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特許7595921運動機能判定装置、運動機能判定方法、及び運動機能判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】運動機能判定装置、運動機能判定方法、及び運動機能判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241202BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20241202BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/107 300
A61B5/0245 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020208941
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096052
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-12-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術の日米共同研究開発/健康長寿を楽しむスマートソサエティ・主体性のあるスキルアップを促進するAIスマートコーチング技術の開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】平田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】東 有明
(72)【発明者】
【氏名】中島 典子
(72)【発明者】
【氏名】川西 弘通
【審査官】村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047847(WO,A1)
【文献】特開2018-033949(JP,A)
【文献】特開2009-101108(JP,A)
【文献】特開2016-144598(JP,A)
【文献】Wataru Sakoda et al.,"Ski exergame for squat training to change load based on predicted Locomotive risk level",[online],IEEE,2020年03月09日,pp.289-294,[2024年8月5日検索],インターネット<URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/9026280>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の動作データの取得に先立ち、前記被験者の運動機能の推定の基準とする動作を実施してもらう対象者の複数の基準動作が撮影され、前記複数の基準動作のそれぞれに対応し、前記被験者の複数の所定の動作のそれぞれに対応する複数の数値である複数の基準動作値を関連付けて、予め保持する基準動作値保持部と、
前記被験者の所定の身体情報の取得に先立ち、前記対象者の複数の身体情報が取得され、前記複数の身体情報のそれぞれに対応し、前記被験者の複数の所定の身体情報のそれぞれに対応する複数の数値である複数の基準身体情報値を関連付けて、予め保持する基準身体情報値保持部と、を備え、
前記被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、前記動作映像から前記被験者の動作を抽出して前記被験者の動作データを取得する動作データ取得部と、
前記動作データに対応する前記基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する動作値付与部と、
前記被験者の所定の身体情報を取得する身体情報取得部と、
前記身体情報に対応する前記基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する身体情報値付与部と、
前記被験者に付与された前記被験者基準動作値に前記被験者基準身体情報値を組み合わせて前記被験者の運動機能を推定し推定結果を出力する推定部と、
を備える
ことを特徴とする運動機能判定装置。
【請求項2】
前記動作映像が、前記被験者の着座状態における撮影である請求項1に記載の運動機能判定装置。
【請求項3】
前記運動機能が前記被験者の歩行機能である請求項1または2に記載の運動機能判定装置。
【請求項4】
前記身体情報が、筋電位、心拍数、姿勢を保つ時間から選択される請求項1ないしのいずれか1項に記載の運動機能判定装置。
