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特許7594470塩素バイパス設備及びその運転方法、セメントクリンカ製造装置、並びにセメントクリンカの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】塩素バイパス設備及びその運転方法、セメントクリンカ製造装置、並びにセメントクリンカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20241127BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20241127BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20241127BHJP
【FI】
C04B7/60
F27D17/00 105A
F27D17/00 104G
B01D53/64 100
B01D53/64 ZAB
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021042103
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142094
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤永 祐太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥介
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩平
(72)【発明者】
【氏名】大場 康太
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-213889(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046200(WO,A1)
【文献】特開2019-055900(JP,A)
【文献】特開2013-147401(JP,A)
【文献】特開2010-076973(JP,A)
【文献】特開2012-187458(JP,A)
【文献】特開2001-278643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00 - 7/60
F27D 17/00
B01D 53/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間から抽気された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を導出する冷却ガス導入部と、
記第1流体から前記クリンカダストを分離して得られる第2流体と、水銀含有ダストと、を合流して前記水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流部と、
前記第1流体及び前記第3流体から、前記改質ダスト及び前記クリンカダストを含む混合ダストを回収するダスト回収部と、
前記第1合流部において気化した前記水銀を回収する水銀回収部と、を備え
前記ダスト回収部は、
前記第1流体から前記クリンカダストを分離する分離部と、
前記第3流体から、前記改質ダストを捕集する第1集塵部と、
前記クリンカダストと前記改質ダストとを混合して前記混合ダストを得る混合部と、を備える塩素バイパス設備。
【請求項2】
前記冷却ガス導入部よりも上流に、前記抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で前記抽気ガスに含まれる原料ダストを分離し、前記原料ダストが低減された前記抽気ガスを得る高温分級部を備える、請求項1に記載の塩素バイパス設備。
【請求項3】
前記冷却ガス導入部は、前記抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入し、前記抽気ガス及び前記冷却ガスを含む前記第1流体を導出する、請求項1又は2に記載の塩素バイパス設備。
【請求項4】
前記分離部で前記クリンカダストを分離して得られる前記第2流体を複数に分岐する分岐部と、
前記分岐部で分岐した前記第2流体の一部と、前記改質ダストと、が合流して第4流体を得る第2合流部と、
前記第4流体から前記混合ダストを捕集する第2集塵部と、を備え、
前記分岐部で分岐した前記第2流体の別の一部は、前記第1合流部で前記水銀含有ダストと合流する、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項5】
前記水銀回収部において前記水銀を回収して得られるガスを、前記第2集塵部で得られるガスに合流させる第3合流部を備える、請求項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項6】
前記第1流体と前記改質ダストとを合流して第5流体を得る第4合流部をさらに備え、
前記分離部では、前記第5流体から前記第5流体に含まれる前記混合ダストを分離する、請求項のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項7】
前記水銀含有ダストは、セメント原料を粉砕する原料ミルで生じる微粉を電気集塵機で回収して得られるEPダストを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の塩素バイパス設備を備えるセメントクリンカ製造装置。
【請求項9】
請求項に記載のセメントクリンカ製造装置を用いてセメントクリンカを製造するセメントクリンカの製造方法。
【請求項10】
セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間から抽気された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を得る冷却ガス導入工程と、
記第1流体から前記クリンカダストを分離して得られる第2流体と、水銀含有ダストと、を合流し前記水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流工程と、
前記第1流及び前記第3流体から、前記改質ダスト及び前記クリンカダストを含む混合ダストを回収するダスト回収工程と、
前記第1合流工程において気化した前記水銀を回収する水銀回収工程と、を有し、
前記ダスト回収工程では、前記第3流体から前記改質ダストを捕集し、当該改質ダストと、前記第1流体から分離された前記クリンカダストと、を混合して前記混合ダストを得る、塩素バイパス設備の運転方法。
【請求項11】
