(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物、制振材、ギア、及び複合成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20241202BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241202BHJP
B32B 25/00 20060101ALI20241202BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241202BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241202BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20241202BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241202BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L53/02
B32B25/00
B32B27/30 Z
B32B27/36
F16H55/06
F16F15/02 Q
(21)【出願番号】P 2021567202
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020045977
(87)【国際公開番号】W WO2021131733
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2019238582
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真裕
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/103048(WO,A1)
【文献】石井正雄,スチレン系熱可塑性エラストマーの特性と応用,日本ゴム協会誌,第70巻第12号,日本,1997年,707-714頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
B32B
F16F
F16H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と、ガラス転移温度Tgが-10~40℃である水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)と
、相容化剤を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロック(a)と、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロック(b)とを含有するブロック共重合体の水素添加物であり、
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)に対する前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の質量比(A/B)が99/1~1/99であ
り、
前記相容化剤が、エポキシ基含有樹脂である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の、50℃における貯蔵弾性率G’(50℃)に対する0℃における貯蔵弾性率G’(0℃)の比(G’(0℃)/G’(50℃))が10超である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)に対する前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の質量比(A/B)が75/25~95/5である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体における前記重合体ブロック(a)の含有量が30質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記ブロック共重合体における前記重合体ブロック(a)の含有量が16質量%以下である、請求項4に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記共役ジエン化合物はイソプレンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記重合体ブロック(b)は、下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【化1】
(上記式(X)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR
1~R
3はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項8】
前記脂環式骨格(X)の少なくとも1個が、前記R
1~R
3のうち少なくとも1つが炭素数1~11の炭化水素基である脂環式骨格(X’)である、請求項7に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記重合体ブロック(b)の水素添加率が85~99モル%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
前記重合体ブロック(b)のビニル結合量が65~90モル%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の重量平均分子量が30,000~300,000である、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項12】
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδのピークトップ強度が1.0以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性エラストマー組成物の0~40℃におけるtanδ強度の最大値が0.1以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性エラストマー組成物の0~40℃におけるtanδ強度の最大値が0.15以上である、請求項13に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項15】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値が0.05以上である、請求項1~13のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項16】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値に対する前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値の比(tanδ(B)max/tanδ(A)max)が10~80である、請求項1~15のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含有する制振材。
【請求項18】
請求項1~16のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含有するギア。
【請求項19】
請求項1~16のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を含有する熱可塑性エラストマー組成物層が、極性樹脂を含有する極性樹脂層に融着してなる、複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物、制振材、ギア、及び複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱融着しない樹脂同士の組み合わせの複合成形体を製造する場合、両者の複合部分に凹凸部分を設けたり、芯材を部分的に表層材で覆ったり、芯材に穴を開けておき、裏側にまで表層材をまわしたり、接合部分に接着材を塗布したりしていた。そのため、得られた複合成形体は、両層間の接合力に劣るといった問題や、構造が複雑化してしまうという問題や、製造段階における工程数が増加してしまうという問題等が発生していた。
【0003】
斯かる状況下において、上記問題を解決するために、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)にスチレン系エラストマーを添加することにより、被融着材に対する熱融着性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を得ていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記熱可塑性エラストマー組成物は、制振性が十分でないという新たな問題が発生していた。
【0006】
そこで本発明は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの特性を維持しつつ、制振性を向上させることができる熱可塑性エラストマー組成物、前記熱可塑性エラストマー組成物を含有する制振材、前記熱可塑性エラストマー組成物を含有するギア、及び前記熱可塑性エラストマー組成物を含有する熱可塑性エラストマー組成物層を有する複合成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)に、ガラス転移温度が所定範囲内である水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)を添加することによって、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の特性を維持しつつ、制振性を向上させることができ、これにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と、ガラス転移温度Tgが-10~40℃である水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)とを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロック(a)と、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロック(b)とを含有するブロック共重合体の水素添加物であり、
前記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)に対する前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の質量比(A/B)が99/1~1/99である、熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの特性を維持しつつ、制振性を向上させることができる熱可塑性エラストマー組成物、前記熱可塑性エラストマー組成物を含有する制振材、前記熱可塑性エラストマー組成物を含有するギア、及び前記熱可塑性エラストマー組成物を含有する熱可塑性エラストマー組成物層を有する複合成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
本明細書において、「~単位」(ここで「~」は単量体を示す)とは「~に由来する構造単位」を意味し、例えば「プロピレン単位」とは「プロピレンに由来する構造単位」を意味する。
本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0010】
(熱可塑性エラストマー組成物)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)とを含有し、さらに必要に応じて、添加剤を含有する。
【0011】
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)に対するポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の質量比(A/B)としては、99/1~1/99である限り、特に制限はないが、耐油性、耐溶剤性と制振性のバランスの観点から、75/25~95/5であることが好ましく、80/20~90/10であることがより好ましい。
ここで、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の添加量が少な過ぎる(上記質量比(A/B)が99/1超である)と、制振性を発揮できない虞がある。
一方、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の添加量が多過ぎる(上記質量比(A/B)が1/99未満である)と、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(TPEE)の特性が失われる虞がある。
【0012】
<ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)は、例えば、(i)炭素数2~12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、(ii)芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、(iii)ポリアルキレンエーテルグリコールと、を原料とし、エステル化反応、又は、エステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合反応させて得ることができる。
【0013】
<<(i)炭素数2~12の脂肪族及び/又は脂環族ジオール>>
