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特許7595942細胞の増殖促進方法、及び細胞集塊の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】細胞の増殖促進方法、及び細胞集塊の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241202BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241202BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20241202BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12N5/074
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021530742
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027111
(87)【国際公開番号】W WO2021006346
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019128526
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業 再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発」「ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(網膜色素上皮・肝細胞)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】紀ノ岡 正博
(72)【発明者】
【氏名】金 美海
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121840(WO,A1)
【文献】ROEHLECKE, C. et al.,Resistance of L132 lung cell clusters to glyoxal-induced apoptosis,Histochem. Cell Biol.,2000年,Vol.114,283-292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集塊を含む培養液に、終末糖化産物(AGEs)の前駆体を添加すること、及び
前記添加した培養液中で、前記細胞集塊を培養することを含
前記AGEs前駆体は、糖化反応中間体であり、かつ、α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物の少なくとも一方である、
細胞の増殖を促進する方法。
【請求項2】
前記AGEsの前駆体の添加と同時又は添加の後に、前記培養液にRhoキナーゼ阻害剤(ROCK阻害剤)を添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、幹細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記α-ジカルボニル化合物は、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールからなる群から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記α-ヒドロキシアルデヒド化合物は、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、ラクトアルデヒド、及び3-ヒドロキシブチルアルデヒドからなる群から選択される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細胞集塊を含む培養液に、終末糖化産物(AGEs)の前駆体を添加すること、及び
前記添加した培養液中で、細胞集塊を培養することを含み、
前記細胞は、幹細胞であ
前記AGEs前駆体は、糖化反応中間体であり、かつ、α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物の少なくとも一方である、
細胞集塊を調製する方法。
【請求項7】
前記AGEsの前駆体の添加と同時又は添加の後に、前記培養液にRhoキナーゼ阻害剤(ROCK阻害剤)を添加することを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
終末糖化産物(AGEs)の前駆体と、
Rhoキナーゼ阻害剤(ROCK阻害剤)とを含
前記AGEs前駆体は、糖化反応中間体であり、かつ、α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物の少なくとも一方である、
細胞集塊の培養用キット。
【請求項9】
細胞集塊を含む培養液に、糖化反応中間体であるα-ジカルボニル化合物を添加すること、及び
前記添加した培養液中で、前記細胞集塊を培養することを含み、
前記細胞は、幹細胞である、
細胞集塊を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞の増殖を促進する方法、細胞集塊を調製する方法、それにより得られた細胞集塊、細胞集塊の脱繊維化剤、及び細胞集塊の培養用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、様々な細胞に分化する能力(多分化能)と自己複製能とを有する細胞をいう。幹細胞は、組織の維持や修復に用いられる組織幹細胞と、胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞との2種類に分類される。
【0003】
幹細胞は多分化能と自己複製能とを併せ持つことから、近年再生医療への応用が期待されている。このため、幹細胞を効率よく簡便に増殖可能な技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/033558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、一態様において、幹細胞等の細胞集塊における細胞増殖を簡便に促進可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、細胞集塊を含む培養液に終末糖化産物(AGEs)の前駆体を添加すること、及び前記添加した培養液中で前記細胞集塊を培養することを含む、細胞の増殖を促進する方法に関する。
【0007】
本開示は、その他の態様において、細胞集塊を含む培養液にAGEs前駆体を添加すること、及び前記添加した培養液中で細胞集塊を培養することを含む、細胞集塊を調製する方法に関する。
【0008】
本開示は、その他の態様において、細胞を培養して細胞集塊を形成すること、及び前記細胞集塊を含む培養液にAGEs前駆体を添加することを含む、細胞集塊の細胞外マトリックスシェル(ECMシェル)をほぐす方法に関する。
【0009】
本開示は、その他の態様において、上記方法により得られた細胞集塊に関する。
【0010】
本開示は、その他の態様において、AGEs前駆体を含む、細胞集塊の脱繊維化剤に関する。
【0011】
本開示は、その他の態様において、AGEs前駆体と、Rhoキナーゼ(Rho-associated coiled-coil containing protein kinase:ROCK)阻害剤とを含む、細胞集塊の培養用キットに関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、一態様において、幹細胞等の細胞集塊における細胞増殖を簡便に促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、試験例1の結果の一例を示す顕微鏡写真であって、Methylglyoxal(MG)投与前(Day4)及びMG投与後(Day5,6,7)におけるiPS細胞集塊の顕微鏡写真の一例を示す。
図1B図1Bは、試験例1の結果の一例を示す顕微鏡写真であって、MG投与前(Day4)及びMG投与後(Day5,6,7)におけるiPS細胞集塊の顕微鏡写真の一例を示す。
図2図2は、試験例2のスキームを示す。
図3図3は、試験例3のスキームを示す。
図4図4は、試験例2及び3の結果の一例を示す顕微鏡写真を示す。
図5図5は、試験例4の結果の一例を示すグラフであって、MG投与濃度と細胞増殖率との関係を示す。
図6図6は、試験例5及び6の結果の一例を示す顕微鏡写真を示す。
図7図7は、試験例7の結果の一例を示す顕微鏡写真を示す。
図8図8は、試験例8の結果の一例を示すグラフであって、MG投与濃度と細胞増殖率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、間葉系幹細胞、iPS細胞及びES細胞といった幹細胞やその他の細胞を集塊培養した場合に、ある一定の期間細胞を集塊培養すると、集塊を構成する細胞の増殖の停止又は増殖速度の減少(増殖能の低下)が生じるが、当該細胞集塊に、メチルグリオキサールといったAGEs前駆体を接触させると、低下した細胞増殖能を回復できるという知見に基づく。
