(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】プラズマ測定方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
H05H1/00 A
(21)【出願番号】P 2021142215
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2024-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】芦田 光利
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-46787(JP,A)
【文献】特開2020-77862(JP,A)
【文献】特開2010-133866(JP,A)
【文献】特表2021-503700(JP,A)
【文献】国際公開第2008/146684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/32
H05H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容した処理容器内にプロセスガスを導入し、電磁波発振器から発生させた電磁波をパルス化装置で加工した電磁波パルスを用いてパルス状プラズマを生成して基板に対しプラズマ処理を行う際に、プローブ装置を用いてプラズマの状態を測定するプラズマ測定方法であって、
前記プローブ装置を介して前記パルス状プラズマへ交流電圧を印加することと、
前記交流電圧に基づく前記パルス状プラズマからの信号を、前記プローブ装置を介して伝送し、電流値を含むデータを測定することと、
前記測定したデータを解析して前記パルス状プラズマの状態を把握することと、
を有し、
前記電磁波パルスの1周期の期間内において前記パルス状プラズマの測定に必要な数のデータが、許容時間内に得られるように、前記交流電圧の周波数を前記電磁波パルスの周波数からずらす、プラズマ測定方法。
【請求項2】
前記交流電圧を複数の前記電磁波パルスの期間継続的に与え、複数の前記電磁波パルスのそれぞれの異なるポイントのデータを重ね合わせることにより前記電磁波パルスの1周期内における前記必要な数のデータを得る、請求項1に記載のプラズマ測定方法。
【請求項3】
前記交流電圧の周波数をf
probe、前記電磁波パルスの周波数をf
pulse、とした場合に、以下の(1)式、(2)式、(3)式に示す関係を満たす、請求項1または請求項2に記載のプラズマ測定方法。
【数1】
ただし、m,nは上記(1)式を満たす最小の正の整数の組を表し、T
maxは前記データの測定の前記許容時間上限を表す。
【請求項4】
基板を収容した処理容器内にプロセスガスを導入し、電磁波発振器から発生させた電磁波をパルス化装置で加工した電磁波パルスを用いてパルス状プラズマを生成して基板に対しプラズマ処理を行う際に、プローブ装置を用いてプラズマの状態を測定するプラズマ測定方法であって、
前記プローブ装置を介して前記パルス状プラズマへ交流電圧を印加することと、
前記交流電圧に基づく前記パルス状プラズマからの信号を、前記プローブ装置を介して伝送し、電流値を含むデータを測定することと、
前記測定したデータを解析して前記パルス状プラズマの状態を把握することと、
を有し、
前記交流電圧の周波数をf
probe、前記電磁波パルスの周波数をf
pulse、とした場合に、以下の(1)式、(2)式、(3)式に示す関係を満たす、プラズマ測定方法。
【数2】
ただし、m,nは上記(1)式を満たす最小の正の整数の組を表し、T
maxは前記データの測定の許容時間上限を表す。
【請求項5】
前記T
maxは、10sec以下である、請求項3または請求項4に記載のプラズマ測定方法。
【請求項6】
前記電流値を含むデータは、電圧と時間を変数とする2変数関数としての電流値である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【請求項7】
前記交流電圧の周波数は、500
Hz~100kHzの範囲である、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【請求項8】
前記電磁波パルスの周波数は、500
Hz~100kHzの範囲である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【請求項9】
前記交流電圧の周波数は、前記電磁波パルスの周波数の10倍未満である、請求項7または請求項8に記載のプラズマ測定方法。
【請求項10】
前記データを解析する際のサンプリング周波数は、前記交流電圧の周波数と同様に前記電磁波パルスの周波数からずらす、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【請求項11】
前記データを時間に区切って解析し、その際に、前記データを時間軸に存在させるように、線形補完またはスプライン補間を用いて前記データを補正する、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【請求項12】
前記データを解析することにより、前記パルス状プラズマの電子密度および/または電子温度を算出する、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【請求項13】
前記データの解析は、前記電流値をフーリエ変換することにより行われる、請求項12に記載のプラズマ測定方法。
【請求項14】
前記プローブ装置は、前記パルス状プラズマに接する表面に絶縁膜が形成され、前記パルス状プラズマからDC的に絶縁されている、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のプラズマ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマの状態を測定するためのプローブをチャンバ内に挿入して、測定用電源から測定用信号をチャンバ内に供給することによってプラズマの状態を測定することが行われている。このようなプローブとしては、直流電圧を印加してプラズマを測定する直流プローブ(ラングミュアプローブ)が一般的であるが、プロセスガスによるプラズマ(プロセスプラズマ)ではプローブ表面にデポ膜が付着してプラズマ測定が困難である。これに対して、特許文献1には、デポ膜が付着するプロセスプラズマにおいてもプラズマの測定を行うことができるプローブとして、絶縁膜で被覆され交流電圧を印加してプラズマを測定する交流プローブが提案されている。
【0003】
