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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-27
(45)【発行日】2024-12-05
(54)【発明の名称】クロロシラン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20241128BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20241128BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
B09B3/40
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024550847
(86)(22)【出願日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2024018579
【審査請求日】2024-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2023095256
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】仲西 穂高
(72)【発明者】
【氏名】沖本 敦之
(72)【発明者】
【氏名】飯山 昭二
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0032630(US,A1)
【文献】国際公開第2018/131500(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/122567(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103303925(CN,A)
【文献】特開2011-068520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素とを反応させてクロロシラン類を生成するクロロシラン類の製造方法であって、
前記シリコン源が、太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種を含むことを特徴とするクロロシラン類の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン源100質量部における、前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の含有量が1~99質量部である請求項1記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン源100質量部中のアルミニウムの含有量が50~20000質量ppmである請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン源100質量部中の鉄の含有量が50~10000質量ppmである請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン源100質量部中のカルシウムの含有量が50~5000質量ppmである請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン源100質量部中の炭素の含有量が10~10000質量ppmである請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりのアルミニウムの含有量が50~300000質量ppmである請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項8】
前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりの鉄の含有量が100質量ppm以下である請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりのカルシウムの含有量が100質量ppm以下である請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項10】
前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりの炭素の含有量が500質量ppm以下である請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【請求項11】
前記太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンが、
該太陽光パネルより単結晶シリコン又は多結晶シリコンを回収し、
得られた単結晶シリコン又は多結晶シリコンの表面を酸で洗浄したものを含む請求項1又は2記載のクロロシラン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロシラン類の製造方法に関する。さらに詳しくは、シリコン源に塩化水素又は、テトラクロロシラン及び水素を反応させてトリクロロシランを含むクロロシラン類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素社会の実現に向け、太陽光発電を始めとした再生可能エネルギーの活用によるCO削減の加速化が進行しようとしている。太陽光発電を行うための一般的な太陽電池モジュールの構造は、表面が強化ガラス、内側に封止用樹脂層、裏面がバックシートの3層になっている。封止用樹脂層内には、単結晶又は多結晶シリコンで構成される太陽電池セルが、電線(インタコネクタ)で繋がれて配置されている。封止用樹脂は、透明性、柔軟性、接着性、引張強度、及び耐候性等が要求され、エチレン酢酸ビニル共重合体(以下「EVA」と略す)が一般的に用いられており、加熱及び加圧することで強化ガラス、セル及びバックシートを接着させる役割を果たしている。太陽光発電の導入が大幅に進む一方で、太陽電池モジュールの廃棄時におけるリサイクルの課題が指摘されている。
