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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】レーザー加工装置及びレーザー加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241202BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20241202BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20241202BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B23K26/00 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021025027
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127088
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】森 一輝
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
【審査官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-077783(JP,A)
【文献】特開2020-031134(JP,A)
【文献】特開2002-148191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハを切り出すためにインゴットに剥離層を形成するレーザー加工装置であって、
インゴットを保持する保持面を有する保持ユニットと、
該インゴットの上方から所定波長の励起光を該インゴットに照射して該インゴットから生じた蛍光を検出する蛍光検出ユニットと、
該インゴットを透過する波長のレーザービームの集光点を該インゴットから切り出されるウエーハの厚みに相当する該インゴットの上面からの深さに位置づけて照射し、剥離層を形成するレーザービーム照射ユニットと、
該保持ユニットと該レーザービーム照射ユニットとを該保持面に平行な方向に相対的に移動させる水平移動機構と、
制御ユニットと、を含み、
該制御ユニットは、
該保持面に平行な座標平面上の該インゴットの上面に含まれる複数の領域を示す複数の座標のそれぞれと、該複数の領域のそれぞれに該励起光が照射された際に該蛍光検出ユニットで検出される蛍光の光子数と、を紐付けて記憶する記憶部と、
該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームの照射条件を設定する照射条件設定部と、を有することを特徴とする、レーザー加工装置。
【請求項2】
該記憶部は、該蛍光検出ユニットで検出される該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対して設定される該レーザービームの照射条件を予め記憶し、
該照射条件設定部は、該記憶部に記憶された該蛍光の光子数に対応する該レーザービームの照射条件を参照して、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対する該レーザービームの照射条件を設定することを特徴とする、請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該照射条件設定部は、
該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、レーザービームの出力、レーザービームを集光する集光レンズの高さ及びレーザービームの重なり率の少なくとも一つを変更するように該レーザービームの照射条件を設定することを特徴とする、請求項1または2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
ウエーハを切り出すためにインゴットに剥離層を形成するレーザー加工方法であって、
インゴットを保持する保持ステップと、
該保持ステップの後、該インゴットの上方から所定波長の励起光を照射して該インゴットから生じた蛍光を検出する蛍光検出ステップと、
該インゴットの上面に含まれる複数の領域を示す複数の座標のそれぞれと、該蛍光検出ステップにおいて該複数の領域のそれぞれに該所定波長の励起光が照射された際に検出した蛍光の光子数と、を紐付けて記憶する記憶ステップと、
該インゴットを透過する波長のレーザービームの集光点を該インゴットから切り出されるウエーハの厚みに相当する該インゴットの上面からの深さに位置づけて照射した状態で、該集光点と該インゴットとを相対的に移動させることで該インゴットに剥離層を形成するレーザービーム照射ステップと、を含み、
該レーザービーム照射ステップでは、
該記憶ステップにおいて該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームの照射条件を変更しながら、該インゴットに該剥離層を形成することを特徴とする、レーザー加工方法。
【請求項5】
該インゴットに対して該所定波長の励起光を照射することで該インゴットから生じる該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対して設定される該レーザービームの照射条件を予め記憶する照射条件記憶ステップを更に含み、
