(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】分光分析システム、計算装置、および計算プログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20241202BHJP
G01J 3/26 20060101ALI20241202BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
G01J3/45
G01J3/26
G01N21/27 Z
(21)【出願番号】P 2022561979
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041441
(87)【国際公開番号】W WO2022102685
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2020188215
(32)【優先日】2020-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】島田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】中長 偉文
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-506753(JP,A)
【文献】特開平10-206235(JP,A)
【文献】米国特許第06049762(US,A)
【文献】特開平08-264614(JP,A)
【文献】特開2019-020213(JP,A)
【文献】特開平11-166894(JP,A)
【文献】O.M.Lyulin,Line parameters of 15N2 16O from Fourier transform measurements in the 5800-7600cm-1 region and global fitting of line positions from 1000 to 7600cm-1,JOURNAL OF QUANTITATIVE SPECTROSCOPY & RADIATIVE TRANSFER,2010年02月,Vol.111 No.3,pp.345-356,DOI:10.1016/j/jqsrt.2009.10.010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00-3/52
G01N 21/00-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光分析装置と計算装置とを含む、分光分析により試料の吸収スペクトルを算出する分光分析システムであって、
上記分光分析装置は、出射光のスペクトルがそれぞれ異なる複数の光源と、鏡間距離を調整可能な干渉計と、検出器とを備え、
上記吸収スペクトルは、当該吸収スペクトルの波形を表す複数のパラメータを用いた関数で表され、
上記計算装置は、上記複数の光源のそれぞれからの出射光を用いて、上記干渉計の異なる鏡間距離で上記試料を分析したときの上記検出器の各検出値と、上記試料の吸収スペクトルを表す上記関数を用いて上記複数の光源のそれぞれを用いたときの上記検出器の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記複数のパラメータを算出する、分光分析システム。
【請求項2】
分光分析装置と計算装置とを含む、分光分析により試料の吸収スペクトルを算出する分光分析システムであって、
上記分光分析装置は、光源と、鏡間距離を調整可能な干渉計と、波長ごとの検出感度がそれぞれ異なる複数の検出器とを備え、
上記吸収スペクトルは、当該吸収スペクトルの波形を表す複数のパラメータを用いた関数で表され、
上記計算装置は、上記複数の検出器のそれぞれを用いて、上記干渉計の異なる鏡間距離で上記試料を分析したときの各検出値と、上記試料の吸収スペクトルを表す上記関数を用いて上記複数の検出器それぞれの検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記複数のパラメータを算出する、分光分析システム。
【請求項3】
分光分析装置と計算装置とを含む、分光分析により試料の吸収スペクトルを算出する分光分析システムであって、
上記分光分析装置は、光源と、鏡間距離を調整可能な干渉計と、検出器と、前記光源の出射光スペクトルを変化させる少なくとも1つの光学部材とを備え、
上記吸収スペクトルは、当該吸収スペクトルの波形を表す複数のパラメータを用いた関数で表され、
上記計算装置は、上記光源と上記少なくとも1つの光学部材とを用いて生成される複数の異なるスペクトルを有する光をそれぞれ用いて、上記干渉計の異なる鏡間距離で上記試料を分析したときの上記検出器の各検出値と、上記試料の吸収スペクトルを表す上記関数を用いて上記複数の異なるスペクトルを有する光をそれぞれ用いたときの上記検出器の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記複数のパラメータを算出する、分光分析システム。
【請求項4】
上記複数のパラメータは、試料の吸収スペクトルに表れる吸収ピークの高さに比例するパラメータ、および上記吸収ピークの幅に比例するパラメータを含む、請求項1から3の何れか1項に記載の分光分析システム。
【請求項5】