一方、特許文献2には、パルス化プラズマが、ウエハに付与される平均エネルギーの低減とプラズマ中の電子温度の抑制を実現可能なことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-46787号公報
【文献】特表2021-503700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、プロセスガスを用いたパルス状プラズマの状態をリアルタイムで測定することができるプラズマ測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るプラズマ測定方法は、基板を収容した処理容器内にプロセスガスを導入し、電磁波発振器から発生させた電磁波をパルス化装置で加工した電磁波パルスを用いてパルス状プラズマを生成して基板に対しプラズマ処理を行う際に、プローブ装置を用いてプラズマの状態を測定するプラズマ測定方法であって、前記プローブ装置を介して前記パルス状プラズマへ交流電圧を印加することと、前記交流電圧に基づく前記パルス状プラズマからの信号を、前記プローブ装置を介して伝送し、電流値を含むデータを測定することと、前記測定したデータを解析して前記パルス状プラズマの状態を把握することと、を有し、前記電磁波パルスの1周期の期間内において前記パルス状プラズマの測定に必要な数のデータが、許容時間内に得られるように、前記交流電圧の周波数を前記電磁波パルスの周波数からずらす。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、プロセスガスを用いたパルス状プラズマの状態をリアルタイムで測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るプラズマ測定方法が適用されるプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係るプラズマ測定方法が適用されるプラズマ処理装置の天壁部の内壁の状態の一例を示す底面図である。
【
図3】一実施形態に係るプラズマ測定方法が適用されるプラズマ処理装置に用いられるプローブ装置の一例を示す断面図である。
【
図4】パルス状プラズマのパワーをオンにした場合とオフにした場合の電子密度と電子温度の挙動を示す図である。
【
図5】ラングミュアプローブを用いた場合の時間分解測定を説明するための図である。
【
図6】直流プローブであるラングミュアプローブを用いた場合の時間分解測定により得られるデータを説明するための図である。
【
図7】交流プローブを用いた一般的な時間分解測定を説明するための図である。
【
図8】交流プローブを用いた一般的な時間分解測定により得られるデータを説明するための図である。
【
図9】一実施形態のプラズマ測定方法を説明するための図である。
【
図10】一実施形態のプラズマ測定方法により取得したデータを示す図である。
【
図11】f
pulse=f
probeの場合の電磁波パルスおよび交流電圧の関係およびその際に得られるデータを示す図である。
【
図12】f
pulse=2f
probeの場合の電磁波パルスおよび交流電圧の関係およびその際に得られるデータを示す図である。
【
図13】2f
pulse=3f
probeの場合の電磁波パルスおよび交流電圧の関係およびその際に得られるデータを示す図である。
【
図14】電磁波パルス1周期分のt-V領域内のデータの解析を説明するための図である。
【
図15】1本の測定線を引くのにかかる時間を説明するための図である。
【
図16】f
probeとf
pulseがほぼ等しいが、わずかに異なる場合において、測定時間が短い場合と長い場合とでの測定領域の違いを説明するための図である。
【
図17】f
pluseよりf
probeが少しだけ大きい場合の一本一本の「ずれ」であるΔTを説明するための図である。
【
図18】整数m、nを含む(3)式を説明するための図である。
【
図19】仮想例としてT
0/T
max=1/100、f
probe/f
pulse=1001/1000、m=n=1の場合の測定を説明するための図である。
【
図20】仮想例としてT
0/T
max=1/1000、f
probe/f
pulse=1001/1000、m=n=1の場合の測定を説明するための図である。
【
図21】f
probe/f
pulse=1000.1/1000=10001/10000=1.0001とし、T
maxを10secとして(3)式を用いて導かれたn/m=5002/5001の場合に得られるデータを説明するための図である。
【
図22】n=11、m=5の場合のt-V領域の測定線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施の形態について具体的に説明する。
【0010】
<プラズマ測定方法が適用されるプラズマ処理装置>
図1は、一実施形態に係るプラズマ測定方法が適用されるプラズマ処理装置の一例を示す断面図である。
【0011】
プラズマ処理装置100は、マイクロ波等の電磁波を放射してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置として構成される。
【0012】
プラズマ処理装置100は、基板としての半導体ウエハW(以下、単に「ウエハW」と記す。)を収容する処理容器(チャンバ)1を有する。プラズマ処理装置100は、処理容器1内に放射された電磁波によって処理容器1内の天壁部の内壁面近傍に形成される表面波プラズマにより、ウエハWに対してプラズマ処理を行う。プラズマ処理としては、成膜処理、エッチング処理、アッシング処理等が例示される。また、基板としてはウエハに限らず、FPD基板やセラミックス基板等の他の基板であってよい。
【0013】
プラズマ処理装置100は、処理容器1の他に、プラズマ源2と、ガス供給機構6と、プローブユニット7と、制御装置8とを有する。
【0014】
処理容器1は、上部が開口された略円筒状の容器本体10と、容器本体10の上部開口を閉塞する天壁部20とを有しており、内部にプラズマ処理空間が形成される。容器本体10はアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属材料からなり、接地されている。天壁部20は、アルミニウムまたはステンレス鋼等の金属材料からなり円盤状をなす。容器本体10と天壁部20との接触面にはシールリング129が介装され、これにより、処理容器1の内部が気密にシールされている。
【0015】
処理容器1内にはウエハWを載置する載置台11が設けられている。載置台11は、処理容器1の底部中央に絶縁部材12aを介して立設された筒状の支持部材12により支持されている。載置台11および支持部材12を構成する材料としては、表面をアルマイト処理(陽極酸化処理)したアルミニウム等の金属や内部に高周波用の電極を有した絶縁部材(セラミックス等)が例示される。載置台11には、ウエハWを静電吸着するための静電チャック、温度制御機構、ウエハWの裏面に熱伝達用のガスを供給するガス流路等が設けられてもよい。