該レーザービーム照射ステップでは、該照射条件記憶ステップにおいて記憶された該蛍光の光子数に対応する該レーザービームの照射条件を参照して、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対する該レーザービームの照射条件を設定することを特徴とする、請求項4に記載のレーザー加工方法。
【請求項6】
該レーザービームの照射条件として、該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、レーザービームの出力、レーザービームを集光する集光レンズの高さ及びレーザービームの重なり率の少なくとも一つが設定されることを特徴とする、請求項4または5に記載のレーザー加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハを切り出すためにインゴットに剥離層を形成するレーザー加工装置及びレーザー加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのチップは、一般的に、円盤状のウエーハを用いて製造される。このウエーハは、例えば、ワイヤーソーを用いて円柱状の半導体インゴットから切り出されることによって生成される。ただし、このようにウエーハを生成すると、インゴットの大部分がカーフロス(切り代)として失われ、経済的ではないという問題がある。
【0003】
さらに、パワーデバイス用の材料として用いられるSiC(炭化シリコン)単結晶は硬度が高い。そのため、ワイヤーソーを用いてSiC単結晶インゴットからウエーハを切り出す場合には、切り出しに時間がかかってしまい生産性が悪い。
【0004】
これらの点に鑑み、ワイヤーソーを用いることなく、レーザービームを用いてインゴットからウエーハを切り出す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、インゴットを透過する波長のレーザービームの集光点がインゴットの内部に位置付けられるようにインゴットにレーザービームを照射する。
【0005】
これにより、インゴットの内部に改質層と改質層から伸展するクラックとを含む剥離層が形成される。そして、剥離層が形成されたインゴットに超音波振動等によって外力を加えると、インゴットが剥離層において分離してウエーハが切り出される。
【0006】
ところで、SiC単結晶インゴットには、一般的に、導電性を付与するために窒素等の不純物がドープされている。ただし、SiC単結晶インゴットにおいては、このような不純物が一様にドープされることなく、不純物濃度が異なる複数の領域が含まれることがある。
【0007】
例えば、SiC単結晶の成長過程において形成されるファセット領域と呼ばれる原子レベルで平坦な領域の不純物濃度は、その他の領域(非ファセット領域)よりも高い。そして、ファセット領域のように不純物濃度が高い領域は、非ファセット領域と比較して屈折率が高いとともにエネルギーの吸収率が高い。
【0008】
そのため、上述した方法によってファセット領域を含むSiC単結晶インゴットに剥離層を形成する場合、剥離層が形成される位置(高さ)が不均一になり、カーフロスが大きくなるという問題がある。
【0009】
この点に鑑み、SiCインゴットのファセット領域と非ファセット領域とを特定し、両領域に対して異なる照射条件でレーザービームを照射するレーザー加工装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2016-111143号公報
【文献】特開2020-77783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ファセット領域における不純物濃度は、一様にならず、その中心部と外周部とで異なることがある。このような場合には、非ファセット領域と異なる照射条件でファセット領域にレーザービームを照射しても、ファセット領域内において剥離層が形成される位置(高さ)がばらつくおそれがある。
【0012】
さらに、非ファセット領域にも不純物濃度が異なる領域が含まれる場合もある。そのため、ファセット領域と非ファセット領域とに対して異なる照射条件でレーザービームを照射したとしてもカーフロスを十分に低減できないおそれがある。
【0013】
この点に鑑み、本発明の目的は、インゴットからウエーハを切り出す際のカーフロスの低減が可能なレーザー加工装置及びレーザー加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、インゴットにドープされた不純物の濃度が高くなるほど、インゴットに励起光を照射することで生じる蛍光の光子数が少なくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
例えば、本発明の一側面によれば、ウエーハを切り出すためにインゴットに剥離層を形成するレーザー加工装置であって、インゴットを保持する保持面を有する保持ユニットと、該インゴットの上方から所定波長の励起光を該インゴットに照射して該インゴットから生じた蛍光を検出する蛍光検出ユニットと、該インゴットを透過する波長のレーザービームの集光点を該インゴットから切り出されるウエーハの厚みに相当する該インゴットの上面からの深さに位置づけて照射し、剥離層を形成するレーザービーム照射ユニットと、該保持ユニットと該レーザービーム照射ユニットとを該保持面に平行な方向に相対的に移動させる水平移動機構と、制御ユニットと、を含み、該制御ユニットは、該保持面に平行な座標平面上の該インゴットの上面に含まれる複数の領域を示す複数の座標のそれぞれと、該複数の領域のそれぞれに該励起光が照射された際に該蛍光検出ユニットで検出される蛍光の光子数と、を紐付けて記憶する記憶部と、該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームの照射条件を設定する照射条件設定部と、を有する、レーザー加工装置が提供される。
