(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】プロピレン重合体組成物、および、フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 23/14 20060101AFI20241202BHJP
【FI】
C08L23/14
(21)【出願番号】P 2020195378
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 康仁
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050316(JP,A)
【文献】特開2007-084806(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025862(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0010263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/12
C08L 23/14
C08L 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記プロピレン重合体(1)と、下記プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)とを含有し、
プロピレン重合体(1)とプロピレン-α-オレフィン共重合体(2)との合計含有量100質量%に対して、プロピレン重合体(1)の含有量が
4.7質量%~
7.3質量%であり、
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)の含有量が92.7質量%~95.3質量%であり、
下記要件(3)を満たす、プロピレン重合体組成物。
プロピレン重合体(1):
プロピレン
の単独重合体。
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2):
プロピレンに由来する単量体単位を81.5質量%以上88.2質量%以下と、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を
8.2質量%以上15.2質量%以下とを含み、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位が、1-ブテンに由来する単量体単位である、共重合体。
要件(3):
オルトジクロロベンゼンを溶媒とし、0℃~140℃を温度範囲とした温度昇温溶離分別法において、下記式(3-1)を満たす。
Wb≦-1.79×Th+150・・・(3-1)
(式中、
Wbは、0℃~50℃の積算溶出量を示し、
16.5(質量%)以上33.0(質量%)以下である。
Thは、0℃~80℃の積算溶出量と110℃~140℃の積算溶出量との合計を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~80℃の温度(℃)を示
し、65.0(℃)以上73.0(℃)以下である。)
【請求項2】
前記プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)が、さらに、エチレンに由来する単量体単位を2質量%~6質量%含む、請求項1に記載のプロピレン重合体組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のプロピレン重合体組成物を含有するフィルム。
【請求項4】
二軸延伸フィルムである、請求項
3に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン重合体を含むプロピレン重合体組成物、該プロピレン重合体組成物を含有するフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種包装材料として用いられるフィルムとしては、基材層と該基材層に積層されたヒートシール層とを備えるものが知られている。例えば、基材層として各種二軸延伸フィルムを使用し、ヒートシール層としてポリプロピレン系の二軸延伸フィルムや無延伸フィルムを使用したフィルムが知られている。かかる構成のフィルムは、各種包装袋を形成する材料として広く使用されている。かかるフィルムを用いて包装袋を形成する(製袋加工を行う)際には、ヒートシール層が対峙するようにフィルムの端部を重ね合わせ、かかる端部を加熱してヒートシールすることで包装袋を形成する。これによって、密封された包装袋を形成することができる。
【0003】
近年、製袋速度の高速化が進み、ヒートシールする際の加熱時間が短くなっていることから、比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を形成できる材料が要望されている。例えば、特許文献1には、特定のプロピレンとエチレンおよび/または特定のα-オレフィンとの共重合体成分(A)を得る第一工程と、該共重合体成分(A)の存在下で、特定のプロピレンとエチレンおよび/または特定のα-オレフィンとの共重合体成分(B)を得る第二工程とを行うことで得られるプロピレン系共重合体が、比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を形成し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を備えるフィルムは、ロール状に巻き回したり、枚葉体として複数枚を重ねたりすると、フィルム同士が剥がれにくくなったり、フィルム同士の摺動性が悪くなったりする、所謂、ブロッキングが生じることがある。このようなブロッキングが生じると、その後のフィルムの加工を円滑に行うことが困難になる。
【0006】
そこで、本発明は、比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を形成できると共に、該ヒートシール層を備えるフィルムにおいてブロッキングが生じるのを抑制できるプロピレン重合体組成物、および、該プロピレン重合体組成物を含有するフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプロピレン重合体組成物は、
下記プロピレン重合体(1)と、下記プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)とを含有し、
プロピレン重合体(1)とプロピレン-α-オレフィン共重合体(2)との合計含有量100質量%に対して、プロピレン重合体(1)の含有量が2質量%~25質量%であり、
下記要件(3)を満たす、プロピレン重合体組成物。
プロピレン重合体(1):
プロピレンに由来する単量体単位を94質量%以上含む、重合体。
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2):
プロピレンに由来する単量体単位を60質量%以上94質量%未満と、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を6質量%超過40質量%以下とを含む、共重合体。
要件(3):
オルトジクロロベンゼンを溶媒とし、0℃~140℃を温度範囲とした温度昇温溶離分別法において、下記式(3-1)を満たす。
