(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】シリコンウエハの表面改質方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241202BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20241202BHJP
【FI】
H01L21/304 622P
B23K26/352
(21)【出願番号】P 2021049523
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-141088(JP,A)
【文献】特開2013-065586(JP,A)
【文献】特開2008-147639(JP,A)
【文献】特開2009-260313(JP,A)
【文献】特開2007-245235(JP,A)
【文献】特開2022-136730(JP,A)
【文献】特許第7221345(JP,B2)
【文献】特許第6932865(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法であって、
アルカリエッチング処理後、照射箇所の結晶方位に対応した累積照射エネルギを決定してナノ秒パルスレーザを照射することを特徴とするシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項2】
前記照射箇所の前記累積照射エネルギが所定の閾値以下となるように照射条件を定めることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項3】
前記アルカリエッチング処理後、前記照射箇所の曲率に対応してエネルギ密度、スキャンピッチ、照射回数の少なくともいずれか一つを変えて照射することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項4】
前記アルカリエッチング処理後、前記ナノ秒パルスレーザの照射と共に、CW(連続波)レーザ照射を併用することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項5】
曲率のある前記照射箇所は、区間に分割して入射角を変化させ、区間毎の照射面に対して垂直に照射すると共に、前記スキャンピッチを大きくすることを特徴とする請求項3に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項6】
前記照射箇所が曲面の場合、平面への照射エネルギに対する前記曲面への照射エネルギの比をC
iとして、前記曲面の前記スキャンピッチを前記平面の前記スキャンピッチ×1/C
iとすることを特徴とする請求項3又は5に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項7】
前記スキャンピッチを前記ナノ秒パルスレーザのスポット径D×0.5~0.7とし、1回目の照射エネルギE1がピークとなる照射位置iに対して、2回目のE2の照射エネルギE2がピークとなる照射位置i'は、i+前記スキャンピッチ/2として、前記照射箇所の前記累積照射エネルギが所定の閾値以下となるようにすることを特徴とする請求項6に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【請求項8】
前記スキャンピッチを前記ナノ秒パルスレーザのスポット径Dの1/2より小さくし、前記照射回数を複数とし、前記照射箇所の前記累積照射エネルギが非重なり部分と、重なり部分の和と、で等しくすることを特徴とする請求項6に記載のシリコンウエハの表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ表面の加工変質層である表面欠陥の修復に係り、特に、アルカリエッチング処理(AE)後にレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の作製に使用されるシリコンウエハ等の半導体ウエハは、切削・研削・ラッピング・ポリッシングなどの機械加工プロセスによって表面加工が行われている。しかし、その表面及び内部は、加工変質層が形成され、一部の加工変質層には、マイクロクラック(微小亀裂)が含まれる。この内部クラック等の除去は、主にエッチングや化学機械研磨(CMP)等の化学的・機械的方法により行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、面取り処理が施されたシリコンウエハに対して、水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液等を用いたアルカリエッチングにより、前工程までの処理により生じたシリコンウエハの歪みを除去することを記載している。