【0016】
載置台11には、整合器13を介して高周波バイアス電源14が接続されている。高周波バイアス電源14から載置台11に高周波電力が供給されることにより、ウエハW側にプラズマ中のイオンが引き込まれる。なお、高周波バイアス電源14はプラズマ処理の特性によっては設けなくてもよい。
【0017】
処理容器1の底部には排気管15が接続されており、排気管15には真空ポンプを含む排気装置16が接続されている。排気装置16を作動させると処理容器1内が排気され、これにより、処理容器1内が所定の真空度まで高速に減圧される。処理容器1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口17と、搬入出口17を開閉するゲートバルブ18とが設けられている。
【0018】
プラズマ源2は、電磁波を生成し、生成した電磁波を処理容器1内に放射してプラズマを生成するためのものであり、電磁波出力部30と、電磁波伝送部40と、電磁波放射機構50とを有する。
【0019】
電磁波出力部30は、発振された電磁波を発生させる電磁波発振器と、発振された電磁波をパルス状にオン/オフするパルス化装置と、発振された電磁波を増幅するアンプと、増幅された電磁波を複数に分配する分配器とを有する。そして、パルス化装置で加工した電磁波パルスを複数に分配して出力する。電磁波の周波数としては、例えば、30kHzからマイクロ波帯域まで、すなわち30kHz~30GHzの範囲の周波数を用いることができる。また、電磁波パルスの周波数としては、好適には500Hz~100kHzの範囲内の周波数を用いることができる。
【0020】
電磁波出力部30から出力された電磁波パルスは、電磁波伝送部40と電磁波放射機構50とを通って処理容器1の内部に放射される。また、処理容器1内には後述するようにガスが供給され、供給されたガスは、導入された電磁波の電界により励起し、これにより表面波プラズマが形成される。
【0021】
電磁波伝送部40は、電磁波出力部30から出力された電磁波パルスを伝送する。電磁波伝送部40は、複数のアンプ部42と、
図1のA-A断面である
図2に示すように、天壁部20の中央に配置された中央電磁波導入部43aと、天壁部20の周縁部に等間隔に配置された6つの周縁電磁波導入部43bとを有する。複数のアンプ部42は、電磁波出力部30の分配器にて分配された電磁波パルスを増幅するものであり、中央電磁波導入部43aおよび6つの周縁電磁波導入部43bのそれぞれに対応して設けられる。中央電磁波導入部43aおよび6つの周縁電磁波導入部43bは、それぞれに対応して設けられたアンプ部42から出力された電磁波パルスを電磁波放射機構50に導入する機能およびインピーダンスを整合する機能を有する。
【0022】
中央電磁波導入部43aおよび周縁電磁波導入部43bは、筒状の外側導体52およびその中心に設けられた棒状の内側導体53を同軸状に配置して構成される。外側導体52と内側導体53の間は、電磁波電力が給電され、電磁波放射機構50に向かって電磁波が伝播する電磁波伝送路44となっている。
【0023】
中央電磁波導入部43aおよび周縁電磁波導入部43bには、一対のスラグ54と、その先端部に位置するインピーダンス調整部材140とが設けられている。スラグ54を移動させることにより、処理容器1内の負荷(プラズマ)のインピーダンスを電磁波出力部30における電磁波電源の特性インピーダンスに整合させる。インピーダンス調整部材140は、誘電体で形成され、その比誘電率により電磁波伝送路44のインピーダンスを調整するようになっている。
【0024】
電磁波放射機構50は、遅波材121および131、スロット122および132を有するスロットアンテナ124および134、ならびに、誘電体部材123および133を備える。遅波材121および131は、それぞれ天壁部20の上面の中央電磁波導入部43aに対応する位置、および天壁部20の上面の周縁電磁波導入部43bに対応する位置に設けられている。また、誘電体部材123および133は、それぞれ天壁部20の内部の中央電磁波導入部43aに対応する位置、および周縁電磁波導入部43bに対応する位置に設けられている。スロット122および132は、それぞれ天壁部20の遅波材121と誘電体部材123との間の部分、天壁20の遅波材131と誘電体部材133との間の部分に設けられ、それらのスロットが形成された部分がスロットアンテナ124および134となる。
【0025】
遅波材121および131は、円板状をなし、内側導体53の先端部分を囲むように配置され、真空よりも大きい誘電率を有しており、例えば、石英、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により構成されている。遅波材121および131は、電磁波の波長を真空中よりも短くしてアンテナを小さくする機能を有している。遅波材121および131は、その厚さにより電磁波の位相を調整することができ、スロットアンテナ124および134が定在波の「はら」になるようにその厚さを調整し、反射が最小で、スロットアンテナ124および134の放射エネルギーが最大となるようにする。
【0026】
誘電体部材123および133は、遅波材121および131と同様、例えば、石英、アルミナ(Al2O3)等のセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により形成されている。誘電体部材123および133は、天壁部20の内部に形成された空間に嵌め込まれており、天壁部20の下面の誘電体部材123および133に対応する部分には開口部が形成されている。したがって、誘電体部材123および133は、処理容器1内に露出しており、電磁波パルスをプラズマ生成空間Uに供給する誘電体窓として機能する。
【0027】
なお、周縁電磁波導入部43bおよび誘電体部材133の個数は6つに限らず、2つ以上であってよいが、3つ以上が好ましい。
【0028】
ガス供給機構6は、ガス供給源61と、天壁部20に設けられたガス導入部62と、ガス供給源61からガス導入部62へガスを供給するガス供給配管63とを有する。ガス導入部62は、天壁部20にリング状に設けられた複数のガス拡散室64と、ガス拡散室64から処理容器1内にガスを吐出する複数のガス吐出孔65とを有する。そして、ガス供給源61からガス供給配管63へ供給されたガスが、ガス導入部62のガス拡散室64に至り、ガス吐出孔65を通って処理容器1内にシャワー状に供給される。ガスの例としては、例えばArガス等のプラズマ生成用のガスや、処理に用いられるプロセスガスが挙げられる。なお、ガス供給機構6は、本例のように天壁部20からガスをシャワー状に吐出するものに限るものではない。