前記冷却ガス導入工程の前に、前記抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で前記抽気ガスに含まれる原料ダストを分離し、前記原料ダストが低減された前記抽気ガスを得る高温分級工程を有する、請求項10に記載の塩素バイパス設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩素バイパス設備及びその運転方法、セメントクリンカ製造装置、並びにセメントクリンカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカの製造装置では、各種廃棄物を原料及び燃料として用いることの取り組みが進められている。このような事情から、セメントキルンに持ち込まれる塩素量は増加する傾向にある。多くのセメントクリンカ製造装置には塩素バイパス設備が設置されており、この塩素バイパス設備で抽気された抽気ガスから塩素バイパスダスト(クリンカダスト)を回収することによって、セメントキルン内における塩素濃度の低減が図られている。
【0003】
塩素バイパス設備で回収されるクリンカダストは、KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が単独又は原料ダストの表面に析出してできる。このクリンカダストは、塩素濃度が高い程、流動性が低くハンドリング性が悪い。このため、特許文献1では、塩素バイパスシステムの抽気冷却装置に石灰石の微粉末及びセメント原料等を投入することで、クリンカダストのハンドリング性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-64938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、石灰石の微粉末及びセメント原料等を用いているため、回収されるクリンカダストの量が増加して水洗処理に要する労力とコストが増大する。そこで、本開示では、コストの増加を抑制しつつ回収されるダストのハンドリング性を改善することが可能な塩素バイパス設備及びその運転方法を提供する。また、本開示では、そのような塩素バイパス設備を備えることによって、セメントクリンカを低コストで安定的に製造することが可能なセメントクリンカ製造装置及びセメントクリンカの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る塩素バイパス設備は、セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間から抽気された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を導出する冷却ガス導入部と、第1流体、又は第1流体からクリンカダストを分離して得られる第2流体と、水銀含有ダストと、を合流して水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流部と、第1流体、第2流体、及び第3流体から選ばれる少なくとも一つの流体から、改質ダスト及びクリンカダストを含む混合ダストを回収するダスト回収部と、第1合流部において気化した水銀を回収する水銀回収部と、を備える塩素バイパス設備を提供する。
【0007】
上記塩素バイパス設備は、抽気ガスを含有する第1流体又は第2流体と水銀含有ダストとを合流させる第1合流部を有する。第1合流部では、抽気ガスを含有する流体の熱によって水銀含有ダストから水銀が気化し、水銀含有ダストよりも水銀が低減されたダスト(改質ダスト)を含む第3流体を得る。ダスト回収部で回収される改質ダスト及び混合ダストは、クリンカダストよりも塩素分が低い。このような、改質ダスト及び混合ダスト(便宜上、纏めて「ダスト」と称する場合もある。)は、クリンカダストよりも流動性が高いため、ハンドリング性を改善することができる。一方、水銀回収部では、第1合流部で気化した水銀を回収する。このように、上記塩素バイパス設備では、抽気ガスを熱源として水銀を回収しながら、回収されるダストのハンドリング性を改善することができる。このため、水銀回収のコストを低減することができる。したがって、コストの増加を抑制しつつ回収されるダストのハンドリング性を改善することができる。
【0008】
上記塩素バイパス設備は、冷却ガス導入部よりも上流に、抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストを分離し、原料ダストが低減された抽気ガスを得る高温分級部を備えることが好ましい。高温分級部では、抽気ガス中のKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が単独で析出、又は原料ダストの表面に析出してクリンカダストになる前に、原料ダストを抽気ガスから分離することができる。この原料ダストは、セメントキルン側に戻してセメントクリンカの原料として有効利用することができる。その結果、回収されるダストの量が低減され、水洗処理に要するコストと労力を低減することができる。
【0009】
上記冷却ガス導入部は、抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入し、抽気ガス及び冷却ガスを含む第1流体を導出することが好ましい。上記塩素バイパス設備は、冷却ガス導入部を備えることによって、抽気ガスが冷却され、抽気ガスに含まれる揮発した塩素分が単独で析出又は原料ダストの表面に析出してクリンカダストができる。このようなクリンカダストは付着性を有するものの、旋回流が生じるように冷却ガスを導入することによって、クリンカダストが流路の内壁等に付着することを抑制できる。
【0010】
上記ダスト回収部は、第1流体からクリンカダストを分離する分離部と、第3流体から、改質ダストを捕集する第1集塵部と、クリンカダストと改質ダストとを混合する混合部と、を備えることが好ましい。分離部を設けることによって、流動性が低いクリンカダストが第1集塵部に導入されることを抑制することができる。そして、分離部で分離されたクリンカダストと改質ダストと混合することによってハンドリング性を改善することができる。
【0011】
上記塩素バイパス設備は、分離部でクリンカダストを分離して得られる第2流体を複数に分岐する分岐部と、分岐部で分岐した第2流体の一部と、改質ダストと、が合流して第4流体を得る第2合流部と、第4流体から混合ダストを捕集する第2集塵部と、を備え、分岐部で分岐した第2流体の別の一部は、第1合流部で水銀含有ダストと合流することが好ましい。これによって、抽気ガスのうち、水銀の気化に必要な分量だけを水銀含有ダストに合流させることができる。したがって、水銀回収部の負荷を低減することができる。
【0012】
上記塩素バイパス設備は、水銀回収部において水銀を回収して得られるガスを、第2集塵部で得られるガスに合流させる第3合流部を備えることが好ましい。これによって、水銀回収部からのガスと第2集塵部からのガスを、吸引部で合わせて吸引することができる。
【0013】
上記塩素バイパス設備は、上記第1流体と改質ダストとを合流して第5流体を得る第4合流部をさらに備え、分離部では、第5流体から、第5流体に含まれる混合ダストを分離することが好ましい。これによって、分離部において、クリンカダストよりもハンドリング性に優れる混合ダストを回収することができる。
【0014】