上記計算装置は、上記光源からの出射光のスペクトルを表す関数と、上記干渉計の透過率を表す関数と、上記試料の吸収スペクトルを表す上記関数と、を乗じて上記理論値を算出する、請求項
1から4の何れか1項に記載の分光分析システム。
【請求項6】
上記計算装置は、上記試料の吸収スペクトルのうち既知の部分に基づいて決定された値を、当該吸収スペクトルを表す上記関数の各パラメータの初期値として用いて、当該パラメータを算出する、請求項1から
5の何れか1項に記載の分光分析システム。
【請求項7】
試料の吸収スペクトルを算出する計算装置であって、
上記吸収スペクトルは、当該吸収スペクトルの波形を表す複数のパラメータを用いた関数で表され、
出射光のスペクトルがそれぞれ異なる複数の光源と
、鏡間距離を調整可能な干渉計と
、検出器とを備えた分光分析装置により
、上記複数の光源のそれぞれからの出射光を用いて、上記干渉計の異なる鏡間距離で上記試料を分析したときの上記検出器の
各検出値を取得する測定結果取得部と、
上記測定結果取得部が取得した各検出値と、
上記複数のパラメータにより上記試料の吸収スペクトルを表した
上記関数を用いて
上記複数の光源のそれぞれを用いたときの上記検出器の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記
複数のパラメータを算出するスペクトル算出部と、を備える計算装置。
【請求項8】
試料の吸収スペクトルを算出する計算装置であって、
上記吸収スペクトルは、当該吸収スペクトルの波形を表す複数のパラメータを用いた関数で表され、
光源と
、鏡間距離を調整可能な干渉計と
、波長ごとの検出感度がそれぞれ異なる複数の検出器とを備えた分光分析装置により
、上記複数の検出器のそれぞれを用いて、上記干渉計の異なる鏡間距離で上記試料を分析したときの上記検出器の
各検出値を取得する測定結果取得部と、
上記測定結果取得部が取得した各検出値と、
上記複数のパラメータにより上記試料の吸収スペクトルを表した
上記関数を用いて
上記複数の検出器それぞれの検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記
複数のパラメータを算出するスペクトル算出部と、を備える計算装置。
【請求項9】
試料の吸収スペクトルを算出する計算装置であって、
上記吸収スペクトルは、当該吸収スペクトルの波形を表す複数のパラメータを用いた関数で表され、
光源と
、鏡間距離を調整可能な干渉計と
、検出器と
、前記光源の出射光スペクトルを変化させる少なくとも1つの光学部材とを備えた分光分析装置により
、上記光源と上記少なくとも1つの光学部材とを用いて生成される複数の異なるスペクトルを有する光をそれぞれ用いて、上記干渉計の異なる鏡間距離で上記試料を分析したときの上記検出器の
各検出値を取得する測定結果取得部と、
上記測定結果取得部が取得した各検出値と、
上記複数のパラメータにより上記試料の吸収スペクトルを表した
上記関数を用いて
上記複数の異なるスペクトルを有する光をそれぞれ用いたときの上記検出器の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記
複数のパラメータを算出するスペクトル算出部と、を備える計算装置。
【請求項10】
請求項
7から9の何れか1項に記載の計算装置としてコンピュータを機能させるための計算プログラムであって、上記測定結果取得部および上記スペクトル算出部としてコンピュータを機能させるための計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源と干渉計と検出器とを備えた分光分析装置を含む分光分析システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外・可視光、近赤外光、中~遠赤外光等の各種波長の電磁波と物質の相互作用を吸収スペクトルとして測定して、物質の同定や定量に用いる分光分析システムは、化学、材料、医療等の分野で広く用いられている。
【0003】
従来の分光分析システムには、マイケルソン干渉計を用いて試料のインターフェログラムを作成し、これをフーリエ変換することにより試料の吸収スペクトルを求めるものが知られている。また、従来の分光分析システムには、ファブリ・ペロー干渉計を用いるものも知られている。
【0004】
ここで、マイケルソン干渉計には小型化が難しいという問題があり、ファブリ・ペロー干渉計には測定可能な周波数帯が狭いという問題がある。ここで、ファブリ・ペロー干渉計を用いた場合に測定可能な周波数帯が狭くなる理由について
図7に基づいて説明する。
図7は、ファブリ・ペロー干渉計の透過率と波長の関係を示す図である。
【0005】
図7のグラフGに示されるように、ファブリ・ペロー干渉計においては、透過率が高くなる波長が周期的に表れる。また、ファブリ・ペロー干渉計への入射光I
inとファブリ・ペロー干渉計からの出射光I
outとの関係は、
図7に示した数式(1)で表される。なお、数式(1)において、dは鏡間距離、λは波長、Rは反射率である。この数式(1)からも、透過率すなわちI
out/I
inの値が波長および波数の変化に伴って周期的に変動することがわかる。
【0006】
このような特性から、ファブリ・ペロー干渉計を用いる場合、透過率のピークが1つのみとなるように波長(波数の逆数)の範囲を絞り込む必要があった。例えば、