【0003】
この太陽電池モジュールを酸化性雰囲気下で電気炉等により加熱していくと、80~120℃でEVAが溶融し、350℃付近でEVAの脱酢酸反応が起こり、450℃付近で主鎖であるポリエチレン部分の熱分解反応が急激に起こる。このように熱分解させて、太陽電池モジュールをリサイクルする技術が開示されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
また、太陽電池モジュールに含まれるEVAの急激な燃焼を抑えるために、加熱炉内の酸素濃度を下げるのではなく、樹脂成分をゆっくりかつ安定的に燃焼させて除去することで有価物を効率的かつ簡便に回収する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
上記方法によって、太陽電池モジュールからバックシート及び封止用樹脂層等の樹脂成分を除去し、ガラス、セル、アルミ枠等に分離して回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国公開公報特開平11-165150号公報
【文献】日本国公開公報特開2007-59793号公報
【文献】国際公開WO2020/031661号公報
【文献】韓国特許公開20230033968号公報
【文献】中国特許公開115353111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記方法で回収されたガラス、アルミ枠等は太陽電池モジュール用、その他の用途に再利用することが可能である。一方上記方法で回収されたセルは、主に多結晶シリコン又は単結晶シリコンで構成されているものの、太陽電池モジュールを構成するために用いられた配線材料等の金属成分や接着剤用の樹脂成分が付着している。したがって、回収されたセルをそのままセル用の材料として使うためにはさらなる精製手段が必要である。
【0008】
例えば、破砕された廃ソーラーシリコンに酸浸出溶液を加えて、廃ソーラーシリコンに含まれる不純物を浸出して攪拌する1次酸浸出工程を含む方法(特許文献4参照)が提案されている。また、回収したソーラーパネルを分解し、FeCl溶液に浸し、塩酸で酸洗いし、有機材料の一部は330℃~380℃で加熱分解後、粉末に粉砕し、溶融精製して純化後、固化して、再生シリコンを得る方法(特許文献5参照)等が提案されている。
【0009】
これらの方法は、太陽電池モジュールから回収されたシリコンセルを精製し、再度太陽電池モジュール用に再利用する方法であるが、多数の精製方法を要し、より簡便な再利用方法が望まれていた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、太陽電池モジュールから回収されたシリコンセルを簡便な方法で再利用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討を行った。太陽電池モジュールより回収された多結晶シリコン、及び単結晶シリコン中の不純物を分析した結果、アルミニウム等の配線材料由来の金属成分、及び樹脂由来の有機物が確認された。そこで、かかる多結晶シリコン、及び単結晶シリコンの再利用方法について検討した。その結果、シリコンと塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応によりトリクロロシラン等のクロロシラン類を得る際のシリコン源として用いることで、効率的に上記クロロシラン類を製造することが可能であることを見出した。また、得られたクロロシラン類は、金属ケイ素で製造した際と同等の品質であった。したがって、上記多結晶シリコン、及び単結晶シリコン由来の不純物(金属不純物、樹脂由来炭素分)は、従来のクロロシラン類の精製方法で除去可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一態様に係る製造方法は、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素とを反応させてクロロシラン類を生成するクロロシラン類の製造方法であって、前記シリコン源が、太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種を含むことを特徴とするクロロシラン類の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る製造方法により、太陽電池モジュールより回収された多結晶シリコン、及び単結晶シリコンを、クロロシラン類の製造原料(すなわちシリコン源)として効率的に用いることができる。該多結晶シリコン、及び単結晶シリコンを太陽電池モジュールのセル用に用いるためには配線材料由来の金属成分、及び樹脂由来の有機物を高度に精製除去することが要求される。