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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び診断支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021087804
(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公開番号】P2022180993
(43)【公開日】2022-12-07
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 健太
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-081742(JP,A)
【文献】特開2020-018694(JP,A)
【文献】特開2013-188236(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0117818(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を出力する解析部と、
フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら前記所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を出力する平滑化部であって、前記変化率の増大に従って前記平滑化度を減少させる平滑化部と、
前記平滑化された所在データ列に従って、前記病変部を通知するマークを生成する生成部と、
を含み、
前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記解析部は、前記病変部の所在として前記病変部の位置及びサイズを特定し、前記所在データ列として位置データ列及びサイズデータ列を出力し、
前記平滑化部は、前記位置データ列を平滑化する第1平滑化部と、前記サイズデータ列を平滑化する第2平滑化部と、を含み、
前記生成部は、前記平滑化された位置データ列及び前記平滑化されたサイズデータ列に従って前記マークを生成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記各位置データは前記病変部を包含する領域の中心位置を示すデータであり、
前記各サイズデータは前記領域の隅位置を示すデータである、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記平滑化部は、前記フレームデータ列に基づいてフレームデータ間で差分又は相関値を演算することにより前記変化率を演算する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項記載の超音波診断装置において、
前記平滑化部は、前記平滑化度の増減に当たって、平滑化で利用するフレームデータの個数を増減させる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記生成部は、
前記解析部の出力に基づいて前記病変部についての時間的不連続を判定し、
前記時間的不連続が判定された場合に前記マークの生成を制限する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記生成部は、
前記解析部の出力に基づいて前記病変部についての空間的不連続を判定し、
前記空間的不連続が判定された場合に前記マークの生成を制限する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を生成する工程と、
フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら前記所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を生成する工程であって、前記変化率の増大に従って前記平滑化度を減少させる工程と、
前記平滑化された所在データ列に従って、前記病変部を通知するマークを生成する工程と、
を含み、
前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される、
ことを特徴とする診断支援方法。
【請求項9】
情報処理装置において診断支援方法を実行するためのプログラムであって、
超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を生成する機能と、
フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら前記所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を生成する機能であって、前記変化率の増大に従って前記平滑化度を減少させる機能と、
