(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】振動成分測定装置、ケルビンプローブ力顕微鏡、振動成分測定方法
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/30 20100101AFI20241129BHJP
【FI】
G01Q60/30
(21)【出願番号】P 2022510644
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012464
(87)【国際公開番号】W WO2021193799
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2020056446
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】菅原 康弘
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/040065(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/038659(WO,A1)
【文献】特開2004-294218(JP,A)
【文献】特開2000-329680(JP,A)
【文献】特開2013-053878(JP,A)
【文献】特開2003-172685(JP,A)
【文献】特開2011-053018(JP,A)
【文献】特表2014-502354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0245815(US,A1)
【文献】特開2004-226238(JP,A)
【文献】NOMURA Hikaru, et al.,Dissipative force modulation Kelvin probe force microscopy applying doubled frequency ac bias voltag,Applied Physics Letters,米国,2007年,Vol. 90, No. 3,p. 033118-1 - 033118-3,[検索日: 2021.05.19], インターネット:<https://aip.scitation.org/doi/pdf/10.1063/1.2432281 でダウンロード可能>, <DOI: https://doi.org/10.1063/1.2432281>,
【文献】山田啓文,周波数変調型ケルビンプローブ原子間力顕微鏡による有機薄膜評価,表面科学,日本,2007年,Vol. 28, No. 5,p. 253―263,[検索日: 2021.05.19], インターネット:<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj/28/5/28_5_253/_pdf でダウンロード可能>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 60/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
インターネット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動部と、
第1交流信号を生成する第1交流信号生成器と、
前記第1交流信号の周波数の、1倍より大きく2倍未満の周波数、あるいは、2倍より大きく3倍未満の周波数を有する第2交流信号を生成する第2交流信号生成器と、
前記振動部とサンプルとの間に、少なくとも前記第2交流信号を印加する信号印加部と、
前記第1交流信号に基づき前記振動部を振動させる振動制御部と、
前記振動部と前記サンプルとの相互作用により変動する、前記振動部の振動の変動成分を測定する測定部とを備えた振動成分測定装置。
【請求項2】
さらに、前記第1交流信号より低周波の参照交流信号を生成する参照交流生成器を備え、
前記第2交流信号が、前記第1交流信号の周波数の2倍の周波数に、前記参照交流信号の周波数を加えた周波数、あるいは、前記第1交流信号の周波数の2倍の周波数から、前記参照交流信号の周波数を差し引いた周波数を有する請求項1に記載の振動成分測定装置。
【請求項3】
前記第2交流信号生成器は、前記第1交流信号の周波数の2倍の周波数を有する倍周波信号を生成する倍周波生成器と、前記倍周波信号と前記参照交流信号とから前記第2交流信号を生成する第2振幅変調器とを備えた請求項2に記載の振動成分測定装置。
【請求項4】
前記振動部とサンプルとの間に印加する信号を、前記第2交流信号と前記参照交流信号との間において切り替えるスイッチを含む請求項2または3に記載の振動成分測定装置。
【請求項5】
前記測定部が、
前記振動部の振動成分を検出し、前記振動成分に基づいて測定信号を生成する測定信号生成器と、
前記測定信号に基づいて生成された比較信号と、前記参照交流信号に基づいて生成された基準信号とを比較して、前記変動成分を算出する第1ロックインアンプとを備えた請求項2から4の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項6】
前記測定信号は、前記振動部の振動数と前記第1交流信号の周波数との差に基づいて生成され、
前記変動成分は、前記基準信号の周波数と前記比較信号の周波数との差である請求項5に記載の振動成分測定装置。
【請求項7】
前記測定信号生成器は、前記測定信号を生成する位相同期ループ回路を含む請求項6に記載の振動成分測定装置。
【請求項8】
前記測定信号は、前記振動部の振動の振幅と前記第1交流信号の振幅との差に基づいて生成され、
前記変動成分は、前記基準信号の振幅と前記比較信号の振幅との差である請求項5に記載の振動成分測定装置。
【請求項9】
前記測定信号生成器は、前記測定信号を生成する第2ロックインアンプを含む請求項8に記載の振動成分測定装置。
【請求項10】
さらに、前記サンプルを支持するステージと、該ステージの位置を制御することにより、前記サンプルに対する前記振動部の位置を制御するステージ制御部とを備え、
前記ステージ制御部は、前記測定信号に基づいて、前記ステージの位置を制御する請求項5から9の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項11】
前記測定部は、さらに、前記第1交流信号の周波数の2倍の周波数を有する倍周波信号と、前記測定信号とから、前記比較信号を生成する、第1振幅変調器を含む請求項5から10の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項12】
前記測定信号生成器は、前記振動部の振動の振動数を検出し、
前記第1交流信号生成器は、前記測定信号生成器が検出する前記振動数に基づいて、前記第1交流信号を生成する請求項5から11の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項13】
前記測定信号生成器と前記第1交流信号生成器とは、共通の位相同期ループ回路を備えた請求項12に記載の振動成分測定装置。
【請求項14】
さらに、前記位相同期ループ回路から出力された前記第1交流信号の利得を制御する自動利得制御回路を備えた請求項13に記載の振動成分測定装置。
【請求項15】
さらに、直流信号を生成する直流信号生成器を備え、
前記信号印加部は、前記振動部とサンプルとの間に、前記第2交流信号に、前記直流信号の電圧を加えた信号を印加する請求項1から14の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項16】
前記直流信号生成器は、前記直流信号の電圧を、前記変動成分に基づいて制御する請求項15に記載の振動成分測定装置。
【請求項17】
前記振動部が、カンチレバー探針である、請求項1から16の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項18】
請求項17に記載の振動成分測定装置を備えたケルビンプローブ力顕微鏡。
【請求項19】
前記振動部が、板バネである、請求項1から16の何れか1項に記載の振動成分測定装置。
【請求項20】
振動部を振動させるための第1交流信号を生成する第1交流信号生成工程と、
前記第1交流信号の周波数の、1倍より大きく2倍未満の周波数、あるいは、2倍より大きく3倍未満の周波数を有する第2交流信号を生成する第2交流信号生成工程と、
前記第2交流信号を、前記振動部とサンプルとの間に印加しつつ、前記第1交流信号に基づき前記振動部を振動させることにより、前記振動部と前記サンプルとの相互作用により変動する、前記振動部の振動の変動成分を測定する測定工程とを含む振動成分測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動部の振動の変動成分を測定する手法、および、当該手法を実現するための装置、特に、当該装置を備えた顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1は、振動するカンチレバー探針と、サンプルとの間に、交流電圧を印加しつつ、カンチレバー探針の振動の変動成分を測定することにより、サンプルの表面の構造、および、サンプルの表面における局所電界を測定する手法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】M. Nonnenmacher, M. P. O’Boyle, and H. K. Wickramasinghe, Kelvin probe force microscopy, Appl.Phys.Lett., 58(25), 1991, 2921.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載される従来の測定手法においては、カンチレバー探針とサンプルとの間に印加される交流電圧の周波数を増加させると、変動成分の情報を含む測定信号の強度が極端に低下する。このため、上記測定手法においては、測定信号のSN比を十分に確保するために、カンチレバー探針とサンプルとの間に印加される交流電圧の周波数を低くする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る振動成分測定装置は、振動部と、第1交流信号を生成する第1交流信号生成器と、前記第1交流信号の周波数の、1倍より大きく2倍未満の周波数、あるいは、2倍より大きく3倍未満の周波数を有する第2交流信号を生成する第2交流信号生成器と、前記振動部とサンプルとの間に、少なくとも前記第2交流信号を印加する信号印加部と、前記第1交流信号に基づき前記振動部を振動させる振動制御部と、前記振動部と前記サンプルとの相互作用により変動する、前記振動部の振動の変動成分を測定する測定部とを備える。
【0006】
また、本開示の他の一態様に係る振動成分測定方法は、振動部を振動させるための第1交流信号を生成する第1交流信号生成工程と、前記第1交流信号の周波数の、1倍より大きく2倍未満の周波数、あるいは、2倍より大きく3倍未満の周波数を有する第2交流信号を生成する第2交流信号生成工程と、前記第2交流信号を、前記振動部とサンプルとの間に印加しつつ、前記第1交流信号に基づき前記振動部を振動させることにより、前記振動部と前記サンプルとの相互作用により変動する、前記振動部の振動の変動成分を測定する測定工程とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、カンチレバー探針等を含む振動部とサンプルとの間に印加する交流信号の周波数を、振動部の振動周波数と同程度のオーダーまで高めつつ、より効率的に振動部の振動成分を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図2】実施形態1に係る光センサが受信する信号の強度を、当該信号の周波数ごとに示すグラフである。
【
図3】実施形態1に係る第1位相同期ループ回路と、自動利得制御との構成を説明するためのブロック図である。
【
図4】実施形態1に係る第2位相同期ループ回路の構成を説明するためのブロック図である。
【
