(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】アミド化合物の水素化に用いる水素添加反応用触媒およびこれを用いたアミン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/19 20060101AFI20241127BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241127BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241127BHJP
C07C 209/68 20060101ALI20241127BHJP
C07C 211/08 20060101ALI20241127BHJP
C07C 211/27 20060101ALI20241127BHJP
C07C 211/48 20060101ALI20241127BHJP
C07D 209/44 20060101ALI20241127BHJP
C07D 295/02 20060101ALI20241127BHJP
C07D 295/03 20060101ALI20241127BHJP
C07D 487/08 20060101ALI20241127BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
B01J27/19 Z
B01J37/02 101D
B01J37/08
C07C209/68
C07C211/08
C07C211/27
C07C211/48
C07D209/44
C07D295/02
C07D295/03
C07D487/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021502133
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006760
(87)【国際公開番号】W WO2020175309
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019032959
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019103938
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019140449
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 清臣
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】木村 未歩
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】今仲 庸介
(72)【発明者】
【氏名】鈴鹿 弘康
(72)【発明者】
【氏名】小島 達也
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/066112(WO,A1)
【文献】特開2012-121843(JP,A)
【文献】特開平08-245524(JP,A)
【文献】特開平09-241222(JP,A)
【文献】特開2016-160243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00- 38/74
C07B 61/00
C07C 209/68;211/08;211/27;211/48
C07D 209/44;295/03;295/02;487/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウムとモリブデンがハイドロキシアパタイトに担持されたことを特徴とするアミド化合物の水素添加反応用触媒。
【請求項2】
アミド化合物が、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物である請求項1に記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒。
【請求項3】
アミド化合物を、請求項1または2の何れかに記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒に接触させて水素添加し、アミン化合物を得ることを特徴とするアミン化合物の製造方法。
【請求項4】
水素添加を、100℃以下で行うものである請求項3に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項5】
水素添加を、5MPa以下で行うものである請求項3または4に記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
更に、アミド化合物をモレキュラーシーブスにも接触させる請求項3~5の何れかに記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項7】
アミド化合物が、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物である請求項3~6の何れかに記載のアミン化合物の製造方法。
【請求項8】
溶媒中で、ロジウムとモリブデンをハイドロキシアパタイトに担持させた後、これを乾燥することを特徴とする請求項1または2の何れかに記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【請求項9】
ハイドロキシアパタイトとロジウム化合物を含有する溶媒液とを混合した後、モリブデン化合物を含有する溶媒液を混合して、ロジウムとモリブデンを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させるものである請求項8記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【請求項10】
溶媒が、水である請求項8または9の何れかに記載のアミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド化合物をアミン化合物にする水素添加反応に用いる、ロジウムとモリブデンを含み、ハイドロキシアパタイトに担持された触媒およびこれを用いたアミン化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミド化合物をアミン化合物にする還元反応は、アミドが難還元性であるため、カルボン酸誘導体の還元の中で最も難しい反応の一つである。
【0003】
アミド化合物をアミン化合物にする還元反応は研究等の少量試験では水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等の強力な還元剤を化学量論的に用いる方法が一般だが、工業規模の合成に使用するには大量の金属廃棄物の発生や反応性が高いために大量に用いると水素等が発生し危険であり、後処理等の操作が煩雑であること等が問題となっていた。
【0004】
一方、分子状水素を還元剤とするアミドからアミンへの還元反応は、無害な水のみを副生するため環境調和型のアミンの合成方法である。このアミドの触媒的水素還元反応は古くから研究されており、銅-クロム、レニウムまたはニッケル触媒を用いて行われてきたが、水素圧200気圧、反応温度200℃以上等の高温高圧な反応条件を必要とする。