また、本開示は、メチルグリオキサールといったAGEs前駆体に接触させた細胞集塊にROCK阻害剤を接触させることにより、該細胞集塊を構成する細胞の細胞増殖能をさらに向上させることができるという知見に基づく。
【0015】
細胞集塊に、メチルグリオキサールといったAGEs前駆体を接触させると、細胞集塊を構成する細胞の細胞増殖能を回復できるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。
幹細胞等の細胞をある一定の期間集塊培養すると、増殖が停止又は増殖速度が減少する場合がある。これは、細胞集塊表面のコラーゲン等のECMが繊維化して細胞集塊表面に固い殻(ECMシェル構造)が形成され、その結果、細胞集塊内の細胞の遊走性が低下し、集塊内における細胞、特に集塊中心部の細胞の増殖能が低下するためと考えられている。すなわち、細胞集塊表面にECMシェル構造が形成され、その結果、細胞集塊内で遊走性が低下することにより接触阻害が生じることから、細胞集塊の細胞増殖の低下及び/又は増殖速度の減少が生じると考えられている。これに対し、細胞集塊の培養液にメチルグリオキサールといったAGEs前駆体を添加すると、繊維化したECM(ECMシェル)の脱繊維化が生じて細胞集塊の表面を覆うECMシェルがほぐされ、細胞集塊内の細胞の遊走性が向上する。その結果、細胞集塊の細胞増殖能を回復できると考えられる。
また、AGEs前駆体に接触させた細胞集塊に、ROCK阻害剤を接触させると、繊維化したECMシェルの脱繊維化に加え、細胞集塊を構成する細胞のECMの産生を促進できるため、細胞集塊の細胞増殖能をさらに向上できると考えられる。
但し、本開示はこれらの知見及びメカニズムに限定されなくてもよい。
【0016】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、増殖能が低下及び/又は実質的に停止した細胞集塊の細胞の再増殖を促すことや、該細胞の増殖能を向上させることができる。また、細胞集塊を形成すると増殖能をほとんど示さない細胞に対して増殖能を活性化させることができる。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、効率的に細胞を大量培養することができる。また、本開示によれば、一又は複数の実施形態において、細胞の増殖又は大量生産を行う際に実施されている継代の回数を従来よりも減らすことができる。よって、本開示によれば、一又は複数の実施形態において、継代のための細胞集塊の分割に伴うダメージを抑制しつつ、細胞の大量培養を行うことができる。
本開示の調製方法によれば、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を構成する幹細胞の未分化性を維持しながら、幹細胞を増殖させることができる。
【0017】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、繊維化した細胞外マトリックスで覆われた細胞集塊や細胞の集合体等の脱繊維化を行うことができ、さらには細胞集塊や細胞の集合体を構成する細胞の増殖を促進することができる。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、細胞集塊や細胞の集合体の再構築や、増殖促進、及び機能回復等を行うことができうる。
【0018】
本開示において「細胞」としては、一又は複数の実施形態において、幹細胞、及び分化した細胞が挙げられる。
本開示において「幹細胞」とは、様々な細胞に分化する能力と自己複製能とを有する細胞をいう。「分化した細胞」とは、分化能力を持たない細胞又は幹細胞から分化した細胞をいう。幹細胞としては、胚性幹細胞、iPS細胞、体性幹細胞、前駆細胞が挙げられる。体性幹細胞としては、一又は複数の実施形態において、間葉系幹細胞、造血幹細胞、生殖幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、心筋幹細胞、肝幹細胞、消化管上皮幹細胞、及び骨格筋細胞等が挙げられる。幹細胞は、一又は複数の実施形態において、動物由来の幹細胞が含まれうる。幹細胞は、一又は複数の実施形態として、生体外で培養された幹細胞(培養細胞)を含む。分化した細胞としては、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、星細胞、及びこれらがセルライン化された細胞が挙げられる。本開示における細胞集塊を形成しうる細胞は、一形態において、幹細胞である。
【0019】
本開示によれば、上記のとおり、細胞集塊を形成すると増殖能が低下又は実質的に停止した細胞に対し増殖能を活性化させることができる。また、本開示によれば、細胞集塊形成後の増殖能の低下を抑制できる。よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を形成すると増殖能をほとんど示さない細胞の培養又は増殖に好適に用いることができる。細胞集塊を形成すると増殖能をほとんど示さない細胞としては、一又は複数の実施形態において、間葉系幹細胞等が挙げられる。
【0020】
本開示において「細胞集塊」とは、複数の細胞が集合(凝集)して一つの塊を形成している状態をいう。細胞集塊において隣接する細胞は、一又は複数の実施形態において、細胞同士が直接会合している状態であってもよいし、細胞外マトリックス等を介して細胞同士が会合している状態であってもよい。
【0021】
本開示における「細胞集塊を含む培養液」としては、一又は複数の実施形態において、細胞を培養することにより形成された細胞集塊と培地成分とを少なくとも含む。よって、本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を含む培養液を調製することを含んでもよい。該調製工程は、AGEs添加前又はAEGsを含有しない培養液に、単一に分散された細胞を播種すること、及び播種した細胞を集塊培養して細胞集塊を形成することを含む。
【0022】
本開示における「培養」とは、浮遊培養、懸濁培養、及び平面培養等の静置培養を含む。本開示の培養としては、一又は複数の実施形態において、細胞集塊が形成するように培養することを含む。細胞集塊としては、一又は複数の実施形態において、スフェロイド、及びコロニー等を含む。「浮遊培養」としては、培養液中に細胞が浮遊し、培養容器の底面に実質的に接触しない状態で細胞を培養することが挙げられる。浮遊培養としては、一又は複数の実施形態において、三次元培養が挙げられ、非接触培養容器を用いた非接触培養、及びバイオリアクターでの懸濁培養を含みうる。
【0023】
[細胞の増殖促進方法]
本開示は、一態様において、細胞集塊を含む培養液に、AGEs前駆体を添加すること、及び前記添加した培養液中で、前記細胞集塊を培養することを含む、細胞の増殖を促進する方法(本開示の増殖促進方法)に関する。本開示の増殖促進方法によれば、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を形成した細胞の増殖を促進できる。本開示は、その他の態様において、細胞集塊を含む培養液にAGEs前駆体を添加すること、及び前記添加した培養液中で前記細胞集塊を培養することを含む、細胞集塊の径を大きくする方法又は細胞集塊を構成する細胞の数を増加させる方法に関する。
【0024】
本開示の増殖促進方法は、一又は複数の実施形態において、AGEs前駆体を、細胞集塊を含む培養液に添加することを含む。細胞集塊を含む培養液にAGEs前駆体を添加し、細胞集塊とAGEs前駆体と接触させることによって、一又は複数の実施形態において、ある一定の期間細胞を培養し、細胞集塊が形成されることによって増殖能が低下及び/又は実質的に停止した細胞の再増殖を促すことや、該細胞の増殖能を活性化させることができる。よって、本開示の増殖促進方法は、一又は複数の実施形態において、AGEs前駆体を培養液に添加した後、AGEs前駆体を含む培養液で細胞集塊をさらに培養することを含む。
【0025】
AGEs前駆体としては、一又は複数の実施形態において、α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物等が挙げられる。AGEs前駆体は、一又は複数の実施形態において、グルコースの自動酸化及び/又は分解産物より生成されるカルボニル化合物ともいうことができる。α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物は、一又は複数の実施形態において、反応性アルデヒドであってもよい。α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物は、一又は複数の実施形態において、合成化合物であってもよいし、天然物であってもよい。本開示における「AGEs前駆体」は、糖化反応中間体ということもできる。
【0026】
α-ジカルボニル化合物は、一又は複数の実施形態において、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールが挙げられ、好ましくはメチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、及びマロンジアルデヒド等である。
