(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】回転コンデンサ、円形加速器及び粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
H05H 13/02 20060101AFI20241129BHJP
H05H 7/02 20060101ALI20241129BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20241129BHJP
H01G 5/01 20060101ALI20241129BHJP
H01G 5/06 20060101ALI20241129BHJP
H01G 5/013 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H05H13/02
H05H7/02
A61N5/10 H
H01G5/01 C
H01G5/06 C
H01G5/013 100
(21)【出願番号】P 2021147099
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】羽江 隆光
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌広
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-007645(JP,A)
【文献】米国特許第02615129(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108834301(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108684132(CN,A)
【文献】Schneider R. et al.,:NEVIS SYNCHROCYCLOTRON CONVERSION PROGRAM-RF SYSTEM,Proceedings of the 1971 PAC Conference,米国,IEEE,1969年06月01日,303-306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/02
H05H 7/02
A61N 5/10
H01G 5/01
H01G 5/06
H01G 5/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流主磁場に第1の高周波を印加することで荷電粒子ビームを加速させる円形加速器に用いられ、前記第1の高周波の周波数を変調する回転コンデンサにおいて、
ステータ電極と、
前記ステータ電極に対向して配置されて、前記ステータ電極と共に前記第1の高周波の周波数の変調に用いられるロータ電極と、
前記ロータ電極を回転させる回転軸の周りを真空封止する真空シールと、
大気側に設置され、前記回転軸を支持する軸受けと、
前記真空シールと前記ロータ電極との間に設置された、対向電極によって構成されたバイパスコンデンサと、
を含
み、
前記対向電極は、切り欠け部を有することを特徴とする回転コンデンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転コンデンサにおいて、
前記真空シールは、磁性流体シールである、
ことを特徴とする回転コンデンサ。
【請求項3】
請求項
2に記載の回転コンデンサにおいて、
前記
軸受けは、第1の個別軸受けと第2の個別軸受けとを含み、
前記第1の個別軸受けと前記第2の個別軸受けとは、前記回転軸上で互いに離れた位置に設置されている、
ことを特徴とする回転コンデンサ。
【請求項4】
請求項1
又は請求項
2に記載の回転コンデンサ
を含み、
直流主磁場に前記第1の高周波を印加することで荷電粒子ビームを加速させる、
ことを特徴とする
円形加速器。
【請求項5】
請求項
4に記載の
円形加速器において、
高周波キッカを更に含み、
前記第1の高周波とは周波数の異なる第2の高周波を前記高周波キッカに印加して荷電粒子ビームを出射する、
ことを特徴とする円形加速器。
【請求項6】
請求項
4に記載の円形加速器
と、
前記円形加速器から出射した荷電粒子ビームを患者に照射する照射装置と、
を含む、
ことを特徴とする
粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線の円形加速器に用いられる回転コンデンサ、円形加速器、及び、円形加速器を用いた粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主磁場強度を時間的に一定とし、加速高周波の周波数を時間的に変調するタイプの円形加速器として、シンクロサイクロトロンや、特許文献1に記載の偏芯軌道型加速器が知られている。これらの円形加速器では、主磁場の生成に超電導コイルを用いて高磁場化することが比較的容易であるため、加速器を小型化により低コスト化を図ることができる。そのため、これらの円形加速器は、特に粒子線治療システムに適用される。