【0005】
近年、非特許文献1や2ではモレキュラーシーブスを反応系内に添加することで120℃、10atmまたは160℃、5atmという低温低圧条件下でのアミドの水素化が報告されている。しかし、基質適用性に乏しく、C-N開裂によるアルコールが副生してしまうという問題点があった。また、これらの触媒は再使用できない。
【0006】
また、非特許文献3で報告されている均一系触媒を用いた反応もあるが、C-N開裂によるアルコールが副生してしまうという問題点があった。また、均一系触媒を用いた反応では高価な触媒を繰り返し使用することが難しい。
【0007】
このようなアミドの水素化に関しては、上記の他シリカなど広く一般的に使用される担体を用いた不均一触媒を用いた反応(非特許文献4)や、各種炭酸塩を使用した均一系触媒を用いた反応(非特許文献5)に関する報告もあるが、いずれも転化率や収率で劣るものであったり、使用に際して高温条件を要するなと市場における要求を満たすものでは無かった。
【0008】
そのため、工業的に使用するためには、温和な条件下でも使用でき、高い活性を維持したまま、繰り返し使用できるような耐久性が高い触媒が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】R. Burch, C. Paun, X.-M. Cao, P. Crawford, P. Goodrich, C. Hardacre, P. Hu, L. McLaughlin, J. Sa, J. M. Thompson, Catalytic hydrogenation of tertiary amides at low temperatures and pressures using bimetallic Pt/Re-based catalysts. J. Catal. 283, 89-97 (2011)
【文献】M. Stein, B. Breit, Catalytic hydrogenation of amides to amines under mild conditions. Angew. Chem. Int. Ed. 125, 2287-2290 (2013)
【文献】E. Balaraman, B. Gnanaprakasam, L. J. W. Shimon, D. Milstein, Direct hydrogenation of amides to alcohols and amines under mild conditions. J. Am. Chem. Soc. 132, 16756-16758 (2010)
【文献】Y. Nakagawao, M. Tamura, K. Tomishige et al. Sci. Technol. Adv. Mater. 2015, 16, 014901
【文献】C. Hirosawa, N. Wakana, T. Fuchikami, Tet. Lett. 1996, 37, 6749-6752
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、アミド化合物をアミン化合物にする還元反応を行える触媒であって、温和な条件下でも使用でき、高い活性を維持したまま、繰り返し使用できるような耐久性も備えた触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ロジウムとモリブデンが、ハイドロキシアパタイトに担持された触媒が、アミド化合物に対する高い水素化活性、選択性、耐久性、反応性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、ロジウムとモリブデンがハイドロキシアパタイトに担持されたことを特徴とするアミド化合物の水素添加反応用触媒である。
【0013】
また、本発明は、溶媒中で、ロジウムとモリブデンをハイドロキシアパタイトに担持させた後、これを乾燥することを特徴とする上記アミド化合物の水素添加反応用触媒の製造方法である。
【0014】
更にまた、本発明は、アミド化合物を、上記アミド化合物の水素添加反応用触媒に接触させて水素添加し、アミン化合物を得ることを特徴とするアミン化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒は、温和な条件下で使用できるため、アミド化合物からアミン化合物への合成が安全で容易になる。
【0016】
また、本発明の触媒は、製造の際に、特別な操作を必須としないため、安価で安全に製造できる。
【0017】
そのため、本発明の触媒は、アミド化合物からアミン化合物への工業的な合成に利用できる。
【0018】
また、本発明の触媒はハイドロキシアパタイトに担持されているため使用後に、ろ過によって容易に高価なロジウムを回収可能であり、更にこの回収された触媒は当初の活性・選択性を維持できる。
【0019】
そのため、本発明の触媒は、再利用も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は水素還元処理を施した本発明の触媒に関するADF-STEM画像、並びにEDX解析結果である。
【
図2】
図2は本発明の触媒における収率と反応時間の関係について、水素還元処理の有無の違いを検証した結果である。
【
図3】
図3は本発明の触媒におけるRhについて、水素還元処理の有無の違いをXANESにより検証した結果である。
【
図4】
図4は本発明の触媒におけるMoについて、水素還元処理の有無の違いをXANESにより検証した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のアミド化合物の水素添加反応用触媒(以下、「本発明の触媒」という)は、ロジウムとモリブデンが、ハイドロキシアパタイトに担持されたものである。なお、本明細書においては、本発明の触媒は、「X-Y/HAP」(X、Yはロジウム、モリブデン等の金属名、HAPはハイドロキシアパタイト)等と記載することがある。
【0022】
(ロジウム)
本発明の触媒を構成するロジウムは、特に限定されないが、例えば、ロジウム粒子が好ましい。ここでロジウム粒子とは、金属ロジウムまたは酸化ロジウムの少なくとも1種から選ばれるロジウムの粒子であり、好ましくは金属ロジウムの粒子である。
【0023】
ここで、ロジウム粒子は、ロジウムを含有していれば特に制限されるものではなく、ルテニウム(Ru)や白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の貴金属を少量含んでいてもよいが、好ましくは金属ロジウム粒子である。ロジウム粒子は一次粒子でもよく、二次粒子であってもよい。ロジウム粒子の平均粒子径は1~30nmが好ましく、1~10nmがより好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡で任意の数の粒子の直径を観察し、それらの直径の平均値のことをいう。
【0024】
(モリブデン)
本発明の触媒を構成するモリブデンは、特に限定されないが、MO3のような酸化物としてのモリブデンを含んでいても良いが、好ましくは金属モリブデンの粒子である。