水銀含有ダストは、セメント原料を粉砕する原料ミルで生じる微粉を電気集塵機で回収して得られるEPダストを含むことが好ましい。EPダストは水銀濃度が高い一方で、塩素濃度が低く、流動性も高い。このため、EPダストを含む水銀含有ダストを用いることによって、クリンカダストのハンドリングを十分に改善しつつ、水銀を揮発させる熱源に抽気ガスを用いることによって水銀回収コストを十分に低減することができる。
【0015】
本開示の一側面に係るセメントクリンカ製造装置は、上述のいずれかの塩素バイパス設備を備える。上記塩素バイパス設備はコストの増加を抑制しつつ回収されるダストのハンドリング性を改善することができる。このような塩素バイパス設備を備えるセメントクリンカ製造装置は、セメントクリンカを低コストで安定的に製造することができる。
【0016】
本開示の一側面に係るセメントクリンカの製造方法は、上記セメントクリンカ製造装置を用いてセメントクリンカを製造する。このため、セメントクリンカを低コストで安定的に製造することができる。
【0017】
本開示の一側面に係る塩素バイパス設備の運転方法は、セメントキルンの窯尻、ライジングダクト又はこれらの間から抽気された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を得る冷却ガス導入工程と、第1流体、又は第1流体からクリンカダストを分離して得られる第2流体と、水銀含有ダストと、を合流し水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流工程と、第1流体、第2流体、及び第3流体から選ばれる少なくとも一つの流体から、改質ダスト及びクリンカダストを含む混合ダストを回収するダスト回収工程と、第1合流工程において気化した水銀を回収する水銀回収工程と、を有する。
【0018】
上記塩素バイパス設備の運転方法は、抽気ガスを含有する第1流体又は第2流体と水銀含有ダストと合流して改質ダストを含む第3流体を得る第1合流工程を有する。第1合流工程では、抽気ガスを含有する流体の熱によって水銀含有ダストから水銀が気化し、水銀含有ダストよりも水銀が低減されたダスト(改質ダスト)が得られる。ダスト回収工程で得られる混合ダストは上記改質ダストを含むため、改質ダストを含まない場合よりも塩素分が低減されている。このため、混合ダストの方がクリンカダストよりも流動性が高くなり、ハンドリング性に優れる。一方、水銀回収工程では、第1合流工程で気化した水銀を回収する。このように、上記塩素バイパスの運転方法では、抽気ガスを熱源として水銀を回収しながら、回収されるダストのハンドリング性を改善することができる。このため、水銀回収のコストを低減することができる。したがって、コストの増加を抑制しつつ回収されるダストのハンドリング性を改善することができる。
【0019】
上記運転方法は、第1合流工程の前に、抽気ガスの温度を770℃以上に維持した状態で抽気ガスに含まれる原料ダストを分離し、原料ダストが低減された抽気ガスを得る高温分級工程を有することが好ましい。高温分級工程では、抽気ガス中のKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が単独で析出、又は原料ダストの表面に析出してクリンカダストになる前に、原料ダストを抽気ガスから分離することができる。この原料ダストは、セメントキルン側に戻してセメントクリンカの原料として有効利用することができる。その結果、回収されるダストの量が低減され、水洗処理に要するコストと労力を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
コストの増加を抑制しつつ回収されるダストのハンドリング性を改善することが可能な塩素バイパス設備及びその運転方法を提供することができる。また、そのような塩素バイパス設備を備えることによって、セメントクリンカを低コストで安定的に製造することが可能なセメントクリンカ製造装置及びセメントクリンカの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。
図2】冷却ガス導入部が接続される抽気ガスの流路の径方向断面を示す断面図である。
図3】別の実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。
図4】さらに別の実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。
図5】さらに別の実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す符号の向きを基準とする基づくものとする。さらに、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。なお、本明細書における「上流」及び「下流」は、各ガス及び各流体の流通方向を基準とする位置関係を示す。
【0023】
図1は、一実施形態に係る塩素バイパス設備とこれを備えるセメントクリンカ製造装置を示す図である。塩素バイパス設備90は、セメントクリンカ製造装置100の予熱仮焼部40のライジングダクト42に接続される。塩素バイパス設備90は、ライジングダクト42から抽気された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を導出する冷却ガス導入部25と、第1流体と水銀含有ダストとを合流して水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流部10と、第3流体から、改質ダスト及びクリンカダストを含む混合ダストを回収するダスト回収部70と、第1合流部10において気化した水銀を回収する水銀回収部35と、を備える。塩素バイパス設備90は、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分等の揮発成分を含有するクリンカダスト、及び改質ダストを含む混合ダストを回収し、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分を低減する。
【0024】
塩素バイパス設備90は、ライジングダクト42からガスを抽気する抽気口21Aと、抽気口21Aから抽気された抽気ガスが流通する流路80を有する。流路80は、抽気ガスの流通方向に沿って上流側から、原料ダストを含む抽気ガスが流通する抽気管21と、抽気ガスから原料ダストを分離する高温分級部22と、高温分級部22で原料ダストが低減された抽気ガスに対して流路80に旋回流が生じるように冷却ガスを導入する冷却ガス導入部25と、冷却ガス導入部25で冷却ガスを導入することによって得られた第1流体と水銀含有ダストを合流させる第1合流部10と、をこの順に有する。
【0025】
抽気口21Aから抽気された抽気ガスは、揮発した塩素分と原料ダストを含む。抽気ガスは抽気管21を流通し高温分級部22に導入される。抽気管21は、抽気プローブと称されるものであってもよい。KCl及びNaCl等の揮発した塩素分が単独で析出、又は原料ダストの表面に析出してクリンカダストが生じることを抑制する観点から、高温分級部22における抽気ガスは、好ましくは770℃を超える温度、より好ましくは820℃以上の温度、さらに好ましくは860℃以上に維持される。