図5】実施形態1に係る第1振幅変調器に入力される信号の強度を、当該信号の周波数ごとに示すグラフである。
【
図6】実施形態1に係る第1ロックインアンプに入力される信号の強度を、当該信号の周波数ごとに示すグラフである。
【
図7】実施形態1に係る振動成分測定装置の動作の、他の例を説明するためのブロック図である。
【
図8】実施形態1に係る光センサが受信する信号の強度の他の例を、当該信号の周波数ごとに示すグラフである。
【
図9】実施形態2に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図10】実施形態3に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図11】実施形態4に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図12】実施形態5に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図13】実施形態6に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図14】サンプルの表面状態により、当該サンプルのバルクにおけるバンドが湾曲する様子を説明するためのバンド図である。
【
図15】外部電界の変動により、サンプルのバルクにおけるバンド湾曲が変動する様子を説明するためのバンド図である。
【
図16】当該サンプルのバルクにおけるバンド湾曲の変動が発生しなくなる、外部電極に印加する信号の遮断周波数を、サンプルのバルクのフェルミ準位と、当該サンプルの表面のフェルミ準位との差ごとに示すグラフである。
【
図17】サンプルの表面における電位を、外部電極に印加する信号の遮断周波数を切り替えつつ測定することにより得られた電位像と、当該電位像を解析して得られた、サンプル表面の状態を示す画像である。
【
図18】実施形態7に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【
図19】実施形態8に係る振動成分測定装置の構成と、当該振動成分測定装置の動作とを説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において用いられる図は模式図であり、図面上の各部材の寸法比率を厳密に示すものではない。
【0010】
図1は、本実施形態に係る振動成分測定装置2の構成と、当該振動成分測定装置2の動作とを説明するためのブロック図である。なお、本実施形態に係る振動成分測定装置2は、後述する第1スイッチS1と第2スイッチS2とをそれぞれ複数備える。本実施形態においては、はじめに、第1スイッチS1が閉じられ、第2スイッチS2が開放された状態における、振動成分測定装置2の動作を例に挙げて説明する。
【0011】
<カンチレバー探針およびステージ>
本実施形態に係る振動成分測定装置2は、振動部としてカンチレバー探針4を備える。カンチレバー探針4は、カンチレバー部6と、当該カンチレバー部6の端部に形成された探針部8とを備える。本実施形態に係る振動成分測定装置2は、カンチレバー探針4のカンチレバー部6を振動させながら、探針部8をサンプルXと近接させ、カンチレバー探針4の振動成分を測定するための装置である。
【0012】
なお、本実施形態においては、サンプルXとカンチレバー探針4とが、常に非接触である状態に維持しつつ、カンチレバー探針4の振動成分の測定を行う手法を例に挙げて説明を行うが、これに限られない。例えば、カンチレバー探針4の振動に伴い、サンプルXとカンチレバー探針4とが、間欠的に接触する、一般にタッピングモードと呼称される手法を使用して、カンチレバー探針4の振動成分の測定を行ってもよい。しかしながら、サンプルXへのダメージの発生を防止する観点からは、サンプルXとカンチレバー探針4とを常に非接触である状態に維持しつつ、カンチレバー探針4の振動成分の測定を行うことが好ましい。
【0013】
振動成分測定装置2は、印加された電圧の周波数に対応する振動数において、カンチレバー探針4を振動させる振動制御部として、探針制御部10を備えている。具体的には、カンチレバー探針4の共振周波数が周波数f1である場合、探針制御部10には、周波数f1を有する第1交流信号が入力される。
【0014】
振動成分測定装置2は、サンプルXを支持するためのステージ12と、サンプルXに電圧を印加するためのステージ電極14とを備える。例えば、
図1に示すように、ステージ電極14とサンプルXとを電気的に導通させ、カンチレバー探針4を接地する。これにより、ステージ電極14に電圧を印加すると、カンチレバー探針4とサンプルXとの間に、ステージ電極14に印加した電圧と同一の電圧を印加することが可能となる。
【0015】
なお、詳細を後述するが、本実施形態において、ステージ電極14には、上述した周波数f1の2倍と、周波数f1よりも低い周波数である周波数fmとを足し合わせた周波数を有する、第2交流信号が印加される。第2交流信号には、詳細を後述するが、電圧Vdcを有する直流信号が重畳されていてもよい。
【0016】
<振動成分の検出>
本実施形態において、カンチレバー探針4の振動成分の検出は、例えば、振動成分測定装置2が備える、光源16と光センサ18とによる、いわゆる、光てこ方式を使用して実施する。
【0017】
光源16は、例えば、レーザダイオードであり、カンチレバー探針4に光を照射する。カンチレバー探針4に照射され、反射した光は、光センサ18に照射される。
【0018】
ここで、光センサ18は、光位置センサであり、例えば、4分割フォトダイオードであってもよい。カンチレバー探針4において反射した光の、光センサ18における照射位置は、カンチレバー探針4の振動により変動する。このため、光センサ18は、カンチレバー探針4において反射した光を受けた位置の変動成分から、カンチレバー探針4の振動成分を割り出すことができる。
【0019】
例えば、光センサ18は、光を受ける位置の周期的変動、および、各位置における受光強度に基づいて、カンチレバー探針4の振動強度を、カンチレバー探針4の振動数ごとに算出する。また、光センサ18は、検出結果に応じて、信号を出力する。本実施形態において、光センサ18が出力する信号は、光センサ18が算出した、カンチレバー探針4の振動数ごとの、カンチレバー探針4の振動強度を、周波数ごとの信号強度に置き換えた信号である。
【0020】
<光センサが出力する信号>
光センサ18が出力する信号の例を、
図2のグラフに示す。
図2において、横軸は、光センサ18が出力する信号の周波数、縦軸は、光センサ18が出力する信号の強度を示す。
【0021】
光センサ18が出力する信号のうち、主な成分は、カンチレバー探針4の振動数に相当する、周波数f1を有する成分である。
【0022】
ここで、カンチレバー探針4とサンプルXとの間に、周波数2f
1+f
mの第2交流信号を印加している。このため、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用は、この周波数に応じて変化する。このため、カンチレバー探針4の振動は、振動数2f
1+f
mの成分を有する。したがって、光センサ18が出力する信号は、
図2に示すように、周波数2f
1+f
mに成分を有する。
【0023】
また、カンチレバー探針4が振動数f
1において振動しているため、カンチレバー探針4の振動は、振動数f
1+f
mおよび振動数3f
1+f
mに、変調成分の
側波帯を有する。このため、光センサ18が出力する信号は、
図2に示すように、周波数f
1+f
mおよび周波数3f
1+f
mにおいても成分を有する。
【0024】
さらに、カンチレバー探針4の探針部8と対向するサンプルXとの間に、表面電位差がある場合、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用が、当該表面電位差により変化する。具体的には、表面電位差は、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の接触電位差、あるいは、サンプルX上の電荷分布によって変化する。当該表面電位差による、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用の変化は、カンチレバー探針4の振動数をΔfだけシフトさせる。さらに、カンチレバー探針4の振動の変動成分は、光センサ18によって出力された信号の変調成分の側波帯における、振幅Rと位相θとの変化として観測される。
【0025】
換言すれば、本実施形態において、カンチレバー探針4の振動の変調成分の側波帯における、振幅Rと位相θとの変化を観測することにより、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の表面電位差を測定することが可能である。
【0026】
なお、上述した、カンチレバー探針4の振動の変調成分の側波帯における信号は、上側波帯の場合であってもよく、下側波帯の場合であってもよい。換言すれば、fmは、正の値をとってもよく、負の値をとってもよい。
【0027】
なお、第2交流信号の周波数を、カンチレバー探針4の振動数に対し増加させた場合、カンチレバー探針4の振動の変調成分の側波帯の強度は、急激に小さくなる。このため、第2交流信号の周波数を単純に増加させるのみでは、当該側波帯が、ホワイトノイズに埋もれるため、観測することが困難となる場合がある。
【0028】
しかしながら、第2交流信号の周波数を、カンチレバー探針4の振動数の2倍付近まで増加させると、カンチレバー探針4の振動の変調成分の側波帯の強度が増大する。このため、第2交流信号の周波数を、カンチレバー探針4の振動数の2倍付近とすることにより、当該側波帯の強度が強くなり、より容易に測定を実施することができる。
【0029】
本実施形態において、第2交流信号の周波数は、カンチレバー探針4の振動数に相当する周波数f1の2倍に、周波数f1よりも低い周波数fmを加えた周波数である。このため、第2交流信号の周波数は、カンチレバー探針4の振動数の2倍付近となり、カンチレバー探針4の振動の変調成分を、十分に強くすることができる。
【0030】
<第1位相同期ループ回路および自動利得制御回路>
光センサ18から出力された信号は、振動成分測定装置2が備える、第1位相同期ループ回路20と、第2位相同期ループ回路22とに入力される。第1位相同期ループ回路20は、入力された信号を基にさらに信号を生成し、振動成分測定装置2が備える、自動利得制御回路24とステージ制御部26とに入力する。
【0031】
ここで、第1位相同期ループ回路20と、第2位相同期ループ回路22との構成および動作について、
図3および
図4を参照して、詳細に説明する。
【0032】
図3は、第1位相同期ループ回路20の構成および動作について示すためのブロック図である。なお、
図3を参照して、
図1に示す、第1位相同期ループ回路20から出力される信号の一部が入力される、自動利得制御回路24についても説明する。
【0033】
第1位相同期ループ回路20は、狭帯域ロックインアンプ28と、PID制御器30と、電圧制御発振器32とを備える。自動利得制御回路24は、PID制御器34と、乗算器36とを備える。
【0034】
光センサ18から第1位相同期ループ回路20に入力された信号は、狭帯域ロックインアンプ28に入力される。狭帯域ロックインアンプ28は、光センサ18から入力された信号と、後に詳述する電圧制御発振器32から入力された基準となる信号との位相を比較する、位相比較器として用いられる。本実施形態においては、狭帯域ロックインアンプ28は、光センサ18からの信号と、基準となる信号との、位相差および振幅差を、それぞれ、電圧に置き換えた信号を出力する。
【0035】
具体的には、狭帯域ロックインアンプ28は、入力された2つの信号を乗算する乗算器と、当該乗算器により生成された信号のうち、低周波の成分のみを抽出するためのローパスフィルタとを有する。このため、狭帯域ロックインアンプ28においては、乗算器から、入力された2つの信号の周波数の、合計に相当する周波数を有する高周波と、差に相当する周波数を有する低周波が出力されるものの、ローパスフィルタにより、低周波のみが抽出される。
