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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-28
(45)【発行日】2024-12-06
(54)【発明の名称】イオン伝導性物質、電解質、及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20241129BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241129BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20241129BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
C01G25/00
C01B25/45 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022144851
(22)【出願日】2022-09-12
(65)【公開番号】P2024040037
(43)【公開日】2024-03-25
【審査請求日】2024-03-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】山林 奨
(72)【発明者】
【氏名】陰山 洋
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/009935(WO,A1)
【文献】特開2014-022319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
C01G 25/00
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属元素、4価の金属元素M、ハロゲン元素、ドーパント元素X、及び酸素元素を含有し、ドーパント元素Xの含有量は金属元素Mの含有量に対して50モル%以下であり、
前記アルカリ金属元素はLiを含み、
前記4価の金属元素MはZr及びHfの少なくとも一方を含み、
前記ハロゲン元素がClを含み、
前記ドーパント元素XがS及びPの少なくとも一方を含み、
25℃においてCuKα線を用いて測定して得られたX線回折チャートにおいて、2θ角が10~20°の範囲に半値幅が2.0~10°である回折ピークを有する、イオン伝導性物質。
【請求項2】
アモルファス相と、当該アモルファス相に分散された結晶子とを含むと共に、アルカリ金属元素、4価の金属元素M、ハロゲン元素、ドーパント元素X、及び酸素元素を含有するイオン伝導性物質であって
前記アルカリ金属元素はLiを含み、
前記4価の金属元素MはZr及びHfの少なくとも一方を含み、
前記ハロゲン元素がClを含み、
前記ドーパント元素XがS及びPの少なくとも一方を含み、
前記イオン伝導性物質中に含まれる原子の総量に対して
アルカリ金属元素の含有量が20~30モル%であり、
元素Mの含有量が5~20モル%であり、
ハロゲン元素の含有量が40~60モル%であり、
ドーパント元素Xの含有量が0.05~5モル%であり、
前記結晶子の平均円相当径が20nm以下である、イオン伝導性物質。
【請求項3】
前記ドーパント元素が、P及びSの少なくとも一方である、請求項1又は2に記載のイオン伝導性物質。
【請求項4】
前記イオン伝導性物質中に含まれる原子の総量に対して
アルカリ金属元素の含有量が20~30モル%であり、
元素Mの含有量が5~20モル%であり、
ハロゲン元素の含有量が40~60モル%であり、
ドーパント元素Xの含有量が0.05~5モル%である、請求項1に記載のイオン伝導性物質。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のイオン伝導性物質を含む、電解質。
【請求項6】
請求項5に記載の電解質を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性物質、電解質、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池等の電気化学デバイスに使用される電解質として、固体電解質が注目されている(特許文献1~3)。固体電解質は、従来の電解液と比較して、高温耐久性、高電圧耐性等に優れるため、安全性、高容量化、急速充放電、パックエネルギー密度などの電池の性能の向上に有用であると考えられている。
【0003】
特許文献1~3に記載されるように、リチウムイオン電池の固体電解質に使用される材料としてリチウム及びリチウム以外の金属元素を含むハロゲン化物の固体電解質が知られている。ハロゲン化物固体電解質は、柔軟性が高いため焼結を必要としないこと、HS等の有害な物質を放出しないため安全性が高いことなど、酸化物系又は硫化物系の固体電解質にはない利点を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2021002064号