【0026】
高温分級部22では、塩素分が気相に含まれている状態で、原料ダストを抽気ガスから分離することができる。したがって、窯尻から抽気した抽気ガスに多くの原料ダストが含まれている場合であっても、高温分級部22で原料ダストを分離することでクリンカダスト量の増加を抑制することができる。高温分級部22は例えばサイクロンであってよい。原料ダストの粒径は、例えば、18μm以上であってよく、好ましくは16μm以上であってよく、より好ましくは14μm以上であってもよい。原料ダストの表面に微量の塩素分が析出した場合であっても、塩素濃度の低い原料ダストの粗粉を分級し、クリンカダスト量の増加を抑制することができる。
【0027】
高温分級部22で抽気ガスから分離された原料ダストは、セメントクリンカの原料となるものであるため、循環流路27を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。このように、抽気口21Aから抽気された原料ダストを窯尻52に戻すことによって、原料ダストをセメントクリンカの製造に用いることができる。なお、原料ダストは窯尻52ではなく、ライジングダクト42、仮焼炉44、又はキルン本体56に戻してもよい。また、循環流路27を複数設けて原料ダストを複数箇所に戻してもよい。
【0028】
高温分級部22において抽気ガスから原料ダストを分離することによって得られる、ガス状の塩素分を含み、且つ原料ダストが低減された抽気ガスは、冷却ガス導入部25において流路80内に旋回流が生じるように導入される冷却ガスと混合され冷却される。冷却後の抽気ガスを含む第1流体(抽気ガスと冷却ガスの混合ガス)の温度は、設備の耐熱性の観点から600℃以下であってよく、500℃以下であってもよい。一方、当該第1流体の温度は、第1合流部10において後述する水銀含有ダストからの水銀の気化を促進する観点から、350℃以上であってよく、400℃以上であってもよい。冷却ガス導入部25において用いられる冷却ガスは、常温の空気であってよく、工場等で発生する排気ガスを含むガスであってもよい。排気ガスとしては、例えば、セメント製造工場に持ち込まれた下水汚泥等の含水汚泥の受け入れ、貯蔵及び発酵時に発生する臭気ガス、後述の吸引部及び他工程の吸引部から排出される排出ガス等が挙げられる。これらの一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
図2は、冷却ガス導入部25が接続される抽気ガスの流路80の径方向断面を示す断面図である。抽気ガスが流通する流路80は円管26によって構成される。図2に示すような流路80(円管26)の径方向断面で見たときに、冷却ガス導入部25の流路壁37は、円管26の接線方向と平行方向に伸びるように、円管26に接続されている。円管26に接続された冷却ガス導入部25は、流路壁37で区画される流路24内を流通する冷却ガス11を流路80内に導入する。冷却ガス導入部25から導入される冷却ガス11は、抽気ガスが流通する流路80の内壁面の周方向に沿うように導入される。冷却ガス導入部25から導入された冷却ガス11は、流路80において抽気ガスと合流しながら旋回流SFを生じる。
【0030】
旋回流SFの旋回軸は、流路80を構成する円管26の中心軸Pと一致する。旋回流SFは、流路80の外周部にエアーカーテンを形成し、高温の抽気ガスから流路80を構成する円管26の内壁面26Wを保護することができる。中心軸Pの軸方向に沿って流通する抽気ガスは、冷却ガス11が合流すると温度が低下してKCl及びNaCl等の揮発した塩素分が単独で析出、又は原料ダストの表面に析出してクリンカダストができる。流路80では旋回流SFが生じていることから、流路80を構成する円管26の内壁面26Wにクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制できる。
【0031】
図1に示すように、塩素バイパス設備90は、冷却ガス導入部25の下流に、抽気ガスと冷却ガスを含む第1流体と水銀含有ダストとを合流させて水銀含有ダストに含まれる水銀を気化させる第1合流部10を備える。第1合流部10における、第1流体と水銀含有ダストとが合流して得られる第3流体の温度は、水銀含有ダストに含まれる水銀を十分に気化させるため、好ましくは350℃以上であり、より好ましくは400℃以上である。一方、設備の耐熱性の観点から、第3流体の当該温度は、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは500℃以下である。
【0032】
水銀含有ダストは、水銀以外に無機酸化物を含むことが好ましい。水銀含有ダストは、塩素を含んでもよいが、塩素濃度は好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下である。この塩素濃度は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0033】
水銀含有ダストに含まれる無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、及び酸化マンガンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むものが挙げられる。このような水銀含有ダストとして、セメント原料を粉砕する原料ミルで生じる微粉を電気集塵機で回収して得られるEPダストが挙げられる。EPダストは水銀濃度が高い一方で、塩素濃度が低く、流動性も高い。このため、EPダストを含む水銀含有ダストを用いることによって、クリンカダストのハンドリングを十分に改善しつつ、水銀の回収量も十分に増やして水銀回収コストを十分に低減することができる。ここで、水銀含有ダストは回収されるダストのハンドリング改善に必要な量を、第1流体と合流させることが好ましい。ハンドリング改善に必要な量の水銀含有ダストを合流させることによって、水洗される混合ダストの量が増加することを抑制できる。
【0034】
水銀含有ダストの水銀濃度は、十分な量の水銀を回収してコスト低減を図る観点から、0.1mg/kg以上であってよく、10mg/kg以上であってもよい。水銀濃度は、セメント協会標準試験方法 JCAS I-51 セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法」に準拠して測定することができる。
【0035】
第1合流部10では、第1流体と水銀含有ダストが合流することによって水銀含有ダストに含まれていた水銀は揮発し、改質ダストを含む第3流体が得られる。第3流体は、ダスト回収部70をなす集塵部71に導入される。集塵部71では、改質ダストとクリンカダストを含む混合ダストが捕集される。集塵部71に導入される第3流体の温度は、水銀回収率を高くする観点から、好ましくは350℃以上であってよく、より好ましくは400℃以上であってよい。そのため、集塵部71は耐熱性のある高温バックフィルタ等を有することが好ましい。集塵部71で捕集される混合ダストは、改質ダストとクリンカダストとを含む。この混合ダストは、水洗処理を施した後、セメント組成物に配合してもよいし、セメント原料として用いてもよい。集塵部71で混合ダストが除去されて得られるガスは減温部34において冷却される。減温部34は、例えば水冷式又は空冷式の熱交換器を備えていてよく、湿式のスクラバを備えていてもよい。
