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特許7594554ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法、並びに、第3級アルコール化合物及び有機ケイ素化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-26
(45)【発行日】2024-12-04
(54)【発明の名称】ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法、並びに、第3級アルコール化合物及び有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/02 20060101AFI20241127BHJP
   C07C 31/125 20060101ALI20241127BHJP
   C07C 29/40 20060101ALI20241127BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20241127BHJP
   C07B 49/00 20060101ALN20241127BHJP
【FI】
C07F3/02 B
C07C31/125
C07C29/40
C07F7/12 F
C07F7/12 S
C07B49/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021573979
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2021002091
(87)【国際公開番号】W WO2021153422
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2020011213
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】小田 開行
(72)【発明者】
【氏名】西本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 大祐
(72)【発明者】
【氏名】磯村 武範
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-057148(JP,A)
【文献】特開2000-229982(JP,A)
【文献】特開平09-227574(JP,A)
【文献】特表2016-525504(JP,A)
【文献】特開2007-290973(JP,A)
【文献】特開2000-044581(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102603775(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107556331(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F,C07C,C07B49/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含み、
前記マグネシウムを充填した充填塔に、前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を繰り返し通液させる、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化炭化水素化合物が、モノハロゲン化アルキル化合物、及び下記式(1):
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で表されるジハロゲン化アルキル化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化炭化水素化合物が臭化炭化水素化合物である、請求項1又は2に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液と前記マグネシウムとの接触を-78~100℃で行う、請求項1~3のいずれか1項に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項5】
前記マグネシウムを充填した充填塔が複数存在し、前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を複数の前記充填塔に繰り返し通液させる、請求項1~4のいずれか1項に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の温度が-78~100℃である、請求項のいずれか1項に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法によりハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造すること、及び
該ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物とケトン化合物とを接触させることを含む第3級アルコール化合物の製造方法。
【請求項8】
ハロゲン化炭化水素化合物と、ケトン化合物と、を含有する溶液と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含み、
前記マグネシウムを充填した充填塔に、前記ハロゲン化炭化水素化合物と、前記ケトン化合物と、を含有する溶液を繰り返し通液させる、第3級アルコール化合物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法によりハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造すること、及び
該ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物と、クロロシラン化合物及びアルコキシシラン化合物から選択されるケイ素化合物とを接触させることを含む有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項10】
ハロゲン化アルキル化合物と、クロロシラン化合物及びアルコキシシラン化合物から選択されるケイ素化合物と、を含有する溶液と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含み、
前記マグネシウムを充填した充填塔に、前記ハロゲン化アルキル化合物と、前記ケイ素化合物と、を含有する溶液を繰り返し通液させる、有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法、並びに、第3級アルコール化合物及び有機ケイ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物は、グリニャール反応に用いられる有機金属化合物である。グリニャール反応は、炭素-炭素結合反応として種々の有機化合物の合成に広く使用されている(特許文献1及び2参照)。ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物のうちメチルマグネシウムブロミド等の比較的安定な化合物は、テトラヒドロフラン溶液として工業的に入手が可能である。また、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物は、ジエチルエーテル等の溶媒中でハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとを反応させることにより工業的に製造することができる。