Wb≦-1.79×Th+150・・・(3-1)
(式中、
Wbは、0℃~50℃の積算溶出量を示す。
Thは、0℃~80℃の積算溶出量と110℃~140℃の積算溶出量との合計を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~80℃または110℃~140℃の温度(℃)を示す。)
【0008】
本発明に係るフィルムは、上記のプロピレン重合体組成物を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を形成できると共に、該ヒートシール層を備えるフィルムにおいてブロッキングが生じるのを抑制できるプロピレン重合体組成物、および、該プロピレン重合体組成物を含有するフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、[実施例]の試験結果を示すグラフ、(b)は、[実施例]の試験結果を示す他のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン重合体(1)と、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)とを含有する。斯かるプロピレン重合体組成物は、プロピレン重合体(1)を得る第一工程と、該プロピレン重合体(1)の存在下でプロピレン-α-オレフィン共重合体(2)を得る第二工程とを行うことで得ることができる。
【0012】
本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン重合体(1)とプロピレン-α-オレフィン共重合体(2)との合計含有量100質量%に対して、プロピレン重合体(1)の含有量が2質量%~25質量%であり、好ましくは3質量%~20質量%であり、より好ましくは4質量%~15質量%である。また、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン重合体(1)とプロピレン-α-オレフィン共重合体(2)との合計含有量100質量%に対して、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)の含有量が、好ましくは75質量%~98質量%であり、より好ましくは80質量%~97質量%であり、さらに好ましくは85質量%~96質量%である。
【0013】
プロピレン重合体(1)の含有量が2質量%以上であることで(即ち、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)の含有量が98質量%以下であることで)、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いて形成したフィルム(以下では、単に「フィルム」とも記す)のヒートシール性を維持しつつ、耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。また、プロピレン重合体(1)の含有量が25質量%以下であることで(即ち、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)の含有量が75質量%以上であることで)、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果がある。
【0014】
<プロピレン重合体(1)>
プロピレン重合体(1)は、プロピレンに由来する単量体単位を94質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは96質量%以上含む。プロピレンに由来する単量体単位が94質量%以上であることで、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。また、プロピレン重合体(1)は、エチレンに由来する単量体単位および/または炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を含む共重合体であってもよい。
【0015】
プロピレン重合体(1)は、エチレンに由来する単量体単位を6質量%未満含んでもよく、5質量%未満含んでもよく、4質量%未満含んでもよい。エチレンに由来する単量体単位が6質量%未満であることで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果があると共に、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。
【0016】
また、プロピレン重合体(1)は、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を6質量%未満含んでもよく、5質量%未満含んでもよく、4質量%未満含んでもよい。炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位が6質量%未満であることで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果があると共に、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。
【0017】
プロピレン重合体(1)における炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位としては、例えば、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等に由来する単量体単位が挙げられ、好ましくは、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンに由来する単量体単位であり、より好ましくは、共重合特性、経済性等の観点から、1-ブテン、1-ヘキセンに由来する単量体単位であり、さらに好ましくは、1-ブテンに由来する単量体単位である。
【0018】
プロピレン重合体(1)としては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体等が挙げられ、好ましくはプロピレンの単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、より好ましくはプロピレンの単独重合体である。
【0019】
<プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)>
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)は、プロピレンに由来する単量体単位を60質量%以上94質量%未満、好ましくは70質量%~92質量%、より好ましくは75質量%~90質量%以下含む。プロピレンに由来する単量体単位が60質量%以上であることで、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果ある。また、プロピレンに由来する単量体単位が94質量%未満であることで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果がある。
【0020】