【0027】
α-ヒドロキシアルデヒド化合物は、一又は複数の実施形態において、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、ラクトアルデヒド、及び3-ヒドロキシブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0028】
AGEs前駆体は、一又は複数の実施形態において、細胞を培養することによって細胞集塊が形成された後、培地に添加すればよい。AGEs前駆体の添加は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊が形成された培地に行う。また、その他の形態において、AGEs前駆体の添加は、細胞増殖中の、つまり増殖が確認される細胞集塊を含む培地に行ってもよいし、増殖がほとんど確認できない又は増殖が実質的に停止した細胞集塊を含む培地に対して行ってもよい。本開示は、一又は複数の実施形態において、増殖がほとんど確認できない又は増殖が実質的に停止した細胞集塊に対して、AGEs前駆体を接触させることを含む。本開示において「増殖がほとんど確認できない又は増殖が実質的に停止すること」としては、一又は複数の実施形態において、細胞集塊の細胞径が実質的に増大しないこと、細胞集塊を構成する幹細胞の数が実質的に増加しないこと等が挙げられる。AGEs前駆体の添加回数は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊の増殖の状態によって適宜決定すればよく、1回であってもよいし、複数回であってもよい。
【0029】
培養液中のAGEs前駆体の濃度は、細胞集塊の増殖を促すことができる濃度であれば特に限定されず、細胞集塊を構成する細胞の数等に応じて適宜決定できる。α-ジカルボニル化合物等のAGEs前駆体の添加濃度は、一又は複数の実施形態において、0.01nM~100mMである。AGEs前駆体の濃度は、一又は複数の実施形態において、0.1nM以上、1nM以上、10nM以上、100nM以上又は1mM以上であり、また100mM以下、50mM以下、40mM、30mM、20mM、15mM、10mM以下又は5mM以下である。
【0030】
本開示の増殖促進方法において、細胞集塊とAGEs前駆体とを接触させる時間(AGEs前駆体による細胞集塊の処理時間)は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を構成する細胞の数等に応じて適宜決定できる。接触時間は、一又は複数の実施形態において、1分以上、5分以上、10分以上又は15分以上であり、又は48時間以下、36時間以下、30時間以下、28時間以下、26時間以下又は24時間以下である。本開示において「細胞集塊とAGEs前駆体とを接触させる時間」とは、AGEs前駆体を培養液に添加してから、培地交換を行うまでの時間をいう。
【0031】
培養液の培地成分としては、培養対象が動物由来の細胞である場合、動物細胞の培養に用いられる培地であればいずれも用いることができる。培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified EagIes's Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham's Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5AI培地(McCoy's 5A Medium)、イーグルMEM培地(Eagles's Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified EagIes's Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMl1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer's培地、StemPro34(インビトロジェン社製)、X-VIV0 10(ケンプレックス社製)、X-VIVO 15(ケンプレックス社製)、HPGM(ケンプレックス社製)、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlinelI(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン社製)、Essential8(登録商標)培地(ギブコ社製)、mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)、リプロFF或いはリプロFF2(リプロセル社製)、StemFit(登録商標)AK02N(Takara製)、PSGrohESC/iPSC培地(システムバイオサイエンス社製)、ヒトES/iPS細胞用培地(Xeno Free)、NutriStem(登録商標)培地(バイオロジカルインダストリーズ社製)、CSTI-7培地(細胞科学研究所社製)、MesenPRORS培地(ギブコ社製)、MF-Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)、Mesenchymal Stem Cell Basal Medium、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(Takara製)、Sf-900II(インビトロジェン社製)、及びOpti-Pro(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0032】
本開示にかかる細胞培養方法に使用される培地の培地成分としては、培養対象が植物由来の細胞である場合、植物組織培養に通常用いられるムラシゲ・スクーグ(MS)培地、リンズマイヤー・スクーグ(LS)培地、ホワイト培地、ガンボーグB5培地、ニッチェ培地、ヘラー培地、モーレル培地等の基本培地、或いは、これら培地成分を至適濃度に修正した修正培地(例えば、アンモニア態窒素濃度を半分にする等)に、オーキシン類及び必要に応じてサイトカイニン類等の植物生長調節物質(植物ホルモン)を適当な濃度で添加した培地が挙げられる。
【0033】
上記培地には、必要に応じて、カゼイン分解酵素、コーンスティーフリカー、ビタミン類等をさらに補充することができる。オーキシン類としては、例えば、3-インドール酢酸(IAA)、3-インドール酪酸(IBA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフエノキシ酢酸(2,4-D)等が挙げられるが、それらに限定されない。オーキシン類は、例えば、約0.1~約10ppmの濃度で培地に添加され得る。サイトカイニン類としては、例えば、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ゼアチン等が挙げられるが、それらに限定されない。サイトカイニン類は、例えば、約0.1~約10ppmの濃度で培地に添加され得る。
【0034】
本開示の増殖促進方法は、一又は複数の実施形態において、さらに、ROCK阻害剤を、培養液に添加することを含む。ROCK阻害剤は、一又は複数の実施形態において、AGEs前駆体による処理を行った後の培地交換時、培養液に添加することが好ましい。本開示の増殖促進方法は、一又は複数の実施形態において、細胞のECM産生を促進し、細胞の増殖能をさらに向上させる点から、AGEs前駆体と接触させた(AGEs前駆体で処理した)細胞集塊を、ROCK阻害剤を含む培養液中で培養することを含むことが好ましく、ROCK阻害剤を含みかつAGEs前駆体を実質的に含まない培養液で培養することを含むことがより好ましい。本開示において「AGEs前駆体を実質的に含まない培養液」とは、培養液中のAGEs前駆体の濃度が、0.001nM以下、0.0001nM以下又は実質的に0nMであることが挙げられる。
ROCK阻害剤としては、一又は複数の実施形態において、公知のROCK阻害剤が使用できる。培養液中のROCK阻害剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、1μM~100μMであり、好ましくは1μM~50μM、又は概ね10μMである。
【0035】
本開示の増殖促進方法は、一又は複数の実施形態において、AGEs前駆体を添加した後の培地交換を、ROCK阻害剤を含む培養液で行うことを含んでいてもよい。培地交換を行う培養液は、一又は複数の実施形態において、ROCK阻害剤と培地とを含み、好ましくは、ROCK阻害剤と培地とを含みかつ、AGEs前駆体を含まない。
【0036】
培養液は、一又は複数の実施形態において、形成された細胞集塊を効率よく浮遊させて、細胞の増殖効率を向上させる点から、特定の化合物を含有していてもよい。細胞集塊が、幹細胞を含む細胞集塊である場合は、後述する特定の化合物を含有することが好ましい。特定化合物は、限定されない一又は複数の実施形態において、WO2014/017513に開示されるものや、下記のものが使用できる。
【0037】