【0016】
さらに、本発明のレーザー加工装置においては、該記憶部は、該蛍光検出ユニットで検出される該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対して設定される該レーザービームの照射条件を予め記憶し、該照射条件設定部は、該記憶部に記憶された該蛍光の光子数に対応する該レーザービームの照射条件を参照して、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対する該レーザービームの照射条件を設定することが好ましい。
【0017】
また、本発明のレーザー加工装置においては、該照射条件設定部は、該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、レーザービームの出力、レーザービームを集光する集光レンズの高さ及びレーザービームの重なり率の少なくとも一つを変更するように該レーザービームの照射条件を設定することが好ましい。
【0018】
本発明の他の側面によれば、ウエーハを切り出すためにインゴットに剥離層を形成するレーザー加工方法であって、インゴットを保持する保持ステップと、該保持ステップの後、該インゴットの上方から所定波長の励起光を照射して該インゴットから生じた蛍光を検出する蛍光検出ステップと、該インゴットの上面に含まれる複数の領域を示す複数の座標のそれぞれと、該蛍光検出ステップにおいて該複数の領域のそれぞれに該所定波長の励起光が照射された際に検出した蛍光の光子数と、を紐付けて記憶する記憶ステップと、該インゴットを透過する波長のレーザービームの集光点を該インゴットから切り出されるウエーハの厚みに相当する該インゴットの上面からの深さに位置づけて照射した状態で、該集光点と該インゴットとを相対的に移動させることで該インゴットに剥離層を形成するレーザービーム照射ステップと、を含み、該レーザービーム照射ステップでは、該記憶ステップにおいて該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームの照射条件を変更しながら、該インゴットに該剥離層を形成する、レーザー加工方法が提供される。
【0019】
さらに、本発明のレーザー加工方法においては、該インゴットに対して該所定波長の励起光を照射することで該インゴットから生じる該蛍光の光子数に応じて、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対して設定される該レーザービームの照射条件を予め記憶する照射条件記憶ステップを更に含み、該レーザービーム照射ステップでは、該照射条件記憶ステップにおいて記憶された該蛍光の光子数に対応する該レーザービームの照射条件を参照して、該複数の座標によって示される該複数の領域のそれぞれに対する該レーザービームの照射条件を設定することが好ましい。
【0020】
また、本発明のレーザー加工方法においては、該レーザービームの照射条件として、該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された該蛍光の光子数に応じて、レーザービームの出力、レーザービームを集光する集光レンズの高さ及びレーザービームの重なり率の少なくとも一つが設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、インゴットの上面に含まれる複数の領域のそれぞれに励起光が照射された際に生じる蛍光の光子数に応じて、当該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームの照射条件が設定される。ここで、蛍光の光子数はインゴットにドープされた不純物の濃度に依存する。
【0022】
そのため、本発明においては、インゴットに不純物濃度が異なる領域が含まれるような場合であってもインゴットの上面から一様な深さに剥離層を形成することができる。これにより、インゴットからウエーハを切り出す際のカーフロスを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1(A)は、インゴットの一例を模式的に示す正面図であり、図1(B)は、インゴットの一例を模式的に示す上面図である。
図2図2は、レーザー加工装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、レーザー加工装置の内部でレーザービームが進行する様子を模式的に示す図である。
図4図4は、蛍光検出ユニットの一例を模式的に示す図である。
図5図5は、制御ユニットの一例を模式的に示す機能ブロック図である。
図6図6は、記憶部に記憶される複数の座標の一例を模式的に示す図である。
図7図7(A)及び図7(B)のそれぞれは、記憶部に記憶される蛍光の光子数とレーザービームの出力との対応関係を模式的に示すグラフであり、図7(C)及び図7(D)のそれぞれは、記憶部に記憶される蛍光の光子数と集光レンズの高さとの対応関係を模式的に示すグラフであり、図7(E)及び図7(F)のそれぞれは、記憶部に記憶される蛍光の光子数とレーザービームの重なり率との対応関係を模式的に示すグラフである。
図8図8は、レーザー加工方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
図9図9は、蛍光検出ステップの一例を模式的に示す斜視図である。
