(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】磁性細線メモリ
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20241128BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20241128BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20241128BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/10 Z
H10N50/20
(21)【出願番号】P 2021086273
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 渓
(72)【発明者】
【氏名】中谷 真規
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰敬
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【審査官】渡邊 佑紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-027805(JP,A)
【文献】特開2010-141340(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118395(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0105999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/10
H10N 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状の磁性体からなる少なくとも1つの磁性細線と、
記録電流を流す導体からなり前記磁性細線の膜厚方向に層間絶縁膜を介して前記磁性細線と交差するように配設された記録素子と、を備え、
前記磁性細線は、前記磁性細線の長手方向において局所的に膜厚が他の領域における膜厚よりも小さく形成された凹部を備え、
前記凹部は、前記記録素子に隣り合って位置する第1の所定長の範囲の領域に配設されて
おり、
前記凹部は、前記磁性細線の長手方向に直交する幅方向に亘って形成され、
前記凹部の一方の上縁部に隣り合って上流側に前記記録素子が配設されており、
前記磁性細線は、前記磁性細線の膜厚方向に突設された凸部をさらに備え、
前記凸部は磁性体からなり、前記磁性細線の長手方向において前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に位置する領域に配設されていることを特徴とする磁性細線メモリ。
【請求項2】
薄膜状の磁性体からなる少なくとも1つの磁性細線と、
記録電流を流す導体からなり前記磁性細線の膜厚方向に層間絶縁膜を介して前記磁性細線と交差するように第1の所定長をあけてそれぞれ配設された2本の記録素子と、を備え、
前記磁性細線は、前記磁性細線の長手方向において局所的に膜厚が他の領域における膜厚よりも小さく形成された凹部を備え、
前記凹部は、一方の記録素子と他方の記録素子との間の前記第1の所定長の範囲の領域に配設されて
おり、
前記凹部は、前記磁性細線の長手方向に直交する幅方向に亘って形成され、
前記凹部の一方の上縁部に隣り合って上流側に一方の記録素子が配設されており、
前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に他方の記録素子が配設されており、
前記磁性細線は、前記磁性細線の膜厚方向に突設された凸部をさらに備え、
前記凸部は磁性体からなり、前記磁性細線の長手方向において前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に位置する領域に配設されていることを特徴とする磁性細線メモリ。
【請求項3】
前記凸部は、前記磁性細線の長手方向において前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に位置する領域と、前記凹部の一方の上縁部に隣り合って上流側に位置する領域と、にそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項
2に記載の磁性細線メモリ。
【請求項4】
前記凸部は、前記磁性細線の長手方向に直交する幅方向に亘って形成されていることを特徴とする請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載の磁性細線メモリ。
【請求項5】
基板上に複数の前記磁性細線が前記磁性細線の幅方向に所定間隔で平行に配設されていることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の磁性細線メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性細線メモリに係り、特に、磁化を局所的に反転させることで情報記録を行う磁性細線メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体材料を細線状に形成した媒体に2値情報を高速記録・再生する磁気記録装置として、磁性細線メモリの研究が進められている。磁性細線メモリは、磁性細線の上部に細線状に形成した導体(以降、記録素子)を直交配置し、記録素子に電流を印加することによって発生する電流磁界を用いて磁性細線中の磁化を局所的に反転し、情報の記録を行う。このような磁性細線メモリを並列配置、および積層することで、並列同期制御による超高速動作が可能となり、また動作原理上機械的な可動部がないため、高い動作信頼性を確保できる。
【0003】
非特許文献1に記載されたレーストラックメモリは、磁性細線を基板に対して垂直方向に延伸させたU字型の3次元構造を持つメモリである。レーストラックメモリは、磁性細線に直交するように配置された記録ヘッドで磁性細線中に磁区を形成し、磁性細線にパルス電流を印加して磁区の位置を動かしてデータを記録・蓄積する。この記録ヘッドに電流を印加することによって生じる磁界により、磁性細線に磁区を形成しデータの記録を行う。なお、レーストラックメモリは、ランダムアクセスを可能とするため、再生時には、磁性細線に配置された再生ヘッドの直下に磁区が来るように磁性細線にパルス電流を印加して磁区を移動させている。
【0004】
非特許文献2には、垂直磁化を示す材料としてCo/Niが積層された磁性細線上に、直交するように、12μmの間隔を空けてTi/Au電極を2本(記録用に1本・再生用に1本)設けたホールバー型磁壁移動デバイスが記載されている。2本の電極間の領域が、磁性細線での記録されたデータの蓄積領域となっている。一方の電極は記録用ヘッドとして機能し、他方の電極は再生用ヘッドとして機能する。このデバイスでは、一方の電極(記録用ヘッド)に電流を流すことで発生した電流磁界を用いることで磁性細線に磁区を記録する。そして、磁区が記録された磁性細線に電極を介して電流パルスを流すことで、この磁性細線内で磁区を移動させている。非特許文献2には、電流パルスでシフトされる磁区長(磁壁間距離)は、5.1±0.9μm、あるいは、3.2±0.6μmであることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Parkin Stuart S. P. et al.,” Magnetic Domain-Wall Racetrack Memory”, Science, 11 Apr 2008, Vol. 320, Issue 5873, pp. 190-194