一方本発明では、クロロシラン類を製造後は、公知の精製方法で除去することが可能であるため、該多結晶シリコン、及び単結晶シリコンを高度に精製することなく、クロロシラン類を製造する際のシリコン源として用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様に係る製造方法は、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素とを反応させてクロロシラン類を生成するクロロシラン類の製造方法であって、前記シリコン源が、太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種を含むことが特徴である。上述のとおり、太陽電池モジュールから回収されたシリコンセルは、主として多結晶シリコン、及び単結晶シリコンで構成されている。一方、多結晶シリコン、及び単結晶シリコンは、配線材料として使用される、アルミニウム等の金属成分、樹脂材料由来の有機分等の不純物を含有している。したがって、上記シリコンセルを太陽電池モジュール用のシリコンとして使用する際には、これらの不純物を高度に除去する必要がある。
【0015】
一方半導体あるいは太陽電池向けのポリシリコンを製造する際には、金属ケイ素と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素とを反応させて、金属ケイ素をトリクロロシランに変換する。そして、該トリクロロシランを精製した後、精製されたトリクロロシランを水素で還元してポリシリコンを得ている。また、金属ケイ素と塩化水素との反応では、トリクロロシランの他にテトラクロロシランが副生するため、テトラクロロシランを回収し、金属ケイ素と水素とを反応させて、トリクロロシランを製造している。したがって、上記金属ケイ素の代わりに太陽電池モジュールから回収された多結晶シリコン又は単結晶シリコンを用いることで、高純度のトリクロロシランを得ることができる。
【0016】
また、金属ケイ素には、鉄、アルミニウム、又はカルシウム等の金属分が含有しているが、これらの金属分は、金属ケイ素と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応において触媒的に作用し、該反応を促進する効果を有している。しかしながら、これらの触媒成分は、過剰に存在すると反応中に反応槽内で蓄積し、反応槽中のシリコン源の流動性の低下、又は、反応後のクロロシラン類の精製効率に影響を及ぼす。一方太陽電池モジュールから回収された多結晶シリコン又は単結晶シリコンには、表面に配線材料由来のアルミニウムを含有する一方、鉄若しくはカルシウムは含有していないか、又は含有量が非常に少ない。このため、太陽電池モジュールから回収された多結晶シリコン又は単結晶シリコンを高度の精製を経ることなくトリクロロシラン等を製造する際のシリコン源として用いた際には、反応槽中での鉄、カルシウムの蓄積を抑制することができ、長時間にわたり安定的にクロロシラン類を製造することができる。
【0017】
本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。以下、本発明の一態様に係るクロロシラン類の製造方法について詳述する。
【0018】
<クロロシラン類の製造方法>
本発明の一態様に係るクロロシラン類の製造方法では、シリコン源と塩化水素とを反応させてクロロシラン類を製造する。この生成反応は、下記式(1);
Si+3HCl → SiHCl+H (1)
で表される。また、副反応として、下記式(2);
Si+4HCl → SiCl+2H (2)
で表されるようにテトラクロロシランが副生し、さらに、微量ではあるがジクロロシランも副生する。
【0019】
一方、ポリシリコンを製造する際に副生するテトラクロロシラン(SiCl)は、トリクロロシランに転化され、ポリシリコンの製造に再利用される。この製造方法では、下記反応式(3)により金属シリコンとテトラクロロシラン及び水素からトリクロロシランが生成する。
3SiCl+2H+Si → 4SiHCl (3)
本発明の一態様に係るクロロシラン類の製造方法は、上記いずれの製造においても用いることができる。
【0020】
<シリコン源>
上記本発明の一態様に係る製造方法では、シリコン源として太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコン(以下、「回収シリコン」と総称する)の少なくとも一種を含むことが特徴である。太陽光パネルからの単結晶シリコン及び多結晶シリコンの回収方法としては、公知の方法により回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンを用いることができる。これらの中でも上記、クロロシラン類の反応の反応性から、太陽光パネルから回収された多結晶シリコンを用いることが好ましい。上記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの回収方法として具体的には、前記特許文献3記載の方法等が挙げられる。特許文献3記載の方法は、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを含む廃太陽光パネルを加熱して該廃太陽光パネル内の樹脂を加熱融解せしめ、加熱融解せしめた樹脂を燃焼せしめた後、該廃太陽光パネルより単結晶シリコン又は多結晶シリコンを回収する方法である。
【0021】