【文献】国際公開第2021024785号
【文献】国際公開第2021220577号
【文献】特許第6947321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハロゲン化物固体電解質には、未だにイオン伝導度について改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたものであって、イオン伝導度に優れるイオン伝導性物質、並びにそれを用いた電解質、及び電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態[1]~[6]を含む。
[1]アルカリ金属元素、4価の金属元素M、ハロゲン元素、ドーパント元素X、及び酸素元素を含有し、ドーパント元素Xの含有量は金属元素Mの含有量に対して50モル%以下であり、25℃においてCuKα線を用いて測定して得られたX線回折チャートにおいて、2θ角が10~20°の範囲に半値幅が2.0~10°である回折ピークを有する、イオン伝導性物質。
[2]アモルファス相と、当該アモルファス相に分散された結晶子とを含むと共に、アルカリ金属元素、4価の金属元素M、ハロゲン元素、ドーパント元素X、及び酸素元素を含有し、前記結晶子の平均円相当径が20nm以下である、イオン伝導性物質。
[3]前記ドーパント元素が、P及びSの少なくとも一方である、[1]又は[2]のイオン伝導性物質。
[4]前記イオン伝導性物質中に含まれる原子の総量に対して、アルカリ金属元素の含有量が20~30モル%であり、元素Mの含有量が5~20モル%であり、ハロゲン元素の含有量が40~60モル%であり、ドーパント元素Xの含有量が0.05~5モル%である、[1]~[3]のいずれか一つのイオン伝導性物質。
[5][1]~[4]のいずれか一つのイオン伝導性物質を含む、電解質。
[6][5]に記載の電解質を含む、電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオン伝導度に優れるイオン伝導性物質、並びにそれを用いた電解質、及び電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1~6及び比較例1~3について得られたX線回折チャートを示す図である。
図2図2は、実施例3、5及び6、並びに比較例1~3のイオン伝導性物質について得られたアレーニウスプロットを示すグラフである。
図3図3は、実施例3のイオン伝導性物質のTEM像である。
図4図4は、実施例1~5、及び比較例1のサイクリックボルタンメトリーの結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1の充放電試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のイオン伝導性物質(アルカリ金属含有ハロゲン化物)は、アルカリ金属元素、4価の金属元素M(元素Mとも呼ぶ。)、ハロゲン元素、ドーパント元素X、及び酸素元素を含有すると共にドーパント元素Xの含有量は金属元素Mの含有量に対して50モル%以下であり、且つ、以下の(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす。
(1)25℃においてCuKα線を用いて測定したX線回折チャートにおいて、2θ角が10~20°の範囲に半値幅が2.0~10°である回折ピークを有する。
(2)アモルファス相と、当該アモルファス相に分散された結晶子とを含み、結晶子の平均粒子径が20nm以下である。
【0011】
(1)について、回折ピークの半値幅は、4.0~9.0°であってよく、4.5~8.8°であってよく、5.0~8.7°であってよい。なお、本明細書において半値幅は特に断らない限り、半値全幅(FWHM)である。
【0012】
(2)を満たす場合、イオン伝導性物質は海島構造を有していると言える。結晶子の平均粒子径は、15nm以下であってよく、10nm以下であってよく、6nm以下であってよい。また、1nm以上であってよく、2nm以上であってもよい。結晶子の平均粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡により得られた顕微鏡像における結晶子の面積から計算される円相当径の平均値であってよい。平均は、視野(例えば、188.6nm×188.6nm)内で実施例に記載の方法で認識されたすべての結晶についての平均であってよい。
【0013】
本実施形態のイオン伝導性物質に含まれるアルカリ金属元素は、Li、Na、K、Rb及びCsのいずれであってもよいが、Li、Na及びKの少なくとも一種を含んでいてよく、Li及びNaの少なくとも一方を含んでいてよく、Liを含んでいてよい。
【0014】
イオン伝導性物質に含まれるアルカリ金属元素のうち、1種のアルカリ金属元素の割合が80モル%以上であってよく、90モル%以上であってよく、95モル%以上であってよい。当該1種のアルカリ金属元素はLi、Na及びKの少なくとも一種であってよく、Li及びNaの少なくとも一方であってよく、Liであってよい。