【0003】
シンクロサイクロトロンや偏芯軌道型加速器においては、荷電粒子ビームを加速させる高周波の周波数を変調させる素子として、回転コンデンサが用いられる。回転コンデンサは、一般的に、ステータ電極と、ステータ電極に対向して配置されたロータ電極と、ロータ電極を回転させる回転軸と、回転軸を支持する軸受けとを含む。特許文献2には、このような回転コンデンサの一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-133745号公報
【文献】特開2020-095772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転コンデンサの軸受けは、回転軸の高速回転に耐える必要がある。また、筐体の壁面を伝わって軸受けに高周波電流が流れることがある。したがって、軸受けは消耗品であり、定期的に軸受けを交換する必要がある。
【0006】
従来技術に係る回転コンデンサにおいては、ステータ電極、ロータ電極、回転軸及び軸受けは、真空引きされた筐体内に配置されている。真空引きされた筐体内に軸受けが配置されていると、軸受けを交換する度に、筐体内を大気開放する必要がある。また、筐体内を大気開放し、軸受けを交換した後、筐体内を再び真空引きするという作業が必要となり、軸受けの保守の作業性が低下する。
【0007】
本発明の目的は、円形加速器に用いられる回転コンデンサの軸受けの保守の作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、直流主磁場に第1の高周波を印加することで荷電粒子ビームを加速させる円形加速器に用いられ、前記第1の高周波の周波数を変調する回転コンデンサにおいて、ステータ電極と、前記ステータ電極に対向して配置されて、前記ステータ電極と共に前記第1の高周波の周波数の変調に用いられるロータ電極と、前記ロータ電極を回転させる回転軸の周りを真空封止する真空シールと、大気側に設置され、前記回転軸を支持する軸受けと、前記真空シールと前記ロータ電極との間に設置された、対向電極によって構成されたバイパスコンデンサと、を含み、前記対向電極は、切り欠け部を有することを特徴とする回転コンデンサである。
【0009】
本発明の1つの態様は、上記の回転コンデンサを含み、直流主磁場に前記第1の高周波を印加することで荷電粒子ビームを加速させる、ことを特徴とする円形加速器である。
【0010】
本発明の1つの態様は、上記の円形加速器と、前記円形加速器から出射した荷電粒子ビームを患者に照射する照射装置と、を含む、ことを特徴とする粒子線治療システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、円形加速器に用いられる回転コンデンサの軸受けの保守の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る円形加速器の外観を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る円形加速器を示す断面図である。
【
図5】本実施形態に係る円形加速器の運動パターンを示す図である。
【
図6】本実施形態に係る加速空洞と回転コンデンサを示す断面図である。
【
図8】変形例1に係る回転コンデンサを示す断面図である。
【
図10】粒子線治療システムの構成を示す図である。
【
図11】変形例2に係る回転コンデンサを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。下記の実施形態は一例に過ぎず、本発明は下記の具体的な態様に限定されるものではない。本発明自体は、下記の実施形態以外にも種々の形態に変形させることが可能である。
【0014】
また、本発明に係る回転コンデンサは、円形加速器に好適であるが、その用途だけに限定されるものではない。本発明に係る円形加速器は、粒子線治療システムに好適であるが、その用途だけに限定されるものではない。
【0015】
以下、
図1から
図3を参照して、本実施形態に係る円形加速器の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る円形加速器39の外観を示す斜視図である。
図2は、円形加速器39の横断面(中心平面)を示す断面図である。
図3は、
図2のA-A線断面図であり、円形加速器39の縦断面を示す断面図である。
【0016】