図10図10は、レーザービーム照射ステップの一例を模式的に示す斜視図である。
図11図11は、レーザー加工方法の変形例を模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1(A)は、レーザー加工装置を用いてウエーハが切り出されるインゴットの一例を模式的に示す正面図であり、図1(B)は、このインゴットの上面図である。
【0025】
図1(A)及び図1(B)に示されるインゴット11は、例えば、概ね平行な上面(表面)11a及び下面(裏面)11bを有する円柱状のSiC単結晶からなる。このインゴット11は、SiC単結晶のc軸11cが表面11a及び裏面11bの垂線11dに対して僅かに傾くようにエピタキシャル成長を利用して生成される。
【0026】
例えば、c軸11cと垂線11dとがなす角(オフ角)αは、1°~6°(代表的には、4°)である。また、インゴット11の側面には、SiC単結晶の結晶方位を示す2つの平部、すなわち、一次オリエンテーションフラット13及び二次オリエンテーションフラット15が形成されている。
【0027】
一次オリエンテーションフラット13は、二次オリエンテーションフラット15よりも長い。また、二次オリエンテーションフラット15は、SiC単結晶のc面11eに平行な面と表面11a又は裏面11bとが交差する交差線に平行になるように形成されている。
【0028】
さらに、インゴット11には、導電性を付与するために窒素等の不純物がドープされている。また、インゴット11には、原子レベルで平坦な領域であるファセット領域11fとファセット領域11f以外の領域である非ファセット領域11gとが含まれる。
【0029】
そして、ファセット領域11fの不純物濃度は、非ファセット領域11gの不純物濃度よりも高い。なお、図1(B)においては、ファセット領域11fと非ファセット領域11gの境界が点線で示されているが、この境界線は、仮想線であり、実際のインゴット11には存在しない。
【0030】
なお、インゴット11の材料は、SiCに限定されず、LiTaO(タンタル酸リチウム:LT)又はGaN(窒化ガリウム)であってもよい。また、インゴット11の側面には、一次オリエンテーションフラット13及び二次オリエンテーションフラット15の一方又は双方が設けられていなくてもよい。
【0031】
図2は、レーザー加工装置の一例を模式的に示す斜視図である。なお、図2に示されるX軸方向及びY軸方向は、水平面上において互いに直交する方向であり、また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(鉛直方向)である。
【0032】
図2に示されるレーザー加工装置2は、各構成要素を支持する基台4を有する。基台4の上面には、水平移動機構6が配置されている。水平移動機構6は、基台4の上面に固定され、かつ、Y軸方向に沿って延在する一対のY軸ガイドレール8を有する。
【0033】
一対のY軸ガイドレール8の上部には、一対のY軸ガイドレール8に沿ってスライド可能な態様でY軸移動プレート10が連結されている。また、一対のY軸ガイドレール8の間には、Y軸方向に沿って延在するねじ軸12が配置されている。ねじ軸12の一端部には、ねじ軸12を回転させるためのモーター14が連結されている。
【0034】
ねじ軸12の螺旋状の溝が形成された表面には、回転するねじ軸12の表面を転がるボールを収容するナット部(不図示)が設けられ、ボールねじが構成されている。すなわち、ねじ軸12が回転するとボールがナット部内を循環してナット部がY軸方向に沿って移動する。
【0035】
また、このナット部は、Y軸移動プレート10の下面側に固定されている。そのため、モーター14でねじ軸12を回転させれば、ナット部とともにY軸移動プレート10がY軸方向に沿って移動する。
【0036】
Y軸移動プレート10の上面には、X軸方向に沿って延在する一対のX軸ガイドレール16が固定されている。一対のX軸ガイドレール16の上部には、一対のX軸ガイドレール16に沿ってスライド可能な態様でX軸移動プレート18が連結されている。
【0037】
また、一対のX軸ガイドレール16の間には、X軸方向に沿って延在するねじ軸20が配置されている。ねじ軸20の一端部には、ねじ軸20を回転させるためのモーター22が連結されている。
【0038】
ねじ軸20の螺旋状の溝が形成された表面には、回転するねじ軸20の表面を転がるボールを収容するナット部(不図示)が設けられ、ボールねじが構成されている。すなわち、ねじ軸20が回転するとボールがナット部内を循環してナット部がX軸方向に沿って移動する。
【0039】
また、このナット部は、X軸移動プレート18の下面側に固定されている。そのため、モーター22でねじ軸20を回転させれば、ナット部とともにX軸移動プレート18がX軸方向に沿って移動する。
【0040】
X軸移動プレート18の上面側には、円柱状のテーブル基台24が配置されている。また、テーブル基台24の上部には、インゴット11を保持するチャックテーブル(保持ユニット)26が配置されている。
【0041】
テーブル基台24の下部には、モーター等の回転駆動源(不図示)が連結されている。この回転駆動源から発生する力によって、チャックテーブル26は、Z軸方向に対して概ね平行な回転軸の周りに回転する。
【0042】
また、テーブル基台24及びチャックテーブル26は、上述した水平移動機構6によって、X軸方向及びY軸方向に移動する。チャックテーブル26の上面の一部は、例えば、多孔質材で形成されており、インゴット11を保持する保持面26aとして機能する。