【0025】
(ロジウム-モリブデン)
本発明の触媒の使用状態である還元状態ではRh、Mo共に金属状態で含有していることが好ましい。前述の非特許文献5ではRh、Moがこのような金属状態で、換言すれば0価の状態においてRh、Mo共に優れた水素化性能を発揮することが報告されている。
【0026】
(ロジウム-モリブデン[Rh-Mo]のモル比)
本発明の触媒における、ロジウムとモリブデンの組成比は、金属としてのロジウム(Rh):金属としてのモリブデン(Mo)のモル数のモル数換算で、モル比[Rh:Mo]=1:0.01~1が好ましく、より好ましくは1:0.05~0.5、更に好ましくは1:0.05~0.2である。
【0027】
(ハイドロキシアパタイト)
本発明の触媒の担体(母材)はハイドロキシアパタイト(HAP)である。その吸着能は、いわゆるBET値として0.1~300m2/gであってもよく、平均粒径としては0.02~100μmであってもよい。本発明においては、ハイドロキシアパタイトの吸着能は、0.5~180m2/g であることが好ましく、さらに30~100m2/gであることが好ましい。なお、本発明の触媒の担体としては、ハイドロキシアパタイトに代えて、クロロアパタイト、フルオロアパタイト等のその他のアパタイトを用いることができることは言うまでもない。
【0028】
また、ハイドロキシアパタイトの形態は、特に限定されず、例えば、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、円柱形ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられる。
【0029】
上記ハイドロキシアパタイトとしては、特に制限されることはなく、一般的なCa10(PO4)6(OH)2の化学量論的組成の水酸化リン酸カルシウムのみならず、この組成に類似した組成の水酸化リン酸カルシウム化合物やリン酸三カルシウム等を含む。
【0030】
本発明の触媒において、ロジウムとモリブデンがハイドロキシアパタイトに担持される態様は、特に制限されるものではなく、ハイドロキシアパタイトの形態により、種々の態様を採ることができ、担持される位置も単純に制御されていなくてもよいし、細孔や層の内側であったり、表面のみであってもよいが、粒子径の小さなロジウムが分散して担持され、モリブデンは、ロジウムの近傍またはロジウム上に存在する方が好ましい。
【0031】
なお、本発明の触媒におけるロジウムとモリブデンの担体への担持量は特に限定されないが、金属換算のモリブデン担持量が多いことで収率が向上する。そのため本発明の触媒におけるモリブデン担持量は担体に対して0.01mmol/g以上であることが好ましく、0.015mmol/g以上であることがより好ましい。なお、本発明の触媒におけるモリブデン担持量の上限は特に制限されるものではないが、例えば、0.04mmol/g以下であることが好ましく、0.03mmol/gであることがより好ましい。
【0032】
本発明の触媒は、上記したようなハイドロキシアパタイトを用いているため、反応に使用した後に分離も容易になり、触媒の再使用においても有利であることは言うまでもない。
【0033】
(触媒に追加できる成分)
本発明の触媒は、上記したロジウムとモリブデンがハイドロキシアパタイトに担持されていればよく、効果を損なわない範囲で、遷移金属やアルカリ金属やアルカリ土類金属などを触媒成分やハイドロキシアパタイト成分として常法に従って含有させてもよい。
【0034】
(本発明の触媒の製造方法)
本発明の触媒のうち、ロジウムとモリブデンがハイドロキシアパタイトに担持されたことを特徴とするアミド化合物の水素添加反応用触媒は、溶媒中で、ロジウムとモリブデンをハイドロキシアパタイトに担持させた後、これを乾燥することにより製造できる(以下、「本発明方法」という)。なお、乾燥後焼成処理を施しても良い。
【0035】
具体的に本発明方法において、ロジウムとモリブデンを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させる方法は特に限定されないが、例えば、ハイドロキシアパタイトにロジウム化合とモリブデン化合物溶液を含有する溶媒混合液を加えて混合して、ロジウムとモリブデンを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させる方法や、ハイドロキシアパタイトと、ロジウム化合物を含有する溶媒液と、モリブデン化合物を含有する溶媒液とを何れかの順序で個別に混合して、ロジウムとモリブデンを溶媒中でハイドロキシアパタイトに担持させる方法が挙げられる。
【0036】
本発明方法に用いられるロジウム化合物は、特に限定されないが、好ましくは乾燥した際にハイドロキシアパタイト上でロジウム粒子となるものである。このようなロジウム化合物としては、例えばヘキサクロロロジウム(III)酸カリウムK3[RhCl6]・xH2O、三塩化ロジウム・水和物RhCl3・xH2O、ヘキサクロロロジウム(III)酸H3[RhCl6]、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウムNa3[RhCl6]・xH2O、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム(NH4)3[RhCl6]・xH2O、ペンタクロロアクアロジウム(III)酸H2[RhCl5(H2O)]、ペンタクロロアクアロジウム(III)酸ナトリウムNa2[RhCl5(H2O)]、ペンタクロロアクアロジウム(III)酸カリウムK2[RhCl5(H2O)]、ペンタクロロアクアロジウム(III)酸アンモニウム(NH4)2[RhCl5(H2O)]、硝酸ロジウム(III)Rh(NO3)3、硫酸ロジウム(III)Rh2(SO4)3、酢酸ロジウム(III)Rh(CH3COO)3、酢酸ロジウム(II)Rh2(CH3COO)4、トリス(2,4-ペンタンジオナト)ロジウム(III)Rh(acac)3、デキサロジウムヘキサデカカルボニルRh6(CO)16、(アセチルアセトナト)ジカルボニルロジウム[Rh(C5H7O2)(CO)2]等の塩が挙げられる。
【0037】
また、本発明方法に用いられるモリブデン化合物は、特に限定されないが、好ましくは乾燥した際にハイドロキシアパタイト上でモリブデン酸化物を生じるものである。このようなモリブデン化合物としては、例えば、七モリブデン酸六アンモニウム (NH4)6Mo7O24・xH2O、モリブデン酸ナトリウムNa2MoO4、モリブデン酸カリウムK2MoO4、モリブデン酸アンモニウム(NH4)2MoO4、七モリブデン酸ナトリウムNa6Mo7O24・xH2O、七モリブデン酸カリウムK6Mo7O24・xH2O、七モリブデン酸アンモニウム(NH4)6Mo7O24・xH2O、八モリブデン酸ナトリウムNa4Mo8O16・xH2O、八モリブデン酸カリウム K4Mo8O16・xH2O、八モリブデン酸アンモニウム(NH4)4Mo8O16・xH2O、四モリブデン酸カリウムK2Mo4O13、シュウ酸モリブデン(IV)MoO(C2O4)・xH2O、酢酸モリブデン(II)Mo(CH3COO)2、ヘキサカルボニルモリブデンMo(CO)6等の塩が挙げられる。
【0038】