前記平滑化された所在データ列に従って、前記病変部を通知するマークを生成する機能と、
を含み、
前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及び診断支援方法に関し、特に、超音波画像上に病変部を通知するマークを表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
乳房の超音波検査においては、乳房の表面に当接されたプローブが乳房の表面に沿って走査される。その走査の過程において、表示器に表示されるリアルタイム断層画像が観察され、その観察を通じて病変部の有無が判断される。病変部が見つかった場合、病変部がその周囲組織を含めて詳しく検査される。このことは他の臓器の超音波検査においても同様である。
【0003】
リアルタイムで変化する断層画像上において、一時的に現れる病変部を視覚的に特定することは容易ではない。特に乳房の超音波検査において、断層画像上に現れる組織は多層構造を有しており、その中に含まれる病変部を検査者が瞬時に識別することは容易ではない。
【0004】
病変部の特定を支援する技術として、CADe(Computer Aided Detection)がある。その技術は、例えば、フレームごとに断層画像内の病変部(正確には病変部候補)を検出し、断層画像内に病変部が含まれる場合にそれを通知するものである。例えば、断層画像上に病変部を囲むマークが表示される。CADeは、CAD(Computer Aided Diagnosis)と共に利用され又はCADに含まれるものである。
【0005】
特許文献1には、CAD機能を備えた医療装置が開示されている。その医療装置は、プローブ走査速度に応じてマークの色を変化させることにより検査者に対してプローブ走査速度を提示する機能を備えている。特許文献1には、マークの平滑化に関する技術は開示されていない。なお、本願明細書において、病変部は、疾患の可能性がある部位又は精査しておく必要性のある部位を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-178989公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CADe機能又はCAD機能を搭載した超音波診断装置においては、超音波画像上に病変部を通知するマークが表示される。マークの出現及びその継続的な表示を通じて、検査者に対して病変部が存在していることを通知でき、これにより検査者に対して病変部の詳細検査を促せる。
【0008】
しかし、超音波画像の内容がほとんど変化していないにもかかわらず、個々の病変部検出結果に忠実にマークを生成及び表示すると、状況次第では、マークの表示が不安定になる。マークの位置やサイズがフレームごとに刻々と変化すると、マークがちらついて表示され、マークを観察する検査者にストレスや不安感を与えてしまう。これに対し、何等かの平滑化処理を適用した上でマークを表示することが考えられるが、その場合、超音波画像の内容が大きく変化している状況下において、瞬時的に現れた病変部に対してマークが応答性良く表示されないという問題が生じ得る。これは病変部の見落としの要因になり得るものである。
【0009】
本開示の目的は、検出された病変部をマークにより通知する場合において、状況に適合したマーク表示を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る超音波診断装置は、超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を出力する解析部と、フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら前記所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を出力する平滑化部と、前記平滑化された所在データ列に従って、前記病変部を通知するマークを生成する生成部と、を含み、前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される、ことを特徴とする。
【0011】
本開示に係る診断支援方法は、超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を生成する工程と、フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら前記所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を生成する工程と、前記平滑化された所在データ列に従って、前記病変部を通知するマークを生成する工程と、を含み、前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される、ことを特徴とする。