図7の例では、λ=1850~1950nmの範囲の光のみがファブリ・ペロー干渉計に入射するようにすれば、透過率のピークを1つのみとすることができる。そしてdを少し変化させて透過率が高い波長を動かすことにより、この範囲におけるスペクトルを測定することができる。
【0007】
ファブリ・ペロー干渉計の測定可能な周波数帯を広げることは従来から試みられている。例えば、下記の特許文献1には、ファブリ・ペロー干渉計とフーリエ分光器とを併用することにより、ファブリ・ペロー干渉計の高い分解能を活かしつつ、測定可能な周波数帯を広げることを可能にした分光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国公開特許公報「特開平6-34439号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような従来技術ではフーリエ分光器を併用するため、小型化に限界があるという問題がある。本発明の一態様は、装置の小型化と測定可能な波長範囲の拡張の両立が可能な分光分析システム等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分光分析システムは、光源と干渉計と検出器とを備えた分光分析装置と、上記分光分析装置により複数の異なる分析条件で同一の試料を分析したときの上記検出器の各検出値と、複数のパラメータにより上記試料の吸収スペクトルを表した関数を用いて各分析条件下における上記検出器の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記パラメータを算出する計算装置と、を含む。
【0011】
また、本発明の一態様に係る計算装置は、上記の課題を解決するために、光源と干渉計と検出器とを備えた分光分析装置により複数の異なる分析条件で同一の試料を分析したときの上記検出器の検出値を取得する測定結果取得部と、上記測定結果取得部が取得した各検出値と、上記複数のパラメータにより上記試料の吸収スペクトルを表した関数を用いて各分析条件下における上記検出器の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記パラメータを算出するスペクトル算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、装置の小型化と測定可能な波長範囲の拡張の両立が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係る分光分析システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】上記分光分析システムにより試料の吸収スペクトルを算出する際の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態2に係る分光分析システムの構成例を示すブロック図である。
【
図4】分光分析装置による分析結果を示す図である。
【
図5】計算装置が算出した吸収スペクトルと、フーリエ変換により導出した吸収スペクトルとを示す図である。
【
図6】金属の切削に用いられる切削油のFT-IR(Fourier Transform - Infrared Spectroscopy)で得られた吸収スペクトルを示す図である。
【
図7】ファブリ・ペロー干渉計の透過率と波長の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
(システム構成)
本発明の一実施形態に係る分光分析システム100の構成を
図1に基づいて説明する。
図1は、分光分析システム100の構成例を示すブロック図である。図示のように、分光分析システム100には、分光分析装置1と計算装置2が含まれている。なお、分光分析装置1と計算装置2は一つの装置として構成されていてもよい。
【0015】
分光分析システム100は、分光分析により試料の吸収スペクトルを算出するシステムであり、液体試料の分析に好適である。例えば、油を試料として分光分析システム100で分析することにより、その劣化の有無や劣化の程度を判断することも可能である。無論、分光分析システム100の分析対象となる試料は油に限られない。分光分析システム100は、吸収スペクトルを測定可能な任意の試料の分析に利用可能である。また、分光分析システム100は、赤外領域の他、紫外・可視光等の任意の電磁波による分光分析が可能である。
【0016】
分光分析装置1は、分光法により試料のスペクトルを分析するための装置である。分光分析装置1は、光源11a~11c、干渉計12、試料室13、および検出器14を備えている。なお、光源11a~11cをそれぞれ区別する必要がないときには単に光源11と記載する。
【0017】
光源11は、分光分析に用いる光を出射する。光源11が出射する出射光は干渉計12に入射する。光源11が出射する出射光のスペクトルは予め求めておき、そのスペクトルを表す関数(後述するg
i(k))を計算装置2に記憶させておく。
図1には、光源11a~11cが出射する出射光の強度と波長との関係、すなわち出射光のスペクトルを示すグラフを付記している。このグラフに示されるように、光源11a~11cが出射する出射光のスペクトルはそれぞれ異なっている。言い換えれば、分光分析装置1は、出射光のスペクトルがそれぞれ異なる光源を複数備えている。さらに言い換えれば、分光分析装置1は、波長に対する強度特性がそれぞれ異なる光源を複数備えている。分析の際には光源11a~11cの何れか1つが用いられる。つまり、分光分析装置1は、分析に使用する光源11を切り替えることにより、分析条件を切り替える構成となっている。