【請求項5】
前記被験者に付与された前記被験者基準動作値と前記被験者基準身体情報値を組み合わせるに際して機械学習が用いられて前記被験者の前記運動機能が推定される請求項1ないしのいずれか1項に記載の運動機能判定装置。
【請求項6】
コンピュータが、
被験者の動作データの取得に先立ち、前記被験者の運動機能の推定の基準とする動作を実施してもらう対象者の複数の基準動作が撮影され、前記複数の基準動作のそれぞれに対応し、前記被験者の複数の所定の動作のそれぞれに対応する複数の数値である複数の基準動作値を関連付けて、予め保持する基準動作値保持ステップと、
前記被験者の所定の身体情報の取得に先立ち、前記対象者の複数の身体情報が取得され、前記複数の身体情報のそれぞれに対応し、前記被験者の複数の所定の身体情報のそれぞれに対応する複数の数値である複数の基準身体情報値を関連付けて、予め保持する基準身体情報値保持ステップと、を実行し、
前記被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、前記動作映像から前記被験者の動作を抽出して前記被験者の動作データを取得する動作データ取得ステップと、
前記動作データに対応する前記基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する動作値付与ステップと、
前記被験者の所定の身体情報を取得する身体情報取得ステップと、
前記身体情報に対応する前記基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する身体情報値付与ステップと、
前記被験者に付与された前記被験者基準動作値に前記被験者基準身体情報値を組み合わせて前記被験者の運動機能を推定し推定結果を出力する推定ステップと、を実行する
ことを特徴とする運動機能判定方法。
【請求項7】
コンピュータが、
被験者の動作データの取得に先立ち、前記被験者の運動機能の推定の基準とする動作を実施してもらう対象者の複数の基準動作が撮影され、前記複数の基準動作のそれぞれに対応し、前記被験者の複数の所定の動作のそれぞれに対応する複数の数値である複数の基準動作値を関連付けて、予め保持する基準動作値保持部と、
前記被験者の所定の身体情報の取得に先立ち、前記対象者の複数の身体情報が取得され、前記複数の身体情報のそれぞれに対応し、前記被験者の複数の所定の身体情報のそれぞれに対応する複数の数値である複数の基準身体情報値を関連付けて、予め保持する基準身体情報値保持部と、を実現し、
前記被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、前記動作映像から前記被験者の動作を抽出して前記被験者の動作データを取得する動作データ取得機能と、
前記動作データに対応する前記基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する動作値付与機能と、
前記被験者の所定の身体情報を取得する身体情報取得機能と、
前記身体情報に対応する前記基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する身体情報値付与機能と、
前記被験者に付与された前記被験者基準動作値に前記被験者基準身体情報値を組み合わせて前記被験者の運動機能を推定し推定結果を出力する推定機能と、を実現する
ことを特徴とする運動機能判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動機能判定装置、運動機能判定方法、及び運動機能判定プログラムに関し、特に被験者の特定の動作から運動機能を推定する機能を備えた運動機能判定装置とその方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化に伴う運動能力の低下は不可避ではあるものの、各種医療機関によるリハビリテーションの実施により運動能力の低下の回避は可能である。この場合、訓練を受ける被験者(患者等)の努力が必要であることは前提として、被験者の症例の的確な把握と、症例に見合った訓練内容の実施も求められる。的確な訓練、リハビリテーションの実施により、身体の運動機能の低下は抑制され、ひいては高齢者の生活の質(QOL)が維持されうる。
【0003】
現状、被験者の症例の把握は医療従事者の目視による判定が主であり、目視からFIM(Functional Independence Measure)に規定されている日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)の評価の個々の評価点数が定められている。このような点数化から、医療機関にあっては診療報酬が規定され、個人にあっては要介護認定が規定されている。
