(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】複合材料用原料およびその製造方法ならびに複合材料
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241129BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20241129BHJP
C08J 3/09 20060101ALI20241129BHJP
C08J 3/205 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/04
C08J3/09 CER
C08J3/205 CEZ
(21)【出願番号】P 2020147460
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-06-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨永 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公泰
(72)【発明者】
【氏名】今井 祐介
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168880(WO,A1)
【文献】特開2009-235359(JP,A)
【文献】特開2012-207088(JP,A)
【文献】特開2019-178290(JP,A)
【文献】特開2015-108058(JP,A)
【文献】特開2011-068778(JP,A)
【文献】特表2016-512283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0056253(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08J3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材としての樹脂中に強化材としての粒子を分散させた粒子分散強化型の複合材料
(但し、上記母材としての上記樹脂中に上記強化材としての上記粒子が配向したものは除く。)に用いられる複合材料用原料であって、
上記複合材料の上記母材となる
上記樹脂および上記複合材料の上記母材となる上記樹脂を構成するための成分である樹脂成分のうち少なくとも一方(但し、親水基を有する鎖状脂肪族エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有する樹脂、および、ゴムラテックスは除く。)
と溶媒とを含む分散媒と、
上記分散媒中に分散された複数の粒子(但し、セルロース
、熱可塑性樹脂をフィラーに吸着させた吸着フィラー、および、2つ以上の重合性単位から誘導されている1つ以上のオリゴマーがカップリング剤を介して共有結合したナノ粒子は除く。)と、
上記粒子の表面を覆う被覆層と、を有しており、
上記被覆層は、上記分散媒に含まれる上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方に由来する
、上記粒子の表面に吸着している樹脂由来成分より形成されて
おり、
上記被覆層は、上記分散媒と上記粒子とを含む混合物に対して作用させたせん断力により形成されたものである、複合材料用原料。
【請求項2】
参照原料における粒子の表面を覆う被覆層の被覆量に対する、上記複合材料用原料における上記粒子の表面を覆う上記被覆層の被覆量の倍率で規定される被覆倍率が、1.3倍以上である、請求項
1に記載の複合材料用原料。
但し、上記参照原料は、以下のようにして調製された樹脂含有混合物である。
上記樹脂および上記樹脂成分を含まない樹脂非含有分散媒と複数の上記粒子とを含む樹脂非含有混合物を調製し、この調製した上記樹脂非含有混合物に対して湿式ジェットミルによる機械的処理を施した後、上記樹脂または上記樹脂成分を、複数の上記粒子の体積割合が上記複合材料用原料と同じとなるように混合し、樹脂含有混合物とする。なお、上記湿式ジェットミルによる上記機械的処理の条件は、上記湿式ジェットミルにおける分散ノズル部の小孔の直径:0.17mm、加圧力:200MPa、上記機械的処理の回数:5回とする。
【請求項3】
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される、上記被覆層にて表面が覆われた上記粒子のメジアン径D50が、3.0nm以上1.0×10
5nm以下である、請求項1
または請求項2に記載の複合材料用原料。
【請求項4】
上記粒子は、セラミックス粒子、金属粒子、炭素粒子、および、有機物粒子からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の複合材料用原料。
【請求項5】
上記セラミックス粒子を構成するセラミックスは、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、および、酸化イットリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4に記載の複合材料用原料。
【請求項6】
上記金属粒子を構成する金属は、金、銀、銅、白金族、または、これらの合金である、請求項
4に記載の複合材料用原料。
【請求項7】
上記炭素粒子を構成する炭素は、カーボンブラック、ダイヤモンド、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、および、炭素繊維の粉砕物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4に記載の複合材料用原料。
【請求項8】
上記有機物粒子を構成する有機物は
、キトサン、および、キチンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
4に記載の複合材料用原料。
【請求項9】
上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方は、上記粒子の表面と反応する反応性の官能基を分子構造中に有する、請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の複合材料用原料。
【請求項10】
上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方は、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、ケトン基、アセチル基、アゾ基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基、メルカプト基、および、シリル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を分子構造中に有する、請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の複合材料用原料。
【請求項11】
上記分散媒における上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方と複数の上記粒子との合計体積に対する複数の上記粒子の体積割合は、1.0体積%以上90.0体積%以下である、請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の複合材料用原料。
【請求項12】
上記複合材料用原料中に含まれる複数の上記粒子の含有量が、0.5体積%以上50.0体積%以下である、請求項1から請求項
11のいずれか1項に記載の複合材料用原料。
【請求項13】
母材としての樹脂中に強化材としての粒子を分散させた粒子分散強化型の複合材料
(但し、上記母材としての上記樹脂中に上記強化材としての上記粒子が配向したものは除く。)に用いられる複合材料用原料の製造方法であって、
上記複合材料の
上記母材となる
上記樹脂および
上記複合材料の
上記母材となる
上記樹脂を構成するための成分である樹脂成分のうち少なくとも一方(但し、親水基を有する鎖状脂肪族エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有する樹脂、および、ゴムラテックスは除く。)
と溶媒とを含む分散媒と、上記分散媒中に混合された複数の粒子(但し、セルロース
、熱可塑性樹脂をフィラーに吸着させた吸着フィラー、および、2つ以上の重合性単位から誘導されている1つ以上のオリゴマーがカップリング剤を介して共有結合したナノ粒子は除く。)とを含む混合物を準備する準備工程と、
準備された上記混合物に対してせん断力を作用させる機械的処理を施すことにより、上記分散媒中に複数の上記粒子を分散させるとともに、上記粒子の表面に、上記分散媒に含まれる上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方に由来する
、上記粒子の表面に吸着している樹樹脂由来成分より形成される被覆層を被覆させる機械的処理工程と、
を有する、複合材料用原料の製造方法。
【請求項14】
上記機械的処理工程において、上記混合物を30MPa以上250MPa以下に加圧し、上記混合物が小孔を抜ける際に生じるせん断力を利用する、請求項
13に記載の複合材料用原料の製造方法。
【請求項15】