本発明方法に用いられるロジウム化合物およびモリブデン化合物を含有する溶液は、上記ロジウム化合物およびモリブデン化合物を、溶媒に懸濁させたものである。この溶液におけるロジウム化合物とモリブデン化合物は、金属としてのロジウム、モリブデン換算のモル比で[Rh:Mo]=1:0.5~10が好ましく、より好ましくは1:1~8、更に好ましくは1:4~7である。また、溶媒としては、例えば、水や、アルコール、アセトン等の有機溶媒が挙げられ、水であればコスト、安全性共に優れているため好ましい。これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせてもよい。なお、溶媒の温度は特に限定されないが、例えば、0~100℃、好ましくは10~80℃である。
【0039】
上記のようにして調製した溶液は、次に、ハイドロキシアパタイトと混合すればよい。上記溶液と、ハイドロキシアパタイトを混合する方法は特に限定されないが、各成分が十分に分散する量があればよく、ロジウムに関しては金属換算のロジウム0.1mmolに対してハイドロキシアパタイト0.1~100g、好ましくは1~10gの量で有っても良い。また、モリブデンに関しては金属換算のモリブデン0.5mmolに対してハイドロキシアパタイト0.1~100g、好ましくは1~10gの量で有っても良い。ハイドロキシアパタイトとロジウム化合物、モリブデン化合物の混合は、攪拌することによって行っても良いが、超音波を加えて含侵を促進しても良い。攪拌による混合の場合の攪拌時間は特に限定されるものでは無いが、0.5~24時間、好ましくは1~20時間撹拌であっても良い。また、超音波による含侵であればその照射時間も特に限定されるものでは無いが、数分から数時間であっても良い。なお、このような物理混合と超音波照射はその両方を任意の順番で組み合わせて適用しても良い。このようなロジウム化合物とモリブデン化合物は各個別に混合しても良く、混合溶液としてハイドロキシアパタイトと混合しても良い。
【0040】
また、本発明方法に用いられるロジウム化合物を含有する溶媒液と、モリブデン化合物を含有する溶媒液は、上記ロジウム化合物およびモリブデン化合物を、それぞれ溶媒に懸濁させたものである。これらの溶媒液における各化合物の含有量は、これら溶媒液を混合する場合、また、ロジウム化合物およびモリブデン化合物を個別に含侵させる場合、いずれの場合であってもロジウム化合物、モリブデン化合物の使用量は同様であっても良い。また、これらに使用する溶媒や溶媒の温度は上記溶媒混合液と同様にすればよい。
【0041】
上記のようにして調製されたロジウム化合物を含有する溶媒液と、モリブデン化合物を含有する溶媒液を個別に混合する場合、ハイドロキシアパタイトと、ロジウム化合物を含有する溶媒液と、モリブデン化合物を含有する溶媒液とを何れかの順序で混合すればよい。ハイドロキシアパタイトとロジウム化合物を含有する溶媒液を混合した後にモリブデン化合物を含有する溶媒液の順序で混合するとロジウム化合物の上にモリブデンが担持される傾向があるためよく、ロジウム化合物をモリブデン化合物より先に混合すると高価なロジウムのロスが少なくなる場合があるためよい。また、上記溶媒液と、ハイドロキシアパタイトを混合する方法は、上記混合溶液を用いる場合と同様にすればよい。
【0042】
以上のようにして溶媒混合液とハイドロキシアパタイトを混合あるいは各溶媒液とハイドロキシアパタイトを混合して、溶媒中で、ロジウムとモリブデンをハイドロキシアパタイトに担持させた後は乾燥させればよい。乾燥の前には、洗浄、ろ過、濃縮等の前処理をして溶媒を除去させることが好ましい。乾燥の条件は特に限定されないが、例えば、80~200℃で1~56時間乾燥させる。乾燥後は焼成してもよく、焼成例として、マッフル炉等を使用して250~700℃で1~12時間焼成しても良く、乾燥または焼成後は更に粉砕、分級等を行ってもよい。
【0043】
なお、本発明方法において溶媒として水を使用する場合、ロジウム化合物としては、例えば、ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム三水和物(K3[RhCl6]・3H2Oaq)が好ましい。また、モリブデン化合物としては、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物((NH4)6Mo7O24・4H2Oaq)が好ましい。
【0044】
また、本発明方法において溶媒として水を使用する際、上記化合物が溶媒に溶解し難い場合は、触媒性能に問題がない範囲で、pH調整剤やバインダー等を用いたり、超音波をかけたり温度を調整してもよい。pH調整剤としては水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア、酢酸、クエン酸、炭酸、乳酸等が挙げられる。また、バインダーとしてはポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の有機化合物やシリカ等の無機化合物等が挙げられる。
【0045】
本発明の触媒は、ロジウムとモリブデン(以下、単に「ロジウム等」という)がハイドロキシアパタイトに担持さえされていればよいので、担持されているロジウム等は、それぞれ0価であってもよいし、合金化していてもよいし、合金化していなくてもよいし、一部が合金化していてもよいが、0価のロジウム等と、合金化したロジウム等が含まれることが好ましい。また、ロジウム等はハイドロキシアパタイトに均一に担持されていてもよく、ハイドロキシアパタイトの表面側に偏在して担持していてもよい。このようなロジウム等の担持位置については、特にロジウム等のように高価な成分を有効に利用しようとする場合にはハイドロキシアパタイトの表面側に偏在担持させることが望ましい。ハイドロキシアパタイト表面に偏在担持させることで、反応基質とロジウム等とが接触する機会が増し、触媒の活性向上が期待できる。
【0046】
ハイドロキシアパタイト表面にロジウム等を偏在担持させる場合、その方法は特に限定されるものではなく、使用する触媒材料に応じて公知の手法の中から適宜選択することができる。具体的な例としては、上記ロジウム化合物やモリブデン化合物を含有する溶媒混合液、あるいは、ロジウム化合物を含有する溶媒液、モリブデン化合物を含有する溶媒液のpHを調整する手法、ハイドロキシアパタイト上でロジウム等を非水溶化(沈殿)させるために、ハイドロキシアパタイトと上記溶媒混合液や上記溶媒液を混合する前または後に、アルカリ水溶液等の非水溶化に使用する水溶液で処理してロジウム等を固定化する手法、上記ハイドロキシアパタイトと上記溶媒混合液や上記溶媒液を混合した後、温度や静置時間を管理し、熟成をさせる手法、本発明の触媒製造後に、更に焼成工程を追加する手法等が挙げられる。なお、上記手法においては、適宜、洗浄、乾燥等を行ってもよい。
【0047】
上記溶媒混合液や溶媒液のpHを調整する場合、その手法においては、上記したpH調整剤を用いることができ、これらを用いて溶媒混合液や溶媒液のpHをハイドロキシアパタイトへの担持がしやすいように調整すればよく、酸性よりにしても良いし、アルカリ性よりにしても良いし、中性よりにしてもよい。
【0048】
