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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】癌検出蛍光プローブ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/34 20060101AFI20241129BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20241129BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241129BHJP
   C07D 407/04 20060101ALI20241129BHJP
   C07F 7/10 20060101ALN20241129BHJP
【FI】
C12Q1/34
A61K49/00
G01N21/64 F
C07D407/04
C07F7/10 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021502655
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008432
(87)【国際公開番号】W WO2020175688
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019036670
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰照
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 恭平
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140971(JP,A)
【文献】国際公開第2014/106957(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/174460(WO,A1)
【文献】特開2018-000074(JP,A)
【文献】Nat. Commun.,2015年,6:6463
【文献】Bioconjugate Chem.,2016年,Vol. 27,pp.973-981
【文献】Sci. Rep.,2015年,5:12080
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブであって、癌組織より良性腫瘍組織でより高い蛍光を示す、当該蛍光プローブ。

(式中、
は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
は、炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
及びRは、存在せず;
Xは、酸素原子を示し;
nは、1であり;
Lは、以下の式(1)の基である。)

【請求項2】
請求項1に記載の蛍光プローブと、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
【請求項3】
乳癌及び乳腺の良性腫瘍を検知するのを補助する方法であって、(a)請求項1~2のいずれか1項に記載の蛍光プローブを乳房の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した乳房の臨床検体の蛍光像を測定することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記GGT活性検出プローブが、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩である、請求項2に記載の乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。

(式中、
Xは、Si(R)(R)、Ge(R)(R)、Sn(R)(R)、C(R
)(R)、P(=O)(R)又はOを表し、
ここで、Ra及びRbは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表し;
は、水素原子、又はそれぞれ置換されていてもよいアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アルコキシ基、アミド基、及びアジド基よりなる群から独立に選択される1~4個の同一又は異なる置換基を表し;
は、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール、又はヘテロアリールを表し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、スルホ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基及びアジド基よりなる群から独立に選択される1~3個の同一又は異なる置換基を表し;
、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、
ここで、R又はRは、それぞれRと一緒になって、それらが結合する窒素原子を含む環構造を形成してもよく;
は、アミノ酸由来のアシル残基を表す。)
【請求項5】
請求項1に記載の蛍光プローブ、及び、以下の式(7)の化合物又はその塩を含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
【請求項6】
請求項1に記載の蛍光プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キット。
【請求項7】
請求項1に記載の蛍光プローブ、及び、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌を特異的に検出することができる蛍光プローブに関する。より具体的には、本発明は、乳腺の悪性及び良性腫瘍、肺腺癌または肺扁平上皮癌を検出することが可能な蛍光プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