特定化合物としては、特に制限されるものではないが、高分子化合物が挙げられ、好ましくはアニオン性の官能基を有する高分子化合物が挙げられる。アニオン性の官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基及びそれらの塩が挙げられ、カルボキシ基またはその塩が好ましい。高分子化合物は、前記アニオン性の官能基の群より選択される1種又は2種以上を有するものを使用できる。
【0038】
特定化合物の好ましい具体例としては、特に制限されるものではないが、単糖類(例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース等)が10個以上重合した多糖類が挙げられ、より好ましくは、アニオン性の官能基を有する酸性多糖類が挙げられる。ここにいう酸性多糖類とは、その構造中にアニオン性の官能基を有すれば特に制限されないが、例えば、ウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸)を有する多糖類、構造中の一部に硫酸基又はリン酸基を有する多糖類、或いはその両方の構造を持つ多糖類であって、天然から得られる多糖類のみならず、微生物により産生された多糖類、遺伝子工学的に産生された多糖類、或いは酵素を用いて人工的に合成された多糖類も含まれる。より具体的には、ヒアルロン酸、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム(以下、DAGという場合もある)、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ザンタンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、へパラン硫酸、ヘパリン、へパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、ラムナン硫酸及びそれらの塩からなる群より1種又は2種以上から構成されるものが例示される。多糖類は、好ましくは、ヒアルロン酸、DAG、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン又はそれらの塩であり、低濃度の使用で粒子を浮遊させることができ、かつ粒子の回収のしやすさを考慮すると、より好ましくは、DAGである。ここでいう塩とは、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩、カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩又はアルミニウム、亜鉛、鋼、鉄、アンモニウム、有機塩基及びアミノ酸等の塩が挙げられる。
【0039】
これらの高分子化合物(多糖類等)の重量平均分子量は、好ましくは10,000~50,000,000であり、より好ましくは100,000~20,000,000、更に好ましくは1,000,000~10,000,000である。例えば、当該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるフルラン換算で測定できる。さらに、DAGはリン酸化したものを使用することもできる。当該リン酸化は公知の手法で行うことができる。
【0040】
多糖類は、一又は複数の実施形態において、複数種(好ましくは2種)組み合わせて使用することができる。多糖類の組み合わせの種類は特に限定されないが、好ましくは、当該組合せは少なくともDAG又はその塩を含む。即ち、好適な多糖類の組合せには、DAG又はその塩、及びDAG又はその塩以外の多糖類(例、キサンタンガム、アルギン酸、カラギ-ナン、ダイユータンガム、メチルセルロース、ローカストビーンガム又はそれらの塩)が含まれる。具体的な多糖類の組み合わせとしては、DAGとラムザンガム、DAGとダイユータンガム、DAGとキサンタンガム、DAGとカラギーナン、DAGとザンタンガム、DAGとローカストビーンガム、DAGとκ-カラギーナン、DAGとアルギン酸ナトリウム、DAGとメチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
特定化合物の更に好ましい具体例としては、ヒアルロン酸、脱アシル化ジェランガム、ダイユータンガム、カラギーナン及びキサンタンガム及びそれらの塩が挙げられる。好ましい例としては脱アシル化ジェランガムまたはその塩が挙げられる。本開示において脱アシル化ジェランガムとは、1-3結合したグルコース1-4結合したグルクロン酸、1-4結合したグルコース及び1-4結合したラムノースの4分子の糖を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類であり、下記式(I)において、R1、R2が共に水素原子であり、nは2以上の整数で表わされる多糖類である。ただし、R1がグリセリル基を、R2がアセチル基を含んでいてもよいが、アセチル基及びグリセリル基の含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0042】
【化1】
【0043】
脱アシル化ジェランガムとしては、市販のものが使用でき、一又は複数の実施形態において、「KELCOGEL(登録商標)CGーLA」(三品株式会社製)、「ケルコゲル(登録商標)」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)等が挙げられる。また、ネイティブ型ジェランガムとして、一又は複数の実施形態において、「ケルコゲル(登録商標)HT」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
培養液中の特定化合物の濃度(質量/容量%、以下単に%で示す)は、一又は複数の実施形態において、0.0005%~1.0%であり、好ましくは0.001%~0.4%、より好ましくは0.005%~0.1%、さらに好ましくは0.005%~0.05%である。脱アシル化ジェランガムの場合、一又は複数の実施形態において、0.001%~1.0%であり、好ましくは0.003%~0.5%、より好ましくは0.005%~0.1%、さらに好ましくは0.01%~0.05%、更により好ましくは0.02%~0.05%である。キサンタンガムの場合、一又は複数の実施形態において、0.001%~5.0%であり、好ましくは0.01%~1.0%、より好ましくは0.05%~0.6%、さらにより好ましくは0.3%~0.6%である。κ-カラギーナン及びローカストビーンガム混合系の場合、一又は複数の実施形態において、0.001%~5.0%であり、好ましくは0.005%~1.0%、より好ましくは0.01%~0.1%、さらに好ましくは0.03%~0.05%である。ネイティブ型ジェランガムの場合、一又は複数の実施形態において、0.05%~1.0%であり、好ましくは0.05%~0.1%である。
【0045】
上記多糖類を複数種(好ましくは2種)組み合わせて使用する場合、当該多糖類の濃度は、静置状態において培養液中の細胞集塊の浮遊状態を保持できる範囲で適宜設定することができる。例えば、DAG又はその塩と、DAG又はその塩以外の多糖類との組合せを用いる場合、DAG又はその塩の濃度としては0.005~0.02%、好ましくは0.01~0.02%が例示される。DAG又はその塩以外の多糖類の濃度としては、0.005~0.4%、好ましくは0.1~0.4%が例示される。具体的な濃度範囲の組合せとしては、以下が例示される。
DAG又はその塩:0.005~0.02%(好ましくは0.01~0.02%)
DAG以外の多糖類
キサンタンガム:0.1~0.4%
アルギン酸ナトリウム:0.1~0.4%
ロ一カトビーンガム:0.1~0.4%
メチルセルロース:0.1~0.4%(好ましくは0.2~0.4%)
カラギーナン:0.05~0.1%
ダイユータンガム:0.05~0.1%
なお該濃度は、以下の式で算出できる。
濃度(%)=特定化合物の質量(g)/液体の容量(ml)×100
【0046】
特定化合物は、化学合成法によってさらに別の誘導体に変えることもでき、そのようにして得た当該誘導体も、本開示にかかる調製方法において有効に使用できる。具体的には、脱アシル化ジェランガムの場合、前記一般式(I)で表される化合物のR1及び/又はR2に当たる水酸基を、C1-3アルコキシ基、C1-3アルキルスルホニル基、グルコースあるいはフルクトースなどの単糖残基、スクロース、ラクトースなどのオリゴ糖残基、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸残基などに置換した誘導体も本開示に使用できる。また、1-ethyl-3-(3-di-methylaminopropyI)carbodiimide(EDC)等のクロスリンカーを用いて当該化合物を架橋することもできる。
【0047】
[細胞集塊の調製方法]
本開示は、その他の態様として、細胞集塊を含む培養液に、AGEs前駆体を添加すること、及びAGEs前駆体を添加した培養液中で、細胞集塊を培養することを含む、細胞集塊を調製する方法に関する。
【0048】
本開示の調製方法において、細胞、細胞集塊、AGEs前駆体、ROCK阻害剤、これらの添加濃度及び培養の条件等は、本開示の増殖促進方法と同様である。
【0049】
[浮遊培養方法]