【0004】
ここで、被験者の立場からすると、リハビリテーション等の訓練が日常生活の改善に寄与していることをイメージしにくい。医療従事者の立場からすると、日常生活動作(ADL)の評価は容易ではなく、リハビリテーション実施後の効果の評価が不明確である。また、行政の立場からすると、データに基づく診療報酬、介護認定の仕組みの構築に支障を来す。
【0005】
そこで、被験者の動作、運動能力と、日常生活動作(ADL)の評価とを客観的につなぐ技術が求められていた。例えば、被験者を撮影した画像から身体の所定の複数部位の動きを検出する動き検出部と、各部位の動きの検出結果に基づき被験者の運動機能を判定する判定部を備え、被験者の所定の部位毎の動きについて加速度を算出し、加速度から特徴パラメータを求めニューラルネットワークを用いて運動機能を判定する運動機能診断装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1等に代表される技術にあっては、限られた動作に基づいた運動機能を判定である。そのため、それのみから日常生活動作(ADL)の適否までを推定することは難しい。それゆえ、既存の運動機能診断装置は依然として臨床の現場において求められる水準に及ばない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-144598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、医療、介護、リハビリテーションの現場において、医師、看護師、理学療法士、介護福祉士等の医療従事者が、被験者の限られた動作から日常生活動作等を的確に推定しうる運動機能判定装置とその方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、実施形態の運動機能判定装置は、被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、動作映像から被験者の動作を抽出して被験者の動作データを取得する動作データ取得部と、動作データに対応する基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する動作値付与部と、被験者の所定の身体情報を取得する身体情報取得部と、身体情報に対応する基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する身体情報値付与部と、被験者に付与された被験者基準動作値に被験者基準身体情報値を組み合わせて被験者の運動機能を推定し推定結果を出力する推定部とを備えることを特徴とする
【0010】
さらに、基準動作値は、被験者の複数の所定の動作のそれぞれに対応する複数の数値であり、基準身体情報値は、被験者の複数の所定の身体情報のそれぞれに対応する複数の数値であることとしてもよい。
【0011】
さらに、被験者の動作データの取得に先立ち、対象者の複数の基準動作と複数の基準動作のそれぞれに対応する複数の基準動作値を関連付けて、予め保持する基準動作値保持部と、被験者の所定の身体情報の取得に先立ち、対象者の複数の身体情報と複数の身体情報のそれぞれに対応する複数の基準身体情報値を関連付けて、予め保持する基準身体情報値保持部とを備えてもよい。
【0012】
さらに、動作映像が、被験者の着座状態における撮影であることとしてもよい。
【0013】
さらに、運動機能が被験者の歩行機能であることとしてもよい。
【0014】
さらに、身体情報が、筋電位、心拍数、姿勢を保つ時間から選択されることとしてもよい。
【0015】
さらに、被験者に付与された被験者基準動作値と被験者基準身体情報値を組み合わせに際して機械学習が用いられて被験者の運動機能が推定されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の運動機能判定装置によると、被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、動作映像から被験者の動作を抽出して被験者の動作データを取得する動作データ取得部と、動作データに対応する基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する動作値付与部と、被験者の所定の身体情報を取得する身体情報取得部と、身体情報に対応する基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する身体情報値付与部と、被験者に付与された被験者基準動作値に被験者基準身体情報値を組み合わせて被験者の運動機能を推定し推定結果を出力する推定部とを備えるため、医療、介護、リハビリテーションの現場において、医師、看護師、理学療法士、介護福祉士等の医療従事者が、被験者の限られた動作から日常生活動作等を的確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の運動機能判定装置の構成を示す概要図である。