【0036】
減温部34の下流に設けられる水銀回収部35では、ガス状の水銀を回収する。水銀の回収は、吸着材に吸着させることによって行ってよい。吸着材としては、未燃分の多いダスト、飛灰、活性炭、ゼオライト及びキレート樹脂等が挙げられる。吸着材として活性炭を用いる場合は、減温部34にてガスの温度を100℃以下に下げることが好ましい。水銀回収部35は、上述のような吸着材を用いるものに限定されず、スクラバ及びスプレー洗浄塔等の湿式洗浄装置を用い、流体を冷却しつつ水銀を液相側に回収してもよい。
【0037】
塩素バイパス設備90は、減温部34と水銀回収部35との間、又は、水銀回収部35の下流に吸引ファンを有していてもよい。このような吸引ファンで吸引することによって、抽気口21Aから抽気される抽気ガス及び塩素含有流体が流路を流通することができる。吸引ファンとしては、シロッコファン及びターボファンなどの通常の吸引ファンが挙げられる。
【0038】
図1のセメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90と、セメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼部40と、予熱及び仮焼されたセメント原料を焼成してセメントクリンカを得るセメントキルン50と、セメントキルン50で得られたセメントクリンカを冷却するクリンカクーラ60とを備える。予熱仮焼部40は、4つのサイクロンC1,C2,C3,C4(プレヒータ)と仮焼炉44とを有する。
【0039】
セメントキルン50の窯尻52と予熱仮焼部40の仮焼炉44とは、ライジングダクト42で接続されている。ライジングダクト42と窯尻52の接続部近傍には、セメントキルン50で発生するキルン排ガスを抽気して、キルン排ガスに含まれるダストを回収する塩素バイパス設備90の抽気口21Aが設けられている。抽気口21Aには、抽気管21が接続されている。セメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90を備えることによって、セメントクリンカ製造装置100内の塩素分を低減することができる。
【0040】
サイクロンC1とサイクロンC2との接続部から導入されるセメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2、サイクロンC3、ライジングダクト42、仮焼炉44、及びサイクロンC4を流通してセメントキルン50の窯尻52に導入される。セメントキルン50では、予熱及び仮焼されたセメント原料が、窯尻52とは反対側に設けられたバーナ54の燃焼によって加熱されセメントクリンカとなる。得られたセメントクリンカは、クリンカクーラ60で冷却される。クリンカクーラ60によって冷却された後、セメントクリンカが得られる。
【0041】
セメントクリンカ製造装置100は、塩素バイパス設備90を備えるため、安定的に運転することが可能である。また、水銀含有ダストに含まれる水銀を塩素バイパス設備90で回収することができるため、セメントクリンカを低コストで製造することができる。また、高温分級部22で回収された原料ダストをセメントキルン50側に戻す循環流路27を備えることから、セメントクリンカの収量を増やすことができる。
【0042】
一実施形態に係るセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカ製造装置100を用いて行うことができる。この製造方法は、予熱仮焼部40でセメント原料を予熱及び仮焼する予熱仮焼工程と、予熱及び仮焼されたセメント原料を、窯尻52からキルン本体56に導入し、セメントクリンカを製造する焼成工程と、焼成工程で発生するキルン排ガスを抽気して抽気ガスを得る抽気工程と、高温分級部22で抽気ガスから原料ダストを分離する高温分級工程と、高温分級部22から導出される、原料ダストが低減された抽気ガスが流通する流路に旋回流が生じるように冷却ガスを導入して混合し、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を得る冷却ガス導入工程と、第1流体と水銀含有ダストとを合流し、水銀含有ダストに含まれる水銀を気化して改質ダストを含む第3流体を得る第1合流工程と、第3流体から改質ダスト及びクリンカダストを含む混合ダストを回収するダスト回収工程と、ダスト回収工程で混合ダストを回収することによって得られるガスを減温する減温工程と、減温工程で減温されたガスに含まれる水銀を回収する水銀回収工程と、を有する。
【0043】
また、高温分級工程で分離された原料ダストをセメントキルン50側に戻す循環工程を有してもよい。また、焼成工程で得られたセメントクリンカを、クリンカクーラ60で冷却するクリンカ冷却工程を有してもよい。
【0044】
予熱仮焼工程では、セメント原料がサイクロンC1とサイクロンC2の間の流路から導入される。セメント原料は、サイクロンC1、サイクロンC2及びサイクロンC3を流通して予熱される。その後、仮焼炉44に導入され、仮焼される。仮焼炉44には、石炭等の燃料を燃焼するバーナが設けられていてよい。仮焼炉44で仮焼されたセメント原料(仮焼原料)は、サイクロンC4に導入され加熱される。
【0045】
焼成工程では、サイクロンC4で加熱された仮焼原料が窯尻52に導入される。その後、キルン本体56において焼成されセメントクリンカとなる。抽気工程では、焼成工程で発生するキルン排ガスを抽気口21Aから抽気して抽気ガスを得る。高温分級工程では、塩素分が抽気ガスに気相として含まれている状態で、原料ダストを抽気ガスから分離する。したがって、揮発した塩素分が原料ダストの表面に析出する前に原料ダストの分離ができるため、クリンカダストの量を削減することができる。また、高温分級工程内でクリンカダストが生じて、分級機等の壁面にクリンカダストが付着することを抑制する観点から、高温分級工程では、抽気ガスの温度を、好ましくは770℃以上、より好ましくは820℃以上、さらに好ましくは860℃以上に維持した状態で、抽気ガスに含まれる原料ダストを分離する。高温分級工程で得られる原料ダストをセメントキルン50の窯尻52に戻す循環工程を行うことによって、セメントクリンカの生産量を効率よく増やすことができる。
【0046】
冷却ガス導入工程では、高温分級部22から導出される抽気ガスに冷却ガスを合流させて抽気ガスを冷却する。このとき、図2に示すように、抽気ガスの流路80を構成する円管26の内壁面26Wの周方向に沿って冷却ガスを導入することによって、旋回流SFを生じさせる。これによって、内壁面26Wにクリンカダストが付着してコーチングが発生することを抑制できる。冷却ガス導入工程で抽気ガスに冷却ガス11を混合することによって得られる第1流体の温度は、設備の耐熱性及び合流工程で水銀の気化を促進する観点から、350~600℃であってよく、400~500℃であってもよい。抽気ガスがこのように冷却されることによって、揮発した塩素分が析出、又は原料ダストの表面に析出してクリンカダストが生成する。