【0015】
イオン伝導性物質におけるアルカリ金属元素の含有量は、イオン伝導性物質に含まれる原子の総量に対して、20~30モル%であってよく、22~28モル%であってよく、24~27モル%であってよい。
【0016】
元素Mとしては、Zr、Ti及びHfが挙げられ、Zrが好ましい。イオン伝導性物質は、1種又は複数種の4価の金属元素Mを含んでいてよい。イオン伝導性物質における4価の金属の含有量は、イオン伝導性物質に含まれる原子の総量に対して、5~20モル%であってよく、8~16モル%であってよく、8~15モル%であってよく、9~13モル%であってよい。元素Mは、Zr及びHfを含んで良い。イオン伝導性物質に含まれる4価の金属元素のうち、Zrの含有量は70モル%以上であってよく、80モル%以上であってよく、85モル%以上であってよく、90モル%以上であってよい。イオン伝導性物質に含まれる4価の金属元素のうち、Zrの含有量は99.9モル%以下であってよく、99モル%以下であってよく、98モル%以下であってよく、97モル%以下であってよく、95モル%以下であってよい。
【0017】
イオン伝導性物質は、4価以外の金属元素M2(ただしアルカリ金属元素を除く)を含んでよい。金属元素M2は2価又は3価又は5価の金属元素のうち少なくとも一種であってよい。2価の金属としては、アルカリ土類金属、Zn等が挙げられる。3価の金属元素としては、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Y、Al、Ga、In、Bi、及びSbが挙げられる。5価の金属元素としては、Nb、Taが挙げられる。アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr及びBaのうち少なくとも1種であってよく、Mg及びCaの少なくとも一方であってよく、Mgであってよい。M2の含有量は、イオン伝導性物質に含まれるアルカリ金属以外の金属元素の合計量(元素Mと元素M2の合計量)に対して30モル%以下であってよく、20モル%以下であってよく、15モル%以下であってよく、10モル%以下であってよい。M2の含有量は、イオン伝導性物質に含まれる2~4価の金属元素の合計量に対して0.1モル%以上であってよく、1モル%以上であってよく、2モル%以上であってよく、2モル%以上であってよく、3モル%以上であってよく、5モル%以上であってよい。
【0018】
本実施形態のイオン伝導性物質に含まれるハロゲン元素は、F、Cl、Br、及びIのうちいずれであってもよいが、Cl、Br、及びIの少なくとも一種を含んでいてよく、Cl及びBrの少なくとも一方を含んでいてよく、Clを含んでいてよい。イオン伝導性物質は、1種のみのハロゲン元素を含んでいてもよいが、2種以上のハロゲン元素を含んでいてもよい。
【0019】
イオン伝導性物質におけるハロゲン元素の含有量は、イオン伝導性物質に含まれる原子の総量に対して、40~60モル%であってよく、43~55モル%であってよく、45~52モル%であってよい。
【0020】
本実施形態のイオン伝導性物質に含まれるドーパント元素Xは、4つの酸素と四面体構造XOを形成できる元素であってよく、P、及びSの少なくとも一方であってよい。ドーパント元素XはPを含んでいてよい。また、ドーパント元素XはSを含んでいてよい。
【0021】
イオン伝導性物質におけるドーパント元素Xの含有量は、イオン伝導性物質に含まれる原子の総量に対して、0.05~5モル%であってよく、0.1~3モル%であってよく、0.2~2モル%であってよく、0.3~1モル%であってよい。
イオン伝導性物質におけるドーパント元素Xの含有量は、4価の金属元素Mの含有量の50モル%以下であり、1~30モル%であってよく、1~20モル%であってよく、2~10モル%であってよい。イオン伝導性物質におけるドーパント元素Xの含有量は、4価の金属元素Mの含有量の20モル%以下であってよく、15モル%以下であってよく、10モル%以下であってよく、8モル%以下であってよい。
イオン伝導性物質におけるドーパント元素Xの含有量は、酸素元素の含有量の1~10モル%であってよく、2~6モル%であってよい。
【0022】
イオン伝導性物質における酸素元素の含有量は、イオン伝導性物質に含まれる原子の総量に対して、5~20モル%であってよく、8~18モル%であってよく、10~16モル%であってよい。
【0023】
本実施形態のイオン伝導性物質は、下記組成式(1)で表される化合物(アルカリ金属含有ハロゲン化物とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
αβγδηε・・・(1)
(式中、Aはアルカリ金属元素であり、Mは上述の4価の金属元素M、Xは上述のドーパント元素X、Zはハロゲン元素であり、1.5≦α≦3、0.5≦β≦2、0.005≦γ≦0.5、3≦δ≦6、0.5≦ε≦2である。)
αは、1.8≦α≦2.5であってよく、1.9≦α≦2.3であってよく、1.95≦α≦2.2であってよい。αについての上限と下限とは任意に組み合わせることができる。
