(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】ブレードケース
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20241202BHJP
B25H 3/02 20060101ALI20241202BHJP
B23Q 13/00 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B25H3/02
B23Q13/00
(21)【出願番号】P 2021034052
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】新田 秀次
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-221989(JP,A)
【文献】特開2018-161697(JP,A)
【文献】特開2009-95908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B25H 3/02
B23Q 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を貫通する貫通孔が中央に形成された円板状のハブ基台を有し、該ハブ基台の該裏面側の外周に切刃が設けられ、該ハブ基台の該表面側に被把持部が設けられた切削ブレードを収容できるブレードケースであって、
該切削ブレードを収容できる収容凹部を有する収容体と、
該収容凹部の入り口を閉じる蓋体と、を含み、
該収容体は、
該ハブ基台の該裏面側から該貫通孔に進入する進入凸部と、
該進入凸部に進入された該ハブ基台の該裏面が当接して該切削ブレードを支持する支持部と、
該収容凹部の該入り口側に設けられた収容体側係合部と、を含み、
該蓋体には、
弾性材で形成されており該収容体の該入り口に対応した形状の板状本体と、
該板状本体の一方の面に形成され該切削ブレードの該ハブ基台の該被把持部を隙間を介して部分的に包囲できるハブ基台把持部と、
該板状本体の外周部に設けられ該収容体の該収容体側係合部と係合する蓋体側係合部と、
該板状本体の該一方の面において該ハブ基台把持部よりも内側に開口し、該ハブ基台の該貫通孔の径よりも大きい径であり、該板状本体の該一方の面及び他方の面を連通する連通孔と、
該板状本体の該他方の面から突出し該連通孔を取り囲む握り部と、が設けられており、
該板状本体には、該連通孔から外周に至る切り欠きが設けられており、
外側から該連通孔に向いた力が該蓋体の該握り部に印加されると、該連通孔の径が小さくなるように該蓋体が変形して該隙間が減少し、該ハブ基台把持部が該切削ブレードの該ハブ基台の該被把持部を把持するとともに該蓋体側係合部と、該収容体側係合部と、の係合が解かれ、該ハブ基台の該被把持部を該ハブ基台把持部で把持する該蓋体が該収容体から分離可能となることを特徴とするブレードケース。
【請求項2】
該収容体側係合部は、該蓋体側係合部を外側から囲む形状であり、
該収容体側係合部及び該蓋体側係合部の一方には、該収容体側係合部及び該蓋体側係合部の他方に設けられた係合凹部に嵌められる係合凸部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のブレードケース。
【請求項3】
該蓋体の該板状本体の該切り欠き及び該連通孔の一方または両方は、該板状本体よりも柔軟性の高いカバー部材で塞がれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブレードケース。
【請求項4】
該蓋体の該板状本体の該切り欠きは、該連通孔から該外周まで直線状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のブレードケース。
【請求項5】
