(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】液晶性ポリマー成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/34 20060101AFI20241202BHJP
B29C 48/27 20190101ALI20241202BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
B29C45/34
B29C48/27
B29C45/77
(21)【出願番号】P 2021004906
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】丁 声而
(72)【発明者】
【氏名】三輪 勝正
(72)【発明者】
【氏名】増谷 勇佑
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-151953(JP,A)
【文献】特開2012-196877(JP,A)
【文献】特開平07-009474(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010896(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0101553(US,A1)
【文献】特開平11-227000(JP,A)
【文献】特開2021-000734(JP,A)
【文献】特開2003-342484(JP,A)
【文献】特開2012-254544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
39/26-39/36
41/38-41/44
43/36-43/42
43/50
45/00-48/96
49/48-49/56
49/70
51/30-51/40
51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートとキャビティとガスベントとを備える金型を用いて、液晶性ポリマー組成物を射出成形することを含む液晶性ポリマー成形品の製造方法であって、前記射出成形時に、前記ガスベントにて捕集される全ガス量が、20μg/g以下であることを特徴とする、液晶性ポリマー成形品の製造方法
であって、前記液晶性ポリマー組成物の射出成形を行う前に、(a)ガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物によるパージと、(b)液晶性ポリマー組成物によるパージとを、この順で行うことを特徴とする、液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【請求項2】
前記射出成形において、成形機のシリンダー温度及び/又は射出速度を低下させるか、金型のゲートのサイズ及び/又は点数を増加させるか、の少なくともいずれかを行うことにより、前記全ガス量を20μg/g以下とすることを特徴とする、請求項1に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【請求項3】
前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に、更に前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、又は(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、若しくは(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行うことを特徴とする、請求項
1または2に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【請求項4】
前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に行う前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージの前、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージの前、又は前記(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの前に、追加でパージを行い、当該追加で行うパージは、前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージ、前記(b)液晶性ポリマーによるパージ、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージのうち、当該追加で行うパージの直後に行うパージとは異なるパージから選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項
3に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【請求項5】
前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行う場合は、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの後に、前記成形機のスクリュー清掃を行うことを特徴とする、請求項
3または請求項
4に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【請求項6】
ゲートとキャビティとガスベントとを備える金型を用いて、液晶性ポリマー組成物を射出成形し液晶性ポリマー成形品を製造する際に、前記液晶性ポリマー成形品のブリスターを抑制する方法であって、前記射出成形時に、前記ガスベントにて捕集される全ガス量を、20μg/g以下とすることを特徴とする、液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法
