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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20241202BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 131/04 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 131/10 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 105/06 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20241202BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20241202BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20241202BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20241202BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241202BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20241202BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20241202BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M101/02
C10M131/04
C10M131/10
C10M105/06
C10M105/18
C10M105/32
C10M107/02
C10M107/34
C10N20:00 A
C10N20:00 C
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N40:00 D
C10N40:14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021571244
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001167
(87)【国際公開番号】W WO2021145405
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2020004703
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】中原 靖人
(72)【発明者】
【氏名】巽 浩之
(72)【発明者】
【氏名】成田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕輝
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/034568(WO,A1)
【文献】特開平02-255797(JP,A)
【文献】特開昭49-032199(JP,A)
【文献】特開2012-197326(JP,A)
【文献】特開平08-253780(JP,A)
【文献】特開2010-132792(JP,A)
【文献】特開2008-266656(JP,A)
【文献】国際公開第02/097017(WO,A1)
【文献】特開2009-242547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
C09K 5/00-5/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両用機器の冷却に用いられる潤滑油組成物であって、基油およびフッ素化合物を含、前記基油は鉱物油を含み、前記基油の40℃における動粘度が1~mm/sであり、前記フッ素化合物の含有量は、組成物全量基準で、3~30重量%であり、
前記フッ素化合物は、沸点が40~150℃の範囲であり、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン及びハイドロフルオロエーテルの少なくとも一つを含み、
前記ハイドロクロロフルオロカーボンは、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンおよび1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンから選択され、
前記ハイドロフルオロカーボンは、炭素数4~12のアルカンのフッ化物であり、
前記ハイドロフルオロエーテルは、C OCH 、C OC 、C CF(OCH )C 、およびCHF CF OCH CF から選択される、組成物。
【請求項2】
前記基油の引火点が60℃以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記基油が、鉱物油である、または、前記基油が鉱物油と、ナフテン系化合物、ポリオレフィン系化合物、芳香族化合物、エーテル系化合物、エステル系化合物、およびグリコール系化合物から選択される少なくとも1種の合成油との組み合わせである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記基油の70重量%以上が、鉱物油である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記基油の含有量は、組成物全量基準で、70~97重量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記潤滑油組成物の密度は、0.85~1.25g/cm の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記電動車両用機器は、モーター、バッテリー、インバーター、エンジン、およびトランスミッションから選択される少なくとも一つである、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