【0012】
本開示に係るプログラムは、情報処理装置において診断支援方法を実行するためのプログラムであって、超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を生成する機能と、フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら前記所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を生成する機能と、前記平滑化された所在データ列に従って、前記病変部を通知するマークを生成する機能と、を含み、前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、検出された病変部をマークにより通知する場合において、状況に適合したマーク表示を行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図2】マーク表示処理を示す図である。
図3】平滑化部の構成例を示す図である。
図4】変化率と平滑化数の関係を示す図である。
図5】重み関数の一例を示す。
図6】第1表示例を示す図である。
図7】第2表示例を示す図である。
図8】平滑化処理の一例を示す図である。
図9】第1動作例を示すフローチャートである。
図10】第2動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、解析部、平滑化部、及び、生成部を有する。解析部は、超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在を特定し、これにより所在データ列を出力する。平滑化部は、フレームデータ内容の時間的変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら所在データ列を平滑化し、これにより平滑化された所在データ列を出力する。生成部は、平滑化された所在データ列に従って、病変部を通知するマークを生成する。フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上にマークが表示される。
【0017】
上記構成によれば、平滑化された所在データ列に従ってマークが表示される。その際、フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度が定められる。変化率が小さい場合に、つまり超音波画像の内容があまり変化しないような場合に、平滑化度を大きくすれば、マーク表示が不安定になることを防止又は軽減できる。例えば、マークがちらついて表示される現象を抑制できる。一方、変化率が大きい場合に、つまり超音波画像の内容が大きく変化している場合に、平滑化度を小さくすれば、応答性良くマークを表示でき、これにより瞬時的に現れる病変部の見落としを防止又は軽減できる。実施形態に係る構成によれば、状況に適合したマーク表示を実現でき、それ故、マーク表示の信頼性を高められる。
【0018】
病変部の所在は、超音波画像内において病変部が存在する場所又は部位を意味する。病変部の所在として、病変部を代表する複数の点が特定されてもよいし、病変部が存在する領域又は病変部を包含する領域が特定されてもよい。変化率として、又は、変化率の演算に当たって、プローブ移動情報、フレームデータ間の差分情報、送受波フレームレート等が参照されてもよい。
【0019】
実施形態において、解析部は、病変部の所在として病変部の位置及びサイズを特定し、所在データ列として位置データ列及びサイズデータ列を出力する。平滑化部は、位置データ列を平滑化する第1平滑化部と、サイズデータ列を平滑化する第2平滑化部と、を含む。生成部は、平滑化された位置データ列及び平滑化されたサイズデータ列に従ってマークを生成する。実施形態において、各位置データは病変部を包含する領域の中心位置を示すデータであり、各サイズデータは領域の隅位置を示すデータである。
【0020】
マーク表示が不安定になる要因として、病変部について検出された位置の時間的変動、及び、病変部について検出されたサイズの時間的変動が挙げられる。それらが個別的に平滑化される。これにより、超音波画像の内容があまり変化していないような状況下で、マークそれ全体を安定的に表示できる。なお、マークそれ自体を平滑化する変形例も考えられる。
【0021】
実施形態において、平滑化部は、変化率の増大に従って平滑化度を減少させる。この構成によれば、フレームデータ内容の変化の度合いが大きくなればなるほど、応答性が重視され、フレームデータ内容の変化の度合いが小さくなればなるほど、平滑性又は安定性が重視されることになる。
【0022】
実施形態において、平滑化部は、平滑化度の増減に当たって、平滑化で利用するフレームデータの個数を増減させる。平滑化に際して、重み付け関数が利用されてもよい。平滑化度を示す数値又は平滑化で利用するフレーム数を画面上に表示してもよい。ユーザー選択により又は自動的に平滑化度を所定値に固定するモードを設けてもよい。