また、上記回収シリコン中にはアルミニウム等の金属成分、樹脂材料由来の有機分等の不純物を含有しているが、本発明の一態様に係る製造方法においては、不純物を含有している上記回収シリコンをそのまま用いることも可能である。しかしながらこれらの不純物の含有量が多すぎると、反応後の精製操作時に十分に除去できない虞もあることから、前記回収シリコンの少なくとも一種の不純物の含有量としては、下記のいずれかであることが好ましい。なお以下の記載における含有量は、前記回収シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりの含有量である。
【0022】
・アルミニウム:50~3000000質量ppmであることが好ましく、50~300000質量ppmであることがより好ましく、50~10000質量ppmであることがさらに好ましく、50~1000質量ppmであることが特に好ましい。
・鉄:100質量ppm以下であることが好ましく、50~90質量ppmであることがより好ましく、60~90質量ppmであることが特に好ましい。
・カルシウム:100質量ppm以下であることが好ましく、1~90質量ppmであることがより好ましく、1~80質量ppmであることが特に好ましい。
・炭素:500質量ppm以下であることが好ましく、1~300質量ppmであることがより好ましく、1~100質量ppmであることが特に好ましい。
【0023】
シリコン源又は回収シリコンの金属成分すなわちアルミニウム、鉄、カルシウムの含有量は蛍光X線分光分析(XRF)により測定することができる。また、上記金属元素の低濃度領域(100質量ppm以下)については、シリコン源をフッ硝酸で溶解した後に、ろ過したろ液を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)で測定することができる。シリコン源又は回収シリコンの炭素含有量は燃焼-赤外線吸収法によりCO及びCOを測定することで求めることができる。
【0024】
前記回収シリコン中の上記不純物の含有量が多すぎる場合には、例えば、廃太陽光パネルより回収された該回収シリコンの表面を塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸等の酸、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリで洗浄してもよい。該洗浄した後に純水洗浄、乾燥することで該不純物を所望の範囲に低減することができる。
【0025】
上記回収シリコンをシリコン源と用いる際の粒径については特に制限されない。塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応性の観点から、30~2000μmであることが好ましく、50~1000μmであることがより好ましく、50~500μmであることが特に好ましい。
【0026】
本発明の一態様に係る製造方法においては、シリコン源として上記回収シリコンの少なくとも一種を含めば良く、シリコン源の全量を該回収シリコンとしても良い。また、該回収シリコンとして、上記洗浄を行った回収シリコンと洗浄を行わない回収シリコンを組み合わせても良い。あるいは該回収シリコンと後述する金属シリコンとを混合して用いても良い。上述のとおり、金属ケイ素と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応において、鉄、アルミニウム、カルシウム等の金属分は、触媒的に作用し、該反応を促進する効果を有している。このため、シリコン源として、これらを用いる際には、シリコン源中の鉄、アルミニウム、カルシウム等の金属分の含有量を適宜調整して用いれば良い。具体的には、回収シリコンと後述する金属シリコンとを混合して用いた際の、シリコン源100質量部中の回収シリコンの含有量は、1~99質量部であることが好ましく、50~99質量部であることがより好ましく、80~95質量部であることが特に好ましい。
【0027】
<金属シリコン>
上記反応に使用される金属シリコンとしては、冶金製金属シリコン又は珪素鉄等、公知のものが何ら制限なく使用される。また、それら金属シリコンに含まれる鉄化合物等の不純物についても、その成分又は含有量において特に制限はない。かかる金属シリコンは、通常、平均粒径が100~500μm程度の微細な粉末の形態で使用される。
【0028】
<塩化水素>
シリコン源との反応に使用される塩化水素は、水素等が混入していても何ら制限なく使用される。しかしながら、一般的に、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジクロロシラン等のクロロシランは、加水分解性が高い為に水分と反応してしまう。このため、塩化水素に水分が含まれていると、生成したトリクロロシランの収率を下げる虞がある。したがって、この塩化水素は乾燥状態にあることが好ましい。
【0029】
<水素>
シリコン源との反応に使用される水素についても、特に制限されず、純水素、あるいは、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応後に回収された水素等を用いることができる。上記塩化水素と同様、この水素は乾燥状態にあることが好ましい。
【0030】
<シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応>
シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応は、効率良くトリクロロシランを製造するという観点から、触媒を用いることが好ましい。かかる触媒としては、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応における触媒成分として公知のものが、特に制限なく用いることが可能である。
【0031】