【0004】
また、特許文献2は、面取り等の研削加工を行った後、シリコンウエハの表面加工変質層の修復と粗さの平坦化を、パルスレーザを照射して効率良く効果的に行うことを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-101698号公報
【文献】特開2020-131218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術において、特許文献1に記載のアルカリエッチングは、シリコンウエハの異方性が強く現れ、それに起因する亀裂を防ぐことは困難である。また、既存の外周エッジ研削、エッチング、化学機械研磨(CMP)は、内部クラック等を完全に除去できない虞がある。そして、内部クラック等は、亀裂として進展して破損するので、シリコンウエハの表面加工の歩留りが低下する。
【0007】
また、特許文献2に記載のものでは、研削加工による研削痕等のダメージの修復、平坦化処理を行うことが可能となる。しかし、特許文献2に記載のものは、研削後の表面状態に応じた条件でレーザ照射することに限界がある。
【0008】
特に、アルカリエッチング(AE)処理後の表面をレーザ照射にて平坦化する際、適切な照射手法を用いないと、転位等の内部ダメージを発生させてしまい品質が低下し、後工程での歩留まりが下がる。そして、内部クラック、表面粗度(特に、異方性により生じる粗さ)等に対する表面改質の品質向上に限界がある。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、エッチング処理後のシリコンウエハ表面にレーザを用いた好適な熱処理を行うことで、加工応力の影響をなくし均一で平坦化された表面に改質する。そして、強度を向上させ、後工程における歩留まりを向上させる。特に、結晶方位が変化する形状であるウエハエッジへの好適なレーザ処理を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、レーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法であって、アルカリエッチング処理後、照射箇所の結晶方位に対応した累積照射エネルギを決定してナノ秒パルスレーザを照射する。
【0011】
また、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、前記照射箇所の前記累積照射エネルギが所定の閾値以下となるように照射条件を定めることが望ましい。
【0012】
さらに、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、前記アルカリエッチング処理後、前記照射箇所の曲率に対応してエネルギ密度、スキャンピッチ、照射回数の少なくともいずれか一つを変えて照射することが望ましい。
【0013】
さらに、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、前記アルカリエッチング処理後、前記ナノ秒パルスレーザの照射と共に、CW(連続波)レーザ照射を併用することが望ましい。
【0014】
さらに、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、曲率のある前記照射箇所は、区間に分割して入射角を変化させ、区間毎の照射面に対して垂直に照射すると共に、前記スキャンピッチを大きくすることが望ましい。
【0015】
さらに、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、前記照射箇所が曲面の場合、平面への照射エネルギに対する前記曲面への照射エネルギの比をCiとして、前記曲面の前記スキャンピッチを前記平面の前記スキャンピッチ×1/Ci とすることが望ましい。
【0016】
さらに、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、前記スキャンピッチを前記ナノ秒パルスレーザのスポット径D×0.5~0.7とし、1回目の照射エネルギE1がピークとなる照射位置iに対して、2回目のE2の照射エネルギE2がピークとなる照射位置i'は、i+前記スキャンピッチ/2として、前記照射箇所の前記累積照射エネルギが所定の閾値以下となるようにすることが望ましい。
【0017】