【0003】
ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法としては、特許文献1及び2に記載のとおり、有機溶媒中にマグネシウムを分散させた後、ヨウ素等を添加してマグネシウムを活性化(すなわち、マグネシウム表面の酸化皮膜を除去)した後、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を滴下して製造する、バッチ式による製造方法が知られている。一般的にハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物は、反応活性が高い反面、該化合物自体の安定性が低い場合が多いため、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの反応を短時間で完結させ、次の反応に供する必要がある。また、反応系中にマグネシウムが残存すると、次の反応の際に副反応の要因となり得るため、マグネシウムに対して過剰量のハロゲン化炭化水素化合物を使用し、マグネシウムが残留しないように反応させることが一般的である。また、当該反応は固液反応であることから、反応速度を向上させるため、平均粒径が2mm以下程度の比表面積が比較的高いマグネシウムを用いてハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-114166号公報
【文献】特許第3779452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の合成反応は大きな発熱を伴い、発熱により合成反応の制御が困難になる場合がある。そのため、工業的な製造にあたっては、多量の溶媒中で反応を行うとともに、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の滴下速度を調整することで、反応速度を制御しながら製造を行う必要がある。したがって、バッチ当たりのハロゲン化炭化水素マグネシウムの製造量を増加させることが困難である。また、スケールアップを行う際には、反応容器の伝熱面積が低下するため、除熱効率の点でもなお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、温和な条件で反応を行うことが可能なハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの反応条件について鋭意検討を進めた。その結果、マグネシウムの粒径と反応効率との間に相関があることを見出し、さらに、マグネシウムの比表面積を特定の範囲に低減させることで反応を容易に制御できることを見出した。また、マグネシウムの比表面積を低減させた場合には、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウム表面との接触割合が低下するため反応収率は低下するが、マグネシウムを充填した充填塔を準備し、該充填塔にハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を繰り返し通液せしめることで、ハロゲン化炭化水素化合物の反応収率が向上することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、具体的には以下のとおりである。
【0008】
<1> ハロゲン化炭化水素化合物と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含むハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0009】
<2> 前記ハロゲン化炭化水素化合物が、モノハロゲン化アルキル化合物、及び下記式(1):
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で表されるジハロゲン化アルキル化合物から選択される少なくとも1種である、<1>に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0010】
<3> 前記ハロゲン化炭化水素化合物が臭化炭化水素化合物である、<1>又は<2>に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0011】
<4> 前記ハロゲン化炭化水素化合物と前記マグネシウムとの接触を-78~100℃で行う、<1>~<3>のいずれか1項に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0012】
<5> 前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液と前記マグネシウムとを接触させる、<1>~<4>のいずれか1項に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0013】
<6> 前記マグネシウムを充填した充填塔に、前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を通液させる、<5>に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0014】
<7> 前記マグネシウムを充填した充填塔に、前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を繰り返し通液させる、<6>に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0015】
<8> 前記マグネシウムを充填した充填塔が複数存在し、前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を複数の前記充填塔に通液させる、<6>又は<7>に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0016】
<9> 前記ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の温度が-78~100℃である、<6>~<8>のいずれか1項に記載のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法。
【0017】
<10> <1>~<9>のいずれか1項に記載の製造方法によりハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造すること、及び
該ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物とケトン化合物とを接触させること
を含む第3級アルコール化合物の製造方法。
【0018】
<11> ハロゲン化炭化水素化合物と、ケトン化合物と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含む第3級アルコール化合物の製造方法。
【0019】
<12> <1>~<9>のいずれか1項に記載の製造方法によりハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造すること、及び
該ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物と、クロロシラン化合物及びアルコキシシラン化合物から選択されるケイ素化合物とを接触させること
を含む有機ケイ素化合物の製造方法。
【0020】
<13> ハロゲン化アルキル化合物と、クロロシラン化合物及びアルコキシシラン化合物から選択されるケイ素化合物と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含む有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法によれば、比表面積の小さいマグネシウムを用いることで、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの反応の制御を容易に行うことが可能である。また、反応の制御が容易であることから、工業的な生産スケールへのスケールアップを容易に行うことが可能である。さらに、マグネシウムを充填した充填塔を準備し、該充填塔にハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を繰り返し通液せしめることで、ハロゲン化炭化水素化合物の反応収率を向上させることができ、高収率でハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造することが可能である。さらに、マグネシウムを充填した充填塔に連続的にハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を通液せしめることが可能であり、連続的にハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法>
本実施形態に係るハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法(以下、単に「本実施形態に係る製造方法」ともいう。)は、ハロゲン化炭化水素化合物と、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムとを接触させることを含む。以下、本実施形態に係る製造方法について詳述する。
【0023】
[ハロゲン化炭化水素化合物]
ハロゲン化炭化水素化合物としては、塩化炭化水素化合物、臭化炭化水素化合物、ヨウ化炭化水素化合物等の公知の化合物が挙げられる。ハロゲン化炭化水素化合物として具体的には、モノハロゲン化アルキル化合物;モノハロゲン化アルケニル化合物;クロロベンゼン、α-クロロトルエン、ブロモベンゼン、α-ブロモトルエン、ヨードベンゼン、α-ヨードトルエン等のモノハロゲン化芳香族炭化水素化合物;下記式(1)で表されるジハロゲン化アルキル化合物;o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、p-ジブロモベンゼン、o-ジヨードベンゼン、m-ジヨードベンゼン、p-ジヨードベンゼン等のジハロゲン化芳香族炭化水素化合物;などが挙げられる。
【0024】
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)
【0025】
モノハロゲン化アルキル化合物におけるアルキル基としては、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。かかるモノハロゲン化アルキル化合物として具体的には、クロロメタン、クロロエタン、クロロプロパン、2-クロロプロパン、1-クロロ-2メチルプロパン、2-クロロ-2メチルプロパン、2-ブロモ-2メチルプロパン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、クロロシクロペンタン、クロロヘキサン、ブロモメタン、ブロモエタン、ブロモプロパン、2-ブロモプロパン、1-ブロモ-2メチルプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモシクロペンタン、ブロモヘキサン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードプロパン、2-ヨードプロパン、1-ヨード-2メチルプロパン、2-ヨード-2メチルプロパン、ヨードペンタン、ヨードシクロペンタン、ヨードヘキサン等が挙げられる。
【0026】
モノハロゲン化アルケニル化合物におけるアルケニル基としては、炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基が好ましい。かかるモノハロゲン化アルケニル化合物として具体的には、クロロエチレン、3-クロロ-1-プロペン、ブロモエチレン、3-ブロモ-1-プロペン、ヨードエチレン、3-ヨード-1-プロペン等が挙げられる。
【0027】
上記式(1)におけるRは、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。かかるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。上記式(1)で表されるジハロゲン化アルキル化合物として具体的には、1,3-ジクロロプロパン、1,4-ジクロロブタン、1,5-ジクロロペンタン、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,3-ジヨードプロパン、1,4-ジヨードブタン、1,5-ジヨードペンタン等が挙げられる。
【0028】
これらのハロゲン化炭化水素化合物の中でも、グリニャール試薬として有用な点から、モノハロゲン化アルキル化合物及び上記式(1)で表されるジハロゲン化アルキル化合物が好ましく、モノ臭化アルキル化合物及びジ臭化アルキル化合物がより好ましい。
【0029】
[有機溶媒]
ハロゲン化炭化水素化合物が液体である場合、該ハロゲン化炭化水素化合物をそのままマグネシウムと接触せしめて、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造することも可能であるが、反応温度の制御が容易である点から、ハロゲン化炭化水素化合物を有機溶媒に溶解させて用いることが好ましい。かかる有機溶媒として具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。これらのエーテル系溶媒は、1種を単独で用いてもよく、複数の溶媒の混合溶液として用いてもよい。これらのエーテル系溶媒の中でも、工業的入手の容易さや沸点の高さの点からテトラヒドロフランが好ましい。