上記ハイドロキシアパタイトと溶媒混合液や溶媒液を混合する前または後に、アルカリ水溶液等の非水溶化に使用する水溶液で処理する場合、その手法においては、アルカリ性化合物を水等に溶解させたアルカリ水溶液が用いられる。アルカリ性化合物としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属の重炭酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のケイ酸塩、アンモニア等が挙げられる。また、この際のpHは特に限定されないが、7~14、好ましくは8~13である。
【0049】
上記非水溶化の処理をする場合、それに用いるアルカリ水溶液の使用量は、ロジウム化合物やモリブデン化合物を固定化することを目的とすることから、被還元対象に対してやや過剰なアルカリ量、例えば、1.05~1.2倍になるように濃度を調整して使用することが好ましい。
【0050】
上記熟成をさせる場合、その手法において、上記ハイドロキシアパタイトと溶媒混合液や溶媒液を混合した後の温度や静置時間は適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、10~100℃で1~72時間、好ましくは30~70℃で2~24時間熟成させればよい。
【0051】
上記本発明の触媒製造後に、更に焼成工程を追加する場合、その手法においては、製造された本発明の触媒を、水素を含むガス雰囲気中で加熱還元処理を施しながら焼成してもよい。このような焼成を気相還元や水素還元ともいう。気相還元であれば還元時に介在する溶媒がなく被還元成分の移動が困難であり、ロジウム等の粒子が凝集しづらく、ロジウム等を小さな粒子の状態で担持させることができる。
【0052】
この焼成工程がある場合、焼成後にロジウム等が酸化されてしまうことがある。このような場合は還元処理を施すことが好ましい。このような還元処理には気相還元と液相還元が採用できる。気相還元は100~500℃に加熱した触媒に還元性の気体を供給して還元処理を施すものである。このような還元性の気体としては前述のような水素の他、一酸化炭素や低分子の炭化水素を使用してもよい。低分子の炭化水素としてはメタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン等も使用できる。また、気相還元の場合、気体の組成は還元成分のみからなるガスを使用してもよいが、窒素等、還元時に不活性なガスと混合して使用してもよく、溶媒と混合した触媒に加熱加圧状態で水素を供給して行っても良い。
【0053】
また、液相還元は還元性の液体と触媒を混合し、80~150℃で加熱することで酸化された触媒成分を還元するものである。使用される還元成分は特に限定されるものではなく、還元条件に応じて適宜選択すればよく、例えばギ酸、ギ酸ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。
【0054】
また、加熱還元処理は加圧状態で水素が添加された有機溶媒中で加熱することにより行っても良い。
【0055】
このような加熱還元処理を、焼成工程の最中や後に行ったり、焼成工程に代えて行ったりすることにより、合金化されていないロジウムとモリブデンは還元され0価(金属)の状態になる。
【0056】
斯くして得られる本発明の触媒は、ロジウムとモリブデンがハイドロキシアパタイトに担持されたものとなる。
【0057】
なお、本発明の触媒が製造できたことは、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)、FE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope;電界放射型走査電子顕微鏡)、EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;エネルギー分散型X線分光法)等で確認することができる。また、本発明触媒の水素化反応時の状態についてはX線吸収微細構造(XAFS:X-ray absorption fine structure)をもって解析することができる。
【0058】
本発明者らは後述する製造例1で得られた触媒(Rh-Mo/HAP)を、その好ましい態様である水素化に使用する状況を想定した還元状態でX線吸収微細構造(XAFS:X-ray absorption fine structure)をもって構造解析を行った。
【0059】
本発明のRh-Mo/HAPのXAFSの吸収端の前後50eV程度までの領域であるエックス線吸収端近傍構造 (XANES:X-ray Absorption Near Edge Structure)を解析したところ、Moの吸収端のエネルギーは金属Mo(金属Mo箔)に近いものであった。これにより、本発明のRh-Mo/HAPにおけるMoは水素化反応時には0価のMoを含むものであることが分かった。
【0060】
同様に、本発明のRh-Mo/HAPのRhについてもXANESにより解析したところ、吸収端のエネルギーは金属Rh(Rh箔)と一致しており、Rhも水素化反応時には0価のRhを含むものであることが分かった。
【0061】
更に、本発明のRh-Mo/HAPのMoについて、XAFSの吸収端から1000eV 程度までの領域である広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X-ray Absorption Fine Structure)を解析したとこころMo-Mo結合に起因するピークが確認された。これにより、Mo原子は少なくとも水素化反応時にはクラスターを形成していることが分かった。
【0062】
同様に、本発明のRh-Mo/HAPのRhについてもEXAFSを解析したとこころRh-Rh結合に起因するピークが確認された。これによりRh原子も、少なくとも水素化反応時にはクラスターを形成していることがわかった。
【0063】
このようなXAFSによる詳細な構造解析の結果、本発明のRh-Mo/HAPは、水素化反応時には0価のクラスターとしてのRhとMoが含まれていることが分かった。
【0064】
上記触媒がこのように優れた性能を発揮できる理由は定かではないが、解析結果から合金化したロジウムとモリブデンの存在が示唆されている。また、このような合金の存在の他、反応前や反応系中においてRh-Mo/HAPが還元されることにより生じる0価のロジウムやモリブデンの存在も本発明の触媒によるアミド化合物の選択水素化が促進される要因の一つではないか考えられる。
【0065】
(アミド化合物の水素化)
本発明の触媒は、アミド化合物の水素添加反応用である。そのため、本発明の触媒は、アミド化合物に接触させれば、水素添加(還元)してアミン化合物を製造することができる。
【0066】
アミド化合物としては、アミド結合を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物、ラクタムまたは3級アミドにおいてN原子に結合しているカルボニルを含まない置換基の2つがお互いに連結していて環状構造を取るアミド化合物等が好ましく、2級以上のアミド化合物または芳香族置換基を含むアミド化合物がより好ましい。なお、アミド化合物のうち、アミド化合物が不飽和炭化水素基を含まないものであれば、水素化の影響をオキソ酸構造の酸素のみに及ぼすことが容易となり、収率の向上が見込める。
【0067】
