(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】光信号制御装置、光信号制御方法、および光信号伝送システム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/516 20130101AFI20241127BHJP
【FI】
H04B10/516
(21)【出願番号】P 2023525226
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2021020929
(87)【国際公開番号】W WO2022254594
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 政則
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】山崎 悦史
(72)【発明者】
【氏名】木坂 由明
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0323871(US,A1)
【文献】特開2017-175441(JP,A)
【文献】KHANNA, Ginni,A Robust Adaptive Pre-Distortion Method for Optical Communication Transmitters,IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS,2016年,VOL. 28, NO. 7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/516
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンボル周期間隔の等化器と、サンプリング位相調整機能を有するシンボル周期間隔サンプリングレートで動作するデジタル/アナログ変換器(DAC)とを備える光送信機の前記等化器の補償係数と前記DACの前記サンプリング位相とを制御する光信号制御装置であって、
デバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、同相成分と直交成分との群遅延差からサンプリング位相量を算出し、算出した前記サンプリング位相量を前記DACに出力するSkew算出部と、
前記DACのナイキスト周波数の位相特性が0またはπの整数倍となる前記補償係数を算出し、算出した前記補償係数を前記等化器に出力する補償係数算出部と、
を備える光信号制御装置。
【請求項2】
前記Skew算出部は、前記同相成分と前記直交成分との前記群遅延差を無くし、前記DACにおけるナイキスト周波数の位相特性を0もしくはπの整数倍となる前記同相成分と前記直交成分の伝達関数に群遅延を付加する、
請求項1に記載の光信号制御装置。
【請求項3】
前記Skew算出部は、前記同相成分と前記直交成分の伝達関数の振幅特性と、前記同相成分と前記直交成分の前記伝達関数の前記位相特性を前記補償係数算出部へ出力し、
前記補償係数算出部は、前記振幅特性の逆特性を算出し、前記位相特性に対してダウンサンプリングされた係数を算出する、
請求項1または請求項2に記載の光信号制御装置。
【請求項4】
前記デバイスおよび伝送路の特性情報は、偏波の前記同相成分の伝達特性と、前記直交成分の伝達特性である、
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の光信号制御装置。
【請求項5】
光信号を受信する光受信機から受信された受信信号を取得し、取得した前記受信信号の伝達関数を算出し、算出した伝達関数を前記Skew算出部に出力する伝達関数推定部、をさらに備え、
前記伝達関数推定部は、前記伝達関数に対して逆伝達関数を算出し、
前記Skew算出部は、前記DACにおけるナイキスト周波数の位相特性を0もしくはπの整数倍となるように前記逆伝達関数に群遅延を付加する、
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の光信号制御装置。
【請求項6】
シンボル周期間隔の等化器と、サンプリング位相調整機能を有するシンボル周期間隔サンプリングレートで動作するデジタル/アナログ変換器(DAC)とを備える光送信機の前記等化器の補償係数と前記DACの前記サンプリング位相とを制御する光信号制御装置の光信号制御方法であって、
デバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、同相成分と直交成分との群遅延差からサンプリング位相量を算出し、算出した前記サンプリング位相量を前記DACに出力し、
前記DACのナイキスト周波数の位相特性が0またはπの整数倍となる前記補償係数を算出し、算出した前記補償係数を前記等化器に出力する、
光信号制御方法。
【請求項7】
シンボル周期間隔の等化器と、サンプリング位相調整機能を有するシンボル周期間隔サンプリングレートで動作するデジタル/アナログ変換器(DAC)と、を備える光送信機と、
デバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、同相成分と直交成分との群遅延差からサンプリング位相量を算出し、算出した前記サンプリング位相量を前記DACに出力するSkew算出部と、前記DACのナイキスト周波数の位相特性が0またはπの整数倍となる補償係数を算出し、算出した前記補償係数を前記等化器に出力する補償係数算出部と、を備える光信号制御装置と、
を備える光信号伝送システム。
【請求項8】
光信号を受信する光受信機と、
前記光受信機から受信された受信信号を取得し、取得した前記受信信号の伝達関数を算出する伝達関数推定部と、
を備える請求項7に記載の光信号伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号制御装置、光信号制御方法、および光信号伝送システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信トラヒックの増大に対応するために、光送受信機の高速と大容量化が求められている。高速と大容量化のため、光送受信機は、例えば、デジタル信号処理(DSP)とコヒーレント検波を組み合わせたデジタルコヒーレント技術を用いている。このような手法を用いる場合は、十分な総合伝送特性を得るために光送受信機の伝送特性を推定又は補償する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、光送受信機の低消費電力化のため、シンボル周期と同じでサンプリングレートでDAC(デジタル/アナログ変換器)を駆動させる際に、振幅特性を変化させないために位相特性が0またはnπ(nは整数)(すなわちπの整数倍)となるため、サンプリング定理よりサンプリングレートの半分の周波数(ナイキスト周波数)において振幅特性と位相特性を独立に設定することが出来ない。これにより従来技術では、伝達特性の補償効果を十分に得ることができないという問題があった。
上記事情に鑑み、本発明は、伝達特性を補償することができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、シンボル周期間隔の等化器と、サンプリング位相調整機能を有するシンボル周期間隔サンプリングレートで動作するデジタル/アナログ変換器(DAC)とを備える光送信機の前記等化器の補償係数と前記DACの前記サンプリング位相とを制御する光信号制御装置であって、デバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、同相成分と直交成分との群遅延差からサンプリング位相量を算出し、算出した前記サンプリング位相量を前記DACに出力するSkew算出部と、前記DACのナイキスト周波数の位相特性が0またはπの整数倍となる前記補償係数を算出し、算出した前記補償係数を前記等化器に出力する補償係数算出部と、を備える光信号制御装置である。
【0006】
本発明の一態様は、シンボル周期間隔の等化器と、サンプリング位相調整機能を有するシンボル周期間隔サンプリングレートで動作するデジタル/アナログ変換器(DAC)とを備える光送信機の前記等化器の補償係数と前記DACの前記サンプリング位相とを制御する光信号制御装置の光信号制御方法であって、デバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、同相成分と直交成分との群遅延差からサンプリング位相量を算出し、算出した前記サンプリング位相量を前記DACに出力し、前記DACのナイキスト周波数の位相特性が0またはπの整数倍となる前記補償係数を算出し、算出した前記補償係数を前記等化器に出力する、光信号制御方法である。
【0007】