【0030】
また、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物は水と反応して失活するため、使用する有機溶媒に含まれる水分量は低いことが好ましく、具体的には500ppm未満であることが好ましく、100ppm未満であることがより好ましい。
【0031】
有機溶媒の使用量は、製造設備の規模、除熱効率等を勘案して適宜決定すればよい。ハロゲン化炭化水素化合物が常温で液体の場合、生産性の観点、及び反応で副生するハロゲン化マグネシウム等の塩の析出を抑制する観点から、ハロゲン化炭化水素化合物1容量部に対して、有機溶媒を1~99容量部の範囲で用いることが好ましく、2~98容量部の範囲で用いることがより好ましく、3~97容量部の範囲で用いることがさらに好ましい。また、ハロゲン化炭化水素化合物が常温で固体の場合、生産性の観点、及び反応で副生するハロゲン化マグネシウム等の塩の析出を抑制する観点から、ハロゲン化炭化水素化合物1質量部に対して、有機溶媒を1~130質量部の範囲で用いることが好ましく、2~120質量部の範囲で用いることがより好ましく、3~110質量部の範囲で用いることがさらに好ましい。
【0032】
[マグネシウム]
本実施形態に係る製造方法では、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムを使用する。通常、バッチ式で使用されるマグネシウムの比表面積は3×10-4~1×10-2/g程度であり、該マグネシウムよりも比表面積が小さいことが特徴である。このようなマグネシウムを用いることにより、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの反応の制御を容易に行うことが可能である。なお、本明細書におけるマグネシウムの比表面積は、以下に示す方法により測定するものとする。
(マグネシウムの比表面積の測定方法)
精密天秤で重量を測定したマグネシウム粒子について、拡大倍率10倍の光学顕微鏡によりサイズを測定して表面積を算出し、この表面積を粒子重量で除することにより比表面積を算出する。同様の測定をマグネシウム粒子10個について実施し、その平均値を比表面積として採用する。
【0033】
ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液とマグネシウムとの接触面積が反応速度に影響を与えることから、マグネシウムの比表面積が小さすぎると反応が効率的に行われず反応速度が遅くなり望ましくなく、比表面積が大きすぎると反応速度が大きくなりすぎ、反応が暴走し制御不能となる危険がある。特に、上述したエーテル系溶媒は沸点が低いものが多く、反応が暴走すると突沸等の虞がある。ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の生産性の観点から、マグネシウムの比表面積は、5×10-5~1×10-4/gであることが好ましい。
【0034】
マグネシウムの形状は特に限定されず、円筒状のペレット形状、ショット形状、メッシュ状、棒状等の形状が挙げられる。マグネシウムは、金属不純物を含有することがある。金属不純物による副反応抑制の観点から、マグネシウムの純度は90%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0035】
マグネシウムは通常、大気中で酸素と反応して表面に酸化膜を形成しており、該酸化膜は、ハロゲン化炭化水素化合物との反応を妨害する。このため、反応開始初期からスムーズに反応を進行させるために、ハロゲン化炭化水素化合物と接触させる前にマグネシウムの活性化処理を行うことが好ましい。マグシウムの活性化処理としては、反応初期にヨウ化メチル、ジブロモエチレン、ジブロモエタン等の活性化剤を添加し、マグネシウム表面の酸化膜と反応させる方法;マグネシウムを希塩酸、希硝酸等で洗浄した後に用いる方法;などが挙げられる。活性化剤の添加量は、通常、マグネシウムに対して5~10mol%の範囲で用いれば十分である。
【0036】
[接触温度]
ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとを接触させる温度は、反応が進行するに十分な温度で適宜設定すればよい。反応性の観点から、接触温度は-78~100℃の範囲であることが好ましく、-78~60℃の範囲であることがより好ましい。接触温度が高いほど反応速度は向上する一方で、生成するハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物同士の反応(ウルツカップリング等)の副反応が生じやすい傾向にある。他方、温度が低すぎる場合には反応速度が低下し、反応時間が長時間に及ぶ傾向にある。したがって、上記接触温度は、目的とするハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の安定性等を勘案して適宜選択すればよい。
【0037】
[バッチ式による製造方法]
本実施形態に係る製造方法は、撹拌装置を備えた反応容器内で実施することができる。ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとを接触させる方法は特に制限されず、例えば、1)反応容器に有機溶媒とマグネシウムを仕込み、活性化剤を添加してマグネシウムを活性化した後、上記接触温度に加熱し、撹拌しながらハロゲン化炭化水素化合物を有機溶媒に溶解させた溶液を添加する方法;2)反応容器に有機溶媒とハロゲン化炭化水素化合物と活性化剤とを仕込み、ハロゲン化炭化水素化合物を有機溶媒に溶解させた後、溶液を上記接触温度に加熱し、マグネシウムを添加する方法;などが挙げられる。上記方法1)におけるハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の添加、或いは上記方法2)におけるマグネシウムの添加は、反応容器内の温度を確認しながら、所定の接触温度を超えないように実施することが好ましい。具体的に、上記方法1)では、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の滴下速度を調整することが好ましい。また、上記方法2)では、マグネウシムを複数回に分けて分割添加することが好ましい。
【0038】
製造するハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物が比較的不安定である場合には、後述するケトン化合物又はケイ素化物(クロロシラン化合物、アルコキシシラン化合物)を共存させながらハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造することで、製造されたハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物とケトン化合物又はケイ素化合物とを反応させることが可能となるため好ましい。ケトン化合物又はケイ素化合物を共存させる方法としては、例えば、上記方法1)では、予め反応容器にマグネシウムとともにケトン化合物又はケイ素化合物を仕込み、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を添加する方法;ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液にケトン化合物又はケイ素化合物を混合し、該溶液を反応容器に添加する方法;などが挙げられる。また、上記方法2)では、予め反応容器に、有機溶媒とハロゲン化炭化水素化合物とケトン化合物又はケイ素化合物とを仕込んで混合した後、マグネシウムを添加する方法が挙げられる。