悪性組織における酵素活性を評価する方法により、癌の検出を導くための有効なバイオマーカーについて情報を提供することができる。癌の蛍光誘導検出は、部分摘出手術の効率を改善するための最も有望なアプローチの1つである。本発明者らの研究グループは、これまで、活性型アミノペプチダーゼ反応性蛍光プローブ(非特許文献1)を開発し、局所的にプローブ溶液をスプレーすることによって数分以内にヒトの乳がんと食道がんを検出することに成功した(非特許文献2及び3)。
【0003】
しかしながら、癌と正常組織との間のアミノペプチダーゼ活性に明らかな違いがないことから、これらの蛍光プローブによってまだ高い感度・特異度で検出されていない多くの悪性腫瘍がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Urano, Y. et al. Science Transl Med, 3, 110 (2011)
【文献】Onoyama, H. et al. Sci. Rep., 6, 26399 (2016)
【文献】Ueo, H. et al. Sci. Rep., 5, 12080 (2015)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、乳腺の悪性及び良性腫瘍、肺腺癌または肺扁平上皮癌を検出することが可能な蛍光プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、癌におけるグリコシダーゼ活性に焦点を当て、異なるグリコシダーゼ活性を検出するための種々の蛍光プローブを調製し、これらの蛍光プローブを利用してヒト外科検体におけるグリコシダーゼ活性の包括的なスクリーニングを行うことにより、グリコシダーゼ活性が腫瘍の種類によって異なり、そしてある種の蛍光プローブが腫瘍の特異的画像化に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
[1]以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
(式中、
は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
及びRは、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R及びRは存在せず;
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
nは、1~3の整数であり;
Lは、以下の式(1)~(6)のいずれかの基から選択される。)
[2]Xが酸素原子である、[1]に記載の蛍光プローブ。
[3]Rが炭素数1~5個のフッ化アルキル基である、[1]又は[2]に記載の蛍光プローブ。
[4][1]~[3]のいずれか1項に記載の蛍光プローブと、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
[5]以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む肺腺癌または肺扁平上皮癌検出蛍光プローブ。
(式中、
は、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示し;
は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示し;
及びRは、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示し、
ここで、Xが酸素原子の場合は、R及びRは存在せず;
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示し;
nは、1~3の整数であり;
Lは、以下の式(5)又は(6)の基から選択される。)
[6]Xが酸素原子である、[5]に記載の蛍光プローブ。
[7]Rが炭素数1~5個のフッ化アルキル基である、[5]又は[6]に記載の蛍光プローブ。
[8]乳癌及び乳腺の良性腫瘍を検知する方法であって、(a)[1]~[4]のいずれか1項に記載の蛍光プローブを乳房の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した乳房の臨床検体の蛍光像を測定することを含む、前記方法。
[9]肺線癌又は肺扁平上皮癌を検知する方法であって、(a)[5]~[7]のいずれか1項に記載の蛍光プローブを肺線癌又は肺扁平上皮癌の臨床検体に適用する工程、及び
(b)前記蛍光プローブを適用した肺線癌又は肺扁平上皮癌の臨床検体の蛍光像を測定することを含む、前記方法。
[10][1]~[4]のいずれか1項に記載の蛍光プローブ、及び、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
[11]前記GGT活性検出プローブが、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩である、[10]に記載の乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
(式中、
Xは、Si(R)(R)、Ge(R)(R)、Sn(R)(R)、C(R)(R)、P(=O)(R)又はOを表し、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表し;
は、水素原子、又はそれぞれ置換されていてもよいアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アルコキシ基、アミド基、及びアジド基よりなる群から独立に選択される1~4個の同一又は異なる置換基を表し;
は、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール、又はヘテロアリールを表し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、スルホ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基及びアジド基よりなる群から独立に選択される1~3個の同一又は異なる置換基を表し;
、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、
ここで、R又はRは、それぞれRと一緒になって、それらが結合する窒素原子を含む環構造を形成してもよく;
