(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】磁場発生装置
(51)【国際特許分類】
H01F 7/20 20060101AFI20241129BHJP
H01F 7/18 20060101ALI20241129BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01F7/20 Z
H01F7/18 T
H02J7/00 H
H02J7/00 302A
(21)【出願番号】P 2020185391
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-06-13
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2020108226
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】小濱 芳允
(72)【発明者】
【氏名】金道 浩一
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-035558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0225980(US,A1)
【文献】再公表特許第2009/122683(JP,A1)
【文献】特開2007-174780(JP,A)
【文献】特開2014-066358(JP,A)
【文献】特開昭51-086763(JP,A)
【文献】実公昭48-010825(JP,Y1)
【文献】特開平04-233203(JP,A)
【文献】特公昭49-046582(JP,B1)
【文献】実開昭59-050408(JP,U)
【文献】特開昭50-070860(JP,A)
【文献】特開平09-306732(JP,A)
【文献】特開昭54-132767(JP,A)
【文献】特開昭53-039575(JP,A)
【文献】特開2007-253182(JP,A)
【文献】特開平02-238610(JP,A)
【文献】実開昭51-090452(JP,U)
【文献】特開2001-211545(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0315663(US,A1)
【文献】特開平11-053038(JP,A)
【文献】特開2019-002528(JP,A)
【文献】特開昭51-049085(JP,A)
【文献】特開昭51-045582(JP,A)
【文献】実開平05-073910(JP,U)
【文献】特開2012-063247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/18
H02J 7/00
H01F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気二重層コンデンサと、
前記電気二重層コンデンサに電荷を供給して蓄積させる充電器と、
電磁石と、
前記電気二重層コンデンサと電磁石との間に介在する第1のスイッチ回路と、
を有し、
前記第1のスイッチ回路がオフである状態で前記充電器により前記電気二重層コンデンサに電荷を蓄積させ、前記電気二重層コンデンサに電荷が蓄積された状態で前記第1のスイッチ回路をオンとして前記電気二重層コンデンサの放電電流を前記電磁石に供給して
、時間とともに減衰する磁場であって、少なくとも1秒以内に2Tを超える磁場を生じさせる
ことを可能とした磁場発生装置。
【請求項2】
電気二重層コンデンサと、
前記電気二重層コンデンサに電荷を供給して蓄積させる充電器と、
電磁石と、
前記電気二重層コンデンサと電磁石との間に介在する第1のスイッチ回路と、
を有し、
前記第1のスイッチ回路がオフである状態で前記充電器により前記電気二重層コンデンサに電荷を蓄積させ、前記電気二重層コンデンサに電荷が蓄積された状態で前記第1のスイッチ回路をオンとして前記電気二重層コンデンサの放電電流を前記電磁石に供給して
、時間とともに減衰する磁場であって、2Tを超える磁場を
少なくとも1秒を超える時間に亘り生じさせる
ことを可能とした磁場発生装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の磁場発生装置であって、
前記電気二重層コンデンサの一方端に対し、所定の負荷を介して接続される第一端子と、
前記電気二重層コンデンサの他方端に接続される第二端子とを備え、
前記第一、第二端子間のスイッチングを行う第2のスイッチ回路をさらに含み、