本開示は、その他の態様として、幹細胞を浮遊培養する方法であって、幹細胞を浮遊培養して細胞集塊を形成させること、及び前記細胞集塊を、AGEs前駆体を含む培養液で浮遊培養することを含む浮遊培養方法に関する。
【0050】
本開示の浮遊培養方法において、幹細胞、細胞集塊、AGEs前駆体、ROCK阻害剤、これらの添加濃度及び培養の条件は、本開示の増殖促進方法と同様である。
【0051】
[ECMシェルをほぐす方法]
上記の通り、本開示によれば、細胞集塊の表面に形成されたECMシェル(繊維化したECM)を脱繊維化すること(ほぐすこと)ができる。よって、本開示は、その他の態様として、細胞を培養して細胞集塊を形成すること、及び前記細胞集塊を含む培養液に、AGEs前駆体を添加することを含む細胞集塊のECMシェルをほぐす方法に関する。
【0052】
本開示のほぐす方法において、細胞、細胞集塊、AGEs前駆体、ROCK阻害剤、これらの添加濃度及び培養の条件は、本開示の増殖促進方法と同様である。
【0053】
上記の通り、集塊を構成する細胞の増殖の停止又は増殖速度の減少(増殖能の低下)が生じた細胞集塊に、メチルグリオキサール、グリオキサール及び3-デオキシグリコソン等のα-ジカルボニル化合物を接触させると、低下した細胞増殖能を回復できる。よって、本開示は、さらにその他の態様として、細胞集塊を含む培養液にα-ジカルボニル化合物を添加すること、及びα-ジカルボニル化合物を添加した培養液中で細胞集塊を培養することを含む、細胞の増殖を促進する方法及び細胞集塊を調製する方法に関する。本開示は、その他の態様として、幹細胞を浮遊培養して細胞集塊を形成させること、及び該細胞集塊をα-ジカルボニル化合物を含む培養液で浮遊培養することを含む浮遊培養方法に関する。本態様は、AGEs前駆体を用いる態様と同様に行うことができる。
【0054】
本態様におけるα-ジカルボニル化合物は、AGEs前駆体であってもよいし、AGEs前駆体でなくてもよい。α-ジカルボニル化合物としては、一又は複数の実施形態において、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールが挙げられる。
【0055】
[幹細胞の細胞集塊]
本開示は、その他の態様として、本開示の調製方法及び/又は本開示のほぐす方法により得られた幹細胞の細胞集塊に関する。
【0056】
本開示の調製方法によれば、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を構成する幹細胞の未分化性を維持しながら、幹細胞を増殖させることができる。よって、本開示の細胞集塊は、一又は複数の実施形態において、実質的に、未分化性が維持された幹細胞によって構成されている。
【0057】
[細胞集塊の脱繊維化剤]
本開示は、その他の態様として、AGEs前駆体を含む細胞集塊の脱繊維化剤に関する。
【0058】
本開示の脱繊維化剤は、固体であっても、粉体であっても、液体であってもよい。本開示の脱繊維化剤は、本開示の効果を阻害しない範囲内であれば、さらに、その他の成分を含んでいてもよい。
【0059】
本開示は、その他の態様として、α-ジカルボニル化合物を含む細胞集塊の脱繊維化剤に関する。本態様におけるα-ジカルボニル化合物は、AGEs前駆体であってもよいし、AGEs前駆体でなくてもよい。α-ジカルボニル化合物としては、一又は複数の実施形態において、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールが挙げられる。本態様の脱繊維化剤は、固体であっても、粉体であっても、液体であってもよい。本態様の脱繊維化剤は、本開示の効果を阻害しない範囲内であれば、さらに、その他の成分を含んでいてもよい。
【0060】
[細胞集塊の培養用キット]
本開示は、その他の態様として、AGEs前駆体と、ROCK阻害剤とを含む細胞集塊の培養用キットに関する。
【0061】
AGEs前駆体及びROCK阻害剤は、固体であっても、粉体であっても、液体であってもよい。本開示のキットにおいて、AGEs前駆体と、ROCK阻害剤とは、一又は複数の実施形態において、別々の容器に配置されている。
【0062】
本開示は、本開示は、さらにその他の態様として、α-ジカルボニル化合物と、ROCK阻害剤とを含む細胞集塊の培養用キットに関する。本態様におけるα-ジカルボニル化合物は、AGEs前駆体であってもよいし、AGEs前駆体でなくてもよい。α-ジカルボニル化合物としては、一又は複数の実施形態において、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールが挙げられる。本態様において、α-ジカルボニル化合物及びROCK阻害剤は、固体であっても、粉体であっても、液体であってもよい。
【0063】
本開示の細胞集塊の培養用キットは、一又は複数の実施形態において、細胞集塊の培養に用いられる培地成分及び/又は上記特定の化合物をさらに含んでいてもよい。培地成分及び特定の化合物は、上述の通りである。
【0064】
以下に、本開示の方法について、限定されない一実施形態を説明する。
【0065】
[実施形態1]
実施形態1では、幹細胞がiPS細胞であり、AGEs前駆体としてメチルグリオキサールを使用する場合を例にとり説明する。
【0066】
まず、培地にiPS細胞を播種し、浮遊培養する。これによりiPS細胞の細胞集塊を形成させる。
【0067】
播種する細胞濃度は、一又は複数の実施形態において、1×10cells/cm2~1×108cells/cm2であり、好ましくは1×102cells/cm2~1×106cells/cm2であり、より好ましくは1×103cells/cm2~1×105cells/cm2である。培養温度は、一又は複数の実施形態において、30~40℃であり、好ましくは約37℃である。培養時のCO2濃度は、一又は複数の実施形態において、1~10%であり、好ましくは約5%である。
【0068】
浮遊培養を行う培養液としては、上記の培養液が使用できる。
【0069】
細胞を播種する培養液は、一又は複数の実施形態において、播種後の細胞死を抑制する点から、ROCK阻害剤を含むことが好ましい。培養液中のROCK阻害剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、1μM~100μMであり、好ましくは1μM~50μM、又は概ね10μMである。
【0070】
ROCK阻害剤を含む培養液中での培養は、一又は複数の実施形態において、12時間以上、15時間以上、18時間以上、21時間以上又は24時間以上である。なお、ROCK阻害剤は培養液中に常に存在してもよいが上限としては、例えば、72時間以下、48時間以下、36時間以下、33時間以下、30時間以下、27時間以下又は24時間以下である。
【0071】
ROCK阻害剤を含む培養液中での培養後、必要に応じて、培地交換を行ってもよい。培地交換に使用する培養液は、一又は複数の実施形態において、上記の培養液が使用できる。培地交換に使用する培養液は、一又は複数の実施形態において、ROCK阻害剤を含んでいてもよいし含んでいなくてもよい。培養液へのROCK阻害剤の添加の有無は、一又は複数の実施形態において、培養する細胞のECMの分泌能に応じて適宜決定できる。
【0072】
つぎに、細胞集塊が形成された培養液にメチルグリオキサールを添加し、さらに浮遊培養を行う。メチルグリオキサールを細胞集塊に接触させることにより、細胞集塊を構成するiPS細胞の再増殖を促すことや、増殖能を向上させことができる。これにより、より細胞径の大きい細胞集塊や、構成する幹細胞の多い細胞集塊を得ることができる。
【0073】
メチルグリオキサールの添加量は、播種した細胞濃度及び培養条件によって適宜決定することができる。培養液中のメチルグリオキサールの濃度は、一又は複数の実施形態において、0.1nM以上、1nM以上、10nM以上、100nM以上又は1mM以上であり、また100mM以下、50mM以下、10mM以下又は5mM以下である。
【0074】
メチルグリオキサールを含む培養液中での細胞集塊の培養時間(メチルグリオキサールによる細胞集塊の処理時間)は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を構成する細胞の数等に応じて適宜決定できる。接触時間は、一又は複数の実施形態において、1分以上、5分以上、10分以上又は15分以上であり、48時間以下、36時間以下、30時間以下、28時間以下、26時間以下又は24時間以下である。
【0075】
生産コスト及び生産効率の点から、メルグリオキサールは、所定の期間培養後に添加してもよいし、細胞集塊の増殖がほとんど確認できない又は増殖が実質的に停止したことを確認した後に添加してもよい。
【0076】
メチルグリオキサールを添加する培養液は、一又は複数の実施形態において、ROCK阻害剤を含んでいてもよいし含んでいなくてもよい。
【0077】