該蓋体の該握り部の外表面には、複数の小溝が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のブレードケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペレータ(作業者)が把持する被把持部を表面に有するハブ基台と、該ハブ基台の外周に設けられた切刃と、を含む切削ブレードを収容するブレードケースに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップの製造工程では、まず、半導体等の材料からなるウェーハの表面に複数の交差する分割予定ライン(ストリート)を設定する。そして、該分割予定ラインで区画される各領域にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスを形成する。その後、ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割すると、個々のデバイスチップが形成される。
【0003】
ウェーハの分割には、切削装置が使用される。切削装置は、スピンドルと、該スピンドルの先端に固定されたブレードマウントと、を有する。ブレードマウントには、円環状の切刃を有する切削ブレードが装着される。ウェーハを切削する際には、スピンドルを回転させることで切削ブレードを回転させるとともに切削ブレードを所定の高さ位置に下降させる。そして、被加工物と、切削ブレードと、を相対移動させ、分割予定ラインに沿って切削ブレードでウェーハに切り込む。
【0004】
切削装置に装着される切削ブレードとして、近年、刃厚が10μm~30μm程度の極めて薄い切刃を有する切削ブレードが使用されている。切削ブレードを交換する際に薄い切刃をオペレータ(作業者)が直接手で持つと、切刃が簡単に破損してしまう。そこで、外周部に切刃が電着された環状のハブ基台を有するハブタイプと呼ばれる切削ブレードが広く知られている。ハブタイプの切削ブレードでは、オペレータが切刃を直接手で持つ必要はなく、ハブ基台の被把持部を把持することで切削ブレードを運搬できる。
【0005】
ところが、ハブ基台のオペレータの指のかかる被把持部自体の幅も小さく、オペレータが安定的に被把持部を把持するのは必ずしも容易ではない。また、ハブ基台と切刃が隣接しているため、被把持部を把持しようとする指が切刃に接触して怪我を負うことや、逆に指が切刃に衝撃を与えて該切刃が破損することがある。
【0006】
そこで、オペレータが切削ブレードに直接触れることなく該切削ブレードを把持して運搬するための治具が提案された(特許文献1参照)。オペレータは、切削ブレードに直接触れることなくこの治具を介して該切削ブレードを安定的に保持できるため、怪我を負う心配も切削ブレードの切刃を破損させる心配もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、デバイスチップの製造工場に多数の切削装置を配置していた場合、作業性を考慮して各切削装置の近傍に治具を配置しておく必要があり、多数の治具が必要となる。また、この治具は切削ブレードが収容されたブレードケースや切削ブレードとは独立に扱われるため、オペレータが切削ブレードを切削装置に装着する際に該治具を取りに行く手間が生じる。そして、オペレータは、ブレードケースの蓋を手で開き、蓋を治具に持ち替えて、この治具で切削ブレードを把持するとの一連の作業が必要となる。
【0009】
その上、この治具は不使用時に切削装置の近くに放置されるため、紛失しやすい。そして、オペレータは、切削ブレードを扱う際にこの治具を使用しようとして初めて治具の紛失に気が付く。この場合、新しい治具にコストがかかるだけでなく、新しい治具を準備する時間の分だけ切削装置の稼働時間が減るため、デバイスチップの製造効率の低下につながり、その損害は無視できない。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削ブレードを保持するための治具の機能を兼ね備え、作業性が良く、紛失も生じにくいブレードケースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、表面及び裏面を貫通する貫通孔が中央に形成された円板状のハブ基台を有し、該ハブ基台の該裏面側の外周に切刃が設けられ、該ハブ基台の該表面側に被把持部が設けられた切削ブレードを収容できるブレードケースであって、該切削ブレードを収容できる収容凹部を有する収容体と、該収容凹部の入り口を閉じる蓋体と、を含み、該収容体は、該ハブ基台の該裏面側から該貫通孔に進入する進入凸部と、該進入凸