は、アミノ酸由来のアシル残基を表す。)
[12][1]~[4]のいずれか1項に記載の蛍光プローブ、及び、以下の式(7)の化合物又はその塩を含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブ。
[13][1]~[4]のいずれか1項に記載の蛍光プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キット。
[14][1]~[4]のいずれか1項に記載の蛍光プローブ、及び、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キット。
[15][5]~[7]のいずれか1項に記載の蛍光プローブを含む、肺線癌又は肺扁平上皮癌検出用キット。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、乳腺の悪性及び良性腫瘍を検出することが可能な蛍光プローブを提供することができる。
また、本発明により、肺腺癌又は肺扁平上皮癌を検出することが可能な蛍光プローブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で合成した12種類のグリコシダーゼ反応性蛍光プローブ。
図2】乳癌と良性の検出のためのグリコシダーゼ反応性蛍光プローブのスクリーニング試験の結果を示す。
図3】グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ(1、2、5、7、11及び12)を用いた乳癌検体における蛍光プローブの評価結果。
図4】グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5及び11について、乳癌、乳腺繊維腺腫(良性腫瘍)における蛍光の上昇を比較した結果。
図5】12種類のグリコシダーゼ反応性蛍光プローブを用いた、乳癌(IDC)についての蛍光イメージングの実験結果を示す。
図6】12種類のグリコシダーゼ反応性蛍光プローブを用いた、良性腫瘍(FA)についての蛍光イメージングの実験結果を示す。
図7】グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5(HMRef-a-D-Man)を用いた乳腺腫瘍イメージングの実験結果を示す。
図8】グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5(HMRef-a-D-Man)を用いた乳腺腫瘍イメージングの実験結果を示す。
図9】グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5及びgGlu-2-OMeSiR600を併用して二色イメージングを行った結果。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「アルキル基」又はアルキル部分を含む置換基(例えばアルコキシ基など)のアルキル部分は、特に言及しない場合には例えば炭素数1~6個、好ましくは炭素数1~4個、更に好ましくは炭素数1~3個程度の直鎖、分枝鎖、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基を意味している。より具体的には、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピルメチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などを挙げることができる。
【0011】
本明細書において「ハロゲン原子」という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよく、好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。
【0012】
本発明者らは、癌におけるグリコシダーゼ活性に焦点を当て、異なるグリコシダーゼ活性を検出するための種々の蛍光プローブを調製した。そして、調製した蛍光プローブを利用することにより、外科的に切除した癌組織における無傷のグリコシダーゼ活性をホモジナイズすることなく可視化および評価することに成功した。
具体的には、本発明者らは、ヒト外科標本におけるグリコシダーゼ活性の包括的なスクリーニングを行い、グリコシダーゼ活性が腫瘍の種類によって異なり、そしてある種の蛍光プローブが癌の特異的画像化に有効であることを明らかにした。その詳細について以下に説明する。
【0013】
1.乳癌検出蛍光プローブ
本発明の1つの実施態様は、以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブである(以下「実施態様1」とも言う)。
【0014】
一般式(I)において、Rは、存在する場合は、ベンゼン環上に存在する同一又は異なる一価の置換基を示す。一価の置換基としては、ハロゲン、置換されていてもよいアルキル基等が挙げられる。
【0015】
mは、0~4の整数である。
本発明の1つの好ましい側面においては、mが0であり、Rは存在しない。即ち、キサンテン骨格に結合するベンゼン環は無置換のベンゼン環である。
【0016】
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子を示す。
及びRがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR又はRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。R及びRがそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが好ましい。R及びRがハロゲン原子である場合は、R及びRがともにフッ素原子であるか、塩素原子である場合が好ましい。
本発明の1つの好ましい側面においては、R及びRがともに水素原子である。
【0017】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6個のアルキル基、又はハロゲン原子を示し、R及びRについて説明したものと同様である。R及びRがともに水素原子であることが好ましい。
【0018】