前記第2のスイッチ回路は、第1のスイッチ回路がオンである間にオンとされ、前記電気二重層コンデンサの放電電流の、前記電磁石への供給量を低減させる磁場発生装置。
【請求項4】
電気二重層コンデンサと、
前記電気二重層コンデンサに電荷を供給して蓄積させる充電器と、
電磁石と、
前記電気二重層コンデンサと電磁石との間に介在する第1のスイッチ回路と、
を有し、
前記第1のスイッチ回路がオフである状態で前記充電器により前記電気二重層コンデンサに電荷を蓄積させ、前記電気二重層コンデンサに電荷が蓄積された状態で前記第1のスイッチ回路をオンとして前記電気二重層コンデンサの放電電流を前記電磁石に供給して磁場を生じさせる磁場発生装置
であって、
前記電気二重層コンデンサの一方端に対し、所定の負荷を介して接続される第一端子と、
前記電気二重層コンデンサの他方端に接続される第二端子とを備え、
前記第一、第二端子間のスイッチングを行う第2のスイッチ回路をさらに含み、
前記第2のスイッチ回路は、前記電磁石の温度が所定の閾値を超えたときにオンとされて、前記電気二重層コンデンサの放電電流の、前記電磁石への供給量を低減させる磁場発生装置。
【請求項5】
請求項1
から4のいずれか一項に記載の磁場発生装置であって、
前記第1のスイッチ回路は、サイリスタを用いて構成されている磁場発生装置。
【請求項6】
請求項1
から4のいずれか一項に記載の磁場発生装置であって、
前記第1のスイッチ回路は、IGBTを用いて構成されている磁場発生装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石の両端間を、所定の条件で短絡させるクローバー回路をさらに備える磁場発生装置。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石の両端間には、抵抗器とキャパシタとを直列接続した放電補助回路が並列接続されている磁場発生装置。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の磁場発生装置であって、
前記電磁石が発生する磁場を検出する検出部と、
前記電磁石と対向して配されるコイル回路部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記コイル回路部を制御し、コイル回路部に所定の磁場を発生させる制御回路と、
をさらに備える磁場発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁場を発生させる装置として、大きくわけて一巻コイル法など(準)破壊的方法、非破壊的パルスマグネットを用いる方法、静的方法がある(
図10)。
【0003】
図10に示すように、破壊的方法によると、1000T程度の強磁場が得られるものの、磁場発生装置が一度で破壊されてしまい、磁場の持続時間も10
-6から10
-4秒程度と短いものとなる。非破壊的パルスマグネットを用いる方法では、3Tから100T程度の強い磁場が得られ、磁場の持続時間は10
-3から1秒程度となる。
【0004】
静的方法には種々の方法があり、装置に費用をかければ、数十T程度の磁場を、数十秒から104秒程度の期間発生させるものもあるが、比較的安価なものでは1Tに満たない磁場を発生させることができる程度となる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】R.Battesti, et.al., High magnetic fields for fundamental physics, Physics Reports, Vol. 765-766, 10 November 2018, pp.1-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、非破壊的パルスマグネットは、精密な物性の計測など、強磁場を必要とする物性科学研究に広く利用されているが、その設置コストは小さくない。このため、比較的長い時間、比較的強い磁場を発生させることができ、また、比較的安価に作製できる磁場発生装置が求められているのが現状である。さらに近年の研究では、磁場のプロファイル(磁場の時間変化)が問題となる場合もある。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、比較的安価に作製でき、比較的長い時間、比較的強い磁場を発生させることができる磁場発生装置を提供することを、その目的の一つとする。
【0008】