【0036】
狭帯域ロックインアンプ28から出力される、光センサ18からの信号と基準となる信号との位相差を、電圧に置き換えた信号は、PID制御器30を介して、電圧制御発振器32に入力される。電圧制御発振器32は、PID制御器30から入力された信号に基づいて、一定の周波数を有する信号を出力する。
【0037】
電圧制御発振器32は、例えば、水晶振動子を共振子として含む、電圧制御水晶発振器(VCXO)であってもよい。本実施形態において、電圧制御発振器32は、PID制御器30から入力された信号に基づいて、周波数f1を有する、第1交流信号を生成する。換言すれば、電圧制御発振器32の共振子は、周波数f1において発振する。
【0038】
PID制御器30は、電圧制御発振器32が出力する第1交流信号の位相と、光センサ18から第1位相同期ループ回路20に入力される信号の、周波数f1の成分の位相とがπ/2だけずれるように、電圧制御発振器32にフィードバックする。
【0039】
このため、狭帯域ロックインアンプ28から出力される信号のうち、光センサ18からの信号と、第1交流信号との、位相差を電圧に置き換えた信号は、光センサ18からの信号と、第1交流信号との、それぞれの周波数の差に相当する周波数を有する。また、狭帯域ロックインアンプ28から出力される信号のうち、光センサ18からの信号と、第1交流信号との、振幅差を電圧に置き換えた信号は、光センサ18からの信号と、第1交流信号との、それぞれの振幅の差に相当する振幅を有する。
【0040】
狭帯域ロックインアンプ28から出力される信号のうち、光センサ18からの信号と、第1交流信号との、振幅差を電圧に置き換えた信号は、自動利得制御回路24のPID制御器34を介して、乗算器36に入力される。また、乗算器36には、電圧制御発振器32から出力された第1交流信号が入力され、PID制御器34からの信号と乗算される。
【0041】
これにより、PID制御器34は、狭帯域ロックインアンプ28からの信号に基づき、電圧制御発振器32から出力される第1交流信号の利得のフィードバックを行う。このため、自動利得制御回路24から出力される第1交流信号の振幅は略一定に保たれる。
【0042】
図1に示すように、自動利得制御回路24から出力された第1交流信号は、探針制御部10に印加される。自動利得制御回路24によって、第1交流信号の振幅のフィードバックがなされているため、探針制御部10には、略一定振幅の第1交流信号が入力される。このため、第1位相同期ループ回路20は、第1交流信号を生成する第1交流信号生成器として機能する。
【0043】
したがって、第1位相同期ループ回路20は、カンチレバー探針4の振動の振動数を検出し、当該振動数に基づいて第1交流信号を生成する。このため、別途第1交流信号を生成する装置を用意する必要がなく、一度カンチレバー探針4を発振させた後は、第1位相同期ループ回路20は、継続して第1交流信号を生成することができる。
【0044】
振動成分測定装置2が備える、測定信号生成器と第1交流信号生成器とは、共通の第1位相同期ループ回路20を備える。これにより、第1位相同期ループ回路20が、継続的に第1交流信号を生成できるのみならず、第1位相同期ループ回路20が測定信号の生成を行うことができる。このため、振動成分測定装置2が備える回路の個数を低減でき、振動成分測定装置2の簡素化につながる。
【0045】
<第2位相同期ループ回路>
図4は、第2位相同期ループ回路22の構成および動作について示すためのブロック図である。第2位相同期ループ回路22は、第1位相同期ループ回路20と同じく、PID制御器30と、電圧制御発振器32とを備える。また、第2位相同期ループ回路22は、第1位相同期ループ回路20と比較して、狭帯域ロックインアンプ28に代えて、広帯域ロックインアンプ38を備える。
【0046】
光センサ18から第2位相同期ループ回路22に入力された信号は、広帯域ロックインアンプ38に入力される。広帯域ロックインアンプ38は、狭帯域ロックインアンプ28と比較して、備えるローパスフィルタの帯域が広い点を除いて、同一の構成を備える。このため、広帯域ロックインアンプ38は、狭帯域ロックインアンプ28と同じく、光センサ18からの信号と、基準となる信号との、位相差および振幅差を、それぞれ、電圧に置き換えた信号を出力する。
【0047】
第2位相同期ループ回路22が備えるPID制御器30および電圧制御発振器32は、第1位相同期ループ回路20が備えるPID制御器30および電圧制御発振器32と同一の機能を有する。換言すれば、PID制御器30は、広帯域ロックインアンプ38から入力された信号から、光センサ18からの信号の周波数と、基準となる信号の周波数との差に相当する周波数を有する信号を出力する。ただし、後述する理由から、第2位相同期ループ回路22において、電圧制御発振器32は、PID制御器30から入力された信号に基づいて、周波数f1+fmを有する信号を生成し、広帯域ロックインアンプ38に入力する。
【0048】
<位相同期ループ回路から出力される信号>
図2に示すように、光センサ18から出力される信号には、周波数f
1の成分、および、周波数f
1+f
mの成分が含まれている。このため、狭帯域ロックインアンプ28および広帯域ロックインアンプ38には、周波数f
1の成分、および、周波数f
1+f
mの成分を有する信号がそれぞれ入力される。
【0049】
このため、狭帯域ロックインアンプ28に入力された信号は、周波数f1を有する第1交流信号と比較される。ここで、狭帯域ロックインアンプ28は、ローパスフィルタの帯域が十分に狭い。このため、第1位相同期ループ回路20のPID制御器30からは、直流成分を有する信号が出力される。当該直流成分を有する信号の強度は、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用による、カンチレバー探針4の振動の周波数シフトΔfの大きさに対応する。
【0050】
また、広帯域ロックインアンプ38に入力された信号は、周波数f1+fmを有する第1交流信号と比較される。ここで、広帯域ロックインアンプ38は、狭帯域ロックインアンプ28と比較して、ローパスフィルタの帯域が広い。このため、第2位相同期ループ回路22のPID制御器30からは、直流成分に加え、周波数fmの成分を有する信号が出力される。したがって、第2位相同期ループ回路22からは、カンチレバー探針4の振動の変動成分を含む、周波数fmの成分を含む、測定信号が出力される。なお、第2位相同期ループ回路22の電圧制御発振器32は、直流成分に加え、周波数fmの成分を有する信号に基づいて発振するため、周波数f1+fmを有する信号を出力する。
【0051】
上記から、振動成分測定装置2は、測定信号を生成する測定信号生成器として、光源16と、光センサ18と、第1位相同期ループ回路20と第2位相同期ループ回路22とを備える。
【0052】
ここで、第2位相同期ループ回路22から出力される測定信号は、
図1に示すように、ハイパスフィルタ40に入力される。ハイパスフィルタ40は、入力された信号から、直流成分を除去する。このため、ハイパスフィルタ40は、
図5のグラフに示すように、周波数f
mの成分のみを有する測定信号を出力する。
【0053】
加えて、光センサ18から出力される信号には、周波数2f1+fmの成分および周波数3f1+fmの成分が含まれている。しかしながら、本実施形態において、狭帯域ロックインアンプ28は、ローパスフィルタにより、前述の通り、直流成分付近を除く周波数の成分を有する信号を出力しない。加えて、広帯域ロックインアンプ38についても、ローパスフィルタにより、周波数fmよりも高い周波数の成分を有する信号を出力しないように構成されている。
【0054】
<ステージへのフィードバック>
第1位相同期ループ回路20から出力された測定信号のうち、直流成分を有する信号は、ステージ制御部26に入力される。ステージ制御部26は、測定信号に基づいて、ステージ12の位置を制御する。これにより、ステージ制御部26は、サンプルX上における探針部8の位置、および、サンプルXと探針部8との距離を制御することができる。
【0055】
例えば、本実施形態において、ステージ制御部26により、サンプルXと探針部8との距離を制御する。これにより、ステージ制御部26は、測定信号の周波数のうち、カンチレバー探針4の振動数シフトに相当する、振動数シフトΔfの値が一定となるようにフィードバックをかけることができる。サンプルXと、カンチレバー探針4が振動していない状態における探針部8との距離が一定である場合、振動数シフトΔfの値は一定となる。したがって、振動数シフトΔfの値を一定に保ちつつ、探針部8をサンプルX上において走査し、逐次ステージ12の位置を記録することにより、振動成分測定装置2は、サンプルXの表面形状を測定することができる。
【0056】
なお、ステージ制御部26は、第1位相同期ループ回路20から出力された測定信号をフィルタリングするためのフィルタを備えていてもよい。この場合、本実施形態においては、第1位相同期ループ回路20が備えるロックインアンプの帯域が、第2位相同期ループ回路22が備えるロックインアンプの帯域よりも狭いために、ステージ制御部26の備えるフィルタの帯域は広帯域であってもよい。
【0057】
ステージ制御部26の備えるフィルタの帯域が広帯域であることにより、ステージ制御部26によるステージ12のフィードバック制御がより高速に実行される。しかしながら、ステージ制御部26の備えるフィルタの帯域を狭帯域とした場合には、第1位相同期ループ回路20が備えるロックインアンプの帯域を、第2位相同期ループ回路22が備えるロックインアンプの帯域よりも広くしてもよい。
【0058】
<振幅変調器>
本実施形態において、振動成分測定装置2は、振幅変調器を用いて、測定信号から、カンチレバー探針4の振動成分を測定する。以下、振幅変調器を用いたカンチレバー探針4の振動成分の測定手法について、振幅変調器の構成と併せて説明する。
【0059】
振動成分測定装置2は、
図1に示すように、第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44とを備える。第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44とは、例えば、共にSSB変調器(単一側波帯変調器)である。
【0060】
第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44とは、乗算器を備え、入力された2つの信号のそれぞれの周波数を足し合わせた周波数を有する信号と、入力された2つの信号のうち、一方の周波数から他方の周波数を差し引いた周波数を有する信号を生成する。第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44とは、入力された2つの信号のそれぞれの振幅を足し合わせた振幅を有する信号と、入力された2つの信号のうち、一方の振幅から他方の振幅を差し引いた振幅を有する信号を生成してもよい。
【0061】
なお、本実施形態において、第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44とは、上記2つの信号のうち、入力された2つの信号のそれぞれの周波数を足し合わせた周波数を有する信号のみを抽出し、出力する。
【0062】
第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44とには、第1交流信号の周波数f1の2倍の周波数を有する倍周波信号が入力される。本実施形態において、倍周波信号は、振動成分測定装置2が備えるダブラ46によって生成される。
【0063】
ダブラ46は、入力された信号の周波数の2倍の周波数を有する信号を出力する倍周波生成器として機能する。本実施形態において、ダブラ46には、第1位相同期ループ回路20の電圧制御発振器32から出力される第1交流信号が、第1スイッチS1を介して入力される。このため、ダブラ46からは、第1交流信号の周波数f1の2倍である2f1の周波数を有する倍周波信号が出力される。ダブラ46からの倍周波信号は、第1振幅変調器42と第2振幅変調器44とに入力される。
【0064】