であって、前記液晶性ポリマー組成物の射出成形を行う前に、(a)ガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物によるパージと、(b)液晶性ポリマー組成物によるパージとを、この順で行うことを特徴とする、液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【請求項7】
前記射出成形において、成形機のシリンダー温度及び/又は射出速度を低下させるか、金型のゲートのサイズ及び/又は点数を増加させるか、の少なくともいずれかを行うことにより、前記全ガス量を20μg/g以下とすることを特徴とする、請求項
6に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【請求項8】
前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に、更に前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、又は(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、若しくは(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行うことを特徴とする、請求項
6または7に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【請求項9】
前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に行う前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージの前、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージの前、又は前記(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの前に、追加でパージを行い、当該追加で行うパージは、前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージ、前記(b)液晶性ポリマーによるパージ、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージのうち、当該追加で行うパージの直後に行うパージとは異なるパージから選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、請求項
8に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【請求項10】
前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行う場合は、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの後に、前記成形機のスクリュー清掃を行うことを特徴とする、請求項
8または請求項
9に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性ポリマー成形品の製造方法に関する。特に本発明は、液晶性ポリマー成形品を加熱した際に生じうるブリスターを効果的に低減させる液晶性ポリマー成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリマーは、耐熱性、難燃性、寸法精度、流動性等に優れるため、従来から各種電子部品の材料として採用されてきた。液晶性ポリマーは、特に、電子部品の小型化・薄肉化に対応できる高い流動性と、リフロー半田付け可能な高い耐熱性とを有することから、表面実装用コネクタなどの用途で需要が伸びている。液晶性ポリマーに各種充填剤や添加剤を配合して低反り性や電気特性等を改良した液晶性ポリマー組成物も多数検討されてきている。
【0003】
しかし、液晶性ポリマー成形品を加熱、例えば鉛フリーのリフロー半田付けのような高温環境下で処理すると、成形品表面にブリスターと呼ばれる膨れが生じ問題となる場合があった。
【0004】
このブリスターの発生原因の一つとしては、射出成形時に液晶性ポリマー組成物が金型内に充填される過程で、液晶性ポリマー自体やその添加剤の分解により発生したガスが、溶融流動状態の液晶性ポリマー組成物に巻き込まれて成形品内に取り込まれ、そのガスがリフロー半田付け時の加熱により膨張することで、加熱で軟化した成形品表面を押し上げるというメカニズムが挙げられている。このような液晶性ポリマー組成物の分解ガスに起因するブリスターの対策として、液晶性ポリマーの構造や、液晶性ポリマー組成物に含まれている充填剤及び添加剤の種類といった材料面のアプローチの他、溶融押出時のベント脱気や、成形時の滞留時間の短縮といった成形方法の改良が検討されてきている(特許文献1~5)。
【0005】
また、液晶性ポリマー組成物の分解ガス以外にも、金型内に存在していた空気が液晶性ポリマー組成物の充填時に上手く排出されずに成形品内に取り込まれることも、ブリスターの要因となることから、これを防ぐために、成形条件や成形機及び金型の構造が特定の関係式を満たすように調整する成形体の製造方法(特許文献6)が提案されている。一方、金型内に射出された液晶性ポリマー組成物の流動状態を特定した液晶性樹脂組成物(特許文献7)も提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの対策が行われてもなお、液晶性ポリマー成形品の加熱時におけるブリスターの発生を抑制することが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-140283号公報
【文献】特開2004-196886号公報
【文献】特開2016-089154号公報
【文献】特開2016-183308号公報