【0029】
プローブユニット7は、プローブ装置(交流プローブ)70と、電源・モニタ部80を有し、プローブ装置70を介してプラズマに交流電圧を与えることにより、パルス状のプラズマの状態を測定する。プローブ装置70は複数設けられ、処理容器1の側壁上部に円周方向に配置されている。処理容器1の側壁上部にはプローブ装置70の取り付け部分に対応して複数の開口部1bが互いに分離した状態で形成されている。なお、開口部1bは、複数に分離した状態ではなく連続して一つ形成されていてもよい。電源・モニタ部80は、周波数および電圧が可変の交流電源とモニタ装置とを有する。電源・モニタ部80とプローブ装置70との間は同軸ケーブル81で接続されている。
【0030】
プローブ装置70は、交流電源から出力された交流電圧をプラズマに印加し、プラズマからの信号(電子電流/またはイオン電流)を電源・モニタ部80のモニタ装置に向けて伝送する。
【0031】
図3は、プローブ装置70の一例を示す断面図である。(a)は全体図であり、(b)は破線で囲ったD領域を拡大して示す断面図である。プローブ装置70は、処理容器1の側壁に形成された開口部1bに、Oリング73を介して取り付けられるアンテナ部71と、アンテナ部71に接続される電極72と、アンテナ部71を周囲から支持する誘電体支持部74とを有する。アンテナ部71は、開口部1bに臨む先端側の板状部材71aと、板状部材71aの裏面中央から後方側に延びるロッド部71bとを有し、ロッド部71bの後端部に電極72が接続されている。同軸ケーブル81は、電極72に接続されている。なお、板状部材71aの形状は特に限定されず、例えば、円板状や矩形状であってよい。
【0032】
板状部材71aは、樹脂等の誘電体で形成されたOリング73を介して開口部1bの裏面側を塞ぐように配置される。アンテナ部71の先端面と処理容器1の壁の開口部1b付近の裏面は隔離され、隙間1dが形成されている。このようにアンテナ部71の先端面と処理容器1の壁の間に隙間1dが形成されていることにより、アンテナ部71が処理容器1の壁とDC的に接続されて処理容器1の壁に電流(浮遊電流)が流れることが防止される。ただし、隙間1dが広すぎると、隙間1dにガスやプラズマが入り込み、プラズマによる腐食、ガスの侵入によるパーティクル及び異常放電の問題が生じるので、隙間1dはプラズマやガスが入り込まない程度の幅に設定される。
【0033】
アンテナ部71先端側の板状部材71aにおけるOリング73内側の表面は、絶縁膜76で覆われ、DC的にはプラズマから絶縁されている。また、処理容器1の壁面であって、少なくとも開口部1bの側面から開口部1bの裏面を通りOリング73までの領域は、絶縁膜1cで覆われている。絶縁膜76および絶縁膜1cは、例えばY2O3等のセラミックス溶射により形成される。絶縁膜76および1cはアルミニウムの陽極酸化処理で形成されてもよい。このように絶縁膜76および1cが形成されることにより、DC電流を防止し、かつ、プラズマ耐性を高めることができる。アンテナ部71のOリング73よりも大気側の面や処理容器1の内壁面は絶縁膜77によりコーティングされている。これにより、プラズマ耐性がさらに向上する。
【0034】
アンテナ部71の絶縁膜76が形成された表面は、開口部1bが形成された処理容器1の内壁面よりも凹んだ位置で、プラズマ生成空間U側に露出する。アンテナ部71の表面を凹ませることで、プラズマのプローブ装置70への影響を低減するとともに、パーティクルの発生源となる隙間1dが設けられる位置をウエハWから遠ざけてパーティクルの影響を低減する。また、アンテナ部71の表面を処理容器1の内壁面と面一にせずに凹ませることで、処理容器1の内壁面を伝播する表面波プラズマのモードジャンプを生じさせ難くし、異常放電を回避することができる。
【0035】
開口部1bの大きさは、アンテナ部71の感度と、プラズマやガスの侵入によるアンテナ部71への悪影響との兼ね合いにより決定される。すなわち、開口部1bの大きさが大きいほど、アンテナ部71の感度は高くなるが、プラズマやガスがアンテナ部71側に侵入しやすくなるため、アンテナ部71が腐食しやすくなり、プローブ装置70の性能を低下させたり、異常放電が発生したりするおそれがある。また、開口部1bを大きくしてプローブ装置70の感度を上げすぎると、生成された反応生成物の付着等により測定結果の影響を受けやすくなり、かえって測定精度が低下してしまうことがある。開口部1bの形状は特に限定されない。円や矩形等適宜の形状であってよい。
【0036】
誘電体支持部74は、例えばPTFEのような樹脂で形成され、アンテナ部71を囲み支持する。誘電体支持部74の裏面側には、誘電体支持部74を覆うようにアルミニウム等の金属からなる固定部材1aが装着され、固定部材1aは処理容器1の側壁にネジ止めされる。これにより、Oリング73を介して処理容器1の側壁の開口部1b付近に密着した状態のアンテナ部71と誘電体支持部74が固定される。誘電体支持部74は、本体部74aと、アンテナ部71の板状部材71aの表面側外周部に設けられた環状部材74bに分割された構造を有している。ただし、誘電体支持部74は一体構造であってもよい。
【0037】
図3に示す、板状部材71aの直径Bに対する誘電体支持部74の深さ方向の長さCの比は、プローブ装置70の感度を良好にする観点から0.44~0.54の範囲が好ましい。
【0038】
なお、上記例ではプローブ装置70を複数設けたが、プローブ装置70は1つであってもよい。また、上記例ではプローブ装置70を処理容器1の内壁に設けたが、載置台11の外周部や天壁部20の内壁等の他の位置に設けてもよい。
【0039】
制御装置8は、プラズマ処理装置100の各構成部の動作や処理、例えば、ガス供給機構6のガス供給、プラズマ源2の電磁波パルスの周波数や出力、排気装置16による排気、プローブ装置70に印加する交流電源の周波数や電圧、モニタ装置からの信号の演算等の制御を行う。制御装置8は、典型的にはコンピュータであり、主制御部と、入力装置と、出力装置と、表示装置と、記憶装置とを備えている。主制御部は、CPU(中央処理装置)、RAMおよびROMを有している。記憶装置は、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を有しており、制御に必要な情報の記録および読み取りを行うようになっている。制御装置8では、CPUが、RAMを作業領域として用いて、ROMまたは記憶装置の記憶媒体に格納された処理レシピ等のプログラムを実行することにより、プラズマ処理装置100を制御する。
【0040】
<プラズマ処理装置における処理動作>