円形加速器39は、時間的に一定強度の主磁場にて、周波数変調した高周波電場によってビームを加速する装置である。一例として、陽子ビームを235MeVまで加速する円形加速器について説明するが、円形加速器39は、ヘリウムや炭素等の重粒子ビームを加速する装置であってもよい。
【0017】
円形加速器39は、ビーム軌道をビーム出射経路入口82の側に偏芯させるように主磁場を形成した偏芯軌道型加速器であり、ビームエネルギーを70MeVから235MeVの間で任意に変えて出射することができる。
【0018】
図1及び
図3に示すように、円形加速器39の外殻は、上下方向に分割可能な主電磁石40によって形成されている。主電磁石40内の中心平面上に加速領域が形成されており、その加速領域は真空引きされている。以下、加速領域内においてビームが加速開始されて、ビームのエネルギーが最大エネルギーの235MeVになるまでにビームが通る軌道を周回軌道と呼ぶ。周回軌道のうち、エネルギーが最大エネルギー235MeVであるビームが通過する軌道を、最大エネルギー軌道80と呼ぶ(
図2参照)。エネルギーが70MeVであるビームが通過する軌道を、最低出射エネルギー軌道と呼ぶ。周回軌道が螺旋を描く面を軌道面又は軌道平面と呼ぶ。加速領域の中心を原点とする軌道面の2次元極座標系が定められ、その中心から半径外側方向の軸をr軸と呼ぶ。
【0019】
図3に示すように、主電磁石40は、主磁極38と、ヨーク41と、主コイル42とを含む。ヨーク41によって、主電磁石40の外観が形成される。ヨーク41の内部に、およそ円筒状の領域が形成される。主コイル42は、円環状の超電導コイルであり、ヨーク41の内壁に沿って設置される。主コイル42周囲には、クライオスタット60が設置されており、クライオスタット60によって主コイル42が冷却される。主コイル42の内周側には、主磁極38が上下に対向して設置されている。主コイル42に電流を流すことによって励起され、主磁極38によって形成される上下方向の磁場を、主磁場と呼ぶ。主磁場は、偏芯軌道の形成に用いられる。加速領域は、主磁場中のビームを加速するための領域である。
【0020】
図2に示すように、複数の貫通口がヨーク41に形成されている。具体的には、ビーム用貫通口46、コイル用貫通口48、真空引き用貫通口49、及び、高周波系用貫通口50が、形成されている。ビーム用貫通口46は、加速されたビームを出射するための貫通口である。コイル用貫通口48は、ヨーク41内に設置されている種々のコイル導体を外部に引き出すための貫通口である。真空引き用貫通口49は、加速領域を真空引きするための貫通口である。高周波系用貫通口50は、加速空胴10のための貫通口であり、上下磁極の接続面に設けられている。
【0021】
図1に示すように、主電磁石40の上部には、イオン源53が設置されている。イオン源53は、主電磁石40に入射するイオンのビームを生成する。イオン源53によって生成されたビームは、低エネルギービーム輸送系54を通り、イオン入射部52を経由して主電磁石40内部の加速領域に入射される。イオン源53としては、ECRイオン源等を適用することができる。なお、イオン源53は、主電磁石40内部の真空引きされた加速領域内部に配置されてもよく、その場合はPIG型イオン源等が好適である。
【0022】
図2に示すように、イオン入射部52は、中心線上において加速領域の機械中心よりもビーム出射経路入口82側に寄せて配置される。イオン源53によって生成された荷電粒子のビームは、低エネルギービーム輸送系54を通り、イオン入射部52を経由して、インフレクタ電極(図示せず)等によって主電磁石40内部の加速領域に入射される。入射されたビームは、高周波電場で加速され、エネルギーを増しながら主磁場中を周回する。ビームは加速されるにつれ、その軌道の曲率半径を増し、ビームは加速領域の中心から外側に向かって、螺旋状の軌道を描く。なお、ビームを加速させる高周波が、第1の高周波の一例に相当する。
【0023】
加速空胴10は、λ/2共振型空胴であり、ディー電極12と、ダミーディー電極13と、内導体14と、外導体15と、回転コンデンサ22とを含む。ディー電極12は、その内部をビームが通過する中空電極であり、内導体14とつながっている。ダミーディー電極13は、アース電位の電極であり、内導体14を包む外導体15とつながっている。ディー電極12とダミーディー電極13との間に、加速間隙11が形成される。加速間隙11に高周波電場が形成される。
【0024】
加速空胴10への高周波電力は、高周波電源21によって入力カプラ20を介して供給される。入力カプラ20は、静電結合式又は磁気結合式のいずれかの方式によって加速空胴10とカップリングされる。これにより、ビームを加速するための高周波加速電圧、及び、高周波加速電圧による高周波電場が、加速間隙11に発生する。
【0025】