また本発明の別の目的の一つは、磁場プロファイルを制御可能な磁場発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来例の問題点を解決するための本発明の一態様は、磁場発生装置であって、電気二重層コンデンサと、前記電気二重層コンデンサに電荷を供給して蓄積させる充電器と、電磁石と、前記電気二重層コンデンサと電磁石との間に介在する第1のスイッチ回路と、を有し、前記第1のスイッチ回路がオフである状態で前記充電器により前記電気二重層コンデンサに電荷を蓄積させ、前記電気二重層コンデンサに電荷が蓄積された状態で前記第1のスイッチ回路をオンとして前記電気二重層コンデンサの放電電流を前記電磁石に供給して磁場を生じさせることとしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のこの態様によると、比較的安価に作製でき、比較的強い磁場を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置の一例を表す概略回路図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置により発生する磁場の時間変化の計測例を表す説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置の別の例を表す概略回路図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る別の例の磁場発生装置により発生する磁場の例を表す説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る別の例の磁場発生装置における電流料の時間変化を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置のもう一つの例を表す概略回路図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る磁場発生装置のさらにもう一つの例を表す概略回路図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る、さらにもう一つの例の磁場発生装置により発生する磁場の例を表す説明図である。
【
図9】電磁石が発生する磁場の強さと、電磁石に用いる導線の抵抗との関係を表す説明図である。
【
図10】磁場発生装置の種類の例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る磁場発生装置100は、
図1にその基本的構成を示すように、コンデンサバンク10と、充電器20と、電磁石30と、スイッチ回路40とを含んで構成される。
【0013】
ここでコンデンサバンク10は、複数の電気二重層コンデンサ11を直列に接続したものである。このコンデンサバンク10に含まれる、直列接続された電気二重層コンデンサ11の末端の一端側(負極側)は、共通電位(GND)に接続される。またその他端側(正極側)は、後に説明するスイッチ回路40に接続される。
【0014】
また充電器20は、外部からの電力供給を受けて、コンデンサバンク10が備える複数の電気二重層コンデンサ11のそれぞれに電荷を供給して蓄積させる。電気二重層コンデンサ11に電荷を蓄積させるこのような充電器は広く知られたものを採用できるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0015】
電磁石30は、銀銅合金線または銅線などの導電線を用いたコイルを含み、その一端はスイッチ回路40に接続され、他端はGNDに接続される。この電磁石30は例えばビッター型のコイル(Bitter Coil)やソレノイドなど広く知られた形式のコイルでよい。スイッチ回路40は、直列接続された電気二重層コンデンサ11の上記他端側(正極側)と電磁石30の一端との間に介在する。
【0016】
この例の磁場発生装置100を用いて磁場を発生させる際には、まず、充電器20によりコンデンサバンク10内の電気二重層コンデンサ11に電荷を蓄積する。その後、スイッチ回路40をオンとする。
【0017】
スイッチ回路40がオンとなると、電気二重層コンデンサ11が放電し、電磁石30に電流が供給されて、電磁石30が磁場を発生させる。この電磁石30の近傍に対象物を配しておけば、当該対象物に電磁石30により発生された磁界の影響を与えることが可能となる。また、本実施の形態において、スイッチ回路40として開閉式のスイッチを用いる場合、電気二重層コンデンサ11が放電しきる前にスイッチ回路40をオフとすることもできる。
【0018】
この例では、コンデンサバンク10を、容量約10F、最大電圧800V、抵抗約110mΩとしたとき、コンデンサバンク10から供給可能な最大電流量は約7000Aとなり、スイッチ回路40がオンとなったとき、電磁石30には7000Aの電流が供給されることとなる。