【0047】
第1合流工程では、第1合流部10において冷却ガス導入工程で得られる第1流体と水銀含有ダストとを合流し、さらに水銀含有ダストに含まれる水銀を気化することで改質ダストを含む第3流体を得る。合流前の水銀含有ダストの温度は、例えば50℃以下であってよい。水銀含有ダストの水銀は抽気ガスを含む流体の熱により揮発するため、第3流体では、気相中の水銀濃度が高くなり、固相(ダスト)中の水銀濃度が低くなる。このように水銀含有ダストから水銀が揮発して得られる、水銀含有ダストよりも水銀濃度が低いダストを改質ダストと称する。
【0048】
塩素含有流体に含まれる改質ダストは、水銀濃度以外の点では、水銀含有ダストと同様の組成を有していてよい。すなわち、改質ダストは、無機酸化物を含むことが好ましい。改質ダストは、塩素を含んでもよいが、塩素濃度は好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以下である。この塩素濃度は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。改質ダストに含まれる無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、及び酸化マンガンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むものが挙げられる。
【0049】
ダスト回収工程では、第3流体を、ダスト回収部70をなす集塵部71に導入し、改質ダストとクリンカダストを含む混合ダストを捕集する。一方、気相中に含まれる水銀は、ダスト回収工程で固相と分離された後、減温工程により冷却され、その後、水銀回収部35において回収される。
【0050】
この製造方法によって、塩素バイパス設備90及びセメントクリンカ製造装置100を安定的に運転することができる。また、原料ダストを有効利用して、セメントクリンカを効率よく製造することができる。また、回収されるダスト量の増加を抑制し、ダストの水洗処理コストを低減するとともに、水銀を揮発させる熱源に抽気ガスを用いることにより水銀回収コストを十分に低減することができる。
【0051】
一実施形態に係る塩素バイパス設備の運転方法は、塩素バイパス設備90を用いて行うことができる。この運転方法は、上述の抽気工程、高温分級工程、冷却ガス導入工程、第1合流工程、ダスト回収工程、減温工程及び水銀回収工程を有してよい。また、上述の循環工程を有していてもよいし、上述のセメントクリンカの製造方法のいずれかの工程をさらに有していてもよい。この運転方法はセメントクリンカ製造装置100に備えられる塩素バイパス設備90を用いて行うことができる。したがって、各工程の内容は、上述のセメントクリンカの製造方法における内容と同様であってよい。
【0052】
上述の塩素バイパス設備90及びセメントクリンカ製造装置100に関する説明内容は、上述のセメントクリンカの製造方法及び塩素バイパス設備の運転方法に適用することができる。また、上記製造方法及び運転方法の説明内容も、上述の塩素バイパス設備90及びセメントクリンカ製造装置100に適用することができる。
【0053】
図3は、別の実施形態に係る塩素バイパス設備91とこれを備えるセメントクリンカ製造装置101を示す図である。
【0054】
塩素バイパス設備91について、塩素バイパス設備90とは異なる部分を中心に以下に説明する。塩素バイパス設備90と共通する部分については、塩素バイパス設備90の内容を適用することができる。
【0055】
塩素バイパス設備91は、冷却ガス導入部25と第1合流部10の間に、第1流体からクリンカダストを分離する分離部75を備える。分離部75は、サイクロン及び/又は高温バックフィルタを有していてよい。分離部75で第1流体からクリンカダストを分離する際の温度は、下流の第1合流部10で水銀を十分に気化させる観点から、好ましくは350℃以上であり、より好ましくは400℃以上である。一方、設備の耐熱性の観点から、分離部75で塩素分を含む固形分を分離する際の温度は、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは500℃以下である。分離部75では、第1流体から全てのクリンカダストを分離しなくてもよい。第1流体に含まれる一部のクリンカダストを分離することによって、第1流体よりもクリンカダストの含有量が低減された第2流体が得られる。
【0056】
第1合流部10では、分離部75においてクリンカダストを分離して得られる第2流体と水銀含有ダストが合流する。これによって、水銀含有ダストが改質ダストとなり、改質ダストと気化した水銀を含む第3流体が得られる。集塵部71(第1集塵部)は、第3流体から改質ダストを捕集する。集塵部71では改質ダストを捕集することによって、気化した水銀を含むガスが得られる。集塵部71で捕集して回収される改質ダストは、分離部75で分離されるクリンカダストよりも流動性に優れる。改質ダストは、水銀含有ダストよりも水銀濃度が低い。改質ダストにおける水銀濃度は、水銀含有ダストにおける水銀濃度を十分に低減する観点から、例えば、0.5mg/kg以下であってよく、0.05mg/kg以上であってもよい。改質ダストの水銀濃度も、セメント協会標準試験方法 JCAS I-51 セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法」に準拠して測定することができる。改質ダストの塩素濃度及びその他の成分は、上述したとおりである。
【0057】
改質ダストは、例えば循環流路27aを経由してセメントキルン50の例えば窯尻52に戻してもよい。循環流路27aと循環流路27は、流路を一部共用してもよい。循環流路27aで循環する改質ダストと、循環流路27で循環する原料ダストとを合流した後に、窯尻52に導入してもよい。
【0058】
ダスト回収部70Aは、上述の分離部75、集塵部71、及び混合部73を有する。混合部73では、分離部75で第1流体から分離されたクリンカダストと集塵部71で捕集された改質ダストとを混合する。これによって、クリンカダスト単体よりも高い流動性を有する混合ダストが得られる。ダスト回収部70Aは、混合部73を備えることによって、クリンカダストのハンドリング性を改善することができる。ここで、混合部73で混合させる改質ダストの量は、クリンカダストのハンドリング状態に応じて適宜調整してよい。クリンカダストのハンドリング状態が良いときは混合させる改質ダストの量を減少させ、循環流路27aを通過する改質ダストの量を増加させることで混合ダストの量を減少させることができる。これによって、水洗設備で処理される混合ダストの量を減少させることができる。
【0059】
集塵部71で得られる改質ダストは、分離部75の上流側に設けられる第4合流部14で第1流体に合流させて、第1流体と改質ダストとを含む第5流体を得てもよい。これによって、分離部75では、クリンカダストを含む混合ダストが回収されることとなる。したがって、分離部75におけるクリンカダストの付着を抑制することができる。