上記複合材料用原料の製造方法により得られる複合材料用原料を用いて成形された複合材料の引張強度は、参照原料を用いて成形された参照用複合材料の引張強度の1.1倍以上である、請求項
13または請求項
14に記載の複合材料用原料の製造方法。
但し、上記参照原料は、以下のようにして調製された樹脂含有混合物である。
上記樹脂および上記樹脂成分を含まない樹脂非含有分散媒と複数の上記粒子とを含む樹脂非含有混合物を調製し、この調製した上記樹脂非含有混合物に対して湿式ジェットミルによる機械的処理を施した後、上記樹脂または上記樹脂成分を、複数の上記粒子の体積割合が上記複合材料用原料と同じとなるように混合し、樹脂含有混合物とする。なお、上記湿式ジェットミルによる上記機械的処理の条件は、上記湿式ジェットミルにおける分散ノズル部の小孔の直径:0.17mm、加圧力:200MPa、上記機械的処理の回数:5回とする。
【請求項16】
請求項1から請求項
12のいずれか1項に記載の複合材料用原料を用いて成形された、複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料用原料およびその製造方法ならびに複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
母材としての樹脂中に強化材としての粒子を分散させた粒子分散型の複合材料は、両者の優れた特性を同時に発現できる可能性があることから、近年注目されている材料である。この種の複合材料は樹脂および粒子の組み合わせからなるため、樹脂および粒子の親和性を向上させること、樹脂中に粒子を均一に分散させることが重要である。従来、樹脂および粒子の親和性を向上させて両者の密着性を向上させたり、樹脂または粒子を工夫して樹脂中における粒子の分散性を向上させたりすることにより、複合材料の引張強度等の力学特性を改善しようとする取り組みが行われている。
【0003】
複合材料における樹脂および粒子の密着性を向上させる方法としては、化学反応による粒子の表面修飾が広く用いられている。例えば、特許文献1には、球状基材の表面をシランカップリング剤にて修飾して乾燥させた後、これを樹脂中に分散させてなる樹脂組成物と、これを成形してなる樹脂成形品に関する技術が開示されている。また、特許文献2には、樹脂中に粒子を均一に分散させるため、特定の官能基を持つグラフト鎖を有するグラフトポリマーを合成し、これにナノ粒子を分散させてなるナノコンポジットに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2018/043246号公報
【文献】特開2006-307199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、シランカップリング剤による修飾後、粒子を乾燥させる必要があり、乾燥による粒子の凝集を招くおそれがある。凝集した粒子は、複合材料の強度低下を招く。また、特許文献2の技術は、粒子の分散を向上させるための特殊なグラフトポリマーを事前に合成する必要があり、複合材料用原料の製造工程が複雑になるおそれがある。また、これらの技術では、別途粒子を樹脂中に均一に分散させる工程も必要になる。そのため、従来技術は、引張強度が向上された複合材料を得ることが可能な複合材料用原料を比較的簡単に製造することが困難である。その結果、上記複合材料用原料を用いて引張強度が向上された複合材料を得ることも困難である。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、引張強度が向上された複合材料を得ることが可能な複合材料用原料を比較的簡単に製造可能な複合材料用原料の製造方法、引張強度が向上された複合材料が得られる複合材料用原料、また、引張強度が向上された複合材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
母材としての樹脂中に強化材としての粒子を分散させた粒子分散強化型の複合材料(但し、上記母材としての上記樹脂中に上記強化材としての上記粒子が配向したものは除く。)に用いられる複合材料用原料であって、
上記複合材料の上記母材となる上記樹脂および上記複合材料の上記母材となる上記樹脂を構成するための成分である樹脂成分のうち少なくとも一方(但し、親水基を有する鎖状脂肪族エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有する樹脂、および、ゴムラテックスは除く。)と溶媒とを含む分散媒と、
上記分散媒中に分散された複数の粒子(但し、セルロース、熱可塑性樹脂をフィラーに吸着させた粒状の吸着フィラー、および、2つ以上の重合性単位から誘導されている1つ以上のオリゴマーがカップリング剤を介して共有結合したナノ粒子は除く。)と、
上記粒子の表面を覆う被覆層と、を有しており、
上記被覆層は、上記分散媒に含まれる上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方に由来する、上記粒子の表面に吸着している樹脂由来成分より形成されており、
上記被覆層は、上記分散媒と上記粒子とを含む混合物に対して作用させたせん断力により形成されたものである、複合材料用原料にある。
【0008】
本発明の他の態様は、
母材としての樹脂中に強化材としての粒子を分散させた粒子分散強化型の複合材料(但し、上記母材としての上記樹脂中に上記強化材としての上記粒子が配向したものは除く。)に用いられる複合材料用原料の製造方法であって、
上記複合材料の上記母材となる上記樹脂および上記複合材料の上記母材となる上記樹脂を構成するための成分である樹脂成分のうち少なくとも一方(但し、親水基を有する鎖状脂肪族エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有する樹脂、および、ゴムラテックスは除く。)と溶媒とを含む分散媒と、上記分散媒中に混合された複数の粒子(但し、セルロース、熱可塑性樹脂をフィラーに吸着させた粒状の吸着フィラー、および、2つ以上の重合性単位から誘導されている1つ以上のオリゴマーがカップリング剤を介して共有結合したナノ粒子は除く。)とを含む混合物を準備する準備工程と、
準備された上記混合物に対してせん断力を作用させる機械的処理を施すことにより、上記分散媒中に複数の上記粒子を分散させるとともに、上記粒子の表面に、上記分散媒に含まれる上記樹脂および上記樹脂成分のうち少なくとも一方に由来する、上記粒子の表面に吸着している樹樹脂由来成分より形成される被覆層を被覆させる機械的処理工程と、
を有する、複合材料用原料の製造方法にある。
【0009】
本発明のさらに他の態様は、上記複合材料用原料を用いて成形された、複合材料にある。
【発明の効果】
【0010】
上記複合材料用原料の製造方法は、上記工程を有する。そのため、上記複合材料用原料の製造方法によれば、樹脂および樹脂成分のうち少なくとも一方を含む分散媒中への粒子の分散と、分散媒に含まれる樹脂および樹脂成分のうち少なくとも一方に由来する樹脂由来成分による粒子表面の表面被覆とを一つの工程内で実施することができる。また、上記複合材料用原料の製造方法は、表面修飾剤による粒子の前処理等が必ずしも必要ではなく、また、特殊な樹脂を事前に合成する必要もない。そのため、上記複合材料用原料の製造方法は、従来の製造方法に比べ、比較的簡単に複合材料用原料を製造することができる。
【0011】
また、上記複合材料用原料は、上記構成を有する。上記複合材料用原料は、上記複合材料用原料の製造方法により得ることができる。上記複合材料用原料を用いて成形された複合材料は、樹脂および樹脂成分を含まない樹脂非含有分散媒中に先に粒子を混合し、機械的処理を施した後に樹脂または樹脂成分を添加した参照原料を用いて成形された参照用複合材料に比べ、高い引張強度を発現することができる。これは、上記複合材料用原料では、樹脂または樹脂成分と被覆層とが同じ樹脂系であるために親和性が高いこと、粒子と被覆層の密着性が改善されること、粒子の分散性が高いことなどによるものと考えられる。
【0012】
よって、本発明によれば、引張強度が向上された複合材料を得ることが可能な複合材料用原料を比較的簡単に製造可能な複合材料用原料の製造方法、引張強度が向上された複合材料が得られる複合材料用原料、また、引張強度が向上された複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態の複合材料用原料を模式的に示した説明図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の複合材料用原料の製造方法を模式的に示した説明図であり、(a)は、準備工程にて準備される混合物を模式的に示した説明図であり、(b)は、機械的処理工程を経て得られる複合材料用原料を模式的に示した説明図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の複合材料用原料の製造方法の機械的処理工程における機械的処理について説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、実験例で用いた湿式ジェットミルにおける分散ノズル部に設けたノズル部材の詳細を示した説明図であり、(a)はノズル部材の断面図、(b)は(a)におけるIVb-IVb線矢視図、(c)は(a)におけるIVc-IVc線矢視図、(d)は(a)におけるIVd-IVd線矢視図、(e)は(c)におけるIVe-IVe線矢視図である。