部に進入された該ハブ基台の該裏面が当接して該切削ブレードを支持する支持部と、該収容凹部の該入り口側に設けられた収容体側係合部と、を含み、該蓋体には、弾性材で形成されており該収容体の該入り口に対応した形状の板状本体と、該板状本体の一方の面に形成され該切削ブレードの該ハブ基台の該被把持部を隙間を介して部分的に包囲できるハブ基台把持部と、該板状本体の外周部に設けられ該収容体の該収容体側係合部と係合する蓋体側係合部と、該板状本体の該一方の面において該ハブ基台把持部よりも内側に開口し、該ハブ基台の該貫通孔の径よりも大きい径であり、該板状本体の該一方の面及び他方の面を連通する連通孔と、該板状本体の該他方の面から突出し該連通孔を取り囲む握り部と、が設けられており、該板状本体には、該連通孔から外周に至る切り欠きが設けられており、外側から該連通孔に向いた力が該蓋体の該握り部に印加されると、該連通孔の径が小さくなるように該蓋体が変形して該隙間が減少し、該ハブ基台把持部が該切削ブレードの該ハブ基台の該被把持部を把持するとともに該蓋体側係合部と、該収容体側係合部と、の係合が解かれ、該ハブ基台の該被把持部を該ハブ基台把持部で把持する該蓋体が該収容体から分離可能となることを特徴とするブレードケースが提供される。
【0012】
好ましくは、該収容体側係合部は、該蓋体側係合部を外側から囲む形状であり、該収容体側係合部及び該蓋体側係合部の一方には、該収容体側係合部及び該蓋体側係合部の他方に設けられた係合凹部に嵌められる係合凸部が設けられている。
【0013】
また、好ましくは、該蓋体の該板状本体の該切り欠き及び該連通孔の一方または両方は、該板状本体よりも柔軟性の高いカバー部材で塞がれている。
【0014】
また、好ましくは、該蓋体の該板状本体の該切り欠きは、該連通孔から該外周まで直線状に形成されている。
【0015】
また、好ましくは、該蓋体の該握り部の外表面には、複数の小溝が設けられている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係るブレードケースは、切削ブレードを収容できる収容凹部を有する収容体と、この収容凹部の入り口を閉じる蓋体と、を含む。そして、弾性材で形成された蓋体の板状本体には、連通孔と、該連通孔を取り囲む握り部と、該連通孔から外周に至る切り欠きと、切削ブレードのハブ基台を部分的に包囲できるハブ基台把持部と、が設けられている。
【0017】
ブレードケースに収容されて搬送された切削ブレードを切削装置に装着する際、オペレータは、ブレードケースの蓋体の握り部をつまむ。握り部に外側から力が印加されると、蓋体が変形してハブ基台把持部が切削ブレードのハブ基台を把持するとともに、蓋体側係合部と、収容体側係合部と、の係合が解かれる。そのため、オペレータが蓋体をそのまま収容体から引き抜くと、蓋体を介して切削ブレードが把持された状態となる。
【0018】
すなわち、この蓋体は、オペレータが切削ブレードに直接触れることなく該切削ブレードを把持して運搬するための治具として機能する。この蓋体は、切削ブレードを収容するブレードケースの一部として該切削ブレードとともに運搬されるため、切削ブレードを把持する際に治具を探す必要がなく、治具の紛失の心配はない。そもそも、ブレードケースの他に治具を準備する必要がないため、治具に要していたコストを削減できる。
【0019】
そして、オペレータが蓋体の握り部をつまむ動作により、切削ブレードの保持と、ブレードケースの開封と、の2つの動作が同時に実行される。さらに、蓋体は最初から切削ブレードに隣接しており、治具を切削ブレードに当てる動作すら不要となる。そのため、このブレードケースを利用すると切削ブレードを切削装置に装着するのに要する時間が短縮され、切削装置の稼働時間を増大できる。切削ブレードを交換する度に切削装置の稼働時間の増大の効果が積み増されるため、その利益の大きさは計り知れない。
【0020】
このように、本発明の一態様によると、切削ブレードを保持するための治具の機能を兼ね備え、作業性が良く、紛失も生じにくいブレードケースが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】切削装置の切削ユニットの一部の構成を模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】ブレードケースの構成例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3(A)は、収容体の裏面側を模式的に示す平面図であり、