また、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)は、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を6質量%超過40質量%以下、好ましくは8質量%~30質量%、より好ましくは10質量%~25質量%含む。炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位が6質量%超過であることで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果がある。また、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位が40質量%以下であることで、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。
【0021】
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)における炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位としては、例えば、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等に由来する単量体単位が挙げられ、好ましくは、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンに由来する単量体単位であり、より好ましくは、共重合特性、経済性等の観点から、1-ブテン、1-ヘキセンに由来する単量体単位であり、さらに好ましくは、1-ブテンに由来する単量体単位である。
【0022】
また、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)は、さらに、エチレンに由来する単量体単位を2質量%~6質量%含んでもよく、3質量%~5質量%含んでもよい。エチレンに由来する単量体単位が2質量%以上であることで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果がある。また、エチレンに由来する単量体単位が6質量%以下であることで、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。
【0023】
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)としては、例えば、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体等が挙げられ、好ましくはプロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、より好ましくはプロピレン-1-ブテン共重合体である。
【0024】
本発明に係るプロピレン重合体組成物における230℃で測定されるメルトフローレート(以下、MFRとも記す。)としては、特に限定されず、好ましくは1g/10分~50g/10分であり、より好ましくは3g/10分~10g/10分である。MFRが上記の範囲であることで、プロピレン重合体組成物を成形加工する際の流動性や製膜性が良好になる。MFRを調整する方法としては、プロピレン重合体組成物と有機過酸化物とを溶融混練する方法等が挙げられる。
尚、本発明においてMFRは、下記の[実施例]に記載の方法によって求めることができる。
【0025】
本発明に係るプロピレン重合体組成物は、下記要件(3)を満たす。
要件(3):
オルトジクロロベンゼンを溶媒とし、0℃~140℃を温度範囲とした温度昇温溶離分別法において、下記式(3-1)を満たす。
Wb≦-1.79×Th+150・・・(3-1)
(式中、
Wbは、0℃~50℃の積算溶出量を示す。
Thは、0℃~80℃の積算溶出量と110℃~140℃の積算溶出量との合計を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~80℃または110℃~140℃の温度(℃)を示す。)
尚、上記式(3-1)におけるWbおよびThは、後述するオレフィン重合用固体触媒成分の中心粒径を選択することによって調整することができる。例えば、オレフィン重合用固体触媒成分の中心粒径を60μm以下にすることで、Wbは小さくなり、Thは大きくなり、20~50μmにすることで、Wbは小さくなり、Thは大きくなり、30~40μmにすることで、Wbは小さくなり、Thは大きくなる。
また、上記式(3-1)におけるWbおよびThは、後述する外部電子供与体を選択することによっても調整することができる。例えば、外部電子供与体として、シクロヘキシルエチルジメトキシシランのような環状炭化水素基を有するアルコキシシランとすることで、Wbは小さくなり、Thは大きくなる。
また、上記式(3-1)におけるWbは、プロピレン重合体(1)およびプロピレンーα―オレフィン共重合体(2)に含まれるプロピレン以外に由来する単量体単位の含有量によっても調整することができる。例えば、プロピレン以外に由来する単量体単位の含有量を大きくすることで、Wbは大きくなる。
また、上記式(3-1)におけるThは、プロピレン重合体(1)の含有量によっても調整することができる。例えば、プロピレン重合体(1)の含有量を大きくすることで、Thは大きくなる。
ここで、上記式(3-1)、「Wb」、および、「Th」は、具体的には下記の[実施例]に記載の方法によって求めることができる。
【0026】
<プロピレン重合体組成物の製造>
本発明に係るプロピレン重合体組成物の製造は、オレフィン重合用触媒を用いて、第一工程と第二工程以降の工程とを備える多段階の重合により行うことができる。
【0027】
<オレフィン重合用触媒>
オレフィン重合用触媒は、オレフィン重合用固体触媒成分と、有機アルミニウム化合物と、外部電子供与体とを接触させることによって、製造することができる。そのため、オレフィン重合用触媒は、オレフィン重合用固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および外部電子供与体を含む。
【0028】
<オレフィン重合用固体触媒成分>
オレフィン重合用固体触媒成分は、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子および内部電子供与体を含む。
【0029】
オレフィン重合用固体触媒成分とは、少なくともトルエン中で固形分として存在し、有機アルミニウム化合物および外部電子供与体と組み合されることにより、オレフィン重合用触媒を構成するものを意味する。
【0030】
オレフィン重合用固体触媒成分におけるチタン原子の一部または全部は、ハロゲン化チタン化合物に由来する。オレフィン重合用固体触媒成分におけるハロゲン原子の一部または全部は、ハロゲン化チタン化合物に由来する。
【0031】
ハロゲン化チタン化合物としては、テトラハロゲン化チタン、トリハロゲン化モノアルコキシチタン、ジハロゲン化ジアルコキシチタン、モノハロゲン化トリアルコキシチタンが挙げられ、好ましくは、テトラハロゲン化チタンまたはトリハロゲン化モノアルコキシチタンであり、より好ましくは、テトラハロゲン化チタンである。ハロゲン化チタン化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