さらに、第1振幅変調器42には、ハイパスフィルタ40から出力された測定信号が入力される。第1振幅変調器42は、乗算器により、入力された2つの信号を乗算する。このため、第1振幅変調器42は、倍周波信号の周波数と、測定信号の周波数とを足し合わせた、周波数2f1+fmを有する信号と、倍周波信号の周波数から、測定信号の周波数を差し引いた、周波数2f1-fmを有する信号とを生成する。
【0065】
ここで、本実施形態において、第1振幅変調器42は、
図6に示すように、倍周波信号の周波数と、測定信号の周波数とを足し合わせた、周波数2f
1+f
mを有する信号を抽出し、比較信号として出力する。
【0066】
一方、第2振幅変調器44には、振動成分測定装置2が備える交流電源48から出力された参照交流信号が入力される。交流電源48は、周波数fmを有する参照交流信号を出力する交流電源である。換言すれば、振動成分測定装置2は、参照交流信号を生成する参照交流生成器として、交流電源48を備える。
【0067】
このため、第2振幅変調器44は、倍周波信号の周波数と、参照交流信号の周波数とを足し合わせた、周波数2f1+fmを有する第2交流信号を生成する。第2振幅変調器44は、第2交流信号を、第1ロックインアンプ50に、基準信号として入力する。
【0068】
換言すれば、振動成分測定装置2は、第2交流信号を生成する第2交流信号生成器として、第2振幅変調器44を備える。これにより、ダブラ46によって生成された倍周波信号と、交流電源48からの参照交流信号とから、第2振幅変調器44によって第2交流信号を生成することが可能となり、簡素な構成にて第2交流信号を生成できる。
【0069】
なお、振動成分測定装置2は、倍周波生成器として、ダブラ46の代わりに、倍周波信号の周波数において発振する発振器、あるいは、ダブラ46の代わりに、分周率を2とした分周器を備える位相同期ループ回路を備えていてもよい。上記発振器または位相同期ループ回路によっても、倍周波信号を生成することが可能である。
【0070】
<変動成分の測定>
本実施形態に係る振動成分測定装置2は、上述した比較信号と基準信号との比較を行う、第1ロックインアンプ50を備える。第1ロックインアンプ50は、狭帯域ロックインアンプ28または広帯域ロックインアンプ38と、ローパスフィルタの帯域を除き、同一の構成を備えていてもよい。
【0071】
本実施形態において、第1ロックインアンプ50には、第1振幅変調器42からの比較信号と、第2振幅変調器44からの基準信号とが入力される。本実施形態において、第1ロックインアンプ50は、第1振幅変調器42からの比較信号と、第2振幅変調器44からの基準信号との比較により、同期復調成分Rcosθを含む信号を出力する。
【0072】
ここで、同期復調成分Rcosθにおける、Rの値は、比較信号の振幅に対応し、θの値は、基準信号に対する比較信号の位相差に対応する。したがって、第1ロックインアンプ50が出力する信号の同期復調成分Rcosθは、サンプルXと探針部8との表面電位差によって生じた、カンチレバー探針4の振動の変動成分に対応する。換言すれば、第1ロックインアンプ50が出力する信号から、サンプルXと探針部8との間の表面電位差を測定することが可能となる。
【0073】
なお、第1ロックインアンプ50のローパスフィルタの帯域は、比較信号と基準信号との乗算によって生成された、周波数4f1+2fmを有する高周波を除去できる程度に広くともよい。
【0074】
<第2交流信号のフィードバック>
本実施形態において、振動成分測定装置2は、さらに、直流信号生成器として、直流信号制御器52と、直流電源54とを備える。直流信号制御器52には、第1ロックインアンプ50が出力する、同期復調成分Rcosθを有する信号が入力される。直流電源54は、電圧Vdcを有する直流信号を生成する。ここで、直流信号制御器52は、第1ロックインアンプ50からの信号に基づき、直流電源54が生成する直流信号の電圧Vdcの大きさを制御する。
【0075】
直流電源54からの直流信号は、振動成分測定装置2が備える、加算器56に入力される。また、加算器56には、第2振幅変調器44から出力された、周波数2f1+fmを有する第2交流信号が入力される。加算器は、入力された直流信号と基準信号とを加算することにより、周波数2f1+fmを有する交流信号である第2交流信号と直流信号とが重畳した信号を生成する。加算器56は、生成した信号を、ステージ電極14に印加する。このため、加算器56がステージ電極14に印加する信号には、少なくとも第2交流信号が含まれている。換言すれば、加算器56およびステージ電極14は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、少なくとも第2交流信号を印加する信号印加部として機能する。
【0076】
本実施形態において、直流信号制御器52は、例えば、第1ロックインアンプから入力される信号が直流信号となるように、換言すれば、同期復調成分Rcosθが0となるように、直流電源54にフィードバックをかける。同期復調成分Rcosθが0であることは、交流信号を印加しない場合における、サンプルXとカンチレバー探針4との間の表面電位が一致することを指す。
【0077】
サンプルXとカンチレバー探針4とがそれぞれ接地されている場合、サンプルXとカンチレバー探針4との間の表面電位差は、接触電位差に相当し、換言すれば、それぞれの仕事関数の差に相当する。一方、サンプルX上に表面電荷が存在する場合、サンプルXとカンチレバー探針4との間の表面電位差は、当該表面電荷の大きさおよび極性に応じて変化する。
【0078】
このため、サンプルXとカンチレバー探針4との間の表面電位差を測定し、サンプルXとカンチレバー探針4との仕事関数の差と比較することにより、サンプルX上の表面電荷の大きさおよび極性を測定することができる。したがって、同期復調成分Rcosθの値を0に保ちつつ、探針部8をサンプルX上において走査し、逐次電圧Vdcの大きさを記録することにより、振動成分測定装置2は、サンプルXの表面電位の分布を測定することができる。
【0079】
なお、振動成分測定装置2は、サンプルXに、直流信号を印加せず、第2交流信号のみを印加してもよい。この場合、直流信号制御器52と、直流電源54とは必ずしも必要ではない。例えば、サンプルXが溶液である場合、サンプルXの電気化学反応を防止するために、直流電圧をサンプルXに印加しないことが好ましい場合がある。この場合、探針部8をサンプルX上において走査し、同期復調成分Rcosθの値を記録することにより、振動成分測定装置2は、サンプルXの表面電位分布を測定することができる。
【0080】
また、一般に、振動数シフトΔfを一定とするための、ステージ制御部26によるフィードバックと、同期復調成分Rcosθを0とするための、直流信号制御器52によるフィードバックとは、後者の方が、必要な時間が長い。このため、第2位相同期ループ回路22が、第1位相同期ループ回路20と比較して、帯域の広いロックインアンプを備えることが、電圧Vdcの大きさに対するフィードバックをより高速化し、振動成分測定装置2全体の動作を高速化する観点から好ましい。
【0081】
<振動成分測定装置の奏する効果>
本実施形態に係る振動成分測定装置2は、カンチレバー探針4を第1交流信号の周波数に基づき、カンチレバー探針4を振動させる。また、振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、第2交流信号を印加する。上述した状態において、振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間の相互作用により変動する、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定する。
【0082】
ここで、第2交流信号の周波数は、第1交流信号の周波数の2倍に、第1交流信号よりも低周波の参照交流信号の周波数を加えた周波数である。換言すれば、第2交流信号は、第1交流信号の周波数の、2倍より大きく3倍未満の周波数を有する。このため、振動成分測定装置2は、カンチレバー探針4の振動の変動成分の測定に必要な、カンチレバー探針4の振動の変調成分の側波帯の強度を確保しつつ、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波を印加することができる。
【0083】
したがって、振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、カンチレバー探針4の振動数と同程度のオーダーの周波数を有する高周波を印加しつつ、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定することができる。振動成分測定装置2は、例えば、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXとカンチレバー探針4との間の相互作用の変動を測定でき、換言すれば、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動を測定できる。
【0084】
また、本実施形態に係る、カンチレバー探針4の振動成分の測定方法は、カンチレバー探針4を振動させるための第1交流信号を生成する第1交流信号生成工程を含む。さらに、当該測定方法は、第1交流信号よりも低周波の参照交流信号の周波数を、第1交流信号の周波数の2倍に加えた周波数を有する、第2交流信号を生成する第2交流信号生成工程を含む。加えて、当該測定方法は、第2交流信号を、カンチレバー探針4とサンプルXとの間に印加しつつ、カンチレバー探針4を振動させることにより、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定する測定工程を含む。
【0085】
上記測定方法により、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、カンチレバー探針4の振動数と同程度のオーダーの周波数を有する高周波を印加しつつ、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定することができる。当該測定方法は、例えば、本実施形態に係る振動成分測定装置2を、上述した手法により動作させることによって実現することが可能である。
【0086】
本実施形態に係る振動成分測定装置2は、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定する測定部として、上述した測定信号生成器に加え、第1振幅変調器42と、第2振幅変調器44と、第1ロックインアンプ50とを備える。これにより、振動成分測定装置2は、第2交流信号と同一の周波数を有する基準信号と、測定信号に基づいて生成された比較信号とを比較することにより、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定できる。
【0087】
第1ロックインアンプ50における、基準信号と比較信号との比較に必要な時間は、第1ロックインアンプ50に入力される基準信号の周期に依存する。このため、基準信号の周波数を高くすることにより、第1ロックインアンプ50における、基準信号と比較信号との比較に必要な時間を短くすることができる。したがって、本実施形態に係る振動成分測定装置2は、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定するために必要な時間を短縮することができる。
【0088】
また、第1ロックインアンプ50が備えるローパスフィルタの帯域は、基準信号と比較信号とから生成される高周波を除去できる範囲であればよい。このため、基準信号と比較信号とが高周波であるために、第1ロックインアンプ50が備えるローパスフィルタの帯域をより広げることができる。したがって、第1ロックインアンプ50における基準信号と比較信号との比較に必要な時間をさらに短くすることができ、第1ロックインアンプ50が備えるローパスフィルタを安価に構成できる。
【0089】
<補記>