アミド化合物に、本発明の触媒を接触させて水素添加する方法は特に限定されず、適宜選択すればよい。具体的には、オートクレーブ等の耐圧性の容器中、液相で本発明の触媒と、アミド化合物と、水素ガスを接触させることによりアミド化合物の水素添加を行えばよい。また、水素添加の際には、水を除去して反応を進行させるために、モレキュラーシーブを容器中に入れておき、アミド化合物をモレキュラーシーブスにも接触させてもよい。更に、本発明の触媒は、水素添加前に還元処理を予め行っておいてもよい。モルキュラーシーブは反応に際して発生する水を吸収するために使用するモレキュラーシーブの量は特に限定されるものでは無いが、反応で発生する水を確実に吸収できるよう、充分に乾燥させたうえで反応によって生じる水の量に応じて適宜その量を定める事が好ましい。また使用するモレキュラーシーブの種類は基質や生成物の吸着する事が無いようにそのタイプを選択する事が好ましい。
【0068】
前記モレキュラーシーブの使用量は、反応が進む範囲であれば特に限定されるものではないが、発生する水の理論値よりも大過剰で使用することが好ましい。例えばモレキュラーシーブの最大吸水量から計算した必要最小量に対して1~200倍、より好ましくは3~150倍、さらに好ましくは5~100倍である。
【0069】
液相は有機溶剤のみあるいは数種の有機溶剤の混液が好ましく、有機溶剤のみがより好ましい。上記で用いられる有機溶剤は、特に限定されないが、例えば、ドデカン、シクロヘキサン等の炭素原子数5~20の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の炭素原子数7~9の芳香族炭化水素、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン、ジブトキシエタン、ジグリム、シクロペンチルメチルエーテル、オキセタン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒロドピラン(THP)、フラン、ジベンゾフラン、フラン等の鎖状構造または環状構造を有するエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル等から選択される1種以上が挙げられ、これらの中でも特にDMEが好ましい。
【0070】
有機溶剤の使用量は、例えば、上記アミド化合物の濃度が0.5~2.0質量%程度となる範囲内が好ましい。また、本発明の触媒の使用量は、例えば、触媒中のロジウムの量を基準としてアミド化合物に対して0.0001~50モル%程度であり、0.01~20モル%程度が好ましく、0.1~5モル%程度がより好ましい。
【0071】
本発明の触媒は、温和な条件でも、円滑に水素添加反応を進行させることができる。反応温度としては、基質の種類や目的生成物の種類等に応じて適宜調整することができ、例えば、200℃以下、好ましくは10~180℃、より好ましくは20~160℃程度、特に好ましくは30~150℃程度である。反応時の圧力は、5MPa以下、好ましくは常圧である0.1~4MPa、より好ましくは0.1~3.5MPaである。反応時間は、反応温度および圧力に応じて適宜調整することができ、例えば10分~56時間程度、好ましくは20分~48時間程度、特に好ましくは40分~30時間程度である。
【0072】
上記した方法によりアミド化合物を水素添加してアミン化合物が得られるが、通常のクロスカップリング反応等で製造することが難しいようなアミン化合物でも本発明の方法では製造できる。具体的に、C-Nカップリングの代表例であるBuchwald-Hartwig反応では、ハロゲン化アリールと1・2級アミンをPd触媒存在下で反応させて、当該アミンのN原子に直接アリール基を結合させることができるが、N原子と芳香環の間にひとつ以上の炭素原子またはメチレン鎖を介在させることはできない。しかしながら、上記した方法では、アミンのN原子をアシル化することによって得たアミド化合物を水素化することで、結果として元のアミンのN原子にひとつ以上の炭素原子またはメチレン鎖を介在させたC-N結合を生成させることができる。このような例としては、モルホリン→4-シクロヘキシルカルボニルモルホリン→4-シクロヘキシルメチルモルホリン、ピペリジン→1-フェニルアセチルピペリジン→1-フェネチルピペリジン、ベンジルメチルアミン→ベンジルメチルフェニルアセチルアミド→ベンジルメチルフェネチルアミン等が挙げられる。
【0073】
(触媒の再利用)
本発明の触媒は活性成分であるロジウムがハイドロキシアパタイトに担持されているため、反応中においても担持されたロジウムが大きな粒子になりにくい。また、本発明の触媒は、例えば、水素添加後に反応液から濾過、遠心分離等の物理的な分離手法により容易に回収することができる。回収された本発明の触媒はそのまま、あるいは、必要により、洗浄、乾燥、焼成等を施した後、再利用することができる。洗浄、乾燥、焼成等は本発明の触媒の製造の際と同様に行えばよい。
【0074】
回収された本発明の触媒は、未使用の本発明の触媒と比べ、ほぼ同等の触媒能を示すことができ、使用-再生を複数回繰り返しても、その触媒能の低下を著しく抑制することができる。そのため、本発明によれば、通常、水素添加の費用の多くの割合を占める触媒を回収し、繰り返し利用することができるため、アミド化合物の水素添加のコストを大幅に削減することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の触媒、並びに本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で広く応用が可能なものである。
【0076】
製 造 例 1
Rh-Mo/HAPの調製:
蒸留水80mlの入った100mlナスフラスコに、エヌ・イー ケムキャット社製(K3[RhCl6])・3H2Oaqを0.2mmol加え、3分間超音波処理を行った後、強攪拌しながら和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて80℃まで加熱し、この状態で15時間攪拌した後、1.5時間静置して室温まで放冷した。放冷した前記溶液に(NH4)6Mo7O24・4H2Oaq(40mM)を25ml(Mo含有量:1.0mmol)滴下した後、50℃まで加熱した後3時間攪拌した。攪拌後濾過し、蒸留水を約1L用いて濾過洗浄を行った。濾過洗浄を行った濾物を120℃で8時間以上乾燥し、Rh-Mo/HAPを得た(Rh:0.2mmol/g、Mo:0.017mmol/g)。
【0077】
製 造 例 2~6
比較用バイメタル/HAP触媒の調製:
レニウム塩としてNH4ReO4を、バナジウム塩としてNH4VO3を、白金塩としてK2PtCl4を、パラジウム塩としてK2PdCl6を、ルテニウム塩としてK2RuCl6を使用した他、製造例1と同様にしてRh-Re/HAP触媒、Rh-V/HAP触媒、Pt-Mo/HAP触媒、Pd-Mo/HAP触媒、Ru-Mo/HAP触媒を得た。
【0078】
製 造 例 7
比較用Rh/HAPの調製:
蒸留水80mlの入った100mlナスフラスコに、エヌ・イー ケムキャット社製K3[RhCl6]を0.2mmol加え、3分間超音波処理を行った後、強攪拌しながら和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて70℃まで加熱し、この状態で15時間攪拌した後、1.5時間静置して室温まで放冷した。放冷した前記溶液を濾過し、蒸留水を約1L用いて濾過洗浄を行った。濾過洗浄を行った濾物を120℃で8時間以上乾燥し、Rh/HAPを得た。