オレフィン重合用固体触媒成分におけるマグネシウム原子の一部または全部は、マグネシウム化合物に由来する。また、オレフィン重合用固体触媒成分におけるハロゲン原子の一部は、マグネシウム化合物に由来し得る。
【0033】
マグネシウム化合物としては、ジアルキルマグネシウム、マグネシウムジアルコキシド、アルキルマグネシウムハライド、アルコキシマグネシウムハライド、アリールオキシマグネシウムハライド、ハロゲン化マグネシウムが挙げられ、好ましくは、ハロゲン化マグネシウムまたはマグネシウムジアルコキシドである。
【0034】
マグネシウム化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
内部電子供与体は、オレフィン重合用固体触媒成分に含まれる1つまたは複数の金属原子に対して電子対を供与可能な有機化合物を意味する。内部電子供与体としては、具体的には、モノエステル化合物、ジカルボン酸エステル化合物、ジオールジエステル化合物、β-アルコキシエステル化合物、およびジエーテル化合物等が挙げられる。
【0036】
モノエステル化合物は、分子内に1つのエステル結合(-CO-O-)を有する有機化合物を意味し、芳香族カルボン酸エステル化合物および脂肪族カルボン酸エステル化合物が好ましい。
【0037】
ジカルボン酸エステル化合物は、分子内に2つのエステル結合(-CO-O-)を有する化合物であって、ジカルボン酸の2つのカルボキシル基が一価のアルコールでエステル化された構造を有する化合物を意味し、芳香族ジカルボン酸エステル化合物および脂肪族ジカルボン酸エステル化合物が好ましい。
【0038】
ジオールジエステル化合物は、分子内に2つのエステル結合(-CO-O-)を有する化合物であって、ジオールの2つの水酸基のそれぞれが、モノカルボン酸またはジカルボン酸のカルボキシル基をエステル化した構造を有する化合物を意味する。
【0039】
β-アルコキシエステル化合物は、アルコキシカルボニル基を有し、該アルコキシカルボニル基のβ位にアルコキシ基を有する化合物を意味する。
【0040】
ジエーテル化合物は、分子内に2つのエーテル結合を有する化合物を意味する。
【0041】
また、特開2011-246699号公報に記載された内部電子供与体も例示することができる。
【0042】
上記の内部電子供与体のうち、好ましくは、ジカルボン酸エステル化合物、ジオールジエステル化合物またはβ-アルコキシエステル化合物である。内部電子供与体は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
オレフィン重合用固体触媒成分の中心粒径は、通常、60μm以下であり、好ましくは、20~50μmであり、より好ましくは、30~40μmである。
【0044】
オレフィン重合用固体触媒成分の中心粒径は、オレフィン重合用固体触媒成分中のマグネシウム化合物の粒径により制御することができる。
【0045】
有機アルミニウム化合物は、炭素-アルミニウム結合を1つ以上有する化合物であり、具体的には、特開平10-212319号公報に記載された化合物を例示することができる。有機アルミニウム化合物は、好ましくは、トリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドとの混合物、または、アルキルアルモキサンであり、より好ましくは、トリエチルアルミニウム、トリiso-ブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロリドとの混合物、または、テトラエチルジアルモキサンである。
【0046】
外部電子供与体としては、特許第2950168号公報、特開2006-96936号公報、特開2009-173870号公報、および特開2010-168545号公報に記載された化合物を例示することができる。中でも、好ましくは酸素含有化合物または窒素含有化合物である。酸素含有化合物としては、アルコキシケイ素、エーテル、エステル、およびケトンを例示することができる。中でも、好ましくはアルコキシケイ素またはエーテルである。
【0047】
アルコキシケイ素の具体例としては、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、ジiso-プロピルジメトキシシラン、tert-ブチルエチルジメトキシシラン、tert-ブチル-n-プロピルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、iso-ブチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、sec-ブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、ジメチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジ-n-プロピルアミノトリメトキシシラン、ジメチルアミノトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジ-n-プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルエチルアミノトリエトキシシラン、メチル-n-プロピルアミノトリエトキシシラン、tert-ブチルアミノトリエトキシシラン、ジiso-プロピルアミノトリエトキシシラン、メチルiso-プロピルアミノトリエトキシシラン、パーヒドロキノリノトリエトキシシラン、パーヒドロイソキノリノトリエトキシシラン、1,2,3,4-テトラヒドロキノリノトリエトキシシラン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリノトリエトキシシラン、オクタメチレンイミノトリエトキシシランが挙げられる。
【0048】
外部電子供与体のエーテルとしては、好ましくは環状エーテル化合物である。環状エーテル化合物とは、環構造内に少なくとも一つの-C-O-C-結合を有する複素環式化合物であり、さらに好ましくは環構造内に少なくとも一つの-C-O-C-O-C-結合を有する環状エーテル化合物であり、特に好ましくは1,3-ジオキソランまたは1,3-ジオキサンである。
【0049】
上記の外部電子供与体のうち、好ましくは、シクロヘキシルエチルジメトキシシランである。
【0050】
外部電子供与体は、単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
オレフィン重合用触媒を生成する際に、オレフィン重合用固体触媒成分と、有機アルミニウム化合物と、外部電子供与体とを接触させる方法としては、オレフィン重合用触媒が生成される限り、特に限定されない。接触は溶媒の存在下または非存在下で行われる。これらの接触混合物を重合槽に供給してもよいし、各成分を別々に重合槽に供給して重合槽中で接触させてもよいし、任意の二成分の接触混合物と残りの成分とを別々に重合槽に供給してこれらを重合槽中で接触させてもよい。
【0052】
有機アルミニウム化合物の使用量は、オレフィン重合用固体触媒成分1mgに対して、好ましくは0.01~1000μmolであり、より好ましくは0.1~500μmolである。
【0053】