【0023】
実施形態において、平滑化部は、解析部の出力に基づいて病変部についての時間的不連続を判定し、時間的不連続が判定された場合にマークの生成を制限する。実施形態において、平滑化部は、解析部の出力に基づいて病変部についての空間的不連続を判定し、空間的不連続が判定された場合にマークの生成を制限する。時間的不連続又は空間的不連続が判定された場合に、マークの生成を制限してマークを非表示にしてもよいし、平滑化に係るマーク表示が制限されてもよい。後述する時間的連続条件の不充足判定が時間的不連続の判定に相当する。後述する空間的連続条件の不充足判定が空間的不連続の判定に相当する。
【0024】
実施形態に係る診断支援方法は、解析工程、平滑化工程、及び、生成工程を有する。解析工程では、超音波ビームを繰り返し走査することにより取得されたフレームデータ列に基づいて、フレームデータごとに病変部の所在が特定され、これにより所在データ列が生成される。平滑化工程では、フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す変化率に従って平滑化度を動的に変えながら所在データ列が平滑化され、これにより平滑化された所在データ列が生成される。生成工程では、平滑化された所在データ列に従って、病変部を通知するマークが生成される。フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記マークが表示される。
【0025】
上記診断支援方法は、ハードウエアの機能により又はソフトウエアの機能により実現され得る。後者の場合、診断支援方法を実行するためのプログラムが、可搬型記憶媒体又はネットワークを介して、情報処理装置へインストールされる。情報処理装置の概念には、超音波診断装置、超音波画像処理装置、及び、コンピュータが含まれる。
【0026】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成がブロック図として示されている。超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、生体(被検者)に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて、超音波画像を形成する医療用の装置である。超音波診断対象となる臓器は、実施形態において、例えば、乳房である。
【0027】
乳房の集団検診においては、短時間にしかも見落としなく病変部を特定する必要がある。実施形態に係る超音波診断装置は、検査者による病変部の特定を支援するために、超音波画像に含まれる病変部(例えば低輝度の腫瘤像)を自動的に検出するCADe機能を備えている。これについては後に詳述する。
【0028】
プローブ10は、超音波を送受波する手段として機能するものである。プローブ10は、可搬型送受波器であり、それは検査者(医師、検査技師等)によって保持及び操作される。乳房の超音波診断に際しては、プローブ10の送受波面(具体的には音響レンズ表面)が被検者の胸部表面に当接される。リアルタイム表示される断層画像を観察しながら、胸部表面に沿ってプローブ10がマニュアルで走査される。
【0029】
プローブ10は、図示された構成例において、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを備えている。振動素子アレイによって超音波ビーム(送信ビーム及び受信ビーム)12が形成され、超音波ビーム12の電子的な走査により走査面14が形成される。走査面14は観察面であり、すなわち二次元データ取込領域である。超音波ビーム12の電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式等が知られている。超音波ビーム12のコンベックス走査が行われてもよい。超音波プローブ10内に2D振動素子アレイを設け、超音波ビームの二次元走査により、生体内からボリュームデータが取得されてもよい。超音波ビームの走査を繰り返すことにより、後述する受信フレームデータ列が生成される。
【0030】
図示の構成例では、プローブ10の位置情報を求める測位システムが設けられている。測位システムは、磁気センサ18、磁場発生器20及び測位コントローラ21により構成される。プローブ(正確にはプローブヘッド)10に磁気センサ18が設けられる。磁気センサ18により磁場発生器20で生成された磁場が検出される。これにより磁気センサ18の三次元座標情報が得られる。その三次元座標情報に基づいてプローブ10の位置及び姿勢が特定される。測位コントローラからマーク生成部30及び主制御部38へ位置情報が送られている。
【0031】