【0039】
ケトン化合物又はケイ素化合物の使用量は、生成するハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物との反応性を勘案して適宜決定すればよく、通常、ハロゲン化アルキル化合物1モルに対して、ケトン化合物又はケイ素化合物を1~2.5モルの範囲で適宜使用すればよい。
【0040】
マグネシウムの使用量は、ハロゲン化炭化水素化合物との反応性を勘案して適宜決定すればよく、通常、ハロゲン化炭化水素化合物のハロゲン原子1モルに対して1~1.5モルの範囲で適宜決定すればよい。ハロゲン化炭化水素化合物がジハロゲン化炭化水素化合物である場合、理論上、ジハロゲン化炭化水素化合物1モルに対して2モルのマグネシウムが必要であり、通常、2~2.5モルの範囲で適宜決定すればよい。
【0041】
反応雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気が好ましい。
【0042】
反応時間は、生成物であるハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物への転化率を確認しながら適宜決定すればよい。反応時間は、通常、1~24時間であり、好ましくは3~12時間である。
【0043】
反応終了後、マグネシウムが残存している場合には、濾過等によりマグネシウムを除去した後、次の反応に用いることができる。また、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液にケトン化合物又はケイ素化合物を混合した場合には、対応する第3級アルコール或いは有機シラン化合物が生成している。したがって、反応終了後に酸を添加し、未反応のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を分解した後、公知の手段により精製することが可能である。
【0044】
[充填塔流通方式による製造方法]
本実施形態に係る製造方法では、マグネシウムを充填した充填塔(以下、「マグネシウム充填塔」ともいう。)を準備し、該充填塔にハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を通液せしめることで、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとを接触させてハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造する方法を採用することができる。以下、マグネシウム充填塔に通液せしめる方法を「充填塔流通方式」という。充填塔流通方式において、充填塔の一端から供給されたハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液は、充填塔内のマグネシウムと接触しながら、充填塔の他端より排出される。このため、充填塔流通方式によれば、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの接触時間を短縮することにより、反応温度を制御することが可能である。また、充填塔流通方式では、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を充填塔に連続的に供給することが可能である。このため、充填塔流通方式によれば、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の生産性を向上させることが可能である。以下、充填塔流通方式によるハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造方法について詳述する。
【0045】
(マグネシウム)
充填塔流通方式による製造方法では、比表面積が1×10-5~2×10-4/gであるマグネシウムを充填塔に充填する。このとき、充填塔内のマグネシウムの比表面積が大きすぎると、充填塔に供給されたハロゲン化炭化水素化合物に対するマグネシウムの接触面積が大きくなりすぎ、反応の制御が困難になるため好ましくない。また、マグネシウムの比表面積が小さすぎると、反応効率が大きく低下するため好ましくない。充填塔内に充填されるマグシウムの比表面積は、反応の制御と反応収率とのバランスの観点から、5×10-5~1×10-4/gであることがより好ましい。また、反応性を高める目的から、予め活性化処理を行ったマグネシウムを用いることが好ましい。
【0046】
(充填塔)
充填塔は、マグネシウムが充填塔内の流路内部の一部又は全部に充填され、ハロゲン化炭化水素を含有する溶液が流通可能な形状のものであればよいが、流路の断面形状は円形が好ましく、充填塔内部での分岐も屈曲も無いストレート構造であることが好ましい。流路の断面形状は、断面積方向での流束及びマグネシウムとの接触面積の均一性を高める観点から、直径5~50mmの円形であることが好ましい。流路の断面積が小さいと、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を流通させる際の圧力損失が大きくなる傾向があり、流路の断面積が大きいと、渦流の発生等により、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液が不均一になりやすい傾向がある。反応の制御と反応収率とのバランスの観点から、充填塔の直径は、10~30mmであることがより好ましい。充填塔の長さは、特に限定されず、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を流通してマグネシウムと接触せしめる際の充填塔内の温度が上述した接触温度の範囲内になるように適宜選択すればよい。充填塔の長さが過度に長いとハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を流通する際の圧力損失が大きくなる傾向があるため、5~100cmの範囲で適宜選択すればよい。充填塔は、冷媒を循環するジャケット、ペルチェ素子方式等の冷却機能を具備していてもよい。充填塔の材質は特に限定されないが、耐薬品性及び安全性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ素樹脂やステンレス鋼が好ましい。
【0047】
充填塔に充填されるマグネシウムの充填率は特に限定されないが、充填率が低すぎると、ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの接触割合が低下する傾向にあり、充填率が高すぎると、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を流通させる際の圧力損失が大きくなる傾向があるため、充填塔の内容積に対するマグネシウムの占有容積割合が10~80%となる範囲で適宜設定すればよい。