図2】運動機能判定装置の機能部の構成を示すブロック図である。
図3】基準動作及び動作データの取得に関する模式図である。
図4】被験者基準身体情報値の生成を示す模式図である。
図5】被験者の運動機能の推定の流れを示す第1模式図である。
図6】被験者の運動機能の推定の流れを示す第2模式図である。
図7】機械学習を用いた被験者の運動機能の推定の流れを示す模式図である。
図8】(A)間接トルクの例を示す模式図であり、(B)筋骨格モデルの例を示す模式図である。
図9】実施形態の運動機能判定方法を説明する第1フローチャートである。
図10】実施形態の運動機能判定方法を説明する第2フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態の運動機能判定装置は、現実の医療、介護、リハビリテーションの臨床の現場において、被験者(患者)の限られた動作の分析から、当該被験者の運動機能の水準を推定するための装置である。現状の医師等の医療従事者の目視による経験則の判断から、コンピュータが介在されることにより、被験者(患者)の運動機能の推定において客観的な判断が実現される。
【0019】
図1は実施形態の運動機能判定装置1の構成を示す模式図である。運動機能判定装置1は、後述の被験者及び対象者を撮影する撮影部3と、撮影した映像を解析して運動機能の推定の演算を実行する処理部2と、処理部2に接続され各種の表示を行う表示部4から構成される。図中の符号Hは被験者であり、椅子に座り(着座状態)右腕を上げている状態である。被験者Hには、心拍計21、筋電計22が装着されている。心拍計21、筋電計22には、例えば、IEEE802.11ac、bluetooth(登録商標)等の無線規格に対応した電波を発信する電波発信機器(図示せず)が実装され処理部2へ送信可能としている。
【0020】
撮影部3は動画撮影可能なカメラであり、スマートフォン、タブレット等の端末を用いても良い。表示部4は公知のディスプレイである。処理部2は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、クラウドコンピューティングシステム、さらには、スマートフォン、タブレット端末等、種々の電子計算機(計算リソース、コンピュータ)である。なお、処理部2がスマートフォン、タブレット端末等である場合には、処理部2が撮影部3及び表示部4を包含する構成としても良い。
【0021】
実施形態において、被験者とは、介護、リハビリテーション等を受ける者であり、臨床現場において医師(医療従事者)の判断(診断)の対象となる者である。被験者は運動機能判定装置1によりその者の運動機能が推定される者である。
【0022】
対象者とは、運動機能判定装置1が被験者の運動機能の推定の基準とする動作(基準動作)を実施してもらう者であり、健常者、疾病者であってもよい。また、対象者自体を被験者としてもよい。
【0023】
処理部2の構成は、撮影部3からの信号受信、演算実行、記憶等の等の各種の動作制御に必要なマイクロコンピュータ等のハードウェアからなり、CPU10、ROM11、RAM12、I/O13(インプット/アウトプットインターフェイス)、記憶部14等を実装している。
【0024】
図1の処理部2(コンピュータ)の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、処理部2は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現される。このプログラムを格納する記録媒体は、「一時的でない有形の媒体」、例えば、CD、DVD、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、このプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワーク、放送波等)を介して運動機能判定装置1の処理部2に供給されてもよい。
【0025】
処理部2の記憶部14は、HDDまたはSSD等の公知の記憶装置である。記憶部14は外部のサーバ(図示せず)としても良い。記憶部14は、各種のデータ、情報、運動機能判定プログラム、同プログラムの実行に必要な各種のデータ等を記憶する。また、各種の算出、演算等の演算実行する各機能部はCPU10等の演算素子である。加えて、キーボード、マウス等の入力装置(図示せず)、表示部4(ディスプレイ等の表示装置)、データ類を出力する出力装置等も適式に処理部2のI/O13に接続されてもよい。