【0079】
製 造 例 8
比較用Mo/HAPの調製:
蒸留水80mlの入った100mlナスフラスコに(NH4)6Mo7O24・4H2Oaq(40mM)を25ml(Mo含有量:1.0mmol)滴下した後、50℃まで加熱した後3時間攪拌した。攪拌後濾過し、蒸留水を約1L用いて濾過洗浄を行った。濾過洗浄を行った濾物を120℃で8時間以上乾燥し、Mo/HAPを得た。
【0080】
製 造 例 9
比較用Rh-Mo/SiO2(非特許文献4記載の触媒)の調製:
蒸留水80mlが入った100mlフラスコ中にRhCl3・3H2Oを0.4mmol、担体であるSiO2(Fuji Silysia G-6)を1.0g加え、室温にて3時間撹拌を行った。攪拌後、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、その後120℃にて8時間以上乾燥させた。乾燥後得られたRh/SiO2を、(NH4)6Mo7O24・4H2Oを0.4mmol溶解させた蒸留水70ml中に加え、再度室温にて3時間攪拌を行った。その後、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、120℃にて8時間以上乾燥後、大気中、電気炉にて500℃にて3時間焼成しRh-Mo/SiO2を得た。
【0081】
実 施 例 1
水素添加反応:
反応に使用するオートクレーブに製造例1で得た触媒と溶媒のDME(1,2-dimethoxyethane)を5ml加え、水素ガスで20atmに加圧し、160℃に加熱し1時間還元処理を行った。その後、遠心分離機(2000rpm、1分間)にかけ、上澄み液をピペットで取り出して除いた。そこにDME5mlを加えて、1分間超音波処理を行った。この洗浄工程をもう一度繰り返した後、最後に上澄み液を取り除き、反応前還元処理を行った。
【0082】
この反応前還元処理を施した製造例1で得られた触媒0.05g、溶媒である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mL、基質であるN-アセチルモルホリン0.5mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å :0.1gを、50mLのステンレス製オートクレーブに加えて表1の条件で水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて収率を測定した。結果を表1に記す。
【0083】
なお、Entry1、Entry2における触媒中の金属成分の量は基質に対してRhが2mol%、Moの量が0.17mol%である。また、Entry3の触媒量は0.3gで、触媒中の金属成分の量は基質に対してRhが12mol%、Moの量が1.02mol%である。触媒中の担持金属成分の量はICP発光分光分析(測定装置名:PerkinElmer社製Optima 8300)によって求めた。
【0084】
【0085】
【0086】
Entry2におけるロジウム換算の触媒回転数(TON)は50であった。また、Entry3における温度は30℃という低い温度であったが、本発明の触媒は、アミド化合物への水素添加反応を高い効率で促進させることが可能であることが分かった。
【0087】
実 施 例 2
水素添加反応:
表2の各基質について、製造例1で得られたRh-Mo/HAPを実施例1と同様にして反応前還元処理した後、溶剤としてのDMEを5mL、還元剤としての水素ガス、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Åを使用し、適宜条件を変えて水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて各基質に対する転化率、選択率を測定し結果を表2、表3に記した。
【0088】
表2、3中、特に記載の無い反応は、触媒量は0.1g(Rh:基質に対して4mol%,Mo:基質に対して0.34mol%)、基質の量が0.5mmol、溶媒としてのDMEは5mL、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Åは0.1gである。
【0089】
また、(a)の記載のある反応では触媒の量が0.3g、基質の量が0.25mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Åは0.2gであり、他は特に記載の無い反応例と同じ条件である。
【0090】
また、(b)の記載のある反応では基質の量が0.25mmolであり、他は特に記載の無い反応例と同じ条件である。
【0091】
また、(c)の記載のある反応では触媒の量が0.3g、基質の量が0.25mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Åは0.2gであり、他は特に記載の無い反応例と同じ条件である。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
Rh-Mo/HAPは、基質が変わってもアミド化合物の水素添加反応を温和な条件下でも収率よく行えることが分かり、触媒中Rh原子1モルあたりが水素化した基質の量を表す触媒回転数(TON:turnover number)も高いものであった。特に水素ガスが1barという極めて低い圧力においても本発明の触媒が優れた活性を発揮していることは驚くべきことである。
【0096】
製造例1~7、9の触媒については貴金属種であるRh、Pt、Pd、Ruが基質に対して2mol%となる様に使用し、製造例8の触媒についてはMoが基質に対して0.17mol%となる様に使用し、非特許文献5に記載の不均一系触媒として[Rh6(CO)16・Mo(CO)6](基質に対するRh量:2mol%,Mo量:12mol%)を使用し、圧力と時間を変えた他、実施例1と同じ条件で水素化反応を行った。また、Rh-Mo/HAPについては、反応後、ガスクロマトグラフを用いて収率を測定した。結果を表4に記す。
【0097】
【0098】
Rh-Mo/HAPは、金属種の異なる他の触媒のみならず、均一系触媒に対してもアミド化合物の水素添加反応を温和な条件下で収率よく行えることが分かった。
【0099】
製 造 例 10~14
Rh-Mo/HAPの調製:
実施例1において、(NH4)6Mo7O24・4H2Oaq(40mM)を25ml(Mo含有量:1.0mmol)に代えて、表4に記載の量の(NH4)6Mo7O24・4H2Oaq(40mM)を用いる以外は、実施例1と同様にしてRh-Mo/HAPを得た。
【0100】
【0101】
実 施 例 3
水素添加反応:
製造例10~14で得られたRh-Mo/HAPを実施例1と同様にして反応前還元処理したものを0.05g、溶媒である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mL、基質であるN-アセチルモルホリン0.5mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å :0.1gを、50mLのステンレス製オートクレーブに加えて以下の条件で水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて収率を測定した。結果を表6に記す。