炭素数2~12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料、特に、ポリエステルエラストマーの原料として公知のものを用いることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの脂肪族及び/又は脂環族ジオールは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、1,4-ブタンジオール、エチレングリコールが好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0014】
<<(ii)芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル>>
芳香族ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料、特にポリエステルエラストマーの原料として公知のものを用いることができ、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
また、芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとしては、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート、2,6-ジメチルナフタレート等のジメチルエステルが挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、ジメチルテレフタレート、2,6-ジメチルナフタレートが好ましく、ジメチルテレフタレートがより好ましい。
また、上記以外に3官能のジオール、その他のジオールや他のジカルボン酸及びそのエステルを少量共重合してもよく、さらに、アジピン酸等の脂肪族又は脂環族のジカルボン酸、又は、そのアルキルエステル等も共重合成分として使用してもよい。
【0015】
<<(iii)ポリアルキレンエーテルグリコール>>
ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2及び1,3プロピレンエーテル)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランのブロック又はランダム共重合体等が挙げられる。これらのポリアルキレンエーテルグリコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。
ポリアルキレンエーテルグリコールの重量平均分子量としては、400~6,000であることが好ましく、500~4,000であることがより好ましく、600~3,000であることが特に好ましい。ポリアルキレンエーテルグリコールの重量平均分子量が上記範囲であることにより、共重合体のブロック性を向上させ、系内での相分離によりポリマーの物性が低下するのを抑制することができる。
【0016】
ポリアルキレンエーテルグリコールの含有量は、生成するブロック共重合体に対し、5~95質量%であることが好ましく、10~85質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが特に好ましい。ポリアルキレンエーテルグリコールの含有量を95質量%より少なくすることにより、縮重合によりポリマーを得ることを可能にする。
【0017】
上記ポリアルキレンエーテルグリコールの代わりに、(iv)脂肪族又は脂環式ジカルボン酸と脂肪族ジオールと縮合したポリエステルオリゴマー、(v)脂肪族ラクトン又は脂肪族モノオールカルボン酸から合成されたポリエステルオリゴマーを用いてもよい。
【0018】
<<(iv)脂肪族又は脂環式ジカルボン酸と脂肪族ジオールと縮合したポリエステルオリゴマー>>
脂肪族又は脂環式ジカルボン酸と脂肪族ジオールと縮合したポリエステルオリゴマーとしては、例えば、(a)1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル-4,4′-ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸又はコハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族又は脂環式ジカルボン酸のうちの一種以上と、(b)エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール等の脂肪族ジオールのうちの一種以上とを縮合した構造のポリエステルオリゴマーが挙げられる。
【0019】
<<(v)脂肪族ラクトン又は脂肪族モノオールカルボン酸から合成されたポリエステルオリゴマー>>
脂肪族ラクトン又は脂肪族モノオールカルボン酸から合成されたポリエステルオリゴマーとしては、例えば、ε-カプロラクトン、ω-オキシカプロン酸等から合成されたポリカプロラクトン系ポリエステルオリゴマーが挙げられる。
【0020】
<<エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応>>
なお、上述した、エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応は、常法に従って行うことができる。
【0021】
これらの反応における触媒としては、それぞれ、スズ、チタン、亜鉛、マンガン等のアルコラート、塩化物、酸化物、など公知の触媒のうち1種又は2種以上を使用することができ、有機チタン系触媒を使用することが好ましく、テトラブチルチタネートを使用することがより好ましい。
【0022】
また、助剤として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、又は、それらの金属塩などを添加してもよい。これらの中でも、耐加水分解性が良くなる点で、次亜リン酸アルカリ金属塩を添加することが好ましい。
【0023】
〔次亜リン酸アルカリ金属塩〕
次亜リン酸アルカリ金属塩としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム等が挙げられる。これらの中でも、次亜リン酸ナトリウムが好ましい。
次亜リン酸アルカリ金属塩の添加量としては、特に制限はないが、生成するポリマーに対し、1~1,000質量ppmが好ましく、3~200質量ppmがより好ましく、5~80質量ppmが特に好ましい。
次亜リン酸アルカリ金属塩の添加量を上記範囲内にすることにより、添加の効果を十分に得て、重縮合反応を阻害するのを抑制することができる。
次亜リン酸アルカリ金属塩の添加方法としては、特に制限はなく、次亜リン酸アルカリ金属塩を、溶液状、スラリー状、固体状のどの状態で溶融ポリマーに添加してもよいが、スラリー状で添加することが好ましい。
次亜リン酸アルカリ金属塩の添加時期としては、特に制限はなく、少なくとも重縮合反応終了前、すなわちエステル化反応前又はエステル交換反応前から重縮合反応終了の前までの間で、どの時期に添加してもよいが、重合性の低下が少ない点で、重縮合開始直前に添加することが好ましい。
【0024】
また、エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応の反応工程において、上述の触媒、助剤以外の添加剤が存在していてもよい。
触媒、助剤以外の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化安定剤、ヒンダードアミン系酸化安定剤、リン系酸化安定剤、硫黄系酸化安定剤、トリアゾール系耐光安定剤などのほか、公知の他の添加剤が挙げられる。
これらの中でも、ヒンダードフェノール系酸化安定剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化安定剤をポリマーに対し、0.01~1質量%添加することが効果上一層好ましい。
【0025】
エステル化反応又はエステル交換反応は、通常、120~250℃で行われ、好ましくは、150~230℃で行われる。また、重縮合反応の一種である溶融重縮合反応は、通常、10torr以下の減圧下、200~280℃で2~6時間行われる。
【0026】
通常、溶融重縮合して得られたポリマーは、融点以上の温度で保持され、順次反応缶から吐出、ペレット化が行われる。なお、ここで得られたペレットは、必要に応じて、さらに固相重合してもよい。このようなポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)としては、市販のポリマーである「ペルプレンP」又は「ペルプレンS」(東洋紡績株式会社製商品名)や「ハイトレル」(東レ・デュポン株式会社製商品名)、「ローモッド」(日本ジーイープラスチック株式会社製商品名)、「ニチゴーポリエスター」(日本合成化学工業株式会社製商品名)、「帝人ポリエステルエラストマー」(帝人株式会社製商品名)等がある。
【0027】
<<ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の含有量>>
熱可塑性エラストマー組成物における上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の含有量としては、熱可塑性エラストマー組成物の全量100質量%に対して、1質量%以上99質量%以下である限り、特に制限はなく、当該ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の種類や熱可塑性エラストマー組成物の用途などに応じて適宜調整することができる。上記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の含有量としては、特に制限はなく、熱可塑性エラストマー組成物の全量100質量%に対して、例えば、90質量%以下、75質量%以下、60質量%以下、50質量%以下であってもよく、また、10質量%以上、25質量%以上、40質量%以上、50質量%以上であってもよい。
【0028】
<<ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の構造>>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の構造としては、特に制限はないが、例えば、ポリエステル部位からなるハードセグメント(結晶相)と、ポリエーテル部位又はポリエステル部位からなるソフトセグメント(非晶相)からなる構造等が挙げられる。
ハードセグメントのポリエステル部位としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)部位、ポリエチレンテレフタレート部位、ポリエチレンナフタレート部位、などが挙げられる。
ソフトセグメントのポリエーテル部位としては、例えば、ポリテトラメチレンエーテル部位等の脂肪族ポリエーテル部位などが挙げられる。
ソフトセグメントのポリエステル部位としては、例えば、ポリε-カプロラクトン部位等の脂肪族ポリエステル部位などが挙げられる。
【0029】
<<ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値>>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値としては、特に制限はないが、0.05以上が好ましく、0.055以上がより好ましく、0.06以上が特に好ましい。
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)のtanδ強度の最大値が、上記範囲であれば、制振性をより向上させることができる。
なお、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)のtanδ強度の最大値は、実施例に記載の測定方法に従って測定した値である。
また、熱可塑性エラストマー組成物中にポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)が複数種含まれる場合は、複数のポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)のみからなる熱可塑性エラストマー組成物のtanδ強度の最大値をポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値とする。
【0030】
<<ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の特性>>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の特性としては、ハードセグメント(結晶相)に基づく耐油性、耐熱性、摺動性、良成形性、耐機械的強度、耐薬品性、耐老化性や、ソフトセグメント(非晶相)に基づく消音性、低温柔軟性、高衝撃吸収性などがある。
【0031】
<水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)>
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロック(a)と、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロック(b)とを含有するブロック共重合体を水素添加した水素添加物である。
【0032】
<<重合体ブロック(a)>>
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(a)は、モノマーとして用いられる芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロックである。
重合体ブロック(a)が芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロックであることにより、制振性及び機械的特性を向上させることができる。