電動車両用機器を冷却するための冷却装置であって、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、例えば、電動車両用機器の冷却に用いられる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から二酸化炭素削減が強く求められている。自動車の分野でも省燃費技術の開発に力が注がれており、燃費および環境性能に優れた自動車であるハイブリッド車や電気自動車の普及が進められている。ハイブリッド車や電気自動車は電動モーターや発電機、インバーター、蓄電池などを備え、電動モーターの力を利用して走行する。
このような電動モーターや電池などの電動車両用機器は高温になると効率の低下や破損をまねくため、冷却が必要である。ハイブリッド車や電気自動車における電動モーターや発電機の冷却には、主に既存のオートマチックトランスミッションフルード(以下、ATF)や連続可変トランスミッションフルード(以下、CVTF)などの潤滑油が使用されている。また、ハイブリッド車や電気自動車では歯車減速機を有する形式のものもあることから、これらに用いる潤滑油組成物は、潤滑性に加えて冷却性を備えることが必要とされる。
【0003】
潤滑油組成物の冷却性能としては、種々の機器の温度を低下させる冷却のための高密度および低粘度、ならびに冷却時に種々の機器の発火を防止するための高引火点が挙げられる。このうち、低粘度と高引火点とは一般にトレードオフの関係にあるため、両立が難しい特性であり、両立を図るべく検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、冷却性および潤滑性を備えた潤滑油組成物として、合成油にフッ素化合物を配合してなる潤滑油組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-184360号公報
【発明の概要】
【0006】
このような状況の下、冷却性能などにおいて優れた潤滑油組成物が望まれている。
【0007】
本発明は、基油およびフッ素化合物を含む潤滑油組成物、およびこれを備える冷却装置に関する。
本発明の一形態は、基油およびフッ素化合物を含む潤滑油組成物であって、前記基油は鉱物油を含み、前記基油の40℃における動粘度が1~25mm/sであり、前記フッ素化合物の含有量は、組成物全量基準で、3~30重量%である、組成物である。
【0008】
本発明によれば、優れた冷却性能を有する潤滑油組成物を提供し得る。
本発明の潤滑油組成物は、基油およびフッ素化合物の相溶性に優れ、分離が抑制される。
好ましい態様において、高い密度、低粘度、および高引火点を有する、潤滑油組成物を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は特記されない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0010】
本発明の一形態は、以下の成分:(A)基油および(B)フッ素化合物を含有する潤滑油組成物(以下、「組成物」とも称する)に関し、基油は鉱物油を含み、フッ素化合物の沸点が40~150℃の範囲であることを特徴とする。本実施形態に係る組成物は、必要に応じて(C)他の添加剤をさらに含有する。以下、本実施形態に係る組成物に含まれる各成分について、順に説明する。
【0011】
[成分(A):基油]
基油は鉱物油を含む。鉱物油としては、従来、潤滑油の基油として使用される鉱物油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1種以上の処理を行って精製した鉱油やワックスやGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化することによって製造される鉱物油等が挙げられる。鉱物油は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
基油は、鉱物油のみから構成されていてもよいし、鉱物油と合成油との組み合わせであってもよい。潤滑油組成物の高密度化の点から、基油(100重量%)のうち鉱物油を60重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは65重量%以上、特に好ましくは70重量%以上含有するものである。
【0013】
鉱物油と組み合わせて用いる合成油としては、特に制限されず、従来、潤滑油の基油として使用される合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、後述するフッ素化合物との溶解性との観点で、合成油は、ナフテン系化合物、ポリオレフィン系化合物、芳香族化合物、エーテル系化合物、エステル系化合物、およびグリコール系化合物から選択される少なくとも1種が好ましい。合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、低粘度及び高引火点の組成物を得る観点から、エステル系化合物を用いることがより好ましい。
【0014】
ナフテン系化合物としては、シクロヘキサン環、ビシクロヘプタン環およびビシクロオクタン環より選ばれる環を有する化合物が好ましく挙げられる。
ポリオレフィン系化合物としては、α-オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン-α-オレフィン共重合体など)およびその水素化物が好ましく挙げられる。
【0015】