メチルグリオキサールを添加後、必要に応じて、培地交換を行ってもよい。培地交換に使用する培養液は、一又は複数の実施形態において、上記の培養液が使用できる。培地交換に使用する培養液は、一又は複数の実施形態において、メチルグリオキサール等の反応性アルデヒドを含んでいてもよいし含んでいなくてもよく、製造コストの点からは、含んでいないことが好ましい。培地交換に使用する培養液は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を構成する細胞の細胞外マトリックスの産生を促進させる点から、ROCK阻害剤を含むことが好ましい。培養液中のROCK阻害剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、1μM~100μMであり、好ましくは1μM~50μM、又は概ね10μMである。
【0078】
メチルグリオキサールの添加は、1回であってもよいし、繰り返し行ってもよい。メチルグリオキサールの添加を繰り返し行うことによって、より細胞径の大きな細胞集塊を得ることができる。
【0079】
上記の浮遊培養により得られるiPS細胞の細胞集塊は、未分化状態が維持されている。得られたiPS細胞の細胞集塊は、小さな集塊に分割し、スケールアップしてバイオリアクター等で未分化の状態で大量培養を行ってもよいし、目的とする臓器の細胞へと分化誘導を行ってもよい。
【0080】
本実施形態1では、AGEs前駆体としてメチルグリオキサールを使用した場合を例にとり説明したが、メチルグリオキサール以外のその他のα-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物等のAGEs前駆体であっても、同様に行うことができる。
【0081】
[実施形態2]
実施形態2では、幹細胞が間葉系幹細胞である場合であり、AGEs前駆体としてメチルグリオキサールを使用する場合を例にとり説明する。
【0082】
まず、培地に間葉系幹細胞を播種し、浮遊培養する。これにより間葉系幹細胞の細胞集塊を形成させる。
【0083】
播種する細胞濃度は、一又は複数の実施形態において、1×10cells/cm2~1×108cells/cm2であり、好ましくは1×102cells/cm2~1×106cells/cm2であり、より好ましくは1×103cells/cm2~1×105cells/cm2である。培養温度は、一又は複数の実施形態において、30~40℃であり、好ましくは約37℃である。培養時のCO2濃度は、一又は複数の実施形態において、1~10%であり、好ましくは約5%である。
【0084】
細胞を播種する培養液としては、上記の培養液が使用できる。細胞を播種する培養液は、一又は複数の実施形態において、製造コストの点からは、ROCK阻害剤を含んでいないことが好ましい。
【0085】
必要に応じて、培地交換を行ってもよい。培地交換に使用する培養液は、一又は複数の実施形態において、ROCK阻害剤を含んでいてもよいし含んでいなくてもよく、製造コストの点からは、含んでいないことが好ましい。
【0086】
つぎに、細胞集塊が形成された培地にメチルグリオキサールを添加し、さらに浮遊培養を行う。間葉系幹細胞は、細胞集塊を形成するとほとんど増殖しないが、メチルグリオキサールを細胞集塊に接触させることにより、間葉系幹細胞を浮遊培養によって増殖させることができる。
【0087】
メチルグリオキサールの添加量は、播種した細胞濃度及び培養条件によって適宜決定することができる。培養液中のメチルグリオキサールの濃度は、一又は複数の実施形態において、0.1nM以上、0.5nM以上、1nM以上、10nM以上、0.1mM以上又は1mM以上であり、また30mM以下、20mM以下、10mM以下、5mM以下、1mM以下、又は0.1mM以下である。
【0088】
メチルグリオキサールを含む培養液中での細胞集塊の培養時間(メチルグリオキサールによる細胞集塊の処理時間)は、一又は複数の実施形態において、細胞集塊を構成する細胞の数等に応じて適宜決定できる。接触時間は、一又は複数の実施形態において、1分以上、5分以上、10分以上又は15分以上であり、48時間以下、36時間以下、30時間以下、28時間以下、26時間以下又は24時間以下である。
【0089】
間葉系幹細胞の増殖率を向上させる点からは、メチルグリオキサールを添加と同時及び/又は添加後に、培地にROCK阻害剤を添加することが好ましい。培養液中のROCK阻害剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、1μM~100μMであり、好ましくは1μM~50μM、又は概ね10μMである。
【0090】
メチルグリオキサールを添加後、必要に応じて、培地交換を行ってもよい。培地交換に使用する培地は、一又は複数の実施形態において、メチルグリオキサール等の反応性アルデヒドを含んでいてもよいし含んでいなくてもよく、製造コストの点からは、含んでいないことが好ましい。培地交換に使用する培地は、一又は複数の実施形態において、ROCK阻害剤を含んでいてもよいし含んでいなくてもよいが、間葉系幹細胞の増殖率を向上させる点からは、ROCK阻害剤を含むことが好ましい。培養液中のROCK阻害剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、1μM~100μMであり、好ましくは1μM~50μM、又は概ね10μMである。
【0091】
メチルグリオキサールの添加は、1回であってもよいし、繰り返し行ってもよい。メチルグリオキサールの添加を繰り返し行うことによって、より細胞径の大きな細胞集塊を得ることができる。
【0092】
上記の浮遊培養により得られる間葉系幹細胞の細胞集塊は、未分化状態が維持されている。得られた間葉系幹細胞の細胞集塊は、小さな集塊に分割し、スケールアップしてバイオリアクター等で未分化の状態で大量培養を行ってもよいし、目的とする臓器の細胞へと分化誘導を行ってもよい。
【0093】
本実施形態2では、AGEs前駆体としてメチルグリオキサールを使用した場合を例にとり説明したが、メチルグリオキサール以外のその他のα-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物等のAGEs前駆体であっても、同様に行うことができる。
【0094】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
[A1] 細胞集塊を含む培養液に、終末糖化産物(AGEs)の前駆体を添加すること、及び
前記添加した培養液中で、前記細胞集塊を培養することを含む、細胞の増殖を促進する方法。
[A2] 前記AGEsの前駆体の添加と同時又は添加の後に、前記培養液にROCK阻害剤を添加することを含む、[A1]記載の方法。
[A3] 細胞集塊を含む培養液に、AGEsの前駆体を添加すること、及び
前記添加した培養液中で、細胞集塊を培養することを含む、細胞集塊を調製する方法。
[A4] 前記AGEsの前駆体の添加と同時又は添加の後に、前記培養液にROCK阻害剤を添加することを含む、[A3]記載の方法。
[A5] 前記細胞は、幹細胞である、[A1]から[A4]のいずれかに記載の方法。
[A6] 前記AGEsの前駆体は、α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物の少なくとも一方である、[A1]から[A5]のいずれかに記載の方法。
[A7] 前記α-ジカルボニル化合物は、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールからなる群から選択される、[A6]記載の方法。
[A8] 前記α-ヒドロキシアルデヒド化合物は、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、ラクトアルデヒド、及び3-ヒドロキシブチルアルデヒドからなる群から選択される、[A6]又は[A7]記載の方法。
[A9] 前記細胞集塊を含む培養液を調製することを含む、[A1]から[A8]のいずれかに記載の方法。
[A10] 前記細胞集塊を含む培養液の調製は、単一に分散された細胞を培養液に播種すること、及び播種した細胞を浮遊培養して細胞集塊を形成することを含む、[A9]記載の方法。
[A11] 前記播種する細胞は、iPS細胞である、[A10]記載の方法。
[A12] 前記細胞を播種する培養液は、ROCK阻害剤を含有する培養液である、[A10]又は[A11]に記載の方法。
[A13] 前記播種する細胞は、体性幹細胞である、[A10]記載の方法。
[A14] 前記細胞を播種する培養液は、ROCK阻害剤を含有しない培養液である、[A13]記載の方法。
[A15] 前記細胞集塊を含む培養液の調製は、前記細胞を播種した後、培地交換を行うことを含む、[A9]から[A14]のいずれかに記載の方法。
[A16] 前記培地交換を行う培養液は、ROCK阻害剤を含有しない培養液である、[A15]記載の方法。
[A17] 前記AGEsの前駆体の添加濃度は、0.01nM~100mMである、[A1]から[A16]のいずれかに記載の方法。
[A18] 前記AGEsの前駆体を添加した後、AGEsの前駆体を含有しない培養液で培地交換を行うことを含む、[A1]から[A17]のいずれかに記載の方法。
[A19] 前記培地交換は、前記AGEsの前駆体の添加後、1分~48時間後に行う、[A18]記載の方法。
[A20] 前記培地交換を行う培養液は、ROCK阻害剤を含有する培養液である、[A18]又は[A19]に記載の方法。
[A21] 前記培養液中のROCK阻害剤の濃度は、1μM~100μMである、[A20]記載の方法。