【文献】Chiba D., et al.,” Control of Multiple Magnetic Domain Walls by Current in a Co/Ni Nano-Wire”, Applied Physics Express, June 2010, 073004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のデバイスでは、記録ビットに相当する磁区を磁性細線に高密度に形成することが困難だった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる磁性細線メモリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の第1の観点に係る磁性細線メモリは、薄膜状の磁性体からなる少なくとも1つの磁性細線と、記録電流を流す導体からなり前記磁性細線の膜厚方向に層間絶縁膜を介して前記磁性細線と交差するように配設された記録素子と、を備え、前記磁性細線は、前記磁性細線の長手方向において局所的に膜厚が他の領域における膜厚よりも小さく形成された凹部を備え、前記凹部は、前記記録素子に隣り合って位置する第1の所定長の範囲の領域に配設されており、前記凹部は、前記磁性細線の長手方向に直交する幅方向に亘って形成され、前記凹部の一方の上縁部に隣り合って上流側に前記記録素子が配設されており、前記磁性細線は、前記磁性細線の膜厚方向に突設された凸部をさらに備え、前記凸部は磁性体からなり、前記磁性細線の長手方向において前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に位置する領域に配設されていることとした。
【0010】
また、本発明の第2の観点に係る磁性細線メモリは、薄膜状の磁性体からなる少なくとも1つの磁性細線と、記録電流を流す導体からなり前記磁性細線の膜厚方向に層間絶縁膜を介して前記磁性細線と交差するように第1の所定長をあけてそれぞれ配設された2本の記録素子と、を備え、前記磁性細線は、前記磁性細線の長手方向において局所的に膜厚が他の領域における膜厚よりも小さく形成された凹部を備え、前記凹部は、一方の記録素子と他方の記録素子との間の前記第1の所定長の範囲の領域に配設されており、前記凹部は、前記磁性細線の長手方向に直交する幅方向に亘って形成され、前記凹部の一方の上縁部に隣り合って上流側に一方の記録素子が配設されており、前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に他方の記録素子が配設されており、前記磁性細線は、前記磁性細線の膜厚方向に突設された凸部をさらに備え、前記凸部は磁性体からなり、前記磁性細線の長手方向において前記凹部の他方の上縁部に隣り合って下流側に位置する領域に配設されていることとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明の第1、第3の観点に係る磁性細線メモリは、凹部を備えるので、磁性細線媒体の局所的な磁化および保磁力を低減する。これにより、磁化反転に必要な電流磁界の大きさは小さくなるため、記録素子に印加すべき電流値も小さくなるので、省電力化が実現できる。その結果、記録電流を低減することで、同じ記録電流で比べたときに磁性細線に磁区を従来よりも高密度に形成することができる。
本発明の第2、第4の観点に係る磁性細線メモリは、凸部を備えるので、従来よりも磁区長を小さくしても磁区を形成することができる。その結果、線記録密度を高めることで、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
本発明の第3、第4の観点に係る磁性細線メモリは、2つの記録素子を備えるので、安定した形状の磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る磁性細線メモリを模式的に示す斜視図である。
【
図2】従来の磁性細線メモリを模式的に示す斜視図である。
【
図3】磁性細線メモリの第1製造方法を模式的に示す断面図である。
【
図4】磁性細線メモリの第2製造方法を模式的に示す断面図である。
【
図5】磁性細線メモリの第3製造方法を模式的に示す断面図(その1)である。
【
図6】磁性細線メモリの第3製造方法を模式的に示す断面図(その2)である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る磁性細線メモリの模式図であって、(a)は平面図、(b)は側面図を示している。
【
図8】(a)、(b)は、それぞれ記録素子への印加電流パルス波形の例である。
【
図9】
図7の磁性細線メモリのシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る磁性細線メモリの模式図であって、(a)は平面図、(b)は側面図を示している。
【
図11】比較例に係る磁性細線メモリのシミュレーション結果を示す図である。
【
図12】
図10の磁性細線メモリのシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】磁性細線メモリの凸部によるエネルギー消費の変化を示す模式図である。
【
図14】本発明の第3実施形態に係る磁性細線メモリの模式図であって、(a)は平面図、(b)は側面図を示している。
【
図15】
図14の磁性細線メモリのシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】本発明の第4実施形態に係る磁性細線メモリの模式図であって、(a)は平面図、(b)は側面図を示している。
【
図17】本発明の第5実施形態に係る磁性細線メモリの模式図であって、(a)は平面図、(b)は側面図を示している。
【
図18】本発明の実施形態の変形例に係る磁性細線メモリの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る磁性細線メモリについて
図1を参照して説明する。なお、各図面に示される部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
磁性細線メモリ1は、薄膜状の磁性体からなる磁性細線2と、層間絶縁膜3と、記録素子4と、を備えている。記録素子4は、記録電流を流す導体からなり磁性細線2の膜厚方向に層間絶縁膜3を介して磁性細線2と交差するように配設されている。磁性細線2は、磁性細線2の長手方向において局所的に膜厚が他の領域における膜厚よりも小さく形成された凹部6を備えている。凹部6は、磁性細線2の領域21に配設されている。磁性細線2の領域21は、記録素子4に隣り合う付近に(近接する)位置する第1の所定長の範囲の領域である。ここで、第1の所定長は、非特許文献2に開示されたミクロン単位の磁区長よりも小さな長さであるものとする。
【0015】
図1では、磁性細線メモリ1の記録素子4付近の構造と記録方法を模式的に示している。
図1では、記録を行う前(初期状態)では磁性細線2の磁化方向は例えば上向きであって磁性細線2の全領域が上向き磁区領域(
図1の磁区領域13において上向き矢印で示す領域)であったものが、記録を行った後に変化した状態を示している。記録を行った後には、磁性細線2の領域21は下向き磁区領域(
図1の磁区領域14において下向き矢印で示す領域)に変化しており、この領域21以外の細線領域は、上向き磁区領域13のままである。
【0016】
磁性細線2は、磁気記録媒体として機能する磁性細線媒体である。ここでは、磁性細線2の長手方向において上流側(
図1における左側)と下流側(
図1における右側)とが予め定められているものとする。下流側とは、磁性細線2に形成された磁区を駆動させる側であり、その反対側が上流側である。磁性細線2の領域21には凹部6が形成されている。
【0017】
磁性細線2の材料としては、外乱等で磁性細線媒体内部に記録された磁化状態に影響がないように、保磁力や異方性磁界の大きな(異方性エネルギーの大きな)磁性体材料が用いられる。そのため、特定の磁区の磁化状態を反転させるためには、これらをエネルギー的に超える大きな磁界が必要となる。磁性細線2の材料として、例えばCo/Tb,Co/Pt,Co/Ni,Co/Pdなどの垂直磁化を示す材料(多層膜または合金)を挙げることができる。磁性細線2は、基板10上に形成されている。基板10は、例えば表面熱酸化シリコン、サファイア、酸化マグネシウム、ガラス(石英含む)等の一般的に用いられる様々な材料を用いて形成することができる。