は、水素原子、炭素数1~5個のアルキル基、又は炭素数1~5個のフッ化アルキル基を示す。Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましい。Rのフッ化アルキル基としては、-CH-CF、-CH-CH-CFが好ましい。
本発明の1つの好ましい側面においては、Rは、-CH-CFである。
【0019】
一般式(I)において、R及びRは、存在する場合は、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又はアリール基を示すが、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3個のアルキル基であることが好ましく、R及びRがともにメチル基であることがより好ましい。R及びRが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR又はRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
又はRがアリール基を示す場合には、アリール基は単環の芳香族基又は縮合芳香族基のいずれであってもよく、アリール環は1個又は2個以上の環構成ヘテロ原子(例えば窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子など)を含んでいてもよい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。アリール環上には1個又は2個以上の置換基が存在していてもよい。置換基としては、例えばハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。
【0020】
また、後述するXが酸素原子の場合は、R及びRは存在しない。
【0021】
Xは、酸素原子、珪素原子又は炭素原子を示す。
本発明の1つの好ましい側面においては、Xは酸素原子である。
【0022】
nは、1~3の整数であり、好ましくは、nは1である。
【0023】
一般式(I)において、Lは、以下の式(1)~(6)のいずれかの基から選択される。
【0024】
Lとして式(1)の基を有する蛍光プローブは、α-マンノシダーゼ、(2)の基を有する蛍光プローブはα-L-フコシダーゼ、(3)の基を有する蛍光プローブはβ-ヘキソサミニダーゼ、(4)の基を有する蛍光プローブはβ-N-アセチルガラクトサミニダーゼ反応性蛍光プローブであり、(5)の基を有する蛍光プローブはβ-グルコシダーゼ、(6)の基を有する蛍光プローブはβ-ガラクトシダーゼ反応性蛍光プローブであり、本発明者らの検討結果によると、これら蛍光プローブは、乳腺線維腺腫および浸潤性乳管癌、非浸潤性乳管癌の画像診断に有効あった。従って、Lとして式(1)~(6)のいずれかの基を有する本発明の蛍光プローブは、乳癌及び良性腫瘍の両方を検出することが可能である。
【0025】
本発明の実施態様1の1つの好ましい側面は、以下の式(Ia)で表される化合物又はその塩を含む乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブである。
【0026】
ここで、Lは、以下の式(1)~(6)のいずれかの基から選択される。
【0027】
2.肺癌又は扁平上皮癌検出蛍光プローブ
本発明のもう1つの実施態様は、以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩を含む肺線癌又は肺扁平上皮癌検出蛍光プローブである(以下「実施態様2」とも言う)。
【0028】
一般式(I)における、R~R、X及びnは、実施態様1で説明したのと同様である。
【0029】
実施態様2においては、Lは、以下の式(5)又は(6)の基から選択される。
【0030】
Lとして式(5)又は(6)の基を有する蛍光プローブは、β-グルコシダーゼ又はβ-ガラクトシダーゼ反応性蛍光プローブであり、本発明者らの検討結果によると、これら蛍光プローブは、アミノペプチダーゼ反応性蛍光プローブでは検出できなかった肺扁平上皮癌に加えて、肺腺癌を含む主要な肺癌の特異的イメージングに有効であることがわかった。従って、Lとして式(5)又は(6)の基を有する本発明の蛍光プローブは、肺腺癌又は肺扁平上皮癌を特異的に検出することが可能である。
【0031】
本発明の実施態様2の1つの好ましい側面は、以下の式(Ia)で表される化合物又はその塩を含む肺線癌又は肺扁平上皮癌検出蛍光プローブである。
【0032】
ここで、Lは、以下の式(5)又は(6)の基から選択される。
【0033】
実施態様1及び2における一般式(I)で表される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。一般式(I)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、本発明においては、これらの物質も用いることができる。
【0034】
一般式(I)で表される化合物は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、本発明においては、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体なども用いることができる。
【0035】
一般式(I)で表される化合物の代表的化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は、これらの説明をもとにして、反応原料、反応条件、及び反応試薬などを適宜選択して、必要に応じてこれらの方法に修飾や改変を加えることにより、一般式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0036】
3.GGT活性検出プローブとの併用蛍光プローブ