【0026】
処理部2のCPU10における各機能部は、図2の概略ブロック図のとおり示される。各機能部は、基準動作値保持部110、基準身体情報値保持部120、動作データ取得部210、動作値付与部220、身体情報取得部230、身体情報値付与部240、推定部250を備える。処理部2の動作、実行は、ソフトウェア的に、メインメモリにロードされた運動機能判定プログラム等により実現される。
【0027】
基準動作値保持部110は、対象者の複数の基準動作と、これらの複数の基準動作のそれぞれに対応する複数の基準動作値を関連付けて保持する。基準動作として、例えば、膝、肘の曲げ伸ばしの動作、手を握り開く動作、上半身を前後左右に倒す動作、腕を振りかざす動作、首を回す動作、さらには歩行(杖なし、杖あり)の各種の動作である。基準動作値の数値設定は、適宜である。全く基準動作ができないときを「0」として程度に応じて5段階(最高を「5」)、10段階(最高を「10」)の数値とすることができる。
【0028】
基準動作値保持部110の機能について、図3を用い説明する。運動機能判定装置1では、はじめに運動機能の推定のために必要となる複数の基準動作が撮影部3を通じて撮影される。図示の例では、基準動作は対象者によって実行されている。図3では、対象者は椅子に座った状態で撮影される。図示しないが、立位の撮影等も可能である。対象者は、図示の上から順に身体の左右について、複数の基準動作30として、上肢(肘の曲げ伸ばしの角度)、手指、股関節(開く角度)、膝関節(膝の曲げ伸ばし)、足関節を動かしてもらい撮影部3を通じて撮影される。
【0029】
撮影部3を通じて撮影された複数の基準動作は、処理部2において骨格の動作に置換される。図示の例では、複数の基準動作は撮影映像の隣に表示される関節位置を示す棒状モデル31として表示される。そして、棒状モデル31の横に複数の基準動作値32が表示されている。あくまでも図示は基準動作の一例であり、個々の基準動作の程度に応じてそれぞれ基準動作値(具体的な数値)が規定される。
【0030】
基準動作値は、例えば、5本の指の全てを丸めて握り拳を作ることができたときに5点、途中までならば段階に応じて4点、3点である。また、股関節の場合にあっては、両膝を合わせた状態から60°の開脚であれば5点、45°の開脚であれば4点という具合である。むろん、基準動作には、動作に要した時間(経過時間)が加味されて基準動作値を規定することができる。このように、複数の基準動作に対応して複数の基準動作値がテーブル形式の早見表のように結びつけられる。複数の基準動作と対応する複数の基準動作値は処理部2の記憶部14に格納される。
【0031】
基準身体情報値保持部120は、対象者の複数の身体情報と、これらの複数の身体情報のそれぞれに対応する複数の基準身体情報値を関連付けて保持する。
【0032】
基準身体情報値保持部120の機能について、図4を用い説明する。この実施形態においては、対象者の複数の身体情報とは、身体の各所の筋肉の筋電位、心拍数、さらには、同一の姿勢を維持可能な時間等であり、身体について外部から客観的に把握できて数値化される情報をいう。そこで、対象者から取得される身体情報について、身体情報の範囲が規定され、当該身体情報の範囲に対応する数値(指標)として基準身体情報値が割り振られる。複数の身体情報と対応する複数の基準身体情報値は処理部2の記憶部14に格納される。
【0033】
例えば、図4(A)では、対象者の大腿部、上腕部等の筋肉における筋電位(身体情報)の数値範囲と、その数値範囲に対応した点数(基準身体情報値)が対応して関連付けられている。図4(B)では、心拍数(身体情報)の数値範囲と、その数値範囲に対応した点数(基準身体情報値)が対応して関連付けられている。図4(C)では、着座状態において、膝を真っ直ぐに正面にのばしたままの姿勢の維持時間(身体情報)の数値範囲と、その数値範囲に対応した点数(基準身体情報値)が対応して関連付けられている。複数の身体情報に対応して複数の基準身体情報値が縦軸・横軸のテーブル形式の早見表のように結びつけられる。
【0034】
身体情報としての、筋電位の取得に際しては、対象者及び被験者の双方に筋電位の検出センサが装着される。また、心拍数の取得に際しては、対象者及び被験者の双方に脈拍計が装着される。姿勢の維持時間の取得に際しては、対象者及び被験者の双方とも撮影部3により撮影された映像から解析される。
【0035】
