IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧 ▶ 広島県の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイ・エム・エスの特許一覧

<>
  • 特許-レーザ接合方法及びレーザ接合成形体 図1
  • 特許-レーザ接合方法及びレーザ接合成形体 図2
  • 特許-レーザ接合方法及びレーザ接合成形体 図3
  • 特許-レーザ接合方法及びレーザ接合成形体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】レーザ接合方法及びレーザ接合成形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
B29C65/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021082960
(22)【出願日】2021-05-17
(65)【公開番号】P2022176493
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 幸男
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐正
(72)【発明者】
【氏名】山本 元道
(72)【発明者】
【氏名】田中 義和
(72)【発明者】
【氏名】門 格史
(72)【発明者】
【氏名】田所 英記
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬史
(72)【発明者】
【氏名】江後 達也
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-132200(JP,A)
【文献】国際公開第03/039843(WO,A1)
【文献】特開2013-202876(JP,A)
【文献】特開2010-162832(JP,A)
【文献】特開2013-180158(JP,A)
【文献】特開平07-091589(JP,A)
【文献】特表2009-533200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82-2/97
A61M 3/00-9/00
25/00-36/08
37/00-39/28
99/00
B23K 26/00-26/70
B29C 63/00-63/48
65/00-65/82
F16L 1/00-1/26
5/00-15/08
21/00-21/08
23/00-55/48
59/00-59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1内腔を有しレーザ光が透過可能な第1円筒状部材と、第2内腔を有しレーザ光が透過可能な第2円筒状部材とを、レーザ光を照射することで溶着して接合するレーザ接合方法であって、
前記第2円筒状部材の少なくとも一部を、外周面が前記第1内腔に接した状態で該第1内腔に挿入する挿入工程と、
前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材を、該第1円筒状部材及び該第2円筒状部材の中心軸を回転中心として一体的に回転させる回転工程と、
前記回転工程において回転されている前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材における前記第1円筒状部材と前記第2円筒状部材とが重なり合った部分に、前記第1円筒状部材の径方向の外側からレーザ光を照射するレーザ照射工程と、を備え、
前記レーザ照射工程において、レーザ光を、前記第2円筒状部材の内周への入射角が該第2円筒状部材と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射する、レーザ接合方法。
【請求項2】
第1内腔を有しレーザ光が透過可能な第1円筒状部材と、第2内腔を有しレーザ光が透過可能な第2円筒状部材とを、レーザ光を照射することで溶着して接合するレーザ接合方法により製造されるレーザ接合成形体であって、
前記レーザ接合方法は、
前記第2円筒状部材の少なくとも一部を、外周面が前記第1内腔に接した状態で該第1内腔に挿入する挿入工程と、
前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材を、該第1円筒状部材及び該第2円筒状部材の中心軸を回転中心として一体的に回転させる回転工程と、
前記回転工程において回転されている前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材における前記第1円筒状部材と前記第2円筒状部材とが重なり合った部分に、前記第1円筒状部材の径方向の外側からレーザ光を照射するレーザ照射工程と、を備え、