【0102】
【0103】
【0104】
この結果より、Rh-Mo/HAPにおけるモリブデンの仕込量が増えると収率が向上することが分かった。
【0105】
実 施 例 4
触媒の耐久性:
反応時間を12時間に変えた他、実施例1のEntry1と同じ条件で水素化反応を行い、反応後の触媒を濾過して再利用し、これを繰り返して本発明の耐久性について検証した。転化率、収率はガスクロマトグラフを用いて測定した。結果を表7に記す。
【0106】
【0107】
【0108】
この結果より、本発明の触媒は10回にも渡る再利用においても転化率、収率共に低下することなく、優れた耐久性を有することが分かった。
【0109】
実 施 例 5
水素添加反応:
下記反応式の様に、製造例1で得たRh-Mo/HAPを使用し、実施例1における基質を下記のイミド(アミド結合を有する化合物)0.3mmolに、触媒量を0.3gに、反応時の水素の圧力を50barに、温度を160℃に、反応時間を48時間に変更してイミド化合物の水素化反応を行った。反応後、ガスクロマトグラフを用いて収率を測定したところ、収率60%でアミン化合物を得ることができた。
【0110】
【0111】
実 施 例 6
水素添加反応:
実施例5における基質を0.1mmol、触媒を0.1g、溶媒を10ml、モレキュラーシーブス0.2gを、反応温度を60℃、水素圧を0.6MPa、反応時間を144時間として反応装置(柴田科学社製ケミストプラザCPP-2210)にて水素化反応を行ったところ、収率は18%となった。
【0112】
実 施 例 7
水素添加反応:
実施例6における溶媒を15ml、モレキュラーシーブスを1.0gとした以外は同様に反応させたところ収率は41%となった。実施例6と7の結果から基質から発生する水分量よりも過剰なモレキュラーシーブを投入することで収率が向上することが分かった。
【0113】
試 験 例 1
触媒中のRh、Moの状態の解析:
本発明の触媒について、Rh、Moの状態を以下のとおり解析した。実施例1において反応前に水素還元したRh-Mo/HAPについてXAFSスペクトルの測定を行ったところ、Mo-K端EXAFSスペクトルを高速フーリエ変換して得られたMoとMo近傍元素の距離は2.66Å(0.266nm)であった。
【0114】
一方で、Mo箔(Mo foil)について同様にMo-Mo距離を測定したところ2.73Å(0.273nm)であった。また、Mo-Rh合金のような金属間化合物についても測定したところMo-Rhの距離は2.68Å(0.268nm)であった。
【0115】
この結果から、本発明のRh-Mo/HAP中のMoには、Mo-MoよりもMo-Rhに近い原子間の距離を有しているMoが存在し、合金化したRh-Moが含まれていることが示唆される。
【0116】
また、このように本発明の触媒中に合金化したRhとMoが含まれることはADF-STEM(環状暗視野-走査透過型電子顕微鏡:Annular Dark Field-Scanning Transmission Electron Microscope)による元素マッピングや、EDXによる解析によっても示唆される。
【0117】
加えて、実施例1で反応前に水素還元処理を施した触媒について、ADF-STEMにより元素分布を検証し、EDXにより観測点における構成元素の解析を行った。結果を
図1として記す。
【0118】
図1の(a)(b)(c)(d)はADF-STEMで測定した結果であり、(a)はRh-Mo/HAPとしての画像であり、(b)はCa元素の分布でありRh-Mo/HAPの担体が均質なHAPであることを表しており、(c)はRh元素の分布、(d)はMo元素の分布であり、Rh、Mo共に担体上に広く担持されていることが分かった。
【0119】
また、
図1の(e)(f)はEDXによる解析結果であり、(e)ではRh-Mo合金が形成されていると思われる白色のポイントと共にEDXによる測定点A(Point A)、測定点B(Point B)を表し、(f)では測定点A(Point A)、測定点B(Point B)における含有元素を表している。
【0120】
図1(e)(f)から、触媒上の白色の粒子(Point A)ではRhとMoが存在していることが分かった。また、触媒上の灰色の背景(Point B)にはRh、Moいずれも存在せず、HAPの構成元素であるPとCaがPoint Aと同様に存在していることが分かった。また、
図1(f)のY軸はX線の強度(カウント数)を表し含有元素濃度との相関を表している。
図1(f)のPoint Aの結果から、Point AにおけるRhとMoの量は概ね製造例1のRh元素、Mo元素の仕込量と整合している。
【0121】
これらの結果から、本発明のRh-Mo/HAPでは、Rh、Moが共に担体であるHAP上に広く担持され、かつ、合金化したRh-Moも含まれている可能性が示唆される。
【0122】
続いて、製造例1で得た触媒を使用し、触媒の還元処理の効果を検証した。実施例1では製造例1の触媒と溶媒であるDMEの混合系に対して、水素ガスにより20atmに加圧し、1時間160℃に加熱して反応前に還元処理を行っている。これに対して還元処理を施さない触媒を使用して実施例1と同様に反応させた結果を、還元処理を施した触媒の結果と共に
図2として記す。
図2は還元した触媒、未還元の触媒両方について時間を追ってそれらの収率を測定した結果である。
【0123】
図2を見てわかるとおり、反応前に触媒を還元処理した場合では、収率は短時間の間に著しく上昇している。これに対し、未還元の触媒では収率の上昇は緩やかなものであった。このように短時間で収率が上昇する触媒は水素化反応を短時間で終了できるものであり、反応に要するエネルギー効率が高く産業上有利な触媒であるといえる。しかし、未還元の触媒であっても、その穏やかな活性を生かし、副反応の抑制効果なども期待できることから、本発明の実施形態によっては未還元の触媒を使用することが望ましい場合もある。
【0124】
更に、還元処理した触媒と共に、未還元の触媒、Rh foil、Mo foil、酸化ロジウム、Mo原料である(NH
4)
6Mo
7O
24についてRhとMoのXAFSを測定し、XANES(X線吸収端近傍構造:X-ray Absorption Near Edge Structure)のスペクトル解析を行った。Rhに関する結果を
図3、Moに関する結果を
図4として示す。
【0125】
図3、
図4から分かる様に、本発明の触媒を水素還元した結果は、Rh、Moともに、線の形はRh foil、Mo foilに類似しており、還元処理された本発明のRh-Mo/HAPはRh、Mo共に金属の状態であることが示唆される。一方で、還元処理される前の本発明のRh-Mo/HAPでは、RhとMoは大部分が酸化物の状態で存在していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の触媒は、種々の医薬、農薬、その他種々の工業分野において有用なアミノ化合物を温和な条件で安全に製造するのに有用である。また、本発明の触媒は、安価で安全に製造できる。
以 上