回転コンデンサ22は、加速空胴10の共振周波数を変調するための機器である。回転コンデンサ22の静電容量を時間的に変動させることで、加速空胴10の共振周波数を変えて、周波数変調パターンを形成することができる。回転コンデンサ22によって周波数変調された加速電圧が、ディー電極12とダミーディー電極13との間の加速間隙11に発生する。
図2に示されている加速間隙11は、ハーモニクス数1の加速間隙、すなわち周回周波数と加速周波数とが同じ加速間隙であり、ビームの軌道形状に応じて形成される。
【0026】
高周波電源21は、自励式又は他励式のいずれかの方式によって、加速空胴10の共振周波数変化に追随した周波数の高周波電力を供給する。
【0027】
以下、偏芯軌道を実現する主磁場について説明する。主磁場は、周方向に主磁場強度が一定となるタイプの磁場でもよいし、AVF(Azimuthal Varying Field)タイプの磁場でもよい。いずれのタイプの磁場であっても、主磁場分布は、非等時性磁場である。以下の式(1)で表されるn値が0より大きく、かつ1未満となるビーム安定化条件を満たすように、主磁場分布が定められる。
【0028】
【0029】
ここで、ρは設計軌道の偏向半径であり、Bは磁場強度であり、∂B/∂rは半径方向の磁場勾配である。上述のビーム安定化条件のもとでは、設計軌道から径方向に微小にずれたビームは、設計軌道に戻すような復元力を受け、軌道面に対し鉛直な方向にずれたビームは、軌道面に戻す方向に主磁場から復元力を受ける。すなわち、ビームは、設計軌道の近傍をベータトロン振動し、安定して周回して加速される。また、全エネルギーのビームにおいて、軌道面内に平行、かつ軌道と直交する方向のベータトロン振動数(水平方向チューン)νrは1に近い値に設定される。上述の主磁場分布は、主磁極38、及び、主磁極38の表面に設置されるトリムコイルや磁極片(ともに図示せず)によって形成される。これらの構成要素は、軌道平面に対し上下対称に配置されるため、主磁場は、軌道平面上において、軌道平面と垂直な方向の磁場成分のみを持つ。
【0030】
図4に、各エネルギーの周回軌道が示されている。最大エネルギー235MeVから磁気剛性率0.04Tmおきに、50種類のエネルギーの軌道が、実線で示されている。点線は各軌道の同一の周回位相を結んだ線であり、等周回位相線と呼ぶ。等周回位相線は、集約領域から周回位相π/20ごとにプロットされている。ディー電極12とダミーディー電極13との間に形成される加速間隙11は、等周回位相線に沿って設置される。より具体的には、ディー電極12は同心軌道の中心付近を先端とし、半径が等周回位相線に沿う、扇形のような中空の形状をしている。
【0031】
ビームのエネルギーが低い領域の軌道は、従来のサイクロトロン同様に、イオン入射部52付近を中心とする同心軌道に近くなる。より大きなエネルギーの軌道は、ビーム出射経路入口82の側で密に集約している。逆に内導体14の側では、各エネルギーの軌道が互いに離れた位置関係にある。この軌道が密に集まっている点を集約領域、離散した領域を離散領域と呼ぶ。このような軌道配置を形成し、集約領域付近からビームを取出すことで、必要となるビームキック量を小さくできるため、エネルギー可変のビーム出射を容易にすることができる。
【0032】
以下、
図5を参照して、ビームが円形加速器39に入射されて円形加速器39から出射されるまでの過程について説明する。
図5(a)には、加速空胴10の共振周波数f
cavと、高周波キッカ70によってビームに印加される高周波電場の周波数である周波数f
extと、時刻Tと、の関係を表すグラフが示されている。
図5(b)には、加速間隙11に発生する加速電圧V
accと、高周波キッカ70に印加される高周波電圧V
extと、時刻Tと、の関係を表すグラフが示されている。
図5(c)には、入射するビームの電流及び出射するビームの電流と、時刻Tと、の関係を表すグラフが示されている。なお、高周波キッカ70に印加される高周波は、第2の高周波の一例に相当する。
【0033】
一加速周期は、加速電圧Vaccの立ち上がり(時刻T1)から始まる。その後、加速電圧Vaccが十分に上がると、イオン源53からビームが円形加速器39に入射される(時刻T2)。ビームが円形加速器39に入射してから時間t1経過後にビームの高周波捕獲が終了する。捕獲されたビーム、すなわち入射されたビームのうち加速の準備が整ったビームが、加速電圧Vaccによって加速され始める(時刻T3)。ビームのエネルギーが、取出したいエネルギーに達すると、加速高周波の遮断が開始され(時刻T4)、それから時間t2が経過すると、加速電圧VaccがOFF状態となり(時刻T5)、ビームはある軌道を周回する。なお、ビームを形成する個々の荷電粒子は、周回時にビームの軌道と直交する方向に振動しており、この振動をベータトロン振動、この振動の振動数をベータトロン振動数と呼ぶ。また、周回一周あたりの振動数をチューンと呼び、周回一周あたりの軌道面外側へのビームのr軸上変位を、ターンセパレーションと呼ぶ。また、周回するビームに関して、軌道面内かつビームの軌道と直交する方向のベータトロン振動を、水平方向のベータトロン振動と呼び、チューンを水平方向チューンと呼ぶ。このベータトロン振動は、適切な高周波電圧が印加されると、共鳴が起こり振幅が急激に増大する性質を有する。