次に、以上のように構成されるプラズマ処理装置100における動作について説明する。
まず、ゲートバルブ18を開け、搬送アーム(図示せず)上に保持されたウエハWを搬入出口17から処理容器1内に搬入し、載置台11上に載置する。空の搬送アームを処理容器1から退避させ、ゲートバルブ18を閉じる。そして、ガス供給機構6から処理容器1内にガスを導入しつつ排気装置16により処理容器1内を排気して調圧を行う。その後、Arガス等のプラズマ生成ガスや処理ガスを導入しつつプラズマを生成する。プラズマ生成ガスのみ導入してプラズマ着火した後に処理ガスを導入してもよい。
【0041】
プラズマの生成にあたっては、処理容器1内にガスを導入しつつプラズマ源2の電磁波出力部30から、本例では、連続状態の電磁波ではなく、パルス化装置でパルス状に加工された電磁波パルスを出力する。このとき、電磁波出力部30から分配されて出力された電磁波パルスは、電磁波伝送部40のアンプ部42で増幅された後、中央電磁波導入部43aおよび周縁電磁波導入部43bを伝送される。そして、これらを伝送された電磁波パルスは、電磁波放射機構50の遅波材121および131、スロットアンテナ124および134のスロット122および132、ならびに電磁波透過窓である誘電体部材123および133を透過して処理容器1内に放射される。このとき、スラグ54を移動させることによりインピーダンスが自動整合され、電力反射が実質的にない状態で、電磁波パルスが供給される。放射された電磁波パルスは天壁部20の表面を表面波となって伝播する。この電磁波パルスの電界によりガスが励起されて、処理容器1内の天壁部20直下のプラズマ生成空間Uにパルス状の表面波プラズマが形成される。このパルス状の表面波プラズマにより、ウエハWにプラズマ処理が施される。
【0042】
プラズマのパルス周波数は、パルス化装置の周波数と同様の周波数となり、パルス化装置と同じ周期でプラズマのオンオフを繰り返す。このようにオンオフを繰り返すパルス状のプラズマでは、
図4に示すように、プラズマをオフにした際に、電子密度Neの低下速度よりも電子温度Teの低下速度のほうが速い。このため、平均値として、高い電子密度Neを確保しつつ電子温度Teを低下させることができる。このため、高電子密度により高い処理レートを保ちつつ、低電子温度によりウエハダメージを低減することができる。
【0043】
本実施形態のプラズマ処理装置100では、ウエハWは、プラズマ生成領域とは離れた領域に配置されており、ウエハWへは、プラズマ生成領域から拡散したプラズマが供給されるため、本質的に低電子温度で高密度のプラズマとなる。これに加えて、パルス状プラズマによる効果が得られるため、一層、高電子密度および低電子温度のプラズマ処理が実現される。
【0044】
このようなプラズマ処理を行っている間、プローブユニット7のプローブ装置(交流プローブ)70を介してプラズマに交流電圧を印加することによりパルス状プラズマの状態を測定する。測定に際しては、電源・モニタ部80の交流電源からの交流電圧を、同軸ケーブル81を介してプローブ装置70に伝送し、プローブ装置70からプラズマに印加する。そして、プラズマ側からの信号を、プローブ装置70を介して電源・モニタ部80のモニタ装置に伝送し、電流値を含むデータを測定する。測定されたデータをモニタ装置から制御装置8に送信し、電子電流とイオン電流からなるデータを制御装置8により解析してプラズマの状態を把握する。例えば、制御装置8により電流値を含むデータのフーリエ変換(FFT)が行われ、プラズマの状態として、プラズマ電子温度および/またはプラズマ電子密度が算出される。
【0045】
一般的なプラズマの状態の測定は、以上のように実施されるが、パルス状プラズマはプラズマの状態が短時間に変動するため、以上の手順に加え、データの測定方法が重要である。以下、パルス状プラズマの測定方法について説明する。
【0046】
<パルス状プラズマの測定方法>
以下、パルス状プラズマの測定方法について説明する。
【0047】
[従来のパルス状プラズマの測定方法]
まず、従来のパルス状プラズマの測定方法について説明する。
プラズマを測定する方法として、直流電圧を印加してプラズマを測定する一般的なラングミュアプローブを用いる方法が用いられる。パルス状プラズマの測定においてもラングミュアプローブを用いることができる。しかし、ラングミュアプローブのプローブ電圧のスイーブ速度は1秒/10V程度であり、パルスのピーク幅(オン時間)は100μsec~10msec程度であるから、プラズマの状態をそのまま測定してもパルスオン時とオフ時の特性が混ざったような特性となり解析が困難である。そこで、
図5に示すような時間分解測定を行う。すなわち、
図5(a)に示すように、パルス波形(点線)に対してプローブ電圧を設定し、オシロスコープでプラズマの電流波形を測定することを、複数の電圧で繰り返し、
図5(b)に示すように、得られた波形を時間ごとに区切って、時間ごとに
図5(c)に示すようなI-V特性のグラフを作成する。このとき、
図6に示すように、パルスの1周期中での時間に対して与える電圧を変化させて測定を行い、縦の破線矢印で示すように、測定点を時間ごとに並べなおして電圧Vおよび時間tを変数とする2変数関数としての電流値I(V,t)を求め、解析を行う。
【0048】
このようなラングミュアプローブを用いた時間分解測定は、基礎評価には有効であるが、直流電圧が印加されるため、プロセスガスを供給してプラズマ処理を行う際のプロセスプラズマではデポが生成し、デポにより電流が阻害されてしまい適用が困難である。また、プローブ電圧を少しずつ変えて測定を行う必要があるため時間がかかる。さらに、測定結果を後から解析する必要があり、リアルタイムの解析はできない。
【0049】
[交流プローブを用いた一般的な時間分解測定]
本実施形態のプローブ装置70のように交流電圧を供給してプラズマの測定を行うプローブ装置を、以下、交流プローブと称する。交流プローブは交流電圧を印加するため、表面にデポが付着していても電流が流れプラズマの状態を測定することが可能であり、プロセスプラズマでも使用可能である。また、交流プローブはリアルタイムの測定が可能である。特許文献1には、交流プローブを用いてプラズマ処理を行っている際に、プロセスプラズマの状態をリアルタイムで測定することが記載されている。しかし、特許文献1にはパルス状プラズマの状態を測定する点については記載されていない。
【0050】
交流プローブを用いて、パルス状のプロセスプラズマの状態をリアルタイムで測定する場合、単純に一般的な時間分解で測定しようとすると、パルス状プラズマの周波数と交流プローブの交流周波数との関係は