外部電子供与体の使用量は、オレフィン重合用固体触媒成分1mgに対して、好ましくは0.0001~1000μmolであり、より好ましくは0.001~500μmolであり、さらに好ましくは0.01~150μmolである。
【0054】
<プロピレン重合体組成物の製造>
本発明に係るプロピレン重合体組成物の重合方法としては、公知の重合方法を用いることができる。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマー中で行う気相重合法等が挙げられ、好ましくは後処理等が容易な塊状重合法または気相重合法である。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
【0055】
本発明に係るプロピレン重合体組成物の製造方法は、上記の重合方法を用い、第一工程と第二工程以降の工程とを備える多段階の重合を行うものである。第一工程の重合方法と第二工程以降の工程の重合方法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。重合活性および後処理が容易であるという観点から、好ましくは、第一工程が不活性溶剤の不存在下で重合を行う工程であり、第二工程以降の工程が気相で重合を行う工程である。また、第一工程の重合と第二工程以降の工程の重合は、同一の重合槽(反応器)で行ってもよく、異なる重合槽(反応器)で行ってもよい。
【0056】
本発明に係るプロピレン重合体組成物の製造方法としては、例えば、溶剤-溶剤重合法、塊状-塊状重合法、気相-気相重合法、溶剤-気相重合法、塊状-気相-気相重合法、溶剤-気相-気相重合法、塊状-気相-気相重合法等が挙げられ、好ましくは塊状-気相重合法、気相-気相重合法、塊状-気相-気相重合法である。
【0057】
第一工程の重合温度は、特に制限はないが、好ましくは20℃~180℃であり、生産性およびプロピレン重合体(1)の含有量の制御の観点から、より好ましくは30℃~100℃である。
【0058】
第二工程以降の重合温度は第一工程の重合温度と同一でもよく、異なっていてもよいが、好ましくは20℃~180℃であり、より好ましくは30℃~100℃である。
【0059】
本発明に係るプロピレン重合体組成物の製造方法は、必要に応じて、後処理として触媒の失活、脱溶剤、脱モノマー、乾燥、造粒等を行う工程を備えてもよい。
【0060】
本発明に係るプロピレン重合体組成物には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、必要に応じて、添加剤やその他の樹脂を添加しても良い。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、粘着剤、防曇剤等が挙げられ、その他、樹脂として、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、その他のポリオレフィン系樹脂等を添加してもよい。
【0061】
本発明に係るプロピレン重合体組成物は、各種のフィルムを形成する材料として用いることができる。例えば、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いて形成した単独の層からなるフィルム、および、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いて形成した層を含む多層(少なくとも2層)のフィルム等が挙げられる。また、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いて形成したフィルムとしては、例えば、食品包装用フィルムや衣類包装用フィルム等が挙げられ、好ましくは食品包装用フィルムである。また、斯かるフィルムは、無延伸のものであってもよく、一軸延伸または二軸延伸のものであってよい。
【0062】
本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いたフィルムの製造方法としては、特に制限はなく、通常用いられるインフレーション法、Tダイ法、カレンダー法等が挙げられる。
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いたフィルムの製造方法としては、上記の方法を用いて、本発明に係るプロピレン重合体組成物を、単独で製膜する方法や、他の樹脂と共に多層(少なくとも2層)にして製膜する方法等が挙げられる。多層にする方法としては、通常、用いられる共押出成形法、押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法等が挙げられる。
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いたフィルムの製造方法としては、上記の方法によって事前に成形して得られたフィルムまたはシートを延伸してフィルムを製造する方法が挙げられる。延伸方法としては、例えば、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等により一軸または二軸に延伸する方法等が挙げられる。フィルムの低温ヒートシール性、透明性、剛性等の物性のバランスの観点から、好ましくは未延伸の共押出成形法または二軸延伸方法である。
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物を用いたフィルムの製造方法としては、各種二軸延伸フィルム等を基材層とし、該基材層に、本発明に係るプロピレン重合体組成物を溶融した状態で塗布することで、多層(少なくとも2層)の包装用フィルムを形成する方法が挙げられる。
【0063】
上記のように形成される包装用フィルムは、包装袋を形成する材料として使用することができる。具体的には、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、比較的低温(好ましくは80℃~120℃、より好ましくは96℃~118℃)でヒートシール可能なヒートシール層を形成することができる。このため、斯かるヒートシール層を備えるフィルムを変形させてヒートシール層を対峙させ、ヒートシール層が対峙した箇所を加熱してヒートシールすることで、包装袋を形成することができる。包装袋を形成するフィルムとしては、二軸延伸フィルムの基材層に、発明に係るプロピレン重合体組成物を用いて形成したヒートシール層(二軸延伸されたもの、または、無延伸のもの)が積層された多層フィルムが挙げられる。包装袋の用途としては、特に限定されず、例えば、食品、衣料品、雑貨等の用途が挙げられる。
【0064】
以上のように、本発明に係るプロピレン重合体組成物によれば、比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を形成できると共に、該ヒートシール層を備えるフィルムにおいてブロッキングが生じるのを抑制できる。
【0065】
即ち、本発明に係るプロピレン重合体組成物が、下記プロピレン重合体(1)と、下記プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)とを含有し、プロピレン重合体(1)とプロピレン-α-オレフィン共重合体(2)との合計含有量100質量%に対して、プロピレン重合体(1)の含有量が2質量%~25質量%であり、下記要件(3)を満たすことで、比較的低温でヒートシール可能なヒートシール層を形成できると共に、該ヒートシール層を備えるフィルムにおいてブロッキングが生じるのを抑制できる。