このような触媒成分として具体的には、上記アルミニウム、鉄、カルシウムの他に、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金等の第8~10族元素の金属又はその塩化物等、銅、チタン等の金属又は塩化物が挙げられる。これらの触媒は単独で用いることも、又は複数の触媒を組み合わせて用いることも可能である。上記触媒成分の使用量は、効率良くトリクロロシランを製造する量であれば、特に制限されず、製造装置の能力等を勘案して適宜決定すれば良い。一般的には、金属元素換算で、金属シリコンに対して0.05~40重量%、特に0.1~5重量%用いれば十分である。
【0032】
なお、上述のとおり、上記回収シリコン中にはアルミニウムが含まれており、金属シリコンを混合して用いる際には、金属シリコン中には、アルミニウム、鉄、カルシウムが含まれている。したがって、本発明の一態様に係る製造方法においては、シリコン源中の触媒成分の含有量を以下の範囲となるように配合して用いることが好ましい。なお以下の記載における含有量は、シリコン源100質量部当たりの含有量である。
【0033】
・アルミニウム:50~20000質量ppmであることが好ましく、500~10000質量ppmであることがより好ましく、600~6000質量ppmであることが特に好ましい。
・鉄:50~10000質量ppmであることが好ましく、50~5000質量ppmであることがより好ましく、1000~3000質量ppmであることが特に好ましい。
・カルシウム:50~5000ppmであることが好ましく、50~3000質量ppmであることがより好ましく、50~500質量ppmであることが特に好ましい。
【0034】
前記と同様にシリコン源又は回収シリコンの金属成分すなわちアルミニウム、鉄、カルシウムの含有量は蛍光X線分光分析(XRF)により測定することができる。上記金属元素の低濃度領域(100質量ppm以下)については、シリコン源をフッ硝酸で溶解した後に、ろ過したろ液を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)で測定することができる。シリコン源又は回収シリコンの炭素含有量は燃焼-赤外線吸収法によりCO及びCOを測定することで求めることができる。
【0035】
上記の触媒成分は、反応系内に添加することで存在させても良いが、使用するシリコン源に、不純物としてアルミニウム、鉄、カルシウム等の触媒成分が含まれている場合には、この不純物を触媒成分として有効に利用することができる。無論、触媒成分を不純物として含有する金属シリコンを使用する場合でも、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応性を高める為に、触媒成分を更に反応系内に添加しても何ら問題はない。
【0036】
上記シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応において、用いる反応装置としては、公知の反応装置を特に制限なく用いることが可能である。かかる反応装置として具体的には、固定床式反応装置、又は流動床式反応装置等が挙げられる。上記反応装置の中でも流動床式反応装置を用いるのが、連続的にシリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素を供給して、連続的にトリクロロシランを製造することが可能である点から好ましい。また、上記反応が発熱及び吸熱反応であるため、反応領域の温度分布を均一にするという観点からも流動床式反応装置を用いるのが好ましい。
【0037】
シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応における反応温度は、製造装置の材質や能力等を勘案して適宜決定すれば良い。反応温度が必要以上に高いと、トリクロロシランの選択率が低下し、テトラクロロシランやジクロロシラン等のトリクロロシラン以外のクロロシランの副生物の量が多くなる。シリコン源と塩化水素との反応は発熱反応であり、反応温度は、一般に250~400℃の範囲に設定される。
【0038】
一方、シリコン源とテトラクロロシラン及び水素との反応温度は吸熱反応であり、反応温度は、一般に、400~700℃、特に450~600℃の範囲に設定される。
【0039】
<クロロシラン類の凝縮分離及び蒸留>
上記シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素との反応により、トリクロロシランを含む反応生成ガスが発生する。この反応生成ガス中には、副生物であるテトラクロロシラン又はジクロロシラン等のトリクロロシラン以外のクロロシランが含まれており、さらに、副生する水素に加え、シリコン源に不可避的不純物として含まれているボロン等が混入している。
【0040】
したがって、上記の反応生成ガスからトリクロロシランを回収するにあたっては、先ず、この反応生成ガスを適宜フィルターに通し、シリコン源粒子等の固形物を除去した後に凝縮分離に供してもよい。このフィルターを通したあとの反応生成ガス中からトリクロロシランを含むクロロシランが凝縮分離される。
【0041】
この凝縮分離工程では、反応生成ガスは冷却されることとなるが、この冷却温度は各種のクロロシランが凝縮する温度以下であれば良く、冷却装置の冷却能力等を勘案して適宜決定すれば良い。冷却温度が低い程、クロロシランの除去効果が高い傾向にあるが、一般的には、-10℃以下、特に-30℃以下であれば十分である。また凝縮分離における圧力についても、クロロシランが十分に除去可能であれば特に制限されず、凝縮除去装置の能力等を勘案して適宜決定すれば良く、一般的には、300kPaG以上、特に500kPaG以上であれば十分である。