図7に示すようになる。また、電流値の測定の際には、パルスの1周期中での時間に対して交流電圧を与えて測定を行い、電流値のデータ、典型的には2変数関数である電流値I(V,t)を求め、解析を行う。このとき、与える電圧が交流電圧なので、
図8に示すように、矢印の測定線は傾いた線になる。また、測定線の傾きは交流電圧の周波数に対応し、傾きが大きいほど周波数が大きくなる。また、実際には、直流電圧を印加する場合よりもVの幅は小さい。
【0051】
この場合、
図7に示すように、例えばパルス状プラズマの周波数が10kHzの場合、一般的な時間分解で十分な測定点を得ようとすると、交流プローブにおける交流電圧の周波数としては200kHz~1MHz程度と20倍から100倍程度の高い値が必要となる。周波数が上がると、扱いが難しくなり、浮遊容量に逃げる信号が増加し、また、発振器のコストが上がる等の問題が生じる。また、交流プローブを用いた場合の計算は、信号の中でプラズマが変化しないことを前提としているので、1~10周期程度の間、プラズマが変化しないとみなせるくらい高い、例えば1MHz程度のサンプリング周波数が必要となる。さらに、信号処理は1回あたり10μsecという非常に短い時間で行う必要がある。このように、交流周波数を200kHz~1MHzと高くした上で、1回あたり10μsecという短時間のデータ処理を行うことは実現が極めて困難である。
【0052】
[一実施形態に係るプラズマ測定方法]
一実施形態では、パルス状のプロセスプラズマの測定を交流プローブにより行うが、上述したような一般的な時間分解測定ではなく、プラズマに印加する交流電圧の周波数をパルス化装置で加工した電磁波パルスの周波数からずらすことにより、電流値の測定を行う。
【0053】
具体的には、以下の通りである。
本実施形態のパルス状プラズマ測定は、上述したように、電源・モニタ部80の交流電源からプローブ装置70を介してパルス状のプロセスプラズマに交流電圧を印加し、交流電圧に基づくプロセスプラズマからの信号を、プローブ装置70を介して伝送し、モニタ装置に内蔵されたアナライザにより電流値を含むデータを測定し、測定したデータを制御装置8で解析してパルス状のプロセスプラズマの状態を把握する。
【0054】
このとき、交流電源からはパルス周波数からずれた周波数の交流電圧を複数のパルスの期間継続的に与え、複数のパルスそれぞれの異なるポイントのデータを重ね合わせることにより、パルスの1周期分の期間内において上記周期のずれに対応する数の電流値のデータ、典型的には2変数関数である電流値I(V,t)を得ることができる。このときのデータの数およびパルスの1周期分の期間内の測定時間は、プローブ電圧の周波数の電磁波パルス周波数からの「ずれ」により変化する。このため、本実施形態では、複数のパルス状プラズマのパルスの1周期の期間内においてパルス状のプロセスプラズマの測定に必要な数のデータが、許容時間内に得られるように、プローブ電圧の周波数(f
probe)を電磁波パルスの周波数(f
pulse)からずらす。
図9は、f
probeをf
pulseよりも少しだけ小さくなるようにした例を示すが、
図9(a)に示すように、パルス12周期分の時間で、パルスオンの期間に対応する複数のデータを得ることができる。
図9(b)は、プローブ電圧のうち電圧V
Bの測定点を示したものである。パルスオフの期間も同様にデータを取得することができる。
【0055】
このときのデータ取得について
図10を参照して説明する。
図10は、横軸にパルス1周期の中での時間tをとり、縦軸にプローブ電圧(交流電圧)Vをとって、取得した2変数関数である電流値I(V,t)のデータを示す図である。
図10中の丸数字は、データ取得の順番を示している。
図10に示すように、f
probeをf
pulseより少し小さくした場合、プラズマ測定に必要な、測定したい領域(パルス1周期分のt-V領域)の全体を埋めるデータを取得することができる。このときのデータ測定に必要な時間は、後述するように、およそ1/(f
pulse-f
probe)で計算することができる。これは「うなり」と同様の原理である。
【0056】
上述したようにfpulseは500Hz~100kHzの範囲が好ましい。また、fprobeは500Hz~100kHzの範囲が好ましい。さらに、前述の交流プローブを用いた一般的な時間分解測定のようにfprobeをfpulseに対して極端に高くする必要はなく、fprobeはfpulseの10倍未満であってよい。
【0057】
ここで、fprobeをfpulseからずれた周波数とするとは、fprobeとfpulseを、簡単な整数比(1:1、1:2、2:3等)からずらすことを意味する。例えば、fpulse=10kHzの場合は、fprobe=11kHzを挙げることができる。この場合、11kHz-10kHz=1kHzの間隔で、t-Vのグラフを描くことができる。また、fpulse=10kHzの場合、その半分の5kHz(fpulse=2fprobeの場合に対応)からずらして、fprobe=5.5kHzにするような場合であってもよい。また、fpulse=10kHzの場合、その1.5倍の15kHz(2fpulse=3fprobeの場合に対応)からずらして、fprobe=15.5kHzとするような場合であってもよい。
【0058】
簡単な整数比の場合、例えば、f
pulse=f
probeの場合、f
pulse=2f
probeの場合、2f
pulse=3f
probeの場合は、それぞれ、
図11、
図12、
図13の(a)に示すようになり、パルス周期中のデータが少なく、各図の(b)に示すように、測定したい領域(パルス1周期分のt-V領域)を満足できる密度で埋められず、プラズマの状態を正確に把握するために必要なデータを取得することができない。また、例えば、f
pulse=10kHz、f
probe=10.0001kHzのようにずらす量が少ないと、データ取得間隔が0.0001kHz(つまり10秒に1回のデータ取得)となり、リアルタイム性に欠け、かつ、測定したい領域(パルス1周期分のt-V領域)を埋めるのに時間がかかる。ただし、時間がかかってもよい場合もあり得、そのような場合は、このようにずらす量が少ない場合も許容される。測定時間は10sec以下が好ましい。
【0059】
パルス1周期分のt-V領域内を埋めつくすようなデータが取得できたら、
図14に示すように、各時間に区切って解析する。通常、測定点は必ずしも解析したい時間の軸t
analize上に存在しない。そのような場合は、線形補完やスプライン補間などを利用してt
analize上の値に補正して解析すればよい。
【0060】