図3(B)は、収容体の表面側を模式的に示す平面図であり、
図3(C)は、蓋体の裏面側を模式的に示す平面図であり、
図3(D)は、蓋体の表面側を模式的に示す平面図である。
【
図4】ブレードケースと、該ブレードケースに収容された切削ブレードと、を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係るブレードケースは、被加工物を切削する切削装置に装着される切削ブレードを収容する容器である。オペレータは、切削ブレードを収容するブレードケースを切削装置に運搬し、該ブレードケースから該切削ブレードを取り出して該切削装置に装着する。切削装置は、切削ブレードを回転させながら該切削ブレードを被加工物に切り込ませることで被加工物を切削加工する。
【0023】
被加工物は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体材料から形成される略円板状のウェーハである。または、被加工物は、サファイア、石英、ガラス、セラミックス等の材料からなる板状の基板等である。該ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等である。ただし、被加工物に特に制限はない。
【0024】
例えば、被加工物の表面には、IC、LSI等の複数のデバイスが形成されている。該被加工物には、デバイス間に分割予定ラインが設定される。そして、切削装置で該被加工物を該分割予定ラインに沿って切削し被加工物を分割すると、個々のデバイスチップを形成できる。
図1は、切削装置が備える切削ユニット2の一部の構成を模式的に示す分解斜視図である。
【0025】
まず、本実施形態に係るブレードケースに収容される切削ブレード1について説明する。
図1等に示すハブタイプと呼ばれる切削ブレード1は、円板状のハブ基台3を有し、ハブ基台3の裏面3b側の外周に切刃7が設けられている。
【0026】
ハブ基台3は、アルミニウム、または、ステンレス鋼等の金属材料により形成される。また、切刃7は、ダイヤモンド等の砥粒を樹脂や金属(代表的には、ニッケル)等の結合材で固めて形成され、ハブ基台3の外周部から径方向外側に突出している。この切刃7は、例えば、めっき等の方法で10μm~30μm程度の刃厚に形成される。ただし、ハブ基台3や切刃7の材質、大きさ(厚さ)、製法等に特段の制限はない。
【0027】
ハブ基台3の中央には、表面3a及び裏面3bを貫通する貫通孔5が形成されている。ハブ基台3の表面3a側には、切削装置に新しい切削ブレード1を取り付ける際や、切削装置から使用済みの切削ブレード1を取り外す際にオペレータに把持される被把持部9が設けられている。被把持部9は、貫通孔5を囲む環状に形成され、ハブ基台3の表面3a側に突出している。また、被把持部9の径は、基端側に比べて先端側で僅かに大きくなっている。
【0028】
次に、切削ユニット2について説明する。切削ユニット2は、回転軸を構成するスピンドル6を備え、スピンドル6の先端にはフランジ機構8を介して切削ブレード1が固定される。スピンドル6の基端側は、スピンドルハウジング4に収容されている。スピンドルハウジング4の内部では、スピンドル6がエアベアリングによって回転可能に支持される。さらに、スピンドルハウジング4の内部には、スピンドル6をその伸長方向の周りに回転させるスピンドルモータ(不図示)が設けられている。
【0029】
スピンドル6の先端には、フランジ機構8が固定されている。フランジ機構8は、スピンドル6の先端に切削ブレード1を固定するために使用される。ハブタイプの切削ブレード1を保持するフランジ機構8は、切削ブレード1のハブ基台3の貫通孔5に挿通する円柱状のボス部12を備える。また、フランジ機構8は、ボス部12の後方側から径方向外向きに突出するフランジ部10を備える。フランジ部10は、切削ブレード1のハブ基台3の裏面3b側を支持する支持面10aを有する。
【0030】