実施態様1の蛍光プローブは、GGT活性検出プローブと併用することができる。例えば乳癌の検出にあたって、赤色GGTプローブと実施態様1の蛍光プローブを併用すれば、乳癌(悪性腫瘍)及び良性腫瘍の両方について同様に赤色蛍光を発するのに対して、本発明で用いるグリコシダーゼ反応性蛍光プローブは特に良性腫瘍において強い緑色蛍光を発する。両者の画像を複合すると、乳癌組織は赤色に、良性腫瘍組織は黄色に画像化する事が可能であった。従って、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブとGGTプローブを併用することにより、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブだけが蛍光発色する部位が良性腫瘍部、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブとGGTプローブの双方が蛍光発色する部位が乳癌(悪性腫瘍)部であると判定することが可能となり、良性腫瘍と悪性腫瘍を判別することが可能になる。これにより、外科手術において良性腫瘍部位を切除せずに、部分摘出手術の効率を改善することが可能である。
【0037】
即ち、本発明のもう1つの実施態様は、実施態様1の蛍光プローブと、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブである。
【0038】
ここで、GGT活性検出プローブとしては、以下の一般式(II)で表される化合物又はその塩が挙げられる。
【0039】
一般式(II)において、Xは、Si(R)(R)、Ge(R)(R)、Sn(R)(R)、C(R)(R)、P(=O)(R)又はOを表す。ここで、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。
は、水素原子、又はそれぞれ置換されていてもよいアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アルコキシ基、アミド基、及びアジド基よりなる群から独立に選択される1~4個の同一又は異なる置換基を表す。
は、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール、又はヘテロアリールを表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、スルホ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基及びアジド基よりなる群から独立に選択される1~3個の同一又は異なる置換基を表す。
、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表す。
ここで、R又はRは、それぞれRと一緒になって、それらが結合する窒素原子を含む環構造を形成してもよい。
【0040】
は、アミノ酸由来のアシル残基を表す。ここで、当該アシル残基は、アミノ酸のカルボキシル基からOH基を除去した残りの部分構造である残基を意味する。すなわち、アミノ酸由来のアシル残基のカルボニル部分と式(II)のRに隣接するNHとがアミド結合を形成し、これによりローダミン骨格と連結している。
「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基の両方を有する化合物であれば任意の化合物を用いることができ、天然及び非天然のものを含む。中性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は酸性アミノ酸のいずれであってもよく、それ自体が神経伝達物質などの伝達物質として機能するアミノ酸のほか、生理活性ペプチド(ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドのほか、オリゴペプチドを含む)やタンパク質などのポリペプチド化合物の構成成分であるアミノ酸を用いることができ、例えばαアミノ酸、βアミノ酸、γアミノ酸などであってもよい。アミノ酸としては、光学活性アミノ酸を用いることが好ましい。例えば、αアミノ酸についてはD-又はL-アミノ酸のいずれを用いてもよいが、生体において機能する光学活性アミノ酸を選択することが好ましい場合がある。
【0041】
は、標的とするペプチダーゼとの反応によって切断される部位である。前記標的ペプチダーゼが、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)、又はカルパインであることができる。それゆえ、標的ペプチダーゼがγ-グルタミルトランスペプチダーゼである場合、Rは、γ-グルタミル基であることが好ましい。また、標的ペプチダーゼがジペプチジルペプチダーゼIVである場合、Rは、プロリン残基を含むアシル基であることが好ましい。標的ペプチダーゼがカルパインである場合、Rは、例えば、システイン残基を含むアシル基であることができ、或いは、カルパイン基質として当該技術分野において公知のSuc-Leu-Leu-Val-Tyr(Suc-LLVY)やAcLMを用いることもできる。
一般式(II)で表される化合物の発蛍光の原理は、係属中の出願である特願2018-210101を参照。
【0042】
本発明の1つの好ましい態様は、実施態様1の蛍光プローブと、Rがγ-グルタミル基である一般式(II)の化合物又はその塩を含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブである。
【0043】
一般式(II)で表される化合物の中でも以下の化合物を好適に用いることができる。
【0044】
一般式(II)で表される化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。一般式(II)で表される化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、本発明においては、これらの物質も用いることができる。
【0045】
一般式(II)で表される化合物は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、本発明においては、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体なども用いることができる。
【0046】
本発明の1つの好ましい態様は、実施態様1の蛍光プローブと、式(7)の化合物又はその塩を含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出蛍光プローブである。
【0047】
4.本発明の蛍光プローブを用いた乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キット
