。
【0116】
【0117】
実施例2:選択した化合物、追加の細胞株のインビトロ研究
選択した化合物のインビトロ抗増殖効果を、卵巣癌(SKOV3)および膵臓癌(MIA-PACA-2)細胞株を含む追加の細胞株で試験した。該研究は、トポイソメラーゼ阻害剤およびDNA架橋剤が、いくつかの癌細胞株で化合物1に加法的または相乗的効果を誘発することを明らかにした。結果を表6に示す。
【0118】
【0119】
実施例3A:化合物1は相同組換え(HR)修復活性を抑制する
相同組換え(HR)の効率は、I-SceI発現プラスミド(I-SceI)と、二つの異なる突然変異GFP遺伝子から構成され、その一つは特有のI-SceI制限部位を含有するI-SceI修復レポータープラスミド(DR-GFP)とを使用して評価した(
図1A)。該アッセイは、I-SceI消化によって引き起こされた二本鎖切断の遺伝子変換修復を通じて働く。相同組換えによって修復されたDR-GFPプラスミドは、GFPを発現する。ヒト胎児腎臓293T細胞に、化合物1の存在下(300nM)または非存在下の10μgのI-SceIを加えた5μgのDR-GFPのいずれかでトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、細胞を4%のパラホルムアルデヒドで室温で20分間固定し、GFP発現細胞の数をフローサイトメトリーで評価した(
図1Bおよび1C)。
これらの結果は、化合物1がHR修復活性を抑制することを示す。
【0120】
実施例3B:化合物1は照射(IR)誘発DNA二本鎖切断(DSB)の修復を遅らせる
ヒト子宮頸部腺癌HeLa細胞を、300nMでの化合物1の有りまたは無しで処理し、その後、X線照射装置(MBR-1520R-3、株式会社日立パワーソリューションズ、茨城)を使用して4Gyで照射(IR)処理を行った。IR処理の8または48時間後、次の免疫蛍光実験のために細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定した。53BP1のフォーカス形成は、IR誘発DSBの指標として使用した。透過処理後、細胞を抗53BP1抗体(2μg/ml)と37℃で60分間インキュベートし、次いで Alexa-594 標識二次抗体と37℃で30分間インキュベートした。画像は、Axiovert 200M 顕微鏡(Carl Zeiss)で撮影した。
【0121】
IRのみで処理した細胞では、53BP1フォーカス陽性細胞(≧10フォーカス/細胞)はIR処理の8時間後に劇的に増加したが、該フォーカス陽性細胞は、処理無しの細胞と同等のレベルで減少し、これは、DNA修復がIR処理後48時間で完了したことを示す(
図2Aおよび
図2B)。反対に、IRおよび化合物1で共同処理した細胞では、53BP1フォーカス陽性細胞がIR処理の48時間後に高頻度で観察された。これらのデータは、化合物1がIR誘発DSBの修復を遅らせることを示唆する(
図2B)。
【0122】
実施例2Aおよび2Bの結果に基づき、化合物1およびDNA損傷剤の組合せが、癌を治療するために相乗的に作用する可能性があるとの仮説が立てられた。
【0123】
実施例4:COLO205ヒト結腸直腸腺癌異種移植片を有するヌードマウスにおける単剤としておよび組合せた、化合物1および照射のインビボ抗腫瘍活性
ヒト結腸直腸癌細胞株、COLO205異種移植モデルは、細胞懸濁液の皮下注射によって確立した(5×10
6細胞/100μl/部位、ハンクス平衡塩および BD matrigel
TM マトリックス(BD biosciences)の1:1混合物中)。腫瘍のサイズが約200mm
3のマウスは、投与開始日の前日(0日目)にランダムに投与群に割り当てた。化合物1を0.5w/v%のメチルセルロースに懸濁させ、1~14日目に1日1回40mg/kgの用量でマウスに経口投与した。照射群のマウスは、ペントバルビタール麻酔下で1、2、3、8、9および10日目ごとに3Gyの線量で照射した。マウスの脇腹の腫瘍をX線照射装置(MBR-1520R-3、株式会社日立パワーソリューションズ、茨城)を使用して照射し、マウスの非腫瘍部分を鉛板で遮蔽した。腫瘍のサイズはキャリパーで測定し、腫瘍の体積は、式V=(LW