【
図5】
図5は、実験例にて得られた、試料1-1の複合材料用原料を用いて成形した複合材料についての引張試験後の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、実験例にて得られた、試料1Rの複合材料用原料を用いて成形した複合材料についての引張試験後の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、実験例において赤外分光光度計にて取得したエポキシ主剤の赤外分光スペクトルである。
【
図8】
図8は、実験例において赤外分光光度計にて取得した、酸化アルミニウム粉末そのもの、試料1-1、試料1-2の複合材料用原料から回収した酸化アルミニウム粉末、試料1Rの参照原料から回収した酸化アルミニウム粉末の赤外分光スペクトルである。
【
図9】
図9は、実験例において赤外分光光度計にて取得した、二酸化ケイ素粉末そのもの、試料2の複合材料用原料から回収した二酸化ケイ素粉末、試料2Rの参照原料から回収した二酸化ケイ素粉末の赤外分光スペクトルである。
【
図11】
図11は、実験例において赤外分光光度計にて取得した、酸化マグネシウム粉末そのもの、試料3の複合材料用原料から回収した酸化マグネシウム粉末、試料3Rの参照原料から回収した酸化マグネシウム粉末の赤外分光スペクトルである。
【
図12】
図12は、試料1-1の複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図13】
図13は、試料1-2の複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図14】
図14は、試料2の複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図15】
図15は、試料3の複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図16】
図16は、試料1Rの複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図17】
図17は、試料2Rの複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図18】
図18は、試料3Rの複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示した図である。
【
図19】
図19は、試料1-1C~試料1-3Cの複合材料用原料における粒子径(nm)と累積(体積%)との関係を示した図である。
【
図20】
図20は、試料1-1C~試料1-3Cの複合材料用原料における粒子径(nm)と頻度(体積%)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の複合材料用原料、複合材料用原料の製造方法、および、複合材料について、
図1~
図3を用いて詳細に説明する。
【0015】
(複合材料用原料)
本実施形態の複合材料用原料1は、
図1に例示されるように、分散媒10と、複数の粒子11と、被覆層12と、を有している。
【0016】
分散媒10は、樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方を含んでいる。分散媒10中に含まれる樹脂101は、複合材料の母材(マトリックス)となるものである。樹脂101としては、例えば、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。分散媒10中に含まれる樹脂成分102は、複合材料の母材となる樹脂101を構成するための成分であり、具体的には、モノマー、オリゴマー、プレポリマーなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、上述した樹脂101のうち、硬化性樹脂は、主剤と硬化剤(硬化促進剤も含む)とから構成されることがある。硬化性樹脂を構成するための主剤や硬化剤は、樹脂成分の概念に含まれる。
【0017】
分散媒10は、樹脂101や樹脂成分102以外に、水系溶媒、有機溶媒(有機溶剤)等の溶媒103(希釈剤ということもできる)を含む。より具体的には、分散媒10は、用いられる樹脂101や樹脂成分102が液体の場合には、樹脂101や樹脂成分102と溶媒103とから構成することができる。分散媒10は、用いられる樹脂101や樹脂成分102が固体の場合には、樹脂101や樹脂成分102と溶媒103とから構成することができる。つまり、この場合には、固体の樹脂101や樹脂成分102は溶媒103にて溶解される。分散媒10は、好ましくは、粒子11の分散性向上などの観点から、溶媒103を含んでいる。溶媒103は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、溶媒103の種類は、用いられる樹脂101や樹脂成分102の種類に応じて適宜選択することができる。また、溶媒103としての水系溶媒は、pHやイオン強度を調整するためのイオンなどを含有していてもよい。
【0018】
樹脂101としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、オキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル等の熱可塑性樹脂などを例示することができる。
【0019】
樹脂成分102としては、例えば、エポキシ樹脂の主剤、エポキシ樹脂の硬化剤、フェノール化合物、メラミン、尿素、スチレン、脂肪酸、ベンゾオキサジン、イプシロンカプロラクタムなどを例示することができる。上述した樹脂101、樹脂成分102は、1種または2種以上併用することができる。
【0020】
複数の粒子11は、分散媒10中に分散されている。粒子11の形状としては、例えば、真球、楕円球、長円球、塊状球などの球形状や、板状、鱗片状、棒状、針状、繊維状などのように、長軸方向の長さと短軸方向の長さとが異なる形状などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。
【0021】
粒子11は、複合材料の力学的特性のうち少なくとも引張強度を向上させることができるものであれば、いずれの材質のものでも用いることができる。粒子11としては、例えば、セラミックス粒子、金属粒子、炭素粒子、有機物粒子などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。この構成によれば、複合材料の引張強度を向上させやすい。
【0022】
セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化イットリウム(イットリア)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0023】
金属粒子を構成する金属としては、例えば、金、銀、銅、白金族、または、これらの合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0024】
炭素粒子を構成する炭素としては、例えば、カーボンブラック、ダイヤモンド、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、炭素繊維の粉砕物(ミルドファイバー)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0025】
有機物粒子を構成する有機物としては、例えば、セルロース、キトサン、キチンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0026】
被覆層12は、各粒子11の表面を覆っている。被覆層12は、粒子11の表面全体を覆っていてもよいし、粒子11の表面の一部を覆っていてもよい。ここで、被覆層12は、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方に由来する樹脂由来成分より形成されている。つまり、被覆層12は、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102の一部より形成されたものである。樹脂由来成分は、具体的には、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方と同じものであってもよいし、粒子表面との化学反応等によって、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方とは分子構造の一部が変わっていてもよい。
【0027】
樹脂由来成分は、粒子11の表面に吸着している構成とすることができる。この構成によれば、粒子11と被覆層12との密着力が高まり、複合材料の引張強度向上を確実なものとすることができる。なお、上記吸着は、化学吸着、物理吸着のいずれであってもよい。化学吸着は、粒子11表面と樹脂由来成分との共有結合による被覆層12の密着性向上に有利である。
【0028】