【0018】
干渉計12は、光源11が出射する出射光を干渉させる。干渉計12は、2枚の鏡を備えている。そして、それら2枚の鏡の一方は可動となっていて、鏡間距離を変動させることができるようになっている。干渉計12としては、例えば、マイケルソン干渉計やファブリ・ペロー干渉計を用いてもよい。分光分析装置1を小型化する場合、干渉計12として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)で構成されるファブリ・ペロー干渉計を用いることが望ましい。また、マイケルソン干渉計やファブリ・ペロー干渉計と同様の原理あるいは類似の原理で動作する各種干渉計を適用することも可能である。
【0019】
試料室13は、スペクトル測定の対象となる試料を収容するものである。より正確には、試料室13は、光学セルまたはキュベットと呼ばれる試料容器を収容する空間である。干渉計12から出射される干渉光は、試料室13内の試料容器を透過して検出器14に入射する。試料室13および試料容器は、試料の吸収スペクトルの算出に対する影響が少ない形状および材質とすることが望ましい。
【0020】
なお、分光分析装置1は、試料で反射した反射光を検出器14で検出する構成としてもよい。また、光源11が出射する出射光を試料に入射させ、その出射光が試料で反射した反射光またはその出射光が試料を透過した透過光を干渉計12で干渉させて検出器14で検出する構成としてもよい。
【0021】
検出器14は、干渉計12から出射される干渉光を検出し、検出した干渉光の強度を示す検出値を出力する。検出器14は、光源11、干渉計12、および試料等に応じたものとすればよい。例えば、試料の赤外吸収スペクトルを求める場合には、赤外光を出射する光源11を用い、検出器14として赤外線検出器を用いればよい。
【0022】
計算装置2は、試料の吸収スペクトルを算出する。計算装置2は、計算装置2の各部を統括して制御する制御部20と、計算装置2が使用する各種データを記憶する記憶部21を備えている。制御部20には、測定結果取得部201とスペクトル算出部202が含まれている。また、記憶部21には測定結果211が記憶されている。
【0023】
また、計算装置2は、計算装置2が他の装置と通信するための通信部22、計算装置2に対する入力操作を受け付ける入力部23、および計算装置2が情報を出力するための出力部24を備えている。なお、上述した構成要素のうち制御部20以外は、計算装置2に外付けされた計算装置2の外部の装置により実現されてもよい。
【0024】
測定結果取得部201は、分光分析装置1の測定結果を取得する。より詳細には、測定結果取得部201は、分光分析装置1により複数の異なる条件で同一の試料を分析したときの検出器14の検出値を取得する。なお、分析の際には、干渉計12の鏡間距離を変動させることにより干渉させる光の光路差を変動させるから、測定結果取得部201は、検出器14の検出値に加えて、その検出値が得られたときの光路差または鏡間距離を示すデータも取得する。そして、測定結果取得部201は、取得した上記各データと、分析条件(例えば使用した光源11のスペクトルデータ)とを対応付けて、これを測定結果211として記憶部21に記憶させる。
【0025】
スペクトル算出部202は、測定結果取得部201が取得した各検出値と、複数のパラメータにより試料の吸収スペクトルを表した関数を用いて各分析条件下における検出器14の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記パラメータを算出する。言い換えれば、スペクトル算出部202は、分光分析装置1により実験的に得られたデータ(検出値)に最もよくあてはまるように、試料の吸収スペクトルを表した関数を決定する。このような手法はカーブフィッティング(curve fitting)と呼ばれる。
【0026】
以上のように、分光分析システム100は、光源11と干渉計12と検出器14とを備えた分光分析装置1と、分光分析装置1により複数の異なる分析条件で同一の試料を分析したときの検出器14の各検出値と、複数のパラメータにより上記試料の吸収スペクトルを表した関数を用いて各分析条件下における検出器14の検出値を計算した各理論値との差が最小となる上記パラメータを算出する計算装置2と、を含む。また、計算装置2は、上記の各処理を行うために、検出器14の検出値を取得する測定結果取得部201と、測定結果取得部201が取得した各検出値を用いて上記パラメータを算出するスペクトル算出部202と、を備えている。
【0027】
上記の構成によれば、フーリエ変換の演算を行うことなく試料の吸収スペクトルを表す関数のパラメータを算出するので、フーリエ変換の演算に必要な光路差ゼロの位置の決定を行う必要がない。よって、例えばMEMSで構成されるファブリ・ペロー干渉計のような小型の干渉計12を採用することができる。これにより分光分析装置1を持ち運ぶことが容易になり、様々な現場において分析をすることが可能となる。
【0028】
ここで、MEMSで構成されるファブリ・ペロー干渉計においては、干渉により光が強め合って透過率が高くなる波長が複数存在する。このため、従来は測定する波長範囲を絞り込む必要があった。しかし、上記の構成によれば、測定する波長範囲を絞り込まなくとも、計算により吸収スペクトルを表す関数のパラメータを算出することができる。したがって、分光分析システム100によれば、装置の小型化と測定可能な波長範囲の拡張とを両立することが可能になる。