[B1] 細胞を培養して細胞集塊を形成すること、及び
前記細胞集塊を含む培養液に、AGEsの前駆体を添加することを含む、細胞集塊のECMシェルをほぐす方法。
[B2] 前記細胞は、幹細胞である、[B1]記載の方法。
[B3] 前記AGEsの前駆体は、α-ジカルボニル化合物及びα-ヒドロキシアルデヒド化合物の少なくとも一方である、[B1]又は[B2]に記載の方法。
[B4] 前記α-ジカルボニル化合物は、メチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグリコソン、マロンジアルデヒド、ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、フェニルグリオキサール、4-フルオロフェニルグリオキサール、4-ニトロフェニルグリオキサール及び4-ヒドロキシフェニルグリオキサールからなる群から選択される、[B3]記載の方法。
[B5] 前記α-ヒドロキシアルデヒド化合物は、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、ラクトアルデヒド、及び3-ヒドロキシブチルアルデヒドからなる群から選択される、[B3]又は[B4]に記載の方法。
[B6] 前記細胞集塊の形成は、単一に分散された細胞を培養液に播種すること、及び播種した細胞を浮遊培養して細胞集塊を形成することを含む、[B1]から[B5]のいずれかに記載の方法。
[B7] 前記播種する細胞は、iPS細胞である、[B6]記載の方法。
[B8] 前記細胞を播種する培養液は、ROCK阻害剤を含有する培養液である、[B6]又は[B7]に記載の方法。
[B9] 前記播種する細胞は、体性幹細胞である、[B6]記載の方法。
[B10] 前記細胞を播種する培養液は、ROCK阻害剤を含有しない培養液である、[B6]又は[B9]記載の方法。
[B11] 前記細胞集塊の形成は、前記細胞を播種した後、培地交換を行うことを含む、[B1]から[B10]のいずれかに記載の方法。
[B12] 前記培地交換を行う培養液は、ROCK阻害剤を含有しない培養液である、[B11]記載の方法。
[B13] 前記AGEsの前駆体の添加濃度は、0.01nM~100mMである、[B1]から[B12]のいずれかに記載の方法。
[B14] 前記AGEsの前駆体を添加した後、AGEsの前駆体を含有しない培養液で培地交換を行うことを含む、[B1]~[B13]のいずれかに記載の方法。
[B15] 前記培地交換は、前記AGEsの前駆体の添加後、1分~48時間後に行う、[B14]記載の方法。
[B16] 前記培地交換を行う培養液は、ROCK阻害剤を含有する培養液である、[B14]又は[B15]に記載の方法。
[B17] 前記培養液中のROCK阻害剤の濃度は、1μM~100μMである、[B16]記載の方法。
[C1] [A3]から[A21]及び[B1]から[B17]のいずれかに記載の方法により得られた細胞集塊。
[D1] AGEsの前駆体を含む、細胞集塊の脱繊維化剤。
[D2] 固体、粉体又は液体である、[D1]記載の脱繊維化剤。
[E1] AGEsの前駆体と、ROCK阻害剤とを含む、細胞集塊の培養用キット。
[E2] さらに、培養液成分を含む、[E1]記載の細胞集塊の培養用キット。
【0095】
以下、試験例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら試験例に制限されるものではない。
【実施例
【0096】
[試験例1:iPS細胞の集塊培養1]
下記の培養条件で、iPSCsを集塊培養した。その結果を図1に示す。
[培養条件]
細胞:iPSCs(D2株,Np43)
培地:StemFit(R) AK02N(Takara製)
培養容器:96 well plate V底(MS-9096V、住友ベークライト製)
細胞密度:1316 cells/cm2(5×102 cells/wells)
培養条件:37℃,5%CO2インキュベータ内
培地量:150μl/well
培養期間:7日間(培養4日目(Day4)の培地交換後に1回Methylglyoxal投与)
Day0の培地:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
培地交換:150μl/well
培地交換に使用する培地:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
添加試薬:Methylglyoxal Solution(Product Code : M0252, 1.17g/mL, 16.25M, Sigma製)
Methylglyoxal(MG)濃度:0, 0.1, 1, 10, 100mM
撮影:培養4日目(Day4)(MG投与前),並びに5,6及び7日目(Day5, 6, 7)(MG投与後)に顕微鏡撮影
【0097】
図1A及びBは、MG添加前(Day4)及びMG添加後(Day5, 6, 7)におけるiPS細胞集塊の顕微鏡写真の一例を示し、図1B図1Aの部分拡大図である。
培養4日目(MG添加前)では、iPS細胞集塊における細胞の増殖(細胞集塊の径の拡大)はほとんど確認できなかった。iPS細胞集塊をMGで処理することにより、MG未処理の場合(control)と比較して、細胞集塊の周辺部(外周部)が脱繊維化されて(ほぐされて)細胞結合性を低下させることができることが示された。また、MG濃度の増加に伴い、細胞集塊の周辺部の細胞結合性はより低下する傾向が示された。
細胞集塊がある程度の大きさになると、細胞遊走性が低下し、その結果、細胞集塊中心部の増殖が低下すると考えられている。上記の通り、MG存在下でiPS細胞集塊を培養することにより、細胞集塊の周辺部の細胞結合性を低下させて培養場を再構築し、細胞遊走性の低下を抑制するか又は低下した細胞遊走性を向上させることでき、それにより細胞集塊の増殖能を向上できることが示唆された。
【0098】
[試験例2:iPSCsの集塊培養2]
下記の培養条件及び図2に示す手順で、iPSCsを集塊培養した。その結果を図4に示す。
[培養条件]
細胞:iPSCs(D2株,Np17,Feeder less)
培地:StemFit(R) AK02N(Takara製)
培養容器:96 well plate V底(MS-9096V、住友ベークライト製)
細胞密度:200 cells/well
培養条件:37℃,5%CO2
培地量:150μl/well
培養期間:10日間(継代)5日間(計15日)
Day0の培地:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
培地交換:75μl/well(毎日)
培地交換に使用する培地:
Day4-10:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
Day1-3:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
Methylglyoxal濃度:0, 1.25, 2.5, 5, 10, 15, 20mM
添加試薬:Methylglyoxal Solution(Product Code:M0252, 1.17g/mL, 16.25M, Sigma製)
MG添加:培養4日目(Day4)の培地交換20分間前
MG処理時間:20分間
撮影:MG投与後よりBioStudio(Nikon製)で動画観察
【0099】
[試験例3:iPSCsの集塊培養3]
下記に示した培養条件を変更し、図3に示す手順で行った以外は、試験例2(iPSCsの集塊培養2)と同様に行った。その結果を図4に示す。
[培養条件]
MG添加:培養4日目(Day4)の培地交換後
MG処理時間:24時間
培地交換に使用する培地:
Day4-10:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
Day1-3:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
【0100】
図4は、MG投与添加前(Day4)及び添加後(Day10)のiPS細胞集塊の顕微鏡写真の一例を示す。培養4日目(MG添加前)では、iPS細胞集塊における細胞の増殖(細胞集塊の径の拡大)はほとんど確認できなかった。iPS細胞集塊に対してMG処理を行い、その後ROCK阻害剤を含む培養液を用いて培養を行った結果、MG処理時間が20分及び24時間のいずれの場合においても、培養液中で集塊培養を行うことによって細胞集塊の周辺部がやや膨らみが確認できた。つまり、上記処理及び培養により、細胞増殖促進効果があることを確認した。
よって、上記処理により、iPS細胞集塊表面のECM(ECMシェル)の脱繊維化及び細胞によるECMの産生を促すことができ、iPS細胞の細胞増殖性を回復させる可能性が示唆された。
【0101】
[試験例4:間葉系幹細胞(MSC)の集塊培養1]
下記の培養条件で、MSCを集塊培養した。培養4日目(Day4、MG投与前)及び培養9日目(Day9)の細胞数をそれぞれカウントし、それを用いて下記式を用いて細胞増殖率を求めた。得られた結果の一例を図5に示す。
[培養条件]
細胞:MSC(Np 2)
培地:Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(Takara製)
