(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/106 20170101AFI20241127BHJP
B29C 64/245 20170101ALI20241127BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20241127BHJP
B29C 64/379 20170101ALI20241127BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241127BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241127BHJP
B29C 64/364 20170101ALI20241127BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20241127BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241127BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/245
B29C64/40
B29C64/379
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/364
B33Y40/10
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2021066402
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2020074120
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐彦
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0101672(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0283314(US,A1)
【文献】特開2003-211510(JP,A)
【文献】特表2020-527110(JP,A)
【文献】特開2019-131762(JP,A)
【文献】特開2019-038167(JP,A)
【文献】特開2020-128469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 69/00-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 9/00
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性熱可塑性樹脂を主成分とする造形材料を用い、熱溶解積層法により、下記式1に示す温度条件下で造形ステージ上に立体造形物を形成する第1工程と、
Tm > Ts ≧ Tc、かつ、Tc > Ta > Tc-100(式1)
[式1中、Tsは前記造形ステージの温度(℃)、Tcは前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度(℃)、Tmは前記結晶性熱可塑性樹脂の融点(℃)、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)を示す。]
前記第1工程後に下記式2に示す温度条件下で、前記第1工程で形成した立体造形物を、前記造形ステージの表面から剥離する第2工程と、を含み、
Tc > Ts(式2)
前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される1種である、立体造形物の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程の前に、前記造形材料を用い、熱溶解積層法により、前記式1に示す温度条件下で、前記造形ステージと前記立体造形物との間に下地層を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記立体造形物を前記造形ステージの外部に排出する排出機構により、前記造形ステージの表面から立体造形物の剥離及び排出を行った後、連続して前記第1工程に移行して新たな立体造形物を形成する、請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項4】
前記造形材料中における前記結晶性熱可塑性樹脂の質量分率が99質量%以上である、 請求項1~3のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項5】
前記結晶性熱可塑性樹脂のメルトフローレートが20g/10分以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項6】