【0060】
図3のセメントクリンカ製造装置101は、塩素バイパス設備90とは上述の点で異なる塩素バイパス設備91を備えること以外は、図1のセメントクリンカ製造装置100と同様の構成を有する。したがって、セメントクリンカ製造装置101の塩素バイパス設備91以外の構成には、セメントクリンカ製造装置100の説明内容を適用することができる。
【0061】
セメントクリンカ製造装置101を用いるセメントクリンカの製造方法は、セメントクリンカ製造装置100を用いる場合と同様に、予熱仮焼工程、焼成工程と、抽気工程と、高温分級工程と、冷却ガス導入工程とを有する。そして、冷却ガス導入工程で得られた第1流体からクリンカダストを分離して、第1流体よりもクリンカダストの含有量が低減された第2流体を得る分離工程を有する。分離工程は、例えば分離部75で行うことができる。したがって、分離部75に関する説明内容に基づいて行うことができる。
【0062】
上記製造方法は、分離工程の後、第2流体と水銀含有ダストとを合流し、水銀含有ダストに含まれる水銀を気化して改質ダストを含む第3流体を得る第1合流工程と、第3流体に含まれる改質ダストを捕集し、当該改質ダストと第1流体から分離されるクリンカダストとを混合して混合ダストを回収するダスト回収工程と、ダスト回収工程で第3流体から改質ダストを捕集することによって得られるガスを減温する減温工程と、減温工程で減温されたガスに含まれる水銀を回収する水銀回収工程と、を有する。ダスト回収工程は、例えば、ダスト回収部70Aで行うことができる。したがって、ダスト回収部70Aの説明内容に基づいて行うことができる。
【0063】
循環工程では、高温分級工程で分離された原料ダストとともに、ダスト回収工程で第3流体を捕集して得られる改質ダストをセメントキルン50側に戻す循環工程を有してもよい。これによって、改質ダストに含まれる成分をセメント原料として有効活用するとともに、水洗設備で処理されるダスト量を低減することができる。
【0064】
上記製造方法は、ダスト回収工程で得られる改質ダストを、第1流体に合流させる第4合流工程を有していてもよい。第4合流工程は、例えば、分離部75の上流側に設けられる第4合流部14で行ってよい。第4合流工程では、第1流体と、改質ダストが合流することによって、第1流体と、改質ダストを含む第5流体が得られる。
【0065】
塩素バイパス設備91の運転方法は、上述の抽気工程、高温分級工程、冷却ガス導入工程、分離工程、第1合流工程、ダスト回収工程、減温工程及び水銀回収工程を有してよい。また、上述の循環工程及び第4合流工程を有していてもよいし、上述のセメントクリンカの製造方法の内容に基づく別の工程をさらに有していてもよい。各工程の内容は、上述のセメントクリンカの製造方法における内容と同様であってよい。
【0066】
上述の塩素バイパス設備90,91及びセメントクリンカ製造装置100,101に関する説明内容は、上述のセメントクリンカの製造方法及び塩素バイパス設備の運転方法に適用することができる。また、上記製造方法及び運転方法の説明内容も、上述の塩素バイパス設備91及びセメントクリンカ製造装置101に適用することができる。
【0067】
図4は、さらに別の実施形態に係る塩素バイパス設備92とこれを備えるセメントクリンカ製造装置102を示す図である。塩素バイパス設備92は、セメントクリンカ製造装置102の予熱仮焼部40のライジングダクト42に接続される。塩素バイパス設備92は、ライジングダクト42から抽気された抽気ガスから原料ダストを分級する高温分級部22と、高温分級部22で原料ダストが低減された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を導出する冷却ガス導入部25と、第1流体からクリンカダストを分離して、第2流体とクリンカダストとを得る分離部75と、第2流体と水銀含有ダストとを合流して水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流部10と、第3流体から改質ダストを捕集する集塵部71(第1集塵部)と、分離部75で分離されたクリンカダストと集塵部71で捕集された改質ダストとを混合して混合ダストを得る混合部73と、第1合流部10において気化した水銀を回収する水銀回収部35と、を備える。分離部75、集塵部71(第1集塵部)、及び混合部73は、混合ダストを回収するダスト回収部70Aを構成する。これらの構成は、塩素バイパス設備91と同じである。
【0068】
塩素バイパス設備92について、塩素バイパス設備91とは異なる部分を以下に説明する。塩素バイパス設備90,91と共通する部分については、塩素バイパス設備90,91の内容を適用することができる。
【0069】
塩素バイパス設備92は、分離部75と第1合流部10の間において、第2流体の流路が、第1流路81と第2流路82の2つに分岐する分岐部30を備える。第1流路81は、塩素バイパス設備91に備えられる構成と同じである。
【0070】
第2流路82は、分岐部30の下流に、冷却部38と第2合流部12とをこの順に備える。分離部75がサイクロンの場合は、一部のクリンカダストは分離部75を通過する。
第2合流部12では、第2流体と、集塵部71で得られる改質ダストとが合流し、第4流体が得られる。これによって、分離部75を通過したクリンカダストに含まれる塩素分によるハンドリング性の悪化を、改質ダストを混合することによって改善することができる。
【0071】
第2合流部12で得られた第4流体は集塵部72(第2集塵部)に導入され、クリンカダスト及び改質ダストを含む混合ダストが捕集される。集塵部72は、例えばバックフィルタを備えていてよい。集塵部72の下流には、ガスを吸引する吸引部74を備える。吸引部74としては、シロッコファン及びターボファンなどの通常の吸引ファンが挙げられる。集塵部72で捕集される混合ダストは、クリンカダストよりも流動性が高いため、ハンドリング性を改善することができる。
【0072】
塩素バイパス設備92は、集塵部72と吸引部74の間の流路において、水銀回収部35で水銀が低減されたガスと集塵部72で混合ダストが捕集されたガスとを合流する第3合流部を備えていてもよい。これによって、水銀回収部35と集塵部72からのガスを、吸引部74で合わせて吸引することができる。
【0073】
本実施形態でも、第2流体の一部を熱源として、水銀含有ダストの水銀を気化させて改質ダストを得ている。そして、この改質ダストを用いて、回収されるダストのハンドリング性を改善している。このため、水銀回収に要するコストを削減しつつ、回収されるダストのハンドリング改善によって安定運転を行うことができる。
【0074】
塩素バイパス設備92は、第1流路81と第2流路82のそれぞれを流通する第2流体の流量を調節する流量調節部を有していてよい。例えば、分岐部30の下流にダンパーを設け、それぞれの流路を流通する第2流体の流量調節を行ってもよい。
【0075】