【文献】特開2018-095683号公報
【文献】特開2010-253890号公報
【文献】国際公開WO2019/203157号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液晶性ポリマー成形品を加熱した際のブリスターの発生が効果的に低減された液晶性ポリマー成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的のために、本発明者らは、射出成形時に発生するガスの分析等を鋭意行ったところ、分解ガスの発生量を抑制した液晶性ポリマー組成物を使用したり、金型内の空気の巻き込みを低減するような金型設計や成形条件を用いたりしても、液晶性ポリマー成形品のブリスターを完全には防止できない場合があることがわかった。この原因として、実際に成形している液晶性ポリマー組成物以外の成分に由来するガス、具体的には液晶性ポリマー組成物を成形する以前にその成形機で射出成形を行っていた材料や、当該材料から液晶性ポリマー組成物に材料を切り替える際のパージ剤に由来するガスに起因してブリスターが発生する場合があることを見出した。
【0010】
通常、射出成形機における材料の切り替え時に、適切な手順でパージを行って材料を切り替えれば、このようなシリンダー内の残留異物(過去に成形していた樹脂材料やパージ剤等)によるガスの発生が問題となることは少ない。しかし、液晶性ポリマーはそれ自体の粘度が低く、かつ流動性の射出速度依存性が高いことから、液晶性ポリマーで高射速のパージを行っても、シリンダー内の残留異物を掻き取って排出する効果が得にくい。一方、シリンダー内に残留異物が存在する場合であっても、次に成形する材料の成形温度が残留異物の耐熱温度より低いのであれば、残留異物が溶融したり分解したりするおそれは少なくなる。しかしながら液晶性ポリマーは樹脂の中でも特に耐熱性が高い部類に属し、必然的に成形温度も高くなるため、その成形条件下では残留異物の熱分解が生じやすくなり、結果、上述したような液晶性ポリマー組成物以外の成分に由来するガスが発生しやすくなる。
【0011】
なお、液晶性ポリマーでは、その分子構造に起因して、射出成形時に成形品の表層部にスキン層と呼ばれる高度に分子配向した構造が形成される。そして、そのスキン層と成形品内部のコア層との間に上述の発生ガスが巻き込まれると、層間剥離によるブリスターが生じやすくなる。すなわち液晶性ポリマー成形品では、その成形条件面からの理由(加工温度の高さによる分解ガスの発生しやすさ)と、その分子構造面からの理由(スキン層とコア層の層間剥離の起こりやすさ)により、他の樹脂からなる成形品に比べて根源的にブリスターが発生しやすい。しかしながら分子構造面については、その配向性こそが液晶性ポリマーに優れた特異的物性をもたらすものであり、これを避けることは困難である。そこで本発明者らは、残留異物に由来するガスの発生を抑制することで、その巻き込みによる層間剥離の促進を防止することが、液晶性ポリマー特有の原因に由来するブリスターの低減に有効であることを見出した。
【0012】
本発明は、以下を特徴とする。なお、本発明におけるガス量(μg/g)は、液晶性ポリマー成形品を特定ショット数成形する間に捕集されたガス量(μg)を、当該特定ショット数の成形により得られた液晶性ポリマー成形品の重量(g)で除して求められる、液晶性ポリマー組成物1gあたりのガスの発生量を意味する。
【0013】
(1)ゲートとキャビティとガスベントとを備える金型を用いて、液晶性ポリマー組成物を射出成形することを含む液晶性ポリマー成形品の製造方法であって、前記射出成形時に、前記ガスベントにて捕集される全ガス量が、20μg/g以下であることを特徴とする、液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【0014】
(2)前記射出成形において、成形機のシリンダー温度及び/又は射出速度を低下させるか、金型のゲートのサイズ及び/又は点数を増加させるか、の少なくともいずれかを行うことにより、前記全ガス量を20μg/g以下とすることを特徴とする、(1)に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【0015】
(3)前記射出成形において、前記液晶性ポリマー組成物の射出成形を行う前に、(a)ガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物によるパージと、前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージとを、この順で行うことを特徴とする、(1)または(2)に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【0016】
(4)前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に、更に前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、又は(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、若しくは(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行うことを特徴とする、(3)に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【0017】