送信回路22は送信ビームフォーマーとして機能する。具体的には、送信時において、送信回路22は、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイに到達すると、複数の振動素子から複数の受信信号が並列的に出力される。受信回路24は受信ビームフォーマーとして機能し、複数の受信信号を整相加算(遅延加算ともいう)することにより、ビームデータを生成する。
【0032】
ちなみに、1回の電子走査当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが生成され、それらが走査面14に対応する受信フレームデータを構成する。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信回路24の後段にはビームデータ処理部が設けられているが、その図示が省略されている。
【0033】
画像形成部26は、受信フレームデータに基づいて断層画像(Bモード断層画像)を生成する電子回路である。それはDSC(Digital Scan Converter)を有している。DSCは、座標変換機能、画素補間機能、フレームレート変換機能等を有している。より詳しくは、画像形成部26において、受信フレームデータ列に基づいて表示フレームデータ列が形成される。表示フレームデータ列を構成する複数の表示フレームデータは、複数の断層画像データであり、それらのデータによりリアルタイム動画像が構成される。断層画像以外の超音波画像が生成されてもよい。例えば、カラーフローマッピング画像が形成されてもよいし、組織を立体的に表現した三次元画像が形成されてもよい。表示フレームデータ列は、画像解析部28及び表示処理部32に送られている。
【0034】
画像解析部28は、CADe機能を発揮するモジュールである。画像解析部28は、表示フレームデータごとに、つまり断層画像ごとに、病変部検出処理を実行する。具体的には、CNNなどの機械学習ネットワークを用いて、あらかじめ学習したいずれかの病変部特徴量に類似する特徴量を有する領域を断層画像内から探索する。検出対象となる病変部はネットワークの設計者において事前に決定される。例えば、検出対象となる病変部には、腫瘤性病変部、非腫瘤性病変部、等が含まれる。病変部検出処理に際して、断層画像に対して、二値化処理、エッジ検出処理等などの処理が適用されてもよい。
【0035】
病変部が検出された場合、画像解析部28から病変部情報が出力される。病変部情報には、病変部検出フラグ、病変部の信頼度、病変部の位置情報(位置データ)、及び、病変部のサイズ情報(サイズデータ)が含まれる。表示フレームデータごとに、画像解析部28からマーク生成部30へ病変部情報が送られている。換言すれば、画像解析部28からマーク生成部30へ、位置データ列及びサイズデータ列が送られている。
【0036】
病変部の位置情報は、例えば、病変部に相当する閉領域の中心点(又は重心点)の座標を示す情報であり、あるいは、病変部を囲む図形の中心点(又は重心点)の座標を示す情報である。病変部のサイズ情報は、例えば、病変部を囲む図形の大きさを示す情報である。例えば、病変部に外接しつつ病変部を囲む矩形を定義し、その中心点の座標とその左上隅点の座標から、病変部のサイズが特定されてもよい。中心点の座標が特定されている前提の下、左上隅点の座標を病変部のサイズ情報とみなしてもよい。病変部のサイズ情報として、病変部に相当する閉領域の面積が求められてもよい。複数の病変部が並列的に検出されてもよい。病変部の位置情報及びサイズ情報はそれら併せて病変部の所在情報と言い得る。
【0037】
マーク生成部30は、表示フレームデータごとに、病変部情報に基づいてマークを生成する。マークは、病変部が存在する場所を示す表示要素である。具体的には、マークは病変部を囲む形態を有し、マークの観察を通じて、病変部の中心位置及びサイズを特定し得る。時間軸上においてマークを連続的に観察した場合、マークは動的図形(動画像)に相当する。表示フレームデータごとにマークを個別的に観察した場合、マークは静的図形(静止画像)に相当する。
【0038】
実施形態に係るマーク生成部30は、変化率演算部33及び平滑化部34を有する。変化率演算部33は、表示フレームデータごとに、表示フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す情報として変化率を演算する。例えば、表示フレームデータ間で差分又は相関値を演算し、その演算結果を変化率として用いてもよい。測位システムから出力される位置情報の時間的な変化に基づいて変化率が演算されてもよい。プローブ移動量(プローブ移動速度)が大きい場合、表示フレームデータ内容の時間的な変化は大きいと推定され、プローブ移動量が小さい場合、表示フレームデータ内容の時間的な変化は小さいと推定されるからである。表示フレームデータ内容の時間的な変化の度合いを示す複数の情報に基づいて変化率が演算されてもよい。