重合体ブロック(a)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」と略称することがある。)を、重合体ブロック(a)中70モル%超含有することが好ましく、機械的特性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
【0033】
〔芳香族ビニル化合物〕
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、製造コストと物性バランスの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0034】
本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(a)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「他の不飽和単量体単位」と略称することがある。)を含有してもよいが、重合体ブロック(a)中好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%未満、さらに好ましくは15モル%未満、よりさらに好ましくは10モル%未満、よりさらに好ましくは5モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
該他の不飽和単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(a)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は、特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
【0035】
ブロック共重合体は、前記重合体ブロック(a)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体が重合体ブロック(a)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(a)は、同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、重量平均分子量、立体規則性、及び複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率及び共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
【0036】
〔重量平均分子量〕
重合体ブロック(a)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、ブロック共重合体が有する重合体ブロック(a)のうち、少なくとも1つの重合体ブロック(a)の重量平均分子量が、3,000~60,000であることが好ましく、4,000~50,000であることがより好ましい。ブロック共重合体が、上記範囲内の重量平均分子量である重合体ブロック(a)を少なくとも1つ有することにより、機械強度がより向上し、成形加工性にも優れる。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0037】
〔重合体ブロック(a)の含有量〕
ブロック共重合体における重合体ブロック(a)の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがより好ましく、14質量%以下であることが特に好ましい。ブロック共重合体における重合体ブロック(a)の含有量が30質量%以下であれば、適度な柔軟性を有し、tanδのピークトップ強度が低下することなく制振性に優れた、ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。また、下限値は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが特に好ましい。1質量%以上であれば、各種用途に好適な機械的特性及び成形加工性を有する、ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。
なお、ブロック共重合体における重合体ブロック(a)の含有量は、1H-NMR測定により求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0038】
<<重合体ブロック(b)>>
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(b)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する重合体ブロックであり、下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位(以下、「脂環式骨格含有単位」と略称することがある。)を有することが好ましい。
また、重合体ブロック(b)は、脂環式骨格(X)を含有しない共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン単位」と略称することがある。)を含有してもよい。
重合体ブロック(b)中の共役ジエン単位の合計は、特に制限はないが、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
重合体ブロック(b)中の脂環式骨格含有単位と共役ジエン単位の合計は、特に制限はないが、優れた制振性を発現する観点から、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
【0039】
【化1】
(上記式(X)中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR
1~R
3はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【0040】
上記式(X)中、R1~R3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR1~R3はそれぞれ同一でも異なってもよい。上記炭化水素基の炭素数は、好ましくは炭素数1~5であり、より好ましくは1~3であり、特に好ましくは1(すなわち、メチル基)である。また、上記炭化水素基は、直鎖又は分岐鎖であってもよく、飽和又は不飽和炭化水素基であってもよい。物性及び脂環式骨格(X)形成の観点から、R1~R3は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であることが好ましい。
なお、ブロック共重合体を水素添加すると、上記式(X)におけるビニル基は水素添加され得る。そのため、水素添加物における脂環式骨格(X)には、上記式(X)におけるビニル基が水素添加された骨格が含まれる。
【0041】
重合体ブロック(b)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位であり、脂環式骨格(X)は該共役ジエン化合物に由来する。脂環式骨格(X)は後述する方法により共役ジエン化合物のアニオン重合で生成するものであるが、用いる共役ジエン化合物に応じて脂環式骨格(X)が脂環式骨格含有単位の主鎖に含まれることが好ましい。該脂環式骨格(X)が、重合体ブロック(b)に含まれる構造単位の主鎖に組み込まれていることにより、分子運動が小さくなるためガラス転移温度が上がり、室温付近でのtanδのピークトップ強度が向上して、優れた制振性を発現することができる。
【0042】
〔共役ジエン化合物〕
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ファルネセン、ミルセン及びクロロプレン等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、イソプレンを含むことが好ましい。
【0043】
イソプレンとブタジエンとを併用する場合、それらの配合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)に特に制限はないが、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0044】
具体例として、共役ジエン化合物としてブタジエン、イソプレン、又はブタジエンとイソプレンとの併用を使用する場合に主に生成し得る、脂環式骨格(X)について説明する。
共役ジエン化合物としてブタジエンを単独で使用した場合、下記(i)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)が生成され得る。すなわちこの場合、脂環式骨格(X)はR1~R3が同時に水素原子である脂環式骨格のみとなる。したがって、ブロック共重合体又はその水素添加物の好ましい態様の一例として、重合体ブロック(b)が、R1~R3が同時に水素原子である1種の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有するものが挙げられる。
【0045】
また、共役ジエン化合物としてイソプレンを単独で使用する場合、下記(v)及び(vi)の置換基の組み合わせを有する2種の脂環式骨格(X)が主に生成され得る。
また、共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合、下記(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する6種の脂環式骨格(X)が主に生成され得る。
(i):R1=水素原子、R2=水素原子、R3=水素原子
(ii):R1=水素原子、R2=メチル基、R3=水素原子
(iii):R1=水素原子、R2=水素原子、R3=メチル基
(iv):R1=メチル基、R2=水素原子、R3=水素原子
(v):R1=メチル基、R2=メチル基、R3=水素原子
(vi):R1=メチル基、R2=水素原子、R3=メチル基
【0046】
上記式(X)において、炭化水素基である置換基を有することによって分子運動がより小さくなり制振性がさらに向上する観点から、重合体ブロック(b)中の脂環式骨格(X)少なくとも1個が、上記R1~R3のうち少なくとも1つが炭素数1~11の炭化水素基である脂環式骨格(X’)であることが好ましい。これらの中でも、共役ジエン化合物から脂環式骨格を効率よく生成させることができ、制振性及び機械的特性のバランスの観点から、該脂環式骨格(X’)における炭化水素基がメチル基であることがより好ましい。
特にR1~R3が、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、かつR1~R3が同時に水素原子でない脂環式骨格であることがより好ましい。すなわち、重合体ブロック(b)は、上記(ii)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格のうち、いずれか1種以上を主鎖に含む構成単位を有することが好ましい。
【0047】
〔重合体ブロック(b)中のビニル結合量〕
重合体ブロック(b)を構成する構成単位が、イソプレン単位、ブタジエン単位、イソプレン及びブタジエンの混合物単位のいずれかである場合、前記脂環式骨格(X)を形成する結合形態以外のイソプレン及びブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合を、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合をとることができる。
【0048】
重合体ブロック(b)中の3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(以下、単に「ビニル結合量」と称することがある。)の合計としては、特に制限はないが、65~90モル%であることが好ましく、70~87モル%であることがより好ましく、75~85モル%であることが特に好ましい。上記範囲であれば優れた制振性を発現することができる。
ここで、ビニル結合量は、実施例に記載の方法に従って、1H-NMR測定によって算出した値である。
なお、重合体ブロック(b)がブタジエンのみからなる場合には、前記の「3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量」とは「1,2-結合単位の含有量」と読み替えて適用する。
【0049】
〔重合体ブロック(b)中における脂環式骨格(X)含有量〕
重合体ブロック(b)中には、より優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から、重合体ブロック(b)中に脂環式骨格(X)を1モル%以上含有していることが好ましく、1.1モル%以上含有していることがより好ましく、1.4モル%以上含有していることがさらに好ましく、1.8モル%以上含有していることがよりさらに好ましく、4モル%以上含有していることがよりさらに好ましく、10モル%以上含有していることがよりさらに好ましく、13モル%以上含有していることが特に好ましい。また、重合ブロック(b)中の脂環式骨格(X)の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はないが、生産性の観点から、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよく、18モル%以下であってもよい。
さらに制振性を向上させる観点から、重合体ブロック(b)中に上記脂環式骨格(X’)を1モル%以上含有していることが好ましく、1.3モル%以上含有していることがより好ましく、1.6モル%以上含有していることがより特に好ましい。脂環式骨格(X’)の含有量の上限値は、上記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0050】