樹脂由来成分の粒子11表面への吸着は、次の例により確認することができる。複合材料用原料1から遠心分離やろ過などにより被覆層12で表面が覆われた複数の粒子11を回収する。次いで、未吸着成分等の不要成分を除去するため回収した複数の粒子11を、樹脂101、樹脂成分102が溶解する溶媒にて十分に洗浄し、真空乾燥させて粉末を得る。次いで、赤外分光光度計を用い、拡散反射法により、乾燥した粒末について赤外分光スペクトルを取得する。次いで、取得した赤外分光スペクトルにおける樹脂、樹脂成分に由来するピークの有無を観察する。樹脂、樹脂成分に由来するピークが観察された場合には、分散媒10中に含まれていた樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方の一部が粒子11の表面に吸着していると判断することができる。一方、樹脂、樹脂成分に由来するピークが観察されない場合には、分散媒10中に含まれていた樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方の一部が粒子11の表面に吸着していないと判断することができる。
【0029】
本開示において、参照原料とは、複合材料用原料1で用いられる分散媒10の代わりに、粒子11の被覆層12に含まれる樹脂101または樹脂成分102を含まない分散媒を用いて作製した複合材料用原料のことである。参照原料における粒子の表面を覆う被覆層の被覆量に対する、複合材料用原料1における粒子11の表面を覆う被覆層12の被覆量の倍率で規定される被覆倍率は、1.3倍以上とすることができる。なお、被覆層12の被覆量は、樹脂由来成分が粒子11の表面に吸着しているときは、粒子11表面の樹脂由来成分の吸着量ということができる。また、上記被覆倍率は、被覆倍率が大きすぎると、見かけ上の粒子径が大きくなってしまい、粒子の最大充填量が低下するなどの観点から、例えば、20.0倍以下とすることができる。
【0030】
参照原料は、以下のようにして調製されるものである。具体的には、複合材料用原料1における粒子11の種類、粒子11の表面を覆う被覆層12を形成する樹脂由来成分の元となる樹脂101または樹脂成分102の種類を特定する。特定には、粉末X線回折測定、エネルギー分散型X線分光測定、フーリエ変換赤外分光測定、ラマン分光測定などの測定方法を用いることができる。樹脂101および樹脂成分102を含まない樹脂非含有分散媒と複数の粒子11とを含む樹脂非含有混合物を調製する。調製した樹脂非含有混合物に対して湿式ジェットミルによる機械的処理を施した後、上記にて特定されたものと同じ樹脂101または樹脂成分102を、複数の粒子11の体積割合が複合材料用原料1と同じとなるように混合する。なお、湿式ジェットミルによる機械的処理の条件は、湿式ジェットミルにおける分散ノズル部の小孔の直径:0.17mm、加圧力:200MPa、機械的処理の回数:5回とする。このようにして得られた樹脂含有混合物を参照原料とする。
【0031】
被覆層12の被覆量は、次のようにして測定することができる。複合材料用原料1から遠心分離やろ過などにより被覆層12で表面が覆われた複数の粒子11を回収する。次いで、未吸着成分等の不要成分を除去するため回収した複数の粒子11を、樹脂101、樹脂成分102が溶解する溶媒にて十分に洗浄し、真空乾燥させて粉末を得る。次いで、乾燥した粉末について、熱重量測定示差熱分析装置を用い、昇温速度10℃/分で150℃から600℃までの質量減少率を測定する。なお、質量減少率(質量%)は、100×(150℃での質量-600℃での質量)/(初期質量<室温での質量>)の計算式より算出することができる。そして、上記による質量減少率を各粒子11における被覆層12の被覆量とする。つまり、被覆層12の被覆量は、熱重量測定示差熱分析にて測定される、被覆層12にて被覆された粒子11に対する被覆層12の質量%である。参照原料についても同様に測定することができる。
【0032】
具体的には、例えば、粒子11が酸化アルミニウムより構成される場合、被覆層12の被覆量は、好ましくは、0.25質量%以上、より好ましくは、0.50質量%以上、さらに好ましくは、0.75質量%以上、さらにより好ましくは、1.00質量%以上、さらにより一層好ましくは、1.25質量%以上、最も好ましくは、1.50質量%以上とすることができる。また、例えば、粒子11が二酸化ケイ素より構成される場合、被覆層12の被覆量は、好ましくは、1.20質量%以上、より好ましくは、1.30質量%以上、さらに好ましくは、1.40質量%以上とすることができる。また、例えば、粒子11が酸化マグネシウムより構成される場合、被覆層12の被覆量は、好ましくは、2.20質量%以上、より好ましくは、2.40質量%以上、さらに好ましくは、2.60質量%以上、さらにより好ましくは、2.80質量%以上、さらにより一層好ましくは、3.00質量%以上とすることができる。なお、粒子11が酸化アルミニウムより構成される場合、粒子11が二酸化ケイ素より構成される場合、粒子11が酸化マグネシウムより構成される場合のいずれの場合も、被覆層12の被覆量は、10.00質量%以下とすることができる。被覆層12の被覆量が多すぎると見かけ上の粒子径が大きくなり、粒子11の最大充填量が低下するためである。
【0033】
樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方は、粒子11の表面と反応する反応性の官能基を分子構造中に有することができる。官能基は、分子構造中に1種または2種以上含まれていてもよい。この構成によれば、樹脂由来成分に含まれる官能基を介した粒子11表面と樹脂由来成分との共有結合を形成することができる。そのため、この構成によれば、粒子11と被覆層12との密着力が高まり、複合材料の引張強度向上に有利となる。
【0034】
樹脂および樹脂成分のうち少なくとも一方は、具体的には、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、ケトン基、アセチル基、アゾ基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基、メルカプト基、シリル基などの官能基を分子構造中に有することができる。これら官能基は、分子構造中に1種または2種以上含まれていてもよい。
【0035】
被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50は、3.0nm以上1.0×105nm以下とすることができる。被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される。具体的には、被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径である。被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50を3.0nm以上とすることにより、粒子11が小さすぎず、粒子11の特性を複合材料に反映させやすくなる。被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50を1.0×105nm以下とすることにより、粒子11の表面積が大きいため、後述する複合材料用原料1の製造時に、被覆層12が形成されやすくなり、かつ、せん断力を作用させる機械的処理を施しやすくなる。
【0036】
被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50は、好ましくは、上述した効果を確実なものにするなどの観点から、好ましくは、1.0×101nm以上、より好ましくは、2.0×101nm以上、さらに好ましくは、3.0×101nm以上とすることができる。被覆層12にて表面が覆われた粒子11のメジアン径D50は、好ましくは、上述した効果を確実なものにするなどの観点から、好ましくは、5.0×104nm以下、より好ましくは、3.0×104nm以下、さらに好ましくは、1.0×104nm以下とすることができる。
【0037】
分散媒10における樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方と複数の粒子11との合計体積に対する複数の粒子11の体積割合は、1.0体積%以上90.0体積%以下とすることができる。つまり、複数の粒子11と、分散媒10における樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方と、の体積比は、1.0:99.0~90.0:10.0の範囲とすることができる。
【0038】
複数の粒子11の体積割合が1.0体積%以上である場合には、複合材料の引張強度向上に有利となる。また、複数の粒子11の体積割合が90.0体積%以下である場合には、複合材料用原料1の製造時における粘度の増加を抑制することができ、引張強度の低下の原因となる複合材料中の空隙の発生を抑制することができる。複数の粒子11の体積割合は、好ましくは、3.0体積%以上、より好ましくは、5.0体積%以上とすることができる。また、複数の粒子11の体積割合は、好ましくは、85.0体積%以下、より好ましくは、80.0体積%以下とすることができる。
【0039】
なお、分散媒10における樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方と複数の粒子11との合計体積とは、分散媒10が樹脂成分102を含まず樹脂101を含む場合には、分散媒10における樹脂101と複数の粒子11との合計体積、分散媒10が樹脂101を含まず樹脂成分102を含む場合には、分散媒10における樹脂成分102と複数の粒子11との合計体積、分散媒10が樹脂101および樹脂成分102の両方を含む場合には、分散媒10における樹脂101および樹脂成分102の両方と複数の粒子11との合計体積のことである。つまり、上記にいう合計体積には、上述した溶媒(希釈剤)の体積は含まれない。