【0048】
(ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液)
ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液は、ハロゲン化炭化水素化合物を上述した有機溶媒に溶解させて溶液とすることにより調製することができる。また、ハロゲン化炭化水素化合物と後述するケトン化合物又はケイ素化合物(クロロシラン化合物、アルコキシシラン化合物)とを含有する溶液をマグネシウム充填塔に供給してもよい。ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物が比較的不安定である場合には、予めケトン化合物又はケイ素化合物を混合させておくことで、製造されたハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物とケトン化合物又はケイ素化合物と反応させることが可能となるため好ましい。
【0049】
ケトン化合物又はケイ素化合物の使用量は、生成するハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物との反応性を勘案して適宜決定すればよく、通常、ハロゲン化炭化水素化合物1モルに対して、ケトン化合物又はケイ素化合物を1~2.5モルの範囲で適宜使用すればよい。
【0050】
ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液におけるハロゲン化炭化水素化合物の濃度は、用いるハロゲン化炭化水素化合物の反応性や、生成するハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の有機溶媒への溶解度等を勘案して適宜決定すればよい。ハロゲン化炭化水素化合物が常温で液体の場合、ハロゲン化炭化水素化合物1容量部に対して、有機溶媒を1~99容量部の範囲で用いることが好ましく、2~98容量部の範囲で用いることがより好ましく、3~97容量部の範囲で用いることがさらに好ましい。また、ハロゲン化炭化水素化合物が常温で固体の場合、ハロゲン化炭化水素化合物1質量部に対して、有機溶媒を1~130質量部の範囲で用いることが好ましく、2~120質量部の範囲で用いることがより好ましく、3~110質量部の範囲で用いることがさらに好ましい。
【0051】
(充填塔流通方式によるハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造)
ハロゲン化炭化水素化合物とマグネシウムとの接触温度は、反応性等を勘案して上述した接触温度の範囲で適宜決定すればよい。なお、所望する接触温度が室温以上である場合には、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液を加熱した上でマグネシウム充填塔に供給すればよい。
【0052】
ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の供給速度は、反応収率、マグネシウム充填塔内での温度上昇の度合い等を勘案して適宜決定すればよい。例えば、直径5~50mmで高さが0.1~1m、充填率が10~80%であるマグネシウム充填塔を用いた場合、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の供給速度は、10~2000mL/分が好ましく、50~1000mL/分がより好ましい。
【0053】
マグネシウム充填塔内におけるハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液の滞留時間は、長いほど反応収率が高くなる傾向にある一方で、反応熱による温度上昇も高くなる傾向にある。したがって、上記滞留時間は、マグネシウム充填塔を流通した溶液の反応収率、マグネシウム充填塔内の温度上昇等を勘案して適宜決定すればよい。例えば、直径5~50mmで高さが0.1~1m、充填率が10~80%であるマグネシウム充填塔を用いた場合の滞留時間は、0.1~30秒の範囲とすることが好ましく、0.2~20秒の範囲とすることがより好ましい。
【0054】
充填塔流通方法により、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を製造することができる。また、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液にケトン化合物又はケイ素化合物を混合した場合には、生成したハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物とケトン化合物又はケイ素化合物とが反応し、対応する第3級アルコール又は有機シラン化合物が生成する。
【0055】
マグネシウム充填塔に流通した反応液におけるハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物、或いは第3級アルコール又は有機ケイ素化合物の収率が低い場合には、上記反応液をマグネシウム充填塔に繰り返し供給することにより、反応収率を高めることができる。或いは、マグネシウム充填塔を複数直列に準備し、通液後の反応液を他のマグネシウム充填塔に供給して反応収率を高めることができる。マグネシウム充填塔に反応液を繰り返し供給する際、或いは他のマグネシウム充填塔に反応液を供給する際に、反応液の温度が高い場合には、該反応液を冷却した後、マグネシウム充填塔に供給すればよい。複数のマグネシウム充填塔を直列に連結させる際の充填塔の数は、所望するハロゲン化炭化水素マグネシウムの収率に応じて決めればよい。充填塔の数を増加させると反応液を所定の供給速度で供給せしめるために大きな圧力が必要となり、製造設備が大型化する虞がある。このため、経済性の観点から、充填塔の数は2基から20基が好ましく、2基から15基がより好ましい。反応の終了、すなわちマグネシウム充填塔への反応液の供給の終了は、マグネシウム充填塔から排出された反応液における生成物の反応収率を確認して決定すればよい。
【0056】
反応終了後、反応液を回収し、次の反応に用いることができる。また、ハロゲン化炭化水素化合物を含有する溶液にケトン化合物又はケイ素化合物を混合した場合には、対応する第3級アルコール又は有機シラン化合物が生成している。したがって、反応終了後は酸を添加し、未反応のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を分解した後、公知の手段により精製することが可能である。
【0057】
<第3級アルコール化合物又は有機シラン化合物の製造方法>
上記の製造方法により得られたハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物をケトン化合物又はケイ素化合物と反応させることで、対応する第3級アルコール又は有機シラン化合物を製造することができる。上記ケトン化合物又はケイ素化合物としては、グリニャール反応に用いられる化合物を特に制限なく用いることができる。