【0043】
この保持面26aは、X軸方向及びY軸方向に対して概ね平行である。また、保持面26aは、チャックテーブル26の内部に設けられた流路(不図示)等を介して真空ポンプ等の吸引源(不図示)に接続されている。この吸引源が動作すると、保持面26aに負圧が生じる。これにより、例えば、保持面26aに裏面11b側が載置されたインゴット11が吸引保持される。
【0044】
基台4のY軸方向の一方側の領域上には、Y軸方向に対して概ね平行な側面を有する支持構造30が設けられている。この支持構造30の側面には、鉛直移動機構32が配置されている。鉛直移動機構32は、支持構造30の側面に固定され、かつ、Z軸方向に沿って延在する一対のZ軸ガイドレール34を有する。
【0045】
一対のZ軸ガイドレール34の支持構造30から遠い側の側部には、一対のZ軸ガイドレール34に沿ってスライド可能な態様でZ軸移動プレート36が連結されている。また、一対のZ軸ガイドレール34の間には、Z軸方向に沿って延在するねじ軸(不図示)が配置されている。このねじ軸の一端部には、ねじ軸を回転させるためのモーター38が連結されている。
【0046】
このねじ軸の螺旋状の溝が形成された表面には、回転するねじ軸の表面を転がるボールを収容するナット部(不図示)が設けられ、ボールねじが構成されている。すなわち、このねじ軸が回転するとボールがナット部内を循環してナット部がZ軸方向に沿って移動する。
【0047】
また、このナット部は、Z軸移動プレート36の支持構造30に近い側の側面に固定されている。そのため、モーター38でねじ軸を回転させれば、ナット部とともにZ軸移動プレート36がZ軸方向に沿って移動する。
【0048】
Z軸移動プレート36の支持構造30から遠い側の側面には、支持具40が固定されている。支持具40は、レーザービーム照射ユニット42の一部を支持する。図3は、レーザー加工装置2の内部でレーザービームLが進行する様子を模式的に示す図である。なお、図3においては、レーザービーム照射ユニット42の構成要素の一部が機能ブロックで示されている。
【0049】
図2及び図3に示されるように、レーザービーム照射ユニット42は、例えば、基台4に固定されたレーザー発振器44と、支持具40に支持され、かつ、Y軸方向に長い筒状のハウジング46と、ハウジング46の端部(Y軸方向の他方側の端部)に設けられた照射ヘッド48とを含む。
【0050】
レーザー発振器44は、例えば、レーザー発振に適したNd:YAG等のレーザー媒質を有し、インゴット11を透過する波長(例えば、1064nm)のレーザービームLを生成してハウジング46側に出射する。なお、レーザー発振器44で行われるレーザー発振の態様は、連続波(CW)発振及びパルス発振のいずれでもよい。
【0051】
ハウジング46は、レーザービーム照射ユニット42を構成する光学系の一部、例えば、図3に示されるミラー46a,46bを収容し、レーザー発振器44から出射されたレーザービームLを照射ヘッド48へと導く。
【0052】
照射ヘッド48には、レーザービーム照射ユニット42を構成する光学系の別の一部、例えば、ミラー48a及び集光レンズ48bが収容されている。そして、ハウジング46から導かれるレーザービームLは、ミラー48aによってその進路が下向きに変更され、また、集光レンズ48bによってチャックテーブル26側の所定の高さに集光される。
【0053】
図2に示されるように、X軸方向において照射ヘッド48と隣接する位置には、蛍光検出ユニット50が配置されている。図4は、蛍光検出ユニット50の一例を模式的に示す図である。なお、図4においては、蛍光検出ユニット50の構成要素の一部が機能ブロックで示されている。
【0054】
蛍光検出ユニット50は、励起光源52を有する。励起光源52は、例えば、GaN系発光素子を有し、インゴット11に吸収される波長(例えば、365nm)の励起光Aを側方のミラー54に向けて照射する。そして、ミラー54によって反射された励起光Aは、下方の集光レンズ56によって集光される。
【0055】
また、蛍光検出ユニット50は、内側に反射面58aを有する円環状の楕円鏡58を有する。なお、図4においては、楕円鏡58の断面が示されている。この反射面58aは、鉛直方向に延在する長軸と水平方向に延在する短軸とを有する楕円58bを、当該長軸を中心に回転させた回転楕円体の曲面の一部に相当する。
【0056】
楕円鏡58は、2つの焦点F1,F2を有し、その一方(例えば、焦点F1)から生じた光を他方(例えば、焦点F2)に集光する。なお、集光レンズ56は、その焦点が焦点F1に概ね一致するように設計される。すなわち、励起光Aは、焦点F1に集光される。
【0057】
また、蛍光検出ユニット50は、受光部60を有する。受光部60は、例えば、波長が900nm以下である光を受光すると、この光の光子数を示す電気信号を出力する光電子増倍管等を有する。あるいは、受光部60は、波長が1200nm又は1500nm以下である光を受光すると、この光の光子数を示す電気信号を出力する光電子増倍管等を有してもよい。なお、受光部60は、受光面60aの中心が楕円鏡58の焦点F2と一致するように設けられる。
【0058】
また、蛍光検出ユニット50においては、焦点F1で生じ、かつ、楕円鏡58によって反射された光がフィルタ62を通って焦点F2に向かう。すなわち、フィルタ62は、楕円鏡58の焦点F1と焦点F2との間の光路に設けられている。フィルタ62は、例えば、750nm以上の波長の光を透過させ、かつ、750nm未満の波長の光を遮断するIRフィルタを有する。
【0059】