【0018】
層間絶縁膜3は、磁性細線2の上部に形成されている。層間絶縁膜3を形成する絶縁体は、一般的な絶縁体材料で構成されている。
このような材料として例えばSiO2やAl2O3等の酸化膜や、窒化シリコン(Si3N4)やMgF2等を挙げることができる。層間絶縁膜3は、基板10上で安定に支持されていればその形状は図示した形状に限定されるものではない。また、層間絶縁膜3は、記録素子4の周囲に絶縁材料を敷き詰めた絶縁被膜としてもよい。
【0019】
記録素子4は、磁性細線2に記録ビットに相当する磁区を記録するものである。磁区を記録する方法は、外部から記録素子4に記録電流を印加し、記録素子4に流れる電流によって磁界を発生させ、この電流磁界によって磁性細線2の中の磁化を局所的に反転させる。この局所的に磁化が反転した領域が磁区として記録される。
記録素子4は、層間絶縁膜3の上部に設けられている。記録素子4は、磁性細線2の長手方向において中央よりも上流側(
図1における左側)に設けられている。
【0020】
記録素子4の一端には導体配線11が接続され、記録素子4の他端には導体配線12が接続されている。記録素子4には、導体配線11,12を経由して外部の図示しない電源(パルス電流源)から電流(記録電流I)が印加される。
記録素子4の材料としては、例えばAg,Au,Cu,Alなどの導電率の高い金属材料で、半導体集積デバイス中に多用されている一般的なものを用いることができる。
【0021】
図1に示す磁性細線メモリ1の磁性細線2の構造は、
図2に示す従来の磁性細線メモリ101の磁性細線102の構造と異なっている。従来の磁性細線メモリ101の磁性細線102は、凹部を設けない平坦な磁性細線である。つまり、磁性細線102は、膜厚が一様であり、平坦な上面を有している。これに対して、本実施形態の磁性細線メモリ1の磁性細線2は凹部6を備えている。凹部6は、磁性細線2の長手方向において、記録素子4によって発生される電流磁界を受ける側(磁区を移動させる側)に形成されている。
【0022】
凹部6は、磁性細線2の長手方向に規制されており、膜厚方向に凹みのある溝状に形成されている。凹部6は、磁性細線2の長手方向に直交する幅方向に亘って形成されている。すなわち、凹部6は、磁性細線2の幅方向に連続して貫通する凹溝である。上面視における凹部6のサイズは、上面視における磁区のサイズと概ね同じである。ここでは、磁性細線2の長手方向における凹部6のサイズを凹部の長さと呼び、磁性細線2の幅方向における凹部6のサイズを凹部の幅と呼び、磁性細線2の厚み方向における凹部6のサイズを凹部の深さと呼ぶ。凹部の長さは、前記した第1の所定長と同じかそれよりも小さい。以下では、凹部6の側面視における形状は矩形であるものとして説明する。
【0023】
磁性細線2への磁区の形成過程は次の通りである。まず、記録素子4に、導体配線11から導体配線12への向きに電流(記録電流I)を印加する。アンペールの法則にしたがって電流印加方向に対して右回りの電流磁界Hが、記録素子4周囲の空間上に形成される。この電流磁界Hが磁性細線2のもつ保磁力を超える強さとなったとき、記録素子4近傍の磁性細線2の磁化方向は、電流磁界Hの方向に揃って(図では下向きに)磁化反転し、下向きの磁区が形成される。上向き磁区領域13と下向き磁区領域14との境界には磁壁15が形成される。なお、
図1では、磁区領域や磁壁を磁性細線の側面から視た状態で示したが、上面等の他の面から視た状態で示すこともできる。
さらにまた、磁性細線2上に形成された磁区は、磁性細線2の長手方向に電流(駆動電流)を印加することにより、下流側(
図1における右側)に移動させて、磁区記録を繰り返すことで、下流側に情報を逐次蓄積することができる。
【0024】
図1に示す磁性細線メモリ1における情報記録方法と、
図2に示す磁性細線メモリ101における情報記録方法とは同様である。
しかしながら、磁性細線メモリ1の磁性細線2の領域21には凹部6が設けられており、磁性細線メモリ101の磁性細線102には凹部が設けられていない。磁性細線のような磁性体中の微小体積には磁気モーメントmが存在し、磁化Mは単位体積の磁気モーメントmの和としてM=Σmで表される。磁性細線の膜厚が薄い場合の磁化M
1は、磁性細線の膜厚が厚い場合の磁化M
2と比較すると、M
1<M
2となる。磁性細線2は、磁性細線102と比較して局所的に磁気異方性が弱められた状態になっている。
【0025】
また、磁性細線メモリにおいて、記録素子4に記録電流Iを印加することよって、記録素子4からの距離rの位置に発生する電流磁界Hの大きさは、H∝I/r2で表される。そのため、記録素子4からの距離が同じである場合、大きな電流磁界を発生させるためには大きな電流を印加する必要がある。記録素子4に印加する記録電流を大きくした場合、発生する電流磁界も大きくなり、記録装置としての消費電力が増大する。それに加え、記録素子4における電流密度が過大になったときには、記録素子4が破壊される可能性があり、記録素子4に印加する電流の増大にも限界がある。そのため、限界電流密度を超えない電流範囲の中で省電力記録を実現することが求められる。
【0026】
本実施形態に係る磁性細線メモリ1では、磁性細線2について、記録素子4から電流磁界を受ける範囲の膜厚をほかの範囲の膜厚よりも薄くすることによって、磁性細線2の局所的な磁化および保磁力を低減している。これにより、磁化反転に必要な電流磁界の大きさは小さくなるため、記録素子4に印加すべき電流値も小さくなるので、低電力で磁化反転を実現することができる。
【0027】
詳細には、磁性細線メモリ1において、凹部6が形成された磁性細線2の領域21に着目すると、領域21の膜厚は、周囲よりも薄くなっているので、磁性細線2の磁化反転に必要となる外部磁界は、磁性細線102の磁化反転に必要となる外部磁界よりも小さくなる。つまり、凹部6がある磁性細線2の磁化状態を電流磁界Hの方向に揃えるために必要な磁界強度は、凹部6がない場合に必要な磁界強度よりも小さくてすむ。言い換えると、記録素子4に印加する記録電流の電流量を従来よりも減少させることができる。すなわち、凹部6がない場合では磁化反転しないような小さな記録電流を印加する場合であっても、凹部6がある場合には磁性細線2の領域21の磁化状態は電流磁界の方向に揃えられ磁化反転し、下向き磁区を形成することが可能になる。このため、磁性細線メモリ1によれば、記録電流を低減することで、同じ記録電流で比べたときに磁性細線に磁区を従来よりも高密度に形成することができる。また、磁性細線メモリ1によれば、書き込み・記録の省電力化を実現することができる。
【0028】
[磁性細線メモリの製造方法]
次に、本実施形態の磁性細線メモリ1の製造方法について
図1等を参照して説明する。まず、基板10上に磁性細線2を形成する。磁性細線2は、後記する方法で凹部6を持つ構造とする。この磁性細線2の上部に層間絶縁膜3を形成し、その上部に記録素子4を設ける。この一連の製造工程は、基板10上に、スパッタ法を用いて、磁性細線2、記録素子4の順に層を形成する手順をとる従来の磁性細線メモリ101と同様なので説明を省略し、以下では、磁性細線2の凹部6の形成方法について説明する。
【0029】
凹部6は、一般的な半導体装置製造プロセスにより製造することができる。例えば、収束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam)によって磁性細線の一部をGaイオンによって削りだす製造方法、フォトマスク等を利用してイオンミリングまたは反応性イオンエッチングによって、磁性細線の一部を所望の形状に削る製造方法、磁性細線を2層に分けリフトオフ法で形成する製造方法などが挙げられる。以下に、FIBによる方法と、2つの異なる観点によってリフトオフ法で形成する製造方法と、の概略について図面を参照して説明する。
【0030】
<第1製造方法>
第1製造方法は、磁性細線を削り出して凹部6を形成する方法である。この第1製造方法では、まず、
図3(a)に示すように、基板10上に磁性体材料52をスパッタ51で堆積させる。次に、