(5)前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に行う前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージの前、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージの前、又は前記(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの前に、追加でパージを行い、当該追加で行うパージは、前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージ、前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、又は前記(d)スチレン系樹脂組成物によるパージのうち、当該追加で行うパージの直後に行うパージとは異なるパージから選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(4)に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【0018】
(6)前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行う場合は、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの後に、前記成形機のスクリュー清掃を行うことを特徴とする、(4)または(5)に記載の液晶性ポリマー成形品の製造方法。
【0019】
(7)ゲートとキャビティとガスベントとを備える金型を用いて、液晶性ポリマー組成物を射出成形し液晶性ポリマー成形品を製造する際に、前記液晶性ポリマー成形品のブリスターを抑制する方法であって、前記射出成形時に、前記ガスベントにて捕集される全ガス量を、20μg/g以下とすることを特徴とする、液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【0020】
(8)前記射出成形において、成形機のシリンダー温度及び/又は射出速度を低下させるか、金型のゲートのサイズ及び/又は点数を増加させるか、の少なくともいずれかを行うことにより、前記全ガス量を20μg/g以下とすることを特徴とする、(7)に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【0021】
(9)前記射出成形において、前記液晶性ポリマー組成物の射出成形を行う前に、(a)ガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物によるパージと、前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージとを、この順で行うことを特徴とする、(7)または(8)に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【0022】
(10)前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に、更に前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、又は(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、若しくは(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行うことを特徴とする、(9)に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【0023】
(11)前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に行う前記(b)液晶性ポリマー組成物によるパージの前、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージの前、又は前記(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの前に、追加でパージを行い、当該追加で行うパージは、前記(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージ、前記(b)液晶性ポリマーによるパージ、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージのうち、当該追加で行うパージの直後に行うパージとは異なるパージから選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする、(10)に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【0024】
(12)前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行う場合は、前記(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ及び/又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの後に、前記成形機のスクリュー清掃を行うことを特徴とする、(10)または(11)に記載の液晶性ポリマー成形品のブリスター抑制方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、液晶性ポリマー組成物を射出成形する際に排出されるガス量が特定の値以下となるようにすれば、シリンダー内の残留異物の分解等に起因する発生ガスが液晶性ポリマー成形品内に巻き込まれるリスクを低減でき、液晶性ポリマー成形品を加熱した際のブリスターの発生を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態を詳細に説明する。一の実施形態は、ゲートとキャビティとガスベントとを備える金型を用いて、液晶性ポリマー組成物を射出成形することを含む液晶性ポリマー成形品の製造方法であって、前記射出成形時に、前記ガスベントにて捕集される全ガス量が、20μg/g以下であることを特徴とする、液晶性ポリマー成形品の製造方法である。
【0027】