本実施形態に係る振動成分測定装置2は、例えば、ケルビンプローブ力顕微鏡に含まれていてもよい。これにより、当該ケルビンプローブ力顕微鏡は、表面形状、および、表面電位分布を、より高速に測定することが可能である。他にも、振動成分測定装置2は、例えば、機能性材料におけるイオン電導の測定、物質中の電荷移動またはエネルギー散逸の測定、光励起現象の測定、あるいは、半導体におけるドーパント濃度の測定またはMOS界面の評価に利用できる。
【0090】
なお、本実施形態に係る振動成分測定装置2が備える各回路は、アナログ回路であってもよく、デジタル回路であってもよい。また、振動成分測定装置2が備える、各回路の少なくとも一部の機能は、プログラムに沿って実行されるコンピュータの処理によって実現されてもよい。
【0091】
本実施形態においては、第2交流信号が、第1交流信号の周波数のf1の2倍に、参照交流信号の周波数fmを加えた周波数を有する場合について説明を行った。しかし、本実施形態における、第2交流信号の周波数は、これに限られず、第1交流信号の周波数のf1の2倍に、参照交流信号の周波数fmを差し引いた周波数を有していてもよい。換言すれば、第2交流信号は、第1交流信号の周波数の、1倍より大きく2倍未満の周波数を有していてもよい。
【0092】
この場合、第2振幅変調器44は、ダブラ46からの倍周波信号と、交流電源48からの参照交流信号とを混合し、第2交流信号として、周波数2f1-fmを有する信号を出力する。このため、第1ロックインアンプ50にも、周波数2f1-fmを有する信号が、基準信号として入力される。
【0093】
また、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加される第2交流信号が、周波数2f1-fmを有するために、光センサ18から出力される信号には、周波数f1-fmの成分が含まれる。ここで、第1位相同期ループ回路20および第2位相同期ループ回路22のそれぞれのロックインアンプにおいては、光センサ18からの信号と第1交流信号との比較が行われる。このため、第1位相同期ループ回路20および第2位相同期ループ回路22は、上記場合においても変わらず、周波数fmを有する測定信号が出力される。
【0094】
さらに、第1振幅変調器42は、ダブラ46からの倍周波信号と、ハイパスフィルタ40からの測定信号とを混合し、周波数2f1-fmを有する信号を出力する。このため、第1ロックインアンプ50にも、周波数2f1-fmを有する信号が、比較信号として入力される。
【0095】
以上により、第1振幅変調器42と第2振幅変調器44とが、入力された一方の信号の周波数から、他方の信号の周波数を差し引いた周波数を有する信号を出力する場合においても、第1ロックインアンプ50は、同期復調成分Rcosθを有する信号を出力する。これにより、上述した場合においても、振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、カンチレバー探針4の振動数と同程度のオーダーの周波数を有する高周波を印加しつつ、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定することができる。
【0096】
また、上述した場合においても、第1ロックインアンプ50に印加する比較信号および基準信号は、参照交流信号と比較すると十分に高い周波数を有している。このため、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動の測定が、より高速にて実施できる。
【0097】
なお、本実施形態に係る振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間への電圧印加を、カンチレバー探針4を接地し、サンプルXが載置されるステージ電極14に信号を印加することにより実現する。しかしながら、これに限られず、振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間への電圧印加を、カンチレバー探針4への信号印加によって実現してもよい。カンチレバー探針4への信号印加は、加算器56が出力する信号を、カンチレバー探針4に印加することにより実行してもよい。
【0098】
<スイッチ>
ここまで、
図1に示す、第1スイッチS1を閉じ、第2スイッチS2を開放した場合における振動成分測定装置2の動作を説明した。ここで、第1スイッチS1を開放し、第2スイッチS2を閉じた場合、振動成分測定装置2は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加する電圧を変更することができる。
【0099】
図7は、本実施形態に係る振動成分測定装置2の、第1スイッチS1を開放し、第2スイッチS2を閉じた場合における動作を説明するためのブロック図である。
【0100】
第1スイッチS1を開放した場合、
図7に示すように、第1振幅変調器42、および第2振幅変調器44からは、信号が出力されない。加えて、第2スイッチS2を閉じた場合、
図7に示すように、交流電源48からの参照交流信号は、直接加算器56に入力される。このため、ステージ電極14には、参照交流信号と直流信号とが重畳した信号が印加される。したがって、第1スイッチS1を開放し、第2スイッチS2を閉じた場合、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加される信号は、周波数f
mを有する。
【0101】
換言すれば、第1スイッチS1と第2スイッチS2との切り替えにより、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加される信号の周波数を変更することができる。この場合、光センサ18から出力される信号は、
図8のグラフに示す通りとなる。
【0102】
カンチレバー探針4の振動数は、カンチレバー探針4の発振周波数に相当するため、第1スイッチS1と第2スイッチS2との切り替えの有無によらず、周波数f1である。このため、光センサ18が出力する信号のうち、主な成分は、カンチレバー探針4の振動数に相当する、周波数f1を有する成分である。
【0103】
ここで、カンチレバー探針4とサンプルXとの間に、周波数f
mの参照交流信号を印加している。このため、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用は、この周波数に応じて変化し、光センサ18が出力する信号は、
図8に示すように、周波数f
mに成分を有する。
【0104】
また、カンチレバー探針4が振動数f
1において振動しているため、カンチレバー探針4の振動は、
図8に示すように、振動数f
1+f
mおよび振動数f
1-f
mに、変調成分の
側波帯を有する。ここで、サンプルXと探針部8との表面電位差により、カンチレバー探針4の振動数が、Δfだけ変化したとする。この場合においても、光センサ18が出力する信号における、カンチレバー探針4の振動の変調成分の
側波帯が、カンチレバー探針4の振動の変動成分を含んでいる。
【0105】
光センサ18が出力する信号は、第1位相同期ループ回路20および第2位相同期ループ回路22に入力される。これにより、上述した動作と同様の動作により、第1位相同期ループ回路20は、自動利得制御回路24に入力する第1交流信号と、ステージ制御部26に入力する測定信号とを出力する。また、同様に、第2位相同期ループ回路22は、ハイパスフィルタ40に入力する測定信号を出力する。
【0106】
ここで、ハイパスフィルタ40から出力される測定信号は、第1スイッチS1を開放し、第2スイッチS2を閉じているために、第1振幅変調器42に入力されず、直接第1ロックインアンプ50に入力される。換言すれば、第1ロックインアンプ50に入力される比較信号は、周波数fmを有する。
【0107】
このため、第1ロックインアンプ50を使用して、同期復調成分Rcosθを含む信号を生成するためには、第1ロックインアンプ50に入力する基準信号として、周波数fmの信号を入力する必要がある。したがって、第1スイッチS1を開放し、第2スイッチS2を閉じることにより、交流電源48からの参照交流信号を、基準信号として、第1ロックインアンプ50に入力する。これにより、第1ロックインアンプ50を使用して、同期復調成分Rcosθを含む信号を生成することができる。
【0108】
第1ロックインアンプ50から出力される、同期復調成分Rcosθを含む信号は、直流信号制御器52に入力される。このため、上述した動作と同様の動作により、直流信号制御器52は直流電源54を制御し、直流電源54から直流信号が出力される。これにより、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加する信号の直流成分を制御することができる。
【0109】
本実施形態に係る振動成分測定装置2は、第1スイッチS1と第2スイッチS2との切り替えにより、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加される信号を、高周波の第2交流信号と、低周波の参照交流信号との間において切り替えることができる。このため、振動成分測定装置2は、サンプルXに印加する信号の周波数を変更しつつ、カンチレバー探針4の振動の変動成分を測定できる。
【0110】
なお、サンプルXとカンチレバー探針4との間に低周波の参照交流信号を印加する場合、第1ロックインアンプ50に代えて、第1ロックインアンプ50のローパスフィルタよりも帯域の狭いローパスフィルタを備えたロックインアンプを使用することが好ましい。しかしながら、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波の参照交流信号を印加する場合、ローパスフィルタの帯域の広い第1ロックインアンプ50を使用することにより、カンチレバー探針4の振動の変動成分の測定に必要な時間を短縮できる。
【0111】
〔実施形態2〕
<振幅変調>
図9は、本実施形態に係る振動成分測定装置58の構成と、当該振動成分測定装置58の動作とを説明するためのブロック図である。なお、本実施形態においても、第1スイッチS1が閉じられ、第2スイッチS2が開放された状態における、振動成分測定装置58の動作を例に挙げて説明する。
【0112】
振動成分測定装置58は、振動成分測定装置2と比較して、第2位相同期ループ回路22に代えて、第2ロックインアンプ60を備えている点においてのみ、構成が相違する。第2ロックインアンプ60は、備えているローパスフィルタの帯域を除き、第1ロックインアンプ50と同一の構成を備えていてもよい。
【0113】
このため、本実施形態において、第2ロックインアンプ60には、光センサ18から出力された信号入力され、基準信号として、第1位相同期ループ回路20から出力された第1交流信号が入力される。ここで、第2ロックインアンプ60は、光センサ18からの信号と、第1交流信号との比較により、当該2つの信号の振幅差を電圧に置き換えた信号を出力する。
【0114】
本実施形態において、前実施形態と同様に、第1振幅変調器42は、倍周波信号の周波数と、測定信号の周波数とを足し合わせた比較信号を出力する。また、第2振幅変調器44は、倍周波信号の周波数と、参照交流信号の周波数とを足し合わせた第2交流信号を出力する。
【0115】
ここで、第1振幅変調器42と第2振幅変調器44とが出力する信号は、入力された2つの信号のそれぞれの振幅を足し合わせた振幅を有する。このため、本実施形態において、第1振幅変調器42が出力する比較信号の振幅は、カンチレバー探針4の振動の変動成分によって変動する。
【0116】
したがって、第1ロックインアンプ50には、カンチレバー探針4の振動の変調成分の側波帯における、振幅シフトRおよび位相シフトθと同じだけ、振幅および位相がシフトした比較信号と、基準信号である第2交流信号が入力される。
【0117】
以上より、第1ロックインアンプ50は、同期復調成分Rcosθを含む信号を出力する。同期復調成分Rcosθは、サンプルXと探針部8との表面電位差によって生じた、カンチレバー探針4の振動の変動成分である。直流信号制御器52は、同期復調成分Rcosθが0となるように、直流電源54が出力する信号の電圧Vdcの電圧を制御してもよい。
【0118】