【0019】
一例として充電電圧55.0V、容量150Fのコンデンサバンク10を用いたときに、スイッチ回路40をオンとした時刻(t=0.0とする)からスイッチ回路40をオフとする時刻(t=およそ0.4秒とする)までの間に電磁石30が発生する磁場の大きさ(T)を計測した結果を
図2に示す。なお放電後の電圧は52.8Vである。
【0020】
この例のように、比較的低い電圧ではスイッチ回路40として機械的な開閉式のスイッチを用いることができ、数T程度の磁場を得ることが可能となる。
【0021】
一方、これより大きい磁場を要する場合は、放電電圧を高める必要があるが、その場合には、広く知られているように、スイッチ回路40として機械的な開閉式のスイッチとすることが困難となり、また、大電力用の機械的開閉式スイッチを用いることとすると、コストが上昇してしまう。
【0022】
そこで本実施の形態の一例では、このスイッチ回路40を、サイリスタまたは開閉式のスイッチであっても機械的なものでない、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)により実現する。以下ではまず、スイッチ回路40を、例えばサイリスタにより実現した場合について説明する。この場合は、コンデンサバンク10に電荷を蓄積した後に、スイッチ回路40であるサイリスタをオンとする。
【0023】
このときコンデンサバンク10の電気二重層コンデンサ11が放電し、電磁石30に電流が供給されて、磁場を発生させる。その後、コンデンサバンク10の電気二重層コンデンサ11が放電しきると、スイッチ回路40であるサイリスタはオフとなる。もっともこの例では、放電を中断できないので、長時間大電流を供給する負荷から電磁石30を保護するため、放電回路を付加することが好適となる。
【0024】
具体的に、放電回路を付加した本実施の形態の磁場発生装置101は、
図3(a)に例示するように、コンデンサバンク10と、充電器20と、電磁石30と、第1のスイッチ回路40′と、第2のスイッチ回路50と、負荷回路60とを含んで構成される。ここで、
図1に示した基本的構成と同様の構成となるものについては同じ符号を付して繰り返しての説明を省略する。
【0025】
第1のスイッチ回路40′は、サイリスタT1を含み、当該サイリスタT1のカソード端子Kは、電磁石30の一端に接続される。またこのサイリスタT1のアノード端子Aは、直列接続された電気二重層コンデンサ11の他端側(正極側)に接続される。このサイリスタT1のゲート端子Gは、スイッチをオン・オフする制御のために利用される。
【0026】
第2のスイッチ回路50もまた、サイリスタT2により構成されてもよいし、IGBTで構成してもよい。サイリスタT2を用いる場合、サイリスタT2のアノード端子Aは、直列接続された電気二重層コンデンサ11の他端側(正極側)に接続される。またこの場合、サイリスタT2のカソード端子Kは、負荷回路60を介してGNDに接続される。またn型のIGBTを用いる場合は、コレクタ端子Cを直列接続された電気二重層コンデンサ11の他端側(正極側)に接続し、エミッタ端子Eを、負荷回路60を介してGNDに接続する。
【0027】
なお、サイリスタT2またはIGBTのゲート端子Gは、このサイリスタT2やIGBTを、オン・オフするスイッチング制御のために用いられる。負荷回路60は、抵抗器であり、この抵抗値は例えば電磁石30と同じ程度の値に設定されてもよい。
【0028】
この
図3(a)に例示した磁場発生装置101を用いて磁場を発生させる際には、まず、第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1と、第2のスイッチ回路50のサイリスタT2とがいずれもオフである状態で、充電器20によりコンデンサバンク10内の電気二重層コンデンサ11に電荷を蓄積する。その後、電気二重層コンデンサ11への電荷の蓄積が十分となった後に、第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1をオンとする。
【0029】
第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1がオンとなると、電気二重層コンデンサ11が放電し、電磁石30に電流が供給されて、磁場を発生させる。次に、第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1がオンとなった後の所定のタイミングで、第2のスイッチ回路50のサイリスタT2をオンとする。
【0030】