実施形態で成形する液晶性ポリマー組成物を構成する液晶性ポリマーとしては、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーであれば特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルを用いることもできる。
【0028】
芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとしては、特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。液晶性ポリマーは、上記から選ばれる2種以上の液晶性ポリマーの混合物であってもよい。
【0029】
より具体的には、
(1)(ア)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上が重合したポリエステル;
(2)主として(ア)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(イ)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(ウ)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とが重合したポリエステル;
(3)主として(ア)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(イ)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(エ)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、が重合したポリエステルアミド;
(4)主として(ア)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(イ)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(ウ)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の少なくとも1種又は2種以上と、(エ)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、が重合したポリエステルアミド等、を挙げることができる。さらに上記の構成成分に必要に応じて分子量調整剤を併用してもよい。
【0030】
液晶性ポリマーを構成する化合物(モノマー化合物)の好ましい具体例としては、
(ア)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、
(ウ)2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)で表される化合物、及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール、
(イ)テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸、及び
(エ)p-アミノフェノール、p-フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C1~C4)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO
2-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:-(CH
2)
n-(n=1~4)及び-O(CH
2)
nO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0031】
液晶性ポリマーの調製方法は、特に限定されず、上述したモノマー化合物を上記の組み合わせになるように選択して混合したモノマー混合物を調製し、直接重合法やエステル交換法等の公知の方法で重合することができる。モノマー混合物は、通常は、溶融重合法やスラリー重合法等により重合する。モノマー化合物がエステル形成能を有する化合物である場合は、そのままの形で重合に用いることができ、また、重合の前段階で前駆体から該エステル形成能を有する誘導体に変性された化合物を用いてもよい。モノマー混合物の重合に際しては、種々の触媒の使用が可能である。使用可能な触媒の代表的なものとしては、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタン珪酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF3の如きルイス酸塩等を挙げることができる。触媒の使用量は、一般にはモノマー混合物の全重量に対して、約0.001~1質量%であり、特に、約0.01~0.2質量%が好ましい。これらの重合方法により製造された液晶性ポリマーは、さらに必要があれば、減圧又は不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。
【0032】
液晶性ポリマーの溶融粘度は、特に限定されず、液晶性ポリマーの融点よりも10~30℃高いシリンダー温度の条件下せん断速度1000sec-1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上100Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以上50Pa・s以下であることがより好ましい。「液晶性ポリマーの融点よりも10~30℃高いシリンダー温度」とは、液晶性ポリマーが溶融粘度の測定が可能な程度まで溶融することができるシリンダー温度を意味しており、融点よりも何℃高いシリンダー温度とするかは、10~30℃の範囲で液晶性ポリマーの種類によって異なる。