前記レーザ照射工程において、レーザ光を、前記第2円筒状部材の内周への入射角が該第2円筒状部材と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射することにより、前記第2内腔の閉塞率が50%未満になるように製造されるレーザ接合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの円筒状部材を、レーザ光を照射することで溶着して接合するレーザ接合方法及びレーザ接合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野や自動車分野等において、2つの樹脂製の円筒状部材をレーザによって溶着して接合するレーザ接合方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されたレーザ接合方法は、内側円筒状部材の少なくとも一部が外側円筒状部材の内側の空間に配置されることで径方向に重なって配置された状態において、外側円筒状部材の径方向の外側から、外側円筒状部材と内側円筒状部材とが重なった部分にレーザ光を照射することで、レーザにより接合する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4279674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2つの円筒状部材をレーザによって溶着する場合、内側に配置される内側円筒状部材の内側が熱により膨張して変形し、内側円筒状部材の内面が変形してしまう場合があった。内側円筒状部材の内面が変形してしまうと、例えば円筒状部材を液体や気体の流路として使用する場合に、流路の均一性が損なわれ、液体や気体の輸送性が低下してしまう場合がある。
【0005】
従って、本発明は、2つの円筒状部材をレーザ光によって溶着して接合する場合に、内側の円筒状部材の内面が変形することを抑制できるレーザ接合方法及びレーザ接合成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1内腔を有しレーザ光が透過可能な第1円筒状部材と、第2内腔を有しレーザ光が透過可能な第2円筒状部材とを、レーザ光を照射することで溶着して接合するレーザ接合方法であって、前記第2円筒状部材の少なくとも一部を、外周面が前記第1内腔に接した状態で該第1内腔に挿入する挿入工程と、前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材を、該第1円筒状部材及び該第2円筒状部材の中心軸を回転中心として一体的に回転させる回転工程と、前記回転工程において回転されている前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材における前記第1円筒状部材と前記第2円筒状部材とが重なり合った部分に、前記第1円筒状部材の径方向の外側からレーザ光を照射するレーザ照射工程と、を備え、前記レーザ照射工程において、レーザ光を、前記第2円筒状部材の内周への入射角が該第2円筒状部材と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射する、レーザ接合方法に関する。
【0007】
また、本発明は、第1内腔を有しレーザ光が透過可能な第1円筒状部材と、第2内腔を有しレーザ光が透過可能な第2円筒状部材とを、レーザ光を照射することで溶着して接合するレーザ接合方法により製造されるレーザ接合成形体であって、前記レーザ接合方法は、前記第2円筒状部材の少なくとも一部を、外周面が前記第1内腔に接した状態で該第1内腔に挿入する挿入工程と、前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材を、該第1円筒状部材及び該第2円筒状部材の中心軸を回転中心として一体的に回転させる回転工程と、前記回転工程において回転されている前記第1円筒状部材及び前記第2円筒状部材における前記第1円筒状部材と前記第2円筒状部材とが重なり合った部分に、前記第1円筒状部材の径方向の外側からレーザ光を照射するレーザ照射工程と、を備え、前記レーザ照射工程において、レーザ光を、前記第2円筒状部材の内周への入射角が該第2円筒状部材と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射することにより、前記第2内腔の閉塞率が50%未満になるように製造されるレーザ接合成形体に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、2つの円筒状部材をレーザ光によって溶着して接合する場合に、内側の円筒状部材の内面が変形することを抑制できるレーザ接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ接合方法により接合されて製作された延長チューブを備える投薬用の輸液回路を示す図である。
図2】レーザ接合方法により接合される外側円筒状部材及び内側円筒状部材の配置状態を示す図である。
図3】レーザ接合方法により内側円筒状部材及び外側円筒状部材が接合される場合のレーザ光の光路を示す図である。
図4】実施例及び比較例のレーザ光の光路及び試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のレーザ接合方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明のレーザ接合方法は、例えば、投薬用の輸液回路100の延長チューブ10を製作する場合に用いられる。
【0011】
図1に示すように、投薬用の輸液回路100は、本発明に係るレーザ接合方法により製作された延長チューブ10を備える。延長チューブ10は、複数のコネクタ11(一端部コネクタ12、中間コネクタ13、他端部コネクタ14)と、複数のチューブ15とを有し、複数のチューブ15が複数のコネクタ11により接続されて構成される。
【0012】
本実施形態においては、延長チューブ10は、一端部コネクタ12と、中間コネクタ13と、他端部コネクタ14と、一端部コネクタ12と中間コネクタ13とを接続するチューブ15と、中間コネクタ13と他端部コネクタ14とを接続するチューブ15と、を有する。一端部コネクタ12とチューブ15とは、レーザ光を照射することで溶着して接合される。中間コネクタ13とチューブ15とは、レーザ光を照射することで溶着して接合される。他端部コネクタ14とチューブ15とは、レーザ光を照射することで溶着して接合される。