図3(b)に示すように、磁性細線の凹部に相当する領域のみを露出させるマスク53を設置し、FIBによってイオンビーム54を照射する。これにより、
図3(c)に示すように、イオンビーム54を照射した部分の磁性体材料52は削られ、磁性細線には凹部6が形成される。この第1製造方法によれば、イオンビームを照射する時間を調整することにより、凹部6の深さを制御可能である。
【0031】
<第2製造方法>
第2製造方法は、多段階のスパッタを行って凹部6を形成する方法であって、磁性細線の膜厚が薄い部分(凹部の配置される領域)を膜厚が厚い部分よりも後に形成する方法である。この第2製造方法では、まず、
図4(a)に示すように基板10上にレジスト55を一様に塗布し、次にレーザーもしくは電子線等56によって、磁性細線の凹部に相当する領域以外をパターン描画する。これにより、
図4(b)に示すように、磁性細線の凹部に相当する領域だけレジスト55を残す。
【0032】
次に、
図4(c)に示すようにスパッタ51により、第1層として磁性体材料52を堆積させる。次に、レジスト55の残っている部分を
図4(d)に示すようにリフトオフし、磁性細線の膜厚が厚い領域に相当する磁性体材料52のみ残す。
次に、
図4(e)に示すようにスパッタ51により、第2層として磁性体材料52を堆積させ、これにより、
図4(f)に示すように、凹部6を備えた磁性細線メモリを製造する。第2製造方法によれば、第一段階のスパッタ堆積の膜厚を調整することにより、凹部6の深さを制御可能である。
【0033】
<第3製造方法>
第3製造方法は、多段階のスパッタを行って凹部6を形成する方法であって、磁性細線の膜厚が薄い部分(凹部の配置される領域)を膜厚が厚い部分よりも先に形成する方法である。この第3製造方法では、まず、
図5(a)に示すように基板10上にレジスト55を一様に塗布し、次に、レーザーもしくは電子線等56によって、磁性細線の凹部に相当する領域のみをパターン描画する。これにより、
図5(b)に示すように、磁性細線の膜厚が厚い部分に相当する領域に設けられているレジスト55を残す。
次に、
図5(c)に示すようにスパッタ51により磁性体材料52を堆積させる。次に、レジスト55の残っている部分を
図5(d)に示すようにリフトオフし、磁性細線の凹部に相当する領域に形成されている磁性体材料52のみ残す。
【0034】
次に、
図6(a)に示すように、基板10および残っている磁性体材料52の上にレジスト55を一様に塗布し、次にレーザーもしくは電子線等56によって、磁性細線の膜厚が厚い部分に相当する領域のみをパターン描画して
図6(b)に示す積層状態にする。
次に、
図6(b)のスパッタ51により、
図6(c)に示すように磁性体材料52を堆積させる。次に、磁性細線の凹部にあたる部分に残っていたレジスト55をリフトオフし、
図6(d)に示すように、凹部6を備えた磁性細線メモリを製造する。
【0035】
なお、凹部6の断面視または側面視における形状は矩形に限らず、膜厚方向で局所的に磁性細線2を狭める形状であれば、その他の形状でも構わない。膜厚方向で局所的に磁性細線2を狭める形状としては、例えば半楕円、V字溝形状などを挙げることができる。このような場合であっても、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0036】
(シミュレーション)
本願発明者らは、本実施形態の磁性細線メモリ1の性能を確認するため、凹部を備えた本実施形態の磁性細線2の磁化反転・磁区形成について、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式を用いたマイクロマグネティックシミュレーションにより検証を進めた。
シミュレーションにおいては、記録素子4と磁性細線2との間に、層間絶縁膜3と同等に機能する空気層を設置した構造とした。
以下、本実施形態に係るシミュレーションを実験1ともいう。
まず、
図7(a)および
図7(b)を参照(適宜他の図面を参照)してシミュレーションの条件について説明する。図示するように、磁性細線2の長手方向をx方向、磁性細線2の幅方向をy方向、磁性細線2の膜厚方向をz方向とする。なお、x方向は記録素子の幅方向、y方向は記録素子4の長手方向、z方向は記録素子4の膜厚方向に相当する。
図7(b)に示すように、磁性細線2に設けている凹部6の一方の上縁部(左端)6aの位置は、記録素子4の右端4Rに対応する位置である。なお、上縁部とは、磁性細線2の平面から凹部6を形成する垂直面との交差する位置として示している。
【0037】
[シミュレーションの全体設定]
シミュレーションの全体設定を下記の通りとした。
シミュレーションの際には、磁性細線2を4[nm]×4[nm]×4[nm]メッシュに分割するとともに、記録素子4を40[nm]×40[nm]×40[nm]メッシュに分割して計算を行った。そして、磁性細線2のそれぞれのメッシュにおける磁気モーメントの挙動を検証した。
記録素子4へ記録電流の印加前の初期状態においては、磁性細線2の磁気モーメントの方向はすべて上向きとして設定した。
シミュレーションにおいても、
図1のように、記録素子4に、導体配線11から導体配線12への向きに電流(記録電流I)を印加した。
【0038】
[実験1]
磁性細線メモリ1の各部のシミュレーション条件を下記の通りとした。
下記のシミュレーション条件を設定した磁性細線メモリ1を以下では実施例1という。
<記録素子4>
記録素子の材料および形状:均一な金属材料(Cu)からなるワイヤ状
記録素子の長さ(L4、
図7(a)参照):L4=2000[nm]
記録素子の幅 (W4、
図7(a)参照):W4= 120[nm]
記録素子の厚み(T4、
図7(b)参照):T4= 120[nm]
<磁性細線2>
磁性細線の材料:Co/Tb
飽和磁化:0.15[T]
磁性細線の長さ(L2、
図7(b)参照):L2=1600[nm]
磁性細線の幅 (W2、
図7(a)参照):W2= 120[nm]
磁性細線の厚み(T2、
図7(b)参照):T2= 12[nm]
<凹部6>
凹部の長さ(L6、
図7(b)参照):L6=480[nm]
凹部の幅 (W6、
図7(a)参照):W6=120[nm]
凹部の深さ(T6、
図7(b)参照):T6= 4[nm]
xz平面視における凹部の形状:矩形
<層間絶縁膜3>
シミュレーションでは、層間絶縁膜3と同等に機能する空気層を設置した構造とした。
空気層の厚み(T0、
図7(b)参照):T0=10[nm]
【0039】
実験1では、上記したシミュレーションの全体設定、および各部のシミュレーション条件のもと、磁性細線メモリ1の記録素子4に印加する電流を、
図8(a)に示す波形を有するパルス電流とした。
このパルス電流の最大電流値は100[mA](電流密度7×10
10[A/cm
2])であり、パルス幅は2[ns]である。また、計算ステップは10[ps](ピコ秒)とし、記録電流の印加を開始してから2[ns](ナノ秒)経過後まで計算を行った。
また、実施例1と比較する比較例1として、従来の凹部を設けない平坦な磁性細線102(
図2参照)についてシミュレーションを実施した。
【0040】
比較例1の各部のシミュレーション条件を下記の通りとした。
<記録素子4>
材料、形状、長さ、幅、厚みは、それぞれ実施例1における記録素子4の条件と同様である。
<磁性細線102>
平坦な磁性細線102についての材料、長さ、幅、厚みは、それぞれ実施例1における磁性細線2の条件と同様である。
<層間絶縁膜3>
実施例1と同様に、同じ厚みの空気層を設置した構造とした。
【0041】
[実験1の結果]
<比較例1>
シミュレーションにおいても、
図1および
図2のように、記録素子4に、導体配線11から導体配線12への向きに電流(記録電流I)を印加すると、記録素子4を流れる電流によって、記録素子4の右側には下向きの電流磁界が発生する。