【0034】
VaccがOFF状態になると同時に、高周波キッカ70への高周波電圧Vextの印加が開始される。なお、高周波キッカ70への高周波電圧Vextの印加開始(時刻T5)は、加速電圧VaccがOFF状態となるのと厳密に同時でなくてもよい。高周波電圧Vextの印加開始は、加速高周波の遮断開始(時刻T4)の直前、同時又は直後でもよく、加速電圧VaccがOFF状態の直前や直後でもよい。なお、取り出したいエネルギーは、加速電圧Vaccの印加時間で制御することができる。
【0035】
高周波キッカ70の高周波電圧は、高周波キッカ70が共振器構造でなく、静電容量が適切な値となるように設計されていれば、数μsの応答で素早く立ち上がる。ベータトロン振動は、水平チューン又は水平チューンの小数部のいずれか一方とビームの周回周波数との積が、印加される高周波電圧の周波数と略同一であるとき、振幅が共鳴的に増大する性質を有する。そこで、当該高周波電圧の周波数fextは、最大エネルギービームの水平方向チューンνrの小数部Δνrと、取出したいエネルギーのビームの周回周波数frevとの積Δνr×frevと、略同一となるように定められる。あるいは、積Δνr×frevと略同一となる周波数成分を含む有限の周波数バンド幅の高周波電圧が、印加されてもよい。結果として、水平方向ベータトロン振動の振幅は共鳴的に増大し続け、やがて、最大エネルギー軌道80の外周側に設置したピーラ磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45に、ビームが到達する(時刻T6)。
【0036】
ピーラ磁場領域44に到達したビームは、軌道面の外周側にキックされる。リジェネレータ磁場領域45に到達したビームは、軌道面内周側にキックされる。キックするとは、電場又は磁場を印加することによってビームを偏向させることをいう。ピーラ磁場領域44の四極磁場成分によって、ビームは、さらに外周側にキックされて、ターンセパレーションが増大していく。同時に、リジェネレータ磁場領域45の磁場によって、ビームの水平方向チューンが急激に変動することが抑制され、ビームが出射されるまでの間に、水平方向と90度直交する垂直方向にベータトロン振動が発散して、ビームが失われることが防止される。ピーラ磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45のそれぞれの磁場強度が適切に調節されると、2νr=2のベータトロン振動の共鳴条件が発生して、ターンセパレーションを増大させることができる。
【0037】
図2に示すように、ビーム出射経路入口82にはセプタムコイル43が設置されている。セプタムコイル43の内周側に設置されるコイル導体(図示せず)の厚みを大きく超えるターンセパレーションが得られるようになると、ビームは、セプタムコイル43内部へと導かれ、十分な偏向を受け高エネルギービーム輸送系47へ導かれ、出射される。
【0038】
なお、高周波キッカ70へ高周波電圧印加を開始した直後(時刻T5)は、可能な限り大きな高周波電圧を印加し、ビームの振幅を素早く増大させることで、ビーム出射までの時間を短縮することができる。ビームがピーラ磁場領域44又はリジェネレータ磁場領域45に到達する直前(時刻T6)に高周波電圧を低下させ、ピーラ磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とに進行するビームの量を調整することで、ビーム出射電流を細かく制御することができる。高周波電圧Vextを低下させるかわりに、高周波キッカ70に印加される高周波の周波数をスイープする、又は、当ギア高周波の位相を変えることでも、ビームの出射電流を変えることができる。これは、ビームに含まれる荷電粒子のベータトロン振動数が、ある分布を有してばらついているという性質(チューンスプレッド)を利用している。高周波の周波数を変えて、共鳴を起こす荷電粒子の振動数の分布の帯域を変えることで、ビームの出射電流を変えることができる。
【0039】
ビームの出射開始(時刻T6)から時間t4経過後に高周波キッカ70への高周波電圧Vextの印加を停止することで、ビームの出射が停止させられる(時刻T7)。この時間t4を調整することで、ビームの出射時間を制御することができる。
【0040】