2)/2(式中、LおよびWは、それぞれ腫瘍の長さおよび幅である)を使用して推定し、立方ミリメートルで報告した(
図3)。この研究の結果は、照射と組み合わせた化合物1が、各々の単独治療のみと比べて、COLO205ヒト結腸直腸腺癌異種移植腫瘍に対する強い抗腫瘍活性および向上した抗腫瘍効果を見せたことを示す。
【0124】
実施例5:細胞由来異種移植片(CDX)、患者由来異種移植片(PDX)および同系マウス腫瘍同系移植片モデルにおける他の薬剤と組み合わせた化合物1のインビボ抗腫瘍活性
他の薬剤と組み合わせた化合物1のインビボ抗腫瘍活性を調べるために、細胞由来異種移植片(CDX)、患者由来異種移植片(PDX)および同系マウス腫瘍同系移植片モデルを使用した試験を行った。表7に示すように、細胞または患者に由来する腫瘍を、以下の二つの方法(方法AおよびB)の一つの方法で接種した。
方法A;免疫不全ヌードマウスまたは免疫適格マウスのいずれかで、立派なマウス(respected mice)に様々な濃度で腫瘍細胞を皮下接種することによって、細胞を維持した。
方法B:ヌードマウスに腫瘍片(約2×2×2mm)を皮下接種することによって、ヌードマウスで患者由来の腫瘍を維持した。同系マウスの研究のために約50mm3(例えば、40~75mm3)の、または異種移植片の研究のために200mm3(例えば、110~270mm3)の腫瘍のサイズを有するマウスを、投与開始日の前日(0日目)に投与群にランダムに割り当てた。
【0125】
化合物1(結晶形I)を、0.5w/v%のメチルセルロースに懸濁させ、マウスに経口投与した。実験で投与した抗体を表8に記載する。
表9に示すように併用薬を投与した。
【0126】
腫瘍のサイズはキャリパーで測定し、腫瘍の体積は、式V=(LW2)/2(式中、LおよびWは、それぞれ腫瘍の長さおよび幅である)を使用して推定し、立方ミリメートルで報告した。
【0127】
腫瘍増殖に対する組合せ効果の統計分析は、以下のように行った:
全ての腫瘍値(腫瘍体積または光子束)は、log10変換前に1の値を加えた。これらの値を治療群間で比較して、経時的な傾向の違いが統計的に有意であるかどうかを評価した。治療群のペアを比較するために、最尤法を使用して、次の混合効果線形回帰モデルをデータに適合させた:
【0128】
【0129】
ここで、Yijkは、i番目の治療におけるk番目の動物のj番目の時点でのlog10腫瘍値であり、Yi0kは、i番目の治療におけるk番目の動物の0日目(ベースライン)のlog10腫瘍値であり、日jはメジアン中央の時点であり、(日2
jとともに)連続変数として扱われ、eijkは残余誤差である。空間べき乗則(spatial power law)共分散マトリックスを使用して、同じ動物での経時的な繰返し測定を説明した。交互作用項および日2
j項は、統計的に有意でない場合、削除した。
【0130】
尤度比検定を使用して、所定のペアの治療群が統計的に有意な差を示したかどうかを評価した。完全モデルの-2対数尤度を、処理項のないもの(縮小モデル)と比較し、値の差をカイ二乗検定を使用して試験した。試験の自由度は、完全モデルの自由度と縮小モデルの自由度との差として計算した。log腫瘍値の予測される差(Yijk-Yi0k、これはlog10(0日目からの変化倍率)と解釈できる)を上記モデルから取得して、各治療群の平均AUC値を計算した。次いでdAUC値を次のように計算した:
【0131】
【0132】
これは、AUCctlが正であると仮定した。AUCctlが負である場合、上記式に-1を掛けた。
【0133】
相乗効果分析では、log腫瘍値で観察された差を使用して、各動物のAUC値を計算した。治療群の動物が研究から除外された場合、最後に観察した腫瘍値を、その後の全ての時点で繰り越した。コントロールまたはビヒクル群のAUCは、上記のペアワイズモデルからの予測値を使用して計算した。我々は、相乗効果の尺度を次のように定義した:
【0134】
【0135】
ここで、AkおよびBkは、個々の治療群のk番目の動物であり、ABkは組合せ治療群のk番目の動物である。AUCctlは、コントロール群のモデル予測AUCであり、変動のない定数として扱った。相乗効果スコアの標準誤差は、群A、BおよびAB全体の二乗した標準誤差の合計の平方根として計算した。自由度は、ウェルチ-サタスウェイトの式(Welch-Satterthwaite equation)を使用して推定した。相乗効果スコアが0と異なるかどうかを決定するために、仮説検定を実施した。P値は、相乗効果スコアをその標準誤差で割って計算し、上記で計算した自由度のt分布(両側)に対して検定した。
【0136】
効果を四つの異なるカテゴリーに分類した。相乗効果スコアが0未満である場合は相乗的とみなし、相乗効果スコアが0と統計的に異ならない場合は加法的とみなした。相乗効果スコアがゼロより大きいが、組合せの平均AUCが二つの単剤治療の中で最低の平均AUCよりも低かった場合、その組合せは劣加法的であった。相乗効果スコアがゼロより大きく、組合せの平均AUCが単剤治療の少なくとも一つの平均AUCよりも大きかった場合、その組合せは拮抗的であった。
【0137】
必要である場合、間隔分析は、別の治療群および時間間隔と比較した特定の治療群および時間間隔を含んだ。所定の群、時間間隔および動物について、1日あたりの腫瘍増殖率は、
【0138】
【0139】
によって推定した。ここでΔYは対象の間隔でのlog10腫瘍体積の差であり、Δtは時間間隔の長さである。一方または両方の時点が欠落している場合、その動物を無視した。次いで、不均等な分散を有する両側の対応のないt検定を使用して、動物全体の平均率を比較した。
【0140】
この研究の探索的性質を考慮して、多重比較および調べられたエンドポイントに対して事前に指定された調整は無かった。この分析では、全てのP値<0.05を統計的に有意と判定した。
この研究の結果を表9に示した。
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
実施例6
化合物1の治療で感受する可能性のある遺伝子を発見するために、CRISPR-Cas9ノックアウトスクリーニングを Horizon Discovery Ltd(ケンブリッジ、UK)で行った。12の癌細胞株(A549、BxPC3、Calu-1、COLO205、KYSE140、KYSE150、KYSE520、KYSE70、MIA PaCa-2、NCI-H292、PANC1、およびRKO)および1969遺伝子のカスタムgRNAライブラリー(custom gRNA library for 1969 genes)をスクリーニングに使用した。
【0152】
細胞を、gRNAおよびCas-9を含有するレンチウイルスで2時間処理し、次いで細胞をフレッシュな(flesh)培地に再懸濁させた。48時間の回復期の後、ピューロマイシンを添加して、細胞を選択した。選択の完了後、細胞を、DMSO、低用量の化合物1、または高用量の化合物1を含有する培地で維持した。化合物1の用量は、適切な選択圧を維持するために各継代で調整した。DMSOで処理した細胞の12集団倍加の後、細胞を採取し、ディープフリーザーで保存した。細胞のゲノムDNAを抽出した。アンプリコンシーケンシングのために、Illumina NextSeq 次世代シーケンシング(NGS)プラットフォームを使用して、サンプルを調製および精製した。NGSデータセットの分析は、Horizon のデータ処理スクリプトを使用して行った。以下の式を使用してデータを分析し、各遺伝子のエンリッチメントスコアおよびそのP値を計算した。
【0153】
エンリッチメントスコア(ES)=log2(化合物1+ガイドi)+log2(コントロール+ダミーガイド)-log2(化合物1+ダミーガイド)-log2(コントロール+ガイドi)
【0154】