本発明のもう1つの実施態様は、実施態様1の蛍光プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キットである。
また、本発明のもう1つの実施態様は、実施態様1の蛍光プローブと、GGT活性検出プローブを含む、乳癌及び乳腺の良性腫瘍検出用キットである。GGT活性検出プローブについては上記で説明した通りである。
また、本発明のもう1つの実施態様は、実施態様2の蛍光プローブを含む、肺線癌又は肺扁平上皮癌検出用キットである。
【0048】
当該キットにおいて、通常、本発明の蛍光プローブは溶液として調製されているが、例えば、粉末形態の混合物、凍結乾燥物、顆粒剤、錠剤、液剤など適宜の形態の組成物として提供され、使用時に注射用蒸留水や適宜の緩衝液に溶解して適用することもできる。
【0049】
また、当該キットには、必要に応じてそれ以外の試薬等を適宜含んでいてもよい。例えば、添加剤として、溶解補助剤、pH調節剤、緩衝剤、等張化剤などの添加剤を用いることができ、これらの配合量は当業者に適宜選択可能である。
【0050】
本発明のもう1つの実施態様は、乳癌及び乳腺の良性腫瘍を検知する方法であって、(a)実施態様1の蛍光プローブを乳房の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した乳房の臨床検体の蛍光像を測定することを含む、方法である。
(a)の工程で蛍光プローブを乳房の臨床検体に適用するには、例えば、蛍光プローブの溶液を局所的に乳房の臨床検体にスプレーすることによって行うことができる。
【0051】
また、本発明のもう1つの実施態様は、肺線癌又は肺扁平上皮癌を検知する方法であって、(a)実施態様2の蛍光プローブを肺線癌又は肺扁平上皮癌の臨床検体に適用する工程、及び(b)前記蛍光プローブを適用した肺線癌又は肺扁平上皮癌の臨床検体の蛍光像を測定することを含む、方法である。
(a)の工程で蛍光プローブを肺線癌又は肺扁平上皮癌の臨床検体に適用するには、例えば、蛍光プローブの溶液を局所的に肺線癌又は肺扁平上皮癌の臨床検体にスプレーすることによって行うことができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
[合成実施例1]
プローブ1(β-グルコシダーゼ反応性プローブ)の合成
HMRef(0.426g、1.07mmol)、2,3,4,6-tetra-O-acetyl α-D-glucopyranosyl bromide(8.26g、20.1mmol)、AgO(4.71g、20.3mmol)、NaSO(720mg、2.00mmol)を30mLのアセトニトリル(超脱水)に溶解し、室温で24時間攪拌した。反応溶液をセライト濾過し、濾液を回収してアセトニトリルを減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=95:5)で精製し、アセチル化糖付加体を得た。これをメタノールに溶解させ、NaOMe(520mg、9.63mmol)を5mLのメタノールに溶解させた溶液を添加し、室温で5時間攪拌した。反応溶液をAmberlite IR 120で中和し、メタノールを減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=90:10)で精製し、目的物(301mg、0.535mmol)を収率50.2%で得た。
【0054】
[合成実施例2]
プローブ5(α-マンノシダーゼ反応性プローブ)の合成
HMRef(96.0mg、0.24mmol)、penta-O-acetyl-D-mannopyranoside(3.33g、8.53mmol)、boron trifluoride diethyl ether complex(8.0mL、63.4mmol)、NaSO(500mg、3.34mmol)を15mLのジクロロメタンに溶解させ、24時間攪拌した。反応溶液をセライト濾過し、1M NaOHを用いて分液操作でジクロロメタン層を抽出し、減圧除去した。残渣を15mLのメタノールに溶解させ、NaOMe(1.60g、29.6mmol)をメタノール5mLに溶解させた溶液を添加し5時間室温で攪拌した。反応溶液をAmberlite IR 120で中和し、メタノールを減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=90:10)で精製し、粗生成物を得た。これをさらにHPLC(5-80% MeCN in water(0.1%TFA) over 90min)により精製し、目的物(61.6mg、0.200mmol)を収率45.6%で得た。
【0055】
[合成実施例3]
プローブ7(α-L-フコシダーゼ反応性プローブ)の合成
HMRef(90.0mg、0.226mmol)、2,3,4-Tri-O-acetyl-L-fucopyranosyl Trichloroacetimidate(862mg、1.99mmol)、TMSOTf(442mg、1.99mmol)を10mLのジクロロメタンに溶解させ、-41℃で12時間攪拌した。反応溶液をジクロロメタンで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。有機層を分液操作で抽出し、減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=95:5)で精製し、中間体を得た。これをメタノール5mLに溶解し、NaOMe(1.33g、24.6mmol)をメタノール5mLに溶解させた溶液を添加し5時間室温で攪拌した。反応溶液をAmberlite IR 120で中和し、メタノールを減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=95:5)で精製し、粗生成物を得た。これをさらにHPLC(5-80%MeCN in water(0.1%TFA) over 90min)により精製し、目的物(14.4mg、0.0257mmol)を収率11.7%で得た。
【0056】
[合成実施例4]
プローブ12(β-N-アセチルガラクトサミニダーゼ反応性プローブ)の合成