このように、被験者の運動機能の推定に先立ち、対象者に複数の基準動作を実行してもらうことと、併せて対象者から複数の身体情報が取得される。そして、評価、分類の基準となる基準動作値と基準身体情報値が予め策定される。基準動作値と基準身体情報値の策定に際しては、性差、年齢差、または地域差等も考慮される。基準動作値と基準身体情報値の策定は1回としても、または随時更新としても良い。
【0036】
次に、動作データ取得部210は、被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、動作映像から被験者の動作を抽出して被験者の動作データを取得する。
【0037】
被験者の撮影については、前出の図3にて説明の基準動作の撮影と同様である。図3のとおり、被験者に所定の動作をしてもらい、動作の様子が動作映像として撮影部3を通じて撮影される。対象者の撮影時と同様に、被験者は椅子に座った状態で撮影される。図示しないが、立位の撮影等も可能である。具体的な動作は共通するため、説明は省略する。動作映像から被験者の動作を抽出する処理は、図3のとおり、被験者の骨格の動作に置換する棒状モデル31とすることである。動作データが関節の駆動量(動かすことのできる範囲)となるため、被験者の身体の関節の動作を解析するための要素が減じ、被験者の動作の把握が容易となる。
【0038】
動作値付与部220は、動作データに対応する基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する。基準動作値の付与に際しても、図3のとおり、棒状モデル31となった動作データ(個別の動作)に対応する動作ごとの基準動作値32が表示される。そして、付与された基準動作値32が被験者基準動作値として生成される。被験者基準動作値は処理部2の記憶部14に格納される。
【0039】
身体情報取得部230は、被験者の所定の身体情報を取得する。
【0040】
被験者の所定の身体情報の取得は、前述の説明の対象者の場合と同様に、身体の各所の筋肉の筋電位、心拍数、同一の姿勢を維持可能な時間等の被験者の身体について外部から客観的に把握できて数値化される情報が取得される。筋電位、心拍数、同一の姿勢を維持可能な時間については、いずれか1項目もしくは複数項目の選択としても良い。
【0041】
身体情報値付与部240は、身体情報に対応する基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する。
【0042】
被験者の場合であっても、図4に開示のとおり、図4(A)の被験者の筋電位(身体情報)の数値範囲と、その数値範囲に対応した点数(被験者基準身体情報値)が対応して関連付けられている。図4(B)の被験者の心拍数(身体情報)の数値範囲と、その数値範囲に対応した点数(被験者基準身体情報値)が対応して関連付けられている。図4(C)の被験者の姿勢の維持時間(身体情報)の数値範囲と、その数値範囲に対応した点数(被験者基準身体情報値)が対応して関連付けられている。複数の身体情報に対応して複数の被験者基準身体情報値が縦軸・横軸のテーブル形式の早見表のように結びつけられる。なお、図4の被験者基準身体情報値の元となる身体情報の種類は一例であり、図示及び説明以外の身体情報が含められても良い。
【0043】
そして、推定部250は、被験者に付与された被験者基準動作値に被験者基準身体情報値を組み合わせて被験者の運動機能を推定する。そして、推定された運動機能は推定結果として出力される。推定結果の出力は表示部4を通じて行われる。
【0044】
推定部250の処理の概要は図5として示される。被験者に所定の動作をしてもらうことにより取得した被験者基準動作値と、当該被験者に動作以外の情報として身体情報から取得した被験者基準身体情報の2種類の情報が考慮されて、当該被験者の運動機能が推定される。運動機能の推定に際しては、被験者基準動作値と被験者基準身体情報との組み合わせの種類が予め規定されており、縦軸・横軸のテーブル形式の早見表のように結びつけられる。例えば、被験者基準動作値「3」及び被験者基準身体情報「4」との組み合わせと、運動機能「自立歩行は難しい。」の推定結果とが結びつけられている。
【0045】
複数の基準動作値と、実際の被験者の動作に基づいて被験者基準動作値が生成される。また、複数の基準身体情報値と、実際の被験者の身体情報に基づいて被験者基準情報値が生成される。そこで、被験者基準動作値と被験者基準情報値の両方の数値から、目的とする運動機能の推定が行われる。
【0046】
ここで言う運動機能として、最も代表的な機能は歩行機能である。歩行が可能であれば、QOL(生活の質)は充実させられる。むろん、歩行機能の他にも、一人で食事ができること、一人で洋服のボタンを止めることができること、一人で排泄の処理ができること等の各種の運動機能も含められる。より具体的には、運動機能として、FIM(Functional Independence Measure)に規定されている日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)に対応する評価が推定される。このうち、13項目の運動ADLが運動機能の評価となり得る(表1参照)。