コントロール(DMSO処理)細胞と、低用量の化合物1処理の細胞との比較で、ES<0およびP値<0.05の遺伝子を、感受性ヒット遺伝子として定義した。以下の遺伝子を、三つより多い癌細胞株における感受性ヒット遺伝子として同定した;
ALKBH6、APEX1、APEX2、ARFGEF1、ASF1A、ASF1B、ATRX、BAZ1B、C21orf2、CAV1、CDC25B、CDK19、CDKN1B、CNOT2、CNOT4、DBF4、DDX5、E2F4、ERCC4、ESCO2、FAF1、FANCD2、FANCG、FANCI、FANCL、FBXO5、FBXW7、FOXM1、GMNN、HIST1H3G、IKZF2、ITGB6、KMT2E、KPNA2、MAD2L2、MAP3K7、MLLT1、MTBP、NAE1、NHEJ1、POLA2、POT1、PPP2R5D、PPP4R2、PSMC3IP、PUS1、RAD54L、RFWD3、RNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2C、RNF8、RTEL1、SMARCA4、STK11、TAOK3、TICRR、TIPIN、UBE2A、UBE2C、UHRF1、UNG、USP1、USP37、USP7、VRK1、WEE1、XRCC1、ZNF638。
【0155】
この実験は、上記ヒット遺伝子の少なくとも一つの遺伝子の突然変異または欠失が、癌細胞を化合物1に対してより感受性にさせることを明らかにした。
【0156】
実施例7
RNASEH2Aが化合物1への感受性に関与しているかどうかをさらに判断するために、化合物1のインビトロ増殖阻害アッセイを、RNASEH2Aノックアウト(KO)TK-6細胞およびその対応物である親TK-6細胞で実施した。RNASEH2A KO TK-6細胞およびその対応物である親TK-6細胞は、物質移動合意書に基づいて京都大学から入手した。細胞株は、10%ウシ胎児血清(CORNING Inc.、NY、USA)、ピルビン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)およびペニシリン-ストレプトマイシン(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)が供給されたRPMI-1640培地(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)で培養した。化合物1の原液をジメチルスルホキシド(DMSO)で調製し、約-20℃で保存した。
【0157】
細胞増殖は、Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega、WI、USA)を使用して測定した。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay は、代謝的に活性な細胞の存在を示す、存在するATPの定量に基づいて、培養中の生細胞数を決定する均質な方法である。化合物1を希釈し、溶液を384ウェルプレートに20μL/ウェルで平板培養した。次いで、培地中の細胞20μLを播種して、500細胞/ウェルでの最終密度に調節し、インキュベーター(37℃、5%二酸化炭素)で培養した。72時間のインキュベーション後、Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assayの溶液20μLを各ウェルに添加し、室温で約30分間インキュベートした。各ウェルの発光は、EnVision
TM(PerkinElmer Inc.、MA、USA)によって測定した。DMSO処理コントロール群のATP含有量を100%として、各処理群の残存ATP含有量の比を決定した。RNASEH2A KO TK-6細胞およびその対応物である親TK-6細胞における化合物1の増殖阻害曲線を、GraphPad Prism(GraphPad Software、Inc.、CA、USA)を使用して記載し、
図9に示す。この実験は、RNASEH2A KOTK-6細胞が、WT TK-6細胞よりも化合物1に対してより感受性であることを明らかにした。