本発明の一態様は、シンボル周期間隔の等化器と、サンプリング位相調整機能を有するシンボル周期間隔サンプリングレートで動作するデジタル/アナログ変換器(DAC)と、を備える光送信機と、デバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、同相成分と直交成分との群遅延差からサンプリング位相量を算出し、算出した前記サンプリング位相量を前記DACに出力するSkew算出部と、前記DACのナイキスト周波数の位相特性が0またはπの整数倍となる補償係数を算出し、算出した前記補償係数を前記等化器に出力する補償係数算出部と、を備える光信号制御装置と、を備える光信号伝送システムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、伝送特性を補償することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る光信号制御装置を含む光信号送信システムの構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係るDACの構成例を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る光信号制御装置の構成例を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係るSkew算出・群遅延特性付加部の動作例を説明するための図である。
【
図5】第1実施形態に係る補償係数算出部の動作例を説明するための図である。
【
図6】第1実施形態に係る光信号制御装置の処理手順例のフローチャートである。
【
図7】式(2)において初期位相θ
0を変化させた場合の規格化時間kと振幅(k)の関係を示す図である。
【
図8】群遅延特性を付加する理由を説明するための図である。
【
図9】第2実施形態に係る光信号送信システムの構成例を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る伝達関数推定部の構成例を示す図である。
【
図12】第2実施形態に係る伝達特性の逆特性の算出方法例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る光信号制御装置を含む光信号送信システムの構成例を示す図である。
図1のように、光信号送信システム1は、光送信機2、および光信号制御装置3を備える。
光送信機2は、例えば、フレーミング処理部21、シンボルマッピング部22、等化器23、クロック生成部24、DAC25、レーザー光源26、および光フロントエンド回路27を備える。
【0012】
光送信機2は、外部装置(不図示)から入力される送信ビット系列を光信号に変換する。
【0013】
フレーミング処理部21は、送信ビット系列を伝送に適した形式のフレームに変換する。フレーミング処理部21は、誤り訂正符号の符号化やパイロット信号の挿入等を行ってもよい。
【0014】
シンボルマッピング部22は、フレーミングされたビット系列をシンボル系列に変換する。
【0015】
等化器23は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタや周波数領域イコライザにより送信デバイス、受信デバイス、伝送路などによる応答の逆特性となる伝達関数を付加する。等化器23は、シンボル周期のサンプリング間隔の等化器である。等化器23は、光信号制御装置3が出力する補償係数を用いて、送信デバイス、受信デバイス、伝送路などの伝達関数を補償する。
【0016】
クロック生成部24は、所定の周波数のクロック信号を生成し、生成したクロック信号をDAC25へ出力する。
【0017】
DAC25は、4チャネルのDACである。DAC25は、光信号制御装置3が出力するサンプリング位相情報(以下、「Skew情報」という)を用いて、DAC25の入力される4チャネルの信号(XI,XQ,YI,YQ)それぞれの位相を変化させる。なお、XIは水平偏波(X偏波)の同相(I)成分であり、XQは水平偏波の直交(Q)成分である。YIは垂直偏波(Y偏波)の同相成分であり、YQは垂直偏波の直交成分である。なお、DAC25
は2チャネルであってもよい。DAC25が2チャネルの場合、光送信機2は単一偏波送信機である。この場合、DAC25は、IチャネルのDACとQチャネルのDACを備えるようにしてもよい。なお、DAC25の構成については後述する。
【0018】
レーザー光源26は、光変調器272に連続波(CW)光を供給する。
【0019】
光フロントエンド回路27は、DAC25から出力された変調信号を増幅するドライバアンプ271と光変調器272を備える。光フロントエンド回路27は、電気信号を光信号に変換する。
【0020】