【0040】
複合材料用原料1中に含まれる複数の粒子11の含有量は、0.5体積%以上50.0体積%以下とすることができる。複数の粒子11の含有量が0.5体積%以上である場合には、使用する分散媒10の量の低減により、各種の産業分野に適用しやすくなる。また、複数の粒子11の含有量が50.0体積%以下である場合には、複合材料用原料1の製造時に、粘度の増加を抑制することができ、せん断力を作用させる後述の機械的処理を施しやすくなる。
【0041】
(複合材料用原料の製造方法)
本実施形態の複合材料用原料の製造方法は、準備工程と、機械的処理工程と、を有している。
【0042】
準備工程は、
図2(a)に例示されるように、樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方を含む分散媒10と分散媒10中に混合された複数の粒子11とを含む混合物2を準備する工程である。
【0043】
従来、複合材料用原料を製造する場合、先ず、分散工程において、樹脂や樹脂成分を含まない有機溶剤等の溶媒に対して乾燥した複数の粒子を添加し、溶媒中の複数の粒子を分散させた後、乾燥工程を経て、樹脂や樹脂成分が混合されるのが通常であった。これは、分散工程において、先に樹脂や樹脂成分を入れるとこれらを溶かす溶媒が限定されてしまうことや、粒子を分散させる装置内に樹脂や樹脂成分等の不純物を入れたくないことなどの理由による。これに対し、上記準備工程では、樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方を含む分散媒10と複数の粒子11とをあえて先に混合し、これらを含む混合物2を調製する。これは、樹脂101および樹脂成分102を含まない樹脂非含有分散媒中に先に粒子11を混合し、機械的処理を施した後に樹脂101または樹脂成分102を添加しても、粒子11と樹脂101や樹脂成分102との密着性が向上せず、引張強度が向上された複合材料が得られないためである。つまり、本実施形態の複合材料用原料の製造方法では、引張強度が向上された複合材料を得るため、分散媒10中に複数の粒子11を分散させる機械的処理を施す前の段階において、樹脂101や樹脂成分102と粒子11とが混合される。
【0044】
複数の粒子11と分散媒10との混合は、混練機、撹拌機などの既存の混合装置を用いて実施することができる。また、例えば、樹脂101が硬化性樹脂であって液状を呈する場合には、複数の粒子11と液状の硬化性樹脂とを混合することができる。また、上述したように、硬化性樹脂は主剤と硬化剤とから構成されることがある。この場合、主剤と複数の粒子11とを混合してもよいし、硬化剤と複数の粒子11とを混合してもよい。また、主剤および硬化剤と複数の粒子11とを混合してもよい。なお、主剤と複数の粒子11とを混合して混合物2を準備する場合には、機械的処理後に硬化剤をさらに混合することができる。また、硬化剤と複数の粒子11とを混合して混合物2を準備する場合には、機械的処理後に主剤をさらに混合することができる。また、液状の硬化性樹脂、主剤、硬化剤は、溶媒にて希釈されていてもよい。
【0045】
また、例えば、樹脂101が熱可塑性樹脂である場合には、溶媒に樹脂101を溶解した後、これに複数の粒子11を混合することができる。
【0046】
混合物2において、分散媒10における樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方と複数の粒子11との合計体積に対する複数の粒子11の体積割合は、1.0体積%以上90.0体積%以下とすることができる。
【0047】
複数の粒子11の体積割合が1.0体積%以上である場合には、複合材料の引張強度向上に有利となる。また、複数の粒子11の体積割合が90.0体積%以下である場合には、複合材料用原料1の製造時における粘度の増加を抑制することができ、引張強度の低下の原因となる複合材料中の空隙の発生を抑制することができる。複数の粒子11の体積割合は、好ましくは、3.0体積%以上、より好ましくは、5.0体積%以上とすることができる。また、複数の粒子11の体積割合は、好ましくは、85.0体積%以下、より好ましくは、80.0体積%以下とすることができる。
【0048】
混合物2中に含まれる複数の粒子11の含有量は、0.5体積%以上50.0体積%以下とすることができる。複数の粒子11の含有量が0.5体積%以上である場合には、使用する分散媒10の量の低減により、各種の産業分野に適用しやすくなる。また、混合物2中に含まれる複数の粒子11の含有量が50.0体積%以下である場合には、複合材料用原料1の製造時に、粘度の増加を抑制することができ、せん断力を作用させる後述の機械的処理を施しやすくなる。
【0049】
機械的処理工程は、準備された混合物に対してせん断力を作用させる機械的処理を施すことにより、分散媒10中に複数の粒子11を分散させるとともに、粒子11の表面に、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方に由来する樹脂由来成分より形成される被覆層12を被覆させる工程である。この機械処理工程では、樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方を含む分散媒10中への粒子11の分散と、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方に由来する樹脂由来成分による粒子11表面の表面被覆とが同時になされる。
【0050】
機械的処理は、混合物2に対してせん断力を作用させることができる方法であれば、いずれの方法を用いてもよい。機械的処理には、例えば、流体の動きを考慮して、せん断流を与えることが可能な機械装置である、湿式ジェットミル、回転ディスクミル、高圧ホモジナイザーなどを好適に用いることができる。また、その他にも、例えば、遊星ホモジナイザー、高速撹拌機、三本ロールミルなどを用いることもできる。
【0051】
機械的処理工程においては、混合物2を30MPa以上250MPa以下に加圧し、混合物2が小孔を抜ける際に生じるせん断力を利用することができる。この構成によれば、分散媒10中への粒子11の分散と、粒子11表面への被覆層12の形成とを確実なものとすることができる。
【0052】
混合物2を加圧する加圧力は、好ましは、50MPa以上、より好ましくは、100MPa以上、さらに好ましくは、150MPa以上とすることができる。また、混合物2を加圧する加圧力は、好ましくは、230MPa以下、より好ましくは、200MPa以下とすることができる。また、小孔の直径は、好ましくは、0.01mm以上、より好ましくは、0.05mm以上、さらに好ましくは、0.10mm以上とすることができる。
【0053】
機械的処理工程における混合物2の温度は、混合物2が気化または固化しない温度であればよい。また、小孔を抜ける際に生じるせん断力によって混合物2の温度が上昇する場合がある。この場合には、混合物2が気化しないように適宜冷却することができる。
【0054】
図3は、湿式ジェットミルを用いた機械的処理の一例を示したものである。
図3に示される湿式ジェットミル5は、プランジャ510を備えるミル本体51と、ミル本体51に接続された供給部52と、供給部52よりも下流側のミル本体51の端部に接続された分散ノズル部53と、を有している。湿式ジェットミル5のミル本体51内および供給部52内には、樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方を含む液状の分散媒10と複数の粒子11とを含む混合物2が満たされている。また、分散ノズル部53には、混合物2が流れる流路を急激に絞る小孔530が形成されている。ミル本体51内の混合物2は、プランジャ510により高圧力が付与される。高圧力が付与された混合物2は、分散ノズル部53に案内されて小孔530内を通過する。小孔530内を通過する際に、混合物2にせん断力が作用し、分散媒10中への粒子11の分散と、分散媒10に含まれる樹脂101および樹脂成分102のうち少なくとも一方に由来する樹脂由来成分による粒子11表面の表面被覆とが同時になされる。小孔530内を通過して生成した複合材料用原料1は、容器(不図示)等に回収される。小孔530の直径は、例えば、0.01mm以上0.50mm以下とすることができる。
【0055】
機械的処理は、1回または複数回施することが可能である。機械的処理を複数回施す場合には、具体的には、準備された混合物2に対してせん断力を作用させる機械的処理を施した後、上記機械的処理が施された混合物2に対してさらに上記機械的処理を1回または複数回施すことになる。機械的処理を複数回施す場合には、分散媒10中への粒子11の分散と、樹脂由来成分による粒子11表面の表面被覆とをより十分なものとすることができる。
【0056】
本実施形態の複合材料用原料の製造方法によれば、本実施形態の複合材料用原料1を得ることができる。
【0057】
本実施形態の複合材料用原料の製造方法により得られる複合材料用原料1は、複合材料の引張強度向上を確実なものとするなどの観点から、参照原料における粒子の表面を覆う被覆層の被覆量に対する、複合材料用原料における粒子の表面を覆う被覆層の被覆量の倍率で規定される被覆倍率が、好ましくは、1.3倍以上、より好ましくは、1.5倍以上、さらに好ましくは、1.7倍以上であるとよい。また、上記被覆倍率は、好ましくは、20.0倍以下、より好ましくは、17.5倍以下、さらに好ましくは、15.0倍以下であるとよい。