前記結晶性熱可塑性樹脂がポリアセタール樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法による立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンターは、コンピュータで作成された三次元の造形データを元に、造形材料を順次積層して立体物を造形する装置であり、数種類の方式が知られている。中でも、熱可塑性樹脂を加熱溶融して積層することにより立体造形物を形成する熱溶解積層法は、その方式を採用する装置が低価格であることから、産業向けのみならず、個人向けとしても広く普及しつつある。
【0003】
熱溶解積層法において用いられる造形材料としては、ポリ乳酸、ABS樹脂等の樹脂材料が一般的であるが、他の樹脂でも造形材料として使用することができれば好適である。
例えば、ポリアセタール樹脂(以下、「POM樹脂」とも呼ぶ。)は、種々の物理的・機械的特性に優れるため、POM樹脂を造形材料として用い、熱溶解積層法により造形できれば有用である。しかし、POM樹脂は、温度低下に伴う収縮率が大きいため、熱溶解積層法による造形時に反りが発生することが危惧される。また、POM樹脂は、他の材料との接着性に劣るため、造形中に上記の反りが発生した場合に造形ステージから造形物が剥離しやすく、造形の継続が困難となるといった問題がある。以上のことから、従来においては、POM樹脂又はそれを主成分として含む造形材料を用いて熱溶解積層法で造形することは容易ではなかった。
【0004】
POM樹脂を含む造形材料において、上記のような反りの問題の解決を図るため種々の提案がなされている(特許文献1、2参照)。特許文献1には、POM樹脂と、無機充填剤及び/又はポリ乳酸とを併用した3Dプリンター用造形材料が記載されている。特許文献2には、熱可塑性樹脂と、無機繊維とを含有する樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-131762号公報
【文献】国際公開第2018/0432313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の造形材料又は樹脂組成物においてはいずれも、反りを抑えるために無機充填剤など他の添加剤を含有させる必要がある。すなわち、添加剤が配合されていないPOM樹脂単独(いわゆるニート樹脂)で反りの発生を抑制しつつ立体造形物を形成することは困難である。また、無機充填剤が配合された造形材料を用いると、造形材料を吐出する吐出ノズルの摩耗が早まるという問題がある。さらに、他の材料との接着性に劣るというPOM樹脂の欠点が克服されていない。そのため、POM樹脂を用いて熱溶解積層法によって造形する際には、造形ステージ表面に特殊な凹凸形状を形成したり、密着性を向上させるための材料を別途ステージ表面に貼り付けたりする等、さらなる材料コストと手間がかかるという問題があった。以上の問題は、POM樹脂のみならず、温度低下に伴う収縮率が大きい他の結晶性熱可塑性樹脂であっても起こり得る。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、熱溶解積層法による立体造形物の製造方法において、結晶性熱可塑性樹脂を主成分として含む造形材料を用いながらも、積層時の反りの発生が抑えられ、かつ、造形中、形成した立体造形物が造形ステージ上にしっかりと固定されるとともに、形成後の立体造形物を造形ステージから容易に剥離することができる立体造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)結晶性熱可塑性樹脂を主成分とする造形材料を用い、熱溶解積層法により、下記式1に示す温度条件下で造形ステージ上に立体造形物を形成する第1工程と、
Tm > Ts ≧ Tc、かつ、Tc > Ta > Tc-100(式1)
[式1中、Tsは前記造形ステージの温度(℃)、Tcは前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度(℃)、Tmは前記結晶性熱可塑性樹脂の融点(℃)、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)を示す。]
前記第1工程後に下記式2に示す温度条件下で、前記第1工程で形成した立体造形物を、前記造形ステージの表面から剥離する第2工程と、を含み、
Tc > Ts(式2)
前記結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される1種である、立体造形物の製造方法。
【0009】
(2)前記第1工程の前に、前記造形材料を用い、熱溶解積層法により、前記式1に示す温度条件下で、前記造形ステージと前記立体造形物との間に下地層を形成する工程をさらに含む、前記(1)に記載の立体造形物の製造方法。
【0010】
(3)前記第2工程において、前記立体造形物を前記造形ステージの外部に排出する排出機構により、前記造形ステージの表面から立体造形物の剥離及び排出を行った後、連続して前記第1工程に移行して新たな立体造形物を形成する、前記(1)に記載の立体造形物の製造方法。
【0011】
(4)前記造形材料中における前記結晶性熱可塑性樹脂の質量分率が99質量%以上である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【0012】