ところが、凹部を設けない平坦な磁性細線102に係る比較例1の場合、記録素子4に電流を印加開始してから2ナノ秒経過後に、磁性細線102のすべての部分において依然として上向き磁化状態であった。したがって、記録電流の印加前後において、磁性細線102の内部の膜厚方向の磁気モーメントは上向きのままで変化がなかった。すなわち、比較例1の場合、最大電流値が100[mA]の記録電流では磁化反転を実現できず、磁化反転するためには記録素子4にさらに大電流を印加する必要があることが判明した。
【0042】
<実施例1>
図9は、実施例1において、パルス電流の印加開始から2ナノ秒経過後の記録素子4とその右側周辺の磁性細線の磁化状態を模式的に表している。
図9では、磁性細線内部の膜厚方向の磁気モーメントの方向は濃淡に従う。濃淡の濃度が薄くなるほど、磁気モーメントが上向きの程度が大きいことを表す。また、濃淡が濃くなるほど、磁気モーメントが下向きの程度が大きいことを表す。実験の初期状態は真っ白で表される。なお、
図11、
図12、
図15においても磁性細線内部の膜厚方向の磁気モーメントの方向が濃淡に従って示されている。
【0043】
実施例1において、記録電流を印加すると、記録素子4の右側には下向きの電流磁界が発生する。
図9に模式的に示すように、記録素子4の直下から右側にかけての磁性細線2の領域21(凹部6が形成された領域)において、濃淡が濃い領域(下向き磁化状態の領域)が形成された。これは、磁性細線2の磁気モーメントが、局所的に下向きに変化したことを表している。したがって、磁性細線2の領域21に凹部6を設けることで、この領域21における磁化反転を実現できていることを確かめることができた。
【0044】
これらのシミュレーション結果によれば、磁性細線に凹部がないときには磁化反転しない程度の記録電流であったとしても、磁性細線に局所的に凹部を設けることによって、その同じ記録電流で磁化反転が可能であることを示している。具体的には、比較例1に係る磁性細線メモリ101では、記録電流100[mA](電流密度7×1010[A/cm2])を印加しても、十分な大きさの電流磁界を発生させることは出来ず、磁性細線102へ磁区を形成することができなかった。一方、実施例1に係る磁性細線メモリ1では、磁性細線2において、記録素子4の下流側(右側)の位置に局所的な凹部6を設けることによって、同じ記録電流100[mA]でも十分に磁区を形成できることが判明した。したがって、磁性細線に凹部を設けることによって記録電流を低減できることが分かり、その効果の有効性が示された。
【0045】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る磁性細線メモリについて
図10(a)および
図10(b)を参照(適宜
図1を参照)して説明する。
図10(a)および
図10(b)は、シミュレーションに用いた第2実施形態に係る磁性細線メモリの構造を示しており、記録素子4と磁性細線2Bとの間に、層間絶縁膜3と同等に機能する空気層を設置した構造としている。なお、座標系は、
図7(a)および
図7(b)と同様である。
以下では、第1実施形態に係る磁性細線メモリ1と同じ構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図10(a)および
図10(b)に示す磁性細線メモリ1Bは、磁性細線2Bの構造が第1実施形態と相違している。
【0046】
磁性細線メモリ1Bは、磁性体からなる磁性細線2Bと、層間絶縁膜3(
図1参照)と、記録素子4と、を備えている。磁性細線2Bは、凹部6を備えている。凹部6の一方の上縁部6aに隣り合って上流側に記録素子4が配設されている。磁性細線2Bは、磁性細線2Bの膜厚方向に突設された凸部8を備えている。凸部8は磁性体からなり、磁性細線2Bの領域22に配設されている。磁性細線2Bの領域22は、磁性細線2Bの長手方向において凹部6の他方の上縁部6bに隣り合って下流側に位置する領域である。
【0047】
磁性細線2Bは、凸部8を備える点が第1実施形態の磁性細線2と異なっている。
凸部8は、磁性細線2Bの長手方向において、記録素子4によって発生される電流磁界を受ける側(磁区を移動させる側)に形成されている。本実施形態では、凸部8は、凹部6に対して下流側(
図10(b)における右側)に設けられている。また、凸部8は、凹部6の右端(右側の上縁部6b)に隣り合って配置されている。
【0048】
凸部8は、磁性細線2Bの長手方向に規制されており、膜厚方向に突出して幅方向に筋状に形成されている。凸部8は、磁性細線2Bの長手方向に直交する幅方向に亘って形成されている。ここでは、磁性細線2の長手方向における凸部8のサイズを凸部の長さと呼び、磁性細線2の幅方向における凸部8のサイズを凸部の幅と呼び、磁性細線2の厚み方向における凸部8のサイズを凸部の厚みと呼ぶ。凸部の長さは、凹部の長さよりも小さい。
図14(b)では、側面視における凸部8の形状は矩形であるものとした。凸部8は、例えば磁性細線と同じ材料で構成されている。
【0049】
(シミュレーション)
本願発明者らは、凹部6と凸部8を有する磁性細線メモリ1Bの性能を確認するため、下記のように、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式を用いたマイクロマグネティックシミュレーションを実施した。
以下、本実施形態に係るシミュレーションを実験2ともいう。実験2において、シミュレーションの全体設定は、前記した実験1と同様にした。
【0050】
[実験2]
磁性細線メモリ1Bの各部のシミュレーション条件を下記の通りとした。
下記のシミュレーション条件を設定した磁性細線メモリ1Bを以下では実施例2という。
<記録素子4>
材料、形状、長さ、幅、厚みは、それぞれ実験1における記録素子4の条件と同様である。
<磁性細線2B>
磁性細線2Bの本体には、凹部のほかに凸部を設けたが、磁性細線2Bの本体についての材料、長さ、幅、厚みは、それぞれ実験1における磁性細線2の条件と同様である。
<凹部6>
実験1と比べて、凹部の長さは下記のように短くしたが、凹部の幅および深さは、それぞれ実験1における凹部6の条件と同様である。
凹部の長さ(L6、
図10(b)参照):L6= 60[nm]
凹部の幅 (W6、
図10(a)参照):W6=120[nm]
凹部の深さ(T6、
図10(b)参照):T6= 4[nm]
<層間絶縁膜3>
実施例1と同様に、同じ厚みの空気層を設置した構造とした。
<凸部8>
凸部の長さ(L8、
図10(a)参照):L8= 30[nm]
凸部の幅 (W8、
図10(a)参照):W8=120[nm]
凸部の厚み(T8、
図10(b)参照):T8= 4[nm]
【0051】
実験2では、前記したシミュレーションの全体設定、および前記した各部のシミュレーション条件のもと、磁性細線メモリ1Bの記録素子4に印加する電流を、実験1と同様に
図8(a)に示す波形を有するパルス電流(最大電流値は100[mA])とした。
また、実験2では、記録電流の印加を開始してから2[ns]経過後まで計算を行った。計算ステップは実験1と同じく10[ps]とした。
また、実施例2と比較する比較例2として、凸部を設けない磁性細線2(
図1参照)についてシミュレーションを実施した。
【0052】
比較例2の各部のシミュレーション条件を下記の通りとした。
<記録素子4>
材料、形状、長さ、幅、厚みは、それぞれ実施例2における記録素子4の条件と同様である。
<磁性細線2>
凸部を設けない磁性細線2についての材料、長さ、幅、厚みは、それぞれ実施例2における磁性細線2Bの条件と同様である。
<凹部6>
長さ、幅、厚みは、実施例2と同様である。
<層間絶縁膜3>
実施例2と同様に、同じ厚みの空気層を設置した構造とした。
【0053】
[実験2の結果]
<比較例2>
図11は、比較例2において、パルス電流の印加開始から2ナノ秒経過後の記録素子4とその右側周辺の磁性細線の磁化状態を模式的に表している。
凸部8を備えずに凹部6だけを有した構造の比較例2において、記録電流を印加すると、記録素子4の右側には下向きの電流磁界が発生する。
図11に模式的に示すように、記録素子4の直下から右側にかけての磁性細線2の領域21(凹部6が形成された領域)において、濃淡が濃い領域(下向き磁化状態の領域)が半円状に形成され、濃い領域は磁性細線の幅方向の一部を占めるに留まった。そして、磁区の境界である磁壁の形状が乱れている。このことから、比較例2に係る磁性細線は一部磁化反転に成功しているものの、記録ビットとして正常な磁区を形成できていないことが分かる。