本実施形態においても、第1位相同期ループ回路20のPID制御器30からは、直流成分を有する信号も出力される。ただし、本実施形態において、当該直流成分を有する信号の強度は、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用による、カンチレバー探針4の振動の振幅シフトΔAの大きさに対応する。
【0119】
本実施形態においても同様に、第1位相同期ループ回路20から出力された測定信号のうち、直流成分を有する信号は、ステージ制御部26に入力される。ステージ制御部26は、測定信号の周波数のうち、カンチレバー探針4の振幅シフトに相当する、振幅シフトΔAの値が一定となるようにフィードバックをかけることができる。サンプルXと、カンチレバー探針4が振動していない状態における探針部8との距離が一定である場合、振幅シフトΔAの値は一定となる。したがって、振幅シフトΔAの値を一定に保ちつつ、探針部8をサンプルX上において走査し、逐次ステージ12の位置を記録することにより、振動成分測定装置2は、サンプルXの表面形状を測定することができる。
【0120】
本実施形態に係る振動成分測定装置58は、カンチレバー探針4の振動の変動成分を、カンチレバー探針4の振動の振幅シフトとして測定できる。本実施形態においても、振動成分測定装置58は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波の信号を印加した場合におけるカンチレバー探針4の振動の振幅シフトをより高速にて測定することができる。
【0121】
なお、本実施形態において、振動成分測定装置58は、第1位相同期ループ回路20に代えて、第2ロックインアンプ60よりも帯域の狭いフィルタを備えたロックインアンプによって、ステージ制御部26に入力される信号を出力してもよい。さらに、ステージ制御部26に含まれるフィルタの帯域が狭い場合には、振動成分測定装置58は、単一のロックインアンプのみによって、ステージ制御部26に入力される信号と、第1振幅変調器42に入力される測定信号とを生成してもよい。これらの場合、振動成分測定装置58は、第1交流信号を生成するための交流電源を備えていてもよく、当該交流電源から出力された第1交流信号は、探針制御部10と各ロックインアンプとに入力されてもよい。
【0122】
〔実施形態3〕
<比較信号生成の他の例>
図10は、本実施形態に係る振動成分測定装置62の構成と、当該振動成分測定装置62の動作とを説明するためのブロック図である。なお、本実施形態においても、第1スイッチS1が閉じられ、第2スイッチS2が開放された状態における、振動成分測定装置62の動作を例に挙げて説明する。
【0123】
振動成分測定装置2と比較すると、本実施形態に係る振動成分測定装置62においては、第1スイッチS1が閉じられている場合、光センサ18から出力された信号は、直接第1振幅変調器42に入力される。さらに、第1振幅変調器42には、第1位相同期ループ回路20から出力された第1交流信号が、ダブラ46を介さずに入力される。上記点を除き、本実施形態に係る振動成分測定装置62は、振動成分測定装置2と同一の構成を備え、かつ、同一の動作を行う。
【0124】
光センサ18から出力される信号には、周波数f1+fmの成分が含まれる。このため、本実施形態においても、第1振幅変調器42から第1ロックインアンプ50に入力される比較信号には、周波数2f1+fmの成分が含まれる。また、第1ロックインアンプ50に入力される基準信号は、上述した各実施形態と同様に、第2振幅変調器44からの、周波数2f1+fmを有する第2交流信号である。したがって、第1ロックインアンプ50を使用して、同期復調成分Rcosθを含む信号を生成することができる。
【0125】
なお、光センサ18からの信号には、周波数f1+fm以外の周波数の成分が含まれているため、第1振幅変調器42から第1ロックインアンプ50に入力される比較信号には、周波数2f1+fm以外の周波数の成分が含まれる。しかしながら、第1ロックインアンプ50のローパスフィルタによって、第1ロックインアンプ50から出力される信号からは、同期復調成分Rcosθを含む信号の周波数を除く周波数の成分が除去される。
【0126】
なお、第1スイッチS1が開放され、第2スイッチS2が閉じた状態においては、光センサ18から出力された信号は、第2位相同期ループ回路22に入力される。また、上記状態においては、第2位相同期ループ回路22から出力された測定信号は、ハイパスフィルタ40を介して第1ロックインアンプ50に入力される。換言すれば、第1スイッチS1が開放され、第2スイッチS2が閉じた状態において、本実施形態に係る振動成分測定装置62は、振動成分測定装置2と同一の動作を実行する。
【0127】
本実施形態においても、振動成分測定装置62は、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXとカンチレバー探針4との間の相互作用の変動を測定でき、換言すれば、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動を測定できる。
【0128】
また、サンプルXに高周波を印加する場合、本実施形態においては、光センサ18から出力された信号が、第2位相同期ループ回路22を介さず第1振幅変調器42に入力される。このため、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動の測定が、より高速にて実施できる。
【0129】
さらに、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波の参照交流信号のみを印加する場合には、第1スイッチS1および第2スイッチS2に加えて、第2位相同期ループ回路22およびハイパスフィルタ40は、必ずしも必要ではない。これにより、振動成分測定装置62をより簡素に構成することができる。
【0130】
〔実施形態4〕
<比較信号および基準信号生成の他の例>
図11は、本実施形態に係る振動成分測定装置64の構成と、当該振動成分測定装置64の動作とを説明するためのブロック図である。なお、本実施形態においても、第1スイッチS1が閉じられ、第2スイッチS2が開放された状態における、振動成分測定装置64の動作を例に挙げて説明する。
【0131】
振動成分測定装置62と比較すると、本実施形態に係る振動成分測定装置64においては、第1スイッチS1が閉じられている場合、光センサ18から出力された測定信号は、直接第1ロックインアンプ50に、比較信号として入力される。このため、第1ロックインアンプ50に入力される信号は、周波数f1+fmの成分を有する。
【0132】
さらに、第1振幅変調器42には、第1位相同期ループ回路20から出力された第1交流信号と、交流電源48からの参照交流信号とが入力される。このため、第1振幅変調器42から出力される信号は、周波数f1+fmの成分を有する。加えて、第1振幅変調器42から出力された信号は、第1ロックインアンプ50に、基準信号として入力される。
【0133】
上記点を除き、本実施形態に係る振動成分測定装置64は、振動成分測定装置62と同一の構成を備え、かつ、同一の動作を行う。
【0134】
本実施形態において、第1ロックインアンプ50は、周波数f1+fmの成分を有する比較信号と、周波数f1+fmの成分を有する基準信号とを比較する。したがって、第1ロックインアンプ50を使用して、同期復調成分Rcosθを含む信号を生成することができる。
【0135】
なお、光センサ18からの信号には、周波数f1+fm以外の周波数の成分が含まれているため、第1振幅変調器42から第1ロックインアンプ50に入力される比較信号には、周波数f1+fm以外の周波数の成分が含まれる。しかしながら、第1ロックインアンプ50のローパスフィルタによって、第1ロックインアンプ50から出力される信号からは、同期復調成分Rcosθを含む信号の周波数を除く周波数の成分が除去される。
【0136】
なお、第1スイッチS1が開放され、第2スイッチS2が閉じた状態においては、光センサ18から出力された信号は、第2位相同期ループ回路22に入力される。また、上記状態においては、第2位相同期ループ回路22から出力された測定信号は、ハイパスフィルタ40を介して第1ロックインアンプ50に入力される。また、第1ロックインアンプ50には、基準信号として、交流電源48からの参照交流信号が直接入力される。換言すれば、第1スイッチS1が開放され、第2スイッチS2が閉じた状態において、本実施形態に係る振動成分測定装置64は、振動成分測定装置62と同一の動作を実行する。
【0137】
本実施形態においても、振動成分測定装置64は、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXとカンチレバー探針4との間の相互作用の変動を測定でき、換言すれば、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動を測定できる。また、第1ロックインアンプ50に印加する比較信号および基準信号についても、参照交流信号と比較すると十分に高い周波数を有している。このため、本実施形態においても、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動の測定が、より高速にて実施できる。
【0138】
また、サンプルXに高周波を印加する場合、本実施形態においては、光センサ18から出力された信号が、第2位相同期ループ回路22および第1振幅変調器42を介さず、第1ロックインアンプ50に入力される。このため、サンプルXに高周波を印加した場合における、サンプルXの挙動の測定が、より高速にて実施できる。
【0139】
〔実施形態5〕
<振幅変調の他の例>
図12は、本実施形態に係る振動成分測定装置66の構成と、当該振動成分測定装置66の動作とを説明するためのブロック図である。本実施形態に係る振動成分測定装置66は、振動成分測定装置58と比較して、自動利得制御回路24に代えて、追加交流電源68を備えている点において、構成が相違する。追加交流電源68は、周波数f
1を有する第1交流信号を生成する。探針制御部10には、追加交流電源68が生成した第1交流信号が印加される。
【0140】
また、振動成分測定装置66は、振動成分測定装置58と比較して、第1位相同期ループ回路20に代えて、第3ロックインアンプ70を備えている点において、構成が相違する。第3ロックインアンプ70は、備えているローパスフィルタの帯域を除き、第1ロックインアンプ50、または第2ロックインアンプ60と同一の構成を備える。例えば、第3ロックインアンプ70は、狭帯域ロックインアンプ28のローパスフィルタと同帯域のローパスフィルタを備える。
【0141】
第3ロックインアンプ70には、光センサ18からの信号と、追加交流電源68が生成した第1交流信号とを比較する。これにより、第3ロックインアンプ70は、入力された信号の振幅差を電圧に置き換えた信号を出力する。当該信号の強度は、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の静電気的相互作用による、カンチレバー探針4の振動の振幅シフトΔAの大きさに対応する。このため、第3ロックインアンプ70から出力された信号を、ステージ制御部26に入力することにより、振幅シフトΔAの値が一定となるようにフィードバックをかけることができる。
【0142】
さらに、振動成分測定装置66は、振動成分測定装置58と比較して、第1振幅変調器42、第1スイッチS1、および第2スイッチS2を備えていない。これに伴い、第1ロックインアンプ50には、比較信号として、ハイパスフィルタ40を介して第2ロックインアンプ60から出力された、周波数fmの成分を有する信号と、基準信号としての、交流電源48からの交流信号とが入力される。また、第2振幅変調器44が出力する信号は、スイッチを介さず、直接加算器56に印加される。したがって、振動成分測定装置66は、第1ロックインアンプ50において、周波数fmの成分を有する2つの信号の比較を行い、ステージ電極14に、周波数2f1+fmの成分を有する信号を印加する。
【0143】