(5)前記結晶性熱可塑性樹脂のメルトフローレートが20g/10分以下であることを特徴とする、前記(1)~(4)に記載の立体造形物の製造方法。
【0013】
(6)前記結晶性熱可塑性樹脂がポリアセタール樹脂である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱溶解積層法による立体造形物の製造方法において、結晶性熱可塑性樹脂を主成分として含む造形材料を用いながらも、積層時の反りの発生が抑えられ、かつ、造形中、形成した立体造形物が造形ステージ上にしっかりと固定されるとともに、形成後の立体造形物を造形ステージから容易に剥離することができる立体造形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の立体造形物の製造方法のフローを示す概念図である。
【
図2】造形ステージ上の立体造形物をロボットアームにより排出する様子を示す図である。
【
図3】実施例で形成した立体造形物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の立体造形物の製造方法は、結晶性熱可塑性樹脂(以下、単に「熱可塑性樹脂」とも呼ぶ。)を主成分とする造形材料を用い、熱溶解積層法により、下記式1に示す温度条件下で造形ステージ上に立体造形物を形成する第1工程と、
Tm > Ts ≧ Tc、かつ、Tc > Ta > Tc-100(式1)
[式1中、Tsは造形ステージの温度(℃)、Tcは結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度(℃)、Tmは結晶性熱可塑性樹脂の融点(℃)、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)を示す。]
第1工程後に下記式2に示す温度条件下で、第1工程で形成した立体造形物を、造形ステージの表面から剥離する第2工程と、を含み、
Tc > Ts(式2)
結晶性熱可塑性樹脂が、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される1種であることを特徴としている。
【0017】
本実施形態の立体造形物の製造方法においては、熱溶解積層法による立体造形物の造形において、造形材料の積層時の各温度を所定範囲とすることにより(第1工程)、積層時の温度低下に伴う積層物の反りの発生を抑え、かつ、造形ステージ上に積層物をしっかりと固定することができる。すなわち、温度低下に伴う収縮率が大きい熱可塑性樹脂であっても、反りの発生が抑えられる。また、他の材料との接着性に劣る場合でも、造形中、造形ステージ表面に特別な加工などを施さなくても、造形物が造形ステージにしっかりと固定される。同様に、造形後、造形エリアの雰囲気温度を所定範囲とすることにより(第2工程)、形成された立体造形物を造形ステージから容易に剥離することができる。さらに、いずれの工程においても、他の添加物を添加することなくそれぞれの効果を発揮する。
すなわち、熱可塑性樹脂単独の造形材料であっても、熱溶解積層法による立体造形物の製造が可能である。また、無機充填剤などの添加物を添加しないため、造形材料を吐出する吐出ノズルの摩耗が抑制される。
以下に先ず、本実施形態の立体造形物の製造方法の全体の流れについて図面を参照して説明する。なお、以下において、「熱溶解積層方式」と記すことがあるが、「熱溶解積層法」と同義である。
【0018】
図1は、本実施形態の立体造形物の製造方法のフローを概念的に示す。
図1(A)~(C)が第1工程を示し、
図1(D)が第2工程を示す。まず、熱溶解積層方式の3Dプリンターにおける造形ステージ1の温度Ts及び造形エリアの雰囲気温度Taを、前記式1を満たすように設定する(
図1(A))。次いで、溶融した造形材料を吐出する吐出ノズル2を造形ステージ1の上方で走査させながら、吐出ノズル2から溶融した造形材料を吐出して下地層4を形成する(
図1(B))。下地層4を形成後、さらに、吐出ノズル2を下地層4の上方で走査させながら、吐出ノズル2から溶融した造形材料を吐出し、下地層4上に構造部5を形成する(
図1(C))。より具体的には、形成しようとする構造部5の三次元データに基づき、構造部5の断面に相当する形状を順に積層して構造部5を形成する。構造部5の形成工程においては、吐出ノズル2の近傍に位置するエアダクト3からエアーを噴射し、積層後の造形材料を冷却して固化させる。構造部5の形成を終えた後、造形ステージ1の温度を、前記式2を満たすように設定する。すなわち、造形中は半溶融状態で保持されていた下地層の温度を結晶化温度よりも下げる。そうすると、下地層4において結晶化が進行し、下地層4の造形ステージ1に対する接着力が低下する。その状態で、下地層4と構造部5とからなる立体造形物6を造形ステージ1から剥離する(
図1(D))。なお、
図1に示す下地層4は必要に応じて形成される層であり、必ずしも形成する必要はない。詳細は後述する。
【0019】