エステル系化合物としては、構成するアルコール(単位)として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-トリデカノール、n-テトラデカノール、オレイルアルコール、エチルヘキサノール、ブチルオクタノール、ペンチルノナノール、ヘキシルデカノール、ヘプチルウンデカノール、オクチルドデカノール、メチルヘプタデカノール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、2-フェネチルアルコール、2-フェノキシエタノール、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールなどのモノオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、およびポリエチレングリコール(両末端水酸基)、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンのようなトリオール、ペンタエリスリトールのようなテトラオールなどが挙げられる。アルコール(単位)は単独または組み合わせて使用してもよい。
【0016】
エステルを構成するカルボン酸(単位)として、nブタン酸、nペンタン酸、nヘキサン酸、nヘプタン酸、nオクタン酸、nノナン酸、nデカン酸、nウンデカン酸、nドデカン酸、nトリデカン酸、nテトラデカン酸、エチルヘキサン酸、ブチルオクタン酸、ペンチルノナン酸、ヘキシルデカン酸、ヘプチルウンデカン酸、オクチルドデカン酸、メチルヘプタデカン酸、オレイン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸などのモノカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカメチレンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸が挙げられる。カルボン酸(単位)は単独または組み合わせて使用してもよい。
【0017】
上述したアルコールとカルボン酸からなるエステルとしては、ポリエチレングリコールジベンゾエートやポリプロピレングリコールジベンゾエートなどのポリグリコール安息香酸エステル、ペンタエリスリトールのnオクタン酸テトラエステルやトリメチロールプロパンのnオクタン酸トリエステルなどの直鎖カルボン酸ヒンダードエステル、アゼライン酸ジnオクチルや1,10-デカメチレンジカルボン酸エチルヘキシルなどのジエステル、16-メチルヘプタデカン酸ドデシルや2-ヘプチルウンデカン酸nドデシルなどのモノエステル、オレイン酸オレイルやオレイン酸16-メチルヘプタデシルなどのオレイルエステルが好適である。
【0018】
芳香族化合物としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキル芳香族化合物が挙げられる。
エーテル系化合物としては、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
グリコール系化合物としては、ポリオキシアルキレングリコールなどのポリグリコール油が挙げられる。
【0019】
基油は潤滑油組成物の主成分であり、通常、基油の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは60~97重量%、より好ましくは65~97重量%、さらに好ましくは70~95重量%である。
【0020】
基油の40℃における動粘度は、1~25mm/sである。1mm/s以上であるとオイルポンプの効率が向上する。25mm/s以下であると冷却性能に優れた組成物が得られる。基油の40℃における動粘度は、冷却性の観点から、より好ましくは1~20mm/sである。基油の40℃における動粘度は、例えば、1~15mm/sの範囲、または1~10mm/sの範囲、または1~5mm/sであってよい。
本明細書において、所定の温度における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された値を意味する。
【0021】
基油の引火点については特に制限はないが、潤滑油組成物に優れた冷却性を付与する点から、好ましくは60℃以上である。基油の引火点は、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。基油の引火点は高いほど好ましく、引火点を有さないものが特に好ましい。
基油の引火点(PM)は、JIS K 2265-3:2007に準拠し、ペンスキーマルテンス密閉法(PM法)により測定される。
【0022】
[成分(B):フッ素化合物]
フッ素化合物としては、いわゆるフッ素系冷媒として知られる化合物が好適であり、例えば、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)が挙げられる。ただし、その沸点が40~150℃の範囲であるものであることが好ましい。沸点が150℃以下である場合には潤滑油組成物の冷却性能が良化する。沸点が40℃以上である場合には室温での気化が防止されるため取扱性も、臭気も良化する。潤滑油組成物の冷却性能向上の観点からフッ素化合物の沸点は、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。潤滑油組成物の安定性の観点からフッ素化合物の沸点は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。例えば、フッ素化合物の沸点は、好ましくは40~150℃の範囲であり、より好ましくは50~140℃の範囲である。
一実施形態において、フッ素化合物の沸点は100℃超150℃以下、または、105℃以上150℃以下でありうる。
【0023】
HCFCとしては、3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンや1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンなどが挙げられる。例えば、旭硝子(株)製のアサヒクリンAK-225は、これらの混合物であり、沸点は54℃である。
【0024】