【0013】
例えば、一端部コネクタ12は延長チューブ10の端部に配置されている。そのため、一端部コネクタ12とチューブ15とをレーザ光を照射することで溶着して接合する場合には、チューブ15の外側に一端部コネクタ12を配置した状態で、チューブ15の内面の変形を抑制するための芯材をチューブ15の内側に配置し、一端部コネクタ12の外側からレーザ光を照射することで、一端部コネクタ12とチューブ15とを溶着して接合できる。また、他端部コネクタ14とチューブ15とをレーザ光を照射することで溶着して接合する場合も同様である。
【0014】
一方、例えば、中間コネクタ13は、延長チューブ10の中間に配置されている。そのため、中間コネクタ13とチューブ15とをレーザ光を照射することで溶着して接合する場合において、中間コネクタ13の両端にチューブ15が接続されている場合には、芯材を挿入することは難しい。更に溶着後に芯材を抜去することも同様に難しい。
【0015】
よって、中間コネクタ13とチューブ15とをレーザ光を照射することで溶着して接合する場合に、チューブ15の外側に中間コネクタ13を配置した状態で、チューブ15の内側に芯材を配置せずに、中間コネクタ13の外側からレーザ光を照射させることで、中間コネクタ13とチューブ15とを溶着して接合する。
【0016】
本発明は、図2に示すように、チューブ15の外側に中間コネクタ13を配置した状態で、チューブ15の内側に芯材を配置せずに、中間コネクタ13の外側からレーザ光Lを照射して溶着して接合する場合に、好適に用いられるレーザ接合方法である。
【0017】
図2に示すように、本実施形態においては、中間コネクタ13を、外側円筒状部材2(第1円筒状部材)として説明する。外側円筒状部材2は、中心軸Oが延びる方向に延びる筒状に形成される。外側円筒状部材2の中心軸Oが延びる方向の両端の内側には、内側円筒状部材3としてのチューブ15の端部が挿入される。
【0018】
また、チューブ15を、内側円筒状部材3(第2円筒状部材)として説明する。内側円筒状部材3は、中心軸Oが延びる方向に延びる筒状に形成される。内側円筒状部材3の端部は、外側円筒状部材2としての中間コネクタ13の端部の内側に配置される。
【0019】
本実施形態のレーザ接合方法は、外側円筒状部材2(第1円筒状部材)としての中間コネクタ13と、内側円筒状部材3(第2円筒状部材)としてのチューブ15とを、レーザ光Lを照射することで溶着して接合する方法である。本実施形態のレーザ接合方法により外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とが溶着して接合されることで、レーザ接合成形体1が製造される。
【0020】
図2に示すように、外側円筒状部材2は、筒状に形成され、中心軸Oの方向に延びる。外側円筒状部材2は、第1内腔21を有する。第1内腔21は、中心軸Oの方向に同径で延びる。外側円筒状部材2は、レーザ光Lが透過可能である。本実施形態においては、外側円筒状部材2は、例えば、樹脂製の中間コネクタ13により構成される。
【0021】
内側円筒状部材3は、筒状に形成され、中心軸Oの方向に延びる。内側円筒状部材3は、外周面が、外側円筒状部材2の第1内腔21に接した状態で、第1内腔21に挿入される。内側円筒状部材3は、第2内腔31を有する。第2内腔31は、中心軸Oの方向に同径で延びる。内側円筒状部材3は、レーザ光Lが透過可能である。本実施形態においては、内側円筒状部材3は、例えば、長尺の樹脂製のチューブ15により構成される。
【0022】
外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3は、樹脂材料で形成された成形体である。外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を形成する樹脂材料は、同じ種類の樹脂材料でもよく、異なる種類の樹脂材料でもよい。外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3は、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の樹脂やポリカーボネート(PC)等の樹脂などにより形成される。
【0023】
本実施形態においては、図3に示すように、例えば、外側円筒状部材2について、外径がDoであり、内径がDiであり。屈折率がNaであるものを用いた。また、例えば、内側円筒状部材3について、外径がdoであり、内径がdiであり、屈折率がNbであるものを用いた。
【0024】
本実施形態においては、例えば、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の両方を、例えば、ポリプロピレン(PP)等の同じ同種系樹脂材料により形成しているので屈折率Na≒屈折率Nbとなる。例えば、ポリプロピレン(PP)の場合は、屈折率は1.48である。屈折率Na≠屈折率Nbの場合でも、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の境界で、スネルの法則にもとづいた屈折角度を計算し、屈折後のレーザ光が、後述するように、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射するように距離x(後述)を制御することで、同様の効果を得られる。
【0025】