なお、本実施形態において使用する3Dプリンターは、造形エリアの温度調節を容易にするため、造形エリアが密閉空間をなすチャンバーとなっているものが好ましい。また、本実施形態において、造形ステージ表面の構成に特に制限はないが、造形ステージ界面付近の造形材料を半溶融状態に保つことで造形ステージと立体造形物との密着性を保持することから、造形ステージの表面に大きな凹凸や多数の穴等といった特殊な構造を形成した構成は必須ではない。一方、造形ステージ表面がガラス研磨面のように極めて高い平滑面の場合には、立体造形物の形状によっては造形ステージとの密着性が不足する恐れもあるため、より万全を期す上では、擦りガラス程度の粗さを持つ表面であることが好ましい。
【0020】
ここで、本明細書に記載の造形ステージ温度(Ts)は、熱溶解積層方式の3Dプリンターのオペレーション上の設定値としての温度ではなく、ある設定条件に対する造形ステージ温度の実測値を意味する。3Dプリンターにより温度調整機構はさまざまであるが、設定値としての造形ステージ温度が必ずしも実際の造形ステージの表面温度と一致しているという保証はない。実際に後記の実施例で用いた3Dプリンター(INTAMSYS社製 FunmatHT Enhanced)では、3Dプリンターの設定値としての温度と、実際の造形ステージ表面の温度との間では差があった。そのため、後記の実施例・比較例においては、造形ステージ表面の温度を熱電対により実測し、その温度を造形ステージ温度(Ts)とした。
また、本明細書に記載の造形エリアの雰囲気温度(Ta)についても同様であり、3Dプリンターの設定値としての温度ではなく、造形エリアの雰囲気温度の実測値を意味する。後記の実施例・比較例においては、造形ステージ中央部表面から約5センチ上方の空間の温度を熱電対により実測し、その温度を造形エリアの雰囲気温度(Ta)とした。
以上より、本実施形態おいては、仮に3Dプリンターのオペレーション上の設定値としての温度条件が式1又は式2が示す範囲から外れていたとしても、その時の実際の造形ステージの温度、及び造形エリアの雰囲気温度の実測値が式1又は式2が示す温度範囲にあればよい。
以下に、各工程について説明する。
【0021】
[第1工程]
第1工程では、結晶性熱可塑性樹脂を主成分とする造形材料を用い、熱溶解積層法により、下記式1に示す温度条件下で造形ステージ上に立体造形物を形成する。
Tm > Ts ≧ Tc(以下、「式1A」と呼ぶ。)、かつ、Tc > Ta > Tc-100(以下、「式1B」と呼ぶ。)(式1)
[式1中、Tsは造形ステージの温度(℃)、Tcは結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度(℃)、Tmは結晶性熱可塑性樹脂の融点(℃)、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)を示す。]
【0022】
式1においては、造形ステージの温度(式1A)と、造形エリアの雰囲気温度(式1B)とについて規定している。第1工程において、式1Aを満たすことにより、造形ステージ上に溶融した造形材料を積層した場合、半溶融状態の造形材料が層状に形成される。そのため、積層初期における面内収縮の発生に対して、反り方向の応力が抑制され、反りの発生を防止することができる。また、半溶融状態の造形材料は造形ステージに対して強い密着性を示すため、造形中、造形ステージ上に造形物がしっかりと固定され、ステージからの剥離を抑制することができる。例えば、POM樹脂の融点(Tm)を165℃、結晶化温度を145℃とするとき、造形ステージの温度(Ts)は145℃以上165℃未満に設定することとなる。
【0023】
式1Aにおいて、造形ステージの温度(Ts)が熱可塑性樹脂の融点(Tm)以上であると、造形ステージ界面付近の熱可塑性樹脂(造形材料)が粘度の低い溶融状態のまま造形が進行する。そのため、造形中の吐出ノズルの操作と共に構造部が引きずられて動いてしまい、意図した形状の造形が困難となる。また、造形ステージの温度(Ts)が熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)未満であると、造形ステージとの界面付近の熱可塑性樹脂が半溶融状態とならず、造形ステージと密着せずに剥離してしまう。造形ステージの温度(Ts)の上限は、Tm-2(℃)が好ましく、Tm-5(℃)がより好ましい。また、造形ステージの温度(Ts)の下限は、Tc+2(℃)が好ましく、Tc+5(℃)がより好ましい。
【0024】
また、第1工程において、式1Bを満たすことにより、すなわち造形エリアの雰囲気温度(Ta)を熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)未満とすることにより、積層された造形材料は容易に硬化する。例えば、POM樹脂の結晶化温度を145℃とするとき、造形エリアの雰囲気温度(Ta)は45℃超145℃未満に設定することとなる。ここで、造形エリアの雰囲気温度とは、吐出ノズルから吐出して、積層した造形材料が晒される温度である。すなわち、吐出され積層した造形材料は、式1Bを満たす温度に晒され、温度が低下して硬化する。造形材料が硬化することにより、意図した立体形状を保持することができる。
【0025】