なお、蛍光検出ユニット50は、レーザービーム照射ユニット42のハウジング46に固定されている。そのため、鉛直移動機構32が動作すると、レーザービーム照射ユニット42のハウジング46及び照射ヘッド48並びに蛍光検出ユニット50がZ軸方向に移動する。
【0060】
さらに、基台4の上部は、各構成要素を収容するカバー(不図示)によって覆われている。このカバーの一面には、図2に示されるように、タッチパネル64が配置されている。タッチパネル64は、例えば、静電容量方式のタッチセンサ又は抵抗膜方式のタッチセンサ等の入力装置と、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置とによって構成される。
【0061】
上述したレーザー加工装置2の構成要素のそれぞれの動作は、レーザー加工装置2に内蔵される制御ユニットによって制御される。図5は、このような制御ユニットの一例を模式的に示す機能ブロック図である。図5に示される制御ユニット66は、例えば、各構成要素を動作させるための各種の信号を生成する処理部68と、処理部において用いられる各種の情報(データ及びプログラム等)を記憶する記憶部70とを有する。
【0062】
処理部68の機能は、記憶部70に記憶されたプログラムを読みだして実行するCPU(Central Processing Unit)等によって具現される。また、記憶部70の機能は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)及びNAND型フラッシュメモリ等の半導体メモリと、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置との少なくとも一つによって具現される。
【0063】
処理部68は、チャックテーブル26の保持面26aに裏面11b側が吸引保持されたインゴット11に対してレーザービーム照射ユニット42から照射されるレーザービームLの照射条件を設定する照射条件設定部72を有する。例えば、照射条件設定部72は、保持面26aに平行な座標平面上のインゴット11の表面11aに含まれる複数の領域を示す複数の座標のいずれかに焦点F1が一致した状態で励起光源52から励起光Aを照射させる。
【0064】
この時、蛍光検出ユニット50の受光部60は、焦点F1において生じる蛍光Bを受光して、その光子数を示す電気信号を生成する。そして、照射条件設定部72は、焦点F1と一致する座標と、この座標によって示されるインゴット11の表面11aの領域に励起光Aが照射された際に蛍光検出ユニット50で検出される蛍光Bの光子数と、を紐付けて記憶部70に記憶させる。
【0065】
同様に、照射条件設定部72は、複数の座標の残りのそれぞれに焦点F1を一致させた状態で、励起光源52から励起光Aを照射させる。その結果、蛍光Bの光子数を示す電気信号が複数の座標の残数と同じ数だけ生成される。そして、照射条件設定部72は、複数の座標の残りのそれぞれと、複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域の残りのそれぞれに励起光Aが照射された際に蛍光検出ユニット50で検出される蛍光Bの光子数と、を紐付けて記憶部70に記憶させる。
【0066】
図6は、記憶部70に記憶される複数の座標の一例を模式的に示す図である。また、表1は、当該複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに励起光Aが照射された際に蛍光検出ユニット50で検出される蛍光Bの光子数(count per second:cps)の一例を模式的に示す表である。
【0067】
【表1】
【0068】
すなわち、記憶部70においては、例えば、6つの座標(x1,y1)、(x2,y1)、(x3,y1)、(x4,y1)、(x5,y1)、(x6,y1)と、6つの光子数(5000cps)、(5000cps)、(4000cps)、(2500cps)、(1000cps)、(3000cps)と、がそれぞれ紐付けられて記憶される。
【0069】
さらに、記憶部70には、蛍光検出ユニット50で検出される蛍光Bの光子数に応じて、複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに対して設定されるレーザービームの照射条件が予め記憶されている。そして、照射条件設定部72は、記憶部70から蛍光Bの光子数に対応するレーザービームLの照射条件を参照して、複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに対するレーザービームLの照射条件を設定する。
【0070】
ここで、記憶部70に記憶される蛍光Bの光子数に応じて、複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに対して設定されるレーザービームLの照射条件について説明する。まず、インゴット11に励起光Aを照射することで生じる蛍光Bの光子数は、インゴット11にドープされた不純物(窒素等)の濃度が高くなるほど少なくなる。そして、インゴット11の不純物濃度が高い領域ほど屈折率が高いとともにエネルギーの吸収率が高い。
【0071】
そのため、不純物濃度が異なる領域が存在するインゴット11に対して同一の照射条件で、インゴット11を透過する波長のレーザービームLを表面11a側から照射すると、不純物濃度が高い領域ほど表面11aから深い位置に剥離層が形成される。換言すると、レーザービームLの集光点は、不純物濃度が高い領域ほど表面11aから深くなる。
【0072】