【0039】
表示フレームデータ間で相関値を演算する場合、個々の表示フレームデータに対し、病変部の中心位置に基づき参照エリアを設定し、2つの参照エリア間で相関値が演算されてもよい。その場合、個々の座標ごとに画素値の差分を演算し、それら差分の総和を画素数(面積)で規格化することにより、相関値が演算されてもよい。2つの参照エリア間におけるヒストグラムの相関値、2つの参照エリア間で演算されるオプティカルフロー、等に基づいて変化率が演算されてもよい。変化率の演算に先立って、各表示フレームデータに対して、セグメンテーション、二値化処理等の前処理が適用されてもよい。
【0040】
送受波フレームレートに基づいて変化率が演算されてもよく、あるいは、送受波フレームレートそれ自体を変化率として用いてもよい。送受波フレームレートが大きい場合、通常、表示フレームデータ内容の時間的な変化は大きくなり、一方、送受波フレームレートが小さい場合、通常、表示フレームデータ内容の時間的な変化は小さくなるからである。もっとも、プローブ10が完全に静止している場合、送受波フレームレートにかかわらず、表示フレームデータの内容は安定する。よって、補助的な情報として送受波フレームレートを用いることが望まれる。
【0041】
平滑化部34は、平滑化処理を実行するものである。実施形態においては、画像解析部28が生成及び出力した位置データ列及びサイズデータ列に対して平滑化処理を個別的に適用する。実施形態では、後に具体例を用いて説明するように、病変部に外接する矩形領域の中心座標及び左上隅座標に対して平滑化処理が適用されている。
【0042】
平滑化部34は、変化率が小さければ小さいほど、平滑化度をより大きくし、一方、変化率が大きければ大きいほど、平滑化度をより小さくする。このような平滑化度の適応的可変により、超音波画像の内容があまり変化していない状況下でのマークの安定的な表示と、超音波画像の内容が大きく変化している状況下での応答性の良いマーク表示とを両立させることが可能となる。
【0043】
実際には、平滑化部34は、変化率が小さい場合、平滑化処理で参照するデータ数(平滑化数)を大きくしており、変化率が大きい場合、平滑化処理で参照するデータ数を小さくしている。ここで、データ数はフレーム数を意味し、それは現在から過去に遡った一定期間としての時間窓に相当する。参照するフレーム数の最大値及び最小値がユーザーにより又は自動的に決定されてもよい。
【0044】
マーク生成部30は、平滑化された位置データ列、及び、平滑化されたサイズデータ列に基づいて、表示フレームデータごとに静止像としてのマークを生成する。マーク生成部30は、平滑化処理のために必要なデータを保存するためのメモリを備えている。
【0045】
より詳しくは、マーク生成部30は、時間的連続条件及び空間的連続条件が満たされる場合に限り、マークを生成する。時間的連続条件及び空間的連続条件のいずれか一方が充足されない場合、マークが非表示とされる。現在の表示フレームデータを含むm(但しmは2以上の整数)個の表示フレームデータそれら全体として病変部が連続的に検出されている場合に、時間的連続条件が満たされる。基準となる表示フレームデータにおける病変部中心と現在の表示フレームデータにおける病変部中心との間の距離が所定値以下である場合に、空間的連続条件が満たされる。基準となる表示フレームデータは、例えば、病変部の連続検出状況において、当該病変部が最初に検出された時点で取得された表示フレームデータである。基準となる表示フレームデータを1つ前の表示フレームデータとしてもよい。
【0046】
一定の時間範囲内において病変部検出が途絶えた場合、マーク表示が制限される。また、病変部の移動が不自然なジャンプに相当するものである場合、マーク表示が制限される。これにより、病変部位が検出されていない状況下でのマーク表示、誤検出に基づくマークの突発的な表示、等を回避できる。
【0047】
もっとも、プローブ当接状態の変化やノイズ等により病変部検出が一時的に途絶えることもあるので、マーク表示条件又はマーク表示制限条件が検査者により又は自動的に変更されてもよい。いずれかの連続条件が満たされない場合に、マーク非表示に代えて、平滑化を行っていない位置データ及びサイズデータに基づくマークの生成及び表示を行ってもよい。
【0048】
マーク生成部30において、変化率から平滑化度を決定するに際しては、変換テーブルを利用してもよいし、変換関数を利用してもよい。平滑化処理に際して、時間軸に沿って重みが変化する重み関数が利用されてもよい。マーク生成部30において、表示フレームデータごとにマークを含むグラフィックデータが生成され、そのグラフィックデータが表示処理部32へ送られる。
【0049】
画像形成部26、画像解析部28、及び、マーク生成部30は、それぞれ、プロセッサにより構成され得る。単一のプロセッサが画像形成部26、画像解析部28、及び、マーク生成部30として機能してもよい。後述するCPUが、画像形成部26、画像解析部28、及び、マーク生成部30として機能してもよい。