また、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の両方を樹脂材料とする場合において、樹脂材料の種類が異なっていても、異なる種類の樹脂材料同士の屈折率の差は、樹脂材料の屈折率と空気の屈折率との差と比較すると、ほとんど無視できる。そのため、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の樹脂材料の種類が異なっていても、外側円筒状部材2の屈折率Na及び内側円筒状部材3の屈折率Nbは、ほぼ同じに近似できる。
【0026】
本発明のレーザ接合方法により外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とを接合する場合には、レーザ接合方法は、挿入工程と、回転工程と、レーザ照射工程と、を行うことで、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とを接合する。これにより、レーザ接合成形体1が製造される。
【0027】
挿入工程においては、図2及び図3に示すように、内側円筒状部材3の少なくとも一部を外側円筒状部材2の第1内腔21に挿入する。より具体的には、挿入工程においては、図2及び図3に示すように、内側円筒状部材3の一端側の部分は、外周面が第1内腔21に接した状態で、外側円筒状部材2の第1内腔21に挿入される。これにより、外側円筒状部材2の一部と内側円筒状部材3の一部とは、径方向に重なり合っている。
【0028】
回転工程においては、図3に示すように、内側円筒状部材3の少なくとも一部を外側円筒状部材2の第1内腔21に挿入した状態で、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の中心軸Oを回転中心として一体的に回転させる。本実施形態においては、回転工程において、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の中心軸Oを回転中心として、時計回りに、一体的に回転させている。
【0029】
レーザ照射工程においては、図3に示すように、回転工程において回転されている外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3において、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とが重なり合った部分に、外側円筒状部材2の径方向の外側からレーザ光Lを照射する。レーザ照射工程において、レーザ光Lを、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射する。
【0030】
レーザ光としては、近赤外領域や中赤外領域の波長(700~4000nm)のレーザ光を用いることができ、例えば、1200~2500nmの波長のレーザ光が好ましい。例えば、レーザ光として、樹脂材料への吸収性を考慮して、適度な吸収性を有するTmレーザ(ツリウムレーザ、波長:2000nm)を用いることができる。レーザ光による発熱量は、外側円筒状部材2の内周面及び内側円筒状部材3の外周面を溶融させるレベルである。しかし、レーザ光による発熱量は、レーザ光の光路の途中での減衰により、内側円筒状部材3の内周(第2内腔31)を直接溶融させないレベルであることが好ましい。
【0031】
ブリュースター角とは、屈折率が異なる2つの物質の境界面において、P偏向の反射率が0(ゼロ)となる入射角である。レーザ光Lの入射角がブリュースター角以上となる場合には、反射率が急激に上昇するため、第2内腔31の中の空気に透過される光が減少される。これにより、内側円筒状部材3の第2内腔31が溶融して変形することを抑制できる。
【0032】
ブリュースター角θBは、一般的に、次の式(1)で示される。
ブリュースター角θB=Arctan(n2/n1)・・・・(1)
式(1)中、n1は入射側の屈折率であり、n2は透過側の屈折率である。
例えば、屈折率1.48のポリプロピレン(PP)中から屈折率1の空気へ抜けるレーザ光のブリュースター角θBは、約34.0°である。
【0033】
図3に示すように、例えば、レーザ光Lは、光路が外側円筒状部材2に入射角90度で入射し、かつ、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の中心軸Oを通る場合のレーザ光Lの位置を基準位置RPとした場合に、照射されるレーザ光Lの外側円筒状部材2への入射位置と基準位置RPとの間の中心軸Oの方向に直交する平面での距離xが、基準位置RPから距離x1ずれた位置において、基準位置RPを通るレーザ光Lと平行に照射される。基準位置RPから距離x1ずれた位置は、ブリュースター角θBを所望の角度に設定するために、予め算出されたレーザ光Lを照射する位置である。
【0034】
これにより、例えば、基準位置RPから距離x1において入射されたレーザ光Lは、入射位置Pにおいて外側円筒状部材2の表面の垂線に対して入射角αの角度で入射し、スネルの法則により、屈折角βの角度で屈折して、外側円筒状部材2の内部を透過し、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3との境界aを通過し、内側円筒状部材3の内部へ透過する。
【0035】
そして、内側円筒状部材3の内部へ透過したレーザ光Lは、内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C1への入射角θが、内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射される。
【0036】
内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C1においては、第2内腔31の内周面からの反射光が、入射角θと同じ反射角θで反射されると共に、第2内腔31の内周面において屈折されて第2内腔31の内部に入射される。