第2のスイッチ回路50のサイリスタT2がオンとなると、電気二重層コンデンサ11から供給される電流の一部が第2のスイッチ回路50を介して負荷回路60へ供給され、電磁石30へ供給される電流量が低減される。
【0031】
本実施の形態のこの例で、電磁石30として、4×6mmの銅線で製作されたソレノイドを用いた。このソレノイドの電気抵抗は77Kで18.4mΩ、常温で149.6mΩであった。
【0032】
この例において、放電電圧200V,400V,600V,800Vのそれぞれについて、第1のスイッチ回路40′を時刻0.5秒でオンとしたとき、
図4に例示するような時間変化をする磁場が得られた。この例では放電電圧800Vのとき、最大で16.3Tの磁場が得られた。
【0033】
また放電電圧が800Vのとき、電磁石30を流れた電流量の時間変化は、
図5に例示するようなものとなり、第1のスイッチ回路40′をオンとしてから200ミリ秒後(0.2秒後)に、5.92kAの電流を得た。
【0034】
[IGBTの例]
例えばn型のIGBTを用いる場合、充電器20側端をIGBTのコレクタ端子Cとし、電磁石30側端をIGBTのエミッタ端子Eとする。そしてIGBTのゲート端子Gは、IGBTをオン・オフするスイッチ制御のために用いられる。
【0035】
この例では、コンデンサバンク10に電荷を蓄積した後に、スイッチ回路40であるIGBTをオンとする。するとコンデンサバンク10の電気二重層コンデンサ11が放電し、電磁石30に電流が供給されて、磁場を発生させることとなる。
【0036】
その後、コンデンサバンク10の電気二重層コンデンサ11が放電しきるまでの間、あるいは放電が完了した後にスイッチ回路40であるIGBTをオフとする。この例では放電を中断できるが、電磁石30の保護を確実にするため、放電回路を付加することも好適である。
【0037】
この放電回路は、
図3(a)に例示したように、第2のスイッチ回路50と負荷回路60とを含むものである。ここで第2のスイッチ回路50の一端は、第1のスイッチ回路40とコンデンサバンク10との間に接続し、第2のスイッチ回路50の他端は、負荷回路60を介してGND側へ接続しておく。
【0038】
この例の放電回路における第2のスイッチ回路50は、サイリスタT2により構成されてもよいし、IGBTで構成してもよい。サイリスタT2を用いる場合、そのアノード端子Aが、直列接続された電気二重層コンデンサ11の他端側(正極側)に接続される。また、サイリスタT2のカソード端子Kは、負荷回路60を介してGNDに接続される。n型のIGBTを用いる場合は、コレクタ端子Cを直列接続された電気二重層コンデンサ11の他端側(正極側)に接続し、エミッタ端子Eを、負荷回路60を介してGNDに接続する。
【0039】
この場合も、サイリスタT2またはIGBTのゲート端子Gは、このサイリスタT2やIGBTをオン・オフするスイッチ制御のために用いられる。負荷回路60は、抵抗器であり、この抵抗値は例えば電磁石30と同じ程度の値に設定されてもよい。
【0040】
この例の磁場発生装置101を用いて磁場を発生させる際には、まず、第1のスイッチ回路40のIGBTがオフであり、かつ、第2のスイッチ回路50のサイリスタT2あるいはIGBTがオフである状態で、充電器20によりコンデンサバンク10内の電気二重層コンデンサ11に電荷を蓄積する。その後、電気二重層コンデンサ11への電荷の蓄積が十分となった後に、第1のスイッチ回路40のIGBTをオンとする。
【0041】
第1のスイッチ回路40のIGBTがオンとなると、電気二重層コンデンサ11が放電し、電磁石30に電流が供給されて、磁場を発生させる。次に、第1のスイッチ回路40のIGBTがオンとなった後の所定のタイミングで、第2のスイッチ回路50のサイリスタT2またはIGBTをオンとする。
【0042】
第2のスイッチ回路50のサイリスタT2またはIGBTがオンとなると、電気二重層コンデンサ11から供給される電流の一部が第2のスイッチ回路50を介して負荷回路60へ供給され、電磁石30へ供給される電流量が低減される。なお、ここまでの説明では第1のスイッチ回路40または第2のスイッチ回路50におけるIGBTとしてn型のIGBTを例として説明したがIGBTはp型であってもよい。p型とする場合、コレクタ端子とエミッタ端子とをn型の場合と入れ替えて読み替えればよい。またn型、p型のそれぞれを用いた場合に、エミッタ-コレクタ間をオンまたはオフとするためのゲート電圧の制御方法については広く知られているのでここでの説明は省略する。
【0043】
[IGBTの制御]