HMRef(46.7mg、0.117mmol)、2-acetoamide-3,4,6-tri-O-acetyl-2-deoxy-a-D-galactopyranosyl chloride(400mg、1.09mmol)、AgO(400mg、1.72mmol)、NaI(88.3mg、0.589mmol) and NaSO(500mg、3.34mmol)を10mLのアセトニトリル(超脱水)に溶解し、室温で24時間攪拌した。反応溶液をセライト濾過し、濾液を回収してアセトニトリルを減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=95:5)で精製し、アセチル化糖付加体を得た。これをメタノールに溶解させ、NaOMe(0.50g、9.25mmol)を5mLのメタノールに溶解させた溶液を添加し、室温で5時間攪拌した。反応溶液をAmberlite IR 120で中和し、メタノールを減圧除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=90:10)で精製し、粗生成物を得た。これをさらにHPLC(5-80%MeCN in water(0.1%TFA) over 90min)により精製し、目的物(11.3mg、0.0216mmol)を収率28.2%で得た。
【0057】
プローブ2に関してはMatsuzaki, H et al, Bioconju. Chem., 27(4), 973-981 (2016).の記載に、プローブ11に関してはAsanuma, D et al, Nat. Commun., 6, 6463 (2015). の記載に則り合成した。
また、プローブ3、4、6、8、9、10については、上記プローブと同様の方法で合成した。
【0058】
[実施例1]
乳癌と良性の検出のためのグリコシダーゼ反応性蛍光プローブのスクリーニング
上記で合成した12種類のグリコシダーゼ反応性蛍光プローブ(図1参照)を用いて、乳癌と良性の検出のためのスクリーニングを以下の手順で行った。
乳腺臨床検体を置いた各ウェルに、50μM濃度の各蛍光プローブのPBS溶液200μLを添加し、1、3、5、10、20、30分の540nmの蛍光像をマエストロin vivo イメージングシステム(PerkinElmer)を用いて取得した。各蛍光強度値はマエストロソフトウェア上でRegions Of Interest(ROIs)をとり定量及び比較を行った。フィルター設定はEx/Em=465-30nm/515nm long-passを用いた。
【0059】
結果を図2に示す。
図2のaは、外科的に切除されたヒト乳房標本を用いた蛍光プローブのスクリーニングの結果を示す。
【0060】
図2のbは、各阻害剤の存在下および非存在下での乳房FA組織における30分での蛍光増加を示す。黒い棒グラフは阻害剤の非存在下での蛍光の増加を表し、灰色の棒グラブは、阻害剤の存在下での蛍光の増加を表す。蛍光プローブ濃度=50μM、阻害剤濃度=500μMである。
【0061】
図2のcは、12種類の蛍光プローブを用いた正常乳房、IDC(乳癌)およびFA(良性腫瘍)組織における無傷のグリコシダーゼ活性の包括的分析の結果を示す。蛍光の増加は、蛍光プローブ添加後1分から30分後の増加を表す。各ドットは、左から順に、正常乳房、IDC、DCISおよびFA組織の蛍光の増加を表す。図3のcから、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ1、2、5、7、11及び12は、乳癌及びFA(良性腫瘍)組織の両方について蛍光の増加を示した。
【0062】
図2のdは、MAN2C1についての正常乳腺、FAまたはIDC組織の免疫組織化学的分析の結果を示す。染色された細胞が見つからなかった場合、組織を陰性と評価し、そうでなければそれらを陽性と評価した。結果として、正常組織よりもFA、IDC組織で強い染色を確認し、これらの組織におけるMAN2C1の過剰発現を確認した。
【0063】
図2のeはDEGアッセイの結果を示す。DEGアッセイは、J. Am. Chem. Soc., 135, 6002-6005 (2013)に記載されている手順に則って行った。
FA組織について、α-マンノシダーゼ反応性プローブ5を用いて、DEGアッセイを実施したところ、二次元電気泳動でただ一つの蛍光スポットを認め、そのスポットからペプチドマスフィンガープリンティングによりMAN2C1を同定した。また、IDC組織においても二次元電気泳動で同様の蛍光スポットをただ一つ確認した。これらの結果から、α-マンノシダーゼ反応性プローブ5の蛍光上昇に関与した責任酵素はMAN2C1である事が分かった。
【0064】
図2のcで蛍光の増加を示した6種類のグリコシダーゼ反応性蛍光プローブ(1、2、5、7、11及び12)について、乳癌検体における蛍光プローブの評価を行った。検体として、乳癌IDCを4例、DCISを1例用い、蛍光プローブ濃度=50μMで行った。
結果を図3に示す。図3から、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5と11が蛍光の上昇が大きく、また腫瘍と正常組織間の蛍光強度比も大きいことが確認された。
【0065】
グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5(HMRef-α-D-Man)及び11(HMRef-β-D-GlcNAc)について、乳癌、良性腫瘍における蛍光の上昇を比較した結果を図4に示す(蛍光プローブ濃度=50μM)。
乳腺臨床検体を置いた各ウェルには、上記濃度の蛍光プローブのPBS溶液200μLを添加し、1、3、5、10、20、30分の540nmの蛍光像をマエストロin vivo イメージングシステム(PerkinElmer)を用いて取得した。各蛍光強度値はマエストロソフトウェア上でRegions Of Interest(ROIs)をとり定量及び比較を行った。フィルター設定はEx/Em=465-30nm/515nm long-passを用いた。
【0066】
結果としてグリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5(HMRef-α-D-Man)、11(HMRef-β-D-GlcNAc)は正常乳腺(Normal)に比べ腫瘍組織で高い蛍光上昇を示し、また癌組織(IDC、DCIS)より良性腫瘍組織(FA)でより高い蛍光を示した。これらの結果から両プローブは乳癌蛍光イメージング、もしくは良性腫瘍の特異的検出に有効である可能性が示唆された。
【0067】