より具体的に、共役ジエン化合物としてイソプレンを使用する場合、ブタジエンを使用する場合、又はブタジエンとイソプレンとを併用する場合、の各場合における脂環式骨格含有量は次のとおりである。
共役ジエン化合物としてイソプレンを使用する場合において、重合体ブロック(b)中に、前記(v),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X’)が1種以上存在するときのそれらの合計含有量は、特に制限はないが、より優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から、1モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましく、幅広い温度範囲において優れた制振性の効果を得る観点から、2モル%以上であることがさらに好ましく、3モル%以上であることがよりさらに好ましく、4モル%以上であることが特に好ましい。また、イソプレンを使用する場合の上記合計含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0051】
共役ジエン化合物としてブタジエンを使用する場合において、重合体ブロック(b)中に、脂環式骨格(X)が存在するときのその含有量は、より優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることがさらに好ましく、20モル%以上であることがよりさらに好ましく、25モル%以上であることがよりさらに好ましく、30モル%以上であることが特に好ましい。また、ブタジエンを使用する場合の上記含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0052】
共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合において、重合体ブロック(b)中に、前記(ii),(iii),(v),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X’)が1種以上存在するときのそれらの合計含有量は、より優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましく、8モル%以上であることがよりさらに好ましく、13モル%以上であることが特に好ましい。ブタジエンとイソプレンとを併用する場合の上記合計含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
また、共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合において、重合体ブロック(b)中に、前記(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)が1種以上存在するときのそれらの合計含有量は、より優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から、1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましい。ブタジエンとイソプレンとを併用する場合の上記合計含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0053】
なお、ブロック共重合体又はその水素添加物に含まれる上記脂環式骨格(X)((X’)を含む)含有量は、ブロック共重合体の13C-NMR測定により、重合体ブロック(b)中の脂環式骨格(X)由来の積分値から求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0054】
水素添加物については、13C-NMR測定において脂環式骨格(X)上の炭素原子由来のピークはほとんど観測されないが、前記置換基R3が炭素数1~11の炭化水素基であり、該R3を有するビニル基由来の分岐状アルキル基と結合する該脂環式骨格(X)上の炭素原子由来のピークについては観測され得る。
これにより、水素添加物について重合体ブロック(b)の水素添加率が85~99モル%の場合、上記R3を有するビニル基由来の分岐状アルキル基と結合する脂環式骨格(X)上の炭素原子とビニル基由来の分岐状アルキル基と結合する主鎖上の炭素原子との含有モル比を特定することも可能である。
【0055】
例えば、前記(iii),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)では、イソプレン基と結合する脂環式骨格(X)上の炭素原子(下記化学式の(c))の13C-NMRでのケミカルシフトは50.0~52.0ppm付近に現れ、イソプレン基と結合する主鎖上の炭素原子(下記化学式の(d))の13C-NMRでのケミカルシフトは43.0~45.0ppm付近に現れる。そして、水素添加率が40~99モル%の場合、13C-NMRで測定されるピーク面積比[ケミカルシフト値50.0~52.0ppmのピーク面積]/[ケミカルシフト値43.0~45.0ppmのピーク面積]が通常0.01~3.00の範囲となり、より優れた制振性を発現できる観点から、該面積比は好ましくは0.01~1.50の範囲、より好ましくは0.01~1.00の範囲、さらに好ましくは0.01~0.50の範囲、特に好ましくは0.01~0.25となる。
なお、上記ピーク面積比は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0056】
【0057】
〔その他の構造単位〕
重合体ブロック(b)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、重合体ブロック(b)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは50モル%未満、より好ましくは30モル%未満、さらに好ましくは20モル%未満、よりさらに好ましくは10モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
該他の重合性の単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、N-ビニルカルバゾール、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。
【0058】
ブロック共重合体は、上記重合体ブロック(b)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体中に重合体ブロック(b)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(b)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
〔重量平均分子量〕
ブロック共重合体が有する重合体ブロック(b)の合計の重量平均分子量は、制振性及び成形加工性等の観点から、水素添加前の状態で、15,000~800,000であることが好ましく、50,000~700,000であることがより好ましく、70,000~600,000であることがさらに好ましく、90,000~500,000であることが特に好ましく、130,000~450,000であることが最も好ましい。
【0060】
〔重合体ブロック(b)の含有量〕
ブロック共重合体における重合体ブロック(b)の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、84質量%以上であることがより好ましく、86質量%以上であることが特に好ましい。ブロック共重合体における重合体ブロック(b)の含有量が70質量%以上であれば、適度な柔軟性を有し、tanδのピークトップ強度が低下することなく制振性に優れた、ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。また、上限値は、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、94質量%以下であることが特に好ましい。99質量%以下であれば、各種用途に好適な機械的特性及び成形加工性を有する、ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。
なお、ブロック共重合体における重合体ブロック(b)の含有量は、1H-NMR測定により求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0061】
<<ブロック共重合体の製造方法>>
ブロック共重合体の製造方法として、例えば、1種以上の共役ジエン化合物をモノマーとしてアニオン重合法により重合させることにより、前記脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する重合体ブロック(b)を形成することができる。そして、重合体ブロック(a)のモノマーを添加し、また必要に応じてさらに重合体ブロック(a)のモノマー及び共役ジエン化合物を逐次添加することにより、ブロック共重合体を得ることができる。
上記アニオン重合法により脂環式骨格を生成させる方法は公知の技術を用いることができる(例えば、米国特許第3966691号明細書参照)。脂環式骨格はモノマーの枯渇によってポリマーの末端に形成され、これにさらにモノマーを逐次添加することで該脂環式骨格から再び重合を開始させることができる。そのため、モノマーの逐次添加時間、重合温度、あるいは触媒の種類や添加量、モノマーと触媒との組合せ等により、該脂環式骨格の生成の有無やその含有量を調整することができる。また、アニオン重合法では、アニオン重合開始剤、溶媒、及び必要に応じてルイス塩基を用いることができる。
【0062】
上記方法においてアニオン重合の重合開始剤として使用し得る有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム等が挙げられる。また、重合開始剤として使用し得るジリチウム化合物としては、例えば、ナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼン等が挙げられる。
前記カップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン、安息香酸フェニル等が挙げられる。
これらの重合開始剤及びカップリング剤の使用量は、ブロック共重合体及びその水素添加物の所望とする重量平均分子量により適宜決定される。通常は、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の開始剤は、重合に用いる重合体ブロック(a)のモノマー及び共役ジエン化合物等の単量体の合計100質量部あたり、0.01~0.2質量部の割合で用いられるのが好ましく、カップリング剤を使用する場合は、前記単量体の合計100質量部あたり0.001~0.8質量部の割合で用いられるのが好ましい。
【0063】
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ、特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。また、重合反応は、通常0~100℃、好ましくは10~70℃の温度で、0.5~50時間、好ましくは1~30時間行う。
【0064】
また、共役ジエン化合物の重合の際に共触媒としてルイス塩基を添加する方法により、重合体ブロック(b)における上記脂環式骨格(X)の含有量や、3,4-結合及び1,2-結合の含有量を高めることができる。
ルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリン等のアミン類;ナトリウムt-ブチレート、ナトリムt-アミレート又はナトリウムイソペンチレート等の脂肪族アルコールのナトリウム又はカリウム塩、あるいは、ジアルキルナトリウムシクロヘキサノレート、例えば、ナトリウムメントレートのような脂環式アルコールのナトリウム又はカリウム塩等の金属塩;等が挙げられる。これらのルイス塩基は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
ルイス塩基の添加量は、上記脂環式骨格(X)の含有量をどの程度に制御するか、並びに、前記重合体ブロック(b)が、特にイソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位を含む場合には、重合体ブロック(b)を構成するイソプレン単位及び/又はブタジエン単位のビニル結合量をどの程度に制御するかにより決定される。そのため、ルイス塩基の添加量に厳密な意味での制限はないが、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物又はジリチウム化合物に含有されるリチウム1グラム原子あたり、0.1~1,000モルの範囲内で用いるのが好ましく、1~100モルの範囲内で用いるのがより好ましい。
【0066】
共役ジエン化合物の平均フィード速度(以下、「平均ジエンフィード速度」と称すことがある。)としては、特に制限はないが、脂環式骨格(X)の含有量を高める観点から、活性末端1モル当たり、150kg/h以下であることが好ましく、110kg/h以下であることがより好ましく、55kg/h以下であることが特に好ましく、45kg/h以下であってもよく、30kg/h以下であってもよく、22kg/h以下であってもよい。共役ジエン化合物の平均フィード速度の下限値としては、特に制限はないが、生産性を高める観点から、活性末端1モル当たり、1kg/h以上が好ましく、3kg/h以上がより好ましく、5kg/h以上が特に好ましく、7kg/h以上であってもよく、10kg/h以上であってもよく、15kg/h以上であってもよい。
【0067】