また、このように第1のスイッチ回路40を、IGBTを利用して構成したときには、オンとオフとを時分割的に交互に繰り返す(つまりt1時間だけオンとし、t2時間だけオフとし、t3時間だけオンとし…と繰り返す)ようにIGBTを制御してもよい。この場合、オンまたはオフとする時間のパターンにより、電磁石30が形成する磁場の強度の時間経過に対応する波形(時間変化)を変化させることができる。例えばオン・オフを一定の間隔ごとに交互に繰り返すことで時間経過に伴う強度の変化の比較的小さい磁場(時間変化波形に比較的平坦な箇所のある磁場)を形成でき、また、オフである時間に比べ、オンとなる時間を短くすると、パルス的な磁場の形成が可能となる。
【0044】
さらにこの例では、IGBTがオフとなっている期間が比較的長いときには、電気二重層コンデンサ11への充電を行うこととしてもよい。
【0045】
[放電回路の制御]
以上の例において、放電回路として機能する第2のスイッチ回路50のオン・オフの制御は、電磁石30の温度に応じて為されてもよい。
【0046】
例えば、本実施の形態の一例では、電磁石30の温度を例えば非接触温度計などで計測し、当該計測の結果が所定の閾値(具体的には300Kなど)を超えたときに、第2のスイッチ回路50をオンとすることとしてもよい。また、このように電磁石30の温度が上記所定の閾値を超えたときに、第1のスイッチ回路がIGBTを用いて構成されているときには、第1のスイッチ回路をオフとなるよう制御してもよい。
【0047】
なお、放電電圧を比較的低く、例えば40V乃至170V程度としておくと、発生する磁場強度の最大値は4Tないし12T程度となるが、電磁石30の温度上昇が抑えられるため、放電開始から、第1のスイッチ回路(IGBTを用いている場合)をオフとしたり、第2のスイッチ回路50をオンとしたりするまでの時間を比較的長くでき、比較的長時間に亘って磁場を発生させることが可能となる。従って磁場の用途により、放電電圧の大きさを調整、あるいは制御することとしてもよい。
【0048】
[放電補助回路・クローバー回路の追加]
また
図6に例示するように、電磁石30に対して並列に放電を補助する放電補助回路70を配することとするのも好適である。さらに、第2のスイッチ回路50及び負荷回路60と並列に、クローバー回路80を設けてもよい。
【0049】
図6は、
図3(a)の例に対応し、放電補助回路70と、クローバー回路80とを設けた磁場発生装置101′の例を示す回路図である。この例の磁場発生装置101′は、コンデンサバンク10と、充電器20と、電磁石30と、第1のスイッチ回路40′と、第2のスイッチ回路50と、負荷回路60と、放電補助回路70と、クローバー回路80とを含む。なお、放電補助回路70と、クローバー回路80とは、必ずしもともに設ける必要はなく、いずれか一方としても構わない。
【0050】
図6の例の放電補助回路70は、抵抗器R1と、コンデンサCとを直列に接続した回路であり、第1のスイッチ回路40′(この例ではそのサイリスタT1)の保持電流を確保するものである。なお、この放電補助回路70においてコンデンサCは必ずしも必要でない。
【0051】
クローバー回路80は、
図6に例示するように、抵抗器R2と、少なくとも一つのダイオードDとを直列に接続したものである。このダイオードDは、カソード(K)が電気二重層コンデンサ11の他端側(正極側)に接続される。そして、ダイオードDのアノード(A)は、抵抗器R2を介してGNDに接続される。
【0052】
このクローバー回路80は、所定の条件で、電磁石30の両端間を短絡させる。ここでの例では、クローバー回路80は、第1のスイッチ回路40′がオンとなっている間、電磁石30に並列に接続された状態となって、電磁石30の両端間を短絡させる。このときクローバー回路80は、電磁石30とともに閉回路を形成し、電磁石30を通過する電流の方向を一定に保つことに寄与する。
【0053】
なお、
図6では第1のスイッチ回路40′としてサイリスタT1を用いる例を示したが、この
図6においても第1のスイッチ回路40′はサイリスタT1の代わりにIGBTを用いて構成されてもよい。
【0054】
[フィードバック回路]
また本実施の形態の一例では、電磁石30が発生する磁場に対して、フィードバック磁場を印加する回路をさらに設けてもよい。
【0055】
この例に係る磁場発生装置102は、
図7に例示するように、第1の磁場発生回路110と、フィードバックシステム120とを含む。またフィードバックシステム120は、ピックアップコイル121と、検出回路122と、制御装置123と、電流制御回路124と、電源回路125と、第2の電磁石126とを含んで構成される。
【0056】
また第1の磁場発生回路110は、既に述べた磁場発生装置100,101,または101′のいずれかでよいので、繰り返しての説明は省略する。
【0057】