以上を除き、本実施形態に係る振動成分測定装置66は、振動成分測定装置58と、同一の構成を備え、同一の動作を行う。このため、本実施形態においても、振動成分測定装置66は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波の信号を印加した場合におけるカンチレバー探針4の振動の振幅シフトをより高速にて測定することができる。
【0144】
〔実施形態6〕
<表面電荷の測定装置>
図13は、本実施形態に係る振動成分測定装置72の構成と、当該振動成分測定装置72の動作とを説明するためのブロック図である。本実施形態に係る振動成分測定装置72は、振動成分測定装置66と比較して、さらに第3スイッチS3と第4スイッチS4とを備える点において、構成が相違する。
【0145】
本実施形態において、第3スイッチS3が閉じられ、第4スイッチS4が開放されている場合、
図13に示すように、第2振幅変調器44が出力する信号は加算器56に入力され、交流電源48からの信号は第1ロックインアンプ50のみに入力される。また、本実施形態において、第3スイッチS3が開放され、第4スイッチS4が閉じられる場合、加算器56には、第2振幅変調器44からの信号に変えて、交流電源48からの信号が入力される。
【0146】
このため、第3スイッチS3が閉じられ、第4スイッチS4が開放されている場合、振動成分測定装置72は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、周波数2f1+fmの成分を有する比較的高周波の信号を印加する。一方、第3スイッチS3が開放され、第4スイッチS4が閉じられる場合、振動成分測定装置72は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に、周波数fmの成分を有する比較的低周波の信号を印加する。したがって、振動成分測定装置72は、第3スイッチS3および第4スイッチS4の切り替えにより、サンプルXとカンチレバー探針4との間に印加する信号の周波数を、高周波と低周波との間において、切り替えることができる。
【0147】
以上を除き、本実施形態に係る振動成分測定装置72は、振動成分測定装置66と、同一の構成を備え、同一の動作を行う。このため、本実施形態においても、振動成分測定装置72は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波の信号を印加した場合におけるカンチレバー探針4の振動の振幅シフトをより高速にて測定することができる。
【0148】
<バンド湾曲>
本実施形態に係る振動成分測定装置72は、サンプルXの表面近傍における、価電子帯および伝導帯の挙動を測定できる。このため、振動成分測定装置72は、サンプルXの表面における電子欠陥あるいは局所電荷を含む、サンプルXの表面における局所電荷を測定することができる。振動成分測定装置72によるサンプルXの表面における局所電荷の測定方法を説明するために、サンプルXの表面電荷による、当該サンプルXの表面近傍の価電子帯および伝導帯の湾曲について説明する。
【0149】
図14は、サンプルXの表面電荷により、当該サンプルXの表面近傍の価電子帯および伝導帯が湾曲する様子を説明するためのバンド図を示す。
図14に示す各バンド図は、n型半導体のサンプルXのバルク74における状態と、当該バルク74の表面76における状態とを示す。バンド
図B1とバンド
図B2とは、サンプルXの表面76に電子欠陥が生じた場合における、各状態の挙動の例を示す。バンド
図B3とバンド
図B4とは、サンプルXの表面76に局所電荷が生じた場合における、各状態の挙動の例を示す。
【0150】
サンプルXの表面76に電子欠陥が生じた場合、バンド
図B1に示すように、表面76には、バルク74のフェルミ準位E
FBよりも準位の低い、表面76のフェルミ準位E
FSが生じる。当該状態においては、バルク74のフェルミ準位E
FBと表面76のフェルミ準位E
FS
とを揃えるように、バルク74から表面76の電子欠陥への電子の移動が発生する。これにより、バンド
図B2に示すように、バルク74のフェルミ準位E
FBと表面76のフェルミ準位E
FSとの準位差は小さくなり、電子欠陥近傍のバルク74は局所的に正に帯電し、電子欠陥近傍の表面76は局所的に負に帯電する。
【0151】
このため、電子欠陥近傍のバルク74と表面76との間には、局所電荷により電界が生じる。ここで、バルク74が正、表面76が負に帯電していることから、バンド
図B2に示すように、表面76近傍のバルク74においては、価電子帯準位E
Vと伝導帯準位E
Cとが、何れもバンド図の上方に湾曲する。
【0152】
対して、サンプルXの表面76に局所電子が存在する場合、バンド
図B3に示すように、表面76のフェルミ準位E
FSは、バルク74のフェルミ準位E
FBよりも高くなる。当該状態においては、バルク74のフェルミ準位E
FBと表面76のフェルミ準位E
FS
とを揃えるように、表面76の局所電子の一部がバルク74へ移動する。これにより、バンド
図B4に示すように、バルク74のフェルミ準位E
FBと表面76のフェルミ準位E
FSとの準位差は小さくなり、電子の移動が生じた位置に近傍において、バルク74は局所的に負に帯電し、表面76は局所的に正に帯電する。
【0153】
このため、上記位置の近傍において、バルク74と表面76との間には、局所電荷により電界が生じる。ここで、バルク74が負、表面76が正に帯電していることから、バンド
図B4に示すように、表面76近傍のバルク74においては、価電子帯準位E
Vと伝導帯準位E
Cとが、何れもバンド図の下方に湾曲する。
【0154】
<外部電界が与えられた状態におけるバンド湾曲の挙動>
次いで、サンプルXの表面近傍の価電子帯および伝導帯が湾曲した状態において、当該表面近傍に外部電界が生じた場合における、サンプルXの表面近傍の価電子帯および伝導帯の挙動について説明する。
図15に示す各バンド図は、当該n型半導体のサンプルXのバルク74における状態と、当該バルク74の表面76における状態とに加えて、表面76に近接させた外部電極78の状態をさらに示す。なお、
図15に示す各バンド図は、バルク74と表面76の電子欠陥との間の電子の移動が十分に生じた平衡状態を示している。
【0155】
外部電極78の電位が負の場合、外部電極78のフェルミ準位E
EFは、
図15のバンド
図B5に示すように、外部電極78の電位が0の場合と比較して、バンド図の上方にシフトする。これにより、外部電極78とサンプルXの表面76との間に外部電界が生じ、定常状態における表面76のフェルミ準位E
FSがさらにバンド図の下方にシフトする。この場合、バルク74から表面76の電子欠陥への電子の移動がさらに進行するため、バンド
図B5に示すように、バルク74の価電子帯準位E
Vと伝導帯準位E
Cとは、さらにバンド図の上方に湾曲する。
【0156】
一方、外部電極78の電位が正の場合、外部電極78のフェルミ準位E
EFは、
図15のバンド
図B6に示すように、外部電極78の電位が0の場合と比較して、バンド図の下方にシフトする。これにより、外部電極78とサンプルXの表面76との間に外部電界が生じ、定常状態における表面76のフェルミ準位E
FSがさらにバンド図の上方にシフトする。この場合、バルク74から表面76の電子欠陥への電子の移動は低減し、バルク74の価電子帯準位E
Vと伝導帯準位E
Cとの湾曲は小さくなる。
【0157】
さらに、外部電極78の電位を高くすることにより、定常状態における表面76のフェルミ準位E
FSがバルク74のフェルミ準位E
Fを上回り、バンド
図B6に示すように、表面76の電子欠陥からバルク74への電子の移動が生じる場合がある。この場合、バンド
図B6に示すように、バルク74の価電子帯準位E
Vと伝導帯準位E
Cとは、バンド図の下方に湾曲する。
【0158】
このように、サンプルXのバルク74において、バンドの湾曲が生じている場合、表面76の近傍に生じた外部電界を変動させることにより、バルク74のバンドの湾曲の大きさ、または湾曲の方向が変動する。
【0159】
ここで、外部電極78を、本実施形態に係るカンチレバー探針4に置き換えた場合、外部電極78に電位を与えることは、本実施形態に係るステージ電極14に電位を与えることに相当する。バルク74の表面76の近傍において、バンドの湾曲が生じている場合、カンチレバー探針4の振動成分に変動が生じる。
【0160】
<電荷移動の反応速度>
次に、バルク74と表面76との間における、電荷移動の反応速度に関して考察を行う。表面76の表面準位における、バルク74からの電子捕獲の反応速度は、下記式(1)にて表され、表面76の表面準位における、バルク74への電子放出の反応速度は、下記式(2)にて表される。
【数1】
【0161】
【数2】
上記式(1)および式(2)において、n
sは表面準位の電子占有率を示す。式(1)において、C
nは電子捕獲係数であり、式(2)において、e
nは電子放出係数である。ここで、表面76からバルク74への電子放出に着目すると、表面76からバルク74へ電子が移動する時間に対応する時定数τが、下記式(3)によって定義される。
【0162】
【数3】
式(3)において、τ
0は定常状態における寿命時間であり、k
Bはボルツマン定数であり、TはサンプルXの温度である。式(3)におけるηは補正項であり、通常1から2の値を取る。式(3)におけるΔEは、表面76からバルク74への電子放出が生じる前における、表面76のフェルミ準位E
FSとバルク74のフェルミ準位E
Fとの差である。上記式(3)により、上記式(2)は下記式(4)に変形できる。
【0163】
【数4】
式(4)から、表面76からバルク74への電子放出に必要な時間は、時定数τに比例し、時定数τが大きくなると、表面76からバルク74への電子放出に必要な時間は長くなる。換言すれば、時定数τが大きいほど、表面76からバルク74への電子放出により、バルク74のバンドの湾曲が生じるまでに必要な時間は長くなる。したがって、表面76の近傍に生じた外部電界が変動し、表面76のフェルミ準位E
FSが変動する場合、当該変動がある速度よりも速く生じた場合、バルク74のバンドの湾曲が、表面76のフェルミ準位E
FSの変動に追従しなくなる場合がある。
【0164】
<遮断周波数>
ここで、例えば、外部電極78に交流信号を印加し、外部電極78と表面76との間に生じる外部電界を周期的に変動させたとする。この場合、当該交流信号の周波数が低いうちは、バルク74のバンドの湾曲が、表面76のフェルミ準位EFSの変動に追従するが、交流信号の周波数がある一定値より高くなると、バルク74のバンドの湾曲が、表面76のフェルミ準位EFSの変動に追従しなくなる。バルク74のバンドの湾曲が、表面76のフェルミ準位EFSの変動に追従しなくなる周波数を遮断周波数fcとすると、当該遮断周波数fcは下記式(5)にて表される。
【0165】
【数5】
式(3)と式(5)とにより、表面76のフェルミ準位E
FSとバルク74のフェルミ準位E
Fとの差ΔEが大きくなるほど、遮断周波数f
cは低くなり、サンプルXの温度が高いほど、遮断周波数f
cは低くなる。
【0166】
遮断周波数f
cとΔEとの関係について、
図16のグラフを参照し、より詳細に説明する。
図16に示すグラフは、縦軸に遮断周波数f
c[Hz]、横軸にΔE[eV]を取る。
図16に示すグラフには、サンプルXの温度が300Kの場合を実線にて、80Kの場合を点線にて示す。
【0167】
例えば、サンプルXの温度が80K、ΔEが0.1eVである場合、遮断周波数fcは166kHzとなる。このため、上記場合に、166kHz以上の周波数を有する信号を外部電極78に印加し、外部電界を変動させた場合には、サンプルXのバルク74に生じたバンドの湾曲は、当該外部電界の変動に追従せず、大きく変動しない。
【0168】
<バンド湾曲の測定および画像化>