【0029】
(具体的な計算内容について)
光源11aからの出射光のスペクトルをg1(k)としたとき、鏡間距離(x)における検出器14の検出値をf1(x)とし、干渉計12の透過率をh(x,k)とし、試料の吸収スペクトルをs(k)とすると、理論上、下記の数式(2)が成り立つ。下記の数式(2)の左辺が検出器14による実測値を示す関数であり、右辺が理論値を示す関数である。また、光源11b、11cからの出射光のスペクトルg2(k)、g3(k)についても、それらの光源を用いた分析における検出値f2(x)、f3(x)について、上記と同様の数式が理論上成り立つ。なお、kは波数であり、k=1/λである。
【0030】
【0031】
このように、スペクトル算出部202は、光源11からの出射光のスペクトルを表す関数gi(k)と、干渉計12の透過率を表す関数h(x,k)と、試料の吸収スペクトルを表す関数s(k)と、を乗じて和をとることにより理論値を算出することができる。これにより、光源11から出射され、干渉計12を透過し、試料で一部が吸収された光が検出器14で検出される値の理論値を算出することができる。
【0032】
スペクトル算出部202は、f1(x)~f3(x)について、上記数式(2)が成り立つように、吸収スペクトルs(k)のパラメータを決定すればよい。ただし、各実測値と各理論値とを全て一致させることは一般に困難であるから、スペクトル算出部202は、以下説明するように、近似計算手法によって吸収スペクトルs(k)のパラメータを決定する。
【0033】
具体的には、スペクトル算出部202は、理論値を表す関数の値と、検出器14により実測した検出値を表す関数fi(x)の値との差を最小にするパラメータを算出すればよい。このための計算手法としては、種々の近似計算手法を適用することができる。例えば、検出値と理論値との差を下記の数式(3)で表してもよい。なお、下記の数式(3)におけるmは任意の自然数であり、m=2のときの当該計算手法は最小二乗法である。
【0034】
【0035】
上記数式(3)において、fi(x)は、i番目(iは自然数)の分析条件で分析したときの検出値を表す関数である。この関数は、光路差と信号強度との関係を示すものであり、記憶部21に記憶されている測定結果211を用いて生成することができる。
【0036】
また、s(k)は、上述のとおり、試料の吸収スペクトルを表す関数(波長または波数と強度との関係を表す関数)である。この関数には複数のパラメータが含まれており、これらのパラメータの値が定まることにより関数s(k)すなわち試料の吸収スペクトルが定まる。
【0037】
例えば、試料の吸収スペクトルに表れるピーク(吸収ピーク)の個数が有限であり、かつ、その試料を構成する物質に特徴的なピークが表れることが推測できる場合には、s(k)を下記の数式(4)で表してもよい。
s(k)=Σ
j
Aj・exp(-(k-kj)2/Bj
2) …(4)
なお、上記数式(4)において、jは吸収ピークの番号、kjは吸収ピークの位置、Ajは吸収ピークの高さに比例するパラメータ、Bjは吸収ピークの幅に比例するパラメータである。これらのパラメータ(Aj、Bj)を求めることにより、関数s(k)を定めることができる。
【0038】
特に、赤外分光分析で得られる吸収スペクトルにおいては、試料を構成する物質の分子振動に由来する特徴的な吸収ピークが現れることが多く、試料ごとの差異は吸収ピークの高さや幅の比の差異として表れることも多い。このため、吸収ピークの個数は有限となり、上記数式(4)の適用がきわめて有効である。
【0039】
また、h(x,k)は、上述のとおり、干渉計12の透過率を表す関数(鏡間距離および波長と、透過光の強度との関係を表す関数)である。なお、xは干渉計12における鏡間距離である。この関数は予め計算装置2に記憶させておけばよい。干渉計12がファブリ・ペロー干渉計である場合、h(x,k)は
図7に示した数式(1)を用いればよい。
【0040】
また、gi(k)は、上述のとおり、光源11からの出射光のスペクトルを表す関数である。上述のように、この関数は予め計算装置2に記憶させておけばよい。光源11として光源11a~11cの3つを用いる場合、光源11a~11cのそれぞれに対応する関数gi(k)を用いる。
【0041】
スペクトル算出部202は、上記数式(3)で示される差が最小となるように関数s(k)のパラメータを算出する。この演算において、スペクトル算出部202は、関数s(k)のパラメータをまず初期値に設定し、その後、それを更新する演算を繰り返し行う。以上のような演算により、試料の吸収スペクトルを表す関数s(k)が定まる。
【0042】
(分析条件について)
上述のように、計算装置2は、分光分析装置1により複数の異なる条件で試料を分析したときの検出器14の各検出値を用いて当該試料の吸収スペクトルを算出する。ここで、分光分析装置1は、上述のように出射光のスペクトルがそれぞれ異なる複数の光源11a~11cを備えている。
【0043】
このため、分光分析装置1では、分析に用いる光源11を切り替えることにより試料の分析条件を異ならせることができる。よって、測定結果取得部201は、試料を異なる光源11からの出射光で分析したときの検出器14の各検出値を取得すればよい。そして、スペクトル算出部202は、取得された各検出値と、上記試料の吸収スペクトルを表す関数を用いて各光源11を用いたときの検出器14の検出値を計算した各理論値との差が最小となるように上記関数のパラメータを算出すればよい。