さらに、フランジ機構8は、スピンドル6の先端が挿入されるスピンドル装着穴(不図示)をフランジ部10の内側に備える。スピンドル装着穴は、フランジ機構8の後方側に露出している。スピンドル6は、例えば、先端に向かうにつれて径が小さくなる先細り形状を有し、外周面がテーパー形状となっている。そして、スピンドル装着穴の内面は、スピンドル6の外周面のテーパー形状に対応するテーパー形状となっている。フランジ機構8は、図示しない固定ねじ等によりスピンドル6の先端に固定される。
【0031】
また、ボス部12の外径は、切削ブレード1のハブ基台3の貫通孔5の内径に対応している。フランジ機構8を使用してスピンドル6の先端に切削ブレード1を固定する際には、ハブ基台3の貫通孔5にフランジ機構8のボス部12が通される。ボス部12の先端部の外周面にはねじ山14が形成されている。ハブ基台3の貫通孔5にボス部12を通し、ボス部12の先端部に固定ナット16を螺合させると、ハブ基台3をフランジ部10と、固定ナット16と、で挟み込み、切削ブレード1を固定できる。
【0032】
切削ブレード1のフランジ機構8への装着は、切削装置を使用するオペレータにより実施される。しかしながら、ハブ基台3の被把持部9の幅が小さく、オペレータが安定的に被把持部9を把持するのは容易ではない。また、ハブ基台3と切刃7が隣接しているため、被把持部9を把持しようとする指が切刃7に接触して怪我を負うことや、逆に指が切刃7に衝撃を与えて切刃7が破損することがある。そこで、オペレータが切削ブレード1に直接触れることなく該切削ブレード1を保持して運搬するための治具が使用される。
【0033】
本実施形態に係るブレードケースの蓋体は、この治具としての機能を兼ね備える。本実施形態に係るブレードケースは、切削ブレード1を収容し保管する際に使用される。切削ブレード1は、ブレードケースに収容された状態で切削装置に運搬される。次に、本実施形態に係るブレードケースについて説明する。
図2は、本実施形態に係るブレードケース20と、収容される切削ブレード1と、を模式的に示す分解斜視図である。
【0034】
ブレードケース20は、切削ブレード1を収容できる収容凹部26を有する収容体22と、収容凹部26を閉じる蓋体24と、を含む。ブレードケース20の収容体22及び蓋体24は、例えば、ポリプロピレン等の合成樹脂で形成され、互いに分離可能である。以下に説明するブレードケース20の各部は、収容される切削ブレード1の各部の形状及び大きさに合わせた形状及び大きさで形成される。各部は、その機能を発揮できる範囲において、形状及び大きさが適宜決定される。
【0035】
図3(A)は、収容体22の裏面22b側を模式的に示す平面図であり、
図3(B)は、収容体22の表面22a側を模式的に示す平面図である。また、
図3(C)は、蓋体24の裏面24b側を模式的に示す平面図であり、
図3(D)は、蓋体24の表面24a側を模式的に示す平面図である。また、
図4は、切削ブレード1を収容するブレードケース20を模式的に示す断面図である。
【0036】
まず、収容体22から説明する。収容体22は、裏面22b側が平坦であり、表面22a側に収容凹部26が形成された円板状の部材である。収容凹部26の底面の中央には、ハブ基台3の裏面3b側から貫通孔5に進入する進入凸部30が設けられている。進入凸部30は、貫通孔5に挿通できる大きさ及び形状に形成されており、好ましくは、切削ユニット2のフランジ機構8のボス部12と同等の径の円柱状に形成される。進入凸部30の高さは、貫通孔5の長さよりも大きいことが好ましい。
【0037】
収容体22の収容凹部26の底面の進入凸部30の周囲には、ハブ基台3の裏面3bが当接する平坦な支持部32が設けられている。支持部32は、切削ブレード1の切刃7の内径よりも小さい外径の環状の領域で構成されている。
【0038】
収容体22の収容凹部26の底面の該支持部32の周囲には、収容凹部26に収容された切削ブレード1の切刃7が収まる空間として機能する環状凹部34が設けられる。環状凹部34は、収容凹部26に切削ブレード1が収容されたときに切刃7がブレードケース20の各構成要素に接触しないための空間を確保するために収容体22に形成される。すなわち、環状凹部34は、切削ブレード1の切刃7の内径よりも小さい内径を有し、切刃7の外径よりも大きい外径を有し、切刃7の刃厚よりも大きい深さを有する。