本実施形態に係る振動成分測定装置72において、ステージ電極14に交流信号を印加することにより、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の電位差が周期的に変動する。このため、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数が遮断周波数fc未満の場合、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の電位差の変動に伴い、バルク74のバンドの湾曲も併せて変動する。このため、振動成分測定装置72は、バルク74のバンドの湾曲を、カンチレバー探針4の振動成分の変動として測定できる。一方、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数が遮断周波数fc以上の場合、バルク74のバンドの湾曲が、カンチレバー探針4とサンプルXとの間の電位差の変動に追従しなくなり、カンチレバー探針4の振動成分の変動が見られなくなる。
【0169】
したがって、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数を切り替えながら測定を行うことにより、バルク74のバンドの湾曲の変動の有無を切り替えながら、カンチレバー探針4の振動成分が測定できる。ゆえに、バルク74のバンドの湾曲の変動が、有る場合と無い場合とにおける、カンチレバー探針4の振動成分の測定結果の差を求めることにより、サンプルXの表面における、電子欠陥または局所電子等の表面状態の測定が可能となる。
【0170】
本実施形態に係る振動成分測定装置72は、第3スイッチS3と第4スイッチS4との切り替えに伴い、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数を、周波数fmと周波数2f1+fmとの間において切り替えることができる。したがって、周波数fmを遮断周波数fc未満、周波数2f1+fmを遮断周波数fc以上とすることにより、振動成分測定装置72は、サンプルXの表面における表面状態の測定をより容易に実行できる。
【0171】
上述したサンプルXの表面における表面状態の測定結果を、
図17を参照して説明する。
図17に示す測定画像M1、およびM2は、それぞれ、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数を、サンプルXの遮断周波数f
c未満である170Hz、および遮断周波数f
c以上である2.3MHzとして測定した、サンプルXの表面の電位像である。
図17に示す測定画像M3は、測定画像M1の電位像と測定画像M2の電位像との、各位置における電位差を算出した画像である。
【0172】
測定画像M3により、測定画像M1の電位像と測定画像M2の電位像との間には、サンプルXの各位置において電位差があることが分かる。これは、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数により、サンプルXの各位置におけるバンド湾曲の変動の有無が変わることによる。このように、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数を、遮断周波数fc未満と遮断周波数fc以上との間において切り替えつつ、サンプルXの表面電位像を測定することにより、サンプルXの表面における局所電荷の状態を測定できる。
【0173】
なお、上述した振動成分測定装置2、58、62、および64においても、第1スイッチS1と第2スイッチS2との切り替えにより、ステージ電極14に印加する交流信号の周波数を切り替えることができる。したがって、振動成分測定装置2、58、62、および64についても、振動成分測定装置72を利用した測定方法と同一の方法により、サンプルXの表面における局所電荷の状態を測定できる。
【0174】
〔実施形態7〕
<表面電荷の測定装置の他の例>
図18は、本実施形態に係る振動成分測定装置80の構成と、当該振動成分測定装置80の動作とを説明するためのブロック図である。本実施形態に係る振動成分測定装置80は、振動成分測定装置72と比較して、第3ロックインアンプ70に代えて、第3位相同期ループ回路82を備える点において、構成が相違する。
【0175】
第3位相同期ループ回路82は、分周率が2の分周器をさらに備えている点を除き、上述した第1位相同期ループ回路20と同一の構成を備えている。このため、第3位相同期ループ回路82は、第1位相同期ループ回路20と比較して、Δfの成分を有する信号に加えて、周波数2f1を有する信号を出力する。本実施形態において、第3位相同期ループ回路82が出力する周波数2f1の信号は、第2振幅変調器44に入力される。
【0176】
したがって、本実施形態において、第3位相同期ループ回路82は、倍周波生成器としても機能する。このため、本実施形態に係る振動成分測定装置80は、ダブラ46を備えていなくともよい。また、探針制御部10を動作せるための信号を生成するために、自動利得制御回路24には、第2位相同期ループ回路22を含む、第3位相同期ループ回路82とは異なる位相同期ループ回路にて生成された、周波数f1を有する信号が入力されてもよい。あるいは、自動利得制御回路24には、上述した追加交流電源68等の交流電源が生成する信号が入力されてもよい。
【0177】
以上を除き、本実施形態に係る振動成分測定装置80は、振動成分測定装置72と、同一の構成を備え、同一の動作を行う。このため、本実施形態においても、振動成分測定装置80は、サンプルXとカンチレバー探針4との間に高周波の信号を印加した場合におけるカンチレバー探針4の振動の周波数シフトをより高速にて測定することができる。
【0178】
〔実施形態8〕
<微細振動機構を備えた振動成分測定装置>
図19は、本実施形態に係る振動成分測定装置84の構成と、当該振動成分測定装置84の動作とを説明するためのブロック図である。本実施形態に係る振動成分測定装置84は、振動成分測定装置2と比較して、カンチレバー探針4、探針制御部10、光源16、および光センサ18に代えて、微細振動検知機構86を備えている点において、構成が相違する。微細振動検知機構86は、板バネ88、板バネ制御部90、板バネ保持部92、固定電極94、および容量センサ96を備える。
【0179】
微細振動検知機構86は、振動部として、板バネ88を備える。板バネ88は、例えば、シリコンまたはシリコン酸化膜等を含む薄板状の部材である。板バネ88がシリコンまたはシリコン酸化膜からなることにより、板バネ88の製造の際、板バネ88の微細加工が容易となる。板バネ88は、金属被膜を有していてもよい。
【0180】
板バネ88は、振動制御部として機能する板バネ制御部90の制御により振動する。例えば、板バネ制御部90は、印加された電圧の周波数に対応する振動数において、板バネ88を振動させる。具体的には、板バネ88の共振周波数が周波数f1である場合、板バネ制御部90には、周波数f1を有する第1交流信号が入力される。
【0181】
板バネ保持部92は、例えば、板バネ88の端部において、板バネ制御部90と共に、板バネ88を保持する。固定電極94は、板バネ88と間隔をおいて配置され、板バネ88との間に静電容量を形成する。固定電極94は、板バネ88の振動によらず、位置が固定されている。容量センサ96は、例えば、固定電極94に蓄積された電荷量を計測することにより、板バネ88と固定電極94との間の静電容量を計測する。
【0182】
ここで、板バネ88は、板バネ制御部90と板バネ保持部92とにより、端部を保持されつつ、板バネ制御部90により振動する。このため、板バネ88の振動に伴い、板バネ制御部90と板バネ保持部92とにより直接保持されていない、板バネ88の中央近傍の位置が周期的に変化する。したがって、板バネ88の振動に伴い、板バネ88と、当該板バネ88に対向する位置に間隔を置いて配置された固定電極94との距離が周期的に変化する。
【0183】
以上より、板バネ88の振動に伴い、板バネ88と固定電極94とにより形成された静電容量の大きさについても周期的に変化する。このため、板バネ88と固定電極94とにより形成された静電容量の大きさを、容量センサ96によって計測することにより、板バネ88の振動成分を測定することができる。
【0184】
容量センサ96は、上記静電容量の変動に基づいて、板バネ88の振動強度を、板バネ88の振動数ごとに算出する。また、容量センサ96は、検出結果に応じて、信号を出力する。本実施形態において、容量センサ96が出力する信号は、容量センサ96が算出した、板バネ88の振動数ごとの、板バネ88の振動強度を、周波数ごとの信号強度に置き換えた信号である。
【0185】
以上を除き、本実施形態に係る振動成分測定装置84は、振動成分測定装置2と、同一の構成を備え、同一の動作を行う。このため、板バネ88は振動数f
1において振動し、板バネ88とサンプルXとの間には、周波数2f
1+f
mの第2交流信号を印加される。したがって、容量センサ96が出力する信号は、
図2に示す信号と同じく、周波数f
1、f
1+f
m、2f
1+f
m、および3f
1+f
mに成分を有する。
【0186】
したがって、本実施形態においても、板バネ88の振動の変調成分の側波帯における、振幅Rと位相θとの変化を観測することにより、板バネ88の振動成分の変動を測定することが可能である。当該測定は、上述した、振動成分測定装置2による測定と同一の方法によって実施することができる。
【0187】
本実施形態においても、振動成分測定装置84は、サンプルXと板バネ88との間に高周波の信号を印加した場合における板バネ88の振動の周波数シフトをより高速にて測定することができる。これにより、振動成分測定装置84は、振動成分測定装置2を利用した測定方法と同一の方法により、サンプルXと板バネ88との間に交流信号を印加した場合における、サンプルXの挙動等を測定することができる。
【0188】
本実施形態に係る振動成分測定装置84は、微細振動検知機構86を微細センサとして備えた、MEMSセンサとして利用することができる。本実施形態に係る振動成分測定装置84は、例えば、サンプルXの振動を検出する振動センサ、サンプルXの動きを検出する加速度センサ、あるいは、サンプルXからの音波を検出する音波センサ等に応用できる。振動成分測定装置84を音波センサとして利用する場合、サンプルXに音波を発し、サンプルXにて反射した音波を微細振動検知機構86によって検知することにより、距離センサ等として利用することもできる。
【0189】
本実施形態において、板バネ88の振動成分の測定は、固定電極94と容量センサ96とを用いて、板バネ88と固定電極94との間の静電容量を測定することにより実行する。しかしながら、板バネ88の振動成分の測定は、これに限られず、光ファイバセンサを利用して実行してもよい。
【0190】
また、板バネ88は、ピエゾ抵抗効果を有するシリコン、または、クオーツを含むピエゾ圧電効果を有する水晶等を含んでいてもよい。この場合、板バネ88の振動成分の測定は、ピエゾ抵抗効果を有するシリコンの抵抗値、または、ピエゾ圧電効果を有する水晶に生じた起電力を測定することにより実行してもよい。
【0191】
上述した板バネ88の振動成分の測定方法は、光源16、および光センサ18等を用いた光てこ方式とは異なる。このため、光源16から光センサ18への光路の確保等が必要でないため、上述した板バネ88の振動成分の測定方法により、振動成分測定装置84をより小型化することが可能となる。
【0192】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0193】
2、58、62、64、66、72、80、84 振動成分測定装置、4 カンチレバー探針(振動部)、10 探針制御部(振動制御部)、12 ステージ、14 ステージ電極、16 光源、18 光センサ、20 第1位相同期ループ回路、22 第2位相同期ループ回路、24 自動利得制御回路、26 ステージ制御部、42 第1振幅変調器、44 第2振幅変調器、46 ダブラ、48 交流電源、50 第1ロックインアンプ、52 直流信号制御器、54 直流電源、56 加算器、60 第2ロックインアンプ、68 追加交流電源、70 第3ロックインアンプ、82 第3位相同期ループ回路、86 微細振動検知機構、88 板バネ(振動部)、90 板バネ制御部(振動制御部)、92 板バネ保持部、94 固定電極、96 容量センサ、S1 第1スイッチ、S2 第2スイッチ、S3 第3スイッチ、S4 第4スイッチ。