プロピレン重合体(1):
プロピレンに由来する単量体単位を94質量%以上含む、重合体。
プロピレン-α-オレフィン共重合体(2):
プロピレンに由来する単量体単位を60質量%以上94質量%未満と、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を6質量%超過40質量%以下とを含む、共重合体。
要件(3):
オルトジクロロベンゼンを溶媒とし、0℃~140℃を温度範囲とした温度昇温溶離分別法において、下記式(3-1)を満たす。
Wb≦―1.79×Th+150・・・(3-1)
(式中、
Wbは、0℃~50℃の積算溶出量を示す。
Thは、0℃~80℃の積算溶出量と110℃~140℃の積算溶出量との合計を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~80℃または110℃~140℃の温度(℃)を示す。)
【0066】
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)に含まれる炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位が、1-ブテンに由来する単量体単位であることで、低コストでプロピレン-α-オレフィン共重合体を製造できるという効果がある。
【0067】
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)が、プロピレンに由来する単量体単位を70質量%~92質量%と、炭素原子数4~12のα-オレフィンに由来する単量体単位を8質量%~30質量%とを含むことで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果がある。
【0068】
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン-α-オレフィン共重合体(2)が、さらに、エチレンに由来する単量体単位を2質量%~6質量%含むことで、フィルムの低温でのヒートシール性を向上させるという効果がある。
【0069】
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン重合体(1)が、プロピレンに由来する単量体単位を95質量%以上含むことで、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。
【0070】
また、本発明に係るプロピレン重合体組成物は、プロピレン重合体(1)の含有量が3質量%~20質量%であることで、フィルムの耐ブロッキング性を向上させるという効果がある。
【0071】
また、本発明に係るフィルムは、上記いずれかのプロピレン重合体組成物を含有することで、比較的低温でヒートシール可能であると共にブロッキングが生じ難い。
【0072】
また、本発明に係るフィルムは、二軸延伸フィルムであることで、透明性、機械物性に優れるという効果がある。
【実施例】
【0073】
実施例および比較例における各項目の測定値は、下記の方法で測定した。
【0074】
(1)オレフィン重合用固体触媒成分の中心粒径(単位:μm)
規格ISO13320:2009に従い、オレフィン重合用固体触媒成分の中心粒径を、レーザ回折・散乱法により測定した。測定装置としてレーザ回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製「マスターサイザー3000」)を用い、屈折率はトルエンを1.49、固体触媒成分を1.53-0.1iとした。アルミナ等で予め水分を除去しておいたトルエン溶媒を、開口部を窒素シールした分散装置(ハイドロMV)に投入して、測定セルを含めた循環系内部をトルエン溶媒で満たした。撹拌速度は2,000rpmに設定し、かつ超音波分散処理せずに測定セル内のトルエン溶媒を循環させながら散乱強度3~10%となるようにオレフィン重合用固体触媒成分を投入して粒度を測定した。得られた粒度体積基準分布図より中心粒径を求めた。オレフィン重合用固体触媒成分は大気および水分と接触しないように取扱い、前処理は実施しなかった。
【0075】
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
プロピレン重合体組成物のMFRは、JIS K7210-1:2014に規定されたA法に従って、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
【0076】
(3)コモノマー含有量(単位:重量%)
プロピレン重合体組成物中のコモノマー含有量(プロピレン単量体単位以外の単量体単位の含有量)は、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の616ページ以降に記載されている方法により、赤外分光法で測定を行い求めた。そして、プロピレン重合体組成物の製造条件に基づき、各重合体に含まれるプロピレン単量体単位およびその他の単量体単位の含有量を算出した。
【0077】
(4)温度昇温溶離分別法(Temperature Rising Elution Fractionation (TREF))によるWb(単位:wt%)、Th(単位:℃)、および、Th’(単位:℃)の算出
CFC装置(クロス分別クロマトグラフ、PolymerChar製Automated 3D analyzer CFC-2)を用いて測定を行った。
プロピレン重合体組成物40mgに、0.05w/V%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含有するODCB(オルトジクロロベンゼン)20mLを加え、145℃で60分間加熱撹拌して、試料溶液を調製した。
得られた試料溶液を、145℃に保持されたCFC装置中のTREFカラム(Polymerchar社製、充填材はSUSビーズ)に0.5mL注入して、20分間保持した。
CFC装置中のTREFカラムの温度を、40℃/分の速度で145℃から100℃まで降温し、次いで、100℃で20分間保持した。
CFC装置中のTREFカラムの温度を0.5℃/分の速度で100℃から0℃まで降温し、次いで、0℃で30分間保持した。
CFC装置中のTREFカラムに、配管からODCBを1ml/分の速度で流しながら、TREFカラムの温度を、40℃/分の速度で昇温し、次いで、30分間保持し、各温度にてTREFカラムから溶出したプロピレン重合体組成物の溶出量を、赤外分光光度計を備えたGPC(CFCに内蔵)で測定した。測定は、0℃、10℃、20℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、100℃、104℃、108℃、112℃、114℃、116℃、118℃、120℃、122℃、124℃、126℃、140℃で行った。
【0078】
CFC装置に内蔵されたデータ処理ソフトの演算処理により、0℃から140℃までの温度―積算溶出量曲線を得た。