【0039】
収容体22の環状凹部34の外側には、表面22a側に向けて立設する円筒状の側壁36が設けられている。円筒状の側壁36は、切削ブレード1の切刃7の外径よりも大きい内径を有する。側壁36の高さは、収容凹部26に切削ブレード1が十分に収められるように決定されるとよく、好ましくは、ハブ基台3の厚みよりも大きい。
【0040】
収容凹部26の入り口28側の側壁36の内面には、収容体側係合部38が設けられている。収容体側係合部38は、後に説明する蓋体24の蓋体側係合部と係合する機能を有する。収容体側係合部38の構造及び機能については、後に詳述する。
【0041】
次に、収容体22と組み合わされて使用される蓋体24について説明する。蓋体24は、弾性材で形成されており、収容体22の入り口28に対応した形状の板状本体40を有する。例えば、板状本体40は、略円板状に形成されており、収容体22の入り口28と同等の径を有する。
【0042】
ここで、弾性材とは、外部から外力を印加すると変形するが、この外力を取り除くと元の形状に戻る性質の材料をいう。蓋体24に使用される弾性材は、人間の指先が物を摘まむ際にその物に印加される大きさの力で変形可能である材料であることが好ましい。板状本体40は、例えば、ポリプロピレン等の合成樹脂で形成される。
【0043】
板状本体40の一方の面側(裏面24b側)には、隙間44を介して切削ブレード1のハブ基台3の被把持部9を部分的に包囲できるハブ基台把持部42が形成される。ハブ基台把持部42は略円筒状であり、板状本体40の該一方の面の外周部から立設している。
【0044】
ハブ基台把持部42の内径は、ハブ基台3の被把持部9の径よりも大きい。そして、ハブ基台把持部42の先端には、内側に僅かに突き出た爪部46が形成されている。爪部46は、切削ブレード1のハブ基台3の被把持部9の位置に対応する位置に形成される。板状本体40が後述の通り変形したとき、この爪部46が切削ブレード1のハブ基台3の被把持部9にかかり、切削ブレード1が蓋体24から外れなくなる。
【0045】
板状本体40の中央には、該板状本体40の一方の面(裏面24b側)及び他方の面(表面24a側)を連通する連通孔50が形成されている。連通孔50は、板状本体40の一方の面(裏面24b側)においてハブ基台把持部42よりも内側に開口するとともに、切削ブレード1のハブ基台3の貫通孔5の径よりも大きい径に形成されている。
【0046】
蓋体24には、板状本体40の該他方の面(表面24a側)から突出し連通孔50を取り囲む握り部52が設けられている。また、板状本体40には、連通孔50から外周に至る切り欠き56が形成されている。蓋体24の板状本体40の切り欠き56は、例えば、連通孔50から該外周まで直線状に形成されている。ただし、切り欠き56の形状はこれに限定されない。
【0047】
握り部52は、切削装置のオペレータが指先でつまむための部分である。オペレータは、一方の手の複数の指で握り部52を挟むことで握り部52に径方向内側に向く力を印加できる。オペレータが指で握り部52をつまみやすいように、握り部52の外表面には、指がかかりやすい複数の小溝54が設けられることが好ましい。
【0048】
板状本体40には切り欠き56が形成されているため、オペレータが握り部52を指で摘まみ径方向内側に向く力を握り部52に印加すると弾性材で形成された板状本体40が変形する。具体的には、切り欠き56の両壁面が互いに近づき、連通孔50の径が小さくなり、板状本体40の外径が小さくなるように変形する。そして、オペレータが指を握り部52から離すと、握り部52に外力が印加されなくなり、板状本体40が元の形状に戻る。
【0049】
板状本体40の外周部には、収容体22の収容体側係合部38と係合する蓋体側係合部48が設けられている。例えば、蓋体側係合部48は、板状本体40の外周面40aに凸状に設けられる。
【0050】
ここで、収容体22の収容体側係合部38と、蓋体24の蓋体側係合部48と、について詳述する。収容体側係合部38及び蓋体側係合部48は、互いに係合可能である。両者が互いに係合していると、収容体22と、蓋体24と、が一体化される。収容体22の収容凹部26に切削ブレード1を収容した状態で収容体22と、蓋体24と、を一体化させると、ブレードケース20の内部に切削ブレード1が安全に保管される。切削ブレード1は、この状態で安全に運搬される。