ここでフィードバックシステム120のピックアップコイル121は、第1の磁場発生回路110が備える電磁石30が発生させる磁場中に配される。より具体的には、磁場の影響を与えようとする対象物の近傍にこのピックアップコイル121を配しておく。
【0058】
検出回路122は、ピックアップコイル121に接続され、ピックアップコイル121が発生する電圧量を逐次的にデジタイズして制御装置123に出力する。このピックアップコイル121と検出回路122とが、本発明の検出部に相当する。制御装置123は例えば一般的なパーソナルコンピュータ等のプログラム制御デバイスを含んで構成される。この制御装置123は、検出回路122が出力する電流量の情報に基づいて、電磁石30が発生させ、対象物に印加している磁場の強度の情報H(t)を取得する。この磁場の強度の情報は、時刻tに依存して変化する。
【0059】
またこの制御装置123は、予め定めた目標となる磁場の強度Htargetと、現在の磁場の強度の情報H(t)の差を誤差e(t)=H(t)-Htargetとして求める。そして制御装置123は、この誤差に基づいて、第2の電磁石126に供給する電流量を制御するための信号を生成する。具体的に、この信号の生成は、一般的なフィードバック制御の方法を採用できる。ここではPID(Proportional-Integral-Derivative)制御を行うこととする。この場合、制御装置123は、上記誤差e(t)を用いて、
【数1】
により、電流制御回路124を制御するための制御電圧を求める。なお、積分は時系列的に得たe(t)を累算することにより求めることとし、微分は、時系列的に得たe(t)の差分により求めることとする。そして制御装置123は、この制御電圧を、電流制御回路124に印加する。
【0060】
電流制御回路124は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いた回路であり、所定の抵抗器R11を介して、制御装置123が出力する制御電圧をそのゲート端子Gに受け入れる。またゲート端子Gは抵抗器R12を介して共通電位(GND)に接続される。
【0061】
電流制御回路124のIGBTのコレクタ端子Cは第2の電磁石126の一端側に接続され、このIGBTのエミッタ端子EはGNDに接続される。電源回路125は、負極側をGNDに接続し、正極側を第2の電磁石126の他端側に接続した直流電源回路であり、本実施の形態の一例では12Vのバッテリを4つ直列に接続して用いることとする。
【0062】
第2の電磁石126は、第1の磁場発生回路110が備える電磁石30がその磁場の影響を与えようとする対象物(及びピックアップコイル121)の近傍に配され、当該対象物に対して磁場を印加する。本実施の形態のこの例では、この第2の電磁石126が形成する磁場により、電磁石30が形成する磁場を微調整し、対象物に印加する磁場のプロファイルを制御する。
【0063】
本実施の形態のこの例の磁場発生装置102は、次のように動作する。なお、以下の例では、第1の磁場発生回路110として
図6に例示した磁場発生装置101′を用いるものとする。
【0064】
まずフィードバックシステム120の電源をオンとする。なお、目標となる磁場の強度Htargetは、予め設定しておく。
図8に例示するように、フィードバックシステム120の電源がオンとなったタイミング(t1)では、第1の磁場発生回路110の第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1と、第2のスイッチ回路50のサイリスタT2とがいずれもオフとなっている。このためピックアップコイル121を用いて検出される磁場の強度H(t1)は実質的に「0」である。
【0065】
そこで、制御装置123は、第2の電磁石126にできるだけ多くの電流を流すように動作し、第2の電磁石126が磁場を発生させる。もっとも、第2の電磁石126が生じる磁場は比較的小さいものであるので、対象物に印加される磁場の強度はほとんど「0」となっている。
【0066】
一方で、第1の磁場発生回路110では、予め(フィードバックシステム120の電源をオンとする前でもよい)充電器20によりコンデンサバンク10内の電気二重層コンデンサ11に電荷を蓄積しておく。その後、時刻t2のタイミングで、第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1をオンとする。
【0067】
第1のスイッチ回路40′のサイリスタT1がオンとなると、電気二重層コンデンサ11が放電し、電磁石30に電流が供給されて、対象物が存在する場に磁場を発生させる。
【0068】