【0058】
かかるケトン化合物として具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、メチルブチルケトン、エチルブチルケトン、プロピルブチルケトン、ジブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、プロピルイソブチルケトン、メチルビニルケトン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等が挙げられる。また、ケイ素化合物としては、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリクロロシラン等のクロロシラン化合物;メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;などが挙げられる。これらのケトン化合物又はケイ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、反応後の精製が容易な点から、1種を単独で用いることが好ましい。
【0059】
ケトン化合物又はケイ素化合物の使用量は、反応完結する必要な量を用いればよく、通常、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物1モルに対して、ケトン化合物又はケイ素化合物を1~2.5モルの範囲で適宜使用すればよい。
【0060】
反応方法についても特に制限されず、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造後の反応液にケトン化合物又はケイ素化合物を添加してもよいし、反応容器に有機溶媒と、ケトン化合物又はケイ素化合物とを仕込んで混合した後、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物の製造後の反応液を添加してもよい。
【0061】
反応温度は、ハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物とケトン化合物又はケイ素化合物との反応性を勘案して適宜決定すればよく、通常、-78~60℃の範囲で適宜決定すればよい。反応時間についても反応収率を勘案して適宜決定すればよく、通常、1~24時間の範囲で適宜決定すればよい。反応終了後は酸を添加し、未反応のハロゲン化炭化水素マグネシウム化合物を分解した後、公知の手段により精製することが可能である。
【実施例
【0062】
以下、本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。実施例及び比較例における各成分の分析は、ガスクロマトグラフ装置(アジレント社製、6890N)を使用し、分析カラムとしては、J&W社製のDB-1カラムを使用した。また、実施例及び比較例におけるマグネシウムの比表面積は、上述したように、精密天秤及び拡大倍率10倍の光学顕微鏡観察を用いて粒子1個当たりの重量及び表面積を測定し、各粒子の比表面積を算出した後、10個の粒子の平均値を求めることにより決定した。
【0063】
<実施例1>
よく乾燥させたガラス製の2L三口フラスコに、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)800mL、及び平均比表面積5.8×10-5/gの粒状マグネシウム4.0gを秤取し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、滴下管を用いてテトラヒドロフラン(水分量:10ppm)200mLと1-ブロモプロパン14.8gとの混合溶液を滴下した。滴下とともに溶液は発熱したため、フラスコを水浴で冷やしながら反応溶液の温度が55℃を保つように滴下速度を調整して、2時間かけて滴下を完了させた。滴下完了後、ブロモプロピルマグネシウムへの転化率をガスクロマトグラフィー分析によって分析したところ、83%であった。
【0064】
<実施例2>
よく乾燥した500mLガラス製三口フラスコに、200mLのテトラヒドロフラン及び2.4gのメチルエチルケトンを秤取し、アルゴン雰囲気下、滴下管を用いて実施例1で合成したブロモプロピルマグネシウム5gとテトラヒドロフラン100mLとの混合溶液を1時間かけて滴下した。反応生成物をH-NMRにより確認したところ、2-エチル-2-ペンタノールの生成が確認できた。ガスクロマトグラフィーにより収率を確認したところ、合成収率は72%であった。
【0065】
<実施例3>
よく乾燥した500mLガラス製三口フラスコに、200mLのテトラヒドロフラン及び4.4gのジクロロジメチルシランを秤取し、アルゴン雰囲気下、滴下管を用いて実施例1で合成したブロモプロピルマグネシウム5gとテトラヒドロフラン100mLとの混合溶液を1時間かけて滴下した。反応生成物をH-NMRにより確認したところ、クロロジメチルプロピルシランの生成が確認できた。ガスクロマトグラフィーにより収率を確認したところ、合成収率は76%であった。
【0066】
<マグネシウム充填塔の準備>
以下の実施例におけるマグネシウム充填塔は、内部の流路長さが200mm、断面が直径20mmの円形の直管構造で、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製のものを使用した。マグネシウム充填塔に対して液を流通させる場合には、充填塔を鉛直に保持固定し、液が流路下部から流入し上部に抜けるように実施した。また、液の入り口である充填塔の下部及び出口である上部に側面からK型熱電対を差し込んで設置し、充填塔の入口及び出口における温度を測定できるようにした。マグネシウム充填塔への液体の供給は、充填塔の連結本数によらず、接液部がポリテトラフルオロエチレン製のプランジャーポンプを用いた。ポンプから充填塔への接続、及び複数本の充填塔を使用する場合の各充填塔間の接続には、1/4インチのPFA製チューブを用いた。
【0067】
<実施例4>
よく乾燥させた10Lガラス瓶に、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)7.5L、及び1-ブロモプロパン150gを秤取し、振り混ぜて混合した。ガラス瓶を30℃の水浴中に設置した。上記マグネシウム充填塔に平均比表面積5.8×10-5/gの粒状マグネシウム6.0gを充填したのち、10Lガラス瓶中の混合溶液を400mL/分の一定流速で供給し、マグネシウムと溶液とを接触させた。溶液供給中、充填塔の出口における溶液温度を熱電対で充填塔を通過したところ、42℃から45℃であった。溶液をガスクロマトグラフィーで分析してブロモプロピルマグネシウムへの転化率を確認したところ、7%であった。該溶液を上記マグネシウム充填塔に同条件で流通させた。充填塔を通過した溶液をガスクロマトグラフィーで分析してブロモプロピルマグネシウムへの転化率を確認したところ、13%であった。
【0068】
<実施例5>