【0042】
また、凝縮を行うための冷却手段としては、反応生成ガスを上記の冷却温度に冷却することが可能であれば、特に制限なく、公知の冷却手段を用いて行うことが可能である。かかる冷却手段として具体的には、反応生成ガスを冷却された熱交換器を通過させて冷却させる冷却手段、又は、凝縮され冷却された凝縮物によって反応生成ガスを冷却する冷却手段等が挙げられる。これらの方法をそれぞれ単独で、又は併用して採用することも可能である。
【0043】
さらに、ガスの圧力を上昇させることを目的に、クロロシランの凝縮除去に先だって、加圧機を設置することも可能である。また、該加圧機の保護のため、予備的なクロロシラン凝縮又はフィルター等も加圧機より上流側に設置してもよい。これらの点は、工業的なプロセス設計の常套手段として採用することが可能である。
【0044】
上記のような凝縮分離によって反応生成ガスから得られた凝縮液は、種々のクロロシランの混合物であり、蒸留によってトリクロロシランを単離し、回収されたトリクロロシランは、ポリシリコンを製造する工程における析出原料として使用される。
【0045】
また、クロロシランが凝縮分離された後の排ガスは、水素ガスを主成分として含むものであり、上記クロロシラン類の製造における水素等の種々の製造の水素源に使用することができる。
【0046】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るクロロシラン類の製造方法は、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素とを反応させてクロロシラン類を生成するクロロシラン類の製造方法であって、前記シリコン源が、太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種を含むことを特徴とする。
【0047】
本発明の態様2に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1において、前記シリコン源100質量部における、前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の含有量が1~99質量部であることが好ましい。
【0048】
本発明の態様3に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1又は2において、前記シリコン源100質量部中のアルミニウムの含有量が50~20000質量ppmであることが好ましい。
【0049】
本発明の態様4に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~3のいずれか1つにおいて、前記シリコン源100質量部中の鉄の含有量が50~10000質量ppmであることが好ましい。
【0050】
本発明の態様5に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~4のいずれか1つにおいて、前記シリコン源100質量部中のカルシウムの含有量が50~5000質量ppmであることが好ましい。
【0051】
本発明の態様6に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~5のいずれか1つにおいて、前記シリコン源100質量部中の炭素の含有量が10~10000質量ppmであることが好ましい。
【0052】
本発明の態様7に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~6のいずれか1つにおいて、前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりのアルミニウムの含有量が50~300000質量ppmであることが好ましい。
【0053】
本発明の態様8に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~7のいずれか1つにおいて、前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりの鉄の含有量が100質量ppm以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の態様9に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~8のいずれか1つにおいて、前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりのカルシウムの含有量が100質量ppm以下であることが好ましい。
【0055】
本発明の態様10に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~9のいずれか1つにおいて、前記シリコン源における前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の100質量部当たりの炭素の含有量が500質量ppm以下であることが好ましい。
【0056】
本発明の態様11に係るクロロシラン類の製造方法は、前記の態様1~10のいずれか1つにおいて、前記太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンが、該太陽光パネルより単結晶シリコン又は多結晶シリコンを回収し、得られた単結晶シリコン又は多結晶シリコンの表面を酸で洗浄したものを含むことが好ましい。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