上記した方法により重合を行なった後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させることにより、ブロック共重合体を得ることができる。
【0068】
<<水素添加>>
上記の製造方法により得られたブロック共重合体に対して水素添加反応(水添反応)を施すことにより、ブロック共重合体における重合体ブロック(b)中の共役ジエン化合物由来の炭素-炭素二重結合が水素添加され、ブロック共重合体の水素添加物を得ることができる。
水素添加反応(水添反応)は、例えば、不活性有機溶媒中において水添触媒の存在下で行われる。
水添反応は、水素圧力を0.1~20MPa程度、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは0.5~5MPaとし、反応温度を20~250℃程度、好ましくは50~180℃、より好ましくは70~180℃とし、反応時間を通常0.1~100時間程度、好ましくは1~50時間として実施することができる。
水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒等が挙げられる。
【0069】
このようにして得られた水素添加物は、重合反応液をメタノール等に注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、重合反応液をスチームと共に熱水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得することができる。
【0070】
重合体ブロック(b)の水素添加率としては、特に制限はないが、85~99モル%であることが好ましく、87~98モル%であることがより好ましく、88~97モル%であることが特に好ましい。重合体ブロック(b)の水素添加率が高い程、耐熱性や耐候性が向上した水素添加物とすることが可能である。
なお、上記水素添加率は、重合体ブロック(b)中の共役ジエン化合物及び脂環式骨格(X)に由来する構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加後の1H-NMR測定によって求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0071】
<<ブロック共重合体における重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)の結合様式>>
ブロック共重合体は、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)とが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。これらの中でも、重合体ブロック(a)と重合体ブロック(b)の結合形式が直鎖状であることが好ましく、その例としては、重合体ブロック(a)をAで、また重合体ブロック(b)をBで表したときに、A-Bで示されるジブロック共重合体、A-B-A又はB-A-Bで示されるトリブロック共重合体、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-B-A又はB-A-B-A-Bで示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nZ型共重合体(Zはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。これらの中でも、直鎖状のトリブロック共重合体、又はジブロック共重合体が好ましく、柔軟性、製造の容易性等の観点から、A-B-A型のトリブロック共重合体がより好ましい。
A-B-A型のトリブロック共重合体として具体的には、スチレン-水添ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体が挙げられる。すなわち、ブロック共重合体として少なくともスチレン-水添ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体を含むことが好ましい。
【0072】
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤等を介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-Z-Y(Zはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-Z-B-A(Zはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0073】
<<ブロック共重合体における重合体ブロック(a)及び重合体ブロック(b)の合計含有量>>
ブロック共重合体において、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記重合ブロック(a)及び(b)以外の他の単量体で構成される重合ブロックを含有していてもよいが、前記重合体ブロック(a)及び前記重合体ブロック(b)の合計含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。90質量%以上であれば、制振性及び成形加工性に優れ、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすいブロック共重合体の水素添加物を得ることができる。
【0074】
<<水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の含有量>>
熱可塑性エラストマー組成物における上記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の含有量としては、熱可塑性エラストマー組成物の全量100質量%に対して、1質量%以上99質量%以下である限り、特に制限はなく、当該水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の種類や熱可塑性エラストマー組成物の用途などに応じて適宜調整することができる。上記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の含有量は、熱可塑性エラストマー組成物の全量100質量%に対して、例えば、90質量%以下、75質量%以下、60質量%以下、50質量%以下であってもよく、また、10質量%以上、25質量%以上、40質量%以上、50質量%以上であってもよい。
【0075】
<<水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の重量平均分子量>>
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はないが、30,000~300,000であることが好ましく、50,000~250,000であることがより好ましく、100,000~200,000であることが特に好ましい。水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の重量平均分子量が30,000以上であれば、耐熱性が高くなり、300,000以下であれば、成形性加工性が良好となる。
【0076】
<<水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のガラス転移温度Tg>>
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のガラス転移温度Tgとしては、-10~40℃である限り、特に制限はないが、-7~35℃であることが好ましく、-5~30℃であることがより好ましく、-5~25℃であることが特に好ましい。
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のガラス転移温度Tgが、-10℃未満又は40℃超であると、実用温度領域での制振性が低くなる。
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のガラス転移温度Tgが上記好ましい範囲内であれば、実用温度領域で高い制振性を発現することができる。
【0077】
<<水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の貯蔵弾性率G’>>
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の、50℃における貯蔵弾性率G’(50℃)に対する0℃における貯蔵弾性率G’(0℃)の比(G’(0℃)/G’(50℃))としては、特に制限はないが、10超であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることが特に好ましい。
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の、50℃における貯蔵弾性率G’(50℃)に対する0℃における貯蔵弾性率G’(0℃)の比(G’(0℃)/G’(50℃))が上記範囲であれば、高い制振性を発現することができる。
【0078】
<<水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδ>>
-tanδのピークトップ強度及びピークトップ温度-
tanδ(損失正接)は、動的粘弾測定における周波数1Hzにおける損失弾性率/貯蔵弾性率の比であり、tanδのピークトップ強度及びピークトップ温度は、制振性、及びその他の物性に大きく寄与する。ここで、tanδのピークトップ強度とは、tanδのピークが最大となるときのtanδの値のことである。また、tanδのピークトップ温度とは、tanδのピークが最大となるときの温度のことである。
【0079】
本明細書において水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδのピークトップ強度及びピークトップ温度は、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)を、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmの単層シートを作製し、該単層シートを円板形状に切り出し、これを試験片として測定する。測定条件は、JIS K 7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~100℃、昇温速度3℃/分である。
なお、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のピークトップ強度及びピークトップ温度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0080】
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)は、上記測定により、tanδのピークトップ強度が1.0以上であることが好ましい。より高いものでは、1.5以上、さらには1.9以上となるものもある。tanδのピークトップ強度が高い程、その温度における制振性等の物性に優れることを示し、1.0以上であれば、実使用環境下において充分な制振性を得ることができる。
また、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδのピークトップ温度としては、特に制限はないが、-50℃以上であることが好ましく、-40℃以上であることがより好ましく、-30℃以上であることがさらに好ましく、-25℃以上であることが特に好ましく、0℃以上であってもよい。また、上記tanδのピークトップ温度の上限値としては、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、50℃以下であってもよく、40℃以下であってもよく、35℃以下であってもよい。水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδのピークトップ温度の範囲としては、特に制限はないが、-50~50℃であることが好ましく、-40~40℃であることがより好ましく、-30~30℃であることがさらに好ましく、-25~25℃であることが特に好ましい。上記tanδのピークトップ温度が、-50℃以上であれば、実使用環境下において充分な制振性を得ることができ、50℃以下であれば、粘着層に用いた際に望ましい接着性を発現することができる。
【0081】
〔tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅〕
また水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)は、上記測定条件で測定した-70~100℃におけるtanδが1.0以上となる一連の温度領域が存在する。該温度領域の最大幅としては、特に制限はなく、12℃以上であることが好ましく、13℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることがさらに好ましく、17℃以上であることが特に好ましい。
重合体ブロック(b)の構造単位において前記脂環式骨格(X)が主鎖に組み込まれている場合、さらに高いビニル結合量を有し得るので、分子運動が小さくなるためガラス転移温度が上昇し、温度変化に対してガラス転移がなだらかになる。これにより、ブロック共重合体の水素添加物(水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B))のtanδが1以上を示す温度範囲が広くなり、広い温度範囲で制振性を示すことが可能となる。tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅が12℃以上、さらには13℃以上であれば、実使用環境下においてより優れた制振性を得ることができる。