上記マグネシウム充填塔をPFAチューブで4本直列に連結し、各充填塔をつなぐチューブを30℃の水浴に浸漬し、2本目以降の入口における液温が30℃になるようにして、実施例4に記載のテトラヒドロフラン及び1-ブロモプロパンの混合溶液を400mL/分で供給し、各充填塔でマグネシウムと接触させた。溶液供給中に、各充填塔間に設けたサンプリングバルブより各充填塔を通過した直後のサンプルをとり、それぞれガスクロマトグラフィーにより分析してブロモプロピルマグネシウムへの転化率を確認したところ、1本目通過後で8%、2本目通過後で15%、3本目通過後で24%、4本目通過後で33%であった。
【0069】
<実施例6>
実施例5で得られた溶液の全量について、さらに2回、実施例5と同じ条件で4本直列に連結したマグネシウム充填塔に供給した。1回目の供給後の転化率は62%であり、2回目の供給後の転化率は87%であった。
【0070】
<実施例7>
よく乾燥させた10Lガラス瓶に、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)7.5L、1-ブロモプロパン150g、及びジクロロジメチルシラン157gを秤取し、振り混ぜて混合した。得られた混合溶液を、実施例5と同じ条件で4本直列に連結したマグネシウム充填塔に3回繰り返して供給した。4本のマグネシウム充填塔を1回通液させるごとに、サンプルを取得してガスクロマトグラフィーで原料のクロロジメチルプロピルシランへの転化率を測定した。1回目の供給後の転化率は28%であり、2回目の供給後の転化率は54%であり、3回目の供給後の転化率は84%であった。実施例7におけるマグネシウム充填塔から排出された溶液の温度、及び転化率の結果を表1に示す。
【0071】
<実施例8>
よく乾燥させた10Lガラス瓶に、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)7.5L、1,3-ジブロモプロパン246g、及びジクロロジメチルシラン315gを秤取し、振り混ぜて混合した。得られた混合溶液を、実施例5と同じ条件で4本直列に連結したマグネシウム充填塔に3回繰り返して供給した。4本のマグネシウム充填塔を1回通液させるごとに、サンプルを取得して分析に供した。反応後の溶液のH-NMR及び29Si-NMR分析から、生成物は1,3-ジ―(ジメチルクロロシリル)プロパンであることを確認した。各段階における転化率は、H-NMRによる内部標準法(内部標準物質トルエン)により決定した。その結果、1回目の供給後の転化率は26%であり、2回目の供給後の転化率は49%であり、3回目の供給後の転化率は71%であった。
【0072】
<実施例9>
よく乾燥させた10Lガラス瓶に、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)7.5L、及び1-ブロモプロパン150gを秤取し、振り混ぜて混合した。ガラス瓶を30℃の水浴中に設置した。上記マグネシウム充填塔に平均比表面積9.0×10-5/gの粒状マグネシウム6.0gを充填したのち、10Lガラス瓶中の混合溶液を400mL/分の一定流速で供給し、マグネシウムと溶液とを接触させた。溶液供給中、充填塔の出口における溶液温度を熱電対で充填塔を通過したところ、48℃から52℃であった。溶液をガスクロマトグラフィーで分析してブロモプロピルマグネシウムへの転化率を確認したところ、5%であった。該溶液を上記マグネシウム充填塔に同条件で流通させた。充填塔を通過した溶液をガスクロマトグラフィーで分析してブロモプロピルマグネシウムへの転化率を確認したところ、11%であった。
【0073】
<実施例10>
上記マグネシウム充填塔をPFAチューブで4本直列に連結し、各充填塔をつなぐチューブを30℃の水浴に浸漬し、2本目以降の入口における液温が30℃になるようにして、実施例9に記載のテトラヒドロフラン及び1-ブロモプロパンの混合溶液を400mL/分で供給し、各充填塔でマグネシウムと接触させた。溶液供給中に、各充填塔間に設けたサンプリングバルブより各充填塔を通過した直後のサンプルをとり、それぞれガスクロマトグラフィーにより分析してブロモプロピルマグネシウムへの転化率を確認したところ、1本目通過後で7%、2本目通過後で12%、3本目通過後で20%、4本目通過後で29%であった。
【0074】
<実施例11>
実施例10で得られた溶液の全量について、さらに2回、実施例10と同じ条件で4本直列に連結したマグネシウム充填塔に供給した。1回目の供給後の転化率は59%であり、2回目の供給後の転化率は84%であった。
【0075】
<実施例12>
よく乾燥させた10Lガラス瓶に、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)7.5L、1-ブロモプロパン150g、及びジクロロジメチルシラン157gを秤取し、振り混ぜて混合した。得られた混合溶液を、実施例5と同じ条件で4本直列に連結したマグネシウム充填塔に3回繰り返して供給した。4本のマグネシウム充填塔を1回通液させるごとに、サンプルを取得してガスクロマトグラフィーで原料のクロロジメチルプロピルシランへの転化率を測定した。1回目の供給後の転化率は25%であり、2回目の供給後の転化率は57%であり、3回目の供給後の転化率は89%であった。実施例12におけるマグネシウム充填塔から排出された溶液の温度、及び転化率の結果を表1に示す。
【0076】
<実施例13>
よく乾燥させた10Lガラス瓶に、テトラヒドロフラン(水分量:10ppm)7.5L、1,3-ジブロモプロパン246g、及びジクロロジメチルシラン315gを秤取し、振り混ぜて混合した。得られた混合溶液を、実施例5と同じ条件で4本直列に連結したマグネシウム充填塔に3回繰り返して供給した。4本のマグネシウム充填塔を1回通液させるごとに、サンプルを取得して分析に供した。反応後の溶液のH-NMR及び29Si-NMR分析から、生成物は1,3-ジ―(ジメチルクロロシリル)プロパンであることを確認した。各段階における転化率は、H-NMRによる内部標準法(内部標準物質トルエン)により決定した。その結果、1回目の供給後の転化率は24%であり、2回目の供給後の転化率は51%であり、3回目の供給後の転化率は73%であった。
【0077】
<比較例1>
充填塔に充填するマグネシウムとして平均比表面積3×10-3/gの粉状マグネシウム6.0gを用いた以外は、実施例4と同様の操作を実施した。溶液供給中、充填塔出口における温度を測定したところ、55℃から62℃であった。液体供給しているチューブにガスの混入が見られたことから、反応溶液が充填塔内で沸騰したことが分かった。反応後の溶液中のブロモプロピルマグネシウムを分析して転化率を確認したところ、2%であった。
【0078】
<比較例2>
充填塔に充填するマグネシウムとして、平均比表面積3×10-3/gの粉状マグネシウム6.0gを用いた以外は、実施例7と同様の操作を実施した。比較例1と同様に、液体供給しているチューブにガスの混入が見られたことから、反応溶液が各充填塔内で沸騰したことが分かった。実施例7と同様にクロロジメチルプロピルシランへの転化率を分析したところ、1回目の供給後の転化率は18%であり、2回目の供給後の転化率は24%であり、3回目の供給後の転化率は28%であった。比較例2におけるマグネシウム充填塔から排出された溶液の温度、及び転化率の結果を表1に示す。
【0079】
【表1】