【0037】
第2内腔31の内周面において屈折されて第2内腔31に入射されるレーザ光Lは、内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C1において、第2内腔31の中心側とは反対側に屈折される。第2内腔31の内部側に屈折されるレーザ光Lは、第2内腔31の中心側とは反対側に屈折されて、内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C2において、内側円筒状部材3に再入射される。
なお、レーザ光Lの入射角や屈折角は、外側円筒状部材2の屈折率や、内側円筒状部材3の屈折率を考慮して算出される。
【0038】
次に、本発明のレーザ接合方法の全体の流れについて簡単に説明する。本実施形態のレーザ接合方法は、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とをレーザによって溶着して接合する方法である。
【0039】
まず、内側円筒状部材3の少なくとも一部を外側円筒状部材2の内側の第1内腔21に挿入して配置する(挿入工程)。これにより、内側円筒状部材3の少なくとも一部と外側円筒状部材2の少なくとも一部とを径方向に重ねた状態で配置する。
【0040】
次に、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を、一体的に、例えば、図3に示すように、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の中心軸Oを中心に回転させる(回転工程)。
【0041】
続けて、外側円筒状部材2の径方向の外側から、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とが重なった部分にレーザ光Lを照射する(レーザ光照射工程)。
【0042】
ここで、レーザ光Lを、基準位置RPからx1ずれた位置において、基準位置RPを通るレーザ光と平行に照射する。これにより、内側円筒状部材3の内部へ透過したレーザ光Lは、内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C1への入射角θが、内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射される。
【0043】
これにより、レーザ光は、内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C1においては、第2内腔31の内周面からの反射光が、反射角θで反射されると共に、第2内腔31の内部に屈折される。第2内腔31の内部に屈折される光は、第2内腔31の中心側とは反対側に屈折される。そして、第2内腔31の中心側とは反対側に屈折されたレーザ光Lは、内側円筒状部材3の第2内腔31の内周の入射位置C2において、内側円筒状部材3に再入射される。
【0044】
よって、内側円筒状部材3の第2内腔31を溶かして変形させることを抑制しながら、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とを良好に接合することで、レーザ接合成形体1を製造できる。レーザ接合成形体1は、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とを接合することで、内側円筒状部材3の第2内腔31の閉塞率が50%未満になるように製造される。
【0045】
内側円筒状部材3の第2内腔31の閉塞率は、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とを接合する前における内側円筒状部材3の第2内腔31の径に対して、第2内腔31が塞がった割合であり、第2内腔31が全く塞がっていない状態を0%とし、第2内腔31が完全に塞がった状態を100%とする。内側円筒状部材3の第2内腔31の閉塞率が50%未満であれば、液体や気体を輸送する輸送性能を確保できる。
【0046】
以上説明した本実施形態のレーザ接合方法によれば、以下のような効果を奏する。
【0047】
本実施形態のレーザ接合方法を、第1内腔21を有する外側円筒状部材2と、第2内腔31を有する内側円筒状部材3とを、レーザ光Lを照射することで溶着して接合し、内側円筒状部材3の少なくとも一部を第1内腔21に挿入する挿入工程と、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を一体的に回転させる回転工程と、回転工程において回転されている外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3における外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とが重なり合った部分に、外側円筒状部材2の径方向の外側からレーザ光Lを照射するレーザ照射工程と、を備え、レーザ照射工程において、レーザ光Lを、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射する。
【0048】
これにより、レーザ光Lの入射角θがブリュースター角以上となる照射角であることにより、反射率が急激に上昇するため、第2内腔31の中の空気に透過される光が減少される。これにより、内側円筒状部材3の第2内腔31が溶融して変形することを抑制できる。よって、内側円筒状部材3の第2内腔31の変形を抑制した状態で、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とを、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3との境界aにおいて溶着して接合できる。