式1Bにおいて、造形エリアの雰囲気温度(Ta)が熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)を超えると、積層された造形材料の硬化が著しく遅延し、意図した立体形状とすることが困難となる。また、造形エリアの雰囲気温度(Ta)が熱可塑性樹脂の結晶化温度(Tc)-100℃未満であると、積層時の冷却速度が速すぎるため、積層層間の接着不良が生じて、造形途中で構造部内での剥離・反りが発生する場合があり、意図した立体形状を形成することができない。造形エリアの雰囲気温度(Ta)の上限は、Tc-5(℃)が好ましく、Tc-10(℃)がより好ましい。また、造形エリアの雰囲気温度(Ta)の下限は、Tc-80(℃)が好ましく、Tc-50(℃)がより好ましい。
【0026】
本実施形態において、以上の第1工程により、造形ステージ上に立体造形物が形成される。そして、以下の第2工程において、形成した立体造形物を造形ステージから剥離する。
【0027】
[第2工程]
第1工程後に下記式2に示す温度条件下で、第1工程で形成した立体造形物を、造形ステージの表面から剥離する。
Tc > Ts(式2)
【0028】
式2は、造形ステージの温度(Ts)について規定する。すなわち、第1工程後、造形ステージの温度(Ts)を、結晶化温度(Tc)未満とすることで、造形中は半溶融状態に保たれていた造形ステージ界面付近の熱可塑性樹脂(造形材料)の結晶化・硬化が進行し、立体造形物は造形ステージから自然に剥離できるようになる。このように、第2工程では、造形ステージの温度を下げることのみで、形成した立体造形物を造形ステージから剥離することができる。なお、第2工程開始後、造形ステージの温度を式2に示す温度とするに当たり、降温速度は特に制限はない。例えば、造形ステージの加熱を中止して放置し、室温に戻すことのみでもよい。その場合、第1工程終了後、造形ステージの加熱を中止すると、自ずと第2工程が実行されることとなる。
【0029】
第2工程において、造形ステージの温度(Ts)が、結晶化温度(Tc)以上であると、造形ステージ界面付近の熱可塑性樹脂が半溶融状態のまま保持されるため、立体造形物が容易に剥離できない。無理に剥離しようとした場合は、造形物の下層を破損してしまったり、造形ステージ表面を傷つけてしまったりする恐れがある。式2において、造形ステージの温度(Ts)は、Tc-5(℃)以下であることが好ましく、Tc-10(℃)以下であることがより好ましい。造形ステージの温度(Ts)の下限は特に制限はなく、例えば、室温程度(20℃)とすることができる。
【0030】
ところで、一般的な熱溶解積層方式の3Dプリンターによる立体造形物の造形において、造形完了後は、造形物は造形ステージに強く固着している。そのため、造形ステージ上の造形物はスクレーパー(金属へら)などを使用し、手作業で剥離する必要がある。また、剥離後においては、造形ステージ上に、立体造形物の密着部分が剥離せずに部分的に残存することがあり、その場合、造形ステージ表面の清浄作業又は造形ステージの交換が必要となる。しかし、上記の通り、本実施形態においては、第2工程において、第1工程で形成した立体造形物を造形ステージから自然に剥離することができる。従って、上記のようなスクレーパーを使用した手作業での剥離は不要であるし、立体造形物の密着部分が剥離せずに残存することがないか、あったとしても稀である。ひいては、造形ステージの清掃作業や造形ステージの交換をすることなく、次の新たな立体造形物の造形に移行することができる。そのため、立体造形物の造形を自動化することが可能となる。
【0031】
以上のことから、本実施形態においては、第2工程において、立体造形物を造形ステージの外部に排出する排出機構により、造形ステージの表面から立体造形物の剥離及び排出を行った後、連続して第1工程に移行して新たな立体造形物を形成することができる。なお、「連続して第1工程に移行して・・・」とは、造形が完了した立体造形物を排出後、一連の流れで第1工程に移行するという意味であり、第1工程に移行するまでに若干の間があってもよい。
【0032】
第2工程完了後、手作業によらず、造形ステージから立体造形物を排出する排出機構としては、例えば、以下の機構が挙げられる。
(1)押出機構
造形ステージ上の立体造形物を、奥方から手前に向けて押出部材を移動させる機構である。押出機構により、第2工程完了後、立体造形物を排出することができる。押出部材の形状としては、円筒状又はブレード状ものが挙げられる。
(2)吐出ノズル機構
造形材料を吐出する吐出ノズルを立体造形物の排出にも利用する。すなわち、吐出ノズルの走査により、立体造形物を造形ステージの奥方から手前に向けて押し出して排出する。吐出ノズル機構は、3Dプリンターに配備されている吐出ノズルを利用することから、別途新たに排出機構を設けることなく立体造形物を排出することができるため有用である。なお、吐出ノズルによる立体造形物の排出は、吐出ノズルが低温になってから行うことが好ましい。
(3)エアー噴出機構
立体造形物に対してエアーを吹き付け、エアーの風圧により立体造形物を造形ステージから吹き飛ばして排出する。エアー噴出機構としては、立体造形物を吹き飛ばすことができればよく、公知のものを使用することができる。
(4)ロボットアーム機構
外部に設けられたロボットアーム機構により、造形ステージ上の立体造形物を排出する機構である。ロボットアーム機構については後述する。
(5)傾斜機構