高周波キッカ70に印加する高周波電圧を制御することで、ビーム出射電流を調整することができ、当該高周波電圧を印加停止すればビーム出射を停めることができる。それ故、スキャニング照射で要求されるスポット線量を、1回の出射パルスビームで過不足なく照射することができ、線量率が向上する。例えば、
図5に示すようにビームの出射開始(時刻T6)から時間t
4’経過後まで高周波キッカ70への高周波電圧V
extの印加を続ければ、時刻T7’までビームを出射することができる。
【0041】
また、出射後に加速器内に周回するビームが残存していれば、高周波電圧Vextを再び印加することでビーム出射を再開でき(時刻T8)、再びビームの入射、捕獲及び加速を行わずに、次のスポット照射にビームを用いることができる。すなわち、一加速周期内に複数回ビームを出射することができるので、イオン源53から入射された電荷を無駄なく使用することができ、線量率がさらに向上する。再び、加速電圧Vaccが立ち上がり始めれば、新たな加速周期が始まる(時刻T10)。
【0042】
以下、
図6を参照して、回転コンデンサ22について詳しく説明する。回転コンデンサ22は、加速空胴10のディー電極12とは反対側の端部に設置される。回転コンデンサ22は、モータ31と、ステータ電極32と、ロータ電極33と、ロータ電極とモータ31とを接続するシャフト35と、ロータリジョイント34と、真空シール29と、シャフト35の軸受け30と、ホルダ28とを含む。
【0043】
ステータ電極32は、内導体14上に形成されている。ロータ電極33は、外導体15に隣り合い、外導体15と物理的には接続されていないが、外導体15と静電容量を介して電気的に接続されている。なお、この構成とは逆に、ステータ電極32が外導体15上に形成され(物理的に接続され)、ロータ電極33が内導体14に静電結合されてもよい。
【0044】
図7は、
図6のB-B線断面図である。ステータ電極32及びロータ電極33は、
図5(a)に示されている周波数変調パターンを実現するために、周方向に任意形状の切り欠け部を有する周期対称構造を有する。ステータ電極32とロータ電極33との対向部面積を変化させることで、ステータ電極32とロータ電極33との間に形成される静電容量が時間的に変動する。
【0045】
図7に示す例では、この周期対称構造が8回対称の構造であるため、モータ31が1回転するごとに周波数変調パターンが8周期分繰り返される。周期対称回数をさらに多くすれば、モータ回転数を下げることができ、真空シールや軸受け部の寿命を向上させることも可能である。
【0046】
シャフト35は、モータ31の中心を貫通するように設置される。シャフト35の端部にロータリジョイント34が設置されており、シャフト35内に冷却水が供給される。冷却水はロータ電極33の冷却に用いられる。
図6に示されているモータ31は一例に過ぎず、回転コンデンサ22に用いられるモータは、シャフトと回転軸とを共有する構造以外の構造を有してもよい。例えば、シャフトの脇にモータが設置され、ギアやプーリ等を介して、シャフトが駆動されてもよい。
【0047】
ホルダ28は、水冷され、真空シール29と軸受け30とを保持すると共に冷却する。真空シール29は、ディー電極12側に設置され、シャフト35の周りを真空封止する。シャフト35を支持する軸受け30は、ディー電極12の反対側に設置されている。つまり、軸受け30は、大気側に設置されている。消耗品である軸受け30が大気側に設置されているため、軸受け30の交換等の保守作業が容易になる。また、その保守作業のために真空を開放する必要がないため、円形加速器39のダウンタイムを減らすことができる。また、軸受け30に用いられるグリースが発塵したとしても、その場所は大気中であり、真空度の悪化を引き起こさないため、放電やビーム損失といった問題が発生しない。
【0048】
真空シール29として、リップシール、ダブルOリング、ウィルソンシールやベローズシール等が用いられる。なお、モータ31の回転数が2000rpm以下であれば、磁性流体シールを用いることができ、これによって、摺動性が上がるため、シール寿命の向上が期待できる。
【0049】
高周波電流が流れるパスとなりうるステータ電極32、ロータ電極33、内導体14、外導体15及び、シャフト35は、全て導電体製の部材である。
【0050】
図8には、変形例1に係る回転コンデンサが示されている。真空シール29や軸受け30の側を流れる高周波電流を低減するために、
図8に示すように、バイパスコンデンサ23が、真空シール29の真空側に設置されてもよい。バイパスコンデンサ23は、互いに対向するホルダ側電極24とシャフト側電極25とを含む。ホルダ側電極24は、外導体15に接続された導電体製のホルダ28’に固定される電極であり、シャフト側電極25は、シャフト35上に固定される電極である。