【0058】
また、本実施形態の複合材料用原料の製造方法により得られる複合材料用原料1を用いて成形された複合材料の引張強度は、複合材料の引張強度向上を確実なものとするなどの観点から、参照原料を用いて成形された参照用複合材料の引張強度の、好ましくは、1.1倍以上、より好ましくは、1.2倍以上、さらに好ましくは、1.3倍以上であるとよい。
【0059】
なお、被覆層の被覆量の測定方法、参照原料は、(複合材料用原料)にて上述した通りである。
【0060】
(複合材料)
本実施形態の複合材料は、本実施形態の複合材料用原料1を用いて成形されたものである。本実施形態の複合材料用原料1は、本実施形態の複合材料用原料の製造方法により得られるものであってもよいし、別の製造方法にて製造されたものであってもよい。
【0061】
複合材料の成形方法は、特に限定されない。例えば、複合材料用原料1が溶媒を含まない場合には、これを射出成形、押出成形、プレス成形、真空プレス成形等の公知の成形方法にて所望の形状に成形することができる。また、例えば、複合材料用原料1が溶媒103を含む場合には、溶媒103を除去した後、上記成形方法にて所望の形状に成形することができる。また、例えば、複合材料用原料1が樹脂成分102を含む場合、樹脂101を構成するために必要な残りの樹脂成分を複合材料用原料1に混合した後、これを上記成形方法にて所望の形状に成形することができる。また、例えば、複合材料用原料1から被覆層12にて表面が覆われた粒子11を回収し、この粒子11と樹脂101とを混合し、上記成形法にて所望の形状に成形することもできる。
【0062】
複合材料の引張弾性率および引張強度は、次のようにして測定することができる。溶媒を除去した複合材料用原料1から、JIS K6251に規定されるダンベル状7号型の複合材料の試験片を作製する。作製した複合材料の試験片について、万能試験機を用い、室温下、引張速度1mm/分の条件にて引張試験を行うことで、引張弾性率および引張強度を測定することができる。
【0063】
上述した複合材料は、例えば、自動車や航空機等の構造材料としとして利用することができる。
【0064】
なお、上述した本実施形態の複合材料用原料、複合材料用原料の製造方法、複合材料のそれぞれの説明に記載した内容は、必要に応じて互いに適宜参照して適用することができる。
【0065】
<実験例>
(試料1-1)
セラミックス粉末である酸化アルミニウム粉末(関東化学社製、「NanoTek」、単一粒子径52nm)35.3g(10.0cm3)と、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の主剤(以下、エポキシ主剤ということがある。)(三菱ケミカル社製、「JER827」)29.0g(25.0cm3)と、希釈剤としての溶媒であるメチルエチルケトン12.4g(15.4cm3)およびエタノール354.8g(449.9cm3)とを混合し、自公転ミキサーにて撹拌することにより、液状の混合物(懸濁液)を準備した。なお、酸化アルミニウム粉末の単一粒子径は、走査型電子顕微鏡にて粉末を観察し、任意の100個の粒子の粒子径の算術平均値である。後述する各試料についても測定方法は同様である。
【0066】
混合物におけるエポキシ主剤と酸化アルミニウム粉末との合計体積に対する酸化アルミニウム粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、混合物中に含まれる酸化アルミニウム粉末の含有量は、2.0体積%である。また、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、「LA-950V2」)により測定した、混合物中に含まれる酸化アルミニウム粉末のメジアン径D50は、8.3×103nmであった。さらに詳しい粒度分布の測定結果とその考察については、後述する。また、後述する他の試料についても同様である。
【0067】
次に、湿式ジェットミル(アドバンスト・ナノ・テクノロジィ社製、「LSU2540-P20D-AP」)を用い、準備した混合物に対して機械的処理を施した。この際、湿式ジェットミルによる機械的処理の条件は、湿式ジェットミルにおける分散ノズル部の小孔の直径:0.17mm、加圧力:200MPa、機械的処理の回数:5回とした。これを、試料1-1の複合材料用原料とする。
【0068】
本実験例において、上述した分散ノズル部は、具体的には、
図4に示す形状のノズル部材53Aを有している。より具体的には、ノズル部材53Aは、第1流路構成部材531と、第1流路構成部材531に積層された第2流路構成部材532とを有する。第1流路構成部材531の中央部には、上述したプランジャ510による混合物2の加圧方向に沿うように小孔530が形成されている。第2流路構成部材532における第1流路構成部材531側の面には、幅が小孔530の直径と同等で、溝深さが小孔530の直径と同等で、長さが小孔530の長さと同等の細長溝534が形成されている。小孔530は、細長溝534の長手方向の中央部に連通している。また、第2流路構成部材532には、上記加圧方向に沿うように、一対の大孔535が形成されている。一対の大孔535の直径は、小孔530の直径よりも大きい。細長溝534の両端には、各大孔535の一方端部が連通している。各大孔535の他方端部は、第2流路構成部材532における第1流路構成部材531側の面とは反対側の面に開口している。ノズル部材53Aでは、小孔530、細長溝534、および、一対の大孔535によりノズル内流路が構成されている。なお、混合物2は、小孔530から流入する。本実験例では、小孔530の直径φ
1は0.17mm、小孔530の長さL
1(円筒の長さ)は1.1mm、細長溝534の幅wは0.17mm、細長溝534の溝深さdは0.17mm、細長溝534の平面方向の長さL
2は1.1mm、大孔535の直径φ
2は0.7mm、大孔535の長さL
3(円筒の長さ)は2.5mmとした。また、ノズル部材53Aは、焼結ダイヤモンド製とした。なお、ノズル部材53Aの手前における混合物2が流れる流路の直径は3.2mmとした。
【0069】
作製した試料1-1の複合材料用原料を、3500回転、60分間の条件にて遠心分離し、沈殿した酸化アルミニウム粉末を回収した。次いで、回収した酸化アルミニウム粉末をメチルエチルケトンにて3回洗浄した後、8時間真空乾燥した。次いで、熱重量測定示差熱分析装置(リガク社製、「TG-8120」)を用い、乾燥した酸化アルミニウム粉末について、昇温速度10℃/分で150℃から600℃までの質量減少率を測定した。上記洗浄後の酸化アルミニウム粉末でも質量減少が見られたことから、酸化アルミニウム粉末を構成する酸化アルミニウム粒子の表面は、エポキシ主剤に由来する樹脂由来成分より形成された被覆層にて覆われていることが確認された。また、上記洗浄によっても樹脂由来成分がとれなかったことから、樹脂由来成分は、酸化アルミニウム粒子の表面に吸着しているといえる。詳しくは、赤外分光光度計による測定結果を用いて後述する。そして、上記質量減少率の測定結果によれば、酸化アルミニウム粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量(樹脂由来成分の吸着量)は、1.97質量%であった。
【0070】
以上により、エポキシ主剤と溶媒とを含む分散媒と、分散媒中に分散された複数の酸化アルミニウム粒子と、酸化アルミニウム粒子の表面を覆う、エポキシ主剤に由来する樹脂由来成分より形成された被覆層とを有する、試料1-1の複合材料原料を得た。
【0071】
試料1-1の複合材料用原料について、上述のレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、「LA-950V2」)により測定した、被覆層にて表面が覆われた酸化アルミニウム粉末のメジアン径D50は7.0×101nmであった。さらに詳しい粒度分布の測定結果とその考察については、後述する。また、後述する他の試料についても同様である。
【0072】
次に、試料1-1の複合材料用原料中の溶媒であるエタノールおよびメチルエチルケトンをエバポレーターにて除去した。溶媒を除去した複合材料用原料5.0gに、エポキシ樹脂の硬化剤(エポキシ硬化剤ということがある。)(三菱ケミカル社製、「ST11」)1.4g(1.2cm3)を添加し、自公転ミキサーにて撹拌した。得られた混合物を、引張試験に供されるダンベル試験片(JIS K6251規定のダンベル状7号型)を形成可能なシリコーン製の型に流し込み、80℃にて3時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、複合材料を作製した。作製した複合材料中の酸化アルミニウム粉末の混合割合は、20.0体積%である。
【0073】
次いで、作製した複合材料について、万能試験機(島津製作所社製、「EZ-SX」)を用い、室温下、引張速度1mm/分の条件にて引張試験を行い、引張弾性率および引張強度を測定した。得られた複合材料の引張弾性率は3.07GPa、引張強度は92.5MPaであった。
【0074】