【0044】
これにより、光源11を切り替えるだけで簡単かつ迅速に複数の分析条件での検出値を取得することができ、それらの検出値を用いて試料の吸収スペクトルを算出することができる。
【0045】
例えば、11a~11cの計3つの光源11を用いる場合、上記数式(2)におけるi=3となる。この場合、例えば光源11a~11cのスペクトルをそれぞれg1(x)、g2(x)、およびg3(x)とし、光源11a~11cのそれぞれを用いた分析における検出値からf1(x)、f2(x)、およびf3(x)を生成すればよい。これにより、上記数式(3)により試料の吸収スペクトルを算出することができる。
【0046】
なお、複数の光源11を用いる場合、強度のピークが現れる波長域が異なる光源11を用いることが好ましい。例えば、
図1の例では、光源11a~11cに付記したグラフに示されるように、光源11a~11cの出射光は、強度のピークが現れる波長域がそれぞれ異なっている。このような光源11a~11cを用いることにより、算出される吸収スペクトルの精度を高めることができる。
【0047】
また、干渉計12としてファブリ・ペロー干渉計を用いる場合、理想的には、ファブリ・ペロー干渉計の透過率のピークが各1つのみとなるような複数の光源11を用いればよい。例えば、
図7に示したグラフGのような特性を有するファブリ・ペロー干渉計を用いた場合、λ=1850~1950nmの光を出射する光源11aと、λ=1950~2050nmの光を出射する光源11bと、λ=2050~2200nmの光を出射する光源11cとを用いればよい。ただし、ここまで波長範囲を制限するためには高性能なバンドパスフィルタ等を用いる必要がある。計算装置2によれば、このようなバンドパスフィルタ等を用いなくとも、実用に足る精度で吸収スペクトルを算出することが可能である。
【0048】
また、光源11の出射光のスペクトルを変化させる光学部材(例えばフィルタ)を用いて分析条件を変えてもよい。この場合、光学特性が異なる2種類の光学部材を用いれば、それらの何れかを用いて測定した検出値と、何れの光学部材も用いずに測定した検出値との計3種類の検出値を得ることができるので、上述の例と同様にして試料の吸収スペクトルを算出することができる。また、例えば赤外光源のように加熱温度により出射光のスペクトルが変化する光源11を用いる場合、光源11に供給する電力を変化させることにより、光源11の出射光のスペクトルを変化させることも可能である。
【0049】
(処理の流れ)
分光分析システム100により試料の吸収スペクトルを算出する際の処理の流れを
図2に基づいて説明する。
図2は、分光分析システム100により試料の吸収スペクトルを算出する際の処理の一例を示すフローチャートである。
【0050】
分光分析システム100により試料の吸収スペクトルを算出する場合、まず、分光分析装置1により、分析条件を変えながら試料の分析を複数回行う(S1)。上述のように、複数回の各分析で使用する光のスペクトル(波長と強度との関係)は、光源11を切り替える等して、それぞれ異なるものとする。
【0051】
そして、計算装置2の測定結果取得部201は、上記の分析により得られた検出値を、通信部22を介して分光分析装置1から取得する(S2)。また、測定結果取得部201は、取得した検出値を測定結果211として記憶部21に記憶させる。なお、分析により得られた検出値は、ユーザが入力部23を介して計算装置2に入力してもよい。
【0052】
次に、計算装置2のスペクトル算出部202が、測定結果211を読み出し、これを用いて検出値を表す関数、すなわち上述の数式(3)における関数fi(x)を生成する(S3)。また、スペクトル算出部202は、理論値を表す関数(上述の数式(2)の右辺の「1」を「i」に変更した関数)も生成する(S4)。この際、スペクトル算出部202は、理論値を表す関数に含まれるパラメータには仮定の値(初期値)を代入しておく。
【0053】
そして、スペクトル算出部202は、検出値と理論値との差が小さくなるように上記パラメータの値を更新する。具体的には、スペクトル算出部202は、S5の更新により上記数式(3)で表される差が十分に小さくなったか否かを判定する(S6)。この判定基準は予め定めておけばよい。S6でYESと判定された場合にはS7の処理に進む。一方、S6でNOと判定された場合にはS4の処理に戻る。この場合、スペクトル算出部202は、S4において理論値を表す関数に含まれるパラメータにS5で更新された値を代入し、その後、S4およびS5の処理に進む。
【0054】
S7では、スペクトル算出部202は、スペクトルの算出結果を出力させる。例えば、スペクトル算出部202は、算出したパラメータを出力させてもよいし、算出したパラメータにより確定された関数を出力させてもよいし、その関数のグラフを出力させてもよい。これにより、試料の吸収スペクトルを分光分析システム100のユーザに認識させることができる。S7の終了により、分光分析システム100における処理は終了となる。
【0055】
なお、上述したS4~S6の繰り返し計算が不要である場合、スペクトル算出部202は、S4において理論値を表す関数を生成する際に、検出値と理論値の差が最小となるパラメータを算出すればよい。この場合、S5およびS6の処理は省略されて、S4で算出されたパラメータがS7で出力される。