例えば、特開2010-3661号公報(特に第0048、0051段落を参照)には、液晶性ポリマー1として、4-ヒドロキシ安息香酸から導入される構成単位2モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から導入される構成単位48モル%、テレフタル酸から導入される構成単位25モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから導入される構成単位25モル%を含む液晶性ポリマーが開示されている。この液晶性ポリマー1の融点は352℃であり、溶融粘度はシリンダー温度380℃で測定されている。また、液晶性ポリマー2として、4-ヒドロキシ安息香酸から導入される構成単位50モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から導入される構成単位2.5モル%、テレフタル酸から導入される構成単位23.9モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから導入される構成単位18.6モル%、4-アセトアミドフェノールから導入される構成単位5モル%を含む液晶性ポリマーが開示されている。この液晶性ポリマー2の融点は367℃であり、溶融粘度はシリンダー温度380℃で測定されている。さらに、液晶性ポリマー3として、4-ヒドロキシ安息香酸から導入される構成単位60モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から導入される構成単位5モル%、テレフタル酸から導入される構成単位17.7モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから導入される構成単位112.3モル%、4-アセトアミドフェノールから導入される構成単位5モル%を含む液晶性ポリマーが開示されている。この液晶性ポリマー3の融点は335℃であり、溶融粘度はシリンダー温度350℃で測定されている。
【0033】
実施形態において、用いる液晶性ポリマーとしては、分子量分布の狭いポリマーや、オリゴマーの含有量の少ないポリマーであれば、溶融混練時の低分子量成分の分解によるガスの発生を低減できるという点で好ましい。また、液晶性ポリマーに、アロイ材やエラストマーなど他の樹脂やその他の成分から選ばれる添加剤を添加して液晶性ポリマー組成物として用いる場合は、液晶性ポリマー組成物の特性を損なわない範囲で高融点又は高沸点の添加剤を選択することが好ましい。
【0034】
実施形態において、射出成形とは、溶融した液晶性ポリマー組成物を金型に送り込み、これを冷却することにより固化させる、液晶性ポリマー組成物の成形方法の一つである。本実施形態における射出成形は、例えば特開2019-181890号公報に記載されるような射出成形機を用いて行うことができる。
【0035】
本実施形態で使用することができる射出成形機は、例えばインラインスクリュー式であって、略水平方向に延びたシリンダーと、シリンダーに内蔵されたスクリュー、及びスクリューを回転駆動等させる駆動機構を有している。またシリンダーには、成形材料の投入口であるホッパー、シリンダーを加熱するバンドヒーター、及び溶融させた成形材料を金型内へ射出する吐出口であるノズルが設けられている。
【0036】
金型は、可動側金型、及び可動側金型に対応する固定側金型を有する。固定側金型は、射出成形機のシリンダー先端のノズルから射出された液晶性ポリマー組成物を、固定側金型と可動側金型の合わせ面まで導く流路であるスプルーを備える。固定側金型と可動側金型の合わせ面には、成形品本体部にあたる空間(狭義のキャビティ)と、当該成形品本体部への流入口であるゲートと、スプルーからゲートまでの流路であるランナーとが、固定側金型と可動側金型のいずれか一方又は両方に跨って設けられている。なお、本明細書では、成形品本体部(狭義のキャビティ)に加え、金型のゲートを経由して、ランナー、スプルーまでを含む領域全体をキャビティと称する。固定側金型と可動側金型の少なくともいずれか一方には、キャビティからガスを排出する金型ガスベントが設けられている。金型ガスベントは、多孔質の材料または細孔から形成されている。金型ガスベントは、固定側金型と可動側金型のいずれかに設けられていればよいが、ガスを効率よく排出するためには成形品本体部の流動末端付近に設けるのがよく、さらに金型ガスベントから排気路を介し真空ポンプを設置して、金型内のガスの吸引を行うことが望ましい。
【0037】
射出成形機において、ホッパーに蓄えられたペレット状の液晶性ポリマー組成物は、自重により落下してホッパーの直下にあるシリンダーに供給される。シリンダーは、バンドヒーターによって所定温度に加熱されている。シリンダーに供給された液晶性ポリマー組成物は、回転するスクリューによって搬送されながら、バンドヒーターによる加熱及びスクリューの回転による剪断発熱によって溶融されつつスクリューによって混練され、さらにスクリューの前進によってノズルから射出されて金型に注入される。金型に注入された液晶性ポリマー組成物は、金型のキャビティに充填され、冷却固化された後で金型から液晶性ポリマー成形品として取り出される。
【0038】
実施形態において、金型のキャビティに充填された液晶性ポリマー組成物は、ゲートやキャビティの薄肉部を通過する際の剪断発熱によってガスを発生させる場合がある。このガスは、金型に形成された金型ガスベントを介してキャビティから排出される。金型ガスベントから排出された金型排出ガスは、金型ガスベントから真空ポンプに至る排気路を通って排気される。また、金型排出ガスを捕集するための金型排出ガス捕集管は、金型ガスベントに接続されており、射出成形中に発生した金型排出ガスを捕集することができる。金型排出ガス捕集管から排出されたガスを定性的及び/又は定量的に分析する分析装置を有していてもよい。
【0039】
実施形態において、上記の金型ガスベントを介してキャビティから排出される金型排出ガスを捕集することができる。液晶性ポリマー成形品を1ショット成形する間に捕集されたガスの総量(μg)を、1ショット間に射出される液晶性ポリマー組成物の重量(g)で除して求められる、液晶性ポリマー組成物1gあたりのガスの発生量を全ガス量(μg/g)として表す。