さらに、上記のレーザ熱処理を用いたシリコンウエハの表面改質方法において、前記スキャンピッチを前記ナノ秒パルスレーザのスポット径Dの1/2より小さくし、前記照射回数を複数とし、前記照射箇所の前記累積照射エネルギが非重なり部分と、重なり部分の和と、で等しくすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アルカリエッチング処理後、照射箇所の結晶方位に対応した累積照射エネルギを決定してナノ秒パルスレーザを照射するので、加工応力の影響をなくし均一な表面に改質することで、強度を向上させ、後工程における歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】シリコンウエハ表面の結晶方位の分布例を示す斜視図
【
図2】ウエハエッジ部の結晶方位の分布例を示す上半分断面図
【
図4】ウエハエッジ部におけるレーザ照射の平面部とR部の違いを示す図
【
図5】スポット径Dとレーザ放射強度I(r)の関係を示すグラフ
【
図6】本発明の一実施形態に係るスポット径D、スキャンピッチSPの定め方を説明するグラフ
【
図7】他の実施形態に係るスポット径D、スキャンピッチSPの定め方を説明するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、シリコンウエハ1表面の結晶方位の分布例を示す斜視図、
図2は、ウエハエッジ部の結晶方位の分布例を示す上半分断面図である。なお、
図2は、
図1の丸印を施した部分(Si(100)面)の上半分断面を示している。一般に、全く同じ物質の表面でも、結晶を切断する面の方向によってその性質は異なる。結晶面はミラー指数によって指定され、例えばシリコンの単結晶をミラー指数が(111)となる格子面に沿って切断した切断面は結晶方位がSi(111)面と呼ぶこととする。
【0021】
例えば、Si(100)面の結晶構造は、原子が深さ方向にほぼ一様に詰まっているのに対し、Si(111)面は深さ方向に層状になっている。したがって、格子振動による深さ方向の運動エネルギの伝搬、すなわち深さ方向の熱伝導は、Si(111)面の方がより容易であると考えられる。つまり、Si(111)面は、Si(100)面に比べて熱伝導の良否に起因して深くまで溶融し易いと言える。その大小関係は、Si(110)面>Si(100)面>Si(111)面となる。
【0022】
また、レーザ衝撃波の伝搬速度は、Si(100)面とSi(111)面で異なることになる。これは、Si(111)面の方が深さ方向(Si(111)方向)に原子配列が層状になっているので、格子振動が伝わりやすい。そして、数μmスケールの熱伝導は、格子振勁(波動)の伝搬が支配的であり、フォノン(結晶中における格子振動の量子)による弾道的な熱伝導が起こっていると考えられる。
【0023】
Si(111)面は、Si(100)面及びSi(110)面に比べ、レーザによる熱入力による熱伝導が大きく、熱(格子振動)が速く伝わり、その後の冷却過程で変形(収縮)が追い付かず亀裂が発生する。つまり、熱応力による歪が発生し、転位等の内部ダメージが発生する。
【0024】
シリコンウエハ1面の結晶方位の分布は、
図1に示すように、3次元の回転角90度ごとに同じ方位が分布している。また、
図2に示すように、ウエハエッジ部の結晶方位の分布は、端面2がSi(100)面としても、R部3で変化し、例えば、水平から36度の所でSi(111)面が現れ、上面4ではSi(100)面となる。アルカリエッチング後の、各結晶方位の面状態は、
Si(110)面:エッチピットが広範囲に分布し全体的に荒れている。
Si(100)、Si(111)面:一部エッチピットが点在
となっている。なお、エッチピットは、エッチング処理すると現れる表面の腐食孔であり、線状の結晶の格子欠陥である転位が結晶表面と交差している点に対応する。エッチピットは、格子欠陥のためにこの点付近の領域が他の領域と比べて化学的に反応しやすいあるいは腐食されやすいことから生じる。
【0025】
一実施形態は、レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ1の表面改質方法において、熱応力の影響を低減するため、照射箇所へのレーザ照射エネルギの累積値(累積照射エネルギ)が所定の閾値以下となるように、結晶方位や形状に合わせて照射条件を決定する。また、他の実施形態は、CW(連続波)レーザを併用することで急激な温度変化を防ぎ、繰り返し熱応力による負荷を低減し転位の発生を抑制する。
【0026】