【0056】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0057】
(システム構成)
本実施形態に係る分光分析システム100aの構成を
図3に基づいて説明する。
図3は、分光分析システム100aの構成例を示すブロック図である。図示のように、分光分析システム100aには、分光分析装置1aと計算装置2が含まれている。つまり、分光分析システム100aは、分光分析装置1の代わりに分光分析装置1aを含む点で実施形態1の分光分析システム100と相違している。
【0058】
分光分析装置1aは、
図3に示すように、光源11、干渉計12、試料室13、および検出器14a~14cを備えている。なお、検出器14a~14cをそれぞれ区別する必要がないときには単に検出器14と記載する。このように、分光分析装置1aは、光源11を1つ備え、検出器14を複数備えている点で実施形態1の分光分析装置1と相違している。
【0059】
検出器14a~14cは、何れも干渉計12から出射される干渉光を検出するものであるが、波長ごとの検出感度特性(波長と感度の関係)がそれぞれ異なっている。
図3には、検出器14a~14cの波長ごとの検出感度特性を示すグラフを付記している。このように、分光分析装置1aは、波長ごとの検出感度特性がそれぞれ異なる検出器を複数備えている。分析の際には検出器14a~14cの何れか1つが用いられる。つまり、分光分析装置1aは、分析に使用する検出器14を切り替えることにより、分析条件を切り替える構成となっている。
【0060】
そして、本実施形態の計算装置2の測定結果取得部201は、試料を検出器14a~14cのそれぞれを用いて分析したときの各検出値を取得する。そして、本実施形態の計算装置2のスペクトル算出部202は、上記各検出値と、試料の吸収スペクトルを表す関数s(k)を用いて複数の検出器14a~14cの検出値を計算した各理論値との差が最小となるように、関数s(k)のパラメータを算出する。
【0061】
これにより、使用する検出器14を切り替えるだけで簡単かつ迅速に複数の分析条件での検出値を取得することができ、それらの検出値を用いて試料の吸収スペクトルを算出することができる。
【0062】
例えば、14a~14cの計3つの検出器14を用いる場合、実施形態1で説明した数式(3)におけるi=3となる。この場合、例えば光源11のスペクトルをg1(x)とし、検出器14a~14cのそれぞれを用いた分析を行い、それらの分析で得た各検出値からf1(x)、f2(x)、およびf3(x)を生成すればよい。これにより、上記数式(3)により試料の吸収スペクトルを算出することができる。
【0063】
なお、複数の検出器14を用いる場合、検出感度のピークが現れる波長域が異なる検出器14を用いることが好ましい。例えば、
図3の例では、検出器14a~14cに付記したグラフに示されるように、検出器14a~14cは、検出感度のピークが現れる波長域がそれぞれ異なっている。このような検出器14a~14cを用いることにより、算出される吸収スペクトルの精度を高めることができる。
【0064】
〔吸収スペクトルの算出例〕
分光分析システム100を用いて吸収スペクトルを算出した例について、
図4および
図5に基づいて説明する。
図4は、分光分析装置1による分析結果を示す図である。また、
図5は、計算装置2が算出した吸収スペクトルと、フーリエ変換により導出した吸収スペクトルとを示す図である。
【0065】
図4のグラフG1は、光源11a~11cが出射する出射光のスペクトルa~cを示している。この例において、光源11aはカートリッジヒーター、光源11bはグローバー(glow bar)光源、光源11cはハロゲンランプをシリコンで被覆したものである。このシリコンはハロゲンランプが発する可視光領域の光を遮光するためのものである。グラフG1に示されるとおり、光源11a~11cが出射する出射光のスペクトルa~cはそれぞれ異なるものとなっている。なお、使用した干渉計12はマイケルソン干渉計である。
【0066】
また、グラフG2は、分光分析装置1の検出器14が出力した検出値を用いて作成したインターフェログラムである。グラフG2には、光源11a~11cのそれぞれに対応するインターフェログラムを重畳して示している。各インターフェログラムは概ね同様の形状となっている。
【0067】
なお、この分析における可動鏡位置(光路長)の変化は5mm(±0.25mm)とした。干渉計12がマイケルソン干渉計であれば、このような比較的広い範囲で鏡間距離を変化させたデータを取得することができるので、それをフーリエ変換して試料の吸収スペクトルを導出することができる。グラフG2のデータをフーリエ変換することにより得られた吸収スペクトルを、
図5にG4として示している。
【0068】
そして、グラフG3は、グラフG2の一部を切り出したものである。グラフG3では、光源11a~11cのそれぞれに対応するインターフェログラムを「+」、「×」、「○」の系列で示している。なお、グラフG3の横軸(光路長差)の範囲は、ファブリ・ペロー干渉計の鏡間距離変化(±0.002cm=40μm)程度とした。グラフG3のデータ(光源11a~11cのそれぞれを用いた分析により取得したデータ)を計算装置2に入力して計算させた吸収スペクトルを、
図5にG5として示している。
【0069】