また、12種類のグリコシダーゼ反応性蛍光プローブを用いた、乳癌(IDC)及び良性腫瘍(FA)について、蛍光上昇の時間変化のイメージング画像を図5~6に示す。実験は以下の条件で行った。
乳腺臨床検体を置いた各ウェルには、上記濃度の蛍光プローブのPBS溶液200 mLを添加し、1、3、5、10、20、30分の540nmの蛍光像をマエストロin vivoイメージングシステム(木)PerkinElmer)を用いて取得した。各蛍光強度値はマエストロソフトウェア上でRegions Of Interest(ROIs)をとり定量及び比較を行った。フィルター設定はEx/Em=465-30nm/515nm long-passを用いた。
図5は乳癌組織を用いた蛍光イメージングの結果(右図)であり、図6は良性腫瘍(FA)を用いた蛍光イメージングの結果(右図)である。
【0068】
[実施例2]
HMRef-a-D-Manを用いた乳腺腫瘍イメージング
グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5(HMRef-a-D-Man)(濃度:50 mM)を用いて以下の条件でイメージングを行った。
乳腺臨床検体(正常部と腫瘍部の混在した検体)を置いたディッシュに上記濃度の蛍光プローブのPBS溶液3mLを添加し、各時間の蛍光画像を取得した。以下、DCIS、FAの臨床検体の蛍光画像はマエストロin vivo イメージングシステム(PerkinElmer)を用いて取得した。各フィルター設定はEx/Em=465-30nm/515nm long-pas sを用いた。IDCの臨床検体の蛍光画像はマエストロin vivo イメージングシステムと同等なhomme madeのポータブルイメージング装置を用いて取得した。
【0069】
結果を図7~8に示す。
図7のaは、外科切除されたIDC(乳がん)のイメージング結果を示す。
プローブ散布後、20分程度でIDC部位のみが強い蛍光で可視化された。
【0070】
図7のbは、上記検体の組織学的解析結果及び、MAN2C1の免疫染色結果を示す。蛍光上昇が確認された部位と組織学的にIDCである部位、MAN2C1が高発現している部位の一致が確認された。
図7のcは、外科切除されたDCIS(乳がん)のイメージング結果を示す。プローブ散布後、15分以内でDCIS部位のみが強い蛍光で可視化された。
【0071】
図7のdは、上記検体のRegions Of Interes t(ROIs)と、その組織学的解析結果及び、MAN2C1の免疫染色結果の例を示す。蛍光上昇が確認された部位と組織学的にDCISである部位、MAN2C1が高発現している部位の一致が確認された。また、1mm以下の非常に微小なDCIS組織の検出も確認された。
【0072】
図7のeは、上記検体のRegions Of Interes t(ROIs)の15分での蛍光上昇値を示す。組織学的に正常である部位では蛍光の顕著な上昇は確認されず、組織学的にDCISである部位では顕著な蛍光上昇が認められた。
【0073】
図8のaは、外科切除されたFA(良性腫瘍)のイメージング結果を示す。プローブ散布後、10分以内でFA部位のみが強い蛍光で可視化された。
【0074】
図8のbは、上記検体の組織学的解析結果及び、MAN2C1の免疫染色結果を示す。蛍光上昇が確認された部位と組織学的にFAである部位、MAN2C1が高発現している部位の一致が確認された。
【0075】
[実施例3]
HMRef-α-D-ManとGGTプローブを併用した良性腫瘍と乳癌の区別
グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5(HMRef-α-D-Man)(濃度:50μM)及びGGTプローブであるgGlu-2-OMeSiR600(濃度:50μM)を併用して以下の条件で二色イメージングを行った。
乳腺臨床検体を置いた各ウェルには、上記濃度の蛍光プローブのPBS溶液200μLを添加し、1、3、5、10、20、30分の540nm及び640nmの蛍光像をマエストロin vivoイメージングシステム(PerkinElmer)を用いて取得した。各蛍光強度値はマエストロソフトウェア上でRegions Of Interest(ROIs)をとり定量及び比較を行った。グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5に関して、フィルター設定はEx/Em=465-30nm/515nm long-passを用いた。GGTプローブに関しては、Ex/Em=570-40nm/610nm long-passを用いた。
【0076】
結果を図9に示す。
図9のaは、540nmでの蛍光画像および500~720nmでの疑似実カラー画像を示す。図9のbは、640nmでの蛍光画像および600~820nmでの疑似実カラー画像を示す。 蛍光画像の露光時間(ミリ秒)は、各画像の下部に示されている。
図9のcは、両方のプローブを乳癌及び良性腫瘍の組織に投与後30分での緑色および赤色蛍光画像の合成画像を示す。露光時間は緑色の画像で40ミリ秒、赤色の画像で20ミリ秒である。図9のdは、各時点における合成画像の比較を示す。
図9のcから、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブ5は良性腫瘍について緑色蛍光を発したのに対して、赤色GGTプローブgGlu-2OME-SiR600は乳癌(悪性腫瘍)及び良性腫瘍の両方について赤色蛍光を発した。両者の画像を複合すると、乳癌組織は赤色に、良性腫瘍組織は黄色に画像化する事が可能であった。従って、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブとGGTプローブを併用することにより、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブだけが蛍光発色する部位が良性腫瘍部、グリコシダーゼ反応性蛍光プローブとGGTプローブの双方が蛍光発色する部位が乳癌(悪性腫瘍)部であると判定することが可能となり、良性腫瘍と悪性腫瘍を判別することが可能になる。これにより、外科手術において良性腫瘍部位を切除せずに、部分摘出手術の効率を改善することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9