【0040】
金型ガスベントを介して捕集される金型排出ガスの分析も、特開2019-181890号公報(特に第0038段落を参照)に記載された方法に倣って適宜行うことができる。本発明において、金型のガスベントで捕集される全ガス量は20μg/g以下であり、15μg/g以下であることが好ましく、10μg/g以下であることがより好ましい。また、全ガス量のうち、液晶性ポリマー組成物に由来するもの以外の混入ガス量は、5μg/g以下であることが好ましく、3μg/g以下であることがより好ましく、1μg/g以下であることがさらに好ましい。ここで、発生ガスが液晶性ポリマー組成物に由来するものか否については、捕集されたガスを公知の手法にて定性分析及び/又は定量分析を行い把握することができる。
【0041】
全ガス量や混入ガス量を上記の範囲とするように、液晶性ポリマー組成物を射出成形する際の条件を調整することができる。具体的には、成形機のシリンダー温度と射出速度のいずれか一方、又は両方を低下させることで、液晶性ポリマー組成物及びシリンダー内の残留異物が受ける熱を軽減し、分解ガスの発生を抑制することができる。
【0042】
全ガス量や混入ガス量を上記の範囲とするように、金型のゲートのサイズを拡大するか、ゲートの数を増やすかのいずれか一方、又は両方を行うこともできる。これらを行うことにより、液晶性ポリマー組成物がゲートを通過する際の剪断発熱を低減させることができる上、キャビティへの液晶性ポリマー組成物の充填が容易となるため、成形性を確保しつつ、上述の樹脂温度や射出速度を低下させるといった調整を行いやすくなる。また、金型の表面処理として、DLC、TiN、TiCN、CrN、セラミックなどのコーティングを用いると金型表面での剪断発熱による分解を抑制できるため好ましい。
【0043】
実施形態では、液晶性ポリマー組成物の射出成形を行う前に、シリンダー内のパージにより残留異物の排出を行う。パージとしては、(a)ガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物によるパージと、(b)成形に用いる液晶性ポリマー組成物によるパージとを、この順で行うことが好ましい。また、(a)ポリカーボネート樹脂組成物としては、ガラス繊維を10質量%以上50質量%以下含むことがより好ましい。
【0044】
パージとしては、上述の(a)ガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に、更に(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、又は(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、若しくは(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行うことも好ましい。また、シリンダー内の残留異物をより確実に排出するには、上述の(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージの前に行う(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの前に、追加でパージを行うことが好ましい。追加で行うパージは、(a)ポリカーボネート樹脂組成物によるパージ、(b)液晶性ポリマー組成物によるパージ、(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージ、又は(d)スチレン系樹脂組成物によるパージのうち、当該追加で行うパージの直後に行うパージとは異なるパージを、少なくとも1種以上行うことがより好ましい。例えば、(a)のパージ、(b)のパージの前に、更に(d)のパージ、(d)のパージの前に追加で(c)のパージを行う、(c)(d)(a)(b)の順で行う一連のパージや、(a)のパージ、(b)のパージの前に、更に(d)のパージ、(d)のパージの前に追加で(c)のパージ、(a)のパージを行う、(c)(a)(d)(a)(b)の順で行う一連のパージは、非常に好ましい。
【0045】
ポリエチレン系樹脂組成物としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)といったホモポリマーの他、エチレンと他のモノマーを共重合したコポリマーなどをいずれも用いることができる。パージ剤自体に含まれる添加剤等の異物に由来するガスを低減する観点では、ポリエチレンホモポリマーを用いることが好ましい。また、シリンダー温度を高く設定する液晶性ポリマー組成物のパージにおいては、耐熱性の観点で、高密度ポリエチレンを用いることがより好ましい。ポリエチレン系樹脂組成物は、ガラス繊維等の充填剤を含むものであってもよい。特に、シリンダー内の残留異物を効果的に排出する観点では、ポリエチレン系樹脂組成物は粘度が高いことが好ましく、ISO1133に準拠して測定されるメルトフローレート(MFR)が3g/10min以下であることが好ましく、0.1g/10min以上1g/10min以下であることがより好ましい。また、スチレン系樹脂組成物としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体などのスチレン系共重合体を用いることが好ましく、ガラス繊維等の充填剤を含むものであってもよい。なお、ポリエチレン系樹脂組成物やスチレン系樹脂組成物でパージを行った後は、スクリューの分解清掃を行うことが好ましい。すなわち、一連のパージの中に、(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージや(d)スチレン系樹脂組成物によるパージを行う場合は、当該(c)ポリエチレン系樹脂組成物によるパージや(d)スチレン系樹脂組成物によるパージの後に、成形機のスクリュー清掃を行うことが好ましい。
【0046】