【0051】
図4等に示す通り、収容体側係合部38は、蓋体側係合部48を外側から囲む形状であることが好ましい。この場合、収容体側係合部38及び蓋体側係合部48の一方には、収容体側係合部38及び蓋体側係合部48の他方に設けられた係合凹部に嵌められる係合凸部が設けられる。そして、この係合凹部に係合凸部が嵌め入れられていると、係合凹部に係合凸部が引っ掛かり、収容体側係合部38及び蓋体側係合部48が互いに係合される。
【0052】
オペレータが蓋体24の握り部52を指でつまみ板状本体40の外径が小さくなると、係合凹部から係合凸部が抜け出し、収容体側係合部38及び蓋体側係合部48が離間される。すなわち、収容体側係合部38及び蓋体側係合部48の係合が解かれる。このとき、オペレータが蓋体24を収容体22から離すように移動させても係合凸部が係合凹部に引っ掛からないため、蓋体24と収容体22の分離が可能となる。
【0053】
また、外側から連通孔50に向いた力が蓋体24の握り部52に印加されると、連通孔50の径が小さくなるように蓋体24が変形し、ハブ基台3の被把持部9と、ハブ基台把持部42と、の間の隙間44が減少する。そして、ハブ基台把持部42がハブ基台3の被把持部9に接触し、ハブ基台把持部42が切削ブレード1のハブ基台3を把持した状態で蓋体24の変形が止まる。
【0054】
すなわち、本実施形態に係るブレードケース20では、オペレータが蓋体24の握り部52をつまむと、蓋体側係合部48と、収容体側係合部38と、の係合が解かれ、ハブ基台把持部42で切削ブレード1を把持する蓋体24が収容体22から分離可能となる。したがって、オペレータは一度の動作でブレードケース20の開封と、蓋体24を介した切削ブレード1の把持と、を実施できる。
【0055】
切削ブレード1を切削ユニット2のフランジ機構8に装着する際、オペレータは、蓋体24を介して切削ブレード1を把持し該フランジ機構8に切削ブレード1を運搬できる。そして、そのままハブ基台3の裏面3b側に露出する貫通孔5にフランジ機構8のボス部12を通す。
【0056】
ここで、蓋体24が変形した状態における連通孔50の径をハブ基台3の貫通孔5より大きくしておくと、すなわち、ボス部12の径より大きくしておくと、ボス部12が貫通孔5を突き抜けたときにボス部12が蓋体24の連通孔50にそのまま進入できる。そのため、蓋体24にボス部12が衝突することがなく、フランジ機構8のフランジ部10の支持面10aにハブ基台3の裏面3bが当たるまで切削ブレード1を移動できる。
【0057】
その後、オペレータが蓋体24の握り部52をつまむ力を緩和すると、蓋体24の形状が元の形状に戻り、ハブ基台把持部42によるハブ基台3の把持が解除される。そして、蓋体24をボス部12に対して引き抜くと、切削ブレード1がフランジ機構8に残されたまま蓋体24を切削ユニット2から除外できる。
【0058】
次に、固定ナット16をボス部12の先端に設けられたねじ山に所定の大きさの力で締め込み、固定ナット16と、フランジ機構8のフランジ部10と、で切削ブレード1を挟み込むと、切削ブレード1がフランジ機構8に固定される。そして、切削ブレード1の搬入に使用された蓋体24は、再び収容体22に戻されて一体化されるとよい。
【0059】
ブレードケース20の状態で蓋体24を保管しておくと、蓋体24のみを紛失することがなく、蓋体24のみを後に探すことが無くなる。少なくとも、切削装置の切削ユニット2から使用済みの切削ブレード1を取り外す際、ブレードケース20を探すのに加えて蓋体24を探す必要はない。
【0060】
切削ユニット2から使用済みの切削ブレード1を取り外す際には、まず、固定ナット16を緩めてボス部12から取り外す。そして、蓋体24の握り部52を指でつまみ、収容体22から蓋体24を取り外す。次に、蓋体24の連通孔50にボス部12を通し、蓋体24の裏面24b側を切削ブレード1のハブ基台3の表面3aに接触させる。オペレータは、このとき、予め握り部52をつまむ力を緩めておくと、蓋体24のハブ基台把持部42の爪部46がハブ基台3に干渉することがない。
【0061】