このとき、電磁石30が発生する磁場の強さ(ピックアップコイル121により検出される磁場の強さ)は、目標となる磁場の強さまで増大する。そして目標となる磁場の強さに達すると、フィードバックシステム120において、第2の電磁石126に流れる電流量が制御され、目標となる磁場の強さを超える磁場の発生を抑制する(X)。このため、対象物に印加される磁場の強さは時間的に一定となり、フラットな磁場が得られる。
【0069】
またこのとき、第1の磁場発生回路110では、クローバー回路80により、電磁石30に供給される電流の大きさと向きが変化しないよう制御されている。このことも、フラットな磁場の印加に寄与している。
【0070】
その後、第1の磁場発生回路110のコンデンサバンク10内の電気二重層コンデンサ11の放電が進むにつれて、電磁石30に供給される電流量が低下し、電磁石30が発生する磁場の強度が低下する。
【0071】
このときフィードバックシステム120において、第2の電磁石126に流れる電流量が制御され、第2の電磁石126が目標となる磁場の強さを維持するための磁場を発生させる。その後、電磁石30が発生する磁場の強度が十分小さくなると(時刻t4)、目標となる磁場の強さを維持できなくなり、電気二重層コンデンサ11の放電が完了した後(時刻t5)、フィードバックシステム120をオフとして(時刻t6)、磁場の発生を完了する。
【0072】
なお、フィードバックシステム120の制御装置123は、フィードバックシステム120がオンである間、フィードバック制御を続けるのではなく、検出回路122が出力する電流量の情報に基づいて取得した磁場の強度の情報H(t)と、目標となる磁場の強度Htargetとの差e(t)が、予め定めたしきい値を下回る間だけフィードバック制御を行うこととしてもよい。この例では、
図8の時刻t3から時刻t4までの間、フィードバック制御が行われることとなる。
【0073】
このように本実施の形態のこの例では、フィードバック制御により、磁場プロファイルを制御可能となっている。
【0074】
なお、ここでは目標となる磁場の強さHtargetは一定値としたが、本実施の形態はこれに限られず、Htargetも、第1の磁場発生回路110による磁場発生の開始後(つまり、スイッチ回路40または第1のスイッチ回路40′をオンとした後)からの経過時間に応じて変化させるように制御してもよい。これによると、より自由な磁場プロファイルを形成可能となる。
【0075】
[電磁石]
また、より強い磁場を得るためには、電磁石30のサイズや、電磁石30の導線の抵抗を最適化することが好適である。すなわち電磁石30のサイズを小さくするほど、発生させることのできる磁場の強度は大きくなる。また、電磁石30に用いるコイルの導線抵抗は、
図9に例示するように、電気二重層コンデンサ11と同等の抵抗値の範囲(電気二重層コンデンサ11の抵抗値110mΩに対する抵抗値の比が約0.55から約1.60程度の間)で効率的となることが実験的に知られているので、コイル全体の抵抗がこの範囲となるようその材質を選択することが好適である。
図9において縦軸は任意の単位(a.u.)での磁場の強度を表し、横軸は導線の抵抗を表している。
【0076】
[実施形態の効果]
本発明の実施の形態によると、電気二重層コンデンサや、そのための充電回路、及びスイッチなど比較的安価な構成からなるため、従来50億円ほどとなっていたパルスマグネットのシステムに比べて安価な、1000万円ほどの金額で同程度の磁場を供給可能な、磁場発生装置を提供できる。
【0077】
具体的に
図10に例示した従来例の技術と比較すると、本実施の形態の一例に係る磁場発生装置100は、数十テスラ程度の磁場を、0.03秒乃至数秒のオーダーの時間だけ発生させることができる(X)。仮に本実施の形態の磁場発生装置100と同程度の費用で、超電導磁石を用いた磁場発生装置を製造すると、高々十数テスラの磁場を発生させることができるだけとなってしまう(P)。
【0078】
このように、本発明の実施の形態の磁場発生装置100は、比較的安価にでき、また、磁場強度と発生持続時間との関係で、新たな領域の磁場の利用可能性を提供できる。
【符号の説明】
【0079】
10 コンデンサバンク、11 電気二重層コンデンサ、20 充電器、30 電磁石、40 スイッチ回路、40′ 第1のスイッチ回路、50 第2のスイッチ回路、60 負荷回路、70 放電補助回路、80 クローバー回路、100,101,101′,102 磁場発生装置、110 第1の磁場発生回路、120 フィードバックシステム、121 ピックアップコイル、122 検出回路、123 制御装置、124 電流制御回路、125 電源回路、126 第2の電磁石。