【0050】
表示処理部32は、カラー演算機能、画像合成機能等を有する。表示処理部32において、表示フレームデータ(断層画像)に対してマークを含むグラフィックデータが合成され、これにより表示器36に表示される画像が生成される。表示器36は、LCD、有機EL表示デバイス等によって構成される。表示器36には、動画像としての断層画像がリアルタイムで表示され、また、グラフィック画像の一部としてマークが表示される。表示処理部32は、例えば、プロセッサにより構成される。
【0051】
主制御部38は、図1に示された各要素の動作を制御するものである。主制御部38は、実施形態において、CPU及びプログラムによって構成される。主制御部38には、操作パネル40が接続されている。操作パネル40は入力デバイスであり、それは、複数のスイッチ、複数のボタン、トラックボール、キーボード等を有する。実施形態においては、表示フレームデータ列が画像解析部28に与えられているが、受信フレームデータ列が画像解析部28に与えられてもよい(符号42を参照)。その場合、受信フレームデータ列から表示フレームデータ列を簡易に生成する第2の画像形成部が設けられてもよい。
【0052】
図2には、マーク表示処理が示されている。断層画像44には病変部46が含まれる。病変部46が画像解析部において検出される。病変部46の検出に際して、例えば、病変部46に外接する矩形(又は領域)52が定義される。実際には、矩形52における中心点48の座標及び左上隅点50の座標が特定される。エッジ検出などの画像特徴量に基づいて病変部が検出されてもよい。
【0053】
矩形52の外側に、水平方向及び垂直方向に一定のマージン56,58をおいた図形として、矩形54が定義される。その矩形54が断層画像上にマーカー64として表示される。マーカー64は、病変部46及びその周囲を囲む図形である。図示の例では、マーカー64は、破線で構成されている。マーカー64の表示態様は自由に選択し得る。例えば、実線で構成されたマーカーが表示されてもよいし、4つの隅部分のみを表す4つの要素からなるマーカーが表示されてもよい。円形や楕円のマーカーが表示されてもよい。
【0054】
表示フレームデータの内容がほとんど変化しておらず、つまり病変部がほとんど変化していないにもかかわらず、表示されるマーカー64の位置やサイズがフレームごとに刻々と変化すると、検査者にストレス又は不安感を生じさせる。その一方、表示フレームデータの内容が大きく変化している状況下で、突発的に出現した病変部の見落としを効果的に防止することも重要である。そのような観点から、実施形態においては、既に説明したように、また以下に具体例を説明するように、変化率に基づく適応的な平滑化処理が実行されている。
【0055】
図3には、平滑化部34の構成が示されている。平滑化部34は、第1平滑化部34A及び第2平滑化部34Bを有する。第1平滑化部34Aは、位置データ列を平滑化する。第2平滑化部34Bは、サイズデータ列を平滑化する。この他、病変部検出の信頼度を平滑化する第3平滑化部が設けられてもよい。
【0056】
図4には、平滑化処理に関し、変化率Rと参照データ数(平滑化数)Nとの関係が示されている。線形関数66Aで示すように、変化率Rの増大に伴って参照データ数Nを単調減少させてもよい。非線形関数66Bに従って変化率Rから参照データ数Nが決定されてもよい。
【0057】
図5には、重み関数106が示されている。横軸は時間軸であり、nが現在のフレーム番号を示し、n-1~n-5が過去のフレームを示している。縦軸は重みwを示している。重み関数106で示すように、より新しいデータに対してより大きな重みwを与えてもよい。変化率Rから決定される時間窓に対して適合するように重み関数106を伸縮させてもよい。時間窓内に一律の重みを設定してもよいし、時間窓内において重みを線形に変化させてもよい。
【0058】
図6には第1のマーク表示例が示されており、図7には第2のマーク表示例が示されている。第1の表示例は、例えばプローブ移動速度が大きく、大きな変化率が演算されている状態を示すものである。第2の表示例は、例えばプローブ移動速度が大きく、小さな変化率が演算されている状態を示すものである。図6及び図7において、横軸は時間軸である。
【0059】
図6に示す第1のマーク表示例には、各時刻における断層画像70A~70Dが含まれ、それらには病変部72A~72Dが含まれる。時間軸上において、病変部の態様(内容、位置等)は時間的に大きく変化している。このような場合には、小さな平滑化度が定められ、各時刻において、病変部72A~72Dを囲むマーク74A~74Dが応答性良く生成及び表示される。これにより病変部の見落としを防止又は軽減できる。
【0060】