光信号制御装置3は、外部装置(不図示)からデバイスおよび伝送路の特性情報(例えば伝達関数等)を取得し、取得したデバイスおよび伝送路の特性情報に基づいて、補償係数とSkew情報を生成する。なお、光信号制御装置3は、光送信機2が備えていてもよい。なお、光信号制御装置3の構成については後述する。
【0021】
(DAC25の構成例)
次に、DAC25の構成例を説明する。
図2は、本実施形態に係るDACの構成例を示す図である。
図2のように、DAC25は、例えば、DAC251~254、および移相器255~258を備える。
【0022】
DAC251は、入力されるXIチャネルのデジタル信号をアナログ信号に変換し、変換したXIチャネルの信号を移相器255に出力する。
DAC252は、入力されるXQチャネルのデジタル信号をアナログ信号に変換し、変換したXQチャネルの信号を移相器256に出力する。
DAC253は、入力されるYIチャネルのデジタル信号をアナログ信号に変換し、変換したYIチャネルの信号を移相器257に出力する。
DAC254は、入力されるYQチャネルのデジタル信号をアナログ信号に変換し、変換したYQチャネルの信号を移相器258に出力する。
なお、DAC251~254それぞれには駆動するクロック信号がクロック生成部24から入力される。
【0023】
移相器255は、光信号制御装置3が出力するSkew情報を用いてXIチャネルの信号の位相を変化させる。
移相器256は、光信号制御装置3が出力するSkew情報を用いてXQチャネルの信号の位相を変化させる。
移相器257は、光信号制御装置3が出力するSkew情報を用いてYIチャネルの信号の位相を変化させる。
移相器258は、光信号制御装置3が出力するSkew情報を用いてYQチャネルの信号の位相を変化させる。
【0024】
なお、移相器255~258は、XI,XQ,YI,YQチャネル間の位相を変化させてもよく、DAC251~254を駆動するクロックの位相をXI,XQ,YI,YQチャネル間で変化させてもよく、レーン間(例えばXIとXQ)のSkewを変更できれば他の構成であってもよい。
【0025】
(光信号制御装置3の構成例)
次に、光信号制御装置3の構成例を説明する。
図3は、本実施形態に係る光信号制御装置の構成例を示す図である。
図3のように、光信号制御装置3は、例えば、X偏波算出部31、およびY偏波算出部32を備える。
X偏波算出部31は、Skew算出・群遅延特性付加部311(Skew算出部)、および補償係数算出部312を備える。
Y偏波算出部32は、Skew算出・群遅延特性付加部321(Skew算出部)、および補償係数算出部322を備える。
【0026】
Skew算出・群遅延特性付加部311は、外部装置から入力されるXIチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報XITと、XQチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報XITとを用いて、XI-XQ間の群遅延特性差(DC周りもしくは平均値など)Skewを算出する。Skew算出・群遅延特性付加部311は、算出したXI-XQ間のSkew情報をDAC25へ出力する。Skew算出・群遅延特性付加部311は、XIチャネルまたはXQチャネルの群遅延特性を群遅延特性の差分だけ特性をシフトさせる。さらに、Skew算出・群遅延特性付加部311は、DAC25のナイキスト周波数の位相特性が0となるように群遅延をXIチャネルおよびXQチャネルの特性に付加する。Skew算出・群遅延特性付加部311は、群遅延特性を変化させたXIチャネルとXQチャネルの伝達関数の振幅特性と伝達特性を補償係数算出部312に出力する。
【0027】
補償係数算出部312は、群遅延特性を変化させたXIチャネルとXQチャネルの伝達関数の振幅特性と伝達特性の逆特性を算出する。この際、補償係数算出部312は、入力された伝達関数に対してダウンサンプリングされたXIチャネル用の補償係数XIFとXQチャネル用の補償係数XQFを算出し、算出したXIチャネル用の補償係数XIFとXQチャネル用の補償係数XQFを等化器23へ出力する。
【0028】