βは、0.7≦β≦1.4であってよく、0.8≦β≦1.2であってよく0.9≦β≦1.1であってよい。βについての上限と下限とは任意に組み合わせることができる。
γは、0.01≦γ≦0.2であってよく、0.02≦γ≦0.15であってよく、0.025≦γ≦0.10であってよい。γについての上限と下限とは任意に組み合わせることができる。
δは、3.5≦δ≦5であってよく、3.7≦δ≦4.3であってよく、3.8≦δ≦4.1であってよい。δについての上限と下限とは任意に組み合わせることができる。
εは、0.7≦ε≦1.5であってよく、0.8≦ε≦1.3であってよく、0.9≦ε≦1.1であってよい。εについての上限と下限とは任意に組み合わせることができる。
Eは、A、M、X、及びZ以外の元素であって、必須元素以外に添加又は混入した元素であってよい。Eとしては、例えば、C、B、N等が挙げられる。ηは0~0.1であってよく、0~0.01であってよく、0~0.001であってよく、実質的に0であってもよい。
【0024】
また、本実施形態のイオン伝導性物質は、下記組成式(2)で表される化合物(アルカリ金属含有ハロゲン化物とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
αβ ζγδηε・・・(2)
(式中、Aはアルカリ金属元素であり、Mは上述の4価の金属元素M、Mは4価以外の金属元素M(ただしアルカリ金属元素を除く)であり、Xは上述のドーパント元素X、Zはハロゲン元素である。)
式(2)におけるα、β、γ、δ及びεのそれぞれについて好ましい範囲は、式(1)においてα、β、γ、δ及びεの範囲として例示したものと同様の範囲であってよい。
ζは、0.01≦ζ≦0.3であってよく、0.03≦ζ≦0.2であってよく、0.05≦ζ≦0.15であってよい。ζについての上限と下限とは任意に組み合わせることができる。
Eは、A、M、X、及びZ以外の元素であって、必須元素以外に添加又は混入した元素であってよい。Eとしては、例えば、C、B、N等が挙げられる。ηは0~0.1であってよく、0~0.01であってよく、0~0.001であってよく、実質的に0であってもよい。
【0025】
本実施形態のイオン伝導性物質の活性化エネルギーは、0.35eV以下であってよく、0.33eV以下であってよく、0.23~0.35eVであってよい。イオン伝導性物質の活性化エネルギーは、25℃~100℃の温度範囲内で、5点(25℃、40℃、60℃、80℃及び100℃)の温度でイオン伝導度σの測定を行い、以下の計算式を基にしてカーブフィッティングを行って求めることができる。
式:σT=Aexp(-E/kT)
ここで、σはイオン伝導度(S/cm)、Tは絶対温度(K)、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、kはボルツマン定数を表す。
また、縦軸にσ、横軸に1000/T(Tは絶対温度)を取ったグラフ(アレーニウスプロット)を作成することができる。
【0026】
本実施形態のイオン伝導性物質の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、原料に対してボールミルを行う工程を備える製造方法が挙げられる。
【0027】
原料としては、特に限定されない。例えば、アルカリ金属源としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物等が挙げられる。金属元素M源としては、金属元素Mのハロゲン化物が挙げられる。金属元素M2源としては、金属元素M2のハロゲン化物が挙げられる。ドーパント元素X源としては、XOイオンとアルカリ金属との塩などの化合物であってよい。原料はボールミルを行う前に混合することが好ましく、不活性雰囲気(例えばAr雰囲気)下で混合することがより好ましい。
【0028】
ボールミルの条件としては特に限定されないが、回転数200~700rpmで10~100時間とすることができる。粉砕時間は、1時間~72時間であってよく、12~60時間であってよく、20~60時間であってよい。
ボールミルに用いるボールとしては、特に限定はされないが、ジルコニアボールを用い得ることができる。用いるボールの大きさとしては特に限定はされないが、2mm~10mmのボールを用いることができる。
ボールミルを上記の時間で行うことで充分に各原料が混合され、メカノケミカル反応が促進されることによって、得られる化合物のイオン伝導度を向上させることが可能である。
【0029】
ボールミルを行って得られた生成物(イオン伝導性物質)にはアニーリングを行わないことが好ましい。アニーリングを行うと、結晶子が成長して粗大化し上述の効果が得られない場合がある。アニーリングとしては、例えば、100℃以上、150℃以上、又は200℃以上でボールミル後の生成物を加熱することが挙げられる。
【0030】