このように、本実施形態では、パルスの1周期の期間内においてプラズマ測定に必要な数の電流値のデータ、典型的には2変数関数である電流値I(V,t)が、要求される時間内に得られるように、プローブ電圧の周波数(fprobe)を電磁波パルスの周波数(fpulse)からずらす。これにより、単純に一般的な時間分解で測定する場合のような、電磁波パルス周波数の20~100倍の高い周波数の交流電圧を用いることなく時間分解測定が可能となり、比較的簡易にプロセスガスを用いたパルス状プラズマの状態をリアルタイムで測定することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態のプラズマ測定方法は、1データ当りの測定に必要な時間は比較的長いが、ラングミュアプローブを用いた場合のような電圧条件を変えて時間分解測定する必要はないので、トータルの測定時間を短くすることができる。さらに、電源・モニタ部80のモニタ装置にアナライザが内蔵されているため、オシロスコープのような付加的な設備は不要である。
【0062】
また、電流のサンプリング周波数fsampleも、fprobeと同様にfpulseから「ずらす」ことで、fpulseより極端に大きくしなくても測定することができる。また、測定の許容時間上限をTmaxとすると、Tmaxは10sec以下にすることが好ましい。
【0063】
[プラズマ測定の詳細な条件]
次に、パルス状プラズマを測定する際の詳細な条件について説明する。
まず、上述した
図10に示すt-Vグラフにおいて1本の測定線を引くのにかかる時間について検討する。
図15(a)はf
probe>f
pulseの場合である。この測定線を1本引くのにかかる時間をT
0とする。この場合、f=1/Tから、T
probe<T
pulseであり、T
0=T
probeである。
図15(b)はf
probe<f
pulseの場合である。この場合は、T
probe>T
pulseであり、T
0=T
pulseである。
【0064】
これらをまとめると、以下の式に示すようになる。
T0=min(Tprobe,Tpulse)
=min(1/fprobe,1/fpulse)
=1/max(fprobe,fpulse)
なお、以上の式において、minはかっこ内の2つの数値の内の最小値を示し、maxはかっこ内の2つの数値の内の最大値を示す(以下同様)。
【0065】
次に、f
probeとf
pulseがほぼ等しいが、わずかに異なる場合を考える。このとき、短い時間の測定では、
図16(a)に示すように、測定領域は見かけ上t-Vグラフ上の1本の線の領域となる。ただし、拡大すると何本もの線が連なることになる。しかし、この測定を長い時間続ければ、やがて
図16(b)に示すようにt-Vグラフ上の領域を埋めつくす。
【0066】
つまり、測定の許容時間上限をT
maxとして、T
max≒T
0の場合、
図16(a)のように、T
maxの時間ではt-Vグラフ上の1本の線の領域しか測定線を引けないため、極めて精度の悪い測定となる。一方、T
max>>T
0の場合、測定時間が長いため、
図16(b)のようにt-Vグラフ上の領域を埋めつくすことができ、逆に極めて精度のよい測定となる。
【0067】
f
pluseよりf
probeが少しだけ大きい場合、T
0=T
probeであり、
図17に示すように測定線一本一本の「ずれ」をΔTとすると、ΔT=T
pulse-T
probeとなる。t-Vグラフ上の領域を埋めつくすには、以下の(1)式で示す本数の線を引く必要があり、それにかかる時間は、以下の(2)式で表される。
【数1】
【0068】
図18に示す測定線Lはf
probe/f
pulseの線である。また、測定線の「ずれ」の許容量はT
0/T
maxで表される。この場合、以下に示す(3)式を満たすように最小の正の整数m、nをとったとき、これがf
probe/f
pulseの必要な精度での近似となる。すなわち、(3)式は、f
probe/f
pulseをn/mで整数近似した式であり、
図18に示すように、(3)式の左辺は、f
probe/f
pulse=n/mの線から、1本線を引くごとにどれくらいずれていくかを示すものであり、(3)式は、左辺のずれが許容範囲になるような最小の正の整数の組であるm、nを求める式である。
【数2】
【0069】
次に、上記(3)式について詳細に説明する。
仮想例として、T
0/T
max=1/100、f
probe/f
pulse=1001/1000、m=n=1の場合を考える。この場合、(3)式は以下の(4)式で表される。
【数3】
このとき、
図19に示すように、測定線は1:1のラインから1/1000ずつしかずれていかず、1回のずれ量は、その許容値の最低値であるT
0/T
max=1/100の1/10である。このためT
maxでt-Vグラフの領域を埋めつくすことができず、測定としてはf
probe/f
pulse=1の極めて精度の悪いものとなる(むしろ測定としてほぼ成立していない)。
【0070】
T
maxが10倍になってT
0/T
max=1/1000となった場合を考えると、
図20に示すように、測定線は1:1のラインから1/1000ずつずれていくが、T
maxが大きく、T
0/T
maxの間隔と(4)式の左辺の間隔が同程度なので、測定線のずれがt-Vグラフの領域の全体を覆いつくすのを待つことでき、f
probe/f
pulse=1001/1000の精度の良い測定が成立し得る。ただし、このとき、1000×T
0=T
maxなので、測定時間はギリギリで限界以内ということになる。
【0071】
次に、上記(3)式に実際に数字を当てはめて試算する。
ここでは、fprobe=1000.1Hz、fpulse=1000Hzとする。このとき、T0=1/(max(fprobe,fpulse)であるから、T0=1/1000.1secである。説明を簡単にするためT0=1/1000secと近似する(近似してもしなくても結果はほぼ同じである)。
【0072】
このとき、
f
probe/f
pulse=1000.1/1000=10001/10000=1.0001
であり、これを上記(3)式に当てはめると、以下の(5)式となる。
【数4】
【0073】
そして、T
maxを0.1sec、1sec、10secと変化させた場合、上記(5)式は以下のようになる。
【数5】
Tmaxが0.1secおよび1secの場合は、n=m=1で式が成り立ち精度の良い測定はできない。一方、T
maxが10secではn=m=1では式が成り立たず、より大きなm,nが必要となる。n/m=5002/5001とすると、(5)式の左辺が0.00009996となり式を満たす。すなわち、T
maxが10secまで延びれば、急に大きなm,nが必要となる。後述するように、m,nは測定線の本数を規定するものであるから、このようにm,nの値が大きくなると、精度の良い測定が実現される。
【0074】
しかし、f
probe/f
pulse=10001/10000なので、t-Vグラフの領域を埋めつくすにはn/m=10001/10000となることが求められ、n/m=5002/5001では、