Skew算出・群遅延特性付加部321は、外部装置から入力されるYIチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報YITと、YQチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報YITとを用いて、YI-YQ間の群遅延特性差(DC周りもしくは平均値など)Skewを算出する。Skew算出・群遅延特性付加部321は、算出したYI-YQ間のSkew情報をDAC25へ出力する。Skew算出・群遅延特性付加部321は、YIチャネルまたはYQチャネルの群遅延特性を群遅延特性の差分だけ特性をシフトさせる。さらに、Skew算出・群遅延特性付加部321は、DAC25のナイキスト周波数の位相特性が0となるように群遅延をYIチャネルおよびYQチャネルの特性に付加する。Skew算出・群遅延特性付加部321は、変化させたYIチャネルまたはYQチャネルの群遅延特性を補償係数算出部322に出力する。
【0029】
補償係数算出部322は、変化させたYIチャネルまたはYQチャネルの群遅延特性の逆特性を算出する。この際、補償係数算出部322は、入力された伝達関数に対してダウンサンプリングされたYIチャネル用の補償係数YIFとYQチャネル用の補償係数YQFを算出し、算出したYIチャネル用の補償係数YIFとYQチャネル用の補償係数YQFを等化器23へ出力する。
【0030】
なお、光信号制御装置3は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成されていてもよい。光信号制御装置3は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、X偏波算出部31、Skew算出・群遅延特性付加部311、補償係数算出部312、Y偏波算出部32、Skew算出・群遅延特性付加部321、および補償係数算出部322として機能するようにしてもよい。なお、光信号制御装置3の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線や光回線を介して送信されてもよい。
【0031】
(光信号制御装置3の動作例)
次に、光信号制御装置3の動作例を説明する。まず、Skew算出・群遅延特性付加部の動作例を、Skew算出・群遅延特性付加部311を例に説明する。
図4は、本実施形態に係るSkew算出・群遅延特性付加部の動作例を説明するための図である。なお、
図4では、XI、XQについて説明するが、YI、YQについても同様の処理が行われる。
【0032】
図4において、グラフg100は、変化させる前の群遅延特性例である。グラフg100において、横軸は周波数であり、縦軸は群遅延量である。実線g101はXIチャネルの群遅延特性であり、鎖線g102はXIチャネルの群遅延特性の平均値である。実線g103はXQチャネルの群遅延特性であり、鎖線g104はXQチャネルの群遅延特性の平均値である。Skew量は、XIチャネルの群遅延特性の平均値(g102)と、XQチャネルの群遅延特性の平均値(g104)との差である。Skew算出・群遅延特性付加部311は、このように、例えば、XIチャネルの群遅延特性の平均値と、XQチャネルの群遅延特性の平均値との差からSkew量を算出する。なお、
図4のように、Skew算出・群遅延特性付加部311は、振幅特性を変化させない。
【0033】
グラフg110とグラフg120は、群遅延を付加する処理を説明するためのグラフである。グラフg110とグラフg120の横軸は周波数であり、グラフg110の縦軸は遅延量であり、グラフg120の縦軸は位相量である。また、グラフg110とグラフg120において、周波数fs/2は、DAC25のナイキスト周波数である。また、fsは、シンボルレートである。実線g111はSkew量を補正した後のXIチャネルの群遅延量であり、実線g113はSkew量を補正した後のXQチャネルの群遅延量である。なお、Skew算出・群遅延特性付加部311は、Skew量を補正した後の群遅延量を、グラフg110のように最小値を例えばDC(=0)とする。
【0034】
さらに、Skew算出・群遅延特性付加部311は、グラフg120のようにDAC25におけるナイキスト周波数の位相特性における位相量を0またはnπ(nは整数)となるように、XIチャネルとXQチャネルの伝達関数に群遅延を付加する。グラフg120において、線g121は群遅延を付加したXIチャネルの伝達特性であり、g123は群遅延を付加したXQチャネルの伝達特性である。
【0035】
次に、補償係数算出部の動作例を、補償係数算出部312を例に説明する。
図5は、本実施形態に係る補償係数算出部の動作例を説明するための図である。
補償係数算出部312は、Skew算出・群遅延特性付加部311が出力する伝達係数の振幅特性(グラフg150)と、伝達関数の位相特性(グラフg160)を取得する。グラフg150とg160の横軸は周波数であり、グラフg150の縦軸は振幅の大きさであり、グラフg160の縦軸は位相量である。グラフg150とg160において、線g151とg161はXIチャネルの特性であり、線g152とg162はXQチャネルの特性である。なお、