<シリコン源>
以下の実施例において、シリコン源としては、以下のものを使用した。
未洗浄回収シリコン:単結晶シリコンを含む廃太陽光パネルを加熱して該廃太陽光パネル内の樹脂を加熱融解せしめ、加熱融解せしめた樹脂を燃焼せしめた後、該廃太陽光パネルより回収したもの
洗浄回収シリコン:上記未洗浄回収シリコンを35%塩酸に1時間浸漬したのち、乾燥したもの
金属シリコン:市販品
珪素鉄:市販品
珪素銅:市販品と金属珪素との混合品
【0059】
各シリコン源中のアルミニウム、鉄、カルシウム、銅の含有量は、蛍光X線分光分析(XRF)(ZSX PrimusIV(株式会社リガク製))にて測定した。上記金属元素の低濃度領域(100質量ppm以下)については、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)(Optima8300(株式会社パーキンエルマー製)にて測定した。また炭素の含有量は、燃焼-赤外線吸収法(EMIA-110(株式会社堀場製作所製))によりCO及びCOを測定することで求めた。各シリコン源中の各元素の含有量を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<シリコン源と塩化水素との反応>
内径8mmのSUS製反応管にシリコン源10gを充填し、反応器を350℃に保持した後、塩化水素ガスと水素ガスをそれぞれ50ml/minで250min連続的に反応器に供給した。反応器からの排出ガスを-70℃まで冷却して冷却液を得た。
【0062】
塩化水素ガス及び水素ガスの供給を停止して降温し、反応残渣を反応器から取り出して重量を量り、シリコン源の反応器への充填量から、以下の式により表2のシリコン源の反応率(%)を計算した。
反応率=((シリコン源充填量)-(反応残渣量))/(シリコン源充填量)×100
【0063】
反応終了後、反応残渣を目視にて観察し、粒径1mm以上のシリコン塊の有無を確認した。上記得られた冷却液はガスクロマトグラフにてメチルジクロロシラン(MDCS)の含有量を測定した。シリコンの反応残渣が凝集したシリコン塊の残存は、長期運転における反応器内の流動性悪化、反応性悪化を示すものである。
【0064】
<実施例1>
シリコン源として洗浄回収シリコンを98質量部、未洗浄回収シリコンを2質量部と混合したものを用いて、上記の製造を行った。その結果、反応率が16%でシリコン塊はほとんど見られなかった。メチルジクロロシランの含有量が0.3ppmaであった。表2には用いたシリコン源の鉄とカルシウムとアルミニウムと炭素の含有量と反応率とシリコン塊の有無とMDCSの含有量を示した。
【0065】
<実施例2~5、比較例1>
シリコン源として表に示すものを表2に示す量使用した以外は実施例1と同様に製造を行った。反応率とMDCSの含有量は、実施例1の結果を1としてその相対値を示した。結果を表2に示す。回収シリコンを用いた場合でも、不純物の含有量を調製することで反応率を、金属シリコンを用いた場合と同程度まで向上させることができた。一方、回収シリコンはカルシウムの含有量が金属シリコンに比べて少ないため、流動不良の原因となるシリコン塊量が少ないと推測される。さらに回収シリコンは炭素の含有量も金属シリコンに比べて少ないため、炭素由来のMDCSの生成量も少なく、より高純度なクロロシラン類が得られる。
【0066】
【表2】
【0067】
<シリコン源とテトラクロロシラン及び水素との反応>
内径8mmのSUS製反応管にシリコン源3.0gを充填し、反応器を530℃に保持した後、テトラクロロシランガスと水素ガスをそれぞれ40ml/minと110ml/minで300min連続的に反応器に供給した。反応器からの排出ガスを-70℃まで冷却して冷却液を得た。
【0068】
テトラクロロシランガス及び水素ガスの供給を停止して降温し、反応残渣を反応器から取り出して重量を量り、シリコン源の反応器への充填量から、以下の式により表3のシリコン源の反応率(%)を計算した。
反応率=((シリコン源充填量)-(反応残渣量))/(シリコン源充填量)×100
【0069】
<実施例6>
シリコン源として洗浄回収シリコンを98質量部、未洗浄回収シリコンを2質量部と混合したものを用いて、上記の製造を行った。その結果、反応率が0.14%でほとんど反応しなかった。表3には用いたシリコン源の鉄とカルシウムとアルミニウムと炭素と銅の含有量と反応率を示した。
【0070】
<実施例7~8、比較例2~3>
シリコン源として表3に示すものを表3に示す量使用した以外は実施例6と同様に製造を行った。反応率は、実施例6の結果を1としてその相対値を示した。結果を表3に示す。回収シリコンを用いた場合でも、不純物の含有量を調製することで反応率を、金属シリコンを用いた場合と同程度まで向上させることができた。
【0071】
【表3】

【要約】
本開示は、シリコン源と塩化水素、又は、テトラクロロシラン及び水素とを反応させてクロロシラン類を生成するクロロシラン類の製造方法であって、前記シリコン源が、太陽光パネルから回収された単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種を含むことを特徴とするクロロシラン類の製造方法を提供する。前記シリコン源100質量部における、前記単結晶シリコン及び多結晶シリコンの少なくとも一種の含有量が1~99質量部であることが好ましい。