前記した実験1における実施例1では、凹部6の長さL6が480[nm]に設定されており、記録電流(100[mA])が作る電流磁界のエネルギーによって、凹部6の全域(磁性細線2の領域21の全域)を磁化反転させることができた。これに対して、実験2における比較例2では、同じ記録電流(100[mA])が作る電流磁界のエネルギーによって、凹部6の全域を磁化反転させるに至らなかった理由は、凹部6の長さL6が、極端に小さい60nmに設定されていたことが原因であると考えられる。
【0054】
<実施例2>
図12は、実施例2において、パルス電流の印加開始から2ナノ秒経過後の記録素子4とその右側周辺の磁性細線の磁化状態を模式的に表している。
凹部6と凸部8を有する構造の実施例2において、記録電流を印加すると、記録素子4の右側には下向きの電流磁界が発生する。
図12に模式的に示すように、記録素子4の直下から右側にかけての磁性細線2の領域21(凹部6が形成された領域)において、濃淡が濃い領域(下向き磁化状態の領域)が形成された。これは、磁性細線2Bの磁気モーメントが、局所的に下向きに変化したことを表している。また、
図12に示すように磁区の境界である磁壁が磁性細線の全幅方向に直線上に形成されており、磁壁の形状は、安定した形状である。したがって、磁性細線2Bは、凸部8を備えることで、凸部8の上流側に隣り合った凹部6における磁化反転を実現できていることを確かめることができた。このことから、実施例2に係る磁性細線2Bは、記録ビットとして正常な磁区を形成できることが分かる。
【0055】
ここで、実施例2の凸部8による効果について
図13を参照(適宜他の図面を参照)して説明する。
図13における上側にはグラフが配置されている。このグラフの横軸は記録素子4からのx方向の距離xを示し、グラフの縦軸は距離xの位置に発生する電流磁界のエネルギーを示す。
グラフに示すように、電流磁界のエネルギーは記録素子4からのx方向の距離xが大きくなると1/x
2の割合で減衰する。
図13における下側には、
図10(b)の拡大図の一部が配置されている。仮想線V1は、グラフの原点が記録素子4の中心であることを模式的に示している。仮想線V2は、磁性細線2bのx方向における凸部8の位置(x方向における凹部6の上縁部(右端)6bの位置)と、グラフの横軸における位置との対応関係を模式的に示している。仮想線で囲まれた領域V3は、もしも凸部が無ければ、本来、磁性細線2bのx方向における凸部8の位置より下流側(右側)の領域の磁化反転に対して使われるべき電流磁界のエネルギーを模式的に示している。
【0056】
実施例2に係る磁性細線2Bにおいて、凹部6を設けた細線領域における保磁力は、凹部を設けていない領域における保磁力より低い。つまり、凹部6の上縁部(右端)6bより右側に配置された細線領域(凹部加工のない平坦な磁性細線の領域)の保磁力は、凹部6を設けた細線領域の保磁力よりも相対的に高い。そして、記録素子4を流れる電流によって発生する電流磁界のエネルギーにとって、磁性細線2Bにおける凹部6の上縁部(右端)6bに設けた凸部8は、障壁となる。つまり、記録素子4による電流磁界のエネルギーの一部は、凸部8から右側の領域の磁化反転に対して使われず、代わりに、障壁(凸部8)より上流側(左側)の細線領域に追加で消費される。こうして、実施例2では、凸部8より左側の磁区形成に寄与したエネルギーによって、磁性細線2Bの幅方向に均一な磁区が形成されたものと考えられる。
【0057】
磁性細線2Bの凸部8は、
図13に示すように、本来ならば凸部8の位置よりも下流側(右側)の領域で消費されるべき電流磁界のエネルギーを凸部8の位置で防護して、磁性細線2Bの磁化を局所的に上流側(左側)で強めるガードバンドとして機能する。
磁性細線2Bに形成される磁区の磁区長は、記録ビット長に相当する。磁区長をできるだけ狭くすると、線記録密度を向上させることができる。ただし、磁区長が狭かったとしても、比較例2のように磁性細線の細線方向の局所領域において磁性細線の幅方向に対して均一な磁化反転ができない場合には、記録ビットとしてふさわしくない磁区状態である。
【0058】
これらのシミュレーション結果によれば、凸部を設けない比較例2のように凹部6の長さL6が60[nm]程度まで狭くなると、凹部6の面積(L6×T6)が小さくなることで、弱い保磁力を有する範囲が狭くなる。そのため、磁性細線の幅方向(y方向)に対して均一に磁化反転することができない。
これに対して、凹部6が狭い磁性細線構造であっても、凸部8を設けた実施例2のように、記録素子4に電流100[mA]を印加する条件において、磁性細線2Bには、磁性細線の幅方向に対して均一に磁化反転できる磁区を形成することができる。したがって、凹部6の面積が狭い構造においても、凸部8を設けると、低電流での磁区形成を実現できる。また、実施例2は、磁性細線に、記録ビットとしてふさわしい磁区を高密度に形成することができる。
【0059】
本実施形態の磁性細線メモリ1Bによれば、磁性細線2B上に、局所的に凹部6によって保磁力を小さくした領域21と、領域21のすぐ下流側(右端)に平坦な磁性細線よりも膜厚を大きくした局所的な領域22と、の組み合わせが設けられることによって、電流印加による磁区形成をアシストする効果が高まる。また、磁性細線メモリ1Bによれば、凸部8と凹部6とを組み合せることで、同じ記録電流であっても、磁性細線の幅方向に対して均一な磁化反転ができる磁区の長さを小さくすることができる。
【0060】
[磁性細線メモリの製造方法]
次に、本実施形態の磁性細線メモリ1Bの製造方法として、第1実施形態の磁性細線メモリ1の製造方法と相違する点について説明する。本実施形態では、磁性細線2Bは、凹部6と共に凸部8を持つ構造とする。凸部8は、一般的な半導体装置製造プロセスにより製造することができる。例えば、磁性細線を2層または3層に分けてリフトオフ法で順次積み重ねる方法、凸部の高さまで事前に形成しておいた磁性細線を準備して凸部を形成する領域以外の部分をFIBで削り形成する方法、フォトマスク等を利用してイオンミリングまたは反応性イオンエッチングによって、凸部を形成する領域以外の磁性細線を削る製造方法などが挙げられる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る磁性細線メモリについて、
図14(a)および
図14(b)を参照(適宜
図1、
図10(a)、
図10(b)を参照)して説明する。
図14(a)および
図14(b)は、シミュレーションに用いた第3実施形態に係る磁性細線メモリの構造を示しており、記録素子4と磁性細線2Cとの間に、層間絶縁膜3と同等に機能する空気層を設置した構造としている。なお、座標系は、
図10(a)および
図10(b)と同様である。
以下では、第2実施形態に係る磁性細線メモリ1Bと同じ構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図14(a)および
図14(b)に示す磁性細線メモリ1Cは、磁性細線2Cの構造が第2実施形態と相違している。この第3実施形態では、第2実施形態で説明した磁性細線に設けた凸部が、凹部と組み合せずとも単体で高密度磁区形成の効果を奏することを以下に詳述する。
【0062】
磁性細線メモリ1Cは、薄膜状の磁性体からなる磁性細線2Cと、層間絶縁膜3(
図1参照)と、記録素子4と、を備えている。記録素子4は、記録電流を流す導体からなり磁性細線2Cの膜厚方向に層間絶縁膜3を介して磁性細線2Cと交差するように配設されている。磁性細線2Cは、磁性細線2Cの長手方向において局所的に膜厚が他の領域における膜厚よりも大きく形成された凸部8を備えている。磁性細線2Cの長手方向において予め定められた上流側(
図14(b)における左側)に記録素子4が配置されている。凸部8は、磁性細線2Cの領域22に配設されている。磁性細線2Cの領域22は、記録素子4から第1の所定長の範囲の領域21を隔てた下流側(