図5では、XI、XQについて説明するが、YI、YQについても同様の処理が行われる。
【0036】
補償係数算出部312は、伝達係数の振幅特性と、伝達関数の位相特性それぞれの逆特性の算出と、伝達特性のダウンサンプリングを行う。この結果、補償係数算出部312は、伝達特性(グラフg170の振幅特性と、グラフg180の位相特性)を得る。この伝達特性(グラフg170の振幅特性と、グラフg180の位相特性)が、補償係数である。補償係数算出部312は、この補償係数を等化器23へ出力する。
【0037】
(光信号制御装置3の処理手順例)
次に、光信号制御装置3の処理手順例を説明する。
図6は、本実施形態に係る光信号制御装置3の処理手順例のフローチャートである。
【0038】
(ステップS1)Skew算出・群遅延特性付加部311は、外部装置からXIチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報XITと、XQチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報XITと取得する。Skew算出・群遅延特性付加部321は、外部装置からYIチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報YITと、YQチャネルデバイスおよび伝送路の特性情報YITと取得する。
【0039】
(ステップS2)Skew算出・群遅延特性付加部311は、取得した情報を用いてXI-XQ間の群遅延特性差(DC周りもしくは平均値など)Skewを算出し、算出したSkew情報をDAC25に出力する。Skew算出・群遅延特性付加部321は、取得した情報を用いてYI-YQ間の群遅延特性差(DC周りもしくは平均値など)Skewを算出し、算出したSkew情報をDAC25に出力する。
【0040】
(ステップS3)Skew算出・群遅延特性付加部311は、群遅延特性を群遅延特性の差分だけ特性をシフトさせ、DAC25のナイキスト周波数の位相特性が0となるように群遅延をXIチャネルおよびXQチャネルの特性に付加し群遅延特性を変化させる。Skew算出・群遅延特性付加部321は、群遅延特性を群遅延特性の差分だけ特性をシフトさせ、DAC25のナイキスト周波数の位相特性が0となるように群遅延をYIチャネルおよびYQチャネルの特性に付加し群遅延特性を変化させる。
【0041】
(ステップS4)補償係数算出部312は、群遅延特性を変化させたXIチャネルとXQチャネルの伝達関数の振幅特性と伝達特性の逆特性を算出する。補償係数算出部322は、群遅延特性を変化させたYIチャネルとYQチャネルの伝達関数の振幅特性と伝達特性の逆特性を算出する。
【0042】
(ステップS5)補償係数算出部312は、入力された伝達関数に対してダウンサンプリングされたXIチャネル用の補償係数XIFとXQチャネル用の補償係数XQFを算出し、算出したXIチャネル用の補償係数XIFとXQチャネル用の補償係数XQFを等化器23へ出力する。補償係数算出部322は、入力された伝達関数に対してダウンサンプリングされたYIチャネル用の補償係数YIFとYQチャネル用の補償係数YQFを算出し、算出したYIチャネル用の補償係数YIFとYQチャネル用の補償係数YQFを等化器23へ出力する。
【0043】
次に、サンプリングレートの半分の周波数(ナイキスト周波数)において任意の振幅特性と位相特性を両立することができない理由を説明する。
周期T0でサンプリングされた周波数f、初期位相θ0の正弦波について、k番目のサンプリング点の振幅A(k)は、次式(1)のように示される。
【0044】
【0045】
サンプリング周期T0におけるナイキスト周波数は、f=1/2T0で次式(2)となる。
【0046】
【0047】
図7は、式(2)において初期位相θ
0を変化させた場合の規格化時間kと振幅(k)の関係を示す図である。
図6において、横軸は規格化時間k[a.u.(任意単位)]であり、縦軸は振幅(k)[a.u.]である。
図6のように、初期位相が0度もしくは180度のようにπの倍数となっていない場合は振幅が縮小する。この理由は、伝達関数において式(1)の初期位相が位相特性に対応するため、位相特性を変化させることで振幅特性も変化するからである。従って、ナイキスト周波数において任意の振幅特性を実現するためには、位相特性はnπ(nは整数)とする必要がある。