図3は、レーザ照射の手順を示すフローチャートである。ステップS1は、シリコンウエハ1の研削を終えた後の表面状態(粗さ、うねり)等を計測、マッピングしてシリコンウエハ1の形状等に対応した分布データを得る。シリコンウエハ1の表面状態及び/又は形状の測定は非破壊方式のものが望ましい。非破壊方式のものは、画像測定手段、静電容量変化測定手段、液滴接触角度測定手段、ラマン分光測定手段、表面粗さ計、音響測定手段、渦電流特性測定手段、反射率測定手段、X線ラング法測定手段、電子線回析測定手段、SEM測定手段、等々のうちから選ばれたいずれかを用いたり、あるいはそれらの2種以上を組み合せたりして用いても良い。
【0027】
次に、ステップS2は、ラマン分光により、照射箇所の内部状態を検査する。つまり、ステップS2は、ラマンシフトからの歪みを計測することにより、シリコンウエハ1内部の結晶状態の変化を検知する。ここで、内部ダメージの大きいものは除外する。
【0028】
ステップS3は、照射条件を定めて照射する。ステップS3―1は、結晶方位や形状に応じた照射条件を決定する。つまり、方位や形状によって、表面状態が異なる照射箇所の表面を平坦化させると共に、内部ダメージを発生しない条件を決定しなければならない。既に述べたように、アルカリエッチング後の面状態(エッチピットの分布による粗さ)、熱伝導は、Si(110)、Si(100)、Si(111)面によって異なり、所望の平坦化に必要な照射エネルギが異なる。
【0029】
必要な照射エネルギは、Si(110)>Si(100)>Si(111)の大小関係となり、結晶方位に対応した照射条件を定める。例えば、レーザ照射により内部に転位を発生させずに、数100nmを数nm程度の粗さにまで平坦化させるSi(110)面のエネルギは、Si(100)面のおおよそ1.3倍必要とされる。なお、Si(111)面は、Si(100)面と同程度から0.7倍の照射エネルギで良い。
【0030】
形状に応じたレーザ条件は、斜面5、端面2、上面4のように平面部とみなせる照射箇所では、照射面に対して略垂直、レーザの入射角として10~15°以下が望ましい。R部3は、曲率のある面のすべてに対して垂直にレーザを照射するのは困難であり、平面部と比ベレーザの実質的なレーザ放射強度が低下する。
【0031】
レーザ照射は、ナノ秒パルスレーザとし、加工変質層のアモルファス層をナノ秒速で溶融する。そして、ナノ秒パルスレーザ照射による溶融は、結晶方位が揃った再結晶化(エピタキシャル成長)を進展させ、機械加工で生じた結晶欠陥を無くすことができる。また、アモルファスシリコン層は、波長532nmの光に強い吸収がある。
【0032】
そこで、ナノ秒パルスレーザは、波長λ=355、532、785nmのいずれか、例えば、波長λ=532nmとされ、パルス照射時間は、3ナノ秒から4ナノ秒の範囲内が良い。そして、パルス幅1パルス当たりのエネルギは、0.5μジュールから30μジュール、エネルギ密度が0.125J/cm2から7.5J/cm2であることが良いとされている。
【0033】
また、アルカリエッチング処理後、エッチピットやうねりが大きい部分は、ナノ秒パルスレーザの照射と共に、CW(連続波)レーザ照射を併用する。例えば、ナノ秒パルスレーザを照射する前に、例えば、SiO2に対して吸収率が高い波長である1080nmのCW(連続波)レーザを照射する。
【0034】
さらに、ナノ秒パルスレーザは、照射箇所の曲率に対応してエネルギ密度、スキャンピッチSP、照射回数の少なくともいずれか一つを変えて照射する。これにより、照射条件は、結晶方位や形状に合わせて調整され、シリコンウエハ1の表面は、より均一に改質される。
【0035】
ステップS3―2は、累積照射エネルギを照射位置に係らず平均化及び閾値以下となるように所定のスポット径D(ガウシアンレーザのスポット径)で重複走査(スキャン)してレーザ照射する。つまり、ステップS3―2は、切れ目なくエッジ部全体を均一に平坦化するため、照射する箇所を複数回、重複してスキャンする累積照射とする。所定のスポット径?で累積照射することは、2回以上照射される箇所すなわち照射の重なる部分が存在する。
【0036】
重なる部分は、累積照射エネルギが転位の発生しない閾値を超える恐れがある。そのため、レーザ照射された箇所のうねりを小さくするための重要な条件は、スポット径D、スキャンピッチSP、複数回照射、例えば2回照射における1回目と2回目との位相等であり、累積照射エネルギを転位の発生しない閾値以下とし、平均化する。
【0037】
ステップS4は、シリコンウエハ1の表面が修復されたか否かを確認する工程をステップS2と同様に実行する。修復された場合はレーザ照射を終了し、修復されていない場合は修復が確認されるまでレーザ照射を再開もしくは続行する。
【0038】
図4は、ウエハエッジ部におけるレーザ照射の平面部とR部3の違いを示す図である。