図14(b)における右側)の領域である。ここで、第1の所定長は、非特許文献2に開示されたミクロン単位の磁区長よりも小さな長さであるものとする。
【0063】
磁性細線2Cは、凸部8を備えるものの凹部が設けられていない点が第2実施形態の磁性細線2Bと異なっている。磁性細線2Cは、記録素子4と凸部8との間の第1の所定長の領域21に凹部が存在しないが、この領域21で磁化を反転させて磁区を形成する。
【0064】
(シミュレーション)
本願発明者らは、平坦な磁性細線上に凸部8を有する磁性細線メモリ1Cの性能を確認するため、下記のように、Landau-Lifshitz-Gilbert方程式を用いたマイクロマグネティックシミュレーションを実施した。
以下、本実施形態に係るシミュレーションを実験3ともいう。実験3において、シミュレーションの全体設定は、前記した実験2と同様にした。
【0065】
[実験3]
磁性細線メモリ1Cの各部のシミュレーション条件を下記の通りとした。
下記のシミュレーション条件を設定した磁性細線メモリ1Cを以下では実施例3という。
<記録素子4>
実験2における記録素子4の条件と同様である。
<磁性細線2C>
凹部が設けられていない点を除いて実験2における磁性細線2Bの条件と同様である。
<層間絶縁膜3>
実施例2と同様に、同じ厚みの空気層を設置した構造とした。
<凸部8>
凸部の位置も含めて実験2における凸部8の条件と同様である。
【0066】
実験3では、上記したシミュレーションの全体設定、および各部のシミュレーション条件のもと、磁性細線メモリ1Cの記録素子4に印加する電流を、実験2とは条件を変えて、
図8(b)に示す波形を有するパルス電流とした。
このパルス電流の最大電流値は130[mA](電流密度9×10
10[A/cm
2])であり、パルス幅は2[ns]である。
また、実験2と同様に、記録電流の印加を開始してから2[ns]経過後まで計算を行い、計算ステップは10[ps]とした。
【0067】
[実験3の結果]
図15は、実施例3において、パルス電流の印加開始から2ナノ秒経過後の記録素子4とその右側周辺の磁性細線の磁化状態を模式的に表している。
平坦な磁性細線上に凸部8を有する実施例3において、記録電流を印加すると、記録素子4の右側には下向きの電流磁界が発生する。
図15に模式的に示すように、記録素子4の直下から右側にかけての磁性細線2の領域21において、濃淡が濃い領域(下向き磁化状態の領域)が形成された。これは、磁性細線2Cの磁気モーメントが、局所的に下向きに変化したことを表している。したがって、磁性細線2Cは、記録素子4から第1の所定長だけ離れた箇所に凸部8を備えることで、凸部8の上流側に隣り合った領域における磁化反転を実現し、記録ビットとして正常な磁区を形成できる。これは、
図13を参照して説明したように、記録素子4による電流磁界のエネルギーの一部が、凸部8から右側の領域の磁化反転に対して使われず、代わりに、障壁(凸部8)より左側の細線領域で消費され、磁性細線2Cの幅方向に均一な磁区が形成されたものと考えられる。
このように平坦な磁性細線上に凸部8を有する構造の実施例3は、従来よりも磁区長を小さくしても磁区を形成できることが明らかである。したがって、実施例3は、線記録密度を高めることで、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
【0068】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る磁性細線メモリについて、
図16(a)および
図16(b)を参照(適宜
図1参照)して説明する。
図16(a)および
図16(b)に示す磁性細線メモリ1Dは、2本の記録素子4を有している。以下では、第2実施形態に係る磁性細線メモリ1B(
図10(a)および
図10(b))と同じ構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。また、記録素子4を区別する場合、記録素子4a,4bのように表記する。なお、
図16(a)および
図16(b)では、記録素子4と磁性細線2Bとの間の層間絶縁膜3(
図1参照)の図示を省略している。
【0069】
磁性細線メモリ1Dは、薄膜状の磁性体からなる磁性細線2Bと、層間絶縁膜3(
図1参照)と、2本の記録素子4と、を備えている。2本の記録素子4は、記録電流を流す導体からなり磁性細線2Bの膜厚方向に層間絶縁膜3を介して磁性細線2Bと交差するように第1の所定長をあけてそれぞれ配設されている。
磁性細線2Bは凹部6を備えている。凹部6は、磁性細線2Bの領域21に配設されている。この磁性細線メモリ1Dでは、磁性細線2Bの領域21は、一方の記録素子4aと他方の記録素子4bとの間の第1の所定長の範囲の領域である。ここで、第1の所定長は、非特許文献2に開示されたミクロン単位の磁区長よりも小さな長さであるものとする。
【0070】
また、
図16(b)に示すように、磁性細線メモリ1Dにおいて、凹部6の一方(左)の上縁部6aに隣り合って上流側に一方(左)の記録素子4aが配設されている。凹部6の他方(右)の上縁部6bに隣り合って下流側に他方(右)の記録素子4bが配設されている。
磁性細線2Bは、磁性細線2Bの膜厚方向に突設された凸部8を備えている。凸部8は磁性体からなり、少なくとも磁性細線2Bの領域22に配設されている。
図16(b)に示すように、磁性細線2Bの領域22は、磁性細線2Bの長手方向において凹部6の他方(右)の上縁部6bに隣り合って下流側に位置する領域である。
【0071】
本実施形態では、2本の記録素子4の間に挟まれた領域の距離と、凹部6の長さとが共に第1の所定長であるものとしている。そのため、
図16(b)に示すように、記録素子4aの右端の位置は、凹部6の左端6aに対応する位置である。また、記録素子4bの左端の位置は、凹部6の右端6bに対応する位置である。
【0072】
磁性細線メモリ1Dの2本の記録素子4の間に挟まれた領域は、磁性細線2Bにおいて磁区を形成しようとして狙って設計した磁区形成領域に相当している。2本の記録素子4は、互いに逆方向に流した電流で発生させた合成電流磁界を用いて磁区を記録する。具体的には、例えば記録素子4aに対してy軸の正方向に記録電流Iaを印加し、同時に、記録素子4bに対してy軸の負方向に記録電流Ibを印加する。磁性細線2Bにおいて2本の記録素子4に挟まれた領域21では、記録電流Iaにより発生する電流磁界の向きは下向き(z軸の負方向)であり、また、記録電流Ibにより発生する電流磁界の向きも下向きである。これらの合成電流磁界によって、磁性細線2Bの領域21の上向き磁化を反転させて下向き磁区を形成することができる。
なお、記録電流Iaの向きと記録電流Ibの向きを入れ替え、磁性細線2Bの領域21の下向き磁化を反転させて上向き磁区を形成するようにしてもよい。
【0073】
本実施形態のように2本の記録素子4を用いることで、磁性細線において記録素子4aの直下に一方の磁壁を形成し、かつ、記録素子4bの直下に他方の磁壁を形成することができる。このとき、各磁壁は、磁性細線の全幅方向に直線上に形成される。したがって、磁区の高密度化のために磁性細線に微小な磁区を形成するときに、各記録素子の直下に配置された磁壁の形状をそれぞれ乱れのない安定な形状にすることができる。また、本実施形態によれば、磁区の広がりを制御して微小な一定長の磁区を逐次形成することが可能となり、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
【0074】
また、本実施形態では、磁性細線2Bには凹部6に隣り合って磁区の駆動方向(下流側)に凸部8が設けられている。これにより、2本の記録素子4が作る合成電流磁界にとって凸部8は障壁となり、磁性細線2Bにおいて形成される磁区の境界が、当初設計した磁区形成領域の境界からはみ出すことなく、凸部8がない場合に比べて磁区長をより正確に制御することが可能となる。なお、本実施形態に係る磁性細線メモリ1Dにおいて、磁性細線には凹部6と凸部8の両方が形成されているものとしたが、凹部6と凸部8のいずれか一方だけが形成されている磁性細線を用いるようにしてもよい。