【0048】
次に、群遅延特性を付加する理由を説明する。
図8は、群遅延特性を付加する理由を説明するための図である。
グラフg200は、伝達係数の振幅特性である。グラフg210は、仮に群遅延特性を付加しなかった場合の伝達関数の位相特性である。グラフg200とg210の横軸は周波数であり、グラフg200の縦軸は振幅の大きさであり、グラフg210の縦軸は位相量である。グラフg200とg210において、線g201とg211はXIチャネルの特性であり、線g202とg212はXQチャネルの特性である。
グラフg210のように、群遅延特性を付加しなかった場合は、DAC25のナイキスト周波数fs/2において、位相特性が0またはnπではない。
【0049】
グラフg220とg230は、群遅延特性を付加せずに、伝達係数の振幅特性と伝達関数の位相特性それぞれの逆特性の算出と、伝達特性のダウンサンプリングを行った特性である。グラフg220とg230の横軸は周波数であり、グラフg220の縦軸は振幅の大きさであり、グラフg230の縦軸は位相量である。グラフg220とg230において、線g221とg231はXIチャネルの特性であり、線g222とg222はXQチャネルの特性である。
【0050】
群遅延特性を付加せずに振幅特性の逆特性を算出した場合は、グラフg220の破線で囲んだ円g223のようにDAC25のナイキスト周波数fs/2において振幅特性が急激に変化してしまう。
このようなナイキスト周波数fs/2における振幅特性の変化を防ぐため、本実施形態では群遅延特性を付加する。
【0051】
このように構成された光信号送信システム1および光信号制御装置3では、係数算出時にサンプリング位相をシフトさせることでナイキスト周波数の位相特性を0またはnπに近づけるため、シンボル周期サンプリングのDAC25を用いた際においても高精度にデバイスの伝達特性を補償することが可能となる。
【0052】
<第2実施形態>
図9は、本実施形態に係る光信号送信システムの構成例を示す図である。
図9のように、光信号送信システム1Aは、光送信機2、光信号制御装置3、光受信機4、および伝達関数推定部5を備える。
【0053】
光受信機4は、受信した光信号を、ベースバンドのデジタル信号に変換する。なお、光受信機4の構成例は後述する。
【0054】
伝達関数推定部5は、光受信機4からXI、XQ、YIおよびYQチャネルの信号を取得し、取得したXI、XQ、YIおよびYQチャネルの信号を用いて送信デバイス、受信デバイス、伝送路等の伝達関数を推定する。伝達関数推定部5は、推定した伝達関数を光信号制御装置3へ出力する。なお、伝達関数推定部5の構成例は後述する。また、伝達関数推定部5は、例えば光受信機4が備えていてもよい。
【0055】
(光受信機の構成例)
次に、光受信機4の構成例を説明する。
図10は、光受信機の構成例を示す図である。
図10のように、光受信機4は、例えば、偏波分離器41、局発LD42(レーザモジュール)、偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド部43、PD44(フォトダイオード)、TIA(Transimpedance Amplifier)45(45XI,45XQ,45YI,45YQ)、およびAD変換器46を備える(例えば特許文献1参照)。
【0056】
局発LD42は、直線偏光のCW光を偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド部43に送る。偏波ダイバーシティ90°ハイブリッド部43は、受信した光信号とCW光を干渉させる。PD44は、干渉させた光を光電変換する。TIA45は、PD44が光電変換した電流信号を電圧信号に変換する。AD変換器46は、TIA45が電圧に変換したアナログ信号の電圧信号をデジタル信号に変換する。
なお、
図10に示した光受信機4の構成は一例であり、これに限らない。
【0057】
(伝達関数推定部の構成例)
次に、伝達関数推定部5の構成例を説明する。
図11は、本実施形態に係る伝達関数推定部の構成例を示す図である。
図11のように、伝達関数推定部5は、例えば、FFT51、FFT52、逆伝達関数算出部53、逆伝達関数算出部54を備える(例えば特許文献1参照)。
なお、
図11に示した伝達関数推定部5の構成例は一例であり、これに限らない。
【0058】
FFT51は、X偏波の受信信号をFFT(高速フーリエ変換)処理する。FFT52は、Y偏波の受信信号をそれぞれFFT処理する。逆伝達関数算出部53は、FFT51の出力を1/伝達関数処理して逆伝達関数を計算する。逆伝達関数算出部54は、FFT52の出力を1/伝達関数処理して逆伝達関数を計算する。