図7に示す第2の表示例には、各時刻における断層画像76A~76Dが含まれ、それらには病変部78A~78Dが含まれる。時間軸上において、病変部の態様はあまり変化していない。このような場合には、大きな平滑化度が定められ、各時刻において、病変部78A~78Dを囲むマーク79A~79Dの変化が抑制されている。これによりマークがちらついて表示される現象が抑止されている。
【0061】
図8には、平滑化処理例が示されている。縦軸は時間軸である。符号80は1つのデータセットを示している。時間軸に沿って複数のデータセットが並んでいる。横軸に沿って、フレーム番号82、病変部検出の有無84、変化率としてのプローブ移動速度86、平滑化数(参照データ数)88、中心点座標90、平滑化後の中心点座標92、左上隅点座標94、及び、平滑化後の左上隅点座標96、が示されている。
【0062】
フレーム番号11で特定される時点では、病変部が検出されていない。平滑化処理は実行されない。フレーム番号12で特定される時点では、病変部が検出され、移動速度10から平滑化数5が定められたものの、その時点では平滑化は行われず、中心点座標C12及び左上隅点座標L12に基づいてマークが生成される。フレーム番号13で特定される時点では、病変部が検出されており、移動速度11から平滑化数5が決定されている。その時点では、2つの中心点座標C12,C13に基づいて平滑化後の中心点座標C13’が演算されている(符号98を参照。括弧内の2つの座標は平滑化範囲を示している。)。これと同様に、2つの左上隅点座標L12,L13に基づいて平滑化後の左上隅点座標L13’が演算されている(符号100を参照)。平滑化後の中心点座標C13’及び平滑化後の左上隅点座標L13’に基づいてマークが生成される。
【0063】
フレーム番号18で特定される時点では、病変部が検出されており(フレーム番号12-18にわたって連続検出)、5つの中心点座標C14-C18に基づいて平滑化後の中心点座標C18’が演算されている(符号102を参照)。これと同様に、5つの左上隅点座標L14-L18に基づいて平滑化後の左上隅点座標L18’が演算されている。平滑化後の中心点座標C18’及び平滑化後の左上隅点座標L18’に基づいてマークが生成される(符号104を参照)。
【0064】
フレーム番号31で特定される時点からフレーム番号34で特定される時点にかけて、病変部検出が連続しているが、その期間内において移動速度は比較的に大きく、その期間内において平滑化数は小さい。実施形態においては、このように変化率の変動に従って平滑化度が適応的に定められる。それには、平滑化のオンオフの適応的な切り替えが含まれる。
【0065】
図9には、マーク生成部の第1動作例が示されている。S10では、病変部が検出されたか否かが判断されている。例えば、信頼度が所定値以上である場合に、病変部の検出が判断されてもよい。S10において終了条件が満たされた場合、本処理が終了する。
【0066】
病変部が検出されたと判断された場合、S12において、変化率に基づいて平滑化数(参照データ数)が決定される。S14では、時間的連続条件(第1条件)が充足されるか否かが判断される。S15では、空間的連続条件(第2条件)が充足されるか否かが判断される。第1条件及び第2条件の両方が充足された場合にS16が実行され、いずれかの条件が満たされなかった場合にS18が実行される。
【0067】
S16では、平滑化処理結果に基づいて、つまり、平滑化された位置データ列及びサイズデータ列に基づいて、マークが生成される。S20において、生成されたマークが表示される。S18では、マークの表示が制限される。具体的にはマークが非表示とされる。以上のような処理が繰り返し実行される。
【0068】
図10には、マーク生成部の第2動作例が示されている。なお、図10において、図9に示した工程と同様の工程には同一のステップ番号を付し、その説明を省略する。
【0069】
第2動作例では、第1条件及び第2条件のいずれかが満たされなかった場合、S21において、平滑化が制限された上で、マークが生成される。つまり、平滑化されていない位置データ及びサイズデータに基づいてマークが生成され、それがS20において表示される。
【0070】
第1動作例及び第2動作例のいずれにおいても、一定条件が満たされた場合に、変化率に基づく平滑化度に従って、平滑化されたマークが表示される。断層画像の内容がほとんど変化しないような状況下では、マークがちらついて表示される事象の発生を効果的に防止又は軽減できる。断層画像の内容が大きく変化しているような状況下では、突発的に検出される病変部をマークによって確実に通知することが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
10 プローブ、26 画像形成部、28 画像解析部、30 マーク生成部、33 変化率演算部、34 平滑化部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10