図5に示すように、グラフG5では、グラフG4の主要なピークと対応する位置にピークが表れており、グラフG3で示す狭い範囲で鏡間距離を変化させたデータからでも計算装置2が計算した吸収スペクトルが妥当なものであることがわかる。このように、計算装置2によれば、ファブリ・ペロー干渉計における鏡間距離の変化範囲と同等の狭い鏡間距離の変化範囲で得られたデータから、試料の吸収スペクトルを算出することができる。よって、干渉計12としてファブリ・ペロー干渉計を用いた場合であっても、計算装置2により試料の吸収スペクトルを算出することができる。
【0070】
なお、使用する光源11の特性をシャープにする、使用する光源11の数を増やす、等により分解能を向上させることができる。光源11の特性をシャープにする方法としては、例えば、スペクトルのピーク幅がより狭い光源11を用いる、ピーク幅を狭くする光学部材(フィルタ等)を使用する等が挙げられる。
【0071】
〔初期値の設定について〕
関数s(k)の各パラメータを算出するにあたり、それら各パラメータの適切な初期値を設定することにより、試料の吸収スペクトルの算出精度を高めることができる。例えば、一部の波長帯における吸収スペクトルが既知であれば、その情報に基づいて初期値を設定することにより、他の波長帯の吸収スペクトルを高精度に算出することができる。
【0072】
これは、例えば試料の劣化の有無の判定の際に有用である。これについて
図6に基づいて説明する。
図6は、金属の切削に用いられる切削油のFT-IR(Fourier Transform - Infrared Spectroscopy)で得られた吸収スペクトルを示す図である。
【0073】
より詳細には、
図6には、未使用の切削油(新油)の吸収スペクトルと、使用して劣化した切削油(劣化油)の吸収スペクトルとを重畳して示している。これらの吸収スペクトルは、概ね同様の波形であるが、前者は同図に破線の枠囲みで示す1700(cm
-1)付近にピークがなく、後者はピークがある点で相違している。このピークは、切削油のアルキル基が酸化したことに起因して生じたものである。
【0074】
よって、切削油が劣化しているか否かは、1700(cm-1)付近のピークの有無により判定することができる。また、劣化が進む(アルキル基の酸化が進む)ほど、このピークの面積は大きくなるので、ピーク面積から劣化の程度を判定することもできる。
【0075】
このため、試料を切削油とし、その劣化の有無または劣化の程度を判定するための分析を行う場合には、1700(cm
-1)付近を除く他の波数(波長)帯の吸収スペクトルは、
図6に示すような既知のものと同じであると仮定して初期値を設定すればよい。無論、このような初期値の設定方法は、切削油に限られず、一部の波長(波数)帯における吸収スペクトルが既知である任意の試料について適用が可能である。
【0076】
このように、スペクトル算出部202は、試料の吸収スペクトルのうち既知の部分に基づいて決定された値を、関数s(k)の各パラメータの初期値として用いて、当該パラメータを算出してもよい。これにより、算出される吸収スペクトルの精度を高めることができる。
【0077】
例えば、試料の劣化により新たな吸収ピークが発生したり、劣化前から検出される吸収ピークの一部が増大したりすることが分かっているときには、近似的にs(k)を下記の数式(5)で表すことができる。
【0078】
s(k)=s0(k)+A・exp(-(k-k1)2/B2)…(5)
なお、上記数式(5)において、s0(k)は劣化していない試料の吸収スペクトルであり、例えば、通常の分光測定により事前に測定した結果に基づいて求めておけばよい。つまり、s0(k)は、試料の吸収スペクトルs(k)のうち、既知の部分(劣化していない試料の吸収スペクトルであって、劣化後も変化しない吸収スペクトルを示すパラメータ)を含む。
【0079】
また、上記数式(5)において、k1は劣化によって生成する物質の吸収ピークの位置、Aは吸収ピークの高さに比例するパラメータ、Bは吸収ピークの幅に比例するパラメータである。これらのパラメータ(A、B)を求めることにより、関数s(k)を定めることができる。
【0080】
上記数式(5)を用いた場合、s0(k)に含まれるパラメータ(劣化していない試料の吸収スペクトルであって、劣化後も変化しない吸収スペクトルを示すパラメータ)が、s(k)のパラメータの初期値となる。これにより、試料の劣化に基づいて変化した吸収ピークの高さや幅を高精度に算出することができる。また、これにより、試料の劣化の度合いを定量的に明らかにすることもできる。
【0081】
〔ソフトウェアによる実現例〕
計算装置2の制御ブロック(特に制御部20に含まれる各部)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0082】
後者の場合、計算装置2は、各機能を実現するソフトウェアである計算プログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記計算プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記計算プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0083】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1、1a 分光分析装置
11a~11c 光源
12 干渉計
14、14a~14c 検出器
2 計算装置
201 測定結果取得部
202 スペクトル算出部
100、100a 分光分析システム