パージ時の成形機の条件設定は、当業者であれば各液晶性ポリマー組成物及び各パージ剤の標準的な成形条件を参照し適宜設定することができる。例えば、スクリュー回転数は100rpmから300rpm程度、背圧は0MPaから10MPa程度、射出速度は5mm/secから300mm/sec程度の範囲から選択することができる。なお、シリンダー温度は、シリンダーから排出させたい材料とパージ剤、及び最終的な成形材料の融点から分解温度の範囲で適宜設定すればよい。
【0047】
上記の各種調整を行うことにより、シリンダー内の残留異物等の分解ガスに起因する、液晶性ポリマー成形品のブリスターの発生を効果的に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0048】
[液晶性ポリマー組成物]
下記の液晶性ポリマーと添加剤を表1に示す割合で混合し、株式会社日本製鋼所製二軸押出機TEX-44にてシリンダー温度350℃で溶融混錬して、液晶性ポリマー組成物(LCP1~6)のペレットを得た。
<液晶性ポリマー>
ポリプラスチックス株式会社製、融点335℃の液晶性ポリマー、ラペロス(登録商標)E950iSX
<添加剤>
GF:日本電気硝子株式会社製、平均繊維径10μm、平均繊維長3mmのチョップドストランド、ECS03T-786H
MF:日東紡績株式会社製、平均繊維径10μm、平均繊維長70μmのガラスミルドファイバー、PF 70E-001
タルク:松村産業株式会社製、クラウンタルクPP(平均粒子径12.8μm)
離型剤:エメリーオレオケミカルズジャパン株式会社製、ペンタエリスリトールテトラステアレート、LOXIOL VPG861
【0049】
【0050】
[パージ]
シリンダー温度350℃にてポリプラスチックス株式会社製、ガラス繊維を30質量%含む液晶性ポリマー組成物、ラペロス(登録商標)E130iを成形した後の状態、すなわちシリンダー内に当該液晶性ポリマー組成物(E130i)が充填されている状態を初期状態として、下記のパージ剤及び上記の液晶性ポリマー組成物(LCP組成物1~6)を、表2の組み合わせ及び順序で用いてパージを行い、最終的に成形する液晶性ポリマー組成物でシリンダー内を置換した。パージ時のシリンダー温度は、表2に示すパージ時の各材料に付記した温度にて行った。なお、矢印を挟んで2つの温度が記載されている場合は、矢印の前の温度から後の温度へ昇温しながら、又は降温しながらパージを行ったことを意味する。例えば「PC:320℃→350℃」の場合は、下記のポリカーボネート樹脂組成物を用いて、シリンダー温度を320℃から350℃に昇温させながらパージを実施した。またスクリュー回転数や背圧等の条件は、各材料の製造元が開示している標準条件をもとに適宜設定し、ノズルから吐出された樹脂の外観上、前の材料からの置換が完了したことが目視で確認できるまでパージした。
<パージ剤>
PC:帝人株式会社製、ガラス繊維を30質量%含むポリカーボネート樹脂組成物、パンライトG3430
PE:プライムポリマー株式会社製、高密度ポリエチレン樹脂、ハイゼックス6203B
スチレン系樹脂組成物1(St1):ダイセルミライズ株式会社製、セルパージNX-VG2
スチレン系樹脂組成物2(St2):旭化成株式会社製、アサクリンnewEX
スチレン系樹脂組成物3(St3):旭化成株式会社製、アサクリンIMX
【0051】
[射出成形及びガス分析]
固定側金型にキャビティと、金型排出ガス捕集管に接続された金型ガスベントと、及び真空ポンプに接続された排気路とを有する金型を、FANUC株式会社製射出成形機S2000i-30Aに搭載して、表2に示す成形条件にて連続で液晶性ポリマー組成物の射出成形を行った。なお、ゲートは、金型の一方の長辺側端面上の、長手方向の端から4分の1(32.5mm)及び4分の3(97.5mm)の2箇所に、それぞれ幅1mm×厚さ0.8mmのサイドゲートを設置した。射出成形により130mm×13mm×0.8mmの短冊状成形片を得た。射出成形機を所定時間連続で稼働させ、金型ガスベントから発生するガスを、金型排出ガス捕集管を用いて真空捕集した。発生したガスの量をガスクロマトグラフィ(GC、使用カラム:アジレント・テクノロジー株式会社DB5-MS、昇温速度10℃/分)により分析した。所定時間内に金型部分から捕集されたガスの量を所定時間内に射出成形された成形片の合計重量で除して、液晶性ポリマー組成物1gあたりの全ガス量(μg/g)を求め、さらに、その中で液晶性ポリマー組成物に由来するもの以外のガスの量を所定時間内に射出成形された成形片の合計重量で除して、液晶性ポリマー組成物1gあたりの混入ガス量(μg/g)を求めた。結果を表2に示す。なお、いずれの実施例においても、実際のサンプリングでは成形状態の安定化を図るため、初めの20ショットを捨てショットとした後、金型排出ガス捕集管をセットして、以降の成形ショットにて評価を実施した。また、いずれの実施例も金型温度80℃、保圧50MPaとした。
【0052】
[ブリスター発生評価]
上記の条件にて連続で射出成形を行い、得られた短冊状成形片を株式会社二葉科学製コンベア式熱風循環乾燥機DFC-27-022Sにて熱処理を行った。この際、送り速度0.45cm/minとし、プレヒートゾーンでは190℃設定の赤外線ヒーターと185℃設定の熱風ヒーターとを用い、リフローゾーンでは500℃設定の赤外線ヒーターと300℃設定の熱風ヒーターとを用いて、成形片の表面ピーク温度が273℃となるように熱処理を行った。処理後の成形片を目視観察してブリスターの発生状況を評価した。ブリスターの発生が全く見られないものをA、ブリスターの発生がほとんど見られないものをB、ブリスターの発生が少し見られるが目立たない程度であるものをC、やや目立つブリスターの発生が見られるものをD、顕著なブリスターの発生が見られるものをEとして判定した。結果を表2に示す。本明細書では上記評価がA~Cの場合をブリスターの発生が抑制されているものとする。
【表2】
【0053】
表2より、本発明の製造方法であれば、種々の材料や成形条件にて得られた液晶性ポリマー成形品において、熱処理後のブリスター発生を抑制できることが確認された。