【0075】
(第4実施形態の第1変形例)
磁性細線メモリ1Dの第1変形例は、磁性細線2Bの代わりに、凸部8が存在せず凹部6だけが形成されている磁性細線2(
図7(a)および
図7(b)参照)を用いるようにしたものである。詳細には、磁性細線メモリ1Dの第1変形例は、磁性体からなる磁性細線2と、層間絶縁膜3(
図1参照)と、2本の記録素子4a,4b(
図16(a)および
図16(b)参照)と、を備えている。2本の記録素子4a,4bは、記録電流を流す導体からなり磁性細線2の膜厚方向に層間絶縁膜3を介して磁性細線2と交差するように第1の所定長をあけてそれぞれ配設されている。磁性細線2は凹部6を備えている。凹部6は、磁性細線2の領域21に配設されている。磁性細線2の領域21は、一方の記録素子4aと他方の記録素子4bとの間の第1の所定長の範囲の領域である。
この磁性細線メモリ1Dの第1変形例も、磁区の広がりを制御して一定長の磁区を形成することが可能となり、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
【0076】
(第4実施形態の第2変形例)
磁性細線メモリ1Dの第2変形例は、磁性細線2Bの代わりに、凹部6が存在せず凸部8だけが形成されている磁性細線2C(
図14(a)および
図14(b)参照)を用いるようにしたものである。詳細には、磁性細線メモリ1Dの第2変形例は、磁性体からなる磁性細線2Cと、層間絶縁膜3(
図1参照)と、2本の記録素子4a,4b(
図16(a)および
図16(b)参照)と、を備えている。2本の記録素子4a,4bは、記録電流を流す導体からなり磁性細線2Cの膜厚方向に層間絶縁膜3を介して磁性細線2Cと交差するように第1の所定長をあけてそれぞれ配設されている。磁性細線2Cは凸部8を備えている。磁性細線2Cの長手方向において予め定められた上流側に一方の記録素子4aが配設されており、下流側に他方の記録素子4bが配設されている。凸部8は、磁性細線2Cの領域22に配設されている。磁性細線2Cの領域22は、磁性細線2Cの長手方向において一方の記録素子4aから第1の所定長を隔てた下流側の領域である。
この磁性細線メモリ1Dの第2変形例も、磁区の広がりを制御して一定長の磁区を形成することが可能となり、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
【0077】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る磁性細線メモリについて、
図17(a)および
図17(b)を参照(適宜
図1参照)して説明する。
図17(a)および
図17(b)に示す磁性細線メモリ1Eは、2本の記録素子4を有し、かつ、磁性細線上に2つの凸部8を有している。以下では、第4実施形態に係る磁性細線メモリ1D(
図16(a)および
図16(b))と同じ構成には同じ符号を付して説明を適宜省略する。なお、記録素子4と磁性細線2Eとの間の層間絶縁膜3の図示を省略している。
【0078】
磁性細線メモリ1Eは、磁性体からなる磁性細線2Eと、層間絶縁膜3(
図1参照)と、2本の記録素子4a,4bと、を備えている。
磁性細線2Eは、凹部6と凸部8を備えている。凸部8は、磁性細線2Eの長手方向において凹部6の一方(
図17(b)における左)の上縁部(左端)6aに隣り合って上流側(左側)に位置する領域23と、凹部6の他方(
図17(b)における右)の上縁部(右端)6bに隣り合って下流側(右側)に位置する領域22と、にそれぞれ配設されている。
【0079】
本実施形態では、2本の記録素子4の間に挟まれた領域の距離と、凹部6の長さとが共に第1の所定長であるものとしている。また、記録素子4aの直下の凸部8の右端の位置は、凹部6の上縁部(左端)6aに対応する位置である。さらに、記録素子4bの直下の凸部8の左端の位置は、凹部6の上縁部(右端)6bに対応する位置である。そのため、記録素子4aの直下の凸部8と、記録素子4bの直下の凸部と8の間に挟まれた領域の距離も第1の所定長である。
【0080】
本実施形態も2本の記録素子4を用いることで、磁区の広がりを制御して一定長の磁区を形成することが可能となり、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
また、本実施形態では、磁性細線2Eには凹部6に隣り合って下流側だけでなく上流側にも凸部8が設けられている。これにより、2本の記録素子4が作る合成電流磁界にとって2つの凸部8がそれぞれ障壁となり、磁性細線2Eにおいて形成される磁区のx方向における両端が、当初設計した磁区形成領域の両方の境界からはみ出すことなく、凸部8がない場合に比べて磁区長をより正確に制御することが可能となる。なお、本実施形態に係る磁性細線メモリ1Eにおいて、磁性細線には凸部8に隣り合って凹部6が形成されているものとしたが、凹部が設けられていない磁性細線を用いるようにしてもよい。
【0081】
(第5実施形態の変形例)
磁性細線メモリ1Eの変形例は、磁性細線2Eの代わりに、平坦な磁性細線上に2つの凸部8を形成した磁性細線を用いるようにしたものである。この平坦な磁性細線上に2つの凸部8を形成した磁性細線は、1つの凸部8を有する磁性細線2C(
図14(b)参照)に更にもう1つの凸部8を設けたものに対応するので、以下では磁性細線2Cと表記する。この2つの凸部8を有する磁性細線2Cは、磁性細線2E(
図16(b)参照)の領域21に凹部6を形成していない状態の磁性細線に相当する。そのため、2つの凸部8を有する磁性細線2Cにおいて、2つの凸部8の間に挟まれた領域の距離は、前記した第1の所定長である。
【0082】
詳細には、磁性細線メモリ1Eの変形例は、磁性体からなる磁性細線2Cと、層間絶縁膜3(
図1参照)と、2本の記録素子4a,4bと、を備えている。2本の記録素子4a,4bは、記録電流を流す導体からなり磁性細線2Cの膜厚方向に層間絶縁膜3を介して磁性細線2Cと交差するように第1の所定長をあけてそれぞれ配設されている。磁性細線2Cは凸部8を備えている。
図17(b)に示すように、凸部8は、磁性細線2Cの長手方向において第1の所定長を隔てた下流側の領域22と上流側の領域23とにそれぞれ配設されている。
この磁性細線メモリ1Eの変形例も、磁区の広がりを制御して一定長の磁区を形成することが可能となり、磁区を磁性細線に高密度に形成することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態に係る磁性細線メモリについて説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変などしたものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0084】
例えば、各実施形態の磁性細線メモリとして1本の磁性細線を有する形態を図示したが、これに限らず、
図18に示すように磁性細線2の本数は複数でもよい。
図18に示す磁性細線メモリ1Fは、
図7に示す第1実施形態の磁性細線メモリ1の変形例に係る磁性細線メモリである。なお、
図18では、基板10(
図1参照)や層間絶縁膜3(
図1参照)の図示を省略している。また、一例として4本の磁性細線2を図示したが、本数はこれに限定されるものではなく任意である。この磁性細線メモリ1Fは、基板10(
図1参照)上に複数の磁性細線2が磁性細線2の幅方向に所定間隔で平行に配設されている。このようにすることで磁性細線メモリの記憶容量を高めることができる。また、第2ないし第5実施形態やそれらの変形例において複数の磁性細線を備えるようにしてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0085】
1,1B,1C,1D,1E,1F 磁性細線メモリ
2,2B,2C,2E 磁性細線
3 層間絶縁膜
4,4a,4b 記録素子
4R 記録素子の右端
6 凹部
6a 凹部の左端
6b 凹部の右端
8 凸部
10 基板
11,12 導体配線
13 上向き磁区領域
14 下向き磁区領域
15 磁壁
21,22,23 領域