【0082】
-水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値-
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値としては、特に制限はなく、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が特に好ましい。
水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδ強度の最大値が、上記範囲であれば、制振性をより向上させることができる。
なお、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のtanδ強度の最大値は、実施例に記載の測定方法に従って測定した値である。
また、熱可塑性エラストマー組成物中に水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)が複数種含まれる場合は、複数の水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)のみからなる熱可塑性エラストマー組成物のtanδ強度の最大値を水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値とする。
例えば、後述する参考例1で示すように、熱可塑性エラストマー組成物中に50質量部のB-1と50質量部のB-3とが含まれる場合、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値は1.03である。
【0083】
<<ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)との合計含有量>>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)以外の後述する添加剤を含有していてもよいが、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)との合計含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。90質量%以上であれば、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの特性を維持しつつ、制振性を向上させることができる熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0084】
<添加剤>
任意成分である添加剤としては、例えば、相容化剤、他の樹脂、他の成分などが挙げられる。
【0085】
<<含有量>>
熱可塑性エラストマー組成物が上記添加剤を含有する場合、上記添加剤の含有量としては、特に制限はなく、当該添加剤の種類や熱可塑性エラストマー組成物の用途などに応じて適宜調整することができ、熱可塑性エラストマー組成物の全量100質量%に対して、例えば50質量%以下、45質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよく、また、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、5質量%以上であってもよい。
【0086】
<<相容化剤>>
相容化剤は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)とを相容させる作用を有する。この相容させる作用は、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の末端の官能基と、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の末端の官能基と、相容化剤における官能基(例えば、エポキシ基)が反応することによって得られる。
【0087】
相容化剤としては、例えば、エポキシ基含有エチレン系共重合体、ジエン系重合体のエポキシ化物等のエポキシ基含有樹脂が好適に挙げられる。エポキシ基含有樹脂を相容化剤として用いると、他の相容化剤に比べて、概して少量で極性樹脂をポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)に分散させやすくなる。なお、エポキシ基含有樹脂とは異なる相容化剤を用いると、使用量は大きくなりやすいものの、相容化剤を樹脂組成物中に均一に分散させやすくなり、押出成型等の連続生産を行う際にフィード量を安定させやすくなる等の利点がある。
【0088】
〔エポキシ基含有エチレン系共重合体〕
エポキシ基含有エチレン系共重合体は、エチレンに由来する構造単位と、メタクリル酸グリシジルに由来する構造単位とを含む共重合体である。
このエポキシ基含有エチレン系共重合体におけるメタクリル酸グリシジルに由来する構造単位の含有量としては、特に制限はないが、相容化効果の観点から、該共重合体の質量を100質量%とするとき、3~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることが特に好ましい。
なお、メタクリル酸グリシジルに由来する構造単位の含有量は、赤外分光法により測定される。
【0089】
エポキシ基含有エチレン系共重合体は、エチレンに由来する構造単位と、メタクリル酸グリシジルに由来する構造単位のみからなるエポキシ基含有エチレン系共重合体であってもよいし、エチレンに由来する構造単位と、メタクリル酸グリシジルに由来する構造単位と、以下の式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の化合物に由来する構造単位を更に含むエポキシ基含有エチレン系共重合であってもよい。
CH2=CR4R5 (1)
CHR6=CHR7 (2)
式中、
R4は水素原子、または炭素数1~8のアルキル基を表し、
R5はハロゲン原子、または-COOR8で表される基(R8は炭素数1~8のアルキル基を表す)を表し、
R6は水素原子、炭素数1~8のアルキル基、または-COOR9で表される基(R9は炭素数1~8のアルキル基を表す)を表し、
R7は炭素数1~8のアルキルニトリル、アルキルエーテル基、アルキルアミド、ハロゲン原子、フェニル基、もしくは-COOR10で表される基(R10は炭素数1~8のアルキル基を表す)を表すか、またはR
7
は-OCOR11で表される基(R11は炭素数1~8のアルキル基を表す)を表す。
式(1)で表される化合物としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリロニトリル、イソブチルビニルエーテル、アクリルアミドが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましい。
式(2)で表される化合物としては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチルが挙げられる。
エポキシ基含有エチレン系共重合体が、エチレンに由来する構造単位と、メタクリル酸グリシジルに由来する構造単位と、式(1)または式(2)で表される化合物に由来する構造単位とからなる場合、式(1)または式(2)で表される化合物に由来する単量体単位の含有量としては、特に制限はないが、該共重合体の質量を100質量%とするとき、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。また、上記の場合、メタクリル酸グリシジルに由来する単量体単位の含有量としては、特に制限はないが、該共重合体の質量を100質量%とするとき、2~20質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましく、5~7質量%であることが特に好ましい。
【0090】
エポキシ基含有エチレン系共重合体は、例えば、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-プロピレン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-ブテン-1-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アクリル酸-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-メタクリル酸エチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-マレイン酸メチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-マレイン酸エチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-フマル酸メチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-フマル酸エチル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-塩化ビニル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-塩化ビニリデン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-スチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アクリロニトリル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-イソブチルビニルエーテル-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アクリルアミド-メタクリル酸グリシジル共重合体、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体(例えば、住友化学株式会社製、ボンドファーストBF-E、エチレン単位:88質量%、グリシジルメタクリレート単位:12質量%)、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジル共重合体(例えば、住友化学株式会社製、ボンドファーストBF-7M、エチレン単位:67質量%、グリシジルメタクリレート単位:6質量%、メチルアクリレート単位27質量%)が好ましい。
【0091】
エポキシ基含有エチレン系共重合体は、種々の方法で合成することができる。例えば、フリーラジカル開始剤による塊状重合、乳化重合、溶液重合などによって製造することができる。
なお、代表的な重合方法は、特開昭48-11388号公報、特開昭61-127709号公報などに記載された方法、フリーラジカルを生成する重合開始剤の存在下、圧力500kg/cm2以上、温度40~300℃の条件で共重合する方法が挙げられる。
【0092】
また、エチレンに由来する構造単位と、任意に式(1)または式(2)で表される化合物に由来する構造単位を含む重合体に、不飽和エポキシ化合物及びラジカル発生剤を混合し、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法、あるいは、エチレン及び不飽和エポキシ化合物、さらに任意成分として式(1)または式(2)で表される化合物を、水又は有機溶剤等の不活性媒体中、ラジカル発生剤の存在下共重合させる方法が挙げられる。
【0093】
〔ジエン系重合体のエポキシ化物〕
ジエン系重合体のエポキシ化物は、ジエン系重合体をエポキシ化剤によってエポキシ化することにより、分子内にエポキシ基が導入された重合体である。ジエン系重合体のエポキシ化物に用いられるジエン系重合体としては、ブタジエン重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、イソプレン重合体、スチレン-イソプレン共重合体、及び、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、スチレン-ブタジエン共重合体を用いたスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物が相容性向上の観点から特に好ましい。
スチレン-ブタジエンブロック共重合体エポキシ化物としては、例えば、下記一般式(3)又は(4)で表される、スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物が挙げられる。
【0094】
【0095】
スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物の市販品としては、株式会社ダイセル製エポフレンドAT501、エポフレンドCT310等が挙げられる。
【0096】
〔相容化剤の添加量〕
上記相容化剤の添加量としては、特に制限はないが、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)との合計100質量部に対して、0.1質量部~20質量部が好ましく、0.5質量部~10質量部がより好ましく、1質量部~5質量部が特に好ましい。
【0097】
<<他の樹脂>>
他の樹脂としては、例えば、オレフィン樹脂;ポリイソプレン;ポリブタジエン;エチレン-プロピレン-ジエン共重合体加硫物;スチレン-ブタジエンゴム;スチレン-イソプレンゴム;ニトリルゴム、ブチルゴム;天然ゴム;エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレン-(メタ)アクリレート共重合体;エチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等の金属イオン架橋樹脂(アイオノマー);ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のアセタール系樹脂;ポリメチルメタアクリレート系樹脂等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体;エチレン-塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体;などが挙げられる。