図4は、ステップS3―1の例を示している。平面部である斜面5は、照射面に対して略垂直とするが、R部3は、曲率のある照射箇所であるので、全ての照射箇所に対して垂直にレーザを照射するのは困難である。そこで、
図4に示すように、曲率のある照射箇所は、適当な区間に分割(離散化)して入射角を変化させ、区間毎の照射面に対して垂直に照射する。また、曲率のある照射箇所は、スキャンピッチSPを大きくして、(あるいは、累積の照射回数を減らし)スループットを短縮させ、効率良くすることが望ましい。
【0039】
図5は、スポット径Dとレーザ放射強度I(r)の関係を示すグラフであり、照射箇所が曲面であり、R部3となるときのスポット径D(ビーム中心からのラジアル方向距離r=D/2)とレーザ放射強度I(r)の関係を示している。縦軸は、レーザ放射強度I(r)、横軸は、ビーム中心からのラジアル方向距離r(=D/2)であり、R
iは、R部3の照射箇所の曲率半径である。スポット径Dにおける角度α
Oは、D/R
iであるので、任意のrにおける角度α(r)は、α
O/2×r/(D/2)=r/R
iとなる。
【0040】
照射面が平面のときと曲面のときにおける照射エネルギとの関係は以下となる。レーザ放射強度I(r)は、ガウシアンレーザであるので、(式1)と表せる。
【数1】
照射面が平面のときの照射エネルギE
0は、積分区間を-D/2からD/2として、(式2)となる。
【数2】
ただし、
I
0:ビーム中心でのピーク放射強度
r :ビーム中心からのラジアル方向距離
である。
平面への照射エネルギに対する曲面への照射エネルギの比、つまり、(曲面への照射エネルギ)÷(平面への照射エネルギ)C
iは、α(r)=r/R
iであるから(式3)となる。
【数3】
同様に、曲率が変化する場合(R
i≠R
i+1)隣り合う照射点間でC
i,i+1=(C
i+C
i+1)/2として、E
i,1は、(式4)となる。
【数4】
ただし、
E
i,1:曲面上の照射位置i(i')が実質受けたj回目の照射エネルギEi,j
E
1、E
2、E
n:n回目の照射エネルギ
である。
【0041】
上記より、R部3の曲率が一定の場合は、
R部3のスキャンピッチ=平面部のスキャンピッチ×1/Ci
曲率が変化する場合は、
R部3のスキャンピッチ=平面部のスキャンピッチ×1/Ci,i+1
とすることが好ましい。
【0042】
図6、7は、ステップS3―2において、スポット径D、スキャンピッチSPの定め方を説明するグラフである。
図6がスキャンピッチSPをスポット径D×0.5~0.7とした場合、
図7がスキャンピッチSPをスポット径D×~0.5(スポット径Dの1/2より小さく)とした場合であり、それぞれ照射エネルギを縦軸、照射位置を横軸に示している。照射エネルギは、全体を均一に平坦化するためには、照射位置に係らず平均化し、かつ累積照射エネルギが閾値以下となる必要がある。
【0043】
図6において、E1は1回目の照射エネルギのピークであり、そのピークとなる照射位置iと次の照射位置(i+1)との重なり部分の累積照射エネルギ(矢印b点)は、重ね合わせてもE1よりやや小さくなる。そして、2回目の照射は、E2の照射エネルギとする。(ただし、重なり部分の累積照射エネルギがE1とほぼ同じになるスキャンピッチSPならば、E1だけの照射でよい。)このとき、E2がピークとなる照射位置i'は、i+SP/2となるように位相をずらしている。
【0044】
これにより、矢印a点とb点との累積照射エネルギは、等しくして平均化する。また、照射箇所の累積照射エネルギは、照射回数を複数とし、2回としたE1+E2、あるいは多数回としたE1+E2+…としても転位の発生しない所定の閾値以下とする。さらに、スループット(処理時間)を短縮するためには、2回程度以下の累積照射で行うことが望ましい。
【0045】
図7において、E1は1回目の照射エネルギのピークであり、E2の照射エネルギで2回目の照射を行う。スキャンピッチSPは、スポット径Dの1/2より小さくなっている。E1による矢印b点の累積照射エネルギは、重なるのでE1より大きく、同様にE2による矢印b点の累積照射エネルギはE2より大きくなる。
【0046】
そして、E1とE2との照射による累積照射エネルギは、非重なり部分となる矢印a点のE1+E2と、重なり部分となる矢印b点の和と、で等しくなるようにして平均化する。また、
図6と同様に、照射箇所の累積照射エネルギは、E1+E2、あるいはE1+E2+…としても転位の発生しない所定の閾値以下とする。
【符号の説明】
【0047】
1…シリコンウエハ
2…端面
3…R部
4…上面
5…斜面
SP…スキャンピッチ