次いで、引張試験後の試料1-1の複合材料の破断面の微構造を、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、「JSM-IT300HR」)にて観察した。その結果を、
図4に示す。
図4に示されるように、試料1-1の複合材料では、エポキシ樹脂の内部に酸化アルミニウム粒子が包埋されていることがわかる。この結果から、本開示の複合材料原料を用いて複合材料を形成することにより、樹脂と粒子との密着性が向上することが確認された。
【0075】
(試料1-2)
メチルエチルケトン12.4g(15.4Cm3)およびエタノール354.8g(449.9cm3)を、メチルエチルケトン374.3g(463.6cm3)に変更した点以外は、試料1-1と同様にして、試料1-2の複合材料用原料、複合材料を作製した。
【0076】
混合物におけるエポキシ主剤と酸化アルミニウム粉末との合計体積に対する酸化アルミニウム粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、混合物中に含まれる酸化アルミニウム粉末の含有量は、2.0体積%である。また、混合物中に含まれる酸化アルミニウム粉末のメジアン径D50は、1.3×104nmであった。また、酸化アルミニウム粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量(吸着量)は、0.79質量%であった。また、試料1-2の複合材料用原料における、被覆層にて表面が覆われた酸化アルミニウム粉末のメジアン径D50は7.4×101nmであった。また、作製した複合材料中の酸化アルミニウム粉末の混合割合は、20.0体積%であった。また、作製した複合材料の引張弾性率は3.03GPa、引張強度は85.1MPaであった。
【0077】
(試料2)
酸化アルミニウム粉末をセラミックス粉末である二酸化ケイ素粉末(堺化学工業社製、「Sciqas GRADE0.25μm」、単一粒子径2.6×102nm)66.3g(25.0cm3)に変更した点、エポキシ主剤72.5g(62.5cm3)、メチルエチルケトン31.0g(38.4Cm3)、エタノール295.0g(374.1cm3)に変更した点以外は、試料1-1と同様にして、試料2の複合材料用原料、複合材料を作製した。なお、試料2の複合材料用原料は、エポキシ主剤と溶媒とを含む分散媒と、分散媒中に分散された複数の二酸化ケイ素粒子と、二酸化ケイ素粒子の表面を覆う、エポキシ主剤に由来する樹脂由来成分より形成された被覆層とを有する。
【0078】
混合物におけるエポキシ主剤と二酸化ケイ素粉末との合計体積に対する二酸化ケイ素粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、混合物中に含まれる二酸化ケイ素粉末の含有量は、5.0体積%である。また、混合物中に含まれる二酸化ケイ素粉末のメジアン径D50は、2.7×102nmであった。また、二酸化ケイ素粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量は、1.53質量%であった。また、試料2の複合材料用原料における、被覆層にて表面が覆われた二酸化ケイ素粉末のメジアン径D50は1.9×102nmであった。また、作製した複合材料中の二酸化ケイ素粉末の混合割合は、20.0体積%であった。また、作製した複合材料の引張弾性率は2.67GPa、引張強度は104.6MPaであった。
【0079】
(試料3)
二酸化ケイ素粉末をセラミックス粉末である酸化マグネシウム粉末(タテホ社製、「PUREMAG(登録商標)FNMG」、単一粒子径3.9×102nm)90.0g(25.0cm3)に変更した点以外は、試料2と同様にして、試料3の複合材料用原料、複合材料を作製した。なお、試料3の複合材料用原料は、エポキシ主剤と溶媒とを含む分散媒と、分散媒中に分散された複数の酸化マグネシウム粒子と、酸化マグネシウム粒子の表面を覆う、エポキシ主剤に由来する樹脂由来成分より形成された被覆層とを有する。
【0080】
混合物におけるエポキシ主剤と酸化マグネシウム粉末との合計体積に対する酸化マグネシウム粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、混合物中に含まれる酸化マグネシウム粉末の含有量は、5.0体積%である。また、混合物中に含まれる酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は、9.5×102nmであった。また、酸化マグネシウム粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量(吸着量)は、3.02質量%であった。また、試料2の複合材料用原料における、被覆層にて表面が覆われた酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は1.9×102nmであった。また、作製した複合材料中の酸化マグネシウム粉末の混合割合は、20.0体積%であった。また、作製した複合材料の引張弾性率は2.82GPa、引張強度は91.1MPaであった。
【0081】
(試料1R)
酸化アルミニウム粉末、メチルエチルケトン、および、エタノールを混合した液状の混合物に機械的処理を施した後、エポキシ主剤を添加した点以外は、試料1-1と同様にして、試料1Rの参照原料、これを用いた参照用複合材料を作製した。
【0082】
参照原料におけるエポキシ主剤と酸化アルミニウム粉末との合計体積に対する酸化アルミニウム粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、参照原料中に含まれる酸化アルミニウム粉末の含有量は、2.0体積%である。また、参照原料中に含まれる酸化アルミニウム粉末のメジアン径D50は、1.0×104nmであった。また、酸化アルミニウム粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量は、0.17質量%であった。また、試料1Rの参照用複合材料における、被覆層にて表面が覆われた酸化アルミニウム粉末のメジアン径D50は7.3×101nmであった。また、作製した参照用複合材料中の酸化アルミニウム粉末の混合割合は、20.0体積%であった。また、作製した参照用複合材料の引張弾性率は2.43GPa、引張強度は68.5MPaであった。
【0083】
次いで、引張試験後の試料1Rの参照用複合材料の破断面の微構造を、上記走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果を、
図6に示す。
図6に示されるように、試料1Rの参照用複合材料では、酸化アルミニウム粒子がエポキシ樹脂から剥離し、酸化アルミニウム粒子と同形状の空隙が観察された。これは、粒子表面を覆う被覆層を形成する樹脂由来成分が粒子表面に十分に吸着しておらず、両者の界面の密着性が悪いためである。
【0084】
(試料2R)
二酸化ケイ素粉末、メチルエチルケトン、および、エタノールを混合した液状の混合物に機械的処理を施した後、エポキシ主剤を添加した点以外は、試料2と同様にして、試料2Rの参照原料、これを用いた参照用複合材料を作製した。
【0085】
参照原料におけるエポキシ主剤と二酸化ケイ素粉末との合計体積に対する二酸化ケイ素粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、参照原料中に含まれる二酸化ケイ素粉末の含有量は、5.0体積%である。また、参照原料中に含まれる二酸化ケイ素粉末のメジアン径D50は、3.2×102nmであった。また、二酸化ケイ素粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量は、0.85質量%であった。また、試料2Rの参照用複合材料における、被覆層にて表面が覆われた二酸化ケイ素粉末のメジアン径D50は2.1×102nmであった。また、作製した参照用複合材料中の二酸化ケイ素粉末の混合割合は、20.0体積%であった。また、作製した参照用複合材料の引張弾性率は2.28GPa、引張強度は90.7MPaであった。
【0086】
(試料3R)
酸化マグネシウム粉末、メチルエチルケトン、および、エタノールを混合した液状の混合物に機械的処理を施した後、エポキシ主剤を添加した点以外は、試料3と同様にして、試料3Rの参照原料、これを用いた参照用複合材料を作製した。
【0087】
参照原料におけるエポキシ主剤と酸化マグネシウム粉末との合計体積に対する酸化マグネシウム粉末の体積割合は、28.6体積%である。また、参照原料中に含まれる酸化マグネシウム粉末の含有量は、5.0体積%である。また、参照原料中に含まれる酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は、6.4×103nmであった。また、酸化マグネシウム粒子の表面を被覆する被覆層の被覆量は、1.58質量%であった。また、試料3Rの参照用複合材料における、被覆層にて表面が覆われた酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は1.9×102nmであった。また、作製した参照用複合材料中の酸化マグネシウム粉末の混合割合は、20.0体積%であった。また、作製した参照用複合材料の引張弾性率は2.57GPa、引張強度は58.1MPaであった。
【0088】
(試料1-1C)