HFCとしては、炭素数4~12のアルカンのフッ化物が好ましく、例えば、CFCHFCHFCFCF(沸点55℃)(三井・デュポンフロロケミカル(株)製 バートレルXF)、CFCHCFCH(沸点40℃)(ソルベイソレクシス社製 ソルカン 365mfc)、C(沸点82℃)(日本ゼオン(株)製 ゼオローラHTA)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(CFCFCFCFCFCFCHCH)(沸点114℃)(AGC(株)製 アサヒクリンAC-6000)、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(c-CHCHFCFCFCF)(HFC-c447ef)(沸点82.5℃)などが挙げられる。
【0025】
HFEとしては、例えば、COCH(沸点61℃)(3M社製 Novec7100)、COC(沸点76℃)(3M社製 Novec7200)、CCF(OCH)C(沸点98℃)(3M社製 Novec7300)、CHFCFOCHCF(HFE-347pc-f)(沸点56℃)等が挙げられる。
【0026】
フッ素化合物の動粘度については特に制限はないが、フッ素化合物の25℃における動粘度は、冷却性の観点から、好ましくは0.1~5mm/sであり、より好ましくは0.1~4mm/s、さらに好ましくは0.1~3mm/sである。
【0027】
フッ素化合物の含有量は、組成物全量基準で、3~30重量%である。3重量%未満であると、潤滑油組成物に付与できる冷却性が十分でない。30重量%を超えるとフッ素化合物と基油との相溶性が悪化するおそれがある。フッ素化合物と基油との相溶性が悪い場合、フッ素化合物は密度が大きいために、潤滑油組成物の下部に沈殿する傾向がある。このような潤滑油組成物を用いると、フッ素化合物が潤滑油組成物の下部に滞留することによりフッ素化合物の冷却部への供給量が減少して冷却性能の低下を引き起こしたり、フッ素化合物の歯車等の潤滑部への供給量が過剰となることにより潤滑性能(耐摩耗性)が低下したりする可能性がある。
相溶性の観点から、フッ素化合物の含有量は、より好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは15重量%以下である。一方、冷却性の観点からフッ素化合物の含有量は、より好ましくは4重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上である。例えば、フッ素化合物の含有量は、4~20重量%がより好ましく、5~15重量%がさらに好ましい。
【0028】
[成分(C):その他の成分]
潤滑油組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、摩耗防止剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、清浄分散剤などの添加剤を配合することができる。
これらのその他の成分の含有量の合計は、特に制限されないが、組成物全量基準で、例えば、0~20重量%程度である。
【0029】
(摩耗防止剤)
摩耗防止剤としては、特に制限されず、従来、潤滑油に使用される摩耗防止剤の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車において電動モーターと歯車減速機を組み合わせて使用される場合には、極力電気絶縁性を損なわないように、中性リン系化合物、酸性亜リン酸エステルまたはそのアミン塩、および硫黄系化合物などを用いることが好ましい。
摩耗防止剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、例えば0.01~5重量%程度である。
【0030】
中性リン系化合物としては、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリクレジルフェニルホスフェート、トリクレジルチオスフェート、トリフェニルチオホスフェートなどの芳香族中性リン酸エステル、トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシホスフェート、トリブチルチオホスフェートなどの脂肪族中性リン酸エステル、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルモノ-2-エチルヘキシルホスファイト、ジフェニルモノトリデシルホスファイト、トルクレジルチオホスファイト、トリフェニルチオホスファイトなどの芳香族中性亜リン酸エステル、トリブチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トルブチルチオホスファイト、トリオクチルチオホスファイトなどの脂肪族中性亜リン酸エステルを挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
酸性亜リン酸エステルとしては、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェートアミン塩、ジラウリルアシッドホスフェートアミン塩、ジオレイルアシッドホスフェートアミン塩などの脂肪族酸性リン酸エステルアミン塩、ジ-2-エチルヘキシルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイトなどの脂肪族酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩、ジフェニルアシッドホスフェートアミン塩、ジクレジルアシッドホスフェートアミン塩などの芳香族酸性リン酸エステルアミン塩、ジフェニルハイドロゲンホスファイト、ジクレジルハイドロゲンホスファイトなどの芳香族酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩、S-オクチルチオエチルアシッドホスフェートアミン塩、S-ドデシルチオエチルアシッドホスフェートアミン塩などの硫黄含有酸性リン酸エステルアミン塩、S-オクチルチオエチルハイドロゲンホスファイト、S-ドデシルチオエチルハイドロゲンホスファイトなどの硫黄含有酸性亜リン酸エステルおよびこれらのアミン塩などを挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