本実施形態のイオン伝導性物質は、例えば、キャパシタ、電池等の電気化学デバイスの材料として使用することができる。そのような材料としては、例えば、電解質(固体電解質)の材料が挙げられる。電池としては、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等の正極及び負極の間をアルカリ金属イオンが移動することにより充放電を行う電池が挙げられる。また、本実施形態のイオン伝導性物質は、電池の正極、又は負極に含まれていても良い。
【0031】
以下、本実施形態の電池について、リチウムイオン電池を例にとって説明する。リチウムイオン電池は、正極及び負極と、当該正極及び負極の間に配置された電解質(固体電解質)とを含む。本実施形態のイオン伝導性物質(アルカリ金属含有ハロゲン化物(この場合、リチウム含有ハロゲン化物である))は、リチウムイオン電池の電解質に含まれていてよい。
リチウムイオン電池の正極としては、特に限定されず、正極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。
正極は、これらの材料を含む層が集電体上に形成されたものであってよい。正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiMnCo1-x-y[0<x+y<1])、LiNiCoAl1-x-y[0<x+y<1])、LiCr0.5Mn0.5、LiFePO、LiFeP、LiMnPO、LiFeBO、Li(PO、LiCuO、LiFeSiO、LiMnSiOなどが挙げられる。
【0032】
リチウムイオン電池の負極としては特に限定されず、負極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。例えば、Li、Si、P、Sn、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、In、Auなどの単体及びこれらの元素を含む合金、又は複合体、グラファイト等の炭素材料、当該炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質などを挙げることができる。
【0033】
集電体の材質は特に限定されず、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、Ag、Pd等の金属の単体又は合金であってよい。
【0034】
固体電解質層としては、複数の層を有していて良い。例えば、本実施形態のイオン伝導性物質を含む固体電解質層に加え、硫化物固体電解質層を有する構成であっても良い。本実施形態のイオン伝導性物質を含む固体電解質と負極の間に硫化物固体電解質層を有する構成であっても良い。硫化物固体電解質としては特に限定はされないが、例えば、LiPSCl、LiS-PS、Li10GeP12、Li9.612、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、LiPSなどが挙げられる。
【実施例
【0035】
(実施例1)
・ボールミル
-70℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気中(以下、乾燥アルゴン雰囲気と記載する)で、LiОを0.1334g、ZrClを1.0407g、LiPОを0.0259g秤量し、原料を用意した。
下記の遊星ボールミル用の50mlの容積のジルコニアポットに上記原料を入れ、直径4mmのジルコニアボールを65g投入した。24時間、300rpmの条件でメカノケミカル的に反応するように処理することにより、実施例1のイオン伝導性物質を得た。
ボールミルは、10分間回転させる毎に、インターバルとして1分間停止させ、回転方向を時計回りと反時計回り交互に切り替えるモードで実施した。得られたイオン伝導性物質(リチウム含有塩化物)の仕込み組成は、Li2。15ZrClО(PО0.05である。
遊星ボールミル装置:ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製 PM 400
【0036】
(実施例2)
ボールミルを48時間行ったこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0037】
(実施例3)
表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0038】
(実施例4)
LiPOに代えてLiSOを使用し、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0039】
(実施例5)
原料として、LiО、ZrCl、HfCl、及びLiPОを用いて、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0040】
(実施例6)
原料として、LiО、ZrCl、MgCl、及びLiPОを用いて、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0041】
(実施例7)