したがって、不純物濃度が異なる領域が存在するインゴット11において表面11aからの深さが一様な剥離層を形成するためには、レーザービームLの照射条件を不純物濃度に応じて設定することが必要となる。
【0073】
このように設定されるレーザービームLの照射条件としては、レーザービームLの出力及びレーザービームLを集光する集光レンズ48bの高さ等が挙げられる。さらに、レーザービームLがパルスレーザービームである場合(レーザー発振器44がパルス発振を行う場合)には、レーザービームLの重なり率がレーザービームLの照射条件に含まれてもよい。
【0074】
例えば、照射条件設定部72は、蛍光Bの光子数が多くなるほどレーザービームLの出力が線形に(図7(A)参照)又は段階的に(図7(B)参照)低くなるようにレーザービームLの照射条件を設定する。なお、図7(A)及び図7(B)のそれぞれは、記憶部70に記憶される蛍光Bの光子数とレーザービームLの出力との対応関係を模式的に示すグラフである。この場合、不純物濃度が異なる領域が存在するインゴット11に形成される剥離層の表面11aからの深さのばらつきを低減することができる。
【0075】
また、照射条件設定部72は、蛍光検出ユニット50で検出される蛍光Bの光子数が多くなるほどレーザービームLを集光する集光レンズ48bの位置(高さ)が線形に(図7(C)参照)又は段階的に(図7(D)参照)高くなるようにレーザービームLの照射条件を設定してもよい。なお、図7(C)及び図7(D)のそれぞれは、記憶部70に記憶される蛍光Bの光子数と集光レンズ48bの高さとの対応関係を模式的に示すグラフである。この場合、不純物濃度が異なる領域が存在するインゴット11に形成される剥離層の表面11aからの深さのばらつきを低減することができる。
【0076】
また、照射条件設定部72は、蛍光検出ユニット50で検出される蛍光Bの光子数が多くなるほどパルスレーザービームであるレーザービームLの重なり率が線形に(図7(E)参照)又は段階的に(図7(F)参照)低くなるようにレーザービームLの照射条件を設定してもよい。なお、図7(E)及び図7(F)のそれぞれは、記憶部70に記憶される蛍光Bの光子数とレーザービームLの重なり率との対応関係を模式的に示すグラフである。この場合、不純物濃度が異なる領域が存在するインゴット11に形成される剥離層の表面11aからの深さのばらつきを低減することができる。
【0077】
レーザー加工装置2においては、インゴット11の上面(表面)11aに含まれる複数の領域のそれぞれに励起光Aが照射された際に生じる蛍光Bの光子数に応じて、当該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームLの照射条件を設定することができる。ここで、蛍光Bの光子数はインゴット11にドープされた不純物の濃度に依存する。
【0078】
そのため、レーザー加工装置2においては、インゴット11に不純物濃度が異なる領域が含まれるような場合であってもインゴット11の上面(表面)11aから一様な深さに剥離層を形成することができる。これにより、インゴット11からウエーハを切り出す際のカーフロスを低減することが可能となる。
【0079】
図8は、ウエーハを切り出すためにインゴット11に剥離層を形成するレーザー加工方法の一例を模式的に示すフローチャートである。この方法においては、まず、インゴット11を保持する(保持ステップ:S1)。
【0080】
例えば、インゴット11の表面11aが上を向くようにインゴット11をチャックテーブル26の保持面26aに載置する。そして、保持面26aに接続されている吸引源を動作させる。これにより、保持面26aに裏面11b側が載置されたインゴット11が吸引保持される。
【0081】
次いで、インゴット11の上方から所定波長(例えば、365nm)の励起光Aを照射してインゴット11から生じた蛍光Bを検出する(蛍光検出ステップ:S2)。図9は、蛍光検出ステップ(S2)の一例を模式的に示す斜視図である。
【0082】
蛍光検出ステップ(S2)においては、蛍光検出ユニット50の楕円鏡58の焦点F1、すなわち、励起光Aの集光点の高さをインゴット11の表面11aに合わせた状態で励起光Aをインゴット11に照射する。この時、保持面26aに平行な座標平面上の複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域に励起光Aが照射されるように、励起光Aの集光点とインゴット11とを水平方向に相対的に移動させる。
【0083】
例えば、まず、インゴット11の表面11aの外周近傍の座標によって示される領域に励起光Aを照射する。そして、インゴット11に励起光Aを照射しながら、チャックテーブル26が回転するように回転駆動源を動作させ、かつ、保持面26aの中心が励起光Aの集光点に徐々に近づくようにY軸方向に沿って延在するねじ軸12に連結されたモーター14を動作させる。
【0084】
これにより、図9に点線で示される螺旋状の軌跡で蛍光検出ユニット50から励起光Aがインゴット11に照射される。そして、インゴット11の表面11aに含まれる複数の領域のそれぞれから生じる蛍光Bを蛍光検出ユニット50の受光部60が検出する。なお、励起光Aの照射は、チャックテーブル26が回転するように回転駆動源を動作させ、かつ、X軸方向に沿って延在するねじ軸20に連結されたモーター22を動作させながら行われてもよい。
【0085】
次いで、複数の座標と蛍光Bの光子数とを紐付けて記憶する(記憶ステップ:S3)。具体的には、インゴット11の表面11aに含まれる複数の領域を示す複数の座標のそれぞれと、蛍光検出ステップ(S2)において複数の領域のそれぞれに励起光Aが照射された際に検出した蛍光Bの光子数と、を紐付けて制御ユニット66の記憶部70が記憶する。