【0051】
図9には、バイパスコンデンサ23の構成が示されている。
図9は、
図8のC-C線断面図である。ホルダ側電極24とシャフト側電極25は、周方向に切り欠け部を有していない電極である。この構成によって、静電容量が増加し、高周波に対するインピーダンスが低下する。そのため、高周波電流がこのバイパスコンデンサ23の方を流れやすくなり、真空シール29や軸受け30を流れる高周波電流が減少することで、真空シール29や軸受け30の寿命を向上させて、保守作業の頻度を下げることができる。
【0052】
なお、ホルダ側電極24とシャフト側電極25は、ステータ電極及びロータ電極と同様に、周方向に切り欠け部を有してもよい。切り欠け部がある場合、静電容量は減少してしまうが、ステータ電極及びロータ電極と同様に、共振周波数変調に寄与する静電容量変化を生み出すこともできる。また、ホルダ側電極24とシャフト側電極25は、ステータ電極やロータ電極と同程度の回転半径を持つよう構成し、静電容量を増加させて高周波電流のバイパス効果を高めることもできる。
【0053】
真空シール29として磁性流体シールが用いられる場合、磁路形成のために、シャフト35を磁性体によって構成する必要がある。ホルダ28も磁性体によって構成すれば、主電磁石40から漏れる漏洩磁場を遮断することができる。また、外導体15の外周側からホルダ28の外周側までを覆う磁性流体シールドが設置されて、磁性流体シールドや軸受け30のみではなく、ロータ電極33まで含めて漏洩磁場を遮蔽する磁気シールド構造が採用されてもよい。これにより、漏洩磁場によって生じる磁性流体シールのシール性能低下と、ロータ電極33に発生する渦電流損の双方を低減することができる。さらに、回転コンデンサ22全体を、外導体15と接続した導電体製の筐体で隙間なく覆えば、シャフト35より周囲空間に放散される可能性のある高周波ノイズを抑制することができる。
【0054】
以下、
図10を参照して、本実施形態に係る粒子線治療システムの構成について説明する。
図10には、粒子線治療システムの構成が示されている。本実施形態に係る粒子線治療システムは、円形加速器39と、回転ガントリ190と、スキャニングコイルを含む照射装置192と、治療台201と、これら制御する制御装置191とを含む。円形加速器39から出射されたビームは、回転ガントリ190によって照射装置192まで輸送される。輸送されたイオンビームは、照射装置192及びビームエネルギーの調整によって、患部形状に合致するように整形され、治療台201に横たわる患者200の患部標的に対して所定量照射される。照射装置192は、線量モニタを含み、照射スポット毎に患者200に対して照射された線量を監視している。制御装置191は、この線量データに基づいて、各照射スポットへの要求線量を計算し、その計算結果を演算装置に出力する。
【0055】
本実施形態に係る回転コンデンサ22によれば、消耗品である軸受け30が大気側に設置されているため、軸受け30の保守作業(例えば軸受け30の交換)を行うときに、円形加速器39を大気開放する必要がない。つまり、円形加速器39を大気開放せずに、軸受け30の保守を行うことが可能となる。そのため、軸受け30の保守作業の効率を向上させることができる。また、円形加速器39を大気開放する必要がないため、円形加速器39のダウンタイムを短くすることができる。その結果、円形加速器39を用いた粒子線治療システムの稼働時間を長くすることができ、患者のスループットを向上させることができる。
【0056】
以下、
図11を参照して、変形例2に係る回転コンデンサについて説明する。
図11は、変形例2に係る回転コンデンサを示す断面図である。
【0057】
変形例2に係る回転コンデンサ22aは、
図6に示されている回転コンデンサ22の構成に加えて、軸受け30aとホルダ28aとを更に含む。変形例2においては、軸受け30が、第1の個別軸受けの一例に相当し、軸受け30aが、第2の個別軸受けの一例に相当する。軸受け30,30aによって、シャフト35が支持される。ホルダ28aは、軸受け30aを保持する。軸受け30と軸受け30aとは、シャフト35上で互いに離れた位置に設置されている。
【0058】
軸受けを大気側に設置すると、軸受けを真空側に設置する場合と比べて、シャフト35が長くなるが、軸受け30,30aを互いに離れた位置に設置することで、シャフト35を安定して支持することができる。
【0059】
なお、3つ以上の軸受けが設置されて、3つ以上の軸受けによってシャフト35が支持されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
22 回転コンデンサ、29 真空シール、30 軸受け、32 ステータ電極、33 ロータ電極、35 シャフト、39 円形加速器。