原料として、LiО、ZrCl、MgCl、及びLiPОを用いて、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0042】
(比較例1)
原料として、LiCl、及びZrClを用いて、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0043】
(比較例2)
原料として、LiCl、LiO及びZrClを用いて、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0044】
(比較例3)
原料として、LiO及びZrClを用いて、表2の仕込み組成となるように配合比を調整した原料にボールミルを行って得られた生成物に200℃で5時間アニーリングを行ったこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0045】
(比較例4)
LiPOに代えてLiSOを使用し、表2の仕込み組成となるように原料の配合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン伝導性物質を製造した。
【0046】
<粉末X線回折>
得られたイオン伝導性物質について、25℃での粉末X線回折測定により、2θで10~20°の範囲内に観測された回折ピークの評価を行った。結果を表2に示す。粉末X線回折測定の測定条件について、下記の条件にて実施した。
測定装置: Ultima IV (株式会社 リガク 製)
X線発生器: CuKα線源 電圧40kV、電流40mA
X線検出器: シンチレーションカウンター又は半導体検出器
測定範囲: 回折角2θ=5°~80°
スキャンスピード:4°/分
図1は実施例1~6及び比較例1~3のイオン伝導性物質について得られたX線回折チャートを示す図である。
ピークの半値幅はバックグラウンドシグナルを除去し、フィッティングを行うことで求めた。
【0047】
<イオン伝導度の評価>
枠型、パンチ下部及びパンチ上部を備える加圧成形ダイスを用意した。なお、枠型は、絶縁性ポリカーボネートから形成されていた。また、パンチ上部及びパンチ下部は、いずれも、電子伝導性のステンレスから形成されており、インピーダンスアナライザー(Solatron Analytical社製 Sl1260)の端子にそれぞれ電気的に接続されていた。
【0048】
上記加圧成形ダイスを用いて、下記の方法により、イオン伝導性物質のイオン伝導度が測定された。まず、乾燥アルゴン雰囲気中で、イオン伝導性物質の粉末を、枠型の中空部に鉛直下方から挿入されたパンチ下部上に充填した。そして、パンチ上部を枠型の中空部に上から押し込むことにより、加圧成形ダイスの内部で、イオン伝導性物質の粉末に370MPaの圧力が印加された。圧力が印加された後、治具でパンチを上下から締め付けて固定し、一定圧力が保持されたままの状態で、上記インピーダンスアナライザーを用いて、電気化学的インピーダンス測定法により、イオン伝導性物質のインピーダンスが測定された。
【0049】
インピーダンス測定結果から、Cole-Cole線図のグラフを作成した。Cole-Cole線図において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点でのインピーダンスの実数値を、イオン伝導性物質のイオン伝導に対する抵抗値と見なした。当該抵抗値を用いて、以下の数式(III)に基づいてイオン伝導度が算出された。結果を表2に示す。
σ=(RSE×S/t)-1・・・(III)
ここで、
σはイオン伝導度であり、
Sは、イオン伝導性物質のパンチ上部との接触面積(枠型の中空部の断面積に等しい)であり、
SEは、インピーダンス測定における固体電解質材料の抵抗値であり、
tは、圧力が印加された際のイオン伝導性物質の厚みである。
【0050】
25℃でのイオン伝導度を測定した。また、25℃から100℃の温度範囲内で、5点(25℃、40℃、60℃、80℃及び100℃)の温度でイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。なお、5つの各温度点でのイオン伝導度をそれぞれσ(T=25℃、40℃、60℃、80℃又は100℃)と表す。図2は実施例3、5及び6、並びに比較例1~3のイオン伝導性物質について得られたアレーニウスプロットを示すグラフである。なお、図2において、実施例6の1000/Tの値が最も小さい2点と実施例3の1000/Tの値が最も小さい2点はほぼ重なっていた。
【0051】
<透過型電子顕微鏡による微細構造観察>
装置:分析電子顕微鏡 ARM200F 日本電子株式会社製
測定条件: 加速電圧 200kV
試料調整:集束イオンビーム(FIB)により、クライオスタットによる冷却を行いながら、不活性雰囲気中で加工
図3に、実施例3のイオン伝導性物質のTEM像を示す。図3に示すように、島構造を結晶相とし、それを取り囲むようにアモルファス相の海構造が形成された、海島構造が形成されていることが分かった。ここで、透過型電子顕微鏡観察で得られる電子回折図形において、回折斑点が制限視野の絞り内に存在する結晶について結像させることによって、特定の回折斑点に対応する結晶を、実空間上で周囲のアモルファス相よりも明るく結像させることができる。これにより実空間上における結晶相の分布が分かる。図3において、白い丸で囲んだ部分が結晶相である。