酸化アルミニウム粉体92.9g(26.3Rm3)と、エタノール395g(500cm3)と、0.01N塩酸0.5g(0.5cm3)とを混合し、自公転ミキサーにて撹拌することにより、液状の混合物(懸濁液)を調製した。次いで、この混合物にシランカップリング剤である3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン16.5gを添加した後、2時間撹拌した。次いで、湿式ジェットミルを用い、シランカップリング剤が添加された混合物に対して機械的処理を施した。この際、湿式ジェットミルによる機械的処理の条件は、小孔の直径:0.17mm、加圧力:200MPa、機械的処理の回数:10回とした。これを、試料1-1Cの複合材料用原料とする。
【0089】
作製した試料1-1Cの複合材料用原料を遠心分離し、上澄み液を除去した。沈殿した酸化アルミニウムを120℃で2時間乾燥した。なお、乾燥した酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は、7.4×101nmであった。乾燥した酸化アルミニウム粉末2.74gと、エポキシ主剤2.26gと、エポキシ硬化剤1.35gとを混合し、自公転ミキサーにて撹拌した。得られた液状の混合物を、引張試験に供されるダンベル試験片を形成可能なシリコーン製の型に流し込み、80℃にて3時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、複合材料を作製した。作製した複合材料中の酸化アルミニウム粉末の混合割合は、20.0体積%である。得られた複合材料の引張弾性率は2.66GPa、引張強度は67.9MPaであった。
【0090】
(試料1-2C)
機械的処理を施した後、エポキシ主剤を混合する前の試料1-1Cの複合材料用原料中に含まれる酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は、7.2×101nmであった。試料1-1Cの複合材料用原料を遠心分離し、上澄み液を除去した。沈殿した酸化アルミニウム7.46gに、メチルエチルケトン14.81gとエポキシ主剤4.81gとを混合し、自公転ミキサーにて撹拌した。得られた液状の混合物を、減圧乾燥し、メチルエチルケトンを除去した。次いで、これにエポキシ硬化剤2.89gを添加し、自公転ミキサーにて撹拌した。得られた液状の混合物を、引張試験に供されるダンベル試験片を形成可能なシリコーン製の型に流し込み、80℃にて3時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させることにより、試料1-2Cの複合材料を作製した。作製した複合材料中の酸化アルミニウム粉末の混合割合は、20.0体積%である。得られた複合材料の引張弾性率は2.98GPa、引張強度は78.2MPaであった。
【0091】
(試料1-3C)
湿式ジェットミルによる機械的処理を行わなかった点以外は、試料1-2Cと同様にして、試料1-3Cの複合材料用原料、複合材料を作製した。エポキシ主剤を混合する前の試料1-3Cの複合材料用原料中に含まれる酸化マグネシウム粉末のメジアン径D50は、6.1×103nmであった。また、作製した試料1-3Cの複合材料中の酸化アルミニウム粉末の混合割合は、20.0体積%である。得られた複合材料の引張弾性率は2.41GPa、引張強度は70.6MPaであった。
【0092】
各試料の詳細、各試料について得られた結果を表1および表2にまとめて示す。また、
図7に、エポキシ主剤の赤外分光スペクトルを示す。
図8に、酸化アルミニウム粉末そのもの、試料1-1、試料1-2の複合材料用原料から回収した酸化アルミニウム粉末、試料1Rの参照原料から回収した酸化アルミニウム粉末の赤外分光スペクトルを示す。
図9に、二酸化ケイ素粉末そのもの、試料2の複合材料用原料から回収した二酸化ケイ素粉末、試料2Rの参照原料から回収した二酸化ケイ素粉末の赤外分光スペクトルを示す。
図10に、
図9に示した赤外分光スペクトルの拡大図を示す。
図11に、酸化マグネシウム粉末そのもの、試料3の複合材料用原料から回収した酸化マグネシウム粉末、試料3Rの参照原料から回収した酸化マグネシウム粉末の赤外分光スペクトルを示す。なお、赤外分光スペクトルの測定に用いた赤外分光光度計には、パーキンエルマージャパン社製の「Spectrum Two」を用いた。また、赤外分光スペクトルの測定に供する粉末には、各複合材料用原料、参照原料から回収した粉末をメチルエチルケトンにて3回洗浄した後、8時間真空乾燥させたものを用いた。
【0093】
また、
図12~
図18に、試料1-1~試料3、試料1R~試料3Rの複合材料用原料の作製時における機械的処理の前後の粒子径(nm)と累積(体積%)または頻度(体積%)との関係を示す。また、
図19および
図20に、試料1-1C~試料1-3Cの複合材料用原料における粒子径(nm)と頻度(体積%)との関係を示す。また、表3に、これらの粒度分布データを数値で整理してまとめて示す。なお、表3中、粒子径D10は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される体積基準の累積度数分布が10%を示すときの粒子径であり、粒子径D90は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される体積基準の累積度数分布が90%を示すときの粒子径である。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表1および表2、
図7~
図11から以下のことがわかる。試料1-1は、試料1Rに比べて、被覆層の被覆量、引張強度がそれぞれ1060%、35%増加した。この結果から、所定の混合物に対してせん断力を作用させる機械的処理を施すことにより、分散媒中の樹脂成分(本実験例ではエポキシ主剤)の一部が粒子(本実験例ではセラミックス粒子)の表面に吸着し、複合材料の引張強度が向上していることがわかる。また、試料1-2は、試料1Rに比べて、被覆層の被覆量、引張強度がそれぞれ365%、24%増加した。この結果から、機械的処理を施す混合物に含まれる溶媒の種類を変えても、複合材料の引張強度を向上させることができることが確認できた。また、
図7および
図8に示されるように、試料1-1では、波数2800~3000cm
-1の範囲に3本、波数1511、1250、1185cm
-1に各々1本ずつの樹脂由来成分のピークが観察された。試料1-2では、試料1-1に比べてピーク強度が弱いものの、樹脂由来成分のピークが観察された。この結果から、試料1-1および試料1-2では、粒子の表面を覆う被覆層を形成する樹脂由来成分が、粒子表面に吸着していることが明らかとなった。一方、試料1Rでは、樹脂由来成分のピークが観察されず、粒子の表面を覆う被覆層を形成する樹脂由来成分が、粒子表面に吸着していないことがわかった。
【0098】
試料2は、試料2Rに比べて、被覆層の被覆量、引張強度がそれぞれ80%、15%増加した。試料3は、試料3Rに比べて、被覆層の被覆量、引張強度がそれぞれ91%、57%増加した。この結果から、機械的処理を施す混合物に含まれる粒子の種類を変えても、複合材料の引張強度を向上させることができることが確認できた。また、
図7、
図9および
図10に示されるように、試料2、試料2Rでは、樹脂由来成分のピークが観察されたが、両者の差異は観察できなかった。また、
図7、
図11に示されるように、試料3、試料3Rでは、樹脂由来成分のピークが観察されたが、試料3の方が、試料3Rよりもピーク強度が高かった。
【0099】
また、表1、表3などによれば、試料1-1~試料3では、機械的処理後に機械的処理前よりも複数の粒子のメジアン径D50が小さくなっており、複数の粒子をよく分散できていることがわかる。
【0100】
これらに対し、試料1-1Cは、従来手法であるシランカップリング剤による粒子の表面修飾を行ったものであるが、引張強度は低下した。これは、シランカップリング反応後の乾燥時の粒子の凝集によるものである。試料1-2Cでは、シランカップリング反応後の乾燥操作をしないことにより粒子の凝集を抑制することはできたが、試料1Rと比べて、引張強度の増加は14%であった。試料1-3Cでは、混合物に対してせん断力を作用させる機械的処理を施さなかったため、メジアン径D50が大きく、引張強度はほとんど増加しなかった。
【0101】
また、表3、
図19および
図20から以下のこともわかる。試料1-1C~試料1-3Cに用いた原料では、粒子が凝集していることがわかる。また、試料1-1Cでは、多くの粒子が分散しているが、92%以上の領域で凝集粒子が存在していることがわかる。これは、乾燥の影響によるものと考えられる。また、試料1-2Cでは、試料1-1Cの乾燥前の状態と同じであり、粒子が凝集せずに分散していることがわかる。また、試料1-3Cでは、湿式ジェットミルによる機械的処理を施していないので、凝集粒子が多く存在していることがわかる。
【0102】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
また、上述した複合材料用原料および複合材料は、自動車や航空機、スポーツ用品等の構造部材、電子機器等の放熱部材などとして有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 複合材料用原料
10 分散媒
101 樹脂
102 樹脂成分
11 粒子
12 被覆層
2 混合物