【0086】
次いで、蛍光Bの光子数に応じて複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域に対するレーザービームLの照射条件を変更しながらレーザービームLをインゴット11に照射して剥離層を形成する(レーザービーム照射ステップ:S4)。図10は、レーザービーム照射ステップ(S4)の一例を模式的に示す斜視図である。
【0087】
レーザービーム照射ステップ(S4)においては、インゴット11を透過する波長(例えば、1064nm)のレーザービームLの集光点をインゴット11の表面11aから切り出されるウエーハの厚みに相当する深さに位置づけて照射する。
【0088】
例えば、まず、インゴット11の表面11aのX軸方向における一端にレーザービームLを照射する。そして、インゴット11にレーザービームLを照射しながら、チャックテーブル26をX軸方向に沿って移動させてインゴット11の表面11aのX軸方向における他端にレーザービームLの集光点が至るまで水平移動機構6に含まれるモーター22を動作させる。
【0089】
さらに、チャックテーブル26をY軸方向に沿って移動させるように水平移動機構6に含まれるモーター14を動作させた後、同様の操作を繰り返す。これにより、図10に点線で示される複数の直線状の軌跡で照射ヘッド48からレーザービームLがインゴット11に照射される。その結果、インゴット11に剥離層が形成される。
【0090】
ここで、レーザービームLの照射は、蛍光検出ステップ(S2)において記憶部70に記憶された複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域を通るように行われる。また、当該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームLの照射条件は、当該複数の座標のそれぞれに紐付けて記憶された蛍光Bの光子数に応じて設定される。すなわち、レーザービームLの照射は、記憶ステップ(S3)において複数の座標のそれぞれと紐付けて記憶された蛍光Bの光子数に応じて条件が変更されながら実施される。
【0091】
図8に示されるレーザー加工方法においては、インゴット11の上面(表面)11aに含まれる複数の領域のそれぞれに励起光Aが照射された際に生じる蛍光Bの光子数に応じて、当該複数の領域のそれぞれに対するレーザービームLの照射条件を設定する。ここで、蛍光Bの光子数はインゴット11にドープされた不純物の濃度に依存する。
【0092】
そのため、この方法においては、インゴット11に不純物濃度が異なる領域が含まれるような場合であってもインゴット11の上面(表面)11aから一様な深さに剥離層を形成することができる。これにより、インゴット11からウエーハを切り出す際のカーフロスを低減することが可能となる。
【0093】
なお、図8に示されるレーザー加工方法は本発明の一態様であって、本発明のレーザー加工方法は図8に示される方法に限定されない。例えば、本発明のレーザー加工方法においては、保持ステップ(S1)に先立って、蛍光Bの光子数に応じて複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに設定されるレーザービームLの照射条件が記憶部70に予め記憶されてもよい(図11参照)。
【0094】
換言すると、本発明のレーザー加工方法は、蛍光Bの光子数に応じて、複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに対して設定されるレーザービームLの照射条件を予め記憶する照射条件記憶ステップ(S5)を更に含んでもよい。この場合、レーザービーム照射ステップ(S4)では、照射条件記憶ステップ(S5)において記憶された蛍光Bの光子数に対応するレーザービームLの照射条件を参照して、複数の座標によって示されるインゴット11の表面11aの複数の領域のそれぞれに対するレーザービームLの照射条件を設定する。
【0095】
その他、上述した実施形態にかかる構造及び方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0096】
11 :インゴット
(11a:上面(表面)、11b:下面(裏面)、11c:c軸)
(11d:垂線、11e:c面)
(11f:ファセット領域、11g:非ファセット領域)
13 :一次オリエンテーションフラット
15 :二次オリエンテーションフラット
2 :レーザー加工装置
4 :基台
6 :水平移動機構
8 :Y軸ガイドレール
10 :Y軸移動プレート
12 :ねじ軸
14 :モーター
16 :X軸ガイドレール
18 :X軸移動プレート
20 :ねじ軸
22 :モーター
24 :テーブル基台
26 :チャックテーブル(保持ユニット)(26a:保持面)
30 :支持構造
32 :鉛直移動機構
34 :Z軸ガイドレール
36 :Z軸移動プレート
38 :モーター
40 :支持具
42 :レーザービーム照射ユニット
44 :レーザー発振器
46 :ハウジング(46a,46b:ミラー)
48 :照射ヘッド(48a:ミラー、48b:集光レンズ)
50 :蛍光検出ユニット
52 :励起光源
54 :ミラー
56 :集光レンズ
58 :楕円鏡(58a:反射面、58b:楕円)
60 :受光部(60a:受光面)
62 :フィルタ
64 :タッチパネル
66 :制御ユニット
68 :処理部
70 :記憶部
72 :照射条件設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11