造形ステージ又は3Dプリンター本体を傾斜することにより、造形ステージ上の立体造形物を排出する機構である。
上記機構のうち、(4)ロボットアームについて
図2を参照して以下に説明する。
【0033】
図2は、造形ステージ上の立体造形物をロボットアームにより排出する様子を示している。
図2に示す3Dプリンター20は、本体22と、本体22に取付された、電動動作する開閉扉25とを備える。本体22内の造形空間24には、立体造形物36を造形する造形ステージ26を備える。造形ステージ26の上方には、吐出ヘッド32を備え、吐出ヘッド32は、ガイドレール30とガイドレール30と直交するガイドレール34とにより2次元内を自由に移動することができる。また、造形空間24の奥方にはガイドレール28を備え、造形ステージ26は上下方向に移動することができる。以上の構成において、造形時には、造形ステージ26は不図示のモータによりガイドレール28に沿って上下方向に移動し、吐出ヘッド32の近傍に位置するように制御される。また、吐出ヘッド32は、不図示のモータにより、ガイドレール30及びガイドレール34を介して造形ステージ26の上方の2次元平面内を自由に移動しつつ、造形材料を吐出する。また、3Dプリンター20の外部には、不図示の駆動装置に接続されているロボットアーム38が設けられている。
立体造形物の造形が完了すると、開閉扉25が開状態とされ、不図示の駆動装置により外部からロボットアーム38が造形空間24内に進入して立体造形物36を把持し、その状態で立体造形物36を外部の所定の位置に搬送する。この動作は人手を介さず、電気的制御により行うことができる。本実施形態においては、第2工程では、立体造形物36は造形ステージ26から自然に剥離するため、立体造形物36の剥離のためにロボットアーム38に特別な動作をさせる必要はない。そのため、例えば、1つの立体造形物の造形が完了した後、次の造形物の造形を、人手を介さずに連続して実行することができる。
従来において、造形が完了した立体造形物を自動的に排出するものとして、「造形ステージに薄いフィルムが貼られた状態で造形し、フィルムごとスライドさせてフィルムをカットして排出する」ものが知られている。その従来の技術においては、消耗品としてフィルムが余計に必要である。さらに、フィルムを使用することから、加熱温度がフィルムの耐熱性に左右され、温度条件が制限される。それに対して、本実施形態においては、第2工程において、立体造形物は造形ステージから自然に剥離可能な状態となるため、フィルム等の消耗品は不要であり、立体造形物のみを排出することができる。また、フィルム等が不要であるため、温度条件が制限されることはない。
【0034】
以上、第2工程後における立体造形物の排出が可能な機構を示したが、本実施形態においては、手作業で立体造形物の排出が可能であることは言うまでもない。
【0035】
一方、本実施形態においては、第1工程の前に、構造部と同じ造形材料を用い、熱溶解積層法により、前記式1に示す温度条件下で、造形ステージと立体造形物との間に下地層を形成する工程をさらに含んでもよい。なお、本明細書において、下地層とは、構造部の下に形成する土台のことをいう。上述の通り、下地層は必ずしも設ける必要はないが、例えば、
図1に示す構造部5がある程度の高さを有する場合は、造形時間が長時間に及ぶため、構造部の冷却に伴い構造部直下の造形ステージとの界面付近の熱可塑性樹脂も徐々に冷却されて結晶化が進行する恐れがある。この場合にも立体造形物と造形ステージとの密着性を保持する目的として、構造部5よりも広い底面積を有する下地層4を形成することは好ましい。下地層を形成する場合は、下地層に空隙や隙間ができないようにできる限り密度が100%に近い条件で形成することが好ましい。
一方で構造部5として例えば数層程度の厚さの薄い構造を形成する場合で、かつ、エアダクト3からのエアー冷却を行わなくても所望の形状に造形できる場合には、前記式1及び式2の条件を満たす本実施形態の造形方法に従う限り、下地層4の形成は必ずしも必須ではない。
【0036】
本実施形態において、下地層を形成する場合、前記式1に示す温度条件下で吐出ノズルから造形材料を造形ステージ上に吐出して形成する。このときの造形材料は半溶融状態である。すなわち、上述の通り、半溶融状態の造形材料は造形ステージに対して強い密着性を示すため、造形中、造形ステージ上にしっかり固定される。また、下地層と造形ステージとの密着性をより強固なものとするため、下地層形成時のノズルの走査速度を、構造部形成時のノズルの走査速度よりも遅くすることが好ましい。
一方、本実施形態において、下地層は造形ステージ上において加熱された状態にあり、造形中、半溶融状態に保たれるため、空隙が減少する傾向にある。従って、下地層は構造部よりも密度が高い状態となる。
【0037】
本実施形態において、下地層は構造部と強固に密着しているため、下地層は容易に除去することはできない。そこで、下地層は、切削や研磨等により除去することが好ましい。
【0038】
次いで、本実施形態の立体造形物の製造方法において用いる造形材料について説明する。
【0039】
[造形材料]