【0047】
【表1】
【0048】
図3に開示の基準動作と対応する基準動作値の関連付けにおいて生成される被験者基準動作値により、推定のための基礎的な情報を得ることができる。しかしながら、あくまでも被験者基準動作値は動作の一面のみの情報の取得である。このため、推定の精度は粗くなりがちである。そこで、被験者基準動作値に加え、動作の最中に身体に生じる負荷に加え、筋肉、心臓に生じる負担も考慮した被験者基準身体情報を加えて推定の精度が高められる。
【0049】
例えば、図6の模式図のように、同一の被験者において、前回の計測時、被験者基準動作値が「4」であり被験者基準情報値が「5」であり、今回(例えば4週間後)、被験者基準動作値が「4」であり被験者基準情報値が「6」となった場合、被験者基準動作値の数値においての変化は無い。そうすると、被験者基準動作値の数値のみによる推定では運動機能の好転は無いとの結果しか得ることができない。しかしながら、実際には、被験者基準情報値は上昇しており、心拍、筋肉において一定の好転が見られる。
【0050】
従って、当該被験者については、さらに3週間リハビリテーション等を続けることにより実際の運動機能が向上につながるとの推定をすることができる。結果、個々の被験者に応じたきめ細かい運動機能の把握が可能となる。そうすると、推定結果いかんにより、リハビリテーション等の実施内容の修正、変更の契機となる。また、被験者にリハビリテーション等を続けることの意味づけが可能となる。さらには、被験者のリハビリテーション等の変化を客観的に示すことができる。
【0051】
さらに加えると、日常生活に必要な歩行が困難(専ら車椅子使用)な被験者の場合、自明ながら立位による動作データを取得することはできず、椅子に座った状態による動作データの取得に留まる。しかし、被験者基準動作値には変化は見られないものの、リハビリテーション等の継続により被験者基準身体情報から機能改善を読み取ることができる。そうすると、現時点での歩行は困難であるとしても、将来的に歩行が可能になるという推定結果を被験者に伝えてリハビリテーション等への意欲を高めることができる。このように、運動機能判定装置1は、必ずしも現時点において被験者が可能な動作のみに限られず、身体情報を含めた総合的な判断、推定を実現し、被験者、医療従事者、行政への推定結果のフィードバックをすることができる。
【0052】
推定部250において、さらに被験者に付与された被験者基準動作値と被験者基準身体情報値を組み合わせに際して機械学習が用いられて被験者の運動機能が推定されるようにすることもできる。被験者基準動作値と被験者基準身体情報値の組み合わせに先立つ基準動作値は多岐にわたる。そこで、被験者基準動作値と被験者基準身体情報値による推定に、サポートベクター(Support Vector Machine:SVM)、モデルツリー、決定ツリー、ニューラルネットワーク、多重線形回帰、局部的重み付け回帰、確立サーチ方法等の機械学習の手法が用いられる。
【0053】
図7は、例えば、ニューラルネットワークを用いた場合の模式図である。Input Layerとして或る被験者の「心拍変動、関節位置1、関節位置2、関節角度1、関節角度2、関節トルク1、関節トルク2、筋発揮力1、筋発揮力2、・・・」の数値が入力される。この例において、「心拍変動」は被験者基準身体情報値または基準身体情報値であり、残りは被験者基準動作値または基準動作値である。
【0054】
図7中、「関節位置1、関節位置2、関節角度1、関節角度2」については、公知のボーンモデルによる運動情報から関節の位置、角度が推定される。さらに、「関節トルク1、関節トルク2、筋発揮力1、筋発揮力2」については、公知の筋骨格モデルによる力学情報(関節トルク、筋発揮力)の推定が用いられる。
【0055】
例えば、複数の基準動作値及び基準身体情報値と予め判明している対象者の運動機能(図示ではADLスコア)との間において相互の関連性が機械学習される。そこで、機械学習の結果を通じて基準動作値及び基準身体情報値から運動機能の統計的な推定のモデルが形成される。そして、基準動作値及び基準身体情報値から運動機能の推定のモデルへ、被験者の被験者基準動作値及び被験者基準身体情報値が入力されることにより、当該被験者の運動機能(ADLスコア)は推定される。最終的に運動機能の推定結果としてのADLスコア(表1参照)がOutput Layerに提示される。推定結果の出力は表示部4を通じて行われる。