図3において、明るく結像した部分が明確になるように画像に着色を行い、各結晶相についてナンバリングした。このようにして結晶相の空間分布について調べた。
また、結晶相について、図中の視野中の合計51個の結晶粒について解析を行ったところ、結晶相の平均円相当径は4.5nmであった。
【0052】
<サイクリックボルタンメトリー用セルの作製>
以下に説明するとおり、サイクリックボルタンメトリー用セルの作製を行った。なお、サイクリックボルタンメトリー用セルの作製は、不活性気体で置換したグローブボックス内で行った。
まず、内径10mmの絶縁性の筒の中に実施例1のイオン伝導性物質を入れた。当該イオン伝導性物質に、370MPaの圧力を印加し、固体電解質層(上記イオン伝導性物質の層)が形成された。
次に、60mgのIn箔を固体電解質層に接触し且つ覆うように配置し、さらにLi箔2mgをIn箔と接触し且つ覆うように配置し、積層体を得た。当該積層体に370MPaの圧力を印加し、固体電解質層上にLi-In合金からなる参照電極が形成された。
さらに、ステンレス鋼から成る直径10mm、厚み0.1mmの円板状の板を第1の固体電解質層に接触し且つ覆うように配置し、積層体を得た。得られた積層体に370MPaの圧力を印加し、固体電解質層上にステンレス鋼からなる作用電極が形成された。
ステンレス鋼で形成された集電体が参照電極及び作用電極に取り付けられ、次いで、当該集電体にリード線が取り付けられた。全ての部材は、グローブボックス内で密閉されたデシケータ中に配置された。このようにしてサイクリックボルタンメトリー用セルが得られた。
【0053】
<サイクリックボルタンメトリー試験>
上記のサイクリックボルタンメトリー用セルについて、参照電極と作用電極とをインピーダンスアナライザーSl1260、及びポテンショスタットSl1287Aとに電気的に接続し、以下の条件でサイクリックボルタンメトリー試験を実施した。
すなわち、サイクリックボルタンメトリー試験では、掃引速度を1mV/sとし、参照電極(Li/Li-In)に対して作用電極の電位を変化させた際に流れる電流値を計測した。
まず、参照電極に対して作用電極の電位を、開回路電圧を始点として5.5Vまで昇圧した後に折り返し、0Vまで降圧した。
なお、サイクリックボルタンメトリー試験は、室温(25℃)で行った。0.5μA以上の還元電流が観測された電位を計測し、電気化学的安定性の指標とした。結果を表2に示す。
図4は、実施例1~5、及び比較例1のサイクリックボルタンメトリーの結果を示すグラフである。比較例1と比べて実施例1及び2のイオン伝導性物質は、低電位側に電位窓が拡張しており、安定性が向上していると言える。
【0054】
乾燥アルゴン雰囲気中で、実施例6のイオン伝導性物質、及びLiNi1/3Mn1/3Co1/3、およびアセチレンブラックをそれぞれ29質量部、67質量部、4質量部秤量し、乳鉢で混合することで、混合物を得た。
内径10mmの絶縁性の筒の中で、実施例1のイオン伝導性物質を100mg、上記の混合物を15mgを順に積層して、積層体を得た。積層体に370MPaの圧力を印加し、第1電極(上記混合物の層)及び第1の固体電解質層(上記イオン伝導性物質の層)が形成された。
次に、第1の固体電解質層に、硫化物固体電解質LiPSClを接触させるようにして60mg入れ、積層体を得た。積層体に370MPaの圧力を印加し、第2の固体電解質層が形成された。第1の固体電解質層は、第1の電極と第2の固体電解質層に挟まれていた。
次に、第二の固体電解質層にIn箔60mg、を接触させるようにして入れ、さらにLi箔2mgをIn箔と接触させるように入れ、積層体を得た。積層体に370MPaの圧力を印加し、第2電極が形成された。
ステンレス鋼で形成された集電体が第1電極及び第2電極に取り付けられ、次いで、当該集電体にリード線が取り付けられた。全ての部材はデシケータ中に配置され、密閉されており、このようにして実施例1の二次電池が得られた。
【0055】
<充放電試験>
充放電試験機としては、下記の製品を用いて実施した。
充放電試験機:東洋システム株式会社 TOSCAT-3100
25℃において、0.1C、1C及び3Cの3通りのCレートで充放電試験を実施した。
それぞれのCレートにおける放電容量は、表1の通りである。
定電流定電圧(CCCV充電)で、それぞれのCレートに対応した電流密度で3.7Vまで充電を行った。それぞれのCレートに対応した電流密度を表1に示す。
放電は、それぞれのCレートに対応した電流密度で、1.9Vまで放電した。
図5に実施例1の充放電試験結果を、表1に、実施例1の各Cレートにおける放電容量を示す。
実施例1において、いずれのCレートにおいても高い放電容量が得られた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5