【0049】
また、本実施形態のレーザ接合成形体1は、レーザ接合方法のレーザ照射工程において、レーザ光Lを、内側円筒状部材3の内周への入射角が内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で照射することにより、内側円筒状部材3の第2内腔31の閉塞率が50%未満になるように製造される。これにより、内側円筒状部材3の第2内腔31の変形が抑制された良好なレーザ接合成形体1を製造できる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明に係るレーザ接合方法の実施例及び比較例について説明する。
【0052】
実施例及び比較例においては、内側円筒状部材3の一部を外側円筒状部材2の内側の第1内腔21に挿入して配置した状態で、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を時計回りに一体的に回転して、レーザ光Lを、下記試験条件にて、外側円筒状部材2の外周面に照射した。これにより、レーザ接合成形体1を製造した。
【0053】
実施例及び比較例において、外側円筒状部材2は、外径(Do)が5.35mmで、内径(Di)が2.7mmで、材質がポリプロピレン(PP)で、屈折率が1.48のものを用いた。また、内側円筒状部材3は、外径(do)が2.7mmで、内径(di)が1.0mmで、材質がポリプロピレン(PP)で、屈折率が1.48のものを用いた。
また、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の回転速度を3.5mm/sとし、一周半回転させた。レーザ光Lのスキャン幅を1mmとした。
【0054】
また、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の回転方向は、図3に示すように、レーザ光Lの第1円筒状部材2への入射位置Pが、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の中心軸Oをレーザ光が通る場合の基準位置RPからずれた位置に位置する場合に、照射されるレーザ光Lの外側円筒状部材2への入射位置Pから基準位置RP側に向けて近づく側に回転する方向である。本実施例の場合は、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3を時計回りに回転させている。
【0055】
<試験条件>
実施例1において、図4に示すように、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で、レーザ光Lを照射した。
比較例1において、レーザ光Lを、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角未満となる照射角で、レーザ光Lを照射した。
【0056】
<試験結果>
図4に示すように、実施例1では、内側円筒状部材3の第2内腔31には、変形した潰れは発生しなかった(閉塞率50%未満)(判定:OK)。外側円筒状部材2と内側円筒状部材3との境界にはレーザ光Lが通過しており、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3は良好に接合されていた(接合状態:OK)。従って、実施例1においては、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3は、内側円筒状部材3の第2内腔31には変形した潰れが発生せずに、良好に接合されたため、総合判定としては、良好(OK)であった。
【0057】
つまり、実施例1において、外側円筒状部材2(第1円筒状部材)と内側円筒状部材3(第2円筒状部材)とが重なり合った境界をレーザ光Lが通過し、良好に接合されたレーザ接合成形体1を外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3の径方向に沿って切断した場合の断面は、内側円筒状部材3の第2内腔31の変形は少なく、外側円筒状部材2と内側円筒状部材3とが重なり合った部分が溶融して接合されている。
【0058】
比較例1では、内側円筒状部材3の第2内腔31は、変形して潰れて閉塞した(閉塞率100%)(判定:NG)。外側円筒状部材2と内側円筒状部材3との境界にレーザ光Lは通過しており、外側円筒状部材2及び内側円筒状部材3は良好に接合されていた(接合状態:OK)。従って、内側円筒状部材3の第2内腔31がレーザ光Lの透過により変形して潰れて閉塞したため、総合判定としては、不良(NG)であった。
【0059】
以上の試験結果において、内側円筒状部材3の第2内腔31の変形に関しては、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角以上となる照射角で、レーザ光Lを照射した場合には、実施例1のように、内側円筒状部材3の第2内腔31には変形した潰れが発生しないため、内側円筒状部材3の第2内腔31の変形を抑制できることが分かった。一方、内側円筒状部材3の内周への入射角θが内側円筒状部材3と空気とのブリュースター角未満となる照射角で、レーザ光Lを照射した場合には、比較例1のように、内側円筒状部材3の第2内腔31は変形して潰れて閉塞するため、内側円筒状部材3の第2内腔31の変形を抑制できないことが分かった。
【符号の説明】
【0060】
1 レーザ接合成形体
2 外側筒状樹脂成形体(第1円筒状部材)
3 内側筒状樹脂成形体(第2円筒状部材)
21 第1内腔
31 第2内腔
L レーザ光
O 中心軸
図1
図2
図3
図4