本実施形態において用いる造形材料は、結晶性熱可塑性樹脂を主成分とし、形状としては特に制限はなく、熱溶解積層法で用いる3Dプリンターの仕様に応じて、例えばフィラメント状、ペレット状等とすることができる。結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール樹脂(以下、「POM樹脂」とも呼ぶ。)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択される1種を用いる。
【0040】
本実施形態において、造形ステージ上での構造部の保持性を確保する観点から、結晶性熱可塑性樹脂のメルトフローレートは20g/10分以下であることが好ましく、2~15g/10分であることがより好ましい。なお、メルトフローレートは、ISO 1133で規定されている測定方法で測定される。
【0041】
本実施形態においては、造形材料中における結晶性熱可塑性樹脂の質量分率は99質量%以上にすることができる。すなわち、本実施形態においては、上述の通り、積層時における反りの発生及び造形ステージからの剥離が抑制されるため、無機充填剤等を添加しなくても立体造形物の積層造形を進行することができ、結晶性熱可塑性樹脂の質量分率を99質量%以上にすることができる。さらには、結晶性熱可塑性樹脂の質量分率を100質量%、すなわちニート樹脂としても立体造形物を形成することができる。ただし、立体造形物の物性制御などの目的で、必要に応じて、無機充填剤等、他の添加剤を添加するのは差し支えない。
以下において、上記結晶性熱可塑性樹脂のうち、特にPOM樹脂について詳述する。
【0042】
(ポリアセタール樹脂(POM樹脂))
POM樹脂は、オキシメチレン単位(-CH2O-)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、アセタールホモポリマー(例えば米国デュポン社製、商品名「デルリン」等)、オキシメチレン基以外に他のコモノマー単位を含有するアセタールコポリマー(例えば、ポリプラスチックス(株)社製、商品名「ジュラコン」等)が含まれる。
本実施形態において用いるPOM樹脂としては、その熱安定性等の点で特にアセタールコポリマーが好ましい。
【0043】
アセタールコポリマーにおいて、コモノマー単位には炭素数2~6程度(好ましくは、炭素数2~4程度)のオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(-CH2CH2O-)、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等)が含まれる。
【0044】
また、コモノマー単位の含有量は、樹脂の結晶性を大幅に損なわない程度の量、例えば、ポリアセタール重合体の構成単位に占める割合として、一般的には0.01~20モル%、好ましくは、0.03~10モル%、更に好ましくは、0.1~7モル%の範囲から選択できる。
【0045】
アセタールコポリマーは、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマー等であってよい。アセタールコポリマーは、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等であってよい。
【0046】
また、このようなPOM樹脂の重合度、分岐度や架橋度も特に制限はなく溶融成形可能であればよい。
【0047】
(その他成分)
本実施形態において、造形材料は、必要に応じて選択される公知の各種安定剤を配合することができる。ここで用いられる安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。
【0048】
更に、本実施形態において、その効果を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば耐候(光)安定剤、染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、又は、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等を1種または2種以上添加することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
以下に示す実施例・比較例においては、
図3に模式的に示すような立体造形物10の造形を行った。立体造形物10は、一辺の長さが50mm、厚さが0.5mmの正方形シート状の下地層4の中央部に、一辺の長さが20mmの立方体の構造部5が接合した形態である。下地層4の面積は構造部5の一面の面積よりも大きく、下地層4は、構造部5との接合部から15mmのマージン幅7だけ突出している。
【0051】
[実施例1]
(第1工程)
造形材料として、POM樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、商品名:DURACON(登録商標)POM、グレード名:M25-44、非強化、メルトフローレート=2.5g/10分、融点:165℃、結晶化温度:145℃)からなる、直径1.75mmのモノフィラメントを準備した。