培養容器:Micro-Space Cell Culture Plate(Kuraray製),24 well plate(Corning製)
培養条件:37℃、5%CO2インキュベータ内
培地量:3mL/well
播種密度:1.0×105cell/well
培養期間:9日間
Day0の培地:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
培地交換:1.5mL/well×3回、2日に1回(Day 5, 7, 9)
培地交換に使用する培地:
Day2, 4:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
Day5, 7, 9:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
添加試薬:Methylglyoxal Solution(Product Code:M0252, 1.17g/mL, 16.25M, Sigma製)
Methylglyoxal濃度:0, 0.0075, 0.01, 0.0125, 0.015, 0.02mM
MG添加:培養4日目(Day4)の培地交換後
MG処理時間:24時間[細胞増殖率]
細胞増殖率=(培養9日目の細胞数)/(培養3日目の細胞数)
【0102】
図5は、細胞増殖率のグラフの一例である。図5のグラフに示すように、MGを投与しなかった場合(0mM)は、細胞増殖率が1.2倍であったのに対し、培地にMGを投与することにより、細胞増殖率が2倍近くと、2倍近く上昇した。MSCは細胞集塊を形成すると増殖性を示さず、細胞を増やすには継代培養が必要であるとされている。これに対し、培地にMGを投与することにより、細胞集塊を形成した状態であっても、MSCを増殖させることができるといえる。
ROCK阻害剤を添加せずに同様の培養を行ったところ、ROCK阻害剤を添加した方(MGとROCK阻害剤との併用)が、細胞増殖率が高かった。
【0103】
つぎに、MSCを集塊培養に代えて平面培養した以外は、試験例4の培養条件で行った。その結果、MGの投与の有無及びROCK阻害剤の添加の有無に関わらず、細胞増殖率に大きな変動は見られなかった。
【0104】
[試験例5:MSCの集塊培養2]
下記の培養条件でMSCを集塊培養した。その結果を図6に示す。
[培養条件]
細胞:MSC(Np 2)
培地:Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(Takara製)
培養容器:Micro-Space Cell Culture Plate(Kuraray製),24 well plate(Corning製)
培養条件:37℃、5%CO2インキュベータ内
培地量:3mL/well
播種密度:1.0×105cell/well
培養期間:15日間
Day0の培地:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
培地交換:1.5mL/well×3回、2日に1回
培地交換に使用する培地:
Day2:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
Day4, 6, 8, 10, 12, 14:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
添加試薬:Methylglyoxal Solution(Product Code:M0252, 1.17g/mL, 16.25M, Sigma製)
Methylglyoxal濃度:0, 1.25, 2.5, 5, 10, 15, 20mM
MG添加:培養4日目(Day4)の培地交換20分間前
MG処理時間:20分間
撮影:Day4(MG添加前)及びDay15
【0105】
[試験例6:MSCの集塊培養3]
下記に示した培養条件を変更した以外は、試験例5(MSCの集塊培養2)と同様に行った。その結果を図6に示す。
[培養条件]
MG添加:培養4日目(Day4)の培地交換後
MG処理時間:24時間
培地交換に使用する培地:
Day2, 4:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
Day5, 7, 9, 11, 13, 15:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
【0106】
図6は、MG投与前後(Day4及び15)のMSC細胞集塊の顕微鏡写真の一例を示す。培養4日目(Day4)(MG投与を行う前)では、MSC細胞集塊における細胞の増殖(細胞集塊の径の拡大)はほとんど確認できなかった。MSC細胞集塊に対してMG処理を行い、その後ROCK阻害剤を含む培養液を用いて培養を行った結果、MGの処理時間に関わらず、培養液中で集塊培養を行うことによって細胞集塊の周辺部がやや膨らみが確認できた。つまり、上記処理及び培養により、細胞増殖促進効果があることを確認した。
よって、上記処理により、MSC細胞集塊表面のECM(ECMシェル)の脱繊維化及び細胞によるECMの産生を促すことができ、MSC細胞の細胞増殖性を回復させる可能性が示唆された。
【0107】
[試験例7:MSCの集塊培養4]
下記に示した培養条件を変更した以外は、試験例6(MSCの集塊培養3)と同様に行った。その結果を図7に示す。
[培養条件]
培養期間:9日間
Day0の培地:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
添加試薬:3-Deoxyglucosone(3-DG)(Sigma製)
Glyoxal Solution(GO)(Sigma製)
3-DG又はGOの添加:培養4日目(Day4)の培地交換後
3-DG又はGOの処理時間:24時間
培地交換に使用する培地:
Day2, 4:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
Day5, 7, 9:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
【0108】
図7は、3-DG/GO添加前(Day4)及び添加後(Day9)のMSC細胞集塊の顕微鏡写真の一例を示す。培養4日目(3-DG/GO添加前)では、MSC細胞集塊における細胞の増殖(細胞集塊の径の拡大)はほとんど確認できなかった。MSC細胞集塊に対して3-DG又はGO処理を行い、その後ROCK阻害剤を含む培養液を用いて培養を行った結果、細胞集塊の周辺部にやや膨らみが確認できた。つまり、上記処理及び培養により、細胞増殖促進効果があることを確認した。
よって、上記処理により、MSC細胞集塊表面のECM(ECMシェル)の脱繊維化及び細胞によるECMの産生を促すことができ、MSC細胞の細胞増殖性を回復させる可能性が示唆された。
【0109】
試験例4と同様に、培養4日目(MG処理前)及び培養9日目の細胞数をそれぞれカウントし、細胞増殖率を確認した。その結果、MGで処理した場合と同様に、MSC細胞集塊を3-DG又はGOで処理して培養することにより、MSC細胞集塊の細胞増殖率の上昇が確認できた。また、この細胞増殖率の上昇は、3-DG/GOMG濃度の増加に伴い、細胞増殖率が増加する傾向が示された。
【0110】
[試験例8:HepG2の集塊培養]
下記の培養条件で、HepG2を集塊培養した。培養3日目(MG投与前)及び培養4日目(Day4)の細胞数をそれぞれカウントし、細胞増殖率を確認した。その結果を図8に示す。
[培養条件]
細胞:HepG2(Hepatocyte)
培地:HepG2 Hepatocellular Carcinoma Expansion Media, Human(Cellular Engineering Technologies)
培養容器:24 well plate (corning製)
培養条件:37℃・5 % CO2インキュベータ内
培地量:0.5 mL/well
培養期間:6 日間
Day0の培地:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
培地交換に使用する培地:
Day2, 3:ROCK阻害剤を含有しない上記培地
Day4, 6:10μM ROCK阻害剤を含有する上記培地
播種密度:1.0 x 104 cells/cm2
培地交換:0.5 mL/well, 2日に1回
添加試薬:Methylglyoxal solution (Sigma製)
Methylglyoxal濃度:0, 1, 5, 10, 15, 20mM
MG添加:培養3日目(Day3)の培地交換後
MG処理時間:24時間
【0111】
培養3日目(MG添加前)では、細胞集塊における細胞の増殖(細胞集塊の径の拡大)はほとんど確認できなかったが、MG処理を行った結果、細胞集塊の周辺部にやや膨らみが確認できた。つまり、上記処理及び培養により、細胞増殖促進効果があることを確認した。
よって、上記処理により、HepG2の細胞集塊においても、iPS細胞集塊やMSC細胞集塊と同様に、細胞増殖性を回復させる可能性が示唆された。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8