図4のセメントクリンカ製造装置102は、塩素バイパス設備91とは上述の点で異なる塩素バイパス設備92を備えること以外は、図3のセメントクリンカ製造装置101と同様の構成を有する。したがって、セメントクリンカ製造装置102の塩素バイパス設備92以外の構成には、セメントクリンカ製造装置100,101の説明内容を適用することができる。
【0076】
セメントクリンカ製造装置102を用いるセメントクリンカの製造方法及び塩素バイパス設備92の運転方法は、分離工程までは、セメントクリンカ製造装置101を用いる上述の製造方法及び塩素バイパス設備91の運転方法と同様の工程を有し、分離工程の後、分離工程で得られる第2流体を分岐する分岐工程を有する。分岐工程で得られる第2流体の一部は、第1流路81を流通し、塩素バイパス設備91を用いる上述の製造方法及び運転方法と同様の工程(第1合流工程、ダスト回収工程、減温工程、及び水銀回収工程)を経てよい。
【0077】
一方、分岐工程で得られる第2流体の他部は、第2流路82を流通し、冷却部38を用いる冷却工程において冷却される。その後、第2合流部12における第2合流工程によって、集塵部72に導入される第4流体が得られる。第2集塵工程では、第4流体から、クリンカダスト及び改質ダストを含む混合ダストを捕集する。各工程の詳細は、塩素バイパス設備92の説明内容、並びに、セメントクリンカ製造装置100,101を用いたセメントクリンカの製造方法及び塩素バイパス設備90,91の運転方法を適用することができる。
【0078】
図5は、さらに別の実施形態に係る塩素バイパス設備93とこれを備えるセメントクリンカ製造装置103を示す図である。塩素バイパス設備93は、セメントクリンカ製造装置103の予熱仮焼部40のライジングダクト42に接続される。
【0079】
塩素バイパス設備93は、ライジングダクト42から抽気された抽気ガスから原料ダストを分級する高温分級部22と、高温分級部22で原料ダストが低減された抽気ガスに冷却ガスを混合して、クリンカダストを含む770℃未満の第1流体を導出する冷却ガス導入部25と、冷却ガス導入部25の下流において、第1流体の流路80が、第1流路81と第2流路82の2つに分岐する分岐部30Aと、第1流体の一部と水銀含有ダストとを合流して水銀含有ダストに含まれる水銀を気化し、改質ダストを含む第3流体を得る第1合流部10と、第3流体から改質ダストを捕集する集塵部71(第1集塵部、ダスト回収部70)と、第1流体の一部を冷却する冷却部38と、冷却部38で冷却された第1流体と集塵部71で捕集される混合ダストとを合流して第6流体を得る第2合流部12と、第5流体から混合ダストを回収する集塵部72(第2集塵部)と、集塵部72の下流にはガスを吸引する吸引部74とを備える。
【0080】
塩素バイパス設備93は、分離部75及び混合部73を備えず、第1流体が流通する流路80が分岐部30Aで分岐している点、冷却部38では第1流体を冷却し、第2合流部では第1流体と集塵部71で捕集される混合ダストとが合流して第6流体を得ている点、集塵部71では第5流体から混合ダストを回収する点で、図4の塩素バイパス設備92と異なっている。塩素バイパス設備93のその他の点については、図4の塩素バイパス設備92と同じであってよい。したがって、塩素バイパス設備90,91,92と共通する部分については、塩素バイパス設備90,91,92の内容を適用することができる。
【0081】
本実施形態では、第1流体の一部を熱源として、水銀含有ダストの水銀を気化させて改質ダストを含む混合ダストを得ている。そして、この混合ダストを用いて、クリンカダストのハンドリング性を改善している。このため、水銀回収に要するコストを削減するとともに回収されるダストのハンドリングを改善して安定運転を行うことができる。
【0082】
セメントクリンカ製造装置103を用いるセメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備93の運転方法は、分離工程及び分岐工程を除き、セメントクリンカ製造装置100,102を用いるセメントクリンカの製造方法、及び塩素バイパス設備90,92の運転方法と同様の工程を有してよい。すなわち、本実施形態では、冷却ガス導入工程の後、分離工程を行わず、第1流体を分岐する分岐工程を行う。分岐工程で得られる第1流体の一部は、第1流路81を流通し、第1合流部10以降、塩素バイパス設備90を用いる上述の運転方法と同様の工程を経てよい。一方、分岐工程で得られる第1流体の他部は、第2流路82を流通し、冷却部38以降、塩素バイパス設備92を用いる上述の運転方法と同様の工程を経てよい。
【0083】
第2流路82を流通する第1流体は、冷却部38を用いる冷却工程において冷却される。その後、第2合流部12における第2合流工程によって、第1流体と、集塵部71におけるダスト回収工程で回収された混合ダストとが合流して第6流体を得る。第2集塵工程では、混合ダストを含有する第6流体から混合ダストを捕集する。この混合ダストもクリンカダストよりも流動性が高くハンドリング性が改善されている。これら以外の他の実施形態と共通する工程については、他の実施形態の説明内容に基づいて行うことができる。
【0084】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上述の各実施形態では、高温分級部22で分離された原料ダストは循環流路27を介してセメントキルン50側に戻していたがこれに限定されない。例えば、セメント原料のタンクに入れてセメント原料として予熱仮焼部40に供給されてもよい。また例えば、高温分級部22はなくてもよい。
【0085】
上述の各実施形態では、抽気口21Aがライジングダクト42に設けられているが、これに限定されない。例えば、変形例では、抽気口21Aは窯尻52に設けられてもよく、窯尻52とライジングダクト42の間(又は境界部)に設けられてもよい。塩素バイパス設備92,93(セメントクリンカ製造装置102,103)において、第2合流部12を、冷却部38よりも上流に配置してもよい。また、流路80は、3つ以上の流路に分岐してもよい。この場合、3つ以上の流路の少なくとも一つが第1流路81であり、別の少なくとも一つが第2流路82であってよい。
【符号の説明】
【0086】
10…第1合流部、11…冷却ガス、12…第2合流部、14…第4合流部、21…抽気管、21A…抽気口、22…高温分級部、24…流路、25…冷却ガス導入部、26…円管、26W…内壁面、27,27a…循環流路、30,30A…分岐部、34…減温部、35…水銀回収部、37…流路壁、38…冷却部、40…予熱仮焼部、42…ライジングダクト、44…仮焼炉、50…セメントキルン、52…窯尻、54…バーナ、56…キルン本体、60…クリンカクーラ、70,70A…ダスト回収部、71,72…集塵部、73…混合部、74…吸引部、75…分離部、80…流路、81…第1流路、82…第2流路、90,91,92,93…塩素バイパス設備、100,101,102,103…セメントクリンカ製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5