次いで、熱溶解積層方式の3Dプリンター(INTAMSYS社製、商品名:FUNMAT HT Enhanced)に、準備した造形材料をセットし、立体造形物を形成した。具体的には、まず、下記表1に示す温度条件にて、上記サイズの正方形シート状の下地層を形成し、その後、同じ温度条件にて構造部を形成した。なお、造形装置内の、造形材料を吐出するノズルの内径は0.4mmであり、積層ピッチは0.2mmとし、構造部の描画速度は30mm/sとした。
実施例1においては、造形ステージ上に造形物が固定された状態で、最後まで問題なく造形材料が積層され、立体造形物を形成することができた。
【0052】
(第2工程)
第1工程終了後、造形ステージの温度を120℃に低下させ、造形ステージの表面から立体造形物を剥離した。そのとき、下地層全体が白化し、造形ステージの表面に対する密着力が低下しており、特別な剥離作業をしなくとも、立体造形物が造形ステージから自然に剥離した状態であった。
得られた立体造形物について、構造部と下地層とを切断により分離した上で、電子比重計(ミラージュ社製、SD-120L)を使用して、アルキメデス法によりそれぞれの密度を測定したところ、構造部の密度の実測値が1.36であるのに対し、下地層の密度の実測値は1.41であった。
【0053】
【0054】
[実施例2 ]
造形材料として、実施例1と同じPOM樹脂からなる、直径1.75mmのモノフィラメントを準備した。
次いで、上記表1に示す温度条件で、実施例1と同様の方法で立体造形物を形成した。
実施例2においても、造形ステージ上に造形物が固定された状態で、最後まで問題なく造形材料が積層され、立体造形物を形成することができた。また造形後にステージ温度を下げることで、実施例1と同様に立体造形物が造形ステージから自然に剥離した。
【0055】
[実施例3]
造形材料として、実施例1と同じPOM樹脂からなる、直径1.75mmのモノフィラメントを準備した。
次いで、上記表1に示す温度条件で、実施例1と同様の方法で立体造形物を形成した。
実施例3においても、造形ステージ上に造形物が固定された状態で、最後まで問題なく造形材料が積層され、立体造形物を形成することができた。また造形後にステージ温度を下げることで、実施例1と同様に立体造形物が造形ステージから自然に剥離した。
【0056】
[実施例4]
(第1工程)
造形材料として、実施例1と同じPOM樹脂からなる、直径1.75mmのモノフィラメントを準備した。
次いで、上記表1に示す温度条件で、実施例1と同様の方法で立体造形物を形成した。
実施例4においても、積層構造中に一部積層界面の接着不良と思われる個所が発生したものの、造形ステージ上に造形物が固定された状態で、最後まで造形材料が積層され、意図した形状の立体造形物を形成することができた。また造形後にステージ温度を下げることで、実施例1と同様に立体造形物が造形ステージから自然に剥離した。
【0057】
[実施例5]
造形材料として、POM樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、商品名:DURACON(登録商標)POM、グレード名:M90-44、非強化、メルトフローレート=9.0g/10分、融点:165℃、結晶化温度:145℃)からなる、直径1.75mmのモノフィラメントを準備した。
次いで、上記表1に示す温度条件で、実施例1と同様の方法で立体造形物を形成した。
実施例5においても、造形ステージ上に造形物が固定された状態で、最後まで問題なく造形材料が積層され、立体造形物を形成することができた。また造形後にステージ温度を下げることで、実施例1と同様に立体造形物が造形ステージから自然に剥離した。
【0058】
[比較例1]
第1工程における造形ステージの温度を144℃としたこと以外は実施例1と同様にして第1工程を実行した。ところが、下地層の形成段階で造形ステージから造形物が剥離し、第1工程の造形を完了することができなかった。
【0059】
[比較例2]
第1工程における造形ステージの温度を165℃としたこと以外は実施例1と同様にして第1工程を実行した。ところが、構造部が下地層上で固定されずに回転してしまい、意図する立体造形物が得られず、第1工程の造形を完了することができなかった。
【0060】
[比較例3]
第1工程における造形エリアの雰囲気温度を28℃としたこと以外は実施例1と同様にして第1工程を実行した。ところが、構造部の造形中に層間の接着力不足による剥がれ及び大きな反りが発生して意図した形状を保持できず、第1工程を完了することができなかった。
【0061】
[比較例4]
第2工程における造形ステージの温度を155℃としたこと以外は実施例1と同様にして第1工程を実行した。そして、造形ステージの温度を155℃に保ったまま、立体造形物を造形ステージから剥がそうとしたところ、下地層が半溶融状態で造形ステージの表面に強固に定着しており、無理に剥がそうとした結果、造形物を破損した。
【0062】
以上、実施例1~5においては、何ら問題なく立体造形物の形成をすることができ、形成後、造形ステージから容易に剥離することができたのに対し、式1を満たさない比較例1~3においては、立体造形物の形成すらできなかった。また、式2を満たさない比較例4においては、立体造形物の形成はできたものの、形成後、容易に剥離することができなかった。