【0056】
図8の模式図は基準動作値及び被験者基準動作値の取得に際して用いられる公知の解析手法の例示である。図8(A)はエルゴノミクス評価の模式図であり、被験者及び対象者の歩行時の様子を撮影し、関節部の動作に着目して動作データとする処理である。同処理は人体の関節トルクの推定、評価に用いられる。図8(B)は両腕部分を省略した全身筋骨格モデルの模式図である。被験者及び対象者の立位の様子を撮影し、主に下半身の骨格と筋肉の動作に着目して動作データとする処理である。むろん、図示以外にも、身体の関節、筋肉、骨格の解析のための種々の手法が用いられる。
【0057】
これより、図9図10のフローチャートを用い、運動機能判定装置1における運動機能判定方法と運動機能判定歩行訓練支援プログラムをともに説明する。運動機能判定方法は、運動機能判定プログラムに基づいて、処理部2のCPU10により実行される。運動機能判定プログラムは、図1の処理部2(コンピュータ)に対して、基準動作値保持機能、基準身体情報値保持機能と、動作データ取得機能、動作値付与機能、身体情報取得機能、身体情報値付与機能、推定機能の各種機能を実行させる。これらの各機能は図示の順に実行される。なお、各機能は前述の運動機能判定装置1の説明と重複するため、詳細は省略する。
【0058】
図9のフローチャートより、処理部2の処理は、基準動作値保持ステップ(S110)、基準身体情報値保持ステップ(S110)の各種ステップを備える。さらに、図10のフローチャートより、処理部2の処理は、動作データ取得ステップ(S210)、動作値付与ステップ(S220)、身体情報取得ステップ(S230)、身体情報値付与ステップ(S240)、推定ステップ(S250)の各種ステップを備える。むろん、処理部2自体の可動に必要な各種ステップは当然に含まれる。
【0059】
基準動作値保持機能は、対象者の複数の基準動作と複数の基準動作のそれぞれに対応する複数の基準動作値を関連付けて保持する(S110;基準動作値保持ステップ)。基準身体情報値保持機能は、対象者の複数の身体情報と、当該複数の身体情報のそれぞれに対応する複数の基準身体情報値を関連付けて保持する(S120;基準身体情報値保持ステップ)。基準動作値保持機能と基準身体情報値保持機能は処理部2のCPU10により実行される。
【0060】
動作データ取得機能は、被験者の所定の動作を撮影して動作映像を取得し、動作映像から被験者の動作を抽出して被験者の動作データを取得する(S210;動作データ取得ステップ)。動作値付与機能は、動作データに対応する基準動作値を付与して被験者基準動作値を生成する(S220;動作値付与ステップ)。身体情報取得機能は、被験者の所定の身体情報を取得する(S230;身体情報取得ステップ)。身体情報値付与機能は、身体情報に対応する基準身体情報値を付与して被験者基準身体情報値を生成する(S240;身体情報値付与ステップ)。推定機能は、被験者に付与された被験者基準動作値に被験者基準身体情報値を組み合わせて被験者の運動機能を推定し推定結果を出力する(S250;推定ステップ)。これらの各機能は処理部2のCPU10により実行される。
【0061】
上述した本発明のコンピュータプログラムは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体に記録されていてよく、記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。
【0062】
なお、上記コンピュータプログラムは、例えば、ActionScript、JavaScript(登録商標)などのスクリプト言語、Objective-C、Java(登録商標)などのオブジェクト指向プログラミング言語、HTML5などのマークアップ言語などを用いて実装できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の運動機能判定装置によると、簡便な装置を用意するのみで効率良く運動機能判定を実施することができ、判定において客観性を担保することも可能である。従って、臨床における運動機能判定の設備として有望である。
【符号の説明】
【0064】
1 運動機能判定装置
2 処理部
3 撮影部
4 表示部
10 CPU
11 ROM
12 RAM
13 I/O
14 記憶部
21 心拍計
22 筋電計
30 基準動作
31 棒状モデル
32 基準動作値
110 基準動作値保持部
120 基準身体情報値保持部
210 動作データ取得部
220 動作値付与部
230 身体情報取得部
240 身体情報値付与部
250 推定部
H 被験者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10