得られた積算溶出量曲線から、50℃までの積算溶出量をWbとした。また、0℃~80℃の積算溶出量と110℃~140℃の積算溶出量との合計を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~80℃または110℃~140℃の温度をThとした。また、0℃~140℃の積算溶出量を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~140℃の温度をTh‘とした。
【0079】
(5)延伸フィルムの作製
表層用材料にプロピレン重合体組成物を用い、基材層用材料にFS2011DG3(住友化学株式会社製、Tm=159℃、MFR=3g/10分であるプロピレン重合体)を用い、二つの押出機と、一機の共押出Tダイと、縦延伸機と、横延伸機とを備えた共押出パイロットテンター(三菱重工業株式会社製)を用いて、多層二軸延伸フィルムを作製した。
具体的には、まず、プロピレン重合体組成物を一方の押出機へ供給して230℃で溶融混練し、FS2011DG3を他方の押出機へ供給して260℃で溶融混練した。各押出機で溶融混練された各溶融混錬物を、一機の共押出Tダイに供給した。このTダイから、表層/基材層の2層構成として押出された溶融混錬物を、ライン速度5m/分で、30℃の冷却ロールで急冷して固化することにより、キャストシートを得た。得られたキャストシートを、延伸温度120℃で、縦延伸機のロール周速差によって、縦方向に5倍に延伸し、次いで、クリップを備える横延伸機により、延伸温度157℃、ライン速度25m/分で、横方向に8倍に延伸した後、165℃で熱処理を行い、表層厚み/基材層厚み=1μm/20μmの多層二軸延伸フィルムを得た。
【0080】
(6)ヒートシール温度(HST、単位:℃)
2枚の多層二軸延伸フィルムの表層同士を重ね合わせ、所定の温度に加熱されたヒートシーラー(東洋精機製)を用いて、2kg/cm2の荷重で2秒間圧着して、ヒートシールを行った。ヒートシールされた試料を、24時間、温度23℃、湿度50%の条件で状態保持した後、温度23℃、湿度50%、剥離速度200mm/分、剥離角度180度の条件で剥離した時の剥離抵抗力が300g/25mmになるシール温度を求め、ヒートシール温度とした。
【0081】
(7)ブロッキング強度(単位:N/12cm2)
2枚の多層二軸延伸フィルム(100mm×30mm)の表層同士を重ね合わせて、設置面積40mm×30mm、重量500gの錘をのせた後、60℃で3時間熱処理した。その後、温度23℃、湿度50%の条件で30分以上放置した後、200mm/分の引張速度で剪断剥離力を測定し、ブロッキング強度とした。
【0082】
<オレフィン重合用固体触媒成分1の合成>
攪拌機を備えた反応容器内の気体を窒素ガスで置換した。その後、反応容器内へ、トルエン(60.1L)および四塩化チタン(22.3L)を加えて撹拌して、四塩化チタンのトルエン溶液を得た。その後、反応容器内の温度を0℃以下にして撹拌しながら、反応容器内へ、マグネシウムジエトキシド(粒径30μm、11kg)を72分毎に6回に分けて加えた。その後、反応容器内の温度を2℃以下にして120分間保持し、次いで、反応容器内の温度を10℃以下にして120分間保持した。その後、反応容器内へトルエン(14.3L)を加え、反応容器内の温度を60℃にして2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル(4.0kg)を加えた。その後、反応容器内の温度を110℃にして3時間攪拌した。得られた反応混合物を110℃で固液分離した後、得られた固体を95℃にてトルエン83Lで3回洗浄を行った。その後、反応容器内へトルエン(33L)を加え、反応容器内の温度を60℃にして四塩化チタン(22L)を加えた。その後、反応容器内の温度を105℃にして30分攪拌した。得られた反応混合物を105℃で固液分離した後、得られた固体を60℃のトルエン83Lで3回洗浄を行い、次いで、ヘキサン(83L)で3回洗浄した後、乾燥してオレフィン重合用固体触媒成分1(中心粒径32μm、9.0kg)を得た。
【0083】
<オレフィン重合用固体触媒成分2の合成>
攪拌機を備えた反応容器内の気体を窒素ガスで置換した。その後、反応容器内へ、トルエン(52.8L)および四塩化チタン(33.3L)を加えて撹拌して、四塩化チタンのトルエン溶液を得た。その後、反応容器内の温度を0℃以下にして撹拌しながら、反応容器内へ、マグネシウムジエトキシド(粒径71μm、11kg)を72分毎に6回に分けて加えた。その後、反応容器内の温度を2℃以下にして120分間保持した。その後、反応容器内へ、反応容器内の温度を2℃以下に保持した状態で、2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル(0.77kg)を加えた。その後、反応容器内の温度を10℃以下にして120分間保持した。その後、反応容器内へトルエン(14.3L)を加え、反応容器内の温度を60℃にして2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル(4.0kg)を加えた。その後、反応容器内の温度を110℃にして3時間攪拌した。得られた反応混合物を110℃で固液分離した後、得られた固体を95℃にてトルエン83Lで3回洗浄を行った。その後、反応容器内へ、トルエン(34L)を加え、反応容器内の温度を60℃にして四塩化チタン(22L)および2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル(0.95kg)を加えた。その後、反応容器内の温度を110℃にして30分攪拌した。得られた反応混合物を110℃で固液分離した後、得られた固体を60℃のトルエン83Lで3回洗浄を行い、次いで、ヘキサン(83L)で3回洗浄した後、乾燥してオレフィン重合用固体触媒成分2(中心粒径65μm、10.9kg)を得た。
【0084】
<実施例1><プロピレン重合体組成物1の製造>
[オレフィン重合用固体触媒成分の予備活性化]
内容積3Lの攪拌機を備えたオートクレーブ内に、脱水処理および脱気処理を行ったn-ヘキサン(1.6L)、トリエチルアルミニウム(73.7mmol)、外部電子供与体としてシクロヘキシルエチルジメトキシシラン(5.9mmol)および上記オレフィン重合用固体触媒成分1(22.5g)を加えた後、オートクレーブ内の温度を5~15℃にしてプロピレン(101.3g)を30分かけて連続的に供給して予備活性化を行い、予備重合触媒のスラリーを得た。得られた予備重合触媒のスラリーを、内容積200Lの攪拌機を備えたオートクレーブ内に移送した後、そこへ、液状ブタン(140L)を加えて希釈した。
【0085】
[重合]
(第一工程)内容積30Lのループ型バルク重合槽内に、液状プロピレン(75kg/時)および水素(13.3NL/時)を供給し、さらに、上記で得られた予備重合触媒(4.7g/時)、トリエチルアルミニウム(33mmol/時)、および、外部電子供与体としてシクロヘキシルエチルジメトキシシラン(11mmol/時)を供給した後、重合温度:40℃、重合圧力:3.8MPaの条件で液状プロピレンを重合して、プロピレン重合体成分(1.3kg/時)を得た。得られたプロピレン重合体成分を含むスラリーを第二工程に連続的に移送した。
【0086】