【0098】
<<他の成分>>
他の成分としては、例えば架橋剤(イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン樹脂等)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、透光性調整剤、蛍光剤、摺動性付与剤、透明性付与剤、アンチブロッキング剤、金属不活性化剤、防菌剤、結晶核剤、亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤、防鼠剤、分散剤、増粘剤、耐光剤、耐候剤、銅害防止剤、補強剤、防かび剤、大環状分子(シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビツリル等)、前記粘着付与樹脂以外の粘着剤(アクリル系粘着剤等)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0099】
<熱可塑性エラストマー組成物のtanδ強度>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のtanδ強度の最大値としては、特に制限はなく、0~40℃において、0.1以上であることが好ましく、0.13以上であることがより好ましく、0.15以上であることが特に好ましい。
熱可塑性エラストマー組成物のtanδ強度が、上記範囲であれば、制振性をより向上させることができる。
なお、tanδ強度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0100】
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値に対する水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値の比(tanδ(B)max/tanδ(A)max)としては、特に制限はないが、10~80が好ましく、12~40がより好ましく、14~35が特に好ましい。
比(tanδ(B)max/tanδ(A)max)が、上記範囲であれば、熱可塑性エラストマー組成物の制振性をより向上させることができる。
【0101】
(制振材)
本発明の制振材は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含有してなる、ことを特徴とする。
なお、制振材とは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等の他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。
【0102】
<含有量>
制振材における熱可塑性エラストマー組成物の含有量は、特に制限はないが、制振材としての性能の観点から、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。制振材における熱可塑性エラストマー組成物の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲において、特に制限されず、100質量%であってもよいが、経済性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。
【0103】
(ギア)
本発明のギアは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含有してなる、ことを特徴とする。
本発明のギアの種類としては、特に制限はなく、例えば、ノイズレスギア、ヘッドランプアクチュエータギア、HVACギア、などが挙げられる。
【0104】
<含有量>
ギアにおける熱可塑性エラストマー組成物の含有量は、特に制限はないが、ギアとしての性能の観点から、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。ギアにおける熱可塑性エラストマー組成物の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲において、特に制限されず、100質量%であってもよいが、経済性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。
【0105】
(複合成形体)
本発明の複合成形体は、熱可塑性エラストマー組成物を含有する熱可塑性エラストマー組成物層が極性樹脂を含有する極性樹脂層に融着してなる、ことを特徴とする。
【0106】
<熱可塑性エラストマー組成物層>
熱可塑性エラストマー組成物層は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含有してなる層である。
熱可塑性エラストマー組成物層における熱可塑性エラストマー組成物の含有量としては、特に制限はないが、熱可塑性エラストマー組成物層としての性能の観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることが特に好ましい。熱可塑性エラストマー組成物層における熱可塑性エラストマー組成物の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲において、特に制限されず、100質量%であってもよいが、経済性の観点から、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
【0107】
<極性樹脂層>
極性樹脂層は、極性樹脂を含有してなる層である。
極性樹脂層における極性樹脂の含有量としては、特に制限はないが、極性樹脂層としての性能の観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0108】
<<極性樹脂>>
極性樹脂は、例えば、(i)カルボキシ基、スルホン酸基、水酸基、シアノ基等の極性基を有する樹脂、(ii)樹脂中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルフィド結合等を有する樹脂、(iii)分子中に、酸素、窒素、硫黄、ハロゲンのうち少なくとも1つを含む樹脂等を指し、分子内で電子的に分極が発生する樹脂であって、熱可塑性を有するものである。
極性樹脂の具体例としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン12、ナイロン46、非晶質ナイロン等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリアセタール樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ビニロン、トリアセチルセルロース、ABS樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂、などが挙げられる。これらの極性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、が好ましい。
極性樹脂のガラス転移温度及び融点の少なくとも一方が、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。ここで、融点はDSC測定装置にて測定される。
ガラス転移温度及び融点の少なくとも一方が、上記範囲にあることで、極性樹脂の力学物性が良好になる。
【0109】
<複合成形体の製造方法>
複合成形体の製造方法としては、例えば、インサート射出成形法、二色射出成形法、Tダイラミネート成形法、共押出成形法、ブロー成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションプレス成形法等の各種成形法を用いることができる。
【0110】
<<インサート射出成形法>>
インサート射出成形法とは、予め芯材(極性樹脂)を射出成形、押出成形、シート成形、フィルム成形などにより成形し、賦形された成形品を金型内にインサートした後、該成形品と金型との間の空隙に表層材(熱可塑性エラストマー組成物)を射出成形する成形方法、又は、予め熱可塑性エラストマー組成物を射出成形、押出成形、シート成形、フィルム成形などにより成形し、賦形された成形品を金型内にインサートした後、該成形品と金型との間の空隙に極性樹脂を射出成形する成形方法である。
【0111】
<<二色射出成形法、コアバック射出成形法>>
二色射出成形法とは、二台以上の射出成形機を用いて、極性樹脂を射出成形した後に、金型が回転、又は移動することにより、金型のキャビティーが交換され、該成形品と金型との間に空隙ができ、そこに熱可塑性エラストマー組成物を射出成形する成形方法である。また、コアバック射出成形法とは、1台の射出成形機と1個の金型を用いて、極性樹脂を射出成形した後に、金型のキャビティー容積を拡大させ、該成形品と金型との間の空隙に熱可塑性エラストマー組成物を射出成形する成形方法である。
【0112】
また、極性樹脂の成形は、通常の射出成形法を用いたものでもよく、ガスインジェクション成形をしたものでもよい。
極性樹脂の射出成形温度としては、特に制限はないが、100~300℃であることが好ましく、150~280℃であることがより好ましい。
極性樹脂の射出成形圧力としては、特に制限はないが、50~1,000kg/cm2であることが好ましく、100~800kg/cm2であることがより好ましい。
【0113】
この射出成形体における極性樹脂層の平均肉厚としては、特に制限はないが、0.5~6mmであることが好ましい。上記範囲であることで、極性樹脂層にヒケが発生するのを防止して、成形品表面の平滑性を向上させることができると共に、例えば、自動車用内装部品に用いる場合に必要とされる剛性、強度等の機械的特性、耐熱性、耐久性を満たすことができる。
また、熱可塑性エラストマー組成物層の平均肉厚としては、特に制限はないが、1~5mmであることが好ましい。上記範囲であることで、ソフト感を向上させることができると共に、極性樹脂と熱可塑性エラストマー組成物との付着性を向上させることができる。
【0114】
また、熱可塑性エラストマー組成物層の射出成形温度としては、特に制限はないが、150~300℃であることが好ましく、200~290℃であることがより好ましく、220~280℃であることが特に好ましい。
熱可塑性エラストマー組成物層の射出成形圧力としては、特に制限はないが、50~1,000kg/cm2であることが好ましく、100~800kg/cm2であることがより好ましい。
【0115】
このようにして得られた複合成形体は、各種工業部品として使用することができる。具体的には、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップ、ハンドル、エアバックカバー等の自動車内装部品、モール等の自動車外装部品、ラック&ピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツなどの自動車機能部品、掃除機バンパー、リモコンスイッチ、OA機器の各種キートップ等の家電部品、水中眼鏡、水中カメラカバー等の水中使用製品、各種カバー部品、密閉性、防水性、防音性、防振性等を目的とした各種パッキン付き工業部品、カールコード電線被覆、ベルト、ホース、チューブ、消音ギアなどの電気、電子部品、スポーツ用品、等に使用することができる。
【実施例】
【0116】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0117】
<水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)>
後述の製造例で得られた水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)の物性評価方法を以下に示す。
(1)重合体ブロック(a)の含有量
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、芳香族ビニル化合物としてのスチレンに由来するピーク強度とジエンに由来するピーク強度の比から重合体ブロック(a)の含有量を算出した。
【0118】
(2)重量平均分子量(Mw)
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
<<GPC測定装置及び測定条件>>
・装置 :GPC装置「HLC-8020」(東ソー株式会社製)
・分離カラム :東ソ-株式会社製の「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結した。
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0119】
(3)重合体ブロック(b)における水素添加率
1H-NMR測定により、イソプレン及び/又はブタジエンの残存オレフィン由来のピーク面積とエチレン、プロピレン及び/又はブチレン由来のピーク面積との比から算出した。
・装置:核磁気共鳴装置「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)
・溶媒:CDCl3
【0120】
(4)重合体ブロック(b)におけるビニル結合量
水添前のブロック共重合体をCDCl3に溶解して1H-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。イソプレン及び/又はブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積と、イソプレン構造単位における3,4-結合単位及び1,2-結合単位、ブタジエン構造単位における1,2-結合単位、又は、イソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位の場合はそれぞれの前記結合単位に対応するピーク面積の比とからビニル結合量(3,4-結合単位と1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。