図21に示すように、t-Vグラフの領域の半分しか埋めつくせない。
【0075】
これは、(5)式の元となる(3)式の左辺を絶対値としたことに起因する。すなわち、単純に(5)式の絶対値を外すと、以下のようになる。
-0.0001<1.0001-(n/m)<0.0001
1<n/m<1.0001+0.0001=1.0002
すなわち、最大値の最後の桁が倍になっている。この式では、1.0001に近い10001/10000ではなく、1.0002に近い5002/5001が(5)式を満たす最小の正の整数のm,nとなる。
【0076】
このようなことを回避するため、上記(3)式をf
pulse<f
probeと、f
pulse≧f
probeとに場合分けすると、以下の(6)式のようになる。そして、場合分けの2つの式を1つの式にまとめると(7)式のようになる。
【数6】
【0077】
次に、上記(7)式を用いて試算する。ここでは、上記(3)式の試算と同様、fprobe=1000.1Hz、fpulse=1000Hz、T0=1/1000secとする。
【0078】
このとき、
f
probe/f
pulse=1000.1/1000=10001/10000=1.0001
であり、これを上記(7)式に当てはめると、以下の(8)式となる。
【数7】
T
max=10secのとき
1.0001-(n/m)<0.0001となる。
この場合、n=m=1では式が成り立たず、より大きなn,mが必要となる。この場合、n/m=5002/5001では、1.0001-(n/m)=-0.00009996となり、マイナスとなるため上記(8)式を満たさない。したがって、m,nをさらに増加させる必要がある。n/m=10001/10000までm,nを増加させると、1.0001-(n/m)=1.0001-(10001/10000)=0となって上記(8)式を満たす。このように、上記(8)式を用いることにより期待したm,nが得られる。すなわち、上記(8)式がパルス状プラズマの測定のための好適な条件の一つとなる。
【0079】
なお、以上は、境界を明確にするためにfprobeとfpulseが近接している場合を例にとって説明したが、fprobeとfpulseが近接していない場合も同様に上記(8)式を満たすm,nが得られる。
【0080】
以上説明したm,nは、
図22に例示するように、複数の測定線がそれぞれt-VグラフのtラインおよびVラインと交わる点の数として現れ、測定線の本数を規定するものである。
図22は、m=5、n=11の例である。
図22の枠で囲った線は、2つに分かれているが、左端から右端につくまでを1本と数えると、線の数は全部で11本となる。すなわち、本例では測定線の本数N=max(n,m)となる。これは、上述したようにT
0=1/max(f
probe,f
pulse)と、大きいほうの周波数が使用されるのに対応する。このとき、t-V領域を埋めつくすまでの測定時間は、NT
0=11T
pulseとなる。
【0081】
m,nが小さいと測定線の数が少なくなり、測定精度が低下する。測定線の数が10以上であると十分な測定精度を確保することができる。このため、好適な測定精度要件として以下の(9)式を挙げることができる。
max(m,n)≧10 ・・・(9)
【0082】
また、t-V領域を埋めつくすまでの測定時間は、上述したようにNT
0で表される。このNT
0がT
maxより小さいことが求められる。すなわち、N=max(n,m)、T
0=1/max(f
probe,f
pulse)であるから、測定時間の要件として、以下の(10)式を挙げることができる。この式は、m,nが大きすぎると測定時間を満たせないことを示すものである。
【数8】
【0083】
以上のように、上記(8)式、(9)式、(10)式を満たすことにより、最適なm,nを求めることができ、より確実に、パルス状プラズマのパルスの1周期の期間内におけるプラズマ測定に必要なデータを要求される時間内に得ることができる。
【0084】
[信号処理]
プローブ装置70を介してパルス状プラズマに交流電圧を印加した際に得られるプラズマ側からの信号は、モニタ装置に送られる。そして、内蔵されたアナライザより電流値のデータ、典型的には2変数関数である電流値I(V,t)が測定される。測定されたデータは制御装置8に送信され、制御装置8において解析され、パルス状プラズマの状態が測定される。このときのデータ解析は、電流値をフーリエ変換(FFT)することにより行われる。
【0085】
プラズマでは、与えられた電圧に対して指数関数的に電流が流れる。検出した電流値には、基本周波数を有する基本波の成分と、基本波に対して波長が2倍の第1高調波、波長が3倍の第2高調波等の高調波成分とが含まれている。そこでFFTにより基本波および高調波の振幅のピークを用いて、プラズマの電子密度およびプラズマの電子温度を算出する。この場合の電子密度および電子温度の算出は、上記特許文献1(特開2019-46787号公報)に記載された式を用いて行うことができる。
【0086】
特許文献1に記載されているように、交流プローブ(プローブ装置70)を用いた場合のプラズマの電子密度および電子温度等の電気的特性の測定結果は、直流プローブであるラングミュアプローブと同等である。
【0087】
<他の適用>
以上、実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0088】
例えば、上記実施形態では、プラズマ処理装置として、複数の電磁波導入部から処理容器内にマイクロ波等の電磁波を放射して生成された表面波プラズマによりプラズマ処理を行うものを例示したが、これに限るものではない。電磁波導入部は1本であってもよい。また、プラズマ処理装置としては、電磁波を放射してプラズマを生成するものに限らず、例えば、容量結合型プラズマ(CCP)や、誘導結合型プラズマ(ICP)、磁気共鳴(ECR)プラズマ等、他の種々のプラズマを用いたプラズマ処理装置であってよい。
【0089】
また、上記実施形態では、基板として半導体ウエハを用いた場合について示したが、半導体ウエハに限らず、LCD(液晶ディスプレイ)用基板に代表されるFPD(フラットパネルディスプレイ)基板や、セラミックス基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1;処理容器
2;プラズマ源
6;ガス供給機構
7;交流プローブユニット
8;制御装置
11;載置台
20;天壁部
30;電磁波出力部
40;電磁波伝送部
50;電磁波放射機構
61;ガス供給源
62;ガス導入部
70;プローブ装置
71;アンテナ部
80;電源・モニタ部
100;プラズマ処理装置
W;半導体ウエハ(基板)