硫黄系化合物としては、各種のものが使用可能であるが、具体的には、チアジアゾール系化合物、ポリサルファイド系化合物、ジチオカーバメイト系化合物、硫化油脂系化合物、および硫化オレフィン系化合物などが挙げられる。
【0033】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、従来潤滑油の酸化防止剤として使用されている公知の酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、アミン系酸化防止剤(ジフェニルアミン類、ナフチルアミン類)、フェノール系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、例えば0.05~7重量%程度である。
【0034】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体など)などが挙げられる。粘度指数向上剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。粘度指数向上剤の配合量は、特に制限されないが、例えば、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.5重量%以上、15重量%以下程度である。
【0035】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテルなどが挙げられる。防錆剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。防錆剤の好ましい配合量は、特に制限されないが、組成物全量基準で0.01重量%以上、3重量%以下程度である。
【0036】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体が挙げられる。金属不活性化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属不活性化剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.01~5重量%である。
【0037】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサンなどのシリコーン系化合物、ポリアクリレート等が挙げられる。消泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。消泡剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、0.01重量%以上、5重量%以下程度である。
【0038】
(清浄分散剤)
清浄分散剤としては、例えばコハク酸イミド化合物、ホウ素系イミド化合物、酸アミド系化合物などが挙げられる。清浄分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。清浄分散剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量基準で、好ましくは0.1~20重量%である。
【0039】
[潤滑油組成物の性状]
潤滑油組成物は、冷却性能として、低粘度、高密度、および高引火点(または引火点がないこと)の3つの性能を満たすものが好ましい。
【0040】
潤滑油組成物の40℃における動粘度としては、冷却性能の観点から、0.5~40mm/sが好ましく、1~35mm/sがより好ましく、1~30mm/sがさらに好ましい。
潤滑油組成物の100℃における動粘度としては、冷却性能の観点から、0.1~20mm/sが好ましく、0.5~15mm/sがより好ましく、0.5~10mm/sがさらに好ましい。
【0041】
潤滑油組成物の密度は、冷却性能の観点から、該密度は、好ましくは0.75g/cm以上、より好ましくは0.80g/cm以上、さらに好ましくは0.84g/cm以上である。密度が高いと熱伝達率が向上するため、冷却性が向上する。冷却性の観点では密度は高いほど好ましいが、高くなるほど鉱油への溶解性が低下する傾向がある。したがって、相溶性の観点から、潤滑油組成物の密度は、好ましくは1.25g/cm以下、より好ましくは1.20g/cm以下、さらに好ましくは1.15g/cm以下である。一実施形態において、潤滑油組成物の密度は、0.85~1.25g/cmの範囲であり、より好ましくは0.855~1.20g/cmの範囲であり、さらに好ましくは0.86~1.15g/cmの範囲である。本明細書において、潤滑油組成物の密度は、15℃の環境下、JIS K 2249-1:2011の方法で測定される。
【0042】
潤滑油組成物の引火点は、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。引火点が60℃未満であると取扱上の安全性の面から好ましくなく、また臭気の問題も発生しやすくなる。取扱上の安全性の面から引火点は高いほど好ましく、引火点を有さないものが特に好ましい。特に、電気自動車などでは、安全性の面で引火点がないことがより望まれる。潤滑油組成物の引火点(PM)は、JIS K 2265-3:2007に準拠し、ペンスキーマルテンス密閉法(PM法)により測定した。
【0043】
潤滑油組成物は、基油とフッ素化合物との相溶性に優れることが好ましい。「相溶性に優れる」とは、両者を所定の割合で混合してなる本組成物において、フッ素化合物の沈殿が生じないことを意味する。より具体的には、30℃の温度において、フッ素化合物の沈殿が生じないことが好ましく、室温(25℃)の温度および30℃の温度の両方においてフッ素化合物の沈殿が生じないことがより好ましい。フッ素化合物の沈殿が生じると、フッ素化合物が潤滑油組成物の下部に滞留することにより冷却部への供給量が減少して冷却性能が低下したり、フッ素化合物の歯車等の潤滑部への供給量が過剰となることにより潤滑性能(耐摩耗性)が低下したりするおそれがある。相溶性に優れる潤滑油組成物を用いることで、冷却部や歯車等の潤滑部に均質にフッ素化合物と基油とを供給でき、十分な冷却性能と潤滑性能とを付与することができる。
一実施形態において、潤滑油組成物は相分離することなく、均質である。