(第二工程)内容積1m3の攪拌機を備える気相流動床型反応容器を用いて、流動床の重合体保持量:85kg、重合温度:70℃、重合圧力:1.2MPa、反応容器内部のガス空塔速度:0.30m/秒、気相部の有効水素濃度(水素濃度/(水素濃度+プロピレン濃度+エチレン濃度+1-ブテン濃度)):1.2mol%、有効エチレン濃度(エチレン濃度/(プロピレン濃度+エチレン濃度+1-ブテン濃度)):2.5mol%、有効1-ブテン濃度(1-ブテン濃度/(プロピレン濃度+エチレン濃度+1-ブテン濃度)):6.7mol%の条件で、プロピレン、水素、エチレンおよび1-ブテンを供給して、第一工程のループ型バルク重合槽から移送されたプロピレン重合体成分を含むスラリーの存在下で、プロピレン重合体組成物(25.8kg/時)を得た。プロピレン重合体組成物を後処理工程に連続的に移送した。
【0087】
(後処理工程)
気相流動床型反応容器から乾燥槽に移送されたプロピレン重合体組成物へ、水(10mL/時)および窒素ガス(20m3/時)を供給して、プロピレン重合体組成物の乾燥および触媒の失活を行った。
【0088】
得られたポリプロピレン樹脂組成物100重量部に対して、DHT-4C(協和化学工業株式会社製)0.01重量部、IRGANOX1010(BASFジャパン株式会社製)0.1重量部、IRGAFOS168(BASFジャパン株式会社製)0.05重量部を配合した後、溶融押出を行って、ペレット状のプロピレン重合体組成物1を得た。得られたプロピレン重合体組成物1の分析値および評価結果を表3に示す。
【0089】
<実施例2><プロピレン重合体組成物2の製造>
第一工程および第二工程の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、プロピレン重合体組成物2を得た。得られたプロピレン重合体組成物2の分析値および評価結果を表3に示す。
【0090】
<実施例3><プロピレン重合体組成物3の製造>
第一工程および第二工程の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、プロピレン重合体組成物3を得た。得られたプロピレン重合体組成物3の分析値および評価結果を表3に示す。
【0091】
<実施例4><プロピレン重合体組成物4の製造>
第一工程および第二工程の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、プロピレン重合体組成物4を得た。得られたプロピレン重合体組成物4の分析値および評価結果を表3に示す。
【0092】
<実施例5><プロピレン重合体組成物5の製造>
第一工程および第二工程の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、プロピレン重合体組成物5を得た。得られたプロピレン重合体組成物5の分析値および評価結果を表3に示した。
【0093】
<実施例6><プロピレン重合体組成物6の製造>
第一工程および第二工程の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、プロピレン重合体組成物6を得た。得られたプロピレン重合体樹脂組成物6の分析値および評価結果を表3に示した。
【0094】
<比較例1><プロピレン重合体組成物C1の製造>
[オレフィン重合用固体触媒成分の予備活性化]
内容積3Lの攪拌機を備えたオートクレーブ内に、脱水処理および脱気処理を行ったn-ヘキサン(1.6L)、トリエチルアルミニウム(65.2mmol)、外部電子供与体としてtert-ブチル-n-プロピルジメトキシシラン(5.2mmol)および上記オレフィン重合用固体触媒成分2(19.9g)を加えた後、オートクレーブ内の温度を5~15℃にしてプロピレン(99.5g)を30分かけて連続的に供給して、予備活性化を行い、予備重合触媒のスラリーを得た。得られた予備重合触媒のスラリーを、内容積200Lの攪拌機を備えるオートクレーブ内に移送した後、そこへ、液状ブタン(140L)を加えて希釈した。
【0095】
[重合]
(第一工程)内容積30Lのループ型バルク重合槽内に、液状プロピレン(75kg/時)および水素(26.4NL/時)を供給し、さらに、上記で得られた予備重合触媒(4.6g/時)、トリエチルアルミニウム(34mmol/時)、および、外部電子供与体としてtert-ブチル-n-プロピルジメトキシシラン(11mmol/時)を供給した後、重合温度:50℃、重合圧力:3.9MPaの条件で液状プロピレンを重合して、プロピレン重合体成分(1.4kg/時)を得た。得られたプロピレン重合体成分を含むスラリーを第二工程に連続的に移送した。
【0096】
(第二工程)内容積1m3の攪拌機を備える気相流動床型反応容器を用いて、流動床の重合体保持量:69kg、重合温度:70℃、重合圧力:1.2MPa、反応容器内部のガス空塔速度:0.30m/秒、気相部の有効水素濃度(水素濃度/(水素濃度+プロピレン濃度+エチレン濃度+1-ブテン濃度)):4.4mol%、有効エチレン濃度(エチレン濃度/(プロピレン濃度+エチレン濃度+1-ブテン濃度)):3.1mol%、有効1-ブテン濃度(1-ブテン濃度/(プロピレン濃度+エチレン濃度+1-ブテン濃度)):14.5mol%の条件で、プロピレン、水素、エチレンおよび1-ブテンを供給して、第一工程のループ型バルク重合槽から移送されたプロピレン重合体成分を含むスラリーの存在下で、プロピレン重合体組成物(27.0kg/時)を得た。プロピレン重合体組成物を後処理工程に連続的に移送した。
【0097】
(後処理工程)
気相流動床型反応容器から乾燥槽に移送されたプロピレン重合体組成物へ、(10mL/時)および窒素ガス(20m3/時)を供給して、プロピレン重合体組成物の乾燥および触媒の失活を行った。
【0098】
得られたポリプロピレン樹脂組成物100重量部に対して、DHT-4C(協和化学工業株式会社製)0.01重量部、IRGANOX1010(BASFジャパン株式会社製)0.1重量部、IRGAFOS168(BASFジャパン株式会社製)0.05重量部を配合した後、溶融押出を行って、ペレット状のプロピレン重合体組成物C1を得た。得られたプロピレン重合体組成物C1の分析値および評価結果を表4に示す。
【0099】
<比較例2><プロピレン重合体組成物C2の製造>
第一工程および第二工程の条件を表2のように変更した以外は、比較例1と同様にして、プロピレン重合体組成物C2を得た。得られたプロピレン重合体組成物C2の分析値および評価結果を表4に示す。
【0100】
上記の各実施例および各比較例について、WbとThとの関係を
図1(a)のグラフに示し、WbとTh’との関係を
図1(b)のグラフに示した。また、
図1(a)(b)のグラフから近似直線を求め、各近似直線を示す式を得た。
図1(a)を見ると、近似直線の上側に各比較例のプロットが位置し、下側に各実施例のプロットが位置することが認められる。一方、
図1(b)を見ると、近似直線の上側に各比較例および各実施例のプロットが位置することが認められる。つまり、下記式(3-1)を満みたすことを要件とすることで、各実施例と各比較例とを区別することができる。
Wb≦-1.79×Th+150・・・(3-1)
(式中、
Wbは、0℃~50℃の積算溶出量を示す。
Thは、0℃~80℃の積算溶出量と110℃~140℃の積算溶出量との合計を100質量%とした場合、積算溶出量が65質量%となる0℃~80℃または110℃~140℃の温度(℃)を示す。)
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】