【0059】
なお、逆伝達関数算出部53と逆伝達関数算出部54は、算出した逆伝達関数を光信号制御装置3へ送信するようにしてもよい。これにより、本実施形態によれば、補償係数算出部312,322における逆特性を求める処理が不要となる。また、逆伝達関数算出部53と逆伝達関数算出部54は、逆特性から順特性に変換するようにしてもよい。また、逆伝達関数算出部53と逆伝達関数算出部54は、伝達関数推定時に光送信機2におけるDAC25のサンプリングレートを高速で使用し、シンボルレートのナイキスト周波数よりも高周波まで伝達関数を推定してもよい。
【0060】
なお、伝達関数推定部5は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成されていてもよい。伝達関数推定部5は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、FFT51、FFT52、逆伝達関数算出部53、および逆伝達関数算出部54として機能するようにしてもよい。なお、伝達関数推定部5の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線や光回線を介して送信されてもよい。
【0061】
(伝達特性の逆特性の算出方法例)
次に本実施形態の伝達特性の逆特性の算出方法例を説明する。本実施形態では、第1実施形態のSkew算出処理で入力される伝達関数を伝送路の逆伝達関数とし、第1実施形態の補償係数算出において入力された伝達関数の逆特性を求める処理を実施しないようにしてもよい。本実施形態では、伝達関数の逆特性に群遅延を付加することで、第1実施形態の伝達関数に群遅延を付加した後に逆特性を求めることと同じ結果を得ることができる。
【0062】
図12は、本実施形態に係る伝達特性の逆特性の算出方法例を説明するための図である。なお、
図12では、XI、XQについて説明するが、YI、YQについても同様の処理が行われる。
Skew算出・群遅延特性付加部311は、グラフg300のようにXI(g301)とXQ(g302)との群遅延差からSkewを算出する。グラフg300において、横軸は周波数、縦軸は群遅延量である。
【0063】
次に、Skew算出・群遅延特性付加部311は、グラフg310とg320のように、XIとXQの群遅延差を無くすと同時に、DAC25におけるナイキスト周波数の位相特性を0もしくはnπとなるようにXIとXQの伝達関数に群遅延を付加する。グラフg310は群遅延特性であり、横軸が周波数、縦軸が群遅延量である。グラフg320は位相特性であり、横軸が周波数、縦軸が位相量である。
【0064】
このように構成された光信号送信システム1および光信号制御装置3と伝達関数推定部5では、係数算出時にサンプリング位相をシフトさせることでナイキスト周波数の位相特性を0またはnπに近づけるため、シンボル周期サンプリングのDAC25を用いた際においても高精度にデバイスの伝達特性を補償することが可能となる。
【0065】
(変形例)
上述した実施形態では光信号制御装置3が、2つのSkew算出・群遅延特性付加部と2つの補償係数算出部を備える例を説明したが、これに限らない。Skew算出・群遅延特性付加部と補償係数算出部は、それぞれ1つずつであってもよい。この場合、Skew算出・群遅延特性付加部は、X偏波の成分とY偏波の成分に対して、例えば時分割処理を行うようにしてもよい。また、補償係数算出部は、X偏波の成分とY偏波の成分に対して、例えば時分割処理を行うようにしてもよい。
また、上述した例では、光送信機2と光受信機4とが別体の例を説明したが、送信機と受信機の機能を有する光送受信機であってもよい。
【0066】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、光送信機や光受信機や光送受信機の光信号の制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…光信号送信システム、2…光送信機、3…光信号制御装置、4…光受信機、5…伝達関数推定部、21…フレーミング処理部、22…シンボルマッピング部、23…等化器、24…クロック生成部、25…DAC、26…レーザー光源、27…光フロントエンド回路、31…X偏波算出部、32…Y偏波算出部、311…Skew算出・群遅延特性付加部、312…補償係数算出部、321…Skew算出・群遅延特性付加部、322…補償係数算出部