【0121】
(5)重合体ブロック(b)中の脂環式骨格(X)の含有量
水添前のブロック共重合体600mg及びCr(acac)3 40mgをCDCl3 4mLに溶解して10mmNMRチューブを用いて定量13C-NMR測定(パルスプログラム:zgig、Inverse gated 1H decoupling法)[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、下記の方法にて重合体ブロック(b)中の脂環式骨格X、X1、及びX2それぞれの含有量を算出した。
なお、表1-1、表1-2、及び表3中、X、X1、及びX2は次の脂環式骨格を示す。
X:以下(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
X1:以下(i),(iv)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
X2:以下(ii),(iii),(v),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
(i):R1=水素原子、R2=水素原子、R3=水素原子;(1,2Bd+Bd)
(ii):R1=水素原子、R2=メチル基、R3=水素原子;(1,2Bd+1,2Ip)
(iii):R1=水素原子、R2=水素原子、R3=メチル基;(1,2Bd+3,4Ip)
(iv):R1=メチル基、R2=水素原子、R3=水素原子;(1,2Ip+Bd)
(v):R1=メチル基、R2=メチル基、R3=水素原子;(1,2Ip+1,2Ip)
(vi):R1=メチル基、R2=水素原子、R3=メチル基;(1,2Ip+3,4Ip)
【0122】
〔算出方法〕
各ピークと由来する構造を表1-1に示す。それぞれのピークの積分値をa~gとすると、各構造の積分値は表1-2のようになり、X,X1,X2の含有量はそれぞれ、(a+g-c)/(a+b+c-d+e/2+2f),(g-c)/(a+b+c-d+e/2+2f),a/(a+b+c-d+e/2+2f)で算出できる。
【0123】
【0124】
(6)ガラス転移温度Tg(℃)
製造例1~3の水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)について、ガラス転移温度Tg測定を下記方法で行った。
[ガラス転移温度(Tg)測定]
JIS K7121:2012に準拠して測定した。測定に示差走査熱量測定(DSC)装置(TA製;DSC250)を用いた。DSC曲線の測定条件は、試料を230℃まで一度昇温し、次いで-90℃まで冷却し、その後、-90℃から230℃までを10℃/分で昇温させる条件とした。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から中間点ガラス転移温度を求め、係る中間点ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0125】
(7)tanδのピークトップ温度、ピークトップ強度、tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅
以下の測定のため、水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)を、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmの単層シートを作製した。該単層シートを円板形状に切り出し、これを試験シートとした。
測定には、JIS K 7244-10(2005年)に基づいて、平行平板振動レオメータとして、円板の直径が8mmのゆがみ制御型動的粘弾性装置「ARES-G2」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いた。
上記試験シートによって2枚の平板間の隙間を完全に充填し、歪み量0.1%で、上記試験シートに1Hzの周波数で振動を与え、-70℃から100℃まで3℃/分の定速で昇温することで、tanδのピーク強度の最大値(ピークトップ強度)及び該最大値が得られた温度(℃)(ピークトップ温度(℃))を求めた。また、水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の0~40℃におけるtanδ強度の最大値を求めた。さらに、tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅(℃)を求めた。該値が大きいほど、制振性に優れることを示す。
(8)水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)のG’比率(G’(0℃)/G’(50℃))
製造例1~3の水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)のG’比率(G’(0℃)/G’(50℃))の測定を、水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)を温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧して作製した厚み1.0mmの単層シートを円板形状に切り出した試験シートを用いて、JIS K 7244-10(2005年)に基づいて、平行平板振動レオメータとして、円板の直径が8mmのゆがみ制御型動的粘弾性装置「ARES-G2」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)により行った。
【0126】
[製造例1]
水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)の製造
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液87g(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:9.1g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.0kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃で、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)63gを加え、イソプレン8.16kg及びブタジエン6.48kgの混合液を表2に示す平均ジエンフィード速度で、5時間かけて加えた後2時間重合させ、さらにスチレン(2)1.0kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B))を得た。
各原料及びその使用量(kg)について表2に示した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
【0127】
[製造例2~3]
水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)の製造
各成分及びそれらの使用量、並びに反応条件を表2に記載のとおりに変更したこと以外は製造例1と同様にして、ブロック共重合体の水素添加物(水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B))を製造した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
【0128】
【0129】
【0130】
〔実施例1~10及び比較例1及び2、並びに参考例〕
製造例1~2の水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)は、tanδのピークトップ強度が1.0以上を示し、また広い温度領域においてtanδのピークトップ温度が示されるため、制振材料として幅広い用途に好適であるといえる。
【0131】
表4及び表5に示す熱可塑性エラストマー組成物の配合(質量部)について、ブラベンダー(ブラベンダー社製、「プラストグラフEC:50ccミキサー」)に投入し、シリンダー温度240℃、スクリュー回転数100rpmで3分間溶融混練した後、得られた組成物をプレス成形(240℃、2分)してシート(厚み1mm)を作製した。上記作製したシート(厚み1mm)について、下記方法により、tanδ強度を測定した。また、tanδ強度の測定に用いた試験片について、下記方法により、分散径(μm)を測定した。
【0132】
[分散径測定]
tanδの測定に用いた上記試験片を、液体窒素を用いて凍結破断し、断面をキシレンでエッチングした後に、白金で蒸着してサンプルを作製し、SEMで観察した。得られた画像において、エッチングで抜けた空孔50個の直径の平均値を体積平均分散径とした。結果を表5に示す。
【0133】
[tanδ強度測定(せん断、1Hz)]
JIS K 7244-10(2005年)に従って、測定を行った。具体的には、得られたシートを直径8mmに切り出したものをサンプルとして、歪み制御型動的粘弾性装置「ARES-G2」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、歪み量0.1%で、1Hzの周波数で振動を与え、-70℃から100℃まで3℃/分の定速で昇温して測定することによりシートの0℃、10℃、20℃、30℃、40℃におけるtanδ強度を測定し、0℃~40℃のtanδ強度の最大値を求めた。tanδ強度が大きいほど、制振性に優れることを示す。結果を表4及び表5に示す。
【0134】
【0135】
表4及び5に示す各成分は下記の通りである。
A-1:東レ・デュポン株式会社製ハイトレル3046(ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A):TPEE)
なお、上記A-1の0~40℃におけるtanδ強度の最大値を、上記水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の測定方法と同様に測定したところ、0.07であった。
B-1:製造例1により作製された水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)
B-2:製造例2により作製された水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)
B-3:製造例3により作製された水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)
C-1:相容化剤:住友化学株式会社製エチレン・グリシジルメタクリレート コポリマー ボンドファーストBF-7M
C-2:相容化剤:住友化学株式会社製エチレン・グリシジルメタクリレート コポリマー ボンドファーストBF-E
C-3:相容化剤:株式会社ダイセル製スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物 エポフレンドAT501
【0136】
表4及び5より、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)と、芳香族ビニル化合物(スチレン)に由来する構造単位を有する重合体ブロック(a)と共役ジエン(イソプレン、並びに、イソプレン及びブタジエン)に由来する構造単位を有する重合体ブロック(b)とを含有するブロック共重合体の水素添加物であり、ガラス転移温度が-10~40℃である水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B)とを、質量比(A/B)99/1~1/99で含有すれば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の特性を維持しつつ、制振性を向上させることができることが分かる。
表4より、イソプレンとブタジエンを併用して得られた水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B-1)を含む実施例1~3は、イソプレンを単独使用して得られた水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B-2)を含む実施例4~5よりも、0℃~20℃で高いtanδが得られていることが分かり、また、イソプレンを単独使用して得られた水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B-2)を含む実施例4~5は、イソプレンとブタジエンを併用して得られた水添芳香族ビニル系化合物系エラストマー(B-1)を含む実施例1~3よりも、30℃~40℃で高いtanδが得られていることが分かる。
表5より、相容化剤を添加した場合、相容化剤の添加量をポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)及び水添芳香族ビニル化合物系エラストマー(B)の合計100質量部に対して1質量部~3質量部の範囲で変化させても(実施例6~8)、tanδの値が大きく変化してことがないことが分かり、また、相容化剤を添加した場合、相容化剤の種類をC-1~C-3間で変化させても(実施例7、9、10)、tanδの値が大きく変化してことがないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A)の特性を維持しつつ、制振性を向上させることができることから、例えば、制振材、ギア、複合成形体等に好適に利用することが可能である。