【0044】
[潤滑油組成物の用途]
上述した本発明の潤滑油組成物は、潤滑性を備えるとともに、優れた冷却性能(例えば、高い密度、低粘度、および高引火点)を有する。そのため、各種の機器冷却用として好適に使用できる。特に、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両用機器の冷却に好ましく用いられる。例えば、モーター、バッテリー、インバーター、エンジン、およびトランスミッションから選択される少なくとも一つの電動車両用機器の冷却用のオイルとして好適である。
[冷却装置]
潤滑油組成物は各種の機器において潤滑性と冷却効果を付与するものである。例えば、潤滑油組成物は電動車両用機器などの各種機器を循環させることにより、機器に潤滑を施しつつ、機器を冷却する。一実施形態は、電動車両用機器を冷却するための冷却装置であって、上述した本発明の潤滑油組成物を備える装置を提供する。例えば、潤滑油組成物はモーター、バッテリー、インバーター、エンジン、およびトランスミッションから選択される少なくとも一つの電動車両用機器を冷却するための冷却装置に用いられる。例えば、潤滑油組成物は、油圧装置、定置変速装置、自動車変速装置、モーターもしくはバッテリーの冷却装置に用いることができる。
【0045】
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。一実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、成分(A)、成分(B)、および必要に応じて成分(C)を混合することを含む。成分(A)、成分(B)、および必要に応じて成分(C)は、いかなる方法で配合されてもよく、配合の順序およびその手法は限定されない。
【実施例
【0046】
以下、本発明について実施例を参照して詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例および比較例で用いた各原料並びに各実施例および各比較例の潤滑油組成物の各物性の測定は、以下に示す方法で行った。
(1)動粘度
JIS K2283:2000に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて、40℃における動粘度(40℃動粘度)、100℃における動粘度(100℃動粘度)、25℃における動粘度(25℃動粘度)を測定した。
(2)粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して粘度指数を測定した。
(3)密度
JIS K 2249-1:2011に準拠し、15℃における密度を測定した。
(4)引火点
基油の引火点は、2種の方法で測定した。
引火点(PM)は、JIS K 2265-3:2007に準拠し、ペンスキーマルテンス密閉法(PM法)により測定した。
フッ素化合物の引火点は、PM法で測定した。
シリコン油の引火点は、PM法で測定した。
潤滑油組成物の引火点は、PM法で測定した。
【0048】
また、各実施例および各比較例の潤滑油組成物の混合性の評価は以下に示す方法で行った。
(混合性の評価)
実施例および比較例で調製した潤滑油組成物を、(a) 室温(25℃)および(b)30℃でスターラーを用いて強撹拌し、5分静置した後の沈殿の有無に基づいて以下に示す基準に基づいて評価した。
A:(a) 室温(25℃)および(b)30℃の両方で沈殿が生じなかった
B:(a) 室温(25℃)では沈殿が生じたが、(b)30℃では沈殿が生じなかった
C:(a) 室温(25℃)および(b)30℃の両方で沈殿が生じた
【0049】
[実施例1~5、比較例1~6]
表1に示す各成分を配合して、実施例および比較例の潤滑油組成物を調製し、前記した方法で、性状および混合性の評価を行った。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示す各成分は以下のとおりである。
鉱物油1:鉱物油(40℃動粘度:2.10mm/s、引火点(PM):100℃)
鉱物油2:鉱物油(40℃動粘度:1.64mm/s、引火点(PM):80℃)
合成油1:ポリ-α-オレフィン(40℃動粘度:2.77mm/s、引火点(PM):130℃)
合成油2:エステル系化合物(40℃動粘度:2.27mm/s、引火点(PM):128℃)
シリコン油1:シリコン油(25℃動粘度:2.0mm/s、引火点(PM):88℃)
フッ素化合物1:ハイドロフルオロカーボン(HFC)(1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、25℃動粘度:0.69mm/s、引火点(PM):なし、沸点:114℃)
【0052】
表1に示すとおり、鉱物油と特定量のフッ素化合物とを含む実施例1~5の潤滑油組成物は、低い動粘度および高い密度を有し、引火点が存在せず、しかも、混合性(フッ素化合物と基油との相溶性)に優れることが確認された。
これに対して、フッ素化合物を含まない比較例1、比較例2、比較例4、および比較例5の潤滑油組成物は、引火点および密度が低く、十分な冷却性能が得られなかった。
合成油とフッ素化合物とを組み合わせた比較例3の潤滑油組成物では、密度の値が低く、十分な冷却性能が得られなかった。
30重量%を超えるフッ素化合物を含有する比較例6の潤滑油組成物は、混合性が悪化し、フッ素化合物の沈殿が生じた。
【0053】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2020-004703号(2020年1月15日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑性を備えるとともに、冷却性能に優れるものであり、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両用機器の冷却のために用いることができる。例えば、モーター、バッテリー、インバーター、エンジン、およびトランスミッションから選択される少なくとも一つの電動車両用機器の冷却用の潤滑油として好適である。