その後、オペレータが握り部52をつまむ力を増して蓋体24の板状本体40を変形させると、ハブ基台把持部42の爪部46がハブ基台3の被把持部9にかかり、ハブ基台3が蓋体24に把持される。この状態を維持しつつ蓋体24をボス部12から引き抜くと、切削ブレード1をフランジ機構8から取り外せる。
【0062】
そして、そのまま収容体22の収容凹部26に切削ブレード1を収容させつつ蓋体24を収容体22の収容凹部26の入り口28に挿し入れる。オペレータがこの時点で握り部52から手を放すと、板状本体40が元の形状に戻り、収容体側係合部38及び蓋体側係合部48が互いに係合され、切削ブレード1がブレードケース20に収容される。このとき、蓋体24が収容体22と一体化されるため、オペレータは、切削ブレード1の取り外しに使用した蓋体24を保管する場所を考える必要がない。
【0063】
以上に説明する通り、本実施形態に係るブレードケース20によると、切削ブレード1を切削装置に装着する際に、オペレータが切削ブレード1に直接触れることなく該切削ブレード1を把持して運搬できる。この蓋体は、切削ブレード1を収容するブレードケース20の一部として該切削ブレード1とともに運搬されるため、切削ブレード1を把持する際に治具を探す必要がなく、治具の紛失の心配はない。そもそも、ブレードケース20の他に治具を準備する必要がないため、治具に要していたコストを削減できる。
【0064】
そして、オペレータが蓋体24の握り部52をつまむ動作により、切削ブレード1の保持と、ブレードケース20の開封と、の2つの動作が同時に実行される。さらに、蓋体24は最初から切削ブレード1に隣接しており、治具を切削ブレードに当てる動作すら不要である。そのため、このブレードケース20を利用すると切削ブレードを切削装置に装着するのに要する時間が短縮され、切削装置の稼働時間を増大できる。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態等の記載に制限されず種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、蓋体24の板状本体40に切り欠き56が形成されているため、板状本体40の変形が可能になることについて説明した。収容体22と、蓋体24と、が一体化されて収容凹部26の入り口28が閉じられているとき、この切り欠き56によりブレードケース20の気密性は低くなる。
【0066】
そこで、本発明の一態様に係るブレードケース20では、切り欠き56によるブレードケース20の気密性の低下を抑制するために、板状本体40よりも柔軟性の高いフィルム状のカバー部材で切り欠き56が塞がれていてもよい。この場合、オペレータが握り部52をつまむときに該カバー部材が撓むため、板状本体40の変形が妨げられることがない。
【0067】
例えば、使用済みの切削ブレード1を切削装置から取り外してブレードケースに収容すると、切削ブレード1に付着していた加工屑等が該切削ブレード1から脱落することが考えられる。しかしながら、カバー部材により切り欠き56が塞がれていると、この加工屑等が切り欠き56から周囲に漏れ出ることがない。逆に、切り欠き56を通して外部からブレードケースの内部に塵等が進入することもない。なお、このカバー部材は、蓋体24の表面24a側において連通孔50を塞ぐように設けられてもよい。
【0068】
その他、上記実施形態及び変形例に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更できる。
【符号の説明】
【0069】
1 切削ブレード
3 ハブ基台
3a 表面
3b 裏面
5 貫通孔
7 切刃
9 被把持部
2 切削ユニット
4 スピンドルハウジング
6 スピンドル
8 フランジ機構
10 フランジ部
10a 支持面
12 ボス部
14 ねじ山
16 固定ナット
20 ブレードケース
22 収容体
22a,24a 表面
22b,24b :裏面
24 蓋体
26 収容凹部
28 入り口
30 進入凸部
32 支持部
34 環状凹部
36 側壁
38 収容体側係合部
40 板状本体
40a 外周面
42 ハブ基台把持部
44 隙間
46 爪部
48 蓋体側係合部
50 連通孔
52 握り部
54 小溝
56 切り欠き